(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076167
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】半導体装置およびイグニッションシステム
(51)【国際特許分類】
H03K 17/04 20060101AFI20240529BHJP
F02P 3/04 20060101ALI20240529BHJP
H03K 17/08 20060101ALI20240529BHJP
H03K 17/567 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
H03K17/04 Z
F02P3/04 301F
F02P3/04 304A
H03K17/08
H03K17/567
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187590
(22)【出願日】2022-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002918
【氏名又は名称】弁理士法人扶桑国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川島 鉄也
【テーマコード(参考)】
3G019
5J055
【Fターム(参考)】
3G019FA04
3G019FA11
3G019GA02
5J055AX04
5J055AX34
5J055AX53
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5J055AX65
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5J055FX04
5J055FX12
5J055FX13
5J055FX21
5J055FX32
(57)【要約】
【課題】ゲート制御端子電圧が異なる場合でも、パワー半導体スイッチを流れる電流の遮断時間の変動を抑制する。
【解決手段】半導体装置1は、パワー半導体スイッチ1a、ゲート制御端子gaおよびプルダウン抵抗回路1bを有する。パワー半導体スイッチ1a、ゲート制御端子gaおよびプルダウン抵抗回路1bは、同一チップ上に集積化される。ゲート制御端子gaは、パワー半導体スイッチ1aのゲートに印加されてパワー半導体スイッチ1aをスイッチングさせる制御信号が入力される。プルダウン抵抗回路1bは、ゲート制御端子gaに印加される制御信号にもとづくゲート制御端子電圧Vgにより駆動する。また、プルダウン抵抗回路1bは、パワー半導体スイッチ1aを制御信号によってオンからオフさせる際に、ゲート制御端子電圧Vgの電圧値が高いほど、低いプルダウン抵抗値にもとづいてパワー半導体スイッチ1aのゲートからゲート電荷を引き抜く。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワー半導体スイッチと、
前記パワー半導体スイッチのゲートに印加されて前記パワー半導体スイッチをスイッチングさせるハイレベルおよび前記ハイレベルより低いローレベルの制御信号が入力されるゲート制御端子と、
前記ゲート制御端子に印加される前記制御信号にもとづくゲート制御端子電圧により駆動し、前記パワー半導体スイッチをオンからオフさせる際に、前記パワー半導体スイッチのゲートからゲート電荷を引き抜くプルダウン抵抗回路と、
を備え、
前記プルダウン抵抗回路は、
前記ハイレベルの前記ゲート制御端子電圧が第1の電圧値の場合に、第1のプルダウン抵抗値で前記ゲート電荷の引き抜きを開始し、
前記ハイレベルの前記ゲート制御端子電圧が前記第1の電圧値より低い第2の電圧値の場合に、前記第1のプルダウン抵抗値よりも高い抵抗値の第2のプルダウン抵抗値で前記ゲート電荷の引き抜きを開始する、
半導体装置。
【請求項2】
前記ゲート制御端子の電圧が低下するに応じて、前記第1のプルダウン抵抗値および前記第2のプルダウン抵抗値からプルダウン抵抗値が高くなる、
請求項1記載の半導体装置。
【請求項3】
前記ゲート電荷の引き抜きを開始した後、前記ゲート制御端子の電圧が所定の電圧値を下回ると前記第2のプルダウン抵抗値よりも高い抵抗値の第3のプルダウン抵抗値で前記ゲート電荷を引き抜く、
請求項1または2記載の半導体装置。
【請求項4】
前記制御信号は、ゲート抵抗を介して前記パワー半導体スイッチのゲートに印加され、
前記プルダウン抵抗回路は、第1の抵抗、第2の抵抗およびMOSトランジスタを含み、
前記第1の抵抗の一端は、前記ゲート制御端子と、前記ゲート抵抗を介して前記パワー半導体スイッチのゲートとに接続され、前記第1の抵抗の他端は、前記第2の抵抗の一端に接続され、
前記MOSトランジスタは、前記第2の抵抗と並列に接続され、
前記MOSトランジスタの制御電極に前記ゲート制御端子電圧にもとづく電圧が印加される、
請求項1または2記載の半導体装置。
【請求項5】
前記プルダウン抵抗回路の前記第1のプルダウン抵抗値および前記第2のプルダウン抵抗値は、前記第1の抵抗、前記第2の抵抗および前記MOSトランジスタのオン抵抗による合成抵抗値であり、前記第3のプルダウン抵抗値は、前記第1の抵抗、および前記第2の抵抗による合成抵抗値である、
請求項3記載の半導体装置。
【請求項6】
前記プルダウン抵抗回路は、前記ゲート制御端子と前記パワー半導体スイッチの低電位端子との間に直列接続された第1の分圧抵抗と第2の分圧抵抗をさらに有し、前記制御電極は、前記第1の分圧抵抗と前記第2の分圧抵抗との接続点に接続され、前記第1の分圧抵抗と前記第2の分圧抵抗の合成抵抗値は、前記第1の抵抗と前記第2の抵抗の合成抵抗値よりも大きい、
請求項3記載の半導体装置。
【請求項7】
前記第1の分圧抵抗と前記第2の分圧抵抗の合成抵抗値は、前記第1のプルダウン抵抗値の10倍以上である、請求項6に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記パワー半導体スイッチ、前記ゲート制御端子および前記プルダウン抵抗回路は、同一半導体基板上に形成される、請求項1記載の半導体装置。
【請求項9】
前記制御信号を出力する制御回路が前記ゲート制御端子に接続され、前記制御回路は、出力段に出力コンデンサを有し、前記出力コンデンサを充電して高電位の前記制御信号を出力し、前記出力コンデンサを放電して低電位の前記制御信号を出力する、
請求項1記載の半導体装置。
【請求項10】
パワー半導体スイッチと、前記パワー半導体スイッチのゲートに印加されて前記パワー半導体スイッチをスイッチングさせるハイレベルおよび前記ハイレベルより低いローレベルの制御信号が入力されるゲート制御端子と、
前記ゲート制御端子に印加される前記制御信号にもとづくゲート制御端子電圧により駆動し、前記パワー半導体スイッチをオンからオフさせる際に、前記パワー半導体スイッチのゲートからゲート電荷を引き抜くプルダウン抵抗回路と
を備えるイグナイタと、
前記パワー半導体スイッチによって発生させた電圧を増幅する点火コイルと、
前記点火コイルから出力される電圧にもとづいて放電する点火プラグと、
を有し、
前記プルダウン抵抗回路は、
前記ハイレベルの前記ゲート制御端子電圧が第1の電圧値の場合に、第1のプルダウン抵抗値で前記ゲート電荷の引き抜きを開始し、
前記ハイレベルの前記ゲート制御端子電圧が前記第1の電圧値より低い第2の電圧値の場合に、前記第1のプルダウン抵抗値よりも高い第2のプルダウン抵抗値で前記ゲート電荷の引き抜きを開始する、
イグニッションシステム。
【請求項11】
前記ゲート制御端子の電圧が低下するに応じて、前記第1のプルダウン抵抗値および前記第2のプルダウン抵抗値からプルダウン抵抗値が高くなる、
請求項10記載のイグニッションシステム。
【請求項12】
前記ゲート電荷の引き抜きを開始した後、前記ゲート制御端子電圧が所定の電圧値を下回ると前記第2のプルダウン抵抗値よりも高い抵抗値の第3のプルダウン抵抗値で前記ゲート電荷を引き抜く、
請求項10または11記載のイグニッションシステム。
【請求項13】
前記制御信号は、ゲート抵抗を介して前記パワー半導体スイッチのゲートに印加され、
前記プルダウン抵抗回路は、第1の抵抗、第2の抵抗およびMOSトランジスタを含み、
前記第1の抵抗の一端は、前記ゲート制御端子と、前記ゲート抵抗を介して前記パワー半導体スイッチのゲートとに接続され、前記第1の抵抗の他端は、前記第2の抵抗の一端に接続され、
前記MOSトランジスタは、前記第2の抵抗と並列に接続され、
前記MOSトランジスタの制御電極に前記ゲート制御端子電圧にもとづく電圧が印加される、
請求項10または11記載のイグニッションシステム。
【請求項14】
前記プルダウン抵抗回路の前記第1のプルダウン抵抗値および前記第2のプルダウン抵抗値は、前記第1の抵抗、前記第2の抵抗および前記MOSトランジスタのオン抵抗による合成抵抗値であり、前記第3のプルダウン抵抗値は、前記第1の抵抗および前記第2の抵抗による合成抵抗値である、
請求項12記載のイグニッションシステム。
【請求項15】
前記プルダウン抵抗回路は、前記ゲート制御端子と前記パワー半導体スイッチの低電位端子との間に直列接続された第1の分圧抵抗と第2の分圧抵抗をさらに有し、前記制御電極は、前記第1の分圧抵抗と前記第2の分圧抵抗との接続点に接続され、前記第1の分圧抵抗と前記第2の分圧抵抗の合成抵抗値は、前記第1の抵抗と前記第2の抵抗の合成抵抗値よりも大きい、
請求項12記載のイグニッションシステム。
【請求項16】
前記第1の分圧抵抗と前記第2の分圧抵抗の合成抵抗値は、前記第1のプルダウン抵抗値の10倍以上である、請求項15に記載のイグニッションシステム。
【請求項17】
前記パワー半導体スイッチ、前記ゲート制御端子および前記プルダウン抵抗回路は、同一半導体基板上に形成される、請求項10記載のイグニッションシステム。
【請求項18】
前記制御信号を出力する制御回路が前記ゲート制御端子に接続され、前記制御回路は、出力段に出力コンデンサを有し、前記出力コンデンサを充電して高電位の前記制御信号を出力し、前記出力コンデンサを放電して低電位の前記制御信号を出力する、
請求項10記載のイグニッションシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の点火コイルの通電制御を行う半導体装置およびイグニッションシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高機能のイグニッションシステムの開発が進んでいる。イグニッションシステムでは、車両エンジン等の内燃機関の点火コイルに通電される電流を制御するイグナイタと呼ばれる半導体装置が、ECU(電子制御ユニット:Electronic Control Unit)からの制御にもとづいて、点火コイルを介して点火プラグの放電(点火)を行う。
【0003】
図9はイグニッションシステムの概略構成を示す図である。イグニッションシステム100は、イグナイタ110、点火コイル2、点火プラグ3、ECU4およびバッテリBaを備える。点火コイル2は、1次側コイルL1と、2次側コイルL2とを含む。
【0004】
また、イグナイタ110は、ゲート制御端子(Gate)、コレクタ端子(Collector)およびエミッタ端子(Emitter)を有し、パワー半導体スイッチとしてIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、ゲート抵抗Rg、プルダウン抵抗RpullおよびツェナーダイオードZD1、ZD2を備える。
【0005】
点火コイル2の1次側コイルL1の一端および2次側コイルL2の一端は、バッテリBaの正極端子に接続され、バッテリBaの負極端子は1次側グランド(GND)に接続される。
【0006】
1次側コイルL1の他端は、電流のオン/オフを担うスイッチとしてのイグナイタ110のコレクタ端子に接続され、コレクタ端子は、ツェナーダイオードZD1のカソードおよびIGBTのコレクタに接続される。2次側コイルL2の他端は、点火プラグ3の一端に接続され、点火プラグ3の他端は、2次側GNDに接続される。
【0007】
ECU4の出力端子は、ゲート制御端子を介して、ゲート抵抗Rgの一端およびプルダウン抵抗Rpullの一端に接続される。ゲート抵抗Rgの他端は、ツェナーダイオードZD2のカソードおよびIGBTのゲートに接続され、ツェナーダイオードZD2のアノードは、ツェナーダイオードZD1のアノードに接続される。IGBTのエミッタおよびプルダウン抵抗Rpullの他端は、エミッタ端子を介して1次側GNDに接続される。
【0008】
イグナイタ110は、ゲート制御端子にECU4からの制御信号が入力されると、ゲート抵抗Rgを介してIGBTをオンして1次側コイルL1に1次電流を流す。制御信号が所定時間印加されると、ECU4は制御信号をオフし、イグナイタ110内のIGBTをオフさせて点火コイル2の1次電流は遮断に向かう。
【0009】
1次側コイルL1を流れる1次電流が遮断すると、IGBTのコレクタ電圧が上昇するので、1次側コイルL1と2次側コイルL2の巻き数比に応じた高電圧が2次側コイルL2に発生し、IGBTのオン状態からオフ状態へのスイッチング時に点火プラグ3がスパークして点火する。
【0010】
関連する技術としては、例えば、電圧制御型半導体素子のターンオフ動作時に蓄積されたゲート電荷をグランドに放電させる能動素子を、電圧制御型半導体素子のゲートに接続されたゲート配線に介挿されたゲート側の抵抗とゲートとの間に接続したイグナイタが提案されている(特許文献1)。また、点火プラグに火花放電を発生させるためのタイミングを制御し、イグナイタを駆動させるために要する電流および電圧を出力する回路構成を有するECUが提案されている(特許文献2)。さらに、蓄電素子の残電圧の放電時に蓄電素子に並列接続される放電抵抗の合成抵抗値を減少させるように、複数のスイッチ素子の動作状態を制御する放電回路が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2016-17512号公報
【特許文献2】特開2008-45514号公報
【特許文献3】特開2015-19461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記のようなイグナイタ110は、ECU4から送信される制御信号が入力するゲート制御端子の入力電圧(ゲート制御端子電圧)にもとづいて、イグナイタ110内の回路が駆動する構成になっている(電源電圧とIGBTの駆動信号とを兼用する構成になっている)。
【0013】
また、イグナイタ110には、IGBTがオフしたときにゲート電荷を引き抜くためのプルダウン抵抗Rpullがゲート制御端子とエミッタ端子間に接続されており、IGBTのオフ時に、プルダウン抵抗Rpullでゲート電荷を放電させて、IGBTをオフさせる構成になっている。
【0014】
ここで、ECU4の内部出力段に出力コンデンサが接続されている場合、出力コンデンサの電荷およびIGBTのゲート電荷は、プルダウン抵抗Rpullを介して放電されることで、IGBTがオフし、点火コイル2の1次電流は遮断に向かうことになる。
【0015】
このように、ECU4からの制御信号のオフから、点火プラグ3を放電させるためにIGBTをオフさせるまでの遮断時間(1次電流が遮断に要する時間)は、ECU4の電源電圧によって充電されるECU4内の出力コンデンサの電荷量と、プルダウン抵抗Rpullの抵抗値とで決まる。
【0016】
このため、ゲート制御端子に接続されるECU4の制御信号のオン時の電圧に応じて、IGBTで制御される1次電流の遮断時間が変化してしまい、これにより、点火タイミングにずれが生じて安定した動作を行うことが困難になるという問題がある。
【0017】
1つの側面では、本発明は、ゲート制御端子電圧が異なる場合でも、パワー半導体スイッチを流れる電流の遮断時間の変動の抑制を図った半導体装置、およびゲート制御端子電圧が異なる場合でも、パワー半導体スイッチを流れる電流の遮断時間の変動を抑えて、点火タイミングのずれの抑制を図ったイグニッションシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、半導体装置が提供される。半導体装置は、パワー半導体スイッチ、ゲート制御端子およびプルダウン抵抗回路を有する。ゲート制御端子は、パワー半導体スイッチのゲートに印加されてパワー半導体スイッチをスイッチングさせるハイレベルおよびハイレベルより低いローレベルの制御信号が入力される。プルダウン抵抗回路は、ゲート制御端子に印加される制御信号にもとづくゲート制御端子電圧により駆動し、パワー半導体スイッチをオンからオフさせる際に、ゲート制御端子電圧の電圧値が高いほど、低いプルダウン抵抗値にもとづいてパワー半導体スイッチのゲートからゲート電荷を引き抜く。
【0019】
また、上記課題を解決するために、イグニッションシステムが提供される。イグニッションシステムは、イグナイタ、点火コイルおよび点火プラグを有する。また、イグナイタは、パワー半導体スイッチ、ゲート制御端子およびプルダウン抵抗回路を有する。ゲート制御端子は、パワー半導体スイッチのゲートに印加されてパワー半導体スイッチをスイッチングさせるハイレベルおよびハイレベルより低いローレベルの制御信号が入力される。プルダウン抵抗回路は、ゲート制御端子に印加される制御信号にもとづくゲート制御端子電圧により駆動し、パワー半導体スイッチをオンからオフさせる際に、ゲート制御端子電圧の電圧値が高いほど、低いプルダウン抵抗値にもとづいてパワー半導体スイッチのゲートからゲート電荷を引き抜く。点火コイルは、パワー半導体スイッチによって発生させた電圧を増幅する。点火プラグは、点火コイルから出力される電圧にもとづいて放電する。
【発明の効果】
【0020】
ゲート制御端子のオン時の電圧が異なる場合でも、パワー半導体スイッチを流れる電流の遮断時間の変化を抑制することが可能になる。また、ゲート制御端子のオン時の電圧が異なる場合でも、パワー半導体スイッチを流れる電流の遮断時間の変化を抑えて、点火タイミングのずれを抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の半導体装置を説明するための図である。
【
図2】イグニッションシステムの構成の一例を示す図である。
【
図6】遮断時間のゲート制御端子電圧依存性の一例を示す図である。
【
図7】プルダウン抵抗値と遮断時間との関係の一例を示す図である。
【
図8】プルダウン抵抗値と遮断時間との関係の一例を示す図である。
【
図9】イグニッションシステムの概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は本発明の半導体装置を説明するための図である。半導体装置1は、パワー半導体スイッチ1a、ゲート制御端子gaおよびプルダウン抵抗回路1bを有する。なお、パワー半導体スイッチ1a、ゲート制御端子gaおよびプルダウン抵抗回路1bは、同一チップ上に集積化される。
【0023】
ゲート制御端子gaは、パワー半導体スイッチ1aのゲートに印加されてパワー半導体スイッチ1aをスイッチングさせる制御信号が入力される。
プルダウン抵抗回路1bは、ゲート制御端子gaに印加される制御信号にもとづくゲート制御端子電圧Vgにより駆動する。また、プルダウン抵抗回路1bは、パワー半導体スイッチ1aを制御信号によってオンからオフさせる際に、ゲート制御端子電圧Vgの電圧値が高いほど、低いプルダウン抵抗値にもとづいて、パワー半導体スイッチ1aのゲートからゲート電荷を引き抜く。
【0024】
すなわち、制御信号によって、パワー半導体スイッチ1aがオンからオフへ指示された場合に、ゲート制御端子電圧Vgが第1の電圧であったとき、プルダウン抵抗回路1bは、第1のプルダウン抵抗値(低抵抗値)でパワー半導体スイッチ1aのゲートからゲート電荷を引き抜く。
【0025】
また、制御信号によって、パワー半導体スイッチ1aがオンからオフへ指示された場合に、ゲート制御端子電圧Vgが第2の電圧であったとき(第2の電圧<第1の電圧)、プルダウン抵抗回路1bは、第2のプルダウン抵抗値(高抵抗値)でパワー半導体スイッチ1aのゲートからゲート電荷を引き抜く。
【0026】
このように、半導体装置1では、パワー半導体スイッチ1aを制御信号によってオンからオフさせる際に、ゲート制御端子電圧Vgの電圧値が高いほど、低いプルダウン抵抗値にもとづいて、パワー半導体スイッチ1aのゲート電荷を引き抜く構成とした。これにより、ゲート制御端子電圧Vgが異なる場合でも、パワー半導体スイッチ1aを流れる電流の遮断時間の変動を抑制することが可能になる。
【0027】
<イグニッションシステムの構成>
次に半導体装置1の機能を有するイグニッションシステムについて以降詳しく説明する。
図2はイグニッションシステムの構成の一例を示す図である。イグニッションシステム1-1は、イグナイタ10、点火コイル2、点火プラグ3、ECU4(制御回路)およびバッテリBaを備える。点火コイル2は、1次側コイルL1と、2次側コイルL2とを含む。イグナイタ10は、
図1の半導体装置1の機能を有する。
【0028】
また、イグナイタ10は、ワンチップイグナイタであり、ゲート制御端子(Gate)、コレクタ端子(Collector)およびエミッタ端子(Emitter)を有し、IGBT11、電流制限回路12、プルダウン抵抗回路13、ゲート抵抗Rg、ダイオードDspd、ツェナーダイオードZD1、ZD2、センス抵抗RsおよびNチャネルのMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)であるNMOSトランジスタM1を備える。プルダウン抵抗回路13は、
図1のプルダウン抵抗回路1bの機能を有し、抵抗Rdiv1(第1の分圧抵抗)、抵抗Rdiv2(第2の分圧抵抗)、抵抗Rp1(第1の抵抗)、抵抗Rp2(第2の抵抗)、抵抗Rp3(第3の抵抗)およびNMOSトランジスタMp1を含む。
【0029】
イグナイタ10は、電源端子を有しておらず、ECU4から送信される制御信号が入力するゲート制御端子の入力電圧(ゲート制御端子電圧)にもとづいて、イグナイタ10内の回路が駆動する。
【0030】
各構成素子の接続関係について説明する。点火コイル2の1次側コイルL1の一端および2次側コイルL2の一端は、バッテリBaの正極端子に接続され、バッテリBaの負極端子は1次側GNDに接続される。
【0031】
1次側コイルL1の他端は、イグナイタ10のコレクタ端子に接続され、コレクタ端子は、ツェナーダイオードZD1のカソードおよびIGBT11のコレクタに接続される。2次側コイルL2の他端は、点火プラグ3の一端に接続され、点火プラグ3の他端は、2次側GNDに接続される。
【0032】
ECU4の出力端子は、ゲート制御端子を介して、抵抗Rdiv1の一端、抵抗Rp1の一端、ゲート抵抗Rgの一端、ダイオードDspdのカソードおよび電流制限回路12の電源端子に接続される。
【0033】
抵抗Rdiv1の他端は、NMOSトランジスタMp1のゲート(制御電極)および抵抗Rdiv2の一端に接続される。抵抗Rp1の他端は、抵抗Rp2の一端および抵抗Rp3の一端に接続され、抵抗Rp3の他端は、NMOSトランジスタMp1のドレインに接続される。
【0034】
ゲート抵抗Rgの他端は、ダイオードDspdのアノード、NMOSトランジスタM1のドレイン、ツェナーダイオードZD2のカソードおよびIGBT11のゲートに接続される。ツェナーダイオードZD2のアノードは、ツェナーダイオードZD1のアノードに接続される。
【0035】
IGBT11のエミッタは、エミッタ端子を介して1次側GNDに接続される。また、エミッタ端子は、抵抗Rdiv2の他端、NMOSトランジスタMp1のソース、抵抗Rp2の他端、電流制限回路12の接地端子、NMOSトランジスタM1のソースおよびセンス抵抗Rsの一端に接続される。
【0036】
IGBT11のセンスエミッタは、センス抵抗Rsの他端および電流制限回路12の入力端子に接続され、電流制限回路12の出力端子は、NMOSトランジスタM1のゲートに接続される。
【0037】
ここで、イグナイタ10は、ゲート制御端子にECU4からの制御信号が入力されると、ゲート抵抗Rgを介してIGBTのゲート電圧を上昇させる。このとき、IGBT11がオンして、1次側コイルL1の1次電流が流れ、点火コイル2にエネルギが蓄えられる。制御信号が所定時間印加されると、ECU4は制御信号をオフさせて、IGBT11がオフすることで点火コイル2の1次電流は遮断に向かう。
【0038】
1次側コイルL1を流れる1次電流が遮断すると、IGBT11のコレクタ電圧が上昇する。このとき、1次側コイルL1と2次側コイルL2の巻き数比が例えば、1:100で、1次側のコレクタ電圧の上昇が200Vである場合、2次側コイルL2では20kVの高電圧が発生する。このような動作により、IGBTのオン状態からオフ状態へのスイッチング時に点火プラグ3がスパークして点火する。
【0039】
なお、コレクタ電圧の上昇は、イグナイタ10内部のツェナーダイオードZD1、ZD2によりクランプされるので、上昇レベルはクランプ電圧で止まることになる。例えば、ツェナーダイオードZD1、ZD2の耐圧を400Vとした場合、コレクタ電圧が400Vまで上昇するとツェナーダイオードZD1、ZD2がブレークダウンするので、コレクタ電圧が400Vのクランプ電圧で固定となる。
【0040】
一方、イグナイタ10の電流制限回路12は、IGBT11に流れる電流を制限するための回路である。制御信号にもとづいてIGBT11がオンする場合、IGBT11のセンスエミッタからセンス電流が出力される。このセンス電流が抵抗Rsを流れることで生じる電位がセンス電流の検出信号として電流制限回路12に入力される。
【0041】
電流制限回路12では、センス電流の検出信号と基準電圧との比較を行って、IGBT11が過電流状態であるか否かを検出する。IGBT11が過電流状態であることを検出した場合、電流制限回路12は、NMOSトランジスタM1のゲートに過電流検出信号を出力する。NMOSトランジスタM1は、過電流検出信号を受けるとオンし、IGBT11のゲート電荷を放電させて、IGBT11を流れる電流を制限する。プルダウン抵抗回路13の動作については後述する。
【0042】
<ECUの構成>
図3はECUの構成の一例を示す図である。ECU4は、CPU(Central Processing Unit)41、PNPトランジスタQ1および出力コンデンサC1を備える。CPU41の出力端子は、PNPトランジスタQ1のベースに接続され、PNPトランジスタQ1のコレクタには電源電圧V1が印加される。
【0043】
PNPトランジスタQ1のエミッタは、ECU4の出力端子OUTおよび出力コンデンサC1の一端に接続される。出力コンデンサC1の他端は、1次側GNDに接続される。ECU4の出力端子OUTは、イグナイタ10のゲート制御端子に接続され、出力端子OUTから制御信号が出力される。
【0044】
<プルダウン抵抗回路による引抜き動作>
本発明のイグナイタ10は、
図9に示したプルダウン抵抗Rpullが、プルダウン抵抗回路13に置き換えられた構成を有している。
【0045】
プルダウン抵抗回路13において、抵抗Rp1と抵抗Rp2は直列に接続されている。また、抵抗Rp1、抵抗Rp3およびNMOSトランジスタMp1は直列に接続され、抵抗Rp3およびNMOSトランジスタMp1は、抵抗Rp2に対して並列に接続されている。
【0046】
ここで、ECU4からの制御信号がオンとなると、ゲート制御端子に電圧が印加され、ゲート抵抗Rgを介してIGBT11のゲート電圧が上昇してIGBT11がオンし、点火コイル2に1次電流が流れる。オン動作中のゲート制御端子電圧は、ECU4の電源電圧V1に対して、イグナイタ10の消費電流とPNPトランジスタQ1のオン抵抗で電圧降下した電圧であり、ECU4の動作状態等で変動する。
【0047】
そして、所定時間通電されると、ECU4の制御信号はオフとなり、ゲート制御端子電圧は、出力コンデンサC1の容量値とプルダウン抵抗回路13の総抵抗値の時定数で低下し始める。
【0048】
ゲート制御端子電圧が低下すると、ダイオードDspdとプルダウン抵抗回路13を介して、IGBT11のゲート電圧は放電を開始し、IGBT11のゲート電圧が所定電圧まで低下すると1次電流は低下し始め、点火プラグ3は放電する。なお、ダイオードDspdは、IGBT11のターンオフを早めるためのスピードアップダイオードとしての機能を有する。
【0049】
IGBT11がオンからオフに移行する場合のオフ期間の動作において、
図9に示した従来のイグナイタ110では、プルダウン抵抗Rpullの抵抗値は一定のため、通電中のゲート制御端子電圧が高かった場合、出力コンデンサC1とプルダウン抵抗値で決まる放電時間は長くなり1次電流が遮断するまでの時間は長くなる。
【0050】
一方、プルダウン抵抗回路13では、通電中のゲート制御端子電圧が高いと、NMOSトランジスタMp1が低いオン抵抗にてオンして、IGBT11のゲート電荷は、抵抗Rp1、抵抗Rp2、抵抗Rp3および低オン抵抗のNMOSトランジスタMp1を通じて放電する。また、ゲート制御端子電圧が低くなると、NMOSトランジスタMp1はオン抵抗が高くなるので、IGBT11のゲート電荷は、抵抗Rp1、抵抗Rp2、抵抗Rp3および高オン抵抗のNMOSトランジスタMp1を通じて放電することになる。
【0051】
よって、ゲート制御端子電圧が高い場合は、低抵抗値でIGBT11のゲート電荷が引き抜かれることになり、ゲート制御端子電圧が低い場合は、高抵抗値でIGBT11のゲート電荷が引き抜かれることになる。
【0052】
なお、抵抗Rdiv1、Rdiv2は、ゲート制御端子電圧を分圧した電圧をNMOSトランジスタMp1のゲートに入力するものであり、IGBT11のゲート電荷を引き抜くプルダウン抵抗ではない。このため、抵抗Rdiv1、Rdiv2でゲート電荷を引き抜く量を無視できるように、抵抗Rdiv1、Rdiv2の合成抵抗値は、抵抗Rp1と抵抗Rp2の合成抵抗値よりも十分に大きくなるように設定される。例えば、抵抗Rdiv1、Rdiv2の合成抵抗値は、抵抗Rp1と抵抗Rp2の合成抵抗値の10倍以上に設定される。
【0053】
<遮断時間の比較>
次に
図4、
図5を用いて従来回路と本発明との遮断時間の比較について説明する。
図4、
図5は遮断時間の一例を示す図である。
図4は従来のイグナイタ110の遮断時間の一例を示しており、
図5は本発明のイグナイタ10の遮断時間の一例を示している。
【0054】
波形W1、W11は制御信号を示し、縦軸は電圧、横軸は時間である。波形W2、W12はゲート制御端子電圧を示し、縦軸は電圧、横軸は時間である。波形W3、W13は1次電流を示し、縦軸は電流、横軸は時間である。
【0055】
なお、波形W2、W12、W3、W13に対して、点線波形は高ECU電圧(例えば、ECU4の電源電圧V1が5V)の場合を示し、実線波形は低ECU電圧(例えば、ECU4の電源電圧V1が3.5V)の場合を示している。
【0056】
制御信号がHレベルからLレベルになって、IGBT11がオンからオフへ指示された場合、ゲート制御端子電圧が下降し始める。ゲート制御端子電圧が所定レベルまで下降すると、IGBT11がオンのときに流れていた1次電流も下降していく。
【0057】
ここで、従来のイグナイタ110の低ECU電圧における1次電流の遮断時間t1と、高ECU電圧における1次電流の遮断時間t2との時間差は時間td1である。また、本発明のイグナイタ10の低ECU電圧における1次電流の遮断時間t11と、高ECU電圧における1次電流の遮断時間t12との時間差は時間td2であり、td2<td1になっている。
【0058】
このように、本発明では、ゲート制御端子電圧が高いと、プルダウン抵抗回路13の総抵抗値は低くなりゲート制御端子電圧の低下時の時定数を短くすることができる。このため、イグナイタ10のゲート制御端子電圧が異なる場合でも、1次電流の遮断時間の変動を抑えて、点火タイミングのずれを抑制することができる。
【0059】
図6は遮断時間のゲート制御端子電圧依存性の一例を示す図である。縦軸は遮断時間、横軸はゲート制御端子電圧である。グラフf1は、従来のイグナイタ110の遮断時間のゲート制御端子電圧依存性を示し、グラフf2は、本発明のイグナイタ10の遮断時間のゲート制御端子電圧依存性を示している。
【0060】
イグナイタ10では、ゲート制御端子電圧が高い場合の遮断時間をイグナイタ110より短くすることができるので、
図6に示すようにゲート制御端子電圧が低い場合の遮断時間に近づけることができる。
【0061】
<プルダウン抵抗値と遮断時間との関係>
次に
図7、
図8を用いて、プルダウン抵抗値と遮断時間との関係性について説明する。
図7、
図8はプルダウン抵抗値と遮断時間との関係の一例を示す図である。
図7は従来のイグナイタ110のプルダウン抵抗値と遮断時間との関係の一例を示しており、
図8は本発明のイグナイタ10のプルダウン抵抗値と遮断時間との関係の一例を示している。
【0062】
波形Wa1、Wb1は制御信号を示し、縦軸は電圧、横軸は時間である。波形Wa2、Wb2はゲート制御端子電圧を示し、縦軸は電圧、横軸は時間である。波形Wa3、Wb3はプルダウン抵抗値を示し、縦軸は抵抗値、横軸は時間である。波形Wa4、Wb4は1次電流を示し、縦軸は電流、横軸は時間である。
【0063】
なお、点線波形は高ECU電圧(例えば、ECU4の電源電圧V1が5V)の場合を示し、実線波形は低ECU電圧(例えば、ECU4の電源電圧V1が3.5V)の場合を示している。
【0064】
波形Wa3において、従来のイグナイタ110では、ゲート制御端子電圧によらずプルダウン抵抗Rpullの抵抗値は固定であり、低ECU電圧における1次電流の遮断時間と、高ECU電圧における1次電流の遮断時間との時間差は時間td11である。
【0065】
一方、波形Wb3において、本発明のイグナイタ10では、ゲート制御端子電圧が高ECU電圧の場合はプルダウン抵抗回路13の抵抗値は低抵抗値となり、ゲート制御端子電圧が低ECU電圧の場合はプルダウン抵抗回路13の抵抗値は高抵抗値となる。このため、
図8では、低ECU電圧における1次電流の遮断時間と、高ECU電圧における1次電流の遮断時間との時間差はほぼゼロになっており、ゲート制御端子電圧が異なる場合でも点火タイミングを揃えることができている。
【0066】
このように、本発明のイグニッションシステム1-1では、イグナイタ10がIGBT11を制御信号によってオンからオフさせる際に、ゲート制御端子電圧の電圧値が高いほど、低いプルダウン抵抗値にもとづいて、IGBT11のゲート電荷を引き抜く構成とした。これにより、ゲート制御端子電圧が異なる場合でも、IGBT11を流れる1次電流の遮断時間の変動を抑えて、点火タイミングのずれを抑制することが可能になる。
【0067】
以上、実施の形態を例示したが、実施の形態で示した各部の構成は同様の機能を有する他のものに置換することができる。また、他の任意の構成物や工程が付加されてもよい。さらに、前述した実施の形態のうちの任意の2以上の構成(特徴)を組み合わせたものであってもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 半導体装置
1a パワー半導体スイッチ
1b プルダウン抵抗回路
ga ゲート制御端子
Vg ゲート制御端子電圧