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特開2024-76078筆記具用水性インキ組成物およびそれを収容してなる筆記具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076078
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】筆記具用水性インキ組成物およびそれを収容してなる筆記具
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/18 20060101AFI20240529BHJP
   C09K 23/14 20220101ALI20240529BHJP
   C09K 23/48 20220101ALI20240529BHJP
   B43K 7/00 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
C09D11/18
C09K23/14
C09K23/48
B43K7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187455
(22)【出願日】2022-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(71)【出願人】
【識別番号】000111890
【氏名又は名称】パイロットインキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山田 亮
(72)【発明者】
【氏名】山村 知之
(72)【発明者】
【氏名】三田 真之
(72)【発明者】
【氏名】海田 菜緒
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350KC01
2C350KC11
4J039AB02
4J039BC09
4J039BC12
4J039BC35
4J039BC56
4J039BD01
4J039BD02
4J039BE01
4J039BE19
4J039BE22
4J039BE30
4J039CA06
4J039EA16
4J039EA42
4J039EA44
4J039GA27
(57)【要約】
【課題】 マイクロカプセル顔料の分散安定性が長期間に亘って優れると共に、カスレや線飛び等が抑制され良好な筆跡を形成できる筆記具用水性インキ組成物およびそれを収容してなる筆記具を提供する。
【解決手段】 芯物質と前記芯物質を内包する壁膜とからなるマイクロカプセル顔料と、分散剤としてのポリエーテルリン酸エステルと、セルロースナノファイバーと、水とを含んでなる筆記具用水性インキ組成物とし、さらに、前記壁膜を構成する樹脂を、ウレア樹脂、ウレタン樹脂、ウレアウレタン樹脂のいずれかとし、前記芯物質を、着色材料と媒体とからなる着色組成物とした筆記具用インキ組成物とする。また、前記筆記具用水性インキ組成物を収容してなる筆記具とする。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯物質と前記芯物質を内包する壁膜とからなるマイクロカプセル顔料と、分散剤としてのポリエーテルリン酸エステルと、セルロースナノファイバーと、水とを含んでなる、筆記具用水性インキ組成物。
【請求項2】
前記壁膜を構成する樹脂が、ウレア樹脂、ウレタン樹脂、ウレアウレタン樹脂のいずれかである、請求項1記載のインキ組成物。
【請求項3】
前記芯物質が、着色材料と媒体とからなる着色組成物である、請求項1又は2記載のインキ組成物。
【請求項4】
前記セルロースナノファイバーが、前記マイクロカプセル顔料100質量部に対して1.5~12質量部の範囲で配合されてなる、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のインキ組成物。
【請求項5】
前記ポリエーテルリン酸エステルが、前記マイクロカプセル顔料100質量部に対して1~30質量部の範囲で配合されてなる、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のインキ組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のインキ組成物を収容してなる、筆記具。
【請求項7】
ボールペンである、請求項6記載の筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筆記具用水性インキ組成物およびそれを収容してなる筆記具に関する。さらに詳細には、マイクロカプセル顔料の分散安定性に優れ、良好な筆跡を形成できる筆記具用水性インキ組成物およびそれを収容してなる筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水を主溶媒としたインキ(水性インキ)が知られ、低臭気で安全性が高いことから盛んに利用されている。また、耐光性や耐水性に優れることから、インキの着色剤として酸化チタンやカーボンブラック等の顔料を用いた水性インキが広く利用されている。通常、これらの顔料は比重が大きく、水中での分散安定性が不安定であり、顔料を均一に分散させて安定な状態にさせておかなければ凝集や沈降が起こり、インキを収容した筆記具により形成される筆跡の濃度が低下したり、ペン先からのインキ吐出性が低下して線飛びやカスレ等の筆記不良を生じたりするなど、筆記具用水性インキとして十分な性能が得られ難いことがある。そこで、酸化チタンやカーボンブラックをマイクロカプセルに内包して、水性インキ中における分散安定性を向上させたインキ組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、酸化チタンやカーボンブラック等の顔料と、20℃未満における比重が1未満の水難溶性の媒体を内包したマイクロカプセル顔料を含有する筆記具用水性インキ組成物が開示されている。
しかしながら、上記の水性インキ組成物中のマイクロカプセル顔料の分散安定性は不十分であり、長期間に亘ってマイクロカプセル顔料の凝集や沈降を抑制することは困難であった。
【0004】
また、ロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤からなる熱変色性組成物を内包した熱変色性マイクロカプセル顔料を含有するインキ組成物が知られている(例えば、特許文献2)。このインキ組成物を収容した筆記具を用いて形成される筆跡は、加熱や擦過により変色させることができるものであるが、色材である熱変色性組成物がマイクロカプセルに内包されているため、色材がマイクロカプセルに内包されていない他の筆記具に比べて高い筆跡濃度が得られ難い傾向にあった。筆跡濃度を高くするためにはマイクロカプセル顔料の配合割合を増やすことが考えられるが、配合割合を増やすと、インキ組成物中におけるマイクロカプセル顔料の分散安定性が低下し易くなる傾向にあった。そして、インキ組成物中で長期間に亘ってマイクロカプセル顔料を安定的に保持することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-122168号公報
【特許文献2】特開2014-5422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、マイクロカプセル顔料が経時的に凝集や沈降を生じ難く、良好な筆跡を形成できる筆記具用水性インキ組成物およびそれを収容してなる筆記具を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、芯物質と前記芯物質を内包する壁膜とからなるマイクロカプセル顔料と、分散剤としてのポリエーテルリン酸エステルと、セルロースナノファイバーと、水とを含んでなる、筆記具用水性インキ組成物を要件とする。
また、前記壁膜を構成する樹脂が、ウレア樹脂、ウレタン樹脂、ウレアウレタン樹脂のいずれかであること、前記芯物質が、着色材料と媒体とからなる着色組成物であること、前記セルロースナノファイバーが、前記マイクロカプセル顔料100質量部に対して1.5~12質量部の範囲で配合されてなること、前記ポリエーテルリン酸エステルが、前記マイクロカプセル顔料100質量部に対して1~30質量部の範囲で配合されてなることを要件とする。
さらには、前記筆記具用水性インキ組成物を収容してなる筆記具を要件とする。
また、前記筆記具がボールペンであることを要件とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、マイクロカプセル顔料の分散安定性が長期間に亘って優れると共に、カスレや線飛び等が抑制され良好な筆跡を形成できる筆記具用水性インキ組成物およびそれを収容してなる筆記具を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】加熱消色型の可逆熱変色性組成物の色濃度-温度曲線におけるヒステリシス特性を説明するグラフである。
図2】色彩記憶性を有する加熱消色型の可逆熱変色性組成物の色濃度-温度曲線におけるヒステリシス特性を説明するグラフである。
図3】加熱発色型の可逆熱変色性組成物の色濃度-温度曲線におけるヒステリシス特性を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明による筆記具用水性インキ組成物(以下、「インキ組成物」または「インキ」と表すことがある)は、芯物質と芯物質を内包する壁膜とからなるマイクロカプセル顔料と、分散剤としてのポリエーテルリン酸エステルと、セルロースナノファイバーと、水とを含んでなる。以下に、本発明によるインキ組成物を構成する各成分について説明する。
【0011】
本発明によるインキ組成物は、着色剤としてマイクロカプセル顔料を含有する。
マイクロカプセル顔料は、壁膜形成材料により形成される壁膜に、芯物質を内包したものである。
【0012】
芯物質としては、着色材料と媒体とからなる着色組成物が挙げられる。着色組成物としては、例えば、着色材料としての染料または顔料を、水性媒体または油性媒体中に溶解あるいは分散させた着色組成物を例示できる。
【0013】
染料としては、酸性染料、塩基性染料、直接染料、油溶性染料、分散染料等が挙げられる。
顔料としては、無機顔料、有機顔料、光輝性顔料、蛍光顔料、蓄光顔料等が挙げられる。また、必要に応じて顔料分散剤を用いることができる。顔料分散剤としては、アニオン系、ノニオン系等の界面活性剤;ポリアクリル酸、スチレン-アクリル酸等のアニオン性高分子;PVP、PVA等の非イオン性高分子等が挙げられる。
【0014】
水性媒体としては、例えば、水道水、イオン交換水、限外ろ過水、蒸留水等の水を例示できる。
油性媒体としては、例えば、一塩基酸エステル、二塩基酸モノエステル、二塩基酸ジエステル、多価アルコールの部分エステルないし完全エステル等のエステル類、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等の芳香族炭化水素類、高級アルコール類、ケトン類、エーテル類等を例示できる。
水性媒体あるいは油性媒体は、一種または二種以上を併用して用いることができる。
【0015】
着色組成物として、光の照射により色変化する光変色性材料を用いることもできる。この色変化は可逆的であっても不可逆的であってもよいが、光の照射により繰り返し色変化を発現できることから可逆光変色性材料が好適である。
着色組成物として用いられる光変色性材料としては、例えば、着色材料としてのフォトクロミック化合物を、媒体としてのオリゴマーに溶解させた着色組成物、すなわち、フォトクロミック化合物とオリゴマーとから少なくともなる可逆光変色性組成物を例示できる。
【0016】
フォトクロミック化合物としては、太陽光、紫外光、またはピーク発光波長が400~495nmの範囲にある青色光を照射すると発色し、照射を止めると消色する従来公知のスピロオキサジン誘導体、スピロピラン誘導体、ナフトピラン誘導体等が挙げられ、例えば、特開2021-120493号公報、国際公開第2020/137469号パンフレットに記載された化合物を例示できる。
さらに、光メモリー性(色彩記憶性光変色性)を有するフォトクロミック化合物を用いることもできる。このようなフォトクロミック化合物としては、ジアリールエテン誘導体等が挙げられ、例えば、特開2021-120493号公報に記載された化合物を例示できる。
【0017】
オリゴマーとしては、例えば、スチレン系オリゴマー、アクリル系オリゴマー、テルペン系オリゴマー、テルペンフェノール系オリゴマー等が挙げられる。
フォトクロミック化合物は各種オリゴマーに溶解させることにより、耐光性と発色濃度を共に向上させることができ、さらには変色感度を調整することができる。
オリゴマーは、一種または二種以上を併用して用いることができる。
【0018】
スチレン系オリゴマーはスチレン骨格を有する化合物またはその水添物であり、例えば、低分子量ポリスチレン、スチレン・α-メチルスチレン共重合体、α-メチルスチレン重合体、α-メチルスチレン・ビニルトルエン共重合体等を例示できる。
アクリル系オリゴマーとしては、例えば、アクリル酸エステル共重合体等を例示できる。
テルペン系オリゴマーはテルペン骨格を有する化合物であり、例えば、α-ピネン重合体、β-ピネン重合体、d-リモネン重合体等を例示できる。
テルペンフェノール系オリゴマーは環状テルペンモノマーとフェノール類とを共重合させた化合物またはその水添物であり、例えば、α-ピネン・フェノール共重合体等が挙げられる。
【0019】
着色組成物として、温度変化により色変化する熱変色性材料を用いることもできる。この色変化は可逆的であっても不可逆的であってもよいが、温度変化により繰り返し色変化を発現できることから可逆熱変色性材料が好適である。
着色組成物として用いられる熱変色性材料としては、着色材料として(イ)電子供与性呈色性有機化合物と、媒体として(ロ)電子受容性化合物とから少なくともなる着色組成物を例示できる。さらには、着色材料として(イ)成分と、媒体として(ロ)成分ならびに(ハ)(イ)成分および(ロ)成分の呈色反応の生起温度を決める反応媒体との均質相溶体から少なくともなる着色組成物、すなわち、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)(イ)成分および(ロ)成分の呈色反応の生起温度を決める反応媒体から少なくともなる可逆熱変色性組成物を例示できる。
【0020】
可逆熱変色性組成物としては、特公昭51-44706号公報、特公昭51-44707号公報、特公平1-29398号公報等に記載された、ヒステリシス幅(ΔH)が比較的小さい特性(ΔH=1~7℃)を有する加熱消色型の可逆熱変色性組成物を用いることができる。加熱消色型とは、加熱により消色し、冷却により発色することを意味する。この可逆熱変色性組成物は、所定の温度(変色点)を境としてその前後で変色し、高温側変色点以上の温度域で消色状態、低温側変色点以下の温度域で発色状態を呈し、両状態のうち常温域では特定の一方の状態しか存在せず、もう一方の状態は、その状態が発現するのに要した熱または冷熱が適用されている間は維持されるが、熱または冷熱の適用がなくなれば常温域で呈する状態に戻る(図1参照)。
【0021】
可逆熱変色性組成物としては、特公平4-17154号公報、特開平7-179777号公報、特開平7-33997号公報、特開平8-39936号公報、特開2005-1369号公報等に記載されているヒステリシス幅が大きい特性(ΔH=8~80℃)を有する加熱消色型の可逆熱変色性組成物を用いることもできる。加熱消色型とは、加熱により消色し、冷却により発色することを意味する。この可逆熱変色性組成物は、温度変化による発色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から上昇させていく場合と、逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで大きく異なる経路を辿って変色し、完全発色温度t以下の温度域での発色状態、または完全消色温度t以上の高温域での消色状態が、特定温度域〔発色開始温度t~消色開始温度tの間の温度域(実質二相保持温度域)〕で色彩記憶性を有する(図2参照)。
【0022】
なお、本発明に上記の色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を適用する場合、可逆熱変色性組成物としては、具体的には、完全発色温度tを冷凍室、寒冷地等でしか得られない温度、かつ、完全消色温度tを摩擦体による摩擦熱、ヘアドライヤー等身近な加熱体から得られる温度の範囲に特定し、ΔH値を40~100℃に特定することにより、常態(日常の生活温度域)で呈する色彩の保持に有効に機能させることができる。
【0023】
冷凍室、寒冷地等でしか得られない温度は、-50~0℃であり、好ましくは-40~-5℃、より好ましくは-30~-10℃の範囲である。
ヘアドライヤー等身近な加熱体から得られる温度は、50~95℃であり、好ましくは50~90℃、より好ましくは60~80℃の範囲である。
【0024】
可逆熱変色性組成物として、特公昭51-44706号公報、特開2003-253149号公報等に記載された、没食子酸エステルを用いた加熱発色型の可逆熱変色性組成物を用いることもできる。加熱発色型とは、加熱により発色し、冷却により消色することを意味する(図3参照)。
【0025】
可逆熱変色性組成物は、上記の(イ)成分、(ロ)成分、および(ハ)成分を必須成分とする相溶体であり、各成分の割合は、濃度、変色温度、変色形態や各成分の種類に左右されるが、一般的に所望の特性が得られる成分比は、(イ)成分1に対して、(ロ)成分0.1~100、好ましくは0.1~50、より好ましくは0.5~20、(ハ)成分1~800、好ましくは5~200、より好ましくは5~100、さらに好ましくは10~100の範囲である(上記した割合はいずれも質量部である)。
【0026】
可逆熱変色性材料または可逆光変色性材料は、マイクロカプセルに内包して可逆熱変色性マイクロカプセル顔料または可逆光変色性マイクロカプセル顔料とすることにより、化学的、物理的に安定なマイクロカプセル顔料とすることができる。さらに、種々の使用条件において可逆熱変色性材料または可逆光変色性材料は同一の組成に保たれ、同一の作用効果を奏することができる。
【0027】
マイクロカプセル顔料には、その機能に影響を及ぼさない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、溶解助剤、防腐剤、防黴剤等の各種添加剤を配合することもできる。
【0028】
本発明によるマイクロカプセル顔料は、マイクロカプセル化法により製造することができる。マイクロカプセル化の方法としては、従来公知のイソシアネート系の界面重合法、メラミン-ホルマリン系等のin Situ重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライング法等が挙げられ、用途に応じて適宜選択される。
【0029】
壁膜を構成する樹脂としては、例えば、ウレア樹脂、ウレタン樹脂、ウレアウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、イソシアネート樹脂等を例示できる。
【0030】
本発明によるマイクロカプセル顔料の表面には、目的に応じてさらに二次的な樹脂皮膜を設けて耐久性を付与させたり、表面特性を改質させて実用に供したりすることもできる。
【0031】
本発明によるマイクロカプセル顔料が可逆熱変色性マイクロカプセル顔料または可逆光変色性マイクロカプセル顔料である場合、内包物:壁膜の質量比が7:1~1:1であることが好ましく、内包物と壁膜の質量比が上記の範囲内にあることにより、発色時の色濃度および鮮明性の低下を防止することができる。より好ましくは、内包物:壁膜の質量比が6:1~1:1である。
【0032】
可逆熱変色性マイクロカプセル顔料または可逆光変色性マイクロカプセル顔料は、マイクロカプセル中に一般の染料または顔料等の非変色性着色剤を配合させることにより、有色(1)から有色(2)への変色挙動を呈するマイクロカプセル顔料とすることもできる。
【0033】
マイクロカプセル顔料の平均粒子径は特に限定されるものではないが、好ましくは0.1~5μm、より好ましくは0.3~5μm、さらに好ましくは0.3~4μm、特に好ましくは0.5~3μmの範囲である。平均粒子径が5μmを超えると、筆記具用インキ組成物に用いた場合に良好なインキ吐出性が得られ難くなる。一方、平均粒子径が0.1μm未満では、筆跡が高濃度の発色性を示し難くなる。
【0034】
なお、平均粒子径の測定は、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア〔マウンテック(株)製、製品名:マックビュー〕を用いて粒子の領域を判定し、粒子の領域の面積から投影面積円相当径(Heywood径)を算出し、その値による等体積球相当の粒子の平均粒子径として測定した値である。
【0035】
また、全ての粒子あるいは大部分の粒子の粒子径が0.2μmを超える場合は、粒度分布測定装置〔ベックマン・コールター(株)製、製品名:Multisizer 4e〕を用いて、コールター法により等体積球相当の粒子の平均粒子径として測定することも可能である。
【0036】
さらに、上記したソフトウェアまたはコールター法による測定装置を用いて計測した数値を基にして、キャリブレーションを行ったレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置〔(株)堀場製作所製、製品名:LA-300〕を用いて、体積基準の粒子径および平均粒子径を測定しても良い。
【0037】
マイクロカプセル顔料の配合割合は特に限定されるものではないが、マイクロカプセル顔料はインキ組成物全量に対して、好ましくは1~25質量%、より好ましくは3~20質量%の範囲で配合される。配合割合が25質量%を超えると、インキ組成物を収容した筆記具のインキ吐出性が低下し易く、カスレや線飛び等の筆記不良が発生し易くなる。一方、配合割合が1質量%未満では、筆記具としての好適な筆跡濃度が得られ難くなる。
【0038】
マイクロカプセル顔料が、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料または可逆光変色性マイクロカプセル顔料である場合、マイクロカプセル顔料はインキ全量に対して、好ましくは5~40質量%、より好ましくは10~40質量%、さらに好ましくは10~30質量%の範囲で配合される。配合割合が40質量%を超えると、インキ組成物を収容した筆記具のインキ吐出性が低下し、カスレや線飛び等の筆記不良が発生し易くなる。一方、配合割合が5質量%未満では、筆記具としての好適な変色性および筆跡濃度が得られ難く、変色機能を十分に満たすことができ難くなる。
【0039】
本発明によるインキ組成物は、分散剤としてポリエーテルリン酸エステルを含有する。
ポリエーテルリン酸エステルとは、ポリエーテルのリン酸エステルで、一分子中に複数のリン酸エステル基を有する化合物であり、リン酸エステル基がマイクロカプセル顔料へ吸着する官能基として作用する。ポリエーテルリン酸エステルは複数箇所でマイクロカプセル顔料に吸着してインキ組成物全体に及ぶネットワークを形成することにより、マイクロカプセル顔料に対する分散剤としての効果を奏する。
【0040】
ポリエーテルリン酸エステルとしては、分散剤として使用できることが知られているポリエーテルリン酸エステルであれば特に限定されるものではなく、市販品を使用することもできる。
ポリエーテルリン酸エステルとして具体的には、例えば、ディスパロン3500〔楠本化成(株)製〕、ディスパロンDA-375〔楠本化成(株)製〕、ディスパロンDA-325〔楠本化成(株)製〕、ディスパロンAQ-320〔楠本化成(株)製〕、ディスパロンAQ-330〔楠本化成(株)製〕、HIPLAAD ED-152〔楠本化成(株)製〕、HIPLAAD ED-153〔楠本化成(株)製〕、HIPLAAD ED-154〔楠本化成(株)製〕、HIPLAAD ED-118〔楠本化成(株)製〕、HIPLAAD ED-174〔楠本化成(株)製〕、HIPLAAD ED-251〔楠本化成(株)製〕、プライサーフA215C〔第一工業製薬(株)製〕、ネオスコアCM57〔東邦化学工業(株)製〕、フォスファノールRA-600〔東邦化学工業(株)製〕、フォスファノールML-240〔東邦化学工業(株)製〕、フォスファノールRS-610〔東邦化学工業(株)製〕、フォスファノールRS-710〔東邦化学工業(株)製〕、アデカコールTSシリーズ〔(株)ADEKA製〕、アデカコールCSシリーズ〔(株)ADEKA製〕、DISPERBYK-180〔ビックケミー・ジャパン(株)製〕等を例示できる。
【0041】
ポリエーテルリン酸エステルは、分散剤として優れていることに加えて、マイクロカプセル顔料への浸透が起こり難く、マイクロカプセル内に侵入して芯物質の溶出や析出を引き起こし難い点でも優れている。そのため、マイクロカプセル顔料の分散剤としてポリエーテルリン酸エステルを用いることにより、インキ組成物中におけるマイクロカプセル顔料の分散安定性と、マイクロカプセル顔料の保存安定性を向上させることができる。
ここで、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の芯物質(可逆熱変色性組成物)は、上記した(イ)成分、(ロ)成分、および(ハ)成分を必須成分とする均質相溶体であり、分散剤がマイクロカプセル顔料へ浸透する場合、いずれかの成分が溶出や析出して、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は発色状態における色濃度が低下したり、高温側変色点(完全消色温度)以上の温度域で消色状態となり、低温側変色点(完全発色温度)以下の温度域で発色状態となる可逆熱変色機能が損なわれ、発色状態から消色状態への可逆的な色変化が生じ難くなることがある。しかしながら、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の分散剤としてポリエーテルリン酸エステルを用いることにより、可逆熱変色性組成物はマイクロカプセル内で均質な状態で保持され易く、(イ)成分、(ロ)成分、および(ハ)成分のいずれかの成分が溶出や析出することが抑制されるため、本発明によるインキ組成物において、着色剤として可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を用いることが好適である。
【0042】
マイクロカプセル顔料の壁膜を構成する樹脂は、ウレア樹脂(ポリウレア)、ウレタン樹脂(ポリウレタン)、ウレアウレタン樹脂(ポリウレアウレタン)のいずれかから選ばれる樹脂であることが好ましい。壁膜を構成する樹脂が上記した樹脂である場合、マイクロカプセル顔料表面にポリエーテルリン酸エステルがよりいっそう吸着し易くなり、ポリエーテルリン酸エステルが分散剤としての優れた効果を発現すると共に、ポリエーテルリン酸エステルはマイクロカプセル内へよりいっそう浸透し難く、マイクロカプセル顔料の分散安定性と保存安定性を高度に両立することができる。
【0043】
ポリエーテルリン酸エステルは、マイクロカプセル顔料100質量部に対して、好ましくは1~30質量部、より好ましくは2~26質量部の範囲で配合される。マイクロカプセル顔料に対するポリエーテルリン酸エステルの配合割合が上記の範囲内にあることにより、ポリエーテルリン酸エステルがマイクロカプセル顔料の分散剤としての効果を発現し易くなる。
【0044】
本発明によるインキ組成物は、セルロースナノファイバー(以下、「CNF」と表すことがある)を含有する。
セルロースナノファイバーとは、木材繊維(パルプ)などの植物繊維をナノレベルに解きほぐす(解繊する)ことで得られる材料である。
セルロースナノファイバーは、インキ組成物中でセルロースナノファイバー同士の相互作用によるネットワーク構造を形成し、前述の、分散剤が吸着したマイクロカプセル顔料をインキ組成物中で安定的に保持する効果を奏する。
【0045】
セルロースナノファイバーの平均繊維長は特に限定されるものではないが、好ましくは100~1000nm、より好ましくは200~800nm、さらに好ましくは250~700nmの範囲である。平均繊維長が上記の範囲内にあることにより、インキ組成物中におけるセルロースナノファイバーの分散性に優れると共に分散状態が維持され易く、セルロースナノファイバー同士により形成されるネットワーク構造が安定化される。
平均繊維長が1000nmより大きいと、インキ中でのセルロースナノファイバーの分散性が低くなり易く、筆記具のペン先からインキが吐出し難くなる傾向にある。一方、平均繊維長が100nmより小さいと、セルロースナノファイバー同士のネットワーク構造が形成され難くなる。
【0046】
平均繊維長とは、数平均繊維長を指す。数平均繊維長は、公知の技術を用いて測定することができる。例えば、マイカ切片上に固定したセルロースナノファイバーの原子間力顕微鏡像(3000nm×3000nm)から、150本以上の繊維(例えば、150本の繊維)の繊維長を測定し、数平均繊維長(平均繊維長)を算出する。繊維長の測定は、画像解析ソフトウェア「WinROOF」〔三谷商事(株)製〕を用い、長さ100nm~2000nmの範囲で行う。
【0047】
本発明によるインキ組成物において、インキ組成物中へのセルロースナノファイバーの配合量が多くなる組成であったり、淡色のマイクロカプセル顔料を用いる組成であったりする場合、セルロースナノファイバーの色相がインキ組成物の色相に影響を及ぼすことがある。そのため、セルロースナノファイバーを水に分散させた際に透明性が得られるように、セルロースナノファイバーの平均繊維長は、好ましくは100~1000nm、より好ましくは200~800nm、さらに好ましくは250~700nmの範囲に調整することが好適である。平均繊維長が上記の範囲内にあることにより、セルロースナノファイバーの色相がインキ組成物の色相に影響し難くなり、インキ組成物がマイクロカプセル顔料由来の色相を示し易くなる。
【0048】
ここで、着色剤として可逆熱変色性マイクロカプセル顔料あるいは可逆光変色性マイクロカプセル顔料を含むインキ組成物は、温度変化あるいは光の照射により発色状態から消色状態に可逆的に色変化するものであり、消色状態では無色であるためインキ組成物の色は視認され難いものである。しかしながら、セルロースナノファイバーの色相がインキ組成物の色相に影響すると、消色状態における残色が大きくなり、消色状態であってもインキ組成物の色が視認される場合がある。従って、このようなマイクロカプセル顔料を用いる場合においても、セルロースナノファイバーを水に分散させた際に透明性が得られることが好適であり、セルロースナノファイバーの平均繊維長は上記の範囲内にあることが好適である。
【0049】
本発明によるインキ組成物は、分散剤としてのポリエーテルリン酸エステルと、セルロースナノファイバーとを併用することにより、インキ組成物中におけるマイクロカプセル顔料の分散安定性を向上させる効果を奏する。
前述の通り、ポリエーテルリン酸エステルは複数箇所でマイクロカプセル顔料に吸着することによりマイクロカプセル顔料の分散剤として作用し、インキ組成物中でマイクロカプセル顔料とポリエーテルリン酸エステルによるネットワーク構造が形成される。さらに、インキ組成物中に分散するセルロースナノファイバー同士によってもネットワーク構造が形成される。これにより、マイクロカプセル顔料とポリエーテルリン酸エステルによるネットワーク構造と、セルロースナノファイバー同士によるネットワーク構造とが相互に絡み合い、緻密なネットワーク構造が形成されるため、インキ組成物中でマイクロカプセル顔料同士が接触することを妨げ、マイクロカプセル顔料が安定的に保持されることに繋がる。すなわち、ポリエーテルリン酸エステルとセルロースナノファイバーとを併用することにより、マイクロカプセル顔料の分散安定性を向上させる効果を奏する。
【0050】
セルロースナノファイバーの平均繊維径は特に限定されるものではないが、好ましくは1~10nm、より好ましくは2~5nmの範囲である。平均繊維径が上記の範囲内にあることにより、セルロースナノファイバー同士が相互作用を生じ易く、また、水に分散させた際の透明性に優れる。
【0051】
平均繊維径は、数平均繊維径を指す。数平均繊維径は、公知の技術を用いて測定することができ、例えば、前述の数平均繊維長の測定と同様の方法で測定することができる。
【0052】
セルロースナノファイバーのアスペクト比(すなわち、平均繊維径に対する平均繊維長の比)は、好ましくは100~400、より好ましくは110~350の範囲である。
【0053】
セルロースナノファイバーは、繊維径が比較的小さく、アスペクト比が比較的大きいと、セルロースナノファイバー同士がよりいっそう相互作用し易くなり、マイクロカプセル顔料の分散安定性をよりいっそう向上させる効果を奏する。
【0054】
セルロースナノファイバーとしては、例えば、TEMPO酸化セルロースナノファイバーを用いることができる。
TEMPO酸化セルロースナノファイバーは、木材繊維にTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル)触媒を作用させてセルロースの一級水酸基をカルボキシ基に変換し、その後、機械的に解繊することで得ることができる。
【0055】
セルロースナノファイバーは、マイクロカプセル顔料100質量部に対して、好ましくは1.5~12質量部、より好ましくは2~11質量部、さらに好ましくは2~10質量部の範囲で配合される。マイクロカプセル顔料に対するセルロースナノファイバーの配合割合が上記の範囲内にあることにより、インキ組成物を低粘度としながらも、マイクロカプセル顔料を安定的に保持させることができる。
【0056】
従来、マイクロカプセル顔料の分散安定性を良好とするために、微細セルロースやキサンタンガム等の増粘剤を用いてインキを高粘度とすることが行われている。これによりマイクロカプセル顔料の凝集や沈降を抑制することができるが、このような高粘度のインキは、適用できる筆記具に制限を伴うものである。しかしながら、本発明によるインキ組成物は、前述のとおり、ポリエーテルリン酸エステルとセルロースナノファイバーとを併用することにより緻密なネットワーク構造が形成され、従来の増粘剤を単独で用いたインキ組成物より低粘度でありながらも、マイクロカプセル顔料を長期間に亘って安定的に保持することができる。従って、ポリエーテルリン酸エステルとセルロースナノファイバーとを併用することにより、従来の増粘剤とは異なるレオロジーコントロール効果を発揮して、経時的にマイクロカプセル顔料の分散安定性を良好とする効果を奏する。また、従来の増粘剤を単独で用いたインキ組成物より低粘度とすることができるため、このインキ組成物を収容した筆記具のインキ吐出性が向上し、カスレ等の筆記不良を抑制すると共に筆記感を良好とすることができる。
【0057】
本発明によるインキ組成物は、インキ組成物中で特に沈降を生じ易い比重の大きいマイクロカプセル顔料に対しても有効であり、インキ組成物を低粘度としながらも、比重の大きいマイクロカプセル顔料を安定的に保持させることができる。また、分散剤として用いられるポリエーテルリン酸エステルは、前述の通りマイクロカプセル顔料への浸透が起こり難いことから、本発明によるインキ組成物には、マイクロカプセル顔料としてヒステリシス(ΔH)の大きい可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を用いることが好適である。
ヒステリシス(ΔH)の大きい可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は、(ハ)成分として分子内にベンゼン環を2つ以上有する化合物を用いることが多いことから比重が大きくなり易く、インキ組成物中で経時的に沈降し易く、分散安定性に劣る場合がある。特に、インキ組成物が低粘度である場合には、よりいっそう分散安定性に劣り易い傾向にある。しかしながら、本発明によるインキ組成物は上記したポリエーテルリン酸エステルとセルロースナノファイバーとを併用することにより、このような比重の大きい可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の経時的な沈降を抑制することができる。さらに、インキ組成物を低粘度としながらも、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を長期間に亘って安定的に分散させることができる。
【0058】
本発明によるインキ組成物は、水を含有する。
水としては、特に限定されるものではないが、例えば、水道水、イオン交換水、限外ろ過水、蒸留水等を例示できる。
【0059】
本発明によるインキ組成物には、増粘剤を配合させることもできる。ポリエーテルリン酸エステルとセルロースナノファイバーと増粘剤を併用させることにより、従来の増粘剤を単独で用いたインキ組成物より低粘度としながらも、マイクロカプセル顔料を長期間に亘って、安定的に分散状態で保持させることができる。
増粘剤としては、インキ組成物に剪断減粘性を付与できる物質(剪断減粘性付与剤)を用いることが好ましい。
【0060】
剪断減粘性付与剤を用いたインキ組成物は、静置状態、あるいは応力の低いときには高粘度で流動し難く、外部から応力が加わった際に容易に低粘度化する。このため、非筆記時には、インキの漏出を防止したり、インキの分離や逆流を防止したりすることができ、筆記時には、ペン先からのインキ吐出安定性を良好とすることが容易となる。
【0061】
本発明によるインキ組成物が増粘剤を含む場合、増粘剤の配合割合は特に限定されるものではないが、増粘剤はインキ組成物全量に対して、好ましくは0.1~20質量%の範囲で配合される。
【0062】
剪断減粘性付与剤としては、例えば、水溶性多糖類、メタクリル酸のアルキルエステルを主成分とする分子量10万~15万の重合体、ポリ-N-ビニルカルボン酸アミド架橋物、ベンジリデンソルビトールおよびその誘導体、ベンジリデンキシリトールおよびその誘導体、アルカリ増粘型アクリル樹脂、架橋性アクリル酸重合体、無機質微粒子、HLB値が8~12のノニオン系界面活性剤、ジアルキルスルホコハク酸の金属塩やアミン塩等を例示できる。
剪断減粘性付与剤は一種、または二種以上を併用して用いることができる。
【0063】
水溶性多糖類としては、例えば、キサンタンガム、ウェランガム、ゼータシーガム、ダイユータンガム、マクロホモプシスガム、サクシノグリカン、グアーガム、ローカストビーンガムおよびその誘導体、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸アルキルエステル類、グルコマンナン、寒天やカラゲニン等の海藻より抽出されるゲル化能を有する炭水化物等を例示できる。
【0064】
本発明によるインキ組成物がボールペンチップを備える筆記具(ボールペン)に用いられる場合、インキ組成物には潤滑剤を配合させることもできる。潤滑剤は、チップ本体内部に設けられるボール受け座と、チップ本体の前端に備えられるボールとの潤滑性を向上させて、ボール受け座の摩耗を容易に防止することができ、筆記感を向上させることができるものである。
潤滑剤としては、例えば、オレイン酸等の高級脂肪酸、長鎖アルキル基を有するノニオン系界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンオイル等を例示できる。
【0065】
本発明によるインキ組成物には、その他必要に応じて、水溶性有機溶剤、高分子凝集剤、分散剤、水溶性樹脂、比重調整剤、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤あるいは防黴剤、気泡吸収剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤を配合させることもできる。
【0066】
マイクロカプセル顔料が、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料または可逆光変色性マイクロカプセル顔料を含む場合、一般の染料または顔料等の非変色性着色剤を配合させることにより、有色(1)から有色(2)への変色挙動を呈するインキ組成物とすることもできる。
【0067】
本発明によるインキ組成物の製造方法は特に限定されるものではなく、従来公知の任意の方法を用いることができる。
具体的には、上記の各成分を配合した混合物を、プロペラ攪拌、ホモディスパー、もしくはホモミキサー等の各種攪拌機で攪拌することにより、またはビーズミル等の各種分散機等で分散することにより、インキ組成物を製造することができる。
【0068】
本発明によるインキ組成物がボールペンに用いられる場合、その粘度は、20℃の環境下において、回転速度1rpm(剪断速度3.84sec-1)の条件で測定した場合、好ましくは1~2000mPa・s、より好ましくは3~1500mPa・s、さらに好ましくは100~1000mPa・sの範囲である。また、20℃の環境下において、回転速度100rpm(剪断速度384sec-1)の条件で測定した場合、好ましくは1~200mPa・s、より好ましくは10~100mPa・s、さらに好ましくは10~50mPa・sの範囲である。粘度が上記の範囲内にあることにより、インキ組成物の安定性や、ボールペンの機構内におけるインキ組成物の易流動性を高いレベルで維持することができる。
なお、インキ組成物の粘度は、レオメーター〔TAインスツルメンツ社製、製品名:Discovery HR-2、コーンプレート(直径40mm、角度1°)〕を用いて、インキを20℃の環境下に置いて、回転速度1rpm(剪断速度3.84sec-1)、または、回転速度100rpm(剪断速度384sec-1)の条件で測定した値である。
【0069】
本発明によるインキ組成物がマーキングペンに用いられる場合、その粘度は、20℃の環境下において、回転数20rpmの条件で測定した場合、好ましくは1~30mPa・s、より好ましくは1~20mPa・s、さらに好ましくは1~10mPa・sの範囲である。粘度が上記の範囲内にあることにより、インキ組成物の安定性と流動性を高いレベルで維持することができる。
なお、インキ組成物の粘度は、E型回転粘度計〔東機産業(株)製、製品名:RE-85L、コーン型ローター:標準型(1°34′×R24)〕を用いて、インキ組成物を20℃の環境下に置いて測定した値である。
【0070】
本発明によるインキ組成物のpHは、好ましくは3~10、より好ましくは4~9の範囲である。pHが上記の範囲内にあることにより、インキ組成物の過度な高粘度化や変質を抑制することができる。
なお、インキ組成物のpHは、pHメーター〔東亜ディーケーケー(株)製、製品名:IM-40S〕を用いて、インキを20℃の環境下に置いて測定した値である。
【0071】
本発明によるインキ組成物が収容される筆記具としては、例えば、ボールペン、マーキングペン、万年筆、筆ペン、カリグラフィーペン等の各種筆記具を例示できる。
【0072】
本発明によるインキ組成物がボールペンに用いられる場合、ボールペン自体の構造、形状は特に限定されるものではなく、例えば、ボールペンチップと、インキ充填機構とを備えたボールペンレフィルまたはボールペンに充填して用いられる。
【0073】
ボールペンチップは、チップ本体と、チップ本体の前端に備えられるボールとからなる。ボールペンチップは、例えば、金属製のパイプからなるチップ本体の先端近傍を外面より内方に押圧変形させたボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、金属材料からなるチップ本体に、ドリル等による切削加工により形成したボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、金属またはプラスチック製チップ本体の内部に樹脂製のボール受け座を設けたチップ、あるいは、上記チップに抱持するボールをバネ体により前方に付勢させたもの等を例示できる。
【0074】
チップ本体およびボールの材質としては特に限定されるものではなく、例えば、超硬合金(超硬)、ステンレス鋼、ルビー、セラミック、樹脂、ゴム等を例示できる。さらに、ボールにはDLCコート等の表面処理を施すこともできる。
【0075】
ボールの直径は、一般的には0.2~3mmであり、好ましくは0.2~2mm、より好ましくは0.2~1.5mm、さらに好ましくは0.2~1mmの範囲である。
一般的に、マイクロカプセル顔料を含有するインキ組成物を直径の小さいボールを備えたボールペンに適用すると、経時的にマイクロカプセル顔料が凝集あるいは沈降して、ペン先でマイクロカプセル顔料の凝集物による目詰まりを生じ、ペン先からのインキ吐出性の低下により筆跡濃度を損なったり、カスレや線飛び等の筆記不良を生じたりすることがある。しかしながら、マイクロカプセル顔料の分散安定性に優れる本発明によるインキ組成物を、直径の小さいボール、特に直径が0.3~0.5mmのボールを備えたボールペンに適用すると、長期間に亘ってマイクロカプセル顔料の分散性が安定的に保持されるため、ペン先からのインキ吐出性が低下し難く、カスレや線飛び等の筆記不良が抑制されるボールペンとすることができる。
また、一般的に、直径の大きいボールペンはペン先からのインキ吐出量が多く、滑らかな筆記感を伴って筆記することができるものである。そして、従来の増粘剤を単独で用いたインキ組成物より低粘度としながらも、マイクロカプセル顔料を長期間に亘って安定的に保持することができる本発明によるインキ組成物を、直径の大きいボール、特に直径が0.5~1.0mmのボールを備えたボールペンに適用すると、ペン先からのインキ吐出性が向上され、よりいっそう滑らかな筆記感を伴って筆記できると共に、明瞭な筆跡濃度の高い筆跡を形成できるボールペンとすることができる。
【0076】
インキ充填機構としては、例えば、インキを直に充填することのできるインキ収容体を例示できる。
インキ収容体には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等の熱可塑性樹脂からなる成形体や、金属製管状体を用いることができる。
【0077】
インキ収容体に、ボールペンチップを直接、または接続部材を介して連結させ、インキ収容体にインキを直接充填することにより、ボールペンレフィル(以下、「レフィル」と表すことがある)を形成することができる。このレフィルを軸筒内に収容することでボールペンを形成することができる。
【0078】
インキ収容体に充填されるインキの後端にはインキ逆流防止体が充填される。インキ逆流防止体としては、液栓または固体栓が挙げられる。
【0079】
液栓は不揮発性液体および/または難揮発性液体からなり、例えば、ワセリン、スピンドル油、ヒマシ油、オリーブ油、精製鉱油、流動パラフィン、ポリブテン、α-オレフィン、α-オレフィンのオリゴマーまたはコオリゴマー、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、脂肪酸変性シリコーンオイル等を例示できる。
不揮発性液体および/または難揮発性液体は一種、または二種以上を併用して用いることができる。
【0080】
不揮発性液体および/または難揮発性液体には、増粘剤を添加して好適な粘度まで増粘させることが好ましい。
増粘剤としては、例えば、表面を疎水処理したシリカ、表面をメチル化処理した微粒子シリカ、珪酸アルミニウム、膨潤性雲母、疎水処理を施したベントナイトやモンモリロナイト等の粘土系増粘剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛等の脂肪酸金属石鹸;トリベンジリデンソルビトール、脂肪酸アマイド、アマイド変性ポリエチレンワックス、水添ひまし油、脂肪酸デキストリン等のデキストリン系化合物;セルロース系化合物等を例示できる。
【0081】
固体栓としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等からなる固体栓を例示できる。
インキ逆流防止体として、固体栓と上記した液栓とを併用して用いることもできる。
【0082】
また、軸筒自体をインキ充填機構とし、軸筒内にインキを直接充填すると共に、軸筒の前端部にボールペンチップを装着することで、ボールペンチップと、インキ充填機構とを備えたボールペンを形成することもできる。
【0083】
インキ充填機構に充填されるインキが低粘度である場合、ボールペンチップと、インキ充填機構とを備えたボールペンは、さらに、インキ充填機構に充填されるインキをペン先に供給するためのインキ供給機構を備えていてもよい。
【0084】
インキ供給機構としては特に限定されるものではなく、例えば、(1)繊維束等からなるインキ誘導芯をインキ流量調節体として備え、これを介在させてインキをペン先に供給する機構、(2)櫛溝状のインキ流量調節体を備え、これを介在させてインキをペン先に供給する機構、(3)多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝および該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心にインキ充填機構からペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯を介して、インキをペン先に供給する機構等が挙げられる。
【0085】
ペン芯の材質としては、多数の円盤体を櫛溝状とした構造に射出成形できる合成樹脂であれば特に制限されるものではない。成形性が高く、ペン芯性能を得られ易いことから、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)が好適に用いられる。
【0086】
本発明によるインキ組成物を収容するボールペンの構成として具体的には、(1)軸筒内に、インキを充填したインキ収容体を有し、インキ収容体には、直接または接続部材を介してボールペンチップが連結され、インキの端面にはインキ逆流防止体が充填されたボールペン、(2)軸筒内に直接インキが充填され、櫛溝状のインキ流量調節体や、繊維束等からなるインキ誘導芯をインキ流量調節体として介在させてインキをペン先に供給する機構が備えられるボールペン、(3)軸筒内に直接インキが充填され、上記のペン芯を介してインキをペン先に供給する機構が備えられるボールペン等を例示できる。
【0087】
本発明によるインキ組成物がマーキングペンに用いられる場合、マーキングペン自体の構造、形状は特に限定されるものではなく、例えば、マーキングペンチップと、インキ充填機構とを備えたマーキングペンレフィルまたはマーキングペンに充填して用いられる。
【0088】
マーキングペンチップとしては、例えば、繊維の樹脂加工体、熱溶融性繊維の融着加工体、フェルト体等の従来より汎用の気孔率が概ね30~70%の範囲から選ばれる連通気孔の多孔質部材、または、軸方向に延びる複数のインキ導出孔を有する合成樹脂の押出成形体等を例示でき、一端を砲弾形状、長方形状、チゼル形状等の目的に応じた形状に加工して実用に供される。
【0089】
インキ充填機構としては、例えば、インキを充填できるインキ吸蔵体を例示できる。
インキ吸蔵体は、捲縮状繊維を長手方向に集束させた繊維集束体であり、プラスチック筒体やフィルム等の被覆体に内在させて、気孔率が概ね40~90%の範囲に調整して構成される。
【0090】
軸筒内に、インキを含浸させたインキ吸蔵体を収容し、インキ吸蔵体に接続するようにマーキングペンチップを、直接または接続部材を介して軸筒に連結させることにより、マーキングペンを形成することができる。
【0091】
また、インキ収容体にインキを含浸させたインキ吸蔵体を収容し、インキ吸蔵体に接続するようにマーキングペンチップを、直接または接続部材を介してインキ収容体に連結させることにより、マーキングペンレフィル(以下、「レフィル」と表すことがある)を形成することができる。このレフィルを軸筒に収容することでマーキングペンを形成することができる。
【0092】
インキ収容体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等の熱可塑性樹脂からなる成形体や、金属製管状体が用いられる。
【0093】
マーキングペンチップと、インキ充填機構とを備えたマーキングペンは、さらに、インキ充填機構に充填されるインキ組成物をペン先に供給するためのインキ供給機構を備えていてもよい。
【0094】
インキ供給機構としては特に限定されるものではなく、例えば、上記したボールペンに備えられるインキ供給機構に加えて、(4)弁機構によるインキ流量調節体を備え、開弁によりインキをペン先に供給する機構等が挙げられる。
弁機構は、チップの押圧により開放する、従来より汎用のポンピング式形態が使用でき、筆圧により押圧開放可能なバネ圧に設定したものが好適である。
【0095】
マーキングペンがインキ供給機構を備えてなる場合、インキ充填機構としては、上記したインキ吸蔵体のほか、インキを直接充填できるインキ収容体を用いることができる。また、軸筒自体をインキ充填機構として、インキを直接充填してもよい。
【0096】
本発明によるインキ組成物を収容するマーキングペンの構成として具体的には、(1)軸筒内に、インキを含浸させた繊維集束体からなるインキ吸蔵体が収容され、毛細間隙が形成された、繊維加工体または樹脂成形体からなるマーキングペンチップが、インキ吸蔵体とチップが接続するように、直接または接続部材を介して軸筒に連結されたマーキングペン、(2)軸筒内に直接インキが充填され、櫛溝状のインキ流量調節体や繊維束等からなるインキ誘導芯をインキ流量調節体として介在させてインキをペン先に供給する機構が備えられるマーキングペン、(3)軸筒内に直接インキが充填され、上記のペン芯を介してインキをペン先に供給する機構が備えられるマーキングペン、(4)チップの押圧により開弁する弁機構を介してチップとインキ収容体とが備えられ、インキ収容体に直接インキが充填されるマーキングペン等を例示できる。
【0097】
本発明によるボールペンまたはマーキングペンがインキを直接充填するものである場合、着色剤の再分散を容易とするために、インキが充填されるインキ収容体または軸筒に、インキを攪拌する攪拌ボール等の攪拌体を内蔵させることもできる。攪拌体の形状としては、球状体、棒状体等が挙げられる。攪拌体の材質としては特に限定されるものではなく、例えば、金属、セラミック、樹脂、硝子等を例示できる。
【0098】
本発明によるボールペンまたはマーキングペン等の筆記具は、着脱可能な構造としてインキカートリッジ形態とすることもできる。この場合、筆記具のインキカートリッジに収容されるインキを使い切った後に、新たなインキカートリッジと取り替えることで、再び筆記具を使用することができる。
【0099】
インキカートリッジとしては、筆記具本体に接続することで筆記具を構成する軸筒を兼ねたものや、筆記具本体に接続した後に軸筒(後軸)を被覆して保護するものが用いられる。なお、後者においては、インキカートリッジ単体で用いるほか、使用前の筆記具において、筆記具本体とインキカートリッジが接続されているものや、筆記具のユーザーが使用時に軸筒内のインキカートリッジを接続して使用を開始するように非接続状態で軸筒内に収容したもののいずれであってもよい。
【0100】
本発明によるボールペンまたはマーキングペン等の筆記具には、ペン先(筆記先端部)を覆うように装着されるキャップを設けてキャップ式筆記具とすることにより、筆記先端部が汚染・破損されることを防ぐことができる。
また、軸筒内にレフィルが収容されるボールペンまたはマーキングペン等の筆記具には、軸筒内に、軸筒から筆記先端部を出没可能とする出没機構を設けて出没式筆記具とすることができ、筆記先端部が汚染・破損されることを防ぐことができる。
【0101】
出没式筆記具は、筆記先端部が外気に晒された状態で軸筒内に収容されており、出没機構の作動によって軸筒開口部から筆記先端部が突出する構造であれば全て用いることができる。
また、軸筒内に複数のレフィルを収容してなり、出没機構の作動によっていずれかのレフィルの筆記先端部を軸筒開口部から出没させる複合タイプの出没式筆記具とすることもできる。
【0102】
出没機構としては、例えば、(1)軸筒の後部側壁より前後方向に移動可能な操作部(クリップ)を径方向外方に突設させ、操作部を前方にスライド操作することにより軸筒前端開口部から筆記先端部を出没させるサイドスライド式の出没機構、(2)軸筒後端に設けた操作部を前方に押圧することにより軸筒前端開口部から筆記先端部を出没させる後端ノック式の出没機構、(3)軸筒側壁外面より突出する操作部を径方向内方に押圧することにより軸筒前端開口部から筆記先端部を出没させるサイドノック式の出没機構、(4)軸筒後部の操作部を回転操作することにより軸筒前端開口部から筆記先端部を出没させる回転式の出没機構等を例示できる。
【0103】
ボールペンやマーキングペンの形態は上記した構成に限らず、相異なる形態のチップを装着させたり、相異なる色調あるいは色相のインキを導出させるチップを装着させたりするほか、相異なる形態のチップを装着させると共に、各チップから導出されるインキの色調あるいは色相が相異なる複合式筆記具(両頭式やペン先繰り出し式等)であってもよい。
【0104】
本発明によるインキ組成物を収容してなる筆記具として好ましくは、ペン先としてボールペンチップを備えた形態の筆記具(ボールペン)である。ボールペンに適用されるインキ組成物において、インキ組成物中のマイクロカプセル顔料の分散安定性が不安定である場合、マイクロカプセル顔料が凝集や沈降によりチップ先端で目詰まりし易くなり、カスレや線飛び等の筆記不良を生じたりする場合がある。しかしながら、本発明によるインキ組成物は、インキ組成物中でマイクロカプセル顔料が安定的に保持され、チップ先端部でマイクロカプセル顔料が目詰まりすることが生じ難く、筆記不良を抑制して良好な筆跡を形成できるため、ボールペンに好適に用いられる。さらに、インキ組成物を低粘度としながらもマイクロカプセル顔料の分散安定性に優れるため、インキ吐出性を良好として発色性に優れる筆跡を形成することもできるため、好適である。
【0105】
マイクロカプセル顔料が可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を含む場合、本発明によるインキ組成物を収容した筆記具を用いて被筆記面に形成される筆跡は、指による擦過や、加熱具または冷却具により変色させることができる。
【0106】
加熱具としては、PTC素子等の抵抗発熱体を装備した通電加熱変色具、温水等の媒体を充填した加熱変色具、スチームやレーザー光等を用いた加熱変色具、ヘアドライヤーの適用等が挙げられるが、簡便な方法により変色させることができることから、摩擦部材および摩擦体が好ましい。
【0107】
冷却具としては、ペルチエ素子を用いた通電冷熱変色具、冷水や氷片等の冷媒を充填した冷熱変色具、畜冷剤、冷蔵庫や冷凍庫の適用等が挙げられる。
【0108】
摩擦部材および摩擦体としては、弾性感に富み、擦過時に適度な摩擦を生じて摩擦熱を発生させることのできるエラストマー、プラスチック発泡体等の弾性体が好ましいが、プラスチック成形体、石材、木材、金属、布帛等を用いることもできる。なお、鉛筆による筆跡を消去するために用いられる一般的な消しゴムを使用して、筆跡を擦過してもよいが、擦過時に消しカスが発生するため、消しカスが殆ど発生しない上記の摩擦部材および摩擦体が好適に用いられる。
【0109】
摩擦部材および摩擦体の材質としては、例えば、シリコーン樹脂、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SEBS樹脂)等を例示できる。シリコーン樹脂は擦過により消去した部分に樹脂が付着し易く、繰り返し筆記した際に筆跡がはじかれる傾向にあるため、SEBS樹脂がより好適に用いられる。
【0110】
上記の摩擦部材または摩擦体は、筆記具とは別体の任意形状の部材であってもよいが、筆記具に設けることにより携帯性に優れるものとすることができる。また、筆記具と、筆記具とは別体の任意形状の摩擦部材または摩擦体とを組み合わせて、筆記具セットを得ることもできる。
【0111】
キャップを備える筆記具の場合、摩擦部材または摩擦体を設ける箇所は特に限定されるものではなく、例えば、キャップ自体を摩擦部材により形成したり、軸筒自体を摩擦部材により形成したり、クリップを設ける場合には、クリップ自体を摩擦部材により形成したり、キャップ先端部(頂部)あるいは軸筒後端部(筆記先端部を設けていない部分)等に摩擦部材または摩擦体を設けることができる。
【0112】
出没機構を備える筆記具の場合、摩擦部材または摩擦体を設ける箇所は特に限定されるものではなく、例えば、軸筒自体を摩擦部材により形成したり、さらにクリップを設ける場合には、クリップ自体を摩擦部材により形成したり、軸筒開口部近傍、軸筒後端部(筆記先端部を設けていない部分)、あるいはノック部に摩擦部材または摩擦体を設けることができる。
【実施例0113】
以下に実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特に断らない限り実施例中の「部」は、「質量部」を示す。
【0114】
可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の調製
(イ)成分として、3′,6′-ビス〔フェニル(3-メチルフェニル)アミノ〕スピロ[イソベンゾフラン-1(3H),9′-[9H]キサンテン]-3-オン3部と、(ロ)成分として、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-エチルヘキサン3部、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン5部と、(ハ)成分として、カプリン酸4-ベンジルオキシフェニルエチル50部とからなる可逆熱変色性組成物を、壁膜材料として芳香族イソシアネートプレポリマー35部と、助溶剤40部とからなる混合溶液に投入した後、ポリビニルアルコール水溶液中で乳化分散し、加温しながら攪拌を続けた後、水溶性脂肪族変性アミン2.5部を加え、さらに攪拌を続けてマイクロカプセル分散液を調製した。上記のマイクロカプセル分散液をフィルタープレス機でろ過することにより、平均粒子径が0.6μmの可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を得た。
可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は完全発色温度tが-20℃、完全消色温度tが60℃であり、温度変化により青色から無色に可逆的に変化した。
【0115】
実施例101
インキ組成物の調製
可逆熱変色性マイクロカプセル顔料10部と、ポリエーテルリン酸エステル〔東邦化学工業(株)製、製品名:フォスファノールRS-710〕0.3部と、グリセリン15部と、トリエタノールアミン1部と、防腐剤〔アークサーダジャパン(株)製、製品名:プロキセルXL-2(S)〕0.2部と、水73.17部とを混合し、攪拌した。その後、この混合物に、TEMPO酸化セルロースナノファイバー(平均繊維長:600nm、平均繊維径:3~4nm、アスペクト比:150~200)0.33部を加えて攪拌し、ろ過してインキ組成物を調製した。
なお、マイクロカプセル顔料100質量部に対するセルロースナノファイバーの配合量(以下、「CNF/マイクロカプセル顔料」と表す)は3.3であり、マイクロカプセル顔料100質量部に対するポリエーテルリン酸エステルの配合量(以下、「分散剤/マイクロカプセル顔料」と表す)は3であった。
【0116】
実施例102~110、ならびに、201~213
インキ組成物の調製
実施例102~110、ならびに、201~213のインキ組成物は、配合する材料の種類と配合量を以下の表1および表2に記載したものに変更した以外は、実施例101と同様にして調製した。また、各インキ組成物における「CNF/マイクロカプセル顔料」と、「分散剤/マイクロカプセル顔料」は、表1および表2に記載のとおりである。
【0117】
比較例101~104、ならびに、201~204
インキ組成物の調製
比較例101~104、ならびに、201~204のインキ組成物は、配合する材料の種類と配合量を以下の表3に記載したものに変更した以外は、実施例101と同様にして調製した。また、各インキ組成物における「CNF/マイクロカプセル顔料」と、分散剤「マイクロカプセル顔料」は、表3に記載のとおりである。
【0118】
筆記具Aの作製
実施例101のインキ組成物をポリプロピレン製パイプからなるインキ収容体に吸引充填した後、樹脂製ホルダーを介して、直径0.5mmの超硬製のボールを先端に抱持したボールペンチップと連結させた。次いで、インキ収容体の後端より、ポリブテンを主成分とする粘弾性を有するインキ逆流防止体(液栓)を充填し、さらに尾栓をパイプの後部に嵌合させ、遠心により脱気処理を行い、ボールペンレフィルを得た。
次いで、上記のレフィルを軸筒内に組み込み、筆記具A(ボールペン)を作製した。
上記のボールペンは、ボールペンレフィルに設けられたチップが外気に晒された状態で軸筒内に収納されており、軸筒の後部側壁に設けられたクリップ形状の出没機構(スライド機構)の作動によって軸筒前端開口部からチップが突出する構造である。
また、実施例102~110、201~211、ならびに、比較例101~104、201~204のインキ組成物を用いて、同様にして筆記具A(ボールペン)を作製した。
【0119】
筆記具Bの作製
実施例212のインキ組成物を、ポリエステルスライバーを合成樹脂フィルムで被覆したインキ吸蔵体内に含浸させ、ポリプロピレンからなる軸筒内に収容し、軸筒先端部にポリエステル繊維の樹脂加工ペン体(チゼル型)を、樹脂製のホルダーを介してインキ吸蔵体と接続させ、キャップを装着して筆記具B(マーキングペン)を作製した。
また、実施例213のインキ組成物を用いて、同様にして筆記具B(マーキングペン)を作製した。
【0120】
【表1】
【0121】
【表2】
【0122】
【表3】
【0123】
表1~表3中の材料の内容を、注番号に沿って説明する。
(1)TEMPO酸化セルロースナノファイバー(平均繊維長:600nm、平均繊維径:3~4nm、アスペクト比:150~200)
(2)TEMPO酸化セルロースナノファイバー(平均繊維長:300nm、平均繊維径:3~4nm、アスペクト比:75~100)
(3)ポリエーテルリン酸エステル〔東邦化学工業(株)製、製品名:フォスファノールRS-710〕
(4)ポリビニルピロリドン
(5)ポリエーテル変性シリコーンオイル〔モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン(同)製、製品名:TSF-4452〕
(6)アークサーダジャパン(株)製、製品名:プロキセルXL-2(S)
【0124】
[初期筆記性能の評価]
実施例101~110、201~211、ならびに、比較例101~104、201~204で作製した各筆記具A(ボールペン)を用いて、室温(20℃)の環境下で、A4サイズの試験用紙(縦向き)の短手方向と平行方向に、1行あたり12個の楕円形状の丸(長径:15mm、短径:8mm程度)を、丸が互いに接するように螺旋状に手書きで、3行連続筆記した。また、実施例212および213で作製した各筆記具B(マーキングペン)を用いて、室温(20℃)環境下で、A4サイズの試験用紙(縦向き)の短手方向と平行方向に、ペン体の幅広面を紙面に密着させて15cmの直線を手書きで筆記し、これを5行分行った。なお、試験用紙には旧JIS P3201に準拠した筆記用紙Aを用いた。
得られた筆跡を目視にて確認し、下記基準で筆跡を評価した。評価結果は以下の表4~表6に記載の通りであり、評価「A」および「B」を合格とした。
A:筆跡にカスレや線飛び等がなく、一定の濃度および線幅を有する良好な筆跡が得られた。
B:筆跡にカスレや線飛びがやや確認されたが、実用上問題のないレベルであった。
C:筆跡にカスレや線飛びが多数確認された。あるいは、筆記不能であった。
【0125】
[経時後の筆記性能の評価]
前述の筆記試験を行った各筆記具Aを、50℃に設定した恒温槽内に30日間、ペン先が下向きの状態(正立状態)で静置させた。30日経過後に恒温槽から取り出し、室温(20℃)環境下で、A4サイズの試験用紙(縦向き)の短手方向と平行方向に、1行あたり12個の楕円形状の丸(長径:15mm、短径:8mm程度)を、丸が互いに接するように螺旋状に手書きで、3行連続筆記した。同様に、前述の筆記試験を行った各筆記具Bを、50℃に設定した恒温槽内に30日間、ペン先が下向きの状態(正立状態)で静置させた。30日経過後に恒温槽から取り出し、室温(20℃)環境下で、A4サイズの試験用紙(縦向き)の短手方向と平行方向に、ペン体の幅広面を紙面に密着させて15cmの直線を手書きで筆記し、これを5行分行った。なお、試験用紙には旧JIS P3201に準拠した筆記用紙Aを用いた。
得られた筆跡を目視にて確認し、下記基準で筆跡を評価した。評価結果は以下の表4~表6に記載の通りであり、評価「A」および「B」を合格とした。
A:筆跡にカスレや線飛び等がなく、筆跡の色は初期の筆跡と同じあるいは同等レベルであり、良好な筆跡が得られた。
B:筆跡にカスレや線飛びがやや確認されたが、実用上問題のないレベルであった。
C:筆記可能であったが、筆跡の色は初期の筆跡に比べて濃色化し、筆跡の色に差が生じた。
D:筆跡にカスレや線飛びが多数確認された。あるいは、筆記不能であった。
【0126】
【表4】
【0127】
【表5】
【0128】
【表6】
【符号の説明】
【0129】
完全発色温度
発色開始温度
消色開始温度
完全消色温度
完全消色温度
消色開始温度
発色開始温度
完全発色温度
ΔH ヒステリシス幅
図1
図2
図3