(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076376
(43)【公開日】2024-06-05
(54)【発明の名称】涙液分泌促進用医薬組成物又は角結膜障害の予防若しくは治療用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20240529BHJP
A61P 27/04 20060101ALI20240529BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240529BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20240529BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240529BHJP
A61K 31/381 20060101ALI20240529BHJP
A61K 31/165 20060101ALI20240529BHJP
A61K 31/138 20060101ALI20240529BHJP
A61K 31/137 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P27/04
A61P27/02
A61P25/24
A61P43/00 111
A61K31/381
A61K31/165
A61K31/138
A61K31/137
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023198888
(22)【出願日】2023-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2022187833
(32)【優先日】2022-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390031093
【氏名又は名称】テイカ製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】和田 直久
(72)【発明者】
【氏名】堀田 侑希
(72)【発明者】
【氏名】越田 千晶
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084MA58
4C084NA14
4C084ZA121
4C084ZA331
4C084ZC411
4C086AA01
4C086AA02
4C086BB02
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA58
4C086NA14
4C086ZA12
4C086ZA33
4C086ZC41
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA09
4C206FA21
4C206GA18
4C206GA22
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA78
4C206NA14
4C206ZA12
4C206ZA33
4C206ZC41
(57)【要約】
【課題】
脳内セロトニン濃度を上昇させる選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor :SSRI)を点眼剤として使用しても、涙液分泌促進効果は発揮しなかった。
【解決手段】
本発明の目的は、
脳内ノルアドレナリン濃度を上昇させる化合物を有効成分として含有する、涙液分泌促進用医薬組成物であって、
上記涙液分泌促進用医薬組成物は、眼科用である、
涙液分泌促進用医薬組成物(但し、上記脳内ノルアドレナリン濃度を上昇させる化合物からベンラファキシン又はその薬理学的に許容可能な塩を除く)
を提供することである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳内ノルアドレナリン濃度を上昇させる化合物を有効成分として含有する、涙液分泌促進用医薬組成物であって、
前記涙液分泌促進用医薬組成物は、眼科用である、
涙液分泌促進用医薬組成物(但し、前記脳内ノルアドレナリン濃度を上昇させる化合物からベンラファキシン又はその薬理学的に許容可能な塩を除く)。
【請求項2】
前記脳内ノルアドレナリン濃度を上昇させる化合物は、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬、選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬及び四環系抗うつ薬からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の涙液分泌促進用医薬組成物。
【請求項3】
前記セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬の濃度は、0.15wt%以上であり、
前記選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬の濃度は、0.3wt%以上であり、
前記四環系抗うつ薬の濃度は、0.15wt%以上である、
請求項2に記載の涙液分泌促進用医薬組成物。
【請求項4】
前記セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬は、デュロキセチン若しくはその薬理学的に許容可能な塩、又はミルナシプラン若しくはその薬理学的に許容可能な塩であり、
前記選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬は、アトモキセチン又はその薬理学的に許容可能な塩であり、
前記四環系抗うつ薬は、マプロチリン又はその薬理学的に許容可能な塩である、
請求項2又は3に記載の涙液分泌促進用医薬組成物。
【請求項5】
脳内ノルアドレナリン濃度を上昇させる化合物を有効成分として含有する、角結膜障害の予防又は治療用医薬組成物であって、
前記角結膜障害の予防又は治療剤は、眼科用である、
角結膜障害の予防又は治療用医薬組成物(但し、前記脳内ノルアドレナリン濃度を上昇させる化合物からベンラファキシン又はその薬理学的に許容可能な塩を除く)。
【請求項6】
前記脳内ノルアドレナリン濃度を上昇させる化合物は、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬、選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬及び四環系抗うつ薬からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項5に記載の角結膜障害の予防又は治療用医薬組成物。
【請求項7】
前記セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬の濃度は、0.15wt%以上であり、
前記選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬の濃度は、0.3wt%以上であり、
前記四環系抗うつ薬の濃度は、0.15wt%以上である、
請求項6に記載の角結膜障害の予防又は治療用医薬組成物。
【請求項8】
前記セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬は、デュロキセチン若しくはその薬理学的に許容可能な塩、又はミルナシプラン若しくはその薬理学的に許容可能な塩であり、
前記選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬は、アトモキセチン又はその薬理学的に許容可能な塩であり、
前記四環系抗うつ薬は、マプロチリン又はその薬理学的に許容可能な塩である、
請求項6又は7に記載の角結膜障害の予防又は治療用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、涙液分泌促進用医薬組成物又は角結膜障害の予防若しくは治療用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ドライアイは、目の表面を覆う涙液が不足することにより生じる角膜及び結膜上皮障害である。このような角膜及び結膜上皮障害の治療には、ヒアルロン酸配合点眼剤や人工涙液等の点眼剤が使用されている。また、涙液分泌作用を有する薬剤を含有する点眼剤(ジクアス点眼液3%)も治療薬として使用されている。
【0003】
特許文献1には、脳内セロトニン濃度の上昇が角結膜障害の予防又は治療効果を有することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、脳内セロトニン濃度を上昇させる選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor :SSRI)を点眼剤として使用しても、涙液分泌促進効果は発揮しなかった(後述の実施例を参照)。
【0006】
本発明者らは、更に研究を進めたところ、ノルアドレナリンの再取り込みを阻害する薬剤を点眼剤として使用すると、涙液分泌促進効果を発揮することを発見し、本発明は完成した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、
脳内ノルアドレナリン濃度を上昇させる化合物を有効成分として含有する、涙液分泌促進用医薬組成物であって、
上記涙液分泌促進用医薬組成物は、眼科用である、
涙液分泌促進用医薬組成物(但し、上記脳内ノルアドレナリン濃度を上昇させる化合物からベンラファキシン又はその薬理学的に許容可能な塩を除く)
を提供することである。
【0008】
本発明にかかる医薬組成物を用いることで、涙液の分泌を促進させることができ、これによって、角膜及び結膜上皮障害を予防又は治療することができる。
【0009】
本発明の別の目的は、
脳内ノルアドレナリン濃度を上昇させる化合物を有効成分として含有する、角結膜障害の予防又は治療用医薬組成物であって、
上記角結膜障害の予防又は治療剤は、眼科用である、
角結膜障害の予防又は治療用医薬組成物(但し、上記脳内ノルアドレナリン濃度を上昇させる化合物からベンラファキシン又はその薬理学的に許容可能な塩を除く)
を提供することである。
【0010】
本発明にかかる医薬組成物を用いることで、角結膜障害を予防又は治療することができる。
【0011】
上記脳内ノルアドレナリン濃度を上昇させる化合物は、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬、選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬及び四環系抗うつ薬からなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。
【0012】
上記セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬の濃度は、0.15wt%以上であってもよい。上記選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬の濃度は、0.3wt%以上であってもよい。上記四環系抗うつ薬の濃度は、0.15wt%以上であってもよい。
【0013】
上記セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬は、デュロキセチン若しくはその薬理学的に許容可能な塩、又はミルナシプラン若しくはその薬理学的に許容可能な塩であってもよい。上記選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬は、アトモキセチン又はその薬理学的に許容可能な塩であってもよい。上記四環系抗うつ薬は、マプロチリン又はその薬理学的に許容可能な塩であってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0014】
定義
便宜上、本願で使用される特定の用語は、ここに集めている。別途規定されない限り、本願で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般的に理解するのと同じ意味を有する。文脈で別途明記されない限り、単数形「a」、「an」及び「the」は複数の言及を含む。
【0015】
本発明で示す数値範囲及びパラメーターは、近似値であるが、特定の実施例に示されている数値は可能な限り正確に記載している。しかしながら、いずれの数値も本質的に、それぞれの試験測定値に見られる標準偏差から必然的に生じる特定の誤差を含んでいる。また、本明細書で使用する「約」という用語は、一般に、所与の値又は範囲の10%、5%、1%又は0.5%以内を意味する。或いは、用語「約」は、当業者が考慮する場合、許容可能な標準誤差内にあることを意味する。
【0016】
本明細書で言及される「有効量」という用語は、所望の応答をもたらすのに十分な成分の量を指す。治療目的のために、有効量は、成分の毒性又は有害な効果よりも治療的に有益な効果を上回る量でもある。薬剤の有効量は、疾患又は症状を治癒する必要はないが、疾患若しくは症状の発症を遅延、妨害又は予防し、又は疾患若しくは症状を緩和し、疾患若しくは症状を治療することができる。有効量は、適切な投薬形態で1回、2回又はそれ以上の用量に分割されることで、所定の期間内で1回、2回又はそれ以上で投与されることができる。具体的な有効量又は十分量は、処置される特定の病状、患者の身体的条件(例えば、患者の体重、年齢、又は性別)、治療を受けている哺乳類又は動物のタイプ、治療期間、併用療法の性質(存在する場合)、採用される特定の処方、化合物の構造又はその誘導体などの要因によって変化する。有効量は、例えば、細胞数、グラム、ミリグラム若しくはマイクログラムで、又は体重1キログラムあたりのミリグラム(mg/Kg)として表されてもよい。あるいは、有効量は、活性成分(例えば、本開示の化合物)の濃度(例えば、細胞濃度、モル濃度、質量濃度、体積濃度、質量モル濃度、モル分率、質量分率及び混合比)で表すことができる。当業者は、動物モデルから決定された用量に基づいて、医薬品(本発明の化合物など)のヒト等価用量(HED)を計算することができる。例えば、米国食品医薬品局(FDA)が発行した「成人の健康なボランティアの治療薬の初期臨床試験における最大安全開始用量の推定」と題された業界のガイダンスに従って、ヒト被験体での使用の最大安全用量を推定することができる。
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、例示であって、本発明の範囲は、以下の実施形態で示すものに限定されない。なお、同様な内容については繰り返しの煩雑をさけるために、適宜説明を省略する。
【0018】
医薬組成物
本実施形態において、涙液分泌促進用医薬組成物又は角結膜障害の予防若しくは治療用医薬組成物が提供される。本実施形態にかかる涙液分泌促進用医薬組成物又は角結膜障害の予防若しくは治療用医薬組成物は、脳内ノルアドレナリン濃度を上昇させる化合物を有効成分として含有する。
【0019】
脳内ノルアドレナリン濃度を上昇させる化合物として、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(serotonin-noradrenaline reuptake inhibitor:SNRI)、選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(selective noradrenalin reuptake inhibitor)及び四環系抗うつ薬を挙げることができる。ある実施形態において、脳内ノルアドレナリン濃度を上昇させる化合物は、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬、選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬及び四環系抗うつ薬からなる群より選択される少なくとも1つである。別の実施形態において、脳内ノルアドレナリン濃度を上昇させる化合物は、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬及び/又は選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬である。
【0020】
セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬として、ベンラファキシン、O-デスメチルベンラファキシン、デュロキセチン、クロミプラミン、デスメチルクロミプラミン、ミルナシプラン、及びイミプラミン並びにこれらの薬理学的に許容可能な塩を挙げることができる。ある実施形態において、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬は、ベンラファキシン及びその薬理学的に許容可能な塩を含まない。
【0021】
選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬として、レボキセチン、アトモキセチン及びにこれらの薬理学的に許容可能な塩を挙げることができる。
【0022】
四環系抗うつ薬として、マプロチリン、ミアンセリン及びセチプチリン並びにこれらの薬理学的に許容可能な塩を挙げることができる。
【0023】
薬理学的に許容可能な塩として、無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、及びリン酸)、及び有機酸(例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、炭酸、ピクリン酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、及びグルタミン酸)の酸付加塩を挙げることができる。
【0024】
本実施形態にかかる医薬組成物は、単独投与又は他の治療薬との併用投与のいずれであれ、涙液の分泌を促進させるのに有効な量で投与される。
【0025】
本実施形態にかかる医薬組成物におけるセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬の濃度は、0.15wt%以上であってもよい。ある実施形態において、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬の濃度は、0.15から10wt%であり、0.15、0.16、0.17、0.18、0.19、0.2、0.25、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9及び10wt%からなる群より選択される任意の2値の間の範囲内であってもよい(例えば、0.2から5wt%)。
【0026】
ある実施形態において、医薬組成物におけるミルナシプラン又はその薬理学的に許容可能な塩の濃度は、0.15から10wt%であり、0.15、0.16、0.17、0.18、0.19、0.2、0.25、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9及び10wt%からなる群より選択される任意の2値の間の範囲内であってもよい(例えば、0.2から5wt%)。
【0027】
ある実施形態において、医薬組成物におけるデュロキセチン又はその薬理学的に許容可能な塩の濃度は、0.15から10wt%であり、0.15、0.16、0.17、0.18、0.19、0.2、0.25、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9及び10wt%からなる群より選択される任意の2値の間の範囲内であってもよい(例えば、0.2から5wt%)。
【0028】
本実施形態にかかる医薬組成物における選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬の濃度は、0.3wt%以上であってもよい。ある実施形態において、選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬の濃度は、0.3から10wt%であり、0.3、0.35、0.4、0.45、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9及び10wt%からなる群より選択される任意の2値の間の範囲内であってもよい(例えば、0.5から5wt%)。
【0029】
ある実施形態において、医薬組成物におけるアトモキセチン又はその薬理学的に許容可能な塩の濃度は、0.3から10wt%であり、0.3、0.35、0.4、0.45、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9及び10wt%からなる群より選択される任意の2値の間の範囲内であってもよい(例えば、0.3から5wt%)。
【0030】
本実施形態にかかる医薬組成物における四環系抗うつ剤の濃度は、0.15wt%以上であってもよい。ある実施形態において、四環系抗うつ剤の濃度は、0.15から10wt%であり、0.15、0.16、0.17、0.18、0.19、0.2、0.25、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9及び10wt%からなる群より選択される任意の2値の間の範囲内であってもよい(例えば、0.15から0.5wt%)。
【0031】
ある実施形態において、医薬組成物におけるマプロチリン又はその薬理学的に許容可能な塩の濃度は、0.15から10wt%であり、0.15、0.16、0.17、0.18、0.19、0.2、0.25、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9及び10wt%からなる群より選択される任意の2値の間の範囲内であってもよい(例えば、0.15から0.5wt%)。
【0032】
セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬、選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬又は四環系抗うつ剤及びこれらの任意の組み合わせの総投与量は、担当医によって、健全な医学的判断の範囲内で決定されてもよい。対象に対する有効量は、対象の重症度;対象の年齢、体重、総体的健康、性別及び食事;投与時間;投与経路;セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬、選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬又は四環系抗うつ剤の排出又は分解速度;治療期間;上記組成物と併用している又は同時使用している薬物に依存してもよい。上記組成物の投与量は、投与毎に一定量でなくてもよい。例えば、所望の効果を達成するのに必要な投与量よりも低い投与量で投与し、所望の効果が得られるまで投与量を次第に増大させてもよい。
【0033】
「角結膜障害」は、角膜及び/又は結膜の障害を意味し、ドライアイ、シェーグレン症候群、スティーブンス・ジョンソン症候群、角結膜炎などが含まれ、好ましくはドライアイである。
【0034】
「予防」とは、涙液の分泌量の減少を阻止、抑制、又は遅延すること、涙液の分泌量を維持すること、涙液の分泌量を増大させること、及び/又は、角結膜障害の発症を阻止、抑制、又は遅延することを意味する。
【0035】
「治療」とは、涙液の分泌量の減少を阻止、抑制、又は遅延すること、涙液の分泌量を維持すること、涙液の分泌量を増大させること、及び/又は角結膜障害の症状を治癒、軽減、改善、又は抑制することを意味し、「治療」には「予防」が含まれる。
【0036】
本実施形態にかかる医薬組成物は、眼科用であり、好ましくは点眼用である。本実施形態にかかる医薬組成物は、医薬品や医薬部外品等の眼科用剤として使用できる。ここで、眼科用剤には、点眼剤、人工涙液、洗眼剤、眼軟膏、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズケア用剤(コンタクトレンズ消毒剤、コンタクトレンズ用保存剤、コンタクトレンズ用洗浄剤、コンタクトレンズ用洗浄保存剤等が含まれる)等が含まれる。
【0037】
本実施形態にかかる医薬組成物は、目的に応じて種々のpHに調節してよい。pHとして好ましくは3~12であり、より好ましくは4~11であり、さらに好ましくは5~10であり、さらに好ましくは5~9であり、さらに好ましくは5~8である。
【0038】
本実施形態にかかる医薬組成物の投与量及び投与回数は、投与対象の症状等に応じて適宜選択することができる。例えば、成人に対し1回につき1~3滴程度を一日あたり1~6回程度投与すればよい。
【0039】
本実施形態にかかる医薬組成物は、必要に応じて製剤担体が好適に配合される。製剤担体としては、溶剤、溶解補助剤、乳化剤、等張化剤、緩衝剤、pH調整剤等が挙げられる。さらに必要に応じて、安定化剤、保存剤、酸化防止剤等の製剤分野において通常用いられる任意の公知の添加剤や薬理学的に許容される添加剤を必要に応じて用いることもできる。
【0040】
溶剤としては、特に限定されないが、例えば、精製水、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、マクロゴール、食用油(ゴマ油、トウモロコシ油、オリーブ油等)等が挙げられる。溶解補助剤としては、特に限定されないが、例えば、プロピレングリコール、D-マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0041】
乳化剤としては、特に限定されないが、例えば、カルメロース、ヒドロキシプロピルセルロース、プロピレングリコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、モノステアリン酸グリセリン、ポリビニルアルコール、レシチン(卵黄レシチン、大豆レシチン)、デオキシコール酸類、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(ポリソルベート80)、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン等が挙げられ、レシチンが好ましく、卵黄レシチンがより好ましい。乳化剤の含有量は、医薬組成物全体に対して、0.1~3.0w/v%であってもよい。
【0042】
等張化剤としては、特に限定されないが、例えば、ブドウ糖、D-ソルビトール、塩化ナトリウム、D-マンニトール、グリセリン等が挙げられ、グリセリンが好ましい。グリセリンの含有量は、医薬組成物全体に対して等張にする量を計算により求める。
【0043】
緩衝剤としては、特に限定されないが、例えば、クエン酸塩(クエン酸三ナトリウム二水和物、クエン酸ナトリウム、クエン酸二ナトリウム等)、リン酸塩(リン酸二水素ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸カリウム、リン酸水素二カリウム等)、ホウ酸塩(ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム)、酢酸塩(酢酸ナトリウム三水和物、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等)、炭酸塩(炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等)等が挙げられる。
【0044】
pH調整剤としては、特に限定されないが、例えば、塩酸、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
【0045】
安定化剤としては、特に限定されないが、例えばEDTA、オレイン酸Na、カゼイン、カゼインナトリウム塩等が挙げられる。EDTAとしては、EDTA-2Na、EDTA-4Na等が含まれる。EDTAの含有量は、医薬組成物全体に対して、0.001~0.1w/v%であってもよい。
【0046】
保存剤としては、特に限定されないが、例えば、4級アンモニウム塩(ベンザルコニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物等)、パラオキシ安息香酸エステル(パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル)、クロルヘキシジングルコン酸塩、クロロブタノール、ベンジルアルコール、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸等が挙げられる。
【0047】
酸化防止剤としては、例えばポリフェノール、アスコルビン酸、t-ブチルヒドロキノン、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、L-システイン塩酸塩、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、α-トコフェロール等、並びにそれらの誘導体等が挙げられる。
【0048】
涙液分泌促進方法又は角結膜障害を予防若しくは治療する方法
別の実施形態において、涙液分泌促進方法又は角結膜障害を予防若しくは治療する方法が提供される。
【0049】
涙液分泌促進方法は、対象の眼に上記涙液分泌促進用医薬組成物を投与するステップを有する。角結膜障害を予防又は治療する方法は、対象の眼に上記角結膜障害の予防又は治療用医薬組成物を投与するステップを有する。
【0050】
用語「対象」は、本実施形態にかかる医薬組成物及び/又は方法によって治療可能な人類を含む動物を意味する。用語「対象」は、1つの性別が特定されていない限り、オスとメスの両方の性別を指すことが意図される。従って、用語「対象」は、本開示の方法から利益を得ることができる任意の哺乳動物を含む。「対象」の例は、ヒト、ラット、マウス、モルモット、サル、ブタ、ヤギ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、トリ及びニワトリを含むがこれらに限定されない。例示的な実施形態において、対象はヒトである。
【0051】
脳内ノルアドレナリン濃度を上昇させる化合物の使用
別の実施形態において、涙液分泌促進用医薬組成物又は角結膜障害の予防若しくは治療用医薬組成物の製造のための脳内ノルアドレナリン濃度を上昇させる化合物の使用が提供される。
【実施例0052】
表1に示す検体をウサギに点眼することで、各検体に涙液分泌作用を有するか否かを試験した。
【0053】
【0054】
ミルナシプラン塩酸塩は東京化成工業株式会社から、ベンラファキシン塩酸塩はBLD Pharmatech社から、デュロキセチン塩酸塩は東京化成工業株式会社から、セルトラリン塩酸塩はCombi-Blocks社から、アトモキセチン塩酸塩は東京化成工業株式会社から購入した。マプロチリン塩酸塩は東京化成工業株式会社から購入した。精製水(超純水)は、超純水製造装置(ADVANTEC社製、型式:RFU666HA)で製造した。
【0055】
3%ベンラファキシン塩酸塩溶液(検体No.6)は、ベンラファキシン塩酸塩30mgにPBS(+)0.3mLおよび超純水0.67mLを加えることで調製した。
【0056】
各検体をウサギ(オス、日本白色種)に点眼投与した。検体No. 1から6及び10に対して生理食塩液(大塚生食注、製造番号:0C71S、株式会社大塚製薬工場)をコントロールとして用い、検体No. 7から9に対して5%グルコースをコントロールとして用い、No. 11から13に対してPBS(-)をコントロールとして用い、検体No. 14から16に対して10mMグルタミン酸-グルタミン酸Na緩衝液(pH4.25)(L-グルタミン酸(富士フイルム和光純薬)、L-グルタミン酸ナトリウム「製造専用」(富士フイルム和光純薬))をコントロールとして用いた。各検体及びコントロールの投与量は、50μL/eyeとした。各検体の点眼投与の12分後、ウサギを押田式固定器で保定した状態でオキシプブロカイン点眼液によるウサギの眼表面麻酔を行った。検体投与15分後(眼表面麻酔3分後)、先端の折り線プレスのところで折り曲げたシルメル試験紙(あゆみ製薬)をウサギの下眼瞼の結膜嚢に挿入した。挿入の1分後にシルメル試験紙をウサギから取り除き、シルメル試験紙の濡れている長さ(シルマー値(mm/min))を試験紙にプリントされたメモリから読み取った。
【0057】
検体No. 1から5
生理食塩液点眼投与群に対して、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬であるミルナシプラン塩酸塩の0.2%、1%および5%点眼投与群に有意な差が検出された(表2及び3)。
【0058】
【0059】
【0060】
検体No. 6
生理食塩液点眼投与群に対して、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬であるベンラファキシン塩酸塩の3%点眼投与群に有意な差は検出されなかった(表4、対応のあるt検定)。
【0061】
【0062】
検体No. 7から9
5%グルコース溶液点眼投与群に対して、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬であるデュロキセチン塩酸塩の0.2%点眼投与群に有意な差が検出された(表5)。
【0063】
【0064】
検体No. 10
生理食塩液点眼投与群に対して、選択的セロトニン再取り込み阻害薬であるセルトラリン塩酸塩の0.1%点眼投与群に有意な差は検出されなかった(表6、対応のあるt検定)。
【0065】
【0066】
検体No. 11から13
PBS(-)点眼投与群に対して、選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬であるアトモキセチン塩酸塩の0.5%点眼投与群に有意な差が検出された(表7)。
【0067】
【0068】
検体No. 14から16
生理食塩液点眼投与群に対して、四環系抗うつ剤(非選択的モノアミン再取り込み阻害薬)である0.5%マプロチリン塩酸塩溶液の0.25%及び0.5%点眼投与群に涙液分泌に有意な差が検出された(表8)。
【0069】
【0070】
以上より、選択的セロトニン再取り込み阻害薬であるセルトラリン塩酸塩は、点眼剤では涙液分泌促進効果を発揮しなかった。セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬であるミルナシプラン塩酸塩及びデュロキセチン塩酸塩と、選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬であるアトモキセチン塩酸塩と、四環系抗うつ剤であるマプロチリン塩酸塩溶液は、涙液分泌促進効果を発揮した一方で、ベンラファキシン塩酸塩は、涙液分泌促進効果を発揮しなかった。