(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076193
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】インクジェット記録用インク組成物および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
C09C 3/10 20060101AFI20240529BHJP
C09D 11/30 20140101ALI20240529BHJP
C09D 11/326 20140101ALI20240529BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240529BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
C09C3/10
C09D11/30
C09D11/326
B41M5/00 120
B41J2/01 501
B41J2/01 125
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187632
(22)【出願日】2022-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003562
【氏名又は名称】東芝テック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000111890
【氏名又は名称】パイロットインキ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】深沢 大志
(72)【発明者】
【氏名】三好 麻衣子
(72)【発明者】
【氏名】日吉 唯
(72)【発明者】
【氏名】三田 真之
(72)【発明者】
【氏名】海田 菜緒
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J037
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056FA13
2C056FB01
2C056FC02
2C056HA29
2C056HA46
2H186AB12
2H186BA08
2H186DA09
2H186DA10
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB18
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB53
4J037CC23
4J037CC25
4J037CC26
4J037DD24
4J037EE06
4J037FF13
4J039AD09
4J039AE04
4J039BC07
4J039BC10
4J039BD01
4J039BE01
4J039BE02
4J039BE08
4J039BE22
4J039BE23
4J039BE24
4J039CA03
4J039CA06
4J039CA11
4J039EA32
4J039EA43
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】 非浸透性の記録媒体に対する定着性に優れたインクジェット記録用インク組成物を提供すること。
【解決手段】 実施形態のインクジェット記録用インク組成物は、水と、色材を樹脂被覆により内包したマイクロカプセル色材と、分散剤としてのポリエーテルリン酸エステルと、疎水性アクリル樹脂からなるコアと、親水性ウレタン樹脂からなるシェルとを備えたコアシェル粒子と、グリセリン、プロピレングリコールおよびエチレングリコールからなる群より選択される少なくとも一つの湿潤剤とを含み、前記インク組成物に占める前記分散剤の割合が、0.1乃至3質量%の範囲内にあり、前記インク組成物に占める前記コアシェル粒子の割合が、5乃至20質量%の範囲内にあり、前記インク組成物に占める前記湿潤剤の割合が、5乃至30質量%の範囲内にある。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、
色材を樹脂被覆により内包したマイクロカプセル色材と、
分散剤としてのポリエーテルリン酸エステルと、
疎水性アクリル樹脂からなるコアと、親水性ウレタン樹脂からなるシェルとを備えたコアシェル粒子と、
グリセリン、プロピレングリコールおよびエチレングリコールからなる群より選択される少なくとも一つの湿潤剤と
を含むインクジェット記録用インク組成物であって、
前記インク組成物に占める前記分散剤の割合が、0.1乃至3質量%の範囲内にあり、
前記インク組成物に占める前記コアシェル粒子の割合が、5乃至20質量%の範囲内にあり、
前記インク組成物に占める前記湿潤剤の割合が、5乃至30質量%の範囲内にあるインクジェット記録用インク組成物。
【請求項2】
前記マイクロカプセル色材が、熱変色性を示す請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記湿潤剤が、グリセリンを含む請求項1に記載のインク組成物。
【請求項4】
前記マイクロカプセル色材が、300~5000nmの平均粒子径を有する請求項1に記載のインク組成物。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載のインク組成物を収容した容器と、
前記容器から前記インク組成物を供給され、前記インク組成物を記録媒体へ向けて吐出するインクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドから吐出された前記インク組成物を加熱するヒータと
を備えた画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、インクジェット記録用インク組成物および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット式画像形成装置は、インクジェットヘッドのノズルからインクを吐出し、記録媒体に付着させて印刷を行う。記録媒体として、紙の他に、プラスチックフィルムなどの非浸透性の記録媒体が使用される。記録媒体として非浸透性の記録媒体を使用した場合、インクが記録媒体に浸透しないで記録媒体の表面に留まるため、インクを被膜化して記録媒体上に定着させる。
【0003】
一方、インクジェット記録用インクとして、可逆的に熱変色性を示す顔料を含む熱変色性インクが知られている。かかる熱変色性顔料として、電子供与性呈色性有機化合物と、電子受容性化合物と、電子供与性呈色性有機化合物および電子受容性化合物による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生じさせる反応媒体とからなる可逆熱変色性組成物を含むものが知られている。かかる熱変色性顔料は、可逆熱変色性組成物が樹脂被覆により内包されたマイクロカプセルの形態を有することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、非浸透性の記録媒体に対する定着性に優れたインクジェット記録用インク組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1実施形態によれば、
水と、
色材を樹脂被覆により内包したマイクロカプセル色材と、
分散剤としてのポリエーテルリン酸エステルと、
疎水性アクリル樹脂からなるコアと、親水性ウレタン樹脂からなるシェルとを備えたコアシェル粒子と、
グリセリン、プロピレングリコールおよびエチレングリコールからなる群より選択される少なくとも一つの湿潤剤と
を含むインクジェット記録用インク組成物であって、
前記インク組成物に占める前記分散剤の割合が、0.1乃至3質量%の範囲内にあり、
前記インク組成物に占める前記コアシェル粒子の割合が、5乃至20質量%の範囲内にあり、
前記インク組成物に占める前記湿潤剤の割合が、5乃至30質量%の範囲内にあるインクジェット記録用インク組成物が提供される。
【0007】
第2実施形態によれば、
第1実施形態に係るインク組成物を収容した容器と、
前記容器から前記インク組成物を供給され、前記インク組成物を記録媒体へ向けて吐出するインクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドから吐出された前記インク組成物を加熱するヒータと
を備えた画像形成装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る画像形成装置の一例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
インクジェット式画像形成装置において非浸透性の記録媒体を使用した場合、インクを被膜化して記録媒体上に定着させるが、記録媒体上にインクが定着し難い。とりわけ、マイクロカプセル顔料を含むインクを、インクジェット式画像形成装置により非浸透性の記録媒体上に定着させると、定着性が低いという問題に本発明者らは着目した。本発明者らは、マイクロカプセル顔料を含むインクに、定着剤に加えて、特定種類の分散剤と特定種類の湿潤剤とを組み合わせて配合することにより上記問題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
1.インクジェット記録用インク組成物
実施形態に係るインクジェット記録用インク組成物は
水と、
色材を樹脂被覆により内包したマイクロカプセル色材と、
分散剤としてのポリエーテルリン酸エステルと、
疎水性アクリル樹脂からなるコアと、親水性ウレタン樹脂からなるシェルとを備えたコアシェル粒子と、
グリセリン、プロピレングリコールおよびエチレングリコールからなる群より選択される少なくとも一つの湿潤剤と
を含み、
前記インク組成物に占める前記分散剤の割合が、0.1乃至3質量%の範囲内にあり、
前記インク組成物に占める前記コアシェル粒子の割合が、5乃至20質量%の範囲内にあり、
前記インク組成物に占める前記湿潤剤の割合が、5乃至30質量%の範囲内にある。
【0011】
以下に、インクジェット記録用インク組成物の各成分について説明する。以下の説明で、インクジェット記録用インク組成物は、「インク組成物」または「インク」ともいう。
【0012】
<水>
「水」としては、イオン交換水や純水を使用することができる。水は、インク全量に対し、例えば40~90質量%、好ましくは50~80質量%の量で配合することができる。
【0013】
<マイクロカプセル色材>
マイクロカプセル色材は、色材が樹脂被覆により内包されているマイクロカプセルである。マイクロカプセル色材は、好ましくは、熱変色性を示す。マイクロカプセル色材として、好ましくは、熱変色性を示す公知のマイクロカプセル顔料を使用することができる。マイクロカプセル顔料は、変色後に再度元の色を発色させることができない不可逆タイプであってもよいし、変色と再発色を繰り返すことができる可逆タイプであってもよい。例えば、マイクロカプセル顔料として、熱消色性を示す公知のマイクロカプセル顔料を使用することができる。この場合、マイクロカプセル顔料は、消色後に再度発色させることができない不可逆タイプであってもよいし、消色と発色を繰り返すことができる可逆タイプであってもよい。
【0014】
一例によれば、熱消色性を示すマイクロカプセル顔料は、内包物として、(a)呈色性化合物と、(b)顕色剤と、(c)消色剤とを含む熱変色性組成物が用いられる。(a)呈色性化合物は、色を決める成分であり、顕色剤に電子を供与し、発色する化合物とすることができる。代表的な呈色性化合物としてロイコ染料が挙げられる。(b)顕色剤は、呈色性化合物から電子を受け取り、呈色性化合物の顕色剤として機能する化合物とすることができる。(c)消色剤(変色温度調整剤)は、呈色性化合物および顕色剤による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生じさせる化合物とすることができる。かかる(a)~(c)の成分を含むマイクロカプセル顔料は、可逆タイプであり、公知である。
【0015】
したがって、(a)~(c)の成分は、それぞれ、公知の成分を使用することができる。また、(a)~(c)の成分の配合割合は、適宜決定することができる。
【0016】
更に、マイクロカプセル顔料には、その機能に影響を及ぼさない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、溶解助剤、防腐・防黴剤等の各種添加剤を添加することができる。
【0017】
マイクロカプセル顔料は、化学的、物理的に安定であり、これにより、種々の使用条件において、同一の組成に保たれ、同一の作用効果を奏することができる点で優れている。
【0018】
マイクロカプセル化は、公知の方法により行うことができる。カプセルの壁膜の材質としては、エポキシ樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂、イソシアネート樹脂等が挙げられる。更にマイクロカプセルの表面には、目的に応じて二次的な樹脂皮膜を設けて耐久性を付与したり、表面特性を改質したりすることもできる。
【0019】
マイクロカプセル顔料は、内包物/壁膜=7/1~1/1(質量比)の範囲であることが好ましい。壁膜の比率が範囲内にあることにより、発色時の色濃度の低下および鮮明性の低下を防止することができる。マイクロカプセル顔料は、より好適には、内包物/壁膜=6/1~1/1(質量比)の範囲内である。
【0020】
マイクロカプセル顔料は、例えば300~5000nm、好ましくは300~4000nm、より好ましくは500~3000nmの平均粒子径を有する。粒子径が小さくなると、発色性が低下する傾向がある。粒子径が大きくなると、インク中の分散性やインクジェット吐出性が悪くなる傾向がある。
【0021】
本明細書において、マイクロカプセル顔料の平均粒子径としては、等体積球相当の粒子の平均粒子径(メジアン径)を用いる。その最適測定としては直接的測定法にてキャリブレーションを行ったレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置である島津製作所製のレーザー回折式粒度分布測定装置SALD7000を用いて測定できる。
【0022】
上記直接的測定法としては、キャリブレーションは、顕微鏡で撮影した画像から個々の粒子の面積(2次元)を計測して相当径を測定する、画像解析法、コールターカウンターを用いて検出器の微小な穴(アパチャー)に定電流を流し、その穴を粒子が通過する際に生じるインピーダンスの変化から相当径を測定する、コールター法(電気的検知帯法)などが挙げられ、レーザー測定法のキャリブレーションはこれらによって得られた値を元に行なう。
【0023】
画像解析法による平均粒子径の測定は、例えば、マウンテック社製の画像解析式粒度分布測定ソフトウェア「マックビュー」を用いて粒子の領域を判定し、粒子の領域の面積から投影面積円相当径(Heywood径)を算出し、その値による等体積球相当の粒子の平均粒子径として測定することができる。
【0024】
コールター法による平均粒子径の測定は、全ての粒子、あるいは、大部分の粒子の粒子径が0.2μmを超える場合に適用可能であり、例えば、ベックマン・コールター社製の粒度分布測定装置「Multisizer 4e」を用いて測定することができる。
【0025】
マイクロカプセル色材は、インク全量に対し、例えば3~30質量%、好ましくは3~20質量%、更に好ましくは5~15質量%の量で配合することができる。
【0026】
<分散剤としてのポリエーテルリン酸エステル>
分散剤としてのポリエーテルリン酸エステルは、ポリエーテルのリン酸エステルであり、1分子中に複数のリン酸エステル基を有する化合物である。
【0027】
ポリエーテルリン酸エステルは、インク中で分散剤として機能するが、その仕組みは以下のように考えられる。ポリエーテルリン酸エステルのリン酸エステル基は、マイクロカプセル顔料などの他の物質への吸着官能基として作用する。具体的には、1分子中に複数のリン酸エステル基を有することにより、複数個所で他の化合物に吸着してインク組成物全体に及ぶネットワークを形成する。マイクロカプセル顔料などの吸着対象物質に対して量が少ない場合は、顔料同士を繋ぐことで粘性を発現する。一方で、吸着対象物質に対して量が多い場合は、立体障害による安定化(分散剤)や、粘性発現の遅延(レベリング剤)といった機能を発現する。
【0028】
ポリエーテルリン酸エステルとしては、当該技術分野で分散剤として使用できることが知られているポリエーテルリン酸エステルを使用することができる。ポリエーテルリン酸エステルは、市販品を使用することもでき、例えば、ディスパロン3500(楠本化成社製)、ディスパロンDA-375(楠本化成社製)、ディスパロンDA-325(楠本化成社製)、ディスパロンAQ-320(楠本化成社製)、ディスパロンAQ-330(楠本化成社製)、HIPLAAD_ED-152(楠本化成社製)、HIPLAAD_ED-153(楠本化成社製)、HIPLAAD_ED-154(楠本化成社製)、HIPLAAD_ED-118(楠本化成社製)、HIPLAAD_ED-174(楠本化成社製)、HIPLAAD_ED-251(楠本化成社製)、プライサーフA215C(第一工業製薬社製)、ネオスコアCM57(東邦化学工業社製)、アデカコールTS(ADEKA社製)、アデカコールCS(ADEKA社製)、DISPERBYK-180(ビックケミー社製)、フォスファノールRA-600(東邦化学工業社製)、フォスファノールML-240(東邦化学工業社製)、フォスファノールRS-610(東邦化学工業社製)、フォスファノールRS-710(東邦化学工業社製)などが挙げられる。
【0029】
ポリエーテルリン酸エステルは、分散剤として優れていることに加えて、マイクロカプセル色材への浸透が起こりにくく、マイクロカプセル内に侵入して内包物の溶解や析出を引き起こし難い点でも優れている。
【0030】
ポリエーテルリン酸エステルは、インク全量に対し、例えば0.1~3質量%、好ましくは0.1~2.5質量%、更に好ましくは0.1~2質量%の量で配合することができる。
【0031】
<コアシェル粒子>
コアシェル粒子は、水中に分散している。コアシェル粒子は、コアと、これを取り囲んだシェルとを含んでいる。コアは、疎水性アクリル樹脂からなる。シェルは、親水性ウレタン樹脂からなる。
【0032】
コアシェル粒子としては、例えば、大成ファインケミカル社から「コアシェル型アクリルウレタンエマルジョン」という名称で販売されているもの、例えば、アクリットWEM-200U、WEM-3000、WEM-505Cなどを使用することができる。
【0033】
コアシェル粒子は、定着剤としての役割を果たす。コアシェル粒子は、記録媒体が非浸透性である場合に、記録媒体に対して定着性に優れた印刷層を形成可能とする。また、コアシェル粒子は、印刷層の耐擦過性を向上させる。
【0034】
コアシェル粒子は、マイクロカプセル顔料と混合するまで、例えば、連続相が水である水系樹脂エマルジョンの分散相として存在している。インク組成物は、例えば、この水系樹脂エマルジョンと、マイクロカプセル顔料などの他の成分とを混合することにより得られる。
【0035】
コアシェル粒子は、インク全量に対し、例えば5~20質量%の量で配合することができる。
【0036】
<湿潤剤>
湿潤剤は、グリセリン、プロピレングリコールおよびエチレングリコールからなる群より選択される少なくとも一つである。湿潤剤は、グリセリンを含むことが好ましい。すなわち、湿潤剤として、グリセリンを単独で使用することや、グリセリンを、プロピレングリコールおよび/またはエチレングリコールと組み合わせで使用することが好ましい。また、湿潤剤として、グリセリンとプロピレングリコールとを組み合わせて使用することや、グリセリンとプロピレングリコールとエチレングリコールとを組み合わせて使用することが更に好ましい。
【0037】
湿潤剤は、インク全量に対し、例えば5~30質量%、好ましくは6~25質量%、更に好ましくは9~20質量%の量で配合することができる。湿潤剤の量は、2種類以上の湿潤剤を組み合わせて使用した場合は、その合計量を指す。
【0038】
<追加成分>
インクは、上記成分に加えて、添加剤をさらに含んでいてもよい。例えば、分散剤、安定化剤、調粘剤、防腐剤、保湿剤、濡れ剤、消泡剤等の汎用的な助剤をさらに含んでいてもよい。
【0039】
<効果>
実施形態に係るインク組成物は、定着剤として、疎水性アクリル樹脂からなるコアと、親水性ウレタン樹脂からなるシェルとを備えたコアシェル粒子を含み、更に、分散剤としてのポリエーテルリン酸エステルと、グリセリン、プロピレングリコールおよびエチレングリコールからなる群より選択される少なくとも一つの湿潤剤とを含む。これにより、実施形態に係るインク組成物は、非浸透性の記録媒体に対して優れた定着性を実現することができる。
【0040】
2.画像形成装置
上述したインク組成物は、インクジェット式画像形成装置に使用することができる。すなわち、インクジェット式画像形成装置は、
「1.インクジェット記録用インク組成物」の欄で説明したインク組成物を収容した容器と、
前記容器から前記インク組成物を供給され、前記インク組成物を記録媒体へ向けて吐出するインクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドから吐出された前記インク組成物を加熱するヒータと
を備えている。
【0041】
以下、インクジェット式画像形成装置の一例を、
図1を参照しながら説明する。
図1に示す画像形成装置は、排紙トレイ118が設けられた筐体を含んでいる。筐体内には、カセット100および101、供紙ローラ102および103、搬送ローラ対104および105、レジストローラ対106、搬送ベルト107、ファン110、負圧チャンバ111、搬送ローラ対112、113および114、インクジェットヘッド115C、115M、115Yおよび115Bk、インクカートリッジ116C、116M、116Yおよび116Bk、チューブ117C、117M、117Yおよび117Bk、並びに、ヒータ120が設置されている。
【0042】
カセット100および101は、サイズの異なる記録媒体Fを収容している。記録媒体Fは、例えば、非浸透性の記録媒体である。非浸透性の記録媒体は、その表面にインク層を形成したときにインクが記録媒体に浸透することなく記録媒体の表面に留まる記録媒体を指す。非浸透性の記録媒体として、例えば、プラスチックフィルムが挙げられる。プラスチックフィルムとして、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルムまたはポリ塩化ビニルフィルムが挙げられる。あるいは、非浸透性の記録媒体は、紙等の基材の上にプラスチックがコーティングされているもの、または紙等の基材の上にプラスチックフィルムが接着されているもの、ポリオレフィン系樹脂やポリスチレン系樹脂等の合成樹脂を主原料として製造された紙であってもよい。
【0043】
供紙ローラ102または103は、選択された記録媒体のサイズに対応した記録媒体Fをカセット100または101から取り出し、搬送ローラ対104および105並びにレジストローラ対106へ搬送する。
【0044】
搬送ベルト107は、駆動ローラ108と2本の従動ローラ109とによって張力が与えられている。搬送ベルト107の表面には所定間隔で穴が設けられている。搬送ベルト107の内側には記録媒体Fを搬送ベルト107に吸着させるため、ファン110に連結された負圧チャンバ111が設置されている。搬送ベルト107の搬送方向下流には、搬送ローラ対112、113および114が設置されている。
【0045】
搬送ベルト107の上方には、画像データに応じてインクを記録媒体Fに吐出するインクジェットヘッドが4列配列されている。上流から、シアン(C)インクを吐出するインクジェットヘッド115C、マゼンタ(M)インクを吐出するインクジェットヘッド115M、イエロー(Y)インクを吐出するインクジェットヘッド115Y、およびブラック(Bk)インクを吐出するインクジェットヘッド115Bkの順である。
【0046】
インクジェットヘッド115C、115M、115Yおよび115Bkには、対応したインクが収容されているシアン(C)インクカートリッジ116C、マゼンタ(M)インクカートリッジ116M、イエロー(Y)インクカートリッジ116Y、およびブラック(Bk)インクカートリッジ116Bkが設けられている。これらカートリッジ116C、116M、116Yおよび116Bkは、それぞれ、チューブ117C、117M、117Yおよび117Bkによって、インクジェットヘッド115C、115M、115Yおよび115Bkに連結されている。
【0047】
インクカートリッジ116C、116M、116Yおよび116Bkの少なくとも1つが収容しているインク組成物は、実施形態に係るインク組成物である。ここでは、一例として、インクカートリッジ116C、116M、116Yおよび116Bkが収容しているインク組成物は、何れも実施形態に係るインク組成物であるとする。
【0048】
更に、搬送ベルト107の上方には、ヒータ120が、4列のインクジェットヘッドの下流に位置するように設置されている。ヒータ120は、記録媒体F上に形成された印刷層を加熱する。これにより、印刷層を被膜化して記録媒体F上に定着させる。なお、ヒータ120は、4列のインクジェットヘッドの下流に設置されていれば、搬送ベルト107から排紙トレイ118までの搬送経路の任意の位置に設置することができる。
【0049】
次に、この画像形成装置の画像形成動作について説明する。
先ず、画像処理手段(図示しない)が、記録のための画像処理を開始し、画像データに対応した画像信号を生成するとともに、各種ローラや負圧チャンバ111などの動作を制御する制御信号を生成する。
【0050】
供紙ローラ102または103は、画像処理手段による制御のもと、カセット100または101から、選択されたサイズの記録媒体Fを1枚ずつ取り出し、搬送ローラ対104および105並びにレジストローラ対106へ搬送する。レジストローラ対106は、記録媒体Fのスキューを補正し、所定のタイミングで記録媒体Fを搬送する。
【0051】
負圧チャンバ111は、搬送ベルト107の穴を介して空気を吸い込んでいる。従って、記録媒体Fは、搬送ベルト107に吸着された状態で、搬送ベルト107の移動に伴い、インクジェットヘッド115C、115M、115Yおよび115Bkの下方の位置へと順次搬送される。
【0052】
インクジェットヘッド115C、115M、115Yおよび115Bkは、画像処理手段による制御のもと、記録媒体Fが搬送されるタイミングに同期してインクを吐出する。これにより、記録媒体Fの所望の位置に、カラーの印刷層が形成される。
【0053】
その後、記録媒体Fは、ヒータ120の下方の位置へ搬送され、ヒータ120が、記録媒体F上に形成された印刷層を加熱する。これにより、印刷層を被膜化して記録媒体F上に定着させる。ヒータ120による加熱を行うと、特に、記録媒体Fが非浸透性である場合に、記録媒体Fに対する印刷層の密着性を高めることができる。
【0054】
その後、搬送ローラ対112、113および114は、画像が形成された記録媒体Fを排紙トレイ118へ排紙する。
【0055】
上記の通り、この画像形成装置では、インクカートリッジ116C、116M、116Yおよび116Bkが収容しているインク組成物は、何れも実施形態に係るインク組成物である。それ故、この画像形成装置は、非浸透性の記録媒体に対して定着性に優れた印刷画像を形成することができる。このため、この画像形成装置は、耐擦過性に優れた印刷画像を形成することができる。
【実施例0056】
[1]熱消色性インクの作製
<例1:熱消色性インク1>
色材として、熱消色性組成物(可逆熱変色性組成物)を樹脂被覆により内包したマイクロカプセル顔料(平均粒子径:600nm)を使用した。色材5質量部、コアシェル粒子として大成ファインケミカル社製のWEM-200Uを5質量部、湿潤剤としてグリセリン10質量部およびプロピレングリコール5質量部、分散剤としてポリエーテルリン酸エステル(東邦化学工業社製社製のフォスファノールRS-710)を0.15質量部、吐出安定剤として日信化学工業社製のサーフィノール(登録商標)465を1質量部、防腐剤としてアークサーダジャパン社製のプロキセル(登録商標)XL-2を0.2質量部、純水73.65質量部とを混合し、スターラーを用いて攪拌し、その後濾過した。これにより、熱消色性インク1を得た。
【0057】
使用したコアシェル粒子は、疎水性アクリル樹脂からなるコアと、親水性ウレタン樹脂からなるシェルとを備えたコアシェル粒子である。
【0058】
<例2:熱消色性インク2>
下記の表に記載したとおりコアシェル粒子の添加量を10質量部に変更したこと以外は、熱消色性インク1と同様の方法で熱消色性インク2を作製した。なお、純水は、インクの全量が100質量部となるように添加した。これ以降の熱消色性インクの作製においても同様に、純水は、インクの全量が100質量部となるように添加した。
【0059】
<例3:熱消色性インク3>
下記の表に記載したとおり、湿潤剤としてグリセリン2質量部とプロピレングリコール5質量部とエチレングリコール2質量部とを使用したこと以外は、熱消色性インク2と同様の方法で熱消色性インク3を作製した。
【0060】
<例4:熱消色性インク4>
下記の表に記載したとおり分散剤の添加量を変更したこと以外は、熱消色性インク3と同様の方法で熱消色性インク4を作製した。
【0061】
<例5:熱消色性インク5>
下記の表に記載したとおり、湿潤剤としてグリセリン10質量部とプロピレングリコール10質量部とエチレングリコール10質量部とを使用したこと以外は、熱消色性インク2と同様の方法で熱消色性インク5を作製した。
【0062】
<例6:熱消色性インク6>
下記の表に記載したとおり、湿潤剤としてグリセリン2質量部とプロピレングリコール2質量部とエチレングリコール2質量部とを使用したこと以外は、熱消色性インク2と同様の方法で熱消色性インク6を作製した。
【0063】
<例7:熱消色性インク7>
下記の表に記載したとおり、湿潤剤としてグリセリン10質量部とプロピレングリコール5質量部とエチレングリコール5質量部とを使用したことと、分散剤の添加量を0.1質量部に変更したこと以外は、熱消色性インク2と同様の方法で熱消色性インク7を作製した。
【0064】
<例8:熱消色性インク8>
下記の表に記載したとおり色材の添加量を15質量部に変更したこと以外は、熱消色性インク2と同様の方法で熱消色性インク8を作製した。
【0065】
<例9:熱消色性インク9>
下記の表に記載したとおり、湿潤剤としてグリセリン30質量部を使用したこと以外は、熱消色性インク2と同様の方法で熱消色性インク9を作製した。
【0066】
<例10:熱消色性インク10>
下記の表に記載したとおりコアシェル粒子の添加量を20質量部に変更したこと以外は、熱消色性インク2と同様の方法で熱消色性インク10を作製した。
【0067】
<例11:熱消色性インク11>
下記の表に記載したとおり、コアシェル粒子の添加量を25質量部に変更したことと、分散剤の添加量を0.2質量部に変更したこと以外は、熱消色性インク2と同様の方法で熱消色性インク11を作製した。
【0068】
<例12:熱消色性インク12>
下記の表に記載したとおりコアシェル粒子の添加量を3質量部に変更したこと以外は、熱消色性インク2と同様の方法で熱消色性インク12を作製した。
【0069】
<例13:熱消色性インク13>
下記の表に記載したとおり、湿潤剤としてグリセリン10質量部とプロピレングリコール15質量部とエチレングリコール10質量部とを使用したこと以外は、熱消色性インク2と同様の方法で熱消色性インク13を作製した。
【0070】
<例14:熱消色性インク14>
下記の表に記載したとおり、湿潤剤としてグリセリン2質量部とエチレングリコール1質量部とを使用したことと、分散剤の添加量を3質量部に変更したこと以外は、熱消色性インク2と同様の方法で熱消色性インク14を作製した。
【0071】
<例15:熱消色性インク15>
下記の表に記載したとおり、湿潤剤として1,3-ブチレングリコール15質量部を使用したこと以外は、熱消色性インク2と同様の方法で熱消色性インク15を作製した。
【0072】
<例16:熱消色性インク16>
下記の表に記載したとおり分散剤の添加量を0.08質量部に変更したこと以外は、熱消色性インク2と同様の方法で熱消色性インク16を作製した。
【0073】
<例17:熱消色性インク17>
下記の表に記載したとおり分散剤の添加量を5質量部に変更したこと以外は、熱消色性インク2と同様の方法で熱消色性インク17を作製した。
【0074】
[2]評価方法
<定着性の評価>
作製したインクを用いて、インクジェット式画像形成装置により記録媒体の上に印刷層を形成した。記録媒体として、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)およびポリ塩化ビニルフィルム(PVCフィルム)を使用した。印刷層を加熱して記録媒体上に定着させた。
【0075】
定着性の評価は、摩擦堅牢度試験により行った。具体的には、摩擦堅牢試験機の摩擦子の先端に白綿布を取り付け、摩擦子を一定加重および一定速度の下で5回往復運動させることにより、記録媒体上の印刷層を擦った。摩擦前の画像濃度と摩擦後の画像濃度を測定し、インク定着率を以下の式により算出した。
インク定着率[%]=(摩擦後の画像濃度/摩擦前の画像濃度)×100
【0076】
定着性を以下の評価基準により評価した。
A:インク定着率95%以上
B:インク定着率90%以上95%未満
C:インク定着率90%未満。
【0077】
<保存安定性の評価>
作製したインクをガラス製のサンプル瓶に入れ、瓶を密栓し、50℃に設定した高温槽内で60日間保存した。その後、沈殿物の有無を目視により確認した。
【0078】
保存安定性を以下の評価基準により評価した。
A:沈殿物の析出がなかった
B:少量の沈殿物が析出した
C:多量の沈殿物が析出した。
【0079】
<メンテナンス性の評価>
作製したインクを用いて、インクジェット式画像形成装置による印刷を行った。その後、この装置を25℃の温度条件下で24時間放置した。24時間後、再度印刷を行い、インクジェットヘッドの吐出性を調べた。
【0080】
24時間後の吐出性(すなわち、メンテナンス性)を以下の評価基準により評価した。
A:クリーニング動作(すなわち、インクを強制的に吐出させる動作)なしで安定な吐出が可能であった
B:24時間後の吐出は不安定であったが、クリーニング動作を行うと安定な吐出が可能となった
C:24時間後の吐出は不安定であり、クリーニング動作を行っても安定な吐出ができなかった。
【0081】
[3]結果
熱消色性インク1~17の組成および評価結果を以下の表に示す。
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
表中の数値は、インク中の各成分の質量パーセントを表す。
熱消色性インク1~10は、定着性、保存安定性、およびメンテナンス性のすべての評価で良好な結果が得られた(例1~10を参照)。
【0086】
一方、熱消色性インク11~17は、定着性、保存安定性、およびメンテナンス性の少なくとも1つの評価で良好な結果が得られなかった(例11~17を参照)。例11~12の結果から、コアシェル粒子の配合量が少ないと定着性が低下し、コアシェル粒子の配合量が多いと保存安定性およびメンテナンス性が低下することが分かる。また、例13~14の結果から、湿潤剤の配合量が少ないとメンテナンス性が低下し、湿潤剤の配合量が多いと定着性が低下することが分かる。また、例15の結果から、湿潤剤として、グリセリン、プロピレングリコールおよびエチレングリコール以外のものを使用すると、保存安定性が低下することが分かる。また、例16~17の結果から、分散剤の配合量が少ないとメンテナンス性が低下し、分散剤の配合量が多いと保存安定性およびメンテナンス性が低下することが分かる。
【0087】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
100…カセット、101…カセット、102…供紙ローラ、103…供紙ローラ、104…搬送ローラ対、105…搬送ローラ対、106…レジストローラ対、107…搬送ベルト、110…ファン、111…負圧チャンバ、112…搬送ローラ対、113…搬送ローラ対、114…搬送ローラ対、115Bk…インクジェットヘッド、115C…インクジェットヘッド、115M…インクジェットヘッド、115Y…インクジェットヘッド、116Bk…インクカートリッジ、116C…インクカートリッジ、116M…インクカートリッジ、116Y…インクカートリッジ、117Bk…チューブ、117C…チューブ、117M…チューブ、117Y…チューブ、118…排紙トレイ、120…ヒータ、F…記録媒体。