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特開2024-76188インクジェット記録用インク組成物および画像形成装置
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  • 特開-インクジェット記録用インク組成物および画像形成装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076188
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】インクジェット記録用インク組成物および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20240529BHJP
   C09D 11/326 20140101ALI20240529BHJP
   C09C 3/10 20060101ALI20240529BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240529BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
C09D11/30
C09D11/326
C09C3/10
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187627
(22)【出願日】2022-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003562
【氏名又は名称】東芝テック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000111890
【氏名又は名称】パイロットインキ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】日吉 唯
(72)【発明者】
【氏名】三好 麻衣子
(72)【発明者】
【氏名】深沢 大志
(72)【発明者】
【氏名】三田 真之
(72)【発明者】
【氏名】海田 菜緒
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J037
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056EA14
2C056EA20
2C056FA13
2C056FC02
2C056HA29
2C056HA46
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB18
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB53
4J037CC23
4J037CC25
4J037CC26
4J037CC29
4J037DD24
4J037EE06
4J037FF13
4J037FF23
4J039AB02
4J039BC07
4J039BD01
4J039BE08
4J039BE22
4J039BE23
4J039CA03
4J039CA06
4J039CA11
4J039EA32
4J039EA41
4J039EA44
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】 未使用の状態が長期間続いた後であっても、優れた吐出性を実現し得るインクジェット記録用インク組成物を提供すること。
【解決手段】 実施形態のインクジェット記録用インク組成物は、水と、色材を樹脂被覆により内包したマイクロカプセル色材と、分散剤としてのポリエーテルリン酸エステルと、400~1000nmの平均繊維長を有するセルロースナノファイバーとを含み、前記セルロースナノファイバーが、前記マイクロカプセル色材100質量部に対して1.5~12質量部の量で含まれる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、
色材を樹脂被覆により内包したマイクロカプセル色材と、
分散剤としてのポリエーテルリン酸エステルと、
400~1000nmの平均繊維長を有するセルロースナノファイバーと
を含み、
前記セルロースナノファイバーが、前記マイクロカプセル色材100質量部に対して1.5~12質量部の量で含まれるインクジェット記録用インク組成物。
【請求項2】
前記マイクロカプセル色材が、熱変色性を示す請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記ポリエーテルリン酸エステルが、前記マイクロカプセル色材100質量部に対して1~30質量部の量で含まれる請求項1に記載のインク組成物。
【請求項4】
前記マイクロカプセル色材が、300~5000nmの平均粒子径を有する請求項1に記載のインク組成物。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載のインク組成物を収容した容器と、
前記容器から前記インク組成物を供給され、前記インク組成物を記録媒体へ向けて吐出するインクジェットヘッドと
を備えた画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、インクジェット記録用インク組成物および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット式画像形成装置は、インクジェットヘッドのノズルからインクを吐出し、記録媒体に付着させて印刷を行う。インクジェット式画像形成装置は、未使用の状態が長期間続くと、インクジェットヘッドのノズルにインクが目詰まりすることが知られている。
【0003】
一方、インクジェット記録用インクとして、可逆的に熱変色性を示す顔料を含む熱変色性インクが知られている。かかる熱変色性顔料として、電子供与性呈色性有機化合物と、電子受容性化合物と、電子供与性呈色性有機化合物および電子受容性化合物による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生じさせる反応媒体とからなる可逆熱変色性組成物を含むものが知られている。かかる熱変色性顔料は、可逆熱変色性組成物が樹脂被覆により内包されたマイクロカプセルの形態を有することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-63320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、インクジェット式画像形成装置で未使用の状態が長期間続いた後であっても、優れた吐出性を実現することができるインクジェット記録用インク組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1実施形態によれば、
水と、
色材を樹脂被覆により内包したマイクロカプセル色材と、
分散剤としてのポリエーテルリン酸エステルと、
400~1000nmの平均繊維長を有するセルロースナノファイバーと
を含み、
前記セルロースナノファイバーが、前記マイクロカプセル色材100質量部に対して1.5~12質量部の量で含まれるインクジェット記録用インク組成物が提供される。
【0007】
第2実施形態によれば、
第1実施形態に係るインク組成物を収容した容器と、
前記容器から前記インク組成物を供給され、前記インク組成物を記録媒体へ向けて吐出するインクジェットヘッドと
を備えた画像形成装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る画像形成装置の一例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
インクジェット式画像形成装置は、未使用の状態が長期間続くと、インクの吐出性が低下する。とりわけ、マイクロカプセル顔料を含むインクは、インクジェット式画像形成装置において未使用の状態が長期間続くと、目詰まりが起こり易いという問題に本発明者らは着目した。本発明者らは、マイクロカプセル顔料を含むインクに、特定種類の分散剤および所定の繊維長のセルロースナノファイバーを組み合わせて配合することにより上記問題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
1.インクジェット記録用インク組成物
実施形態に係るインクジェット記録用インク組成物は、
水と、
色材を樹脂被覆により内包したマイクロカプセル色材と、
分散剤としてのポリエーテルリン酸エステルと、
400~1000nmの平均繊維長を有するセルロースナノファイバーと
を含み、
前記セルロースナノファイバーが、前記マイクロカプセル色材100質量部に対して1.5~12質量部の量で含まれる。
【0011】
以下に、インクジェット記録用インク組成物の各成分について説明する。以下の説明で、インクジェット記録用インク組成物は、「インク組成物」または「インク」ともいう。
【0012】
<水>
「水」としては、イオン交換水や純水を使用することができる。水は、インク全量に対し、例えば40~90質量%、好ましくは50~80質量%の量で配合することができる。
【0013】
<マイクロカプセル色材>
マイクロカプセル色材は、色材が樹脂被覆により内包されているマイクロカプセルである。マイクロカプセル色材は、好ましくは、熱変色性を示す。マイクロカプセル色材として、好ましくは、熱変色性を示す公知のマイクロカプセル顔料を使用することができる。マイクロカプセル顔料は、変色後に再度元の色を発色させることができない不可逆タイプであってもよいし、変色と再発色を繰り返すことができる可逆タイプであってもよい。例えば、マイクロカプセル顔料として、熱消色性を示す公知のマイクロカプセル顔料を使用することができる。この場合、マイクロカプセル顔料は、消色後に再度発色させることができない不可逆タイプであってもよいし、消色と発色を繰り返すことができる可逆タイプであってもよい。
【0014】
一例によれば、熱消色性を示すマイクロカプセル顔料は、内包物として、(a)呈色性化合物と、(b)顕色剤と、(c)消色剤とを含む熱変色性組成物が用いられる。(a)呈色性化合物は、色を決める成分であり、顕色剤に電子を供与し、発色する化合物とすることができる。代表的な呈色性化合物としてロイコ染料が挙げられる。(b)顕色剤は、呈色性化合物から電子を受け取り、呈色性化合物の顕色剤として機能する化合物とすることができる。(c)消色剤(変色温度調整剤)は、呈色性化合物および顕色剤による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生じさせる化合物とすることができる。かかる(a)~(c)の成分を含むマイクロカプセル顔料は、可逆タイプであり、公知である。
【0015】
したがって、(a)~(c)の成分は、それぞれ、公知の成分を使用することができる。また、(a)~(c)の成分の配合割合は、適宜決定することができる。
【0016】
更に、マイクロカプセル顔料には、その機能に影響を及ぼさない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、溶解助剤、防腐・防黴剤等の各種添加剤を添加することができる。
【0017】
マイクロカプセル顔料は、化学的、物理的に安定であり、これにより、種々の使用条件において、同一の組成に保たれ、同一の作用効果を奏することができる点で優れている。
【0018】
マイクロカプセル化は、公知の方法により行うことができる。カプセルの壁膜の材質としては、エポキシ樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂、イソシアネート樹脂等が挙げられる。更にマイクロカプセルの表面には、目的に応じて二次的な樹脂皮膜を設けて耐久性を付与したり、表面特性を改質したりすることもできる。
【0019】
マイクロカプセル顔料は、内包物/壁膜=7/1~1/1(質量比)の範囲であることが好ましい。壁膜の比率が範囲内にあることにより、発色時の色濃度の低下および鮮明性の低下を防止することができる。マイクロカプセル顔料は、より好適には、内包物/壁膜=6/1~1/1(質量比)の範囲内である。
【0020】
マイクロカプセル顔料は、例えば300~5000nm、好ましくは300~4000nm、より好ましくは500~3000nmの平均粒子径を有する。粒子径が小さくなると、発色性が低下する傾向がある。粒子径が大きくなると、インク中の分散性やインクジェット吐出性が悪くなる傾向がある。
【0021】
本明細書において、マイクロカプセル顔料の平均粒子径としては、等体積球相当の粒子の平均粒子径(メジアン径)を用いる。その最適測定としては直接的測定法にてキャリブレーションを行ったレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置である島津製作所製のレーザー回折式粒度分布測定装置SALD7000を用いて測定できる。
【0022】
上記直接的測定法としては、キャリブレーションは、顕微鏡で撮影した画像から個々の粒子の面積(2次元)を計測して相当径を測定する、画像解析法、コールターカウンターを用いて検出器の微小な穴(アパチャー)に定電流を流し、その穴を粒子が通過する際に生じるインピーダンスの変化から相当径を測定する、コールター法(電気的検知帯法)などが挙げられ、レーザー測定法のキャリブレーションはこれらによって得られた値を元に行なう。
【0023】
画像解析法による平均粒子径の測定は、例えば、マウンテック社製の画像解析式粒度分布測定ソフトウェア「マックビュー」を用いて粒子の領域を判定し、粒子の領域の面積から投影面積円相当径(Heywood径)を算出し、その値による等体積球相当の粒子の平均粒子径として測定することができる。
【0024】
コールター法による平均粒子径の測定は、全ての粒子、あるいは、大部分の粒子の粒子径が0.2μmを超える場合に適用可能であり、例えば、ベックマン・コールター社製の粒度分布測定装置「Multisizer 4e」を用いて測定することができる。
【0025】
マイクロカプセル色材は、インク全量に対し、例えば3~30質量%、好ましくは3~20質量%、更に好ましくは5~15質量%の量で配合することができる。
【0026】
<分散剤としてのポリエーテルリン酸エステル>
分散剤としてのポリエーテルリン酸エステルは、ポリエーテルのリン酸エステルであり、1分子中に複数のリン酸エステル基を有する化合物である。
【0027】
ポリエーテルリン酸エステルは、インク中で分散剤として機能するが、その仕組みは以下のように考えられる。ポリエーテルリン酸エステルのリン酸エステル基は、マイクロカプセル顔料などの他の物質への吸着官能基として作用する。具体的には、1分子中に複数のリン酸エステル基を有することにより、複数個所で他の化合物に吸着してインク組成物全体に及ぶネットワークを形成する。マイクロカプセル顔料などの吸着対象物質に対して量が少ない場合は、顔料同士を繋ぐことで粘性を発現する。一方で、吸着対象物質に対して量が多い場合は、立体障害による安定化(分散剤)や、粘性発現の遅延(レベリング剤)といった機能を発現する。
【0028】
ポリエーテルリン酸エステルとしては、当該技術分野で分散剤として使用できることが知られているポリエーテルリン酸エステルを使用することができる。ポリエーテルリン酸エステルは、市販品を使用することもでき、例えば、ディスパロン3500(楠本化成社製)、ディスパロンDA-375(楠本化成社製)、ディスパロンDA-325(楠本化成社製)、ディスパロンAQ-320(楠本化成社製)、ディスパロンAQ-330(楠本化成社製)、HIPLAAD_ED-152(楠本化成社製)、HIPLAAD_ED-153(楠本化成社製)、HIPLAAD_ED-154(楠本化成社製)、HIPLAAD_ED-118(楠本化成社製)、HIPLAAD_ED-174(楠本化成社製)、HIPLAAD_ED-251(楠本化成社製)、プライサーフA215C(第一工業製薬社製)、ネオスコアCM57(東邦化学工業社製)、アデカコールTS(ADEKA社製)、アデカコールCS(ADEKA社製)、DISPERBYK-180(ビックケミー社製)、フォスファノールRA-600(東邦化学工業社製)、フォスファノールML-240(東邦化学工業社製)、フォスファノールRS-610(東邦化学工業社製)、フォスファノールRS-710(東邦化学工業社製)などが挙げられる。
【0029】
ポリエーテルリン酸エステルは、分散剤として優れていることに加えて、マイクロカプセル色材への浸透が起こりにくく、マイクロカプセル内に侵入して内包物の溶解や析出を引き起こし難い点でも優れている。
【0030】
ポリエーテルリン酸エステルは、マイクロカプセル色材100質量部に対して、例えば1~30質量部、好ましくは2~26質量部、更に好ましくは3~25質量部の量で、インクに配合することができる。
【0031】
<セルロースナノファイバー>
セルロースナノファイバーは、木材繊維(パルプ)などの植物繊維をナノレベルに解きほぐす(解繊する)ことで得られる材料である。セルロースナノファイバーは、400~1000nmの平均繊維長を有する。セルロースナノファイバーは、好ましくは500~900nm、より好ましくは600~800nmの平均繊維長を有する。
【0032】
セルロースナノファイバーの平均繊維長は、数平均繊維長を指す。数平均繊維長は、以下のとおり求めることができる。マイカ切片上に固定したセルロースナノファイバーの原子間力顕微鏡像(3000nm×3000nm)から、繊維長を測定し、150本以上の繊維(例えば150本の繊維)の測定結果より数平均繊維長を算出する。繊維長の測定は、画像解析ソフトWinROOF(三谷商事社製)を用い、長さ100nm~2000nmの範囲で行う。
【0033】
セルロースナノファイバーの平均繊維長が長すぎると、インクジェット式画像形成装置でインクを吐出する際にノズルで詰まり易くなったり、粘度が高くなって吐出し難くなったりすると考えられる。セルロースナノファイバーの平均繊維長が短すぎると、マイクロカプセル色材に絡み難くなると考えられる。
【0034】
400~1000nmの平均繊維長を有するセルロースナノファイバーは、以下の点で優れている。高い透明度を有し、色材の発色を阻害しない。また、インク中で高い分散性を有し、インクジェットヘッドのノズルからのインクの吐出を阻害しない。また、インクジェットヘッドのノズルやインクジェットヘッド内の細い通路で詰まらない。また、インクジェット式画像形成装置で吐出可能なレベルの粘度に抑えられる。
【0035】
セルロースナノファイバーは、例えば1~10nm、好ましくは2~5nmの平均繊維径を有する。平均繊維径は、数平均繊維径を指す。数平均繊維径は、数平均繊維長の測定と同様の方法で測定することができる。また、セルロースナノファイバーは、例えば100~400、好ましくは110~350のアスペクト比(すなわち、平均繊維径に対する平均繊維長の比)を有する。このように、セルロースナノファイバーは、繊維が比較的細く、アスペクト比が比較的大きいと、吐出性に関するセルロースナノファイバーの上記効果を更に高めることができる。
【0036】
セルロースナノファイバーとしては、400~1000nmの平均繊維長を有するものであれば特に限定されないが、例えば、TEMPO酸化セルロースナノファイバーやリン酸エステル化セルロースナノファイバーを使用することができる。TEMPO酸化セルロースナノファイバーは、木材繊維にTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル)触媒を作用させてセルロースの1級水酸基をカルボキシル基に変換し、その後、機械的に解繊することで得られる。TEMPO酸化セルロースナノファイバーは、日本製紙から入手可能である。
【0037】
セルロースナノファイバーを、分散剤としてのポリエーテルリン酸エステルと組み合わせてインクに配合した場合のみ、かかるインクは、インクジェット式画像形成装置で未使用の状態が長期間続いた後であっても、優れた吐出性を発揮することができる。これは、以下の理由によると考えられる。セルロースナノファイバーを分散剤としてのポリエーテルリン酸エステルと組み合わせて使用すると、ポリエーテルリン酸エステルがマイクロカプセル色材と絡みあった状態で、セルロースナノファイバー間のネットワークとも相互に絡み合い、マイクロカプセル色材が安定保持されるためと推察される。これにより、インクジェット式画像形成装置の未使用時にノズル先端のインクが乾燥した際に、セルロースナノファイバーが分散剤とともにノズル先端のインクを膜状化し、ノズル内部のインクの乾燥を防止する。
【0038】
セルロースナノファイバーは、マイクロカプセル色材100質量部に対して、例えば1.5~12質量部、好ましくは2~11質量部、更に好ましくは2~10質量部の量で、インクに配合することができる。
【0039】
<追加成分>
インクは、上記成分に加えて、添加剤をさらに含んでいてもよい。例えば、分散剤、安定化剤、調粘剤、防腐剤、保湿剤、濡れ剤、消泡剤等の汎用的な助剤をさらに含んでいてもよい。
【0040】
<効果>
実施形態に係るインク組成物は、400~1000nmの平均繊維長を有するセルロースナノファイバーを、分散剤としてのポリエーテルリン酸エステルと組み合わせて含む。これにより、実施形態に係るインク組成物は、インクジェット式画像形成装置で未使用の状態が長期間続いた後であっても、優れた吐出性を実現することができる。
【0041】
2.画像形成装置
上述したインク組成物は、インクジェット式画像形成装置に使用することができる。すなわち、インクジェット式画像形成装置は、
「1.インクジェット記録用インク組成物」の欄で説明したインク組成物を収容した容器と、
前記容器から前記インク組成物を供給され、前記インク組成物を記録媒体へ向けて吐出するインクジェットヘッドと
を備えている。
【0042】
以下、インクジェット式画像形成装置の一例を、図1を参照しながら説明する。
図1に示す画像形成装置は、排紙トレイ118が設けられた筐体を含んでいる。筐体内には、カセット100および101、供紙ローラ102および103、搬送ローラ対104および105、レジストローラ対106、搬送ベルト107、ファン110、負圧チャンバ111、搬送ローラ対112、113および114、インクジェットヘッド115C、115M、115Yおよび115Bk、インクカートリッジ116C、116M、116Yおよび116Bk、並びに、チューブ117C、117M、117Yおよび117Bkが設置されている。
【0043】
カセット100および101は、サイズの異なる記録媒体Pを収容している。供紙ローラ102または103は、選択された記録媒体のサイズに対応した記録媒体Pをカセット100または101から取り出し、搬送ローラ対104および105並びにレジストローラ対106へ搬送する。
【0044】
搬送ベルト107は、駆動ローラ108と2本の従動ローラ109とによって張力が与えられている。搬送ベルト107の表面には所定間隔で穴が設けられている。搬送ベルト107の内側には記録媒体Pを搬送ベルト107に吸着させるため、ファン110に連結された負圧チャンバ111が設置されている。搬送ベルト107の搬送方向下流には、搬送ローラ対112、113および114が設置されている。なお、搬送ベルト107から排紙トレイ118までの搬送経路には、記録媒体P上に形成された印刷層を加熱するヒータを設置することができる。
【0045】
搬送ベルト107の上方には、画像データに応じてインクを記録媒体Pに吐出するインクジェットヘッドが4列配列されている。上流から、シアン(C)インクを吐出するインクジェットヘッド115C、マゼンタ(M)インクを吐出するインクジェットヘッド115M、イエロー(Y)インクを吐出するインクジェットヘッド115Y、およびブラック(Bk)インクを吐出するインクジェットヘッド115Bkの順である。
【0046】
インクジェットヘッド115C、115M、115Yおよび115Bkには、対応したインクが収容されているシアン(C)インクカートリッジ116C、マゼンタ(M)インクカートリッジ116M、イエロー(Y)インクカートリッジ116Y、およびブラック(Bk)インクカートリッジ116Bkが設けられている。これらカートリッジ116C、116M、116Yおよび116Bkは、それぞれ、チューブ117C、117M、117Yおよび117Bkによって、インクジェットヘッド115C、115M、115Yおよび115Bkに連結されている。
【0047】
インクカートリッジ116C、116M、116Yおよび116Bkの少なくとも1つが収容しているインク組成物は、実施形態に係るインク組成物である。ここでは、一例として、インクカートリッジ116C、116M、116Yおよび116Bkが収容しているインク組成物は、何れも実施形態に係るインク組成物であるとする。
【0048】
次に、この画像形成装置の画像形成動作について説明する。
先ず、画像処理手段(図示しない)が、記録のための画像処理を開始し、画像データに対応した画像信号を生成するとともに、各種ローラや負圧チャンバ111などの動作を制御する制御信号を生成する。
【0049】
供紙ローラ102または103は、画像処理手段による制御のもと、カセット100または101から、選択されたサイズの記録媒体Pを1枚ずつ取り出し、搬送ローラ対104および105並びにレジストローラ対106へ搬送する。レジストローラ対106は、記録媒体Pのスキューを補正し、所定のタイミングで記録媒体Pを搬送する。
【0050】
負圧チャンバ111は、搬送ベルト107の穴を介して空気を吸い込んでいる。従って、記録媒体Pは、搬送ベルト107に吸着された状態で、搬送ベルト107の移動に伴い、インクジェットヘッド115C、115M、115Yおよび115Bkの下方の位置へと順次搬送される。
【0051】
インクジェットヘッド115C、115M、115Yおよび115Bkは、画像処理手段による制御のもと、記録媒体Pが搬送されるタイミングに同期してインクを吐出する。これにより、記録媒体Pの所望の位置に、カラー画像が形成される。
【0052】
その後、搬送ローラ対112、113および114は、画像が形成された記録媒体Pを排紙トレイ118へ排紙する。搬送ベルト107から排紙トレイ118までの搬送経路にヒータを設置した場合、記録媒体P上に形成された印刷層をヒータによって加熱してもよい。ヒータによる加熱を行うと、特に、記録媒体Pが非浸透性である場合に、記録媒体Pに対する印刷層の密着性を高めることができる。
【0053】
上記の通り、この画像形成装置では、インクカートリッジ116C、116M、116Yおよび116Bkが収容しているインク組成物は、何れも実施形態に係るインク組成物である。それ故、この画像形成装置は、未使用の状態が長期間続いた後であっても、インクジェットヘッドのノズルにインクが目詰まりし難く、優れた吐出性を発揮することができる。従って、この画像形成装置は、印刷後に長期間使用しなかった場合であっても、インクの目詰まりを解消するためのヘッドクリーニング等のメンテナンス動作をすることなく、最初からインクの吐出動作をすることが可能となる。この画像形成装置は、インクの目詰まりを解消するためのメンテナンスの負担が少ないという利点を有する。
【実施例0054】
[1]セルロースナノファイバー(CNF)の製造
[CNF製造例1]
針葉樹由来の漂白済み未叩解パルプ5gにTEMPO触媒(Sigma Aldrich社製)0.5mmolと臭化ナトリウム7.35mmolを添加し、イオン交換水を加えて500mLにメスアップし、均一に分散するまで攪拌した。その後2.3mmolの次亜塩素酸ナトリウムを添加し、酸化反応を開始した。反応中は0.5N水酸化ナトリム水溶液でpH10.0から10.5に系内のpHを保持した。この反応液を塩酸にて中性になるまで中和した後、反応後の液をガラスフィルターで濾過し、十分に水洗することで酸化処理したパルプを得た。
【0055】
上記パルプをイオン交換水中に分散させて、濃度3%(w/v)に調整した酸化パルプのスラリーを作製した。スタートラボ RMH型(アイメックス株式会社製)で叩解処理(予備解繊処理)を施した。
上記予備解繊処理を施したパルプスラリーを濃度1%(w/v)に希釈後、超高圧湿式微粒化装置ナノヴェイタ(吉田機械興業株式会社)による解繊処理を処理圧150MPaでおこなった。これにより、セルロースナノファイバー分散液を得た。
【0056】
また、得られたセルロースナノファイバー分散液を超音波装置にて脱泡した後、得られたセルロース分散液を原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察したところ数平均繊維長は800nmであった。
このセルロースナノファイバーを「タイプIII」と命名する。
【0057】
[CNF製造例2]
超高圧湿式微粒化装置ナノヴェイタの処理圧を100MPaに変更したこと以外、CNF製造例1と同様の手法に従ってセルロースナノファイバー分散液を製造した。
得られたセルロースナノファイバー分散液を超音波装置にて脱泡した後、得られたセルロース分散液を原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察したところ数平均繊維長は1100nmであった。
このセルロースナノファイバーを「タイプIV」と命名する。
【0058】
[2]熱消色性インクの作製
<例1A:熱消色性インク1A>
色材として、熱消色性組成物(可逆熱変色性組成物)を樹脂被覆により内包したマイクロカプセル顔料(平均粒子径:600nm)を使用した。色材3質量部、グリセリン28質量部、分散剤としてポリエーテルリン酸エステル(東邦化学工業社製のフォスファノールRS-710)を0.09質量部、吐出安定剤として日信化学工業社製のサーフィノール(登録商標)465を1質量部、防腐剤としてアークサーダジャパン社製のプロキセル(登録商標)XL-2を0.2質量部、純水67.61質量部とを混合し、スターラーを用いて攪拌した。その後、セルロースナノファイバーを0.1質量部添加し、ホモジナイザーを用いて攪拌し、その後濾過した。これにより、熱消色性インク1Aを得た。
【0059】
使用したセルロースナノファイバーは、TEMPO酸化セルロースナノファイバー(日本製紙社製)であり、数平均繊維長600nm、数平均繊維径3~4nm、アスペクト比150~200であった。以下、このセルロースナノファイバーを「タイプI」と呼ぶ。
【0060】
<例1B~1E:熱消色性インク1B~1E>
下記の表に記載したとおり分散剤の添加量を変更したこと以外は、熱消色性インク1Aと同様の方法で熱消色性インク1B~1Eを作製した。なお、純水は、インクの全量が100質量部となるように添加した。これ以降の熱消色性インクの作製においても同様に、純水は、インクの全量が100質量部となるように添加した。
【0061】
<例2A~2D:熱消色性インク2A~2D>
下記の表に記載したとおりセルロースナノファイバーの添加量を変更したこと以外は、熱消色性インク1Aと同様の方法で熱消色性インク2A~2Dを作製した。
【0062】
<例3A~3G:熱消色性インク3A~3G>
下記の表に記載したとおりセルロースナノファイバーの添加量を変更したこと以外は、熱消色性インク1Aと同様の方法で熱消色性インク3A~3Gを作製した。
【0063】
<例4A:熱消色性インク4A>
セルロースナノファイバーの種類をタイプIから上記のタイプIII(数平均繊維長:800nm)に変更したこと以外は、熱消色性インク1Aと同様の方法で熱消色性インク4Aを作製した。
<例4B~4E:熱消色性インク4B~4E>
下記の表に記載したとおり分散剤の添加量を変更したこと以外は、熱消色性インク4Aと同様の方法で熱消色性インク4B~4Eを作製した。
【0064】
<例5A~5D:熱消色性インク5A~5D>
下記の表に記載したとおりセルロースナノファイバーの添加量を変更したこと以外は、熱消色性インク4Aと同様の方法で熱消色性インク5A~5Dを作製した。
【0065】
<例6A~6E:熱消色性インク6A~6E>
下記の表に記載したとおり、分散剤を添加しなかったことと、セルロースナノファイバーの添加量を変更したこと以外は、熱消色性インク1Aと同様の方法で熱消色性インク6A~6Eを作製した。
【0066】
<例7A~7F:熱消色性インク7A~7F>
下記の表に記載したとおり、セルロースナノファイバーの種類と添加量を変更したこと以外は、熱消色性インク1Aと同様の方法で熱消色性インク7A~7Fを作製した。使用したセルロースナノファイバーは、TEMPO酸化セルロースナノファイバー(日本製紙社製)であり、数平均繊維長300nm、数平均繊維径3~4nm、アスペクト比75~100であった。以下、このセルロースナノファイバーを「タイプII」と呼ぶ。
【0067】
<例8A~8F:熱消色性インク8A~8F>
下記の表に記載したとおり分散剤を添加しなかったこと以外は、熱消色性インク7A~7Fと同様の方法で熱消色性インク8A~8Fを作製した。
【0068】
<例9A~9C:熱消色性インク9A~9C>
下記の表に記載したとおりセルロースナノファイバーの添加量を変更したこと以外は、熱消色性インク1Aと同様の方法で熱消色性インク9A~9Cを作製した。
【0069】
<例10A~10D:熱消色性インク10A~10D>
下記の表に記載したとおり、セルロースナノファイバーの種類をタイプIからタイプIIに変更したことと、分散剤の添加量を変更したこと以外は、熱消色性インク1Aと同様の方法で熱消色性インク10A~10Dを作製した。
【0070】
<例11A~11C:熱消色性インク11A~11C>
下記の表に記載したとおり、セルロースナノファイバーの種類をタイプIからタイプIIに変更したことと、セルロースナノファイバーの添加量を変更したこと以外は、熱消色性インク1Aと同様の方法で熱消色性インク11A~11Cを作製した。
【0071】
<例12A:熱消色性インク12A>
下記の表に記載したとおり、セルロースナノファイバーの種類をタイプIからタイプIIIに変更したことと、分散剤を添加しなかったこと以外は、熱消色性インク1Aと同様の方法で熱消色性インク12Aを作製した。
【0072】
<例13A~13C:熱消色性インク13A~13C>
下記の表に記載したとおり、セルロースナノファイバーの種類をタイプIからタイプIIIに変更したことと、セルロースナノファイバーの添加量を変更したこと以外は、熱消色性インク1Aと同様の方法で熱消色性インク13A~13Cを作製した。
【0073】
<例14A~14B:熱消色性インク14A~14B>
分散剤としてポリビニルピロリドンを使用し、下記の表に記載した組成で、同様の方法により熱消色性インク14A~14Bを作製した。
【0074】
<例15A~15F:熱消色性インク15A~15F>
下記の表に記載したとおり、セルロースナノファイバーの種類をタイプIから上記のタイプIV(数平均繊維長:1100nm)に変更したことと、セルロースナノファイバーの添加量を変更したこと以外は、熱消色性インク1Aと同様の方法で熱消色性インク15A~15Fを作製した。
【0075】
<例16A~16F:熱消色性インク16A~16F>
下記の表に記載したとおり分散剤を添加しなかったこと以外は、熱消色性インク15A~15Fと同様の方法で熱消色性インク16A~16Fを作製した。
【0076】
<例17A~17D:熱消色性インク17A~17D>
下記の表に記載したとおり、セルロースナノファイバーの種類をタイプIからタイプIVに変更したことと、分散剤の添加量を変更したこと以外は、熱消色性インク1Aと同様の方法で熱消色性インク17A~17Dを作製した。
【0077】
<例18A~18C:熱消色性インク18A~18C>
下記の表に記載したとおり、セルロースナノファイバーの種類をタイプIからタイプIVに変更したことと、セルロースナノファイバーの添加量を変更したこと以外は、熱消色性インク1Aと同様の方法で熱消色性インク18A~18Cを作製した。
【0078】
[3]評価方法
<分散性の評価>
作製したインクは、色材の凝集やインクのゲル化が起こっていないかを目視で確認した。色材の凝集やインクのゲル化が確認されなかったインク50gをろ過した。
分散性を以下の評価基準により評価した。
A:インク50g全量をろ過することができた
B:インク50g全量をろ過することができなかった
C:色材の凝集またはインクのゲル化が確認された。
【0079】
<24時間後の吐出性の評価>
作製したインクは、ろ過してから、インクジェット式画像形成装置で吐出実験を行った。具体的には、ノズルにリフレッシュ操作(すなわち、インクカートリッジからインクジェットヘッドまでのチューブ内のインクを全て強制的に吐出させる操作)をした後、この装置を室温(約25℃)で24時間放置した。24時間後にインクを吐出させ、吐出性を以下の評価基準により評価した。
A:全ノズルで吐出できた
B:全ノズルの半分以上で吐出できた(ただし、一部のノズルで吐出できなかった)
C:全ノズルの半分未満で吐出できた
D:全ノズルで吐出できなかった
-:分散性の評価結果が良くなかったため吐出性の評価を実施することができなかった。
【0080】
[4]結果
インクの組成および評価結果を以下の表に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
【表4】
【0085】
【表5】
【0086】
【表6】
【0087】
【表7】
【0088】
【表8】
【0089】
【表9】
【0090】
【表10】
【0091】
【表11】
【0092】
表中の数値は、インク中の各成分の質量パーセントを表す。
上記表では、セルロースナノファイバーを「CNF」と表記する。また、上記表では、分散剤の種類について、ポリエーテルリン酸エステルを「P」と表記し、ポリビニルピロリドンを「PVP」と表記する。
【0093】
<例1A~1E:熱消色性インク1A~1E>
熱消色性インク1A~1Eは、分散性、および24時間後の吐出性のすべての評価で良好な結果が得られた。これらの結果は、平均繊維長600nmのセルロースナノファイバーをインクに配合し、かつ、分散剤としてのポリエーテルリン酸エステルを色材に対して2~26質量%の量でインクに配合すると、良好な結果が得られることを示す。
【0094】
<例2A~2D:熱消色性インク2A~2D>
熱消色性インク2A~2Dは、分散性、および24時間後の吐出性のすべての評価で良好な結果が得られた。これらの結果は、平均繊維長600nmのセルロースナノファイバーを色材に対して2~10質量%の量でインクに配合し、かつ、分散剤としてポリエーテルリン酸エステルをインクに配合すると、良好な結果が得られることを示す。
【0095】
<例3A~3G:熱消色性インク3A~3G>
熱消色性インク3A、3Bは、分散性、および24時間後の吐出性のすべての評価で良好な結果が得られた。一方、熱消色性インク3C、3D、3F、3Gは、色材の凝集またはインクのゲル化により吐出性の評価を実施することができなかった。また、熱消色性インク3Eは、インクジェット式画像形成装置で24時間後に吐出することができなかった。これらの結果は、24時間後にインクの良好な吐出性を達成するためには、セルロースナノファイバーを色材に対して1.3質量%より多く13.3質量%より少ない量でインクに配合する必要があることを示す。
【0096】
<例4A~4E:熱消色性インク4A~4E>
熱消色性インク4A~4Eは、分散性、および24時間後の吐出性のすべての評価で良好な結果が得られた。これらの結果は、平均繊維長800nmのセルロースナノファイバーをインクに配合し、かつ、分散剤としてのポリエーテルリン酸エステルを色材に対して2~26質量%の量でインクに配合すると、良好な結果が得られることを示す。
【0097】
<例5A~5D:熱消色性インク5A~5D>
熱消色性インク5A~5Dは、分散性、および24時間後の吐出性のすべての評価で良好な結果が得られた。これらの結果は、平均繊維長800nmのセルロースナノファイバーを色材に対して2~10質量%の量でインクに配合し、かつ、分散剤としてポリエーテルリン酸エステルをインクに配合すると、良好な結果が得られることを示す。
【0098】
<例6A~6E:熱消色性インク6A~6E>
熱消色性インク6A、6Cは、インクジェット式画像形成装置で24時間後に吐出することができなかった。また、熱消色性インク6B、6D、6Eは、色材の凝集またはインクのゲル化により吐出性の評価を実施することができなかった。これらの結果は、24時間後にインクの良好な吐出性を達成するためには、分散剤としてポリエーテルリン酸エステルをインクに配合することが必須であることを示す。
【0099】
<例7A~7F:熱消色性インク7A~7F>
熱消色性インク7Aは、色材の凝集により吐出性の評価を実施することができなかった。また、熱消色性インク7B~7Fは、インクジェット式画像形成装置で24時間後に吐出することができなかった。これらの結果は、24時間後にインクの良好な吐出性を達成するためには、300nmより長い平均繊維長のセルロースナノファイバーをインクに配合することが必要であることを示す。
【0100】
<例8A~8F:熱消色性インク8A~8F>
熱消色性インク8A~8Fは、インクジェット式画像形成装置で24時間後に吐出することができなかった。これらの結果は、24時間後にインクの良好な吐出性を達成するためには、分散剤としてポリエーテルリン酸エステルをインクに配合することと、300nmより長い平均繊維長のセルロースナノファイバーをインクに配合することが必要であることを示す。
【0101】
<例9A~9C:熱消色性インク9A~9C>
熱消色性インク9Aは、インクジェット式画像形成装置で24時間後に吐出することができなかった。また、熱消色性インク9B、9Cは、色材の凝集またはインクのゲル化により吐出性の評価を実施することができなかった。これらの結果は、24時間後にインクの良好な吐出性を達成するためには、セルロースナノファイバーを色材に対して1質量%より多く14質量%より少ない量でインクに配合する必要があることを示す。
【0102】
<例10A~10D:熱消色性インク10A~10D>
熱消色性インク10A~10Dは、インクジェット式画像形成装置で24時間後に吐出することができなかった。これらの結果は、24時間後にインクの良好な吐出性を達成するためには、300nmより長い平均繊維長のセルロースナノファイバーをインクに配合することが必要であることを示す。
【0103】
<例11A~11C:熱消色性インク11A~11C>
熱消色性インク11A~11Cは、インクジェット式画像形成装置で24時間後に吐出することができなかった。これらの結果は、24時間後にインクの良好な吐出性を達成するためには、300nmより長い平均繊維長のセルロースナノファイバーをインクに配合することが必要であることを示す。
【0104】
<例12A:熱消色性インク12A>
熱消色性インク12Aは、インクジェット式画像形成装置で24時間後に吐出することができなかった。この結果は、24時間後にインクの良好な吐出性を達成するためには、分散剤としてポリエーテルリン酸エステルをインクに配合することが必須であることを示す。
【0105】
<例13A~13C:熱消色性インク13A~13C>
熱消色性インク13Aは、インクジェット式画像形成装置で24時間後に吐出することができなかった。また、熱消色性インク13B、13Cは、色材の凝集またはインクのゲル化により吐出性の評価を実施することができなかった。これらの結果は、24時間後にインクの良好な吐出性を達成するためには、セルロースナノファイバーを色材に対して1質量%より多く14質量%より少ない量でインクに配合する必要があることを示す。
【0106】
<例14A~14B:熱消色性インク14A~14B>
熱消色性インク14A~14Bは、分散剤としてポリエーテルリン酸エステル以外のものをインクに配合した。これらのインクは、セルロースナノファイバーをインクに配合しても分散性が良くなかった。これらの結果は、インクの良好な分散性を達成するためには、セルロースナノファイバーを分散剤としてのポリエーテルリン酸エステルと組み合わせて使用することが必要であることを示す。
【0107】
<例15A~15F:熱消色性インク15A~15F>
熱消色性インク15A、15D~15Fは、色材の凝集またはインクのゲル化により吐出性の評価を実施することができなかった。また、熱消色性インク15B~15Cは、分散性が良くないため、24時間後にインクジェット式画像形成装置の一部のノズルで吐出することができなかった。これらの結果は、インクの良好な分散性を達成するためには、1100nmより短い平均繊維長のセルロースナノファイバーをインクに配合することが必要であることを示す。
【0108】
<例16A~16F:熱消色性インク16A~16F>
熱消色性インク16A~16Cは、分散性が良くないため、インクジェット式画像形成装置で24時間後に吐出することができなかった。また、熱消色性インク16D~16Fは、インクのゲル化により吐出性の評価を実施することができなかった。これらの結果は、インクの良好な分散性を達成するためには、分散剤としてポリエーテルリン酸エステルをインクに配合することと、1100nmより短い平均繊維長のセルロースナノファイバーをインクに配合することが必要であることを示す。
【0109】
<例17A~17D:熱消色性インク17A~17D>
熱消色性インク17A~17Dは、分散性が良くないため、24時間後にインクジェット式画像形成装置の一部のノズルで吐出することができなかった。これらの結果は、インクの良好な分散性を達成するためには、1100nmより短い平均繊維長のセルロースナノファイバーをインクに配合することが必要であることを示す。
【0110】
<例18A~18C:熱消色性インク18A~18C>
熱消色性インク18A~18Cは、分散性が良くないため、24時間後にインクジェット式画像形成装置の一部のノズルで吐出することができなかった。これらの結果は、インクの良好な分散性を達成するためには、1100nmより短い平均繊維長のセルロースナノファイバーをインクに配合することが必要であることを示す。
【0111】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0112】
100…カセット、101…カセット、102…供紙ローラ、103…供紙ローラ、104…搬送ローラ対、105…搬送ローラ対、106…レジストローラ対、107…搬送ベルト、110…ファン、111…負圧チャンバ、112…搬送ローラ対、113…搬送ローラ対、114…搬送ローラ対、115Bk…インクジェットヘッド、115C…インクジェットヘッド、115M…インクジェットヘッド、115Y…インクジェットヘッド、116Bk…インクカートリッジ、116C…インクカートリッジ、116M…インクカートリッジ、116Y…インクカートリッジ、117Bk…チューブ、117C…チューブ、117M…チューブ、117Y…チューブ、118…排紙トレイ、P…記録媒体。
図1