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  • 特開-電極板および電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076255
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】電極板および電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20240529BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20240529BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/66 A
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187742
(22)【出願日】2022-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000231202
【氏名又は名称】日本黒鉛工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100168273
【弁理士】
【氏名又は名称】古田 昌稔
(72)【発明者】
【氏名】大島 龍也
(72)【発明者】
【氏名】西田 耕次
(72)【発明者】
【氏名】辻 宣浩
(72)【発明者】
【氏名】村田 学
(72)【発明者】
【氏名】川上 尚
(72)【発明者】
【氏名】石井 康夫
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 正博
【テーマコード(参考)】
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017AS02
5H017CC01
5H017DD05
5H017EE05
5H017EE06
5H017EE07
5H017HH01
5H017HH05
5H050AA14
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA10
5H050CA11
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA04
5H050DA13
5H050EA15
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA12
(57)【要約】
【課題】電極層と集電体との剥離強度に加え、剥離強度の均一性を向上させることに適した電極板を提供する。
【解決手段】本開示の電極板1000は、基板101および基板101を被覆する被覆層102を有する集電体100と、集電体100上に配置された電極層110と、を備え、被覆層102は、導電性カーボン103と第1バインダー104とを含み、電極層110は、第2バインダー113を含み、第2バインダー113は、スチレンに由来する繰り返し単位のモル分率が0.12以上、かつ、全窒素量が120質量ppm以上400質量ppm以下であるスチレン系エラストマーを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板および前記基板を被覆する被覆層を有する集電体と、
前記集電体上に配置された電極層と、
を備え、
前記被覆層は、導電性カーボンと第1バインダーとを含み、
前記電極層は、第2バインダーを含み、
前記第2バインダーは、スチレンに由来する繰り返し単位のモル分率が0.12以上、かつ、全窒素量が120質量ppm以上400質量ppm以下であるスチレン系エラストマーを含む、
電極板。
【請求項2】
前記第1バインダーはポリイミドを含む、
請求項1に記載の電極板。
【請求項3】
前記基板は、アルミニウムまたはアルミニウム合金を含む、
請求項1に記載の電極板。
【請求項4】
前記電極層が固体電解質をさらに含む、
請求項1に記載の電極板。
【請求項5】
前記固体電解質は硫化物固体電解質を含む、
請求項4に記載の電極板。
【請求項6】
正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に位置する電解質層と、
を備え、
前記正極および前記負極からなる群より選択される少なくとも1つが請求項1に記載の電極板を含む、
電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極板および電池に関する。
【背景技術】
【0002】
集電体は、電池、キャパシタなどの電気化学デバイスに不可欠な部品である。集電体の上に活物質層などの電極層が配置される。集電体と電極層との密着性は、電気化学デバイスの性能に影響を及ぼす。密着性を向上させることが可能な集電体として、基板および被覆層を有する集電体が知られている。
【0003】
特許文献1には、シート状の金属基材の片面または両面に被覆層が形成された蓄電デバイス用集電体が記載されている。被覆層は、粉体状炭素材料およびバインダーを含む。バインダーは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を含む。被覆層によって、金属基材と活物質層との間の密着性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-190527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、電極層と集電体との剥離強度に加え、剥離強度の均一性を向上させることに適した電極板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、
基板および前記基板を被覆する被覆層を有する集電体と、
前記集電体上に配置された電極層と、
を備え、
前記被覆層は、導電性カーボンと第1バインダーとを含み、
前記電極層は、第2バインダーを含み、
前記第2バインダーは、スチレンに由来する繰り返し単位のモル分率が0.12以上、かつ、全窒素量が120質量ppm以上400質量ppm以下であるスチレン系エラストマーを含む、
電極板を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、電極層と集電体との剥離強度に加え、剥離強度の均一性を向上させることに適した電極板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施の形態1に係る電極板の断面図である。
図2図2は、変形例に係る電極板の断面図である。
図3図3は、実施の形態2に係る電池の断面図である。
図4図4は、変形例に係る電池の断面図である。
図5A図5Aは、実施例1の電極板の剥離試験で得られたグラフである。
図5B図5Bは、比較例3の電極板の剥離試験で得られたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本開示の基礎となった知見)
集電体を改良することは、電極層と集電体との密着性を向上させるための1つの手段である。しかし、電極層と集電体との密着性は、電極層と集電体との相互作用に基づいている。本発明者らは、この点に着目し、電極層のバインダーの改良によって電極層と集電体との密着性を向上させることを試み、本開示の技術を想到するに至った。
【0010】
電極層と集電体との密着性は、剥離強度として数値化されうる。剥離強度の均一性は、剥離強度の変動係数で数値化されうる。
【0011】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本開示は、以下の実施形態に限定されない。
【0012】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る電極板1000の断面図である。電極板1000は、集電体100および電極層110を備える。集電体100は、基板101および被覆層102を有する。被覆層102は、基板101を被覆するとともに電極層110に接触している。被覆層102は、導電性カーボン103および第1バインダー104を含む。電極層110は、第2バインダー113を含む。第2バインダー113は、スチレンに由来する繰り返し単位のモル分率が0.12以上、かつ、全窒素量が120質量ppm以上400質量ppm以下であるスチレン系エラストマーを含む。
【0013】
以上の構成によれば、電極層110と集電体100との剥離強度に加え、剥離強度の均一性を向上させることができる。さらに、電極板1000を備えた電池のサイクル特性を向上させることができる。電極板1000は、非水電解質電池、固体電池、キャパシタなどの電気化学デバイスの電極板として利用することができる。電極板1000は、特に、全固体二次電池の電極板に適している。
【0014】
電極層110と集電体100との剥離強度の均一性が高いことは、複数の電極板1000の間の性能のバラつきが小さいことを意味する。このような電極板1000を使用すれば、一定の品質の電気化学デバイスを製造することが可能となり、ひいては、歩留まりが向上する。
【0015】
電極板1000において、剥離強度およびその均一性が向上する理由は必ずしも明らかではないが、スチレン系エラストマーに含まれる芳香環と導電性カーボンとの相互作用が剥離強度およびその均一性に影響していると推定される。この相互作用としては、π-π相互作用が挙げられる。π-π相互作用は、導電性カーボンの表面に存在するπ電子とスチレン系エラストマーの芳香環のπ電子との間でπ結合が形成されることを含む。また、集電体101において、被覆層102が基板101の主面の一部のみを被覆している場合には、電極層110が基板101に直接接触しうる。この場合、窒素を含むスチレン系エラストマーと基板101との相互作用も剥離強度およびその均一性に影響すると推定される。この相互作用としては、分子間相互作用が挙げられる。
【0016】
窒素を含むスチレン系エラストマーは、窒素を含む変性基を有するスチレン系エラストマーであってもよい。このようなエラストマーによれば、窒素を含む変性基の量を調節することで、全窒素量を上記の範囲内に収めることができる。
【0017】
電極層110は、固体電解質111を含んでいてもよく、活物質112を含んでいてもよく、両者を含んでいてもよい。
【0018】
[集電体]
集電体100は、基板101および被覆層102を含む。
【0019】
集電体100は、例えば、板状または箔状の形状を有する。集電体100の厚さは、0.1μm以上1mm以下であってもよく、1μm以上100μm以下であってもよく、10μm以上50μm以下であってもよい。集電体100の厚さが0.1μm以上である場合には、集電体100の強度が向上するため、集電体100の破損が抑制される。集電体100の厚さが1mm以下である場合には、集電体100の軽量化により、電気化学デバイスのエネルギー密度を向上させることができる。すなわち、集電体100の厚さを適切に調整することによって、電気化学デバイスを安定的に製造できるとともに、電気化学デバイスのエネルギー密度を向上させることができる。
【0020】
<被覆層>
被覆層102は、基板101の主面を全体的に被覆していてもよく、基板101の主面を部分的に被覆していてもよい。「主面」は、基板101の最も広い面積を有する面を意味する。被覆層102は、基板101と電極層110との間に位置し、基板101および電極層110のそれぞれに接触している。被覆層102の形状は、ドット状、ストライプ状などであってもよい。
【0021】
被覆層102に含まれる導電性カーボン103としては、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛類、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)などのカーボンブラック類、炭素繊維(CF)、気相成長法炭素(VGCF(登録商標))、カーボンナノチューブ(CNT)などの導電性繊維類、グラフェンなどのナノカーボン類などが挙げられる。導電性カーボンとして、これらから選択される1つの導電性カーボンが単独で使用されてもよく、これらから選択される2つ以上の導電性カーボンが使用されてもよい。
【0022】
被覆層102に含まれる第1バインダー104は、芳香族系スーパーエンジニアリングプラスチックを含んでいてもよい。芳香族系スーパーエンジニアリングプラスチックとは、主鎖骨格に芳香環を含み、かつ、連続使用可能な温度が150℃以上のエンジニアリングプラスチックを意味する。芳香族系スーパーエンジニアプラスチックとしては、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、液晶ポリマー(LCP)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニルスルホン(PPSU)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン(PSU)、ポリパラフェニレン(PPP)、ポリアリレート(PAR)などが挙げられる。第1バインダー104として、これらから選択される2つ以上を含む混合物が使用されてもよい。芳香族系スーパーエンジニアリングプラスチックは高い耐熱性を示す。そのため、第1バインダー104として、芳香族系スーパーエンジニアリングプラスチックが被覆層102に含まれている場合、集電体100を含む部材を高温で圧縮したとしても被覆層102がプレス機などの生産設備に接着しにくい。その結果、電気化学デバイスの生産性が向上する。
【0023】
芳香族系スーパーエンジニアリングプラスチックは、ポリイミド(PI)であってもよい。ポリイミドは、より高い耐熱性を示す傾向がある。そのため、集電体100を含む部材を高温で圧縮したとしても被覆層102がプレス機などの生産設備に接着しにくい。その結果、電気化学デバイスの生産性が向上する。
【0024】
第1バインダー104は、芳香族系スーパーエンジニアリングプラスチック以外の追加のバインダーを含んでいてもよい。あるいは、第1バインダー104は、芳香族系スーパーエンジニアリングプラスチックであってもよい。言い換えれば、第1バインダー104は、芳香族系スーパーエンジニアリングプラスチックのみを含んでいてもよい。
【0025】
追加のバインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロースなどが挙げられる。追加のバインダーとして、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、スチレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸エステル、アクリル酸、およびヘキサジエンからなる群より選択される2つ以上のモノマーを用いて合成された共重合体も用いられうる。追加のバインダーとして、これらから選択される1つが単独で用いられてもよく、これらから選択される2つ以上を含む混合物が用いられてもよい。
【0026】
追加のバインダーは、結着性に優れる観点から、エラストマーを含んでいてもよい。エラストマーとは、ゴム弾性を有するポリマーを意味する。バインダーとして用いられるエラストマーは、熱可塑性エラストマーであってもよく、熱硬化性エラストマーであってもよい。エラストマーとしては、前述のスチレン系エラストマーに加え、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、水素化イソプレンゴム(HIR)、水素化ブチルゴム(HIIR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、アクリレートブタジエンゴム(ABR)などが挙げられる。これらから選択される2つ以上を含む混合物が使用されてもよい。
【0027】
被覆層102における第1バインダー104の含有率は、特に限定されず、例えば20質量%以上95質量%以下であり、40質量%以上90質量%以下であってもよく、55質量%以上85質量%以下であってもよい。第1バインダー104の含有率が95質量%以下である場合、被覆層102の電気伝導性が向上するため、電気化学デバイスの高出力化が可能である。第1バインダー104の含有率が20質量%以上である場合、第1バインダー104などが十分に存在することによって、被覆層102の剥離が抑制される傾向がある。
【0028】
被覆層102は、導電性カーボン103以外の導電性材料を含んでいてもよい。導電性カーボン以外の導電性材料としては、金属繊維などの導電性繊維類、フッ化カーボン、アルミニウムなどの導電性粉末類、酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなどの導電性高分子などが挙げられる。
【0029】
被覆層102は、導電性カーボン103および第1バインダー104以外の他の元素または成分を含んでいてもよい。他の元素または成分は、コンタミネーションなどによって被覆層102に添加されうる。例えば、被覆層102の表面の一部に不可避的な酸化被膜などが形成されていてもよい。すなわち、被覆層102は、不可避的な酸化物などを含んでいてもよい。
【0030】
被覆層102は、例えば、基板101の表面に対して、被覆層102の材料をスパッタリングする方法などによって作製できる。被覆層102は、被覆層102の材料を含む溶液または分散液を基板101の表面に塗布することによって作製されてもよい。溶液または分散液の塗布は、グラビアコーター、ダイコーターなどを利用して行うことができる。
【0031】
被覆層102の単位面積あたりの質量は、特に限定されず、例えば0.01g/m2以上5g/m2以下であってもよく、0.1g/m2以上3g/m2以下であってもよく、0.5g/m2以上2g/m2以下であってもよい。単位面積あたりの質量が0.01g/m2以上である場合、基板101と電極層との接触を防ぐことができ、これにより、基板101の腐食を抑制することができる。単位面積あたりの質量が5g/m2以下である場合、被覆層102の電気抵抗が減少し、電気化学デバイスについて、高出力での動作を容易に行うことができる。
【0032】
被覆層102の厚さは、特に限定されず、例えば0.001μm以上10μm以下であってもよく、0.01μm以上5μm以下であってもよく、0.1μm以上3μm以下であってもよい。被覆層102の厚さが0.001μm以上である場合、基板101と電極層110との接触を防ぐことができ、これにより、基板101の腐食を抑制することができる。被覆層102の厚さが10μm以下である場合、被覆層102の電気抵抗が減少し、電気化学デバイスについて、高出力での動作を容易に行うことができる。
【0033】
<基板>
基板101は、例えば、箔状または板状の形状を有する。基板101の材料としては、金属または合金が用いられてもよい。金属としては、アルミニウム、鉄、ニッケル、銅などが挙げられる。合金としては、アルミニウム合金、ステンレス鋼(SUS)などが挙げられる。基板101は、アルミニウムまたはアルミニウム合金を含んでいてもよい。
【0034】
基板101は、主成分としてアルミニウムを含有していてもよい。「基板101が主成分としてアルミニウムを含有する」とは、基板101におけるアルミニウムの含有率が50質量%以上であることを意味する。アルミニウムは、高い電気伝導性を有する軽量な金属である。したがって、アルミニウムを主成分として含有する基板101を備えた電極板1000は、電気化学デバイスの重量エネルギー密度を向上させることができる。主成分としてアルミニウムを含有する基板101は、アルミニウム以外の元素をさらに含んでいてもよい。なお、基板101がアルミニウムのみからなる場合、すなわち基板101におけるアルミニウムの含有率が100%である場合、基板101の強度が低下することがある。したがって、基板101は、アルミニウム以外の元素を含有していてもよい。基板101におけるアルミニウムの含有率は、99質量%以下であってもよく、90質量%以下であってもよい。
【0035】
基板101は、アルミニウム合金を含有していてもよい。アルミニウム合金は、軽量であり、かつ高い強度を有する。したがって、アルミニウム合金を含有する基板101を備えた電極板1000は、高い重量エネルギー密度および高い耐久性を両立した電気化学デバイスを実現できる。アルミニウム合金は、特に限定されず、例えば、Al-Cu合金、Al-Mn合金、Al-Mn-Cu合金、Al-Fe-Cu合金などが挙げられる。
【0036】
基板101の材料として、Al-Mn合金を用いてもよい。Al-Mn合金は、高い強度を有し、かつ、優れた成形性および耐食性を有する。したがって、Al-Mn合金を含有する基板101を備えた電極板1000は、電池のサイクル特性を向上させることができる。
【0037】
基板101の厚さは、特に限定されず、例えば0.1μm以上50μm以下であり、1μm以上30μm以下であってもよい。基板101の厚さが0.1μm以上である場合、基板101の強度が向上するため、基板101の破損が抑制される。基板101の厚さが50μm以下である場合、基板101の質量が減少し、電気化学デバイスの質量エネルギー密度を向上させることができる。
【0038】
[電極層]
電極層110は、第2バインダー113を含む。電極層110は、固体電解質111および活物質112をさらに含んでいてもよい。以下、固体電解質111、活物質112、および第2バインダー113について、詳細に説明する。
【0039】
<固体電解質>
固体電解質111は、硫化物固体電解質を含んでいてもよい。硫化物固体電解質は、リチウムを含んでいてもよい。固体電解質111としてリチウムを有する硫化物固体電解質を使用することで、この硫化物固体電解質を含む電極板1000を用いたリチウム二次電池を製造することができる。
【0040】
固体電解質111は、酸化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質、高分子固体電解質、錯体水素化物固体電解質などの硫化物固体電解質以外の固体電解質を含んでいてもよい。あるいは、固体電解質111は、硫化物固体電解質であってもよい。言い換えれば、固体電解質111は、硫化物固体電解質のみを含んでいてもよい。
【0041】
本開示において、「酸化物固体電解質」とは、酸素を含む固体電解質を意味する。酸化物固体電解質は、酸素以外のアニオンとして、硫黄およびハロゲン元素以外のアニオンをさらに含んでいてもよい。
【0042】
本開示において、「ハロゲン化物固体電解質」とは、ハロゲン元素を含み、かつ、硫黄を含まない固体電解質を意味する。本開示において、硫黄を含まない固体電解質とは、硫黄元素を含まない組成式で表される固体電解質を意味する。したがって、ごく微量の硫黄成分、例えば硫黄が0.1質量%以下である固体電解質は、硫黄を含まない固体電解質に含まれる。ハロゲン化物固体電解質は、ハロゲン元素以外のアニオンとして、さらに酸素を含んでいてもよい。
【0043】
硫化物固体電解質としては、例えば、Li2S-P25、Li2S-SiS2、Li2S-B23、Li2S-GeS2、Li3.25Ge0.250.754、Li10GeP212などが用いられうる。これらに、LiX、Li2O、MOq、LipMOqなどが添加されてもよい。「LiX」における元素Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1つである。「MOq」および「LipMOq」における元素Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、In、Fe、およびZnからなる群より選択される少なくとも1つである。「MOq」および「LipMOq」におけるpおよびqは、それぞれ独立して、自然数である。
【0044】
硫化物固体電解質としては、例えば、Li2S-P25系ガラスセラミックスが用いられてもよい。Li2S-P25系ガラスセラミックスには、LiX、Li2O、MOq、LipMOqなどが添加されてもよく、LiCl、LiBrおよびLiIから選択される2つ以上が添加されてもよい。Li2S-P25系ガラスセラミックスは、比較的柔らかい材料であるため、Li2S-P25系ガラスセラミックスを含む電極板1000によれば、より耐久性が高い電池を製造できる。
【0045】
酸化物固体電解質としては、例えば、LiTi2(PO43およびその元素置換体を代表とするNASICON型固体電解質、(LaLi)TiO3系のペロブスカイト型固体電解質、Li14ZnGe416、Li4SiO4、LiGeO4およびその元素置換体を代表とするLISICON型固体電解質、Li7La3Zr212およびその元素置換体を代表とするガーネット型固体電解質、Li3PO4およびそのN置換体、LiBO2、Li3BO3などのLi-B-O化合物をベースとして、Li2SO4、Li2CO3などが添加されたガラス、およびガラスセラミックスなどが用いられうる。
【0046】
ハロゲン化物固体電解質は、例えば、Li、M1、およびXを含む。M1は、Li以外の金属元素および半金属元素からなる群より選択される少なくとも1つである。Xは、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも1つである。ハロゲン化物固体電解質は、高い熱安定性を有するため、電池の安全性を向上させることができる。さらに、ハロゲン化物固体電解質は、硫黄を含まないため、硫化水素ガスの発生を抑制することができる。
【0047】
本開示において、「半金属元素」は、B、Si、Ge、As、SbおよびTeである。
【0048】
本開示において、「金属元素」は、水素を除く周期表1族から12族に含まれる全ての元素、ならびに、B、Si、Ge、As、Sb、Te、C、N、P、O、S、およびSeを除く周期表13族から16族に含まれる全ての元素である。
【0049】
すなわち、本開示において、「半金属元素」および「金属元素」は、ハロゲン元素と無機化合物を形成した際にカチオンとなり得る元素群である。
【0050】
例えば、ハロゲン化物固体電解質は、下記の組成式(1)により表される材料であってもよい。
LiαM1βγ ・・・式(1)
【0051】
上記の組成式(1)において、α、βおよびγは、それぞれ独立して、0より大きい値である。γは、4、6などでありうる。
【0052】
以上の構成によれば、ハロゲン化物固体電解質のイオン伝導度が向上する。そのため、電極板1000のイオン伝導度が向上しうる。この電極板1000は、電池に用いられた場合に、当該電池のサイクル特性をより向上させることができる。
【0053】
上記組成式(1)において、元素M1は、Y(=イットリウム)を含んでもよい。すなわち、ハロゲン化物固体電解質は、金属元素としてYを含んでもよい。
【0054】
Yを含むハロゲン化物固体電解質は、例えば、下記の組成式(2)で表されてもよい。
LiaMebc6 ・・・式(2)
【0055】
式(2)において、a、b、およびcは、a+mb+3c=6、および、c>0を満たしてもよい。元素Meは、LiおよびY以外の金属元素および半金属元素からなる群より選択される少なくとも1つである。mは、元素Meの価数を表す。なお、元素Meが複数種の元素を含む場合、mbは、各元素の組成比と当該元素の価数との積の合計値である。例えば、Meが元素Me1と元素Me2とを含み、元素Me1の組成比がb1であり、元素Me1の価数がm1であり、元素Me2の組成比がb2であり、元素Me2の価数がm2である場合、mbは、m11+m22で表される。上記組成式(2)において、元素Xは、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも1つである。
【0056】
元素Meは、例えば、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Sc、Al、Ga、Bi、Zr、Hf、Ti、Sn、Ta、GdおよびNbからなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。
【0057】
ハロゲン化物固体電解質としては、例えば、以下の材料が用いられうる。以下の材料によれば、固体電解質111のイオン伝導度がより向上し、電池の出力特性をより向上させることができる。
【0058】
ハロゲン化物固体電解質は、以下の組成式(A1)により表される材料であってもよい。
Li6-3dd6 ・・・式(A1)
【0059】
組成式(A1)において、元素Xは、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも1つである。組成式(A1)において、dは、0<d<2を満たす。
【0060】
ハロゲン化物固体電解質は、以下の組成式(A2)により表される材料であってもよい。
Li3YX6 ・・・式(A2)
【0061】
組成式(A2)において、元素Xは、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1つである。
【0062】
ハロゲン化物固体電解質は、以下の組成式(A3)により表される材料であってもよい。
Li3-3δ1+δCl6 ・・・式(A3)
【0063】
組成式(A3)において、δは、0<δ≦0.15を満たす。
【0064】
ハロゲン化物固体電解質は、以下の組成式(A4)により表される材料であってもよい。
Li3-3δ1+δBr6 ・・・式(A4)
【0065】
組成式(A4)において、δは、0<δ≦0.25を満たす。
【0066】
ハロゲン化物固体電解質は、以下の組成式(A5)により表される材料であってもよい。
Li3-3δ+a1+δ-aMeaCl6-x-yBrxy ・・・式(A5)
【0067】
組成式(A5)において、元素Meは、Mg、Ca、Sr、Ba、およびZnからなる群より選択される少なくとも1つである。
【0068】
さらに、上記組成式(A5)において、
-1<δ<2、
0<a<3、
0<(3-3δ+a)、
0<(1+δ-a)、
0≦x≦6、
0≦y≦6、および
(x+y)≦6、
が満たされている。
【0069】
ハロゲン化物固体電解質は、以下の組成式(A6)により表される材料であってもよい。
Li3-3δ1+δ-aMeaCl6-x-yBrxy ・・・式(A6)
【0070】
組成式(A6)において、元素Meは、Al、Sc、Ga、およびBiからなる群より選択される少なくとも1つである。
【0071】
さらに、上記組成式(A6)において、
-1<δ<1、
0<a<2、
0<(1+δ-a)、
0≦x≦6、
0≦y≦6、および
(x+y)≦6、
が満たされている。
【0072】
ハロゲン化物固体電解質は、以下の組成式(A7)により表される材料であってもよい。
Li3-3δ-a1+δ-aMeaCl6-x-yBrxy ・・・式(A7)
【0073】
上記組成式(A7)において、元素Meは、Zr、HfおよびTiからなる群より選択される少なくとも1つである。
【0074】
さらに、上記組成式(A7)において、
-1<δ<1、
0<a<1.5、
0<(3-3δ-a)、
0<(1+δ-a)、
0≦x≦6、
0≦y≦6、および
(x+y)≦6、
が満たされている。
【0075】
ハロゲン化物固体電解質は、以下の組成式(A8)により表される材料であってもよい。
Li3-3δ-2a1+δ-aMeaCl6-x-yBrxy ・・・式(A8)
【0076】
組成式(A8)において、元素Meは、TaおよびNbからなる群より選択される少なくとも1つである。
【0077】
さらに、上記組成式(A8)において、
-1<δ<1、
0<a<1.2、
0<(3-3δ-2a)、
0<(1+δ-a)、
0≦x≦6、
0≦y≦6、および
(x+y)≦6、
が満たされている。
【0078】
ハロゲン化物固体電解質は、Li、M2、O(酸素)およびX2を含む化合物であってもよい。元素M2は、例えば、NbおよびTaからなる群より選択される少なくとも1つを含む。また、X2は、F、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1つである。
【0079】
Li、M2、X2およびO(酸素)を含む化合物は、例えば、組成式:LixM2OyX25+x-2yにより表されてもよい。ここで、xは、0.1<x<7.0を満たしてもよい。yは、0.4<y<1.9を満たしてもよい。
【0080】
ハロゲン化物固体電解質として、より具体的には、例えば、Li3Y(Cl,Br,I)6、Li2.71.1(Cl,Br,I)6、Li2Mg(F,Cl,Br,I)4、Li2Fe(F,Cl,Br,I)4、Li(Al,Ga,In)(F,Cl,Br,I)4、Li3(Al,Ga,In)(F,Cl,Br,I)6、Li3(Ca,Y,Gd)(Cl,Br,I)6、Li2.7(Ti,Al)F6、Li2.5(Ti,Al)F6、Li(Ta,Nb)O(F,Cl)4などが用いられうる。なお、本開示において、式中の元素を「(Al,Ga,In)」のように表すとき、この表記は、括弧内の元素群より選択される少なくとも1つの元素を示す。すなわち、「(Al,Ga,In)」は、「Al、Ga、およびInからなる群より選択される少なくとも1つ」と同義である。他の元素の場合でも同様である。
【0081】
高分子固体電解質としては、例えば、高分子化合物とリチウム塩との化合物を用いうる。高分子化合物は、エチレンオキシド構造を有していてもよい。エチレンオキシド構造を有する高分子化合物は、リチウム塩を多く含有することができる。そのため、イオン伝導度をより向上させることができる。リチウム塩としては、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiSO3CF3、LiN(SO2F)2、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiN(SO2CF3)(SO249)、LiC(SO2CF33などを用いうる。リチウム塩は、1つを単独で用いてもよく、2つ以上を併用してもよい。
【0082】
錯体水素化物固体電解質としては、例えば、LiBH4-LiI、LiBH4-P25などが用いられうる。
【0083】
固体電解質111の形状は、特に限定されず、針状、球状、楕円球状などであってもよい。固体電解質111の形状は、粒子状であってもよい。
【0084】
固体電解質111の形状が粒子状(例えば、球状)の場合、当該固体電解質111のメジアン径は、0.1μm以上5μm以下であってもよく、0.5μm以上3μm以下であってもよい。固体電解質111のメジアン径が0.1μm以上である場合、電極板1000の製造に用いる電極組成物(スラリー)の分散性が向上し、より緻密な構造を有しうる。固体電解質111のメジアン径が5μm以下である場合、電極板1000が高い表面平滑性を有し、より緻密な構造を有しうる。
【0085】
メジアン径とは、体積基準の粒度分布における累積体積が50%に等しい粒径を意味する。体積基準の粒度分布は、レーザ回折散乱法によって求められる。以下の他の材料についても同様である。
【0086】
固体電解質111の比表面積は、0.1m2/g以上100m2/g以下であってもよく、1m2/g以上10m2/g以下であってもよい。固体電解質111の比表面積が0.1m2/g以上100m2/g以下である場合、電極板1000の製造に用いる電極組成物(スラリー)の分散性が向上し、より緻密な構造を有しうる。比表面積は、ガス吸着量測定装置を用いたBET多点法によって測定できる。
【0087】
固体電解質111のイオン伝導度は、0.01mS/cm2以上であってもよく、0.1mS/cm2以上であってもよく、1mS/cm2以上であってもよい。固体電解質111のイオン伝導度が0.01mS/cm2以上である場合、電池の出力特性を向上させることができる。
【0088】
<活物質>
活物質112は、金属イオン(例えば、リチウムイオン)を吸蔵かつ放出する特性を有する材料を含む。活物質112は、例えば、正極活物質または負極活物質を含む。電極板1000が活物質112を含むとき、電極板1000を用いてリチウム二次電池を製造することができる。
【0089】
活物質112は、例えば、正極活物質として、金属イオン(例えば、リチウムイオン)を吸蔵かつ放出する特性を有する材料を含む。正極活物質としては、遷移金属酸化物、遷移金属フッ化物、ポリアニオン材料、フッ素化ポリアニオン材料、遷移金属硫化物、遷移金属オキシ硫化物、遷移金属オキシ窒化物、これらのリチウム含有化合物などが挙げられる。リチウム含有遷移金属酸化物としては、Li(NiCoAl)O2、Li(NiCoMn)O2、LiCoO2などが挙げられる。正極活物質として、例えば、リチウム含有遷移金属酸化物が用いられた場合、電極板1000の製造コストを低減でき、かつ、電池の平均放電電圧を向上させることができる。Li(NiCoAl)O2は、Ni、CoおよびAlを任意の比率で含むことを意味する。Li(NiCoMn)O2は、Ni、CoおよびMnを任意の比率で含むことを意味する。
【0090】
正極活物質のメジアン径は、0.1μm以上100μm以下であってもよく、1μm以上10μm以下であってもよい。正極活物質のメジアン径が0.1μm以上である場合、電極板1000において、活物質112と固体電解質111とが良好に分散しうる。これにより、電池の充放電特性が向上する。正極活物質のメジアン径が100μm以下である場合、正極活物質内のリチウム拡散速度が向上する。このため、電池が高出力で動作しうる。
【0091】
活物質112は、例えば、負極活物質として、金属イオン(例えば、リチウムイオン)を吸蔵かつ放出する特性を有する材料を含む。負極活物質としては、金属材料、炭素材料、酸化物、窒化物、錫化合物、珪素化合物などが挙げられる。金属材料は、単体の金属であってもよく、合金であってもよい。金属材料としては、リチウム金属、リチウム合金などが挙げられる。炭素材料としては、天然黒鉛、コークス、黒鉛化途上炭素、炭素繊維、球状炭素、人造黒鉛、非晶質炭素などが挙げられる。珪素(Si)、錫(Sn)、珪素化合物、錫化合物などが用いられることによって、電池の容量密度を向上させることができる。チタン(Ti)またはニオブ(Nb)を含む酸化物化合物を用いることによって、電池の安全性を向上させることができる。
【0092】
負極活物質のメジアン径は、0.1μm以上100μm以下であってもよく、1μm以上10μm以下であってもよい。負極活物質のメジアン径が0.1μm以上である場合、電極板1000において、活物質112と固体電解質111とが良好に分散しうる。これにより、電池の充放電特性が向上する。負極活物質のメジアン径が100μm以下である場合、負極活物質内のリチウム拡散速度が向上する。このため、電池が高出力で動作しうる。
【0093】
正極活物質および負極活物質は、各活物質と固体電解質との界面抵抗を低減するために、被覆材料により被覆されていてもよい。すなわち、正極活物質および負極活物質の表面には、被覆層が設けられていてもよい。被覆層は、被覆材料を含む層である。被覆層に用いられる被覆材料としては、電子伝導性が低い材料が用いられうる。被覆層に用いられる被覆材料としては、酸化物材料、酸化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質、硫化物固体電解質などが用いられうる。正極活物質および負極活物質は、上述の材料から選択される1つのみの被覆材料で被覆されていてもよい。すなわち、被覆層は、上述の材料から選択される1つのみの被覆材料で形成された被覆層が設けられていてもよい。あるいは、上述の材料から選択される2つ以上の被覆材料を使用して、被覆層が2層以上設けられていてもよい。
【0094】
被覆層の被覆材料に用いられる酸化物材料としては、SiO2、Al23、TiO2、B23、Nb25、WO3、ZrO2などが挙げられる。
【0095】
被覆層の被覆材料に用いられる酸化物固体電解質としては、先に例示された酸化物固体電解質を用いてもよい。例えば、LiNbO3などのLi-Nb-O化合物、LiBO2、Li3BO3などのLi-B-O化合物、LiAlO2などのLi-Al-O化合物、Li4SiO4などのLi-Si-O化合物、Li2SO4などのLi-S-O化合物、Li4Ti512などのLi-Ti-O化合物、Li2ZrO3などのLi-Zr-O化合物、Li2MoO3などのLi-Mo-O化合物、LiV25などのLi-V-O化合物、Li2WO4などのLi-W-O化合物、LiPO4などのLi-P-O化合物などが挙げられる。酸化物固体電解質は、高い電位安定性を有する。そのため、酸化物固体電解質を被覆材料として用いることによって、電池のサイクル特性がより向上しうる。
【0096】
被覆層の被覆材料に用いられるハロゲン化物固体電解質としては、先に例示されたハロゲン化物固体電解質を用いてもよい。例えば、LiYCl6などのLi-Y-Cl化合物、LiYBr2Cl4などのLi-Y-Br-Cl化合物、LiTaOCl4などのLi-Ta-O-Cl化合物、Li2.7Ti0.3Al0.76などのLi-Ti-Al-F化合物などが挙げられる。ハロゲン化物固体電解質は、高いイオン伝導率および高い高電位安定性を有する。そのため、ハロゲン化物固体電解質を被覆材料として用いることによって、電池のサイクル特性がより向上しうる。
【0097】
被覆層の被覆材料に用いられる硫化物固体電解質としては、先に例示された硫化物固体電解質を用いてもよい。例えば、Li2S-P25などのLi-P-S化合物などが挙げられる。硫化物固体電解質は、高いイオン伝導率および低いヤング率を有する。そのため、硫化物固体電解質を被覆材料として用いることによって、均一な被覆を実現し、電池のサイクル特性がより向上しうる。
【0098】
<第2バインダー>
上述の通り、第2バインダー113は、スチレンに由来する繰り返し単位のモル分率が0.12以上、かつ、全窒素量が120質量ppm以上400質量ppm以下であるスチレン系エラストマーを含む。このような構成によれば、電極層110に十分な量の芳香環が存在し、導電性カーボン103と第2バインダー113との相互作用がより強く働くため、電極層110と集電体100との剥離強度が向上する傾向がある。また、集電体101において、被覆層102が基板101の一部のみを被覆している場合には、電極層110が基板101に直接接触しうる。この場合、電極層110に適量の窒素を含む変性基が存在し、基板101との相互作用がより広範囲に強く働くため、電極層110と集電体100との剥離強度が向上し、かつその強度の均一性が向上する傾向がある。スチレン系エラストマーとは、スチレンに由来する繰り返し単位を含むエラストマーを意味する。繰り返し単位は、モノマーに由来する分子構造を意味し、構成単位と呼ばれることもある。スチレン系エラストマーは、柔軟性および弾力性に優れているため、電極板1000のバインダーに適している。
【0099】
スチレン系エラストマーにおいて、スチレンに由来する繰り返し単位の重合度mと、スチレン以外のモノマーに由来する繰り返し単位の重合度nとの比をm:nと定義する。この場合、スチレン系エラストマーにおいて、スチレンに由来する繰り返し単位のモル分率(φ)は、φ=m/(m+n)によって算出することができる。スチレン系エラストマーにおいて、スチレンに由来する繰り返し単位のモル分率(φ)は、例えば、プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)測定によって求めることができる。
【0100】
スチレン系エラストマーにおいて、スチレンに由来する繰り返し単位のモル分率(φ)は、0.12以上である。このことにより、電極層110と集電体100との剥離強度が向上する傾向がある。スチレン系エラストマーのモル分率(φ)は、0.12以上0.55以下であってもよく、0.18以上0.3以下であってもよい。スチレン系エラストマーのモル分率(φ)が0.12以上であることにより、電極層110の強度を向上させることができる。スチレン系エラストマーのφが0.55以下であることにより、電極層110の柔軟性を向上させることができる。
【0101】
スチレン系エラストマーにおけるスチレンに由来する繰り返し単位の含有率は、20質量%以上であってもよい。このことにより、電極層110と集電体100との剥離強度が向上する傾向がある。スチレン系エラストマーにおけるスチレンに由来する繰り返し単位の含有率は、20質量%以上70質量%以下であってもよく、30質量%以上45質量%以下であってもよい。スチレン系エラストマーにおけるスチレンに由来する繰り返し単位の含有率は、前述の方法により求めることができるスチレン系エラストマーに含まれる各繰り返し単位のモル分率と各繰り返し単位の分子量とを用いて算出することができる。または、紫外分光光度計を用いた方法により測定することができる。
【0102】
スチレン系エラストマーは、スチレンに由来する繰り返し単位で構成された第1ブロックと、共役ジエンに由来する繰り返し単位で構成された第2ブロックと、を含むブロック共重合体であってもよい。共役ジエンとしては、ブタジエン、イソプレンなどが挙げられる。共役ジエンに由来する繰り返し単位は、水素添加されていてもよい。すなわち、共役ジエンに由来する繰り返し単位は、炭素-炭素二重結合などの不飽和結合を有していてもよく、有していなくてもよい。ブロック共重合体は、2つの第1ブロック、および1つの第2ブロックで構成されたトリブロックの配列を有していてもよい。ブロック共重合体は、ABA型のトリブロック共重合体であってもよい。このトリブロック共重合体において、Aブロックが第1ブロックに相当し、Bブロックが第2ブロックに相当する。第1ブロックは、例えば、ハードセグメントとして機能する。第2ブロックは、例えば、ソフトセグメントとして機能する。
【0103】
スチレン系エラストマーとしては、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン/エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、水素化スチレン-ブタジエンゴム(HSBR)などが挙げられる。第2バインダー113は、スチレン系エラストマーとして、SBRまたはSEBSを含んでいてもよい。第2バインダー113として、これらから選択された2つ以上を含む混合物が使用されてもよい。スチレン系エラストマーが柔軟性および弾力性に優れるため、電極層110のバインダーとして適している。
【0104】
スチレン系エラストマーは、スチレン系トリブロック共重合体であってもよい。スチレン系トリブロック共重合体としては、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン/エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)などが挙げられる。これらのスチレン系トリブロック共重合体は、スチレン系熱可塑性エラストマーと呼ばれることがある。これらのスチレン系トリブロック共重合体は、柔軟であり、かつ高い強度を有する傾向がある。
【0105】
スチレン系エラストマーは、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)を含んでいてもよい。SEBSは、柔軟性および弾力性に優れ、かつ熱圧縮時の充填性に優れているので、電極層110のバインダーとして特に適している。
【0106】
スチレン系エラストマーの全窒素量は、120質量ppm以上400質量ppm以下である。このことにより、電極層110と集電体100との剥離強度が向上し、かつその均一性が向上する傾向がある。スチレン系エラストマーの全窒素量は、150質量ppm以上300質量ppm以下であってもよく、190質量ppm以上250質量ppm以下であってもよい。全窒素量は、微量全窒素分析装置によって特定することができる。例えば、日東精工アナリテック社製の微量全窒素分析装置(TN-2100H)により、標準試料としてピリジン/トルエン溶液を用いてポリマー1g中に含まれる窒素(N)の質量(μg)を測定する。全窒素量は、ポリマー1g中に含まれる窒素(N)の質量(μg)の割合(μg/g=ppm)である。
【0107】
スチレン系エラストマーは、窒素原子を有する変性基を含んでいてもよい。変性基とは、ポリマー鎖に含まれる全ての繰り返し単位、ポリマー鎖に含まれる一部の繰り返し単位、または、ポリマー鎖の末端部分を化学的に修飾している官能基を意味する。変性基は、置換反応、付加反応などによってポリマー鎖に導入することができる。窒素原子を有する変性基とは、窒素含有官能基であり、アミノ基、ニトリル基、ニトロ基などが挙げられる。窒素原子を有する変性基は、例えば、変性剤を反応させることでポリマー鎖に導入できる。変性剤の化合物としては、アミン化合物、イソシアナート化合物、イソチオシアナート化合物、イソシアヌル酸誘導体、窒素基含有カルボニル化合物、窒素基含有ビニル化合物、窒素基含有エポキシ化合物、窒素基含有アルコキシケイ素化合物などが挙げられる。変性基の位置は、ポリマー鎖の末端であってもよい。ポリマー鎖の末端に変性基を有するスチレン系エラストマーは、いわゆる界面活性剤に類似した効果を有しうる。すなわち、ポリマー鎖の末端に変性基を有するスチレン系エラストマーを使用することによって、変性基が固体電解質111に吸着し、ポリマー鎖が固体電解質111の粒子同士の凝集を抑制することができる。その結果、固体電解質111の分散性をより向上させることができる。スチレン系エラストマーは、例えば、末端アミン変性のスチレン系エラストマーであってもよい。スチレン系エラストマーは、例えば、ポリマー鎖の少なくとも1つの末端に窒素原子を有し、窒素含有アルコキシシラン置換基を中心とする星形高分子構造を有するスチレン系エラストマーであってもよい。
【0108】
スチレン系エラストマーは、窒素原子を有する変性基に加え、窒素原子以外の原子による変性基をさらに有してもいてもよい。窒素原子以外の原子による変性基は、例えば、比較的高い電気陰性度を有するO、S、F、Cl、Br、F、比較的低い電気陰性度を有するSi、Sn、Pなどの元素を含む。このような元素を含む変性基によれば、スチレン系エラストマーに極性を付与することができる。変性基としては、カルボン酸基、酸無水物基、アシル基、ヒドロキシ基、スルホ基、スルファニル基、リン酸基、ホスホン酸基、イソシアネート基、エポキシ基、シリル基などが挙げられる。酸無水物基の具体例は、無水マレイン酸基である。変性基としては、以下の化合物による変性剤を反応させることで導入できる官能基であってもよい。変性剤の化合物としては、エポキシ化合物、エーテル化合物、エステル化合物、メルカプト基誘導体、チオカルボニル化合物、ハロゲン化ケイ素化合物、エポキシ化ケイ素化合物、ビニル化ケイ素化合物、アルコキシケイ素化合物、ハロゲン化スズ化合物、有機スズカルボキシレート化合物、亜リン酸エステル化合物、ホスフィノ化合物などが挙げられる。スチレン系エラストマーが上記の変性基を含む場合、集電体100との相互作用により、電極層110と集電体100との剥離強度を向上させることができる。
【0109】
スチレン系エラストマーは、全窒素量を調整する目的で、異なる全窒素量を有する2以上のスチレン系エラストマーの混合物であってもよい。比較的高い全窒素量を有するスチレン系エラストマーと無変性スチレン系エラストマーとを混合してもよい。
【0110】
スチレン系エラストマーの重量平均分子量(Mw)は、200,000以上であってもよい。スチレン系エラストマーの重量平均分子量は、300,000以上であってもよく、500,000以上であってもよく、800,000以上であってもよく、1,000,000以上であってもよい。重量平均分子量の上限値は、例えば、1,500,000である。スチレン系エラストマーの重量平均分子量が200,000以上であることにより、固体電解質111および活物質112の粒子同士が十分な接着強度で接着できる。スチレン系エラストマーの重量平均分子量が1,500,000以下であることにより、固体電解質111の粒子間でのイオン伝導が第2バインダー113によって阻害されにくく、電池の出力特性を向上させることができる。スチレン系エラストマーの重量平均分子量は、例えば、ポリスチレンを標準試料として用いたゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)測定によって特定することができる。言い換えると、重量平均分子量は、ポリスチレンによって換算された値である。GPC測定では、溶離液としてクロロホルムを用いてもよい。GPC測定によって得られたチャートにおいて、2つ以上のピークトップが観察された場合、各ピークトップを含む全体のピーク範囲から算出された重量平均分子量をスチレン系エラストマーの重量平均分子量とみなすことができる。
【0111】
第2バインダー113は、スチレン系エラストマー以外のバインダーを含んでいてもよい。あるいは、第2バインダー113は、スチレン系エラストマーであってもよい。言い換えれば、第2バインダー113は、スチレン系エラストマーのみを含んでいてもよい。
【0112】
<電極層>
電極層110は、第2バインダー113を含む。電極層110は、さらに、固体電解質111を含んでいてもよく、活物質112を含んでいてもよく、両者を含んでいてもよい。この構成によれば、電極層110の十分な強度を保ちつつ、電極層110の内部のイオン伝導度が向上し、電池について、高出力での動作が可能である。
【0113】
電極層110に含まれる固体電解質111のメジアン径は、活物質112のメジアン径より小さくてもよい。これにより、固体電解質111と活物質112とが良好に分散しうる。
【0114】
電極層110において、活物質112と固体電解質111との体積比率「v1:100-v1」について、30≦v1≦95が満たされていてもよい。v1は、電極層110に含まれる活物質112および固体電解質111の合計体積を100としたときの活物質112の体積比率を示す。30≦v1を満たす場合、電池について、十分なエネルギー密度を確保しやすい。v1≦95を満たす場合、電池について、より容易に高出力での動作を行うことができる。
【0115】
電極層110の厚さは、10μm以上500μm以下であってもよい。電極層110の厚さが10μm以上である場合、電池について、十分なエネルギー密度を容易に確保できる。電極層110の厚さが500μm以下である場合、電池について、より容易に高出力での動作を行うことができる。
【0116】
電極層110において、固体電解質111に対する第2バインダー113の比率は、0.1質量%以上10質量%以下であってもよく、0.5質量%以上8質量%以下であってもよく、1質量%以上5質量%以下であってもよい。固体電解質111に対する第2バインダー113の比率が0.1質量%以上であるとき、第2バインダー113によって、より多くの固体電解質111の粒子同士が結着する傾向がある。これにより、電極層110の膜強度を向上させることができる。固体電解質111に対する第2バインダー113の比率が10質量%以下であるとき、電極層110において、固体電解質111の粒子同士の接触性が向上する傾向がある。これにより、電極層110のイオン伝導度を向上させることができる。
【0117】
電極層110において、活物質112に対する第2バインダー113の比率は、0.03質量%以上4質量%以下であってもよく、0.15質量%以上2質量%以下であってもよく、0.3質量%以上1質量%以下であってもよい。活物質112に対する第2バインダー113の比率が0.03質量%以上であるとき、第2バインダー113によって、より多くの活物質112の粒子同士が結着する傾向がある。これにより、電極層110の膜強度を向上させることができる。活物質112に対する第2バインダー113の比率が4質量%以下であるとき、電極層110において、活物質112の粒子同士の接触性が向上する傾向がある。これにより、電池の出力特性を向上させることができる。
【0118】
電極層110は、電子伝導性を向上させる目的で導電助剤をさらに含んでいてもよい。導電助剤としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛類、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック類、炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維類、フッ化カーボン、アルミニウムなどの導電性粉末類、酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなどの導電性高分子などが挙げられる。導電助剤として炭素材料を用いると、低コスト化を図ることができる。
【0119】
電極層110は、固体電解質111および活物質112の分散性を向上させる目的で分散剤を含んでいてもよい。分散剤は、低分子型分散剤であってもよく、高分子型分散剤であってもよい。分散剤として、例えば、市販の分散剤、湿潤剤、または界面活性剤を用いてもよい。
【0120】
電極層110において、分散剤は、アミン化合物を含んでいてもよい。アミン化合物は、固体電解質111の分散性を向上させることに適している。アミン化合物としては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミンなどの脂肪族アミン、アニリンなどの芳香族アミン、イミダゾール、イミダゾリンなどの複素環式アミンなどが挙げられる。
【0121】
電極層110において、分散剤は、イミダゾリンまたはイミダゾリン誘導体を含んでいてもよい。イミダゾリンまたはイミダゾリン誘導体は、固体電解質111の分散性を向上させることにより適している。イミダゾリン誘導体としては、例えば、1-ヒドロキシエチル-2-アルケニルイミダゾリンなどが挙げられる。
【0122】
電極層110において、固体電解質111の質量に対する分散剤の質量の比率は、特に限定されず、例えば0.001質量%以上10質量%以下であり、0.01質量%以上1.0質量%以下であってもよい。分散剤の質量の比率が0.001質量%以上である場合、電極層110において、固体電解質111の分散性を向上させることができる。分散剤の質量の比率が10質量%以下である場合、固体電解質111のイオン伝導度の低下を抑制することができる。
【0123】
[電極板の製造方法]
電極板1000は、例えば、次の方法によって作製できる。まず、電極層110を形成するための固体電解質111、活物質112および第2バインダー113を含む電極組成物を準備する。電極組成物として、固体電解質111、活物質112および第2バインダー113を溶媒中に分散させたスラリーを用いてもよい。溶媒としては、固体電解質111と反応しない溶媒、例えばテトラリンなどの芳香族炭化水素系溶媒が用いられうる。次に、電極組成物を集電体100の被覆層102の上に塗布する。電極組成物を塗布する方法としては、ダイコート法、グラビアコート法、ドクターブレード法、バー塗布法、スプレー塗布法、静電塗布法などが挙げられる。得られた塗布膜を乾燥させることによって電極層110が形成され、電極板1000を得ることができる。塗布膜の乾燥方法は、特に限定されない。例えば、温風・熱風乾燥により、設定温度80℃以上150℃以下で塗布膜を加熱することによって塗布膜を乾燥させてもよい。なお、電極組成物を被覆層102の上に塗布して電極層110を作製する方法を湿式塗布法と呼ぶことがある。
【0124】
[電極板の剥離強度の測定方法]
電極層110と集電体100との剥離強度は、露点-50℃以下のドライルーム内で、万能材料試験機(エー・アンド・デイ社製、RTH-1310)を用いて、以下の方法で測定できる。まず、幅15mmに切断した電極板1000と、試験板とを両面テープで接着させる。詳細には、両面テープを介して、電極板1000の電極層110を試験板に貼り合わせる。次に、粘着テープの90°剥離試験用の治具をセットした試験機を用いて、剥離角度90°、剥離速度5mm/minで、電極層110を集電体100から剥離させる。そして、測定開始後、集電体100から引きはがされた最初の10mmから12mmの長さの測定値は使用せず、その後、集電体100から引きはがされた5mmの長さの電極層110に関して連続的に記録された測定値(単位:N)を記録する。この測定値を電極板1000の幅で除した値の平均値(Av)を、電極板1000における電極層110と集電体100との剥離強度(単位:N/m)とみなすことができる。また、測定値を電極板1000の幅で除した値の標準偏差(σ)を求め、標準偏差(σ)を平均値(Av)で除した値を変動係数とみなすことができる。ここで、変動係数は剥離強度のバラつきを表す。変動係数が低ければ低いほど、剥離強度の均一性が高い。
【0125】
図2は、変形例に係る電極板1100の断面図である。電極板1100は、集電体100100aおよび電極層110を備える。集電体100aは、基板101および被覆層102aを有する。被覆層102aは、平面視でストライプ形状を有し、基板101の主面の一部のみを被覆している。被覆層102aの形状を除き、電極板1100の構成は、先に説明した電極板1000の構成と同じである。電極板1000に代えて、電極板1100を用いることができる。
【0126】
(実施の形態2)
図3は、実施の形態2に係る電池2000の断面図である。電池2000は、負極201、正極203および電解質層202を備える。
【0127】
負極201および正極203からなる群より選択される少なくとも1つは、実施の形態1における電極板1000を含む。すなわち、負極201および正極203からなる群より選択される少なくとも1つが、電極層110および集電体100を備える。
【0128】
電解質層202は、負極201と正極203との間に位置する。
【0129】
電極層110と集電体100との剥離強度が高く、かつ、剥離強度の均一性も高いので、そのような電極層110および集電体100を有する電極板1000を用いた電池2000は、サイクル特性に優れる。また、電池2000の出力特性も向上しうる。
【0130】
図3に示すとおり、電池2000において、負極201が実施の形態1における電極板1000であってもよい。この場合、負極201が、実施の形態1で説明された電極層110および集電体100を備えている。以下では、負極201が電極板1000である電池2000について説明する。ただし、電池2000は、以下の形態に限定されない。電池2000において、正極203が上述の実施の形態1における電極板1000であってもよい。
【0131】
以上の構成によれば、電池2000の出力特性をより向上させることができる。
【0132】
電解質層202は、電解質材料を含む層である。電解質材料としては、例えば、固体電解質が挙げられる。すなわち、電解質層202は、固体電解質層であってもよい。電解質層202に含まれる固体電解質としては、固体電解質111として例示された固体電解質が用いられてもよく、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質、高分子固体電解質、錯体水素化物固体電解質などが用いられうる。
【0133】
電解質層202は、固体電解質を主成分として含んでいてもよい。電解質層202は、固体電解質を、電解質層202の全体に対する質量割合で70%以上(70質量%以上)含んでいてもよい。
【0134】
以上の構成によれば、電池2000の充放電特性を向上させることができる。
【0135】
電解質層202は、固体電解質を主成分として含み、さらに、不可避的な不純物、または、固体電解質を合成するときに用いられる出発原料、副生成物および分解生成物などを含んでいてもよい。
【0136】
電解質層202は、固体電解質を、混入が不可避的な不純物を除いて、電解質層202の全体に対する質量割合で100%(100質量%)含んでいてもよい。
【0137】
以上の構成によれば、電池2000の充放電特性をより向上させることができる。
【0138】
電解質層202は、固体電解質として挙げられた材料のうちの2つ以上を含んでいてもよい。例えば、電解質層202は、ハロゲン化物固体電解質と硫化物固体電解質とを含んでいてもよい。
【0139】
電解質層202の厚さは、1μm以上300μm以下であってもよい。電解質層202の厚さが1μm以上である場合には、負極201と正極203とが短絡する可能性が低下する。電解質層202の厚さが300μm以下である場合には、電池2000について、容易に高出力での動作を行うことができる。すなわち、電解質層202の厚さが適切に調整されていると、電池2000の安全性を十分に確保できるとともに、電池2000を高出力で動作させることができる。
【0140】
電池2000に含まれる固体電解質の形状は、特に限定されない。固体電解質の形状は、針状、球状、楕円球状などであってもよい。固体電解質の形状は、粒子状であってもよい。
【0141】
正極203は、電解質材料を含んでいてもよく、例えば固体電解質を含んでいてもよい。固体電解質としては、電解質層202を構成する材料として例示された固体電解質が用いられうる。以上の構成によれば、正極203の内部におけるイオン伝導性(例えば、リチウムイオン伝導性)が向上し、電池2000について、高出力での動作を行うことができる。
【0142】
正極203は、例えば、正極活物質として、金属イオン(例えば、リチウムイオン)を吸蔵かつ放出する特性を有する材料を含む。正極活物質として、上述の実施の形態1に例示した材料を用いてもよい。
【0143】
正極活物質のメジアン径は、0.1μm以上100μm以下であってもよい。正極活物質のメジアン径が0.1μm以上である場合、正極203において、正極活物質と固体電解質とが良好に分散しうる。これにより、電池2000の充放電特性が向上する。正極活物質のメジアン径が100μm以下である場合、正極活物質内のリチウム拡散速度が向上する。このため、電池2000が高出力で動作しうる。
【0144】
正極活物質のメジアン径は、固体電解質のメジアン径よりも大きくてもよい。これにより、固体電解質と正極活物質とが良好に分散しうる。
【0145】
正極203において、正極活物質と固体電解質との体積比率「v2:100-v2」について、30≦v2≦95が満たされていてもよい。v2は、正極203に含まれる正極活物質および固体電解質の合計体積を100としたときの正極活物質の体積比率を示す。30≦v2を満たす場合、電池2000について、十分なエネルギー密度を確保しやすい。v2≦95を満たす場合、電池2000について、より容易に高出力での動作を行うことができる。
【0146】
正極203の厚さは、10μm以上500μm以下であってもよい。正極203の厚さが10μm以上である場合、電池2000について、十分なエネルギー密度を容易に確保できる。正極203の厚さが500μm以下である場合、電池2000について、より容易に高出力での動作を行うことができる。
【0147】
正極活物質は、固体電解質との界面抵抗を低減するために、被覆材料により被覆されていてもよい。被覆材料としては、電子伝導性が低い材料が用いられうる。被覆材料としては、酸化物材料、酸化物固体電解質などが用いられうる。被覆材料として、実施の形態1に例示した材料を用いてもよい。
【0148】
電解質層202および正極203からなる群より選択される少なくとも1つは、粒子同士の密着性を向上させる目的で、バインダーを含んでいてもよい。バインダーとしては、実施の形態1に例示の材料が用いられうる。バインダーは、1つが単独で用いられてもよく、2つ以上が組み合わせて用いられてもよい。
【0149】
バインダーとして、結着性に優れる観点から、エラストマーが用いられてもよい。エラストマーとは、弾性を有するポリマーを意味する。バインダーとして用いられるエラストマーは、熱可塑性エラストマーであってもよく、熱硬化性エラストマーであってもよい。バインダーは、熱可塑性エラストマーを含んでいてもよい。エラストマーとしては、実施の形態1に例示の材料が用いられうる。バインダーがエラストマーを含む場合、例えば、電池2000を製造するときの熱圧縮によって、電解質層202または正極203について高充填を実現できる。
【0150】
負極201の電極層110、電解質層202、および正極203からなる群より選択される少なくとも1つは、リチウムイオンの授受を容易にし、電池2000の出力特性を向上させる目的で、非水電解液、ゲル電解質またはイオン液体を含んでいてもよい。
【0151】
非水電解液は、非水溶媒、および非水溶媒に溶解したリチウム塩を含む。非水溶媒としては、環状炭酸エステル溶媒、鎖状炭酸エステル溶媒、環状エーテル溶媒、鎖状エーテル溶媒、環状エステル溶媒、鎖状エステル溶媒、フッ素溶媒などが用いられうる。環状炭酸エステル溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどが挙げられる。鎖状炭酸エステル溶媒としては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどが挙げられる。環状エーテル溶媒としては、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソランなどが挙げられる。鎖状エーテル溶媒としては、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタンなどが挙げられる。環状エステル溶媒としては、γ-ブチロラクトンなどが挙げられる。鎖状エステル溶媒としては、酢酸メチルなどが挙げられる。フッ素溶媒としては、フルオロエチレンカーボネート、フルオロプロピオン酸メチル、フルオロベンゼン、フルオロエチルメチルカーボネート、フルオロジメチレンカーボネートなどが挙げられる。非水溶媒として、これらから選択される1つの非水溶媒が単独で使用されてもよいし、これらから選択される2つ以上の非水溶媒の混合物が使用されてもよい。
【0152】
非水電解液には、フルオロエチレンカーボネート、フルオロプロピオン酸メチル、フルオロベンゼン、フルオロエチルメチルカーボネート、およびフルオロジメチレンカーボネートからなる群より選択される少なくとも1つのフッ素溶媒が含まれていてもよい。
【0153】
リチウム塩としては、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiSO3CF3、LiN(SO2F)2、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiN(SO2CF3)(SO249)、LiC(SO2CF33などが挙げられる。リチウム塩として、これらから選択される1つのリチウム塩が単独で使用されてもよいし、これらから選択される2つ以上のリチウム塩の混合物が使用されてもよい。非水電解液におけるリチウム塩の濃度は、0.5mol/リットル以上2mol/リットル以下であってもよい。
【0154】
ゲル電解質としては、ポリマー材料に非水電解液を含ませた材料が用いられうる。ポリマー材料としては、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリメチルメタクリレート、エチレンオキシド結合を有するポリマーなどが挙げられる。
【0155】
イオン液体を構成するカチオンは、テトラアルキルアンモニウム、テトラアルキルホスホニウムなどの脂肪族鎖状4級カチオン、ピロリジニウム類、モルホリニウム類、イミダゾリニウム類、テトラヒドロピリミジニウム類、ピペラジニウム類、ピペリジニウム類などの脂肪族環状アンモニウム、ピリジニウム類、イミダゾリウム類などの含窒素ヘテロ環芳香族カチオンなどであってもよい。イオン液体を構成するアニオンは、PF6 -、BF4 -、SbF6 -、AsF6 -、SO3CF3 -、N(SO2F)2 -、N(SO2CF32 -、N(SO2252 -、N(SO2CF3)(SO249-、C(SO2CF33 -などであってもよい。イオン液体はリチウム塩を含有してもよい。
【0156】
負極201の電極層110、および正極203からなる群より選択される少なくとも1つは、電子伝導性を向上させる目的で導電助剤を含んでいてもよい。導電助剤としては、実施の形態1に例示の材料が用いられうる。
【0157】
負極201の電極層110、および正極203からなる群より選択される少なくとも1つは、固体電解質や活物質の分散性を向上させる目的で分散剤を含んでいてもよい。分散剤としては、実施の形態1に例示の材料が用いられうる。
【0158】
電池2000の形状としては、コイン型、円筒型、角型、シート型、ボタン型、扁平型、積層型などが挙げられる。
【0159】
電池2000は、例えば、以下の方法によって製造することができる。まず、集電体100、電極層110を形成するための材料、電解質層202を形成するための材料、正極203を形成するための材料、正極203用の集電体をそれぞれ準備する。これらを用いて、公知の方法で、負極201、電解質層202および正極203がこの順に配置された積層体を作製する。これにより、電池2000を製造することができる。
【0160】
図4は、変形例に係る電池2001の断面図である。電池2001は、複数の電池2000の積層体でありうる。電池2001は、以下の方法により製造されてもよい。基板101の両面に被覆層102を配置した集電体100に電極層110が積層された負極(第1負極211)、第1電解質層212、および第1正極213をこの順に配置する。一方、第1負極211が積層された集電体100の面とは反対側の面に、電極層110(第2負極221)、第2電解質層222、および第2正極223をこの順に配置する。これにより、第1正極213、第1電解質層212、第1負極211、集電体100、第2負極221、第2電解質層222、および第2正極223がこの順に配置された積層体が得られる。この積層体を、プレス機を用いた高温、例えば、120℃以上195℃以下の温度での加圧成形により電池2001を製造してもよい。このような方法によれば、電池の反りを抑制しながら2つの電池2000の積層体を作製することが可能となり、高出力の電池2001をより効率的に製造できる。なお、電池2001の作製において、各部材を積層させる順番は、特に限定されない。例えば、集電体100に、第1負極211および第2負極221を配置させた後、第1電解質層212、第2電解質層222、第1正極213、および第2正極223をこの順番で積層させることによって、2つの電池2000の積層体を作製してもよい。さらに、電池2001および正極用集電体をそれぞれ複数用意し、電池2001と正極集電体とを交互に積層することにより電池2000の積層体を製造してもよい。このような方法により、電池2000を高効率に積層することができる。
【0161】
(他の実施形態)
(付記)
以上の実施形態の記載により、下記の技術が開示される。
【0162】
(技術1)
基板および前記基板を被覆する被覆層を有する集電体と、
前記集電体上に配置された電極層と、
を備え、
前記被覆層は、導電性カーボンと第1バインダーとを含み、
前記電極層は、第2バインダーを含み、
前記第2バインダーは、スチレンに由来する繰り返し単位のモル分率が0.12以上、かつ、全窒素量が120質量ppm以上400質量ppm以下であるスチレン系エラストマーを含む、
電極板。
【0163】
このような構成によれば、電極層と集電体との剥離強度に加え、剥離強度の均一性を向上させることができる。
【0164】
(技術2)
前記第1バインダーはポリイミドを含む、技術1に記載の電極板。ポリイミドは、より高い耐熱性を示す傾向がある。そのため、集電体を含む部材を高温で圧縮したとしても被覆層がプレス機などの生産設備に接着しにくい。その結果、電気化学デバイスの生産性が向上する。
【0165】
(技術3)
前記基板は、アルミニウムまたはアルミニウム合金を含む、技術1または2に記載の電極板。このような構成によれば、電極層と集電体との剥離強度を向上させるだけでなく、電気化学デバイスの質量エネルギー密度を向上させることができる。
【0166】
(技術4)
前記電極層が固体電解質をさらに含む、技術1から3のいずれか1項に記載の電極板。本開示の電極板は、電極層に固体電解質が含まれた電気化学デバイス、特に、電池に適している。
【0167】
(技術5)
前記固体電解質は硫化物固体電解質を含む、技術4に記載の電極板。硫化物固体電解質は、イオン伝導性および成形性により優れているので、電極層の固体電解質として特に適している。
【0168】
(技術6)
正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に位置する電解質層と、
を備え、
前記正極および前記負極からなる群より選択される少なくとも1つが技術1から5のいずれか1項に記載の電極板を含む、
電池。
【0169】
電極層と集電体との剥離強度が高く、かつ、剥離強度の均一性も高いので、そのような電極層および集電体を有する電極板を用いた電池は、サイクル特性に優れる。
【実施例0170】
以下、実施例および比較例を用いて、本開示の詳細が説明される。なお、本開示の集電体、電極板および電池は、以下の実施例に限定されない。
【0171】
<実施例1>
[集電体の作製]
導電性カーボン、第1バインダー、および溶媒を混練し、塗料を作製した。導電性カーボンとしてカーボンブラックおよび黒鉛を用いた。第1バインダーとして、非芳香族系スーパーエンジニアリングプラスチックであるポリフッ化ビニリデンを用いた。次に、塗料をアルミニウム合金箔(A3003箔、厚さ:15μm)の一方の面に塗料を塗布して塗布膜を形成した。塗布膜を165℃で乾燥させて被覆層を形成した。更に、アルミニウム合金箔の他方の面に塗料を塗布して塗布膜を形成した。塗布膜を165℃で乾燥させて被覆層を形成した。これにより、両面に被覆層を有する集電体を作製した。実施例1の集電体において、被覆層の単位面積あたりの質量は0.94g/m2であった。
【0172】
[溶媒]
以下の全ての工程では、溶媒として、市販の脱水溶媒、または、窒素バブリングにより脱水した溶媒を用いた。溶媒における水分量は、10質量ppm以下であった。
【0173】
[第2バインダー溶液の調製]
第2バインダーに溶媒を加えて、溶媒中に第2バインダーを溶解または分散させることによって第2バインダー溶液を調製した。第2バインダー溶液におけるバインダーの濃度は、5質量%以上10質量%以下であった。
【0174】
第2バインダー溶液の溶媒としてテトラリンを使用した。第2バインダーを構成するスチレン系エラストマーとして、水素添加スチレン系熱可塑性エラストマー(変性SEBS、旭化成社製、タフテックMP10)と水添ブロック共重合体(SEBS、クレイトン社製、G1633)とを質量比1:1で含む混合物を使用した。「タフテック」は、旭化成社の登録商標である。
【0175】
[スチレンに由来する繰り返し単位のモル分率の測定]
スチレン系エラストマーにおけるスチレンに由来する繰り返し単位のモル分率は、次の方法によって特定した。まず、スチレン系エラストマーを含む測定試料について、核磁気共鳴装置(ブルカー社製、AVANCE500)を用いたプロトン核磁気共鳴(1H-NMR)測定を行った。測定試料としては、スチレン系エラストマーをCDCl3に溶解させたものを用いた。CDCl3は、0.05%のテトラメチルシラン(TMS)を含んでいた。1H-NMR測定は、共鳴周波数500MHz、測定温度23℃の条件で行った。得られたNMRスペクトルから、スチレン骨格に由来するピークの積分値と、スチレン骨格以外の他の骨格に由来するピークの積分値を特定した。特定した積分値を用いて、スチレン系エラストマーにおけるスチレンに由来する繰り返し単位のモル分率を特定した。
【0176】
[重量平均分子量の測定]
高速GPC装置(東ソー社製、HLC-832-GPC)を用いたゲル浸透クロマトグラフ(GPC)測定により、第2バインダーを構成するスチレン系エラストマーの重量平均分子量(Mw)を測定した。測定試料としては、スチレン系エラストマーをクロロホルムに溶解させ、孔径0.2μmのフィルターを用いてろ過を行ったものを用いた。カラムとしては、東ソー社製のSuperHM-Hを2本用いた。GPC測定には、示差屈折計を用いた。GPC測定は、流速0.6mL/min、カラム温度40℃の条件で行った。標準試料としては、単分散ポリスチレン(東ソー社)を用いた。GPC測定によって、スチレン系エラストマーの重量平均分子量(Mw)を特定した。
【0177】
[電極板の作製]
露点-60℃以下のアルゴングローブボックス内で、Li2S-P25系ガラスセラミックス(以下、「LPS」と記載する)に、テトラリンおよび第2バインダー溶液を加えた。これらの材料の混合は、LPS:第2バインダー=100:3の質量比で行い、固形分濃度(NV)が47となるように調整した。次に、得られた混合液について、ホモジナイザー(アズワン社製、HG-200)と、ジェネレーター(アズワン社製、K-20S)とを用いて、高せん断による分散および混練を行ってスラリーを作製した。次に、集電体の被覆層の上にスラリーを塗布し、得られた塗布膜について、真空雰囲気下、100℃で1時間乾燥することによって、実施例1の電極板を作製した。
【0178】
<実施例2>
第2バインダーを構成するスチレン系エラストマーとして、水素添加スチレン系熱可塑性エラストマー(変性SEBS、旭化成社製、タフテックMP10)と水添ブロック共重合体(SEBS、クレイトン社製、G1633)とを質量比2:3で含む混合物を用いたこと、および、スラリーの固形分濃度(NV)を46に調整したことを除き、実施例1と同じ方法によって実施例2の電極板を作製した。
【0179】
<実施例3>
第1バインダーとして、芳香族系スーパーエンジニアリングプラスチックである可溶性ポリイミドを用いたことを除き、実施例1と同じ方法によって実施例3の電極板を作製した。実施例3の集電体において、被覆層の単位面積あたりの質量は1.3g/m2であった。
【0180】
<実施例4>
第1バインダーとして、可溶性ポリイミドを用いたことを除き、実施例2と同じ方法によって実施例4の電極板を作製した。実施例4の集電体において、被覆層の単位面積あたりの質量は1.3g/m2であった。
【0181】
<比較例1>
集電体に被覆層を設けなかったことを除き、実施例1と同じ方法によって比較例1の電極板を作製した。
【0182】
<比較例2>
集電体に被覆層を設けなかったことを除き、実施例2と同じ方法によって比較例2の電極板を作製した。
【0183】
<比較例3>
第2バインダーを構成するスチレン系エラストマーとして、水素添加スチレン系熱可塑性エラストマー(変性SEBS、旭化成社製、タフテックMP10)と水添ブロック共重合体(SEBS、クレイトン社製、G1633)とを質量比19:1で含む混合物を用いたこと、および、スラリーの固形分濃度(NV)を55に調整したことを除き、実施例1と同じ方法によって比較例3の電極板を作製した。
【0184】
<比較例4>
第2バインダーを構成するスチレン系エラストマーとして、水素添加スチレン系熱可塑性エラストマー(変性SEBS、旭化成社製、タフテックMP10)と水添ブロック共重合体(SEBS、クレイトン社製、G1633)とを質量比1:4で含む混合物を用いたこと、および、スラリーの固形分濃度(NV)を45に調整したことを除き、実施例1と同じ方法によって比較例4の電極板を作製した。
【0185】
<比較例5>
第2バインダーを構成するスチレン系エラストマーとして、溶液重合スチレンブタジエンゴム(変性SBR、旭化成社製、アサプレンY031)を用いたことを除き、実施例1と同じ方法によって比較例5の電極板を作製した。「アサプレン」は、旭化成社の登録商標である。
【0186】
<比較例6>
第2バインダーを構成するスチレン系エラストマーとして、溶液重合スチレンブタジエンゴム(変性SBR、旭化成社製、アサプレンXB120)を用いたこと、および、スラリーの固形分濃度(NV)を43に調整したことを除き、実施例1と同じ方法によって比較例6の電極板を作製した。
【0187】
[剥離試験]
先に説明した方法によって、実施例および比較例の電極板の剥離強度およびその変動係数を測定した。結果を表1に示す。剥離強度の測定は、各電極板について3回実施した。表1に示す「剥離強度」および「変動係数」は、3回の測定で得られた値の平均である。
【0188】
【表1】
【0189】
比較例1および比較例2の電極板の集電体は、被覆層を有していなかった。そのため、比較例1および比較例2の電極板の剥離強度は低かった。
【0190】
比較例4および比較例5の電極板において、電極層の第2バインダーの全窒素量は106ppmおよび107ppmと低かった。そのため、比較例4および比較例5の電極板の剥離強度は低かった。比較例6の電極板において、電極層の第2バインダーのスチレンに由来する繰り返し単位のモル分率は0.09と低かった。そのため、比較例6の電極板の剥離強度は低かった。
【0191】
比較例3の電極板において、電極層の第2バインダーの全窒素量は446ppmであった。比較例3の電極板は、高い剥離強度を示したものの、その変動係数は大きかった。つまり、剥離強度のバラつきが大きかった。
【0192】
表1に示す結果から、電極層の第2バインダーのスチレンに由来する繰り返し単位のモル分率、および、電極層の第2バインダーの全窒素量が剥離強度およびその変動係数と相関することが理解される。スチレンに由来する繰り返し単位のモル分率が0.12以上、かつ全窒素量が120ppm以上400ppm以下であるスチレン系エラストマーを含む実施例1から4の電極板において、電極層と集電体との剥離強度が高い値を示し、かつ、剥離強度の変動係数が低い値を示した。
【0193】
図5Aは、実施例1の電極板の剥離試験で得られたグラフである。図5Bは、比較例3の電極板の剥離試験で得られたグラフである。横軸は、治具の移動量(mm)を表す。つまり、横軸は、引きはがされた電極層の位置に対応する。縦軸は、測定された剥離強度(N/m)を表す。実施例1の剥離強度および変動係数の算出には、移動量12mmから17mmの範囲のデータを用いた。比較例3の剥離強度および変動係数の算出には、移動量11mmから16mmの範囲のデータを用いた。この理由は、剥がし始めの不安定な範囲の後の安定した範囲を選ぶことで、データのバラつきを極力小さくすることができ、正確な剥離強度および変動係数の算出につながると考えられるからである。
【0194】
図5Bに示すように、比較例3の電極板の剥離強度のバラつきは大きかった。これに対し、図5Aに示すように、実施例1の電極板の剥離強度のバラつきは小さかった。このように、本開示の技術によれば、電極層と集電体との剥離強度が向上するだけでなく、その均一性を向上させることもできた。
【産業上の利用可能性】
【0195】
本開示の電極板は、電池、キャパシタなどの電気化学デバイスに利用されうる。
【符号の説明】
【0196】
100,100a 集電体
101 基板
102,102a 被覆層
103 導電性カーボン
104 第1バインダー
110 電極層
111 固体電解質
112 活物質
113 第2バインダー
201 負極
202 電解質層
203 正極
211 第1負極
212 第1電解質層
213 第1正極
221 第2負極
222 第2電解質層
223 第2正極
1000,1100 電極板
2000 電池
2001 電池
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B