IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジェイテクトの特許一覧 ▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-操舵制御装置 図1
  • 特開-操舵制御装置 図2
  • 特開-操舵制御装置 図3
  • 特開-操舵制御装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076127
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20240529BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20240529BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20240529BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20240529BHJP
   B62D 117/00 20060101ALN20240529BHJP
【FI】
B62D6/00 ZYW
B62D5/04
B62D101:00
B62D113:00
B62D117:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187530
(22)【出願日】2022-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】三宅 純也
(72)【発明者】
【氏名】外山 英次
(72)【発明者】
【氏名】工藤 佳夫
(72)【発明者】
【氏名】高島 亨
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
【Fターム(参考)】
3D232CC06
3D232DA03
3D232DA04
3D232DA15
3D232DA23
3D232DA29
3D232DA33
3D232DA36
3D232DA64
3D232DC33
3D232DC34
3D232DD17
3D232DE02
3D232EA01
3D232EB04
3D232EB16
3D232EC23
3D232EC37
3D333CB02
3D333CB29
3D333CB31
3D333CB46
3D333CC14
3D333CC15
3D333CC18
3D333CD09
3D333CE46
3D333CE52
(57)【要約】
【課題】転舵輪の迅速な転舵がステアリングホイールの挙動に直接的に影響することを抑制できるようにした操舵制御装置を提供する。
【解決手段】ステアリングホイール12と転舵輪34とは動力の伝達が遮断されている。PU52は、横風によって車両が偏向していると判定する場合、転舵角を定める変数の目標値を補正量にて補正する。PU52は、同補正量を、ヨーレートyrを制御量とするフィードバック制御の操作量とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達が遮断された状態において、目標舵角変数設定処理、操作処理、偏向判定処理、および補正処理を実行するように構成され、
前記目標舵角変数設定処理は、操舵角を入力として目標舵角変数の値を設定する処理であり、
前記操舵角は、前記ステアリングホイールの回転角度であり、
前記目標舵角変数は、舵角変数の目標値であり、
前記舵角変数は、前記転舵輪の転舵角を示す変数であり、
前記操作処理は、前記舵角変数が制御量であって前記目標舵角変数が前記制御量の目標値である制御の操作量によって、転舵モータのトルクを操作する処理であり、
前記転舵モータは、前記転舵輪を転舵させるためのモータであり、
偏向判定処理は、車両状態センサの出力値に基づき、横風に起因して車両が偏向しているか否かを判定する処理であり、
前記車両状態センサは、前記車両の状態を検出するセンサであり、
前記補正処理は、前記車両が偏向していると判定される場合、前記操作処理の入力となる前記目標舵角変数の値と前記操舵角との関係を補正量によって補正する処理であって且つ、前記補正量を、前記車両のヨーレートが制御量であって前記ヨーレートの目標値が前記制御量の目標値であるフィードバック制御の操作量に応じて設定する処理である操舵制御装置。
【請求項2】
前記車両が偏向していると判定されている状態から前記車両が偏向していないと判定される状態に切り替わる場合、前記補正処理を終了するように構成されている請求項1記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記補正処理は、終了時徐変処理を含み、
前記終了時徐変処理は、前記車両が偏向していると判定される状態から前記車両が偏向していないと判定される状態に切り替わる場合、前記操作処理の入力となる前記目標舵角変数の値と前記操舵角との関係を、前記目標舵角変数設定処理によって設定される前記目標舵角変数の値と前記操舵角との関係に徐々に近づける処理を含む請求項1記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記終了時徐変処理は、前記操作処理の入力となる前記目標舵角変数の値と前記操舵角との関係を、前記目標舵角変数設定処理によって設定される前記目標舵角変数の値と前記操舵角との関係に徐々に近づける速度を、前記目標舵角変数設定処理によって設定される前記目標舵角変数の値の変化速度に応じて変更する処理を含む請求項3記載の操舵制御装置。
【請求項5】
前記補正処理は、前記目標舵角変数の値に前記補正量を加算する処理であり、
前記終了時徐変処理は、前記目標舵角変数設定処理によって設定される前記目標舵角変数の値の変化速度に応じて、前記補正量の大きさを小さくする速度を変更する処理であって且つ、前記変化速度の大きさが大きい場合の前記小さくする速度を、前記変化速度の大きさが小さい場合の前記小さくする速度以上とする処理を含む請求項3記載の操舵制御装置。
【請求項6】
前記補正処理は、開始時徐変処理を含み、
前記開始時徐変処理は、前記車両が偏向していると判定される場合、前記補正量を前記フィードバック制御の操作量へと徐々に近づける処理である請求項1記載の操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば下記特許文献1には、車両の転舵輪とステアリングホイールとが機械的に連結された操舵装置を制御対象とする制御装置が記載されている。この制御装置は、車両が横風の影響で偏向する場合に、偏向を抑制するように操舵角を変更する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-14221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、運転者がステアリングホイールを操作している場合、制御装置によって操舵角を迅速に変更すると、ステアリングホイールが急激に変位する。そしてこれにより、運転者が違和感を抱く懸念がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段およびその作用効果について記載する。
1.ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達が遮断された状態において、目標舵角変数設定処理、操作処理、偏向判定処理、および補正処理を実行するように構成され、前記目標舵角変数設定処理は、操舵角を入力として目標舵角変数の値を設定する処理であり、前記操舵角は、前記ステアリングホイールの回転角度であり、前記目標舵角変数は、舵角変数の目標値であり、前記舵角変数は、前記転舵輪の転舵角を示す変数であり、前記操作処理は、前記舵角変数が制御量であって前記目標舵角変数が前記制御量の目標値である制御の操作量によって、転舵モータのトルクを操作する処理であり、前記転舵モータは、前記転舵輪を転舵させるためのモータであり、偏向判定処理は、車両状態センサの出力値に基づき、横風に起因して車両が偏向しているか否かを判定する処理であり、前記車両状態センサは、前記車両の状態を検出するセンサであり、前記補正処理は、前記車両が偏向していると判定される場合、前記操作処理の入力となる前記目標舵角変数の値と前記操舵角との関係を補正量によって補正する処理であって且つ、前記補正量を、前記車両のヨーレートが制御量であって前記ヨーレートの目標値が前記制御量の目標値であるフィードバック制御の操作量に応じて設定する処理である操舵制御装置である。
【0006】
上記構成では、偏向していると判定される場合、ヨーレートフィードバック制御の操作量に応じて操舵角に対する目標舵角変数の値の関係を補正する。これにより、ヨーレートが目標ヨーレートに近付くように転舵角を変更することが可能となる。そのため、運転者による偏向を抑制するための操舵をアシストすることができる。換言すれば、補正処理を実行しない場合と比較して、偏向を抑制するように転舵角を迅速に変更することができる。しかも、上記関係を補正する処理は、ステアリングホイールと転舵輪との動力伝達が遮断された状態で行われる処理であることから、転舵輪の迅速な転舵がステアリングホイールの挙動に直接的に影響することを抑制できる。
【0007】
2.前記車両が偏向していると判定されている状態から前記車両が偏向していないと判定される状態に切り替わる場合、前記補正処理を終了するように構成されている上記1記載の操舵制御装置である。
【0008】
上記構成では、車両が偏向していないと判定される状態に切り替わる場合に補正処理を終了する。そのため、車両が偏向していないと判定される状態に切り替わる場合には、目標舵角変数の値に応じて転舵角を制御できる。
【0009】
3.前記補正処理は、終了時徐変処理を含み、前記終了時徐変処理は、前記車両が偏向していると判定される状態から前記車両が偏向していないと判定される状態に切り替わる場合、前記操作処理の入力となる前記目標舵角変数の値と前記操舵角との関係を、前記目標舵角変数設定処理によって設定される前記目標舵角変数の値と前記操舵角との関係に徐々に近づける処理を含む上記1または2記載の操舵制御装置である。
【0010】
上記構成では、終了時徐変処理により、目標舵角変数の値がステップ状に変化することを抑制できる。そのため、運転者に唐突な印象を与えることを抑制できる。
4.前記終了時徐変処理は、前記操作処理の入力となる前記目標舵角変数の値と前記操舵角との関係を、前記目標舵角変数設定処理によって設定される前記目標舵角変数の値と前記操舵角との関係に徐々に近づける速度を、前記目標舵角変数設定処理によって設定される前記目標舵角変数の値の変化速度に応じて変更する処理を含む上記3記載の操舵制御装置である。
【0011】
上記補正処理による補正後の目標舵角変数の値に応じた転舵角は、偏向を低減する転舵角である。そのため、操作処理の入力となる目標舵角変数の値は、この転舵角に応じた値であることが望ましい。そこで、上記構成では、上記徐々に近づける速度を、目標舵角変数の変化速度に応じて変更する。そのため、操作処理の入力となる目標舵角変数の値と転舵角との関係が大きく変動することを抑制できる。
【0012】
5.前記補正処理は、前記目標舵角変数の値に前記補正量を加算する処理であり、前記終了時徐変処理は、前記目標舵角変数設定処理によって設定される前記目標舵角変数の値の変化速度に応じて、前記補正量の大きさを小さくする速度を変更する処理であって且つ、前記変化速度の大きさが大きい場合の前記小さくする速度を、前記変化速度の大きさが小さい場合の前記小さくする速度以上とする処理を含む上記3または4記載の操舵制御装置である。
【0013】
上記構成では、目標舵角変数設定処理によって設定される目標舵角変数の値の変化の割に操作処理の入力となる目標舵角変数の値の変動を抑制できる。
6.前記補正処理は、開始時徐変処理を含み、前記開始時徐変処理は、前記車両が偏向していると判定される場合、前記補正量を前記フィードバック制御の操作量へと徐々に近づける処理である上記1~5のいずれか1つに記載の操舵制御装置である。
【0014】
上記構成では、開始時徐変処理により、補正処理に起因して転舵角がステップ状に変化することを抑制できる。そのため、運転者に唐突な印象を与えることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施形態にかかる操舵装置および操舵制御装置の構成を示す図である。
図2】同実施形態における操舵制御装置が実行する処理を示すブロック図である。
図3】同実施形態にかかる制御装置が実行する処理の手順を示す流れ図である。
図4】同実施形態の制御装置が実行する処理を例示するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
操舵制御装置の一実施形態を図面に従って説明する。
「前提構成」
図1に示す車両の操舵装置10は、ステアバイワイヤ式の装置である。操舵装置10は、ステアリングホイール12と、ステアリング軸14と、反力アクチュエータ20と、転舵アクチュエータ30と、を備えている。ステアリング軸14は、ステアリングホイール12に連結されている。反力アクチュエータ20は、運転者がステアリングホイール12を操作する力に抗する力を付与するアクチュエータである。反力アクチュエータ20は、反力モータ22と、反力用インバータ24と、反力用減速機構26とを有している。反力モータ22は、ステアリング軸14を介してステアリングホイール12に対して操舵に抗する力である操舵反力を付与する。反力モータ22は、反力用減速機構26を介してステアリング軸14に連結されている。反力モータ22には、一例として、3相の同期電動機が採用されている。反力用減速機構26は、たとえば、ウォームアンドホイールからなる。
【0017】
転舵アクチュエータ30は、運転者によるステアリングホイール12の操作が示す運転者の操舵の意思に応じて転舵輪34を転舵させる用途を有したアクチュエータである。転舵アクチュエータ30は、ラック軸32と、転舵モータ42と、転舵用インバータ44と、転舵伝達機構46と、変換機構48とを備えている。転舵モータ42には、一例として、3相の同期電動機が採用されている。転舵伝達機構46は、ベルト伝達機構からなる。転舵伝達機構46によって、転舵モータ42の回転動力が変換機構48に伝達される。変換機構48は、伝達された回転動力を、ラック軸32の軸方向の変位動力に変換する。ラック軸32の軸方向への変位によって、転舵輪34が転舵される。
【0018】
操舵制御装置50は、ステアリングホイール12および転舵輪34を制御対象とする。すなわち、操舵制御装置50は、制御対象としてのステアリングホイール12の制御量である、運転者の操舵に抗する操舵反力を制御する。また、操舵制御装置50は、制御対象としての転舵輪34の制御量である転舵角を制御する。転舵角は、転舵輪34としてのタイヤの切れ角である。
【0019】
操舵制御装置50は、制御量の制御のために、トルクセンサ60によって検出される操舵トルクThを参照する。操舵トルクThは、運転者がステアリングホイール12の操作を通じてステアリング軸14に付与したトルクである。操舵制御装置50は、制御量の制御のために、操舵側回転角センサ62によって検出される、反力モータ22の回転軸の角度である回転角θaを参照する。また、操舵制御装置50は、制御量の制御のために、反力モータ22を流れる電流ius,ivs,iwsを参照する。電流ius,ivs,iwsは、たとえば反力用インバータ24の各レッグに設けられたシャント抵抗の電圧降下量として検出されるものであってもよい。操舵制御装置50は、制御量の制御のために、転舵側回転角センサ64によって検出される、転舵モータ42の回転軸の角度である回転角θbを参照する。また、操舵制御装置50は、制御量の制御のために、転舵モータ42を流れる電流iut,ivt,iwtを参照する。電流iut,ivt,iwtは、たとえば転舵用インバータ44の各レッグに設けられたシャント抵抗の電圧降下量として検出されるものであってもよい。また、操舵制御装置50は、車速センサ66によって検出される車速Vを参照する。また、操舵制御装置50は、ヨーレートセンサ68によって検出される車両のヨーレートyrを参照する。また、操舵制御装置50は、ロールレートセンサ70によって検出されるロールレートrrを参照する。また、操舵制御装置50は、横加速度センサ72によって検出される横加速度ayを参照する。横加速度ayは、車両の横方向に加わる加速度の検出値である。また、操舵制御装置50は、荷重センサ74によって検出される荷重wを参照する。実際には、荷重wは、車両の右側の車輪が路面に加える荷重と、左側の車輪が路面に加える荷重と、の各別の検出値を含む。
【0020】
操舵制御装置50は、PU52、および記憶装置54を備えている。PU52は、CPU、GPU、およびTPU等のソフトウェア処理装置である。記憶装置54は、電気的に書き換え不可能な不揮発性メモリであってもよい。また記憶装置54は、電気的に書き換え可能な不揮発性メモリ、およびディスク媒体等の記憶媒体であってもよい。
【0021】
「制御の概要」
図2に、操舵制御装置50が実行する処理を示す。図2に示す処理は、記憶装置54に記憶されたプログラムをPU52がたとえば所定周期で繰り返し実行することにより実現される。
【0022】
操舵角算出処理M10は、回転角θaを、例えば、車両が直進しているときのステアリングホイール12の位置であるステアリング中立位置からの反力モータ22の回転数をカウントすることにより、360度を超える範囲を含む積算角に換算する処理を含む。操舵角算出処理M10は、換算して得られた積算角に反力用減速機構26の回転速度比に基づき換算係数を乗算することで、操舵角θsを算出する処理を含む。
【0023】
転舵相当角算出処理M12は、回転角θbを、例えば、車両が直進しているときのラック軸32の位置であるラック中立位置からの転舵モータ42の回転数をカウントすることにより、360度を超える範囲を含む積算角に換算する処理を含む。転舵相当角算出処理M12は、換算して得られた積算角に転舵伝達機構46の減速比および変換機構48のリード等に応じた換算係数を乗算することで、転舵輪34の転舵角に応じた転舵相当角θpを算出する処理を含む。転舵相当角θpは、転舵角と比例関係にある量である。なお、転舵相当角θpは、一例として、ラック中立位置よりも右側の角度である場合に正、左側の角度である場合に負とする。
【0024】
目標転舵相当角算出処理M14は、操舵角θsと、車速Vとに応じて、目標転舵相当角θp0*を算出する処理である。
操舵力設定処理M20は、操舵トルクTh、および車速Vを入力として、操舵力Tb*を算出する処理である。操舵力Tb*は、運転者の操舵方向と同一方向の量となっている。操舵力Tb*の大きさは、運転者による操舵をアシストする力を大きくする場合に大きい値に設定される。操舵力設定処理M20は、操舵トルクThの大きさが大きい場合の操舵力Tb*の大きさを、操舵トルクThの大きさが小さい場合の操舵力Tb*の大きさ以上とする処理を含んでもよい。また、操舵力設定処理M20は、車速Vが大きい場合の操舵力Tb*を車速Vが小さい場合の操舵力Tb*以下とする処理を含んでもよい。
【0025】
軸力算出処理M22は、車速V、転舵モータ42のq軸電流iqt、操舵角θs、転舵相当角θp、および目標転舵相当角θp0*を入力として、転舵輪34を通じてラック軸32に作用する軸力Frを算出する処理である。軸力Frは、ステアリング軸14に加わるトルクに換算されている。軸力Frは、運転者の操舵方向とは反対方向に作用する量である。軸力算出処理M22は、目標転舵相当角θp0*の絶対値が大きくなるほど、軸力Frの絶対値が大きくなるように算出する処理としてもよい。またたとえば、軸力算出処理M22は、車速Vが大きくなるにつれて軸力Frの絶対値が大きくなるように算出する処理としてもよい。また、軸力算出処理M22は、q軸電流iqtの絶対値が大きくなるほど、軸力Frの絶対値を大きい値に算出する処理としてもよい。ここで、q軸電流iqtは、PU52によって、回転角θbと、電流iut,ivt,iwtとに応じて算出される。軸力算出処理M22は、転舵相当角θp、目標転舵相当角θp0*および操舵角θsを入力として、転舵相当角θpと操舵角θsとが不整合の場合、不整合を解消する方向に力を及ぼすべく、軸力Frの大きさを大きくする処理を含む。ここで、不整合とは、転舵相当角θpと操舵角θsとの比率と、目標転舵相当角θp0*と操舵角θsとの比率とに所定以上の乖離があることをいう。
【0026】
目標反力算出処理M24は、操舵力Tb*から軸力Frを減算した値を、目標反力トルクTs*に代入する処理である。目標反力トルクTs*は、反力モータ22がステアリング軸14に加えるトルクの目標値である。
【0027】
反力用操作信号生成処理M26は、ステアリング軸14に加えるトルクが目標反力トルクTs*となるように、反力モータ22のトルクを制御すべく、反力用インバータ24に対する操作信号MSsを生成する処理である。詳しくは、反力用操作信号生成処理M26は、目標反力トルクTs*を反力モータ22の目標トルクに換算する処理を含む。また、反力用操作信号生成処理M26は、電流のフィードバック制御によって、反力モータ22を流れる電流を目標トルクから定まる電流に近づけるべく、反力用インバータ24に対する操作信号MSsを算出する処理を含む。なお、操作信号MSsは、実際には、反力用インバータ24の6つのスイッチング素子のそれぞれに対する操作信号となっている。
【0028】
目標ヨーレート設定処理M32は、操舵角θsおよび車速Vに基づき、目標ヨーレートyr*を設定する処理である。目標ヨーレートyr*は、平坦な路面を車両が横風を受けることなく走行しているときに、操舵角θsおよび車速Vから生じるヨーレートとされている。目標ヨーレート設定処理M32は、たとえば車両の走行に関する規範モデルを用いて目標ヨーレートyr*を算出する処理であってもよい。
【0029】
偏差算出処理M34は、目標ヨーレートyr*からヨーレートyrを減算した値を算出する処理である。
ヨーレートフィードバック処理M36は、ヨーレート操作量Yfbを算出する処理である。ヨーレート操作量Yfbは、ヨーレートが制御量であって且つ目標ヨーレートyr*が制御量の目標値であるフィードバック制御の操作量である。
【0030】
偏向判定処理M40は、車両の走行方向に直交する方向からの風に起因して車両が偏向しているか否かを判定する処理である。偏向判定処理M40は、操舵角θs、車速V、ヨーレートyr、ロールレートrr、横加速度ayおよび荷重差Δwを入力とする。荷重差Δwは、右側の車輪が路面に加える荷重と左側の車輪が路面に加える荷重との差である。荷重差Δwは、PU52によって荷重wに基づき算出される。ヨーレートyr、ロールレートrr、横加速度ayおよび荷重差Δwは、車両の偏向を示す変数である。一方、操舵角θsおよび車速Vは、横風が無い場合に車両が直進状態からずれる量を定める変数である。偏向判定処理M40は、たとえば、車両の偏向を示す変数の値のそれぞれと、操舵角θsおよび車速Vから定まる閾値との大小比較によって、車両が横風によって偏向しているか否かを判定する処理としてもよい。具体的には、偏向判定処理M40は、たとえば、車両の偏向を示す変数の値のそれぞれと上記閾値との大小比較結果を「1」または「0」で定量化して且つ4つの大小比較結果の荷重平均値の大きさによって、偏向の有無を定量化してもよい。ここで、荷重平均処理における4つの重みは等しくてもよい。換言すれば、上記荷重平均値は、単純平均値を含む。偏向判定処理M40は、横風に起因して車両が偏向していると判定される場合に、フラグFを「1」とする。偏向判定処理M40は、横風に起因して車両が偏向していると判定されない場合に、フラグFを「0」とする。
【0031】
補正処理M42は、横風に起因して車両が偏向していると判定される場合に、目標転舵相当角θp0*を、ヨーレート操作量Yfbによって補正した値を、目標転舵相当角θp*に代入する処理を含む。補正処理M42は、横風に起因して車両が偏向していると判定されない場合、目標転舵相当角θp0*を、ヨーレート操作量Yfbによって補正することなく、目標転舵相当角θp*に代入する処理を含む。
【0032】
転舵フィードバック処理M46は、転舵相当角θpを制御量として且つ目標転舵相当角θp*を制御量の目標値とするフィードバック制御の操作量を、目標転舵トルクTt*に代入する処理である。目標転舵トルクTt*は、転舵モータ42のトルクと一定の比率を有する。
【0033】
転舵用操作信号生成処理M48は、転舵モータ42のトルクが目標転舵トルクTt*と一定の比率を有した値となるように、転舵モータ42のトルクを制御すべく、転舵用インバータ44に対する操作信号MStを生成する処理である。詳しくは、転舵用操作信号生成処理M48は、目標転舵トルクTt*を転舵モータ42の目標トルクに換算する処理を含む。また、転舵用操作信号生成処理M48は、電流のフィードバック制御によって、転舵モータ42を流れる電流を目標トルクから定まる電流に近づけるべく、転舵用インバータ44に対する操作信号MStを算出する処理を含む。なお、操作信号MStは、実際には、転舵用インバータ44の6つのスイッチング素子のそれぞれに対する操作信号となっている。
【0034】
「補正処理M42の詳細」
補正処理M42は、実際には、ヨーレート操作量Yfbによる補正をステップ的に行うのではなく、目標転舵相当角θp0*の補正量を徐変させる処理を含む。
【0035】
図3に、上記徐変させる処理の手順を示す。図3に示す処理は、記憶装置54に記憶されたプログラムを、PU52によって、たとえば所定周期で繰り返し実行することにより実現される。なお、以下では、先頭に「S」が付与された数字によって各処理のステップ番号を表現する。
【0036】
図3に示す一連の処理において、PU52は、まずフラグFが「1」であるか否かを判定する(S10)。PU52は、フラグFが「1」であると判定する場合(S10:YES)、補正量Δθpを更新する処理を実行する(S12)。S12の処理は、補正量Δθpとヨーレート操作量Yfbとに差がある場合、補正量Δθpの変化量の大きさを上限値Δth以下に制限しつつ、補正量Δθpをヨーレート操作量Yfbに近づける処理となる。S12の処理は、補正量Δθpとヨーレート操作量Yfbとが一致する場合、今回の補正量Δθpを、前回の補正量Δθp(n-1)に一致させる処理となる。
【0037】
そしてPU52は、目標転舵相当角θp0*に補正量Δθpを加算した値を、目標転舵相当角θp*に代入する(S14)。
PU52は、S10の処理において否定判定する場合、補正量Δθpが「0」であるか否かを判定する(S16)。PU52は、補正量Δθpが「0」ではないと判定する場合(S16:NO)、前回の補正量Δθp(n-1)から徐変量ΔΔを減算した値を、補正量Δθpに代入する(S18)。PU52は、徐変量ΔΔを、変化速度Δθp0*に応じて設定する。変化速度Δθp0*は、目標転舵相当角θp0*の所定時間当たりの変化量である。PU52は、たとえば、変化速度Δθp0*と同一の絶対値を有して且つ逆符号の値を徐変量ΔΔに代入してもよい。
【0038】
PU52は、S16の処理において肯定判定される場合と、S18の処理を完了する場合と、には、S14の処理に移行する。
PU52は、S14の処理を完了する場合には、図3に示す一連の処理を一旦終了する。
【0039】
「本実施形態の作用および効果」
図4に、車両が横風によって偏向する状況における制御を例示する。
時刻t1は、横風によって、転舵角が直進方向Dに対して左側にずれたことを示している。その場合、目標転舵相当角θp*と転舵相当角θpとの差の絶対値が大きくなることから、ステアリングホイール12を左側に変位させようとする軸力Frが大きくなる。また、転舵相当角θpと操舵角θsとが不整合となることから、ステアリングホイール12を左側に変位させようとする軸力Frが大きくなる。
【0040】
PU52は、時刻t1に横風によって車両が偏向している旨の判定をする。これにより、PU52は、フラグFを「1」に切り替える。そして、PU52は、補正量Δθpをヨーレート操作量Yfbへと収束させる。この場合のヨーレート操作量Yfbは、転舵輪34を右側に転舵させるための量となっている。これにより、補正量Δθpによって補正された目標転舵相当角θp0*である、目標転舵相当角θp*は、迅速に中立位置に戻る。そしてこれにより、転舵輪34は迅速に中立位置に戻る。
【0041】
時刻t2は、転舵輪34が中立位置に戻った状態を示す。また、時刻t2においては、目標転舵相当角θp*が「0」付近の値となる。この時点において、車両の偏向も軽減されることから、PU52は、横風によって車両が偏向していないと判定する。そしてPU52は、補正量Δθpの大きさを、目標転舵相当角θp0*の変化に応じて漸減させる。これにより、時刻t2~時刻t3の期間において、目標転舵相当角θp*の変動が抑制されて、「0」付近の値を維持する。
【0042】
時刻t3は、ステアリングホイール12が中立位置に戻った状態を示す。
このように、本実施形態によれば、横風によって車両が偏向すると、ヨーレート操作量Yfbに応じて目標転舵相当角θp0*を補正することにより、転舵角を迅速に偏向を解消する角度へと移行させることができる。すなわち、運転者がステアリングホイール12の操作によって意図することを、アシストすることができる。
【0043】
以上説明した本実施形態によれば、さらに以下に記載する作用および効果が得られる。
(1)フラグFが「0」に切り替わると、PU52は、補正量Δθpの大きさを漸減させる速度を、変化速度Δθp0*に応じて設定した。これにより、操舵角θsの変化によって転舵相当角θpがオーバーシュートすることを抑制できる。
【0044】
<対応関係>
上記実施形態における事項と、上記「課題を解決するための手段」の欄に記載した事項との対応関係は、次の通りである。以下では、「課題を解決するための手段」の欄に記載した解決手段の番号毎に、対応関係を示している。[1]目標舵角変数設定処理は、目標転舵相当角算出処理M14に対応する。操作処理は、転舵フィードバック処理M46および転舵用操作信号生成処理M48に対応する。偏向判定処理は、偏向判定処理M40に対応する。補正処理は、補正処理M42に対応する。車両状態センサは、車速センサ66、ヨーレートセンサ68、ロールレートセンサ70、横加速度センサ72、および荷重センサ74に対応する。[2]図4の時刻t3以降、目標転舵相当角θp*が目標転舵相当角θp0*に一致している点に対応する。[3]終了時徐変処理は、S18の処理に対応する。[4,5]S18の処理において、徐変量ΔΔが、目標転舵相当角θp0*の変化速度Δθp0*に応じて設定されている点に対応する。[6]開始時徐変処理は、S12の処理に対応する。
【0045】
<その他の実施形態>
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0046】
「開始時徐変処理について」
・上記実施形態では、補正量Δθpをヨーレート操作量Yfbに近付ける速度を一定値としたが、これに限らない。たとえば、ヨーレート操作量Yfbの大きさに応じて上記速度を変更してもよい。
【0047】
「終了時徐変処理について」
・上記実施形態では、補正量Δθpの大きさの減少速度、目標転舵相当角θp0*の変化速度Δθp0*に応じて変更したが、これに限らない。たとえば操舵角θsの変化速度および車速Vに応じて上記減少速度を変更してもよい。すなわち、操舵角θsと車速Vとに応じて目標転舵相当角θp0*が設定されることから、操舵角θsの変化速度および車速Vは、変化速度Δθp0*の情報を有している。またたとえば、操舵角θsの変化速度のみから上記減少速度を変更してもよい。ここで、目標転舵相当角θp0*と操舵角θsとの比率である舵角比が一定の場合には、操舵角θsの変化速度自体が、変化速度Δθp0*の情報を有している。ただし、操舵角θsの変化速度のみから上記減少速度を変更することにとって、舵角比が一定であることは必須ではない。
【0048】
「補正処理について」
・目標転舵相当角θp*と操舵角θsとの関係を、ヨーレートのフィードバック制御の操作量に応じて変更する処理としては、目標転舵相当角θp0*に補正量Δθpを加算する処理に限らない。たとえば、ヨーレートのフィードバック制御の操作量に応じて舵角比を補正する処理であってもよい。具体的には、目標転舵相当角算出処理M14が、操舵角θsと舵角比とから目標転舵相当角θp0*を設定する処理であるとして且つ、この舵角比を補正する処理によって補正処理を構成すればよい。
【0049】
「偏向判定処理について」
・偏向判定処理としては、操舵角θs、車速V、ヨーレートyr、ロールレートrr、横加速度ayおよび荷重差Δwの6個の変数の全てを入力とする処理に限らない。たとえば、ヨーレートyr、ロールレートrr、横加速度ayおよび荷重差Δwの4つの変数のうちの3個のそれぞれと閾値との大小を比較する処理であってもよい。またたとえば同4つの変数のうちの2個のそれぞれと閾値との大小を比較する処理であってもよい。またたとえば同4つの変数のうちの1個と閾値との大小を比較する処理であってもよい。ここで、閾値は、操舵角θsおよび車速Vに応じて設定されることが望ましい。
【0050】
「操舵制御装置について」
・操舵制御装置としては、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態において実行される処理の少なくとも一部を実行するたとえばASIC等の専用のハードウェア回路を備えてもよい。すなわち、操舵制御装置は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成を備える処理回路を含んでいればよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶する記憶装置等のプログラム格納装置とを備える処理回路。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える処理回路。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える処理回路。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア実行装置は、複数であってもよい。また、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。
【0051】
「そのほか」
・転舵モータ42が同機機であることは必須ではない。たとえば、誘導機であってもよい。
【0052】
・上記各実施形態は、操舵装置10を、ステアリングホイール12と転舵輪34との間が機械的に常時分離したリンクレスの構造としたが、これに限らず、クラッチによりステアリングホイール12と転舵輪34との間が機械的に分離可能な構造としてもよい。
【符号の説明】
【0053】
10…操舵装置
12…ステアリングホイール
14…ステアリング軸
20…反力アクチュエータ
22…反力モータ
24…反力用インバータ
26…反力用減速機構
30…転舵アクチュエータ
32…ラック軸
34…転舵輪
42…転舵モータ
44…転舵用インバータ
46…転舵伝達機構
48…変換機構
50…操舵制御装置
図1
図2
図3
図4