(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076395
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】ドプラ周波数計測装置、ドプラ周波数計測方法、および同期信号生成方法
(51)【国際特許分類】
A61B 8/06 20060101AFI20240530BHJP
【FI】
A61B8/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187852
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】511192595
【氏名又は名称】ディー・クルー・テクノロジーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000844
【氏名又は名称】弁理士法人クレイア特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】夏目 尚紀
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601DD03
4C601DE03
4C601EE09
4C601JB24
4C601JB30
4C601JB34
4C601JB48
(57)【要約】
【課題】C/N比が小さい場合のドプラ周波数の誤差を、低減することのできるドプラ周波数計測装置、ドプラ周波数計測方法、および同期信号生成方法を提供する。
【解決手段】所定の間隔Tで繰り返し所定の長さの超音波パルスを生成する送信部10と、超音波パルスを計測対象に投射するとともに、計測対象からの反射波を検知する超音波プローブ30と、超音波プローブが検知した反射波を増幅する受信部20と、増幅された反射波と超音波パルスとの直交検波信号を生成し、直交検波信号を所定の長さに亘って平均した第1平均値C0と所定の間隔T前の直交検波信号を所定の長さに亘って平均した第2平均値C1との複素共役積の位相θに基づき、ドプラ周波数fを計算するドプラ周波数計算部40と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔で繰り返し所定の長さの超音波パルスを生成する送信部と、
前記超音波パルスを計測対象に投射するとともに、前記計測対象からの反射波を検知する超音波プローブと、
前記超音波プローブが検知した前記反射波を増幅する受信部と、
増幅された前記反射波と前記超音波パルスとの直交検波信号を生成し、前記直交検波信号を前記所定の長さに亘って平均した第1平均値と前記所定の間隔前の前記直交検波信号を前記所定の長さに亘って平均した第2平均値との複素共役積の位相に基づき、ドプラ周波数を計算するドプラ周波数計算部と、を備える、ドプラ周波数計測装置。
【請求項2】
前記ドプラ周波数をf、前記第1平均値と前記第2平均値との複素共役積の位相をθ、前記所定の間隔をTとしたとき、前記ドプラ周波数は下記式で表される、請求項1に記載のドプラ周波数計測装置。
f=θ/(2πT)
【請求項3】
前記計測対象は血管中の血液であって、前記ドプラ周波数は前記血液の血流速度の測定に用いられる、請求項1に記載のドプラ周波数計測装置。
【請求項4】
前記直交検波信号に低周波数信号を抑圧するMTIフィルタ(固定物除去フィルタ)を挿入する、請求項3に記載のドプラ周波数計測装置。
【請求項5】
さらに、計測した前記ドプラ周波数を周波数とする複素正弦波と前記直交検波信号との複素共役積の平均値を計算し、計測した前記ドプラ周波数を周波数とし前記平均値の位相を初期位相とする正弦波の同期信号を生成する同期信号生成部と、
前記ドプラ周波数計算部で計算した前記ドプラ周波数からのドプラ周波数の変動量を計算するドプラ周波数変動量計算部と、を備え、
前記ドプラ周波数の変動量を計算する場合、
前記送信部は超音波連続信号を生成し、
前記超音波プローブは前記計測対象に前記超音波連続信号を投射するとともに前記計測対象からの連続反射波を検知し、
前記受信部は前記超音波プローブが検知した前記連続反射波を増幅し、
前記ドプラ周波数変動量計算部は、増幅された前記連続反射波と前記超音波連続信号との連続直交検波信号を生成し、生成した前記連続直交検波信号と前記同期信号との複素共役積の周波数に基づき、前記連続反射波のドプラ周波数の変動量を計算する、請求項1から4のいずれか1項に記載のドプラ周波数計測装置。
【請求項6】
所定の間隔で計測対象に繰り返し所定の長さの超音波パルスを投射し、前記計測対象からの反射波を受信し、受信した前記反射波を増幅する送受波工程と、
増幅された前記反射波と前記超音波パルスとの直交検波信号を生成し、前記直交検波信号を前記所定の長さに亘って平均した第1平均値と前記所定の間隔前の前記直交検波信号を前記所定の長さに亘って平均した第2平均値との複素共役積の位相に基づき、ドプラ周波数を計算するドプラ周波数計算工程と、を備える、ドプラ周波数計測方法。
【請求項7】
さらに、計測した前記ドプラ周波数を周波数とする複素正弦波と前記直交検波信号との複素共役積の平均値を計算し、計測した前記ドプラ周波数を周波数とし前記平均値の位相を初期位相とする正弦波の同期信号を生成する同期信号生成工程と、
前記ドプラ周波数計算工程で計算した前記ドプラ周波数からのドプラ周波数の変動量を計算するドプラ周波数変動量計算工程と、を備え、
ドプラ周波数の変動量を計算する場合、
前記送受波工程は、前記計測対象に超音波連続信号を投射し、前記計測対象からの連続反射波を受信し、受信した前記連続反射波を増幅し、
前記ドプラ周波数変動量計算工程は、増幅された前記連続反射波と前記超音波連続信号との連続直交検波信号を生成し、生成した前記連続直交検波信号と前記同期信号との複素共役積の周波数に基づき、前記連続反射波のドプラ周波数の変動量を計算する、請求項6に記載のドプラ周波数計測方法。
【請求項8】
請求項6に記載のドプラ周波数計測方法を含み、
さらに、計測した前記ドプラ周波数を周波数とする複素正弦波と前記直交検波信号との複素共役積の平均値を計算し、計測した前記ドプラ周波数を周波数とし前記平均値の位相を初期位相とする正弦波の同期信号を生成する同期信号生成工程を備える、同期信号生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドプラ周波数計測装置、ドプラ周波数計測方法、および同期信号生成方法に関し、特にC/N比の低い信号において正確にドプラ周波数を計測することのできるドプラ周波数計測装置、ドプラ周波数計測方法、および同期信号生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ドプラ周波数計測装置に関連して例えば、以下の発明が出願されている。
【0003】
特許文献1(特開昭58-188433号公報)には、超音波パルスドプラ法を改良して従来の多数チャンネルを用いることなく送受信される超音波のパルスビームの通過線上にある運動速度分布を一度に測定し、高速実時間で運動速度分布を表示することのできる改良された超音波診断装置が開示されている。
特許文献1に記載の超音波診断装置は、超音波パルスビームを一定の繰返し周波数で生体内に送信し反射波を受信増幅して表示する超音波診断装置において、送信繰返し周波数の整数倍の周波数を有し互いに複素関係にある一組の複素基準信号と受信高周波信号とを混合して受信高周波信号を複素信号に変換する複素信号変換器と、送信繰返し周期の整数倍の遅れ時間を設けて複素信号の自己相関を演算する自己相関器と、自己相関の偏角を演算する偏角演算器と、を含み、生体内の運動部の運動速度分布を測定および表示することを特徴とする。
【0004】
特許文献2(特開平01-320048号公報)には、従来の、単純累加法に基づくパルスドプラ計測装置における問題を解消し、高い信号対雑音比で計測が可能なパルスドプラ計測装置が開示されている。
特許文献2に記載のパルスドプラ計測装置は、物体により反射された超音波パルスを受波して該超音波パルスの位相差を検出し、位相差ベクトルを加算した後、位相差ベクトルの角度を検出して、該角度を超音波パルスの送波間隔で除算して周波数変動を求めることにより、物体の速度を算出するパルスドプラ計測装置において、位相差ベクトルの加算を行う際に角度差の補正を行う角度補正手段を設けたことを特徴とする。
【0005】
特許文献3(特開平3-131787号公報)には、パルスくり返し周期ごとにMTIを介して得たドプラ信号同志の自己相関をとって得た位相差ベクトルを加算する演算において、雑音振幅Bnが大きい(Bn≫1)ときには、位相項において雑音が打消されず、加算増大する問題を解決するパルスドプラ計測装置が開示されている。
特許文献3に記載のパルスドプラ計測装置は、所定の間隔で検査対象に繰り返し超音波パルスを送波し、検査対象からの反射波を受波し、受信した反射波から受信信号を生成する送受波手段と、受波信号が生成される毎に、受波信号の位相を表わす位相ベクトルを生成する位相検出手段と、位相ベクトルが生成される毎に、先に生成された位相ベクトルと現在の位相ベクトルとの間の位相差値を生成する位相差検出手段と、位相差検出手段から出力される複数の位相差値を、正の値をもつ第1群と、負の値をもつ第2群とに分類する手段と、第1群に属する位相差値と、第2群に属する位相差値から第1の全平均値を求める手段と、第1の全平均値を流速に変換する手段とを有することを特徴とする。
【0006】
特許文献4(特開平11-094932号公報)には、不等間隔パルス送波による計測範囲の拡大したパルスドプラ計測法において、送波期間をさらに増すことなく、ブラインド周波数の問題解決と信号対雑音比の改善を行うパルスドプラ計測装置が開示されている。
特許文献4に記載のパルスドプラ計測装置は、送波回路において4種類のパルス繰り返し周期信号を生成し、これを超音波パルスとして、トランスデューサにより送出し、受波回路を介して同一のトランスデューサで受信した反射波について、位相信号を位相比較部で検出し、ドプラシフト検出部において、2重の位相差検出部により位相差の差と、位相差とを得て、ブラインド周波数の問題解決と信号対雑音比の改善を行い、位相差補正部では位相差の差の情報により、折り返しを解消した位相差を得て、これをドプラ周波数に変換し、表示部において2次元表示する。
【0007】
特許文献5(特開平1-314552号公報)には、低速血流を正確に測定することができるようにした超音波ドップラ血流計が開示されている。
特許文献5に記載の超音波ドップラ血流計は、生体内に超音波を送信し、上記生体内で反射してきたエコー信号を受信する超音波探触子と、この超音波探触子をパルス信号で駆動する送信手段と、上記パルス信号と同一周波数で位相が互いに90゜異なる1組の直交信号により上記エコー信号を直交検波して検波信号を得る直交検波手段と、生体表面からの距離に応じたエコー信号の受信時刻に基づいて血管内からのエコー信号が受信される期間に第1のゲート信号を発生する第1のゲート発生手段と、上記第1のゲート信号を含みかつ上記第1のゲート信号の信号幅より広い信号幅を有し上記生体内の血管内及び血管周辺の生体組織からのエコー信号が受信される期間に第2のゲート信号を発生する第2のゲート発生手段と、上記第1のゲート信号の期間に上記検波信号を上記パルス信号の送受信毎に積分しサンプルホールドして上記生体内の血流により生じる第1のドップラ信号を検出する第1のドップラ信号検出手段と、上記第2のゲート信号の期間に上記検波信号を上記パルス信号の送受信毎に積分しサンプルホールドして上記生体内の血管周辺の生体組織のクラッタ成分を含む第2のドップラ信号を検出する第2のドップラ信号検出手段と、上記第1のドップラ信号と上記第2のドップラ信号との位相差を持つ信号を演算し出力する位相差演算手段とを備えたことを特徴とする。
【0008】
特許文献6(特開平1-293854号公報)には、低い発振周波数で従来のドップラ血流装置と同等の効果が得られる、また、直交信号周波数f1,f2の設定の自由を大きくする超音波ドップラ血流装置が開示されている。
特許文献6に記載の超音波ドップラ血流装置は、生体内へ周期的に超音波パルスを送信し、超音波パルスの周波数を中心周波数とするエコー信号を受信する超音波探触子と、エコー信号の中心周波数付近の周波数で相互に位相が90°異なる第1の直交信号によりエコー信号を直交変調し超音波パルスの中心周波数より低い周波数を中心周波数とする信号を出力する第1及び第2の乗算器から成る平衡変調手段と、エコー信号の中心周波数の1/2以下の周波数で相互に位相が90°異なる第2の直交信号により第1の乗算器の出力信号を直交検波する第3及び第4の乗算器と、第2の乗算器の出力信号を第2の直交信号により直交検波する第5及び第6の乗算器と、第4の乗算器の出力と第5の乗算器の出力を加算する第1の加算器と、第3の乗算器の出力から第6の乗算器の出力を引算する第1の引算器と、第5の乗算器の出力から第4の乗算器の出力を引算する第2の引算器と、第3の乗算器の出力と第6の乗算器の出力を加算する第2の加算器と、第1の加算器及び第1の引算器によって平衡変調手段の出力信号の上側波帯から分離される第1のドップラ信号と第2の引算器及び第2の加算器によって平衡変調手段の出力信号の下側波帯から分離される第2のドップラ信号の周波数差を求める周波数演算手段とを具備することを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭58-188433号公報
【特許文献2】特開平01-320048号公報
【特許文献3】特開平3-131787号公報
【特許文献4】特開平11-094932号公報
【特許文献5】特開平1-314552号公報
【特許文献6】特開平1-293854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来より、非侵襲的に血行動態や血流速度、生体内動向を検査することを目的として、超音波パルスを計測対象に投射し、計測対象からの反射波の周波数変化(ドプラシフト)を計測する超音波パルスドプラ法が広く行われている。
しかし、例えば血流速度を検査する場合、投射された超音波は血流だけではなく、心臓の壁などからも反射され、信号の大きさとしては血流からの反射波よりも心臓の壁などからの反射波の方が大きい。しかし、心臓の壁などから反射された反射波は対象物の動きが遅いためドプラ周波数が小さく、したがって、受信した反射波と超音波パルスとの直交検波信号を生成した場合、直交検波信号の周波数が低くなる。そこで、通常、直交検波出力に低周波数信号を抑圧するMTIフィルタ(Moving Target Indicator:固定物除去フィルタ)が挿入される。
しかし、直交検波出力に低周波数信号を抑圧するフィルタが挿入された場合、血流からの反射波の直交検波信号も抑圧され、特に血流からの反射波のドプラ周波数が低い場合には、直交検波信号のC/N比が小さくなり、計測されるドプラ周波数の誤差が大きくなるという問題がある。
また、従来のパルスドプラ周波数計測装置では、所定の間隔で投射される複数の超音波パルスの反射波を用いてドプラ周波数を計算するため、ドプラ周波数の急激な変動を検出することが困難である。
【0011】
特許文献1に記載の超音波診断装置では、複素信号の自己相関を演算する自己相関器の出力の平均値を計算し、その平均値の位相を計算することでC/N比が小さい場合のドプラ周波数の誤差を低減しようとしているが、十分ではない。
【0012】
特許文献2に記載のパルスドプラ計測装置では、所定の間隔離れた直交検波信号の位相差を加算平均するにあたって、加算平均の結果が零付近の負の角度となる問題を解消するものであるが、C/N比が小さい場合のドプラ周波数の誤差の低減効果は十分ではない。
【0013】
特許文献3に記載のパルスドプラ計測装置もドプラ信号同志の自己相関をとって得た位相差ベクトルを加算する演算において、雑音振幅Bnが大きい(Bn≫1)ときには、位相項において雑音が打消されず、加算増大する問題に対する対策を講じるものであるが、やはりC/N比が小さい場合のドプラ周波数の誤差の低減効果は十分ではない。
【0014】
特許文献4に記載のパルスドプラ計測装置は、四周期法により通常方式の計測限界の5倍程度を通常方式と同一の信号対雑音比で表示可能とするものであるが、C/N比が小さい場合のドプラ周波数の誤差は通常方式と同じである。
【0015】
特許文献5に記載のパルスドプラ計測装置は、血流からの反射波が到達する時間と心臓の壁などから反射された反射波が到達する時間との時間差を利用して心臓の壁などから反射された反射波の影響を低減するものであるが、C/N比が小さい場合のドプラ周波数の誤差そのものを低減するものではない。
【0016】
特許文献6に記載の超音波ドップラ血流装置は低い発振周波数で従来のドプラ血流装置と同等の効果を得ることを目的とするものであり、C/N比が小さい場合のドプラ周波数の誤差は通常方式と同じである。
【0017】
本発明の主な目的は、C/N比が小さい場合のドプラ周波数の誤差を、特殊なケースに限定することなく低減することのできるドプラ周波数計測装置、ドプラ周波数計測方法、および同期信号生成方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、ドプラ周波数の急激な変動を検出することができるドプラ周波数計測装置、ドプラ周波数計測方法、および同期信号生成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
(1)
一局面に従うドプラ周波数計測装置は、所定の間隔で繰り返し所定の長さの超音波パルスを生成する送信部と、超音波パルスを計測対象に投射するとともに、計測対象からの反射波を検知する超音波プローブと、超音波プローブが検知した反射波を増幅する受信部と、増幅された反射波と超音波パルスとの直交検波信号を生成し、直交検波信号を所定の長さに亘って平均した第1平均値と所定の間隔前の直交検波信号を所定の長さに亘って平均した第2平均値との複素共役積の位相に基づき、ドプラ周波数を計算するドプラ周波数計算部と、を備える。
【0019】
従来のパルスドプラ周波数計測装置では、直交検波信号と超音波パルスの周期分遅延した直交検波信号との複素共役積を求め、この複素共役積を平均することで雑音を抑制している(例えば、特許文献1明細書およびブロック回路図参照)。
この場合、信号をC、雑音をNとし、1パルス目の(遅延した)直交検波信号の電力を(C0+N0)、2パルス目の直交検波信号の電力を(C1+N1)とすると、複素共役積は、
(C0+N0)(C1+N1)*=C0・C1*+C0・N1*+C1*・N0+N0・N1*
となる。(*は複素共役信号を表す。)
この複素共役積のM個のデータを平均すると、雑音の電力は1/√Mになるので、平均後の電力は、
C0・C1*+C0・N1*/√M+C1*・N0/√M+N0・N1*/√M
となる。
【0020】
これに対して、一局面に従うドプラ周波数計測装置では、まず直交検波信号を平均し、平均した直交検波信号と、超音波パルスの周期分遅延し平均した直交検波信号との複素共役積を計算する。この場合、直交検波信号を平均した信号の電力は、それぞれ、
(C0+N0/√M)、(C1+N1/√M)となる。
そして、これらの直交信号の複素共役積の電力は、
C0・C1*+C0・N1*/√M+C1*・N0/√M+N0・N1*/M
となる。
上記数式1と数式2とを比較すると、N0・N1*の項の係数に差があり、一局面に従うドプラ周波数計測装置の方が従来のパルスドプラ周波数計測装置よりもN0・N1*の項の係数が1/√M小さくなっていることが分かる。
C/Nが大きい、すなわちC>Nの場合には直交信号の複素共役積の電力のうちのN0・N1*の項の電力の影響は小さいが、逆にC/Nが小さく、C<Nの場合にはN0・N1*の項の電力の影響が大きくなるため、一局面に従うドプラ周波数計測装置の方が従来のパルスドプラ周波数計測装置よりも雑音の影響が小さくなり、したがってドプラ周波数の誤差を低減することができる。
なお、この場合、計測するドプラ周波数は所定の間隔の逆数である繰り返し周波数の1/2より小さくなければならない。
【0021】
(2)
第2の発明に係るドプラ周波数計測装置は、一局面に従うドプラ周波数計測装置において、ドプラ周波数をf、第1平均値と第2平均値との複素共役積の位相をθ、所定の間隔をTとしたとき、ドプラ周波数fは下記式で表されてもよい。
f=θ/(2πT)
【0022】
今、直交検波信号をC0
n、n=0~N-1、サンプリング間隔をΔtとすると、
C0
n=Ae
j2πf(t+nΔt)となる。
この直交検波信号C0
nを1~Nに亘って平均した第1平均値C0は下記数式1となる。
【数1】
ただし、e
j2πfΔtは0ではない。
一方、この直交検波信号C0
nを1~Nに亘って平均し、時間T遅延した第2平均値C1は、下記数式2となる。
【数2】
したがって、第1平均値C0と第2平均値C1との複素共役積は、下記数式3となる。
【数3】
したがって、第1平均値C0と第2平均値C1との複素共役積の位相θは、平均しない場合と同じく2πfTとなることから、ドプラ周波数fは
f=θ/(2πT)となる。
【0023】
(3)
第3の発明に係るドプラ周波数計測装置は、一局面に従うドプラ周波数計測装置において、計測対象は血管中の血液であって、ドプラ周波数は血液の血流速度の測定に用いられてもよい。
【0024】
血流速度を検査する場合、投射された超音波は血流だけではなく、心臓の壁などからも反射され、信号の大きさとしては血流からの反射波よりも心臓の壁などからの反射波の方が大きい。そこで、通常、直交検波出力に低周波数信号を抑圧するMTIフィルタが挿入されるが、血流速度が遅く血流からの反射のドプラ周波数が低い場合は、血流からの反射の直交検波信号もMTIフィルタで抑制されるため、血流からの反射信号のC/Nが低下する。
本発明のドプラ周波数計測装置は、直交検波信号と所定の間隔前の直交検波信号とをそれぞれ平均してから複素共役積をとることにより、C/N比が小さい場合にもドプラ周波数の計測誤差を低減することができるため、本発明のドプラ周波数計測装置は血管中の血液の血流速度の測定に好適に用いることができる。
【0025】
(4)
第4の発明に係るドプラ周波数計測装置は、第3の発明に係るドプラ周波数計測装置において、直交検波信号に低周波数信号を抑圧するMTIフィルタ(固定物除去フィルタ)を挿入してもよい。
【0026】
本発明のドプラ周波数計測装置は、C/N比が小さい場合にもドプラ周波数の計測誤差を低減することができるため、MTIフィルタを挿入した場合にも速度の遅い血流の測定を精度良く行うことができる。
【0027】
(5)
第5の発明に係るドプラ周波数計測装置は、一局面から第4のいずれかの発明に係るドプラ周波数計測装置において、さらに、計測したドプラ周波数を周波数とする複素正弦波と直交検波信号との複素共役積の平均値を計算し、計測したドプラ周波数を周波数とし平均値の位相を初期位相とする正弦波の同期信号を生成する同期信号生成部と、ドプラ周波数計算部で計算したドプラ周波数からのドプラ周波数の変動量を計算するドプラ周波数変動量計算部と、を備え、ドプラ周波数の変動量を計算する場合、送信部は超音波連続信号を生成し、超音波プローブは計測対象に超音波連続信号を投射するとともに計測対象からの連続反射波を検知し、受信部は超音波プローブが検知した連続反射波を増幅し、ドプラ周波数変動量計算部は、増幅された連続反射波と超音波連続信号との連続直交検波信号を生成し、生成した連続直交検波信号と同期信号との複素共役積の周波数に基づき、連続反射波のドプラ周波数の変動量を計算してもよい。
【0028】
本発明のドプラ周波数計測装置では、計測するドプラ周波数は計測期間中変化しないことを前提としている。しかし、計測対象の変化、例えば患者の体調変化による血流速度の急激な変化、あるいは、超音波センサのスキャンによる計測対象位置の変化などによって、ドップラ周波数が急激に変化する場合がある。
このような場合、一局面に従うドプラ周波数計測装置では、少なくとも所定の間隔の期間ドプラ周波数が一定でなければ正確にドプラ周波数を測定することはできない。
第5の発明に係るドプラ周波数計測装置は、このような場合、すなわち少なくとも所定の間隔の期間ドプラ周波数が一定でドプラ周波数の測定が完了した後で、ドプラ周波数が急激に変化した場合に、変化後のドプラ周波数の変動量を計測するものである。
第5の発明に係るドプラ周波数計測装置では、ドプラ周波数が一定の期間に入力されたドプラ信号の直交検波信号と同じ周波数と同じ初期位相とを備えた同期信号を生成するとともに、計測対象に投射する超音波を超音波連続信号に変更し、受信した連続反射波の直交検波信号と同期信号との複素共役積の周波数に基づき、ドプラ周波数が一定の期間のドプラ周波数からの変動量を計算する。
この装置によれば、ドプラ周波数が急激に変化した場合にも、ドプラ周波数が一定の時のドプラ周波数からの変動量を求めることができ、血流速度の急激な変化、あるいは、超音波センサのスキャンによる計測対象位置の変化などにおいて正確なドプラ周波数の変動を計測することができ、好適である。
【0029】
(6)
他の局面に従うドプラ周波数計測方法は、所定の間隔で計測対象に繰り返し所定の長さの超音波パルスを投射し、計測対象からの反射波を受信し、受信した反射波を増幅する送受波工程と、増幅された反射波と超音波パルスとの直交検波信号を生成し、直交検波信号を所定の長さに亘って平均した第1平均値と所定の間隔前の直交検波信号を所定の長さに亘って平均した第2平均値との複素共役積の位相に基づき、ドプラ周波数を計算するドプラ周波数計算工程と、を備える。
【0030】
他の局面に従うドプラ周波数計測方法は、一局面に従うドプラ周波数計測装置に対応する方法の発明であって、直交検波信号を所定の長さに亘って平均した第1平均値と所定の間隔前の直交検波信号を所定の長さに亘って平均した第2平均値との複素共役積を計算することによって、直交検波信号と所定の間隔前の直交検波信号との複素共役信号の平均値を計算する場合よりも雑音の影響を少なくすることができ、C/Nが小さい場合のドプラ周波数の誤差を低減することができる。
【0031】
(7)
第7の発明に係るドプラ周波数計測方法は、他の局面に従うドプラ周波数計測方法において、さらに、計測したドプラ周波数を周波数とする複素正弦波と直交検波信号との複素共役積の平均値を計算し、計測したドプラ周波数を周波数とし平均値の位相を初期位相とする正弦波の同期信号を生成する同期信号生成工程と、ドプラ周波数計算工程で計算したドプラ周波数からのドプラ周波数の変動量を計算するドプラ周波数変動量計算工程と、を備え、ドプラ周波数の変動量を計算する場合、送受波工程は、計測対象に超音波連続信号を投射し、計測対象からの連続反射波を受信し、受信した連続反射波を増幅し、ドプラ周波数変動量計算工程は、増幅された連続反射波と超音波連続信号との連続直交検波信号を生成し、生成した連続直交検波信号と同期信号との複素共役積の周波数に基づき、連続反射波のドプラ周波数の変動量を計算してもよい。
【0032】
第7の発明に係るドプラ周波数計測方法は、第5の発明に係るドプラ周波数計測装置に対応する方法の発明であって、ドプラ周波数が一定の期間に入力されたドプラ信号の直交検波信号と同じ周波数と初期位相とを備えた同期信号を生成するとともに、計測対象に投射する超音波を超音波連続信号に変更し、受信した連続反射波の直交検波信号と同期信号との複素共役積の位相に基づき、ドプラ周波数が一定の期間のドプラ周波数からの変動量を計算する。
この方法によれば、ドプラ周波数が急激に変化した場合にも、ドプラ周波数が一定の時のドプラ周波数からの変動量を求めることができ、血流速度の急激な変化、あるいは、超音波センサのスキャンによる計測対象位置の変化などにおいて正確なドプラ周波数の変動を計測することができ、好適である。
【0033】
(8)
さらに他の局面に従う同期信号生成方法は、他の局面に従うドプラ周波数計測方法を含み、さらに、計測したドプラ周波数を周波数とする複素正弦波と直交検波信号との複素共役積の平均値を計算し、計測したドプラ周波数を周波数とし平均値の位相を初期位相とする正弦波の同期信号を生成する同期信号生成工程を備える。
【0034】
この同期信号生成方法で生成した同期信号は、受信した反射波と超音波パルスとの直交検波信号と周波数および位相が一致した連続正弦波信号であり、受信した反射波の直交検波信号とこの連続正弦波信号との複素共役積を計算することで、直交検波信号の位相の変化、すなわち反射波の周波数の変化を瞬時に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】第1の実施形態のドプラ周波数計測装置の構成を示す模式図である。
【
図2】第1の実施形態のドプラ周波数計算部の構成を示す模式図である。
【
図3】従来の自己相関法によるドプラ周波数計算部の構成を示す模式図である。
【
図4】C/N=-6dBの場合の周波数誤差のばらつきを示すグラフである。
【
図5】C/N=0dBの場合の周波数誤差のばらつきを示すグラフである。
【
図6】周波数誤差(rms)のC/N依存性を示すグラフである。
【
図7】自己相関法の複素共役積のばらつきとその平均値の一例を示す図である。
【
図8】第1の実施形態の直交検波の2つの平均値とその複素共役積の一例を示す図である。
【
図9】第2の実施形態のドプラ周波数計測装置の構成を示す模式図である。
【
図10】第2の実施形態のドプラ周波数計算部、同期信号生成部、およびドプラ周波数変動量計算部の構成を示す模式図である。
【
図11】第2の実施形態のドプラ周波数計測方法のフローチャートを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付す。また、同符号の場合には、それらの名称および機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さないものとする。
【0037】
[第1の実施形態]
図1は第1の実施形態のドプラ周波数計測装置100の構成を示す模式図であり、
図2は第1の実施形態のドプラ周波数計算部40の構成を示す模式図である。また、
図3は従来の自己相関法によるドプラ周波数計算部40aの構成を示す模式図である。
図1に示すように、ドプラ周波数計測装置100は、所定の間隔Tで計測対象に繰り返し所定の長さの超音波パルスを生成し、超音波プローブ30を駆動する送信部10、送信部10に駆動されて計測対象物に超音波パルスを投射するとともに、計測対象物から反射された超音波を検知する超音波プローブ30、超音波プローブ30で検知された反射波を増幅する受信部20、および増幅された反射波と超音波パルスとによりドプラ周波数fを計算するドプラ周波数計算部40とを備える。
【0038】
(ドプラ周波数計算部40の構成)
図2にドプラ周波数計算部40の構成を示す。入力された受信信号は、ADC41によりデジタル信号に変換され、送信部10から送られる、互いに直交するI成分とQ成分とを備えた送信信号により直交検波ユニット42で直交検波される。直交検波ユニット42の出力はI成分とQ成分とを備えた複素信号である。
直交検波ユニット42の出力は、低周波数信号を抑圧するMTIフィルタ43(Moving Target Indicator:固定物除去フィルタ)に入力される。MTIフィルタ43は、血液の血流速度の測定において、心臓の壁など血流に比べて動きの遅い対象物からの反射波の成分を抑圧する効果がある。ただし、ドプラ周波数計測装置100の用途によっては、MTIフィルタ43を挿入する必要がない場合もある。
直交検波ユニット42の出力は受信信号の周波数と送信信号の周波数との和成分と差成分の周波数が含まれている。このうち和成分は平均化ユニット44により減衰するため、平均化ユニット44の出力は受信信号の周波数と送信信号の周波数との差成分、すなわちドプラ周波数成分のみとなる。
【0039】
MTIフィルタ43の出力は平均化ユニット44でI成分とQ成分ごとに平均される。この平均をとる範囲は、送信部10から送られるゲート信号がHの期間で規定され、この期間は送信部10で超音波パルスを生成する所定の長さの期間に相当する。
平均化ユニット44の出力は遅延ユニット45と複素共役積ユニット46に送られ、遅延ユニット45では平均化ユニット44の出力がレジスタに記憶され、常に所定の間隔T前の平均化ユニット44の出力が出力される。すなわち、平均化ユニット44の出力が直交検波信号を所定の長さに亘って平均した第1平均値C0に相当し、遅延ユニット45の出力が所定の間隔T前の直交検波信号を所定の長さに亘って平均した第2平均値C1に相当する。
【0040】
複素共役積ユニット46は平均化ユニット44の出力と遅延ユニット45の出力との複素共役積を計算する。平均化ユニット44の出力をA・ejwtとすると、所定の間隔Tの前後で反射波の状態が変化しない場合には、遅延ユニット45の出力は所定の間隔T前の平均化ユニット44の出力に相当するので、A・ejw(t+T)となる。(ただしwは角周波数であり、受信波のドプラ周波数をfとすると、w=2πfである。)
この場合複素共役積ユニット46の出力は、w=2πfを代入することにより、
A・e-j2πft×A・ej2πf(t+T)=A2・ej2πfTである。
【0041】
ARCTANユニット47は、複素共役積ユニット46の出力の位相をARCTANにより計算する。この場合、ARCTANの出力は-π~+π、すなわち複素数の4象限表示に対応する。
ARCTANユニット47の出力の位相θはθ=2πfTである。
周波数変換ユニット48はARCTANユニット47の出力の位相θを受けて、
f=θ/(2πT)により、ドプラ周波数fを計算する。
【0042】
〈平均化の影響と効果〉
本実施形態のドプラ周波数計算部40では、直交検波出力を平均してから、平均した直交検波出力と平均した直交検波出力を遅延したものとの複素共役積を計算してその位相に基づいてドプラ周波数fを計算することを特徴としている。
この平均化の影響と効果について説明する。
まず、平均化の影響である。
直交検波ユニット42の出力のうち、N個のデータがゲート信号Hの期間に含まれるとするとそれらの直交検波信号C0
nは、
C0
n=Ae
j2πf(t+nΔt)となる。ただし、n=0~N-1、サンプリング間隔をΔtとする。
この直交検波信号C0
nを1~Nに亘って平均した第1平均値C0は下記数式4となる。
【数4】
ただし、e
j2πfΔtは0ではない。
一方、この直交検波信号C0
nを1~Nに亘って平均し、時間T遅延した第2平均値C1は下記数式5となる。
【数5】
したがって、第1平均値C0と第2平均値C1との複素共役積は、下記数式6となる。
【数6】
したがって、第1平均値C0と第2平均値C1との複素共役積の位相θは、平均しない場合と同じく、2πfTとなる。
【0043】
次に、平均化の効果について説明する。
従来のパルスドプラ周波数計測装置では、直交検波信号と超音波パルスの周期分遅延した直交検波信号との複素共役積を求め、この複素共役積を平均することで雑音を抑制している(例えば、特許文献1明細書およびブロック回路図参照)。
この場合、信号をC、雑音をNとし、1パルス目の(遅延した)直交検波信号の電力を(C0+N0)、2パルス目の直交検波信号の電力を(C1+N1)とすると、複素共役積は、
(C0+N0)(C1+N1)*=C0・C1*+C0・N1*+C1*・N0+N0・N1*
となる。(*は複素共役信号を表す。)
この複素共役積のM個のデータを平均すると、雑音の電力は1/√Mになるので、平均後の電力は、
C0・C1*+C0・N1*/√M+C1*・N0/√M+N0・N1*/√M
となる。
【0044】
これに対して、一局面に従うドプラ周波数計測装置100では、まず直交検波信号を平均し、平均した直交検波信号と、超音波パルスの周期分遅延し平均した直交検波信号との複素共役積を計算する。この場合、直交検波信号を平均した信号の電力は、それぞれ、
(C0+N0/√M)、(C1+N1/√M)となる。
そして、これらの直交信号の複素共役積の電力は、
C0・C1*+C0・N1*/√M+C1*・N0/√M+N0・N1*/M
となる。
上記2つの式を比較すると、N0・N1*の項の係数に差があり、一局面に従うドプラ周波数計測装置100の方が従来のパルスドプラ周波数計測装置よりもN0・N1*の項の係数が1/√M小さくなっていることが分かる。
C/Nが大きい、すなわちC>Nの場合には直交信号の複素共役積の電力のうちのN0・N1*の項の電力の影響は小さいが、逆にC/Nが小さく、C<Nの場合にはN0・N1*の項の電力の影響が大きくなるため、一局面に従うドプラ周波数計測装置100の方が従来のパルスドプラ周波数計測装置よりも雑音の影響が小さくなり、したがってドプラ周波数fの誤差を低減することができる。
【0045】
(実施例と比較例との比較)
ここで、第1の実施形態のドプラ周波数計算部40を実施例、従来の自己相関方式のドプラ周波数計算部40aを比較例として、その差異をシミュレーションにより調べた。
具体的には、
図2に示す、第1の実施形態のドプラ周波数計算部40によるドプラ周波数計算と、
図3に示す従来の自己相関方式のドプラ周波数計算部40aによるドプラ周波数計算とについて、計算結果のドプラ周波数誤差の受信信号のC/N比による依存性を調べた。
比較例の自己相関方式のドプラ周波数計算部40aは、C0
nとC1
nとの複素共役積(n=0~N-1)を計算してからその平均をとる点でドプラ周波数計算部40と異なり、その他は同じである。
ドプラ周波数誤差の計算に当たっては、サンプリング周波数10,000kHz、キャリア周波数2,500kHz、ドプラ周波数1kHz、パルス繰り返し周波数5kHz、パルス幅1.6μSの信号に、C/Nで規定される大きさの正規分布雑音を重畳して、自己相関法と本実施形態の方法とでドプラ周波数fを計算し、計算結果のドプラ周波数fの誤差の分布と誤差のrms値とを調べた。C/Nの条件としては、-6dBから+10dBの範囲である。ドプラ周波数fの誤差の分布は、C/Nで規定される大きさのランダムな正規分布雑音を重畳した状態で、各C/Nに対して2000回ドプラ周波数fを計算して求めた。
また、受信波の初期位相は各C/Nの値ごとにランダムに与えている。
【0046】
図4には、C/N=-6dBの場合の第1の実施形態と自己相関法との計測された周波数誤差のばらつきを、
図5にはC/N=0dBの場合の第1の実施形態と自己相関法との計測された周波数誤差のばらつきを示した。
図6には、周波数誤差のばらつきのrms値のC/N依存性を示した。
これらの図からわかるように、自己相関法ではC/N=-2dBより小さくなるにつれて周波数誤差が急激に大きくなるが、第1の実施形態のドプラ周波数計算法では少なくともC/N=-4dBまでは周波数誤差の急激な増加はない。また、
図4からは、C/Nが小さいとき、特に自己相関法において周波数誤差が-2~-3kHzと極端に大きい場合があることが分かる。
【0047】
この、自己相関法において極端に周波数誤差が大きい場合の、原因を調査した。
図7に、C/N=-3dB、ドプラ周波数1kHzで自己相関法のドプラ周波数計算部40aの誤差が-3.3kHzと大きい場合の、自己相関法の複素共役積とその平均を、
図8には第1の実施形態のドプラ周波数計算部40に同じ信号を入力した場合の、直交検波の平均値(第1平均値C0)と所定の間隔T前の直交検波の平均値(第2平均値C1)とそれらの複素共役積とを示した。
ドプラ周波数1kHzの場合、
図7の平均、
図8の複素共役積はともにI=0.3、Q=0.9に位置するはずである。C/N=-3dBの場合には、どちらの方法でも本来の値からずれているが、
図7の方が本来の値からのずれが大きい。これは、
図7の自己相関法では平均後の電力が、
C0・C1
*+C0・N1
*/√M+C1
*・N0/√M+N0・N1
*/√M
であるのに対して、
図8の複素共役積の電力が、
C0・C1
*+C0・N1
*/√M+C1
*・N0/√M+N0・N1
*/M
となっており、N0・N1
*の項の寄与度が
図7の自己相関法の方が大きいためと思われる。
さらに、
図7の自己相関法では、平均値がIQ平面の3象限にあるため、本来の平均とのIQ平面における位相差が大きくなっており、このために周波数誤差が-3.3kHzと大きくなっている。なお、
図8の第1の実施形態のドプラ周波数計算部40では誤差は+0.4kHzと小さい。
【0048】
以上のように、第1の実施形態のドプラ周波数計算部40は比較例の自己相関方式のドプラ周波数計算部40aと比較して、C/Nが小さいときのドプラ周波数fの誤差が小さい。
【0049】
[第2の実施形態]
図9は第2の実施形態のドプラ周波数計測装置100aの構成を示す模式図であり、
図10は第2の実施形態のドプラ周波数計算部40、同期信号生成部60、およびドプラ周波数変動量計算部70の構成を示す模式図である。また、
図11は第2の実施形態のドプラ周波数計測装置100aのドプラ周波数計測方法のフローチャートを示す模式図である。
第1の実施形態のドプラ周波数計測装置100は、計測するドプラ周波数fが計測期間中変化しないことを前提としている。しかし、計測対象の変化、例えば患者の体調変化による血流速度の急激な変化、あるいは、超音波センサのスキャンによる計測対象位置の変化などによって、ドップラ周波数が急激に変化する場合がある。
第2の実施形態のドプラ周波数計測装置100aは、このような場合、すなわち少なくとも所定の間隔Tの期間ドプラ周波数fが一定で、ドプラ周波数fの測定が完了した後でドプラ周波数fが急激に変化した場合に、変化後のドプラ周波数fの変動量を計測するものである。
第2の実施形態のドプラ周波数計測装置100aでは、ドプラ周波数fが一定の期間に入力されたドプラ信号の直交検波信号と同じ周波数と同じ初期位相とを備えた同期信号を生成するとともに、計測対象に投射する超音波を超音波連続信号に変更し、受信した連続反射波の直交検波信号と同期信号との複素共役積の周波数に基づき、ドプラ周波数fが一定の期間のドプラ周波数fからの変動量を計算する。
この装置によれば、ドプラ周波数fが急激に変化した場合にも、ドプラ周波数fが一定の時のドプラ周波数fからの変動量を求めることができ、血流速度の急激な変化、あるいは、超音波センサのスキャンによる計測対象位置の変化などにおいて正確なドプラ周波数fの変動を計測することができ、好適である。
【0050】
図9に示すように、第2の実施形態のドプラ周波数計測装置100aは、第1の実施形態のドプラ周波数計測装置100の送信部10、受信部20およびドプラ周波数計算部40を超音波パルスだけではなく超音波連続信号に対応できるようにするとともに、同期信号生成部60とドプラ周波数変動量計算部70とを追加したものである。
図10に示すように、同期信号生成部60は、第1の複素正弦波ユニット61、第2の複素共役積ユニット62、平均化ARCTANユニット63、第2の複素正弦波ユニット64を備える。第1の複素正弦波ユニット61は初期位相0で、ドプラ周波数計算部40で計算したドプラ周波数fの複素正弦波を生成し、第2の複素共役積ユニット62はMTIフィルタ43の出力の直交検波信号と第1の複素正弦波ユニット61の出力との複素共役積を計算し、平均化ARCTANユニット63は直交検波信号と第1の複素正弦波ユニット61の出力信号との位相差を求める。第2の複素正弦波ユニット64は、周波数が計測されたドプラ周波数fで初期位相がMTIフィルタ43の出力の直交検波信号と一致した複素正弦波を生成する。
したがって、第2の複素正弦波ユニット64の出力信号は、計測対象からの反射波のドプラ周波数fが変化しない限り、MTIフィルタ43の出力の直交検波信号と周波数、位相ともに一致した信号である。
【0051】
ドプラ周波数変動量計算部70は第3の複素共役積ユニット71、周波数検出ユニット72を備える。
ドプラ周波数fの変動量を計測する場合、第2の複素正弦波ユニット64を動作させた状態で、送信部10が超音波連続信号を生成し、超音波プローブ30は計測対象に超音波連続信号を投射するとともに計測対象からの連続反射波を検知し、受信部20は超音波プローブ30が検知した連続反射波を増幅し、ドプラ周波数計算部40は、増幅された連続反射波と超音波連続信号との連続直交検波信号を生成する。
ドプラ周波数変動量計算部70の第3の複素共役積ユニット71は生成した連続直交検波信号(MTIフィルタ43の出力)と同期信号(第2の複素正弦波ユニット64の出力)との複素共役積を計算し、周波数検出ユニット72は第3の複素共役積ユニット71の出力の周波数を検出してドプラ周波数fの変動量とする。
【0052】
図11には第2の実施形態のドプラ周波数計測方法のフローチャートを示した。
以下、
図11の各ステップについて説明する。
・ステップS1:超音波パルス投射
第1の実施形態同様、所定の間隔Tで繰り返し所定の長さの超音波パルスを対象物に投射する。
・ステップS2:ドプラ周波数計算
第1の実施形態同様、増幅された反射波と超音波パルスとの直交検波信号を生成し、直交検波信号を所定の長さに亘って平均した第1平均値C0と所定の間隔T前の直交検波信号を所定の長さに亘って平均した第2平均値C1との複素共役積の位相θに基づき、ドプラ周波数fを計算する。
・ステップS3:同期信号生成
計測したドプラ周波数fを周波数とする複素正弦波と直交検波信号との複素共役積の平均値を計算し、計測したドプラ周波数fを周波数とし平均値の位相を初期位相とする正弦波の同期信号を生成する。
・ステップS4:超音波連続信号投射
対象物に投射する超音波パルスを超音波連続信号に変更する。
・ステップS5:ドプラ周波数変動量計算
増幅された連続反射波と超音波連続信号との連続直交検波信号を生成し、生成した連続直交検波信号と同期信号との複素共役積の周波数に基づき、連続反射波のドプラ周波数fの変動量を計算する。
なお、ステップS1およびステップS2が送受波工程およびドプラ周波数計算工程に相当し、ステップS3が同期信号生成工程に相当し、ステップS4およびステップS5がドプラ周波数変動量計算工程に相当する。
【0053】
第2の実施形態のドプラ周波数計測方法では、以上のステップにより、ドプラ周波数fが急激に変化した場合にも、ドプラ周波数fが一定の時のドプラ周波数fからの変動量を求めることができ、血流速度の急激な変化、あるいは、超音波センサのスキャンによる計測対象位置の変化などにおいて正確なドプラ周波数fの変動を計測することができる。
なお、第2の実施形態のドプラ周波数計測方法ではステップS2とステップS3とステップS5とは順次実行されることから、複素共役積ユニット46、第2の複素共役積ユニット62、および第3の複素共役積ユニット71は同じユニットを時分割で使用することができる。同様に、第1の複素正弦波ユニット61および第2の複素正弦波ユニット64も、同じユニットを時分割で使用することができる。
【0054】
本発明において、送信部10が『送信部』に相当し、超音波プローブ30が『超音波プローブ』に相当し、受信部20が『受信部』に相当し、ドプラ周波数計測装置100、100aが『ドプラ周波数計測装置』に相当し、MTIフィルタ43が『MTIフィルタ』に相当し、同期信号生成部60が『同期信号生成部』に相当し、ドプラ周波数計算部40が『ドプラ周波数計算部』に相当し、ドプラ周波数変動量計算部70が『ドプラ周波数変動量計算部』に相当し、所定の間隔Tが『所定の間隔』に相当し、第1平均値C0が『第1平均値』に相当し、第2平均値C1が『第2平均値』に相当し、ドプラ周波数fが『ドプラ周波数』に相当し、複素共役積の位相θが『複素共役積の位相』に相当する。
【0055】
本発明の好ましい一実施形態は上記の通りであるが、本発明はそれだけに制限されない。本発明の精神と範囲から逸脱することのない様々な実施形態が他になされることは理解されよう。さらに、本実施形態において、本発明の構成による作用および効果を述べているが、これら作用および効果は、一例であり、本発明を限定するものではない。
【符号の説明】
【0056】
10 送信部
20 受信部
30 超音波プローブ
40 ドプラ周波数計算部
43 MTIフィルタ
60 同期信号生成部
70 ドプラ周波数変動量計算部
100、100a ドプラ周波数計測装置
T 所定の間隔
C0 第1平均値
C1 第2平均値
f ドプラ周波数
θ 複素共役積の位相