(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076345
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】光学フィルターおよび組成物
(51)【国際特許分類】
G02B 5/22 20060101AFI20240529BHJP
G02B 5/28 20060101ALI20240529BHJP
C08L 101/06 20060101ALI20240529BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
G02B5/22
G02B5/28
C08L101/06
C08L101/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023174450
(22)【出願日】2023-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2022187614
(32)【優先日】2022-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江畑 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】重岡 大介
(72)【発明者】
【氏名】村田 裕亮
(72)【発明者】
【氏名】飯田 智士
(72)【発明者】
【氏名】畠山 耕治
【テーマコード(参考)】
2H148
4J002
【Fターム(参考)】
2H148CA04
2H148CA12
2H148CA23
2H148GA09
2H148GA19
4J002BC02X
4J002BC04W
4J002BC12W
4J002BG00X
4J002BG07X
4J002BK00X
4J002CC04W
4J002CD00X
4J002CD19X
4J002CE00W
4J002CE00X
4J002CF00X
4J002CF08X
4J002CF16X
4J002CG00X
4J002CH00X
4J002CH07X
4J002CL00X
4J002CL06X
4J002CM04X
4J002CN03X
4J002FD096
4J002GP00
(57)【要約】
【課題】アルカリ洗浄しても所望の光学特性を維持しつつ、かつ、高温高湿などの劣悪な環境下でもガラス支持体および光学膜(例:誘電体多層膜)との密着性に優れる層を得ることができる組成物、ならびに該層を有する光学フィルターを提供すること。
【解決手段】繰り返し単位にフェノール構造を有する重合体(A)と、該重合体(A)以外の重合体(B)と、波長670~1200nmの範囲に吸収極大波長(λmax)を有する色素(C)とを含有する組成物から形成された層(D)を有する光学フィルター。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰り返し単位にフェノール構造を有する重合体(A)と、該重合体(A)以外の重合体(B)と、波長670~1200nmの範囲に吸収極大波長(λmax)を有する色素(C)とを含有する組成物から形成された層(D)を有する光学フィルター。
【請求項2】
前記組成物中の前記重合体(A)および(B)の合計を100質量%としたとき、前記重合体(A)の含有量が、0.5~35質量%である、請求項1に記載の光学フィルター。
【請求項3】
前記層(D)と、ガラス支持体とを有する、請求項1または2に記載の光学フィルター。
【請求項4】
前記層(D)の、前記ガラス支持体とは反対側に誘電体多層膜を有する、請求項3に記載の光学フィルター。
【請求項5】
繰り返し単位にフェノール構造を有する重合体(A)と、該重合体(A)以外の重合体(B)と、波長670~1200nmの範囲に吸収極大波長(λmax)を有する色素(C)とを含有する組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルターおよび組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、カメラ機能付き携帯電話、スマートフォンなどの固体撮像装置には、カラー画像の固体撮像素子であるCCDやCMOSイメージセンサーが使用されている。これら固体撮像素子では、その受光部において人間の目では感知できない近赤外線に感度を有するシリコンフォトダイオードなどが使用されている。また、光学センサー装置でも、シリコンフォトダイオードなどが使用されている。
例えば、固体撮像素子では、人間の目で見て自然な色合いにさせる視感度補正を行うことが必要であり、特定の波長領域の光線を選択的に透過もしくはカットする光学部材、特に光学フィルター(例:近赤外線カットフィルター)を用いることが多い。
【0003】
このような近赤外線カットフィルターとしては、従来から、各種方法で製造されたものが使用されている。
例えば、特許文献1には、ノルボルネン系樹脂などの透明樹脂、近赤外線吸収剤およびポリエステル系添加剤を含む透明樹脂基材を有する近赤外線カットフィルターが記載されている。また、特許文献2には、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂およびポリエステル樹脂などの透明樹脂と、シランカップリング剤とを含有する樹脂層を有する光学フィルターが記載されている。さらに、特許文献3には、特定の色素および樹脂を含有する基材を有する光学フィルターが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-090646号公報
【特許文献2】特開2014-063144号公報
【特許文献3】特開2021-134350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光学フィルターの好適例としては、樹脂層(樹脂製基材)とガラス支持体との積層体を含む光学フィルターが挙げられ、また、樹脂層(樹脂製基材)に、誘電体多層膜等の光学膜を形成した光学フィルターが挙げられる。このような光学フィルターには、その所望の光学特性を長期にわたり発揮するために、樹脂層(樹脂製基材)とガラス支持体との密着性や、樹脂層(樹脂製基材)と光学膜との密着性が求められるが、前記特許文献等に記載の従来公知の光学フィルターに用いられてきた樹脂層(樹脂製基材)は、ガラス支持体や光学膜との密着性の点で改善の余地があることがわかった。
【0006】
また、イメージセンサー付近に実装されることの多い光学フィルターは、異物等が付着していることが画質劣化に直結することから、ガラス支持体を含む光学フィルターは、該ガラス支持体に付着した異物や油脂などを、アルカリを用いて洗浄・除去してから使用されることが多いが、このようなアルカリを用いた洗浄等を行うと、従来の光学フィルターでは、該光学フィルターを構成する樹脂層(樹脂製基材)の光学特性が低下してしまうことがあることが分かり、この点でも改善の余地があることが分かった。
【0007】
さらに、光学フィルターは、信頼性が要求されており、特に、高温高湿環境下で長期間保持した後においても、各層界面での高い密着性が要求される。
【0008】
特許文献2では、多量のシランカップリング剤の配合により、吸収層形成組成物の保存安定性を損ない、また、形成した光学フィルターの透過率等の光学特性を犠牲にすることでガラスの初期の密着性は確保しているものの、前記信頼性が不足しており、高温高湿環境下で長期間保持した後の密着性に改善の余地があった。
【0009】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、アルカリ洗浄しても所望の光学特性を維持しつつ、かつ、高温高湿下などの劣悪な環境下でもガラス支持体および光学膜(例:誘電体多層膜)との密着性に優れる層を得ることができる組成物、ならびに該層を有する光学フィルターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記構成例によれば前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の構成例は以下の通りである。
なお、本発明において、数値範囲を表す「A~B」等の記載は、「A以上、B以下」と同義であり、AおよびBをその数値範囲内に含む。また、本発明において、波長A~Bnmとは、波長Anm以上、波長Bnm以下の波長領域における波長分解能1nmにおける特性を表す。
【0011】
[1] 繰り返し単位にフェノール構造を有する重合体(A)と、該重合体(A)以外の重合体(B)と、波長670~1200nmの範囲に吸収極大波長(λmax)を有する色素(C)とを含有する組成物から形成された層(D)を有する光学フィルター。
【0012】
[2] 前記組成物中の前記重合体(A)および(B)の合計を100質量%としたとき、前記重合体(A)の含有量が、0.5~35質量%である、[1]に記載の光学フィルター。
【0013】
[3] 前記層(D)と、ガラス支持体とを有する、[1]または[2]に記載の光学フィルター。
【0014】
[4] 前記層(D)の、前記ガラス支持体とは反対側に誘電体多層膜を有する、[3]に記載の光学フィルター。
【0015】
[5] 繰り返し単位にフェノール構造を有する重合体(A)と、該重合体(A)以外の重合体(B)と、波長670~1200nmの範囲に吸収極大波長(λmax)を有する色素(C)とを含有する組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、アルカリ洗浄しても所望の光学特性を維持しつつ(以下「アルカリ洗浄耐性」ともいう。)、かつ、高温高湿下などの劣悪な環境下でもガラス支持体および光学膜(例:誘電体多層膜)との密着性に優れる層を容易に得ることができる組成物、ならびに、該層を有する光学フィルターを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例1で得られた光学フィルターの分光透過率スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
≪組成物≫
本発明に係る組成物(以下「本組成物」ともいう。)は、繰り返し単位にフェノール構造を有する重合体(A)、該重合体(A)以外の重合体(B)、および波長670~1200nmの範囲に吸収極大波長(λmax)を有する色素(C)を含有する組成物である。
【0019】
本組成物中の重合体(A)のフェノール性水酸基とガラス支持体表面のシラノール基との水素結合の寄与により、ガラス支持体との密着性に優れる層を容易に形成することができると考えられる。さらに、重合体(A)を用いることで、本組成物から得られた層は、該層上に光学膜(例:誘電体多層膜)を形成した場合であっても、蒸着後の光学膜の残留応力に耐え得る靭性や、該残留応力を緩和する適度な柔軟性を有するため、光学膜との密着性にも優れると考えられる。
【0020】
<繰り返し単位にフェノール構造を有する重合体(A)>
本組成物は、繰り返し単位にフェノール構造を有する重合体(A)(以下「重合体(A)」ともいう。)を含有する。
重合体(A)は「繰り返し単位」にフェノール構造を有するため、「繰り返し単位」にフェノール構造を有さず、末端にフェノール構造を有する重合体のみを用いた場合に比べ、本組成物は前記効果を奏し、特にアルカリ洗浄耐性、ならびに、ガラス支持体および光学膜(例:誘電体多層膜)との密着にバランスよく優れる層を容易に得ることができる。
本組成物に用いる重合体(A)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0021】
重合体(A)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~300,000である。
【0022】
重合体(A)としては、例えば、特開2009-132935号公報、特開2019-119833号公報、特開2022-118415号公報、特開平06-263845号公報、特表2007-507596号公報、特許第4210216号公報等に記載のポリヒドロキシスチレン系樹脂、フェノール系樹脂(ノボラック系樹脂、レゾール樹脂、フェノール-キシリレングリコール縮合樹脂、クレゾール-キシリレングリコール縮合樹脂、フェノール-ジシクロペンタジエン縮合樹脂を含む)、4-ヒドロキシフェニルメタクリレート等のフェノール構造を有する(メタ)アクリレートの(共)重合体が挙げられる。これらの中でもポリヒドロキシスチレン系樹脂およびフェノール系樹脂が好ましく、ポリヒドロキシスチレン系樹脂およびノボラック系樹脂がより好ましい。
【0023】
繰り返し単位にフェノール構造を有する重合体としては特に制限されないが、好ましくは、下記式(1)および(2)で表される構造単位から選ばれる少なくとも1つの構造単位を含む重合体、フェノール樹脂(特にノボラック系樹脂)が挙げられる。
【0024】
【化1】
[式(1)中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1~20の1価の炭化水素基、該炭化水素基の一部が、ハロゲン原子、酸素原子、硫黄原子、窒素原子およびリン原子から選ばれる少なくとも1つを含む基で置換された基であり、nは、0~3の整数であり、Aは、炭素数1~30の2価の炭化水素基、該炭化水素基の一部が、ハロゲン原子、酸素原子、硫黄原子、窒素原子およびリン原子から選ばれる少なくとも1つを含む基で置換された基である。]
【0025】
前記Aの好適例としては、メチレン基、下記式(1-1)で表される基、下記式(1-2)で表される基が挙げられる。
前記式(1)におけるRの好適例としては、水素原子、水酸基、ヒドロキシメチル基が挙げられる。
前記nは0または1が好ましい。
【0026】
【0027】
【0028】
【化4】
[式(2)中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1~20の1価の炭化水素基、該炭化水素基の一部が、ハロゲン原子、酸素原子、硫黄原子、窒素原子およびリン原子から選ばれる少なくとも1つを含む基で置換された基であり、mは、0~4の整数であり、Bは、炭素数1~30の3価の炭化水素基、該炭化水素基の一部が、ハロゲン原子、酸素原子、硫黄原子、窒素原子およびリン原子から選ばれる少なくとも1つを含む基で置換された基である。]
【0029】
前記式(2)で表される構造単位の好適例としては、下記式(2-1)で表される構造単位が挙げられる。
【0030】
【0031】
重合体(A)としては、以下の市販品を用いることができる。ノボラック系樹脂としては、例えば、住友ベークライト(株)製「スミライトレジンPR-12603」、荒川化学工業(株)製「KP-911」、JFEケミカル(株)製「J-DPP-95」が挙げられる。
【0032】
重合体(A)の含有量は、前記重合体(A)および(B)の合計100質量%に対し、好ましくは0.5~35質量%、より好ましくは1~30質量%、特に好ましくは2~25質量%である。
重合体(A)の含有量が前記範囲内にあると、アルカリ洗浄耐性、ならびに、ガラス支持体および光学膜との密着にバランスよく優れ、特にアルカリ洗浄耐性に優れる層を容易に得ることができる。
【0033】
<重合体(B)>
本組成物は、前記重合体(A)以外の重合体(B)を含有する。
本組成物に用いる重合体(B)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0034】
重合体(B)としては、前記重合体(A)以外の重合体であれば特に限定されないが、例えば、熱安定性や本組成物から形成される層への成形性を確保し、かつ、本組成物から形成される層に対し、高温蒸着(例:100℃以上)で誘電体多層膜を容易に形成することができる等の点から、ガラス転移温度(Tg)が、好ましくは110~380℃、より好ましくは110~370℃、特に好ましくは120~360℃である重合体が挙げられる。また、重合体(B)のTgが140℃以上であると、本組成物から形成される層に対し、誘電体多層膜をより高温で蒸着形成することができるため、特に好ましい。
【0035】
重合体(B)としては、当該重合体からなる厚さ0.1mmの重合体板の全光線透過率(JIS K 7375:2008)が、好ましくは75~95%、さらに好ましくは78~95%、特に好ましくは80~95%となる重合体を用いることができる。
全光線透過率が前記範囲にある重合体を用いると、透明性に優れる層や光学フィルターを容易に得ることができる。
【0036】
重合体(B)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは15,000~350,000、より好ましくは30,000~250,000であり、数平均分子量(Mn)は、好ましくは10,000~150,000、より好ましくは20,000~100,000である。
【0037】
重合体(B)としては、例えば、環状(ポリ)オレフィン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド(アラミド)系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリサルホン系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、ポリパラフェニレン系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)系樹脂、フッ素化芳香族ポリマー系樹脂、(変性)アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂が挙げられる。これらの樹脂の具体例としては、国際公開第2019/168090号等に記載の樹脂が挙げられる。
【0038】
重合体(B)としては、前記重合体(A)以外の重合体であれば特に限定されないが、例えば、酸基および水酸基を有さない重合体(B1)、酸基を有さないが、末端に水酸基を有する重合体(B2)、および、酸基を有する重合体(B3)が好ましい。これらの重合体の中でも、高温高湿環境下での体積変化が起り難い層を容易に得ることができ、光学膜との密着信頼性に優れる層を容易に得ることができる等の点から、重合体(B1)および重合体(B2)が好ましく、重合体(B1)がより好ましい。
【0039】
本発明において酸基とは、酸性を示す基であり、例えば、カルボキシ基、リン酸基、スルホ基、酸無水物基、ジスルホン酸無水物基、ピロリン酸基が挙げられる。
【0040】
(重合体(B1))
重合体(B1)は、酸基および水酸基を有さない重合体である。
前記重合体(B1)としては、例えば、以下の市販品を用いることができる。環状オレフィン系樹脂としては、JSR(株)製「ARTON R5000」や「ARTON G7810」等が挙げられ、ポリカーボネート系樹脂としては、帝人(株)製「ピュアエースRW」等が挙げられ、ポリアリレート系樹脂としては、ユニチカ(株)製「Unifiner M-2040」等が挙げられ、ポリエステル系樹脂としては、大阪ガスケミカル(株)製「OKP-2」等が挙げられる。
【0041】
(重合体(B2))
重合体(B2)は、酸基を有さないが、末端に水酸基を有する重合体である。
重合体(B2)としては、例えば、前記重合体(B1)を末端水酸基変性した重合体が挙げられる。
前記末端に存在する水酸基は、好ましくはフェノール性水酸基である。
【0042】
前記重合体(B2)としては、例えば、以下の市販品を用いることができる。ポリカーボネート系樹脂としては、帝人(株)製「パンライトL1250」等が挙げられ、ポリエーテルスルホン系樹脂としては、住友化学(株)製)「スミカエクセル4100P」等が挙げられる。
【0043】
(重合体(B3))
重合体(B3)は、酸基を有する重合体であり、少なくとも1つの酸基を有する。前述した酸基の中でも、カルボキシ基が好ましい。
前記重合体(B3)としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリイミド系樹脂等が挙げられ、例えば、以下の市販品を用いることができる。ポリスチレン系樹脂としては、DIC(株)製「Ryurex A-14」や、Polyscope社製「XIRAN3840」等が挙げられ、ポリイミド系樹脂としては、河村産業(株)製「KPI-MX400F」等が挙げられる。
【0044】
<色素(C)>
本組成物は、波長670~1200nmの範囲に吸収極大波長(λmax)を有する色素(C)を含有する。
色素(C)としては、本組成物の用途に応じて、従来公知の色素の中から、適宜選択すればよいが、可視光領域(430~580nm)の光を十分に透過し、近赤外波長領域(670~1200nm)の光を十分に吸収する能力を有する近赤外線吸収剤が好ましい。
前記λmaxは、680~1100nmの範囲にあることが好ましい。
なお、本明細書において、前記λmaxは、色素(C)をジクロロメタンまたはメタノールに溶解させた溶液の透過スペクトルを、日本分光(株)製の分光光度計(V-7200)を用いて測定することにより判断する。
さらに、色素(C)は溶剤可溶型の色素化合物であることが好ましい。
本組成物に用いる色素(C)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0045】
色素(C)としては、無機化合物、有機化合物および有機無機化合物(例:リン酸銅)のいずれでも特に制限はなく、例えば、染料や色素として用いられている種々の公知物質を含む化合物を用いることができる。これらの化合物としては、例えば、アゾ系、アゾメチン系、アゾピリドン系化合物、ピラゾロンアゾ系化合物、インドール系化合物、アントラキノン系化合物、キノフタロン系化合物、クマリン系化合物、ジピロメテン系化合物、ピロロピロール系化合物、ジケトピロロピロール系化合物、ジフェニルメタン系化合物、トリアリールメタン系化合物、キサンテン系化合物、アクリジン系化合物、ポリメチン系化合物、オキソノール系化合物、メロシアニン系化合物、アリーリデン系化合物、ベンジリデン系化合物、シアニン系化合物、スクアリリウム系化合物、クロコニウム系化合物、ペリレン系化合物、ジオキサジン系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、テトラアザポルフィリン系化合物、サブフタロシアニン系化合物およびそれらの金属キレート化合物から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。なお、ポリメチン系化合物は、オキソノール系化合物、メロシアニン系化合物、アリーリデン系化合物、ベンジリデン系化合物、シアニン系化合物、スクアリリウム系化合物、クロコニウム系化合物を除くポリメチン化合物であり、フタロシアニン系化合物はポルフィリン系化合物、テトラアザポルフィリン系化合物を除くフタロシアニン系化合物である。
【0046】
これらの中でも、アゾメチン系化合物、アゾピリドン系化合物、ピラゾロンアゾ系化合物、インドール系化合物、アントラキノン系化合物、クマリン系化合物、ジピロメテン系化合物、トリアリールメタン系化合物、キサンテン系化合物、ポリメチン系化合物、メロシアニン系化合物、ベンジリデン系化合物、シアニン系化合物、スクアリリウム系化合物、クロコニウム系化合物、ペリレン系化合物、ジオキサジン系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、テトラアザポルフィリン系化合物、サブフタロシアニン系化合物およびそれらの金属キレート化合物から選ばれる少なくとも1種が好ましく、
アゾメチン系化合物、アゾピリドン系化合物、ピラゾロンアゾ系化合物、インドール系化合物、クマリン系化合物、ジピロメテン系化合物、トリアリールメタン系化合物、キサンテン系化合物、ポリメチン系化合物、メロシアニン系化合物、シアニン系化合物、スクアリリウム系化合物、クロコニウム系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、テトラアザポルフィリン系化合物、サブフタロシアニン系化合物およびそれらの金属キレート化合物から選ばれる少なくとも1種がさらに好ましい。
【0047】
具体的な色素の構造については、例えば、「新版染料便覧」(有機合成化学協会編;丸善、1970)、「色素ハンドブック」(大河原他編;講談社、1986)などに記載されている。
【0048】
色素(C)の含有量は、前記重合体(A)および(B)の合計100質量部に対し、好ましくは0.05~10質量部、より好ましくは0.1~5質量部、さらに好ましくは0.2~2質量部である。
色素(C)の含有量が前記範囲内にあると、色素(C)の有する光吸収特性が十分に発揮され、本組成物から形成される層は、所望の光学特性を有する。
【0049】
<その他の成分>
本組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の色素(C)以外の色素、密着促進剤、蛍光消光剤および金属錯体系化合物、溶剤等の、前記重合体(A)、重合体(B)および色素(C)以外のその他の成分を含有してもよい。また、キャスト成形等により本組成物から層や光学フィルターを製造する場合には、該層や光学フィルターの製造を容易にするためにレベリング剤や消泡剤を添加することができる。
これらその他の成分は、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0050】
なお、これらその他の成分は、後述する基材(I)を製造する際に、色素および重合体などとともに混合してもよいし、重合体を合成する際に添加してもよい。また、添加量は、所望の特性に応じて適宜選択すればよいが、前記重合体(A)および(B)の合計100質量部に対して、好ましくは0.01~5.0質量部、より好ましくは0.01~2.0質量部である。
【0051】
なお、本組成物は、保存安定性に優れる本組成物を容易に得ることができる等の点から、実質的にシランカップリング剤を含まないことが好ましい。
ここで、実質的にシランカップリング剤を含まないとは、本組成物に、あえてシランカップリング剤を配合しないことをいう。
【0052】
前記酸化防止剤としては、例えば、フェノール系化合物(例:ヒンダードフェノール化合物)、リン系化合物(例:亜リン酸エステル系化合物)、チオエーテル系化合物が挙げられる。
フェノール系化合物としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,2'-ジオキシ-3,3'-ジ-t-ブチル-5,5'-ジメチルジフェニルメタン、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンが挙げられる。
リン系化合物としては、例えば、トリス[2-[[2,4,8,10-テトラキス(1,1-ジメチルエチル)ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン-6-イル]オキシ]エチル]アミン、トリス[2-[(4,6,9,11-テトラ-tert-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン-2-イル)オキシ]エチル]アミン、亜リン酸エチルビス(2,4-ジ-tert-ブチル-6-メチルフェニル)が挙げられる。
【0053】
酸化防止剤の市販品としては、例えば、(株)ADEKA製のアデカスタブシリーズやBASF SE製のIRGANOXシリーズ、住友化学(株)製の、Sumilizerシリーズが挙げられる。
【0054】
前記紫外線吸収剤としては、例えば、ヒンダードアミン系化合物、アゾメチン系化合物、インドール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、アントラセン系化合物、シアノアクリレート系化合物、特開2019-014707号公報に記載の化合物が挙げられる。
【0055】
前記密着促進剤としては、例えば、ビスフェノールやトリスフェノール等の前記重合体(A)以外のフェノール性水酸基を有する化合物が挙げられる。
密着促進剤を用いることにより、本組成物から得られる層とそれに接する層との密着性を向上させることができる。
【0056】
前記溶剤としては、前記重合体(A)、重合体(B)、色素(C)およびその他の成分を分散または溶解することが可能な溶剤であることが好ましい。
具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類;
テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン等のエーテル類;
酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等のエステル類;
メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メトキシエタノール、4-メチル-2-ペンタノール、2-ブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類; エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類;
エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル類;
エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;
n-ヘキサン、n-ヘプタン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ガソリン、軽油、灯油等の炭化水素類;
アセトニトリル、ニトロメタン、水等が挙げられる。
【0057】
本組成物中の溶剤の含有量は、本組成物中の固形分の含有量が、好ましくは5~40質量%、より好ましくは7.5~30質量%となるような量である。
【0058】
≪光学フィルター≫
本発明に係る光学フィルター(以下「本フィルター」ともいう。)は、基材(I)を有する。
該基材(I)は、本組成物から形成された層(以下「層(D)」ともいう。)を有し、1層以上の層(D)と1つ以上のガラス支持体とを含むことが好ましい。この場合、ガラス支持体の主面(面積の最も大きい面)の少なくとも一方上に、層(D)を有することが好ましく、本発明の効果がより発揮される等の点から、ガラス支持体と少なくとも1つの層(D)とは接していることが好ましい。
【0059】
<基材(I)>
基材(I)は、単層であっても多層であってもよく、層(D)を有すればよい。前記基材(I)は、2層以上の層(D)を有していてもよく、この場合、2層以上の層(D)は、同一であっても、異なっていてもよい。
【0060】
基材(I)が単層の場合は、該基材(I)は層(D)からなり、つまり、層(D)(重合体製基板)が基材(I)である。
基材(I)が多層の場合は、該2層以上の層のうち少なくとも1つが層(D)である基材や、層(D)とガラス支持体とを含む基材が挙げられ、好適例としては、ガラス支持体やベースとなる重合体製支持体などの支持体上に層(D)が積層された積層体を含む基材(X)、層(D)上に、硬化性重合体等からなるオーバーコート層などの層が積層された積層体を含む基材(Y)が挙げられ、ガラス支持体上に層(D)が積層された積層体を含む基材(X’)がより好ましい。
層(D)とガラス支持体とを含む基材としては、本発明の効果がより発揮される等の点から、層(D)とガラス支持体とは接していることが好ましい。
【0061】
なお、前記重合体製支持体や基材(Y)におけるオーバーコート層などの層は、色素(C)を含まない層のことをいう。該色素(C)を含まない層は、1種以上の重合体を含めば特に制限されない。 該重合体としては、例えば、本組成物の欄に記載の重合体(A)および(B)と同様の重合体が挙げられる。
また、該色素(C)を含まない層は、後述のその他の機能膜であってもよい。
【0062】
前記ガラス支持体としては特に制限されないが、フツリン酸塩系ガラス、近赤外線吸収ガラス(例:リン酸塩系ガラス等にCuO等を添加した吸収型のガラス)、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス、サファイヤガラス等からなるガラス支持体が挙げられる。なお、前記「リン酸塩ガラス」には、ガラスの骨格の一部がSiO2で構成されるケイリン酸塩ガラスも含まれるものとする。
前記基材(I)に含まれるガラス支持体は、1つでもよく、2つ以上であってもよい。前記基材(I)に含まれるガラス支持体が2つ以上である場合、前記基材(I)は、同様のガラス支持体を2つ以上有していてもよく、異なるガラス支持体を2つ以上有していてもよい。
【0063】
ガラス支持体の厚みは、所望の用途に応じて適宜選択することができ、特に制限されないが、好ましくは0.1~1.0mmである。
【0064】
層(D)の厚みは、所望の用途に応じて適宜選択することができ、特に制限されないが、好ましくは1~20μm、より好ましくは2~15μm、さらに好ましくは3~10μmである。
層(D)の厚みが前記範囲にあると、所望の光学特性を有する光学フィルターを容易に得ることができ、固体撮像装置等の様々な用途に好適に用いることができる。
【0065】
[基材(I)の製造方法]
前記層(D)、前記重合体製支持体および前記オーバーコート層などの層は、例えば、溶融成形またはキャスト成形により形成することができ、さらに、必要により、成形後に、反射防止剤、ハードコート剤および/または帯電防止剤等のコーティング剤をコーティングしてもよい。
【0066】
前記基材(I)が、基材(X)である場合、例えば、前記支持体に、本組成物を溶融成形またはキャスト成形することで、好ましくはスピンコート、スリットコート、インクジェットなどの方法にて塗工した後に溶媒を乾燥除去し、必要に応じてさらに光照射や加熱を行うことで、支持体上に層(D)が形成された基材を製造することができる。
【0067】
・溶融成形
前記溶融成形としては、具体的には、本組成物を溶融混練りして得られたペレットを溶融成形する方法;本組成物を溶融成形する方法;溶剤を含む液状の本組成物から溶剤を除去して得られたペレットを溶融成形する方法などが挙げられる。溶融成形方法としては、射出成形、溶融押出成形またはブロー成形などを挙げることができる。
【0068】
・キャスト成形
前記キャスト成形としては、溶剤を含む液状の本組成物を適当な支持体の上にキャスティングして溶剤を除去する方法;前記重合体として光硬化性重合体および/または熱硬化性重合体を含む、硬化性の本組成物を適当な支持体の上にキャスティングして溶媒を除去した後、紫外線照射や加熱などの適切な手法により硬化させる方法などが挙げられる。
前記基材(I)が、前記単層の基材(I)である場合には、該基材(I)は、キャスト成形後、前記適当な支持体から塗膜を剥離することにより得ることができ、また、前記基材(I)が、前記基材(X)である場合には、該基材(I)は、キャスト成形後、塗膜を剥離しないことで得ることができる。
【0069】
前記適当な支持体としては、例えば、ガラス板、スチールベルト、スチールドラムおよび重合体(例えば、ポリエステルフィルム、環状オレフィン系重合体フィルム)製支持体が挙げられる。
【0070】
さらに、ガラス板、石英またはプラスチック製等の光学部品に、前記液状の本組成物をコーティングして溶剤を乾燥させる方法、または、前記硬化性の本組成物をコーティングして硬化および乾燥させる方法などにより、光学部品上に層(D)を形成することもできる。
【0071】
前記重合体製支持体およびオーバーコート層などの層を溶融成形またはキャスト成形により形成する場合には、前記溶融成形やキャスト成形の欄における本組成物の代わりに、重合体を含む所望の組成物(但し、色素(C)を含まない)を用いればよい。
【0072】
前記層(D)、前記重合体製支持体および前記オーバーコート層などの層中の残留溶剤量は可能な限り少ない方がよい。具体的には、該残留溶剤量は、これら各層の重さ100質量%に対して、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。
残留溶剤量が前記範囲にあると、変形や特性が変化しにくい、所望の機能を容易に発揮できる層が得られる。
基材(I)を光学フィルターに用いる場合は、前記層(D)、前記重合体製支持体および前記オーバーコート層などの層中の溶剤含有量を100質量ppm以下に抑えることが好ましい。
【0073】
<誘電体多層膜>
本フィルターは、誘電体多層膜を有していてもよく、誘電体多層膜を有することが好ましい。この場合、本発明の効果がより発揮される等の点から、誘電体多層膜と層(D)とは接していることが好ましい。
該誘電体多層膜としては、高屈折率材料層と低屈折率材料層とを交互に積層した積層体等が挙げられる。
【0074】
誘電体多層膜は、前記基材(I)の片面に設けてもよいし、両面に設けてもよい。片面に設ける場合、製造コストや製造容易性に優れ、両面に設ける場合、高い強度を有し、反りやねじれが生じにくい光学フィルターを得ることができる。本フィルターを固体撮像素子などに使用する場合、該フィルターの反りやねじれが小さい方が好ましいことから、誘電体多層膜を基材(I)の両面に設けることが好ましい。
また、前記基材(I)が、基材(X’)である場合、層(D)の、ガラス支持体とは反対側に誘電体多層膜を有することが、本フィルターの好ましい一形態であり、この場合、層(D)は、誘電体多層膜等の光学膜との密着性に優れるため、所望の光学特性を長期にわたり発揮することができる等の点から、層(D)と誘電体多層膜とが接していることがより好ましい。
さらに、該ガラス支持体の、層(D)を有する側の反対側に別の誘電体多層膜を有することが本フィルターの別の好ましい一形態である。
【0075】
前記高屈折率材料層を構成する材料としては、屈折率が1.7以上の材料が挙げられ、屈折率が通常は1.7~2.5の材料が選択される。このような材料としては、例えば、チタニア、酸化ジルコニウム、五酸化タンタル、五酸化ニオブ、酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化亜鉛、硫化亜鉛または酸化インジウム等を主成分とし、チタニア、酸化錫および/または酸化セリウム等を少量(例えば、主成分に対して0~10質量%)含有させたものが挙げられる。
【0076】
前記低屈折率材料層を構成する材料としては、屈折率が1.6以下の材料を用いることができ、屈折率が通常は1.2~1.6の材料が選択される。このような材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、フッ化ランタン、フッ化マグネシウムおよび六フッ化アルミニウムナトリウムが挙げられる。
【0077】
前記高屈折率材料層と低屈折率材料層とを積層する方法については、これらの材料層を積層した誘電体多層膜が形成される限り特に制限はない。例えば、基材(I)上に、直接、CVD法、スパッタ法、真空蒸着法、イオンアシスト蒸着法またはイオンプレーティング法等により、高屈折率材料層と低屈折率材料層とを交互に積層した誘電体多層膜を形成することができる。
【0078】
前記高屈折率材料層および低屈折率材料層の各層の厚さは、通常、遮断しようとする光線(例:近赤外線)の波長をλ(nm)とすると、0.1λ~0.5λの厚さが好ましい。λ(nm)の値としては、近赤外線カットフィルターの場合、例えば700~1400nm、好ましくは750~1300nmである。高屈折率材料層および低屈折率材料層の各層の厚さがこの範囲にあると、屈折率(n)と膜厚(d)との積(n×d)である光学的膜厚が、λ/4とほぼ同じ値となって、反射・屈折の光学的特性の関係から、特定波長の遮断・透過を容易にコントロールできる傾向にある。
【0079】
誘電体多層膜における高屈折率材料層と低屈折率材料層との合計の積層数は、例えば近赤外線カットフィルターの場合、光学フィルター全体として16~70層であることが好ましく、20~60層であることがより好ましい。各層の厚み、光学フィルター全体としての誘電体多層膜の厚みや合計の積層数が前記範囲にあると、十分な製造マージンを確保できる上に、光学フィルターの反りや誘電体多層膜のクラックを低減することができる。
【0080】
本フィルターでは、色素(C)の吸収特性等に合わせて、高屈折率材料層および低屈折率材料層を構成する材料種、高屈折率材料層および低屈折率材料層の各層の厚さ、積層の順番、積層数を適切に選択することで、透過したい波長域(例:可視域)に十分な透過率を確保した上で、カットしたい波長域(例:近赤外域)に十分な光線カット特性を有し、かつ、斜め方向から光線(例:近赤外線)が入射した際の反射率を低減することができる。
【0081】
ここで、誘電体多層膜の条件を最適化するには、例えば、光学薄膜設計ソフト(例えば、Essential Macleod、Thin Film Center社製)を用い、透過したい波長域(例:可視域)の反射防止効果と、カットしたい波長域(例:近赤外域)の光線カット効果を両立できるようにパラメーターを設定すればよい。前記ソフトを用いる場合であって、例えば、近赤外線カットフィルターの誘電体多層膜を形成する場合には、波長400~700nmの目標透過率を100%、Target Toleranceの値を1とした上で、波長705~950nmの目標透過率を0%、Target Toleranceの値を0.5にするなどのパラメーター設定方法が挙げられる。
これらのパラメーターは基材(I)の各種特性などに合わせて波長範囲をさらに細かく区切ってTarget Toleranceの値を変えることもできる。
【0082】
<その他の機能膜>
本フィルターは、本発明の効果を損なわない範囲において、基材(I)と誘電体多層膜との間、基材(I)の誘電体多層膜が設けられた面と反対側の面、または、誘電体多層膜の基材(I)が設けられた面と反対側の面に、基材(I)や誘電体多層膜の表面硬度の向上、耐薬品性の向上、帯電防止および傷消しなどの目的で、反射防止膜、ハードコート膜や帯電防止膜などの機能膜を適宜設けることができる。
【0083】
本フィルターは、前記機能膜を1層含んでもよく、2層以上含んでもよい。本フィルターが、前記機能膜を2層以上含む場合には、同様の膜を2層以上含んでもよいし、異なる膜を2層以上含んでもよい。
【0084】
前記機能膜を積層する方法としては特に制限されないが、反射防止剤、ハードコート剤および/または帯電防止剤等のコーティング剤などを基材(I)または誘電体多層膜に、前記と同様に溶融成形またはキャスト成形する方法等を挙げることができる。
【0085】
また、コーティング剤などを含む硬化性組成物をバーコーター等で基材(I)または誘電体多層膜上に塗布した後、紫外線照射等により硬化することによっても製造することができる。
【0086】
前記コーティング剤としては、紫外線(UV)/電子線(EB)硬化型重合体や熱硬化型重合体などが挙げられ、具体的には、ビニル化合物類や、ウレタン系、ウレタンアクリレート系、アクリレート系、エポキシ系およびエポキシアクリレート系重合体などが挙げられる。コーティング剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
これらのコーティング剤を含む前記硬化性組成物としては、ビニル系、ウレタン系、ウレタンアクリレート系、アクリレート系、エポキシ系およびエポキシアクリレート系硬化性組成物などが挙げられる。
【0087】
前記硬化性組成物は、重合開始剤を含んでいてもよい。前記重合開始剤としては、公知の光重合開始剤または熱重合開始剤を用いることができ、光重合開始剤と熱重合開始剤を併用してもよい。重合開始剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0088】
前記硬化性組成物中、重合開始剤の配合割合は、硬化性組成物の全量を100質量%とした場合、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.5~10質量%、さらに好ましくは1~5質量%である。重合開始剤の配合割合が前記範囲にあると、硬化特性および取り扱い性等に優れる硬化性組成物を容易に得ることができ、所望の硬度を有する反射防止膜、ハードコート膜や帯電防止膜などの機能膜を容易に得ることができる。
【0089】
さらに、前記硬化性組成物には溶剤として有機溶剤を加えてもよく、有機溶剤としては、公知の溶剤を使用することができる。有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、オクタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、γ-ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類が挙げられる。
これら溶剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0090】
前記機能膜の厚さは、好ましくは0.1~20μm、より好ましくは0.5~10μm、特に好ましくは0.7~5μmである。
【0091】
また、基材(I)と機能膜および/または誘電体多層膜との密着性や、機能膜と誘電体多層膜との密着性を上げる目的で、基材(I)、機能膜または誘電体多層膜の表面にコロナ処理やプラズマ処理等の表面処理をしてもよい。
【0092】
<本フィルターの具体例>
本発明の効果がより発揮される等の点から、本フィルターとしては、具体的には、近赤外線カットフィルター(NIR-CF)、可視光-近赤外線選択透過フィルター(DBPF)、近赤外線透過フィルター(IRPF)が挙げられる。また、本フィルターは、科学捜査等に用いられる代替光源(ALS:Alternative Light Sources)用のフィルターとしても用いることができる。これらのフィルターは、前記基材(I)を有する以外は、従来公知の構成とすればよい。
【0093】
本フィルターが、NIR-CFやDBPFである場合、下記特性(a)を満たすフィルターであることが好ましい。
特性(a):波長430~580nmの領域において、光学フィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上である。該透過率の平均値は高い方が好ましいため、その上限は特に制限されず、100%であってもよい。
本フィルターがこの特性(a)を満たすと、カットしたい近赤外線領域の波長の光を十分にカットしながらも可視光透過率の低下をより抑制できるため、NIR-CFやDBPFとしてより好適に用いることができる。
【0094】
本フィルターが、NIR-CFやDBPFである場合、下記特性(b-1)を満たすフィルターであることが好ましい。
特性(b-1):波長700~800nmの領域において、光学フィルターの少なくとも一方の面の垂直方向から5°の角度から入射する無偏光光線の平均反射率が、好ましくは25%以下、より好ましくは15%以下である。該平均反射率は低い方が好ましいため、その下限は特に制限されず、0%であってもよい。
この特性(b-1)を満たす本フィルターを用いることで、波長700~800nmの波長域の反射光強度の低減が可能であるため、該反射光に起因する画像不良を解消できる。
【0095】
本フィルターが、NIR-CFやDBPFである場合、下記特性(b-2)を満たすフィルターであることが好ましい。
特性(b-2):波長650~800nmの領域において、光学フィルターの少なくとも一方の面の垂直方向から5°の角度から入射する無偏光光線の平均反射率が、好ましくは25%以下、より好ましくは15%以下である。該平均反射率は低い方が好ましいため、その下限は特に制限されず、0%であってもよい。
この特性(b-2)を満たす本フィルターを用いることで、波長650~800nmの波長域の反射光強度の低減が可能であるため、該反射光に起因する画像不良を解消できる。
【0096】
なお、本発明において、波長A~Bnmの平均反射率は、Anm以上Bnm以下の、1nm刻みの各波長における反射率を測定し、その反射率の合計を、測定した反射率の数(波長範囲、B-A+1)で除すことで算出した値である。
垂直方向から入射する無偏光光線の反射率を測定することは、限りなく困難であるため、本発明では、垂直方向から5°の角度から入射する無偏光光線の反射特性を測定した。
【0097】
「無偏光光線」とは、偏光方向の偏りを持たない光線のことであり、電場が全ての方向に概ね均一に分布している波の集合体のことをいう。「無偏光光線の平均透過率」は「S偏光光線の平均透過率」と「P偏光光線の平均透過率」の平均値を用いてもよい。「無偏光光線の平均反射率」は、「S偏光光線の平均反射率」と「P偏光光線の平均反射率」の平均値を用いてもよい。
【0098】
本フィルターが前記特性(a)および(b-1)または(b-2)を満たすことで、可視光の透過性を良好に維持しながら、近赤外光、特に、波長650~800nmの波長域の反射光強度の低減が可能であるため、近年、高性能化が進むデジタルスチルカメラ等の撮像装置等において、可視光領域の感度低下を最小限に抑えつつ、該反射光に起因する画像不良を解消できる。
【0099】
本フィルターの厚みは、所望の用途に応じて適宜選択することができ、特に制限されないが、好ましくは0.1~1.0mmである。
本フィルターの厚みが前記範囲内であると、固体撮像装置が適切な大きさとなり、また、センサーユニットが十分な強度を有する。
【0100】
(NIR-CF)
前記NIR-CFは、波長850~1200nmの領域におけるカット性能に優れ、可視波長域での透過性に優れる光学フィルターであることが好ましい。
このNIR-CFで用いる前記誘電体多層膜は、近赤外線反射膜であることが好ましい。
【0101】
NIR-CFを固体撮像素子などに使用する場合、近赤外波長域の透過率は低い方が好ましい。特に、波長800~1200nmの領域は固体撮像素子の受光感度が比較的高いことが知られており、この波長域の透過率を低減させることにより、カメラ画像と人間の目との視感度補正を効果的に行うことができ、優れた色再現性を達成することができる。また、さらに、波長850~1200nmの領域の透過率を低減させることで、セキュリティ認証機能に用いる近赤外光がイメージセンサー等に到達するのを効果的に防ぐことが可能になる。
【0102】
NIR-CFは、波長850~1200nmの領域において、該フィルターの垂直方向から測定した場合の平均透過率が、好ましくは5%以下、より好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下、特に好ましくは2%以下である。
波長850~1200nmの平均透過率がこの範囲にあると、近赤外線を十分にカットすることができ、優れた色再現性を達成できるため好ましい。
【0103】
NIR-CFを固体撮像素子などに使用する場合、可視光透過率が高い方が好ましい。具体的には、波長430~580nmの領域において、該フィルターの垂直方向から測定した場合の平均透過率が、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは83%以上、特に好ましくは85%以上である。
波長430~580nmの平均透過率がこの範囲にあると、優れた撮像感度を達成することができる。
【0104】
(DBPF)
前記DBPFは、可視光と、近赤外線のうち透過させたい波長の光とを透過し、近赤外線のうちカットしたい波長の光をカットする光学フィルターであれば特に制限されない。
このDBPFで用いる前記誘電体多層膜は、可視光と、近赤外線のうち透過させたい波長の光とを透過し、近赤外線のうちカットしたい波長の光をカットする膜であることが好ましい。
【0105】
DBPFもNIR-CFと同様に、固体撮像素子などに使用する場合、可視光透過率が高い方が好ましく、前記と同様の理由から、波長430~580nmの平均透過率が、NIR-CFの該平均透過率と同様の範囲にあることが好ましい。
【0106】
(IRPF)
前記IRPFは、可視光をカットし、近赤外線のうち透過させたい波長の光を透過する光学フィルターであれば特に制限されない。
このIRPFで用いる前記誘電体多層膜は、カットしたい波長の光(可視光および/または近赤外線のうちの一部)をカットする膜であることが好ましい。
また、IRPFは、可視光吸収剤を用いて可視光をカットしてもよい。
【0107】
IRPFは、赤外線監視カメラ、車載赤外線カメラ、赤外線通信、各種センシングシステム、赤外線警報機、暗視装置等の光学系に好適に使用でき、これらの用途に使用する場合、透過させたい近赤外線以外の波長の光の透過率は低い方が好ましい。
特に、波長380~700nmの領域において、本フィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値は、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である。
【0108】
また、IRPFは、透過させたい近赤外線の透過率は高い方が好ましく、具体的には、波長750nm以上の領域に、光線透過帯Yaを有し、前記光線透過帯Yaにおいて、本フィルターの垂直方向から測定した場合の最大透過率(TIR)は、好ましくは45%以上、より好ましくは50%以上である。
【0109】
<光学フィルターの用途>
本フィルターは、例えば、カットしたい領域の波長の光のカット能と、透過したい波長の光の透過能に優れる。従って、固体撮像装置や光学センサー装置に好適に用いられ、カメラモジュールのCCDやCMOSイメージセンサー等の固体撮像素子の視感度補正用として特に有用である。具体的には、デジタルスチルカメラ、スマートフォン用カメラ、携帯電話用カメラ、デジタルビデオカメラ、ウェアラブルデバイス用カメラ、PCカメラ、監視カメラ、自動車用カメラ、赤外線カメラ、テレビ、カーナビゲーション、携帯情報端末、ビデオゲーム機、携帯ゲーム機、指紋認証システム、デジタルミュージックプレーヤー、各種センシングシステム、赤外線通信等に有用である。さらに、自動車や建物等のガラス板等に装着される熱線カットフィルターなどとしても有用である。
【0110】
(固体撮像装置)
前記固体撮像装置としては、本フィルターを具備する固体撮像装置が挙げられる。ここで、固体撮像装置とは、CCDやCMOSイメージセンサー等の固体撮像素子を備えた装置であり、具体的にはデジタルスチルカメラ、スマートフォン用カメラ、携帯電話用カメラ、ウェアラブルデバイス用カメラ、デジタルビデオカメラ等の用途に用いることができる。
【0111】
(光学センサー装置)
前記光学センサー装置としては、本フィルターを具備する光学センサー装置が挙げられ、本フィルターを具備すれば特に制限されず、従来公知の構成とすればよい。
例えば、受光素子と本フィルターとを有する装置が挙げられ、具体的には、受光素子(半導体基板)、保護膜、本フィルターおよび他のフィルター等を有する装置が挙げられる。
【実施例0112】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0113】
[実施例1]
溶剤であるトルエン(TL)に、2質量部の重合体(A1-1)、98質量部の重合体(B1-1)、および、これら重合体の合計100質量部に対して1.89質量部の色素(C-1)を、得られる溶液中の固形分濃度(TSC)が25質量%となるように溶解させることで、組成物を調製した。
【0114】
ガラス支持体(製品名:「D263Teco」SCHOTT社製、ホウケイ酸塩ガラス、77mm×77mm、厚さ:0.21mm)上に、スピンコートにより調製した組成物を塗布し、ホットプレートで100℃×180秒間乾燥した後、これをオーブンにて大気下160℃、20分間の熱処理を施して、ガラス支持体上に、厚さ5μmの層(D)を有する基材を作製した。
【0115】
前記基材において、層(D)の前記ガラス支持体とは反対側に誘電体多層膜(α)を形成し、さらに、前記ガラス支持体の前記層(D)とは反対側に誘電体多層膜(β)を形成し、厚さ約0.22mmの光学フィルターを作製した。
【0116】
誘電体多層膜(α)は、蒸着温度100℃で、シリカ(SiO2)層とチタニア(TiO2)層とを交互に積層した光学膜である。誘電体多層膜(β)は、蒸着温度100℃で、シリカ(SiO2)層とチタニア(TiO2)層とを交互に積層した光学膜である。誘電体多層膜(α)および(β)のいずれにおいても、シリカ層およびチタニア層は、基材側からチタニア層、シリカ層、チタニア層、・・・シリカ層、チタニア層、シリカ層の順で交互に積層されており、光学フィルターの最外層をシリカ層とした。なお、誘電体多層膜(α)および(β)は以下のように設計を行った。
【0117】
各層の厚さと層数については、可視域の良好な透過率と近赤外域の反射性能とを達成できるよう、基材の屈折率の波長依存特性や、使用した色素(C)の吸収特性に合わせて、光学薄膜設計ソフト(Essential Macleod、Thin Film Center社製)を用いて最適化を行った。最適化を行う際、本実施例においてはソフトへの入力パラメータ(Target値)を下記表1の通りとした。
【0118】
【0119】
膜構成最適化の結果、実施例1では、誘電体多層膜(α)は、物理膜厚約32~158nmのシリカ層と物理膜厚約10~96nmのチタニア層とが交互に積層されてなる、積層数22層の多層蒸着膜とし、誘電体多層膜(β)は、物理膜厚約38~192nmのシリカ層と物理膜厚約10~112nmのチタニア層とが交互に積層されてなる、積層数18層の多層蒸着膜とした。最適化を行った膜構成の一例を下記表2に示す。
【0120】
【0121】
[実施例2]
実施例1において、ガラス支持体(D263Teco)の代わりに、近赤外線吸収ガラス支持体(製品名:「BS-6」松浪硝子工業(株)製、60mm×60mm、厚さ:0.21mm)を用いた以外は、実施例1と同様にして、基材および光学フィルターを作製した。
【0122】
[実施例3~16および比較例1~10]
実施例1において、下記表3または4に示す各成分を、下記表3または4に示す量(数値、質量部)で用い、得られる組成物中の固形分濃度(TSC)が下記表3または4に示す濃度となるように、下記表3または4に示す溶剤を用いた以外は実施例1と同様にして、組成物を調製した。
また、調製した組成物を用いて、得られる層(D)の膜厚が下記表3または4に示す厚さとなるように変更した以外は実施例1と同様にして、基材および光学フィルターを作製した。
【0123】
<ガラス密着性>
作製した基材を用い、前記層(D)のガラス支持体に対する密着性(ガラス密着性)を以下のようにして測定した。結果を下記表3および4に示す。
作製した基材を用いて、プレッシャークッカー試験(121℃、100%RH、24時間)を行った後、基材上の層(D)を、10mm×10mmの碁盤目(100マス)にクロスカット(ガラス支持体に届くように層(D)面をカット)し、この碁盤目上にセロハンテープを貼り付けて、層(D)面に対し90°の角度で引き剥した時の、ガラス支持体から剥離せずにガラス支持体上に残存した層(D)のマス数を目視で確認した。なお、碁盤目作成時に、前記層(D)がガラス支持体から剥がれた場合を×とした。
【0124】
<光学膜密着性>
基材の代わりに、光学フィルターを用い、層(D)に届くように誘電体多層膜(α)面をカットし、誘電体多層膜(α)面に対し90°の角度で引き剥した以外は、前記ガラス密着性と同様の方法で、該光学フィルターにおける層(D)の光学膜(誘電体多層膜)に対する密着性(光学膜密着性)を測定した。結果を下記表3および4に示す。なお、プレッシャークッカー試験機から取り出す際に、光学膜(誘電体多層膜)が前記層(D)から剥がれた場合を×とした。
また、ガラス密着性の無い基材(ガラス密着性が×の基材)を含む光学フィルターを用いた場合は、ガラス支持体から前記層(D)を剥離後、5mm厚のアクリル板に光学用透明両面粘着シート(製品名:「LUCIACS CS9621」、日東電工(株)製)を用い貼り付けて、前記光学膜密着性の試験を実施した。
【0125】
<アルカリ洗浄耐性>
作製した基材のアルカリ洗浄耐性を下記基準で評価した。結果を下記表3および4に示す。
作製した基材のHazeをJIS K 7136:2000に従い、ヘイズメーター((株)東洋精機製作所製ヘイズガードII)を用い測定した。次に、作製した基材を、アルカリ洗浄剤(製品名「CS-718」、日本表面化学(株)製)に、70℃で30分間浸漬することでアルカリ洗浄処理を行った。次に、アルカリ洗浄処理後の基材をアルカリ洗浄剤から取り出し、23℃の純水に3分間浸漬した。次いで、純水に浸漬後の基材を取り出し、再度23℃の純水に3分間浸漬し、さらに、純水に浸漬後の基材を取り出し、23℃の純水に3分間浸漬した。この3回の純水への浸漬(リンス)を行った後、基材を純水から取り出し、エアブロー乾燥した後、前記と同様にしてHazeを再度測定した。アルカリ洗浄処理前後のHaze差(ΔHaze:処理後のHaze-処理前のHaze)を求め、以下の基準で評価した。
◎:ΔHaze<0.1
○:0.1≦ΔHaze<0.15
△:0.15≦ΔHaze<0.3
×:0.3≦ΔHaze
【0126】
得られた光学フィルターについて、波長350~1200nmにおける光学フィルターの垂直方向から測定した分光透過率を、誘電体多層膜(β)側を光源の入射面、誘電体多層膜(α)側を出射面として、日本分光(株)製の分光光度計(V-7200)を用いて測定した。実施例1で得られた光学フィルターの分光透過率スペクトルを
図1に示す。
【0127】
【0128】
【0129】
なお、表3および4中に示す各成分の詳細は以下の通りである。
【0130】
・重合体(A1-1):ノボラック系樹脂(製品名「スミライトレジンPR-12603」、住友ベークライト(株)製)
・重合体(A1-2):以下の合成例1に従って合成したポリヒドロキシスチレン系樹脂
・重合体(A1-3):ノボラック系樹脂(製品名「KP-911」、荒川化学工業(株)製)
・重合体(A1-4):ノボラック系樹脂(製品名「J-DPP-95」、JFEケミカル(株)製)
・重合体(A1-5):以下の合成例2に従って合成したポリヒドロキシスチレン系樹脂
【0131】
[合成例1]重合体(A1-2)の合成
乾燥窒素をパージした500mLのオートクレーブに、p-イソプロペニルフェノール(3.9g)、スチレン(96.1g)、トルエン(30g)および1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)(2.33g、0.00953mol)を投入し、90℃で撹拌しながら反応させた。10時間後に開始剤(2.33g、0.00953mol)を追添し、さらに10時間反応させた。重合終了時の転化率は98.5%であった。得られた重合液をテトラヒドロフランで希釈し、大量のメタノール中に凝固させることにより重合体を回収・精製し、80℃の真空乾燥機で2日間乾燥させ、重量平均分子量119,000、Mw/Mn=2.3、ガラス転移温度108℃の重合体を得た。この重合体を重合体(A1-2)とする。
【0132】
[合成例2]重合体(A1-5)の合成
乾燥窒素をパージした500mLのオートクレーブに、p-t-ブトキシスチレン27.87g(0.174mol)、スチレン72.13g(0.799mol)、トルエン50g、および1,1'-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)0.43g(1.8mmol)を投入し、90℃に加熱し、15時間反応させた。その後、トルエン50gを加えて希釈し、n-ブタノール20gおよび硫酸0.26gを添加し、60℃で8時間撹拌しながら脱保護反応を行った。次いで、水酸化リチウム水和物8.76gを加え、60℃で30分間撹拌した後、さらに85%乳酸1.383gを加え、さらに30分間撹拌した。得られた重合液をテトラヒドロフランで希釈し、大量のメタノール中に凝固させることにより重合体を回収・精製し、80℃の真空乾燥機で2日間乾燥させ、重量平均分子量128,000、Mw/Mn=1.9、ガラス転移温度120℃の重合体を得た。また、13C-NMRにより求めたフェノール含有率は20.0mol%であり、残存するt-ブトキシ基は0.1mol%以下であった。この重合体を重合体(A1-5)とする。
【0133】
・重合体(B1-1):環状オレフィン系樹脂(製品名「ARTON R5000」、JSR(株)製)
・重合体(B1-2):ポリカーボネート系樹脂(製品名「ピュアエースRW」、帝人(株)製)
・重合体(B1-3):ポリアリレート系樹脂(製品名「Unifiner M-2040」、ユニチカ(株)製)
・重合体(B1-4):製品名「OKP-2」(大阪ガスケミカル(株)製、ポリエステル系樹脂)を、テトラヒドロフランで希釈し溶解させた後、大量のメタノール中に凝固させることにより重合体を回収・精製し、80℃で2日間真空乾燥させ、添加剤を除去することで得た重合体
・重合体(B1-5):以下の合成例3に従って合成したポリエーテル系樹脂
・重合体(B1-6):環状オレフィン系樹脂(製品名「ARTON G7810」、JSR(株)製)
【0134】
[合成例3]重合体(B1-5)の合成
特許第5910493号の[0220]~[0226]に記載の方法に従って、重合体(B1-5)を合成した。
【0135】
・重合体(B2-1):ポリカーボネート系樹脂(製品名「パンライトL1250」、帝人(株)製)
・重合体(B2-2):ポリエーテルスルホン系樹脂(製品名「スミカエクセル4100P」、住友化学(株)製)
・重合体(B2-3):ポリエステル系樹脂(特開2017-90646号公報に記載のPE11)
【0136】
・重合体(B3-1):以下の合成例4に従って合成したアクリル系樹脂
・重合体(B3-2):製品名「Ryurex A-14」(DIC(株)製、ポリスチレン系樹脂)を、テトラヒドロフランで希釈し溶解させた後、大量のメタノール中に凝固させることにより重合体を回収・精製し、80℃で2日間真空乾燥させ、添加剤を除去することで得た重合体
・重合体(B3-3):ポリスチレン系樹脂(製品名「XIRAN3840」、Polyscope製)・重合体(B3-4):ポリイミド系樹脂(製品名「KPI-MX400F」、河村産業(株)製
【0137】
[合成例4]重合体(B3-1)の合成
冷却管と撹拌機とを備えたフラスコに、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)が7質量%およびジエチレングリコールエチルメチルエーテルが200質量%となるように予め仕込んだ。そこに、メタクリル酸20質量%、メタクリル酸グリシジル30質量%、およびメタクリル酸メチル50質量%を合計100質量%で含む不飽和混合物を投入し、窒素置換した後、ゆるやかに撹拌を始めた。溶液の温度を70℃に上昇させ、この温度を4時間保持し重合を終結させた。その後、反応生成溶液を多量のメタノールに滴下し反応物を凝固させた。得られた凝固物を60℃で2日間真空乾燥し、重合体(B3-1)を得た。
【0138】
・色素(C-1):下記式(C-1)で表される化合物(該化合物をジクロロメタンに溶解させた溶液の透過スペクトルを、日本分光(株)製の分光光度計(V-7200)を用いて測定した時の吸収極大:721nm)
【0139】
【0140】
・色素(C-2):下記式(C-2)で表される化合物(製品名「S2138」、Few Chemicals GmbH製、該化合物をメタノールに溶解させた溶液の透過スペクトルを、日本分光(株)製の分光光度計(V-7200)を用いて測定した時の吸収極大:761nm)
【0141】
【0142】
・色素(C-3):下記式(C-3)で表される化合物(該化合物をジクロロメタンに溶解させた溶液の透過スペクトルを、日本分光(株)製の分光光度計(V-7200)を用いて測定した時の吸収極大:712nm)
【0143】
【0144】
・色素(C-4):製品名「IRA732」、Exciton Inc.製(該化合物をジクロロメタンに溶解させた溶液の透過スペクトルを、日本分光(株)製の分光光度計(V-7200)を用いて測定した時の吸収極大:732nm)
【0145】
・添加剤(D-1):下記式(D-1)で表される化合物(製品名「TrisP-PA」、本州化学工業(株)製)
【0146】
【0147】
・添加剤(D-2):下記式(D-2)で表される化合物
【0148】
【0149】
・添加剤(D-3):下記式(D-3)で表される化合物(製品名「Irganox 1010」、BASFジャパン(株)製)
【0150】
【0151】
・添加剤(D-4):下記式(D-4)に示す化合物(製品名「KBM-403」、信越化学工業(株)製)
【0152】
【0153】
・添加剤(D-5):下記式(D-5)で表される化合物(製品名「アデカスタブ LA-24」、(株)ADEKA製)
【0154】
【0155】
・添加剤(D-6):下記式(D-6)で表される化合物(製品名「アデカスタブ LA-46」、(株)ADEKA製)
【0156】
【0157】
溶剤:
・TL(トルエン)
・CPN(シクロペンタノン)
・CHN(シクロヘキサノン)
・PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)