(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076225
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】感光性導電ペースト、積層型電子部品の製造方法および積層型電子部品
(51)【国際特許分類】
G03F 7/004 20060101AFI20240529BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
G03F7/004 501
H05K1/03 610B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187698
(22)【出願日】2022-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【弁理士】
【氏名又は名称】徳山 英浩
(72)【発明者】
【氏名】近藤 健太
【テーマコード(参考)】
2H225
【Fターム(参考)】
2H225AC33
2H225AD02
2H225AM32P
2H225AN51P
2H225AP06P
2H225AP08P
2H225AP13P
2H225BA35P
2H225BA37P
2H225CA13
2H225CB02
2H225CC01
2H225CC13
(57)【要約】
【課題】焼成時の内部電極の収縮率を低減しつつ、フォトリソパターニング時の解像性を向上させるとともに、焼成後の内部電極の電気抵抗を低減できる感光性導電ペースト、積層型電子部品の製造方法および積層型電子部品を提供する。
【解決手段】感光性導電ペーストは、導電性粉末と、アルカリ可溶ポリマーと、感光性モノマーと、光重合開始剤と、分散剤と、溶剤と、を含み、前記導電性粉末は、ガラス軟化点(Ts)が800℃以下のガラスで被覆されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粉末と、アルカリ可溶ポリマーと、感光性モノマーと、光重合開始剤と、分散剤と、溶剤と、を含み、
前記導電性粉末は、ガラス軟化点(Ts)が800℃以下のガラスで被覆されている、感光性導電ペースト。
【請求項2】
前記ガラスの屈折率が、1.60以下である、請求項1に記載の感光性導電ペースト。
【請求項3】
前記ガラス軟化点(Ts)が、650℃以上800℃以下である、請求項1または2に記載の感光性導電ペースト。
【請求項4】
前記ガラス軟化点(Ts)が、550℃以上であり、
前記ガラスの屈折率が、1.60以下である、請求項1に記載の感光性導電ペースト。
【請求項5】
前記導電性粉末は、アトマイズAg粉である、請求項1または2に記載の感光性導電ペースト。
【請求項6】
前記アトマイズAg粉の平均粒径D50は、1.0μm以上5.0μm以下である、請求項5に記載の感光性導電ペースト。
【請求項7】
請求項1または2に記載の感光性導電ペーストを絶縁層に積層する工程と、
前記感光性導電性ペーストと前記絶縁層とを前記ガラス軟化点(Ts)以上の焼成温度で焼結させる工程と、を含み、
前記感光性導電ペーストから内部電極を形成し、
前記絶縁層から素体を形成し、
前記素体内に前記内部電極を設ける、積層型電子部品の製造方法。
【請求項8】
前記焼結させる工程において、前記内部電極に前記ガラスの一部を内包させる、請求項7に記載の積層型電子部品の製造方法。
【請求項9】
ホウケイ酸ガラスと無機フィラーとを含む素体と、
前記素体内に設けられ、請求項1または2に記載の感光性導電ペーストの焼結体である内部電極と、を含む、積層型電子部品。
【請求項10】
前記内部電極は、前記ガラスを内包し、
前記ガラスは、
SiO2:15質量%以上90質量%以下、
B2O3:10質量%以上50質量%以下、
Al2O3:3質量%以上15質量%以下、
KF:10質量%以上30質量%以下、および
Li2OとNa2OとK2Oとからなる群から選択される少なくとも一種:2質量%以上20質量%以下を含む、請求項9に記載の積層型電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感光性導電ペースト、積層型電子部品の製造方法および積層型電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、感光性導電ペーストを用いて内部電極を形成することにより、積層セラミック回路基板等の積層型電子部品を製造することが行われている。内部電極は、感光性導電ペーストをパターニングした後に焼成することにより、感光性導電ペーストに含有されている導電性粉末が焼結されて形成される。積層型電子部品に用いられる感光性導電ペーストとしては、例えば、特開2002-169274号公報(特許文献1)および特開2007-18884号公報(特許文献2)に開示されたものがある。
【0003】
特開2002-169274号公報には、主成分として、導電性粉末を40~80wt%、光重合性化合物を3~20wt%、光重合開始剤を10wt%以下、および、一種又は二種以上の非導電性金属酸化物を0.3~2.5wt%含有する感光性導電ペーストが開示されている。非導電性金属酸化物は、一般に「共材」と呼ばれている。特開2002-169274号公報では、共材を含むため、焼成時の内部電極の収縮を低減できるとしている。
【0004】
特開2007-18884号公報には、アトマイズ製法で得られる平均粒径が5μm以下の第1導電性粉末と、湿式還元法で得られる平均粒径が0.2~2.0μmの範囲内の第2導電性粉末とを、20/80≦(第1導電性粉末/第2導電性粉末)≦80/20の範囲内の質量割合で含む感光性導電性ペーストが開示されている。特開2007-18884号公報では、平均粒径が相対的に大きい第1導電性粉末を含むため、焼成時の内部電極の収縮率を低減できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-169274号公報
【特許文献2】特開2007-18884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特開2002-169274号公報に開示されている感光性導電ペーストでは、焼成時の内部電極の収縮率を低減しているものの、非導電性金属酸化物である共材が含まれているため、焼成後の内部電極の電気抵抗が高くなる場合があった。また、共材が含まれることにより粉末状成分が増大するため、フォトリソパターニング時において、粉末状成分による光の散乱が大きくなり、共材を含まない場合よりも解像性が低下する場合があった。
【0007】
特開2007-18884号公報に開示されている感光性導電ペーストでは、焼成時の内部電極の収縮率を低減しているものの、平均粒径が相対的に小さい第2導電性粉末を含むため、導電性粉末の表面積が増大し得る。そのため、フォトリソパターニング時において、導電性粉末の表面での光散乱が大きくなり、解像性が低下する場合があった。
【0008】
そこで、本開示の目的は、焼成時の内部電極の収縮率を低減しつつ、フォトリソパターニング時の解像性を向上させるとともに、焼成後の内部電極の電気抵抗を低減できる感光性導電ペースト、積層型電子部品の製造方法および積層型電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本開示の一態様である感光性導電ペーストは、
導電性粉末と、アルカリ可溶ポリマーと、感光性モノマーと、光重合開始剤と、分散剤と、溶剤と、を含み、
前記導電性粉末は、ガラス軟化点(Ts)が800℃以下のガラスで被覆されている。
【0010】
前記態様によれば、共材が含まれていないため、従来の感光性導電ペーストよりも粉末状成分を低減でき、フォトリソパターニング時の解像性を向上させることができる。また、導電性粉末がガラスで被覆されているため、焼成温度が当該ガラスのガラス軟化点までは、導電性粉末の焼結が抑制される。そのため、焼成時の内部電極の収縮率を低減できる。さらに、焼成温度がガラス軟化点を超えると、液相焼結により、導電性粉末の焼結が促進される。そのため、従来技術と比較して、焼成後の内部電極の電気抵抗を低減できる。ここで、液相焼結とは、焼結温度で粘性のある液体が存在する焼結機構のことであり、焼結温度で液体が固体粒子を濡らすことで焼結を促進させる現象である。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一態様である感光性導電ペーストによれば、焼成時の内部電極の収縮率を低減しつつ、フォトリソパターニング時の解像性を向上させるとともに、焼成後の内部電極の電気抵抗を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】積層型電子部品を模式的に示す透視斜視図である。
【
図2】積層型電子部品を模式的に示す分解斜視図である。
【
図3】感光性導電ペーストを模式的に示す断面図である。
【
図4】デラミネーションを抑制できるとともに、内部電極の電気抵抗を低減できる効果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の一態様である感光性導電ペースト、積層型電子部品の製造方法および積層型電子部品を図示の実施の形態により詳細に説明する。なお、図面は一部模式的なものを含み、実際の寸法や比率を反映していない場合がある。
【0014】
(積層型電子部品の全体構成)
図1は、積層型電子部品を模式的に示す透視斜視図である。
図2は、積層型電子部品を模式的に示す分解斜視図である。
図1では、素体は、構造を容易に理解できるよう、透明に描かれているが、半透明や不透明であってもよい。
図1では、構造を容易に理解できるよう、コイルの記載を省略している。
図2では、見易さを考慮して、外部電極の記載を省略している。
【0015】
以下では、積層型電子部品として積層型コイル部品を例にとって説明するが、本開示の積層型電子部品は、積層型コイル部品に限定されず、積層型コンデンサ部品、積層型LC複合部品等の種々の積層型電子部品に適用することが可能である。
【0016】
図1と
図2に示すように、積層型電子部品10は、素体4と、素体4内に設けられたコイル5と、素体4に設けられた第1外部電極6aおよび第2外部電極6bと、を備える。コイル5が、特許請求の範囲に記載の「内部電極」に相当する。
【0017】
素体4の形状は、特に限定されないが、この実施形態では略直方体状である。素体4の外面は、第1端面41と、第1端面41に対向する第2端面42と、第1端面41と第2端面42とを接続する第1側面43と、第1側面43に対向する第2側面44と、第1端面41と第2端面42と第1側面43と第2側面44とを接続する底面45と、底面45に対向し、第1端面41と第2端面42と第1側面43と第2側面44とに接続する天面46と、を有する。第1端面41から第2端面42に向かう方向をX方向とし、第1側面43から第2側面44に向かう方向をY方向とし、底面45から天面46に向かう方向をZ方向とする。なお、この明細書では、Z方向を上側という場合がある。
【0018】
素体4は、複数の絶縁層40を積層して構成される。絶縁層40の絶縁材料は、特に限定されないが、例えば、ホウケイ酸ガラスと無機フィラーとを含む。無機フィラーは、例えば、ガラス粉末、およびアルミナなどのセラミック骨材である。絶縁層40の積層方向は、Z方向に平行である。すなわち、絶縁層40は、XY平面に広がった層状である。後述する複数のコイル配線2のうちの隣り合うコイル配線2の間に位置する絶縁層40には、隣り合うコイル配線2が接続される位置にビアホール3が設けられている。ビアホール3は、絶縁層40を厚み方向(Z方向)に貫通する。本願における「平行」とは、厳密な平行関係に限定されず、現実的なばらつきの範囲を考慮し、実質的な平行関係も含む。なお、素体4は、焼成などによって、複数の絶縁層40同士の界面が明確となっていない場合がある。
【0019】
第1外部電極6aおよび第2外部電極6bは、例えば、Ag、Cu、Auやこれらを主成分とする合金などの導電性材料から構成される。この実施形態では、第1外部電極6aは、素体4の第1端面41の全面と、第1側面43の第1端面41側の端部と、第2側面44の第1端面41側の端部と、底面45の第1端面41側の端部と、天面46の第1端面41側の端部と、に連続して設けられている。また、第2外部電極6bは、素体4の第2端面42の全面と、第1側面43の第2端面42側の端部と、第2側面44の第2端面42側の端部と、底面45の第2端面42側の端部と、天面46の第2端面42側の端部と、に連続して設けられている。要するに、第1外部電極6aおよび第2外部電極6bの各々は、5面電極である。しかしこれに限定されず、第1外部電極6aは、例えば、第1端面41の一部と底面45の一部とに連続して設けられたL字電極であってもよい。同様に、第2外部電極6bは、例えば、第2端面42の一部と底面45の一部とに連続して設けられたL字電極であってもよい。
【0020】
コイル5は、例えばAg,Cuなどの導電性粉末を含有した感光性導電ペーストの焼結体である。コイル5は、絶縁層40の積層方向に沿って、螺旋状に巻き回されている。コイル5の第1端5aは、素体4の第1端面41から露出して、第1外部電極6aに接続されている。コイル5の第2端5bは、素体4の第2端面42から露出して、第2外部電極6bに接続されている。
【0021】
コイル5は、軸方向から見て、矩形状に形成されているが、この形状に限定されない。コイル5の形状は、例えば、円形、楕円形、長方形、その他の多角形などであってもよい。また、コイル5は、軸方向がZ方向と平行であり、軸方向に沿って巻回されている。コイル5の軸は、コイル5の螺旋形状の中心軸を意味する。
【0022】
コイル5は、軸方向に沿って積層された複数のコイル配線2と、軸方向に沿って延在して軸方向に隣り合うコイル配線2を接続する図示しないビア配線と、を有する。複数のコイル配線2は、それぞれが平面に沿って巻回され、軸方向に並んで配置され、電気的に直列に接続されながら螺旋を構成している。
【0023】
コイル配線2は、軸方向に直交する絶縁層40の主面(XY平面)上に巻回されて形成される。コイル配線2の巻回数は、1周未満であるが、1周以上であってもよい。ビア配線は、絶縁層40のビアホール3内に設けられ、絶縁層40を厚み方向(Z方向)に貫通する。そして、積層方向に隣り合うコイル配線2は、ビア配線を介して、電気的に直列に接続される。
【0024】
このような積層型電子部品10では、絶縁層40と、感光性導電ペーストのパターニング層と、を交互に複数層積層して、複数の絶縁層40、および複数の感光性導電ペーストのパターニング層の各々を焼結させる。これにより、複数の絶縁層40から素体4が形成され、複数の感光性導電ペーストのパターニング層からコイル5が形成される。
【0025】
(感光性導電ペーストの詳細構成)
次に、コイル5の形成に用いられる感光性導電ペーストの詳細構成について説明する。
図3は、感光性導電ペーストを模式的に示す断面図である。なお、以下では、積層型コイル部品である積層型電子部品10のコイル5の形成に用いられる感光性導電ペーストについて説明するが、本開示の感光性導電ペーストはこれに限定されず、積層型コンデンサ部品、積層型LC複合部品等の種々の積層型電子部品の内部電極の形成に用いることができる。例えば積層型コンデンサ部品の場合、本開示の感光性導電ペーストは、コンデンサ電極の形成に用いることができる。
【0026】
図3に示すように、感光性導電ペースト20は、導電性粉末21と、感光性有機成分22と、図示しない分散剤と、を含む。具体的に述べると、導電性粉末21と分散材とは、感光性有機成分22中に含有されている。導電性粉末21は、ガラス軟化点(Ts)が800℃以下のガラス23で被覆されている。
【0027】
導電性粉末21は、焼成時に焼結されて、焼結体がコイル5の導体となる。導電性粉末21の種類は特に限定されないが、形成されるコイル5の電気抵抗を低減させるため、Ag粉末またはCu粉末であることが好ましい。感光性導電ペースト20に対するガラス23が被覆された導電性粉末21の含有量は、65重量%以上90重量%以下が好ましい。感光性導電ペースト20の焼成時の収縮を抑制する観点から、感光性導電ペースト20に対するガラス23が被覆された導電性粉末21の含有量は、70重量%以上85重量%以下であることがより好ましい。
【0028】
導電性粉末21の平均粒径D50(メディアン径)は特に限定されないが、微細なコイル5のパターンを形成する観点から、導電性粉末21の平均粒径D50は、1.0μm以上5.0μm以下であることが好ましい。本明細書では、平均粒径D50は、レーザー回折式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製MT3000)により測定された値を用いている。
【0029】
導電性粉末21は、アトマイズAg粉であることが好ましい。これにより、湿式還元法のAg粉よりも導電性粉末21の結晶子径が大きくなり、有機不純物を少なくすることができる。そのため、形成されるコイル5の電気抵抗を低減できる。アトマイズAg粉の平均粒径D50は、好ましくは1.0μm以上5.0μm以下である。これにより、微細なコイル5のパターンを形成できる。
【0030】
ガラス23は、ガラス23のガラス軟化点(Ts)までの焼成温度の領域では、導電性粉末21の焼結を抑制させるとともに、ガラス23のガラス軟化点(Ts)を超える焼成温度の領域では、液相焼結現象を生じさせて、導電性粉末21の焼結を促進させる。ガラス23の種類は、ガラス軟化点(Ts)が800℃以下であれば特に限定されない。ガラス23は、例えば、SiO2、B2O3およびK2Oを所定の割合で含むSiO2-K2O-B2O3系ガラスなどである。ガラス23の含有量は、導電性粉末21に対して、1.0重量%以上が好ましく、5.0重量%以上がより好ましい。ガラス23の含有量は、導電性粉末21に対して、20重量%以下が好ましく、10重量%以下がより好ましい。
【0031】
ガラス23は、導電性粉末21を完全に被覆していること(すなわち、被覆率100%)が好ましいが、完全に被覆していなくてもよい。導電性粉末21の表面積に対するガラス23の被覆率は、好ましくは1.0%以上、より好ましくは50%以上である。これにより、焼成時の内部電極の収縮抑制効果と、コイル5の電気抵抗の低減効果と、をより確実に得ることができる。上記被覆率は、例えば、電子顕微鏡により感光性導電ペースト20を断面観察して測定できる。
【0032】
感光性導電ペースト20には金属レジネートが含有されていてもよく、このレジネートは導電性粉末21の融点よりも高い融点を有する金属を含む金属レジネートである。金属レジネートに含まれる金属としては、例えば、Rh、Ni、Cu、Mn、Zr等が挙げられる。このような金属レジネートとしては、例えば、金属のオクチル酸塩、ナフテン酸塩、2-エチルヘキサン塩、スルホン酸塩、金属メルカプチド、アルコキシ金属化合物等が挙げられる。
【0033】
感光性有機成分22は、アルカリ可溶ポリマーと、感光性モノマーと、光重合開始剤と、溶剤と、を含む。感光性有機成分22の含有量は、感光性導電ペースト20に対して、10重量%以上が好ましく、15重量%以上がより好ましい。感光性有機成分22の含有量は、感光性導電ペースト20に対して、30重量%以下が好ましく、20重量%以下がより好ましい。
【0034】
アルカリ可溶ポリマーは、塩基性化合物で中和されて、可溶化する。アルカリ可溶ポリマーは、例えば、アルカリ性の現像液を用いた現像処理の際に、未硬化の光重合性モノマーおよび導電性粉末21などとともに除去される。一方、活性エネルギー線によって光重合性モノマーが重合する場合、その近傍に存在しているアルカリ可溶ポリマーは、光重合性モノマーの重合物と共に膜を形成し、例えば、内部電極パターンの一部を形成する。これにより、内部電極パターンの絶縁層に対する密着性がより向上し得る。アルカリ可溶ポリマーの含有量は、感光性有機成分22に対して、10重量%以上が好ましく、20重量%以上がより好ましい。アルカリ可溶ポリマーの含有量は、感光性有機成分22に対して、50重量%以下が好ましく、60重量%以下がより好ましい。
【0035】
アルカリ可溶ポリマーは、側鎖に少なくとも1つの酸基を有する。酸基として、典型的にはカルボキシ基が挙げられる。アルカリ可溶ポリマーは、主鎖として、例えば、炭素-炭素結合、エーテル結合、ウレア結合、エステル結合、ウレタン結合の少なくとも1つを有するポリマー鎖を含む。透明性の観点から、アルカリ可溶ポリマーの主鎖は、炭素-炭素結合を有するポリマー鎖を含んでいてよい。
【0036】
側鎖に少なくとも1つのカルボキシ基を有し、主鎖として炭素-炭素結合を有するポリマー鎖を含むアルカリ可溶ポリマーは、例えば、不飽和カルボン酸とエチレン性不飽和化合物との共重合により得られる。アルカリ可溶ポリマーとして、典型的には、カルボキシ基含有アクリル系重合体が挙げられる。
【0037】
不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、ビニル酢酸、およびこれらの二量体や無水物が挙げられる。
【0038】
エチレン性不飽和化合物としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸イソボロニル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸イソボロニル等のメタクリル酸エステル;フマル酸モノエチル等のフマル酸エステル;スチレンが挙げられる。
【0039】
アルカリ可溶ポリマーのカルボキシ基は、主鎖が形成された後に導入されてもよい。アルカリ可溶ポリマーのカルボキシ基は、例えば、側鎖にエポキシ基を有し、上記のポリマー鎖を有する化合物に不飽和モノカルボン酸を反応させた後、さらに飽和あるいは不飽和多価カルボン酸無水物を反応させることにより、導入されてよい。
【0040】
アルカリ可溶ポリマーは、不飽和結合を有していてよい。アルカリ可溶ポリマーの不飽和結合は、例えば、側鎖にあるカルボキシル基に、これと反応可能であって、重合性の官能基(典型的には、エポキシ基)を有するモノマーを付加することにより、導入されてよい。
【0041】
アルカリ可溶ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、5,000以上50,000以下であってよい。アルカリ可溶ポリマーの酸価は、30以上150以下であってよい。
【0042】
感光性モノマーは、光重合開始剤と反応してモノマーラジカルを生成する。モノマーラジカルは重合して、ポリマーを生成する。感光性モノマーの含有量は、感光性有機成分22に対して、10重量%以上が好ましく、20重量%以上がより好ましい。感光性モノマーの含有量は、感光性有機成分22に対して、50重量%以下が好ましく、40重量%以下がより好ましい。
【0043】
感光性モノマーは、ラジカル反応する反応基を少なくとも1つ有している限り限定されない。ラジカル反応基としては、例えば、アクリルアミド基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基、ビニル基、スチリル基およびメルカプト基よりなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。感光性モノマーは、ラジカル反応基として、少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有していてよい。「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基および/またはメタクリロイル基を表わす。
【0044】
(メタ)アクリロイル基を有する感光性モノマーとしては、ステアリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、カプロラクトン(メタ)アクリレート、エトキシ化ノニルフェノール(メタ)アクリレートなどの単官能(メタ)アクリレートモノマー;トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸EO変性ジアクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどの2官能(メタ)アクリレートモノマー;グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化グリセリルトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールトリ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどの3官能(メタ)アクリレートモノマー;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどの4官能(メタ)アクリレートモノマー;ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレートなどの5官能(メタ)アクリレートモノマー;ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの6官能(メタ)アクリレートモノマー;トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレートなどの7官能以上の(メタ)アクリレートモノマーが挙げられる。
【0045】
感光性モノマーは、3官能以上の(メタ)アクリレートモノマーであってよく、4官能以上の(メタ)アクリレートモノマーであってよく、5官能以上の(メタ)アクリレートモノマーであってよい。感光性モノマーは、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレートであってよい。
【0046】
光重合開始剤は、活性エネルギー線により反応性の高いラジカルを生成する。ラジカルは感光性モノマーに付加して、感光性モノマーの開始反応を引き起こす。ラジカルは連鎖的に生成し、やがて感光性モノマー由来のポリマーが生成する。光重合開始剤の含有量は、感光性有機成分22に対して、0.5重量%以上が好ましく、1.0重量%以上がより好ましい。光重合開始剤の含有量は、感光性有機成分22に対して、10重量%以下が好ましく、5.0重量%以下がより好ましい。
【0047】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾインまたはベンゾインエーテル系化合物、アルキルフェノン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、オキシムエステル系化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物、α-ケトエステル系化合物よりなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0048】
ベンゾインまたはベンゾインエーテル系光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル、メチルベンゾイン、エチルベンゾイン、ベンジルジメチルケタールが挙げられる。
【0049】
アルキルフェノン系光重合開始剤としては、例えば、α-ヒドロキシアルキルフェノン系化合物、α-アミノアルキルフェノン系化合物が挙げられる。
α-アミノアルキルフェノン系化合物として、具体的には、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン、2-メチル-2-モルフォリノ(4-チオメチルフェニル)プロパン-1-オンが挙げられる。
α-ヒドロキシアルキルフェノン系化合物として、具体的には、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、ジエトキシアセトフェノン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニルケトン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-(4-ドデシルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチルプロパン-1-オン、1,1’-(オキシビス(4,1-フェニレン))ビス(2-ヒドロキシ)-2-メチルプロパン-1-オン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、オリゴ{2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパン}、4-(2-アクリロイル-オキシエトキシ)フェニル-2-ヒドロキシ-2-プロピルケトンが挙げられる。
【0050】
ベンゾフェノン系光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、メチルベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、o-ベンゾイル安息香酸メチル、2-n-ブトキシ-4-ジメチルアミノベンゾエート、2-ジメチルアミノエチルベンゾエート、p-ジメチルアミノ安息香酸エチル、p-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、4-フェニルベンゾフェノン、4,4’-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン、(1-[4-(4-ベンゾイルフェニルスルファニル)フェニル]-2-メチル-2-(4-メチルフェニルスルホニル)プロパン-1-オン、4-(4-メチルフェニチオ)ベンゾフェノン、メチル-o-ベンゾイルベンゾエート、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチル-ジフェニルサルファイド、アクリル化ベンゾフェノン、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン、2-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン等のチオキサントン系、ミヒラーケトン、4,4’-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、ベンゾフェノン誘導体ポリマーが挙げられる。
【0051】
オキシムエステル系光重合開始剤としては、例えば、1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-,2-(O-ベンゾイルオキシム)、1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-(o-エトキシカルボニル)オキシム、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)等が挙げられる。
【0052】
アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、エチル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィネートが挙げられる。
【0053】
α-ケトエステル系光重合開始剤としては、例えば、メチルベンゾイルフォルメート、オキシフェニル酢酸の2-(2-オキソ-2-フェニルアセトキシエトキシ)エチルエステルおよびオキシフェニル酢酸の2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチルエステルが挙げられる。
【0054】
光重合開始剤は、アルキルフェノン系化合物であってよく、α-アミノアルキルフェノン系化合物であってよく、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オンであってよい。
【0055】
溶剤は、特に限定されず、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、エチルアセテート、ブチルアセテート、ペンチルアセテート、ヘキシルアセテート、シクロヘキサノールアセテートが挙げられる。溶剤の含有量は、感光性有機成分22に対して、20重量%以上が好ましく、30重量%以上がより好ましい。溶剤の含有量は、感光性有機成分22に対して、60重量%以下が好ましく、50重量%以下がより好ましい。感光性有機成分22は、さらに、増感剤、消泡剤、沈降防止剤等の添加剤等を含有してもよい。
【0056】
分散剤は、特に限定されず、例えば多価カルボン酸系高分子分散剤などである。分散剤の含有量は、感光性導電ペースト20に対して、0.1重量%以上が好ましく、0.2重量%以上がより好ましい。分散剤の含有量は、感光性導電ペースト20に対して、5.0重量%以下が好ましく、1.0重量%以下がより好ましい。
【0057】
感光性導電ペースト20によれば、共材が含まれていないため、従来の感光性導電ペーストよりも粉末状成分を低減でき、フォトリソパターニング時の解像性を向上させることができる。また、導電性粉末21がガラス23で被覆されているため、焼成温度がガラス23のガラス軟化点(Ts)までは、導電性粉末21の焼結が抑制される。そのため、焼成時のコイル5(内部電極)の収縮率を低減できる。その結果、焼成時にコイル5と素体4との間に発生し得る構造欠陥である、デラミネーションと呼ばれる層間剥離を抑制できる。さらに、焼成温度がガラス軟化点(Ts)を超えると、液相焼結により、導電性粉末21の焼結が促進される。そのため、従来技術と比較して、焼成後のコイル5の電気抵抗を低減できる。
【0058】
図4は、デラミネーションを抑制できるとともに、内部電極の電気抵抗を低減できる効果を説明するための図である。
図4において、L1は、素体4における焼成温度と収縮率との関係を示している。L2は、共剤を添加した従来の感光性導電ペーストを用いた内部電極における焼成温度と収縮率との関係を示している。L3は、本開示の感光性導電ペーストを用いた内部電極における焼成温度と収縮率との関係を示している。L4は、ガラス23が被覆されていない感光性導電ペーストを用いた内部電極における焼成温度と収縮率との関係を示している。
【0059】
L3に示すように、本開示では、導電性粉末21がガラス23で被覆されているため、焼成温度がガラス23のガラス軟化点(Ts)までは、内部電極の収縮が抑制される。そのため、素体4の収縮率と内部電極の収縮率との差が過剰に大きくならず、素体4と内部電極との間のデラミネーションの発生を抑制できる。一方、焼成温度がガラス23のガラス軟化点(Ts)を超えると、内部電極の収縮が進む。すなわち、液相焼結により、導電性粉末21の焼結が促進される。その結果、内部電極の電気抵抗が従来よりも低減される。なお、焼成温度がガラス23のガラス軟化点(Ts)を超えると、素体4においても収縮が進むため、この温度領域においてもデラミネーションの発生は抑制される。
【0060】
これに対し、L2に示すように、従来技術では、共剤が添加されているため、焼成時の内部電極の収縮は抑制されている。しかし、従来技術では、共剤により、焼成温度が高温側になっても内部電極の収縮が進まず、導電性粉末の焼結が進まない。その結果、内部電極の電気抵抗が十分に低下しない。また、L4に示すように、導電性粉末21がガラス23で被覆されていない場合、焼成開始直後から内部電極の収縮が大きく進み、素体4の収縮率と内部電極の収縮率との差が過剰に大きくなる。その結果、素体4と内部電極との間にデラミネーションが発生し得る。
【0061】
好ましくは、ガラス23の屈折率が、1.60以下である。この構成によれば、ガラス23の屈折率と感光性有機成分22の屈折率とを近づけることができる。そのため、感光性導電ペースト20のフォトリソパターニング時に、光の散乱を抑制し、フォトリソパターニング時の解像性をさらに向上させることができる。
【0062】
好ましくは、ガラス23のガラス軟化点(Ts)が、650℃以上800℃以下である。この構成によれば、コイル5の電気抵抗の低減を図りつつ、焼成時のコイル5の収縮率をさらに低減できる。
【0063】
好ましくは、ガラス23は、
SiO2:15質量%以上90質量%以下、
B2O3:10質量%以上50質量%以下、
Al2O3:3質量%以上15質量%以下、
KF:10質量%以上30質量%以下、および
Li2OとNa2OとK2Oとからなる群から選択される少なくとも一種:2質量%以上20質量%以下を含む。この構成によれば、コイル5の電気抵抗の低減を図りつつ、焼成時のコイル5の収縮率をさらに低減できるとともに、フォトリソパターニング時の解像性をさらに向上させることができる。
【0064】
好ましくは、ガラス23のガラス軟化点(Ts)が、550℃以上であり、ガラス23の屈折率が、1.60以下である。この構成によれば、コイル5の電気抵抗の低減を図りつつ、焼成時のコイル5の収縮率をさらに低減できるとともに、フォトリソパターニング時の解像性をさらに向上させることができる。
【0065】
好ましくは、積層型電子部品10は、ホウケイ酸ガラスと無機フィラーとを含む素体4と、素体4内に設けられ、感光性導電ペースト20の焼結体であるコイル5と、を含む。この構成によれば、所望の形状を有し、電気抵抗が低いコイル5を有し、かつ、焼成時のコイル5の収縮により発生し得る構造欠陥が抑制された積層型電子部品10を得ることができる。
【0066】
好ましくは、コイル5は、ガラス23を内包し、
ガラス23は、
SiO2:15質量%以上90質量%以下、
B2O3:10質量%以上50質量%以下、
Al2O3:3質量%以上15質量%以下、
KF:10質量%以上30質量%以下、および
Li2OとNa2OとK2Oとからなる群から選択される少なくとも一種:2質量%以上20質量%以下を含む。この構成によれば、所望の形状を有し、電気抵抗がさらに低いコイル5を有し、かつ、焼成時のコイル5の収縮により発生し得る構造欠陥がさらに抑制された積層型電子部品10を得ることができる。
【0067】
(積層型電子部品の製造方法)
次に、積層型電子部品10の製造方法を説明する。積層型電子部品10の製造方法は、 感光性導電ペースト20を絶縁層40に積層する工程と、
感光性導電ペースト20と絶縁層40とをガラス軟化点(Ts)以上の焼成温度で焼結させる工程と、を含み、
感光性導電ペースト20からコイル5(内部電極)を形成し、
絶縁層40から素体4を形成し、
素体4内にコイル5を設ける。
【0068】
上記製造方法によれば、焼成時のコイル5の収縮率を低減しつつ、フォトリソパターニング時の解像性を向上させるとともに、焼成後のコイル5の電気抵抗を低減できる。
【0069】
好ましくは、上記焼結させる工程において、コイル5にガラス23の一部を内包させる。この構成によれば、コイル5の線膨張係数と素体4の線膨張係数とを近づけることができる。
【0070】
以下、本開示の感光性導電ペースト20を用いた積層型電子部品10の製造方法の一例について具体的に説明する。
【0071】
図2に示すように、感光性絶縁ペーストとしての感光性ガラスペーストをPETフィルム等の支持フィルム上にスクリーン印刷し、乾燥した後、全面露光する。これを数回繰り返し、所定の厚み(例えば、約100μm)の絶縁層(ガラス層)40を得る。なお、
図2では、支持フィルムを省略している。
【0072】
感光性ガラスペースト等の感光性絶縁ペーストは、絶縁性無機成分及び感光性有機成分を含有する。感光性ガラスペーストは、絶縁性無機成分として、例えば、ガラス粉末及びセラミック骨材(無機フィラー)を含有し、感光性有機成分として、例えば、アルカリ可溶ポリマー、感光性モノマー及び光重合開始剤を含有する。感光性有機成分として、その他、溶剤、有機染料、消泡剤等を含有してもよい。
【0073】
感光性絶縁ペーストに含有されるガラス粉末の種類は特に限定されないが、例えば、SiO2、B2O3及びK2Oを所定の割合で含むSiO2-B2O3-K2O系ガラスを用いることができる。2種以上のガラス粉末を混合して用いてもよい。ガラス粉末の平均粒径は特に限定されないが、0.1μm以上5.0μm以下であることが好ましい。
【0074】
感光性絶縁ペーストに含有されるセラミック骨材の種類は特に限定されないが、例えば、アルミナを用いることができる。2種以上のセラミック骨材を混合して用いてもよい。セラミック骨材の平均粒径は特に限定されないが、0.1μm以上5.0μm以下であることが好ましい。
【0075】
なお、絶縁層40は、予めシート状に成形されたグリーンシートを積層することによって作製されてもよい。
【0076】
絶縁層40上に、5μm以上10μm以下程度の膜厚となるように、本開示の感光性導電ペーストをスクリーン印刷し、乾燥した後、感光性導電ペーストを選択的に露光、現像処理して、1層目のコイル配線2を形成する。
【0077】
1層目のコイル配線2の上から、感光性ガラスペーストを15μm程度の膜厚となるように全面にスクリーン印刷し、乾燥する。続いて、感光性ガラスペーストを選択的に露光、現像処理して、1層目のコイル配線2上に形成された絶縁層40の所定の箇所にビアホール3を形成する。
【0078】
再度、5μm以上10μm以下程度の膜厚となるように、本開示の感光性導電ペーストを全面にスクリーン印刷し、乾燥した後、感光性導電ペーストを選択的に露光、現像処理して、2層目のコイル配線2を形成する。
【0079】
そして、所望の層数が得られるまで、絶縁層40及びコイル配線2の積層を繰り返す。
【0080】
さらに、感光性ガラスペーストの全面印刷、乾燥、全面露光を必要回数繰り返し、最上層のコイル配線2上に絶縁層40を形成する。これにより、コイル配線2がビアホール3を介して層間接続されることにより形成された積層構造体が得られる。
【0081】
得られた積層構造体を、ダイサーを用いてチップ形状に分割した後、PETフィルム等の支持フィルムを分離する。その後、感光性導電ペースト中の導電性粉末を被覆するガラスのガラス軟化点以上の温度で焼成する。この焼成により、感光性導電ペーストが焼結されて、コイル5が形成される。また、絶縁層40が焼結されて、素体4が形成される。ガラス軟化点以上の温度で焼成することにより、導電性粉末を被覆していたガラスの一部は素体中に排出されるが、一部はコイル5の内部に内包される。
【0082】
焼成後の積層体に第1外部電極6aおよび第2外部電極6bを形成する。さらに、電解めっき法や無電解めっき法等によって、第1外部電極6aおよび第2外部電極6bの外面に単層又は積層構造のめっき層を被着させてもよい。
【0083】
以上により、
図1に示す積層型電子部品10が得られる。
【0084】
なお、本開示は上述の実施形態に限定されず、本開示の要旨を逸脱しない範囲で設計変更可能である。
【0085】
(実施例)
以下、実施例を挙げて本開示をより具体的に説明するが、本開示はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適用し得る範囲で適当に変更を加えて実施する事ももちろん可能であり、それらはいずれも本開示の技術的な範囲に包含される。
【0086】
(1)感光性導電ペーストの作製
各原料を表1に示す割合で配合し、充分に混合することにより、感光性有機成分としての感光性樹脂を得た。
【0087】
【0088】
ガラス成分が被覆されたガラス被覆導電性粉末と、その他の成分を表2に示す割合で配合し、これを3本ロールで充分に混合することにより、内部電極形成用の感光性導電ペーストを得た。導電性粉末は、平均粒径D50が2.0μmのAg粉を用いた。
【0089】
【0090】
表3に導電性粉末の被覆に使用したガラス材料の一覧を示す。被覆されたガラス成分の特定は粉末の蛍光分光、ICP、SEM-WDXなどの元素分析から可能である。特定したガラス成分のガラス軟化点は、同組成のガラスフリットサンプルを用意し、リトルトン粘度計を用いて、粘度計数η=107となるときの温度から算出できる。また、ガラス屈折率についても、同様にガラスフリットサンプルより最小偏角法を用いて測定できる。
【0091】
導電性粉末へのガラス被覆方法としては、ゾルゲル法、スプレーコート法、メカノフュージョン法、化学気相析出(CVD)法、原子層体積(ALD)法などが挙げられる。それぞれの工法で所望の厚みのガラス成分層を形成できる条件で得られたガラス被覆導電性粉末をペーストに用いることができる。
【0092】
【0093】
なお、比較例として、ガラスで被覆されていないAg粉を含有した従来の感光性導電ペーストと、ガラスで被覆されていないAg粉と金属酸化物のAl2O3(共材)とを含有した従来の感光性導電ペーストと、を準備した。
【0094】
(2)比抵抗評価サンプルの作製と測定
上記の方法で作製した感光性導電ペーストをアルミナ基板上に膜厚10μm以上20μm以下でスクリーン印刷・乾燥した後に、配線パターンを有するフォトマスクを介して露光処理し、アルカリ水溶液で現像を行うことで配線パターンを形成した。形成した配線パターンを900℃で焼成し、抵抗測定用の電極配線を作製した。得られた配線サンプルの抵抗値、線幅、線路長、膜厚を測定した。算出した配線の体積からガラスの体積を除いたAg体積をもとに比抵抗値を算出した。比抵抗値が2.2μΩ・cm以下を〇(合格、良好)、1.9μΩ・cm以下を◎(合格、より良好)、2.2Ω・cmを超えたものを×(不合格)とした。
【0095】
(3)焼成収縮率評価サンプルの作製と測定
上記の方法で作製した感光性導電ペーストをドット状のパターンを有するスクリーン版を用いて平滑な基板上に印刷し、乾燥させた。得られたペーストのドットパターンの体積をレーザー変位計を用いて算出した。次に、これらのドットパターンを500℃と700℃で熱処理を行った。各温度で熱処理を行ったサンプルのドットパターンの体積を再びレーザー変位計を用いて算出した。熱処理前後の体積値をもとに、熱処理によって何%体積が減少したかを算出し、この値を焼成収縮率とした。
【0096】
500℃および700℃で感光性導電ペーストの収縮率が大きい場合、積層コイル部品の内部電極として使用したときに素体材料の収縮挙動との乖離が大きく、デラミネーションを引き起こしやすい。よって、各温度での収縮率がより小さくなることが好ましい。
500℃での収縮率が20%未満の水準を◎(合格、より良好)、20%以上30%未満の水準を〇(合格、良好)、30%以上の水準を×(不合格)とした。
700℃での収縮率が30%未満の水準を◎(合格、より良好)、30%以上40%未満の水準を〇(合格、良好)、40%以上の水準を×(不合格)とした。
【0097】
(4)解像性評価
感光性導電ペーストをアルミナ基板上にスクリーン印刷した後、60℃で30分間の乾燥を行い、膜厚10μmの感光性導電ペースト膜を形成した。次いで、基板にL/S=25/25μmの直線パターンのフォトマスク越しに超高圧水銀灯(ウシオ電機社製)の光線を1000mJ/cm2(405nm)の条件で照射することによって、感光性導電ペースト膜にマスク露光処理を行った。その後、トリエタノールアミン水溶液にて現像処理を行った。
(4-1)パターニング性
残渣・ライン飛びなく形成できたものを「○(合格)」、ライン飛びしたものを「×(不合格)」とした。
(4-2)ライン太り量
パターニング配線の線幅をコンフォーカル顕微鏡(Optelics、レーザーテック社製)で測長した値をXとしたとき、ライン太り量=X-25でライン太り量を算出した。ライン太り量が小さいほどフォトマスクの開口幅に近い配線寸法となり、好ましい。本明細書では、上記のようなフォトリソグラフィ法によって所望の形状が高精度で形成されることを、解像性に優れると称する場合がある。
【0098】
測定結果を表4に示した。比較例に対して、ガラスを被覆した導電性粉末を用いた実施例では、ガラスが十分軟化する温度まではAgの焼結抑制効果がはたらき、焼成時の電極収縮を緩やかにできることが分かった。さらに、ガラス軟化開始後は導電性粉末の焼結促進効果(液相焼結)が働くことで、金属酸化物などの共材添加組成に比べて焼成後の電極抵抗を下げることができることが分かった。さらに、実施例では、Ag粉比表面積および粉末成分が増加しないため、フォトリソパターニング性を向上できることが分かった。被覆するガラス成分の特徴としては、ガラス軟化点Tsが600℃以上800℃未満あたりの領域が焼成収縮率および比抵抗の面で良好であり、フォトリソ時のライン太り量の観点からは屈折率が小さく、1.60以下の領域がさらに好ましいことが分かった。本開示の感光性導電ペーストによって、電子部品向けの内部電極に適用したときの、高い配線形成精度、低い比抵抗、焼成後のデラミネーション抑制をバランスよく達成できることが分かった。
【0099】
具体的に述べると、ガラスで被覆された導電性粉末を含有した感光性導電性ペーストを用いた実施例1から6では、焼成温度が500℃および700℃の両方において、焼成収縮率が小さく、デラミネーションを抑制できることが分かった。また、実施例1から6では、焼成後の比抵抗が小さく、さらに、パターニング性およびライン太り量の両方ともが良好であり、フォトリソパターニング時の解像性を向上できることが分かった。特に、ガラス軟化点Tsが650℃以上800℃以下である実施例1から4では、焼成後の比抵抗の低減を図りつつ、700℃の焼成温度においても収縮をより抑制でき、デラミネーションの発生をさらに抑制できることが分かった。また、ガラス屈折率が1.60以下である実施例1から5では、ライン太り量が12μm以下となり、フォトリソパターニング時の解像性をさらに向上できることが分かった。
【0100】
これに対し、比較例1では、焼成後の比抵抗は良好であったものの、導電性粉末がガラスで被覆されていないため、焼成温度が500℃および700℃の両方において焼成収縮率が大きくなった。比較例2では、共材により、焼成温度が500℃および700℃の両方において焼成収縮率が小さかったものの、比抵抗が大きくなり、パターニング性が劣っていた。
【0101】
【0102】
<1>
導電性粉末と、アルカリ可溶ポリマーと、感光性モノマーと、光重合開始剤と、分散剤と、溶剤と、を含み、
前記導電性粉末は、ガラス軟化点(Ts)が800℃以下のガラスで被覆されている、感光性導電ペースト。
<2>
前記ガラスの屈折率が、1.60以下である、<1>に記載の感光性導電ペースト。
<3>
前記ガラス軟化点(Ts)が、650℃以上800℃以下である、<1>または<2>に記載の感光性導電ペースト。
<4>
前記ガラス軟化点(Ts)が、550℃以上であり、
前記ガラスの屈折率が、1.60以下である、<1>または<2>に記載の感光性導電ペースト。
<5>
前記導電性粉末は、アトマイズAg粉である、<1>から<4>の何れか一つに記載の感光性導電ペースト。
<6>
前記アトマイズAg粉の平均粒径D50は、1.0μm以上5.0μm以下である、<5>に記載の感光性導電ペースト。
<7>
<1>から<6>の何れか一つに記載の感光性導電ペーストを絶縁層に積層する工程と、
前記感光性導電性ペーストと前記絶縁層とを前記ガラス軟化点(Ts)以上の焼成温度で焼結させる工程と、を含み、
前記感光性導電ペーストから内部電極を形成し、
前記絶縁層から素体を形成し、
前記素体内に前記内部電極を設ける、積層型電子部品の製造方法。
<8>
前記焼結させる工程において、前記内部電極に前記ガラスの一部を内包させる、<7>に記載の積層型電子部品の製造方法。
<9>
ホウケイ酸ガラスと無機フィラーとを含む素体と、
前記素体内に設けられ、<1>から<6>の何れか一つに記載の感光性導電ペーストの焼結体である内部電極と、を含む、積層型電子部品。
<10>
前記内部電極は、前記ガラスを内包し、
前記ガラスは、
SiO2:15質量%以上90質量%以下、
B2O3:10質量%以上50質量%以下、
Al2O3:3質量%以上15質量%以下、
KF:10質量%以上30質量%以下、および
Li2OとNa2OとK2Oとからなる群から選択される少なくとも一種:2質量%以上20質量%以下を含む、<9>に記載の積層型電子部品。
【符号の説明】
【0103】
2 コイル配線
3 ビアホール
4 素体
5 コイル
5a 第1端
5b 第2端
6a 第1外部電極
6b 第2外部電極
10 積層型電子部品
20 感光性導電ペースト
21 導電性粉末
22 感光性有機成分
23 ガラス
40 絶縁層
41、42 第1端面、第2端面
43、44 第1側面、第2側面
45 底面
46 天面