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特開2024-76229汚染水拡散抑制方法、及び汚染水拡散抑制システム
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  • 特開-汚染水拡散抑制方法、及び汚染水拡散抑制システム 図1
  • 特開-汚染水拡散抑制方法、及び汚染水拡散抑制システム 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076229
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】汚染水拡散抑制方法、及び汚染水拡散抑制システム
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20240529BHJP
【FI】
E02D3/12 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187704
(22)【出願日】2022-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 顕
(72)【発明者】
【氏名】竹崎 聡
(72)【発明者】
【氏名】柴田 健司
(72)【発明者】
【氏名】日笠山 徹巳
【テーマコード(参考)】
2D040
【Fターム(参考)】
2D040AA00
2D040AC05
2D040BA03
2D040CA10
(57)【要約】
【課題】長期間にわたり、汚染水の拡散を抑制できる方法の提供。
【解決手段】地盤に二酸化炭素を供給する工程と、二酸化炭素を供給している状態において、前記地盤のpHを測定する工程と、測定されたpHの値が閾値を下回っている場合、二酸化炭素の供給を停止し、測定された前記pHの値が閾値を上回っている場合、二酸化炭素の供給を継続する工程と、を有する汚染水拡散抑制方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に二酸化炭素を供給する工程と、
前記二酸化炭素を供給している状態において、前記地盤のpHを測定する工程と、
測定された前記pHの値が閾値を下回っている場合、前記二酸化炭素の供給を停止し、測定された前記pHの値が閾値を上回っている場合、前記二酸化炭素の供給を継続する工程と、を有することを特徴とする汚染水拡散抑制方法。
【請求項2】
地盤に二酸化炭素を供給する工程と、
前記二酸化炭素の供給を停止する工程と、
前記二酸化炭素の供給を停止した後、前記地盤のpHを測定する工程と、
測定された前記pHの値が閾値を下回っている場合、前記二酸化炭素の供給の停止を継続し、測定された前記pHの値が閾値を上回っている場合、前記二酸化炭素の供給を再開する工程と、を有することを特徴とする汚染水拡散抑制方法。
【請求項3】
地盤に二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給装置と、
前記地盤のpHを測定するpH測定装置と、
前記二酸化炭素供給装置及び前記pH測定装置を制御する制御装置と、
を有し、
前記制御装置が、前記二酸化炭素が供給された前記地盤のpHを測定するように前記pH測定装置を制御し、
測定された前記pHの値が閾値を下回っている場合、前記二酸化炭素の供給を停止し、測定された前記pHの値が閾値を上回っている場合、前記二酸化炭素の供給を行うよう、前記二酸化炭素供給装置を制御する汚染水拡散抑制システム。
【請求項4】
前記制御装置が、
所定時間経過後に前記二酸化炭素の供給を停止するように前記二酸化炭素供給装置を制御し、
前記二酸化炭素の供給を停止した後、前記二酸化炭素が供給された前記地盤のpHを測定するよう、前記pH測定装置を制御し、
測定された前記pHの値が閾値を上回っている場合、前記二酸化炭素の供給を再開するよう、前記二酸化炭素測定装置を制御する請求項3に記載の汚染水拡散抑制システム。
【請求項5】
地盤に二酸化炭素を供給するための第1の井戸と、
地盤のpHを測定するための第2の井戸と、
を有し、
前記二酸化炭素供給装置は、前記第1の井戸に対して二酸化炭素を供給し、
前記pH測定装置は、前記第2の井戸内のpHを測定する
ことを特徴とする請求項3または4記載の汚染水拡散抑制システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染水拡散抑制方法、及び汚染水拡散抑制システムに関する。
【背景技術】
【0002】
汚染物質により汚染された地下水(以下、「汚染水」と称する)の拡散が問題となっている。汚染水の拡散を防止する方法として、例えば、地盤への鋼矢板打設、セメント壁の構築などが行われてきたが、大規模な工事が必要となるため、迅速に汚染水の拡散を抑制することが難しかった。
これらの方法の代わりとして、井戸を掘り、その井戸に地盤を固化させる成分を入れ、この井戸の周囲の地盤を固化させて、井戸の周囲に壁状の部分を作成する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7-011622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまでに提案された方法は、地盤の環境が変化すると、壁状の部分が溶けて崩れる可能性がある。壁状の部分が崩れた場合、汚染水が拡散する恐れがある。すなわち、これまでに提案された方法では、環境の変化が起こる地盤では、長期間にわたり、汚染水の拡散を抑制することができない。
【0005】
本発明は、長期間にわたり、汚染水の拡散を抑制できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明の発明者らは、地盤中の成分に着目した。地盤中にカルシウム分を多く含む地盤は、アルカリ性の地盤であり、このような地盤に炭酸カルシウムを析出させることができれば、地盤の透水性が低下して、汚染水の拡散を防止できる。
しかし、本発明者らが更に検討したところ、地盤のpHが9以下であると、炭酸カルシウムの析出がなくなり、且つ既に析出した炭酸カルシウムの溶出が起こることがわかった。そこで、炭酸カルシウムを地盤中に析出させるにあたり、pHの測定結果により炭酸カルシウムの析出方法を制御することを見出し、本発明の完成に至った。
【0007】
前記目的を達成するため、本発明の一態様は、
地盤に二酸化炭素を供給する工程と、
二酸化炭素を供給している状態において、地盤のpHを測定する工程と、
測定された前記pHの値が閾値を下回っている場合、二酸化炭素の供給を停止し、測定されたpHの値が閾値を上回っている場合、二酸化炭素の供給を継続する工程と、を有する汚染水拡散抑制方法であることを特徴とする。
【0008】
前記目的を達成するため、本発明の別の態様は、
地盤に二酸化炭素を供給する工程と、
二酸化炭素の供給を停止する工程と、
二酸化炭素の供給を停止した後、地盤のpHを測定する工程と、
測定された前記pHの値が閾値を下回っている場合、前記二酸化炭素の供給の停止を継続し、測定された前記pHの値が閾値を上回っている場合、二酸化炭素の供給を再開する工程と、を有する汚染水拡散抑制方法であることを特徴とする。
【0009】
前記目的を達成するため、本発明の別の態様は、
地盤に二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給装置と、
地盤のpHを測定するpH測定装置と、
二酸化炭素供給装置及びpH測定装置を制御する制御装置と、
を有し、
制御装置が、二酸化炭素が供給された地盤のpHを測定するようにpH測定装置を制御し、
測定されたpHの値が閾値を下回っている場合、二酸化炭素の供給を停止し、測定されたpHの値が測定されたpHの値が閾値を上回っている場合、二酸化炭素の供給を行うよう、二酸化炭素供給装置を制御する汚染水拡散抑制システムであることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の汚染水拡散抑制システムにおける制御装置は、
所定時間経過後に二酸化炭素の供給を停止するように二酸化炭素供給装置を制御し、
二酸化炭素の供給を停止した後、二酸化炭素が供給された地盤のpHを測定するよう、pH測定装置を制御し、
測定されたpHの値が閾値を上回っている場合、二酸化炭素の供給を再開するよう、二酸化炭素測定装置を制御することができる。
【0011】
また、本発明の汚染水拡散抑制システムは、
地盤に二酸化炭素を供給するための第1の井戸と、
地盤のpHを測定するための第2の井戸と、
を有し、
二酸化炭素供給装置は、第1の井戸に対して二酸化炭素を供給し、
pH測定装置は、第2の井戸内のpHを測定することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、長期間にわたり、汚染水の拡散を抑制できる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る汚染水拡散抑制システムの概略図である。
図2】実施形態に係る汚染水拡散抑制システムにおける処理のフローチャートである。
図3】別の態様の実施形態に係る汚染水拡散抑制システムにおける処理のフローチャートである。
図4】カラム試験の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(汚染水拡散抑制方法)
本発明の一態様である汚染水拡散抑制方法は、地盤に二酸化炭素を供給する工程、地盤のpHを測定する工程、及び測定されたpHの値に応じて二酸化炭素の供給を制御する工程を有し、二酸化炭素の供給を再開する工程を更に有することが好ましく、必要に応じてその他の工程を有する。
【0015】
<<地盤>>
地盤は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、カルシウムを多く含むアルカリ性の地盤が好ましい。これは、二酸化炭素を供給することで、地盤中のカルシウムと反応し、炭酸カルシウムとなって析出するためである。
【0016】
<地盤に二酸化炭素を供給する工程>
地盤に二酸化炭素を供給する工程は、二酸化炭素供給装置10(後述)を用い、第1の井戸40(後述)を介して行われる。
二酸化炭素の供給は、気体の二酸化炭素(炭酸ガス)を流しても、二酸化炭素を溶かした水(炭酸水)を流してもよい。
【0017】
<地盤のpHを測定する工程>
地盤のpHを測定する工程は、pH測定装置20(後述)を用い、第2の井戸50(後述)を介して行われる。
地盤のpHの測定は、二酸化炭素を供給している状態において行われ、二酸化炭素を供給していない状態において行われてもよい。
【0018】
<二酸化炭素の供給を制御する工程>
二酸化炭素の供給を制御する工程は、制御装置30(後述)により行われる。二酸化炭素を制御する工程は、具体的には、地盤のpHを測定する工程において測定されたpHの値が閾値を下回っている場合、二酸化炭素の供給を停止し、測定されたpHの値が閾値を上回っている場合、二酸化炭素の供給を継続する工程である。
二酸化炭素の供給を制御する工程は、二酸化炭素の供給を停止した後に測定されたpHの値が閾値を上回っている場合、二酸化炭素の供給を再開する工程を更に有することが好ましい。
【0019】
<<閾値>>
閾値は、炭酸カルシウムの析出条件にあわせて設定される。
カルシウム分の多い地盤は、一般的に、pHは大きくなる(pH12)傾向にあり、pH9未満になると、炭酸カルシウムの析出は、止まる傾向にある。このため、閾値は、pH9程度が好ましい。
【0020】
(汚染水拡散抑制システム)
本発明の汚染水拡散抑制システムは、二酸化炭素供給装置、pH測定装置、及び制御装置を有し、更に必要に応じてその他の装置を有する。
【0021】
図1に、汚染水拡散制御システム1の一実施形態の概略図を示す。汚染水拡散防止システム1は、二酸化炭素供給装置10、pH測定装置20、制御装置30、第1の井戸40、及び第2の井戸50を有する。
【0022】
二酸化炭素供給装置10は、地盤に二酸化炭素を供給するための装置である。二酸化炭素供給装置10は、供給管60を介して、第1の井戸40に二酸化炭素を供給する。二酸化炭素供給装置10は、制御装置30と通信可能に接続されている。
【0023】
二酸化炭素供給装置10の数や種類は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。図1では、2台の二酸化炭素供給装置10を示している。一方、2つの第1の井戸40に対して1つの二酸化炭素供給装置10を設けてもよい。なお、供給管60には、炭酸ガスの供給を調整するためのコンプレッサーやバルブ、炭酸ガスの流量を測定するための流量計(いずれも図示無し)などの部材が設けられている。二酸化炭素供給装置10は、制御装置30からの信号に基づいて、これらの部材を駆動させることで、二酸化炭素の供給量を調整することができる。
【0024】
pH測定装置20は、地盤のpHを測定するための装置である。pH測定装置20は、地盤に直接配置してもよいし、図1のように第2の井戸50内に配置してもよい。図1では、pH測定装置20は、第2の井戸50内の地盤(地盤から流出した地下水)のpHを測定する。pH測定装置20は、制御装置30と通信可能に接続されている。pH測定装置20は、測定したpHの値を制御装置30に送信する。
【0025】
制御装置30は、二酸化炭素供給装置10による二酸化炭素の供給を制御し、pH測定装置20によるpH測定を制御するための装置である。制御装置30は、二酸化炭素供給装置10及びpH測定装置20と通信可能に接続されている。制御装置30は、二酸化炭素を供給している間、pH測定装置20を制御して、pH測定を制御する。このpH測定は、任意の時間ごとに行ってもよい。また、制御装置30は、pH測定装置20から受信したpHの値に基づき、第1の井戸40近傍のpHの値を予測する。制御装置30は、予測したpHの値に基づいて、二酸化炭素供給装置10による炭酸ガスの供給量を制御する。
【0026】
第1の井戸40は、地盤に対して二酸化炭素を供給するための井戸である。
第1の井戸40の形状は、二酸化炭素を供給することができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。第1の井戸40の数及び配置は、特に制限はなく目的に応じて適宜選択できる。第1の井戸40は、汚染水の拡散を抑制したい地盤の範囲等に応じて、1つまたは2以上設けることができる。例えば、図1に示すように、第1の井戸40は、第2の井戸50を挟むように2つ配置できる。
【0027】
第2の井戸50は、地盤のpHを測定するための井戸である。
第2の井戸50の形状は、第2の井戸50の内部の地盤(地盤から流出した地下水)のpHを測定することができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。第2の井戸50は、例えば、第1の井戸40と同じ形状とすることができる。第2の井戸50の数及び配置は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。第2の井戸50は、汚染水の拡散を抑制したい地盤の範囲や第1の井戸40の数等に応じて、1つまたは2つ以上設けることができる。例えば、図1に示すような2つの第1の井戸40中のpHを予測するために、第2の井戸50は、2つの第1の井戸40の間且つ、それぞれの近傍に配置することが好ましい。
【0028】
本発明の別の態様である汚染水拡散抑制方法は、地盤に二酸化炭素を供給する工程、二酸化炭素の供給を停止する工程、地盤のpHを測定する工程、及び測定されたpHの値に応じて二酸化炭素の供給を制御する工程を有し、必要に応じてその他の工程を有する。
【0029】
地盤に二酸化炭素を供給する工程、及び地盤のpHを測定する工程は、上記と同じ工程である。
【0030】
<二酸化炭素の供給を停止する工程>
二酸化炭素の供給を停止する工程は、前述の制御装置30により行われる。二酸化炭素の供給を停止する工程は、具体的には、二酸化炭素供給装置10により地盤に二酸化炭素が供給された後、一定時間経過後に、制御装置30から二酸化炭素の供給を停止するよう二酸化炭素供給装置10に信号が送られ、二酸化炭素供給装置10からの二酸化炭素の供給を停止する。
【0031】
一定時間とは、二酸化炭素を供給する場所、即ち、二酸化炭素を供給する装置の近傍において、局所的に滞留した二酸化炭素が消失するまでのことを指す。地盤の性質によっては、二酸化炭素を供給すると、二酸化炭素が地盤中に拡散する量より地盤中の水に溶ける量の方が多いことがある。この際に、二酸化炭素が滞留することを防ぐために、二酸化炭素の供給を停止する。地盤中に滞留している二酸化炭素が拡散した後、二酸化炭素の供給を再開する。
二酸化炭素を停止する時間については、地盤の性質によって調節する。
【0032】
<二酸化炭素の供給を制御する工程>
二酸化炭素の供給を制御する工程は、前述の制御装置30により行われる。二酸化炭素を制御する工程は、具体的には、地盤のpHを測定する工程において測定されたpHの値が閾値を下回っている場合、二酸化炭素の供給の停止を継続し、測定されたpHの値が閾値を上回っている場合、二酸化炭素の供給を再開する工程である。
【0033】
(汚染水拡散抑制システムの動作)
ここで、図2を用いて、汚染水拡散制御システム1の第一の態様の具体的な動作について説明する。
汚染水の拡散を抑制する場合、制御装置30は、二酸化炭素供給装置10に対し、二酸化炭素の供給を開始させる信号を送信する。二酸化炭素供給装置10は、当該信号に基づいて、供給管60に設置されているバルブを開放させ、コンプレッサーを駆動させることで炭素ガスの供給を開始する(S10)。二酸化炭素供給装置10からの炭酸ガスは、供給管60を介して第1の井戸40内に送られ、第1の井戸40の壁から地盤に供給される。
【0034】
その後、二酸化炭素を供給している状態において、pH測定装置20は、所定間隔(例えば、1日毎)で第2の井戸50内の地下水(汚染水)のpH測定を行う(S11)。pH測定装置20は、測定したpHの値を制御装置30に送信する。
【0035】
制御装置30は、pH測定装置20から受信したpHの値を、閾値と比較し、閾値より高いか低いかを判断する(S12)。閾値より高いと判断した場合(S12でNの場合)、制御装置30は、二酸化炭素供給装置10に対し、炭酸ガスの供給を継続させる信号を送信する。二酸化炭素供給装置10は、当該信号に基づいて、バルブやコンプレッサーの状態を維持することで、炭酸ガスの供給を継続する(S13)。一方、閾値より低いと判断した場合(S12でYの場合)、制御装置30は、二酸化炭素供給装置10に対し、炭酸ガスの供給を停止させる信号を送信する。二酸化炭素供給装置10は、当該信号に基づいて、バルブを閉じ、且つコンプレッサーの駆動を停止させることにより炭酸ガスの供給を停止する(S14)。
【0036】
炭酸ガス供給を停止した後、pH測定装置20は、第2の井戸50内の地下水(汚染水)のpH測定を行う(S15)。制御装置30は、pH測定装置20から受信したpHの値を閾値と比較し、閾値より高いか低いかを判断する(S16)。閾値より高いと判断した場合(S16でNの場合)、制御装置30は、二酸化炭素供給装置10に対し、炭酸ガスの供給を再開する信号を送信する。二酸化炭素供給装置10は、当該信号に基づいて、供給管60に設置されているバルブを開放させ、コンプレッサーを駆動させることで炭素ガスの供給を再開する(S17)。一方、閾値より低いと判断した場合(S16でYの場合)、制御装置30は、二酸化炭素供給装置10に対し、炭酸ガスの供給を停止させる信号を送信する。二酸化炭素供給装置10は、当該信号に基づいて、炭酸ガスの供給を停止した状態を維持する。汚染水拡散制御システム1は、pH測定装置20からpHの値を受信する都度、S12からS17の処理を繰り返し行う。
【0037】
上記処理を行うことにより、汚染水拡散抑制システム1は、地盤中に炭酸カルシウムを析出させ、壁状の部分を形成できる。また、汚染水拡散防止システム1は、測定したpHの値に応じて地盤に供給する炭酸ガスの供給量を調節することにより、形成した壁状の部分を長期にわたって維持することができる。すなわち、本実施形態に係る汚染水拡散抑制システムによれば、長期間にわたり、汚染物質の拡散を抑制することができる。
【0038】
ここで、図3を用いて、汚染水拡散抑制システム1の第二の態様の具体的な動作について説明する。
汚染水の拡散を抑制する場合、制御装置30は、二酸化炭素供給装置10に対し、二酸化炭素の供給を開始させる信号を送信する。二酸化炭素供給装置10は、当該信号に基づいて、供給管60に設置されているバルブを開放させ、コンプレッサーを駆動させることで炭素ガスの供給を開始する(S20)。二酸化炭素供給装置10からの炭酸ガスは、供給管60を介して第1の井戸40内に送られ、第1の井戸40の壁から地盤に供給される。
【0039】
その後、制御装置30は、二酸化炭素供給装置10に対し、炭酸ガスの供給を停止させる信号を送信する。二酸化炭素供給装置10は、当該信号に基づいて、バルブを閉じ、且つコンプレッサーの駆動を停止させることにより炭酸ガスの供給を停止する(S21)。
その後、pH測定装置20は、第2の井戸50内の地下水(汚染水)のpH測定を行う(S22)。pH測定装置20は、測定したpHの値を制御装置30に送信する。
【0040】
制御装置30は、pH測定装置20から受信したpHの値を、閾値と比較し、閾値より高いか低いかを判断する(S23)。閾値より高いと判断した場合(S23でNの場合)、制御装置30は、二酸化炭素供給装置10に対し、炭酸ガスの供給を再開させる信号を送信する。二酸化炭素供給装置10は、当該信号に基づいて、バルブやコンプレッサーを開け、炭酸ガスの供給を再開する(S24)。一方、閾値より低いと判断した場合(S23でYの場合)、制御装置30は、二酸化炭素供給装置10に対し、炭酸ガスの供給を停止させる信号を送信する。二酸化炭素供給装置10は、当該信号に基づいて、炭酸ガスの供給の停止を継続する(S25)。汚染水拡散制御システム1は、pH測定装置20からpHの値を受信する都度、S22からS25の処理を繰り返し行う。
【0041】
上記処理を行うことにより、汚染水拡散抑制システム1は、地盤中に炭酸カルシウムを析出させ、壁状の部分を形成できる。また、汚染水拡散防止システム1は、測定したpHの値に応じて地盤に供給する炭酸ガスの供給量を調節することにより、形成した壁状の部分を長期にわたって維持することができる。すなわち、本実施形態に係る汚染水拡散抑制システムによれば、長期間にわたり、汚染物質の拡散を抑制することができる。
【実施例0042】
以下、開示の技術の実施例を説明するが、開示の技術は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0043】
<炭酸カルシウム析出試験>
モデルとして、地下水に、二酸化炭素としての炭酸ガスを吹き込み、炭酸カルシウムが析出するかどうかを試験した。
地下水をくみ上げ、デカンテーションして地下水中の比較的大きな粒子を沈殿させた。その後、上澄みを採取し、モデルの地下水とした。なお、モデルの地下水は異なる2か所の地盤にて採取したものを用いた。
【0044】
モデルの地下水に対し、表1に記載のpHとなるまで炭酸ガスを吹き込んだ。炭酸カルシウムが析出すると地下水が白濁する。このため、炭酸カルシウムの析出は、目視にて確認し、評価した。評価結果を表1に併記した。
【0045】
【表1】
【0046】
2種類の地下水とも、炭酸ガスを吹き込むことで、地下水が白濁した。これは、炭酸カルシウムが析出したことによる。このため、地下水に炭酸ガスを吹き込むことで、炭酸カルシウムが析出することが明らかになった。
また、実施例1-1、1-2、1-3を比較すると、実施例1-2が最も濃い白色を呈し、実施例1-3が、最も薄い白色を呈した。実施例1-1、実施例1-2の白色の違いは、ごくわずかなものだった。
したがって、pHが9以下になると、炭酸カルシウムの析出量が低下するため、炭酸ガスの吹き込みはpH9以上において行う必要がある。また、pH10.47(約10.5)まで炭酸ガスを吹き込む場合と、pH9.84(約10)まで炭酸ガスを吹き込む場合とでは、析出する炭酸カルシウムの量に大きな差はないと考えられる。
なお、炭酸ガス吹き込み後に水酸化ナトリウム溶液を用いて、元のpHまでpHを上昇させたが、各サンプルともに、白濁の度合いに差はなく、炭酸ガスの吹き込みにより析出した炭酸カルシウムは、pHが再び上昇しても変化がないことが明らかになった。
【0047】
<炭酸カルシウムの析出と透水性との関係>
地盤に炭酸カルシウムが析出することで、地盤の透水性がどのように変化するかについて実験を行った。
珪砂5号(ρt:1.743g/cm、ρd:1.585g/cm、w:10.0%)をカラム(直径:2.600cm、断面積:5.31cm、長さ:10.000cm、体積:53.09cm)に充填し、試供体を作成した。作成した試供体に炭酸カルシウム懸濁液(Ca濃度:200mg/L)を(流量:47mL/min~57mL/min)の条件において、17955.6mL通した(通水した)。
その後、JIS A 1218の規定に基づき、透水試験を行った。測定結果を表2に示した。
【0048】
【表2】
【0049】
透水係数の測定結果から、通水時間が26時間を経過した段階で、透水係数が約1/10になったことが明らかになった。
すなわち、地盤中に炭酸カルシウム懸濁液を通すと、透水係数が低下することが明らかになった。この結果は、試料(地盤を構成する粒子)の間隙に炭酸カルシウムが析出することで、この間隙が部分的に閉塞したために起こったことと考えられる。
【0050】
<地盤モデルを用いた炭酸カルシウムの生成試験>
地盤モデルとして、図4に示す装置を用い、炭酸カルシウムの生成試験を行った。カラム100(内径5cm、長さ20cm)内に、試料(スラグ混入土壌)102を15cm入れた。カラムの上下は、ガラスビーズ103により封をしている。次に、図中の矢印方向(下から上)にCa溶液(Ca濃度:100mg/L)を、Ca溶液供給タンク(図示せず)から、流出した溶液のpHが12に達するまで通水した。その後、炭酸ガスを図中の矢印に沿って、カラム内の溶液のpHが10になるまで通した。このCa溶液の通水と炭酸ガスの通気とを36回繰り返した。
試料の透水性の変化(透水係数の変化)は、Ca溶液供給タンクの水位低下速度(50mL流出するまでの時間を計測して求める)から見積り、カラム内の溶液のpHは、カラム上部からオーバーフローした水を回収し、計測した。
【0051】
Ca溶液の通水と炭酸ガスの通気とを12回繰り返すまでは、透水性はほぼ変化がなかった。しかし、12回~32回の間は、透水性が低下した(50mL流出するまでの時間が長くなった)。そして、32回~36回の間は、透水性には変化がなかった。
これらの結果から、地盤に二酸化炭素を供給することで、炭酸カルシウムを析出させることができることが明らかになった。
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図2
図3
図4