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特開2024-76263布帛切片と細胞培養担体、および、その製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076263
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】布帛切片と細胞培養担体、および、その製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06H 7/00 20060101AFI20240529BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
D06H7/00
C12M1/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187760
(22)【出願日】2022-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】小島 理恵
【テーマコード(参考)】
3B154
4B029
【Fターム(参考)】
3B154AA13
3B154AB22
3B154BA47
3B154BB05
3B154BB19
3B154BB55
4B029AA08
4B029BB11
4B029CC02
4B029GB09
(57)【要約】
【課題】
輪郭部分の構成繊維が融着している布帛切片について、意図しない収縮や凹みが発生するのを防止して、意図する通りの外形形状と大きさを有する布帛切片の提供を課題とする。
【解決手段】
本願発明にかかる布帛切片の製造方法では、布帛へレーザーを作用させ、前記布帛を溶断して布帛切片を切り出す製造工程において、サクションノズル上に吸引させ固定した布帛に対し、レーザーをサクションノズルにおける前記布帛と接している部分よりも大きい形状を描くよう作用させ、布帛を溶断する。そのため、乱反射したレーザーが、切り出している布帛切片に当たるという現象が発生し難い。以上から、切り出している布帛切片へ乱反射したレーザーが作用したことに由来する、意図しない収縮や凹みが発生するのを防止して、意図する通りの外形形状と大きさを有する布帛切片を提供できる。
【選択図】 図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面側から観察した際に以下の条件を満たす外形形状を有している、布帛切片。
1.前記外形形状における輪郭部分の構成繊維が融着している、
2.前記外形形状に最も形状が近い回転対称を有する図形を想定した際に、前記外形形状と前記図形の相違度が、0.041未満である。
【請求項2】
請求項1に記載の布帛切片を備えた、細胞培養担体。
【請求項3】
工程(1):布帛を用意する工程、
工程(2):前記布帛をサクションノズル上に吸引させ固定する工程、
工程(3):前記布帛における前記サクションノズルが存在する側と反対側から前記布帛の主面に対し、レーザーを作用させ、前記布帛を溶断することで、前記サクションノズル上に固定されている布帛切片を得る工程、
このとき、工程(3)では、前記レーザーを、前記サクションノズルにおける前記布帛と接している部分よりも大きい形状を描くよう作用させる、
を有する、布帛切片の製造方法。
【請求項4】
前記工程(3)が、
(3´)前記布帛における前記サクションノズルが存在する側と反対側から前記布帛の主面に対し、回転対称を有する形状を描くようレーザーを作用させ、前記布帛を溶断することで、前記サクションノズル上に固定されている布帛切片を得る工程、
このとき、工程(3´)では、前記レーザーを、前記サクションノズルにおける前記布帛と接している部分よりも大きい形状を描くよう作用させる、
である、請求項3に記載の布帛切片の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、布帛切片と細胞培養担体、および、当該布帛切片ならびに当該細胞培養担体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不織布あるいは織物や編物などの布帛は、様々な産業用途、例えば、細胞培養担体、スキャフォールド、抗菌材料、液体又は気体用濾過材などの用途に使用されている。そして、例えばウェル、フラスコ、ディッシュ、ボトルなどへ納めるため、当該布帛から、例えば円や正多角形(例えば、正方形や正六角形)といった回転対称を有する外形形状の布帛切片など、求める外形形状の布帛切片が切り出され使用される。具体例として、底部を備えたウェルへ当該底部を全て覆う布帛切片を納めるためには、布帛から当該底部と同様の外形形状を有する布帛切片を切り出すことが求められる。
【0003】
このような場合、布帛から求める外形形状を有する布帛切片を容易に切り出すことができるよう、レーザーを用いて布帛を溶断することが行われている。例えば、特開2013―194341(特許文献1)には、平均繊維径3μm以下のシリカ繊維不織布の主面に対しパルス状炭酸ガスレーザーを作用させることで、シリカ繊維不織布から1cm角の大きさのシリカ繊維不織布切片を切り出したことが開示されている。なお、このようにレーザーを使用して切り出された布帛切片では、その外形形状における輪郭部分や側面の構成繊維は融着している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013―194341
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願出願人は、特許文献1が開示するような従来技術にかかる、レーザーを使用して切り出された布帛切片の物性について検討した。検討の結果、例えば図1に図示するように、従来技術のようにしてレーザーを作用させて切り出された布帛切片(10)では、布帛切片(10)に意図しない収縮(1)やその輪郭部分(11)に意図しない凹み(2)が発生しており、意図した外形形状や大きさを有していないものであった。
【0006】
このような意図した外形形状や大きさを有していない布帛切片(10)は、様々な産業用途に使用するのが困難なものであった。具体例として、当該布帛切片(10)を細胞培養担体としてウェル、フラスコ、ディッシュ、ボトルなどの底部へ収めて使用するため、例えば、当該底部と同様の形状と大きさの外形形状を有する布帛切片(10)を切り出した場合、布帛切片(10)に意図しない収縮(1)やその輪郭部分(11)に意図しない凹み(2)が発生する。このような意図した外形形状や大きさを有していない布帛切片(10)を前述した底部へ収めて使用した場合には、布帛切片(10)の主面上へ播種した細胞が布帛切片(10)の輪郭部分(11)から前記底部へ落ちてしまい、布帛切片(10)の主面上への細胞接着率が低下することがあった。
【0007】
また、例えば、当該底部と同様の形状と大きさを有する外形形状の布帛切片(10)、あるいは、当該底部と同様の形状で大きさが小さい外形形状の布帛切片(10)を切り出し、前述した底部へ収めた後、当該切り出した布帛切片(10)に細胞を播種し細胞培養することによって、細胞培養担体の単位面積あたりあるいは単位体積あたりにおける、細胞培養可能な細胞数や細胞の活性評価を算出することがある。しかし、上述の通り、切り出した布帛切片(10)には意図しない収縮(1)やその輪郭部分(11)に意図しない凹み(2)が発生しているものであるため、このような意図した外形形状や大きさを有していない布帛切片(つまり、細胞培養可能な面積や体積が一定にできていない布帛切片)を用いた場合には、当該算出の都度、細胞培養に用いた布帛切片における細胞培養可能な面積や体積を求める必要があり、評価を容易に行えないものであった。
【0008】
意図した外形形状や大きさを有する布帛切片を得られないという問題が発生する原因は、完全に明らかにできてはいないが、次の現象が発生したためだと考えられた。
【0009】
作業台の上に置かれた布帛に対し、レーザーを作用させ布帛を溶断して布帛切片を切り出す際に、布帛を貫通したレーザーが作業台に当たり乱反射することがある。そして、乱反射したレーザーが切り出している布帛切片に当たると、布帛切片が意図せず加熱されて布帛切片に収縮を発生させることがある。また、乱反射したレーザーが切り出している布帛切片の輪郭部分に当たると、当該輪郭部分を融解させて凹みを発生させることがある。なお、上述した収縮や凹みの発生という問題は、布帛のなかでも構成繊維同士の絡み合いが織物や編物よりも弱い、不織布から切片を切り出した際に発生し易い傾向があった。
【0010】
そのため、従来技術にかかる製造方法を用いて切り出された布帛切片では、切り出している布帛切片へ乱反射したレーザーが作用したことに由来して、意図しない収縮や凹みが発生したと考えられた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第一の本願発明は、
「主面側から観察した際に以下の条件を満たす外形形状を有している、布帛切片。
1.前記外形形状における輪郭部分の構成繊維が融着している、
2.前記外形形状に最も形状が近い回転対称を有する図形を想定した際に、前記外形形状と前記図形の相違度が、0.041未満である。」
である。
第二の本願発明は、
「請求項1に記載の布帛切片を備えた、細胞培養担体。」
である。
第三の本願発明は、
「工程(1):布帛を用意する工程、
工程(2):前記布帛をサクションノズル上に吸引させ固定する工程、
工程(3):前記布帛における前記サクションノズルが存在する側と反対側から前記布帛の主面に対し、レーザーを作用させ、前記布帛を溶断することで、前記サクションノズル上に固定されている布帛切片を得る工程、
このとき、工程(3)では、前記レーザーを、前記サクションノズルにおける前記布帛と接している部分よりも大きい形状を描くよう作用させる、
を有する、布帛切片の製造方法。」
である。
第四の本願発明は、
「前記工程(3)が、
(3´)前記布帛における前記サクションノズルが存在する側と反対側から前記布帛の主面に対し、回転対称を有する形状を描くようレーザーを作用させ、前記布帛を溶断することで、前記サクションノズル上に固定されている布帛切片を得る工程、
このとき、工程(3´)では、前記レーザーを、前記サクションノズルにおける前記布帛と接している部分よりも大きい形状を描くよう作用させる、
である、請求項3に記載の布帛切片の製造方法。」
である。
【発明の効果】
【0012】
本願出願人は検討の結果、輪郭部分の構成繊維が融着している布帛切片において、意図しない収縮や凹みが発生するのを防止して、意図する通りの外形形状と大きさを有する布帛切片を提供するに至った。具体例として、外形形状に最も形状が近い回転対称を有する図形を想定した際に、前記外形形状と前記図形の相違度が、0.041未満の外形形状を有する布帛切片を提供するに至った。
【0013】
このような、意図した外形形状と大きさを有する布帛切片は、様々な産業用途に使用できる。具体例として、布帛切片を細胞培養担体としてウェル、フラスコ、ディッシュ、ボトルなどの底部へ収めて使用するため、当該底部の形状と同形状の外形形状ならびに同じ大きさを有する布帛切片を切り出し、前記布帛切片を細胞培養担体として使用することによって、例えば、布帛切片の主面上へ播種した細胞が布帛切片の輪郭部分からウェル、フラスコ、ディッシュ、ボトルなどの底部へ落ちるのを防止して、布帛切片の主面上への細胞接着率が低下し難い細胞培養担体を提供できる。
【0014】
また、意図した外形形状と大きさを有する布帛切片であることから、細胞培養担体の単位面積あたりあるいは単位体積あたりにおける、細胞培養可能な細胞数や細胞の活性評価を算出する際に、都度、細胞培養に用いた布帛切片における細胞培養可能な面積や体積を求め無くとも済む。そのため、培養した細胞数や培養された細胞の活性などを、評価を容易かつ正確に行える細胞培養担体を提供できる。
【0015】
そして、本願出願人は本願発明にかかる製造方法によって、輪郭部分の構成繊維が融着している布帛切片であって、意図する通りの外形形状と大きさを有する布帛切片を製造できることを見出した。
【0016】
この理由は完全に解明できていないが、次の効果が発揮されているためだと考えられる。
【0017】
本願発明にかかる布帛切片の製造方法では、布帛へレーザーを作用させ、前記布帛を溶断して布帛切片を切り出す製造工程において、サクションノズル上に吸引させ固定した布帛に対し、レーザーをサクションノズルにおける前記布帛と接している部分よりも大きい形状を描くよう作用させ、布帛を溶断することを特徴としている。
【0018】
つまり、当該製造工程では、直下に作業台などが無く空中に浮いた状態にある布帛部分に対しレーザーを作用させ、布帛を溶断して布帛切片を切り出す。そのため、本願発明にかかる布帛切片の製造方法では、布帛を溶断したレーザーが作業台やサクションノズルに当たることに起因するレーザーの乱反射が発生し難いものであり、乱反射したレーザーが、切り出している布帛切片に当たるという現象が発生し難いものである。
【0019】
その結果、切り出している布帛切片へ乱反射したレーザーが作用したことに由来する、意図しない収縮や凹みが発生するのを防止して、意図する通りの外形形状と大きさを有する布帛切片を製造できる。
【0020】
加えて、サクションノズル上に布帛が吸引され固定されている状態で、レーザーによって布帛切片が切り出されることから、レーザーによる切り出し時に布帛が動きずれるのが防止されている。そのため、布帛から意図した外形形状を有する布帛切片を切り出し易い。
【0021】
また、前述した布帛へレーザーを作用させる際に、意図する通り回転対称を有する形状を描くようにレーザーを作用させることで、外形形状に最も形状が近い回転対称を有する図形を想定した際に、前記外形形状と前記図形の相違度が、0.041未満の外形形状を有する布帛切片を提供可能である。
【0022】
以上から、本願発明によって、意図した外形形状と大きさを有する布帛切片を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】従来技術にかかる製造方法を用いて切り出された布帛切片を、主面側からみた模式正面図である。
図2】顕微鏡写真に写る、本願発明にかかる布帛切片の輪郭をなぞる線により形成された図形A、および、作図された図形Bの模式図である。
図3】顕微鏡写真に写る、本願発明にかかる別の布帛切片の輪郭をなぞる線により形成された図形A、および、作図された図形Bの模式図である。
図4図2または図3で引かれた線分aと線分a´を抽出し、表した模式図である。
図5】本願発明にかかる布帛切片の製造方法において使用可能な、布帛切片の製造装置を、斜め上側からみた模式斜視透視図である。
図6図5の製造装置を用いた布帛切片の製造方法を説明する、布帛切片の製造装置の模式断面図である。
図7】本願発明にかかる布帛切片の製造方法において使用可能な、別の布帛切片の製造装置の模式断面図である。
図8図7に図示した布帛切片の製造装置が備える支持板を、斜め上側からみた模式斜視透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本願発明では、例えば以下の構成など、各種構成を適宜選択できる。なお、本願発明で説明する各種測定は特に記載のない限り、大気圧下のもと測定を行う。また、25℃温度条件下で測定を行う。そして、本願発明で説明する各種測定結果は特に記載のない限り、求める値よりも一桁小さな値まで測定で求め、前記値を四捨五入することで求める値を算出する。具体例として、小数第一位までが求める値である場合、測定によって小数第二位まで値を求め、得られた小数第二位の値を四捨五入することで小数第一位までの値を算出し、この値を求める値とする。そして、本願発明で例示する各上限値および各下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0025】
本願発明でいう布帛切片とは、布帛から望む形状となるように切り出して得た平板形状やシート状の布帛を意味する。布帛切片は、意図する通りの外形形状と大きさを有していれば良いものであって適宜選択できるが、例えば、六角以下の多角形(特に、正三角形、正方形、正五角形、正六角形)あるいは長方形や菱形、円形(特に、真円形)や楕円形を有する布帛切片であることができる。特に、ウェル、フラスコ、ディッシュ、ボトルなどの底部へ設置し易い布帛切片となることから、外形形状が円形(特に、真円形)の布帛切片であるのが好ましい。
【0026】
なお、ここでいう外形形状とは、布帛切片をその一方の主面(最も広い面)側から観察し確認できる、布帛切片の輪郭が成す形状を指す。
【0027】
なお、本願発明にかかる布帛切片は、その輪郭部分(および側面)の構成繊維は融着しており、繊維形状でなくなった箇所が存在し得る。
【0028】
本願発明にかかる布帛切片の一態様は、その外形形状に最も形状が近い回転対称を有する図形を想定した際に、前記外形形状と前記図形の相違度が0.041未満であることを特徴としている。布帛切片が、本願発明にかかる相違度を満足するものであるか否かは、以下の確認方法へ供することによって判断できる。図2~4を用いて説明する。
【0029】
(相違度の確認方法)
1.光学顕微鏡あるいは電子顕微鏡を用いて、布帛切片における一方の主面と垂直を成す方向から、布帛切片における一方の主面全体が写る顕微鏡写真を撮影する。なお、布帛切片の形状が大きい場合には、複写機などを用いてその主面全体が写る写真を撮影してもよい。
2.撮影し得られた写真に写る、布帛切片の輪郭をなぞる線を引く。引かれた線は図形A(図2の3、図3の3)を形成するものとなる。
3.写真上に前記図形A(図2の3、図3の3)を囲む最も面積の小さい、六角以下の正多角形(正三角形、正方形、正五角形、正六角形)、長方形、菱形、真円形、楕円形のうちいずれかの図形B(図2の4、図3の4)を作図する。作図される図形Bは、図形A(布帛切片の外形形状)に最も外径形状と大きさが近い回転対称を有する図形である。
4.図形Bの中心を通過し両端が図形Bの輪郭と交差する線分を、互いに等角度(互いに22.5°の鋭角)をなすようにして8本(線分a~線分h、図2~3では線分aに対してのみ引き出し線を図示)引く。
5.引かれた線分のうちの一本の線分aの長さ(5)を求める。また、当該線分a上における図形Aの輪郭と交差する点を両端とする線分a´の長さ(5´)を求める。そして、求めた両値を以下の式に代入して、割合(割合a)を算出する。
割合a=(線分aの長さ-線分a´の長さ)/線分aの長さ
6.残りの線分(線分b~線分h)についても同様にして、各割合(割合b~割合h)を算出する。
7.算出された各割合(割合a~割合h)の平均値を求め、布帛切片が有する相違度とする。
【0030】
その外形形状に最も形状が近い回転対称を有する図形を想定した際に、前記外形形状と前記図形の相違度が0.041未満の布帛切片は、当該図形と同じあるいは当該図形と同様の外形形状と大きさを有しているものである。
【0031】
相違度が0.000に近い布帛切片であるほど、意図する通りの外形形状を有する布帛切片であることを意味することから、相違度は0.041未満の布帛切片であって、相違度は0.040以下の布帛切片であるのが好ましく、相違度は0.035以下の布帛切片であるのが好ましく、相違度は0.030以下の布帛切片であるのが好ましく、理論上相違度が0.000であるのが最も好ましい。
【0032】
布帛や布帛切片の構成繊維(以降、構成繊維と略することがある)は、例えば、一種類以上の有機樹脂や無機成分を含むことができ、双方を含むこともできる。
【0033】
有機樹脂の種類は適宜選択でき、例えば、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、炭化水素の一部をシアノ基またはフッ素或いは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン系樹脂など)、スチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエーテル系樹脂(例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、二トリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース系樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル系樹脂(例えば、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)など、公知の樹脂を用いて構成できる。なお、これらの樹脂は、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、また樹脂がブロック共重合体やランダム共重合体でも構わず、また樹脂の立体構造や結晶性の有無がいかなるものでも、特に限定されるものではない。更には、多成分の樹脂を混ぜ合わせたものでも良い。
【0034】
無機成分の種類は適宜選択でき、例えば、リチウム、ベリリウム、ホウ素、炭素、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、硫黄、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、セレン、ルビジウム、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン、テルル、セシウム、バリウム、ランタン、ハフニウム、タンタル、タングステン、水銀、タリウム、鉛、ビスマス、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、又はルテチウムの各酸化物を挙げることができる。具体的には、SIO、AL、B、TIO、ZRO、CEO、FEO、FE、FE、VO、V、SNO、CDO、LIO、WO、NB、TA、IN、GEO、PBTI、LINBO、BATIO、PBZRO、KTAO、LI、NIFE、SRTIO、ヒドロキシアパタイト、炭酸アパタイト、ゼオライトなどを挙げることができる。なお、無機成分は一種元素の酸化物から構成されていても、二種以上の元素を含む酸化物から構成されていても良い。
【0035】
構成繊維は、例えば、溶融紡糸法、乾式紡糸法、湿式紡糸法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法など)、複合繊維から一種類以上の樹脂成分を除去することで繊維径が細い繊維を抽出する方法、繊維を叩解して分割された繊維を得る方法など公知の方法により得ることができる。
【0036】
また、構成繊維は有機樹脂と無機成分から構成されてなるものでも構わず、具体例として、有機樹脂繊維の表面に無機成分がコートされた繊維であってもよい。複数種類の樹脂から構成されてなる繊維として、一般的に複合繊維と称される、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型、バイメタル型などの態様であることができる。
【0037】
また、構成繊維は、略円形の繊維や楕円形の繊維以外にも異形断面繊維を含んでいてもよい。なお、異形断面繊維として、中空形状、三角形形状などの多角形形状、Y字形状などのアルファベット文字型形状、不定形形状、多葉形状、アスタリスク形状などの記号型形状、あるいはこれらの形状が複数結合した形状などの繊維断面を有する繊維であってもよい。
【0038】
なお、構成繊維は、その繊維内部や繊維表面に、例えば、難燃剤、香料、顔料、抗菌剤、抗黴材、光触媒粒子、乳化剤、分散剤、界面活性剤、加熱を受け発泡する粒子、ハイドロキシアパタイトなどの無機粒子、酸化防止剤、親水剤、撥水剤、表面電荷調整剤、タンパク質などの生理活性物質などの添加剤を含んでいてもよい。
【0039】
布帛が不織布である場合、不織布を構成する繊維ウェブは、例えば上述の繊維をカード装置やエアレイ装置などに供することで繊維を絡み合わせる乾式法、繊維を溶媒に分散させ不織布状に抄き繊維を絡み合わせる湿式法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法、紡糸原液と気体流を平行に吐出して紡糸する方法(例えば、特開2009-287138号公報に開示の方法)など)を用いて繊維の紡糸を行うと共にこれを捕集する方法、などによって調製できる。なお、不織布は構成繊維として、複数種類の繊維を含んでいてもよい。
【0040】
繊維ウェブの構成繊維を絡合および/または一体化させて不織布を調製できる。構成繊維同士を絡合および/または一体化させる方法として、ニードルや水流によって絡合する方法、バインダによって構成繊維同士を接着一体化させる方法、加熱処理によって接着繊維(全融解型接着繊維や芯鞘型接着繊維など)によって構成繊維同士を接着一体化させる方法などを挙げることができる。加熱処理の方法は適宜選択できるが、例えば、ロールにより加熱または加熱加圧する方法、オーブンドライヤー、遠赤外線ヒーター、乾熱乾燥機、熱風乾燥機などの加熱機へ供し加熱する方法、無圧下で赤外線を照射して含まれている樹脂を加熱する方法などを用いることができる。
【0041】
布帛の構成繊維の平均繊維径は、0.1~100μmであることができ、0.3~50μmであることができ、0.5~30μmであることができ、0.7~10μmであることができる。なお、「平均繊維径」とは、繊維を含む測定対象部分を撮影した光学顕微鏡写真あるいは電子顕微鏡写真をもとに測定した、50点の繊維における各繊維径の算術平均値をいう。また、繊維の断面形状が非円形である場合には、断面積と同じ面積の円の直径を繊維径とみなす。
【0042】
不織布の構成繊維の繊維長も特に限定するものではないが、短繊維や長繊維あるいは連続繊維と称される繊維であってもよく、使用する繊維長は適宜選択できる。ここでいう短繊維とは繊維長が100mm以下の繊維を指す。また、ここでいう長繊維とは繊維長が100mmよりも長い繊維を指す。なお、ここでいう連続繊維とは繊維長が100mmよりも長く繊維長を特定するのが困難な繊維(例えば、スパンボンド法、静電紡糸法、紡糸原液と気体流を平行に吐出して紡糸する方法などを用いて調製された繊維)である。「繊維長」は、JIS L1015(2010)、8.4.1c)直接法(C法)に則って測定した値をいう。
【0043】
布帛の諸物性は、用途に合わせ適宜調整できる。例えば、その目付は0.1~1000g/mであることができ、1~500g/mであることができ、5~100g/mであることができ、10~50g/mであることができる。なお、「目付」とは測定対象物の主面における1mあたりに換算した質量をいう。そして、その厚みは100mm以下であることができ、50mm以下であることができ、30mm以下であることができ、10mm以下であることができ、5mm以下であることができ、3mm以下であることができ、1mm以下であることができる。一方、厚みは1μm以上であるのが現実的である。なお、「厚み」とは、測定対象物の主面と垂直を成す方向におけるLITEMATIC(MITUTOYO社、VL-50S、測定に使用する端子の接触面積:28.77mm)による0.01N荷重時の長さを意味する。また、布帛の空隙率は70~99%であることができる。この「空隙率」は次の式により得られる値をいう。
【0044】
P=[1-M/(T×D)]×100
ここで、Mは測定対象物の目付(単位:g/m)、Tは測定対象物の厚み(単位:mm)、Dは測定対象物を構成する各種成分の平均密度(単位:g/cm)を、それぞれ意味する。
【0045】
また、布帛の通気度は適宜調整できるが、200cm/cm・sec~600cm/cm・secであることができ、250cm/cm・sec~550cm/cm・secであることができ、300cm/cm・sec~500cm/cm・secであることができる。ここでいう「通気度」とは、JIS L1913-2010[6.8.1(フラジール形法)]に基づく測定により得られた値をいう。
【0046】
また、布帛の表面は、プラズマ放電処理、UV処理、コロナ放電処理などが施されていてもよい。更に、カレンダーロールへ供するなど厚さを調整してもよい。
【0047】
布帛切片を構成する繊維の平均繊維径や繊維長、布帛切片の目付けや厚みならびに空隙率や通気度などの諸構成は、前述した布帛と同一であることができる。
【0048】
布帛切片の大きさは適宜調整されるものであるが、一例として、布帛切片を囲む最も面積の小さい真円の直径が1~100mmとなる布帛切片であることができ、当該直径が3~50mmのとなる布帛切片であることができ、当該直径が5~10mmのとなる布帛切片であることができる。
【0049】
次いで、本願発明にかかる布帛切片の製造方法について、例示し説明する。なお、既に説明した項目と構成を同じくする点については説明を省略する。また、図5図6に図示する布帛切片の製造装置(30)を例示して説明する。
【0050】
本願発明にかかる布帛切片の製造方法は、
工程(1)布帛(100)を用意する工程、
工程(2)前記布帛(100)をサクションノズル(31)上に吸引させ固定する工程、
工程(3)前記布帛(100)における前記サクションノズル(31)が存在する側と反対側から前記布帛(100)の主面に対し、レーザー(L)を作用させ、前記布帛(100)を溶断することで、前記サクションノズル(31)上に固定されている布帛切片(20)を得る工程、
を有する。このとき、工程(3)では、前記レーザー(L)を、前記サクションノズル(31)における前記布帛(100)と接している部分(32)よりも大きい形状を描くよう作用させる。
【0051】
まず、工程(1)について説明する。
【0052】
布帛切片(20)を調製するため使用する布帛(100)の種類は適宜調整できるが、布帛として不織布を採用する場合、特に平均繊維径の小さい繊維からなる通気度の低い不織布であることによってサクションノズル(31)上に吸引させ容易に固定できるよう、直接紡糸法(特に、静電紡糸法)によって調製された不織布を採用するのが好ましい。
【0053】
次いで、図5図6(a)を用いて、工程(2)について説明する。
サクションノズル(31)の形状や長さなどは、直下に作業台などが無く空中に固定された状態にある布帛 (100)に対しレーザー(L)を作用できる形状であればよく、適宜調整する。一例として、サクションノズル(31)として中空の円柱形状(ノズル)を採用できる。なお、サクションノズル(31)は貫通口を有する板状部材(34)に固定されていてもよく、サクションノズル(31)の開口(33)はその中空部分を通し、貫通口(35)を有する板状部材(34)の裏面まで貫通している態様であることができる。なお、図5では、サクションノズルの開口(33)とその中空部分ならびに板状部材(34)が有する貫通口(35)を併せて、灰色で図示している。サクションノズルの開口(33)-サクションノズル(31)の中空部分-板状部材(34)が有する貫通口(35)の順に通り、当該サクションノズル(31)の開口(33)から空気がサクションされることによって、布帛(100)は吸引されサクションノズル(31)上に固定される。
【0054】
サクションノズル(31)の長さは適宜調整できるが、直下に作業台などが無く空中に固定された状態にある布帛(100)に対しレーザー(L)を作用できるよう、その長さは0.5cm以上であるのが好ましく、1cm以上であるのが好ましく、1.5cm以上であるのが好ましい。特に、布帛切片を容器に収める場合、布帛切片(20)を収めようとする容器(例えば、ウェルプレート)の深さ以上の長さのサクションノズル(31)を用いることで、布帛(100)から切り出されサクションノズル(31)上に固定されている布帛切片(20)を、容器内へサクションノズル(31)ごと挿入して、その底部へ布帛切片(20)を収めることができ好ましい。
【0055】
サクションノズル(31)における布帛(100)と接する部分(32)の形状や大きさは、布帛(100)をサクションノズル(31)上に吸引し固定できるとともに、レーザーが当たらないように、意図した布帛切片の外形よりも小さければ良く、適宜調整できる。当該形状は一例として、中央に一つの開口を有する形状(サクションノズル(31)の直上から見た形状が円環形状)であってもよいが、メッシュ状であるなど複数の開口を有する形状であってもよい。このような形状であると、弛ませることなくサクションノズル(31)上に布帛(100)を吸引し固定でき好ましい。
【0056】
サクションノズル(31)における布帛(100)と接する部分(32)の形状や大きさ(サクションノズル(31)の外直径)は、意図した布帛切片の外形よりも小さければ良く適宜調整できるが、一例として、直径1mm~100mmの円形であることができ、直径1mm~50mmの円形であることができ、直径5mm~15mmの円形であることができる。
【0057】
また、サクションノズルの開口(33)の形状や大きさ(サクションノズル(31)の内直径)も適宜調整でき、サクションノズル(31)における布帛(100)と接する部分(32)の大きさ(外直径)よりも小さく、直径1mmより大きく100mm未満の円形であることができ、直径3mmより大きく50mm未満の円形であることができ、直径5mmより大きく15mm未満の円形であることができる。
【0058】
布帛(100)から布帛切片(31)を切り出すため使用する、サクションノズル(31)の本数とその配置態様は適宜調整できる。例えば、布帛切片を複数のウェルを備えたウェルプレートに納めて使用する細胞培養担体として使用する場合、複数のウェルを備えたウェルプレートの各ウェルへ同時に挿入可能な態様となるように、板状部材(34)に複数のサクションノズル(31)が固定されている態様(図示せず)であることができる。具体例として、96ウェルマイクロプレートの各ウェルへ同時に挿入可能な態様で、板状部材(34)に96本のサクションノズル(31)が固定されている布帛切片の製造装置(図示せず)を用いることができる。なお、各サクションノズル(31)の開口(33)はその中空部分を通し、いずれも固定されている板状部材(34)の貫通口(35)を通し裏面まで貫通している態様であることができる。
【0059】
布帛(100)をサクションノズル(31)上に吸引させ固定する際の、各サクションノズル(31)が発揮する吸引力は布帛に応じて適宜調整するが、0.1~5m/sであることができ、0.1~2m/sであることができ、0.1~1m/sであることができる。
【0060】
次いで、図5図6(b)(c)を用いて、工程(3)について説明する。
【0061】
布帛(100)へ作用させるレーザー(L)の出力や、レーザー(L)を布帛(100)へ作用させる時間は、布帛(100)を溶断して布帛切片(20)を切り出せるよう適宜調整できる。レーザー照射機(E)によるレーザー(L)の出力は0.1~150wであることができ、1~30wであることができ、3~10wであることができ、4~7wであることができる。レーザー(L)を布帛(100)へ作用させる時間は、布帛(100)の主面上をレーザー(L)が移動する速度によっても表現可能であり、その速度は秒速1~20cmであることができ、秒速1.5~10cmであることができ、秒速2~5cmであることができる。
【0062】
また、レーザー(L)の種類は適宜選択でき、例えば、炭酸ガスレーザー、UVレーザー、YAGレーザーなどを使用可能である。
本工程において、レーザー照射機(E)を動かすことでレーザー(L)を意図した形状を描くよう作用させることができ、布帛(100)から、当該意図した形状と同じ外形形状と大きさ、あるいは、当該意図した形状と同様の外形形状と大きさを有する布帛切片(20)を切り出すことができる。
【0063】
また、本工程においてレーザー(L)を、切り出すことを希望する布帛切片(意図した布帛切片)の回転対称を有する形状を描くよう作用させることで、布帛(100)から、当該意図した布帛切片の回転対称を有する形状と同じ外形形状と大きさ(相違度が0.000)、あるいは、当該意図した布帛切片の回転対称を有する形状と同様の外形形状と大きさ(相違度が0.000より大きく0.041未満の形状)を有する布帛切片(20)を切り出すことができる。
【0064】
布帛(100)に対しレーザー(L)を、意図した布帛切片の回転対称を有する形状を描くよう作用させるが、サクションノズル(31)の中央を中心にした六角以下の正多角形(正三角形、正方形、正五角形、正六角形)あるいは長方形や菱形、真円形や楕円形といった意図した布帛切片の形状を描くよう作用させる。このようにすることで、当該意図した布帛切片の回転対称を有する形状と同じ外形形状と大きさ(相違度が0.000)、あるいは、当該意図した布帛切片の回転対称を有する形状と同様の外形形状と大きさ(相違度が0.000より大きく0.041未満の形状)を有する布帛切片(20)を切り出すことができる。特に、切り出した布帛切片(20)を細胞培養担体として使用する場合、ウェル、フラスコ、ディッシュ、ボトルなどの底部へ設置し易いことから、レーザー(L)をサクションノズル(31)の中央を中心にした真円形状を描くよう作用させ、布帛(100)から布帛切片(20)を切り出すのが好ましい。
【0065】
レーザー(L)を意図した布帛切片の形状を描くよう作用させる時、レーザー(L)はサクションノズル(31)における前記布帛(100)と接している部分(32)よりも、大きい意図した布帛切片の形状を描くよう作用させるものである。
【0066】
その意図した布帛切片の形状の大きさは当該部分(32)の大きさに、布帛(100)に照射するレーザー(L)の大きさを加えたものよりも、大きいものであればよく適宜調整できる。例えば、布帛(100)と接する部分(32)の形状が外径5mmの真円形状であって、布帛(100)から布帛切片(20)を切り出すため照射するレーザー(L)が直径2mmの真円形状である場合、レーザー照射機(E)を動かすことで、布帛(100)と接する部分(32)の中心と同じ中心を有する直径が6mmよりも大きい真円の輪郭を照射するレーザー(L)の中心がなぞるようにして、布帛(100)へレーザー(L)を作用させることにより、外径が5mm以上の意図した真円形状の布帛切片を切り出すことができる。
【0067】
このとき、照射されるレーザー(L)が、サクションノズル(31)における前記布帛(100)と接している部分の最大直径よりも0.1mm以上離れた部分に作用するよう調整するのが好ましく、0.15mm以上離れた部分に作用するよう調整するのが好ましい。
【0068】
なお上限値は適宜調整できるが、サクションノズル(31)における前記布帛(100)と接している部分の最大直径よりも3倍以下の大きさの布帛切片(20)が切り出されるように調整するのが現実的である。
【0069】
なお、図7図8に図示するように、サクションノズル(31)の長さと同じ厚さを有すると共に、サクションノズル(31)を挿入可能な貫通口(52)を有する、支持板(51)を備える布帛切片の製造装置(50)を用いてもよい。
【0070】
支持板(51)を用いることによって、布帛(100)におけるサクションノズル(31)上に固定されていない部分を支持板(51)で保持した状態にして、布帛(100)から布帛切片(20)を切り出すことができる。その結果、布帛(100)を弛ませることなくサクションノズル(31)上に布帛(100)を吸引し固定でき、意図する通りの外形形状を有する布帛切片(20)を切り出すことができ好ましい。
【0071】
支持板(51)が備える貫通口(52)の大きさは、レーザー(L)が布帛(100)から布帛切片(20)を切り出すため動く範囲(作用する大きさ)よりも大きいものとなるよう調整されている。具体的には、サクションノズル(31)を支持板(51)が備える貫通口(52)へ挿入した際の、サクションノズル(31)と貫通口(52)とのクリアランス(53、サクションノズル(31)の直上から見た際の、サクションノズル(31)と貫通口(52)との最短距離)をレーザーが通過して、布帛(100)から布帛切片(20)が切り出されるように、支持板(51)が備える貫通口(52)の大きさが調製される。
【0072】
当該クリアランスは使用する照射するレーザー(L)の大きさよりも長いものであればよく適宜調整できるが、0.5mm以上大きいのが好ましく、1mm以上大きいのが好ましく、3mm以上大きいのが好ましく、5mm以上大きいのが好ましい。なお上限値は適宜調整できるが、サクションノズル(31)における前記布帛(100)と接している部分の最大直径の3倍以下であるのが現実的である。
【0073】
なお、複数のサクションノズル(31)が固定されている板状部材(34)に対応できるよう、支持板(51)は各サクションノズル(31)を挿入可能となる複数の貫通口(52)を備える態様(図示せず)であってもよい。例えば、96本のサクションノズル(31)が固定されている板状部材(図示せず)に対応できるよう、各サクションノズル(31)を挿入できる96個の貫通口(52)を備える支持板(図示せず)を採用できる。
【0074】
このようにして布帛切片(20)はサクションノズル(31)上に切り出される。サクションノズル(31)上から取り外された布帛切片(20)は、そのまま様々な産業用途へ提供し使用できるが、厚みを調整する工程や、例えば、スルホン化処理、フッ素ガス処理、ビニルモノマーのグラフト重合処理、界面活性剤処理、放電処理、あるいは親水性樹脂付与処理、プラズマ放電処理、UV処理、コロナ放電処理などの処理工程へ供してもよい。また、滅菌処理工程や包装工程などへ供してなる製品の態様で提供してもよい。
【0075】
また、布帛切片(20)はウェル底部へ設置して細胞培養キットなどの各種キットや、滅菌処理工程や包装工程などへ供してなる製品の態様で提供してもよい。
【実施例0076】
以下、実施例によって本願発明を具体的に説明するが、これらは本願発明の範囲を限定するものではない。
【0077】
(無機繊維不織布の調製方法)
金属化合物としてのテトラエトキシシラン、溶媒としてのエタノール、加水分解のための水、及び触媒として1規定の塩酸を、1:5:2:0.003のモル比で混合し、温度78℃で10時間の還流操作を行い、次いで、溶媒をロータリーエバポレーターにより除去して濃縮した後、温度60℃に加熱して、粘度が2ポイズのゾル溶液を形成した。
得られたゾル溶液を用いて、静電紡糸法によりゲル状シリカ連続繊維を紡糸するとともに、前記ゲル状シリカ連続繊維とは反対極性のイオンを照射し、紡糸液の吐出方向と垂直を成す方向に設けた捕集部材上に集積させ、ゲル状シリカ連続繊維ウエブを形成した。つまり、特開2005-264374号公報の実施例8と同様の紡糸条件でゲル状シリカ連続繊維ウエブを形成した。なお、紡糸条件は以下の通りであった。
【0078】
(1)紡糸ノズル:内径0.4mmの金属製注射針(先端カット)第1高電圧電源により電圧が印荷されている、
(2)紡糸ノズルと対向電極との距離:200mm、
(3)対向電極及びイオン発生電極(両電極を兼ねる):ステンレス板(誘起電極)上に厚さ1mmのアルミナ膜(誘電体基板)を溶射し、その上に直径30μmのタングステンワイヤ(放電電極)を10mmの等間隔で張った沿面放電素子(タングステンワイヤ面を紡糸ノズルと対向させると共に接地し、ステンレス板とタングステンワイヤ間に交流高電圧電源により50Hzの交流高電圧を印加)、第2高電圧電源により電圧が印荷されている、
(4)第1高電圧電源:-16kV、
(5)第2高電圧電源:±5kV(交流沿面のピーク電圧:5kV、50Hz)、
(6)気流:紡糸液の吐出方法(水平方向)に25cm/sec、当該紡糸液の吐出方向と垂直を成す方向(鉛直方向)に15cm/sec、
(7)紡糸容器内の雰囲気:温度25℃、湿度40%RH以下。
【0079】
次に、前記ゲル状シリカ連続繊維ウエブを、温度800℃で3時間の熱処理をすることにより乾燥し、乾燥シリカ連続繊維同士の交点で接着した乾燥シリカ連続繊維不織布を作製した。
【0080】
続いて、金属化合物としてテトラエトキシシラン、溶媒としてエタノール、加水分解のための水、及び触媒として硝酸を、1:7.2:7:0.0039のモル比で混合し、温度25℃、攪拌条件300rpmで15時間反応させた後、酸化ケイ素の固形分濃度が0.25%となるようにエタノールで希釈してシリカゾル溶液を調製した。
そして、前記乾燥シリカ連続繊維不織布を前記シリカゾル溶液に浸漬した後、吸引により余剰のシリカゾル溶液を除去した後、温度500℃で3時間焼成して、内部を含む全体における焼結シリカ連続繊維同士を、被膜を形成することなくシリカゾル溶液由来のシリカで接着した。このようにして、構成繊維が焼結シリカ連続繊維のみからなるバインダ接着不織布(平均繊維径:800nm、目付:8.0g/m、厚さ:0.35mm、以降、バインダ接着不織布と称することがある)を調製した。
【0081】
(レーザーによる切り出し条件)
バインダ接着不織布における一方の主面からもう一方の主面へ向けて、以下の条件でレーザーを作用させバインダ接着不織布を溶断して、直径6.046mmの真円の外形形状を有する切片を切り出すことを試みた。
・レーザーの種類:パルス状炭酸ガスレーザー(波長:10.6μm、当該主面へ照射されるレーザーの形状:直径127μmの真円形状)
・レーザー照射の構成:レーザー照射数:1000パルス/インチ、最大出力10W、レーザー照射の最大移動速度:秒速20cm
・レーザー照射機の動き:照射されるレーザーの中心が、直径6.3mmの真円の輪郭をなぞるようにして、レーザー照射機を動かしレーザーを作用させた。
【0082】
(比較例1)
アルミ製の平板形状を有する作業台の上にバインダ接着不織布を置き、露出しているバインダ接着不織布における露出している一方の主面からもう一方の主面へ向けて、レーザーを作用させバインダ接着不織布を溶断して切片を切り出した。
その後、作業台上から切片を回収した。
【0083】
(比較例2)
アルミ製のハニカム形状(ハニカムコアセルサイズ:1/4インチ、開口率:97.8%)を有する作業台を用い、作業台とつながる貫通口にサクション装置を接続した。サクション装置の働きによって、アルミ製のハニカム形状の開口部から空気が吸われてバインダ接着不織布を吸引させ固定した。前記以外は比較例1と同じ条件で、バインダ接着不織布におけるアルミ製のハニカム形状の開口部が存在する側と反対側の一方の主面からもう一方の主面へ向けて、レーザーを作用させバインダ接着不織布を溶断して切片を切り出した。
最後に、アルミ製のハニカム形状の開口部による吸引を停止して、作業台上から切片を回収した。
【0084】
(実施例1)
図5に図示する製造装置と同様の構成を有する、製造装置を用意した。なお、製造装置の詳細は以下の通りである。
・サクションノズルの形状(サクションノズルにおけるバインダ接着不織布と接する部分):真円形状、中心に真円形状の開口を有する
・サクションノズルの外直径:5.5mm
・サクションノズルの内直径(開口の直径):4mm
・サクションノズルの長さ:15.5mm
・サクションノズルの開口による吸引の強さ:0.8m/s
両主面間を貫通する貫通口を有する板状部材を用意した。次いで、板状部材における一方の主面に存在する貫通口に、サクションノズルを固定した。また、板状部材におけるもう一方の主面に存在する貫通口に、サクション装置を接続した。
これにより、サクションノズルの開口付近に存在する空気は、サクションノズルの開口からサクションノズルの内部と板状部材の内部を通過して、板状部材におけるもう一方の主面に存在する貫通口からサクション装置によって吸引されるものとなった。
次いで、バインダ接着不織布をサクションノズル上に乗せ、サクション装置を働かしサクションノズルの開口から空気を吸引することで、バインダ接着不織布をサクションノズル上に吸引させ固定した。その後、バインダ接着不織布におけるサクションノズルが存在する側と反対側の一方の主面からもう一方の主面へ向けて、レーザーを作用させバインダ接着不織布を溶断して切片を切り出した。
このとき、真円形を描くようレーザーを作用させたが、当該真円形の中心と、サクションノズルをその直上から見た形状の中心とが重なるようにして、レーザーを、サクションノズルにおけるバインダ接着不織布と接している部分よりも大きい形状を描くよう作用させた。
最後に、サクションノズルによる吸引を停止して、サクションノズル上から切片を回収した。
【0085】
(実施例2)
実施例1で使用した板状部材に固定されたサクションノズルに加え、貫通口を有する支持板を用意して、図7に図示した製造装置と同様の構成を有する、製造装置を用意した。なお、製造装置の詳細は以下の通りである。
・支持板の形状:サクションノズルを挿入可能な貫通口を有する、厚さ15.5mmの板形状
・支持板が有する貫通口の形状:支持板の一方の主面からもう一方の主面まで、厚さ方向に貫通する貫通口(直径6.5mm、高さ15.5mmの円柱形状を有する貫通口)
なお、支持板における貫通口の中央にサクションノズルを挿入可能であって、挿入時におけるサクションノズルと支持板とのクリアランスは0.5mmであった。
板状部材に固定されたサクションノズルを支持板の貫通口に、奥まで挿入した。このようにして用意した製造装置を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、レーザーを作用させバインダ接着不織布を溶断して切片を切り出した。
このとき、真円形を描くようレーザーを作用させたが、当該真円形の中心と、サクションノズルをその直上から見た形状の中心とが重なるようにして、レーザーを、サクションノズルにおけるバインダ接着不織布と接している部分よりも大きい形状を描くよう作用させた。
また、レーザーは、支持板が有する貫通口とサクションノズルとの間(クリアランスを有する部分)を通過するものであった。
最後に、サクションノズルによる吸引を停止して、サクションノズル上から切片を回収した。
【0086】
比較例および実施例で調製したバインダ接着不織布の切片(布帛切片)では、いずれも、その外形形状における輪郭部分および側面の全体に、バインダ接着不織布の構成繊維が融解して切断されたことに起因する、構成繊維が融解することで融着しており繊維形状でなくなった箇所が存在していた。
【0087】
以上のようにして調製した、各バインダ接着不織布から切り出した切片の物性を表1にまとめ記載した。なお、得られた切片に、意図しない収縮やその輪郭部分に意図しない凹みが生じているか否か、当該切片における一方の主面全体が写る顕微鏡写真を撮影し、当該顕微鏡写真を目視で確認して評価した。当該収縮や当該凹みが生じていた切片については、表中の「収縮や凹みの有無」欄に「有」と記載し、当該収縮や当該凹みが生じていない切片については、表中の「収縮や凹みの有無」欄に「無」と記載した。
【0088】
【表1】
【0089】
実施例によって、直径6.046mmの真円の外形形状を有する切片と同様の外形形状と大きさを有する切片を切り出し提供することができた。一方、比較例では切り出された切片に、意図しない収縮やその輪郭部分に意図しない凹みが発生しており、直径6.046mmの真円の外形形状を有する切片と同様の外形形状と大きさを有する切片を提供することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本願発明にかかる布帛切片は、例えば、細胞培養担体、スキャフォールド、抗菌材料、液体又は気体用濾過材など様々な産業用途に使用できる。
【符号の説明】
【0091】
100:布帛
10:従来技術にかかる製造方法を用いて切り出された布帛切片
11:輪郭部分
1:意図しない収縮
2:意図しない凹み
3:図形A
4:図形B
a:線分a
a´:線分a´
5:線分aの長さ
5´: 線分aにおける図形Aの輪郭と交差する点を両端とする線分a´の長さ
20:本願発明にかかる製造方法を用いて切り出された布帛切片
30:布帛切片の製造装置
31:サクションノズル
32:サクションノズルにおける布帛と接する部分
33:サクションノズルの開口
34:板状部材
35:板状部材が有する貫通口
50:別の布帛切片の製造装置
51:支持板
52:貫通口
53:サクションノズルと貫通口とのクリアランス
L:レーザー
E:レーザー照射機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8