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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076262
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】コイル成形装置及びコイル成形方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/04 20060101AFI20240529BHJP
   F16C 13/00 20060101ALI20240529BHJP
   F16C 33/20 20060101ALI20240529BHJP
   H01F 5/06 20060101ALI20240529BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
H01F41/04 F
F16C13/00 A
F16C13/00 E
F16C33/20 A
H01F5/06 H
B32B15/08 D
B32B15/08 101Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187758
(22)【出願日】2022-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】坂元 佑輔
(72)【発明者】
【氏名】中島 新之助
(72)【発明者】
【氏名】中林 誠
(72)【発明者】
【氏名】池田 一秋
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 慎一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 淳
(72)【発明者】
【氏名】川上 淳
(72)【発明者】
【氏名】山田 識由
【テーマコード(参考)】
3J011
3J103
4F100
【Fターム(参考)】
3J011BA02
3J011QA05
3J011SC05
3J011SC14
3J011SC20
3J103AA02
3J103AA13
3J103FA02
3J103FA09
3J103GA01
3J103GA39
3J103HA04
3J103HA43
3J103HA44
4F100AB01A
4F100AB03
4F100AK17B
4F100AK18
4F100AK18B
4F100AK49
4F100AK49A
4F100AK54B
4F100AK56B
4F100AL01B
4F100BA02
4F100BA07
4F100EH46
4F100GB41
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】コイルを成形する際における線材の絶縁層の局所的な厚さの減少を抑制できるコイル成形装置を提供する。
【解決手段】コイル成形装置は、被覆層が第1樹脂組成物、第2樹脂組成物又は第3樹脂組成物を主成分とし、第1樹脂組成物がフッ素樹脂架橋体であり、第2樹脂組成物がフッ素樹脂並びにポリイミド若しくはポリエーテルエーテルケトンであり、第3樹脂組成物がフッ素樹脂架橋体並びにポリイミド若しくはポリエーテルエーテルケトンであり、フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体又はテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体であり、第2樹脂組成物及び第3樹脂組成物のポリイミドの含有量が60体積%以上95体積%、ポリエーテルエーテルケトンの含有量が70体積%以上90体積%以下であり、被覆層表面の限界PV値が800MPa・m/分以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁層を有する線材から、曲げ加工によりコイルを成形するためのコイル成形装置であって、
金属製の基体と、
上記基体の表面における少なくとも上記線材との接触面に積層される被覆層と
を備え、
上記被覆層が第1樹脂組成物、第2樹脂組成物又は第3樹脂組成物を主成分とし、
上記第1樹脂組成物がフッ素樹脂の架橋体であり、
上記第2樹脂組成物がフッ素樹脂、並びにポリイミド若しくはポリエーテルエーテルケトンであり、
上記第3樹脂組成物がフッ素樹脂の架橋体、並びにポリイミド若しくはポリエーテルエーテルケトンであり、
上記フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体又はテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体であり、
上記第2樹脂組成物における上記ポリイミドの含有量及び上記第3樹脂組成物における上記ポリイミドの含有量が60体積%以上95体積%であり、
上記第2樹脂組成物における上記ポリエーテルエーテルケトンの含有量及び上記第3樹脂組成物における上記ポリエーテルエーテルケトンの含有量が70体積%以上90体積%以下であり、
上記被覆層の表面の限界PV値が800MPa・m/分以上であるコイル成形装置。
【請求項2】
上記第2樹脂組成物における上記ポリイミドの含有量及び上記第3樹脂組成物における上記ポリイミドの含有量が65体積%以上85体積%以下である請求項1に記載のコイル成形装置。
【請求項3】
上記被覆層の表面の限界PV値が1400MPa・m/分以上である請求項1又は請求項2に記載のコイル成形装置。
【請求項4】
絶縁層を有する線材から、コイル成形装置を用いて曲げ加工によりコイルを成形するコイル成形方法であって、
上記線材の絶縁層の25℃における弾性率が1GPa以下であり、
上記コイル成形装置が、金属製の基体と、上記基体の表面における少なくとも上記線材との接触面に積層される被覆層とを備え、
上記被覆層が第1樹脂組成物、第2樹脂組成物又は第3樹脂組成物を主成分とし、
上記第1樹脂組成物がフッ素樹脂の架橋体であり、
上記第2樹脂組成物がフッ素樹脂、並びにポリイミド若しくはポリエーテルエーテルケトンであり、
上記第3樹脂組成物がフッ素樹脂の架橋体、並びにポリイミド若しくはポリエーテルエーテルケトンであり、
上記フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体又はテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体であり、
上記第2樹脂組成物における上記ポリイミドの含有量及び上記第3樹脂組成物における上記ポリイミドの含有量が60体積%以上95体積%であり、
上記第2樹脂組成物における上記ポリエーテルエーテルケトンの含有量及び上記第3樹脂組成物における上記ポリエーテルエーテルケトンの含有量が70体積%以上90体積%以下であり、
上記被覆層の表面の限界PV値が800MPa・m/分以上であるコイル成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コイル成形装置及びコイル成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータや発電機等の回転電機に用いられるステータコイルやロータコイルの形態としては、線材を巻回した巻回型コイルが一般的である。また、ステータコアやロータコアに積層されたスロットにセグメントと呼ばれるU字形状の導体を挿入し、各セグメントの端部を溶接等により接合したセグメントコイルも用いられている。
【0003】
従来から、巻回型コイルを形成するために、線材供給部から送り出された線材の曲げ加工を行いながらコイルを形成する巻線方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-329108号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示のコイル成形装置は、絶縁層を有する線材から、曲げ加工によりコイルを成形するためのコイル成形装置であって、金属製の基体と、上記基体の表面における少なくとも上記線材との接触面に積層される被覆層とを備え、上記被覆層が第1樹脂組成物、第2樹脂組成物又は第3樹脂組成物を主成分とし、上記第1樹脂組成物がフッ素樹脂の架橋体であり、上記第2樹脂組成物がフッ素樹脂、並びにポリイミド若しくはポリエーテルエーテルケトンであり、上記第3樹脂組成物がフッ素樹脂の架橋体、並びにポリイミド若しくはポリエーテルエーテルケトンであり、上記フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体又はテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体であり、上記第2樹脂組成物における上記ポリイミドの含有量及び上記第3樹脂組成物における上記ポリイミドの含有量が60体積%以上95体積%であり、上記第2樹脂組成物における上記ポリエーテルエーテルケトンの含有量及び上記第3樹脂組成物における上記ポリエーテルエーテルケトンの含有量が70体積%以上90体積%以下であり、上記被覆層の表面の限界PV値が800MPa・m/分以上である。
【0006】
本開示のコイル成形方法は、絶縁層を有する線材から、コイル成形装置を用いて曲げ加工によりコイルを成形するコイル成形方法であって、上記線材の絶縁層の25℃における弾性率が1GPa以下であり、上記コイル成形装置が、金属製の基体と、上記基体の表面における少なくとも上記線材との接触面に積層される被覆層とを備え、上記被覆層が第1樹脂組成物、第2樹脂組成物又は第3樹脂組成物を主成分とし、上記第1樹脂組成物がフッ素樹脂の架橋体であり、上記第2樹脂組成物がフッ素樹脂、並びにポリイミド若しくはポリエーテルエーテルケトンであり、上記第3樹脂組成物がフッ素樹脂の架橋体、並びにポリイミド若しくはポリエーテルエーテルケトンであり、上記フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体又はテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体であり、上記第2樹脂組成物における上記ポリイミドの含有量及び上記第3樹脂組成物における上記ポリイミドの含有量が60体積%以上95体積%であり、上記第2樹脂組成物における上記ポリエーテルエーテルケトンの含有量及び上記第3樹脂組成物における上記ポリエーテルエーテルケトンの含有量が70体積%以上90体積%以下であり、上記被覆層の表面の限界PV値が800MPa・m/分以上である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本開示の一実施形態に係るコイル成形装置に含まれる巻回機構を示す模式的斜視図である。
図2図2は、本開示の一実施形態に係るコイル成形装置の模式的部分断面図である。
図3図3は、本開示の他の実施形態に係るコイル成形装置に含まれる巻回機構を示す模式的斜視図である。
図4図4は、実施例の曲げ試験の方法を説明するための模式的概略図である。
図5図5は、実施例の曲げ試験の方法を説明するための模式的概略図である。
図6図6は、実施例の曲げ試験の方法を説明するための模式的概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
絶縁層を有する線材(マグネットワイヤ)から曲げ加工によりコイルを成形する際に、絶縁層が加工治具と接触して高い応力を受けると、絶縁層が変形して局所的に絶縁層が薄くなり、その結果、絶縁性能が低下する場合がある。そのため、コイルの成形をする際には、線材の絶縁層の局所的な厚さの減少を抑制することが求められている。
【0009】
本開示は上記事情に基づいてなされたものであり、コイルを成形する際における線材の絶縁層の局所的な厚さの減少を抑制できるコイル成形装置を提供することを目的とする。
【0010】
[本開示の効果]
本開示の一態様に係るコイル成形装置は、コイルを成形する際における線材の絶縁層の局所的な厚さの減少を抑制できる。
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0012】
本開示のコイル成形装置は、
(1)絶縁層を有する線材から、曲げ加工によりコイルを成形するためのコイル成形装置であって、金属製の基体と、上記基体の表面における少なくとも上記線材との接触面に積層される被覆層とを備え、上記被覆層が第1樹脂組成物、第2樹脂組成物又は第3樹脂組成物を主成分とし、上記第1樹脂組成物がフッ素樹脂の架橋体であり、上記第2樹脂組成物がフッ素樹脂、並びにポリイミド若しくはポリエーテルエーテルケトンであり、上記第3樹脂組成物がフッ素樹脂の架橋体、並びにポリイミド若しくはポリエーテルエーテルケトンであり、上記フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体又はテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体であり、上記第2樹脂組成物における上記ポリイミドの含有量及び上記第3樹脂組成物における上記ポリイミドの含有量が60体積%以上95体積%であり、上記第2樹脂組成物における上記ポリエーテルエーテルケトンの含有量及び上記第3樹脂組成物における上記ポリエーテルエーテルケトンの含有量が70体積%以上90体積%以下であり、上記被覆層の表面の限界PV値が800MPa・m/分以上である。
【0013】
当該コイル成形装置においては、コイルを成形する際における線材の絶縁層の局所的な厚さの減少の抑制効果が高い。その理由としては必ずしも明確ではないが、例えば以下のように考えられる。絶縁層を有する線材から曲げ加工によりコイルを成形の際に線材の絶縁層に応力の集中が起きると、絶縁層が変形して局所的に絶縁層が薄くなる膜減りが発生する。本発明者らは、当該コイル成形装置における線材との接触面のスラスト摩耗試験における限界PV値を高めることで応力の分散が起きることをCAE解析(Computer Aided Engineering)により知得した。当該コイル成形装置は、基体の表面における少なくとも線材との接触面に積層される被覆層を備え、上記被覆層が第1樹脂組成物、第2樹脂組成物又は第3樹脂組成物を主成分とする。そして、第1樹脂組成物がフッ素樹脂の架橋体であり、第2樹脂組成物がフッ素樹脂、並びにポリイミド若しくはポリエーテルエーテルケトンであり、第3樹脂組成物がフッ素樹脂の架橋体、並びにポリイミド若しくはポリエーテルエーテルケトンである。上記フッ素樹脂はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)又はテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)である。また、第2樹脂組成物におけるポリイミドの含有量及び第3樹脂組成物における上記ポリイミドの含有量が60体積%以上95体積%であり、第2樹脂組成物におけるポリエーテルエーテルケトンの含有量及び第3樹脂組成物におけるポリエーテルエーテルケトンの含有量が70体積%以上90体積%以下であり、被覆層の表面の限界PV値が800MPa・m/分以上である。その結果、曲げ加工時の線材の絶縁層に対する応力を効果的に分散することができ、曲げ加工性を向上できる。従って、当該コイル成形装置は、コイルを成形する際における線材の絶縁層の局所的な厚さの減少の抑制効果が高いと考えられる。
【0014】
「フッ素樹脂の架橋体」とは、フッ素樹脂の電離放射線架橋物を意味する。「PV値」とは、面圧と速度の積(P×V)であり、「限界PV値」とは、被覆層のスラスト摩耗試験において、荷重を10MPaで一定とし、段階的に速度を増やしていく条件で測定される限界PV値を意味し、数値が大きいほど耐摩耗性に優れることを示す。「主成分」とは、含有量の最も多い成分であり、含有量が80体積%以上であってもよく、90体積%以上であってもよく、95体積%以上であってもよい。
【0015】
(2)上記(1)において、上記第2樹脂組成物における上記ポリイミドの含有量及び上記第3樹脂組成物における上記ポリイミドの含有量が65体積%以上85体積%以下であることが好ましい。上記第2樹脂組成物における上記ポリイミドの含有量及び上記第3樹脂組成物における上記ポリイミドの含有量が65体積%以上85体積%以下であることで、コイルを成形する際における線材の絶縁層の局所的な厚さの減少の抑制効果をより高めることができる。
【0016】
(3)上記(1)又は(2)において、上記被覆層の表面の限界PV値が1400MPa・m/分以上であることが好ましい。上記被覆層の表面の限界PV値が1400MPa・m/分以上であることで、コイルを成形する際における線材の絶縁層の局所的な厚さの減少の抑制効果をより高めることができる。
【0017】
(4)また、本開示のコイル成形方法は、絶縁層を有する線材から、コイル成形装置を用いて曲げ加工によりコイルを成形するコイル成形方法であって、上記線材の絶縁層の25℃における弾性率が1GPa以下であり、上記コイル成形装置が、金属製の基体と、上記基体の表面における少なくとも上記線材との接触面に積層される被覆層とを備え、上記被覆層が第1樹脂組成物、第2樹脂組成物又は第3樹脂組成物を主成分とし、上記第1樹脂組成物がフッ素樹脂の架橋体であり、上記第2樹脂組成物がフッ素樹脂、並びにポリイミド若しくはポリエーテルエーテルケトンであり、上記第3樹脂組成物がフッ素樹脂の架橋体、並びにポリイミド若しくはポリエーテルエーテルケトンであり、上記フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体又はテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体であり、上記第2樹脂組成物における上記ポリイミドの含有量及び上記第3樹脂組成物における上記ポリイミドの含有量が60体積%以上95体積%であり、上記第2樹脂組成物における上記ポリエーテルエーテルケトンの含有量及び上記第3樹脂組成物における上記ポリエーテルエーテルケトンの含有量が70体積%以上90体積%以下であり、上記被覆層の表面の限界PV値が800MPa・m/分以上である。
【0018】
線材の絶縁層の25℃における弾性率が1GPa以下であると、曲げ加工によりコイルを成形する際に絶縁層の変形が生じやすい。当該コイル成形方法は、絶縁層を有する線材から、コイル成形装置を用いて曲げ加工によりコイルを成形する。そして、上記コイル成形装置が、金属製の基体と、上記基体の表面における少なくとも上記線材との接触面に積層される被覆層とを備え、上記被覆層が第1樹脂組成物、第2樹脂組成物又は第3樹脂組成物を主成分とする。第1樹脂組成物がフッ素樹脂の架橋体であり、第2樹脂組成物がフッ素樹脂、並びにポリイミド若しくはポリエーテルエーテルケトンであり、第3樹脂組成物がフッ素樹脂の架橋体、並びにポリイミド若しくはポリエーテルエーテルケトンである。上記フッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体又はテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体である。また、第2樹脂組成物におけるポリイミドの含有量及び第3樹脂組成物における上記ポリイミドの含有量が60体積%以上95体積%であり、第2樹脂組成物におけるポリエーテルエーテルケトンの含有量及び第3樹脂組成物におけるポリエーテルエーテルケトンの含有量が70体積%以上90体積%以下であり、被覆層の表面の限界PV値が800MPa・m/分以上である。その結果、曲げ加工時の線材の絶縁層に対する応力を効果的に分散することができ、曲げ加工性を向上できる。従って、当該コイル成形方法においては、コイルを成形する際における線材の絶縁層の局所的な厚さの減少の抑制効果が高く、耐久性に優れるコイルを成形できる。
【0019】
「弾性率」とは、JIS-K7244-4(1999)に記載の動的機械特性の試験方法に準拠して測定される値であり、粘弾性測定装置(例えばアイティー計測制御社製「DVA-220」)を用いて、引張モード、-60℃から80℃の温度範囲で、昇温速度5℃/分、周波数10Hz、歪0.05%の条件で測定した貯蔵弾性率の値である。
【0020】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の一実施形態に係るコイル成形装置について詳説する。
【0021】
<コイル成形装置>
本開示の一実施形態に係るコイル成形装置は、曲げ加工により絶縁層を有する線材をコイル状に巻回する装置である。図1に示すコイル成形装置10は、巻線機構として線材5が巻回される筒状の巻き芯部1を有している。また、コイル成形装置10は、巻き芯部1の所定の巻回位置に線材5を供給する図示しない線材供給部を備える。この線材供給装置から線材5が矢印Rの方向に供給されると、図示しないモータにより巻き芯部1を矢印Qの方向に回転させて、巻き芯部1の周囲に線材5を巻回する。そして、成形されたコイル17が巻き芯部1に巻回された状態で配置される。
【0022】
巻き芯部1は、金属製の基体2と、基体2の表面における少なくとも線材5との接触面に積層される被覆層3とを備える。
【0023】
[基体]
基体2は、金属製である。基体2に用いる金属としては、例えば鋼、ステンレス等の鉄合金、ニッケル、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、チタン、チタン合金が挙げられる。上記金属として鋼材が用いられる場合、基体2の外表面の酸化、腐食等を抑制するために、基体2の外周面に亜鉛、すず、クロム,ニッケルなどの金属元素を含有するめっき層が設けられてもよい。
【0024】
基体2の形状としては、特に限定されず用途に応じて適宜設置可能である。例えば板状、円柱状、円錐状、楕円錐状、角錐状、楕円柱状、角柱状が挙げられる。
【0025】
[被覆層]
図2に示すように、巻き芯部1の被覆層3は、金属製の基体2の表面における少なくとも線材5との接触面に積層される。被覆層3は基体2の表面全面に積層する必要がなく、少なくとも線材5との接触面に積層されていればよい。
【0026】
被覆層3の平均厚さの下限としては、5μmであってもよく、10μmであってもよい。一方、上記平均厚さの上限としては、70.0μmであってもよく、50.0μmであってもよい。上記平均厚さが5μm以上70.0μm以下であることで、耐久性及び弾性を良好にできる。ここで、「平均厚さ」とは、任意の十点において測定した厚さの平均値をいう。
【0027】
被覆層3は第1樹脂組成物、第2樹脂組成物又は第3樹脂組成物を主成分とする。そして、第1樹脂組成物がフッ素樹脂の架橋体であり、第2樹脂組成物がフッ素樹脂、並びにポリイミド若しくはポリエーテルエーテルケトンであり、第3樹脂組成物がフッ素樹脂の架橋体、並びにポリイミド若しくはポリエーテルエーテルケトンである。上記フッ素樹脂はポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体又はテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体である。被覆層3は第1樹脂組成物、第2樹脂組成物又は第3樹脂組成物を主成分とすることで、被覆層3の耐久性を高めることができる。
【0028】
なお、フッ素樹脂は、本開示の効果を損なわない範囲において、テトラフルオロエチレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、ヘキサフルオロプロピレン、(パーフルオロアルキル)エチレン以外のその他の構造単位を含んでいてもよい。その他の構造単位としては、例えばクロロトリフルオロエチレンが挙げられる。
【0029】
上記第2樹脂組成物における上記ポリイミドの含有量及び上記第3樹脂組成物における上記ポリイミドの含有量の下限としては、60体積%であり、65体積%であってもよい。一方、上記ポリイミドの含有量の上限としては、95体積%であり、90体積%であってもよく、85体積%であってもよい。上記第2樹脂組成物における上記ポリイミドの含有量及び上記第3樹脂組成物における上記ポリイミドの含有量が上記範囲であることで、被覆層3の表面の限界PV値を高めることができるので、コイルを成形する際の線材5の絶縁層7の局所的な厚さの減少の抑制効果が良好である。
【0030】
上記第2樹脂組成物における上記ポリエーテルエーテルケトンの含有量及び上記第3樹脂組成物における上記ポリエーテルエーテルケトンの含有量の下限としては、70体積%である。一方、上記ポリエーテルエーテルケトンの含有量の上限としては、90体積%である。上記第2樹脂組成物における上記ポリエーテルエーテルケトンの含有量及び上記第3樹脂組成物における上記ポリエーテルエーテルケトンの含有量が上記範囲であることで、被覆層3の表面の限界PV値を高めることができるので、コイルを成形する際の線材5の絶縁層7の局所的な厚さの減少の抑制効果が良好である。
【0031】
被覆層3における第1樹脂組成物、第2樹脂組成物又は第3樹脂組成物の含有量の下限としては、80体積%であってもよく、90体積%であってもよく、95体積%であってもよい。第1樹脂組成物、第2樹脂組成物又は第3樹脂組成物の含有量が80体積%以上であることで、コイルを成形する際の線材5の絶縁層7の局所的な厚さの減少をより抑制できる。
【0032】
被覆層3は、第1樹脂組成物、第2樹脂組成物又は第3樹脂組成物以外の他の成分を含有してもよい。第1樹脂組成物、第2樹脂組成物又は第3樹脂組成物以外の他の成分としては、例えば固体潤滑剤、強化材が挙げられる。被覆層3が固体潤滑剤、強化材等を含有することで、摺動性をより向上できる場合がある。上記固体潤滑剤としては、例えば二硫化モリブデンが挙げられる。また、上記強化材としては、例えばモリブデン、グラファイト炭酸カルシウム、タルク、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム等の無機充填材、ガラスファイバー(ガラス繊維)、球状ガラス等のガラスフィラー、炭素繊維が挙げられる。被覆層3における上記他の成分の含有量としては、20質量%以下であってもよく、10質量%以下であってもよく、5質量%以下であってもよい。
【0033】
被覆層3の限界PV値の下限としては、800MPa・m/minであり、1000MPa・m/minが好ましく、1200MPa・m/minがより好ましく、1400MPa・m/minがさらに好ましい。上記限界PV値が800MPa・m/min未満の場合、曲げ加工によりコイルを成形する際に線材5の絶縁層7への応力の集中を十分に抑制できず、絶縁層7の局所的な厚さの減少の抑制効果が低くなるおそれがある。被覆層3の表面の限界PV値の上限としては、特に限定されない。
【0034】
上記限界PV値の測定については、具体的には、スラスト摩耗試験(リングオンディスク式摩耗評価)により、被覆層3の表面の限界PV値を測定する。測定は、23±2℃の温度下で調温後、荷重を10MPaで一定とし、3分毎に1ステップごとに速度を上げていく条件で行う。具体的には、リング状相手材として材質がS45C(機械構造用炭素鋼)、リング寸法(外径/内径)がφ11.6mm/φ7.4mmのものを用いる。そして、相手材にドライの潤滑条件下で所定の荷重(面圧:P)を加えた状態で、試験片を所定の速度(回転速度:V)で回転させ、相手材に生じる反動トルクにより動摩擦係数を測定する。このとき、速度については、ステップ(1)において1m/分で開始し、ステップ(2)で5m/分、ステップ(3)で10m/分と速度を上げていき、以後、1ステップ上がるごとに10m/分ずつ速度を増加させていき、限界PV値を測定する。本開示においては、基体が露出する直前のPV値を限界PV値とする。
【0035】
[線材]
線材5は、導体6及び絶縁層7を有する。絶縁層7は、導体6を被覆するように導体6の周面上に積層される。
【0036】
(導体)
導体6としては、線状の導体を用いることができる。線状の導体としては、例えば銅線、錫めっき銅線、アルミ線、アルミ合金線、鋼心アルミ線、カッパーフライ線、ニッケルめっき銅線、銀めっき銅線、銅覆アルミ線等の金属線が挙げられる。
【0037】
導体6の断面形状としては、特に限定されず、円形状(丸線)、楕円形状、正方形状、長方形状等の種々の形状を採用することができる。また、導体6の断面の大きさも、特に限定されず、直径(短辺幅)を例えば0.2mm以上8.0mm以下とすることができる。
【0038】
(絶縁層)
絶縁層7は、1又は複数の層から構成される。
【0039】
絶縁層7の25℃での弾性率の上限としては、1GPaであってもよく、5GPaであってもよい。一方、絶縁層7の25℃での弾性率の下限としては、0.5GPaであってもよく、0.1GPaであってもよい。絶縁層7の25℃での弾性率が上記範囲であることで、コイルを成形する際の線材5の絶縁層7の局所的な厚さの減少を抑制するという当該コイル成形装置の効果をより奏することができるとともに、絶縁層7の常温での弾性を向上できる。
【0040】
絶縁層7の主成分としては特に限定されないが、上記25℃での弾性率の範囲に対応する絶縁層7の材料としては、例えばフッ素系ゴム(フッ素系エラストマー)、フッ素系樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルサルホン(PES)が挙げられる。これらの樹脂は、1種単独であってもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0041】
上記フッ素系ゴムとしては、例えばビニリデンフロライド-ヘキサフルオロピレン-テトラフルオロエチレンゴム又はテトラフルオロエチレン-プロピレンゴム、が挙げられる。
【0042】
上記フッ素系樹脂としては、例えばポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)、クロロトリフルオロエチレン-エチレン共重合体(ECTFE)が挙げられる。
【0043】
絶縁層7の平均厚さは、特に限定されず、通常2μm以上200μm以下とされる。
【0044】
<コイル成形方法>
本開示のコイル成形方法は、絶縁層を有する線材から、当該コイル成形装置を用いて曲げ加工によりコイルを成形するコイル成形方法であって、上記線材の絶縁層の25℃における弾性率が1GPa以下であり、上記コイル成形装置が、金属製の基体と、上記基体の表面における少なくとも上記線材との接触面に積層される被覆層とを備える。そして、被覆層は第1樹脂組成物、第2樹脂組成物又は第3樹脂組成物を主成分とする。第1樹脂組成物がフッ素樹脂の架橋体であり、第2樹脂組成物がフッ素樹脂、並びにポリイミド若しくはポリエーテルエーテルケトンであり、第3樹脂組成物がフッ素樹脂の架橋体、並びにポリイミド若しくはポリエーテルエーテルケトンである。上記フッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体又はテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体である。また、第2樹脂組成物におけるポリイミドの含有量及び第3樹脂組成物における上記ポリイミドの含有量が60体積%以上95体積%であり、第2樹脂組成物におけるポリエーテルエーテルケトンの含有量及び第3樹脂組成物におけるポリエーテルエーテルケトンの含有量が70体積%以上90体積%以下であり、被覆層の表面の限界PV値が800MPa・m/分以上である。上記線材の絶縁層の25℃における弾性率が1GPa以下であると、曲げ加工によりコイルを成形する際に絶縁層の変形が生じやすい。当該コイル成形方法は、上記線材から、コイル成形装置を用いて曲げ加工によりコイルを成形するので、曲げ加工時の線材の絶縁層に対する応力を効果的に分散することができ、曲げ加工性を向上できる。従って、当該コイル成形方法においては、コイルを成形する際における線材の絶縁層の局所的な厚さの減少の抑制効果が高く、耐久性に優れるコイルを成形できる。
【0045】
[コイル成形装置の製造方法]
本開示の一実施形態に係るコイル成形装置の製造方法は、例えば金属製の基体の表面に被覆層を積層する工程を備える。上記コイル成形装置の製造方法は、上記工程を備えることで、コイルを成形する際における線材の絶縁層の局所的な厚さの減少を抑制できるコイル成形装置を製造できる。
【0046】
(被覆層を積層する工程)
本工程では、金属製の基体の表面に被覆層を積層する。上記被覆層を積層する方法としては、例えば被覆層用の樹脂組成物の塗工が挙げられる。被覆層用の樹脂組成物は、第1樹脂組成物、第2樹脂組成物又は第3樹脂組成物を主成分とする。そして、第1樹脂組成物がフッ素樹脂の架橋体であり、第2樹脂組成物がフッ素樹脂、並びにポリイミド若しくはポリエーテルエーテルケトンであり、第3樹脂組成物がフッ素樹脂の架橋体、並びにポリイミド若しくはポリエーテルエーテルケトンである。上記フッ素樹脂はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)又はテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)である。また、第2樹脂組成物におけるポリイミドの含有量及び第3樹脂組成物における上記ポリイミドの含有量が60体積%以上95体積%であり、第2樹脂組成物におけるポリエーテルエーテルケトンの含有量及び第3樹脂組成物におけるポリエーテルエーテルケトンの含有量が70体積%以上90体積%以下である。
【0047】
基体の表面に樹脂組成物の塗工を行う場合、樹脂組成物を溶剤に分散させた塗料を基体の表面に塗工する。この溶剤としては、第1樹脂組成物、第2樹脂組成物又は第3樹脂組成物を効率よく分散できる石油系溶剤、例えば、ナフサ、トルエン、キシレンを用いることができる。上記塗工手段としては、特に限定されず、スプレーコート、フローコート、ディップコート等、種々の方法を用いることができる。
【0048】
次に、この塗料を塗工した基体を加熱炉に入れ加熱し、上記塗料中の溶剤を飛ばすとともに塗膜を焼成する。塗膜の焼成温度としては、例えば350℃以上400℃以下とすることができる。その後、基体の表面を冷却することで被覆層を基体の表面に積層する。なお、焼成時間については特に限定されないが、例えば10分以上60分以下の範囲で行うことができる。
【0049】
また、被覆層用の樹脂組成物が第1樹脂組成物及び第3樹脂組成物の場合、塗膜の焼成後に低酸素雰囲気下かつ一定の温度下で電子線を照射する。この照射により、第1樹脂組成物及び第3樹脂組成物のポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体又はテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体が架橋構造を有することになる。
【0050】
第1樹脂組成物及び第3樹脂組成物がポリテトラフルオロエチレン又はテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を含有する場合、電子線照射時の加熱温度としては、例えば280℃以上420℃以下である。
【0051】
第1樹脂組成物及び第3樹脂組成物がテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体を含有する場合、本工程における加熱温度の下限としては、例えば180℃から265℃である。
【0052】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0053】
上記実施形態では、絶縁層を有する線材によって形成されるコイルが円形状に巻かれた態様について図示したが、コイルの形状は特に限定されず、その他、矩形状、楕円形状、台形状等に巻かれた巻回型コイルや、セグメントコイルを採用することもできる。
【0054】
図3は、他の実施形態に係るコイル成形装置20を示す模式的概略図である。図3のコイル成形装置20は、矩形状に巻回されたコイルを成形する装置である。
【0055】
コイル成形装置20は、図3に示すように、金属製の基体22と被覆層23とを備え、互いに向かい合う4本のコイル押えローラ21と、金属製の基体32と被覆層33とを備える曲げローラ31を備えている。4本のコイル押えローラ21は、縦断面視で向かい合う2組のコイル押えローラ21の中心点を結ぶ2本の対角線の交点に位置し、かつコイル押えローラ21の長手方向に沿った回転軸を中心として、図示しない駆動機構により回転する。そして、図示しない線材供給装置から線材5が矢印Rの方向に供給されると、4本のコイル押えローラ21が上記回転軸を中心に矢印Pの方向に回転することで、線材5が4本のコイル押えローラ21に巻き付けられる。また、曲げローラ31は図示しない他のモータにより矢印Sの方向に回転し、コイル押えローラ21と接触するコイル27の表面に対して荷重をかけることで線材5に角部が設けられる。このようにして矩形状のコイル27が形成される。
【0056】
また、当該コイル成形装置は、金型を用いて線材を鍛造することにより曲げ加工を行う巻回機構を有していてもよい。
【実施例0057】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
<試験No.1>
[コイル成形装置(曲げ治具)の作製]
図4に示すように、コイル成形装置の曲げ治具としてのコイル押えローラ41と、曲げローラ51を作製した。ローラ41は金属製の基体42と被覆層43とを備え、ローラ51は金属製の基体52と被覆層53とを備える。コイル押えローラ41の基体42として、直径30mm、長さ10mmの円柱状の鋼材を準備した。曲げローラ51の基体52として、直径30mm、長さ10mmの円柱状の鋼材を準備した。
【0059】
樹脂組成物は、ポリテトラフルオロエチレンの粉体を水に分散させて撹拌して調製した。ポリテトラフルオロエチレンは、3M社製「TF9207Z」を用いた。そして、基体の表面に380℃で10分間塗膜を焼成した後に冷却し、被覆層を積層した。被覆層の平均厚さは20μmであった。このようにして、試験No.1のコイル成形装置を作製した。
【0060】
<試験No.2~No.8及びNo.10>
被覆層におけるポリイミド及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の含有量を表1の通りとした樹脂組成物を試験No.1と同じコイル押えローラ41の基体及び曲げローラ51の基体の表面に塗工した。樹脂組成物は、ポリイミド溶液の中に添加剤としてネオス社製「フタージェント710FL」を溶液に対して0.3%、BYK社製「BYK430」を溶液に対して2.9wt%入れた後、ポリテトラフルオロエチレンの粉体を投入し、撹拌して調製した。ポリテトラフルオロエチレンは、3M社製「TF9207Z」を用い、ポリイミドはUBE社製「U-ワニス-A」を用いた。そして、基体の表面に380℃で10分間塗膜を焼成した後に冷却し、被覆層を積層した。被覆層の平均厚さは20μmであった。このようにして、試験No.1のコイル成形装置を作製した。
【0061】
<試験No.9>
樹脂組成物として、試験No.2と同様のポリイミド溶液を用いた以外は、試験No.2と同様にして試験No.9のコイル成形装置を作製した。被覆層の平均厚さは20μmであった。
【0062】
<試験No.11>
試験No.1と同様にローラ41の基体及び曲げローラ51の基体の表面に、ポリテトラフルオロエチレンからなる樹脂組成物を塗工した後、380℃で焼成した。次に、加熱温度320℃、酸素濃度100ppm以下、照射線量300kGyの条件で電子線架橋を行い、ポリテトラフルオロエチレンの架橋体からなる被覆層を形成した。被覆層の平均厚さは20μmであった。このようにして、試験No.11のコイル成形装置を作製した。
【0063】
<試験No.12>
試験No.5と同じようにコイル押えローラ41の基体及び曲げローラ51の基体の表面に、樹脂組成物を塗工した後、380℃で焼成した。次に、加熱温度320℃、酸素濃度100ppm以下、照射線量300kGyの条件で電子線架橋を行い、ポリイミドの含有量が80体積%、ポリテトラフルオロエチレン架橋体の含有量が20体積%である被覆層を形成した。被覆層の平均厚さは20μmであった。このようにして、試験No.12のコイル成形装置を作製した。
【0064】
<試験No.13>
テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)からなる樹脂組成物を用いた以外は、試験No.11と同様にして試験No.13のコイル成形装置を作製した。被覆層の平均厚さは20μmであった。テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体はダイキン社製「MJ102」を用いた。
【0065】
<試験No.14>
テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)からなる樹脂組成物を用い、加熱温度220℃、酸素濃度100ppm以下、照射線量300kGyの条件で電子線架橋を行った以外は、試験No.11と同様にして試験No.14のコイル成形装置を作製した。被覆層の平均厚さは20μmであった。テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体はダイキン社製「NCX-11」を用いた。
【0066】
<試験No.15>
樹脂組成物について、ポリエーテルエーテルケトン溶液の中に添加剤としてネオス社製「フタージェント710FL」を溶液に対して0.3%、BYK社製「BYK430」を溶液に対して2.9wt%入れた後、ポリテトラフルオロエチレンの粉体を投入し、撹拌して調製した以外は、試験No.5と同様にして試験No.15のコイル成形装置を作製した。被覆層の平均厚さは20μmであった。ポリエーテルエーテルケトンはビクトレックス社製「F807」を用いた。
【0067】
[線材(マグネットワイヤ)の作製]
導体として、断面が略矩形状であり、断面の大きさが2mm×2mmの正方形である長さ30cmの平角銅線を用いた。次に、絶縁層を形成するため、ポリテトラフルオロエチレンを主成分とする樹脂組成物を上記導体の表面に塗工し、上記樹脂組成物を塗工した導体を設定温度380℃の加熱炉で加熱する工程を繰り返し行うことで、平均厚さ100μmの絶縁層を形成し、絶縁電線を作製した。
【0068】
<評価>
[ドライリングオンディスク式摩耗試験による限界PV値]
以下の手順でリングオンディスク式摩耗により被覆層の表面の限界PV値[Mpa・m/分]を測定した。測定は、23±2℃の温度下で調温後、荷重を10MPaで一定とし、3分毎に1ステップごとに速度を上げていく条件で行った。具体的には、リング状相手材として材質がS45C(機械構造用炭素鋼)、リング寸法(外径/内径)がφ11.6mm/φ7.4mmのものを用いた。そして、相手材にドライの潤滑条件下で10MPaの荷重(面圧:P)を加えた状態で、試験片を所定の速度(回転速度:V)で回転させ、相手材に生じる反動トルクにより動摩擦係数を測定した。このとき、速度については、ステップ(1)において1m/分で開始し、ステップ(2)で5m/分、ステップ(3)で10m/分と速度を上げていき、以後、1ステップ上がるごとに10m/分ずつ速度を増加させていき、限界PV値を測定した。本開示においては、基体が露出する直前のPV値を限界PV値とした。上記測定には、試験装置としてAND社製「EFM-3-1010-S」を用いた。
【0069】
<折り曲げ試験後の絶縁層の厚さの減少率>
線材として、JIS-C3102:1984の電気用軟銅線に準拠した直径2mmの導体に、平均厚さ40μmのAGC社製「P-61XP」からなる絶縁層を押出成形により積層し、マグネットワイヤを作製した。絶縁層の25℃における弾性率は、JIS-K7244-4:1999に記載の動的機械特性の試験方法に準拠し、粘弾性測定装置(アイティー計測制御社製「DVA-220」)を用いて、引張モード、-60℃から80℃の温度範囲で、昇温速度5℃/分、周波数10Hz、歪0.05%の条件で測定した貯蔵弾性率から求めた。
【0070】
次に、図4図6に示すように、図示しないモータにより矢印Fで示すようにコイル押えローラ51を昇降させて、コイル押えローラ51上の線材5に対して30MPaの圧力で線材5に曲げ加工を行う折り曲げ試験を実施した。折り曲げ試験後の線材の絶縁層の厚さの減少率を下記式によって算出した。この算出結果を表1に示す。
絶縁層の厚さの減少率[%]=
(プレス前の絶縁層の平均厚さ-プレス後の絶縁層の平均厚さ)×100/プレス前の絶縁層の平均厚さ
【0071】
【表1】
【0072】
表1に示すように、基体の表面における線材との接触面に積層される被覆層が、第1樹脂組成物、第2樹脂組成物又は第3樹脂組成物を主成分とし、第2樹脂組成物におけるポリイミドの含有量及び第3樹脂組成物におけるポリイミドの含有量が60体積%以上95体積%であり、第2樹脂組成物におけるポリエーテルエーテルケトンの含有量が70体積%以上90体積%以下であり、被覆層の表面の限界PV値が800MPa・m/分以上であるNo.3~No.7及びNo.10~No.15のコイル成形装置は、折り曲げ試験後の絶縁層の厚さの減少率が大きく抑制されていた。
一方、被覆層がポリテトラフルオロエチレンからなるNo.1は、被覆層の表面の限界PV値が非常に低く、折り曲げ試験後の絶縁層の厚さの減少率が非常に高くなった。また、第2樹脂組成物におけるポリイミドの含有量が60体積%未満のNo.2、第2樹脂組成物におけるポリイミドの含有量が95体積%を超えるNo.8及び被覆層がポリイミドからなるNo.9は、被覆層の表面の限界PV値が800MPa・m/分よりも小さくなり、折り曲げ試験後の絶縁層の厚さの減少率が高く、絶縁層の厚さの減少を十分に抑制できないことがわかる。
【0073】
以上の結果から、当該コイル成形装置はコイルを成形する際における線材の絶縁層の局所的な厚さの減少を抑制できることが示された。
【符号の説明】
【0074】
1 巻き芯部
2、22、32、42、52 基体
3、23、33、43、53 被覆層
5 線材
6 導体
7 絶縁層
10、20 コイル成形装置
17、27 コイル
21、31、41、51 ローラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6