(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076139
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】故障設備特定支援システムおよび故障設備特定支援プログラム
(51)【国際特許分類】
H02J 13/00 20060101AFI20240529BHJP
G06Q 50/06 20240101ALI20240529BHJP
G06Q 10/20 20230101ALI20240529BHJP
H02J 3/00 20060101ALI20240529BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
H02J13/00 301D
H02J13/00 301J
G06Q50/06
G06Q10/20
H02J3/00 170
G05B23/02 302Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187549
(22)【出願日】2022-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】舛井 充昭
【テーマコード(参考)】
3C223
5G064
5G066
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
3C223AA24
3C223BA01
3C223CC01
3C223FF16
3C223FF22
3C223FF26
3C223FF45
3C223GG01
3C223HH05
5G064AA04
5G064AB05
5G064AC08
5G064BA02
5G064BA09
5G064CB03
5G064CB06
5G064DA02
5G066AA09
5L049CC06
5L049CC15
5L050CC06
(57)【要約】
【課題】変電所等で発生した異常事象の原因である故障設備の特定を支援する。
【解決手段】変電所を含む電力施設における一部の設備である複数の設備の接続状態と、当該接続状態で発生し得る異常事象が、一部の設備ごとに記された複数の展開接続図を記憶する接続図データベース31と、電力施設で発生した異常事象を含む異常情報に基づいて、当該異常事象に関係する展開接続図を接続図データベース31から抽出し、抽出した展開接続図に基づいて当該異常事象の原因となり得る故障設備を抽出する抽出タスク41と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変電所を含む電力施設における一部の設備である複数の設備の接続状態と、当該接続状態で発生し得る異常事象が、前記一部の設備ごとに記された複数の展開接続図を記憶する接続図記憶手段と、
前記電力施設で発生した異常事象を含む異常情報に基づいて、当該異常事象に関係する展開接続図を前記接続図記憶手段から抽出し、抽出した展開接続図に基づいて当該異常事象の原因となり得る故障設備を抽出する故障設備抽出手段と、
を備えることを特徴とする故障設備特定支援システム。
【請求項2】
前記電力施設で過去に発生した異常事象とその原因であった故障設備とを含む過去情報を記憶する過去情報記憶手段を備え、
前記故障設備抽出手段は、前記過去情報に基づいて前記抽出した故障設備のなかから優先度が高い故障設備を抽出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の故障設備特定支援システム。
【請求項3】
前記異常情報に、前記電力施設の所内故障表示盤に表示された異常事象が発生した系統情報を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の故障設備特定支援システム。
【請求項4】
前記故障設備抽出手段は、前記異常情報と前記接続図記憶手段に記憶された複数の展開接続図が入力されると、前記電力施設で発生した異常事象の原因となり得る故障設備が出力されるように、過去の実績データに基づいて機械学習された抽出用学習モデルを用いる、
ことを特徴とする請求項1に記載の故障設備特定支援システム。
【請求項5】
コンピュータを、
変電所を含む電力施設における一部の設備である複数の設備の接続状態と、当該接続状態で発生し得る異常事象が、前記一部の設備ごとに記された複数の展開接続図を記憶する接続図記憶手段と、
前記電力施設で発生した異常事象を含む異常情報に基づいて、当該異常事象に関係する展開接続図を前記接続図記憶手段から抽出し、抽出した展開接続図に基づいて当該異常事象の原因となり得る故障設備を抽出する故障設備抽出手段、
として機能させることを特徴とする故障設備特定支援プログラム。
【請求項6】
コンピュータを、
前記電力施設で過去に発生した異常事象とその原因であった故障設備とを含む過去情報を記憶する過去情報記憶手段として機能させ、
前記故障設備抽出手段は、前記過去情報に基づいて前記抽出した故障設備のなかから優先度が高い故障設備を抽出する、
ことを特徴とする請求項5に記載の故障設備特定支援プログラム。
【請求項7】
前記異常情報に、前記電力施設の所内故障表示盤に表示された異常事象が発生した系統情報を含む、
ことを特徴とする請求項5に記載の故障設備特定支援プログラム。
【請求項8】
前記故障設備抽出手段は、前記異常情報と前記接続図記憶手段に記憶された複数の展開接続図が入力されると、前記電力施設で発生した異常事象の原因となり得る故障設備が出力されるように、過去の実績データに基づいて機械学習された抽出用学習モデルを用いる、
ことを特徴とする請求項5に記載の故障設備特定支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変電所等で異常事象が発生した場合に、その原因である故障(異常)設備の特定を支援する故障設備特定支援システムおよび故障設備特定支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、変電所で異常事象が発生した場合、まず、その異常事象に関係する機器・設備の展開接続図を担当者が選出する。この展開接続図には、複数の機器・設備の接続状態やフローなどが図示され、担当者が展開接続図を見て異常事象の原因である故障(異常)設備を推定する。そして、推定した故障設備・機器等の動作状況や外観、異音、異臭などを点検、確認したり、必要により電圧測定や絶縁抵抗測定などを行ったりして、故障設備を特定していた。
【0003】
一方、展開接続図を使用して複数の異常の関連性を適切に通知できる、という監視制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この装置は、複数の異常のうちの第1異常を選択し、複数の異常のうち第1異常以外の他の異常について第1異常に対する関連度を算出して、関連度が閾値以上の場合に他の異常を第1異常に関連する関連異常として抽出する。この際、第1異常の検出回路を含む展開接続図と、他の異常の検出回路を含む展開接続図とが同一である場合に、異常の関連度を高くするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来、人・担当者が異常事象に関係する展開接続図を選出し、展開接続図を見て異常原因と考えられる故障設備を推定するため、担当者への負担が大きく時間も要していた。さらに、担当者の経験や変電所等に関する熟知度により推定結果が左右されてしまい、適正な推定結果が得られずに、故障設備を迅速、適正に特定できないおそれがあった。
【0006】
一方、特許文献1の装置では、展開接続図を使用して複数の異常の関連性を判断することは可能であるが、異常事象の原因である故障設備の特定を支援することはできない。
【0007】
そこで本発明は、変電所等で発生した異常事象の原因である故障設備の特定を支援可能な故障設備特定支援システムおよび故障設備特定支援プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、変電所を含む電力施設における一部の設備である複数の設備の接続状態と、当該接続状態で発生し得る異常事象が、前記一部の設備ごとに記された複数の展開接続図を記憶する接続図記憶手段と、前記電力施設で発生した異常事象を含む異常情報に基づいて、当該異常事象に関係する展開接続図を前記接続図記憶手段から抽出し、抽出した展開接続図に基づいて当該異常事象の原因となり得る故障設備を抽出する故障設備抽出手段と、を備えることを特徴とする故障設備特定支援システムである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載の故障設備特定支援システムにおいて、前記電力施設で過去に発生した異常事象とその原因であった故障設備とを含む過去情報を記憶する過去情報記憶手段を備え、前記故障設備抽出手段は、前記過去情報に基づいて前記抽出した故障設備のなかから優先度が高い故障設備を抽出する、ことを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1に記載の故障設備特定支援システムにおいて、前記異常情報に、前記電力施設の所内故障表示盤に表示された異常事象が発生した系統情報を含む、ことを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1に記載の故障設備特定支援システムにおいて、前記故障設備抽出手段は、前記異常情報と前記接続図記憶手段に記憶された複数の展開接続図が入力されると、前記電力施設で発生した異常事象の原因となり得る故障設備が出力されるように、過去の実績データに基づいて機械学習された抽出用学習モデルを用いる、ことを特徴とする。
【0012】
請求項5の発明は、コンピュータを、変電所を含む電力施設における一部の設備である複数の設備の接続状態と、当該接続状態で発生し得る異常事象が、前記一部の設備ごとに記された複数の展開接続図を記憶する接続図記憶手段と、前記電力施設で発生した異常事象を含む異常情報に基づいて、当該異常事象に関係する展開接続図を前記接続図記憶手段から抽出し、抽出した展開接続図に基づいて当該異常事象の原因となり得る故障設備を抽出する故障設備抽出手段、として機能させることを特徴とする故障設備特定支援プログラムである。
【0013】
請求項6の発明は、請求項5に記載の故障設備特定支援プログラムにおいて、コンピュータを、前記電力施設で過去に発生した異常事象とその原因であった故障設備とを含む過去情報を記憶する過去情報記憶手段として機能させ、前記故障設備抽出手段は、前記過去情報に基づいて前記抽出した故障設備のなかから優先度が高い故障設備を抽出する、ことを特徴とする。
【0014】
請求項7の発明は、請求項5に記載の故障設備特定支援プログラムにおいて、前記異常情報に、前記電力施設の所内故障表示盤に表示された異常事象が発生した系統情報を含む、ことを特徴とする。
【0015】
請求項8の発明は、請求項5に記載の故障設備特定支援プログラムにおいて、前記故障設備抽出手段は、前記異常情報と前記接続図記憶手段に記憶された複数の展開接続図が入力されると、前記電力施設で発生した異常事象の原因となり得る故障設備が出力されるように、過去の実績データに基づいて機械学習された抽出用学習モデルを用いる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1および請求項5に記載の発明によれば、電力施設で発生した異常事象を含む異常情報に基づいて、発生した異常事象に関係する展開接続図が自動的に抽出され、異常事象の原因となり得る故障設備が自動的に抽出される。このため、抽出された故障設備を点検などするだけで、適正かつ迅速に異常事象の原因である故障設備を特定することが可能となる。このようにして、発生した異常事象の原因である故障設備の特定を支援することが可能となる。
【0017】
請求項2および請求項6に記載の発明によれば、過去に発生した異常事象とその原因であった故障設備に基づいて、異常事象の原因として優先度・可能性が高い故障設備が抽出される。このため、優先度が高い故障設備を点検などするだけで、より適正かつ迅速に異常事象の原因である故障設備を特定することが可能となる。このようにして、発生した異常事象の原因である故障設備の特定をより適正に支援することが可能となる。
【0018】
請求項3および請求項7に記載の発明によれば、異常情報として異常事象が発生した系統情報が含まれるため、異常事象だけでは展開接続図や故障設備を抽出できない場合であっても、展開接続図さらには故障設備を適正に抽出することが可能となる。
【0019】
請求項4および請求項8に記載の発明によれば、機械学習された抽出用学習モデルを用いて、電力施設で発生した異常事象の原因となり得る故障設備が出力されるため、より適正に故障設備を抽出・推定することが可能となる。この結果、発生した異常事象の原因である故障設備の特定をより適正に支援することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】この発明の実施の形態に係る故障設備特定支援システムを示す概略構成図である。
【
図2】
図1の故障設備特定支援システムの接続図データベースに記憶されている展開接続図の第1の例を示す図である。
【
図3】この発明の実施の形態における変電所に設置されている所内故障表示盤を示す正面図である。
【
図4】
図1の故障設備特定支援システムの接続図データベースに記憶されている展開接続図の第2の例を示す図である。
【
図5】
図1の故障設備特定支援システムの抽出用学習モデルの概略構成を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0022】
図1は、この発明の実施の形態に係る故障設備特定支援システム1を示す概略構成図である。この故障設備特定支援システム1は、電力施設で異常事象が発生した場合に、その原因である故障(異常)設備の特定を支援するシステムであり、この実施の形態では、電力施設が無人の変電所の場合について、主として以下に説明する。
【0023】
すなわち、複数の変電所を有人の制御所などで監視し、ある変電所で異常事象が発生すると、その変電所から制御所などに対して異常事象通知(異常情報)が送信されるようになっている。例えば、変電所で排水ピットの水位が上昇してこれを検知すると、「変電所名」(変電所の識別情報)、「水位」(異常事象の種類)を含む異常事象通知が変電所から制御所に送信され、制御所の制御監視システムに「変電所名」や「水位」が表示されるとともに、アラーム音・ブザーが鳴動する。
【0024】
ここで、大雨で排水ピットの水位が上昇して制御監視システムに「水位」が表示されることは、通常、適正な動作であるが、「水位」が頻繁に表示されたり消えたりすることが繰り返される場合には、適正な動作ではなく、周辺設備に異常があると考えられる。従って、このような場合も含めて、故障設備特定支援システム1によって異常事象の原因である故障設備の特定を支援する。
【0025】
故障設備特定支援システム1は、主として、入力部21と、表示部22と、通信部23と、記憶部3と、抽出タスク(故障設備抽出手段)41と、学習タスク42と、これらを制御などする中央処理部5と、を備える。ここで、この実施の形態では、制御所の担当者が故障設備を特定するものとし、故障設備特定支援システム1が一体として構成され、制御所に設けられている場合について説明する。これに対して、故障設備特定支援システム1を複数のコンピュータ・サーバなどで構成したり、一部または全部を制御所以外の施設に設けたりしてもよい。
【0026】
入力部21は、各種情報や指令などを入力するためのインターフェイスであり、具体的には、後述する抽出タスク41の起動指令や入力パラメータである異常情報などを入力する。表示部22は、各種データや情報などを表示するディスプレイであり、具体的には、後述する抽出タスク41による抽出結果などを表示する。通信部23は、インターネット網や電話通信網などを介して外部と通信するためのインターフェイスであり、具体的には、後述する所内故障表示盤101から情報を受信したり、外部の通信端末・コンピュータと情報や指令を送受信したりできるようになっている。
【0027】
記憶部3は、主として、接続図データベース(接続図記憶手段)31と、過去情報データベース(過去情報記憶手段)32と、抽出用学習モデル33と、抽出用実績データベース34と、を備える。ここでは、データベース31、32について説明し、抽出用学習モデル33と抽出用実績データベース34については後述する。
【0028】
接続図データベース31は、各変電所における一部の設備である複数の設備の接続状態と、当該接続状態で発生し得る異常事象が、前記一部の設備ごとに記された複数の展開接続図を記憶するデータベースである。すなわち、変電所全体の設備・機器が複数のグループ(機能セクション)に分けられ、グループごとに設備・機器の接続状態やフロー、発生し得る異常事象などを図示・記載した展開接続図が作成されている。そして、このような複数の展開接続図が変電所ごとに接続図データベース31に記憶されている。
【0029】
例えば、A変電所の「漏油検出」グループとして、
図2に示すような展開接続図が記憶されている。この展開接続図では、複数の設備・機器の接続状態・フローが図示されているとともに、この接続状態・グループで発生し得る異常事象である「水位過上昇」あるいは「水位」という文字が記載されている。さらに、「電源切替」、「漏油検出」、「水位過上昇」といったグループ内における各機能分担が記されている。なお、
図2および後述する
図4の展開接続図では、一部の設備・機器を省略して概念的に示している。
【0030】
過去情報データベース32は、各変電所で過去に発生した異常事象と、その原因であった故障設備とを含む過去情報を記憶するデータベースである。すなわち、過去にどの変電所でどのような異常事象が発生し、その原因がどの設備・機器の故障によるものだったかが記憶されている。例えば、A変電所で「水位過上昇」という異常事象が発生し、その原因がインバータによるものであったことが、発生日時とともに記憶されている。この際、異常事象の原因となった故障設備などに関する詳細な情報、例えば、どのような故障状態であったか、どのようにして特定されたかなどを記憶してもよい。これにより、故障設備の特定をより適正に支援することが可能となる。
【0031】
抽出タスク41は、変電所で発生した異常事象を含む異常情報に基づいて、この異常事象に関係する展開接続図を接続図データベース31から抽出し、抽出した展開接続図に基づいて、この異常事象の原因となり得る故障設備(推定故障設備)を抽出するタスク・プログラムである。すなわち、変電所から制御所に対して異常事象通知が送信されて、制御監視システムに変電所の識別情報や異常事象の種類が表示され、アラーム音が鳴動した場合に起動される。この実施の形態では、変電所名、異常事象などを含む異常情報が入力パラメータとして、制御所の担当者によって入力部21から入力されて起動指令が入力されると、抽出タスク41が起動される。
【0032】
これに対して、外部の通信端末・コンピュータから故障設備特定支援システム1にアクセスして、入力パラメータや起動指令を入力して抽出タスク41を起動するようにしてもよい。さらに、通信部23を介して変電所の装置(例えば、受電盤)から上記のような異常事象通知(異常情報)を受信した際に、抽出タスク41を自動的に起動するようにしてもよい。
【0033】
そして、抽出タスク41が起動されると、まず、接続図データベース31の展開接続図のなかから、異常情報の変電所名に該当する展開接続図であって、異常情報の異常事象を含む展開接続図を検索、抽出する。例えば、異常情報の変電所名が「A変電所」で、異常情報の異常事象が「水位過上昇」の場合、
図2に示すような展開接続図を抽出する。この際、複数の展開接続図を検索、抽出してもよい。
【0034】
また、異常情報として、変電所の所内故障表示盤101に表示された異常事象が発生した系統情報(異常事象に関わる設備に関する情報)を含む場合には、この系統情報を参照して展開接続図を検索、抽出する。すなわち、変電所のなかには、
図3に示すような所内故障表示盤101が設置されている場合がある。
【0035】
この所内故障表示盤101には、複数の設備・機器のそれぞれに対応する複数の警報ランプ102が配設され、設備・機器の故障(異常)が発生すると、その設備・機器に該当する警報ランプ102が点灯するようになっている。例えば、異常事象である「PD・PT故障(連係)」が発生し得る送電線ごとに警報ランプ102が配設され、A2送電線で「PD・PT故障(連係)」が発生すると、A2送電線の警報ランプ102が点灯する。
【0036】
この点灯された警報ランプ102に該当する系統情報、例えば、A2送電線という系統情報が異常情報に含まれる場合には、この系統情報を参照して展開接続図を検索、抽出する。この際、入力部21から入力する入力パラメータ・異常情報に系統情報を含めてもよいし、所内故障表示盤101から系統情報を直接受信するようにしてもよい。
【0037】
そして、系統情報を含む場合には、接続図データベース31の展開接続図のなかから、異常情報の変電所名に該当する展開接続図であって、異常事象と系統情報を含む展開接続図を検索、抽出する。例えば、異常情報の変電所名が「A変電所」、異常情報の異常事象が「PD・PT故障(連係)」で、異常情報の系統情報が「A2送電線」の場合、
図4に示すような展開接続図を抽出する。
【0038】
次に、抽出した展開接続図に基づいて、異常情報に含まれる異常事象の原因となり得る故障設備を抽出する。すなわち、所定の抽出ルールに従って、展開接続図を解読・解析し、どの設備・機器が故障になると異常事象が発生し得るかを割り出す。例えば、
図2に示す展開接続図が抽出された場合、異常事象である「水位過上昇」が記載されている箇所に対して、どの設備・機器が直接的・直列的に接続され(直接的な関係を有し)、その機器が故障すると「水位過上昇」が発生するかを割り出す。この結果、
図2の場合、トランス、インバータ、NFB(ノーヒューズブレーカ)、フロートレススイッチおよび水位電極を抽出する。
【0039】
また、異常情報に系統情報を含む場合には、系統情報も考慮して異常事象の原因となり得る故障設備を抽出する。例えば、
図4に示す展開接続図が抽出された場合、異常事象である「PD・PT故障(連係)」の原因として「ヒューズ断」が抽出されるが、系統情報として「A2送電線」が含まれている場合、A2送電線のヒューズを故障設備として抽出する。
【0040】
ここで、各展開接続図に対して、展開接続図に記載された異常事象の原因となり得る故障設備を予め抽出、記憶し、展開接続図を抽出した場合に、その展開接続図に対して記憶された故障設備を抽出してもよい。ただし、この場合、最新の展開接続図に対して最新の故障設備が常に記憶されていなければ、適正な故障設備を抽出することができない。これに対して、この実施の形態のように、都度、展開接続図を解読・解析して故障設備を抽出することで、常に適正な故障設備を抽出することが可能となる。
【0041】
続いて、過去情報データベース32に記憶された過去情報に基づいて、抽出した故障設備のなかから優先度が高い故障設備を抽出する。すなわち、過去に確認された異常事象とその原因であった故障設備に基づいて、上記のようにして抽出した故障設備のなかから、異常事象の原因として優先度・可能性が高い故障設備を抽出する。
【0042】
具体的には、同じ変電所で同じ異常事象が発生した際に確認・特定された故障設備と同じ故障設備の優先度を高く設定したり、複数の変電所で同じ異常事象が発生した際に多かった故障設備と同じ故障設備の優先度を高く設定したりする。この際、同じ異常事象に対して故障設備と特定された回数などに応じたポイントを付与して、ポイント数によって優先順位を決めてもよい。
【0043】
例えば、「水位過上昇」の原因として過去に、トランスが1回、インバータが3回特定された場合、インバータの優先順位を1位、トランスの優先順位を2位、その他の優先順位を3位以下にする。さらに、異なる異常事象であっても故障設備と特定された回数が多い機器・設備と同等の機器・設備に対してポイントを付与したり、機器・設備の特性(異常事象との関連性の大きさ等)や劣化状態・使用年数などに応じてポイントを付与したりして、優先順位を上げるようにしてもよい。
【0044】
そして、このようにして抽出した故障設備とその優先度・優先順位を表示部22に表示したり、予め設定された担当者の通信端末に送信したりする。
【0045】
このような抽出タスク41は、変電所で発生した異常情報と接続図データベース31に記憶された複数の展開接続図が入力されると、変電所で発生した異常事象の原因となり得る(原因と推定される)故障設備が出力されるように、過去の実績データに基づいて機械学習された抽出用学習モデル33を用いる。すなわち、上記のようにして、接続図データベース31から展開接続図を抽出し、展開接続図を解読・解析して異常事象の原因となり得る故障設備を抽出する際に、抽出用学習モデル33を用いる。この抽出用学習モデル33は、学習タスク42によって作成される。
【0046】
すなわち、学習タスク42は、抽出用実績データベース34に記録・蓄積されている過去の実績データを用いて、ニューラルネットワーク等の公知の機械学習アルゴリズムにより抽出用学習モデル33を作成する。この抽出用実績データベース34は、入力情報としての、過去に変電所で発生した異常情報と接続図データベース31の展開接続図と、設備の管理・保守の有識者・経験者などが実際に異常事象の原因として特定した故障設備と、を含む実績データが記録・蓄積されているデータベースである。ここで、過去の実績データとして、過去情報データベース32のデータを利用してもよい。また、過去の実績データには、実際に過去に発生した異常情報や、有識者・経験者などが実際に特定した故障設備に基づいて作成されたデータの他、事前訓練などで作成されたデータなどが含まれる。
【0047】
この学習タスク42は、
図5に示すように、ニューラルネットワークを利用した機械学習・深層学習を用い、抽出用実績データベース34に記録されている実績データに基づいて、例えば、変電所で発生した異常情報と、接続図データベース31に記憶された展開接続図とを入力層、異常事象の原因と推定される故障設備を出力層、入力層から出力層への解析処理を中間層とするニューラルネットワークを作成する。そして、学習タスク42は、抽出用学習モデル33の実績データを学習データとして用いて、中間層における各種パラメータについて学習を行う。すなわち、学習タスク42は、変電所で発生した異常情報と接続図データベース31の展開接続図とに基づいて、異常事象の原因と推定される故障設備が適正に出力されるように、中間層における各種パラメータの学習を行う。
【0048】
以上のように、この故障設備特定支援システム1によれば、ある変電所で異常事象が発生すると、変電所から制御所に異常事象通知(異常情報)が送信されて、制御監視システムに変電所の識別情報や異常事象の種類が表示され、上記のようにして、抽出タスク41が起動される。そして、変電所で発生した異常事象を含む異常情報に基づいて、発生した異常事象に関係する展開接続図が自動的に抽出され、異常事象の原因となり得る故障設備が自動的に抽出される。このため、抽出された故障設備を点検などするだけで、適正かつ迅速に異常事象の原因である故障設備を特定することが可能となる。
【0049】
また、過去に発生した異常事象とその原因であった故障設備に基づいて、異常事象の原因として優先度・可能性が高い故障設備が抽出される。このため、優先度が高い故障設備を点検などするだけで、より適正かつ迅速に異常事象の原因である故障設備を特定することが可能となる。
【0050】
また、異常情報として異常事象が発生した系統情報が含まれるため、異常事象だけでは展開接続図や故障設備を抽出できない場合であっても、展開接続図さらには故障設備を適正に抽出することが可能となる。
【0051】
また、機械学習された抽出用学習モデル33を用いて、変電所で発生した異常事象の原因となり得る故障設備が出力されるため、より適正に故障設備を抽出・推定することが可能となる。
【0052】
このようにして、発生した異常事象の原因である故障設備の特定をより適正に支援することが可能となる。
【0053】
以上、この発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、故障設備特定支援システム1が一体として制御所に設けられている場合について説明したが、故障設備特定支援システム1を電力会社の本社やクラウドなどに設けて、複数の者がアクセスして使用できるようにしてもよい。また、抽出した故障設備とその優先度・優先順位を表示部22に表示したりしているが、優先度・優先順位が高い故障設備のみを表示部22に表示したりしてもよい。
【0054】
一方、次のような故障設備特定支援プログラムを汎用のコンピュータにインストールすることで、上記のような故障設備特定支援システム1を構成してもよい。すなわち、コンピュータを、変電所を含む電力施設における一部の設備である複数の設備の接続状態と、この接続状態で発生し得る異常事象が、当該一部の設備ごとに記された複数の展開接続図を記憶する接続図記憶手段(接続図データベース31)と、電力施設で過去に発生した異常事象とその原因であった故障設備とを含む過去情報を記憶する過去情報記憶手段(過去情報データベース32)と、電力施設で発生した異常事象を含む異常情報に基づいて、この異常事象に関係する展開接続図を接続図記憶手段から抽出し、抽出した展開接続図に基づいてこの異常事象の原因となり得る故障設備を抽出する故障設備抽出手段(抽出タスク41)、として機能させる故障設備特定支援プログラムであり、異常情報に、電力施設の所内故障表示盤101に表示された異常事象が発生した系統情報を含み、故障設備抽出手段は、異常情報と接続図記憶手段に記憶された複数の展開接続図が入力されると、電力施設で発生した異常事象の原因となり得る故障設備が出力されるように、過去の実績データに基づいて機械学習された抽出用学習モデル33を用い、さらに、過去情報に基づいて抽出した故障設備のなかから優先度が高い故障設備を抽出する。
【符号の説明】
【0055】
1 故障設備特定支援システム
31 接続図データベース(接続図記憶手段)
32 過去情報データベース(過去情報記憶手段)
33 抽出用学習モデル
34 抽出用実績データベース
41 抽出タスク(故障設備抽出手段)
42 学習タスク
101 所内故障表示盤
102 警報ランプ