(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076290
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】電磁式燃料噴射弁
(51)【国際特許分類】
F02M 61/16 20060101AFI20240529BHJP
F02M 51/06 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
F02M61/16 X
F02M51/06 A
F02M61/16 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187807
(22)【出願日】2022-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】梅野 暁大
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕也
【テーマコード(参考)】
3G066
【Fターム(参考)】
3G066AD07
3G066BA22
3G066BA56
3G066CC01
3G066CC14
3G066CC66
3G066CD11
3G066CE22
(57)【要約】
【課題】電磁式燃料噴射弁において,燃料レール管から燃料入口筒に到来する脈動圧力を減衰するオリフィス部材を燃料フィルタと一体化して,オリフィス部材及び燃料フィルタを一回の圧入工程で燃料入口筒への装着を可能とすると共に,合成樹脂製のフィルタ支持環を圧入荷重から保護し得るようにする。
【解決手段】板金製とするオリフィス部材24は,合成樹脂製のフィルタ支持環19bの外周面を覆ってフィルタ支持環19bに結合される円筒状の補強環24aと,オリフィス24dを有してフィルタ支持環19bの外端面に当接するように補強環24aの一端に連設される天井壁24bとで構成され,補強環24aが燃料入口筒16の内周面に圧入される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前端部に弁座(27)を有する弁ハウジング(9),該弁ハウジング(9)の後端に連設される中空の固定コア(14),及び該固定コア(14)の後端に連設される中空の燃料入口筒(16)を有する噴射弁本体(Ia)と,前記固定コア(14)の外周に配設されるコイル(32)と,前記弁座(27)と協働する弁部(42)を有する弁体(40)と,前記固定コア(14)の前端面に対向しながら前記噴射弁本体(Ia)内に摺動可能に配設され,前記コイル(32)の通電時,前記固定コア(14)に吸引されて前記弁体(40)を開弁方向に作動する可動コア(41)と,前記噴射弁本体(Ia)の内周面に圧入される中空円筒状のリテーナ(50)と,該リテーナ(50)及び前記弁体(40)間に縮設されて,該弁体(40)を閉弁方向へ付勢する弁ばね(54)と,フィルタケージ(19a)の開口端に合成樹脂製のフィルタ支持環(19b)を連設してなり,前記燃料入口筒(16)内に配設される燃料フィルタ(19)と,前記リテーナ(50)の内径よりも小径のオリフィス(24d)を有して前記燃料入口筒(16)内に配設されるオリフィス部材(24)とを備え,
前記燃料入口筒(16)には,燃料ポンプ(P)の吐出ポートに連なる燃料レール管(20)から分岐する燃料分配キャップ(21)が接続される,
電磁式燃料噴射弁であって,
前記オリフィス部材(24)は金属製であって,前記合成樹脂製のフィルタ支持環(19b)の外周面を覆いながら該フィルタ支持環(19b)に結合される円筒状の補強環(24a)と,前記オリフィス(24d)を有して前記フィルタ支持環(19b)の外端面に当接するように前記補強環(24a)の一端に連設される天井壁(24b)とで構成され,
前記補強環(24a)が前記燃料入口筒(16)の内周面に圧入されることを特徴とする電磁式燃料噴射弁。
【請求項2】
前記補強環(24a)が前記フィルタ支持環(19b)の外周面に嵌合され,該補強環(24a)の他端には,前記天井壁(24b)と協働して前記フィルタ支持環(19b)を軸方向に挟持するように該フィルタ支持環(19b)の環状顎部(19b′)側にかしめられる複数の係止片(24c)が連設されることを特徴とする,請求項1に記載の電磁式燃料噴射弁。
【請求項3】
前記係止片(24c)の根元の両側に一対の切欠き(24e)が設けられることを特徴とする,電磁式燃料噴射弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,エンジンの燃料供給系に使用される電磁式燃料噴射弁に関し,特に,前端部に弁座を有する弁ハウジング,該弁ハウジングの後端に連設される中空の固定コア,及び該固定コアの後端に連設される中空の燃料入口筒を有する噴射弁本体と,前記固定コアの外周に配設されるコイルと,前記弁座と協働する弁部を有する弁体と,前記固定コアの前端面に対向しながら前記噴射弁本体内に摺動可能に配設され,前記コイルの通電時,前記固定コアに吸引されて前記弁体を開弁方向に作動する可動コアと,前記噴射弁本体の内周面に圧入される中空円筒状のリテーナと,該リテーナ及び前記弁体間に縮設されて,該弁体を閉弁方向へ付勢する弁ばねと,前記燃料入口筒内に装着される燃料フィルタとを備え,前記燃料入口筒には,燃料ポンプの吐出ポートに連なる燃料レール管から分岐する燃料分配キャップが接続される電磁式燃料噴射弁の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
かかる電磁式燃料噴射弁は,下記特許文献1に開示されるように既に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6788085号公報
【特許文献2】特開2007-285283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かかる電磁式燃料噴射弁では,エンジンの作動中,燃料ポンプの間歇作動や,複数の燃料噴射弁における燃料の間歇噴射等に起因して燃料レール管内で発生する燃料の脈動圧力が燃料フィルタを通過して噴射弁本体内に伝播し,可動コアや弁体の作動に影響し,細密な燃料噴射特性の確保を困難にすることがある。
【0005】
そこで,本件出願人は,燃料入口筒に,燃料フィルタの上流位置を占めるオリフィス部材を装着し,このオリフィス部材には,前記リテーナの内径よりも小径のオリフィスを設け,これにより,燃料レール管から燃料入口筒に到来する脈動圧力を減衰して,可動コアや弁体への影響を解消することを既に開発してきた。
【0006】
ところで,これまで,本件出願人が開発してきた電磁式燃料噴射弁では,燃料フィルタを,円筒状のフィルタケージの上端に合成樹脂製のフィルタ支持環を連設して構成し,そのフィルタ支持環を燃料入口筒部の内周面に圧入し,続いて金属製のオリフィス部材を圧入していたので,合成樹脂製のフィルタ支持環では燃料入口筒への圧入結合力を充分に確保することが困難である上,圧入工程を,燃料フィルタとオリフィス部材のために2回行う必要があって,組立性が良いとは言えず,それらの改善が求められていた。
【0007】
一方,前記特許文献2には,電磁式燃料噴射弁において,燃料入口筒に,燃料フィルタの上流位置を占める厚肉円筒部材を装着することが開示されている。このものは,可動コアや弁体の作動音を厚肉円筒部材の厚肉部で吸収して,作動音の外部への漏れを防ごうとするものであり,上記厚肉円筒部材の内径を,弁ばねの固定端を支持するリテーナの内径よりも大径に設定しているので,燃料レール管から燃料入口筒に到来する脈動圧力を減衰し得るものではない。
【0008】
本発明は,かかる事情に鑑みてなされたもので,オリフィス部材を燃料フィルタと一体化して,オリフィス部材及び燃料フィルタを一回の圧入工程で燃料入口筒への装着を可能とすると共に,合成樹脂製のフィルタ支持環を圧入荷重から保護し得る前記電磁式燃料噴射弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために,本発明は,前端部に弁座を有する弁ハウジング,該弁ハウジングの後端に連設される中空の固定コア,及び該固定コアの後端に連設される中空の燃料入口筒を有する噴射弁本体と,前記固定コアの外周に配設されるコイルと,前記弁座と協働する弁部を有する弁体と,前記固定コアの前端面に対向しながら前記噴射弁本体内に摺動可能に配設され,前記コイルの通電時,前記固定コアに吸引されて前記弁体を開弁方向に作動する可動コアと,前記噴射弁本体の内周面に圧入される中空円筒状のリテーナと,該リテーナ及び前記弁体間に縮設されて,該弁体を閉弁方向へ付勢する弁ばねと,フィルタケージの開口端に合成樹脂製のフィルタ支持環を連設してなり,前記燃料入口筒内に配設される燃料フィルタと,前記リテーナの内径よりも小径のオリフィスを有して前記燃料入口筒内に配設されるオリフィス部材とを備え,前記燃料入口筒には,燃料ポンプの吐出ポートに連なる燃料レール管から分岐する燃料分配キャップが接続される電磁式燃料噴射弁であって,前記オリフィス部材は金属製であって,前記合成樹脂製のフィルタ支持環の外周面を覆いながら該フィルタ支持環に結合される円筒状の補強環と,前記オリフィスを有して前記フィルタ支持環の外端面に当接するように前記補強環の一端に連設される天井壁とで構成され,前記補強環が前記燃料入口筒の内周面に圧入されることを第1の特徴とする。
【0010】
また,本発明は,第1の特徴に加えて,前記補強環が前記フィルタ支持環の外周面に嵌合され,該補強環の他端には,前記天井壁と協働して前記フィルタ支持環を軸方向に挟持するように該フィルタ支持環の環状顎部側にかしめられる複数の係止片が連設されることを第2の特徴とする。
【0011】
さらに,本発明は,第2の特徴に加えて,前記係止片の根元の両側に一対の切欠きが設けられることを第3の特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の特徴によれば,オリフィス部材を,合成樹脂製のフィルタ支持環の外周面を覆いながらフィルタ支持環に結合される円筒状の補強環と,オリフィスを有してフィルタ支持環の外端面に当接するように補強環の一端に連設される天井壁とで構成することにより,オリフィス部材及び燃料フィルタを一体化した一つの組立体を構成することができる。そして,この組立体は,補強環を燃料入口筒の内周面に圧入することにより,燃料入口筒に一挙に装着することができるので,燃料噴射弁の組立性が向上し,コスト低減に寄与し得る。しかも,補強環は,大なる圧入荷重に耐えて強固に燃料入口筒に結合可能となると共に,合成樹脂製のフィルタ支持環を圧入荷重から保護することができる。さらに,補強環の一端に連なる天井壁は,リテーナの内径よりも小径のオリフィスを有するので,そのオリフィスの絞り抵抗により,燃料レール管から燃料入口筒に到来する脈動圧力を減衰して,可動コアや弁体への影響を解消し,安定した燃料噴射特性を維持することができる。
【0013】
本発明の第2の特徴によれば,補強環の円筒部にフィルタ支持環を嵌合し,次いで複数の係止片をフィルタ支持環の環状顎部側にかしめる,という簡単な操作により,オリフィス部材・燃料フィルタの組立体を得ることができ,生産性の向上に寄与し得る。
【0014】
本発明の第3の特徴によれば,係止片の根元の両側に一対の切欠きが設けられることにより,係止片の根元のかしめ部に皺が発生することを防ぎ,その皺による補強環の変形を未然に防ぐことができるため,補強環の燃料入口筒への圧入を適正に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る電磁式燃料噴射弁をエンジンへの装着状態で示す縦断面図。
【
図4】
図1中のオリフィス部材・燃料フィルタの組立体の製作工程説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態について添付の
図1~
図4を参照しながら説明する。
【0017】
先ず,
図1において,多気筒エンジンEのシリンダヘッド5には,複数のシリンダの燃焼室6に燃料を噴射し得る複数の電磁式燃料噴射弁I(図には,その1個のみを示す。以下,単に燃料噴射弁と言う。)と,これら燃料噴射弁Iの上方に配置される燃料レール管20とが取り付けられる。燃料レール管20の一端には,これに燃料を圧送する燃料ポンプPの吐出ポートが接続される。また燃料レール管2には,複数の燃料分配キャップ21(図には,その1個のみを示す。)が分岐して形成されており,各燃料分配キャップ21が対応する燃料噴射弁Iに接続される。
【0018】
尚,本発明の電磁式燃料噴射弁Iでは,燃料噴射側,即ち下流側を前方,燃料流入側,即ち上流側を後方とする。
【0019】
図1及び
図2において,燃料噴射弁Iの弁ハウジング9は,中空円筒状のハウジングボディ10と,このハウジングボディ10の前端部内周に嵌合して溶接される弁座部材11と,ハウジングボディ10の後端部外周に前端部を嵌合させてハウジングボディ10に溶接される磁性円筒体12と,この磁性円筒体12の後端部に前端部が同軸に結合される非磁性円筒体13とで構成される。非磁性円筒体13の後端部には,中空部15aを有する円筒状の固定コア14の前端部が同軸に結合され,この固定コア14の後端部には,前記中空部15aよりもやや小径の中空部15bを有する燃料入口筒16が一体に且つ同軸に連設される。而して,上記弁ハウジング9,固定コア14及び燃料入口筒16により噴射弁本体Iaが構成される。
【0020】
磁性円筒体12は,その軸方向中間部にフランジ状のヨーク部12aを一体に有しており,装着孔7の外端を囲繞するようにしてシリンダヘッド5に設けられる環状凹溝17に収容されるクッション材18が,シリンダヘッド5及びヨーク部12a間に介装される。
【0021】
燃料入口筒16の後端部外周に,前記燃料分配キャップ21が環状のシール部材22を介して嵌合される。燃料分配キャップ21の頂部にはブラケット23が係止され,このブラケット23は,シリンダヘッド5に立設される不図示の支柱に適当な固定手段(例えばボルト)を以てシリンダヘッド5に着脱可能に締結される。また,この燃料入口筒16の入口には,オリフィス部材24・燃料フィルタ19の組立体Aが装着される。この組立体Aについては後に詳述する。
【0022】
燃料分配キャップ21と,燃料入口筒16の中間部に設けられて燃料分配キャップ21側に臨む環状段部25との間には,板ばねからなる弾性部材26が介装される。この弾性部材26が発揮する弾発力で燃料噴射弁Iがシリンダヘッド5に保持される。
【0023】
弁座部材11は,端壁部11aを前端部に有して有底円筒状に形成されており,前記端壁部11aには,円錐状の弁座27が形成されると共に,その弁座27の中心近傍に開口する複数の燃料噴孔28が設けられる。この弁座部材11は,燃料噴孔28を燃焼室6に向けて開口するようにしてハウジングボディ10の前端部に嵌合,溶接される。即ち弁ハウジング9が,その前端部に弁座27を有するように構成される。
【0024】
磁性円筒体12の後端部から固定コア14に至る外周面にはコイル組立体30が嵌装される。このコイル組立体30は,上記外周面に嵌合するボビン31と,このボビン31に巻装されるコイル32とからなり,このコイル組立体30を囲繞する磁性体のコイルハウジング33の前端部が磁性円筒体12と結合される。
【0025】
固定コア14の後端部外周は,コイルハウジング33の後端部に連なってモールド成形される合成樹脂製の被覆層34で被覆されており,この被覆層34には,コイル32に連なる端子35を保持するカプラ34aが噴射弁本体Iaの一側方に突出するようにして一体に形成される。
【0026】
固定コア14の前端小径部に,固定コア14に外周面を連ならせるようにして非磁性円筒体13の後端部が嵌合され,液密に溶接される。
【0027】
弁座部材11から非磁性円筒体13に至る弁ハウジング9内には,弁体40の一部と可動コア41とが収容される。弁体40は,弁座27と協働して燃料噴孔28を開閉する弁部42に,固定コア14内まで延びるロッド43が連設されてなる。そして,弁部42は,弁座部材11内で摺動するように,球状に形成され,ロッド43は弁部42よりも小径に形成される。弁座部材11及びロッド43間には環状の燃料通路44が画成され,弁部42の外周面には,弁座部材11との間に燃料通路を画成する複数の平面部45が形成される。したがって弁座部材11は,弁体40の開閉動作を案内しながら燃料の通過を許容する。
【0028】
前記可動コア41は,その後端面(被吸引面)41aを固定コア14の前端面(吸引面)14aに対向させながら,弁ハウジング9の内周面とロッド43の外周面とに摺動及び回転可能に嵌装される。また,可動コア41は,磁性円筒体12及び非磁性円筒体13に跨がって配置される。
【0029】
この可動コア41のロッド43上での助走ストロークgを規定するために,可動コア41を挟むように並ぶ開弁側ストッパ48及び閉弁側ストッパ49がロッド43に溶接により固着される。その際,開弁側ストッパ48は,可動コア41の,固定コア14に対向する後端面41aに当接可能に対向し,閉弁側ストッパ49は,可動コア41の前端面に当接可能に対向するように配置される。
【0030】
而して,弁体40の閉弁状態では,可動コア41は,閉弁側ストッパ49に当接していて,開弁側ストッパ48との間に前記助走ストロークに対応する間隙gを挟んで対向し,この間隙gは,閉弁側ストッパ49に当接状態の可動コア41と固定コア14との間に設けられる間隙m,即ち可動コア41の全可動ストロークmよりも小さく設定される。したがって,コイル32の通電に伴い固定コア14が可動コア41を吸引したときは,可動コア41は,先ず助走ストロークgを移動して開弁側ストッパ48に当接し,次いで開弁側ストッパ48を押し上げながら全可動ストロークmの終点に達して固定コア14に吸着されるタイミングとなる。而して,可動コア41の全可動ストロークmと助走ストロークgとの差vが,弁体40の開弁ストロークとなる。
【0031】
開弁側ストッパ48は,固定コア14の内周面に摺動自在に嵌合するフランジ部48aと,このフランジ部48aから可動コア41側に突出する円筒状の軸部48bとで構成される。そして,フランジ部48aが溶接によりロッド43に固着され,弁体40の閉弁位置では軸部48bの一部が吸引面14aよりも可動コア41側に突出するように配置される。
【0032】
燃料入口筒16の中空部15bにはリテーナ53が配置される。このリテーナ50は,すり割り50a付きで拡径方向に弾性を有する円筒体よりなっていて,燃料入口筒16の内周面に圧入され,さらにかしめて固定される。このリテーナ50と開弁側ストッパ48との間に弁ばね54が縮設され,この弁ばね54は,所定のセット荷重をもって弁体40を閉弁方向へ付勢する。この弁ばね54のセット荷重は,燃料入口筒16内周面への前記リテーナ50の圧入位置の調整により設定することができる。
【0033】
また,開弁側ストッパ48のフランジ部48aと可動コア41との間には,開弁側ストッパ48の軸部48bを囲繞する補助ばね55が縮設される。この補助ばね55は,弁ばね54のセット荷重よりも小さいセット荷重を付与されており,可動コア41を開弁側ストッパ48から離反させて閉弁側ストッパ49に当接させる側に付勢する。
【0034】
ロッド43の後端部は,開弁側ストッパ48のフランジ部48aよりも突出し,弁ばね54の可動端部の内周面に嵌合して,その位置決めの役割を果たしている。また開弁側ストッパ48の軸部48bは,補助ばね55の内周面に嵌合して,その位置決めの役割を果たしている。
【0035】
開弁側ストッパ48のフランジ部48aの外周の複数箇所には,固定コア14の内周面との間に燃料通路を画成する平面部57が設けられ,また可動コア41には,環状配列の複数の燃料通孔58が設けられる。
【0036】
さて,
図3により,前記オリフィス部材24・燃料フィルタ19の組立体Aについて詳しく説明する。
【0037】
燃料フィルタ19は,濾網よりなるフィルタケージ19aと,このフィルタケージ19aの開口端に形成される合成樹脂製で円筒状のフィルタ支持環19bとで構成される。
【0038】
一方,オリフィス部材24は,素材を鋼板とする板金製であって,円筒状の補強環24aと,この補強環24aの一端部に連設される天井壁24bと,補強環24aの他端部から延出して補強環24aの周方向に沿って等間隔に並ぶ複数本(図示例では4本)の係止片24cとよりなっており,天井壁24bの中心部には,前記リテーナ50の内径よりも小径のオリフィス24dが穿設される。
【0039】
而して,補強環24aは,前記フィルタ支持環19bの外周面に,それを覆うように嵌合され,係止片24cは,天井壁24bと協働してフィルタ支持環19bを挟持するように,フィルタ支持環19bの環状顎部19b′側にかしめられる。
【0040】
こうして,燃料フィルタ19及びオリフィス部材24は一体的に結合され,一つの組立体Aを構成する。そして,補強環24aが前記燃料入口筒16の内周面に圧入することにより,組立体Aは燃料入口筒16に装着される。
【0041】
次に,この実施形態の作用について説明する。
【0042】
燃料噴射弁Iにおいて,コイル32の非通電状態では,弁体40は,弁ばね54のセット荷重によって押圧されることで,弁座27に着座して燃料噴孔28を閉鎖する閉弁状態となる。一方,可動コア41は,補助ばね55のセット荷重により閉弁側ストッパ49との当接位置に保持され,固定コア14に対して間隙mを挟んで対向する。
【0043】
この閉弁状態では,燃料ポンプPから燃料レール管20に吐出される高圧燃料が燃料分配キャップ21を通して燃料噴射弁Iに供給される。そして,その高圧燃料は,オリフィス24dを経てフィルタケージ19aで濾過され,燃料入口筒16,リテーナ53,固定コア14,可動コア41,弁ハウジング9等の内部を満たして待機する。
【0044】
このような閉弁状態でコイル32に通電すると,固定コア14及び可動コア41間に生じる磁力により,可動コア41は,固定コア14に吸引されるので,先ず,セット荷重が小さい補助ばね55を圧縮しながら,ロッド43上を
図2で助走ストロークgを助走して開弁側ストッパ48に当接して突き上げる。即ち可動コア41は,その助走により,弁ばね54よりセット荷重が小さい補助ばね55を素早く圧縮しながら固定コア14に近接し,固定コア14からの吸引力の急増を得て,開弁側ストッパ48を勢いよく突き上げる。
【0045】
したがって,可動コア41は,開弁側ストッパ48を伴いながら,弁ばね54の大なるセット荷重に抗して素早く全可動ストロークmの後半を移動して可動コア41に吸着される。
【0046】
こうして可動コア41と共に移動する開弁側ストッパ48は,弁体40のロッド43と一体化されているので,弁体40は,規定の開弁ストロークvを移動して弁部42を弁座27から離座させ,開弁状態とすることができる。弁体40が開弁すると,弁ハウジング9等の内部で待機する高圧燃料が燃料噴孔28からエンジンEの燃焼室6に直接噴射される。このようにして,弁体40の開弁応答性が高められると共に,コイル32の消費電力の軽減を図ることができる。
【0047】
次に,コイル32への通電を遮断すると,弁ばね54の大なるセット荷重により開弁側ストッパ48が押動されるので,開弁側ストッパ48は可動コア41及び弁体40を伴なって弁座27側に直ちに移動し,弁部42を弁座27に着座させ,閉弁状態となって燃料噴孔28からの燃料噴射を停止する。この弁体40の閉弁状態は,弁ばね54の大なるセット荷重により確実に保持される。
【0048】
一方,可動コア41は,補助ばね55のセット荷重により押圧され,閉弁側ストッパ49に支承される。
【0049】
この間,燃料ポンプPの間歇作動等に起因して燃料レール管20内で発生する燃料圧力の脈動が燃料分配キャップ21を経て燃料入口筒16に到来すると,その圧入脈動は,燃料入口筒16内に配設されるオリフィス部材24の,リテーナ50の内径よりも小径のオリフィス24dの絞り作用により減衰して,可動コア41や弁体40への影響を解消し,安定した燃料噴射特性を維持することができる。
【0050】
ところで,上記オリフィス部材24は,合成樹脂製のフィルタ支持環19bの外周面を覆いながらフィルタ支持環19bに結合される円筒状の補強環24aと,オリフィス24dを有してフィルタ支持環19bの外端面に当接するように補強環24aの一端に連設される天井壁24bとで構成されることで,燃料フィルタ19と共に一つの組立体Aを構成することになる。その組立体Aは,補強環24aを燃料入口筒16の内周面に圧入することにより,燃料入口筒16に一挙に装着されるので,燃料噴射弁Iの組立性が向上し,コストの低減に寄与し得る。
【0051】
しかも,補強環24aは,大なる圧入荷重に耐えて強固に燃料入口筒16に結合可能となると共に,合成樹脂製のフィルタ支持環19bを圧入荷重から保護することができる。
【0052】
次に,
図4により,前記組立体Aの製作工程について説明する。
【0053】
図4(A)に示すように,先ず,燃料フィルタ19と,かしめ前の係止片24cを補強環24aの下端から下方へ延出させたオリフィス部材24とを用意する。その際,各係止片24cの根元の両側に一対の切欠き24eが設けられる。
【0054】
次に,
図4(B)に示すように,補強環24aをフィルタ支持環19bに嵌合して,各係止片24cをフィルタ支持環19bの下方へ突出させる。
【0055】
次に,
図4(C)に示すように,複数本の係止片24cを半径方向内方へかしめて,フィルタ支持環19bの環状顎部19b′に押しつけて,これら係止片24cと天井壁24bとでフィルタ支持環19bを挟持する。これら係止片24cのかしめの際,それらの根元の切欠き24eにより,それら根元の屈曲部に皺が発生することを防ぐことができ,その皺が補強環24aに波及することを未然に回避することができる。したがって,変形のない補強環24aは,燃料入口筒16に所定の圧入荷重をもって適正に圧入することができる。
【0056】
以上,本発明の実施の形態について説明したが,本発明は上記実施形態に限定されるものではなく,特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。例えば,補助ばね55を用いず,可動コア41にロッド43を固着して,可動コア41により弁体40を直接駆動する形式の電磁式燃料噴射弁に本発明を適用することもできる。また,フィルタ支持環19b及び補強環24aは,燃料フィルタ19の合成樹脂による成形時,オリフィス部材24を金型にセットしておくことにより,モールド結合することもできる。
【符号の説明】
【0057】
A・・・・オリフィス部材・燃料フィルタの組立体
I・・・・電磁式燃料噴射弁
Ia・・・噴射弁本体
P・・・・燃料ポンプ
9・・・・弁ハウジング
14・・・固定コア
16・・・燃料入口筒
19・・・燃料フィルタ
19a・・フィルタケージ
19b・・フィルタ支持環
19b′・・環状顎部
20・・・燃料レール管
21・・・燃料分配キャップ
24・・・オリフィス部材
24a・・補強環
24b・・天井壁
24c・・係止片
24d・・オリフィス
24e・・切欠き
27・・・弁座
32・・・コイル
40・・・弁体
41・・・可動コア
42・・・弁部
50・・・リテーナ
54・・・弁ばね