IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 電気化学工業株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社デンカリノテックの特許一覧 ▶ 中日本高速道路株式会社の特許一覧 ▶ オリエンタル白石株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人徳島大学の特許一覧

特開2024-76238コンクリートの電気化学的脱塩処理方法
<>
  • 特開-コンクリートの電気化学的脱塩処理方法 図1
  • 特開-コンクリートの電気化学的脱塩処理方法 図2
  • 特開-コンクリートの電気化学的脱塩処理方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076238
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】コンクリートの電気化学的脱塩処理方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/72 20060101AFI20240529BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20240529BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
C04B41/72
E04G23/02 A
E01D22/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187716
(22)【出願日】2022-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519096806
【氏名又は名称】株式会社デンカリノテック
(71)【出願人】
【識別番号】505398952
【氏名又は名称】中日本高速道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000103769
【氏名又は名称】オリエンタル白石株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】七澤 章
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 崇
(72)【発明者】
【氏名】庄司 慎
(72)【発明者】
【氏名】室川 正範
(72)【発明者】
【氏名】近江 渉
(72)【発明者】
【氏名】本田 孝太朗
(72)【発明者】
【氏名】庄野 昂太
(72)【発明者】
【氏名】大橋 岳
(72)【発明者】
【氏名】手塚 教雄
(72)【発明者】
【氏名】北口 修
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健太
(72)【発明者】
【氏名】正司 明夫
(72)【発明者】
【氏名】山田 広幸
(72)【発明者】
【氏名】石井 智大
(72)【発明者】
【氏名】高橋 謙一
(72)【発明者】
【氏名】上田 隆雄
【テーマコード(参考)】
2D059
2E176
4G028
【Fターム(参考)】
2D059AA03
2D059AA05
2D059GG21
2D059GG39
2E176AA01
2E176BB03
4G028GA01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】鋼材の配筋量と塩化物イオン量が部位によって異なるコンクリート構造体であっても、均一に脱塩を行うことができ、過剰な電流が流れず、水素脆化や水素ガス圧の上昇によるひび割れの問題、及びASRによるひび割れの問題を生じない、橋梁構造物におけるコンクリートの電気化学的脱塩処理方法を提供する。
【解決手段】コンクリートの電気化学的脱塩処理方法は、鋼材を内部に有する橋梁コンクリート構造物において、コンクリートの内部の鋼材を内部電極とし、各部位のコンクリートの表面に外部電極を設け、内部電極と外部電極との間に電流を流す方法であり、前記橋梁コンクリート構造物が、(A)間詰め部、(B)主桁上フランジ部及びウェーブ部及び(C)主桁下フランジ部を有する橋梁構造物であり、各部位ごとに鉄筋(鋼材)の表面積当たりの電流密度が0超~5A/mとなるように、コンクリートの表面積当たりの電流密度をそれぞれ別個に制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材を内部に有する橋梁コンクリート構造物において、該橋梁コンクリート構造物を複数の部位に分け、各部位において、コンクリートの内部の鋼材を内部電極とし、各部位のコンクリートの表面に外部電極を設け、陰極としての内部電極と陽極としての外部電極との間に電流を流すコンクリートの電気化学的脱塩処理方法であって、前記橋梁コンクリート構造物が、(A)間詰め部、(B)主桁上フランジ部及びウェーブ部及び(C)主桁下フランジ部を有する橋梁構造物であり、前記(A)部~(C)部の各部位ごとに鉄筋(鋼材)の表面積当たりの電流密度が0超~5A/mとなるように、コンクリートの表面積当たりの電流密度をそれぞれ別個に制御することを特徴とする橋梁構造物におけるコンクリートの電気化学的脱塩処理方法。
【請求項2】
前記電流の電圧が5~40Vである請求項1に記載の橋梁構造物におけるコンクリートの電気化学的脱塩処理方法。
【請求項3】
前記電流が直流電流であり、該直流電流を発生させる電源を各部位ごとにそれぞれ有する請求項1又は2に記載の橋梁構造物におけるコンクリートの電気化学的脱塩処理方法。
【請求項4】
前記外部電極が陽極材、電解質溶液及び電解質溶液保持材を有する請求項1に記載の橋梁構造物におけるコンクリートの電気化学的脱塩処理方法。
【請求項5】
前記電流の通電期間が、1週間~半年である請求項1に記載の橋梁構造物におけるコンクリートの電気化学的脱塩処理方法。
【請求項6】
前記電解質溶液の供給用配管と供給装置を有する請求項4に記載の橋梁構造物におけるコンクリートの電気化学的脱塩処理方法。
【請求項7】
前記電解質溶液が循環使用される請求項6に記載の橋梁構造物におけるコンクリートの電気化学的脱塩処理方法。
【請求項8】
前記電解質溶液中の塩化物イオン濃度及びpHをモニタリングする請求項4に記載の橋梁構造物におけるコンクリートの電気化学的脱塩処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートの電気化学的脱塩処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、道路、鉄道などの土木建設構造物、具体的には橋梁の下部工、橋梁の橋桁、トンネルなどの地下構造物又は半地下構造物、カルバートなどの構築には、一般的に鉄筋コンクリートが使用されている。この鉄筋コンクリートは、高い圧縮強度性能を持つコンクリートと、高い引張強度性能を持つ鉄筋とを組み合わせることにより、圧縮強度と引張強度とを併せ持つ複合構造体を作ることが可能であり、構造物の材料として多く使用されている。なお、この鉄筋コンクリートを用いた構造物には、所謂PC(プレストレストコンクリート)構造物と呼ばれ、更にPC鋼材(PC鋼線、PC鋼棒、PC鋼より線など)をコンクリート内に配置したコンクリート構造物も多く存在する。
【0003】
ところで、コンクリートの鉄筋やPC鋼材などの鋼材周辺に多量の塩化物イオンが存在すると、いわゆる塩害が発生する。「塩害」とは、沿岸部にあるコンクリート構造物の場合、海水の飛沫がコンクリート表面に付着し、その塩化物イオンがコンクリートの吸着現象や濃度勾配によりコンクリート中に浸透して鉄筋まで到達すると、塩化物イオンにより鉄筋の不動態皮膜が破壊され腐食が始まる劣化現象である。さらに、過去のコンクリート構造物では、細骨材として海砂が使用されることもあり、その際、管理の不十分さから塩化物イオンの除去が十分に行われないまま使用されたため、多量の塩化物イオンがコンクリート中に存在することになり、その結果、鉄筋の不動態皮膜が破壊され腐食が始まるケースもある。なお、道路の管理で用いられる塩化物系の凍結防止剤によっても「塩害」は発生する。
上記のような鉄筋コンクリートの劣化現象が進行すると、複合構造物としての耐久性が大きく低下することになる。
【0004】
劣化した鉄筋コンクリートの補修方法として、破壊を伴うことなく電気化学的な方法により補修を行う方法が提案され、実施されてきた。
例えば、特許文献1では、板状体の一方面側に外部電極を配設するとともに、外部電極配設領域の全面を繊維質シートからなる電解質溶液保持材で被覆した電極用ユニットパネルを多数用意し、処理対象のコンクリート面に対して、電極用ユニットパネルを並べて配設するとともに、隣接する電極用ユニットパネル間の目地部及び外周部において液密性を確保した状態とし、任意箇所に電解質溶液供給口を設置するとともに、電解質溶液回収口を設置し、継続的又は断続的に、電解質溶液供給口から電解質溶液を電極用ユニットパネルとコンクリート表面との間に供給するとともに、電解質溶液回収口から電解質溶液を回収する、鉄筋コンクリートの電気化学的脱塩処理方法が提案されている。
【0005】
また、例えば、特許文献2では、コンクリート内部の鋼材を内部電極とし、コンクリートの表面に溶液を保持する溶液保持部材を介して設置した電極を外部電極とし、内部電極と外部電極との間に電流を流すコンクリートの電気化学的脱塩処理方法において、前記溶液保持部材に、水密性及び溶液に対して化学的耐性を有するシートを採用し、コンクリートの表面に前記シートを被着し、コンクリートの表面と前記シートとの間を空気の吸引により負圧にして密着させ、その隙間に溶液を連続的又は断続的に流す、ことを特徴とする、コンクリートの電気化学的脱塩処理方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6586000号公報
【特許文献2】特開2015-227578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2に開示される方法など、電気化学的な方法により補修を行うことで、コンクリート構造物の脱塩を、非破壊でかつ効率的に行うことができる。
しかしながら、例えば、橋梁部などのコンクリート構造物では、荷重に応じて、鉄筋の配筋量が異なる部位が存在するため、同じ電流を流した場合に、鉄筋(鋼材)が密に存在する所は脱塩素イオン(以下「脱塩」と記載する。)が進み、一方、鉄筋(鋼材)が疎の部分については、脱塩の進みが遅いという問題があった。すなわち、鉄筋(鋼材)が疎の部分においては、鉄筋と鉄筋の間のコンクリートに電流が流れにくくなりその部分の脱塩効率が悪くなるという問題があった。
一方、電気化学的な方法においては、コンクリート中に含まれるナトリウム等のアルカリ金属イオンがコンクリート中の陰極に引き寄せられて、陰極である鉄筋(鋼材)周辺に集積され、アルカリ骨材反応(以下「ASR」と記載する。)が開始されることがある。
鉄筋(鋼材)が疎の部分では、鉄筋表面積当たりの電流量は多くなるため、鉄筋(鋼材)近傍にアルカリイオンが集積するとともに、OHイオンが生成し、高アルカリ環境を形成する。そのため、ASRが促進されることが懸念されるという問題があった。
【0008】
また、構造物にはその形態により塩化物イオンの浸透しやすい箇所と浸透しにくい箇所が存在するが、従来の脱塩工法では塩化物イオンの多い箇所も少ない箇所も同一のコンクリート面積当りの電流密度で通電を行っていたので、塩化物イオンの少ない箇所では必要以上に電流を流しているという問題があった。
さらに、脱塩の遅い部分での脱塩を十分に行う量の電流を流すと、脱塩の進みが早い部分に関しては、過剰の電流が流れるため、水素脆化や水素ガス圧の上昇によるひび割れ、アルカリ金属イオンの集積が顕著になり、ASRが一層進む懸念があった。
そこで、本発明は鉄筋(鋼材)の配筋量及び塩化物イオン量が部位によって異なるコンクリート構造体であっても、鉄筋量と塩化物イオン量に応じた電流密度の管理を行うことを可能とし、均一に脱塩を行うことができ、過剰な電流が流れず、水素脆化や水素ガス圧の上昇によるひび割れの問題、およびASRによるひび割れの問題を生じない、橋梁構造物におけるコンクリートの電気化学的脱塩処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために鋭意検討したところ、鉄筋(鋼材)の配筋量に応じて、複数か所の独立した電源回路を形成することで、上記課題を解決し得ることを見出した。本発明は、以上の知見に基づき完成したものである。本発明は下記のとおりである。
【0010】
[1]鋼材を内部に有する橋梁コンクリート構造物において、該橋梁コンクリート構造物を複数の部位に分け、各部位において、コンクリートの内部の鋼材を内部電極とし、各部位のコンクリートの表面に外部電極を設け、陰極としての内部電極と陽極としての外部電極との間に電流を流すコンクリートの電気化学的脱塩処理方法であって、前記橋梁コンクリート構造物が、(A)間詰め部、(B)主桁上フランジ部及びウェーブ部及び(C)主桁下フランジ部を有する橋梁構造物であり、前記(A)部~(C)部の各部位ごとに鉄筋(鋼材)の表面積当たりの電流密度が0超~5A/mとなるように、コンクリートの表面積当たりの電流密度をそれぞれ別個に制御することを特徴とする橋梁構造物におけるコンクリートの電気化学的脱塩処理方法。
[2]前記電流の電圧が5~40Vである上記[1]に記載の橋梁構造物におけるコンクリートの電気化学的脱塩処理方法。
[3]前記電流が直流電流であり、該直流電流を発生させる電源を各部位ごとにそれぞれ有する上記[1]又は[2]に記載の橋梁構造物におけるコンクリートの電気化学的脱塩処理方法。
[4]前記外部電極が陽極材、電解質溶液及び電解質溶液保持材を有する上記[1]~[3]のいずれかに記載の橋梁構造物におけるコンクリートの電気化学的脱塩処理方法。
[5]前記電流の通電期間が、1週間~半年である上記[1]~[4]のいずれかに記載の橋梁構造物におけるコンクリートの電気化学的脱塩処理方法。
[6]前記電解質溶液の供給用配管と供給装置を有する[4]又は[5]に記載の橋梁構造物におけるコンクリートの電気化学的脱塩処理方法。
[7]前記電解質溶液が循環使用される上記[6]に記載の橋梁構造物におけるコンクリートの電気化学的脱塩処理方法。
[8]前記電解質溶液中の塩化物イオン濃度及びpHをモニタリングする上記[4]~[7]のいずれかに記載の橋梁構造物におけるコンクリートの電気化学的脱塩処理方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、鉄筋(鋼材)の配筋量及び塩化物イオン量が部位によって異なるコンクリート構造体であっても、均一に脱塩を行うことができ、過剰な電流が流れず、水素脆化や水素圧の上昇によるひび割れの問題、およびASRによるひび割れの問題を生じない、橋梁構造物におけるコンクリートの電気化学的脱塩処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態に係るコンクリート構造体及び橋梁構造物におけるコンクリートの電気化学的脱塩処理方法の一例を示す概念図である。
図2】従来の電気化学的処理方法の一例を示す概念図である。
図3】本実施形態に係る脱塩工法の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[電気化学的脱塩処理方法]
本発明は、鋼材を内部に有する橋梁コンクリート構造物に用いることのできる電気化学的脱塩処理方法であって、橋梁コンクリート構造物を複数の部位に分け、各部位ごとに電気化学的脱塩処理を行うものである。各部位に流す電流量は、各部位ごとに鉄筋(鋼材)量及び塩化物イオン量に応じた電流密度とすべく、鉄筋(鋼材)の表面積当たりの電流密度が0超~5A/mとなるように、コンクリートの表面積当たりの電流密度をそれぞれ別個に制御することが特徴である。
具体的には、各部位ごとに電源回路を設け、それぞれ電流密度を制御するものである。このように制御することで、各部位からの脱塩を均一に行うことができ、かつ過剰の電流が流れることがないため、水素脆化や水素ガス圧の上昇によるひび割れの懸念がなく、また、ASRによるひび割れを抑制することができる。
なお、部位の数としては、複数であれば特に限定されず、例えば2箇所でもいいし、3箇所以上でもよい。
【0014】
本発明をより具体的に説明するために、PC構造物を例として、以下詳述する。
本発明の一実施形態(本実施形態)に係る橋梁構造物におけるコンクリートの電気化学的脱塩処理方法は、図1に示すように、橋梁構造を(A)間詰め部、(B)主桁上フランジ部及びウェーブ部、(C)主桁下フランジ部の3か所に分け、それぞれをブロック1、2及び3として、ブロックごとに電流密度を別個に制御する点に特徴がある。より具体的には、各ブロックごとに電源回路を設け、それぞれ電流密度を制御するものである。
橋梁構造をいくつかの部位に分けて通電し、脱塩する方法は従来から知られているが、実際に現場で施工される例は少ない。本発明では、配筋量が異なる上記特定の(A)、(B)及び(C)の部分の3か所に分けて通電することで、より効率的に脱塩処理を行うことができる点で新規な手法である。より具体的には、図1の概念図に示すように、鉄筋(鋼材)の配筋量が最も多いブロック3((C)主桁下フランジ部)、次いで鉄筋(鋼材)の配筋量が多いブロック1((A)間詰め部)、鉄筋(鋼材)の配筋量が比較的少ないブロック2((B)主桁上フランジ部及びウェーブ部)に分けて通電することが重要である。
また、本発明の電気化学的脱塩処理方法では、直流電流を用いることが好ましく、直流電流を発生させる電源を、上記(A)部、(B)部、及び(C)部用にそれぞれ有しており、各部における電流密度をそれぞれ別個に制御する。
【0015】
本発明において、均一に脱塩を行うことができ、過剰な電流が流れないように電流密度を制御するためには、上記(A)部~(C)部における鉄筋(鋼材)の表面積当たりの電流密度を、それぞれ略同一となるように制御することが好ましい。ここで略同一とは、電流密度が完全に一致している必要性がないことを意味し、例えば(A)部の電流密度/(B)部の電流密度が、0.5~1.5の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.8~1.2の範囲である。また、(A)部の電流密度/(C)部の電流密度も同様に、0.5~1.5の範囲であることが好ましく、0.8~1.2の範囲であることがさらに好ましい。
【0016】
電流密度としては、対象とする橋梁コンクリート構造物の脱塩が均一に行える範囲であれば、特に制限はないが、鉄筋(鋼材)の表面積当たり0超~5A/mの範囲であることが好ましい。電流密度が0A/mを超えて電流が流れると、電解質材料をコンクリート中に浸透することができるため、脱塩が十分に行える。一方、電流密度が5A/m以下であると、水素脆化や水素ガス圧によるひび割れは発生しない。また、アルカリ集積とOHイオンの生成が抑制されるために高アルカリ環境のアルカリ度を抑制することができ、ASRによるひび割れも起きにくい。
【0017】
上記電流の電圧としては、本発明の効果を奏する範囲であれば、特に限定されないが、効果的に脱塩するとの観点から、5~40Vの範囲であることが好ましい。当該範囲において、鉄筋の配筋量と塩化物イオン量に応じた上記電流密度を達成し得るように、3回路の電気回路ごとに調整すればよい。
また、電流を流す期間(通電期間)としては、本発明の効果を奏する範囲であれば、特に限定されず、またコンクリートに浸透している塩化物イオン量や鉄筋(鋼材)表面積当たりの電流密度に応じて変わるが、1週間~半年であることが好ましい。
【0018】
以上のように、本発明では、対象とするコンクリート構造体を特定の3部位(3つのブロック)に分け、それぞれ別個独立に電源回路を設けることで、鉄筋(鋼材)の配筋量及び塩化物イオン量に応じた電流密度で、電気を流すことができる。例えば、すべてのブロックにおいて、鉄筋(鋼材)表面積当たり1A/mとすることができ、安定的に通電することができる。したがって、配筋量にかかわらず、すべての部位(ブロック)において、同程度の脱塩を行うことができ、均一な脱塩を達成することができる。また、過剰な電流が流れることもなく、水素脆化や水素ガス圧の上昇によるひび割れの懸念もなく、ASRによるひび割れの抑制もすることができる。さらに、用いる電気量についても、過剰な電気が流れることがないため、エネルギー効率の点からも優れる。
なお、図1において、「●印」は鉄筋(鉄筋を有するシース管を含む)を表しており、径の大きさは鉄筋(鋼材)の太さをイメージしている。すなわち、ブロック1は中程度の太さの鉄筋(鋼材)が密にあることを示しており、ブロック2は径の小さい鉄筋(鋼材)が疎な状態で配されていることを示している。また、ブロック3は径が中程度のものと大径の鉄筋(鋼材)が密に存在していることを意味している。
【0019】
一方、従来の橋梁構造物におけるコンクリートの電気化学的脱塩処理方法は、図2に示すように、本発明のように3つのブロックに分かれておらず、1つの電気回路によって、全ブロックに対して、通電が行われる。このような従来の態様であると、鉄筋(鋼材)の配筋量が多い順に電流が流れやすくなることから、図1におけるブロック3、ブロック1、ブロック2の順で、アルカリ金属イオンの集積量が増大し、ASRによるひび割れが生じる可能性が大きくなる。
また、ブロック3、ブロック1、ブロック2の順で、脱塩が起こりやすくなるため、均一な脱塩が得られないという問題が生じる。一方、脱塩が起こりにくいブロック2での脱塩を十分なものにするためには、さらに電気を流す必要がある。そして、従来の電気化学的処理方法では、より脱塩が起こりやすいブロック3の部位と、ブロック1の部位では、必要以上の電気が流れ、アルカリ金属イオンの集積が一層増長され、ASRによるひび割れの可能性が高まる。
また、水の電気分解が助長されることにより、水素の発生が起こりやすく、水素脆化の可能性や水素圧の上昇によるひび割れの可能性が高くなってしまう。
これに対して、本発明の電気化学的処理方法では、上述のように、すべてのブロックに対して、鉄筋(鋼材)の配筋量及び塩化物イオン量に応じた電流密度とすることができるため、均一な脱塩を効率的に達成することができ、水素脆化、および水素圧の上昇によるひび割れ等を生じない。さらに、各部位ごとに、鉄筋(鋼材)の配筋量及び塩化物イオン量に応じた電流密度を選定することができるため、ASRによるひび割れを抑制することができる。
【0020】
<脱塩方法>
次に、本発明における脱塩方法について、図3を用いて説明する。
本発明の脱塩方法においては、まず、コンクリート10の表面側に、陽極としての外部電極20が設けられる。外部電極20は、陽極材21と電解質溶液を保持した電解質溶液保持材22を有する。また、コンクリート10の内部に埋設されている鉄筋(鋼材)を内部電極(陰極)30とし、外部電極20を構成する陽極材21と内部電極30との間に直流電流を通電する。
直流電流を通電することで、コンクリート10内部の塩化物イオンを外部電極20側に泳動させて除去することができる。また、これに付随して、コンクリート10内部へアルカリ性の電解質溶液を鉄筋(鋼材)側に電気浸透させ中性化しているコンクリート10のアルカリ性を回復させることもできる。
なお、外部電極20を構成する陽極材21と、コンクリート内部に埋設されている鉄筋(内部電極30)とは、それぞれ電線ケーブルと接続し、電極間が通電できるようになっている。
【0021】
<<陽極材>>
外部電極20を構成する陽極材21としては、耐腐食性に優れた材料を選択することが好ましく、例えば、チタン、チタン合金、白金、又はこれらの金属でメッキされた金属が挙げられる。また、炭素繊維、炭素棒などの炭素材料、導電性高分子等が挙げられる。
また、陽極材としては、ネット状、メッシュ状、シート状の上記導電性材料であることが好ましく、例えば、チタンメッシュ、炭素繊維シートなどが挙げられる。
【0022】
<<電解質溶液保持材>>
外部電極20を構成する電解質溶液保持材22としては、親水性素材による不織布、親水処理された不織布又はフェルトを用いることができる。
親水性素材による不織布とは、レーヨン、キュプラなどの再生繊維、綿などの天然繊維のように素材自体に親水性を有する原料により製造された不織布である。
親水処理された不織布とは、ポリエチレンまたはポリプロピレン等のオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系等の合成繊維を原料として製造された不織布であって、合成繊維の製造過程で親水基を持つ化合物、例えばポリエチレングリコールの酸化生成物などを共存させて重合させる方法や、塩化第2スズのような金属塩で処理し、表面を部分溶解し多孔性とし金属の水酸化物を沈着させる方法等により合成繊維を膨潤または多孔性とし、毛細管現象を応用して親水性を与えた不織布である。
フェルトは、羊毛または他の獣毛繊維を縮絨してシート状にしたものである。
【0023】
上記不織布の製造方法としては、特に限定はなく、スパンレース法、スパンボンド法、サーマルボンド法、メルトブローン法、ニードルパンチ法等の適宜の加工法によって得られた各種の不織布を用いることができる。
【0024】
電解質溶液保持材の厚みは、2~15mmであることが好ましく、2~10mmであることがより好ましく、2~5mm程度であることがさらに好ましい。上記下限値以上であれば、電解質溶液の保持性が担保され、また機械的強度に優れたものとなる。一方、上記上限値以下であれば、コンクリートの表面に密着させやすい。
また、電解質溶液保持材の密度としては、200~500g/mであることが好ましく、300~400g/mであることがより好ましい。上記下限値以上であれば、電解質溶液の保持性が担保され、一方、上記上限値以下であれば、軽量であり、取り扱い性に優れる。
電解質溶液保持材の保水量はコンクリートを湿潤状態で保持する観点から、0.1~1.5ml/cmとすることが好ましく、0.4~0.8ml/cmとすることがより好ましい。保水量は下記式のようにして求めることができる。
保水量(ml/cm)=(湿潤質量(g)-絶乾質量(g))/電解質溶液保持材の体積(cm
なお、水の比重については考慮せず、1g=1mlとして算出する。
【0025】
<<電解質溶液>>
電解質溶液を構成する電解質は、コンクリート中に浸透することによりコンクリートの電気抵抗を低減し、電気を流れやすくするもので、溶液中にプラスイオンとマイナスイオンが存在するものであればよい。具体的には、溶媒である水に、溶質として各種のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩を溶解した水溶液が好適に使用される。アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩としては、リチウム、ナトリウム及びカリウム、並びにマグネシウムやカルシウムなどの炭酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、硫酸塩、ホウ酸塩、さらに水酸化物や塩化物等が挙げられる。
【0026】
上記電解質溶液は、その電解質溶液を貯留する電解質溶液貯留槽から電解質溶液保持材に供給された後、電解質溶液貯留槽に戻され、再び、電解質溶液貯留槽から電解質溶液保持材に供給されるように循環使用されることが好ましい。このような電解質溶液循環処理を施している間に、電解質溶液中の塩化物イオン濃度及びpHを測定し、モニタリングすることが好ましい。時間の経過とともに電解質の液性が変質することがあるためであり、所定時間ごとに液性の管理をすることが好ましい。
【0027】
本実施形態では、上記のような電解質溶液循環処理を行い、電気化学的処理の施工中の塩化物イオン濃度及びpHをモニタリングすることが好ましい。電解質溶液の液性に変質が生じた際には、その変質に応じた処理を行うことができる。その結果、電気化学的処理の安定かつ簡便な施工が可能となる。
例えば、pHが設定より低くなった場合の対応としては、新しい電解質溶液を作製し低くなった電解質に置き換えることが好ましい。一方、pHが設定より高くなった場合には水で希釈する等の方法がとられる。
【0028】
本発明に係る脱塩工法の場合には、pHは8~12の範囲とすることが好ましい。また、pHの具体的な測定方法としては、例えば、ポータブル型メーターによりpH電極を用いてのpH測定が挙げられる。また、塩化物イオン濃度の測定は、イオン電極を用いての測定等が挙げられ、電解質貯留槽で測定することができる。
なお、上記電解質溶液の循環使用に際しては、電解質溶液の供給用配管と供給装置を有することが好ましい。電解質溶液は、供給用配管と供給装置を用いて、継続的又は断続的に、電解質溶液保持材に供給され、下方に流れる電解質溶液は回収管にて回収される。
また、コンクリートへ効率的に電解質を電気浸透させ、コンクリート内部の塩化物イオンを外部電極側に泳動させて除去する観点から、電解質溶液の供給は断続的(間欠的)であることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、鉄筋(鋼材)の配筋量及び塩化物イオン量が部位によって異なるコンクリート構造体に関して、好適な橋梁構造物におけるコンクリートの電気化学的脱塩処理方法である。したがって、間詰め部、主桁上フランジ部及びウェーブ部、及び主桁下フランジ部を有する橋梁構造などに好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0030】
10 コンクリート
11 コンクリート表面
20 外部電極
21 陽極材
22 電解質溶液保持材
23 配線材
24 直流電源装置
30 内部電極(鋼材)
図1
図2
図3