(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076246
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】方法、プログラム、及び制御装置
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/04 20230101AFI20240529BHJP
【FI】
G06Q10/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187725
(22)【出願日】2022-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丹原 千里
【テーマコード(参考)】
5L010
5L049
【Fターム(参考)】
5L010AA04
5L049AA04
5L049CC27
(57)【要約】
【課題】好適な敷地計画を容易に取得できる方法を提供する
【解決手段】敷地計画を推定する推定器に対して実行させる方法であって、建物が配置された領域をモデル化した解析モデルと前記領域における風向及び風速とを前記推定器に読み込ませる処理と、前記推定器に前記領域における敷地計画を推定させる処理と、を含む方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
敷地計画を推定する推定器に対して実行させる方法であって、
建物が配置された領域をモデル化した解析モデルと前記領域における風向及び風速とを前記推定器に読み込ませる処理と、
前記推定器に前記領域における敷地計画を推定させる処理と、
を含む方法。
【請求項2】
前記推定器は、
学習用解析モデルと風向及び風速とが含まれる学習用条件、及び、前記学習用条件に基づく風環境解析の結果に対する評価の、複数の組み合わせを学習する学習処理によって生成された学習済みの学習器である、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記学習処理は、
前記学習用条件を用いて風環境解析を実行する解析処理と、
前記風環境解析の結果の評価を行う評価処理と、
前記学習器が、前記評価と前記学習用条件とを対応付けて学習する処理と、を含む、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記学習処理は、
行動価値関数を学習する処理をさらに含む、
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記風環境解析は、前記風環境解析の結果を推定する風環境推定器によって実行され、
前記風環境推定器は、建物及び敷地をモデル化した流体解析モデルと、前記流体解析モデルの流体解析の結果との複数の組み合わせを学習して生成された学習済みの学習器である、
請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記解析処理は、
前記学習用解析モデルである第1領域モデルと、前記第1領域モデルに対する風向及び風速とを用いて第1風環境解析を実行する処理と、
前記第1領域モデルと異なる前記学習用解析モデルである第2領域モデルを設定する変更処理と、
前記第2領域モデルと、前記第2領域モデルに対する風向及び風速とを用いて第2風環境解析を実行する処理と、を含む、
請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記変更処理は、
前記第1領域モデルを所定条件に基づいて変更し、前記第2領域モデルとする処理を含み、
前記所定条件は、建物形状の変更、植栽の設置、及び、庇またはフェンスを含む工作物の設置の少なくとも1つに対応するモデル変更である、
請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記評価は、風環境のランク評価に基づいて実行される、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の方法を実行する制御装置。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか1項に記載の方法を制御装置に実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方法、プログラム、及び制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物の形状と風向風速等とをモデル化し、流体解析を実行することによって、建物の形状が周囲の風環境に与える影響を把握する方法が知られている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】日本風工学会編、「都市の風環境ガイドブック」、日本風工学会、2022年7月
【非特許文献2】木村元、「《第1回》強化学習の基礎」、計測と制御、計測自動制御学会、2013年1月、第52巻第1号 2013年1月号、p.72-77
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来では、建物の形状を変更する度に流体解析を実行する必要があり、好ましい建物の形状を取得するためには膨大な時間と工数が必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、一実施形態として、敷地計画を推定する推定器に対して実行させる方法であって、建物が配置された領域をモデル化した解析モデルと前記領域における風向及び風速とを前記推定器に読み込ませる処理と、前記推定器に前記領域における敷地計画を推定させる処理と、を含む方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、好適な敷地計画を容易に取得できる方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態に係る情報処理システムの全体構成図である。
【
図2】情報処理装置のハードウェア構成を示す図である。
【
図6】解析対象または推定対象となる敷地計画の一例を示す図である。
【
図7】解析モデルの構成を示す図であり、(a)解析モデル全体図と(b)一部拡大図である。
【
図8】解析モデルの構成を示す図であり、解析モデルの水平断面における要素の分布と、各要素に対して設定された体積占有率を示す。
【
図11】推定処理及び学習処理のフローチャートである。
【
図14】変形例におけるサーバの機能構成を示す図である。
【
図15】変形例における学習器に対する学習処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明をその一実施形態に即して図面を参照しつつ説明する。
【0009】
〔構成〕
図1に本発明の一実施形態に係る情報処理システム1の構成を示す。情報処理システム1は、サーバ10、端末20を含む。サーバ10、端末20は、ネットワーク5を介して互いにデータの送受信が可能となるように接続されている。
【0010】
ネットワーク5は、無線方式または有線方式の通信手段であり、例えば、インターネット、WAN(Wide Area Network)、LAN(Local Area Network)、公衆通信網、専用線等である。なお、本実施形態による情報処理システム1は複数の情報管理装置によって構成されているが、本発明はこれらの装置の数を限定するものではない。そのため、情報処理システム1は、以下のような機能を備えるものであれば、1以上の装置によって構成することができる。
【0011】
サーバ10は、風環境に関する流体解析を行う装置であり、ユーザは端末20を介してサーバ10に対する指示を行う。
【0012】
図2は、サーバ10、及び端末20の実現に用いるハードウェア(以下、「情報処理装置100」と称する。)の一例である。同図に示すように、情報処理装置100は、プロセッサ101、主記憶装置102、補助記憶装置103、入力装置104、出力装置105、および通信装置106を備える。これらは図示しないバス等の通信手段を介して互いに通信可能に接続されている。
【0013】
尚、サーバ10は、その全ての構成が必ずしもハードウェアで実現されている必要はなく、構成の全部又は一部が、例えば、クラウドシステム(cloud syRem)のクラウドサーバ(cloud server)のような仮想的な資源によって実現されていてもよい。また、サーバ10、必ずしも1つの装置で構成される必要は無い。
【0014】
プロセッサ101は、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)等を用いて構成される。プロセッサ101が、主記憶装置102に格納されているプログラムを読み出して実行することにより、サーバ10や端末20の機能が実現される。
【0015】
主記憶装置102は、プログラムやデータを記憶する装置であり、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、不揮発性半導体メモリ(NVRAM(Non Volatile RAM))等である。補助記憶装置103は、SSD(Solid Rate Drive)、SDメモリカード等の各種不揮発性メモリ(NVRAM:Non-volatile memory)、ハードディスクドライブ、光学式記憶装置(CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)等)、クラウドサーバの記憶領域等である。
【0016】
入力装置104は、情報の入力を受け付けるインタフェースであり、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、カードリーダ、音声入力装置(マイクロフォン等)、音声認識装置等である。画像処理装置100が通信装置106を介して他の装置との間で情報の入力を受け付ける構成としてもよい。
【0017】
出力装置105は、各種の情報を出力するインタフェースであり、例えば、画面表示装置(液晶モニタ、LCD(Liquid CryRal Display)、グラフィックカード等)、印字装置等)、音声出力装置(スピーカ等)、音声合成装置等である。画像処理装置100が通信装置106を介して他の装置との間で情報の出力を行う構成としてもよい。出力装置105は本発明における表示部に相当する。
【0018】
通信装置106は、ネットワーク5を介した他の装置との間の通信を実現する有線方式又は無線方式の通信インタフェースであり、例えば、NIC(Network Interface Card)、無線通信モジュール、USB(Universal Serial Interface)モジュール、シリアル通信モジュール等である。
【0019】
〔機能構成〕
サーバ10が備える主な機能構成を
図3に示す。同図に示すように、サーバ10はデータベース114及び管理部120を備える。
【0020】
データベース114は、サーバ10の主記憶装置102または補助記憶装置103に保存される。データベース114には、機械学習に用いられるデータセットD1及び条件データセットD2が保存される。
【0021】
データセットD1には、
図5に示すように、複数の互いに異なる解析モデルM及び風向データWの組み合わせが、それぞれの識別子(ID)とともに保存されている。解析モデルMは、風環境の影響の検討対象である建物Bが計画される領域R(
図6。土地だけでなく上方の空間も含む。)を解析用にモデル化したものである。この実施形態では領域Rを直方体の要素Eに細かく分割することによってモデル化されている(
図7(b))。
【0022】
モデル化の結果、解析モデルMは、建物Bに相当する部分である建物部MBと、建物部MBの周囲にある周辺部MSとによって構成される(
図7(a))。周辺部MSのうち、特に建物Bの計画敷地に相当する部分を敷地部STとする。
【0023】
各要素Eには、空気の流れに対する抵抗値がそれぞれ設定されている。抵抗値の具体例としては、体積占有率の設定が挙げられる。
【0024】
体積占有率は、8つの節点を持つ直方体形状の要素Eに対して、風を通さない物体が占有する割合を示したものである。
図8は、ある水平面における解析モデルMの断面であり、各要素における体積占有率が示されている。例えば、ある要素Eの内部全体が流体を通さない固体によって占有されている場合、体積占有率は1.0と設定される。逆に、要素Eの内部に物体が存在しない場合、体積占有率は0(ゼロ)と設定される。
【0025】
抵抗値の設定に関する別の例としては、キャノピーモデルの設定が挙げられる。キャノピーモデルは、植栽のモデル化手法の1つであり、流体解析において用いられる方程式に対する付加項を与える。
【0026】
風向データWは、解析モデルMに対して、流体解析及び評価を行う際に用いる風向及び風速を定めたデータである。通常、解析モデルMのモデル化の対象である領域R近隣において予測または観測される風向及び風速に基づいて、16方向の出現頻度および近似関数(ただし、必ずしも16方向である必要はない)が設定される。
図5に示すように、各風向及び風速にはそれぞれの解析モデルMに対応付けられ、識別子とともに保存される。
【0027】
条件データセットD2は、管理部120の学習処理において実行される条件と、評価方法を保持する。条件の設定の具体例としては、植栽、ネット・フェンス、塀・ひさしなどの工作物、建物の形状変更が考えられる(
図9、10)。それぞれの条件に対しては、抵抗の与え方、抵抗を与える要素の制限、評価する状態、報酬の与え方の条件が設定される。
【0028】
例えば、ネット・フェンスを条件とする場合、解析モデルMのうち、ネット・フェンスに相当する要素Eにおける格子境界面に対する閉塞率を変更することにより、要素Eの抵抗値が設定される。また、ネット・フェンスを条件とする場合、抵抗値が変更される部分が、地上付近の敷地部STを構成する要素Eに限定されてもよい。
【0029】
報酬の与え方は、学習器116に対して与える報酬の設定条件を定めたものである。一例として、周辺部MSにおけるランク評価が改善された場合、抵抗を与える箇所が少ない場合、抵抗値が小さい場合、または、建物占有率の増加が小さい場合に、学習器116に対して報酬を与えるように条件を設定することが考えられる。これらの条件が複数組み合わされて用いられてもよい。
【0030】
またサーバ10は、上記の機能に加えて、オペレーティングシステム、ファイルシステム、デバイスドライバ、DBMS(DataBase Management System)等の機能を備える。
【0031】
管理部120は、画像の取得や管理等、サーバ10が実行する処理を行う。管理部120の機能は、サーバ10のプロセッサ101がサーバ10の主記憶装置102または補助記憶装置103に格納されているプログラムを読み出して実行することにより実現される。管理部120は、学習器116を備える。
【0032】
学習器116は、入力されたデータの特徴量を学習することができる。一例として学習器116は、入力されたデータに対し、推定結果を出力するニューラルネットワークを構築する。ニューラルネットワークの一例として、畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)がある。
【0033】
学習器116は、データの入力を受け付ける入力層と、注目要素の推定結果を出力する出力層と、入力された画像の特徴量を抽出する中間層とを有する(
図4)。入力層、出力層、及び中間層の各層は、ノード(図中、白丸で示す)を備えており、これらの各層のノードは、エッジ(図中、矢印で示す)によって接続されている。なお、
図4に示す学習器116の構成は例示であり、ノード及びエッジの数、中間層の数などは適宜変更可能である。
【0034】
〔処理詳細〕
情報処理システム1において実行される処理の詳細を以下に説明する。情報処理システム1の処理には、
図11に示すように、学習処理及び推定処理の2つの処理が含まれる。
【0035】
(学習処理)
管理部120が実行する学習は強化学習であり、
図11に示すようなフローチャートに基づいて実行される。端末20を介してサーバ10がユーザの指示を受け取ると、サーバ10のプロセッサ101によって主記憶装置102または補助記憶装置103に保存されたプログラムが起動される。さらに管理部120によって以下のように処理が実行される。
【0036】
なお、以下ではサーバ10の管理部120によって実行される処理を、簡略に「サーバ10」が実行するものとして記載する場合がある。
【0037】
まず、管理部120は、データセットD1を参照し、1つのIDと、このIDに対応する敷地計画のモデルM及び風向データWの組み合わせを読出す(S1)。また、条件データセットD2を読出し、学習において実行される条件を設定する。条件の設定は、ユーザによって指示されてもよいし、管理部120が実施してもよい。
【0038】
管理部120は、各要素Eに対する抵抗の設定を行う(S3)。抵抗の設定は、ステップS1において設定された条件に基づき、抵抗値を与える要素Eと抵抗値の大きさとが設定される。
【0039】
抵抗値を変更する要素Eの抽出と抵抗値の設定は、完全にランダムに実行され得る。あるいは、抽出する要素Eの範囲や抵抗値の大きさに一定の制限が課されてもよい。
【0040】
一例として、設定された条件が「植栽」であった場合、解析モデルMにおける建物部MBの周辺部MSや歩道などの地上付近において、植栽に対応するように抵抗値が設定される。この場合、植栽が設定される要素Eにおいてキャノピーモデルが設定されてもよいし、要素Eの抵抗値が単に増加されてもよい。
【0041】
次に、管理部120は、ステップS5において流体解析を行う。流体解析には様々な手法が採られ得るが、例えば3次元の流体解析が用いられる。すなわち、流体力学の基礎方程式を用いて解析が実行され、その結果、解析モデルMにおける風向及び風速が数値解として得られる。
【0042】
特に次のステップS7において、解析結果の評価としてランク評価が用いられる場合、建物Bの建設前の流体解析の結果との比較が実行される。なお、建物Bの建設前における実際の観測データが、建物部MBが無い場合の解析結果の代わりに用いられてもよい。
【0043】
管理部120は、ステップS7において解析結果の評価を行う。評価は、
図9、10に示したように風環境のランク評価(詳細は後述)によって実行されたり、風速比分布によって実行されたりする。例えば、風速比分布による評価が実行される場合、建物部MBがある場合と無い場合とにおいて、風速比の変動が少ない場合、または、変動が起きる範囲が小さい場合などにおいて、高い評価値が与えられる。
【0044】
さらに、評価の実施の際、風速比分布、抵抗値を変更した要素Eの個数、抵抗値を有する要素Eの個数、または、解析モデルMにおける抵抗値の合計が考慮に加えられ、評価として算出されてもよい。例えばランク評価が同等であっても、抵抗値の変更した要素Eの個数が少ない解析モデルMの方が、設計変更が小規模で済むため、高い評価が与えられるように計算できる。
【0045】
ランク評価の代わりに、風速比分布、抵抗値を変更した要素Eの個数、抵抗値を有する要素Eの個数、または、解析モデルMにおける抵抗値の合計が、単独で、あるいは組み合わせて考慮され、評価として算出されてもよい。
【0046】
次に管理部120は、学習器116に対し、ステップS7で得られた評価を解析モデルMにおける抵抗の設定と共に学習させる(S9)。学習においては、さらに行動価値関数が学習される。行動価値関数の一例としては、Q関数:Q(s,a)が挙げられる(非特許文献2)。あるいは、Q関数を用いる手法以外の方法によって、強化学習が実行されてもよい。
【0047】
ここで、sは環境を指し、aは行動を指す。この場合において、環境sは、解析モデル及び解析空間であり、行動aは解析モデルMにおける抵抗設定を行うことである(
図12)。学習の過程において、上述した評価(つまり報酬)が最大化するような解析モデル又は解析空間(環境s)を設定(行動a)できるように、行動価値関数Qが決定されていく。
【0048】
管理部120は、解析中のIDにおいて、解析モデルMの抵抗設定変更を終えてもよいかどうか判断する(S10)。抵抗設定の変更を継続する場合(S10:NO)、管理部120は処理をステップS3に戻し、同一IDの解析モデルMに対する抵抗設定を再度行い、処理を継続させる。
【0049】
ステップS10における判断の基準であるが、例えば、あらかじめ決められた回数の解析及び学習が実行された場合、管理部120は処理を終え(S10:YES)、ステップS11へと処理を進めることができる。また、学習曲線が収束することを抵抗設定の終了条件とすることもできる。
【0050】
管理部120は、次のステップS11において、学習処理を完了すべきか否かについて判断する。例えば、予め準備されていた解析モデルMの全てについて処理が完了していた場合、または、あらかじめ決められた回数の解析及び学習が実行された場合、管理部120は処理を完了することができる。また、学習曲線が収束することを学習処理の完了条件とすることもできる。
【0051】
完了条件が満たされていない場合(S11:NO)、管理部120は、処理をステップS1に戻す。これにより、管理部120は、別のIDによる解析モデルM及び風向データWをデータセットD1から読み出し、読み出した解析モデルM及び風向データWに対してステップS3-S13を実行する。
【0052】
完了条件が満たされている場合(S11:YES)、管理部120は学習処理を完了する。
【0053】
管理部120は、強化学習において所謂エージェントとして機能する。すなわち管理部120は、抵抗設定(行動a)に応じて、解析結果を状態として取得し、さらに状態を評価することで算出した報酬を学習器116に学習させる。
【0054】
このように管理部120は、上記の一連の学習処理において、流体解析結果の評価を所謂報酬として扱う。管理部120及び学習器116は、学習処理の結果として、評価(報酬)を最大化するための行動を、例えば行動価値関数に基づいて実行可能となる。
【0055】
学習器116を用いて学習処理を実行した結果、管理部120は、入力された任意のモデルに対し、好適な評価を得ることができるように抵抗設定できる学習済みモデルを獲得する。
【0056】
(推定処理)
上記の学習処理を実行し、学習済みとなった学習器116を備える管理部120を用いると、短時間で好適な抵抗の設定を推定することが可能となる。学習済みの学習器116を用いた推定処理の一例について、
図11を用いて以下に説明する。
【0057】
まず、管理部120は、抵抗値設定の推定対象となる対象モデルを設定し、学習器116に読み込ませる(S15)。対象モデルは、例えば、端末20を介してユーザによって指示される。対象モデルは、解析モデルMと同様の手法によってモデル化された解析モデルである。したがって、対象モデルは
図7の解析モデルMと同様に、複数の要素Eによって構成され、各要素Eには体積占有率などの方法により抵抗値が設定される。
【0058】
対象モデルがモデル化の対象としている領域R及び建物Bは、学習の対象とした解析モデルMにおける領域R及び建物Bとは、どのIDについても異なる。当然、対象モデルにおける敷地部ST、周辺部MS、建物部MBの形状も、解析モデルMにおけるものとは異なる。
【0059】
管理部120は、対象モデルに対して流体解析を実行する(S17)。解析の手法は、ステップS5において用いられた流体解析の手法と同様である。
【0060】
管理部120は、ステップS19において解析結果の評価を行う。評価の手法はステップS7と同様であり、風環境のランク評価によって実行されたり、風速比分布によって実行されたりする。
【0061】
ステップS19で得られた評価が許容値未満である場合(S21:NO)、管理部120は、学習器116に対して、評価を向上させるための好適な抵抗の設定を推定させ、ステップS23の推定に基づいて、各要素Eに対する抵抗の設定を行う(S23)。なお、この処理では、ステップS3と同様、抵抗値を与える要素Eと抵抗値の大きさとが設定される。ステップS23の後では、ステップS17以降の処理が再度実行される。
【0062】
ステップS19で得られた評価が許容値以上である場合(S21:YES)、管理部120は処理を完了する。
【0063】
ユーザは、最終的に推定された抵抗の設定に基づき、計画対象の領域R、特に建物Bとその周辺における具体的な対策を検討し、実際の敷地計画に反映させることができる。例えば、敷地部STにおける対象モデル周辺の要素Eにおいて、植栽に対応する抵抗値設定を行うことが推定結果として示される場合、これは、当該要素Eにおいて植栽を計画することが風環境の改善に資することを意味する。すなわち、推定の結果得られた抵抗の設定は、風環境を改善するための敷地計画の提示として理解される。ユーザは、推定結果を考慮し、領域Rの該当する箇所に植栽を計画し、風環境の改善を試みることができる。
【0064】
また、別の例では、対象モデルを構成する要素Eにおいて抵抗値の変更が推定結果として示された場合、ユーザは、建物Bに庇を設置したり、敷地部STや建物Bにフェンスやその他工作物の設置をしたり、または建物Bの躯体形状を変更するなどして敷地計画を変更し、風環境の改善を試みることができる。
【0065】
このように、管理部120は、モンテカルロ法などを用いて抵抗の設定を試行錯誤で行うのではなく、学習処理の結果に基づいて好適な抵抗設定を推定する。従って、対象モデルに対して好適な抵抗値の設定を迅速に得ることが可能となる。
【0066】
(評価処理の詳細)
【0067】
ステップS7で実行されるランク評価について、非特許文献1に基づき、
図13のフローチャートを用いて以下に説明する。
【0068】
管理部120は、解析(S5)の結果に基づき、領域R内における各要素Eにおける平均風速を、建物部MBが無い場合における観測高さ(基準点)での風速(基準風速)に対する割合(風速比)に換算する(S71)。
【0069】
次に管理部120は、風速の観測データに近似する関数を求める(S73)。関数近似するのは超過頻度(風速の出現頻度)などであり、一般にワイブル分布がよく用いられる。ワイブル分布は、一般的に、領域R近隣における(ただし、データの確認がとれれば必ずしも近隣である必要はない)風向・風速の長期観測記録に基づいて、求められる(非特許文献1)。
【0070】
管理部120は、ステップS73で求めたワイブル分布を用いて、日最大瞬間風速の超過頻度などを評価点(要素E)ごとに求める(S75)。
【0071】
次に管理部120は、評価尺度を決定する(S77)。評価尺度は複数種考えられるが、その中から適切なものが選ばれる。
【0072】
管理部120は、ステップS75において取得した日最大瞬間風速の超過頻度を評価尺度と参照し、評価値を決定する。決定された評価値は、ステップS7以降における評価として使用される。
【0073】
なお、上記の評価尺度の決定方法や、ランク評価自体は、評価方法の一例である。これ以外の評価方法も採用され得ることは、上述の通りである。
【0074】
<変形例>
上記の実施形態では流体解析を用いて、領域Rにおける風環境の予測を行った(S5)。風環境の予測方法は、これに限らず、人工知能が用いられてもよい。変形例として以下に説明する。
【0075】
変形例によるサーバ10の構成を
図14に示す。変形例に示される管理部220は、上述の学習器116に加えて、学習器118を備える。なお、変形例においては、実施形態と同様の構成に対して同じ参照番号を付し、説明を省略する。
【0076】
学習器118は、学習器116と同様、入力されたデータの特徴量を学習することができる。学習器118は、入力されたデータに対して推定結果を出力するニューラルネットワークを構築する。用いられるニューラルネットワークの例として、畳み込みニューラルネットワーク(CNN: Convolutional Neural Network)が挙げられる。
【0077】
学習器118は、流体解析に用いられた解析モデル、風向及び風速と、流体解析の結果(ランク評価結果、風速比分布を含む)との組み合わせを教師有データとして学習し、その結果生成された学習済みモデルである。
【0078】
学習器118の生成過程について、
図15を用いて詳細に説明する。まず、解析モデルと風向・風速などの解析条件が設定される(S201)。用いられる解析モデルは、解析モデルMと同様、敷地を複数個の要素Eによってモデル化した解析モデルであり、各要素Eには、体積占有率やキャノピーモデルなどの手法により抵抗値が設定される。
【0079】
次に、設定された解析モデル及び条件に従って流体解析が実施される(S203)。
【0080】
学習器118は、解析モデル、風向及び風速、及び流体解析の結果を学習する(S205)。
【0081】
学習は、所定の条件を満たすまで複数回実施される(S207:NO)。
【0082】
例えば、予め準備されていた解析モデルの全てについて学習処理が完了した場合、または、あらかじめ決められた回数の解析及び学習が実行された場合、管理部220は処理を完了することができる(S207:YES)。また、学習曲線が収束することを学習処理の完了条件とすることもできる。
【0083】
学習済みの学習器118は、推定対象の解析モデル、風向及び風速という入力に対し、流体解析結果を推定し、出力することができる(S9)。
【0084】
管理部220は、ステップS5及びステップS17の少なくとも1つにおいて、学習済み学習器118を用いて推定結果を得ることができる。つまり、実際の流体解析結果の代わりに、ステップS7、S19以降において、学習器118によって推定された流体解析結果が使用される。
【0085】
このように生成された学習器118を用いることによって、複数の解析モデルMに対して逐一流体解析を実施せずとも、解析結果を短時間で推定することが可能となる。その結果、学習処理に係る時間を削減することが可能となる。
【0086】
<その他変形例>
上記実施形態においては、体積占有率を用いて要素Eの抵抗値の設定が実施された。その代わりに、建物Bや工作物に相当する部分を全てソリッド要素としてモデル化する手法が採られてもよい。
【0087】
上記実施形態においては強化学習が実行されたが、学習器116に対する学習処理が、例えば過去の解析結果を用いて、教師有データまたは教師無データによる学習によって実行されてもよい。この場合、最適な抵抗値の設定と、初期条件との組み合わせとを学習器116に学習させることによって、学習処理が実行されてもよい。
【0088】
<効果>
(態様1)上記実施形態または変形例では、敷地計画を推定する学習器116(または管理部120)に対して実行させる方法であって、建物Bが配置された領域Rをモデル化した解析モデルMと領域Rにおける風向及び風速(データセットD1)とを学習器116に読み込ませる処理(S15)と、学習器116に領域Rにおける敷地計画を推定させる処理(S17)と、を含む方法が実行される。
【0089】
上記態様では、風環境の観点において好適な敷地計画を、簡単に取得することができる。従来のように建物、工作物または植栽などの形状を試行錯誤した上でモデル化し、流体解析を都度実施して敷地計画の評価を行う必要がなくなる。そのため、敷地計画に係る時間的または金銭的コストを削減することができる。
【0090】
(態様2)態様1において、学習器116は、学習用解析モデルMと風向及び風速とが含まれる学習用条件(データセットD1)、及び、学習用条件に基づく風環境解析の結果に対する評価の複数の組み合わせの学習処理(S9)を行った学習済みの学習器116である。
【0091】
上記態様によって学習器116の訓練を行うことによって、好適な敷地計画を推定する学習済みモデルを得ることが可能となる。
【0092】
(態様3)態様2における学習処理は、学習用条件を用いて風環境解析を実行する解析処理(S5)と、風環境解析の結果の評価を行う評価処理(S7)と、学習器116が、評価と学習用条件とを対応付けて学習する処理(S9)と、を含む。
【0093】
上記態様とすることにより、好適な敷地計画を推定する学習済みモデルを得ることが可能となる。
【0094】
(態様4)態様3における学習処理は、行動価値関数を学習する処理をさらに含む。
【0095】
行動価値関数を学習することによって、学習済みの学習器116は、好適な評価を得るために必要な解析モデルの設定、すなわち、好適な敷地計画の推定を行うことが可能となる。
【0096】
(態様5)態様2から4のいずれかにおける風環境解析処理は、風環境解析の結果を推定する学習器118(風環境推定器に相当)によって実行される。学習器118は、建物及び敷地をモデル化した流体解析モデルと、流体解析モデルの流体解析の結果との複数の組み合わせを学習して生成された(S201-S209)、学習済みの学習器118である。
【0097】
上記態様とすることにより、流体解析を実行せずに、簡単に正確な解析結果を取得することが可能となる。時間的、金銭的コストの削減が可能となる。
【0098】
(態様6)態様3における解析処理は、学習用解析モデルである第1領域モデルと、前記第1領域モデルに対する風向及び風速とを用いて第1風環境解析を実行する処理(S5)と、前記第1領域モデルと異なる前記学習用解析モデルである第2領域モデルを設定する変更処理(S10、S3)と、
【0099】
前記第2領域モデルと、前記第2領域モデルに対する風向及び風速とを用いて第2風環境解析を実行する処理(S5)と、を含む。
【0100】
上記態様のように複数の異なる解析モデルに対して学習処理を実行することにより、学習器116を性能の高い学習済みモデルとすることが可能となる。
【0101】
(態様7)態様6における変更処理は、第1領域モデルを所定条件に基づいて変更し、第2領域モデルとする処理を含む。この所定条件は、建物形状の変更、植栽の設置、及び、庇またはフェンスを含む工作物の設置の少なくとも1つに対応するモデル変更である。
【0102】
上記態様では、実際の建物Bに対して考えられる具体的対策に応じたモデル変更の条件を課すことにより、現実的な敷地計画を推定することのできる学習済みモデルを得ることが可能となる。
【0103】
(態様8)態様2から7のいずれかにおける評価は、風環境のランク評価または風速比分布に基づいて実行される。
【0104】
上記態様によって評価を行うことにより、評価値を適切なものとすることができる。
【0105】
(態様9、10)サーバ10は、態様1から8のいずれか1つに記載の方法を実行する。また、サーバ10は、プログラムによって、態様1から8のいずれか1つに記載の方法を実行する。
【符号の説明】
【0106】
1 情報処理システム
10 サーバ
20 端末
5 ネットワーク