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特開2024-76209適応等化回路、適応等化方法及び受信装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076209
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】適応等化回路、適応等化方法及び受信装置
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/61 20130101AFI20240529BHJP
   H04B 3/06 20060101ALI20240529BHJP
   H03H 21/00 20060101ALI20240529BHJP
   H04J 14/06 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
H04B10/61
H04B3/06 C
H03H21/00
H04J14/06
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187663
(22)【出願日】2022-11-24
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-01-30
(71)【出願人】
【識別番号】591230295
【氏名又は名称】NTTイノベーティブデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高椋 智大
(72)【発明者】
【氏名】吉田 光輝
(72)【発明者】
【氏名】武井 和人
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 勉
【テーマコード(参考)】
5J023
5K046
5K102
【Fターム(参考)】
5J023DA01
5J023DB03
5J023DC05
5J023DD02
5K046AA07
5K046BA06
5K046BB05
5K046EE06
5K046EF11
5K046EF26
5K046EF46
5K102AA52
5K102AD15
5K102AH26
5K102AH27
5K102KA02
5K102KA05
5K102KA39
5K102PB11
5K102PH01
5K102PH22
5K102PH31
5K102RD26
(57)【要約】
【課題】広い種類の変調方式に対して同値収束を高精度に検出し、適応等化処理を安定的に行う。
【解決手段】第1の偏波信号と第2の偏波信号との相関値が所定値を超えたことを偏波分離モニタ3が検出した場合、制御回路4がフィルタタップ係数更新回路2にタップ係数の初期収束を再実行させる。偏波分離モニタ3は、第1の偏波信号と第2の偏波信号がIQ平面上の4つの象限のうちどの象限に属するかを判定し、その判定結果から相関値を計算し、相関値を所定値と比較する。第1の偏波信号と第2の偏波信号にIQ平面のI軸又はQ軸上に位置する軸上データが存在する場合、符号判定回路7は、軸上データを抽出し、軸上データのうちI軸上の正側のデータ、I軸上の負側のデータ、Q軸上の正側のデータ、Q軸上の負側のデータをそれぞれIQ平面上の4つの象限を示す値のうち一つの値に互いに重複なく対応付ける。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏波分離された第1の偏波信号と第2の偏波信号を入力して更なる偏波分離処理を行うデジタルフィルタと、
偏波状態の変動に応じて前記デジタルフィルタのタップ係数を更新するフィルタタップ係数更新回路と、
前記デジタルフィルタから出力された前記第1の偏波信号と前記第2の偏波信号との相関値を所定値と比較する偏波分離モニタと、
前記相関値が前記所定値を超えたことを前記偏波分離モニタが検出した場合、前記フィルタタップ係数更新回路に前記タップ係数の初期収束を再実行させる制御回路とを備え、
前記偏波分離モニタは、前記第1の偏波信号と前記第2の偏波信号がIQ平面上の4つの象限のうちどの象限に属するかを判定する符号判定回路と、前記符号判定回路の判定結果から前記相関値を計算する相関演算回路と、前記相関値を前記所定値と比較する比較回路とを有し、
前記第1の偏波信号と前記第2の偏波信号にIQ平面のI軸又はQ軸上に位置する軸上データが存在する送信変調方式の場合、前記符号判定回路は、前記軸上データを抽出し、前記軸上データのうちI軸上の正側のデータ、I軸上の負側のデータ、Q軸上の正側のデータ、Q軸上の負側のデータをそれぞれIQ平面上の4つの象限を示す値のうち一つの値に互いに重複なく対応付けることを特徴とする適応等化回路。
【請求項2】
前記符号判定回路は、入力した前記第1の偏波信号と前記第2の偏波信号のデータのパワーの大きさに基づいて前記軸上データを抽出することを特徴とする請求項1記載の適応等化回路。
【請求項3】
前記パワーの大きさは、前記データのI軸上の座標値の絶対値とQ軸上の座標値の絶対値の加算に基づいて推定することを特徴とする請求項2に記載の適応等化回路。
【請求項4】
前記IQ平面上の4つの象限を示す値は(+1、+1)、(-1、+1)、(-1、-1)、(+1、-1)であることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の適応等化回路。
【請求項5】
前記第1の偏波信号と前記第2の偏波信号のそれぞれのI軸成分とQ軸成分において、I軸成分の絶対値≧Q軸成分の絶対値の場合、I軸成分≧0なら前記軸上データを第4象限を示す値に対応付け、I軸成分<0なら前記軸上データを第2象限を示す値に対応付け、
I軸成分の絶対値<Q軸成分の絶対値の場合、Q軸成分≧0なら前記軸上データを第1象限を示す値に対応付け、Q軸成分<0なら前記軸上データを第3象限を示す値に対応付けることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の適応等化回路。
【請求項6】
前記第1の偏波信号と前記第2の偏波信号のそれぞれのI軸成分とQ軸成分において、I軸成分の絶対値≧Q軸成分の絶対値の場合、I軸成分≧0なら前記軸上データを第1象限を示す値に対応付け、I軸成分<0なら前記軸上データを第3象限を示す値に対応付け、
I軸成分の絶対値<Q軸成分の絶対値の場合、Q軸成分≧0なら前記軸上データを第2象限を示す値に対応付け、Q軸成分<0なら前記軸上データを第4象限を示す値に対応付けることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の適応等化回路。
【請求項7】
受信した光信号を電気信号に変換する受信光モジュールと、
前記電気信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、
前記デジタル信号の波長分散による歪みを補償する波長分散補償回路と、
前記波長分散補償回路の出力信号の偏波変動による歪みを補償する等化処理を行う請求項1~3の何れか1項に記載の適応等化回路とを備えることを特徴とする受信装置。
【請求項8】
デジタルフィルタが、偏波分離された第1の偏波信号と第2の偏波信号を入力して更なる偏波分離処理を行うステップと、
フィルタタップ係数更新回路が、偏波状態の変動に応じて前記デジタルフィルタのタップ係数を更新するステップと、
偏波分離モニタが、前記第1の偏波信号と前記第2の偏波信号がIQ平面上の4つの象限のうちどの象限に属するかを判定して前記第1の偏波信号と前記第2の偏波信号との相関値を計算し、前記相関値を所定値と比較するステップと、
前記相関値が前記所定値を超えたことを前記偏波分離モニタが検出した場合、制御回路が前記フィルタタップ係数更新回路に前記タップ係数の初期収束を再実行させるステップとを備え、
前記第1の偏波信号と前記第2の偏波信号にIQ平面のI軸又はQ軸上に位置する軸上データが存在する送信変調方式の場合、前記偏波分離モニタは、前記軸上データを抽出し、前記軸上データのうちI軸上の正側のデータ、I軸上の負側のデータ、Q軸上の正側のデータ、Q軸上の負側のデータをそれぞれIQ平面上の4つの象限を示す値のうち一つの値に互いに重複なく対応付けることを特徴とすることを特徴とする適応等化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、データ通信において光伝送路の特性を補償する適応等化回路、適応等化方法及び受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コヒーレント光通信では、受信側において伝送信号の歪をデジタル信号処理により補償することで、数十Gbit/s以上の大容量伝送を実現している。デジタル信号処理では、主に、波長分散補償、周波数制御・位相調整、偏波多重分離及び偏波分散補償等の処理を行っている。
【0003】
偏波多重分離及び偏波分散補償の処理は主に適応等化器によって行われる。適応等化器をデジタル信号処理によって実現する場合、一般的にデジタルフィルタが使用される。伝送信号の歪が相殺されるように計算されたフィルタのタップ係数をそのデジタルフィルタに設定することで、伝送信号の歪を補償できる。デジタルフィルタのタップ係数は、フィルタ特性のインパルス応答に相当する。タップ係数は時間的に変化する状況に適応して逐次更新され、適応等化器は偏波状態の変動に追従した補償を行う。
【0004】
また、受信光モジュール内では、送信側で合成されたX偏波信号(以後、X偏波と称する)とY偏波信号(以後、Y偏波と称する)を分離するが、分離したX偏波にはY偏波の一部の信号が残り、分離したY偏波にはX偏波の一部の信号が残る。適応等化におけるデジタルフィルタは、X偏波のデータとY偏波のデータを更に分離するため、X偏波データ入力対してX偏波方向及びY偏波方向へ出力する2つのフィルタ、及びY偏波データ入力に対してX偏波方向及びY偏波方向へ出力する2つのフィルタの合計4つのフィルタで構成される。
【0005】
これらのデジタルフィルタのタップ係数更新には、以下に示す逐次更新アルゴリズムが使用される。逐次更新アルゴリズムには、一般的にはRLS(Recursive Least-Squares)又はLMS(Least Mean Square)等が用いられる。これは、送信側でトレーニング信号又はパイロット信号等の既知信号を光信号に挿入し、伝送されてきた既知信号とこの既知信号の真値(送信側で挿入した値)との誤差を最小化するようにタップ係数をステップサイズ毎に更新して求めるアルゴリズムである。
【0006】
また、逐次更新アルゴリズムとして、最近では、既知信号を使わないでタップ係数を求めるブラインド等化方式も使用される。ブラインド等化方式には、定包絡線基準アルゴリズム(CMA: Constant Modulus Algorithm)や、CMAをQAM(Quadrature Amplitude Modulation)へ使用するために複数振幅のリングへ拡張したRDE(Radius directed equalization)がある(例えば、特許文献1,2参照)。これらでは、デジタルフィルタの出力と本来あるべき値(「あるべき値」は、定包絡線の場合、振幅の所望値として容易に推定できる)との誤差を最小化するようにタップ係数が更新される。タップ係数は、このアルゴリズムに従って制御され収束する。
【0007】
しかし、上述した逐次更新アルゴリズム、特にはブラインド等化方式には、同値収束が発生する場合がある。同値収束は、アルゴリズムの収束過程で誤った収束が起こり、X偏波データとY偏波データのフィルタ出力が同じような値になる状態を言う。主に、両方の出力とも、X偏波データに偏った値、或いはY偏波データに偏った値になる場合がある。この場合、X偏波データとY偏波データの偏波分離は正しく行われない。即ち、同値収束は、適応等化においてタップ係数を設定した際に偏波分離が実現できているかを確かめる指標となる。
【0008】
この同値収束の発生は、X偏波データとY偏波データの適応等化の出力情報の相関値から判定され、偏波分離できていないことを示す。特に、ブラインド等化方式(CMAやRDE)において同値収束が発生する確率が高い。同値収束が発生した場合、その発生を検出し、逐次更新アルゴリズムをやり直すことが行われている。この時、同値収束の発生を検出する機能を同値収束モニタ(MCC: Miss Capture Checker)と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2012-124782号公報
【特許文献2】特開2021-190787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、従来のMCCでは、変調方式によっては、偏波分離用タップ係数が正しく収束し適切に偏波分離できる状態になっても、誤って同値収束を検出する場合があった。即ち、変調方式によっては正確に同値収束を検出できない場合があった。この場合、タップ係数更新が必要ない状態においても頻繁に更新が行われ、適応等化処理が不安定になる場合があった。
【0011】
本開示は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は広い種類の変調方式に対して同値収束を高精度に検出し、適応等化処理を安定的に行うことができる適応等化回路、適応等化方法及び受信装置を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示に係る適応等化回路は、偏波分離された第1の偏波信号と第2の偏波信号を入力して更なる偏波分離処理を行うデジタルフィルタと、偏波状態の変動に応じて前記デジタルフィルタのタップ係数を更新するフィルタタップ係数更新回路と、前記デジタルフィルタから出力された前記第1の偏波信号と前記第2の偏波信号との相関値を所定値と比較する偏波分離モニタと、前記相関値が前記所定値を超えたことを前記偏波分離モニタが検出した場合、前記フィルタタップ係数更新回路に前記タップ係数の初期収束を再実行させる制御回路とを備え、前記偏波分離モニタは、前記第1の偏波信号と前記第2の偏波信号がIQ平面上の4つの象限のうちどの象限に属するかを判定する符号判定回路と、前記符号判定回路の判定結果から前記相関値を計算する相関演算回路と、前記相関値を前記所定値と比較する比較回路とを有し、前記第1の偏波信号と前記第2の偏波信号にIQ平面のI軸又はQ軸上に位置する軸上データが存在する送信変調方式の場合、前記符号判定回路は、前記軸上データを抽出し、前記軸上データのうちI軸上の正側のデータ、I軸上の負側のデータ、Q軸上の正側のデータ、Q軸上の負側のデータをそれぞれIQ平面上の4つの象限を示す値のうち一つの値に互いに重複なく対応付けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本開示により、広い種類の変調方式に対して同値収束を高精度に検出し、適応等化処理を安定的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態に係る光通信システムを示すブロック図である。
図2】実施の形態に係る適応等化回路を示す図である。
図3】実施の形態に係るデジタルフィルタを示す図である。
図4】実施の形態に係る偏波分離モニタを示す図である。
図5】実施の形態に係る符号判定回路を示す図である。
図6】符号判定部Xの動作のフローチャートである。
図7】符号判定部Yの動作のフローチャートである。
図8】符号判定回路の第1の動作例を示す図である。
図9】符号判定回路の第2の動作例を示す図である。
図10】符号判定回路の第3の動作例を示す図である。
図11】符号判定回路の第3の動作例を示す図である。
図12】8QAMの符号判定の比較例を示す図である。
図13】実施の形態に係る適応等化回路の8QAMにおける機能評価結果を示す図である。
図14】実施の形態に係る適応等化回路の8QAMにおける機能評価結果を示す図である。
図15】実施の形態に係る適応等化回路の8QAMにおける機能評価結果を示す図である。
図16】実施の形態に係る適応等化回路の8QAMにおける機能評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、実施の形態に係る光通信システムを示すブロック図である。光通信システムは送信装置100と受信装置200を備えている。送信装置100から出力された光信号は、光ファイバ伝送路300を通して受信装置200に伝送される。
【0016】
送信装置100は、送信信号処理回路101と送信光モジュール102を有する。受信装置200は、受信光モジュール201と受信信号処理回路202を有する。送信信号処理回路101は入力データに対して所定の処理を施す。具体的には、送信信号処理回路101は、入力データを水平偏波用データXと垂直偏波用データYに分け、それぞれのデータに対して誤り訂正用符号化、帯域制限フィルタリング、及び変調用マッピング等の処理を行う。このような処理を施された水平偏波用データX及び垂直偏波用データYは、それぞれ同相成分と直交成分で表され送信光モジュール102に出力される。水平偏波用データXの同相成分はX_Iで表され、直交成分はX_Qで表される。垂直偏波用データYの同相成分はY_Iで表され、直交成分はY_Qで表される。これらのデータ成分は、後に説明する受信装置200においても同じ符号で記される。
【0017】
なお、本明細書では、原則的に「データ」は「ベースバンドデータ」を示し、「信号」は「光信号」又は「高周波信号」を示す。ただし、「X偏波」及び「Y偏波」がベースバンドデータ又は高周波信号を示す場合がある。
【0018】
送信光モジュール102は、水平偏波用データX及び垂直偏波用データYをそれぞれ光信号のX偏波信号及びY偏波信号に変換し、この2つの偏波信号を合成して送信する。この送信光モジュール102は、信号光源11(信号LD)、2つの90゜合成器12,13、及び偏波合成器14を有する。2つの90゜合成器12,13は、信号光源11の出力光をそれぞれ水平偏波用データX及び垂直偏波用データYで変調して光信号に変換する。偏波合成器14は、光信号に変換されたX偏波信号とY偏波信号を合成する。合成された光信号は、光ファイバ伝送路300を通して受信装置200に伝送される。
【0019】
受信装置200において、受信光モジュール201は、光信号を受信し、受信した光信号を電気信号に変換して出力する。受信光モジュール201は、偏波分離器21、局部発振光源22(局発LD)、2つの90゜ハイブリッド回路23,24を有する。偏波分離器21は、光信号を2つの直交偏波成分であるX偏波信号とY偏波信号に分離する。
【0020】
90゜ハイブリッド回路23,24は、偏波分離器21から出力された光信号の各偏波信号に局部発振光源22の出力光を合成させ、光信号の各偏波信号を更に同相成分Iと直交成分Qに分離する。なお、90゜ハイブリッド回路23,24は、図示していないが光電変換器を有する。光電変換器は、90゜ハイブリッド回路23,24から出力された光信号であるX偏波信号とY偏波信号の各成分(I、Q)を電気信号に変換し、この電気信号をX偏波データ(X_I,X_Q)及びY偏波データ(Y_I,Y_Q)として出力する。以下、X偏波データ及びY偏波データを受信信号と呼ぶ。ここにおける「データ」は、アナログのベースバンド信号を示す。なお、X偏波データ及びY偏波データを得る上記の構成は、一例であり上記の構成に限定されさない。
【0021】
受信信号処理回路202は、AD変換器25、波長分散補償回路26、適応等化回路27、及び復号回路28を有する。AD変換器25は、受信光モジュール201から出力された電気信号をデジタル信号に変換する。光信号が光ファイバ伝送路300を伝搬する際に、波長分散によって信号波形が歪む。波長分散補償回路26は、受信信号の歪の大きさをAD変換器25から出力されたデジタル信号から推定し、デジタル信号の波長分散による歪みを補償する。
【0022】
また、送信装置100においてX偏波信号とY偏波信号を合成して送信し、受信装置200においてX偏波信号とY偏波信号を分離するまでに、光ファイバ伝送路300の偏波モード分散効果によって偏波変動が生じ、信号波形が歪む。適応等化回路27は、波長分散補償回路26の出力信号の偏波変動による歪みを補償する等化処理を行う。なお、偏波分離は最初に受信光モジュール201で行われるが、適応等化回路27で更に完全な方向に偏波分離が処理される。復号回路28は、適応等化回路27から出力された受信信号を復号し、元のデータ(即ち、送信信号処理回路101の入力データ)を再生する。
【0023】
なお、復号回路28によってデータが復号されるまでは、受信信号処理回路202の各処理回路の入出力は、X偏波データの同相成分X_I及び直交成分X_Q、並びにY偏波データの同相成分Y_I及び直交成分Y_Qの4つの信号で表される。各処理回路では、一般的にX偏波データ及びY偏波データは、それぞれ同相成分及び直交成分に分けられたまま処理される場合が多い。X偏波データ(X_I,X_Q)、及びY偏波データ(Y_I,Y_Q)は座標データであるが、復号回路28では、これらから“1”、“0”の論理データに変換される。
【0024】
図2は、実施の形態に係る適応等化回路を示す図である。適応等化回路27は、デジタルフィルタ1、フィルタタップ係数更新回路2、偏波分離モニタ3、及び制御回路4を有する。
【0025】
デジタルフィルタ1は、波長分散補償回路26により偏波分離された第1の偏波信号と第2の偏波信号を入力し、更なる偏波分離処理を行って歪等を補償する。補償した結果は、フィルタタップ係数更新回路2に供給される。光ファイバ伝送路300を介して受信した信号は一般的に光ファイバ伝送路300の偏波状態の変動の影響を受ける。従って、波長分散補償回路26からの入力信号も偏波状態の変動の影響を受けている。フィルタタップ係数更新回路2は、デジタルフィルタ1のタップ係数を逐次更新アルゴリズムにより偏波状態の変動に応じて適応的に更新する。更新されたタップ係数は、デジタルフィルタ1に設定される。逐次更新アルゴリズムでは、デジタルフィルタ1の出力が本来あるべき値になるように、タップ係数が逐次更新され所定値に収束する。
【0026】
この時、デジタルフィルタ1への入力信号はX偏波データとY偏波データの両者である。フィルタタップ係数更新回路2においてフィルタタップ係数の更新が行われている間、デジタルフィルタ1の出力は偏波分離モニタ3にも供給される。この偏波分離モニタ3は、同値収束モニタ(MCC)と称されるものである。偏波分離モニタ3は、常に、デジタルフィルタ1から出力されたX偏波データとY偏波データとの相関値を計算し、相関値を所定値と比較してX偏波データとY偏波データとが適切に偏波分離されているかをモニタする。X偏波データとY偏波データとが適切に偏波分離されていない場合はX偏波データとY偏波データとの間に閾値以上の相関が生じる。偏波分離モニタ3はこの相関によって偏波分離の失敗を判定する。偏波分離の失敗が判定されると、制御回路4はフィルタタップ係数更新回路2にタップ係数の初期収束を再実行させる。初期収束とは、偏波分離できているかを判断する制御回路の監視や、最小二乗法によるウィナーフィルタの再生成、及びインパルス状態のタップ係数(中央タップのみ1を設定している状態)からの逐次更新アルゴリズム(CMAやRDE)の実行、もしくは現状タップの状態からの何かしらの処理、例えばタップ係数の振幅の大きい偏波側のタップのみを保持し、もう片方の偏波側のタップ係数をインパルス状態のタップ係数から再実行する等、を示す。
【0027】
但し、実際は、デジタルフィルタ1の出力側に、図には示していない周波数誤差補償回路及びキャリア位相再生回路が設けられている。これらの回路によってキャリアの周波数や位相との同期が行われ、偏波分離モニタ3及び復号回路28にキャリア同期後のX偏波データ及びY偏波データが供給される。
【0028】
なお、偏波分離モニタ3のモニタ動作は、変調方式によって誤った検出をする場合がある。一般的に、QPSKや16QAM等の変調方式の場合、モニタの誤動作は少ない。しかし、8QAM等、特に同相成分又は直交成分の値が0付近となる点に送信側データがマッピングされる信号を含む変調方式についてはモニタが誤動作する場合がある。モニタが誤動作すると、不必要なタップ係数の更新が繰り返され、適応等化動作が不安定になる。
【0029】
これに対して、本実施の形態に係る偏波分離モニタ3は、どのような変調方式においても、モニタ機能の誤動作を少なくすることができる。更に、その偏波分離モニタ3を使用した適応等化回路27は、偏波分離を適切に判定し、フィルタタップ係数を常に適切に更新し、安定な適応等化動作をすることができる。このようにタップ係数が適切に更新されたデジタルフィルタ1の出力は、補償された受信信号として、図2に示す復号回路28に供給される。
【0030】
図3は、実施の形態に係るデジタルフィルタを示す図である。このデジタルフィルタ1はFIRフィルタで構成した例である。しかし、デジタルフィルタ1は、本構成に限定されず、フィルタのタップ係数が収束アルゴリズムの収束動作によって求められる逐次更新アルゴリズムの場合に誤った収束が生じうる構成であればよい。
【0031】
逐次更新アルゴリズムの例としては、CMA(Constant Modulus Algorithm)又はRDE(Radius directed equalization)等のブラインド等化方式がある。これらは、デジタルフィルタ1の出力と本来あるべき値(「あるべき値」は、定包絡線の場合、振幅の所望値として容易に推定できる)との誤差を最小化するようにタップ係数を更新する。その他の例として、RLS(Recursive Least-Squares)又はLMS(Least Mean Square)等もある。これらは、送信側でトレーニング信号又はパイロット信号等の既知信号を光信号に挿入し、伝送されてきた既知信号とこの既知信号の真値(送信側で設定された値)との誤差を最小化するようにタップ係数をステップサイズ毎に更新する。
【0032】
デジタルフィルタ1は、バタフライ型に構成されたFIR(Finite Impulse Response)フィルタFIR_A,FIR_B,FIR_C,FIR_Dを有する。各FIRフィルタはN個のタップを備える。ただし、FIRフィルタのタップ数は互いに異なっていてもよい。FIR_Aは、X偏波データに対するフィルタである。FIR_Bは、Y偏波データからX偏波データへの影響に対するフィルタである。FIR_Cは、X偏波データからY偏波データへの影響に対するフィルタである。FIR_Dは、Y偏波データに対するフィルタである。
【0033】
デジタルフィルタ1は、X偏波データに対するFIR_Aのフィルタリング結果とY偏波データに対するFIR_Bのフィルタリング結果との加算値をX偏波データの補償出力とし、X偏波データに対するFIR_Cのフィルタリング結果とY偏波データに対するFIR_Dのフィルタリング結果との加算値をY偏波データの補償出力とする。これらによって、偏波分離がより確実化される。
【0034】
デジタルフィルタ1は、X偏波データに対するFIR_Aのフィルタリング結果とY偏波データに対するFIR_Bのフィルタリング結果との加算値をX偏波データの補償出力とし、X偏波データに対するFIR_Cのフィルタリング結果とY偏波データに対するFIR_Dのフィルタリング結果との加算値をY偏波データの補償出力とする。これらによって、偏波分離がより確実化される。
【0035】
また、デジタルフィルタ1のフィルタタップ係数は、フィルタタップ係数更新回路2によって求められて設定される。その際、FIR_A、FIR_B、FIR_C及びFIR_Dのタップ係数は以下の式で示される。
WXX(n+1)=WXX(n)+μeX(n)Xout(n)・Xin*(n)
WYX(n+1)=WYX(n)+μeX(n)Xout(n)・Yin*(n)
WXY(n+1)=WXY(n)+μeY(n)Yout(n)・Xin*(n)
WYY(n+1)=WYY(n)+μeY(n)Yout(n)・Yin*(n)
ここで、nは、逐次更新アルゴリズムにおける更新順を示す値である。タップ係数WXX(n)は、更新順nの場合のFIR_Aのタップ係数群を示す。タップ係数WYX(n)は、更新順nの場合のFIR_Bのタップ係数群を示す。タップ係数WXY(n)は、更新順nの場合のFIR_Cのタップ係数群を示す。タップ係数WYY(n)は、更新順nの場合のFIR_Dのタップ係数群を示す。μは更新アルゴリズムのステップサイズを示す。eX(n)はX偏波データのフィルタ出力における所望値との誤差を示す。eY(n)はY偏波データのフィルタ出力における所望値との誤差を示す。Xout(n)はX偏波データにおけるフィルタ出力を示す。Xin(n)はX偏波データにおけるフィルタ入力を示す。Yout(n)はY偏波データにおけるフィルタ出力を示す。Yin(n)はY偏波データにおけるフィルタ入力を示す。*は共役又は複素共役を示す。なお、データ及びタップ係数は複素数で表される。
【0036】
上記の逐次更新アルゴリズムによってタップ係数の更新が更新順nで順次的に行われ、最終的にタップ係数が収束する。収束の条件は、更新順nの回数、又はフィルタ出力と所望値との誤差等で判定される。なお、上記の式は逐次更新アルゴリズムを表す式の一例であり、逐次更新アルゴリズムを表す式は上記に限定されない。
上記は、収束後にタップ係数が更新される場合を示したが、収束途中において逐次タップ係数を更新することも可能である。即ち、収束条件が達成されなくても、偏波状態が変動する状態においてデジタルフィルタの出力とあるべき値との差分を最小化するように計算したタップ係数で逐次更新する方法も取りうる。
【0037】
図4は、実施の形態に係る偏波分離モニタを示す図である。図4では、図2では示していない周波数誤差補償回路5及びキャリア位相再生回路6がデジタルフィルタ1と復号回路28との間に接続されている。周波数誤差補償回路5は、送信キャリアと受信機キャリアと間の周波数誤差を実質的にゼロにする回路である。キャリア位相再生回路6は、それらのキャリア間の位相誤差を実質的にゼロにする回路である。周波数誤差補償回路5及びキャリア位相再生回路6によって、デジタルフィルタ1からのX偏波データ及びY偏波データは、IQ平面上で位相回転及び位相ずれなく安定して表示できる。これにより、デジタルフィルタ1からのX偏波データ及びY偏波データは、偏波分離モニタ3及び復号回路28において的確に処理することができる。なお、位相回転及び位相ずれが他の方法で除去できる場合は、周波数誤差補償回路5及びキャリア位相再生回路6は適応等化回路27に必須ではない。
【0038】
偏波分離モニタ3は、符号判定回路7、相関演算回路8、及び比較回路9を有する。符号判定回路7は、周波数誤差補償回路5及びキャリア位相再生回路6を介して供給されたデジタルフィルタ1の出力Xout及びYoutの符号を判定する。ここで、デジタルフィルタ1の出力Xout及びYoutがIQ平面上で示される場合を考える。具体的には、XoutはI軸成分X_I及びQ軸成分X_Qを有し、YoutはI軸成分Y_I及びQ軸成分Y_Qを有する。符号判定回路7は、受信したX偏波データとY偏波データがIQ平面上の4つの象限のうちどの象限に属するかをビット毎又はシンボル毎に判定する。なお、シンボルは、QPSK又は16QAM等の多値変調の場合、位相又は振幅の変化の単位を示す。QPSKでは2ビットが1シンボル、16QAMでは4ビットが1シンボルである。
【0039】
相関演算回路8は、符号判定回路7の判定結果からX偏波データとY偏波データとの相関値を計算する。X偏波データとY偏波データとが同じに近づくほど相関値は高くなる。比較回路9は、相関演算回路8により計算された相関値を所定値と比較し、その比較結果を制御回路4に伝える。
【0040】
相関値が所定値を超えるとX偏波データとY偏波データの間で相関があるとみなし、タップ係数の収束が適切に行われなかったと判定される。従って、相関値が所定値を超えたことを偏波分離モニタ3が検出した場合、制御回路4は、フィルタタップ係数更新回路2にタップ係数の初期収束を再実行させる。一方、相関演算回路8からの相関値が所定値よりも小さければ、制御回路4は、X偏波データとY偏波データとの間で相関がないとみなし、タップ係数の収束が適切に行われたと判定する。その場合、制御回路4はフィルタタップ係数更新回路2に対してタップ係数の初期収束の再実行は命ぜず、デジタルフィルタ1はその時点のタップ係数の使用を継続する。
【0041】
図5は、実施の形態に係る符号判定回路を示す図である。周波数誤差補償回路5及びキャリア位相再生回路6は省略している。符号判定回路7は、符号判定部X,Yと平均化回路A,B,C,Dを有する。
【0042】
符号判定部Xは、デジタルフィルタ1からのX偏波データのI軸成分X_I及びQ軸成分X_Qに基づいて、X偏波データがIQ平面上の4つの象限のうちどの象限に属するかを判定する。IQ平面上の4の象限(第1象限、第2象限、第3象限、第4象限)を示す値はそれぞれ(+1、+1)、(-1、+1)、(-1、-1)、(+1、-1)である。X偏波データが第1象限に属する場合の符号はA=+1,B=+1となり、第2象限に属する場合の符号はA=-1、B=+1となり、第3象限に属する場合の符号はA=-1、B=-1、及び第4象限に属する場合の符号はA=+1,B=-1となる。
【0043】
符号判定部Yも、デジタルフィルタ1からのY偏波データのI軸成分Y_I及びQ軸成分Y_Qに基づいて、Y偏波データがIQ平面上の4つの象限のうちどの象限に属するかを判定する。IQ平面上の4の象限(第1象限、第2象限、第3象限、第4象限)を示す値はそれぞれ(+1、+1)、(-1、+1)、(-1、-1)、(+1、-1)である。Y偏波データが第1象限に属する場合の符号はC=+1,D=+1となり、第2象限に属する場合の符号はC=-1、D=+1となり、第3象限に属する場合の符号はC=-1、D=-1、及び第4象限に属する場合の符号はC=+1,D=-1となる。
【0044】
X偏波データ又はY偏波データがI軸又はQ軸上にある軸上データの場合、属する象限が明確でない。そこで、符号判定回路7は、軸上データを抽出し、軸上データのうちI軸上の正側のデータ、I軸上の負側のデータ、Q軸上の正側のデータ、Q軸上の負側のデータをそれぞれIQ平面上の4つの象限を示す値のうち一つの値に互いに重複なく対応付け、対応付けられた象限を示す符号を出力する。詳細については後で述べる。
【0045】
平均化回路Aは、符号判定部Xで判定された符号Aを所定の回数だけ累積し平均化Aとして出力する。平均化回路Bは、符号判定部Xで判定された符号Bを所定の回数だけ累積し平均化Bとして出力する。平均化回路Cは、符号判定部Yで判定された符号Cを所定の回数だけ累積し平均化Cとして出力する。平均化回路Dは、符号判定部Yで判定された符号Dを所定の回数だけ累積し平均化Dとして出力する。
【0046】
平均化A、平均化B、平均化C及び平均化Dを用いて、X偏波の平均化データXA及びY偏波の平均化データYAを以下のように表す。なお、jは虚数単位である。
XA=平均化A+j平均化B
YA=平均化C+j平均化D
【0047】
続いて、符号判定回路7から出力されたX偏波の平均化データXA及びY偏波の平均化データYAは、相関演算回路8に供給される。相関演算回路8は、X偏波の平均化データXA及びY偏波の平均化データYAの間の相関値を以下の式で計算する。「*」は複素乗算を示す。
相関値=Σ(XA*YA)/√(ΣXA*ΣYA
【0048】
デジタルフィルタ1の出力においてX偏波データXとY偏波データYが同じ値(=相関がある場合)であれば、X偏波の平均化データXAとY偏波の平均化データYAは同じ値になるため、上述の相関値は限りなく1に近くなる。なお、XAとXBの符号が同じになる場合は、相関値は0に近づかず大きくなる。対してX偏波データXとY偏波データYがほぼランダムに異なっているならば(=相関がない場合)、X偏波の平均化データXA及びY偏波の平均化データYAの値は1/2の確率で異符号になる。それにより相関値の分子のXA*YAの符号も正側になったり負側になったりし、その累積はほぼ0に近づく。
【0049】
なお、相関値の式の分子及び分母における累積数は、符号判定回路7で平均化を行う場合の所定の回数とは異なる。例えば、符号判定回路7の平均化は16シンボル毎に行い、相関値の式の累積は512回とすることができる。この場合、16×512=8192シンボル毎に相関値が得られる。
【0050】
また、相関演算回路8の相関値の演算は上記の方法に限定されない。符号判定回路7からのX偏波の平均化データXAとY偏波の平均化データYAに基づいて、デジタルフィルタの出力であるX偏波データXとY偏波データYの相関値を計算できれば、どのような演算式でも本実施の形態の適応等化回路27に適用可能である。
【0051】
図6は、符号判定部Xの動作のフローチャートである。変調方式によって符号判定部Xが実行するステップが異なる。
【0052】
ステップS0:変調方式が8QAMのように一部のデータがIQ平面上においてI軸又はQ軸上にマッピングされる場合、続けてステップS1へ進む。一方、変調方式がQPSK又は16QAMのように全てのデータがIQ平面においてI軸又はQ軸上にマッピングされない場合、ステップS1~S3をスキップしてステップS4へ進む。
【0053】
ステップS1:デジタルフィルタ1からX偏波データのI軸成分X_I及びQ軸成分X_Qが入力されたら、X偏波データのパワーを以下の式に基づいて推定する。
X偏波データのパワー=X_Iの絶対値+X_Qの絶対値
【0054】
パワーは信号の二乗で表すのが一般的であるが、上記の式でもパワーの指標として表すことができる。上記の式の方が、乗算を使用せず加算のみで計算できるため簡易にパワーの指標を求めることができる。主に位相及び振幅を変化させる変調方式では、データが取り得る振幅は一般的に数群に分けられる。特に、ブラインド等化方式に使用される変調方式のデータが取りうる振幅は数種に絞られる。QPSKの場合は振幅が1種類、8QAMの場合は振幅が2種類、16QAMの場合は振幅が3種類である。本ステップでのパワーの計算は、データがどの振幅の群に属しているかを判定するだけなので、正確なパワー値の測定は不要である。
【0055】
ステップS2:ステップS1で求めたパワーの大きさに基づいて、データがどの振幅群に属しているかを判定する。例えば、データが取りうる振幅が内殻と外殻の2種類の場合、Xのパワー≧設定閾値ならば外殻と判定し、それ以外は内殻と判定する。
【0056】
ステップS3:ステップS2において内殻と判定された場合、以下の条件に従って符号A,Bを判定する。ここでは、内殻のデータがI軸又はQ軸上にマッピングされ、外殻のデータがIQ平面の4つの象限内にマッピングされる場合について示す。なお、内殻のデータがIQ平面上の象限内にマッピングされ、外殻のデータがI軸又はQ軸上にマッピングされる場合は、外殻の場合にステップS3が実行され、内殻の場合にステップS4が実行される。
【0057】
X_Iの絶対値≧X_Qの絶対値の場合、X_I≧0なら第4象限として(A,B)=(+1,-1)、X_I<0なら第2象限として(A,B)=(-1,+1)と判定する。X_Iの絶対値<X_Qの絶対値の場合、X_Q≧0なら第1象限として(A,B)=(+1,+1)、X_Q<0なら第3象限として(A,B)=(-1,-1)と判定する。
【0058】
ステップS4:ステップS2において外殻と判定された場合、以下の条件に従って符号A,Bを判定する。X_I≧0の場合、X_Q≧0なら第1象限として(A,B)=(+1,+1)、X_Q<0なら第4象限として(A,B)=(+1,-1)と判定する。X_I<0の場合、X_Q≧0なら第2象限として(A,B)=(-1,+1)、X_Q<0なら第3象限として(A,B)=(-1,-1)と判定する。
【0059】
ステップS5:ステップS3又はステップS4で求めた符号A,Bを出力する。なお、ステップS3では以下のように判定することも可能である。X_Iの絶対値≧X_Qの絶対値の場合、X_I≧0なら第1象限として(A,B)=(+1,+1)、X_I<0なら第3象限として(A,B)=(-1,-1)と判定する。X_Iの絶対値<X_Qの絶対値の場合、X_Q≧0なら第2象限として(A,B)=(-1,+1)、X_Q<0なら第4象限として(A,B)=(+1,-1)と判定する。
【0060】
なお、上記の例は、データが取りうる振幅が内殻と外殻の2種類の場合であったが、データが取りうる振幅が3種類以上の場合にも適用できる。その場合、同様のパワーの計算方法によって、どの振幅のグループかを判定すればよい。振幅グループの判定後、I軸又はQ軸上に位置する軸上データについては、ステップS3によって象限を割り当てる。また、もともと象限内にマッピングされるデータについては、ステップS4の硬判定によって象限を判定する。
【0061】
なお、I軸又はQ軸上に位置する軸上データの象限への対応付けは、上記の2種類に限られない。異なるデータが、同じ象限へ対応付けられないようにすれば、どの象限に割り当ててもよい。例えば、(I,Q)={(1,0)、(-1,0)、(0,1)、(0,-1)}を、(A,B)={(-1,+1)、(+1,-1)、(-1,-1)、(+1,+1)}、(A,B)={(+1,-1)、(-1,+1)、(-1,-1)、(+1,+1)}、又は(A,B)={(+1,+1)、(-1,+1)、(-1,-1)、(+1,-1)}等のように対応付けることは可能である。上記のように、X偏波データ及びY偏波データのI軸上の正側のデータ、I軸上の負側のデータ、Q軸上の正側のデータ、Q軸上の負側のデータをそれぞれ重複なく象限に対応づければ、X偏波データとY偏波データの相関が効率よく検出できる。このような任意の対応付けは、下記の符号判定部Yにおいても同様である。
【0062】
図7は、符号判定部Yの動作のフローチャートである。符号判定部Yの動作は、図6に示した符号判定部Xの動作と同様である。
【0063】
ステップS0:変調方式が8QAMのように一部のデータがIQ平面上においてI軸又はQ軸上にマッピングされる場合、続けてステップS1へ進む。一方、変調方式がQPSKや16QAMのように全てのデータがIQ平面においてI軸又はQ軸上にマッピングされない場合、ステップS1~S3をスキップしてステップS4へ進む。
【0064】
ステップS1:デジタルフィルタ1からY偏波データのI軸成分Y_I及びQ軸成分Y_Qが入力されたら、Y偏波データのパワーを以下に基づいて推定する。
Y偏波データのパワー=Y_Iの絶対値+Y_Qの絶対値
なお、パワーの計算はデータがどの振幅の群に属しているかを判定するだけなので、上式の指標で比較可能であり、正確なパワー値の測定は不要である。
【0065】
ステップS2:ステップS1で求めたパワーの大きさに基づいて、Y偏波データがどの振幅群に属しているかを判定する。例えば、Y偏波データが取りうる振幅が内殻と外殻の2種類の場合、Yのパワー≧設定閾値ならば外殻と判定し、それ以外は内殻と判定する。
【0066】
ステップS3:ステップS2において内殻と判定された場合、以下の条件に従って符号C,Dを判定する。ここでは、内殻のデータがI軸又はQ軸上にマッピングされ、外殻のデータがIQ平面の4つの象限内にマッピングされる場合について示す。なお、内殻のデータがIQ平面上の象限内にマッピングされ、外殻のデータがI軸又はQ軸上にマッピングされる場合は、外殻の場合にステップS3が実行され、内殻の場合にステップS4が実行される。
【0067】
Y_Iの絶対値≧Y_Qの絶対値の場合、Y_I≧0なら第4象限として(C,D)=(+1,-1)、Y_I<0なら第2象限として(C,D)=(-1,+1)と判定する。Y_Iの絶対値<Y_Qの絶対値の場合、Y_Q≧0なら第1象限として(C,D)=(+1,+1)、Y_Q<0なら第3象限として(C,D)=(-1,-1)と判定する。
【0068】
ステップS4:ステップS2において外殻と判定された場合、以下の条件に従って、符号C,Dを判定する。Y_I≧0の場合、Y_Q≧0なら第1象限として(C,D)=(+1,+1)、Y_Q<0なら第4象限として(C,D)=(+1,-1)と判定する。Y_I<0の場合、Y_Q≧0なら第2象限として(C,D)=(-1,+1)、Y_Q<0なら第3象限として(C,D)=(-1,-1)と判定する。
【0069】
ステップS5:ステップS3又はステップS4で求めた符号C,Dを出力する。なお、ステップS3では以下のように判定することも可能である。Y_Iの絶対値≧Y_Qの絶対値の場合、Y_I≧0なら第1象限として(C,D)=(+1,+1)、Y_I<0なら第3象限として(C,D)=(-1,-1)と判定する。Y_Iの絶対値<Y_Qの絶対値の場合、Y_Q≧0なら第2象限として(C,D)=(-1,+1)、Y_Q<0なら第4象限として(C,D)=(+1,-1)と判定する。
【0070】
なお、符号判定部Yの処理も、符号判定部Xと同様に、データが取りうる振幅が3種類以上の場合にも適用できる。また、I軸又はQ軸上に位置する軸上データの象限への対応付けも、上記の2種類に限られず、異なるデータが同じ象限へ対応付けられないようにすれば、どの象限に割り当ててもよい。
【0071】
図8は、符号判定回路の第1の動作例を示す図である。第1の動作例は変調信号がQPSKの場合である。変調信号がQPSKの場合、I軸又はQ軸上に位置する軸上データが無いため、図6及び図7のフローチャートのステップS0の次にステップS4が実行される。
【0072】
ステップS4において、符号判定部Xは、X_I≧0の場合、X_Q≧0なら第1象限として(A,B)=(+1,+1)、X_Q<0なら第4象限として(A,B)=(+1,-1)と判定する。符号判定部Xは、X_I<0の場合、X_Q≧0なら第2象限として(A,B)=(-1,+1)、X_Q<0なら第3象限として(A,B)=(-1,-1)と判定する。符号判定部Yは、Y_I≧0の場合、Y_Q≧0なら第1象限として(C,D)=(+1,+1)、Y_Q<0なら第4象限として(C,D)=(+1,-1)と判定する。符号判定部Yは、Y_I<0の場合、Y_Q≧0なら第2象限として(C,D)=(-1,+1)、Y_Q<0なら第3象限として(C,D)=(-1,-1)と判定する。
【0073】
上記の結果、(A,B)、(C,D)は、QPSKの第1象限を示す値、第2象限を示す値、第3象限を示す値、第4象限を示す値を受信側で硬判定により判定した結果に相当する。例えば、第1象限を示す値の硬判定結果は、A=+1、B=+1、C=+1、D=+1となる。第2象限を示す値の硬判定結果は、A=-1、B=+1、C=-1、D=+1となる。第3象限を示す値の硬判定結果は、A=-1、B=-1、C=-1、D=-1となる。第4象限を示す値の硬判定結果は、A=+1、B=-1、C=+1、D=-1となる。
【0074】
図9は、符号判定回路の第2の動作例を示す図である。第2の動作例は変調信号が16QAMの場合である。変調信号が16QAMの場合、I軸又はQ軸上に位置する軸上データが無いため、図6及び図7のフローチャートのステップS0の次にステップS4が実行される。
【0075】
ステップS4において、符号判定部Xは、X_I≧0の場合、X_Q≧0なら第1象限として(A,B)=(+1,+1)、X_Q<0なら第4象限として(A,B)=(+1,-1)と判定する。符号判定部Xは、X_I<0の場合、X_Q≧0なら第2象限として(A,B)=(-1,+1)、X_Q<0なら第3象限として(A,B)=(-1,-1)と判定する。符号判定部Yは、Y_I≧0の場合、Y_Q≧0なら第1象限として(C,D)=(+1,+1)、Y_Q<0なら第4象限として(C,D)=(+1,-1)と判定する。符号判定部Yは、Y_I<0の場合、Y_Q≧0なら第2象限として(C,D)=(-1,+1)、Y_Q<0なら第3象限として(C,D)=(-1,-1)と判定する。
【0076】
上記の結果、(A,B)、(C,D)は、16QAMの全16データがIQ平面上にマッピングされた座標を受信側で硬判定により判定した結果に相当する。例えば、第1象限を示す値の硬判定結果は、A=+1、B=+1、C=+1、D=+1となる。第2象限を示す値の硬判定結果は、A=-1、B=+1、C=-1、D=+1となる。第3象限を示す値の硬判定結果は、A=-1、B=-1、C=-1、D=-1となる。第4象限を示す値の硬判定結果は、A=+1、B=-1、C=+1、D=-1となる。
【0077】
以上のように、IQ平面上の4つの象限にあるデータは、I軸及びQ軸による硬判定によって、A、B、C及びDが求められる。従って、64QAM又は256QAM等のI軸又はQ軸上に位置する軸上データが無い送信変調方式では、上記と同様の方法でA、B、C及びDが求められる。
【0078】
図10及び図11は、符号判定回路の第3の動作例を示す図である。第3の動作例は変調信号が8QAMの場合である。8QAMは、X偏波データとY偏波データにIQ平面のI軸又はQ軸上に位置する軸上データが存在する送信変調方式である。I軸又はQ軸上に位置する軸上データの象限への対応付けについて図10図11の2つの例について説明する。但し、先に記載したように、この対応付けは、この2例に限定されず、重複しない限りどの象限にも対応付けが可能である。
【0079】
変調方式が8QAMの場合、8つのデータのうち外殻の4つは第1~第4象限の各象限の中央にマッピングされるが、残りの内殻の4つのデータはI軸又はQ軸上にマッピングされる。従って、ステップS0においてI軸又はQ軸上に位置する軸上データが存在するため、図6及び図7のフローチャートのステップS1以降の全ステップが実行される。
【0080】
ステップS1においてパワー推定を行う。X偏波データ及びY偏波データのパワーはそれぞれ以下の式で計算される。
X偏波データのパワー=X_Iの絶対値+X_Qの絶対値
Y偏波データのパワー=Y_Iの絶対値+Y_Qの絶対値
【0081】
外殻の4つのデータについては、受信時のデータが各象限のほぼ中央に位置する場合は、X_Iの絶対値とX_Qの絶対値がほぼ同じ値になり、また、Y_Iの絶対値とY_Qの絶対値もほぼ同じ値になるため、パワーは、それぞれI軸の座標値の絶対値のほぼ2倍として計算される。
【0082】
一方、内殻の4つのデータについては、X_Iの絶対値とX_Qの絶対値のうちどちらかがほぼゼロ付近になり、Y_Iの絶対値とY_Qの絶対値のうちどちらかがほぼゼロ付近になる。このため、パワーは、それぞれI軸の座標値の絶対値、又はQ軸の座標値の絶対値のみとして計算される。
【0083】
従って、外殻の座標値が内殻の座標値の約2倍と仮定すると、外殻のパワーは、内殻のパワーの約4倍となる。それらのパワーの間の差は、比較的大きく検出できる。そのため、その間に閾値を設定すれば、受信データが内殻のデータか外殻のデータかを比較的容易に判定できる。
【0084】
ステップS2において、受信データが内殻のデータか外殻のデータかを判定する。8QAMの場合、上述したように例えば内殻のデータのI軸の座標値の2.5倍に閾値を設定すれば、ステップS1で推定したパワーが設定閾値より高い場合は外殻のデータ、低い場合は内殻のデータと判定される。なお、閾値は、変調方式に応じて、内殻と外殻をより確実に判定できる値に選ばれる。この判定によって、図10に示す8QAMの例では、IQ平面上の4つの象限の中央付近に位置するデータは外殻のデータ、I軸又はQ軸上に位置する軸上データは内殻のデータとして識別される。
【0085】
ステップS3において、内殻のデータに対して以下の処理が行われる。符号判定部Xは、X_Iの絶対値≧X_Qの絶対値の場合、X_I≧0なら軸上データを第4象限を示す値に対応付け(A,B)=(+1、-1)とし、X_I<0なら軸上データを第2象限を示す値に対応付け(A,B)=(-1,+1)とする。符号判定部Xは、X_Iの絶対値<X_Qの絶対値の場合、X_Q≧0なら軸上データを第1象限を示す値に対応付け(A,B)=(+1、+1)とし、X_Q<0なら軸上データを第3象限を示す値に対応付け(A,B)=(-1,-1)とする。符号判定部Yは、Y_Iの絶対値≧Y_Qの絶対値の場合、Y_I≧0なら軸上データを第4象限を示す値に対応付け(A,B)=(+1、-1)とし、Y_I<0なら軸上データを第2象限を示す値に対応付け(A,B)=(-1,+1)とする。符号判定部Yは、Y_Iの絶対値<Y_Qの絶対値の場合、Y_Q≧0なら軸上データを第1象限を示す値に対応付け(A,B)=(+1、+1)とし、Y_Q<0なら軸上データを第3象限を示す値に対応付け(A,B)=(-1,-1)とする。
【0086】
即ち、内殻のデータについて、I軸上の正側のデータは第4象限を示す値に対応付けられ、I軸上の負側のデータは第2象限を示す値に対応付けられ、Q軸上の正側のデータは第1象限を示す値に対応付けられ、Q軸上の負側のデータは第3象限を示す値に対応付けられる。これは、各データの信号点の位相を右回りに45度回転させた場合に対応する。符号判定回路7からは各象限に対応するA、B、C、Dの値が出力される。
【0087】
なお、内殻のデータについて、I軸上の正側のデータを第1象限を示す値に対応付け、I軸上の負側のデータを第3象限を示す値に対応付け、Q軸上の正側のデータを第2象限を示す値に対応付け、Q軸上の負側のデータを第4象限に対応付けることも可能である。これは、各データの信号点の位相を左回りに45度回転させた場合に対応する。この様子は、図11に示されている。
【0088】
次に、ステップS4において、外殻のデータに対して以下の処理が行われる。この処理については図10の例と図11の例は同じである。符号判定部Xは、X_I≧0の場合、X_Q≧0なら第1象限として(A,B)=(+1,+1)、X_Q<0なら第4象限として(A,B)=(+1,-1)と判定する。符号判定部Xは、X_I<0の場合、X_Q≧0なら第2象限として(A,B)=(-1,+1)、X_Q<0なら第3象限として(A,B)=(-1,-1)と判定する。符号判定部Yは、Y_I≧0の場合、Y_Q≧0なら第1象限として(C,D)=(+1,+1)、Y_Q<0なら第4象限として(C,D)=(+1,-1)と判定する。符号判定部Yは、Y_I<0の場合、Y_Q≧0なら第2象限として(C,D)=(-1,+1)、Y_Q<0なら第3象限として(C,D)=(-1,-1)と判定する。
【0089】
図10及び図11に示す8QAMの外殻のデータについては、符号判定部X,Yの出力(A,B)、(C,D)は、QPSKと同様に、各象限を示す値を受信側で硬判定により判定した結果と同じになる。
【0090】
図12は、8QAMの符号判定の比較例を示す図である。比較例では、8QAMの信号点に対して、QPSK又は16QAMのように、パワーレベルに関わらず、I軸及びQ軸によって硬判定が行われる。
【0091】
8QAMの場合、8つの信号点に対して、外殻の4つのデータについては、硬判定結果がそのまま第1象限を示す値、第2象限を示す値、第3象限を示す値、及び第4象限を示す値となり、それぞれに対応した符号(A、B)、(C、D)が出力される。しかし、内殻の4つのデータについては、硬判定結果による符号判定は不確定となる。
【0092】
一方、図6及び図7に示す符号判定方法を用いた符号判定回路7では、図10及び図11に示した8QAMの場合に、外殻の4つのデータについて硬判定結果がそのまま各象限に対応付けられた符号となり、更に内殻の4つのデータについても不確定になることなく4つの象限のうち一つの象限に割り当てられ、その象限に対応付けられた符号として判定される。
【0093】
従って、本実施の形態に係る符号判定回路7は、一部のデータがI軸又はQ軸上にマッピングされる変調方式の場合においても、不確定な判定を伴うことなく確実に符号を判定できる。また、それらの平均化も行える。その出力を用いた相関演算においても、安定的に相関値を求め適確な比較をすることができる。この結果、その符号判定回路7を含む偏波分離モニタ3は、8QAM等の一部のデータがI軸又はQ軸上にマッピングされる変調方式の場合に対しても誤って同値収束を検出する場合を大幅に低減することができる。
【0094】
図13から図16は、実施の形態に係る適応等化回路の8QAMにおける機能評価結果を示す図である。これらは、偏波分離モニタ3の相関演算回路8内における相関状況を測定したものである。但し、適応等化回路27において、デジタルフィルタ1内の4つのFIRフィルタの全てのタップ係数は、偏波分離が正しく行われる値に収束している状態である。タップ係数の演算は正しく収束しているため、本来は、偏波分離モニタ3において相関値は低い値であることが望ましい。相関値が高い場合は、タップ係数の演算が収束しているにも関わらず収束していないと誤った検出を行っていることになる。
【0095】
図13は、X偏波データのI軸成分X_IとY偏波データのI軸成分Y_Iとの相関値を示す。図14は、X偏波データのI軸成分X_IとY偏波データのQ軸成分Y_Qとの相関値を示す。図15は、X偏波データのQ軸成分X_QとY偏波データのI軸成分Y_Iとの相関値を示す。図16は、X偏波データのQ軸成分X_QとY偏波データのQ軸成分Y_Qとの相関値を示す。縦軸は相関値を示し、1は相関が最大、0は相関が無いことを示す。横軸は時間を示す。各グラフにおいて、上方のグラフ(◆の点)は、本実施の形態を適用しない従来の偏波分離モニタの相関演算回路の出力を示す。下方のグラフ(■の点)は、本実施の形態に係る偏波分離モニタ3の相関演算回路8の出力を示す。
【0096】
従来の偏波分離モニタの相関演算回路の出力は、図14においては最大0.55、図16においては0.65以上の数値を示す場合があり、大きな相関値が検出される。仮に比較回路における相関値の比較値を0.5とすると、高頻度で誤った検出が行われることが分かる。誤った検出が行われると、偏波分離モニタ3は同値収束が発生したと判定し制御回路4へ通知する。制御回路4は、この通知によって、フィルタタップ係数更新回路2に対して、再更新を指示する。タップ係数は偏波分離が正しく行われる値に収束しているにも関わらず、再度更新作業を行うことになる。これによりタップ係数が不必要に変動し安定な適応等化処理が行われなくなる。
【0097】
一方、本実施の形態に係る偏波分離モニタ3の相関演算回路8の出力は、どの場合も0.2以下である。比較回路9における相関値の比較値を0.6とすると、誤った検出は発生しない。これにより偏波分離モニタ3は、誤った同値収束の情報を制御回路4へ通知することはない。制御回路4からフィルタタップ係数更新回路2への無駄な再更新の指示も低減できる。これによりタップ係数が不必要に変動することなく安定な適応等化処理を継続することができる。
【0098】
以上示したように、実際の評価においても、本実施の形態に係る偏波分離モニタ3の有効性は確認できる。また、本実施の形態に係る偏波分離モニタ3を備えた適応等化回路27は、どの変調方式に対しても対応可能であり、安定な偏波分離動作を行うことができる。
【符号の説明】
【0099】
1 デジタルフィルタ、2 フィルタタップ係数更新回路、3 偏波分離モニタ、4 制御回路、7 符号判定回路、8 相関演算回路、9 比較回路、25 AD変換器、26 波長分散補償回路、27 適応等化回路、201 受信光モジュール
図1
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