(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076232
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】研削焼け発生推定装置及び研削焼け発生条件推定装置
(51)【国際特許分類】
B24B 49/04 20060101AFI20240529BHJP
G01N 27/72 20060101ALI20240529BHJP
B24B 49/10 20060101ALI20240529BHJP
B24B 5/04 20060101ALI20240529BHJP
B23Q 17/00 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
B24B49/04 A
G01N27/72
B24B49/10
B24B5/04
B23Q17/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187707
(22)【出願日】2022-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 直規
(72)【発明者】
【氏名】河原 徹
(72)【発明者】
【氏名】村上 慎二
【テーマコード(参考)】
2G053
3C029
3C034
3C043
【Fターム(参考)】
2G053AA16
2G053AB21
2G053BA03
2G053BA13
2G053BB04
2G053BC14
2G053CA03
2G053CA17
2G053CB24
2G053DA01
3C029EE00
3C034AA01
3C034BB15
3C034BB74
3C034BB92
3C034CA02
3C034CA26
3C034CA30
3C034CB12
3C034CB14
3C034DD07
3C034DD18
3C043AA03
3C043CC03
3C043DD02
3C043DD03
3C043DD05
3C043DD06
3C043EE02
3C043EE04
(57)【要約】
【課題】研削焼けの発生しない条件を少ない工数での検討を可能とするための研削焼け発生推定装置を提供する。
【解決手段】研削焼け発生推定装置1は、渦電流センサ20、出力信号取得部40、寸法情報取得部41、研削能率算出部43と研削焼け発生推定部44を備える。研削焼け発生推定部44は、制御装置31により研削能率Z’を連続的に変化させた特定区間において、出力信号取得部40により取得された渦電流センサ20の出力信号Pが急変する急変領域を検知して被加工部における研削焼けの発生を推定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
研削盤により工作物の表面を複数回研削して最終目標形状に加工される工作物における被加工部の研削焼けの発生を推定する研削焼け発生推定装置であって、
上記研削盤を駆動制御する制御装置と、
上記工作物の被加工部に対向して配置されて、励磁電流により上記工作物の内部に渦電流を誘導し、上記渦電流により生じる磁界に応じた出力信号を出力する渦電流センサと、
上記渦電流センサにより出力された出力信号を取得する出力信号取得部と、
上記工作物の上記被加工部の寸法情報を取得する寸法情報取得部と、
上記工作物の研削加工中における上記工作物の寸法情報の変化に基づいて、上記工作物の1回転毎の研削能率を算出する研削能率算出部と、
上記制御装置により上記研削能率を連続的に変化させた特定区間において、上記出力信号取得部により取得された上記出力信号が急変する急変領域を検知して上記被加工部における研削焼けの発生を推定する研削焼け発生推定部と、
を有する研削焼け発生推定装置。
【請求項2】
上記急変領域は、上記特定区間における上記出力信号の値が所定の基準値に到達した点を含む、請求項1に記載の研削焼け発生推定装置。
【請求項3】
上記基準値は、上記特定区間における上記出力信号の初期値からの変化量が最大となる最大変化量の半分の値に相当する、請求項2に記載の研削焼け発生推定装置。
【請求項4】
上記急変領域は、上記特定区間における上記出力信号の変化の割合の絶対値が、予め設定された基準変化割合よりも大きい領域である、請求項1に記載の研削焼け発生推定装置。
【請求項5】
上記制御装置は、上記工作物の研削加工は、粗研工程の後に精研工程を行うように構成されており、
上記特定区間は、上記粗研工程に含まれている、請求項1~4のいずれか一項に記載の研削焼け発生推定装置。
【請求項6】
上記特定区間は、実切り込み量が上記粗研工程において初期値から、上記制御装置により指令された指令値に到達するまでに連続的に変化する区間である、請求項5に記載の研削焼け発生推定装置。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載の研削焼け発生推定装置と、
上記研削焼け発生推定部の推定結果に基づいて、上記被加工部に研削焼けが発生しない範囲で、上記研削盤における最大の研削能率を示す限界研削能率を評価する限界研削能率評価部と、を備える、研削焼け発生条件推定装置。
【請求項8】
上記限界研削能率評価部は、上記制御装置により上記研削盤の工具主軸の回転速度を複数変化させて上記限界研削能率を評価する、請求項7に記載の研削焼け発生条件推定装置。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか一項に記載の研削焼け発生推定装置と、
上記研削焼け発生推定部の推定結果に基づいて、上記被加工部に研削焼けが発生しない範囲で、上記研削盤における最大の研削抵抗を示す限界研削抵抗を評価する限界研削抵抗評価部と、を備える、研削焼け発生条件推定装置。
【請求項10】
上記限界研削抵抗評価部は、上記研削盤の工具主軸を回転させる駆動装置の消費電力に基づいて上記限界研削抵抗を評価する、請求項9に記載の研削焼け発生条件推定装置。
【請求項11】
上記限界研削抵抗評価部は、上記制御装置により上記研削盤の工具主軸の回転速度を複数変化させて、上記限界研削抵抗を評価する、請求項10に記載の研削焼け発生条件推定装置。
【請求項12】
上記研削盤による研削条件を入力する研削条件入力部と、
上記研削条件入力部に入力された上記研削条件に基づいて上記工作物の加工を行ったときに上記研削能率算出部により算出された上記研削能率と、限界研削能率算出用の工作物を上記研削盤で加工して算出した上記限界研削能率とを比較した結果に基づいて研削焼けの発生を判定して研削条件の良否を判定する研削条件判定部と、を備える、請求項7に記載の研削焼け発生条件推定装置。
【請求項13】
上記工作物を上記研削盤により研削したときの上記渦電流センサの出力信号を取得して、上記研削焼け発生推定部による推定結果に基づいて、上記工作物における研削焼けの発生の有無を監視する監視部を備える、請求項7に記載の研削焼け発生条件推定装置。
【請求項14】
上記工作物を上記研削盤により研削したときの研削抵抗を取得して、上記限界研削抵抗と比較して研削焼けの発生を監視する監視部を備える、請求項9に記載の研削焼け発生条件推定装置。
【請求項15】
上記研削盤における工具切れ味に応じた複数の上記限界研削能率が記憶された評価結果記憶部と、
研削加工を行う上記研削盤に備えられた工具の切れ味に対応する上記限界研削能率に基づいた研削条件を設定する研削条件設定部と、を備える、請求項13に記載の研削焼け発生条件推定装置。
【請求項16】
複数の上記限界研削能率のうち、いずれかの工具切れ味に応じた上記限界研削能率に基づいて研削条件を設定して上記研削盤で研削加工を行ったときに上記監視部により研削焼けが発見された場合、複数の上記限界研削能率のうち、工具切れ味がより悪い工具に対応する上記限界研削能率に基づいた研削条件に変更する研削条件調整部を備える、請求項15に記載の研削焼け発生条件推定装置。
【請求項17】
上記限界研削抵抗に基づいた研削条件で上記研削盤により研削加工を行ったときに上記監視部により研削焼けが発見された場合、上記研削焼けが生じないように上記研削条件を調整する研削条件調整部を備える、請求項14に記載の研削焼け発生条件推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削焼け発生推定装置及び研削焼け発生条件推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工作物の研削加工において、研削加工に関与する多数のパラメータを変更した試験を行うことにより、研削焼けが発生しない研削条件を検討することが行われている。例えば、特許文献1に開示の構成では、渦電流センサを用いて周波数の異なる2種類の励磁電流により生じるそれぞれの渦電流の出力信号に対して、工作物に残留する残留磁束密度の成分を除去する補正をすることで、研削焼けの有無の判定精度を向上させる。そして、この補正した渦電流センサの出力信号をもって、研削焼けが生じない研削条件を検討している。この方法とは別に、様々な条件で研削加工を行った後の工作物をナイタールなどの腐食液によりエッチング処理して表面状態を観察することにより、工作物表面の研削焼け状態を評価し、研削焼けの生じない研削条件を模索することも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示の構成やエッチングによる評価に基づく手法では、多数のパラメータをそれぞれ異なる条件として試験を行う必要があり、試験工数が極めて多く、作業効率が非常に悪い。また、各パラメータを複数の値に変更しても、それぞれの値同士の間については評価できておらず、離散的な評価結果となっている。そのため、連続的な評価結果を取得するとともに、研削焼けが発生しない条件を検討するための工数低減が望まれている。
【0005】
本発明は、研削焼けの発生しない条件を少ない工数での検討を可能とするための研削焼け発生推定装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、研削盤により工作物の表面を複数回研削して最終目標形状に加工される工作物において、被加工部の研削焼けの発生を推定する研削焼け発生推定装置であって、
上記研削盤を駆動制御する制御装置と、
上記工作物の被加工部に対向して配置されて、励磁電流により上記工作物の内部に渦電流を誘導し、上記渦電流により生じる磁界に応じた出力信号を出力する渦電流センサと、
上記渦電流センサにより出力された出力信号を取得するセンサ信号取得部と、
上記工作物の上記被加工部の寸法情報を取得する寸法情報取得部と、
上記工作物の研削加工中における上記工作物の寸法情報の変化に基づいて、上記工作物の1回転毎の研削能率を算出する研削能率算出部と、
上記制御装置により上記研削能率を連続的に変化させた特定区間において、上記センサ信号取得部により取得された上記出力信号が急変する急変領域を検知して上記被加工部における研削焼けの発生を推定する研削焼け発生推定部と、
を有する研削焼け発生推定装置にある。
【発明の効果】
【0007】
上記態様によれば、研削盤の研削能率を連続的に変化させた特定区間において、励磁電流により加工中の工作物の内部に生じた渦電流を渦電流センサにより検出して取得した出力信号が急変する急変領域を検知して被加工部における研削焼けの発生を推定する。渦電流センサの出力信号が急変する急変領域では、被加工部に研削焼けが生じることとなる。そして、研削能率を連続的に変化させた特定区間で研削焼けの発生を検出しているため、連続的な研削能率について連続的な評価結果を取得することができる。その結果、離散的な試験を行う場合に比べて、研削焼けの発生しない条件を検討するための工数を低減することができる。
【0008】
以上のごとく、上記態様によれば、研削焼けの発生しない条件を少ない工数での検討を可能とするための研削焼け発生推定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態1における、研削焼け発生推定装置及び研削焼け発生条件推定装置を含む構成を示す概念図。
【
図2】実施形態1における、研削焼け発生推定装置及び研削焼け発生条件推定装置の構成を示す機能ブロック図。
【
図3】実施形態1における、定寸装置の構成を示す図。
【
図4】実施形態1における、渦電流センサの出力信号を表す図。
【
図5】実施形態1における、(a)渦電流センサの出力信号を表す図、(b)実切り込み量を表す図、(c)工具主軸の駆動装置の消費電力を表す図。
【
図6】実施形態1における、実切り込み量と研削能率との対応関係。
【
図7】実施形態1における、(a)工具主軸の回転数と限界研削能率との対応関係、(b)工具主軸の回転数と限界研削抵抗との対応関係、
【
図9】実施形態1における、研削焼け発生推定処理のフロー図。
【
図10】実施形態1における、研削条件設定処理のフロー図。
【
図11】実施形態1における、研削条件判定処理のフロー図。
【
図12】実施形態1における、第1研削焼け監視及び研削条件調整処理のフロー図。
【
図13】実施形態1における、第2研削焼け監視及び研削条件調整処理のフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態1)
実施形態1の研削焼け発生推定装置1は、加工装置により研削加工される工作物Wの研削焼けの発生を評価する。以下、各構成について詳述する。
【0011】
1.加工装置の構成
実施形態1では、加工装置としての
図1に示す研削盤2を備える。研削盤2は、工作物Wの中心線Cを中心に工作物Wを回転させ、回転体である工具としての砥石車16を回転させ、かつ、砥石車16を工作物Wに対して工作物Wの軸線に交差する方向に相対的に接近させることにより、工作物Wの外周面または内周面を複数回研削して、工作物Wを予め設定された最終目標形状とする。研削盤2は、テーブルトラバース型の研削盤、砥石台トラバース型の研削盤などを適用可能である。また、研削盤2は、円筒研削盤、カム研削盤等を適用可能である。
【0012】
本実施形態においては、
図1に示すように、工作物Wは、例えば、軸状に形成された部材とし、工作物Wの外周面が被加工部である場合を例にあげる。ただし、工作物Wの形状は、軸状に限られず、内周面を有する筒状など、任意の形状とすることができる。工作物Wが筒状である場合は工作物Wの内周面を被加工部とすることができる。
【0013】
本実施形態においては、工作物Wは、略棒状であって両端において工作物支持部材により支持される。ただし、
図1に示す工作物Wは、一例であって、研削盤2は、種々の形状を有する工作物を研削加工の対象とすることができる。
【0014】
処理部3は、研削焼け発生条件推定装置10と、研削盤2を制御する制御装置31とを備える。そして、研削焼け発生条件推定装置10は、研削焼け発生推定装置1を含んでいる。研削焼け発生推定装置1は後述するように、工作物Wにおける研削による研削焼け発生を推定し、研削焼け発生条件推定装置10は、研削焼け発生推定装置1の推定結果を利用して、研削焼け発生条件の推定を行うとともに、工作物Wにおける研削条件を調整する。制御装置31は、研削盤2を制御することにより、研削加工を制御する。
【0015】
研削焼け発生条件推定装置10は、研削盤2および制御装置31とは独立したシミュレーション装置として機能させることもできるし、研削盤2および制御装置31と連動して動作するシミュレーション装置として機能させることもできる。前者の場合には、研削焼け発生条件推定装置10は、例えば、実際の工作物Wの研削加工を行うことなく、最適な研削条件を決定することができる。後者の場合には、研削焼け発生条件推定装置10は、研削盤2による工作物Wの研削加工と並行して処理することにより、例えば、研削焼けの有無を判定したり、研削条件を調整したり、各種制御に影響を及ぼすように動作したりすることができる。また、研削焼け発生条件推定装置10は、研削盤2および制御装置31の組込みシステムとすることもできる。
【0016】
2.研削盤2および制御装置31の構成
研削盤2の構成について、
図1を参照して説明する。本実施形態1においては、研削盤2は、砥石台トラバース型の円筒研削盤を例にあげる。ただし、研削盤2は、テーブルトラバース型を適用することもできる。研削盤2は、主として、ベッド11、主軸台12、心押台13、トラバースベース14、砥石台15、砥石車16、定寸装置17、砥石車修正装置18、クーラント装置19及び渦電流センサ20を備える。
【0017】
ベッド11は、設置面上に固定されている。主軸台12は、ベッド11の上面において、X軸方向の手前側(
図1の下側)且つZ軸方向の一端側(
図1の左側)に設けられている。主軸台12は、工作物Wの中心線Cを中心として工作物WをZ軸回りに回転可能に支持する。工作物Wは、主軸台12に設けられたモータ12aの駆動により回転される。心押台13は、ベッド11の上面において、主軸台12に対してZ軸方向に対向する位置、すなわち、X軸方向の手前側(
図1の下側)且つZ軸方向の他端側(
図1の右側)に設けられている。つまり、主軸台12および心押台13が、工作物Wを回転可能に両端支持する。
【0018】
トラバースベース14は、ベッド11の上面において、Z軸方向に移動可能に設けられている。トラバースベース14は、ベッド11に設けられたモータ14aの駆動により移動する。砥石台15は、トラバースベース14の上面において、X軸方向に移動可能に設けられている。砥石台15は、トラバースベース14に設けられたモータ15aの駆動により移動する。砥石車16は、工具として砥石台15に回転可能に支持されている。砥石車16は、砥石台15に設けられた工具主軸の駆動装置であるモータ16aの駆動により回転する。砥石車16は、複数の砥粒がボンド材により固定されて構成されている。
【0019】
定寸装置17は、工作物Wの寸法(径)を測定する検出器として機能する。ただし、検出器は、定寸装置17に限定されず、単一のプローブを有する接触式センサやレーザ変位計などの非接触式センサであってもよい。なお、定寸装置17は図示しない機構を介してトラバースベース14と同期してZ軸方向に移動可能に設けられている。
【0020】
図3に示すように、定寸装置17は、装置本体171と、一対の接触子172a,172bと、一対のフィンガ173a,173bと、差動トランス174とを主に備える。接触子172a,172bは、工作物Wの外周面に対して接触可能に設けられる。具体的に、一対の接触子172a,172bのうち、一方の接触子172aは、工作物Wの外周面に対して上方から接触し、他方の接触子172bは、工作物Wの外周面に対して下方から接触する。フィンガ173a,173bは、接触子172a,172bを保持すると共に、装置本体171に対し、接触子172a,172bを相対変位可能に支持する。具体的に、一対のフィンガ173a,173bのうち、一方のフィンガ173aは、一方の接触子172aを支持し、他方のフィンガ173bは、他方の接触子172bを支持する。
【0021】
差動トランス174は、装置本体171に収容される。差動トランス174は、一対の接触子172a,172bの変位に伴って変位する一対のフィンガ173a,173bの変位を検出し、フィンガ173a,173bの変位に応じた電気信号を制御装置31に出力する。制御装置31は、差動トランス174から出力された電気信号に基づいて、一対の接触子172a,172bが工作物Wの外周面に接触したときのフィンガ173a,173bの位置を検知し、フィンガ173a,173bの位置に基づいて、定寸装置17による工作物Wの外径の測定結果を取得することができる。なお、定寸装置17には、他の検出器として、加速度センサ、マイクロフォン、温度センサなどが取り付けられていてもよい。
【0022】
渦電流センサ20は、センサヘッドが工作物Wの被加工部に対向するように配置されている。なお、渦電流センサ20は後述する研削焼け発生推定装置1の一部を構成している。本実施形態1では、
図3に示すように、渦電流センサ20のセンサヘッドが定寸装置17の装置本体171に取り付けられて、工作物Wに対して砥石車16と反対側に位置している。なお、
図1及び
図3において、符号20はセンサヘッドの位置を図示し、センサ本体は図示を省略する。
【0023】
渦電流センサ20は、図示しないコイルを有しており、当該コイルに励磁電流を供給することにより、コイルは工作物Wに磁場を印加して工作物Wの内部に渦電流を誘導する。そして、渦電流センサ20は、渦電流が作る磁界によってコイルのインピーダンスの変化を信号として出力する。渦電流の大きさ、ひいては出力信号の大きさは工作物Wの被加工部の状態などに応じて変化する。
【0024】
渦電流センサ20において、上記コイルには周波数の異なる複数の励磁電流を供給できるように構成されている。励磁電流の周波数は、図示しない周波数設定部により設定することができる。渦電流の浸透深さはその励磁電流の周波数により異なるため、励磁電流の周波数は目標とする渦電流の浸透深さに応じて設定することができる。目標とする渦電流の浸透深さは研削焼けが発生しうる表層部に一致させるようにし、例えば、加工表面から1~100μmとすることができ、好ましくは1~50μm、より好ましくは10~30μmとすることができる。浸透深さが浅い場合は、渦電流センサの感度が高くなりすぎてSN比が低下し、検出精度が低下する。一方、浸透深さが深い場合は、加工表面から浅い領域において磁気特性変化の検出レベルが低下するため検出精度が低下する。
【0025】
上述の浸透深さに応じた励磁電流の周波数は、20kHz~200MHzの周波数帯に設定することができ、好ましくは20kHz~100kHz、より好ましくは250~2500kHzとすることができる。本実施形態では、渦電流の浸透深さが30μmとなるように励磁電流の周波数を250kHzに設定している。
【0026】
図1に示す砥石車修正装置18は、砥石車16の形状を修正する。砥石車修正装置18は、砥石車16のツルーイングを行う装置である。砥石車修正装置18は、ツルーイングに加えて、または、ツルーイングに代えて、砥石車16のドレッシングを行う装置としてもよい。さらに、砥石車修正装置18は、砥石車16の寸法(径)を測定する機能も有する。
【0027】
ここで、ツルーイングは、形直し作業であり、研削によって砥石車16が摩耗した場合に工作物Wの形状に合わせて砥石車16を成形する作業、片摩耗によって砥石車16の振れを取り除く作業等である。ドレッシングは、目直し(目立て)作業であり、砥粒の突き出し量を調整したり、砥粒の切れ刃を創成したりする作業である。ドレッシングは、目つぶれ、目詰まり、目こぼれ等を修正する作業であって、通常ツルーイング後に行われる。
【0028】
クーラント装置19は、クーラントノズルから砥石車16による工作物Wの研削点にクーラントを供給する。クーラント装置19は、回収したクーラントを、所定温度に冷却して、再度研削点に供給する。クーラント装置19は、クーラントの流量や供給タイミングの調整が可能となっている。なお、
図1において、符号19はクーラントノズルの位置を図示する。また、図示しないが、検出器として、回収したクーラントの温度を取得する温度センサが備えられていてもよい。
【0029】
制御装置31は、工作物Wの形状、研削条件、砥石車16の形状、クーラントの流量又は供給タイミング情報等の動作指令データに基づいて生成されたNCプログラムに基づいて、研削盤2における砥石車16やクーラント装置19等を駆動制御することにより工作物Wの研削を行う。特に、制御装置31は、後述する研削条件設定部49により作成された研削条件と、定寸装置17により測定される工作物Wの径に基づいて、工作物Wが仕上げ形状(目標形状)となるまで研削を行う。また、制御装置31は、砥石車16を修正するタイミングにおいて、砥石車修正装置18等を制御することにより、砥石車16の修正(ツルーイングおよびドレッシング)を行う。
【0030】
3.研削焼け発生推定装置1の構成
図2に示すように、研削焼け発生推定装置1は、上述の渦電流センサ20とともに、出力信号取得部40、寸法情報取得部41、実切り込み量算出部42、研削能率算出部43、研削焼け発生推定部44を備え、これらは記憶装置又は演算装置により構成される。
【0031】
出力信号取得部40は、渦電流センサ20から出力された出力信号Pを取得する。出力信号Pは、
図4に示すように、渦電流電圧として取得される。
【0032】
寸法情報取得部41は、工作物Wの寸法情報を取得する。工作物Wの寸法情報は、本実施形態では、上述の通り、定寸装置17により工作物Wの加工中の寸法を検出することができる。なお、定寸装置17に替えて、制御装置31から出力される工作物Wの切込み軸となるX軸の座標位置に基づいて工作物Wの寸法情報を間接的に算出して取得することとしてもよい。
【0033】
実切り込み量算出部42は、寸法情報取得部41により取得された工作物Wの寸法情報の変化量に基づいて、工作物Wにおける1回転毎の切り込み量を取得する。そして、研削能率算出部43において、実切り込み量算出部42で取得した1回転毎の切り込み量に基づいて、研削能率Z’を算出する。研削能率Z’の算出は、複数の工具主軸の回転速度(主軸回転速度)において算出する。本実施形態1では、
図6に示すように、主軸回転速度がR1、R2、R3(ただし、R1<R2<R3の関係を満たす)の3パターンについて研削能率Z’を算出した。なお、工具の切れ味は最も悪い状態とし、R1の場合のみ工具の切れ味が良い状態のものも使用した。
【0034】
研削焼け発生推定部44は、制御装置31により研削盤2の研削能率を連続的に変化させた特定区間Tsにおいて、出力信号取得部40により取得された出力信号Pが急変する急変領域Scを検知して上記被加工部における研削焼けの発生を推定する。特定区間Tsは、後述する研削加工における粗研工程S11に含まれる区間である。そして、特定区間Tsは、
図5(b)に示すように、実切り込み量が初期値A0(砥石車16と工作物Wとが非接触の状態)から研削条件に基づいて制御装置31から指示される指令値SAに到達するまでの過渡応答の期間である。当該期間において、実切り込み量は初期値A0から指令値SAまで連続的に増加するように変化する。そして、
図6に示すように、当該実切り込み量は研削能率Z’に比例するため、当該特定区間Tsでは、研削能率Z’も初期値A0に対応する初期値から指令値SAに対応する目標値まで連続的に増加するように変化することとなる。
【0035】
急変領域Scは、特定区間Tsにおいて出力信号Pが初期値P0から急変する領域をさす。例えば、急変領域Scは、特定区間Tsにおける出力信号Pの値が所定の基準値Psに到達した点を含むようにすることができる。本実施形態1では、
図5(a)に示すように、基準値Psは、特定区間Tsにおける出力信号Pの初期値P0からの変化量が最大となる最大変化量Pmの半分の値に相当するものとした。出力信号Pが基準値Psに到達したとき、
図5(b)に示すように実切り込み量はAとなっており、工具主軸の駆動電力はBとなっている。なお、基準値Psは、これに替えて、特定区間Tsにおける出力信号Pの変化の割合の絶対値が、予め設定された基準変化割合よりも大きい領域とすることもできる。
【0036】
急変領域Scでは、砥石車16による工作物Wの被加工部の研削によって発生する熱により被加工部に研削焼けが生じることとなる。研削焼けは短い時間で発生するものであって、研削焼けにより工作物Wに生じる加工変質層に応じて変化する渦電流センサ20の出力信号(渦電流電圧)も短い時間内で変化するため、当該出力信号は急峻な変化(急変)を呈することとなる。したがって、研削焼け発生推定部44は、このような急変領域Scを検出することで、被加工部における研削焼けの発生を推定することができる。なお、図示しないが推定結果を表示する表示部を有していてもよい。
【0037】
一方、粗研工程S11において研削焼けが生じない場合は、研削焼けに起因する加工変質層が生じないため渦電流センサ20の出力信号は緩やかに変化し、
図5(a)においてPmで示すような大きな変化量を呈さないため、出力信号は基準値Psを通過しない。
【0038】
4.研削焼け発生条件推定装置10の構成
図2に示すように、研削焼け発生条件推定装置10は、上述の研削焼け発生推定装置1とともに、研削抵抗算出部45、限界研削能率評価部46、限界研削抵抗評価部47、評価結果記憶部48、研削条件設定部49、監視部50、研削条件調整部51、研削条件入力部52、研削条件判定部53、その他条件設定部54を備え、これらは記憶装置又は演算装置により構成される。また、研削焼け発生条件推定装置10は、所定の表示装置により構成される表示部55を備える、
【0039】
研削抵抗算出部45は、工作物Wの研削加工における研削抵抗を算出する。本実施形態1では、工具主軸の駆動装置(モータ)16aの駆動電力を取得し、当該駆動電力に基づいて、研削抵抗を算出する。
【0040】
限界研削能率評価部46は、研削焼け発生推定部の推定結果に基づいて、被加工部に研削焼けが発生しない範囲で、研削盤2における最大の研削能率を示す限界研削能率Z’を評価する。なお、研削能率Z’は、単位幅(1mm)あたり1秒間で除去できる被加工部の体積を示す。限界研削能率は、
図7(a)に示すように、工具主軸の回転速度ごとに複数取得する。本実施形態1では、上述の通り、工具主軸の回転速度がR1、R2、R3(ただし、R1<R2<R3の関係を満たす)の3パターンについて工具切れ味が同じ状態で限界研削能率Z’を取得した。このときの工具切れ味は、いずれも悪い状態とした。また、工具主軸の回転速度がR1の場合については、工具切れ味が悪い場合とよい場合のそれぞれについて限界研削能率Z’を取得した。
【0041】
図7(a)に示すように、工具切れ味の悪い場合に比較した回転速度R1、R2、R3(
図7(a)において塗潰した記号)では、限界研削能率Z’は工具主軸の回転速度に対して線形の関係であって、工具主軸の回転速度が大きくなるほど限界研削能率Z’が一定割合で大きくなる関係を有する。また、R1において工具切れ味が悪い場合(塗潰した丸)と良い場合(白抜きの丸)とを比較すると、工具主軸の回転速度が同じでも工具切れ味が良い方は限界研削能率Z’が上昇している。したがって、限界研削能率Z’を評価するにあたっては、工具の切れ味が悪い状態で行うことが好ましい。
【0042】
上述の通り、研削能率Z’が初期値から指令値SAに対応する目標値まで連続的に変化する特定区間Tsにおいて、工具主軸の回転速度のパターンR1、R2、R3にそれぞれにおいて研削能率Z’は連続的に取得されることとなる。そのため、工具主軸の回転速度のパターンR1、R2、R3のそれぞれにおける限界研削能率Z’の評価は連続的に行うことができ、離散的な評価を行う場合に比べて試験工数を少なくかつ精度よく行うことができる。
【0043】
限界研削能率評価部46により評価された限界研削能率Z’は、評価結果記憶部48に記憶することができる。例えば、予め複数の工具切れ味についての限界研削能率Z’を取得して評価結果記憶部48に記憶しておくことができる。
【0044】
限界研削抵抗評価部47は、研削焼け発生推定部44の推定結果に基づいて、被加工部に研削焼けが発生しない範囲で、研削盤2における最大の研削抵抗を示す限界研削抵抗を評価する。限界研削抵抗評価部47により評価された限界研削抵抗は、評価結果記憶部48に記憶することができる。
【0045】
本実施形態1では、工具主軸の回転駆動の駆動電力に基づいて研削抵抗を算出している。上述のように、研削抵抗は、工具主軸の回転駆動の駆動電力に比例するものであり、限界研削抵抗も研削焼けが発生しない範囲で最大の工具主軸の駆動電力を示す限界駆動電力に比例する。
図7(b)に示すように、限界研削抵抗は、工具主軸の回転速度に対する依存性が低くなっており、工具主軸の回転速度によらず、概ね一定の値を示している。
【0046】
研削条件設定部49は、限界研削能率評価部46により評価された限界研削能率Z’に基づいて、研削盤2の研削条件の設定を行う。すなわち、限界研削能率Z’を超えない範囲で研削条件を設定する。研削条件設定部49は、研削盤2の初期条件としての研削条件を設定することができる。
【0047】
研削条件設定部49は、工具切れ味に応じて研削条件を設定することとしてもよい。例えば、評価結果記憶部48に、予め研削盤2における複数の工具切れ味に応じた複数の限界研削能率Z’を記憶しておき、記憶された限界研削能率Z’の中から研削加工を行う研削盤2に備えられた工具の切れ味に対応する限界研削能率Z’を抽出し、当該抽出した限界研削能率Z’に基づいて研削条件を設定することとしてもよい。なお、設定された研削条件は、その他条件設定部54で設定された条件とともに、制御装置31に送信される。
【0048】
監視部50は、研削条件が設定された後、工作物Wを研削盤2により研削したときの渦電流センサ20の出力信号Pを取得して、工作物Wにおける研削焼けの発生の有無を監視する。監視部50による監視態様は限定されず、例えば、研削焼けの発生を発見した場合は、監視結果を表示部55に表示することができる。
【0049】
監視部50は、研削条件が設定された後、工作物Wを研削盤2により研削したときの研削抵抗を取得して、限界研削抵抗と比較して研削焼けの発生を監視するようにしてもよい。この場合も、監視結果を表示部55に表示することができる。
【0050】
研削条件調整部51は、限界研削能率Z’に基づいて研削条件に変更することができる。例えば、まず、予め評価結果記憶部48に工具切れ味に応じた複数の限界研削能率を記憶しておく。そして、いずれかの工具切れ味に応じた限界研削能率に基づいて研削条件を設定して研削盤2で研削加工を行ったときに監視部50により研削焼けが発見された場合、複数の限界研削能率のうち、より悪い工具切れ味に対応する限界研削能率に基づいた研削条件に変更することができる。
【0051】
また、研削条件調整部51は、限界研削抵抗に基づいた研削条件で研削盤2により研削加工を行ったときに監視部50により研削焼けが発見された場合、研削焼けが生じないように研削条件を調整することができる。
【0052】
研削条件入力部52は、ユーザ等により設定された研削条件が研削焼けを発生させるものか否かを判定するために、当該研削条件が入力される。研削条件入力部52を介して入力された研削条件は、研削条件判定部53により上記判定が行われる。すなわち、研削条件判定部53は、研削条件入力部52に入力された研削条件に基づいて工作物Wの加工を行ったときに研削能率算出部43により算出された研削能率と、限界研削能率算出用の工作物を研削盤2で加工して算出した限界研削能率Z’とを比較した結果に基づいて研削焼けの発生を判定して研削条件の良否を判定する。以上のように、研削焼け発生条件推定装置10により研削焼け発生条件の推定を行い、研削焼けが生じない研削条件を設定することができる。
【0053】
5.研削加工処理S1の説明
研削加工処理S1について
図8を参照して説明する。上述の通り、研削加工処理S1は、粗研工程S11、精研工程S12、微研工程S13、スパークアウト工程S14を含む。なお、図示しないが、粗研工程S11の前処理として、工作物Wの振れ取り工程を行う。これにより、粗研工程S11の開始時に工作物Wの被加工部はセンター出しされた状態となる。
【0054】
粗研工程S11では、制御装置31により、工作物Wの形状、研削条件、砥石車16の形状、クーラントの流量又は供給タイミング情報等の動作指令データに基づいて、砥石車16を所定の速度で回転させて、第1切り込み量で工作物Wを研削する。精研工程S12では、制御装置31により工作物Wを第1切り込み量よりも低い第2切り込み量で研削する。微研工程S13では、制御装置31により工作物Wを第2切り込み量よりも低い第3切り込み量で研削する。スパークアウト工程S14では、予め設定された回転数で工作物Wを回転させて微研工程S13における研削残しの分を研削して断面形状を真円形状とする。スパークアウト工程S14における切り込み量はゼロに設定することができる。
【0055】
切り込み量は制御装置31により砥石車16の切込み位置を制御することにより調整できる。各工程S11~S13における第1~第3切り込み量は上述の関係を満たす範囲で適宜設定され、スパークアウト工程S14における実切り込み量は実質的にゼロとなっている。そして、粗研工程S11での第1切り込み量が最も大きくなっており、各工程S11~S14において粗研工程S11は研削能率が最も高い。そのため、研削焼けは実質的に粗研工程S11でのみ生じることとなる。
【0056】
6.研削焼け発生の推定処理S2
次に研削焼け発生推定装置1による研削焼け発生の推定処理S2について、
図9のフロー図を参照して説明する。研削焼け発生の推定処理S2は研削加工処理S1と並行して行う。
【0057】
研削焼け発生の推定処理S2では、まず、ステップS21において、粗研工程S11において、出力信号取得部40により渦電流センサ20の出力信号Pを取得する。その後、ステップS22において、寸法情報取得部41により、工作物Wの寸法情報を取得する。そして、ステップS23において、実切り込み量算出部42により寸法情報から実切り込み量を算出し、ステップS24において、研削能率算出部43により工作物Wの1回転毎の研削能率Z’を算出する。
【0058】
次いで、ステップS25において、研削焼け発生推定部44により、特定区間Tsにおいて、急変領域Scを検知したか否か判定する。本実施形態1では、
図5(a)に示すように、取得した出力信号Pが、特定区間Tsにおける出力信号Pの初期値P0からの変化量が最大となる最大変化量Pmの半分の値に相当する基準値Psに到達したとき、急変領域Scを検知したと判定する。
【0059】
ステップS25において、出力信号Pが基準値Psに到達したと判定されたときは、ステップS25のYesに進み、ステップS26において研削焼けありと推定し、このフローを終了する。一方、ステップS25において、出力信号Pが基準値Psに到達していないと判定されたときは、ステップS25のNoに進み、ステップS27において研削焼けなしと推定し、このフローを終了する。
【0060】
7.研削条件の設定処理S3
次に研削焼け発生条件推定装置10による研削条件の設定処理S3について、
図10のフロー図を参照して説明する。当該フローでは、まず、ステップS31からステップS41のループ処理を行う。ステップS31では、制御装置31において、工具主軸の回転速度としてR1、R2、R3(R1<R2<R3)のいずれか、例えばR1を設定する。次いで、ステップS32において、研削焼けが発生する条件で研削加工を開始する。
【0061】
その後、ステップS33において、出力信号取得部40により粗研工程S11での渦電流センサ20の出力信号Pを取得する。そして、ステップS34において、研削焼け発生推定部44により、特定区間Tsで急変領域Scを検知する。
【0062】
そして、第1の並列処理S35~S38と、第2の並列処理S39~S41を行う。まず、第1の並列処理では、ステップS35~S37において、
図9のステップS22~S24と同様に、定寸装置17により工作物Wの寸法情報を取得し、実切り込み量を算出して研削能率Z’を算出する。そして、ステップS38において、限界研削能率評価部46により、急変領域Scでの研削能率Z’を当該主軸回転速度R1における限界研削能率Z’として評価する。
【0063】
一方、第2の並列処理では、ステップS39において、研削抵抗算出部45により、工具主軸の駆動装置16aの駆動電力を取得して、ステップS40において研削抵抗を算出する。そして、ステップS41において、限界研削抵抗評価部47により、急変領域Scでの研削抵抗を当該主軸回転速度R1における限界研削抵抗として評価する。
【0064】
そして、ステップS42において、再度ステップS31に戻り、工具主軸の回転速度R2,R3についても同様に限界研削能率Z’及び限界研削抵抗を評価する。評価結果は
図7(a)及び(b)に示す。その後、ステップS43において、研削条件設定部49により、当該評価結果に基づいて、研削条件を設定する。なお、研削条件の設定は、その他条件設定部54とともに行うことができる。そして、当該フローを終了する。
【0065】
8.研削条件の判定処理S5
次に研削焼け発生条件推定装置10による研削条件の判定処理S5について、
図11のフロー図を参照して説明する。当該フローでは、まず、ステップS51において、ユーザ等により研削条件入力部52に研削条件を入力する。次いで、ステップS52~S54において、
図9に示すステップS22~S24と同様に、入力された研削条件に基づいた研削能率を算出する。
【0066】
その後、ステップS55において、研削条件判定部53により、算出された研削能率が、予め評価結果記憶部48に記憶された限界研削能率Z’よりも大きいか否か判定する。算出された研削能率が、予め評価結果記憶部48に記憶された限界研削能率Z’よりも大きいと判定された場合は、ステップS55のYesに進み、ステップS56において、研削焼け発生ありと推定して当該研削条件は不良と判定し、当該フローを終了する。
【0067】
一方、ステップS55において、算出された研削能率が、予め評価結果記憶部48に記憶された限界研削能率Z’よりも大きくないと判定された場合は、ステップS55のNoに進み、ステップS57において、研削焼け発生なしと推定して当該研削条件は良好と判定し、当該フローを終了する。
【0068】
9.第1研削焼け監視処理S6
次に、研削焼けが発生しないと推定され良好な研削条件と判定された研削条件に基づいて工作物Wの研削加工を行う際に、研削焼けの監視と、研削焼けが生じた場合の研削条件調整の処理S6について、
図12のフロー図を参照して説明する。当該フローでは、まず、ステップS61にいて、
図9に示すステップS21と同様に、粗研工程S11において、出力信号取得部40により渦電流センサ20の出力信号Pを取得する。
【0069】
その後、ステップS62において、
図9に示すステップS25と同様に、研削焼け発生推定部44により特定区間Tsにおいて急変領域Scを検知したか否か判定する。ステップS62において、急変領域Scを検知したと判定された場合は、ステップS62のYesに進み、監視部50により研削焼けが発生したと判定する。そして、ステップS64において、表示部55によって監視部50の監視結果、すなわち研削焼けが発生した旨を表示する。
【0070】
次いで、ステップS65において、研削条件調整部51により、評価結果記憶部48に予め記憶された複数の限界研削能率Z’のうち、切れ味がより悪い工具に対応する限界研削能率Z’に基づいた研削条件に変更する。そして、当該フローを終了する。
【0071】
一方、ステップS62において、急変領域Scを検知していないと判定された場合は、ステップS62のNoに進み、ステップS66において、監視部50により研削焼けが発生していないと判定する。そして、ステップS67において、表示部55によって監視部50の監視結果、すなわち研削焼けが発生していない旨を表示し、当該フローを終了する。
【0072】
10.第2研削焼け監視処理S7
第1研削焼け監視及び研削条件調整処理S6に替えて、
図13に示す第2研削焼け監視及び研削条件調整処理S7を行うこととしてもよい。第2研削焼け監視処理S7では、まず、
図9に示すステップS39、S40と同様に、ステップS71及びS72において、研削抵抗算出部45により工具主軸の駆動電力を取得し、研削抵抗を算出する。
【0073】
そして、ステップS73において、監視部50により、算出された研削抵抗が予め評価結果記憶部48に記憶された限界研削抵抗よりも大きいか否か判定する。算出された研削抵抗が予め評価結果記憶部48に記憶された限界研削抵抗よりも大きいと判定された場合は、ステップS73のYesに進み、ステップS74において、研削焼けが発生したと判定する。そして、ステップS75において、表示部55によって監視部50の監視結果、すなわち研削焼けが発生した旨を表示する。次いで、ステップS76において、研削条件調整部51により、研削焼けが生じない研削条件に変更し、当該フローを終了する。
【0074】
一方、ステップS73において、算出された研削抵抗が予め評価結果記憶部48に記憶された限界研削抵抗よりも大きくないと判定された場合は、ステップS73のNoに進み、ステップS77において、監視部50により研削焼けが発生していないと判定する。そして、ステップS78において、表示部55によって監視部50の監視結果、すなわち研削焼けの発生の有無を表示し、当該フローを終了する。
【0075】
11.作用効果
本実施形態1の研削焼け発生推定装置1によれば、研削盤2の研削能率を連続的に変化させた特定区間Tsにおいて、励磁電流により加工中の工作物Wの内部に生じた渦電流を渦電流センサ20により検出して取得した出力信号Pが急変する急変領域Scを検知して被加工部における研削焼けの発生を推定する。渦電流センサ20の出力信号Pが急変する急変領域Scでは、被加工部に研削焼けが生じることとなる。そして、研削能率Z’を連続的に変化させた特定区間Tsで研削焼けの発生を検出しているため、研削能率Z’について連続的な評価結果を取得することができる。その結果、離散的な試験を行う場合に比べて、研削焼けの発生しない条件を検討するための工数を低減することができる。
【0076】
また、本実施形態1では、急変領域Scは、特定区間Tsにおける出力信号Pの値が所定の基準値に到達した点を含む。これにより、急変領域Scの特定が容易となる。
【0077】
また、本実施形態1では、上記基準値は、特定区間Tsにおける出力信号Pの初期値P0からの変化量が最大となる最大変化量Pmの半分の値Psに相当する。これにより、急変領域Scの特定が容易となるとともに、急変領域Scが研削焼けの指標としての精度を向上させることができる。
【0078】
なお、本実施形態1の場合に替えて、急変領域Scは、特定区間Tsにおける出力信号Pの変化の割合の絶対値が、予め設定された基準変化割合よりも大きい領域とすることができる。この場合においても、急変領域Scの特定が容易となるとともに、急変領域Scが研削焼けの指標としての精度を向上させることができる。
【0079】
また、本実施形態1では、制御装置31は、工作物Wの研削加工は、粗研工程S11の後に精研工程S12を行うように構成されており、特定区間Tsは、粗研工程S12に含まれている。これにより、特定区間Tsは研削焼けが発生しやすい粗研工程S12において規定されるため、研削焼けの発生の推定を確実に行うことができる。
【0080】
また、本実施形態1では、特定区間Tsは、実切り込み量が粗研工程S11において初期値から、制御装置31により指令された指令値に到達するまでに連続的に変化する区間である。これにより、粗研工程S11において研削焼けが発生する研削条件では、特定区間Tsは連続的に研削能率が変化するため、離散的ではなく、連続的な試験を行うことができる。
【0081】
また、本実施形態1の研削焼け発生条件推定装置10は、研削焼け発生推定装置1と、研削焼け発生推定部44の推定結果に基づいて、被加工部に研削焼けが発生しない範囲で、研削盤2における最大の研削能率を示す限界研削能率Z’を評価する限界研削能率評価部と、を備える。これにより、限界研削能率Z’をより高精度かつ少ない工数で算出することができる。
【0082】
また、本実施形態1では、限界研削能率評価部46は、制御装置31により研削盤2の工具主軸の回転速度R1,R2,R3を複数変化させて限界研削能率を評価する。工具主軸の回転速度が異なると研削能率Z’も異なってくるため、工具主軸の回転速度を複数変化させることで高精度に限界研削能率Z’を算出することができる。
【0083】
また、本実施形態1では、研削焼け発生条件推定装置10は、研削焼け発生推定装置1と、研削焼け発生推定部44の推定結果に基づいて、被加工部に研削焼けが発生しない範囲で、研削盤2における最大の研削抵抗を示す限界研削抵抗を評価する限界研削抵抗評価部47を備える。これにより、限界研削抵抗を高精度に推定することができる。
【0084】
また、本実施形態1では、限界研削抵抗評価部47は、研削盤2の工具主軸を回転させる駆動装置16aの消費電力に基づいて限界研削抵抗を評価する。これにより、高精度に限界研削抵抗を評価することができる。
【0085】
また、本実施形態1では、限界研削抵抗評価部47は、制御装置31により上記研削盤の工具主軸の回転速度R1,R2,R3を複数変化させて、限界研削抵抗を評価する。工具主軸の回転速度が異なると研削抵抗も異なってくるため、工具主軸の回転速度を複数変更することで高精度に限界研削能率Z’を算出することができる。
【0086】
また、本実施形態1では、研削盤2による研削条件を入力する研削条件入力部52、研削条件入力部52に入力された研削条件に基づいて工作物Wの加工を行ったときに研削能率算出部43により算出された研削能率Z’と、限界研削能率算出用の工作物を研削盤2で加工して算出した限界研削能率Z’とを比較した結果に基づいて研削焼けの発生を判定して研削条件の良否を判定する研削条件判定部53と、を備える。これにより、研削条件の良否の判定を高精度に行うことができる。
【0087】
また、本実施形態1では、工作物Wを研削盤2により研削したときの渦電流センサ20の出力信号Pを取得して、研削焼け発生推定部44による推定結果に基づいて、工作物Wにおける研削焼けの発生の有無を監視する監視部50を備える。これにより、工作物Wを研削加工する際において、研削焼けの発生の有無の監視を高精度に行うことができる。
【0088】
また、本実施形態1では、工作物Wを研削盤2により研削したときの研削抵抗を取得して、限界研削抵抗と比較して研削焼けの発生を監視する監視部50を備える。これにより、工作物Wを研削加工する際において、研削焼けの発生の有無の監視を高精度に行うことができる。
【0089】
また、本実施形態1では、研削盤2における工具切れ味に応じた複数の限界研削能率Z’が記憶された評価結果記憶部48と、研削加工を行う研削盤2に備えられた工具の切れ味に対応する限界研削能率Z’に基づいた研削条件を設定する研削条件設定部49と、を備える。これにより、工具の切れ味に対応した研削条件の設定を行うことができる。
【0090】
また、本実施形態1では、複数の限界研削能率Z’のうち、いずれかの工具切れ味に応じた限界研削能率Z’に基づいて研削条件を設定して研削盤2で研削加工を行ったときに監視部50により研削焼けが発見された場合、複数の限界研削能率Z’のうち、工具切れ味がより悪い工具に対応する限界研削能率Z’に基づいた研削条件に変更する研削条件調整部51を備える。これにより、研削条件の設定後に、研削焼けが発生するようになっても、これに対応して研削焼けが発生しないように研削条件の調整を行うことができ、研削焼けの発生を一層抑制することができる。
【0091】
また、本実施形態1では、限界研削抵抗に基づいた研削条件で研削盤2により研削加工を行ったときに監視部50により研削焼けが発見された場合、研削焼けが生じないように上記研削条件を調整する研削条件調整部51を備える。これにより、研削条件の設定後に、研削焼けが発生するようになっても、これに対応して研削焼けが発生しないように研削条件の調整を行うことができ、研削焼けの発生を一層抑制することができる。
【0092】
以上のごとく、上記態様によれば、研削焼けの発生しない条件を少ない工数での検討を可能とするための研削焼け発生推定装置1を提供することができる。
【0093】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0094】
1 研削焼け発生推定装置
2 研削盤
10 発生条件推定装置
16a 駆動装置(モータ)
17 定寸装置
20 渦電流センサ
31 制御装置
40 出力信号取得部
41 寸法情報取得部
43 研削能率算出部
44 研削焼け発生推定部
45 研削抵抗算出部
46 限界研削能率評価部
47 限界研削抵抗評価部
49 研削条件設定部
50 監視部
51 研削条件調整部
52 研削条件入力部
53 研削条件判定部