(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076351
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】巻き上げデバイスと時計ムーブメント
(51)【国際特許分類】
G04B 11/00 20060101AFI20240529BHJP
【FI】
G04B11/00
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023184205
(22)【出願日】2023-10-26
(31)【優先権主張番号】22209421.1
(32)【優先日】2022-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】599040492
【氏名又は名称】ニヴァロックス-ファー ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】クーザン、 ピエール
(72)【発明者】
【氏名】ジャンヌレ、 ローラン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ドラムの内壁にあるノッチに対するブレードの摺動に基づくシステムを置換するばねの巻き上げを制限するシステムが備えられた巻き上げデバイスを提供する。
【解決手段】ばねが設けられたバレル2の巻き上げデバイス1であって、巻き上げデバイス1は、回転巻き上げシャフトに一体的に取り付けられるラチェット3と、ラチェット3に噛合する巻き上げギア列4とを含み、回転巻き上げシャフトは、例えば、バレル2の巻き上げシャフトであり、その回転によりバレル2が巻き上げられ、巻き上げギア列4の回転が、ラチェット3にトルクを及ぼすことによってラチェット3の回転及び回転巻き上げシャフトの回転を引き起こし、ラチェット3が、ラチェット3を巻き上げギア列4から接続解除することを可能にするべく変形可能である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
詳しくはばねが設けられたバレル(2)の巻き上げデバイス(1,10)であって、
回転巻き上げシャフトに一体的に取り付けられるラチェット(3,30)と、前記ラチェット(3,30)に噛合する巻き上げギア列(4)とを含み、
前記回転巻き上げシャフトは、例えば、回転により前記バレル(2)を巻き上げる前記バレル(2)の巻き上げシャフトであり、前記巻き上げギア列(4)の回転が、前記ラチェット(3,30)にトルクを及ぼすことによって前記ラチェット(3,30)の回転及び前記回転巻き上げシャフトの回転を引き起こし、
特徴は、前記ラチェット(3,30)が、前記ラチェット(3,30)を前記巻き上げギア(4)から接続解除することを可能にするべく変形可能なことにある、巻き上げデバイス。
【請求項2】
前記ラチェット(3,30)が、前記ラチェット(3,30)に及ぼされるトルクが実質的にしきい値未満のときに前記巻き上げギア列(4)の第2歯部(12)と協働する第1周縁歯部(11)を含むことを特徴とする、請求項1に記載の巻き上げデバイス。
【請求項3】
前記ラチェット(3,30)に及ぼされるトルクが実質的に前記しきい値を超えるときに、詳しくは前記バレル(2)が十分に巻き上げられているときに、前記ラチェット(3,30)が変形することによって前記第1周縁歯部(11)がもはや前記第2歯部(12)と協働しなくなることを特徴とする、請求項2に記載の巻き上げデバイス。
【請求項4】
前記ラチェット(3)が、前記ラチェット(3)の前記第1歯(11)を形成する複数の可撓性爪(15)を含み、前記可撓性爪(15)が、前記トルクが前記しきい値未満のときに前記第2歯(12)に噛合することを特徴とする、請求項3に記載の巻き上げデバイス。
【請求項5】
前記可撓性爪(15)が、前記トルクが実質的に前記しきい値よりも大きいときに曲がることにより、前記可撓性爪(15)がもはや、前記第2歯(12)に噛合しなくなり、前記巻き上げギア(4)の回転がもはや前記ラチェット(3)を駆動しなくなることを特徴とする、請求項4に記載の巻き上げデバイス。
【請求項6】
前記ラチェット(3)が、前記可撓性爪(15)が配列されるハブ(7)を含み、前記可撓性爪(15)が前記ハブ(7)まわりに延びることを特徴とする、請求項4に記載の巻き上げデバイス。
【請求項7】
各爪(15)が可撓性ブレード(16)と、前記可撓性ブレード(16)の自由端に配列される歯(17)とを含み、前記可撓性爪(15)の歯(17)が前記第2歯部(12)と協働することを特徴とする、請求項4に記載の巻き上げデバイス。
【請求項8】
前記可撓性爪(15)が、前記ラチェット(3)まわりに角度的に分散されることを特徴とする、請求項4に記載の巻き上げデバイス。
【請求項9】
前記ラチェット(30)が、前記第1歯部(11)が設けられた、好ましくは剛性の周縁リム(8)を含むことを特徴とする、請求項3に記載の巻き上げデバイス。
【請求項10】
前記ラチェット(30)がハブ(27)を含み、前記周縁リム(8)が、少なくとも一つの接続ばね(9)によって、好ましくはいくつかの接続ばねによって、前記ハブ(27)に接続されることを特徴とする、請求項9に記載の巻き上げデバイス。
【請求項11】
単数又は複数の前記接続ばね(9)が、前記トルクが実質的に前記しきい値よりも大きいときに収縮又は伸長することにより、前記周縁リム(8)が前記巻き上げギア列(4)から離れるように動き、前記巻き上げギア列(4)の回転がもはや前記ラチェット(30)を駆動することがなくなることを特徴とする、請求項10に記載の巻き上げデバイス。
【請求項12】
複数の前記接続ばね(9)が前記ハブ(27)まわりに角度的に分散されることを特徴とする、請求項10に記載の巻き上げデバイス。
【請求項13】
単数又は複数の前記接続ばね(9)が一以上の可撓性ブレードであることを特徴とする、請求項10に記載の巻き上げデバイス。
【請求項14】
前記ラチェット(3,30)が前記バレル(2)に一体的に取り付けられ、前記回転巻き上げシャフトが、前記バレル(2)のばねが巻き上げられることを可能にする前記バレル(2)の巻き上げシャフトであることを特徴とする、請求項1に記載の巻き上げデバイス。
【請求項15】
バレル(2)と、前記バレル(2)のための請求項1に記載の巻き上げデバイス(1,10)とを含む時計ムーブメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接続解除可能なラチェットが装着された、特に時計バレルの、巻き上げデバイスに関する。
【0002】
本発明はまた、かかる巻き上げデバイスを含む時計ムーブメントにも関する。
【背景技術】
【0003】
最近の自動巻き腕時計は一般に、重力によってギア列を駆動する振動重りを含む。このドラムの回転により、ロッドまわりのドラムにおいて巻き上げられていたばねブレードすなわちバレルばねを、当該ロッドを駆動することによって巻き上げることが可能となる。
【0004】
しかしながら、このばねが十分に巻き上げられると、過剰な巻き上げを回避することが重要となる。巻き上げすぎは、ばねの破損又は振動子のノッキングを引き起こしかねないからである。ノッキングの間、振動の振幅は、バランスがアンカーホーンの裏に当たってストップに達するポイントまで増加し、バランスがこれらのストップに反発することに起因して動作のドリフトが生じる。
【0005】
これらのリスクを回避するべく、かかるバレルは一般に、バレルばねの巻き上げを制限するシステムを有する。
【0006】
この制限は一般に、ばねの最後の外側ブレードをドラムの内壁に当てるように摺動させることによって達成される。ばねが、バレル巻き上げシャフトまわりに十分にコイル状に巻き上げられると、最後の巻き上げられたコイルが、ドラムの外壁に押し当てられる。
【0007】
それゆえ、巻き上げトルクが、最後のコイルの壁に対する摩擦トルクを超過すると、最後のコイルが摺動し始める。制御不能の摺動を防止するべく、ノッチが、巻き上げトルクが十分に低下するとすぐにブレードの端が摺動を停止することを可能にする。
【0008】
しかしながら、かかるシステムの欠点は、ドラム内の最後のコイルの摺動摩擦プロセスに存在する。被駆動機構が高トルクを必要とする場合、当該壁に対するばねブレードの支承力及び摩擦が増強されるので、所定時間後に摩擦トラックから排出されるグリースが存在していても摩耗が生じ、バレルの性能劣化が生じる。
【0009】
さらに、自動バレルにおいては、効率を最大化するべく、コイル間の摩擦を低減することと、良好な巻き上げトルクを保証するためにばねとドラムとの間の摩擦を高くすることとのような、相反する基準を満たす必要がある。
【0010】
さらに、十分に巻き上げられたばねブレードの圧力下でのコーティングの剥離、スラッジの形成、壁の摩耗のような、ドラムへの損傷を回避する必要もある。
【発明の概要】
【0011】
本発明の目的は、上述した欠点のすべて又はいくつかを、ドラムの内壁にあるノッチに対するブレードの摺動に基づくシステムを置換するばねの巻き上げを制限するシステムが備えられた巻き上げデバイスを与えることによって、克服することにある。
【0012】
この目的に向けて、本発明は、詳しくはばねが設けられた時計バレルのための、巻き上げデバイスに関する。このデバイスは、回転巻き上げシャフトに取り付けられるラチェットと、ラチェットに噛合する巻き上げギア列とを含み、回転巻き上げシャフトは、例えばバレル巻き上げシャフトであり、その回転によってバレルが巻き上げられ、巻き上げギア列は、ラチェットにトルクを及ぼすことによって、ラチェットの回転及び回転巻き上げシャフトの回転を駆動する。
【0013】
本発明は、ラチェットが、巻き上げギア列から接続解除され得るように変形可能である点で注目に値する。
【0014】
すなわち、ラチェットは変形するともはや、巻き上げギア列によって駆動されることがない。巻き上げギア列がもはやラチェットに噛合することがないからである。例えば、ラチェットに及ぼされるトルクが高すぎると、特にバレルが十分に巻き上げられている場合、ラチェットは変形して巻き上げギア列から接続解除される。これにより、もはや、その回転トルクがラチェットに伝えられることがないので、巻き上げギア列は回転し続けるがラチェットはもはや回転しない。
【0015】
本発明により、バレルの摩耗が早まるリスクが回避される。制限デバイスがバレルよりも上流にかつバレルの外部に配列されるからである。加えて、円筒内側のばね摩擦に基づく従来型の巻き上げ制限デバイスの使用が回避される。
【0016】
本発明の特定の実施形態によれば、ラチェットは、当該ラチェットに及ぼされるトルクが実質的にしきい値未満となる場合に巻き上げギア列の第2歯部と協働する第1周縁歯部を含む。
【0017】
本発明の特定の実施形態によれば、ラチェットは、当該ラチェットに及ぼされるトルクが実質的にしきい値を超過する場合に、詳しくはバレルが十分に巻き上げられている場合に、第1周縁歯部がもはや第2歯部と協働することがないように変形する。
【0018】
本発明の特定の実施形態によれば、ラチェットは、当該ラチェットの第1歯部を形成する複数の可撓性爪を含む。これらの可撓性爪は、トルクがしきい値未満となる場合に第2歯部と噛合する。
【0019】
本発明の特定の実施形態によれば、可撓性爪は、トルクが実質的にしきい値よりも大きくなる場合に曲がる。これにより、可撓性爪はもはや、第2歯部に噛合することがなく、巻き上げギアの回転ももはや、ラチェットを駆動することがない。
【0020】
本発明の特定の実施形態によれば、ラチェットは、可撓性爪が配列されるハブを含む。可撓性爪はハブまわりに延びる。
【0021】
本発明の特定の実施形態によれば、各爪が、可撓性ブレードと、当該可撓性ブレードの自由端に配列される歯を含む。可撓性爪の歯は第2歯部と協働する。
【0022】
角度的に本発明の特定の実施形態によれば、複数の可撓性爪は、ラチェットまわりに角度的に分散される。
【0023】
本発明の特定の実施形態によれば、ラチェットは、第1歯部に装着される周縁リムを含む。この周縁リムは好ましくは剛性である。
【0024】
本発明の特定の実施形態によれば、ラチェットはハブを含み、このハブに周縁リムが、少なくとも一つのばね、好ましくはいくつかの接続ばね、によって接続される。
【0025】
本発明の特定の実施形態によれば、単数又は複数の接続ばねが、トルクが実質的にしきい値よりも大きい場合に収縮又は伸長する。これにより、周縁リムが巻き上げギア列から離れるように動き、当該巻き上げギア列の回転がもはやラチェットを駆動することがなくなる。
【0026】
本発明の特定の実施形態によれば、複数の接続ばねは、ハブまわりに角度的に分散される。
【0027】
本発明の特定の実施形態によれば、単数又は複数の接続ばねは、一以上の可撓性ブレードである。
【0028】
本発明の特定の実施形態によれば、ラチェットはバレルに取り付けられ、回転巻き上げシャフトは、バレルばねを巻き上げるべく使用されるバレル巻き上げシャフトとなる。
【0029】
本発明はまた、バレルを含む時計ムーブメントに関し、この時計ムーブメントはかかるバレル巻き上げデバイスを含む。
【図面の簡単な説明】
【0030】
本発明の目的、利点及び特徴が、添付図面を参照して非限定的な例のみによって与えられるいくつかの実施形態を読むことで明らかとなる。
【0031】
【
図1】結合位置にある本発明の第1実施形態に係る巻き上げデバイスの上面図を模式的に表す。
【
図2】接続解除位置にある、詳しくはバレルばねが十分に巻き上げられている状態にある、
図1における本発明の第1実施形態に係る巻き上げデバイスの上面図を模式的に表す。
【
図3】結合位置にある本発明の第2実施形態に係る巻き上げデバイスの上面図を模式的に示す。
【
図4】接続解除位置にある、詳しくはバレルばねが十分に巻き上げられている状態にある、
図3における本発明の第2実施形態に係る巻き上げデバイスの上面図を模式的に表す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1及び
図2は、本発明に係る巻き上げデバイス1の、ここでは時計バレル2の、第1実施形態を示す。
【0033】
バレル2の巻き上げデバイス1は、ラチェット3及び巻き上げギア列4を含む。巻き上げギア列4は、巻き上げギア列4が第1方向に回転するとラチェット3が、第1方向に対向する第2方向に回転するように、ラチェット3に噛合する。
【0034】
ラチェット3は巻き上げシャフトに一体的に取り付けられ、当該巻き上げシャフトによってバレル2が巻き上げられる。巻き上げシャフトは円柱形が好ましい。
【0035】
この例において、巻き上げシャフトはバレル2の巻き上げシャフトであり、ラチェット3はバレル2に配列される。ラチェット3は、巻き上げシャフトに一体的に取り付けられるハブ7を含む。
【0036】
図面に示さない一変形例において、巻き上げシャフトはバレルに取り付けられていない。巻き上げシャフトは、ラチェットがバレルに取り付けられていない場合、ばねを巻き上げるべくバレル巻き上げシャフトを駆動するホイールに噛合するピニオンを含む。
【0037】
ラチェット3は、ラチェット3まわりに分散される第1外歯部11を含む。第1歯部11は、巻き上げギア列4に配列される第2歯部12と協働する。例えば、この実施形態ではピニオンである巻き上げギア列4には、その周縁に配列された第2歯部12が設けられる。
【0038】
バレル2は、バレル2の内側に配列された渦巻きばね(図面に示さない)を含む。このばねは、自動巻きシステム又は手動巻きシステムのいずれかによって巻き上げられる必要がある。
【0039】
この目的に向けて、巻き上げデバイス1はさらに、例えば、時計ムーブメントの自動巻き重り(図面に示さない)によって駆動されるギア列システム13を含む。ギア列システム13はまた、手動巻きの場合はクラウンによって作動され得る巻き上げロッド(図面に示さない)によって駆動され得る。
【0040】
ギア列システム13のホイール21は、巻き上げギア列4の第2歯部12に噛合する。すなわち、ギアシステム13を作動させることによってトルクがラチェット4に及ぼされ、そのトルクは少なくとも部分的に、ホイール21によって駆動される巻き上げギア列4を介して、及び巻き上げギア列4によって駆動されるラチェット3を介して、巻き上げシャフトに伝えられる。
【0041】
本発明によれば、ラチェット3は、ラチェット3と巻き上げギア列4との接続を解除できるように変形可能である。詳しくは、ラチェット3は、ラチェット3に及ぼされるトルクが実質的にしきい値を超過する場合に、特にバレル2が十分に巻き上げられている場合に、第1周縁歯部11がもはや第2歯部12と協働することがないように変形する。
【0042】
この目的に向けて、ラチェット3は、ハブ7から外向きに延びる複数の可撓性爪15を含む。これらの可撓性爪15は、ラチェット3の平面内でハブ7まわりに角度的に分散される。可撓性爪15が第2歯部12と協働することにより、巻き上げギア列4の回転が、ラチェット3の回転を引き起こし、ひいてはバレル2が巻き上げられるときに巻き上げシャフトの回転を引き起こす。
【0043】
各爪15は、ラチェット3のハブ7から延びる可撓性ブレード16を含む。各可撓性ブレード16の自由端には、巻き上げシャフトの第2歯部12と協働可能な歯17が存在する。爪15の歯17は、第2歯部12と協働する第1歯部11を形成する。巻き上げの間、可撓性爪15の歯17が第1歯部11の中に挿入されてラチェット3を回転させる。
【0044】
結合解除ギア手段10が好ましくは、少なくとも8つの可撓性爪15を、好ましくは少なくとも15の可撓性爪15を含む。可撓性爪15の数は、可撓性ブレード16の可撓性に依存し、かつ、上回ることにより接続解除ギア手段10がラチェット3と巻き上げシャフトとを接続解除するように構成されるトルクのしきい値に依存する。
【0045】
この実施形態において、ラチェット3は、ハブ7及び巻き上げシャフトのまわりに分散される32の可撓性爪15を含む。
【0046】
可撓性ブレード16は、バレルを巻き上げるのに通常必要とされるトルクしきい値を超えると曲がるように構成される。すなわち、しきい値を上回るとトルクが高すぎることになり、可撓性ブレード16が曲がる。これにより、可撓性爪15の歯17が、第2歯部12の経路から後退するので、可撓性爪15はもはや、第2歯部12によって駆動されない。
【0047】
換言すれば、巻き上げギア列4が一以上の可撓性爪15を強く押圧するときに、可撓性爪15が曲がって第2歯部12から離れるように動く。その結果、巻き上げギア列4の回転にもかかわらず、ラチェット3はもはや回転しなくなる。
【0048】
巻き上げ構成にある
図1において、ラチェット3に、詳しくは可撓性爪15に、及ぼされる巻き上げトルクは、しきい値未満であり、可撓性爪15の可撓性ブレード16は実質的にまっすぐのままである。すなわち、可撓性爪15及びラチェット3は、巻き上げギア列4によって駆動される。ラチェット3に及ぼされるトルクが実質的にしきい値未満のときは、第1周縁歯部11が巻き上げギア列4の第2歯部12と協働する。
【0049】
バレル2が十分に巻き上げられたときの
図2において、巻き上げギア列4によってラチェット爪に及ぼされる巻き上げトルクが、しきい値よりも大きくなって、可撓性爪15の可撓性ブレード16が曲がる。換言すれば、ラチェット3を回転させるのに必要なトルクが、可撓性爪にとって大きすぎてまっすぐのままではいられなくなる。
【0050】
その結果、巻き上げギア列4に接触する可撓性爪15の歯17がばらばらに広がり、巻き上げギア列4の第2歯部12がもはや、第1歯11に係合してラチェット3を駆動することがなくなる。第1周縁歯部11はもはや第2歯部12と協働しない。巻き上げギア列4は回転し続けるが、ラチェット3はもはや回転しない。
【0051】
これらの接続解除ギア手段が、円筒2を過剰な巻き上げから保護し、円筒2の内側の摩耗の早まりを防止する。
【0052】
バレル2はさらに、時計ムーブメントのホイール20の第4歯部19と協働するように構成される第3周縁歯部18を含む。ホイール20は、例えば、中心ホイール若しくは中間ホイールであり、又は打撃機構ホイールでもよい。ひとたび巻き上げられると、バレル2は、時計ムーブメントを動作させるべく必要なエネルギーを、ホイール20を介して供給する。
【0053】
図3及び
図4は、本発明に係る巻き上げデバイス1の第2実施形態、この場合は時計バレル2、を示す。
【0054】
バレル2の巻き上げデバイス1は、ラチェット30及び巻き上げギア列4を含む。巻き上げギア列4は、巻き上げギア列4が第1方向に回転するとラチェット30が、第1方向に対向する第2方向に回転するように、ラチェット30に噛合する。
【0055】
ラチェット30は巻き上げシャフトに一体的に取り付けられ、当該巻き上げシャフトによってバレル2が巻き上げられる。巻き上げシャフトは円柱形が好ましい。
【0056】
この例において、巻き上げシャフトはバレル2の巻き上げシャフトであり、ラチェット30はバレル2に配列される。ラチェット30は、巻き上げシャフトに一体的に取り付けられるハブ7を含む。
【0057】
図示しない一変形例において、巻き上げシャフトはバレルに取り付けられない。巻き上げシャフトは、ラチェットがバレルに取り付けられない場合、ばねを巻き上げるべくバレル巻き上げシャフトを駆動するホイールに噛合するピニオンを含む。
【0058】
ラチェット30は、ラチェット30まわりに分散される第1外歯部11を含む。第1歯部11は、巻き上げギア列4に配列される第2歯部12と協働する。巻き上げギア列4は、その周縁に配列された第2歯部12が設けられたピニオンを含む。
【0059】
バレル2は、バレル2の内側に配列された渦巻きばね(図面に示さない)を含む。このばねは、自動巻きシステム又は手動巻きシステムのいずれかによって巻き上げられる必要がある。
【0060】
この目的に向けて、巻き上げデバイス1はまた、例えば、時計ムーブメントの自動巻き重り(図面に示さない)によって駆動されるギア列システム13を含む。ギア列システム13はまた、手動巻きの場合はクラウンによって作動され得る巻き上げロッド(図面に示さない)によって駆動され得る。
【0061】
ギア列システム13のホイール21は、巻き上げギア列4の第2歯部12に噛合する。すなわち、ギアシステム13を作動させることによってトルクがラチェット4に及ぼされ、そのトルクは少なくとも部分的に、ホイール21によって駆動される巻き上げギア列4を介して、及び巻き上げギア列4によって駆動されるラチェット30を介して、巻き上げシャフトに伝えられる。
【0062】
本発明によれば、ラチェット30は、ラチェット30と巻き上げギア列4との接続を解除できるように変形可能である。詳しくは、ラチェット30は、ラチェット30に及ぼされるトルクが実質的にしきい値を超過する場合に、特にバレル2が十分に巻き上げられている場合に、第1周縁歯部11がもはや第2歯部12と協働することがないように変形する。
【0063】
この目的に向けて、ラチェット30は、好ましくは剛性のハブ27及び周縁リム8を含み、このハブ27は、周縁リム8の内側に配列される。ハブ27及び周縁リム8は円環形状を有し、ハブ27の半径は、周縁リム8の半径よりも小さい。ハブ27及び周縁リム8は好ましくは、同じ平面内に延びる。
【0064】
周縁リム8は、ラチェット30まわりの周縁リム8に沿って分散される第1外歯部11を含む。
【0065】
ハブ27と周縁リム8とは、ハブ27まわりに角度的に分散された少なくとも一つの接続ばね9、好ましくはいくつかの接続ばね、によって接続される。単数又は複数の接続ばね9は、例えば、一以上の可撓性コイルブレードである。
【0066】
可撓性アーム15の数は、可撓性ブレード16の可撓性に依存し、かつ、超えることにより接続解除ギア手段10がラチェット30と巻き上げシャフトとを接続解除するように構成されるトルクのしきい値に依存する。この実施形態において、ラチェット30は、4つの基点に配列される4つの接続ばね9を含む。
【0067】
単数又は複数の接続ばね9は、バレル2を巻き上げるのに通常必要とされるしきいトルク値よりもトルクが大きい場合に収縮又は伸長するように構成される。これにより、周縁リム8が巻き上げギア列4から離れるように動かされる。
【0068】
換言すれば、巻き上げギア列4が周縁リム8を強く押圧するときに、周縁リム8が第2歯部12から離れるように動く。
【0069】
その結果、第1歯部11がもはや第2歯部12に噛合しなくなるので、巻き上げギア列4の回転がもはや、ラチェット30を駆動することがなくなる。
【0070】
巻き上げ構成にある
図3において、ラチェット30に及ぼされる巻き上げトルクは、しきい値未満であり、接続ばね9は形状を変えていない。すなわち、第1歯部12及びラチェット30が巻き上げギア列4によって駆動される。
【0071】
バレル2が十分に巻き上げられたときの
図4において、巻き上げギア列4によってラチェット30に及ぼされる巻き上げトルクが、しきい値よりも大きくなって、接続ばね9がその配列に応じて収縮又は伸長する。換言すれば、ラチェット30を回転させるのに必要なトルクが、接続ばね9にとって大きすぎて初期形状のままではいられなくなる。
【0072】
この例において、巻き上げギア列4の一側に配列された2つの接続ばね9が収縮する一方、ハブ27の他側に配列された2つの接続ばねは伸長する。
【0073】
その結果、リム8が巻き上げギア列4から離れるように動き、巻き上げギア列4の第2歯部12はもはや、第1歯部11に係合してラチェット30を駆動することがなくなる。巻き上げギア列4は回転し続けるが、ラチェット30はもはや回転しない。
【0074】
これらの接続解除ギア手段が、バレル2を過剰な巻き上げから保護し、バレル2の内側の摩耗の早まりを防止する。よって、バレルばねが十分に巻き上げられるときに巻き上げシャフトを、バレルばね2を破損するリスクなしにロックすることができる。
【0075】
バレル2はまた、時計ムーブメントのホイール20の第4歯部19と協働するように構成される第3周縁歯部18を含む。ホイール20は、例えば、中心ホイール若しくは中間ホイールであり、又は打撃機構ホイールでもよい。ひとたび巻き上げられると、バレル2は、時計ムーブメントを動作させるべく必要なエネルギーを、ホイール20を介して供給する。
【0076】
本発明はまた、図面に示さない時計ムーブメントに関し、このムーブメントは、バレルと、上述したバレル巻き上げデバイスとを含む。
【0077】
当然のことながら、本発明は、図面を参照して説明された実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲を逸脱することのない変形例が想定され得る。
【手続補正書】
【提出日】2023-12-14
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ばねが設けられたバレル(2)の巻き上げデバイス(1,10)であって、
回転巻き上げシャフトに一体的に取り付けられるラチェット(3,30)と、前記ラチェット(3,30)に噛合する巻き上げギア列(4)とを含み、
前記回転巻き上げシャフトは、回転により前記バレル(2)を巻き上げる前記バレル(2)の巻き上げシャフトであり、前記巻き上げギア列(4)の回転が、前記ラチェット(3,30)にトルクを及ぼすことによって前記ラチェット(3,30)の回転及び前記回転巻き上げシャフトの回転を引き起こし、
特徴は、前記ラチェット(3,30)が、前記ラチェット(3,30)を前記巻き上げギア(4)から接続解除することを可能にするべく変形可能なことにある、巻き上げデバイス。
【請求項2】
前記ラチェット(3,30)が、前記ラチェット(3,30)に及ぼされるトルクがしきい値未満のときに前記巻き上げギア列(4)の第2歯部(12)と協働する第1周縁歯部(11)を含むことを特徴とする、請求項1に記載の巻き上げデバイス。
【請求項3】
前記ラチェット(3,30)に及ぼされるトルクが前記しきい値を超えるときに、前記ラチェット(3,30)が変形することによって前記第1周縁歯部(11)がもはや前記第2歯部(12)と協働しなくなることを特徴とする、請求項2に記載の巻き上げデバイス。
【請求項4】
前記ラチェット(3)が、前記ラチェット(3)の前記第1周縁歯部(11)を形成する複数の可撓性爪(15)を含み、前記可撓性爪(15)が、前記トルクが前記しきい値未満のときに前記第2歯部(12)に噛合することを特徴とする、請求項3に記載の巻き上げデバイス。
【請求項5】
前記可撓性爪(15)が、前記トルクが前記しきい値よりも大きいときに曲がることにより、前記可撓性爪(15)がもはや、前記第2歯部(12)に噛合しなくなり、前記巻き上げギア(4)の回転がもはや前記ラチェット(3)を駆動しなくなることを特徴とする、請求項4に記載の巻き上げデバイス。
【請求項6】
前記ラチェット(3)が、前記可撓性爪(15)が配列されるハブ(7)を含み、前記可撓性爪(15)が前記ハブ(7)まわりに延びることを特徴とする、請求項4に記載の巻き上げデバイス。
【請求項7】
各可撓性爪(15)が可撓性ブレード(16)と、前記可撓性ブレード(16)の自由端に配列される歯(17)とを含み、前記可撓性爪(15)の歯(17)が前記第2歯部(12)と協働することを特徴とする、請求項4に記載の巻き上げデバイス。
【請求項8】
前記可撓性爪(15)が、前記ラチェット(3)まわりに角度的に分散されることを特徴とする、請求項4に記載の巻き上げデバイス。
【請求項9】
前記ラチェット(30)が、前記第1周縁歯部(11)が設けられた剛性の周縁リム(8)を含むことを特徴とする、請求項3に記載の巻き上げデバイス。
【請求項10】
前記ラチェット(30)がハブ(27)を含み、前記周縁リム(8)が、少なくとも一つの接続ばね(9)によって前記ハブ(27)に接続されることを特徴とする、請求項9に記載の巻き上げデバイス。
【請求項11】
単数又は複数の前記接続ばね(9)が、前記トルクが前記しきい値よりも大きいときに収縮又は伸長することにより、前記周縁リム(8)が前記巻き上げギア列(4)から離れるように動き、前記巻き上げギア列(4)の回転がもはや前記ラチェット(30)を駆動することがなくなることを特徴とする、請求項10に記載の巻き上げデバイス。
【請求項12】
複数の前記接続ばね(9)が前記ハブ(27)まわりに角度的に分散されることを特徴とする、請求項10に記載の巻き上げデバイス。
【請求項13】
単数又は複数の前記接続ばね(9)が一以上の可撓性ブレードであることを特徴とする、請求項10に記載の巻き上げデバイス。
【請求項14】
前記ラチェット(3,30)が前記バレル(2)に一体的に取り付けられ、前記回転巻き上げシャフトが、前記バレル(2)のばねが巻き上げられることを可能にする前記バレル(2)の巻き上げシャフトであることを特徴とする、請求項1に記載の巻き上げデバイス。
【請求項15】
バレル(2)と、前記バレル(2)のための請求項1に記載の巻き上げデバイス(1,10)とを含む時計ムーブメント。
【外国語明細書】