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特開2024-76411フッ素化ポリイミド、フッ素化ポリアミド酸及びそれらの製造方法並びに前記フッ素化ポリイミドを適用した光学部品、半導体装置、プリント配線基板、電子・電気部品及びフレキシブル太陽電池の製造方法
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  • 特開-フッ素化ポリイミド、フッ素化ポリアミド酸及びそれらの製造方法並びに前記フッ素化ポリイミドを適用した光学部品、半導体装置、プリント配線基板、電子・電気部品及びフレキシブル太陽電池の製造方法 図1
  • 特開-フッ素化ポリイミド、フッ素化ポリアミド酸及びそれらの製造方法並びに前記フッ素化ポリイミドを適用した光学部品、半導体装置、プリント配線基板、電子・電気部品及びフレキシブル太陽電池の製造方法 図2
  • 特開-フッ素化ポリイミド、フッ素化ポリアミド酸及びそれらの製造方法並びに前記フッ素化ポリイミドを適用した光学部品、半導体装置、プリント配線基板、電子・電気部品及びフレキシブル太陽電池の製造方法 図3
  • 特開-フッ素化ポリイミド、フッ素化ポリアミド酸及びそれらの製造方法並びに前記フッ素化ポリイミドを適用した光学部品、半導体装置、プリント配線基板、電子・電気部品及びフレキシブル太陽電池の製造方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076411
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】フッ素化ポリイミド、フッ素化ポリアミド酸及びそれらの製造方法並びに前記フッ素化ポリイミドを適用した光学部品、半導体装置、プリント配線基板、電子・電気部品及びフレキシブル太陽電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20240530BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240530BHJP
   H05K 3/28 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
C08G73/10
H05K1/03 610N
H05K3/28 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187884
(22)【出願日】2022-11-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 日本フッ素化学会 第45回フッ素化学討論会、令和4年11月1日・2日。
(71)【出願人】
【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
(74)【代理人】
【識別番号】100176164
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 州志
(72)【発明者】
【氏名】吾郷 友宏
(72)【発明者】
【氏名】福元 博基
(72)【発明者】
【氏名】森川 敦司
(72)【発明者】
【氏名】塚田 大翔
(72)【発明者】
【氏名】椎塚 香月
(72)【発明者】
【氏名】眞崎 有佳
【テーマコード(参考)】
4J043
5E314
【Fターム(参考)】
4J043PA02
4J043QB15
4J043QB26
4J043RA34
4J043SA06
4J043SA46
4J043SA47
4J043SA49
4J043SA54
4J043SA61
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4J043ZA12
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4J043ZA43
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4J043ZB03
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5E314AA36
5E314CC01
5E314CC15
5E314DD06
5E314FF01
5E314FF21
5E314GG01
5E314GG08
5E314GG14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】エレクトロニクス分野、航空分野及び光学材料分野等の多用途への適用が可能で、高耐熱性、高機械的強度、耐薬品性、高電気絶縁性、高透過性及び低い誘電率・誘電損失等を有するフッ素化ポリイミド、その前駆体(中間体)であるフッ素ポリアミド酸、及びそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】フッ素化シクロアルケン構造を有する有機ジアミン、及び酸二無水物又はそのテトラカルボン酸、若しくはその反応性誘導体、の少なくともいずれかを用いて両化合物を脱水環化する方法によって製造される、含フッ素シクロアルケン構造を含むことを特徴とするフッ素化ポリイミドを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素シクロアルケン構造を有し、下記一般式(1)又は(2)で表される化学構造を含むことを特徴とするフッ素化ポリイミド。
【化1】
[式中、R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42は、それぞれ独立にフッ素原子又は塩素原子を示し、R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42の少なくとも一つがフッ素原子である。a、b、c、dは0又は1の整数であり、a+b+c+dはそれぞれ2~4のいずれかの整数である。p、qはそれぞれ独立に0又は1の整数である。W及びVは、それぞれ直鎖、分岐、脂環、芳香環、ヘテロ環から選ばれる1種以上の下記構造式のいずれかで表される1種以上の2価の有機基であり、部分的にフッ素、酸素、窒素を含有してもよい。]
【請求項2】
下記一般式(3)又は(4)で表される繰り返し単位を含有することを特徴とする請求項1に記載のフッ素化ポリイミド。
【化2】
[式中、Xは、直鎖、分岐、脂環、芳香環、ヘテロ環から選ばれる1種以上の4価の有機基であって、部分的にフッ素、酸素、窒素を含有してもよい。R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42及びWは、それぞれ前記と同じ置換基を示し、a、b、c、d、p、qは、それぞれ独立に前記と同じ範囲を有する整数を示す。W及びVは、それぞれ前記と同じ2価の有機基である。]
【請求項3】
上記一般式(3)又は(4)において、W及びVが、それぞれ独立に下記一般式(5)で表される構造式のいずれかを示し、Xが下記一般式(6)及び(7)で表される構造式のいずれかを示すことを特徴とする請求項2に記載のフッ素化ポリイミド。
【化3】

ここで、R、R、Rは、それぞれ独立に水素、フッ素、アルキル基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキル基、又はパーフルオロアルキル基で、k1、k2及びk3は、それぞれ1~4、1~3及び1~2のいずれかの整数であり、Zは下記構造式のいずれかで表されるものである。
【化4】
[式中、Rはアルキレン基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキレン基又はパーフルオロアルキレン基であり、Rfはフッ素又はパーフルオロアルキル基を示す。]
【化5】

ここで、R、R、R、Rは、それぞれ独立に水素、フッ素、アルキル基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキル基、又はパーフルオロアルキル基で、m1、m2及びm3はそれぞれ1~2、1~3及び1~4のいずれかの整数であり、Z1及びZ2は、それぞれ独立に下記構造式のいずれかで表されるものである。
【化6】
[式中、Rはアルキレン基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキレン基又はパーフルオロアルキレン基であり、Rfはフッ素又はパーフルオロアルキル基を示す。]
【化7】
[式中、R51、R52、R61、R62、R71、R72、R81、R82は、それぞれ独立にフッ素原子又は塩素原子を示し、R51、R52、R61、R62、R71、R72、R81、R82の少なくとも一つ置換基がフッ素原子である。e、f、g、hは0又は1の整数であり、e+f+g+hはそれぞれ2~4のいずれかの整数である。rは0又は1の整数である。Ra、Rb、Rcは、それぞれ独立に水素、フッ素、アルキル基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキル基、又はパーフルオロアルキル基である。]
【請求項4】
前記R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42、R51、R52、R61、R62、R71、R72、R81、R82はいずれもフッ素原子であることを特徴とする請求項3に記載のフッ素化ポリイミド。
【請求項5】
含フッ素シクロアルケン構造を有し、下記一般式(8)又は(9)で表される化学構造を含むことを特徴とするフッ素化ポリアミド酸。
【化8】
[式中、R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42は、それぞれ独立にフッ素原子又は塩素原子を示し、R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42の少なくとも一つがフッ素原子である。a、b、c、dは0又は1の整数であり、a+b+c+dはそれぞれ2~4のいずれかの整数である。p、qはそれぞれ独立に0又は1の整数である。W及びVは、それぞれ独立に直鎖、分岐、脂環、芳香環、ヘテロ環から選ばれる1種以上の下記構造式のいずれかで表される1種以上の2価の有機基であり、部分的にフッ素、酸素、窒素を含有してもよい。]
【請求項6】
下記一般式(10)又は下記一般式(11)で表される繰り返し単位を含有することを特徴とする請求項5に記載のフッ素化ポリアミド酸。
【化9】

[式中、Xは、直鎖、分岐、脂環、芳香環、ヘテロ環から選ばれる1種以上の4価の有機基であって、部分的にフッ素、酸素、窒素を含有してもよい。R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42及びW、Vは、それぞれ独立に前記と同じ置換基及び2価の有機基を示し、a、b、c、d、p、qは、独立に前記と同じ範囲を有する整数を示す。]
【請求項7】
上記一般式(10)又は(11)において、W及びVがそれぞれ独立に下記一般式(5)で表される構造式のいずれかを示し、Xが下記一般式(6)及び(7)で表される構造式のいずれかを示すことを特徴とする請求項6に記載のフッ素化ポリアミド酸。
【化10】
ここで、R、R、Rは、それぞれ独立に水素、フッ素、アルキル基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキル基、又はパーフルオロアルキル基で、k1、k2及びk3は、それぞれ1~4、1~3及び1~2のいずれかの整数であり、Zは下記構造式で表されるものである。
【化11】
[式中、Rはアルキレン基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキレン基又はパーフルオロアルキレン基であり、Rfはフッ素又はパーフルオロアルキル基を示す。]
【化12】
ここで、R、R、R、Rは、それぞれ独立に水素、フッ素、アルキル基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキル基、又はパーフルオロアルキル基で、m1、m2及びm3はそれぞれ1~2、1~3及び1~4のいずれかの整数であり、Z1及びZ2は独立して下記構造式のいずれかで表されるものである。
【化13】

[式中、Rはアルキレン基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキレン基又はパーフルオロアルキレン基であり、Rfはフッ素又はパーフルオロアルキル基を示す。]
【化14】
[式中、R51、R52、R61、R62、R71、R72、R81、R82は、それぞれ独立にフッ素原子又は塩素原子を示し、R51、R52、R61、R62、R71、R72、R81、R82の少なくとも一つ置換基がフッ素原子である。e、f、g、hは0又は1の整数であり、e+f+g+hはそれぞれ2~4のいずれかの整数である。rは0又は1の整数である。Ra、Rb、Rcは、それぞれ独立に水素、フッ素、アルキル基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキル基、又はパーフルオロアルキル基である。]
【請求項8】
前記R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42、R51、R52、R61、R62、R71、R72、R81、R82はいずれもフッ素原子であることを特徴とする請求項7に記載のフッ素化ポリアミド酸。
【請求項9】
下記一般式(12)又は(13)で表される有機ジアミンと、下記一般式(14)で表される酸二無水物、又はそのテトラカルボン酸、若しくはその反応性誘導体とを反応させ、引き続き該反応によって得られるフッ素化ポリアミド酸を脱水環化させることを特徴とする請求項2に記載のフッ素化ポリイミドの製造方法。
【化15】

[式中、R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42は、それぞれ独立にフッ素原子又は塩素原子を示し、R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42の少なくとも一つがフッ素原子である。a、b、c、dは0又は1の整数であり、a+b+c+dはそれぞれ2~4のいずれかの整数である。p、qはそれぞれ独立に0又は1の整数である。W及びVは、それぞれ独立して直鎖、分岐、脂環、芳香環、ヘテロ環から選ばれる1種以上の下記構造式のいずれかで表される1種以上の2価の有機基であり、部分的にフッ素、酸素、窒素を含有してもよい。]
【化16】
[式中、Xは、直鎖、分岐、脂環、芳香環、ヘテロ環から選ばれる1種以上の4価の有機基であって、部分的にフッ素、酸素、窒素を含有してもよい。]
【請求項10】
上記一般式(12)又は(13)において、W及びVが独立して下記一般式(5)で表される構造式のいずれかを示し、Xが下記一般式(6)及び(7)で表される構造式のいずれかを示すことを特徴とする請求項9に記載のフッ素化ポリイミドの製造方法。
【化17】
ここで、R、R、Rは、それぞれ独立に水素、フッ素、アルキル基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキル基、又はパーフルオロアルキル基で、k1、k2及びk3は、それぞれ1~4、1~3及び1~2のいずれかの整数であり、Zは下記構造式で表されるものである。
【化18】

[式中、Rはアルキレン基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキレン基又はパーフルオロアルキレン基であり、Rfはフッ素又はパーフルオロアルキル基を示す。]
【化19】
ここで、R、R、R、Rは、それぞれ独立に水素、フッ素、アルキル基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキル基、又はパーフルオロアルキル基で、m1、m2及びm3はそれぞれ1~2、1~3及び1~4のいずれかの整数であり、Z1及びZ2は独立して下記構造式のいずれかで表されるものである。
【化20】
[式中、Rはアルキレン基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキレン基又はパーフルオロアルキレン基であり、Rfはフッ素又はパーフルオロアルキル基を示す。]
【化21】
[式中、R51、R52、R61、R62、R71、R72、R81、R82は、それぞれ独立にフッ素原子又は塩素原子を示し、R51、R52、R61、R62、R71、R72、R81、R82の少なくとも一つ置換基がフッ素原子である。e、f、g、hは0又は1の整数であり、e+f+g+hはそれぞれ2~4のいずれかの整数である。rは0又は1の整数である。Ra、Rb、Rcは、それぞれ独立に水素、フッ素、アルキル基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキル基、又はパーフルオロアルキル基である。]
【請求項11】
前記R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42、R51、R52、R61、R62、R71、R72、R81、R82はいずれもフッ素原子であることを特徴とする請求項10に記載のフッ素化ポリイミドの製造方法。
【請求項12】
下記一般式(12)又は(13)で表される有機ジアミンと、下記一般式(14)で表される酸二無水物、又はそのテトラカルボン酸、若しくはその反応性誘導体とを反応させることを特徴とする請求項6に記載のフッ素化ポリアミド酸の製造方法。
【化22】
[式中、R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42は、それぞれ独立にフッ素原子又は塩素原子を示し、R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42の少なくとも一つがフッ素原子である。a、b、c、dは0又は1の整数であり、a+b+c+dはそれぞれ2~4のいずれかの整数である。p、qはそれぞれ独立に0又は1の整数である。W及びVは、それぞれ独立して直鎖、分岐、脂環、芳香環、ヘテロ環から選ばれる1種以上の下記構造式のいずれかで表される1種以上の2価の有機基であり、部分的にフッ素、酸素、窒素を含有してもよい。]
【化23】

[式中、Xは、直鎖、分岐、脂環、芳香環、ヘテロ環から選ばれる1種以上の4価の有機基であって、部分的にフッ素、酸素、窒素を含有してもよい。]
【請求項13】
上記一般式(12)又は(13)において、W及びVが独立して下記一般式(5)で表される構造式のいずれかを示し、Xが下記一般式(6)及び(7)で表される構造式のいずれかを示すことを特徴とする請求項12に記載のフッ素化ポリアミド酸の製造方法。
【化24】
ここで、R、R、Rは、それぞれ独立に水素、フッ素、アルキル基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキル基、又はパーフルオロアルキル基で、k1、k2及びk3は、それぞれ1~4、1~3及び1~2のいずれかの整数であり、Zは下記構造式で表されるものである。
【化25】
[式中、Rはアルキレン基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキレン基又はパーフルオロアルキレン基であり、Rfはフッ素又はパーフルオロアルキル基を示す。]
【化26】
ここで、R、R、R、Rは、それぞれ前記と同じ置換基であり、m1、m2及びm3はそれぞれ前記と同じ範囲を有するいずれかの整数であり、Z1及びZ2は独立して下記構造式のいずれかで表されるものである。
【化27】
[式中、Rはアルキレン基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキレン基又はパーフルオロアルキレン基であり、Rfはフッ素又はパーフルオロアルキル基を示す。]
【化28】
[式中、R51、R52、R61、R62、R71、R72、R81、R82は、それぞれ独立にフッ素原子又は塩素原子を示し、R51、R52、R61、R62、R71、R72、R81、R82の少なくとも一つ置換基がフッ素原子である。e、f、g、hは0又は1の整数であり、e+f+g+hはそれぞれ2~4のいずれかの整数である。rは0又は1の整数である。Ra、Rb、Rcは、それぞれ独立に水素、フッ素、アルキル基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキル基、又はパーフルオロアルキル基である。]
【請求項14】
前記R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42、R51、R52、R61、R62、R71、R72、R81、R82はいずれもフッ素原子であることを特徴とする請求項13に記載のフッ素化ポリアミド酸の製造方法。
【請求項15】
請求項1~4のいずれか一項に記載のフッ素化ポリイミドを、光学部品の主要素を構成する光学材料として使用することを特徴とするポリイミド光学部品の製造方法。
【請求項16】
請求項1~4のいずれか一項に記載のフッ素化ポリイミドを、パッシベーション膜又は層間絶縁膜として、それぞれ半導体素子上又は半導体装置の多層配線層間に形成することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項17】
請求項1~4のいずれか一項に記載のフッ素化ポリイミドを樹脂層として有するフレキシブルプリント配線基板の製造方法であって、前記樹脂層の表面の片側又は両側に、銅配線による回路層を形成することを特徴とするフレキシブルプリント配線基板の製造方法。
【請求項18】
電気・電子部品を外部環境から保護するため、請求項1~4のいずれか一項に記載のフッ素化ポリイミドを前記電気・電子部品の表面上に保護コート膜として形成することを特徴とする電気・電子部品の製造方法。
【請求項19】
請求項1~4のいずれか一項に記載のフッ素化ポリイミドを、太陽電池の基板として使用することを特徴とするフレキシブル太陽電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素化ポリイミド材料に係り、特に、エレクトロニクス分野、航空分野及び光学材料分野等の多用途への適用が可能で、高耐熱性、高耐湿性、及び高透過性に加えて、高機械的強度、耐薬品性、高電気絶縁性、及び低い誘電率・誘電損失等の特性を有するフッ素化ポリイミド、その前駆体(中間体)であるフッ素ポリアミド酸及びそれらの製造方法、並びに前記フッ素化ポリイミドを適用した光学部品、半導体装置、プリント配線基板、電子・電気部品、電機装置及びフレキシブル太陽電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素化ポリイミドは、ポリイミド樹脂の一般的な特性である耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性及び高機械強度などを有するだけでなく、近紫外~可視~近赤外領域において透明性を示し、低い誘電率・誘電正接、撥水・撥油性及び放射線耐性といったフッ素樹脂ならではの特徴を併せ持つため様々な機能を付与することができる(非特許文献1及び2を参照)。例えば、フィルム状の高耐熱性・高絶縁性・高強度プラスチックとして、層間絶縁膜、フレキシブル基板、液晶ディスプレイ光学フィルム及び低誘電保護膜等のエレクトロニクス分野、航空機エンジンの軸受及び周辺部材等の宇宙航空分野、並びに光学デバイス(光導波路や光スイッチ)等の光学通信分野において多用途に使用されている。
【0003】
フッ素化ポリイミドは、その前駆体であるフッ素化ポリアミド酸の閉環によって製造される。また、層間絶縁膜や光導波路のように部分的又は局所的にパターン化されたフッ素化ポリイミド膜を形成する場合は、フッ素化ポリアミド酸をあらかじめ基材に塗布し、レジスト塗布又は光照射等の処理を行い、反応性イオンエッチング(RIE)又は溶剤若しくは水溶液等で不要な部分を除去することによってパターン化処理を行った後、高温加熱処理等によって脱水環化(閉環)が一般的に行われる(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
これまで公知のフッ素化ポリイミドとしては、パーフルオロアルキレン基を主鎖に有するポリイミド、及び主鎖を形成する芳香族基がフッ素原子、フッ素原子を含むアルキル基又はアルコキシ基、及びパーフルオロアルキル基の少なくともいずれかの基によって核置換された側鎖修飾型ポリイミド等が多数報告されている(前記非特許文献1、2及び特許文献1を参照)。
【0005】
また、特許文献2には、耐熱性及び波長0.85μmでの光透過性を兼ね備えた光部品を構成する材料として、主鎖を形成する脂環式構造(シクロヘキサン)の側鎖がパーフルオロアルキル基によって置換された側鎖修飾型ポリイミド等が提案されている。
【0006】
さらに、非特許文献3には、高湿度条件でも誘電率の変化が少ない材料として、パーフルオロ環状構造を主鎖に有する主鎖修飾型ポリイミドも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5-1148号公報
【特許文献2】特開2003-313294号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】安藤 慎治、「含フッ素ポリイミドの構造・物性相関を機能化研究の20年」、第20回日本ポリイミド・芳香族系高分子会議、2013年、pp.32-37
【非特許文献2】安藤 慎治、「含フッ素ポリイミド最近の動向と展望」、Japan Polyimide Conference ’94、1995年、pp.11-18
【非特許文献3】Li,Huang et.al.、「Soluble Perfuluorocyclobutyl Aryl Ether-Based polyimide for High-Performance Dielectric Materials」、ACS Applied Materilas & Interface、2016年、第8巻、pp.26352-26358
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、フッ素化ポリイミドは、エレクトロニクス分野、航空分野及び光学材料分野等の多用途への展開が図られているが、耐熱性、耐湿性及び高透明性の特性を同時に満足する材料が得られておらず、実際のデバイスに適用できるものが少ないため、当初期待したほどには適用が拡大していないという問題があった。また、従来の含フッ素化ポリイミドは、合成原料として高価で特殊なフッ素化合物が必要となるため、原料及びポリイミド製造の低コスト化を図る点でも限界があった。フッ素化ポリイミドの適用拡大を図るには、材料の選択幅を広げるという意味で、耐熱性、耐湿性及び高透明性だけでなく、それら以外の他の特性を含めて総合的にバランスがとれた形でより優れた特性を有する新規な化合物が求められている。また、そのような新規化合物は、比較的低コストで入手が容易なフッ素含有原料を用いて合成することにより製造及び材料のコスト低減を図ることが同時に望まれている。
【0010】
しかしながら、前記非特許文献1、2及び特許文献1に記載されるように、パーフルオロアルキレン基を主鎖に有するポリイミドは、透明性には優れるものの、耐熱性が劣るという問題があった。また、主鎖を形成する芳香族基がフッ素原子、フッ素原子を含むアルキル基又はアルコキシ基、及びパーフルオロアルキル基の少なくともいずれかの基によって核置換された構造を有する側鎖修飾型ポリイミド等は、高耐熱性と高透明性を実現できるものの、嵩高いフッ素原子を含む側鎖置換基によってポリマー間の凝集を抑えられるため分子間に隙間が生じるようになる。それにより湿気を吸い易くなるため耐湿性が低下するという課題があった。また、これらの構造を含むポリイミドを製造する際には、高価で特殊なフッ素原料が必要である。加えて、合成反応の際に重合度が上がりにくいため適用できる用途が限られていた。
【0011】
特許文献2に記載される含フッ素化ポリイミドは、共役二重結合を有しない構造であるため透明性等の光学的特性には優れるものの、成形されるポリイミド膜の強度及び耐熱性がやや劣るため、適用可能な用途が一部の光学部品に限定される。
【0012】
また、非特許文献3に記載される含フッ素ポリイミドは、耐熱性に優れるパーフルオロ脂環式構造を主鎖に有するものの、その構造に隣接する2つのビフェニル基に起因する電荷移動(CT)相互作用を抑制する効果が小さいため着色が顕著であり、可視光透明性の大幅な低下がみられる。さらに、原料として使用するフッ素化合物も高価で特殊なものであるため材料コスト及び量産性の点で課題を有している。
【0013】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、エレクトロニクス分野、航空分野及び光学材料分野等の多用途への適用が可能で、高耐熱性、高耐湿性、高透過性に加えて、高機械的強度、耐薬品性、高電気絶縁性、及び低い誘電率・誘電損失等の特性を有するフッ素化ポリイミド、その前駆体(中間体)であるフッ素ポリアミド酸、及びそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、水素の少なくとも1個がフッ素原子で置換された炭化水素系の飽和環状構造を分子主鎖中に導入した、主鎖修飾型のフッ素化ポリイミド及びフッ素化ポリイミド酸が上記課題の解決に効果があることを見出し、前記のフッ素化ポリイミド及びフッ素ポリアミド酸の製造において、比較的低コストで入手又は合成が容易で、水素の少なくとも1個がフッ素原子で置換された炭化水素系の飽和環状構造を有するフッ素化合物を、ポリイミドの構成成分であるジアミン又は無水カルボン酸の合成原料として使用し、前記のジアミンとジカルボン酸との開環重合付加反応及び脱水環化反応を行うことにより上記の課題を解決できることをそれぞれ見出して本発明に到った。
【0015】
すなわち、本発明の構成は以下の通りである。
[1]本発明は、含フッ素シクロアルケン構造を有し、下記一般式(1)又は(2)で表される化学構造を含むことを特徴とするフッ素化ポリイミドを提供する。
【化1】
[式中、R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42は、それぞれ独立にフッ素原子又は塩素原子を示し、R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42の少なくとも一つがフッ素原子である。a、b、c、dは0又は1の整数であり、a+b+c+dはそれぞれ2~4のいずれかの整数である。p、qはそれぞれ独立に0又は1の整数である。W及びVは、それぞれ直鎖、分岐、脂環、芳香環、ヘテロ環から選ばれる1種以上の下記構造式のいずれかで表される1種以上の2価の有機基であり、部分的にフッ素、酸素、窒素を含有してもよい。]
[2]本発明は、下記一般式(3)又は(4)で表される繰り返し単位を含有することを特徴とする前記[1]に記載のフッ素化ポリイミドを提供する。
【化2】
[式中、Xは、直鎖、分岐、脂環、芳香環、ヘテロ環から選ばれる1種以上の4価の有機基であって、部分的にフッ素、酸素、窒素を含有してもよい。R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42及びWは、それぞれ前記と同じ置換基を示し、a、b、c、d、p、qは、それぞれ独立に前記と同じ範囲を有する整数を示す。上記一般式(3)及び(4)に記載のW及びVは、それぞれ前記と同じ2価の有機基である。]
[3]本発明は、上記一般式(3)又は(4)において、W及びVが、それぞれ独立に下記一般式(5)で表される構造式のいずれかを示し、Xが下記一般式(6)及び(7)で表される構造式のいずれかを示すことを特徴とする前記[2]に記載のフッ素化ポリイミドを提供する。
【化3】
ここで、R、R、Rは、それぞれ独立に水素、フッ素、アルキル基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキル基、又はパーフルオロアルキル基で、k1、k2及びk3は、それぞれ1~4、1~3及び1~2のいずれかの整数であり、Zは下記構造式のいずれかで表されるものである。
【化4】
[式中、Rはアルキレン基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキレン基又はパーフルオロアルキレン基であり、Rfはフッ素又はパーフルオロアルキル基を示す。]
【化5】

ここで、R、R、R、Rは、それぞれ独立に水素、フッ素、アルキル基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキル基、又はパーフルオロアルキル基で、m1、m2及びm3はそれぞれ1~2、1~3及び1~4のいずれかの整数であり、Z1及びZ2は、それぞれ独立に下記構造式のいずれかで表されるものである。
【化6】
[式中、Rはアルキレン基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキレン基又はパーフルオロアルキレン基であり、Rfはフッ素又はパーフルオロアルキル基を示す。]
【化7】
[式中、R51、R52、R61、R62、R71、R72、R81、R82は、それぞれ独立にフッ素原子又は塩素原子を示し、R51、R52、R61、R62、R71、R72、R81、R82の少なくとも一つ置換基がフッ素原子である。e、f、g、hは0又は1の整数であり、e+f+g+hはそれぞれ2~4のいずれかの整数である。rは0又は1の整数である。Ra、Rb、Rcは、それぞれ独立に水素、フッ素、アルキル基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキル基、又はパーフルオロアルキル基である。]
[4]本発明は、前記R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42、R51、R52、R61、R62、R71、R72、R81、R82はいずれもフッ素原子であることを特徴とする前記[3]に記載のフッ素化ポリイミドを提供する。
[5]本発明は、含フッ素シクロアルケン構造を有し、下記一般式(8)又は(9)で表される化学構造を含むことを特徴とするフッ素化ポリアミド酸を提供する。
【化8】
[式中、R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42は、それぞれ独立にフッ素原子又は塩素原子を示し、R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42の少なくとも一つがフッ素原子である。a、b、c、dは0又は1の整数であり、a+b+c+dはそれぞれ2~4のいずれかの整数である。p、qはそれぞれ独立に0又は1の整数である。W及びVは、それぞれ独立に直鎖、分岐、脂環、芳香環、ヘテロ環から選ばれる1種以上の下記構造式のいずれかで表される1種以上の2価の有機基であり、部分的にフッ素、酸素、窒素を含有してもよい。]
[6]本発明は、下記一般式(10)又は下記一般式(11)で表される繰り返し単位を含有することを特徴とする前記[5]に記載のフッ素化ポリアミド酸を提供する。
【化9】

[式中、Xは、直鎖、分岐、脂環、芳香環、ヘテロ環から選ばれる1種以上の4価の有機基であって、部分的にフッ素、酸素、窒素を含有してもよい。R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42及びW、Vは、それぞれ独立に前記と同じ置換基及び2価の有機基を示し、a、b、c、d、p、qは、独立に前記と同じ範囲を有する整数を示す。]
[7]本発明は、上記一般式(10)又は(11)において、W及びVがそれぞれ独立に下記一般式(5)で表される構造式のいずれかを示し、Xが下記一般式(6)及び(7)で表される構造式のいずれかを示すことを特徴とする前記[6]に記載のフッ素化ポリアミド酸を提供する。
【化10】
ここで、R、R、Rは、それぞれ独立に水素、フッ素、アルキル基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキル基、又はパーフルオロアルキル基で、k1、k2及びk3は、それぞれ1~4、1~3及び1~2のいずれかの整数であり、Zは下記構造式で表されるものである。
【化11】
[式中、Rはアルキレン基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキレン基又はパーフルオロアルキレン基であり、Rfはフッ素又はパーフルオロアルキル基を示す。]
【化12】
ここで、R、R、R、Rは、それぞれ独立に水素、フッ素、アルキル基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキル基、又はパーフルオロアルキル基で、m1、m2及びm3はそれぞれ1~2、1~3及び1~4のいずれかの整数であり、Z1及びZ2は独立して下記構造式のいずれかで表されるものである。
【化13】
[式中、Rはアルキレン基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキレン基又はパーフルオロアルキレン基であり、Rfはフッ素又はパーフルオロアルキル基を示す。]
【化14】
[式中、R51、R52、R61、R62、R71、R72、R81、R82は、それぞれ独立にフッ素原子又は塩素原子を示し、R51、R52、R61、R62、R71、R72、R81、R82の少なくとも一つ置換基がフッ素原子である。e、f、g、hは0又は1の整数であり、e+f+g+hはそれぞれ2~4のいずれかの整数である。rは0又は1の整数である。Ra、Rb、Rcは、それぞれ独立に水素、フッ素、アルキル基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキル基、又はパーフルオロアルキル基である。]
[8]本発明は、前記R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42、R51、R52、R61、R62、R71、R72、R81、R82はいずれもフッ素原子であることを特徴とする前記[7]に記載のフッ素化ポリアミド酸を提供する。
[9]本発明は、下記一般式(12)又は(13)で表される有機ジアミンと、下記一般式(14)で表される酸二無水物、又はそのテトラカルボン酸、若しくはその反応性誘導体とを反応させ、引き続き該反応によって得られるフッ素化ポリアミド酸を脱水環化させることを特徴とする前記[2]に記載のフッ素化ポリイミドの製造方法を提供する。
【化15】
[式中、R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42は、それぞれ独立にフッ素原子又は塩素原子を示し、R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42の少なくとも一つがフッ素原子である。a、b、c、dは0又は1の整数であり、a+b+c+dはそれぞれ2~4のいずれかの整数である。p、qはそれぞれ独立に0又は1の整数である。W及びVは、それぞれ独立して直鎖、分岐、脂環、芳香環、ヘテロ環から選ばれる1種以上の下記構造式のいずれかで表される1種以上の2価の有機基であり、部分的にフッ素、酸素、窒素を含有してもよい。]
【化16】
[式中、Xは、直鎖、分岐、脂環、芳香環、ヘテロ環から選ばれる1種以上の4価の有機基であって、部分的にフッ素、酸素、窒素を含有してもよい。]
[10]本発明は、上記一般式(12)又は(13)において、W及びVが独立して下記一般式(5)で表される構造式のいずれかを示し、Xが下記一般式(6)及び(7)で表される構造式のいずれかを示すことを特徴とする前記[9]に記載のフッ素化ポリイミドの製造方法を提供する。
【化17】
ここで、R、R、Rは、それぞれ独立に水素、フッ素、アルキル基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキル基、又はパーフルオロアルキル基で、k1及びk2は、それぞれ1~4及び1~3のいずれかの整数であり、Zは下記構造式で表されるものである。
【化18】
[式中、Rはアルキレン基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキレン基又はパーフルオロアルキレン基であり、Rfはフッ素又はパーフルオロアルキル基を示す。]
【化19】
ここで、R、R、R、Rは、それぞれ独立に水素、フッ素、アルキル基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキル基、又はパーフルオロアルキル基で、m1、m2及びm3はそれぞれ1~2、1~3及び1~4のいずれかの整数であり、Z1及びZ2は独立して下記構造式のいずれかで表されるものである。
【化20】
[式中、Rはアルキレン基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキレン基又はパーフルオロアルキレン基であり、Rfはフッ素又はパーフルオロアルキル基を示す。]
【化21】
[式中、R51、R52、R61、R62、R71、R72、R81、R82は、それぞれ独立にフッ素原子又は塩素原子を示し、R51、R52、R61、R62、R71、R72、R81、R82の少なくとも一つ置換基がフッ素原子である。e、f、g、hは0又は1の整数であり、e+f+g+hはそれぞれ2~4のいずれかの整数である。rは0又は1の整数である。Ra、Rb、Rcは、それぞれ独立に水素、フッ素、アルキル基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキル基、又はパーフルオロアルキル基である。]
[11]本発明は、前記R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42、R51、R52、R61、R62、R71、R72、R81、R82はいずれもフッ素原子であることを特徴とする前記[10]に記載のフッ素化ポリイミドの製造方法を提供する。
[12]本発明は、下記一般式(12)又は(13)で表される有機ジアミンと、下記一般式(14)で表される酸二無水物、又はそのテトラカルボン酸、若しくはその反応性誘導体とを反応させることを特徴とする前記[6]に記載のフッ素化ポリアミド酸の製造方法を提供する。
【化22】
[式中、R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42は、それぞれ独立にフッ素原子又は塩素原子を示し、R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42の少なくとも一つがフッ素原子である。a、b、c、dは0又は1の整数であり、a+b+c+dはそれぞれ2~4のいずれかの整数である。p、qはそれぞれ独立に0又は1の整数である。W及びVは、それぞれ独立して直鎖、分岐、脂環、芳香環、ヘテロ環から選ばれる1種以上の下記構造式のいずれかで表される1種以上の2価の有機基であり、部分的にフッ素、酸素、窒素を含有してもよい。]
【化23】
[式中、Xは、直鎖、分岐、脂環、芳香環、ヘテロ環から選ばれる1種以上の4価の有機基であって、部分的にフッ素、酸素、窒素を含有してもよい。]
[13]本発明は、上記一般式(12)又は(13)において、W及びVが独立して下記一般式(5)で表される構造式のいずれかを示し、Xが下記一般式(6)及び(7)で表される構造式のいずれかを示すことを特徴とする前記[12]に記載のフッ素化ポリアミド酸の製造方法を提供する。
【化24】
ここで、R、R、Rは、それぞれ独立に水素、フッ素、アルキル基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキル基、又はパーフルオロアルキル基で、k1、k2及びk3は、それぞれ1~4、1~3及び1~2のいずれかの整数であり、Zは下記構造式で表されるものである。
【化25】
[式中、Rはアルキレン基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキレン基又はパーフルオロアルキレン基であり、Rfはフッ素又はパーフルオロアルキル基を示す。]
【化26】
ここで、R、R、R、Rは、それぞれ前記と同じ置換基であり、m1、m2及びm3はそれぞれ前記と同じ範囲を有するいずれかの整数であり、Z1及びZ2は独立して下記構造式のいずれかで表されるものである。
【化27】
[式中、Rはアルキレン基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキレン基又はパーフルオロアルキレン基であり、Rfはフッ素又はパーフルオロアルキル基を示す。]
【化28】
[式中、R51、R52、R61、R62、R71、R72、R81、R82は、それぞれ独立にフッ素原子又は塩素原子を示し、R51、R52、R61、R62、R71、R72、R81、R82の少なくとも一つ置換基がフッ素原子である。e、f、g、hは0又は1の整数であり、e+f+g+hはそれぞれ2~4のいずれかの整数である。rは0又は1の整数である。Ra、Rb、Rcは、それぞれ独立に水素、フッ素、アルキル基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキル基、又はパーフルオロアルキル基である。]
[14]本発明は、前記R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42、R51、R52、R61、R62、R71、R72、R81、R82はいずれもフッ素原子であることを特徴とする前記[13]に記載のフッ素化ポリアミド酸の製造方法を提供する。
[15]本発明は、前記[1]~[4]のいずれか一項に記載のフッ素化ポリイミドを、光学部品の主要素を構成する光学材料として使用することを特徴とするポリイミド光学部品の製造方法を提供する。
[16]本発明は、前記[1]~[4]のいずれか一項に記載のフッ素化ポリイミドを、パッシベーション膜又は層間絶縁膜として、それぞれ半導体素子上又は半導体装置の多層配線層間に形成することを特徴とする半導体装置の製造方法。
[17]本発明は、前記[1]~[4]のいずれか一項に記載のフッ素化ポリイミドを樹脂層として有するフレキシブルプリント配線基板の製造方法であって、前記樹脂層の表面の片側又は両側に、銅配線による回路層を形成することを特徴とするフレキシブルプリント配線基板の製造方法。
[18]本発明は、電気・電子部品を外部環境から保護するため、前記[1]~[4]のいずれか一項に記載のフッ素化ポリイミドを前記電気・電子部品の表面上に保護コート膜として形成することを特徴とする電気・電子部品の製造方法。
[19]本発明は、前記[1]~[4]のいずれか一項に記載のフッ素化ポリイミドを、太陽電池の基板として使用することを特徴とするフレキシブル太陽電池の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のフッ素化ポリイミド及びフッ素化ポリイミド酸は、水素の少なくとも1個がフッ素原子で置換された炭化水素系の飽和環状構造を主鎖中に導入した主鎖修飾型の化合物である。それにより、分子主鎖を構成する芳香環に、嵩高い側鎖置換基であるフッ素原子を含む基を導入しなくとも分子中に含まれるフッ素原子量を多くできるため、従来のフッ素化ポリイミドに比べて、透明性を維持しながら、同時に耐熱性と耐湿性の向上を図ることができる。さらに、機械的強度、耐薬品性、電気絶縁性、及び低誘電率・低誘電損失等の特性においても、従来のフッ素化ポリイミドと同様又はそれ以上の特性が得られる。
【0017】
本発明のフッ素化ポリイミド及びフッ素化ポリイミド酸の製造法によれば、水素の少なくとも1個がフッ素原子で置換された炭化水素系の飽和環状構造を主鎖中に導入した主鎖修飾型のフッ素化ポリイミド及びフッ素化ポリイミド酸を、入手が容易な原料を用いて比較的低コストで製造することができる。
【0018】
本発明の製造法によって得られるフッ素化ポリイミドを用いて、光学部品、半導体装置、プリント配線基板、電子・電気部品及びフレキシブル太陽電池を製造方法することにより、それらの部品及び装置の高性能化、高機能化及び高信頼性化を図ることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態によるフッ素化ポリイミドを用いて形成する光導波路の製造方法の一例を示す断面図である。
図2】本発明の実施形態によるフッ素化ポリイミドとプラズマ窒化膜とをパッシベ-ションとする製品に適用したときの製造方法の一例を工程順に示す断面図である。
図3】本発明の実施形態によるフッ素化ポリイミドを用いて作成するフレキシブルプリント基板の製造方法の一例を示す断面図である。
図4】本発明の実施例3で得られるフッ素化ポリイミドの加熱減量曲線及びフッ素化ポリイミド溶液の紫外可視吸光度をそれぞれ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態によるフッ素ポリイミドは、水素の少なくとも1個がフッ素原子で置換された炭化水素系の飽和環状構造(以下、含フッ素シクロアルケン構造という)が主鎖中に導入された主鎖修飾型のポリイミド化合物である点に大きな特徴を有する。
【0021】
前記含フッ素シクロアルケン構造は、芳香族基と比べてやや耐熱性に劣るものの、酸素や硫黄原子などとの共有結合又はアルキレン基やカルボニル基等の直鎖状分子との共有結合の場合よりも相対的にポリイミドの耐熱性及び機械的強度の向上に寄与する。また、主鎖中に導入される含フッ素シクロアルケン構造は、フッ素原子の含有によって嵩高い構造となった側鎖置換基を導入しなくとも一分子中に含まれるフッ素原子量を多くできるため、分子間凝集力が高い状態で維持され、分子間の隙間が小さいフッ素化ポリイミドを得ることができる。さらに、前記含フッ素シクロアルケン構造に含まれるフッ素原子は、撥水機能によりポリイミドの耐湿性を向上させる効果を有する。それらにより、湿気を吸収しやすいという従来のポリイミドが有する一般的な技術課題を解決することができる。
【0022】
前記含フッ素シクロアルケン構造としては、非共役系で、かつ、前記非特許文献3に記載のパーフルオロシクロブテン構造(炭素数が4)に変え、炭素数が5又は6の嵩高い構造を選択することによりパーフルオロシクロペンテン構造又はパーフルオロシクロヘキセン構造をポリイミドの主鎖に導入してもよい。そのような嵩高い構造は、仮に、ビフェニル基等の芳香環同士が結合する構造が主鎖中に同時に含まれるポリイミド化合物であっても、芳香環同士のπ共役系による電荷移動(CT)相互作用を小さくする効果がある。それにより、本発明のポリイミドは、前記非特許文献3に記載のフッ素化ポリイミドと比べて透明性の大幅な向上を図ることができる。
【0023】
本発明の実施形態によるポリイミドは、上記の特徴を有することにより、十分な機械的強度を保持しつつ、耐熱性、耐湿性及び透明性の向上を同時に図ることができる。さらに、前記含フッ素シクロアルケン構造に含まれるフッ素原子が、ポリイミドに対して耐薬品性、高電気絶縁性、及び低い誘電率・誘電損失等の特性付与に寄与する。
【0024】
また、主鎖修飾型のフッ素化ポリイミドは、原料として使用するフッ素化合物が高価で特殊なものであるため製造コストが高価となり汎用性に乏しくなるのが一般的である(例えば、前記非特許文献3に記載の発明を参照)。それに対して、本発明のフッ素ポリイミドは、比較的低コストで入手が容易なフッ素含有原料を用いて、少ない合成ステップによって比較的安価に合成できるという特徴も有する。
【0025】
<フッ素化ポリイミド>
以下、本発明の実施形態によるフッ素化ポリイミドを詳細に説明する。
【0026】
本発明の実施形態によるフッ素化ポリイミドは、含フッ素シクロアルケン構造を有し、下記一般式(1)又は(2)で表される化学構造を含む化合物である。
【0027】
【化29】
【0028】
上記一般式(1)及び(2)において、R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42は、それぞれ独立にフッ素原子又は塩素原子を示し、R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42の少なくとも一つがフッ素原子である。a、b、c、dは0又は1の整数であり、a+b+c+dはそれぞれ2~4のいずれかの整数である。p、qはそれぞれ独立に0又は1の整数である。上記一般式(1)又は(2)に記載のW及びVは、それぞれ直鎖、分岐、脂環、芳香環、ヘテロ環から選ばれる1種以上の下記構造式のいずれかで表される1種以上の2価の有機基であり、部分的にフッ素、酸素、窒素を含有してもよい。
【0029】
本発明の実施形態によるポリイミドは、炭化水素系の飽和環状構造(含フッ素シクロアルケン)中に、原子半径が大きいフッ素原子を少なくとも一つ導入することによって、ポリイミドに対して耐熱性、耐湿性及び透明性の向上だけでなく、高機械強度、耐薬品性、高電気絶縁性、及び低い誘電率・誘電損失等の特性付与を図ることができる。これらの特性は一分子中に導入されるフッ素原子の数によって大きく影響され、フッ素原子の数が増えるほど特性の向上が図れる。そのため、R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、及びR42の置換基群はすべてフッ素原子であってもよい。
【0030】
また、含フッ素シクロアルケン構造を構成する炭素数は、a+b+c+d=2~4のいずれかの整数と規定されるように2~4個の範囲である。a+b+c+d=2~4であるときに、ポリイミドの耐熱性、透明性及び耐湿性の向上だけでなく、耐薬品性、高電気絶縁性、及び低い誘電率・誘電損失等の特性付与に対してより大きな効果を有する。さらに、比較的低コストで入手が容易なフッ素含有原料(例えば、含フッ素シクロアルケン化合物)を使用することにより原料の入手が容易になるだけでなく、少ない反応ステップでの合成が可能になり、反応の制御も容易になる。これらの効果を十分に奏するだけでなく、例えば、原料として使用するオクタフルオロシクロペンテン、ジクロロヘキサフルオロペンテン、テトラクロロテトラフルオロペンテン等は市販されており、入手が容易であるという点から、a+b+c+d=3が実用的である。
【0031】
他方、本発明の実施形態においては、1分子中に導入されるフッ素原子の数を増やすため、上記一般式(2)に示すように、含フッ素シクロアルケンが2つ結合した二量体を有する構造を有するポリイミドであってもよい。上記一般式(2)に表される化学構造を有するポリイミドは、合成原料として下記一般式(15)で表される化合物を使用し、それ以降の有機ジアミンの合成は、上記一般式(2)に表される化学構造を有する化合物を合成するために使用するジアミンの場合と基本的に同じ方法で行う。下記一般式(15)で表される化合物は、例えば、公知の合成方法(T.Agou,et.al.,Eur.J.Org.Chem,2020,1871-1880,DOI:0.1002/ejoc.202000152を参照)に従って、含フッ素シクロアルケンと、パラ位がリチウム原子(Li)で核置換された有機リチム化合物とを反応させることによって得ることができる。
【0032】
【化30】
[式中、R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42及びVは、それぞれ上記一般式(2)に示すものと同じ置換基及び2価の置換基である。a、b、c、dは、上記一般式(2)に示すものと同じ範囲を有する整数である。]
【0033】
上記一般式(1)又は(2)で表される化学構造を含むフッ素化ポリイミドは、後述するように、含フッ素シクロアルケン構造を含む有機ジアミンと、酸二無水物又はそのテトラカルボン酸、若しくはその反応性誘導体とを用いて、両化合物から発熱を伴う開環重付加反応によって合成されるポリイミド酸を経て、該ポリイミド酸の脱水環化を行うことによって製造される。その製造法によって得られるポリイミドは、下記一般式(3)又は(4)で表される繰り返し単位を含有する。
【0034】
【化31】
【0035】
上記一般式(3)及び(4)において、R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42はそれぞれ前記と同じ置換基を示し、a、b、c、d、p、qは、それぞれ独立に前記と同じ範囲を有する整数を示す。R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42は、それぞれ独立にフッ素原子又は塩素原子を示し、R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42の少なくとも一つがフッ素原子である。上記一般式(3)及び(4)に含まれる炭化水素系の飽和環状構造(含フッ素シクロアルケン)は、上述したように、ポリイミドの特性が一分子中に導入されるフッ素原子の数によって大きく影響されるため、R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42の置換基群はすべてフッ素原子であってもよい。
【0036】
上記一般式(3)及び(4)中のW及びVは、それぞれ前記と同じように、直鎖、分岐、脂環、芳香環、ヘテロ環から選ばれる1種以上の下記構造式のいずれかで表される1種以上の2価の有機基を示し、部分的にフッ素、酸素、窒素を含有してもよい。前記W及びVとしては、下記一般式(5)に示す構造を有する置換基が挙げられる。
【0037】
【化32】
ここで、R、R、Rは、それぞれ独立に水素、フッ素、アルキル基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキル基、又はパーフルオロアルキル基で、k1、k2及びk3は、それぞれ1~4、1~3及び1~2のいずれかの整数であり、Zは下記に示す構造式のいずれかで表されるものである。
【0038】
【化33】
[式中、Rはアルキレン基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキレン基又はパーフルオロアルキレン基であり、Rfはフッ素又はパーフルオロアルキル基を示す。]
【0039】
前記W及びVの具体的なものとしては、ポリイミドの諸特性、ポリイミド合成のときの原料の入手性及び合成の容易性等の点から、例えば、下記に示す構造を有する置換基が挙げられる。
【0040】
【化34】
【0041】
前記Vの具体的なものとしては、ポリイミドの諸特性、ポリイミド合成のときの原料の入手性及び合成の容易性等の点から、例えば、下記に示す構造を有する置換基が挙げられる。
【0042】
【化35】
【0043】
上記式(W-1)~(W-8)及び(V-1)~(V-2)において、Rは前記と同じ置換基を示し、k1、k2及びk3はそれぞれ前記と同じ範囲を有するいずれかの整数である。本発明の実施形態においては、原料の入手が容易である点からRが水素であってもよい。
【0044】
上記一般式(3)及び(4)において、Xは酸二無水物の主鎖骨格を構成する4価の有機基であり、下記一般式(6)に示すように、直鎖、分岐、脂環、芳香環、ヘテロ環から選ばれる1種以上の4価の有機基であって、部分的にフッ素、酸素、窒素を含有してもよい。
【0045】
【化36】
【0046】
ここで、R、R、R、Rは、それぞれ独立に水素、フッ素、アルキル基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキル基、又はパーフルオロアルキル基で、m1、m2及びm3はそれぞれ1~2、1~3及び1~4のいずれかの整数であり、Z1及びZ2は独立して下記構造式のいずれかで表されるものである。
【0047】
【化37】
[式中、Rはアルキレン基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキレン基又はパーフルオロアルキレン基であり、Rfはフッ素又はパーフルオロアルキル基を示す。]
【0048】
また、本発明の実施形態においては、Xとして下記一般式(7)に示すように、含フッ素シクロアルケン構造を有する4価の有機基を使用してもよい。下記一般式(7)に示す置換基は、有機ジアミン及び酸二水物の重付加反応において製造されるポリイミドにおいて含フッ素シクロアルケン構造の繰り返し単位を一分子中に数多く導入するときに使用される。
【0049】
【化38】
[式中、R51、R52、R61、R62、R71、R72、R81、R82は、それぞれ独立にフッ素原子又は塩素原子を示し、R51、R52、R61、R62、R71、R72、R81、R82の少なくとも一つ置換基がフッ素原子である。e、f、g、hは0又は1の整数であり、e+f+g+hはそれぞれ2~4のいずれかの整数である。rは0又は1の整数である。Ra、Rb、Rcは、それぞれ独立に水素、フッ素、アルキル基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキル基、又はパーフルオロアルキル基である。]
【0050】
上記一般式(7)において、R51、R52、R61、R62、R71、R72、R81、R82は、上記一般式(3)に示すR11、R12、R21、R22、R31、R32、R41の置換基群の場合と基本的に同じ理由から、それらのすべてがフッ素原子であってもよい。また、a+b+c+dの整数についても、原料の入手の容易性の点からa+b+c+d=3であってもよい。
【0051】
前記Xの具体的なものとしては、例えば、下記に示す構造を有する置換基が挙げられる。
【0052】
【化39】

【0053】
上記式中、R、R、R、Rは、それぞれ上記一般式(6)に示すものと同じ置換基を示し、m1、m2及びm3は、それぞれ上記一般式(6)に示すものと同じ範囲を有するいずれかの整数である。本発明の実施形態においては、原料の入手が容易である点からR、R、R、Rが水素であってもよい。また、上記化合物の中で(X-3)は、芳香環同士のπ共役系による電荷移動(CT)相互作用が強くなる傾向にあるため、ポリマー間の凝集力を抑えるという目的から2,2’位に核置換基R、R5をそれぞれ1個有する2,2’-ビフェニル-ジイル構造を有する化合物を使用してもよい。
【0054】
本発明の実施形態によるポリイミドは、ポリアミンと酸二無水物との脱水縮合反応によって得られるため、一分子中の主鎖に含フッ素シクロアルケン構造を導入する場合、上記一般式(1)又は(2)のいずれかで表される構造単位を含む次の(A)、(B)、(C)及び(D)の4種類の化合物に区分けされる。すなわち、
(A)含フッ素シクロアルケン構造を有するポリアミンと、含フッ素シクロアルケン構造を有しない酸二無水物との開環重付加反応によって合成されるポリアミド酸を用いて、該ポリアミド酸の脱水環化反応を行うことによって得られ、含フッ素シクロアルケン構造がポリアミンに由来する構成成分だけに導入されるポリイミド、
(B)2つの含フッ素シクロアルケン構造を一分子中に含有する2量体タイプのポリアミンと、含フッ素シクロアルケン構造を含有しない酸二無水物との開環重付加反応によって合成されるポリアミド酸を用いて、該ポリアミド酸の脱水環化反応を行うことによって得られ、含フッ素シクロアルケン構造が2量体タイプのポリアミンに由来する構成成分だけに導入されるポリイミド、
(C)含フッ素シクロアルケン構造を有するポリアミンと、含フッ素シクロアルケン構造を有する酸二無水物との開環重付加反応によって合成されるポリアミド酸を用いて、該ポリアミド酸の脱水環化反応を行うことによって得られ、含フッ素シクロアルケン構造がポリアミンと酸無水物にそれぞれ由来する構成成分の両者に導入されるポリイミド、及び
(D)2つの含フッ素シクロアルケン構造を一分子中に含有する2量体タイプのポリアミンと、含フッ素シクロアルケン構造を有する酸二無水物との開環重付加反応によって合成されるポリアミド酸を用いて、該ポリアミド酸の脱水環化反応を行うことによって得られ、含フッ素シクロアルケン構造が2量体タイプのポリアミンと酸無水物にそれぞれ由来する構成成分の両者に導入されるポリイミドである。
【0055】
上記(A)のポリイミドとしては、上記一般式(3)で表される繰り返し単位を含有するフッ素化ポリイミドである。その代表例を以下に挙げるが、本発明の実施形態はこれらに限定されるものではない。以下に挙げる(3-1)から(3-12)の化合物例において-Cf-はパーフルオロシクロアルケン基を意味し、パーフルオロシクロブテン基、パーフルオロシクロペンテン基及びパーフルオロシクロヘキセン基のいずれかの有機基が含まれる。
【0056】
【化40】




【0057】
上記(B)のポリイミドとしては、上記一般式(4)で表される繰り返し単位を含有するフッ素化ポリイミドである。その代表例を以下に挙げるが、本発明の実施形態はこれらに限定されものではない。以下に挙げる(4-1)から(4-12)の化合物例において-Cf-はパーフルオロシクロアルケン基を意味し、パーフルオロシクロブテン基、パーフルオロシクロペンテン基及びパーフルオロシクロヘキセン基のいずれかの有機基が含まれる。
【0058】
【化41】




【0059】
また、上記(C)のポリイミドとしては、上記一般式(3)で表される繰り返し単位において、酸二水物として上記一般式(7)式で表される構造式を構成成分として有するフッ素化ポリイミドである。その代表例を以下に挙げるが、本発明の実施形態はこれらに限定されものではない。以下に挙げる(5-1)から(5-4)の化合物例において-Cf-はパーフルオロシクロアルケン基を意味し、パーフルオロシクロブテン基、パーフルオロシクロペンテン基及びパーフルオロシクロヘキセン基のいずれかの有機基が含まれる。
【0060】
【化42】

【0061】
また、上記(D)のポリイミドとしては、上記一般式(4)で表される繰り返し単位において、酸二水物として上記一般式(7)式で表される構造式を構成成分として有するフッ素化ポリイミドである。その代表例を以下に挙げるが、本発明の実施形態はこれらに限定されものではない。以下に挙げる(6-1)から(6-4)の化合物例において-Cf-はパーフルオロシクロアルケン基を意味し、パーフルオロシクロブテン基、パーフルオロシクロペンテン基及びパーフルオロシクロヘキセン基のいずれかの有機基が含まれる。
【0062】
【化43】

【0063】
<フッ素化ポリアミド酸>
次に、本発明の実施形態によるフッ素化ポリアミド酸を詳細に説明する。
【0064】
本発明の実施形態によるフッ素化ポリアミド酸は、下記一般式(8)及び下記一般式(9)で表される化学構造の少なくともいずれかを含む化合物である。
【0065】
【化44】
【0066】
上記一般式(8)及び(9)において、R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42は、それぞれ独立にフッ素原子又は塩素原子を示し、R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42の少なくとも一つがフッ素原子である。a、b、c、dは0又は1の整数であり、a+b+c+dはそれぞれ2~4のいずれかの整数である。p、qはそれぞれ独立に0又は1の整数である。これらR11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42の置換基及びa、b、c、dの整数の範囲は、本発明の目的と効果に応じて、それぞれ上記フッ素化ポリイミドの場合と同じように設定される。また、W及びVは、それぞれ独立に直鎖、分岐、脂環、芳香環、ヘテロ環から選ばれる1種以上の下記構造式のいずれかで表される1種以上の2価の有機基を示し、部分的にフッ素、酸素、窒素を含有してもよい。
【0067】
上記一般式(8)又は(9)で表される化学構造を含むフッ素化ポリアミド酸は、後述するように、含フッ素シクロアルケン構造を含む有機ジアミンと、酸二無水物又はそのテトラカルボン酸、若しくはその反応性誘導体とを用いて、両化合物から発熱を伴う開環重付加反応によって合成される。その合成法によって製造されるポリイミドは、下記一般式(10)又は(11)で表される繰り返し単位を含有する。
【0068】
【化45】
【0069】
上記一般式(10)及び(11)中、Xは、直鎖、分岐、脂環、芳香環、ヘテロ環から選ばれる1種以上の4価の有機基であって、部分的にフッ素、酸素、窒素を含有してもよい。R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42及びW、Vは、それぞれ独立に前記と同じ置換基及び2価の有機基を示し、a、b、c、d、p、qは、独立に前記と同じ範囲を有する整数を示す。
【0070】
上記一般式(10)及び(11)で表される化学構造式において、前記W、Vの2価の置換基としては、例えば、上記一般式(5)で表される化学構造を有する置換基が挙げられる。また、前記Xの4価の置換基としては、例えば、上記一般式(6)又は(7)で表される化学構造を有する置換基が挙げられる。これらW、V及びXの各置換基の具体的な構造は、当該ポリアミド酸の脱水環化によって得られるフッ素化ポリイミドの諸特性、並びにポリアミド酸の合成のときの原料の入手性及び合成の容易性等の点から、上記で説明したフッ素化ポリイミドの繰り返し単位に含まれる置換基と同じものが挙げられる。
【0071】
本発明の実施形態によるポリアミド酸は、ポリアミンと酸無水物から発熱を伴う開環重付加反応によりポリアミド酸が生成するため、上記一般式(10)及び(11)のいずれかで表される構造単位を含む次の(E)、(F)、(G)及び(H)の4種類の化合物に区分けされる。すなわち、
(E)含フッ素シクロアルケン構造を有するポリアミンと、含フッ素シクロアルケン構造を有しない酸二無水物との開環重付加反応によって得られ、含フッ素シクロアルケン構造がポリアミンに由来する構成成分だけに導入されるポリアミド酸、
(F)2つの含フッ素シクロアルケン構造を一分子中に含有する2量体タイプのポリアミンと、含フッ素シクロアルケン構造を含有しない酸無水物との開環重付加反応によって得られ、含フッ素シクロアルケン構造が2量体タイプのポリアミンに由来する構成成分だけに導入されるポリアミド酸、
(G)含フッ素シクロアルケン構造を有するポリアミンと、含フッ素シクロアルケン構造を有する酸二無水物との開環重付加反応によって得られ、含フッ素シクロアルケン構造がポリアミンと酸無水物にそれぞれ由来する構成成分の両者に導入されるポリアミド酸、及び
(H)2つの含フッ素シクロアルケン構造を一分子中に含有する2量体タイプのポリアミンと、含フッ素シクロアルケン構造を有する酸二無水物との開環重付加反応によって得られ、含フッ素シクロアルケン構造が2量体タイプのポリアミンと酸無水物にそれぞれ由来する構成成分の両者に導入されるポリアミド酸、である。
【0072】
上記(E)、(F)、(G)及び(H)のフッ素化ポリアミド酸は、上記一般式(10)及び(11)で表される繰り返し単位のいずれかを有する化合物である。このフッ素化ポリイミドはフッ素化ポリイミドの前駆体として使用するものであり、上記一般式(3)及び(4)で表される繰り返し単位のいずれかを含有するフッ素化ポリイミドとは、ポリアミド酸の脱水環化反応によって形成されるイミド結合に代えて、ジアミンと酸二無水物との開環重付加反応によって形成されるアミド基とカルボキシル基を有する点が異なるだけである。そのため、本発明のフッ素化ポリアミド酸において上記一般式(10)及び(11)で表される構造式にそれぞれ含まれるW及びVは、上記一般式(3)及び(4)で表される繰り返し単位を有するフッ素化ポリイミドのものと基本的に同じ構造を有する有機基である。同様に、上記一般式(8)及び(9)で表される構造式にそれぞれ含まれるW、V及びX、Yについても、上記一般式(1)及び(2)で表される構造式に含まれるものと基本的に同じ構造を有する有機基を意味する。
【0073】
また、上記(E)、(F)、(G)及び(H)の4種類のフッ素化ポリアミド酸の代表例についても、上記(3-1)~(3-12)、(4-1)~(4-12)、(5-1)~(5-4)及び(6-1)~(6-4)に示す繰り返し単位を有するフッ素化ポリイミドとは、イミド結合に代えてアミド基とカルボキシル基を有する点が異なるだけで、基本的に前記フッ素化ポリイミドの場合と同じ構造の主鎖骨格を有するものが挙げられる。
【0074】
本発明の実施形態によるフッ素化ポリアミド酸の重量分子量は、該フッ素化ポリアミド酸の脱水環化反応によって得られるフッ素化ポリイミドの高耐熱性、高機械的強度、耐薬品性及び高電気絶縁性の観点から、3,000~100,000の範囲である。また、フッ素化ポリアミド酸の塗工性及び製膜性の点も考慮して5,000~50,000の重量平均分子量であってもよい。フッ素化ポリアミド酸の重量平均分子量は、ポリスチレンの分子量を検量線としてゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析法によって測定することができる。GPC法においては数平均分子量も同時に求めることができる。
【0075】
<ポリイミドの製造方法>
本発明のフッ素化ポリイミドは、フッ素化シクロアルケン構造を有する有機ジアミン、及び酸二無水物又はそのテトラカルボン酸、若しくはその反応性誘導体、の少なくともいずれかを用いて両化合物を脱水環化する方法によって製造される。その場合、前記有機ジアミン及び前記酸二無水物又はそのテトラカルボン酸、若しくはその反応性誘導体、の少なくともいずれかを溶媒に溶解させた溶液を用いて、両化合物から発熱を伴う開環重付加反応によって得られるフッ素化ポリアミド酸を経由し、さらに脱水環化反応(イミド化反応)を行うことによって合成される2段法を採用する。このように、前記フッ素化ポリアミド酸は、ポリイミドを合成するときの前駆体として機能する化合物である。
【0076】
前記2段法としては、(i)加熱イミド化法、及び(ii)化学的イミド化法の2つがある。(i)加熱化イミド化法は熱的に脱水環化する方法であり、フッ素化ポリアミド酸のフィルムを200~400℃の高温で加熱して行う。高ガラス転移温度を有する高耐熱性のフッ素化ポリイミドを製造する場合は、300℃以上の高温で熱処理を行う。加熱は、窒素雰囲気下又は減圧下で連続的又は段階的に温度を上昇させて行う。200℃以下では主に溶媒の蒸発が、200℃を超える温度において環化で副生する水の蒸発が起こるため、溶媒及び水の蒸発がほぼ完了するまでの時間がある程度必要である。そのため、加熱処理は階段的に階段状で昇温して行うのが実用的である。
【0077】
一方、(ii)化学的イミド化法は、フッ素化ポリアミド酸のキャストフィルムを、カルボン酸と3級アミンの混合物等の脱水環化剤に浸漬処理して脱水環化を行う方法である。ここで使用される脱水環化剤としては、例えば、無水酢酸-ピリジン、無水酢酸-トリエチルアミン等が挙げられる。前者の脱水環化剤を使用する場合は、例えば、無水酢酸-ピリジン(1:1)混合溶液にフッ素化ポリアミド酸フィルムを所定時間で放置した後、無水酢酸-ピリジン-トルエン(1:1:8)混合溶液で洗浄し、200℃で所定時間加熱することによりフッ素化ポリイミドフィルムが得られる。
【0078】
本発明によるフッ素化ポリイミドの製造方法としては、工程が簡便であること、工業的に使用実績があること、及びコスト的に有利であること等の点から、(i)加熱イミド化法を採用するのが実用的である。しかしながら、力学特性等に優れたフッ素化ポリイミドを安定的に得たい場合には、(ii)化学的イミド化法を採用してもよい。なお、フッ素化ポリイミドの前駆体として使用されるフッ素化ポリアミド酸の製造方法については後述する。
【0079】
本発明の製造方法によって得られるフッ素化ポリイミドは、上記一般式(1)、(2)、(3)及び(4)のいずれかで表される構造単位を含む上記(A)、(B)、(C)及び(D)の4種類に区分けされる。それら4種類のフッ素化ポリイミドの化学構造式に応じて、製造するときに使用する原料である有機ジアミンと酸二無水物がそれぞれ異なる。その違いを以下に説明する。
【0080】
まず、上記(A)のフッ素化ポリイミドを製造するときに使用する有機ジアミン及び酸二無水物は、それぞれ下記一般式(12)又は(13)で表される有機ジアミン、及び下記一般式(14)又は(15)で表される酸二無水物又はそのテトラカルボン酸、若しくはその反応性誘導体である。
【0081】
【化46】
【0082】
上記一般式(12)又は(13)において、R11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42及びW、Vは、上記一般式(3)又は(4)に記載するものと同じ置換基を示し、a、b、c、d及びp、qは上記一般式(3)又は(4)で規定するものと同じ範囲を有する整数である。
【0083】
【化47】
【0084】
上記一般式(14)において、Xは上記一般式(3)又は(4)に記載するものと同じ4価の置換基を示す。
【0085】
上記一般式(12)で表される有機ジアミンは、例えば、下記一般式(16)で表される化合物と下記一般式(17)又は(18)で表される化合物との反応をアルカリ存在下で行うエーテル化反応により合成する。エーテル化反応は、前者の化合物に対して後者の化合物を2倍当量又はそれに近い割合で配合し、両化合物を混合した溶媒(例えば、テトラヒドロフラン等)中でアルカリ触媒(例えば、KOH等)を添加して行う。また、下記一般式(16)で表される化合物と、下記一般式(19)で表される化合物又はその誘導体との脱HBr反応を、約2倍当量の有機リチウム試薬を用いて行うことによって合成してもよい。
【0086】
【化48】
【0087】
【化49】
【0088】
上記一般式(16)に記載のR11、R12、R21、R22、R31、R32、R41、R42は、上記一般式(12)に記載するものと同じ置換基を示し、a、b、c、dは上記一般式(12)で規定するものと同じ範囲を有する整数である。上記一般式(16)に記載のR81及びR91は、それぞれ独立にフッ素原子又は塩素原子である。また、上記一般式(17)又は(18)に含まれる置換基Wは、上記一般式(13)に記載のWと同じ置換基を意味する。
【0089】
上記一般式(16)で表される含フッ素シクロアルケン化合物としては、例えば、1,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロシクロペンテン、1,2-ジクロロ-3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロペンテン、1,2,3,3,4,4-ヘキサフルオロシクロブテン、1,2,3,3,4,4,5,5,6,6-デカフルオロシクロヘキセン、1,2,3,3,5,5-ヘキサクロロジフルオロシクロペンテン、1,2,3又は1,2,4-トリクロルペンタフルオロシクロペンテン、1,2,3,4-テトラクロロテトラフルオロシクロペンテン、1,2,3,3,4-ペンタクロロトリフルオロシクロペンテン等が挙げられる。さらに、材料の入手が市販品として入手できること、合成時に反応が制御し易いこと、及び材料コスト等の点から、オクタフルオロシクロペンテン、ジクロロヘキサフルオロペンテン、テトラクロロテトラフルオロペンテンを使用すること、すなわち、a+b+c+d=3であることが好ましい。
【0090】
また、上記一般式(13)で表される有機ジアミンは、例えば、下記の反応式で示すように、まず、上記一般式(16)で表される含フッ素シクロアルケン化合物と、直鎖、分岐、脂環、芳香環、ヘテロ環から選ばれるいずれかの置換基Vにおいて2つの置換部位がリチウム原子(Li)で置換された有機リチウム化合物(Li-V-Li)とを、約1:2のモル比で反応させることにより含フッ素シクロアルケン構造を2個含む2量体を合成する。下記反応式において、含フッ素シクロアルケン構造を2個含む2量体は、上述した上記一般式(15)で表される化合物と同じである。ここで、有機リチウム化合物(Li-V-Li)としては、例えば、パラ位の2置換部位がリチウム原子(Li)でそれぞれ各置換されたp-ジリチウムベンゼン又はその誘導体等が一般的に使用される。
【0091】
【化50】
【0092】
次に、上記反応式に従って合成される一般式(15)で表される化合物を、上記一般式(17)又は(18)で表される化合物の約2倍モル量とアルカリ存在下にエーテル化反応を行うか、又は上記一般式(19)で表される化合物又はその誘導体を用いて、約2倍当量の有機リチウム試薬によって脱HBr反応を行うことにより下記一般式(20)又は(21)で表される化合物を合成する。このように2段階プロセスを経て上記一般式(13)で表される有機ジアミンを合成する。
【0093】
【化51】
【0094】
上記一般式(12)又は(13)で表される化合物としては、例えば、上記一般式(3)及び(4)においてW及びVで示される2価の置換基と同じものを有するジアミン化合物が挙げられる。
【0095】
また、上記一般式(12)又は(13)で表される化合物の代表例についても、上記(3-1)~(3-12)、(4-1)~(4-12)、(5-1)~(5-4)及び(6-1)~(6-4)に示す繰り返し単位を有するフッ素化ポリイミドにおいて、ジアミンの構成成分である2価の置換基に第1級アミノ基の2個がそれぞれ結合したジアミン化合物が挙げられる。
【0096】
上記一般式(14)で表されるテトラカルボン酸二無水物において、4価の置換基Xとしては、上記一般式(6)で表される置換基である。上記一般式(6)で表される置換基を有するテトラカルボン酸二無水物の代表例としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物(又は3, 3',4.4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物)、3,3',4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、トリフルオロメチルピロメリット酸二無水物、1,4-ジ(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、1,4-ジ(ペンタフルオロエチル)ピロメリット酸二無水物、ヘプタフルオロプロピルピロメリット酸二無水物等が挙げられる。
【0097】
また、4価の置換基Xとしては、下記一般式(7)で表されるように、フッ素化シクロアルケン構造を主鎖に有する置換基であってもよい。
【0098】
【化52】
【0099】
上記一般式(7)において、R51、R52、R61、R62、R71、R72、R81、R82は、それぞれ独立にフッ素原子又は塩素原子を示し、R51、R52、R61、R62、R71、R72、R81、R82の少なくとも一つ置換基がフッ素原子である。e、f、g、hは0又は1の整数であり、e+f+g+hはそれぞれ2~4のいずれかの整数である。rは0又は1の整数である。Ra、Rb、Rcは、それぞれ独立に水素、フッ素、アルキル基、フッ素を少なくとも1つ含むアルキル基、又はパーフルオロアルキル基である。
【0100】
また、上記(C)のフッ素化ポリイミドを製造するときに使用する有機ジアミン及び酸二無水物としては、それぞれ上記一般式(12)で表される有機ジアミン及び上記一般式(14)で表される酸二水物又はそのテトラカルボン酸、若しくはその反応性誘導体を使用する。
【0101】
上記一般式(14)で表される酸二無水物において、フッ素化シクロアルケン構造を主鎖に有する酸二無水物は、下記一般式(22)又は(23)で表される化合物と、Ra、Rb及びRcの少なくとも何れかの置換基を有する4-ヒドキロキシフタル酸無水物とのエーテル化反応によって1段階プロセスで反応させることにより合成する。4-ヒドキロキシフタル酸無水物は市販されており、入手が容易である。エーテル化反応は、前者の化合物に対して後者の化合物を2倍当量又はそれに近い割合で配合し、両化合物を混合した溶媒(例えば、テトラヒドロフラン等)中でアルカリ触媒(例えば、KOH等)を添加して行う。
【0102】
【化53】
【0103】
上記一般式(22)又は(23)に記載のR51、R52、R61、R62、R71、R72、R81、R82は、上記一般式(7)に記載するものと同じ置換基を示し、e、f、g、hは上記一般式(7)で規定するものと同じ範囲を有する整数である。また、R101及びR111は、それぞれ独立にフッ素原子又は塩素原子である。
【0104】
本発明において含フッ素シクロアルケン構造を有する酸二無水物を合成するときは、前記4-ヒドキロキシフタル酸無水物に代えて、原料コストは高価になるものの、市販されている3-ヒドロキシフタル酸を原料して使用することにより、下記一般式(24)の酸二無水物を合成してもよい。
【0105】
【化54】
【0106】
<ポリアミド酸の製造方法>
本発明のフッ素化ポリイミドは、フッ素化シクロアルケン構造を有する有機ジアン、及び酸二無水和物又はそのテトラカルボン酸、若しくはその反応性誘導体、の少なくともいずれかを用いて、両化合物から発熱を伴う開環重付加方法によって製造される。反応の方法としては、非プロトン性のアミド系極性溶媒(例えば、N-メチルピロリドン:NMP、N,N-ジメチルアセトアミド:DMAc、N,N-ジメチルホルムアミド等)に有機ジアミンを溶解させて、5~50℃の温度で、一般的には室温下で攪拌させながら酸二無水物を添加する。また、酸二無水物の溶液にジアミンを添加してもよいが、反応を円滑に進めるためには、ジアミンの溶液に酸二無水物を添加しながら開環重付加方法を行うのが実用的である。
【0107】
本発明の製造方法によって得られるフッ素化ポリアミド酸は、上記一般式(10)及び(11)のいずれかで表される構造を繰り返し単位として含む上記(E)、(F)、(G)及び(H)の4種類に区分けされる。それら4種類のフッ素化ポリアミド酸を製造するときに使用する原料である有機ジアミンと酸二無水物は、上記(E)、(F)、(G)及び(H)の4種類のフッ素化ポリアミド酸の繰り返し単位構造に応じて、上記一般式(12)及又は(13)のいずれかで表される有機ジアミン、及び上記一般式(14)で表される酸二無水物を原料として使用される。
【0108】
上記(E)、(F)、(G)及び(H)の4種類のフッ素化ポリアミド酸は、上記一般式(10)及び(11)で表される構造を繰り返し単位として有する化合物であり、上記一般式(3)及び(4)で表される繰り返し単位を含有するフッ素化ポリイミドとは、フッ素化ポリアミド酸の脱水環化方法によって形成されるイミド結合に代えて、開環重付加反応によって形成されるアミド結合とカルボキシル基を有する点が異なるだけである。そのため、本発明によるフッ素化ポリアミド酸の製造方法においても、上記一般式(10)及び(11)で表される単位を繰り返し単位として含むフッ素化ポリアミド酸を製造するときに原料として使用する有機ジアミン及び酸二無水物は、フッ素化ポリイミドを製造するときに使用する上記一般式(12)又は(13)のいずれかで表される有機ジアミン、及び上記一般式(14)で表される酸二無水物と同じ化合物である。
【0109】
<ポリイミド光学部品の製造方法>
本発明の実施形態によるフッ素化ポリイミドは、無機系の材料に比べて軽量であり、耐衝撃性、加工性に優れ、取扱いが容易であるため、光通信用特に光導波路のコア又はクラッド材料として適用が可能である。特に、ポリイミドにおいて炭素-水素結合(C-H結合)に代えて炭素-フッ素結合(C-F)を導入することにより、近赤外域(波長=0.8~2.5μm)における光損失の低減に寄与するだけでなく、コア又はクラッド材料の屈折率を自由に調整することができるため、適用範囲の拡大が期待できる。
【0110】
図1に、本発明の実施形態によるフッ素化ポリイミドを用いて形成する光導波路の製造方法の一例を断面図で示す。シリコン基板1上に、本発明のフッ素化ポリイミドの前駆体であるフッ素化ポリアミド酸を所望の濃度で溶解した溶媒(例えば、ジメチルアセトアミド:DMAc)をスピンコートした後、オーブン中250℃以上の所望の温度(例えば、300℃)で所望の期間(例えば、1時間)加熱し、イミド化を行い、下部クラッド層2を形成する。次に、下部クラッド層2上へ、前記フッ素化ポリイミドにおいて、下部クラッド層よりも屈折率が高い構造を有するポリイミドの前駆体であるフッ素化ポリアミド酸を所定の濃度で溶解したDMAc溶液を、加熱イミド化後の膜厚が5~10μmとなるように、スピンコートした。その後、250℃以上の所望の温度(例えば、300℃)で所望の期間(例えば、1時間)加熱し、イミド化を行い、コア層3を形成した。次に、コア層3上へフォトレジストをスピンコートした後、所定パターンを有する光導波路のCrマスクパターンをフォトリソグラフ法によってレジストに転写させた。次に、フォトレジストの現像を行うことにより、コア層3上へ光導波路の所定パターンを有するマスクパターン4を形成した。マスクパターン4が形成されたコア層3に対して、反応性イオンエッチング(RIE)法を用いてエッチングを行い、所定パターンを有する光導波路のコアパターン5を形成した。次に、前記光導波路のコアパターン5上に、下部クラッド層2と同じポリイミドの前駆体であるフッ素化ポリアミド酸のDMAc溶液をスピンコートした後、オーブン中300℃以上の所望の温度(例えば、350℃)で所望の期間(例えば、1時間)加熱し、イミド化を行い、下部クラッド層2と同じ屈折率を持つ上部クラッド層6を形成した。このような方法によって、フッ素化ポリイミドによって所定パターンを有する光導波路7を形成する。
【0111】
<半導体装置の製造方法>
本発明の実施形態によるフッ素化ポリイミドは、パッシベーション膜又は層間絶縁膜として半導体素子上に形成することにより半導体装置を製造してもよい。パッシベーション膜とは、半導体素子の表面に不動態膜をコートし、外気の影響やゴミの付着を防ぐための保護膜である。また、層間絶縁膜とは、半導体集積回路体装置において各配線層間に形成される絶縁膜である。これらの膜は、携帯電話やコンピュータ等に代表される電子デバイスに利用されている。
【0112】
パッシベーション膜の形成方法の一例として、本発明のフッ素化ポリイミドとプラズマ窒化膜とをパッシベ-ションとする製品に適用したときの製造方法の一例を、図2に工程順に断面図で示す。まず、半導体基板7に第1の酸化膜8を形成し、写真蝕刻法及び熱拡散を用いて第1の拡散層9を形成した後、同様にして第2の拡散層10を形成する。しかる後、写真蝕刻法によりコンタクト層を開孔し、アルミ蒸着及び写真蝕刻法にてアルミ電極11を形成する。次に、プラズマCVD装置によりプラズマ窒化膜12を成長させ、このプラズマ窒化膜層12により製品パタ-ンの上を被覆保護した後、本発明のフッ素化ポリアミド酸をその上面から塗布してフッ素化ポリアミド酸層を形成し、その後、熱処理(例えば、N2雰囲気中250℃で60分間の熱処理)により膜質硬化をはかりフッ素化ポリイミド層13を形成する(図2(a))。
【0113】
次に、フォトレジスト14を塗布し(図2(b))、そして、写真蝕刻法によりアルミ電極11とのコンタクトパタ-ン(ボンデイングパッド)を開孔した後、このフォトレジスト14をマスクとして、有機溶剤又はRIE法等によりフッ素化ポリイミド層13を選択的にエッチングする(図2(c))。しかる後、より低温(例えば、100℃)で有機溶剤によりフォトレジスト14を剥離し(図2(d))、次に、ウエット化したフッ素化ポリイミド層13を熱処理(N2雰囲気中350℃で30分間の熱処理)により再度硬化をはかる。
【0114】
その後、フッ素化ポリイミド層13をマスクとしてプラズマ処理にてプラズマ窒化膜層12を選択的にドライエツチングし(図2(e))、このドライエツチングのプラズマにより変質した表面のフッ素化ポリイミド層13を再度有機溶剤等にて処理してポリイミド層13の表面の安定化をはかり、更に、この有機溶剤処理でウエット化したフッ素化ポリイミド層13を再度熱処理(N2雰囲気中400℃で30分間の熱処理)して膜質の再硬化をはかる。このようにしてポリイミドとプラズマ窒化膜とをパッシベ-ションとする製品が製造される。
【0115】
一方、層間絶縁膜としては、従来から回転塗布法により形成されるSOG(Spin on Glass) 膜やCVD法(化学蒸着法:Chemical Vapor Deposition)により形成されるSiO膜が主に用いられてきた。SiO膜による層間絶縁膜の比誘電率は約4である。一方、LSIの高集積化のためには層間絶縁膜の比誘電率は低いことが望ましいことから、SiOよりも低誘電率のSiOF膜やアモルファスフッ素化カーボン膜等も提案されている。しかしながら、これらの無機質膜は、膜の形成方法や成膜条件によって膜特性が大きく異なったり、膜中のフッ素の脱離や吸湿性が大きいなど、膜の不安定性が生ずるため、代わりに、新たな層間絶縁膜用材料として低比誘電率で耐熱性に優れたフッ素化ポリイミドが提案されている。本発明のフッ素化ポリイミドは低誘電率であるだけでなく、耐熱性及び機械的強度に優れるという特徴を有するため、半導体集積回路体装置の層間絶縁膜として適用してもよい。
【0116】
半導体集積回路体装置の層間絶縁膜は、基本的に図2に示すパッシベーション膜の形成方法と類似の方法により、各層間で層数に応じて繰り返すことによって製造される。なお、使用する本発明のフッ素化ポリイミドの形成方法や加熱条件等は、半導体装置の形態と層数及び製造装置の能力等に応じて、設計の範囲内で変更して調製してもよい。
【0117】
<フレキブルプリント基板の製造方法>
ポリイミドはその優れた耐熱性及び電気信頼性に優れることから、2層以上のCCL(銅クラッドラミネート)を片面又は両面に有するフレキブルプリント基板として適用されている。本発明のフッ素化ポリイミドは、それらの特性だけでなく、低誘電率であることから、高周波用のフレキブルプリント基板としても適用される。
【0118】
図3に、フレキブルプリント基板の製造方法の一例として、導体層と本発明のフッ素化ポリイミドだけから構成される2層CCLを用いた基板について、その製造方法を図3に模式的に示す。図3に示すフレキブルプリント基板の製造方法は、セミアディティブ工法によるビルドアップ配線板製造プロセスである。図3(a)に示すように、2層CCL15は、金属シード層16、本発明のフッ素化ポリイミドコアフィルム層17、及び薄膜のポリイミド接着剤層18から構成される。ここで、金属シード層16は、表面平滑なフッ素化ポリイミドコアフィルム上に強固に接着した銅薄膜であり、セミアディティブ工法によって回路形成する際に、フッ素化ポリイミドコアフィルム層17と化学銅めっき層を相互に接着させる機能を有する。フッ素化ポリイミドコアフィルム層17の厚は、所定の厚さ(5~50μm)に精度よく製造されており、積層により内層回路19を埋込み、物理的に接着する機能を有する。
【0119】
図3に示すように、フレキブルプリント基板は、(b)2層CCL15と内層回路19との接着によって行う積層工程、(c)ヴィア20と化学銅めっき層21の形成工程、(d)めっきレジスト層22の形成工程、(e)電解銅めっき層23の形成工程、及び(f)めっきレジスト剥離とクイックエッチングの工程からなる。これらの工程によってフレキブルプリント基板の内部には良好な矩形形状を有する回路パターンが形成できるため、GHz帯の高周波域における信号伝送において伝送損失を低減できる効果を有する。
【0120】
以上のように、図3に示すフレキシブルプリント基板は、低誘電率だけでなく、高耐熱性及び低吸湿性を有する本発明のフッ素化ポリイミドコアフィルムを使用することにより高周波用途への適用が図られる。
【0121】
<表面に保護コート膜を形成する電機・電子部品の製造方法>
本発明の実施形態によるフッ素化ポリイミドは、コイル、トランス及びキャパシタ等の電機・電子部品の保護コート膜として使用される。また、有機ELディスプレイの部材である有機EL発光層を水分や不純物ガスから保護するため、有機EL絶縁膜用ポリイミド剤として使用してもよい。フッ素化ポリイミドは透明性に優れるため、ディスプレイ分野の保護コート剤として好適な材料である。電機・電子部品の保護コート膜の形成を行う際には、フッ素化ポリアミド酸の溶液だけでなく、脱水環化が完了した後のフッ素化ポリイミドをテープ又はフィルム(片面に接着剤を塗布したテープ又はフィルムも含まれる)として使用してもよい。フィルムとして使用する場合、電機・電子部品の保護コート剤として使用するだけでなく、例えば、電子写真感光体においてトナーのオフセット現象を抑制するために離型性、潤滑性及び耐久性を有する定着フィルムとして使用してもよい。
【0122】
電機・電子部品用部品の例としてトランスの製造方法について説明する。トランスは、巻線工程、組立工程、ワニスの含浸/乾燥/仕上工程、及び検査工程と、大きく4つに分けられる。前記組立工程は、さらに、コイルの被覆剥離工程、コア入れ工程、及びコイルから出ている電線の配線と半田付けを行った後、外装紙を巻く配線工程に分けて行われる。本発明の実施形態によるフッ素化ポリイミドは、コイルのコート膜として使用してもよいし、又は、ワニスの含浸前に行う処理コート剤として使用してもよい。高信頼性のトランスの製造方法として、コイル表面に高耐熱性と高耐湿性を有する前記フッ素化ポリイミドの保護コート膜を形成することができる。保護コート膜の形成は、公知の方法に従って、本発明のフッ素化ポリアミド酸をコイル表面に所望の厚さで塗布し、高温で加熱処理することにより、溶剤の乾燥及びフッ素化ポリアミド酸の脱水環化を行うことによりフッ素化ポリイミドのコート膜を形成する。
【0123】
<フレキシブル太陽電池の製造方法>
<太陽電池の製造方法>
本発明の実施形態によるフッ素化ポリイミドは、機械的強度が高く、耐熱性を有するだけでなく、透明性が高いため、フレキシブル太陽電池の基板として適用される。そこで、本発明によるフレキシブル太陽電池の製造方法について説明する。
【0124】
フレキシブル太陽電池は、例えば、有機薄膜を積層した構造を有するものがあり、一対の電極の間に各機能に応じた有機層を含む構造であれば特に限定されない。具体的には、安定な絶縁性基板上に下記の素子構成を有する構造が挙げられる。
(1-1)下部電極/活性層(p層)/活性層(n層)/上部電極
(1-2)下部電極/バッファ層/活性層(p層)/活性層(n層)/上部電極
(1-3)下部電極/活性層(p層)/活性層(n層)/バッファ層/上部電極
(1-4)下部電極/バッファ層/活性層(p層)/活性層(n層)/バッファ層/上部電極
(1-5)下部電極/バッファ層/活性層(p層)/活性層(i層又はp材料とn材料の混合層)/活性層(n層)/バッファ層/上部電極
(1-6)下部電極/活性層(p層)/活性層(n層)/バッファ層/中間電極/バッファ層/活性層(p層)/活性層(n層)/バッファ層/上部電極
(1-7)下部電極/バッファ層/活性層(p層)/活性層(n層)/バッファ層/中間電極/バッファ層/活性層(p層)/活性層(n層)/バッファ層/上部電極
(1-8)下部電極/バッファ層/活性層(p層)/活性層(i層、p材料とn材料の混合層)/活性層(n層)/バッファ層/中間電極/バッファ層/活性層(p層)/活性層(i層又はp材料とn材料の混合層)/活性層(n層)/バッファ層/上部電極
以下、各構成部材について簡単に説明する。
【0125】
前記下部電極及び上部電極の材料は特に制限はなく、公知の導電性材料を使用することができる。例えば、活性層(p層)と接続する電極としては、錫ドープ酸化インジウム(ITO)や金(Au)、オスニウム(Os)、パラジウム(Pd)等の金属が使用でき、C60等のフラーレン化合物、カーボンナノチューブ等の導電性炭素材料を使用してもよい。また、活性層(n層)と接続する電極としては、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、カルシウム(Ca)、白金(Pt)、リチウム(Li)等の金属やそれらの金属からなる二成分金属系、又はC60等のフラーレン化合物、カーボンナノチューブ等の導電性炭素材料が使用できる。p層に接続する電極としては仕事関数の大きい金属が、また、n層に接続する電極としては仕事関数の小さい金属又は金属系が好ましい。有機太陽電池の少なくとも一方の面は十分に透明であることが望ましく、透明な面に形成する電極は、蒸着やスパッタリング等の方法で所望の透明性が確保できるような透明電極を形成する。
【0126】
上記活性層においてn層として使用される材料は特に限定されないが、電子受容体としての機能を有する化合物が好ましく、例えば、C60等のフラーレン化合物、カーボンナノチューブ、ペリレン化合物、多環キノン及びキナクリドン等、高分子系ではC-ポリ(フェニレンービニレン)、MEH-CN-PPV、シアノ基又はパーフルオロメチル基含有のポリマー及びポリ(フルロレン)化合物が挙げられる。また、無機化合物の場合は、n型特性の無機半導体化合物を使用することができる。例えば、n-Si、GaAs、CdS、PbS、CdSe、InP、Nb、WO及びFe等のドーピング半導体及び化合物半導体、また、二酸化チタン(TiO)、一酸化チタン(TiO)、三酸化ニチタン(Ti)等の酸化チタン、酸化亜鉛(ZnO)及び酸化スズ(SnO)等の導電性酸化物が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0127】
上記活性層のp層として使用される電子供与性材料は特に限定されないが、電子供与性を示すことが必要であり、正孔受容体としての機能を有する化合物が好ましい。例えば、N,N’-ビス(3-トリル)-N,N’-ジフェニルベンジジン(mTPD)、N,N’-ジナフチル-N,N’-ジフェニルベンジジン(NPD)及び4,4’,4’’-トリス(フェニル-3-トリルアミノ)トリファニルアミン(MTDATA)等の代表されるアミン化合物、フタロシアニン(Pc)、銅フタロシアニン(CuPc)、亜鉛フタロシアニン(ZnPc)及びチタニルフタロシアニン(TiOPc)等のフタロシアニン類、オクタエチルポリフィリン(OEP)、白金オクタエチルポリフィリン(PtOEP)及び亜鉛テトラフェニルポリフィリン(ZnTPP)等に代表されるポリフィリン類、ポリヘキシルチオフェン(P3H)及びメトキシエチルヘキシロキシフェニレンビニレン(MEHPPV)等の主鎖型共役高分子類、並びにポリビニルカルバゾール等に代表される側鎖型高分子類等が挙げられる。
【0128】
上記活性層のi層は、電子受容性材料(n材料)と電子供与性材料(p材料)の中間の特性を有する材料を含有してもよいし、電子受容性材料と電子供与性材料とを混合して含有する混合層であってもよい。
【0129】
上記バッファ層は、有機薄膜太陽電池の上部電極と下部電極が短絡し、セル作製の歩留りの低下を防止するために積層して使用されており、フレキシブルの有機薄膜太陽電池は総膜厚が薄いため、特に有用な層構成である。バッファ層として使用される化合物としては、例えば、公知の低分子の芳香族環状酸無水物、導電性高分子であるポリ(3,4-エチレンジオキシ)チオフェン:ポリスチレンスルホネート及びポリアニリン:カンファースルホン酸等、無機半導体化合物であるCdTe、p-Si、SiC、GaAs、NiO、WO及びV等が挙げられる。また、電子輸送性が高く、電極とのエネルギー障壁が小さい材料、例えば、含フッ素ナフタロシアニン化合物又は含フッ素ペンタセン化合物を使用してもよい。前記含フッ素ナフタロシアニン化合物又は含フッ素ペンタセン化合物を、前記公知の材料と組み合わせて使用してもよい。
【0130】
上記中間電極は、電子-正孔再結合ゾーンを形成することにより積層型素子の個々の光電変換ユニットを分離するために採用される層構成の一つである。この層は、前方の光電変換ユニット(フロントセル)のn層と後方の光電変換ユニット(バックセル)のp層との間の逆ヘテロ接合の形成を防ぐ役目をする。上記中間電極を形成する層は、Ag、Li、LiF、Al、Ti及びSnから選択される何れかの金属で、通常、厚さ20Å以下で形成される。
【0131】
フレキシブル太陽電池を構成する各層は、一般的に基板上に積層して形成される。フレキシブル太陽電池用の基板は、柔軟性を有することが必要であるが、同時に機械的強度が高く、耐熱性を有し、さらに透明性を有するものが好ましい。そのため、前記基板としては、本発明の実施形態による含フッ素ポリイミドが好適である。
【0132】
本発明の太陽電池を構成する各層の形成は、公知の有機太陽電池の作製で採用される公知の方法で行うことができ、例えば、前記含フッ素ポリイミドからなる基板に、真空蒸着、スパッタリング、プラズマ及びイオンプレーティング等の乾式成膜法やスピンコーティング、ディップコート、キャスティング、ロールコート、フローコーティング及びインクジェット等の湿式成膜法を適用することができる。
【0133】
各層の膜厚は特に限定されないが、適切な膜厚に調整して各層の形成が行われる。膜厚が厚すぎると光電変換効率が低下し、また、薄すぎるとピンホール等の発生がみられ所望の機能を発揮することができない。通常の膜厚は1nm~10μmの範囲で調整するが、5nm~1μmの範囲が特に好ましい。
【0134】
本発明の製造方法によって得られる太陽電池は、有機薄膜層において成膜性の向上、膜のピンホール発生の防止等だけでなく耐熱性及び耐久性をあげるために、必要に応じて樹脂や酸化防止剤、紫外線吸収剤及び可塑剤等の添加剤を使用してもよい。また、本発明の実施形態による含フッ素ポリイミドは、上記で説明した有機薄膜太陽電池だけでなく、軽量ペロブスカイト太陽電池の基板材料として使用してもよい。
【実施例0135】
以下、具体的な実施例を用いて説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0136】
<実施例1>
有機ジアミン化合物として、4,4′-[(3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロ-1-シクロペンテン-1,2-ジイル)ビス(オキシ)]ビス[ベンゼンアミン]の合成方法を次に示す。
【0137】
下記に示すように、1,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロシクロペンテン(1.5 mL、11.2 mmol)をアセトニトリル(50 mL)の溶媒に溶解し、2倍当量の4-アミノフェノール(3.01g、27.5 mmol)と炭酸セシウム(8.97 g、 27.5 mmol)のアルカリ触媒とを加えて、0℃で3時間攪拌した。その後、50℃で2時間攪拌した。溶媒を減圧留去し、得られた固体の酢酸エチル溶液を炭酸水素ナトリウム水溶液と食塩水で洗浄した。有機溶媒を減圧留去し、残った固体をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)で精製した後、茶色の固体(2.59 g)を収率68%で得た。
【0138】
【化55】
【0139】
このようにして得られた茶色の固体は、H-NMR及び19F-NMRで化学構造を同定した。NMRスペクトルの測定は、5φのサンプル管中に試料と重クロロホルム(CDCl)とを加え、内部標準としてテトラメチルシラン(TMS)を用いて調整し、NMR装置(Bruker AVANCE III400型)により行った。H-NMR及び19F-NMRスペクトルの分析結果は次の通りであり、上記化学構造式を有する化合物1(4,4′-[(3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロ-1-シクロペンテン-1,2-ジイル)ビス(オキシ)]ビスベンゼンアミン)の合成が確認された。
1H-NMR(400MHz, CDCl3, ppm) δ=6.60 (d, J=8.4 Hz, 4H), 6.48 (d, J=8.4 Hz, 4H), 3.54 (brs, 4H)
19F-NMR(376MHz, CDCL3, ppm)δ=-114.09 (t, J=3.8 Hz, 4F), -130.17 (quint, J=3.8 Hz, 2F)
【0140】
<実施例2>
有機ジアミンとして上記実施例1で得られた化合物1(4,4′-[(3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロ-1-シクロペンテン-1,2-ジイル)ビス(オキシ)]ビスベンゼンアミン)と、酸二無水物との開環重付加反応によりフッ素化ポリアミド酸の合成を以下に示す方法で行った。
【0141】
【化56】
【0142】
上記実施例1で得られた有機ジアミンの化合物1[4,4′-[(3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロ-1-シクロペンテン-1,2-ジイル)ビス(オキシ)]ビスベンゼンアミン](0.358 g, 1.00 mmol)をN-メチルピロリドン(3 mL)に溶解し、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(0.444 g, 1.00 mmol)を加えて、室温で24時間攪拌した。反応溶液をCHCl3に注いだ後、メンブレンフィルターを用いたろ過により沈殿物を分離した。得られた固体のメタノール溶液を再度CHCl3に注いた後に生成した沈殿物を、メンブレンフィルターを用いたろ過により分離した。固体中に取り込まれたエタノールを50 ℃で減圧留去し、重量平均分子量18,000のポリアミド酸(0.374 g, 0.448 mmol)を収率45%で得た。
【0143】
得られたポリアミド酸の重量平均分子量は、ゲル浸透ロマトグラフィー(GPC)分析によって求めた。GPC分析条件は以下の通りである。
・カラム Gelpack GL-S300MDT-5×2
・流量 1.0 mL/min
・検出器 UV(270 nm)
・濃度 5 mg/mL
・注入量 5μL
・カラム温度 40 ℃
・溶離液 DMF/THF = 1:1 (vol.) + リン酸 0.06 M + 臭化リチウム 0.06 M
・検量線 ポリスチレン
【0144】
また、上記ポリアミド酸は、重アセトン(acetone-d6)に溶解した測定試料を用いて実施例1と同じ方法に従ってH-NMR及び19F-NMRによって化学構造を同定した。H-NMR及び19F-NMRスペクトルの分析結果は次の通りであり、繰り返し単位が上記の構造式で表されるフッ素化ポリイミド酸の合成が確認された。
1H-NMR(400MHz, acetone-d6, ppm) δ=9.68-9.82 (m, 2H), 8.00-8.12 (m, 2H), 7.39-7.93 (m, 8H), 7.32-7.75 (m, 4H)
19F-NMR(376MHz, acetone-d6, ppm)δ=-63.84 to -64.21 (m , 6F), -114.38 to -115.01 (m, 4F), -130.74 to -131.05(m, 2F)
【0145】
<実施例3>
上記実施例2で得られたポリアミド酸(分子量Mw=18,000、0.100 g、0.120 mmol)のN-メチルピロリドン溶液をシャーレに入れたのち、電気炉で100 ℃で30 分、200 ℃で30 分、300 ℃で30 分加熱したところ、ポリイミド(0.081 g、0.10 mmol)を黒色固体として得た。このようにして得られたポリイミド固体は、赤外吸収分光装置(FT-IR)を用いて測定した赤外吸収スペクトルから、アミノ基、酸無水物及びカルボキシル基の起因する吸収が観測されず、イミドのカルボニル伸縮振動(イミドC=O伸縮)が1782cm-1に観測された。その結果、下記に示すように、上述の一般式(3-1)で表される繰り返し単位において置換基Cfとしてパーフルオロシクロペンテン基を有するフッ素化ポリイミドであることが確認された。
【0146】
【化57】
【0147】
上述の一般式(3-1)で表され、かつ、パーフルオロシクロペンテン基を有する繰り返し単位からなる本実施例のフッ素化ポリイミドの固体について加熱重量減少率の測定を行った。加熱重量減少率は、熱重量測定装置を用いて、室温から600℃まで10℃/分の昇温速度で加熱を行い、そのときの重量減少率を測定した。また、本実施例のフッ素化ポリイミドをクロロホルム(CHCl)に溶解させ、該フッ素化ポリイミドのCHCl可溶分の吸光度測定を紫外可視分光光度計によって室温で行った。図4に、(a)加熱重量減少率測定によって求めた加熱重量曲線、及び(b)250~700nmの吸光度測定データをそれぞれ示す。
【0148】
上述の一般式(3-1)で表され、かつ、パーフルオロシクロペンテン基を有する構造を繰り返し単位として有するフッ素化ポリイミドは、図4(a)から分かるように、加熱重量減少率が5%となる温度(Td5%)が458.5℃であり、高耐熱性を有するポリイミドであることが確認された。また、図4(b)に示すように、350nm以上の近紫外~可視域において透明性を有している。
【0149】
<実施例4>
上記実施例1で得られた有機ジアミンの化合物1[4,4′-[(3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロ-1-シクロペンテン-1,2-ジイル)ビス(オキシ)]ビスベンゼンアミン](0.390 g, 1.00 mmol)をN-メチルピロリドン(1 mL)に溶解し、N-メチルピロリドン(4 mL)に溶解したピロメリット酸無水物(0.218 g, 1.00 mmol)を加えて、室温で12時間攪拌した。反応溶液をCHClに注いだ後、メンブレンフィルターを用いたろ過により沈殿物を分離し、重量平均分子量が5,900のポリアミド酸(0.390 g, 0.857 mmol)を収率86%で得た。ここで、重量平均分子量は、実施例2と同じ条件でGPC分析によって求めた。
【0150】
また、上記のポリアミド酸は、実施例2と同じ方法に従ってH-NMR及び19F-NMRによって化学構造を同定した。H-NMR及び19F-NMRスペクトルの分析結果は次の通りであり、下記に示す繰り返し単位を有するフッ素化ポリイミド酸の合成が確認された。
1H-NMR(400MHz, acetone-d6, ppm) δ=7.89-8.35 (m, 2H), 7.54-7.70 (m, 4H), 6.81-7.00 (m, 4H)
19F-NMR(376MHz, acetone--d6, ppm)δ=-114.66 to -115.07 (m, 4F), -130.99 to -131.05(m, 2F)
【0151】
【化58】
【0152】
<実施例5>
上記実施例4で得られたポリアミド酸(分子量Mw=5,900、0.100 g、0.164 mmol)のN-メチルピロリドン溶液をシャーレに入れたのち、電気炉で100 ℃で30 分、200 ℃で30 分、300 ℃で30 分加熱したところ、ポリイミド(0.081 g、0.14 mmol)を黒色固体として得た。このようにして得られたポリイミド固体は、赤外吸収分光装置(FT-IR)を用いて測定した赤外吸収スペクトルから、アミノ基、酸無水物及びカルボキシル基の起因する吸収が観測されず、イミドのカルボニル伸縮振動(イミドC=O伸縮)が1786 cm-1に観測された。その結果、下記に示すように、上述の一般式(3-5)で表される繰り返し単位において置換基Cfとしてパーフルオロシクロペンテン基を有するフッ素化ポリイミドであることが確認された。
【0153】
【化59】
【0154】
上述の一般式(3-5)で表され、かつ、パーフルオロシクロペンテン基を有する繰り返し単位からなる本実施例のフッ素化ポリイミドについて上記実施例3と同じ方法で加熱重量減少率を測定した結果、加熱重量減少率が5%となる温度(Td5%)が446℃であった。
【0155】
<実施例6>
上記実施例1で得られた有機ジアミンの化合物1[4,4′-[(3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロ-1-シクロペンテン-1,2-ジイル)ビス(オキシ)]ビスベンゼンアミン](0.390 g、 1.00 mmol)をN-メチルピロリドン(3 mL)に溶解し、4,4’-オキシジフタル酸無水物(0.310 g, 1.00 mmol)を加えて、室温で3時間攪拌した。反応溶液をCHClに注いだ後、メンブレンフィルターを用いたろ過により沈殿物を分離した。得られた固体のアセトン溶液を再度CHCl3に注ぎ、生成した沈殿物を、メンブレンフィルターを用いたろ過により分離し、重量平均分子量29,000のポリアミド酸(0.412 g, 0.589 mmol)を収率59%で得た。ここで、重量平均分子量は、実施例2と同じ条件でGPC分析法によって求めた。
【0156】
また、上記のポリアミド酸は、実施例2と同じ方法に従ってH-NMR及び19F-NMRによって化学構造を同定した。H-NMR及び19F-NMRスペクトルの分析結果は次の通りであり、下記に示す構造式の繰り返し単位を有する示すフッ素化ポリイミド酸の合成が確認された。
1H-NMR(400MHz, acetone-d6, ppm) δ=9.55-9.68 (m, 2H), 7.85-8.10 (m, 2H), 7.50-7.68 (m, 5H), 7.08-7.35 (m, 3H), 6.75-6.90 (m, 4H)
19F-NMR(376MHz, acetone--d6, ppm)δ=-114.70 to -114.98 (m, 4F), -130.73 to -131.05(m, 2F)
【0157】
【化60】
【0158】
<実施例7>
上記実施例6で得られたポリアミド酸(分子量Mw=29,000、0.100 g、0.137 mmol)のN-メチルピロリドン溶液をシャーレに入れたのち、電気炉で100 ℃で30 分、200 ℃で30 分、300 ℃で30 分加熱したところ、ポリイミド(0.081 g、0.12 mmol)を黒色固体として得た。このようにして得られたポリイミド固体は、赤外吸収分光装置(FT-IR)を用いて測定した赤外吸収スペクトルから、アミノ基、酸無水物及びカルボキシル基の起因する吸収が観測されず、イミドのカルボニル伸縮振動(イミドC=O伸縮)が1784cm-1に観測された。その結果、下記に示すように、上述の一般式(3-3)で表される繰り返し単位において置換基Cfとしてパーフルオロシクロペンテン基を有するフッ素化ポリイミドであることが確認された。
【0159】
【化61】
【0160】
上述の一般式(3-3)で表され、かつ、パーフルオロシクロペンテン基を有する繰り返し単位からなる本実施例のフッ素化ポリイミドについて上記実施例3と同じ方法で加熱重量減少率を測定した結果、加熱重量減少率が5%となる温度(Td5%)が452℃であった。
【0161】
<実施例8>
有機ジアミン化合物として4,4′-(3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロ-1-シクロペンテン-1,2-ジイル)ビスベンゼンアミンの合成方法を次に示す。
【0162】
下記に示す方法に従って、300 mL三ツ口フラスコに窒素雰囲気下でN-(tert-ブトキシカルボニル)-4-ブロモアニリン(5.44 g, 20 mmol)とN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン[TMEDA](1.33 mL, 20 mmol)、THF(150 mL)を加え、-78 ℃まで冷却した。その後、n-ブチルリチウム・ヘキサン溶液(26 mL、40 mmol)を滴下し3時間撹拌した。次に1,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロシクロペンテン[OFCP](1.33 mL, 10 mmol)を加えて―78 ℃で1時間、室温で20時間撹拌した後に飽和塩化アンモニウム水溶液で反応を停止した。反応溶液を酢酸エチルで抽出し、有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥、溶媒を減圧留去した。粗生成物をヘキサンに分散させ、沈殿を濾過することで淡黄色の固体を得た(収量2.64g、収率53%)。
【0163】
【化62】
【0164】
このようにして得られた淡黄色の固体は、実施例1と同じ方法に従ってH-NMR、19F-NMR及び13C-NMRによって化学構造を同定した。H-NMR、19F-NMR及び13C-NMRの分析結果は次の通りであり、有機ジアミンとして上記に示す化学構造式を有する化合物2の合成が確認された。
1H-NMR (400 MHz, Acetone-d6, ppm) δ = 8.69 (s, 2H), 7.62 (d, J = 8.7 Hz,4H), 7.35 (d, J = 8.7 Hz, 4H), 1.48 (s, 18H).
19F-NMR (376 MHz, Acetone-d6, ppm) δ = -110.87 (t, J = 4.9 Hz, 4F), -132.44 (quint, J = 5.0 Hz, 2F).
13C-NMR (100 MHz, Acetone-d6, ppm) δ = 152.59, 141.95, 130.02, 121.08, 118.12, 79.72, 27.54.
【0165】
次に、下記に示すように、100 mLシュレンクフラスコに窒素雰囲気下で上記化合物2(3.86 g、 6.9 mmol)とトリフルオロ酢酸(6 mL)を加え、室温で20時間撹拌した。反応溶液に水を加えた後ジクロロメタンで抽出し、有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥、溶媒を減圧留去し、黄土色の固体を得た(収量2.46 g、収率99%)。
【0166】
【化63】
【0167】
このようにして得られた黄土色の固体は、実施例1と同じ方法に従ってH-NMR、19F-NMR及び13C-NMRによって化学構造を同定した。H-NMR、19F-NMR及び13C-NMRの分析結果は次の通りであり、また、下記の元素分析結果からも、有機ジアミンとして上記で示す化学構造式を有する化合物3の合成が確認された。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3, ppm) δ = 7.19 (d, J = 8.6 Hz,4H), 6.58 (d, J = 8.6 Hz, 4H), 3.87 (s, 4H).
19F-NMR (376 MHz, CDCl3, ppm) δ = -109.83 (t, J = 5.5 Hz, 4F), -131.51 (quint, J = 5.6 Hz, 2F).
13C-NMR (100 MHz, CDCl3, ppm) δ = 148.01, 130.75, 117.93, 114.77.
Elemental analysis: calcd for C16H12F6N2: C, 56.99; H, 3.38; N,7.82; found: C, 56.93; H, 3.64; N, 7.60.
【0168】
<実施例9>
上記実施例8で得られた有機ジアミンの化合物3[4,4′-(3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロ-1-シクロペンテン-1,2-ジイル)ビスベンゼンアミン](0.358 g、 1.00 mmol)をN-メチルピロリドン(3 mL)に溶解し、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(0.444 g, 1.00 mmol)を加えて、室温で24時間攪拌した。反応溶液をCHClに注いだ後、メンブレンフィルターを用いたろ過により沈殿物を分離した。得られた固体のメタノール溶液を再度CHClに注ぎ、メンブレンフィルターを用いたろ過によりポリアミド酸(0.61 g、0.76 mmol)を収率76%で得た。このポリイミド酸は、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及び分子量分散(PDI)がそれぞれ13,000,22,000及び1.7であった。数平均分子量及び重量平均分子量は、実施例2と同じ条件でGPC分析によって求めた。
【0169】
また、本実施例のポリアミド酸は、実施例2と同じ方法に従ってH-NMR及び19F-NMRによって化学構造を同定した。H-NMR及び19F-NMRスペクトルの分析結果は次の通りであり、下記に示す構造式を繰り返し単位として有するフッ素化ポリイミド酸の合成が確認された。
1H-NMR(400MHz, DMSO-d6, ppm) δ=10.66-10.78 (m, 2H), 7.04-8.31 (m, 14H)
19F-NMR(376MHz, DMSO-d6, ppm)δ=-63.09 to -62.84 (m , 6F), -109.44 to -108.37 (m, 4F), -130.81(br, 2F)
【0170】
【化64】
【0171】
<実施例10>
上記実施例9で得られたポリアミド酸(Mw=22,000、0.10g、0.12 mmol)のN-メチルピロリドン溶液をシャーレに入れたのち、80℃で3時間加熱し、フィルムを形成した。その後、電気炉を用いて100℃, 30分、200℃, 30分、300℃, 30分加熱し、ポリイミド(0.10 g、0.14 mmol)を黒褐色の固体として得た。このようにして得られたポリイミド個体は、赤外吸収分光装置(FT-IR)を用いて測定した赤外吸収スペクトルから、アミノ基、酸無水物及びカルボキシル基の起因する吸収が観測されず、イミドのカルボニル伸縮振動(イミドC=O伸縮)が1789 cm-1に観測された。その結果、下記に示すように、上述の一般式(3-2)で表される繰り返し単位において置換基Cfとしてパーフルオロシクロペンテン基を有するフッ素化ポリイミドであることが確認された。
【0172】
【化65】
【0173】
上述の一般式(3-2)で表され、かつ、パーフルオロシクロペンテン基を有する繰り返し単位からなる本実施例のフッ素化ポリイミドについて上記実施例3と同じ方法で加熱重量減少率を測定した結果、加熱重量減少率が5%となる温度(Td5%)が393℃であった。
【0174】
<実施例11>
上記実施例8で得られた有機ジアミンの化合物3[4,4′-(3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロ-1-シクロペンテン-1,2-ジイル)ビスベンゼンアミン](0.358 g, 1.00 mmol)をN-メチルピロリドン(3 mL)に溶解し、4,4’-オキシジフタル酸無水物(0.311 g, 1.00 mmol)を加えて、室温で24時間攪拌した。反応溶液をCHCl3に注いだ後、メンブレンフィルターを用いたろ過により沈殿物を分離した。得られた固体のメタノール溶液を再度CHCl3に注ぎ、メンブレンフィルターを用いたろ過によりポリアミド酸(0.63 g, 0.94 mmol)を収率94%で得た。このポリイミド酸は、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及び分子量分散(PDI)がそれぞれ14,000、21,000及び1.6であった。数平均分子量及び重量平均分子量は、実施例2と同じ条件でGPC分析によって求めた。
【0175】
また、本実施例のポリアミド酸は、実施例2と同じ方法に従ってH-NMR及び19F-NMRによって化学構造を同定した。H-NMR及び19F-NMRスペクトルの分析結果は次の通りであり、下記に示す構造式で表される繰り返し単位を有するフッ素化ポリイミド酸の合成が確認できた。
1H-NMR(400MHz, DMSO-d6, ppm) δ=10.63 (br, 2H), 7.03-7.99 (m, 14H)
19F-NMR(376MHz, DMSO-d6, ppm)δ=-109.40 to -108.36 (m, 4F), -130.78(br, 2F)
【0176】
【化66】
【0177】
<実施例12>
上記実施例11で得られたポリアミド酸(Mw=21000、0.10g、0.15 mmol)のN-メチルピロリドン溶液をシャーレに入れたのち、80℃で3時間加熱し、フィルムを形成した。その後、電気炉を用いて100℃, 30分、200℃, 30分、300℃, 30分加熱し、ポリイミド(0.10 g、0.15 mmol)を黒褐色の固体として得た。このようにして得られたポリイミド個体は、赤外吸収分光装置(FT-IR)を用いて測定した赤外吸収スペクトルから、アミノ基、酸無水物及びカルボキシル基の起因する吸収が観測されず、イミドのカルボニル伸縮振動(イミドC=O伸縮)が1782cm-1に観測された。その結果、下記に示すように、上述の一般式(3-4)で表される繰り返し単位において置換基Cfとしてパーフルオロシクロペンテン基を有するフッ素化ポリイミドであることが確認された。
【0178】
【化67】
【0179】
上述の一般式(3-4)で表され、かつ、パーフルオロシクロペンテン基を有する繰り返し単位からなる本実施例のフッ素化ポリイミドについて上記実施例3と同じ方法で加熱重量減少率を測定した結果、加熱重量減少率が5%となる温度(Td5%)が396℃であった。
【0180】
<実施例13>
有機ジアミン化合物として、4,4′-[(3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロ-1-シクロペンテン-1,2-ジイル)ビス(オキシ)]ビス[シクロヘキシルアミン]の合成方法を次に示す。
【0181】
trans-4-アミノシクロヘキサノール (5.0 g, 43 mmol)をアルゴン条件下で塩化メチレン (80 mL)に溶解し、塩化メチレン (20 mL)に溶かした二炭酸ジ-tert-ブチル (9.5 g, 43 mmol)とトリエチルアミン (15 mL)を加えて、0 ℃で一晩攪拌した。水を加えて反応停止した後、塩化メチレンで抽出、塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、ピンク色の固体として下記で表される構造式を有する化合物4 (7.6 g, 36 mmol)を収率 82%で得た。
【0182】
【化68】
【0183】
このようにして得られた上記化合物4は、実施例1と同じ方法に従ってH-NMRによって化学構造を同定した。H-NMRの分析結果は次の通りであり、上記化合物4の合成が確認された。
1H-NMR(400 MHz, CDCl3, ppm) δ=4.30-4.42(m, 1H), 3.55-3.65 (m, 1H), 3.45-3.50(m, 1H), 1.92-2.08(m,4H), 1.44(s, 9H), 1.30-1.43(m, 2H), 1.10-1.22(m, 2H)
【0184】
次に、上記化合物4 (3.20 g, 14.8 mmol)と炭酸セシウム (15.0 g、 46.0 mmol)をアルゴン条件下でN,N-ジメチルアセトアミド (15 mL)に溶解し、0 ℃で1時間攪拌した後、1,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロシクロペンテン[OFCP](0.9 mL、6.96 mmol)を加えて、0 ℃で3時間、70 ℃で一晩攪拌した。反応終了後、溶媒を減圧留去し、酢酸エチルを加え、塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過後、溶媒を減圧留去し、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=3:1)によって精製し、白色固体として下記に示す化合物5 (1.66 g、2.66 mmol)を収率 39%で得た。
【0185】
【化69】
【0186】
このようにして得られた上記化合物5は、H-NMR、19F-NMR及び13C-NMRで化学構造を同定した。H-NMR、19F-NMR及び13C-NMRのスペクトル分析結果は次の通りであり、上記化合物5の合成が確認された。
1H-NMR(400 MHz, CDCl3, ppm) δ=4.40-4.45(m, 4H), 3.40-3.50 (m, 2H), 1.98-2.15(m, 8H), 1.43-1.56(m, 4H), 1.44(s, 18H), 1.15-1.25(m, 4H)
19F-NMR(376 MHz, CDCl3, ppm)δ=-111.00 to-112.75 (m, 4F), -129.30 to -129.75 (m, 2F)
13C-NMR(100 MHz, CDCl3, ppm) δ=155.32, 79.71, 79.43, 48.36, 30.82, 30.48, 28.42
【0187】
上記化合物5(1.20 g, 2.0 mmol)をアルゴン条件下で塩化メチレン (10 mL)に溶解した後、トリフルオロ酢酸 (2 mL)を加えて、室温で一晩攪拌した。反応終了後、塩酸水溶液を加え抽出を行った後、水層側を水酸化ナトリウム水溶液で中和し酢酸エチルを加え、抽出を行うことで、黄色の粘性の液体 (0.639 g, 1.58 mmol)を収率 79%で得た。
【0188】
このようして得られた黄色の粘性は、H-NMR、19F-NMR及び13C-NMRで化学構造を同定した。H-NMR、19F-NMR及び13C-NMRのスペクトル分析結果は次の通りであり、有機ジアミンとして下記に示す化学構造式(4,4′-[(3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロ-1-シクロペンテン-1,2-ジイル)ビス(オキシ)]ビスシクロヘキシルアミン)を有する化合物6の合成が確認された。
1H-NMR(400 MHz, CDCl3, ppm) δ=4.40-4.45(m, 2H), 2.70-2.80 (m, 2H), 2.05-2.13(m, 4H), 1.88-2.00(m, 4H), 1.40-1.50(m, 4H), 1.15-1.23(m, 4H)
19F-NMR(376 MHz, CDCl3, ppm)δ=-111.30 to 112.90(m, 4F), -129.45 to -129.60 (m, 2F)
13C-NMR(100 MHz, CDCl3, ppm) δ=80.36, 49.28, 33.85, 30.91
【0189】
【化70】
【0190】
<実施例14>
有機ジアミンとして上記実施例13で得られた化合物6と4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物との重付加反応を行うことによりポリアミド酸の合成を下記の方法で行った。
【0191】
上記実施例13で得られた有機ジアミンの化合物6 (0.402 g, 1.00 mmol)をN-メチルピロリドン (3 mL)に溶解し、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物 (0.444 g, 1.00 mmol)を加えて、室温で3時間攪拌した。反応溶液をCHCl3に注いだ後、メンブレンフィルターを用いたろ過により沈殿物を分離した。得られた固体のアセトン溶液を再度CHCl3に注ぎ、生成した沈殿物を、メンブレンフィルターを用いたろ過により分離した。重量平均分子量14,000のポリアミド酸 (0.596 g, 0.704 mmol)を収率70%で得た。重量平均分子量は、実施例2と同じ条件でGPC分析法によって求めた。
【0192】
このようにして得られたポリアミド酸を重アセトン(acetone-d6)に溶解した測定試料を用いて、前記ポリアミド酸の化学構造を実施例2と同様にH-NMR及び19F-NMRで同定した。H-NMR及び19F-NMRのスペクトル分析結果は次の通りであり、下記に示す構造式を繰り返し単位として有するフッ素化ポリイミド酸の合成が確認された。
1H-NMR(400 MHz, acetone-d6, ppm) δ=7.35-7.95 (m, 6H), 4.50-4.72 (m, 2H), 3.78-4.00 (m, 2H), 2.05-2.25 (m, 4H), 1.40-1.70 (m, 4H)
19F-NMR(376 MHz, acetone-d6, ppm)δ=-63.54 to -64.31 (m, 6F), -112.28 to -113.31 (m, 4F), -130.54 to -130.95(m, 2F)
【0193】
【化71】
【0194】
<実施例15>
上記実施例14で得られたポリアミド酸 (分子量Mw=14,000、0.150 g、0.177 mmol)のN-メチルピロリドン溶液をシャーレに入れたのち、電気炉で100 ℃で30 分、200 ℃で30 分、240 ℃で30 分加熱したところ、ポリイミド(0.130 g、0.160 mmol)を黒色固体として得た。このようにして得られたポリイミド固体は、赤外吸収分光装置(FT-IR)を用いて測定した赤外吸収スペクトルから、アミノ基、酸無水物及びカルボキシル基の起因する吸収が観測されず、イミドのカルボニル伸縮振動(イミドC=O伸縮)が1735 cm-1に観測された。その結果、下記に示すように、上述の一般式(3-7)で表される繰り返し単位において置換基Cfとしてパーフルオロシクロペンテン基を有するフッ素化ポリイミドであることが確認された。
【0195】
【化72】
【0196】
上述の一般式(3-7)で表され、かつ、パーフルオロシクロペンテン基を有する繰り返し単位からなる本実施例のフッ素化ポリイミドについて上記実施例3と同じ方法で加熱重量減少率を測定した結果、加熱重量減少率が5%となる温度(Td5%)が303℃であった。
【0197】
<実施例16>
有機ジアミンとして上記実施例13で得られた化合物6と4,4'-オキシジフタル酸無水物との開環重付加反応によりポリアミド酸の合成を下記の方法で行った。
【0198】
上記実施例13で得られた有機ジアミンの化合物6 (0.402 g, 1.00 mmol)をN-メチルピロリドン (3 mL)に溶解し、4,4'-オキシジフタル酸無水物 (0.310 g, 1.00 mmol)を加えて、室温で3時間攪拌した。反応溶液をCHCl3に注いだ後、メンブレンフィルターを用いたろ過により沈殿物を分離した。得られた固体のメタノール溶液を再度CHCl3に注ぎ、生成した沈殿物を、メンブレンフィルターを用いたろ過により分離した。重量平均分子量17,000のポリアミド酸 (0.538 g, 0.756 mmol)を収率76%で得た。重量平均分子量は、実施例2と同じ条件でGPC分析法によって求めた。
【0199】
このようにして得られたポリアミド酸を重アセトン(acetone-d6)に溶解した測定試料を用いて、前記ポリアミド酸の化学構造を実施例2と同様にH-NMR及び19F-NMRで同定した。H-NMR及び19F-NMRのスペクトル分析結果は次の通りであり、下記に示す構造式を繰り返し単位として有するフッ素化ポリイミド酸の合成が確認された。
1H-NMR(400 MHz, MeOD, ppm) δ=6.92-8.10 (m, 2H), 4.45-4.65 (m, 2H), 3.80-3.95 (m, 2H), 2.00-2.35 (m, 8H), 1.25-1.75 (m, 8H)
19F-NMR(376 MHz, MeOD, ppm)δ=-113.25 to -114.11 (m, 4F), -131.05 to -131.65 (m, 2F)
【0200】
【化73】
【0201】
<実施例17>
上記実施例16で得られたポリアミド酸 (分子量Mw=17,000、0.150 g、0.212 mmol)のN-メチルピロリドン溶液をシャーレに入れたのち、電気炉で100 ℃で30 分、200 ℃で30 分、240 ℃で30 分加熱したところ、ポリイミド (0.132 g、0.195 mmol)を黒色固体として得た。このようにして得られたポリイミド固体は、赤外吸収分光装置(FT-IR)を用いて測定した赤外吸収スペクトルから、アミノ基、酸無水物及びカルボキシル基の起因する吸収が観測されず、イミドのカルボニル伸縮振動(イミドC=O伸縮)が1732 cm-1に観測された。その結果、下記に示すように、上述の一般式(3-9)で表される繰り返し単位において置換基Cfとしてパーフルオロシクロペンテン基を有するフッ素化ポリイミドであることが確認された。
【0202】
【化74】
【0203】
上述の一般式(3-9)で表され、かつ、パーフルオロシクロペンテン基を有する繰り返し単位からなる本実施例のフッ素化ポリイミドについて上記実施例3と同じ方法で加熱重量減少率を測定した結果、加熱重量減少率が5%となる温度(Td5%)が288℃であった。
【0204】
<実施例18>
有機ジアミンとして上記実施例13で得られた化合物6とピロメリット酸無水物との重付加反応を行うことによりポリアミド酸の合成を下記の方法で行った。
【0205】
上記実施例13で得られた有機ジアミンの化合物6 (0.402 g, 1.00 mmol)をN-メチルピロリドン (3 mL)に溶解し、ピロメリット酸無水物 (0.2180 g, 1.00 mmol)を加えて、室温で3時間攪拌した。反応溶液をCHCl3に注いだ後、メンブレンフィルターを用いたろ過により沈殿物を分離した。得られた固体のメタノール溶液を再度CHCl3に注ぎ、生成した沈殿物を、メンブレンフィルターを用いたろ過により分離した。重量平均分子量19,000のポリアミド酸 (0.546 g, 0.880 mmol)を収率88%で得た。重量平均分子量は、上記実施例3と同じ条件でGPC分析法によって求めた。
【0206】
このようにして得られたポリアミド酸を重アセトン(acetone-d6)に溶解した測定試料を用いて、前記ポリアミド酸の化学構造を実施例2と同様にH-NMR及び19F-NMRで同定した。H-NMR及び19F-NMRのスペクトル分析結果は次の通りであり、下記構造式を繰り返し単位として有するフッ素化ポリイミド酸の合成が確認された。
1H-NMR(400 MHz, MeOD, ppm) δ=7.35-8.05 (m, 2H), 4.50-4.69 (m, 2H), 3.83-3.98 (m, 2H), 2.00-2.35 (m, 8H), 1.30-1.75 (m, 8H)
19F-NMR(376 MHz, MeOD, ppm)δ=-113.28 to -114.41 (m, 4F), -131.14 to -131.65 (m, 2F)
【0207】
【化75】
【0208】
<実施例19>
上記実施例18で得られたポリアミド酸 (分子量Mw=19,000、0.150 g、0.250 mmol)のN-メチルピロリドン溶液をシャーレに入れたのち、電気炉で100 ℃で30 分、200 ℃で30分、240℃で30分加熱したところ、ポリイミド (0.137 g、0.242 mmol)を黒色固体として得た。このようにして得られたポリイミド固体は、赤外吸収分光装置(FT-IR)を用いて測定した赤外吸収スペクトルから、アミノ基、酸無水物及びカルボキシル基の起因する吸収が観測されず、イミドのカルボニル伸縮振動(イミドC=O伸縮)が1768cm-1に観測された。その結果、下記に示すように、上述の一般式(3-11)で表される繰り返し単位において置換基Cfとしてパーフルオロシクロペンテン基を有するフッ素化ポリイミドであることが確認された。
【0209】
【化76】
【0210】
上述の一般式(3-11)で表され、かつ、パーフルオロシクロペンテン基を有する繰り返し単位からなる本実施例のフッ素化ポリイミドについて上記実施例3と同じ方法で加熱重量減少率を測定した結果、加熱重量減少率が5%となる温度(Td5%)が285℃であった。
【0211】
以上のように本発明の実施形態によるフッ素化ポリイミド及びフッ素化ポリイミド酸は、含フッ素シクロアルケン構造を主鎖中に導入した主鎖修飾型の化合物であり、分子主鎖を構成する芳香環に、嵩高い側鎖置換基であるフッ素原子を含む基を導入しなくとも分子中に含まれるフッ素原子量を多くできるため、、従来のフッ素化ポリイミドに比べて、透明性を維持しながら、耐熱性の向上を図ることができる。さらに、化学構造上から、耐湿性、機械的強度、耐薬品性、電気絶縁性、及び低誘電率・低誘電損失等の特性においても、従来のフッ素化ポリイミドと同様又はそれ以上の向上が期待される。また、本発明によるフッ素化ポリイミド及びフッ素化ポリイミド酸の製造法は、含フッ素シクロアルケン構造を主鎖中に導入した主鎖修飾型のフッ素化ポリイミド及びフッ素化ポリイミド酸を、入手が容易な原料を用いて比較的低コストで製造することができる。
【0212】
本発明の製造法によって得られるフッ素化ポリイミドは、光学部品、半導体装置、プリント配線基板、電子・電気部品及びフレキシブル太陽電池を構成するための材料として適用することにより、それらの部品及び装置の高性能化、高機能化及び高信頼性化を図ることが期待できるため、極めて有用性が高い。
【符号の説明】
【0213】
1・・・シリコン基板
2・・・下部クラッド層
3・・・コア層
4・・・マスクパターン
5・・・導波路のコアパターン
6・・・上部クラッド層
7・・・半導体基板
8・・・第1の酸化膜
9・・・第1の拡散層
10・・・第2の拡散層
11・・・アルミ電極
12・・・プラズマ窒化膜
13・・・フッ素化リイミド層
14・・・フォトレジスト
15・・・2層CCL
16・・・金属シード層
17・・・フッ化ポリイミドコアフィルム層
18・・・ポリイミド接着剤層
19・・・内層回路
20・・・ヴィア
21・・・化学銅めっき層
22・・・レジスト層
23・・・電解銅めっき層
図1
図2
図3
図4