IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マツダ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-ハイブリッド車両の制御装置 図1
  • 特開-ハイブリッド車両の制御装置 図2
  • 特開-ハイブリッド車両の制御装置 図3A
  • 特開-ハイブリッド車両の制御装置 図3B
  • 特開-ハイブリッド車両の制御装置 図4
  • 特開-ハイブリッド車両の制御装置 図5
  • 特開-ハイブリッド車両の制御装置 図6
  • 特開-ハイブリッド車両の制御装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000762
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/00 20160101AFI20231226BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20231226BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20231226BHJP
   B60W 10/18 20120101ALI20231226BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20231226BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20231226BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20231226BHJP
   B60W 20/40 20160101ALI20231226BHJP
   B60W 20/10 20160101ALI20231226BHJP
   B60L 7/24 20060101ALI20231226BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20231226BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20231226BHJP
【FI】
B60W20/00 900
B60K6/48 ZHV
B60W10/06 900
B60W10/18 900
B60W10/02 900
B60W10/08 900
B60K6/547
B60W20/40
B60W20/10
B60L7/24 D
B60L15/20 K
B60L50/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099650
(22)【出願日】2022-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 篤史
(72)【発明者】
【氏名】大久 千華子
(72)【発明者】
【氏名】楠 友邦
(72)【発明者】
【氏名】山根 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】河野 寛太
(72)【発明者】
【氏名】塚本 直樹
【テーマコード(参考)】
3D202
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA08
3D202BB01
3D202BB05
3D202BB11
3D202BB15
3D202BB37
3D202BB39
3D202BB55
3D202BB64
3D202BB67
3D202CC05
3D202CC24
3D202CC42
3D202CC52
3D202CC84
3D202CC85
3D202CC86
3D202DD04
3D202DD06
3D202DD14
3D202DD18
3D202DD26
3D202FF12
3D202FF13
5H125AA01
5H125AB01
5H125AC12
5H125BA00
5H125BD17
5H125CA02
5H125CB02
5H125CB07
5H125DD05
5H125EE08
5H125EE31
5H125EE41
5H125EE44
(57)【要約】
【課題】P2モジュールが搭載されたハイブリッド車両において、エンジンの再始動時におけるクラッチの締結が、協調回生制御、及び制動の切替に及ぼす影響を抑制する。
【解決手段】ハイブリッド車両の制御装置は、エンジン4と、モータ5と、K0クラッチ6と、駆動シャフト17と、液圧式の摩擦ブレーキシステム3と、協調回生制御を実行可能なコントローラ20と、を備える。コントローラ20は、協調回生制御中にエンジン4の始動が要求された際には、摩擦ブレーキシステム3のみによる制動へと移行させる第1処理と、制動の移行が完了した後、K0クラッチ6の締結を開始しつつエンジン4の出力回転数を上昇させる第2処理と、K0クラッチ6の締結を開始した後、エンジン回転数がモータ回転数に一致するまで上昇した以降のタイミングでエンジン4に運転を再開させる第3処理と、を実行する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行駆動力を発生するエンジンと、
力行動作及び回生動作をそれぞれ実行可能なモータと、
前記エンジン及び前記モータの間に介在し、前記エンジン及び前記モータを相互に締結した接続状態と、該締結を開放した分離状態との間で切り替えられる第1クラッチと、
前記モータ、及び前記車両の駆動輪の間に介在する車軸と、を備えたハイブリッド車両の制御装置であって、
ドライバーによるプレーキペダルの操作に応じて、前記駆動輪に制動力を分配する液圧式の摩擦ブレーキシステムと、
前記プレーキペダル操作時の車両減速中に、前記摩擦ブレーキシステムによる前記制動力の分配と、前記モータに回生動作をさせることによる前記駆動輪への回生制動トルクの付与と、の協調によって制動を行う協調回生制御を、前記第1クラッチを切り離した状態で実行可能な制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記協調回生制御中に前記エンジンの始動が要求された際には、
前記協調回生制御による制動から前記摩擦ブレーキシステムのみによる制動へと移行させる第1処理と、
前記摩擦ブレーキシステムのみによる制動への移行が完了した後、前記第1クラッチの締結を開始しつつ前記モータに前記力行動作又は前記回生動作をさせることによって、前記エンジンの出力回転数を上昇させる第2処理と、
前記第1クラッチの締結が開始された後、前記エンジンの出力回転数が前記モータの出力回転数に一致するまで上昇した以降のタイミングで、前記エンジンに運転を再開させる第3処理と、を実行する
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記モータ及び前記車軸の間に介在し、前記モータ及び前記車軸を相互に締結した接続状態と、該締結を開放した分離状態との間で切り替えられる第2クラッチを備え、
前記第2クラッチは、前記協調回生制御の実行時には締結され、
前記制御手段は、前記第2処理において第1クラッチの締結が開始された後、前記モータの出力回転数が所定回転数未満に低下した場合には、前記第2クラッチをスリップさせる
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記制御手段は、前記第3処理において前記エンジンの出力回転数を前記モータの出力回転数に一致させた後、前記エンジン及び前記モータの出力回転数が所定のアイドル回転数未満に低下した場合には、前記第2クラッチを開放又はスリップさせるとともに、前記出力回転数を前記アイドル回転数以上に上昇させるように前記エンジンを制御する
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記制御手段は、前記協調回生制御中にステアリング舵角が所定値を超えたときに、前記エンジンの始動が要求されたと判断する
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
請求項2に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記制御手段は、前記協調回生制御中にエアコンスイッチがオン操作を受け付けたときに、前記エンジンの始動が要求されたと判断する
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、ハイブリッド車両の制御装置が開示されている。このハイリブリッド車両は、いわゆるP2モジュールが搭載された車両である。
【0003】
具体的に、前記特許文献1に開示されたハイブリッド車両は、エンジンと、第1摩擦締結要素と、第1摩擦締結要素を介してエンジンに締結されるモータジェネレータと、モータジェネレータ及び駆動輪の間に介在する第2摩擦締結要素と、協調回生制御手段と、を備えている。
【0004】
前記特許文献1に開示された協調回生制御実行手段は、メカニカルブレーキの操作時で、かつ、摩擦締結要素がスリップしている状態である時(例えば、エンジン始動時)には、摩擦締結要素を締結してから所定時間が経過するまで、回生トルクの増加を禁止する。前記特許文献1によると、回生トルクの増加を禁止することにより、意図しないスリップによるショックの発生を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-091551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記特許文献1に開示されているようなP2モジュールが搭載されたハイブリッド車両の場合、協調回生制御は、通常、ブレーキペダル操作時に、エンジンとモータとの間に介在するクラッチを開放した状態で行われる。この協調回生制御は、ブレーキシステムによる制動力の付与と、モータによる回生動作と、の協調によって駆動輪を制動するものである。
【0007】
そして、車両がカーブに進入するとき、減速中にエアコンを作動させるとき等、ブレーキペダル操作時(つまり、協調回生制御時)でありながらも、エンジンの再始動が要求される場合がある。
【0008】
この場合、協調回生制御による制動からブレーキシステムのみを用いた制動に切り替えるとともに、エンジンの出力回転数を立ち上げるべく、前記クラッチを締結することでエンジン及びモータを連結することが考えられる。
【0009】
しかしながら、液圧式のブレーキシステムを用いた場合、制動の切替を瞬時に行うことはできない。一方、エンジン及びモータの連結についても、クラッチを締結してからエンジン及びモータそれぞれの出力回転数が一致するまでに、ある程度の時間を要する。
【0010】
したがって、仮に、制動の切替と、クラッチの締結とが略同時に開始された場合、2つの工程が同時進行することになる。この場合、エンジンの出力回転数がスムースに変化しないときにはモータの回生動作を変更する等、出力回転数の調整状況が、協調回生制御、及び、その協調回生制御からの制動の切替へと影響を及ぼす可能性がある。
【0011】
例えば、エンジンの出力回転数の上昇に遅れが生じた場合、回生動作中のモータに力行動作をさせたり、モータによる回生力(回生制動トルク)を弱めたりすることが求められるものの、そうした処理は、協調回生制御の複雑化を招くため不都合である。
【0012】
本開示は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、P2モジュールが搭載されたハイブリッド車両において、エンジンの再始動時におけるクラッチの締結が協調回生制御、及び制動の切替に及ぼす影響を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示は、車両の走行駆動力を発生するエンジンと、力行動作及び回生動作をそれぞれ実行可能なモータと、前記エンジン及び前記モータの間に介在し、前記エンジン及び前記モータを相互に締結した接続状態と、該締結を開放した分離状態との間で切り替えられる第1クラッチと、前記モータ、及び前記車両の駆動輪の間に介在する車軸と、を備えたハイブリッド車両の制御装置に係る。この制御装置は、ドライバーによるプレーキペダルの操作に応じて、前記駆動輪に制動力を分配する液圧式の摩擦ブレーキシステムと、前記プレーキペダル操作時の車両減速中に、前記摩擦ブレーキシステムによる前記制動力の分配と、前記モータに回生動作をさせることによる前記駆動輪への回生制動トルクの付与と、の協調によって制動を行う協調回生制御を、前記第1クラッチを切り離した状態で実行可能な制御手段と、を備える。
【0014】
そして、本開示の一態様によれば、前記制御手段は、前記協調回生制御中に前記エンジンの始動が要求された際には、前記協調回生制御による制動から前記摩擦ブレーキシステムのみによる制動へと移行させる第1処理と、前記摩擦ブレーキシステムのみによる制動への移行が完了した後、前記第1クラッチの締結を開始しつつ前記モータに前記力行動作又は前記回生動作をさせることによって、前記エンジンの出力回転数を上昇させる第2処理と、前記第1クラッチの締結が開始された後、前記エンジンの出力回転数が前記モータの出力回転数に一致するまで上昇した以降のタイミングで、前記エンジンに運転を再開させる第3処理と、を実行する。
【0015】
この構成によると、前記ハイブリッド車両は、エンジン、第1クラッチ、モータ、第2クラッチ、車軸及び駆動輪の順番で走行駆動力が伝達していくように連結された、いわゆるP2モジュールを備えたハイブリッド車両である。
【0016】
そして、摩擦ブレーキシステムが駆動輪に制動力を分配している車両の減速中に、モータが回生動作を行う。この制御は、摩擦ブレーキシステムとモータとによる協調回生制御である。協調回生制御により、バッテリ等に蓄えられる回生エネルギが増える。モータによる回生制動トルクは、駆動輪に付与される。摩擦ブレーキシステムは、駆動輪に付与される回生制動トルクを考慮して、駆動輪に制動力を分配する。その結果、ハイブリッド車両に作用する制動は、ドライバーのブレーキペダル操作に応じた制動となる。
【0017】
ここで、前記制御手段は、前記協調回生制御中に前記エンジンの始動が要求された際には、協調回生制御による制動から摩擦ブレーキシステムのみによる制動への移行が完了した後に、エンジンの出力回転数を上昇させる。
【0018】
したがって、エンジンの出力回転数の調整を開始したときには、制動の切替は既に完了していることになる。その結果、出力回転数の調整状況が、協調回生制御、及び、その協調回生制御からの制動の切替に及ぼす影響を抑制することができる。
【0019】
また、本開示の一態様によれば、前記ハイブリッド車両の制御装置は、前記モータ及び前記車軸の間に介在し、前記モータ及び前記車軸を相互に締結した接続状態と、該締結を開放した分離状態との間で切り替えられる第2クラッチを備え、前記第2クラッチは、前記協調回生制御の実行時には締結され、前記制御手段は、前記第2処理において第1クラッチの締結が開始された後、前記モータの出力回転数が所定回転数未満に低下した場合には、前記第2クラッチをスリップさせる、としてもよい。
【0020】
この構成によると、所定の条件を満たした場合に、第2クラッチをスリップさせる。第2クラッチをスリップさせることで、モータの回転抵抗を低減することができる。そのことで、モータの出力回転数の低下を抑制することが可能になる。
【0021】
ここで、従来知られた構成のように、第2クラッチをスリップさせるタイミングと、摩擦ブレーキシステムのみによる制動への切替を行うタイミングと、の間に関連付けが存在しなかった場合(例えば、2つの処理が同時に開始される場合)、制動の切替が完了しないまま、第2クラッチをスリップさせる可能性があった。
【0022】
この場合、モータと駆動輪との動力伝達が抑制された状態で回生動作が行われることになるため、モータによって付与される回生制動トルクが駆動輪まで十分に伝達せず、G抜けが発生する可能性があった。
【0023】
一方、前記構成の場合、制動の切替が終了した後に第2クラッチをスリップさせることになる。これにより、回生制動トルクの付与を終えた状態(例えば、回生制動トルクを略ゼロまで減少させた状態)で、第2クラッチがスリップを開始することになる。そのことで、G抜けの発生を抑制することができる。
【0024】
また、本開示の一態様によれば、前記制御手段は、前記第3処理において前記エンジンの出力回転数を前記モータの出力回転数に一致させた後、前記エンジン及び前記モータの出力回転数が所定のアイドル回転数未満に低下した場合には、前記第2クラッチを開放又はスリップさせるとともに、前記出力回転数が前記アイドル回転数以上に上昇させるように前記エンジンを制御する、としてもよい。
【0025】
この構成によると、エンジンの再始動後に、エンジン及びモータの出力回転数をアイドル回転数以上に保持することができる。これにより、ブレーキペダルの踏み込みからアクセルペダルの踏み込みに転じたとき等、ハイブリッド車両に加速要求がなされたときに、当該車両をスムースに加速することができる。
【0026】
また、本開示の一態様によれば、前記制御手段は、前記協調回生制御中にステアリング舵角が所定値を超えたときに、前記エンジンの始動が要求されたと判断する、としてもよい。
【0027】
この構成によると、制御手段は、ブレーキペダルの踏込時の減速中(つまり、協調回生制御実行中)にステアリングホイールが操作されたときに、前記第1処理、前記第2処理及び前記第3処理を実行する。これにより、例えばブレーキペダルを踏み込みつつハイブリッド車両がコーナーに進入したときに、G抜け等の問題を招くことなく、エンジンをスムースに再始動させることができる。そのことで、いわゆるスローイン・ファーストアウトを、従来のハイブリッド車両よりもスムースに実現することができる。これにより、ハイブリッド車両の操作性を向上させることができる。
【0028】
また、本開示の一態様によれば、前記制御手段は、前記協調回生制御中にエアコンスイッチがオン操作を受け付けたときに、前記エンジンの始動が要求されたと判断する。としてもよい。
【0029】
この構成によると、制御手段は、ブレーキペダルの踏込時の減速中(つまり、協調回生制御実行中)にエアコンスイッチが操作されたときに、前記第1処理、前記第2処理及び前記第3処理を実行する。これにより、例えばブレーキペダルの踏込時にエアコンの駆動が所望されたときに、G抜け等の問題を招くことなく、エンジンをスムースに再始動させることができる。そのことで、エンジン再始動時のショックを抑制することができる。これにより、ハイブリッド車両の乗り心地を向上させることができる。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したように、本開示によれば、P2モジュールが搭載されたハイブリッド車両において、エンジンの再始動時におけるクラッチの締結が、協調回生制御、及び制動の切替に及ぼす影響を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、ハイブリッド車両を示している。
図2図2は、自動変速機の締結表を示している。
図3A図3Aは、ハイブリッド車両の制御装置のブロック図である。
図3B図3Bは、摩擦ブレーキシステムのブロック図である。
図4図4は、エンジンに係る処理を例示するフローチャートである。
図5図5は、モータ及びブレーキに係る処理を例示するフローチャートである。
図6図6は、再始動制御に係る処理を例示するフローチャートである。
図7図7は、第1処理、第2処理及び第3処理のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、ハイブリッド車両の制御装置の実施形態を説明する。以下の説明は例示である。
【0033】
(ハイブリッド車両)
図1に、本開示が適用された自動車1(車両、及びハイブリッド車両の一例)を示す。この自動車1は、電力を利用した走行が可能なハイブリッド車両である。自動車1は、前輪2F及び後輪2Rの合計4つの車輪を有している。前輪2F及び後輪2Rには、その回転を制動するために、それぞれ摩擦ブレーキ31が取り付けられている。
【0034】
自動車1には、駆動源として、自動車1の走行駆動力を発生するエンジン4及びモータ5が搭載されている。これらが協働して、後輪2Rを駆動する。それにより、自動車1が走行する。自動車1は、後輪駆動車両である。モータ5はまた、駆動源としてだけなく、回生時には発電機としても利用される。すなわち、本実施形態に係るモータ5は、自動車1の走行駆動力を発生する力行動作と、自動車1の減速時に回生エネルギをバッテリ(後述の高電圧バッテリ9)に供給する回生動作と、をそれぞれ実行することができる。
【0035】
この自動車1は、後述するように定格電圧が50V以下の高電圧バッテリ9を搭載している。その高電圧バッテリ9からの電力供給によって、モータ5は、主にエンジン4をアシストする形で走行する。自動車1は、いわゆるマイルドハイブリッド車である。なお、自動車1は、外部電源からの電力供給が可能な、いわゆるプラグインハイブリッド車であってもよい。
【0036】
また、自動車1は、エンジン4、第1クラッチ(K0クラッチ6)、モータ5、第2クラッチ(K1クラッチ8d)、車軸(駆動シャフト17)及び駆動輪(後輪2R)の順番で走行駆動力が伝達していくように連結された、いわゆるP2モジュールを備えたハイブリッド車である。
【0037】
この自動車1の場合、エンジン4は車体の前側に配置されており、駆動輪は車体の後側に配置されている。すなわち、この自動車1は、いわゆるFR車である。
【0038】
自動車1には、エンジン4、モータ5の他、駆動系の装置として、K0クラッチ6、インバータ7、自動変速機8が備えられている。自動車1にはまた、制御系の装置として、コントローラ20が備えられている。自動車1にはまた、制動系の装置として、摩擦ブレーキ31を含む液圧式の摩擦ブレーキシステム3が備えられている。
【0039】
(駆動系の装置)
エンジン4は、例えば化石燃料を燃焼させる内燃機関である。エンジン4はまた、吸気、圧縮、膨張、排気の各サイクルを繰り返すことで回転動力を発生させる、いわゆる4サイクルエンジンである。エンジン4は、圧縮着火機関に分類されるディーゼル機関として構成されているが、火花点火式エンジン、その他の圧縮着火式エンジン等、様々な種類や形態としてもよい。エンジン4は、化石燃料等の燃料を噴射するともに、その燃料を筒内で燃焼させることで運転する。
【0040】
この自動車1では、エンジン4は、回転動力を出力するクランクシャフト4aを、車体の前後方向に向けた状態で、車幅方向の略中央部に配置されている。自動車1には、吸気システム、排気システム、燃料供給システムなど、エンジン4に付随した様々な装置や機構が設置されている。
【0041】
モータ5は、三相の交流によって駆動する永久磁石型の同期モータである。モータ5は、K0クラッチ6を介してエンジン4の後方に直列に配置されている。モータ5はまた、自動変速機8の前方に直列に配置されている。
【0042】
K0クラッチ6は、エンジン4及びモータ5の間に介在する。詳しくは、K0クラッチ6は、モータ5のシャフト5aの前端部と、エンジン4のクランクシャフト4aとの間に介在するように設置されている。K0クラッチ6は、クランクシャフト4aとシャフト5aとが連結された状態(接続状態)と、クランクシャフト4aとシャフト5aとが分離した状態(分離状態)とに切り替える。
【0043】
K0クラッチ6の接続状態は、エンジン4及びモータ5を相互に締結した状態である。K0クラッチ6の分離状態は、その締結を開放した状態(切り離した状態)である。K0クラッチ6は、本実施形態における「第1クラッチ」として機能する。第1クラッチとしてのK0クラッチ6の接続状態及び分離状態の切り替えは、第1油圧回路13(図3Aにのみ示す)による油圧制御によって行われるようになっている。
【0044】
モータ5のシャフト5aの後端部は自動変速機8の入力軸8aに連結されている。従って、エンジン4は、K0クラッチ6及びシャフト5aを介して、自動変速機8と連結されている。K0クラッチ6を分離状態にすることで、エンジン4は自動変速機8から切り離される。
【0045】
自動車1の走行中、K0クラッチ6は、接続状態と分離状態との間で切り替えられる。例えば、自動車1の減速時には、K0クラッチ6を分離状態にし、エンジン4を切り離した状態での回生が行われる場合がある。例えば後述の協調回生制御では、モータ5は、第1クラッチとしてのK0クラッチ6を切り離した状態で、回生動作を行うことができるようになっている。また、第2クラッチとしてのK1クラッチ8dは、協調回生制御の実行時には締結されるようになっている。
【0046】
モータ5は、インバータ7及び高電圧ケーブル40を介して、駆動電源として車載されている高電圧バッテリ9と接続されている。この自動車1の場合、高電圧バッテリ9は、定格電圧が50V以下、具体的には48Vの直流バッテリが用いられている。
【0047】
高電圧バッテリ9は、インバータ7に高電圧の直流電流を供給する。インバータ7は、その直流電力を3相の交流に変換してモータ5に通電する。それにより、モータ5が回転駆動する。また、モータ5は、回生エネルギを、高電圧バッテリ9へ供給する。
【0048】
高電圧バッテリ9は、高電圧ケーブル40を介してDCDCコンバータ10とも接続されている。DCDCコンバータ10は、48Vの高電圧の直流電圧を、12Vの低電圧の直流電力に変換して出力する。DCDCコンバータ10(その出力側)は、低電圧ケーブル41を介して低電圧バッテリ11(いわゆる鉛蓄電池)と接続されている。
【0049】
低電圧バッテリ11は、低電圧ケーブル41を介して様々な電装品と接続されている。DCDCコンバータ10はまた、低電圧ケーブル41を介してCAN12(Controller Area Network)とも接続されている。それにより、DCDCコンバータ10はCAN12に低電圧の直流電力を供給する。
【0050】
自動変速機8は、油圧制御式の多段式自動変速機(いわゆるAT)である。この自動変速機8は、エンジン4に接続される入力軸8a、及び、自動車1の駆動輪(後輪2R)に接続される出力軸8bを有している。この自動変速機8は、入力軸8aに入力された回転を、乗員によって選択された変速段に対応する変速比で変速させて出力することができる。
【0051】
詳しくは、入力軸8aは、自動変速機8の前端部に配置されている。この入力軸8aは、上述したようにモータ5のシャフト5aと連結されている。出力軸8bは、自動変速機8の後端部に配置されている。この出力軸8bは、入力軸8aから独立した状態で回転する。
【0052】
これら入力軸8aと出力軸8bとの間には、トルクコンバータ8c、複数の遊星歯車機構、及び複数の摩擦締結要素などからなる変速機構が組み込まれている。各摩擦締結要素は、油圧によって締結状態と非締結状態とに切り替わる。
【0053】
図2に、この自動変速機8の締結表を示す。表中の丸印は締結を示している。この自動変速機8には、摩擦締結要素として、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、及び、第3クラッチCL3からなる3つのクラッチと、第1ブレーキBR1及び第2ブレーキBR2からなる2つのブレーキとが組み込まれている。自動変速機8はまた、これらの摩擦締結要素を締結状態(接続状態)と非締結状態(分離状態)とに切り替えるための第2油圧回路8e(図3Aにのみ示す)を有している。
【0054】
自動変速機8は、第2油圧回路8eによる油圧制御により、これら3つのクラッチと2つのブレーキとの中から3つの要素を選択して締結する。そうすることにより、自動変速機の変速段は、1速から8速までの前進用の変速段、及び、後退用の変速段(後退速)のいずれかに切り替わる。
【0055】
具体的に、第1クラッチCL1、第1ブレーキBR1及び第2ブレーキBR2の締結により、1速が形成される。第2クラッチCL2、第1ブレーキBR1及び第2ブレーキBR2の締結により、2速が形成される。第1クラッチCL1、第2クラッチCL2及び第2ブレーキBR2の締結により、3速が形成される。第2クラッチCL2、第3クラッチCL3及び第2ブレーキBR2の締結により、4速が形成される。第1クラッチCL1、第3クラッチCL3及び第2ブレーキBR2の締結により、5速が形成される。第1クラッチCL1、第2クラッチCL2及び第3クラッチCL3の締結により、6速が形成される。第1クラッチCL1、第3クラッチCL3及び第1ブレーキBR1の締結により、7速が形成される。第2クラッチCL2、第3クラッチCL3及び第1ブレーキBR1の
締結により、8速が形成される。第3クラッチCL3、第1ブレーキBR1及び第2ブレーキBR2の締結により、後退速が形成される。
【0056】
そして、例えば1速からシフトアップする場合、第1クラッチCL1に代えて第2クラッチCL2を締結することで、変速段は1速から2速に切り替わる。第1ブレーキBR1に代えて第1クラッチCL1を締結することで、変速段は2速から3速に切り替わる。第1クラッチCL1に代えて第3クラッチCL3を締結することで、変速段は3速から4速に切り替わる。
【0057】
5速以降へのシフトアップも、これらと同様に行われる。シフトダウンする場合は、シフトアップでの切り替えと逆の手順になる。
【0058】
各変速段において締結されるべき要素が締結されないと、入力軸8aと出力軸8bとの間が切り離された状態になる(いわゆるニュートラル)。自動変速機8に駆動源から回転動力が入力されても、その回転動力は自動変速機8から出力されない。
【0059】
本実施形態の場合、自動車1の減速中に第2クラッチCL2又は第3クラッチCL3が開放されることにより、自動変速機8がニュートラルにされる場合がある。具体的に自動変速機8が2速、3速、又は、4速の状態では、第2クラッチCL2が開放されることにより自動変速機8はニュートラルになる。また、自動変速機8が5速、6速、7速、又は、8速の状態では、第3クラッチCL3が開放されることにより自動変速機8はニュートラルになる。
【0060】
以下の説明において、これら第2クラッチCL2及び第3クラッチCL3を総称して、K1クラッチ8dと呼ぶ場合がある(図3Aを参照)。自動車1の減速中に、K1クラッチ8dを開放するとは、自動変速機8の入力軸8aと出力軸8bとの間の動力伝達を遮断して、自動変速機8をニュートラルにする意味である。
【0061】
図1に示すように、自動変速機8の出力軸8bは、車体の前後方向に延びるプロペラシャフト15を介してデファレンシャルギア16に連結されている。デファレンシャルギア16には、車幅方向に延びて、左右の後輪2R,2Rに連結された一対の駆動シャフト17,17が連結されている。プロペラシャフト15を通じて出力される回転動力は、デファレンシャルギア16で振り分けられた後、これら一対の駆動シャフト17,17を通じて各後輪2Rに伝達される。一対の駆動シャフト17,17は、モータ5及び駆動輪(左右の後輪2R,2R)の間に介在する「車軸」として機能する。
【0062】
自動車1の走行中、K1クラッチ8dは、接続状態と分離状態との間で切り替えられる。ここで、K1クラッチ8dの接続状態は、モータ5と、駆動輪としての一対の駆動シャフト17,17を相互に締結した状態である。K1クラッチ8dの分離状態は、その締結を開放した状態(切り離した状態)である。
【0063】
K1クラッチ8dは、本実施形態における「第2クラッチ」として機能する。第2クラッチとしてのK1クラッチ8dの接続状態及び分離状態の切り替えは、上述したように、第2油圧回路8eによる油圧制御によって行われるようになっている。
【0064】
(ハイブリッド車両の制御装置)
図3Aは、ハイブリッド車両の制御装置のブロック図である。自動車1には、ドライバーの操作に応じて、エンジン4、モータ5、K0クラッチ6、自動変速機8、摩擦ブレーキシステム3などを制御し、自動車1の走行をコントロールするために、上述したコントローラ20が設置されている。
【0065】
コントローラ20は、プロセッサ、メモリ、インターフェースなどのハードウエアと、データベースや制御プログラムなどのソフトウエアとで構成されている。なお、図3Aの制御装置には、一つのコントローラ20が示されているが、制御装置のコントローラは、駆動源(エンジン4及びモータ5)の作動を主に制御するユニット(PCM)と、K0クラッチ6及び自動変速機8の作動を主に制御するユニット(TCM)とに分かれていてもよい。PCM及びTCMは、CAN12によって接続されていて、互いに電気通信可能に構成される。PCMはさらに、摩擦ブレーキシステム3を制御するためのブレーキECUを兼ねている。なお、PCMからブレーキECUを分離してもよい。コントローラ20は、本実施形態における「制御手段」として機能する。
【0066】
ハイブリッド車両の制御装置は、車両の走行に関係する各種のパラメータを計測するセンサと、ドライバーによる操作を検出するスイッチと、を備えている。具体的に、変速制御装置は、車速センサ51、操舵角センサ52、ブレーキペダルセンサ53、アクセル開度センサ54、エンジン回転センサ55、モータ回転センサ56、及び、A/Cスイッチ71を備えている。
【0067】
車速センサ51は、自動車の車速に対応する信号を出力する。操舵角センサ52は、ドライバーが操作をするステアリングホイール110(図1参照)の回転角、つまり操舵角(ステアリング舵角)に対応する信号を出力する。
【0068】
ブレーキペダルセンサ53は、ドライバーが操作をするブレーキペダル19(図1参照)の踏み込みに対応する信号を出力する。アクセル開度センサ54は、ドライバーが操作をするアクセルペダル18(図1参照)の踏み込みに対応する信号を出力する。
【0069】
エンジン回転センサ55は、エンジン4の出力回転数(エンジン回転数)、つまりクランクシャフト4aの回転数に対応する信号を出力する。モータ回転センサ56は、モータ5の出力回転数(モータ回転数)、つまり、モータ5のシャフト5aの回転数であってかつ自動変速機8の入力軸8aの回転数に対応する信号を出力する。
【0070】
A/Cスイッチ71は、図3Aにのみ示すエア・コンディショナー72(Air Conditioner:エアコン)をON状態とOFF状態とに切り替えるためのスイッチである。A/Cスイッチ71は、エアコン72をON状態にするべくドライバーによってオン操作されたときに、そのオン操作に対応した信号を出力する。
【0071】
コントローラ20は、これらのセンサ及びスイッチが出力した信号を、CAN12を介して受ける。コントローラ20は、CAN12を通じて、エンジン4、インバータ7、第1油圧回路13、第2油圧回路8e、エアコン72及び摩擦ブレーキシステム3へ制御信号を出力する。これにより、コントローラ20は、エンジン4、モータ5、K0クラッチ6、自動変速機8、エアコン72及び摩擦ブレーキシステム3を制御する。
【0072】
例えば、コントローラ20は、エアコン72をON状態にするためのオン操作がA/Cスイッチ71に対してなされたときに、エンジン4の駆動力を利用してエアコン72のコンプレッサを作動させる。
【0073】
その他、コントローラ20は、自動車1の制動を行うために摩擦ブレーキシステム3を制御する。図3Bは、摩擦ブレーキシステム3のブロック図である。図3Bに示す摩擦ブレーキシステム3は、ドライバーによるブレーキペダル19操作時に制動を実現するように、ブレーキペダル19の操作に応じて自動車1の前輪2F及び後輪2Rに制動力を分配する。この摩擦ブレーキシステム3は、液圧制御式の摩擦ブレーキシステムである。
【0074】
図3Bに示すように、摩擦ブレーキシステム3は、上述した4つの摩擦ブレーキ31(図3Bでは1つのみ図示)と、マスタシリンダ32と、ブレーキ機構33と、を備えている。
【0075】
マスタシリンダ32は、ブレーキペダル19に作用した踏力をブレーキ液に伝達し、該ブレーキ液の液圧に変換する。ブレーキ機構33は、後述のコントローラ20からの電気信号を受けて液圧回路を切り替える。
【0076】
そして、ブレーキ機構33が液圧回路を切り替えることで、前後の摩擦ブレーキ31に作用する液圧が制御される。液圧の高低は、摩擦ブレーキ31が分配する制動力の高低と対応している。すなわち、液圧が低いときには、該液圧が高いときと比べて制動力は低くなる。
【0077】
摩擦ブレーキシステム3における液圧の高低を判断すべく、本実施形態に係るコントローラ20には、ブレーキ液圧センサ57が電気的に接続されている(図3Aにのみ図示)。このブレーキ液圧センサ57は、摩擦ブレーキシステム3における液圧を検出し、その検知結果を示す信号をコントローラ20に入力する。
【0078】
そして、本実施形態に係るコントローラ20は、ブレーキペダル19の操作時の車両減速中に、ドライバーの要求制動力の一部を、モータ5の回生制動トルクによって賄う協調回生制御(第1回生制御)を実行する。この場合、モータ5の回生制動トルクの分だけ、摩擦ブレーキ31の液圧は下げられる。
【0079】
この協調回生制御は、摩擦ブレーキシステム3による制動力の分配と、モータ5による回生動作(より詳細には、モータ5に回生動作をさせることによる後輪2Rへの回生制動トルクの付与)と、の協調によって制動を行うように構成されている。
【0080】
協調回生制御は、K0クラッチ6を切り離した状態で実行することができる。K0クラッチ6を切り離した状態で協調回生制御を行わせることで、エンジンブレーキに妨げられることなく、モータ5に回生動作を行わせることができる。これにより、モータ5による発電量をより多く確保することができる。
【0081】
そして、本実施形態に係るコントローラ20は、協調回生制御中にエンジン4の再始動が要求された場合には、複数の処理から構成された再始動制御を行うことができる。以下、この再始動制御に関連した処理を含め、コントローラ20が行う全般的な処理について説明する。
【0082】
(全般的な処理)
図4は、エンジン4に係る処理を例示するフローチャートである。また、図5は、モータ5及びブレーキ(摩擦ブレーキシステム3)に係る処理を例示するフローチャートである。図4の制御プロセスと、図5の制御プロセスは、1つずつ順番に行われるものではなく、双方が略同時に進行するように構成されている。
【0083】
まず、図4のステップS11において、コントローラ20は、各種のセンサ及びスイッチからの入力を読み込む。続くステップS12において、コントローラ20は、ドライバーがアクセルペダル18を踏んでいるか否かを判断する。この判断は、アクセル開度センサ54の信号に基づいて行われる。
【0084】
ステップS12の判断がYesの場合、つまり、ドライバーがアクセルペダル18を踏んでいる場合、コントローラ20は、制御プロセスをステップS13へ進める。ステップS12の判断がNoの場合、つまり、ドライバーがアクセルペダル18を踏んでいない場合、コントローラ20は、制御プロセスをステップS16へ進める。
【0085】
なお、ステップS11の内容は、図5のステップS31と同一である。ステップS12の内容は、図5のステップS32と同一である。説明の便宜上、ステップS11及びステップS31と、ステップS12及びステップS32と、をそれぞれ独立したフローチャート上に示しているが、各ステップは、独立した処理として行われるものではなく、エンジン4、モータ5及び摩擦ブレーキシステム3に共通の処理として行われるようになっている。
【0086】
例えば、ステップS32の判断がYesの場合、つまり、ドライバーがアクセルペダル18を踏んでいる場合、コントローラ20は、制御プロセスをステップS33へ進める。ステップS32の判断がNoの場合、つまり、ドライバーがアクセルペダル18を踏んでいない場合、コントローラ20は、制御プロセスをステップS36へ進める。
【0087】
(加速要求時の処理)
図4のステップS13~ステップS15、及び、図5のステップS31~ステップS33の処理は、主に、自動車1の加速要求時に行われる処理である。すなわち、ステップS13及びステップS23に進んだ場合、コントローラ20は、自動車1を加速すべきと判断し、その判断に対応した制御を実行する。
【0088】
具体的に、図4のステップS13において、コントローラ20は、K0クラッチ6と、K1クラッチ8dを双方とも締結する。この締結は、コントローラ20が第1油圧回路13及び第2油圧回路8eを制御することで実行される。なお、K0クラッチ6及びK1クラッチ8dが双方とも締結済みの場合、コントローラ20は、その締結を保持する。
【0089】
ステップS14において、コントローラ20は、アクセルペダル18の踏み込み量、及び、現時点での車速等に基づいて、エンジン4及びモータ5全体に発揮させる駆動力を決定する。この判断は、アクセル開度センサ54の信号、及び、車速センサ51の信号等に基づいて行われる。さらに、コントローラ20は、上述のように決定された駆動力に基づいて、エンジン4に発揮させるべき駆動力を決定する。
【0090】
その後、ステップS15において、コントローラ20は、ステップS14で決定された駆動力を実現するように燃料の噴射量等を決定し、そうして決定された各種パラメータに基づいてエンジン4を制御する。
【0091】
対して、図5のステップS33の内容は、上述したステップS13と同一である。説明の便宜上、ステップS33及びステップS13を独立したフローチャート上に示しているが、各ステップは、独立した処理として行われるものではなく、エンジン4、モータ5及び摩擦ブレーキシステム3に共通の処理として行われるようになっている。
【0092】
その後、ステップS33から続くステップS34において、コントローラ20は、アクセルペダル18の踏み込み量、及び、現時点での車速等に基づいて、エンジン4及びモータ5全体に発揮させる駆動力を決定する。この処理は、上述したステップS14の処理と共通である。さらに、コントローラ20は、上述のように決定された駆動力に基づいて、モータ5に発揮させるべき駆動力を決定する。
【0093】
その後、ステップS35において、コントローラ20は、ステップS34で決定された駆動力を実現するようにモータ5の制御パラメータを決定し、そうして決定された各種パラメータに基づいてモータ5を力行動作させる。
【0094】
(非加速要求時かつブレーキペダル非操作時の処理)
図4のステップS16~ステップS25、及び、図5のステップS36~ステップS45の処理は、主に、自動車1の非加速要求時(特に、車両減速時)に行われる処理である。ステップS16及びステップS36に進んだ場合、コントローラ20は、ブレーキペダル19の操作状況等に応じた処理を実行する。以下、ブレーキペダル19を踏んでない場合(ブレーキペダル19の非操作時)の非加速要求時に行われる処理を中心に説明する。
【0095】
まず、エンジン4に関連した制御プロセスは、アクセルペダル18が踏まれていない非加速要求時に、図4のステップS16に進む。このステップS16において、コントローラ20は、エアコン72がオフ状態であるか否かを判断する。この判断は、A/Cスイッチ71の信号に基づいて行われる。
【0096】
ステップS16の判断がYesの場合、つまり、エアコン72がオフ状態にある場合(エアコン72が駆動していない場合)、コントローラ20は、制御プロセスをステップS17へ進める。ステップS16の判断がNoの場合、つまり、エアコン72がオン状態にある場合、コントローラ20は、制御プロセスをステップS18へ進める。
【0097】
また、ステップS16から続くステップS17において、コントローラ20は、ドライバーがブレーキペダル19を踏んでいるか否かを判断する。この判断は、ブレーキペダルセンサ53の信号に基づいて行われる。ステップS17の判断がYesの場合、つまり、ドライバーがブレーキペダル19を踏んでいる場合、プロセスはステップS22へ進む。ステップS17の判断がNoの場合、つまり、ドライバーがブレーキペダル19を踏んでいない場合、プロセスはステップS18へ進む。
【0098】
ステップS22へ進んだ場合、エンジン4側では燃料噴射が停止される一方、モータ5及び摩擦ブレーキシステム3側では、車速次第で協調回生制御が実行される。この制御は、A/Cスイッチ71の操作状況次第では、K0クラッチ6が開放された状態で行われるようになっている。
【0099】
一方、ステップS22ではなくステップS18に進んだ場合、自動車1は、ブレーキペダル19の操作時よりも緩慢に減速することになる。この場合、コントローラ20は、エンジンストールの抑制等を考慮した処理を実行する。
【0100】
具体的に、ステップS18において、コントローラ20は、エンジン回転数(Ne)が、所定の第1閾値(N1)よりも大きいか否か(Ne>N1?)を判断する。この判断は、エンジン回転センサ55の信号に基づいて行われる。
【0101】
ここで、ステップS18の判断がYesの場合、つまり、エンジン回転数が第1閾値よりも大きい場合、コントローラ20は、制御プロセスをステップS19に進める。ステップS19に進んだ場合、コントローラ20は、エンジン4の燃料噴射を停止させた後、制御プロセスをステップS20へ進める。
【0102】
一方、ステップS18の判断がNoの場合、つまり、エンジン回転数が第1閾値以下の場合、コントローラ20は、制御プロセスにステップS19をスキップさせて、これをステップS20へ進める。この場合、コントローラ20は、エンジン4の燃料噴射を継続させることになる。これにより、減速に伴うエンジンストールを抑制することができる。
【0103】
ステップS20において、コントローラ20は、モータ回転数(Nm)が、所定の第2閾値(N2)よりも小さいか否か(Nm<N2?)を判断する。この判断は、モータ回転センサ56の信号に基づいて行われる。
【0104】
ここで、ステップS20の判断がYesの場合、つまり、モータ回転数が第2閾値よりも小さい場合、コントローラ20は、制御プロセスをステップS21に進める。ステップS21に進んだ際、上述したステップS19において燃料噴射が停止されてた場合には、コントローラ20は、燃料噴射も再開させる。図5のステップS40にも示したように、コントローラ20は、燃料噴射の再開に併せてK1クラッチ8dをスリップさせる。このように制御することで、エンジンストールを抑制することができる。
【0105】
一方、ステップS20の判断がNoの場合、つまり、モータ回転数が第2閾値以上の場合、コントローラ20は、ステップS21をスキップして制御プロセスをリターンする。
【0106】
対して、モータ5及び摩擦ブレーキシステム3に関連した制御プロセスは、非加速要求時に、図5のステップS36に進む。このステップS36において、コントローラ20は、自動車1の車速(Vv)が、所定の第1速度(V1)よりも大きいか否か(Vv<V1?)を判断する。この判断は、車速センサ51の信号に基づいて行われる。
【0107】
ステップS36の判断がYesの場合、つまり、車速が第1速度よりも大きい場合、コントローラ20は、制御プロセスをステップS35の後段に進める。この場合、特段の処理を行うことなく、制御プロセスはリターンする。
【0108】
一方、ステップS36の判断がNoの場合、つまり、ドライバーがブレーキペダル19を踏んでいない場合、プロセスはステップS37へ進む。このステップS37において、コントローラ20は、ドライバーがブレーキペダル19を踏んでいるか否かを判断する。この判断は、ブレーキペダルセンサ53の信号に基づいて行われる。
【0109】
ステップS37の判断がYesの場合、つまり、ドライバーがブレーキペダル19を踏んでいる場合、プロセスはステップS41へ進む。ステップS37の判断がNoの場合、つまり、ドライバーがブレーキペダル19を踏んでいない場合、プロセスはステップS38へ進む。
【0110】
ステップS41へ進んだ場合、モータ5及び摩擦ブレーキシステム3側では、協調回生制御が実行される一方、エンジン4側では、A/Cスイッチ71の操作状況に応じて燃料噴射が停止される。これらの制御は、K0クラッチ6を開放した状態で行うことができる。
【0111】
一方、ステップS42ではなくステップS38に進んだ場合、自動車1は、ブレーキペダル19の操作時よりも緩慢に減速することになる。この場合、コントローラ20は、エンジンストールの抑制等を考慮した処理を実行する。
【0112】
具体的に、ドライバーがブレーキペダル19を踏んでいない減速時に進むステップS38では、コントローラ20は、エンジンブレーキに相当する回生制動を行う第2回生制御を開始する。
【0113】
この第2回生制御は、摩擦ブレーキシステム3が前輪2F及び後輪2Rへ制動力を付与していない自動車1の減速中に行われる回生制御であって、モータ5に回生動作をさせることによって、後輪2Rへ回生制動トルクを付与する所謂「モータ回生」である。
【0114】
コントローラ20は、ステップS38において第2回生制御を開始した後、モータ回転数をモニタする。具体的に、ステップS38から続くステップS39において、コントローラ20は、モータ回転数(Nm)が、所定の第2閾値(N2)よりも小さいか否か(Nm<N2?)を判断する。この判断は、モータ回転センサ56の信号に基づいて行われる。
【0115】
ここで、ステップS39の判断がYesの場合、つまり、モータ回転数が第2閾値よりも小さい場合、コントローラ20は、制御プロセスをステップ40に進める。ステップS40に進んだ場合、コントローラ20は、K1クラッチ8dをスリップさせる(K1スリップ)。それに加え、コントローラ20は、上述したステップS38で開始した第2回生制御(モータ回生)を終了させる。このように制御することで、エンジンストールが回避される。
【0116】
一方、ステップS39の判断がNoの場合、つまり、モータ回転数が第2閾値以上の場合、コントローラ20は、ステップS40をスキップして制御プロセスをリターンする。
【0117】
(非加速要求時かつブレーキペダル操作時の処理)
ブレーキペダル19を踏んでいる場合(ブレーキペダル19の操作時)の非加速要求時には、制御プロセスは、図4のステップS22、及び、図5のステップS41へ進む。以下、これらの場合における処理について説明する。
【0118】
まず、エンジン4の制御プロセスに対応したステップS22では、コントローラ20は、エンジン4の燃料噴射を停止させる。これにより、エンジン回転数はゼロに至る。コントローラ20は、燃料噴射の停止と並行して、必要に応じてK0クラッチ6を開放した状態で、モータ5及び摩擦ブレーキシステム3を介して上述の協調回生制御を実行する。
【0119】
その後、コントローラ20は、エンジン4の燃料噴射を停止させつつ、モータ5及び摩擦ブレーキシステム3による協調回生制御を継続する。
【0120】
その後、ステップS22から続くステップS23において、コントローラ20は、協調回生制御中にエンジン4の始動が要求されたか否かを判断する。
【0121】
具体的に、本実施形態に係るコントローラ20は、協調回生制御中に操舵角(ステアリング舵角)が所定値(α)を超えたとき、又は、協調回生制御中にA/Cスイッチ(エアコンスイッチ)71がオンになったときに、エンジン4の始動が要求されたと判断する。前者の判断は、操舵角センサ52の信号に基づいて行われる。
【0122】
ここで、ステップS23の判断がYesの場合、コントローラ20は、制御プロセスをステップS24へ進める。この場合、モータ5及び摩擦ブレーキシステム3側の制御プロセスも、ステップS24に対応した図5のステップS45に進むようになっている。
【0123】
ステップS24において、コントローラ20は、エンジン4、モータ5及び摩擦ブレーキシステム3の三者が協調した再始動制御を実行する。コントローラ20は、この再始動制御が完了次第、制御プロセスをリターンする。
【0124】
対して、ステップS23の判断がNoの場合、制御プロセスは、ステップS24をスキップしてリターンする。この場合、再始動制御は行われない。
【0125】
一方、モータ5及び摩擦ブレーキシステム3の制御プロセスに対応したステップS41では、コントローラ20は、エアコン72がオフ状態であるか否かを判断する。この判断は、A/Cスイッチ71がオン操作を受け付けたか否か、ひいてはA/Cスイッチ71の信号に基づいて行われる。
【0126】
ステップS41の判断がYesの場合、つまり、エアコン72がオフ状態にある場合(エアコン72が駆動していない場合)、コントローラ20は、制御プロセスをステップS42へ進める。このステップS42において、コントローラ20は、K0クラッチ6を開放する。これにより、エンジン4とモータ5との間の動力伝達が遮断される。ステップS42に係る処理が完了すると、コントローラ20は、制御プロセスをステップS43へ進めて協調回生制御を開始する。
【0127】
一方、ステップS41の判断がNoの場合、つまり、エアコン72がオン状態にある場合(A/Cスイッチ71がオン操作を受け付けたとき)、制御プロセスは、ステップS42をスキップしてステップS43に進む。つまり、ブレーキペダル19が踏み込まれてかつA/Cスイッチ71がオン操作を受け付けたとき、コントローラ20は、K0クラッチ6を開放せずに協調回生制御を開始することになる。
【0128】
ステップS43において、コントローラ20は、ドライバーの要求制動力の一部をモータ5の回生制動トルクによって賄う協調回生制御を実行する。なお、モータ5の回生制動トルクの分だけ、摩擦ブレーキ31の液圧は下げられる。摩擦ブレーキ31の液圧が下がった分、摩擦ブレーキシステム3に起因した制動力が減少する。
【0129】
その後、ステップS43から続くステップS44において、コントローラ20は、協調回生制御中にエンジン4の始動が要求されたか否かを判断する。
【0130】
なお、ステップS44の内容は、図4のステップS23と同一である。説明の便宜上、ステップS44及びステップS23を独立したフローチャート上に示しているが、各ステップは、独立した処理として行われるものではなく、エンジン4、モータ5及び摩擦ブレーキシステム3に共通の処理として行われるようになっている。
【0131】
ここで、ステップS44の判断がYesの場合、コントローラ20は、制御プロセスをステップS45へ進めて再始動制御を実行する。コントローラ20は、この再始動制御が完了次第、制御プロセスをリターンする。
【0132】
対して、ステップS44の判断がNoの場合、制御プロセスは、ステップS45をスキップしてリターンする。この場合、再始動制御は行われない。
【0133】
(再始動制御)
図6は、再始動制御に関連した処理を例示するフローチャートである。まず、図6のステップS51において、コントローラ20は、協調回生制御による制動から、摩擦ブレーキシステム3のみによる制動へと移行させる第1処理を実行する。コントローラ20は、協調回生制御による制動から、摩擦ブレーキ31のみによる制動へとすり替える。このすり替えが行われた場合、要求制動力は、それまでモータ5の回生制動トルクによって賄われていた分も含め、全て摩擦ブレーキシステム3によって賄われることになる。
【0134】
具体的に、ステップS51において、コントローラ20は、モータ5の回生制動トルクによって賄っていた分を補償するように、摩擦ブレーキ31による制動力を高める。コントローラ20は、モータ5の回生制動トルクの分だけ、摩擦ブレーキ31の液圧を高める。摩擦ブレーキ31の液圧が高めた分、摩擦ブレーキシステム3に起因した制動力が増加する。
【0135】
ただし、摩擦ブレーキ31の液圧は、瞬時には調整されない。そこで、ステップS51から続くステップS52において、コントローラ20は、摩擦ブレーキシステム3のみによる制動への移行が完了したか否かを判断する。この判断は、ブレーキ液圧センサ57の信号に基づいて行われる。
【0136】
続くステップS53~S55においてて、コントローラ20は、摩擦ブレーキシステム3のみによる制動への移行が完了した後、K0クラッチ6の締結を開始しつつモータ5に力行動作又は回生動作をさせることによって、エンジン回転数を上昇させる第2処理を実行する。
【0137】
具体的に、ステップS53において、コントローラ20は、K0クラッチ6が開放中か否かを判断する。この判断がYesの場合、コントローラ20は、ステップS54を経由してステップS55へと制御プロセスを進める。一方、ステップS53の判断がNoの場合、コントローラ20は、ステップS54をスキップしてステップS55へと制御プロセスを進める。
【0138】
ステップS54において、コントローラ20は、第1油圧回路13してK0クラッチ6の締結を開始する。K0クラッチ6は、スリップしながら締結されていくことになる。
【0139】
ステップS54を経由したことでK0クラッチ6が次第に締結されていくこと、又は、ステップS54をスキップしたケースのようにK0クラッチ6が既に締結中であることで、モータ5によってクランクシャフト4aが回転駆動されることになる。その際、モータ5の回生動作をクランクシャフト4aに伝達させることによってエンジン回転数を上昇させてもよいし、モータ5の力行動作をクランクシャフト4aに伝達させることによってエンジン回転数を上昇させてもよい。
【0140】
なお、エンジン4との締結は、モータ5にとって回転抵抗となる。ゆえに、K0クラッチ6が締結されてエンジン回転数が上昇を開始すると、モータ回転数、ひいては車速は、徐々に減少していくことになる。そこで、エンジン回転数の上昇に伴ってモータ5に力行動作をさせることで、モータ5の出力トルクを徐々に上昇させてもよい。
【0141】
これにより、ステップS54から続くステップS55に示すように、モータ5の回転をエンジン4に伝達させることによるエンジン始動(エンジン回転数の立ち上げ)が開始される。なお、ステップS55に際し、モータ5は、自動車1の走行駆動力を出力するための駆動力制御ではなく、エンジン回転数を立ち上げるための始動制御に用いられるようになっている。
【0142】
その後、コントローラ20は、K0クラッチ6の締結が開始された後、エンジン回転数がモータ回転数に一致するまで上昇した以降のタイミングで、エンジン4に運転を再開させる第3処理を実行する。
【0143】
具体的に、ステップS55から続くステップS56において、コントローラ20は、エンジン回転数がモータ回転数に一致したか否か(Ne=Nm?)を判断する。この判断は、エンジン回転センサ55及びモータ回転センサ56の信号に基づいて行われる。
【0144】
ステップS56の判断がYesの場合、コントローラ20は制御プロセスをステップS59へ進む。ステップS59において、コントローラ20は、エンジン4の始動が完了したものと判断する。
【0145】
一方、ステップS56の判断がNoの場合、コントローラ20は、制御プロセスをステップS57へ進める。ステップS57において、コントローラ20は、モータ回転数が所定の第2閾値(N2)を下回ったか否か(Nm<N2?)を判断する。この判断は、モータ回転センサ56の信号に基づいて行われる。
【0146】
ステップS57の判断がNoの場合、コントローラ20は、続くステップS58をスキップして上述のステップS56へ戻るように制御プロセスを進める。つまり、ステップS57の判断は、エンジン回転数がモータ回転数に一致するまで繰り返し行われるようになっている。
【0147】
一方、ステップS57の判断がYesの場合、コントローラ20は、制御プロセスをステップS58へ進める。ステップS58において、コントローラ20は、車軸とモータ5との動力伝達を遮断又は緩和すべく、K1クラッチ8dをスリップさせる(K1スリップ)。
【0148】
このように、コントローラ20は、第2処理においてK0クラッチ6の締結が開始された後に、モータ5の出力回転数が所定回転数としての第2閾値未満に低下した際には、K1クラッチ8dをスリップさせるように構成されている。
【0149】
ステップS56の判断がYesの場合に続くステップS59では、上述のようにエンジン4の始動が完了したと判断される。そこで、続くステップS60において、コントローラ20は、エンジン4の燃料噴射を再開させる。これにより、エンジン4の運転が再開する。
【0150】
ステップS60において、エンジン4及びモータ5は、互いに協調することで、自動車1の走行駆動力を出力する。その際、コントローラ20は、ブレーキペダル19の踏み込み量に対応した減速度を実現するように、エンジン4及びモータ5を制御する。しかしながら、過度又は長期の減速は、エンジンストールを招く可能性がある。
【0151】
そこで、コントローラ20は、ステップS60から続くステップS61において、自動車1のアイドル制御を実行する。具体的に、このステップS61において、コントローラ20は、エンジン回転数及びモータ回転数が所定のアイドル回転数(例えば、前記第2回閾値)を下まわったか否か(Ne<N2? or Nm<N2?)を判断し、この判断がYesの場合に、K1クラッチ8dを開放又はスリップさせる。
【0152】
コントローラ20はさらに、K1クラッチ8dの開放又はスリップに加えてエンジン4及びモータ5の出力トルクを調整することで、エンジン回転数又はモータ回転数を前記所定回転数以上に保持する。その際、コントローラ20は、エンジン4の燃料噴射量を増量してもよい。また、燃料噴射量の増量に加えて、モータ5の力行動作を強めたり、モータ5の回生動作を弱めたりすることによって、アイドル制御をアシストしてもよい。
【0153】
このように、コントローラ20は、第3処理において、エンジン4の出力回転数をモータ5の出力回転数に一致させた後(例えばエンジン4に運転を再開させた後)、エンジン4及びモータ5の出力回転数が所定のアイドル回転数未満に低下した場合には、K1クラッチ8dを開放又はスリップさせるとともに、エンジン4及びモータ5の出力回転数がアイドル回転数以上に上昇させるようにエンジン4をアイドル制御する。
【0154】
(制御例)
次に、図7のタイムチャートを参照しながら、第1処理、第2処理及び第3処理を説明する。このタイムチャートには、協調回生フラグと、操舵角フラグと、再始動フラグと、アクセルペダル18の操作状況と、ブレーキペダル19の操作状況と、車速の変化と、モータ回転数の変化と、エンジン回転数の変化と、が含まれている。
【0155】
ここで、協調回生フラグは、協調回生制御を実行すべきと判断されるときに1となる。操舵角フラグは、操舵角センサの信号が検出されたとき(ステアリングホイール110が操作されたとき)に1となる。再始動フラグは、再始動制御を実行すべきと判断されるときに1となる。アクセルペダル18の操作状況は、アクセルペダル18の操作時にONとなり、非操作時にOFFとなる。アクセルペダル18の操作状況は、ブレーキペダル19の操作時にONとなり、非操作時にOFFとなる。
【0156】
まず、アクセルペダル18の非操作時(つまり、自動車1の減速時)に、時刻t0で、ブレーキペダル19が踏み込まれたものとする。この場合、時刻t0よりも前の時刻では、エンジン4が停止(燃料噴射停止)していることから、エンジン回転数はゼロとなる。
【0157】
そして、エンジン4が停止中であることと、ブレーキペダル19が踏み込まれたこととが相まって、車速は比較的急峻に減少する。この場合、協調回生フラグが1となり、協調回生制御が開始される。モータ5と摩擦ブレーキシステム3との協調によって全要求制動力が実現されると同時に、モータ5による発電が行われる。
【0158】
その後、時刻t1で、ドイバーがステアリングホイール110を操作したものとする。この操作によって、エンジン4の再始動が要求されたものと判断される。この判断に基づいて、操舵角フラグが1となり、モータ5と摩擦ブレーキシステム3との協調による制動から、摩擦ブレーキシステム3のみによる制動へと切り替えられる(第1処理)。
【0159】
その後、時刻t2で制動の切り替えが完了したものとする。そのことを受けて、再始動フラグが1となる。再始動フラグが1となってK0クラッチ6の締結が開始され、モータ5からの動力を受けて、エンジン回転数が上昇を開始する(第2処理)。エンジン回転数の上昇に伴って、モータ回転数は低下し続けることになる。
【0160】
その後、時刻t3でモータ回転数が前記第2閾値を下まわったときには、K1クラッチ8dのスリップが行われる。K1クラッチ8dをスリップさせたことで、モータ回転数が上昇に転じ、第2閾値以上に保たれるようになっている。
【0161】
ここで、時刻t2と時刻t3との前後関係から明らかなように、本実施形態では、K1クラッチ8dのスリップは、摩擦ブレーキシステム3のみによる制動への切替が完了した後に行われるようになっている。
【0162】
従来知られた構成のように、K1クラッチ8dをスリップさせるタイミングと、制動の切替を行うタイミングと、を関連付けなかった場合、制動の切替が完了しないままK1クラッチ8dをスリップさせる可能性があった。この場合、モータ5と後輪2Rとの動力伝達が抑制された状態で回生動作が行われることになるため、モータ5の出力トルク(回生制動トルク)が後輪2Rまで十分に伝達せず、G抜けが発生する可能性があった。
【0163】
一方、本実施形態の場合、制動の切替が終了した後にK1クラッチ8dをスリップさせることになる。これにより、回生制動トルクの付与を終えた状態(例えば、回生制動トルクを略ゼロまで減少させた状態)で、K1クラッチ8dがスリップを開始することになる。そのことで、G抜けの発生を抑制することができる。
【0164】
その後、時刻t4においてエンジン回転数とモータ回転数とが一致すると、コントローラ20が、エンジン4の再始動を完了する。その後、コントローラ20は、エンジン4の燃料噴射を再開することで、該エンジン4の運転を再開させる(第3処理)。
【0165】
(制動切替とエンジン再始動との協調関係について)
以上説明したように、本実施形態によると、摩擦ブレーキシステム3が後輪2Rに制動力を分配している自動車1の減速中に、モータ5が回生動作を行う。この制御は、摩擦ブレーキシステム3とモータ5とによる協調回生制御である。協調回生制御により、高電圧バッテリ9に蓄えられる回生エネルギが増える。モータ5による回生制動トルクは、駆動輪としての後輪2Rに付与される。摩擦ブレーキシステム3は、後輪2Rに付与される回生制動トルクを考慮して、その後輪2Rに制動力を分配する。その結果、自動車1に作用する制動は、ドライバーのブレーキペダル19の操作に応じた制動となる。コントローラ20は、回生制動トルク及び制動力によって所望の制動(ブレーキペダル19の操作に応じた制動)が実現されるように、制動力の分配を制御する。
【0166】
ここで、図6のステップS52とステップS55との前後関係に例示したように、コントローラ20は、協調回生制御中にエンジン4の始動が要求された際には、協調回生制御による制動から摩擦ブレーキシステム3のみによる制動への移行が完了した後に、エンジン4の出力回転数を上昇させる。
【0167】
したがって、図7の時刻t2に例示したように、エンジン回転数の調整を開始したときには、制動の切替は既に完了していることになる。その結果、出力回転数の調整状況が、協調回生制御、及び、その協調回生制御からの制動の切替に及ぼす影響を抑制することができる。
【0168】
また、図6のステップS61に例示したように、エンジン回転数は、その調整後もアイドル制御等によって継続的にコントロールされる可能性がある。したがって、制動の切替後にエンジン4の始動を開始させることで、アイドル制御等、出力回転数に関連した処理と、制動の切替に関する処理と、を分離させることができる。これにより、アイドル制御等の処理が、制動の切替に及ぼす影響を抑制することができる。
【0169】
また、図6のステップS57及びステップS58に例示したように、コントローラ20は、所定の条件を満たした場合にK1クラッチ8dをスリップさせる。K1クラッチ8dをスリップさせることで、モータ5の回転抵抗を低減することができる。そのことで、モータ5の出力回転数の低下を抑制することが可能になる。
【0170】
ここで、従来知られた構成のように、K1クラッチ8dをスリップさせるタイミングと、摩擦ブレーキシステム3のみによる制動への切替を行うタイミングと、の間に関連付けが存在しなかった場合(例えば、2つの処理が同時に開始される場合)、制動の切替が完了しないまま、K1クラッチ8dをスリップさせる可能性があった。
【0171】
この場合、モータ5と後輪2Rとの動力伝達が抑制された状態で回生動作が行われることになるため、モータ5によって付与される回生制動トルクが後輪2Rに十分に伝達せず、G抜けが発生する可能性があった。
【0172】
一方、本実施形態では、図6のステップS52とステップS58との前後関係、及び、図7の時刻t2と時刻t3との前後関係に例示したように、制動の切替が終了した後にK1クラッチ8dをスリップさせることになる。これにより、回生制動トルクの付与を終えた状態(例えば、回生制動トルクを略ゼロまで減少させた状態)で、K1クラッチ8dがスリップを開始することになる。そのことで、G抜けの発生を抑制することができる。
【0173】
また、図6のステップS61に例示したようなアイドル制御を行うことで、エンジン4の再始動後に、エンジン4及びモータ5の出力回転数をアイドル回転数以上に保持することができる。これにより、ブレーキペダル19の踏み込みからアクセルペダル18の踏み込みに転じたとき等、自動車1に加速要求がなされたときに、当該自動車1をスムースに加速させることができる。
【0174】
また、図4のステップS23、及び、図5のステップS44に例示したように、コントローラ20は、ブレーキペダル19の踏込時の減速中(つまり、協調回生制御実行中)にステアリングホイール110が操作されたときに、上述した第1処理、第2処理及び第3処理を実行する。これにより、例えばブレーキペダル19を踏み込みながら自動車1がコーナーに進入したときに、G抜け等の問題を招くことなく、エンジン4をスムースに再始動させることができる。そのことで、いわゆるスローイン・ファーストアウトを、従来のハイブリッド車両よりもスムースに実現することができる。これにより、ハイブリッド車両の操作性を向上させることができる。
【0175】
また、図4のステップS23、及び、図5のステップS44に例示したように、コントローラ20は、ブレーキペダル19の踏込時の減速中(つまり、協調回生制御実行中)にA/Cスイッチ71が操作されたときに、上述した第1処理、第2処理及び第3処理を実行する。これにより、例えばブレーキペダル19の踏込時にエアコン72の駆動が所望されたときに、G抜け等の問題を招くことなく、エンジン4をスムースに再始動させることができる。そのことで、エンジン再始動時のショックを抑制することができる。これにより、ハイブリッド車両の乗り心地を向上させることができる。
【符号の説明】
【0176】
1 自動車(車両,ハイブリッド車両)
17 駆動シャフト(車軸)
19 ブレーキペダル
20 コントローラ(制御手段)
2R 後輪(駆動輪)
3 摩擦ブレーキシステム
4 エンジン
5 モータ
6 K0クラッチ(第1クラッチ)
8 自動変速機
8d K1クラッチ(第2クラッチ)
8e 第2油圧回路
13 第1油圧回路
52 操舵角センサ
55 エンジン回転センサ
56 モータ回転センサ
71 A/Cスイッチ(エアコンスイッチ)
72 エアコン
110 ステアリングホイール
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7