IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アサカ理研の特許一覧

特開2024-76211リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法
<>
  • 特開-リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法 図1
  • 特開-リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076211
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 26/12 20060101AFI20240529BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20240529BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20240529BHJP
   C25B 1/34 20060101ALI20240529BHJP
   C25B 9/19 20210101ALI20240529BHJP
【FI】
C22B26/12
C22B3/22
C22B3/44 101Z
C25B1/34
C25B9/19
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187670
(22)【出願日】2022-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】391023415
【氏名又は名称】株式会社アサカ理研
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山田 慶太
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 幸雄
【テーマコード(参考)】
4K001
4K021
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001AA07
4K001AA10
4K001AA16
4K001AA19
4K001AA34
4K001BA22
4K001CA01
4K001CA02
4K001CA11
4K001DB03
4K001DB04
4K001DB05
4K001DB16
4K001DB26
4K001DB38
4K021AA01
4K021AA03
4K021AB01
4K021BA01
4K021DB05
(57)【要約】
【課題】リチウム塩水溶液から安価に高収率でリチウムを回収する方法を提供する。
【解決手段】リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法が、第1のリチウム塩水溶液を電気透析し、第2のリチウム塩水溶液と脱塩された第3のリチウム塩水溶液を得る電気透析工程、この第2のリチウム塩水溶液が蒸発濃縮されて第4のリチウム塩水溶液が得られる蒸発濃縮工程、及び、この第4のリチウム塩水溶液を、イオン交換膜を使用して膜電解する膜電解工程を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法であって、
第1のリチウム塩水溶液を電気透析し、第2のリチウム塩水溶液と脱塩された第3のリチウム塩水溶液を得る電気透析工程、
当該第2のリチウム塩水溶液が蒸発濃縮されて第4のリチウム塩水溶液が得られる蒸発濃縮工程、及び、
当該第4のリチウム塩水溶液を、イオン交換膜を使用して膜電解する膜電解工程を含むことを特徴とするリチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法。
【請求項2】
請求項1に記載されたリチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法において、前記脱塩された第3のリチウム塩水溶液を逆浸透膜法により濃縮し、濃縮されたリチウム塩水溶液を当該電気透析工程で再利用する逆浸透工程を更に含むことを特徴とするリチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法。
【請求項3】
請求項2に記載されたリチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法において、前記膜電解工程で得られた、前記第4のリチウム塩水溶液より希薄な第5のリチウム塩水溶液を前記膜電解工程に循環させることを特徴とするリチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法。
【請求項4】
請求項3に記載されたリチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法において、当該リチウム塩水溶液は塩化リチウム水溶液であることを特徴とするリチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法。
【請求項5】
請求項2~4のいずれか1項に記載されたリチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法において、前記電気透析工程、前記膜電解工程、前記逆浸透工程、及び前記蒸発濃縮工程からなる群から選ばれる少なくとも1つに用いる電力は、再生可能エネルギーによって得られた電力を含むこと特徴とするリチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法。
【請求項6】
請求項5に記載されたリチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法において、前記再生可能エネルギーによって得られた電力は、太陽光発電によって得られた電力、及び風力発電によって得られた電力からなる群から選ばれる少なくとも1つを含むこと特徴とするリチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池の普及に伴い、廃リチウムイオン電池からコバルト、ニッケル、マンガン、リチウム等の有価金属を回収し、前記リチウムイオン電池の材料として再利用する方法が検討されている。本発明の発明者らは、リチウム塩水溶液を、イオン交換膜を用いて膜電解する膜電解工程を含む、廃リチウムイオン電池からのリチウムの回収システムを検討した(特許文献1)。
【0003】
前記膜電解工程において、リチウム水酸化物の製造効率を向上させるためには、前記膜電解工程に付されるリチウム塩水溶液のリチウム濃度を高濃度にする必要があり、溶媒である水を蒸発濃縮法、電気透析法、逆浸透膜法等の濃縮方法により除去する必要がある。しかしながら、蒸発濃縮法はリチウム塩水溶液中のリチウム濃度を高濃度にできるが、大量の水を蒸発させるには、装置が大規模となり、かつ多量のエネルギーを消費するという課題がある。電気透析法で使用するエネルギーは、蒸発濃縮法で使用するエネルギーより小さいが、電気透析法はリチウム塩水溶液中のリチウム濃度を中濃度までしか上げることしかできない。また、電気透析法では脱塩された水溶液に微量のリチウム塩が残留するため、リチウム回収率が低下するという課題がある。逆浸透膜法で使用するエネルギーは、電気透析法で使用するエネルギーより小さく、逆浸透膜法で脱塩した溶液はリチウム塩を含まないという利点はある。しかしながら、逆浸透膜法はリチウム塩水溶液中のリチウム濃度を低濃度までしか上げられないという課題がある。前記膜電解工程に付されるリチウム塩水溶液のリチウム濃度を高濃度とするには、蒸発濃縮法、電気透析法、逆浸透膜法それぞれの装置で行うと、エネルギー消費の増大、リチウム回収率の低下、リチウム塩を高濃度まで濃縮できない等の課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第7060899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、リチウム塩水溶液からエネルギー消費量が少なく、高収率でリチウムを回収する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題に鑑み検討を重ね、リチウム塩水溶液を電気透析、蒸発濃縮法、及び膜電解法を組み合わせて濃縮し、濃縮されたリチウム塩水溶液を膜電解して水酸化リチウム水溶液として回収することで、エネルギー消費量が少なく、高収率でリチウムを回収できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0007】
本発明は、第1のリチウム塩水溶液を電気透析し、第2のリチウム塩水溶液と脱塩された第3のリチウム塩水溶液を得る電気透析工程、当該第2のリチウム塩水溶液が蒸発濃縮されて第4のリチウム塩水溶液が得られる蒸発濃縮工程、及び、当該第4のリチウム塩水溶液を、イオン交換膜を使用して膜電解する膜電解工程を含むリチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法に関する。
本発明は、好ましくは、前記脱塩された第3のリチウム塩水溶液を逆浸透膜法により濃縮し、濃縮されたリチウム塩水溶液を当該電気透析工程で再利用する逆浸透工程を更に含む。
本発明では、前記膜電解工程で得られた、前記第4のリチウム塩水溶液より希薄な第5のリチウム塩水溶液を、好ましくは前記膜電解工程に循環させる。
本発明では、前記リチウム塩水溶液は、好ましくは塩化リチウム水溶液である。
前記電気透析工程、前記膜電解工程、前記逆浸透工程、及び前記蒸発濃縮工程からなる群から選ばれる少なくとも1つに用いる電力は、好ましくは再生可能エネルギーによって得られた電力を含む。
前記再生可能エネルギーによって得られた電力は、好ましくは太陽光発電によって得られた電力、及び風力発電によって得られた電力からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明のリチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法は、リチウム塩水溶液からエネルギー消費量が少なく、高収率でリチウムを回収できる方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明のリチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法を示す説明図。
図2】本発明のリチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法に用いるイオン交換膜電解槽の構造の1実施態様を示す説明的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明について、図面を参照しながら更に詳細に説明する。
本発明のリチウム塩水溶液からリチウムを回収する方法(以下、「本発明の回収方法」という場合がある。)は、図1に示すように活物質粉1を出発物質とする。
【0011】
活物質粉1は、前記廃リチウムイオン電池が電池製品としての寿命が消尽した使用済みのリチウムイオン電池、又は、製造工程で不良品等として廃棄されたリチウムイオン電池である場合、まず、放電処理を行う。放電処理は抵抗放電など、安全性の高い種々の方法が採用され得る。放電により残留している電荷を全て放電させ、次いで、該廃リチウムイオン電池の筐体に開口部を形成した後、例えば、100~800℃の範囲の温度で加熱処理(焙焼)した後、ないし加熱処理せずにハンマーミル、ジョークラッシャー等の粉砕機で粉砕し、該廃リチウムイオン電池を構成する筐体、集電体等を篩分けにより除去(分級)することにより得ることができる。あるいは、前記放電処理後の前記廃リチウムイオン電池を前記粉砕機で粉砕し、前記筐体、集電体等を篩分けにより除去した後、前記範囲の温度で加熱処理することにより、活物質粉1を得るようにしてもよい。
【0012】
前記廃リチウムイオン電池が、製造工程において製品化に用いられた残余の正極材料等である場合、前記放電処理及び開口部の形成を行わず、前記範囲の温度で加熱処理した後、ないし加熱処理せずに前記粉砕機で粉砕し、集電体等を篩分けにより除去して活物質粉1を得るようにしてもよい。さらに前記廃リチウムイオン電池を前記粉砕機で粉砕し、集電体等を篩分けにより除去した後に前記範囲の温度で加熱処理して、ないし加熱処理せずに活物質粉1を得るようにしてもよい。
【0013】
本発明の回収方法では、次に、STEP1で活物質粉1を鉱酸に溶解して、少なくともリチウムを含む活物質粉1の酸溶解液を得る。前記鉱酸は、例えば、塩酸、硫酸、硝酸からなる群から選択される少なくとも1種を含み、好ましくは塩酸を含む。活物質粉1は、リチウムの他に、鉄、アルミニウム、マンガン、コバルト、ニッケル等の有価金属を含んでいる。
【0014】
前記酸溶解液には、次に、STEP2で水酸化リチウム(LiOH)が添加されることにより、前記鉱酸が中和される。前記中和後の前記酸溶解液は、次に、STEP3で溶媒抽出に供せられる。前記溶媒抽出では、前記有価金属のうち、リチウムを除く、マンガン、コバルト、ニッケルが各別に溶媒抽出され、あるいは鉄、アルミニウムが分離されそれぞれの金属塩水溶液2として除去され、第1のリチウム塩水溶液を得ることができる。前記第1のリチウム塩水溶液に含まれるリチウム塩は、STEP1の酸溶解で塩酸を用いた場合には塩化リチウムとなる。
【0015】
本発明の回収方法は、前記第1のリチウム塩水溶液を電気透析し、第2のリチウム塩水溶液と脱塩された第3のリチウム塩水溶液を得る電気透析工程(STEP4)を含む。前記第2のリチウム塩水溶液中のリチウム濃度は、前記第1のリチウム塩水溶液中のリチウム濃度より大きい。
【0016】
本発明の回収方法は、前記脱塩された第3のリチウム塩水溶液を逆浸透膜法により濃縮し、濃縮されたリチウム塩水溶液を前記電気透析工程で再利用する逆浸透工程(STEP5)を含んでよい。前記電気透析工程と前記逆浸透工程の組み合わせにより、リチウムの前記電気透析工程の脱塩側における損失を防止しつつ、リチウム塩水溶液中のリチウム濃度を高くすることができる。
【0017】
前記逆浸透工程で得られる透過水は、STEP1で使用される酸の希釈水、後述する膜電解工程で得られる鉱酸、及び水酸化リチウム水溶液からなる群から選ばれる少なくとも1つの希釈水等として、本発明の回収方法が含む一連の工程で再利用されてよい。
【0018】
本発明の回収方法は、前記第2のリチウム塩水溶液が蒸発濃縮されて第4のリチウム塩水溶液が得られる蒸発濃縮工程(STEP6)を含む。前記第4のリチウム塩水溶液中のリチウム濃度は、前記第2のリチウム塩水溶液中のリチウム濃度より大きい。
【0019】
前記蒸発濃縮工程で得られる蒸発水は、STEP1で使用される酸の希釈水、後述する膜電解工程で得られる鉱酸、及び水酸化リチウム水溶液からなる群から選ばれる少なくとも1つの希釈水等として、本発明の回収方法が含む一連の工程で再利用されてよい。
【0020】
本発明の回収方法は、前記第4のリチウム塩水溶液を、イオン交換膜を使用して膜電解する膜電解工程(STEP7)を含む。STEP7の前記膜電解は、例えば、図2に示す膜電解槽11を用いて行うことができる。
【0021】
膜電解槽11は、一方の内側面に陽極板12を備え、陽極板12と対向する内側面に陰極板13を備え、陽極板12は電源の陽極14に接続され、陰極板13は電源の陰極15に接続されている。また、膜電解槽11は、イオン交換膜16により、陽極板12を備える陽極室17と、陰極板13を備える陰極室18とに区画されている。
【0022】
膜電解槽11では、陽極室17に前記第1のリチウム塩水溶液として例えば塩化リチウムを供給して膜電解を行うと、塩化物イオンが陽極板12上で塩素ガス(Cl)を生成する一方、リチウムイオンはイオン交換膜16を介して陰極室18に移動する。
【0023】
陰極室18では水(HO)が水酸化物イオン(OH)と水素イオン(H)とに電離し、水素イオンが陰極板13上で水素ガス(H)を生成する一方、水酸化物イオンがリチウムと化合して水酸化リチウム水溶液3を生成する。
【0024】
前記膜電解工程に付されるリチウム塩水溶液が硫酸イオンを含む場合、陽極室17で硫酸を得ることができる。前記膜電解工程に付されるリチウム塩水溶液が硝酸イオンを含む場合、陽極室17で硝酸を得ることができる。すなわち、前記膜電解工程で鉱酸4を得ることができ、当該鉱酸4をSTEP1の活物質粉1の溶解に用いてよい。
【0025】
前記膜電解工程で得られた水酸化リチウム水溶液3は、STEP8で晶析により水酸化リチウム一水和物(LiOH・HO)として回収することもでき、STEP9で炭酸化することにより、炭酸リチウム(LiCO)として回収することもできる。前記炭酸化は、水酸化リチウム水溶液3を、炭酸ガス(CO)と反応させることにより行うことができる。
【0026】
本実施形態では、前記膜電解工程で得られた水酸化リチウム水溶液3の一部を、STEP2で酸溶解液に添加する水酸化リチウム、及びSTEP3で溶媒抽出に用いるアルカリからなる群から選ばれる少なくとも1つとして使用してよい。
【0027】
前記水酸化リチウム水溶液3をSTEP3で溶媒抽出に用いる場合、前記水酸化リチウム水溶液3は抽出溶媒に添加される。STEP3で溶媒抽出に用いられる抽出溶媒は陽イオン交換抽出剤であるから、継続して使用すると液性が酸性側に偏り抽出率が低下するが、前記水酸化リチウム水溶液3を添加することにより、抽出率の低下を抑制できる。
【0028】
前記水酸化リチウム水溶液3をSTEP3で溶媒抽出に用いる場合、前記水酸化リチウム水溶液3は、各別に行われるマンガン、コバルト、ニッケルの溶媒抽出の少なくとも1つの溶媒抽出に用いることができる。
【0029】
前記膜電解工程では、前記第4のリチウム塩水溶液が前記膜電解工程に付されて膜電解される結果、前記第4のリチウム塩水溶液より希薄な第5のリチウム塩水溶液が生成する。そこで、本実施形態では、前記第5のリチウム塩水溶液を前記膜電解工程で循環させることが好ましい。
【0030】
前記電気透析工程、前記膜電解工程、前記逆浸透工程、及び前記蒸発濃縮工程からなる群から選ばれる少なくとも1つに用いる電力は、例えば、太陽光発電により得られた電力、及び風力発電により得られた電力からなる群から選ばれる少なくとも1つの再生可能エネルギーを含んでいてよい。
【符号の説明】
【0031】
1…活物質粉、 2…金属塩水溶液、 3…水酸化リチウム水溶液、 4…鉱酸、
11…膜電解槽、 16…イオン交換膜、 17…陽極室、 18…陰極室。
図1
図2