(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076416
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】蓄熱制御方法、及び、蓄熱制御装置
(51)【国際特許分類】
B60H 1/08 20060101AFI20240530BHJP
B60H 1/22 20060101ALI20240530BHJP
B61D 27/00 20060101ALI20240530BHJP
B60L 53/10 20190101ALI20240530BHJP
B60L 58/27 20190101ALI20240530BHJP
H02J 15/00 20060101ALI20240530BHJP
H02J 7/04 20060101ALI20240530BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
B60H1/08 611J
B60H1/22 671
B61D27/00 A
B60L53/10
B60L58/27
H02J15/00 H
H02J7/04 L
H02J7/00 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187892
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木原 勝也
【テーマコード(参考)】
3L211
5G503
5H125
【Fターム(参考)】
3L211AA11
3L211BA02
3L211BA32
3L211DA45
3L211EA56
3L211EA78
3L211EA79
3L211EA83
3L211FB08
3L211GA44
3L211GA93
5G503AA01
5G503BA01
5G503BB02
5G503CB11
5G503CB13
5G503DA08
5G503FA06
5G503GD03
5G503GD06
5H125AA01
5H125AC12
5H125AC23
5H125BC19
5H125BC21
5H125CA18
5H125CD08
5H125CD09
5H125DD02
(57)【要約】
【課題】バッテリを暖房の熱源として利用しつつ、蓄熱させることによるバッテリの劣化が抑えられる蓄熱制御方法、及び、蓄熱制御装置を提供する。
【解決手段】バッテリ10の熱を用いて車室101を暖房する電動車両において、外部電源(外部充電器102)が供給する電力である外部電力P
INによってバッテリ10を充電するときに、バッテリ10に蓄熱させる蓄熱制御方法において、バッテリ10の充電後における電動車両の走行予定(S
info)を取得し、走行予定に基づいて蓄熱の要否を判定し、走行予定に基づいて蓄熱が必要であると判定したときに、外部電力P
INを用いてバッテリ10を加熱することによって、バッテリ10に蓄熱させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリの熱を用いて車室を暖房する電動車両において、外部電源が供給する電力である外部電力によって前記バッテリを充電するときに、前記バッテリに蓄熱させる蓄熱制御方法であって、
前記バッテリの充電後における前記電動車両の走行予定を取得し、
前記走行予定に基づいて蓄熱の要否を判定し、
前記走行予定に基づいて蓄熱が必要であると判定したときに、前記外部電力を用いて前記バッテリを加熱することによって、前記バッテリに蓄熱させる、
蓄熱制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の蓄熱制御方法であって、
前記走行予定に基づき、充電された前記バッテリの電力で走行可能な距離である航続距離の延長が必要であるか否かを判定し、
前記航続距離の延長が必要であるときに、蓄熱が必要であると判定する、
蓄熱制御方法。
【請求項3】
請求項2に記載の蓄熱制御方法であって、
前記走行予定は目的地の情報を含み、
前記目的地までの距離が予め定める閾値以上であるときに、前記航続距離の延長が必要であると判定する、
蓄熱制御方法。
【請求項4】
請求項2に記載の蓄熱制御方法であって、
前記航続距離が予め定める閾値以下であるときに、前記航続距離の延長が必要であると判定する、
蓄熱制御方法。
【請求項5】
請求項2に記載の蓄熱制御方法であって、
前記走行予定は目的地の情報を含み、
前記目的地までの距離と、前記航続距離と、の差が予め定める閾値以下であるときに、前記航続距離の延長が必要であると判定する、
蓄熱制御方法。
【請求項6】
請求項1に記載の蓄熱制御方法であって、
前記バッテリの充電後に前記車室を暖房する可能性を判定し、
前記走行予定に基づいて蓄熱が必要と判定され、かつ、前記車室を暖房する可能性があると判定されたときに、前記バッテリに蓄熱させる、
蓄熱制御方法。
【請求項7】
請求項6に記載の蓄熱制御方法であって、
現在地、目的地、経由地、または、通過地の外気温に基づいて、前記車室を暖房する可能性を判定する、
蓄熱制御方法。
【請求項8】
請求項6に記載の蓄熱制御方法であって、
前記バッテリの充電開始前に前記車室が暖房されていたときに、または、前記バッテリの充電開始後に前記車室の暖房が開始されたときに、前記車室を暖房する可能性があると判定する、
蓄熱制御方法。
【請求項9】
請求項1に記載の蓄熱制御方法であって、
前記バッテリの受入可能電力を演算し、
前記外部電力が前記受入可能電力よりも大きいときに、前記外部電力と前記受入可能電力との差分である余剰電力を用いて、前記バッテリを加熱することにより、前記バッテリに蓄熱させる、
蓄熱制御方法。
【請求項10】
請求項1に記載の蓄熱制御方法であって、
前記バッテリの温度に応じて前記バッテリを冷却する冷却機構がある場合、前記冷却機構を停止させることにより、前記バッテリに蓄熱させる、
蓄熱制御方法。
【請求項11】
バッテリの熱を用いて車室を暖房する電動車両において、外部電源が供給する電力である外部電力によって前記バッテリを充電するときに、前記バッテリに蓄熱させる蓄熱制御装置であって、
前記バッテリの充電後における前記電動車両の走行予定を取得し、
前記走行予定に基づいて蓄熱の要否を判定し、
前記走行予定に基づいて蓄熱が必要であると判定したときに、前記外部電力を用いて前記バッテリを加熱することによって、前記バッテリに蓄熱させる、
蓄熱制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、暖房のためにバッテリに蓄熱させる蓄熱制御方法、及び、蓄熱制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、電池に蓄熱された熱を暖房等に利用する場合に、外部充電時の余分な消費電力を抑えつつ、かつ、電池を蓄熱部として使用し、走行可能距離を延ばすことを目的とし、車両の外部から充電を行う場合に、電池への蓄熱の要否を判断し、蓄熱要と判断したときには蓄熱不要と判断したときよりも充電中の電池の目標温度を高く設定することを開示している。特に、特許文献1では、外気温が閾値よりも低い場合には電池への蓄熱要と判断され、外気温が閾値よりも高い場合には電池への蓄熱不要と判断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動車両においては、バッテリの熱が車室の暖房に利用される場合がある。特に、外部電源を用いてバッテリを充電するときに敢えてバッテリに蓄熱させておき、走行中に車室を暖房するときにはバッテリを熱源として使用することで、バッテリの電力消費を抑え、車両の航続距離を延長させる場合がある。
【0005】
一方、高温の状態におかれていると、バッテリは劣化し、その容量が低減する。このため、暖房の熱源として利用し、航続距離を延長するためであっても、不用意にバッテリの温度が高い状態を維持すると、バッテリの劣化が促進されてしまうという問題がある。バッテリの熱を暖房に利用する従来の電動車両においては、例えば、蓄熱の要否を単に外気温に応じて決定するので、航続距離を延長させる必要がない場合でも、外気温が低ければバッテリに蓄熱させる。このため、バッテリの劣化が不必要に進んでしまう。
【0006】
本発明は、バッテリを暖房の熱源として利用しつつ、蓄熱させることによるバッテリの劣化が抑えられる蓄熱制御方法、及び、蓄熱制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は、バッテリの熱を用いて車室を暖房する車両において、外部電源が供給する電力である外部電力によってバッテリを充電するときに、バッテリに蓄熱させる蓄熱制御方法である。この蓄熱制御方法では、バッテリの充電後における車両の走行予定が取得され、走行予定に基づいて蓄熱の要否が判定される。そして、走行予定に基づいて蓄熱が必要であると判定されたときに、外部電力を用いてバッテリを加熱することによって、バッテリに蓄熱させる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、バッテリを暖房の熱源として利用しつつ、蓄熱させることによるバッテリの劣化が抑えられる蓄熱制御方法、及び、蓄熱制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、電動車両における空調システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、コントローラの構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、充電時の蓄熱制御に係るフローチャートである。
【
図4】
図4は、暖房制御に係るフローチャートである。
【
図5】
図5は、充電時におけるバッテリ温度及びヒータの出力を示すグラフである。
【
図6】
図6は、バッテリのサイクル劣化量を示すグラフである。
【
図7】
図7は、受入可能電力と余剰電力の典型例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0011】
図1は、電動車両における空調システム100の構成を示すブロック図である。電動車両とは、少なくとも一時的に電力によって駆動し得る車両であり、例えば、電気自動車やハイブリッド車両等である。
【0012】
空調システム100は、電動車両に搭載され、その車室101の温度を調節する。空調システム100は、バッテリ10、ヒータ11、冷却機構12、充電制御素子13、空調装置14、及び、コントローラ15等を含む。
【0013】
バッテリ10は、電動車両を駆動するための電力を保持する。バッテリ10は、例えばリチウムイオンバッテリ等の二次電池であり、充電可能である。本実施形態では、バッテリ10は、電動車両の回生制御によって充電可能である他、少なくとも電動車両の外部から供給される電力(以下、外部電力PINという)によって充電可能である。ここでは、外部電力PINは、外部電源である外部充電器102から供給されるものとする。外部充電器102は、例えば、充電スタンド等に設置された普通充電器または急速充電器である。
【0014】
なお、外部電力PINは、通常、外部充電器102の種類によって、または、外部充電器102ごとに異なる。例えば、外部充電器102が普通充電器である場合と急速充電器である場合では外部電力PINは異なる。また、普通充電器あるいは急速充電器といっても、具体的な機種等によって、外部電力PINが異なっているのが実情である。さらに、外部充電器102が複数台の電動車両に電力を供給し得る場合には、外部充電器102に接続された電動車両の数によって、各電量車両に供給される外部電力PINが異なることがある。
【0015】
バッテリ10は、単に電動車両を駆動するための電力を保持するだけでなく、車室101を暖房するための熱源としても利用される。本実施形態では、バッテリ10は、外部電力PINによって充電するときに、充電完了後の暖房に利用するために、予め蓄熱する場合がある。
【0016】
ヒータ11は、少なくともバッテリ10と熱交換可能に設けられ、必要に応じてバッテリ10を温める。ヒータ11は、バッテリ10から供給される電力によって、または、外部電力P
INによって、熱を生じさせることができる。例えば、電動車両が寒冷地にあってバッテリ10が低温の状態であるときには、ヒータ11は、バッテリ10を暖機する場合がある。また、暖機が必要なほどにバッテリ10が低温の状態にない場合でも、暖房の熱源として必要なときには、ヒータ11はバッテリ10を加熱することができる。本実施形態では、暖房のためにバッテリ10の蓄熱が必要であると判定されたときに、ヒータ11は、外部電力P
INによってバッテリ10を加熱し、蓄熱させる場合がある。
図1においては、ハッチング矢印によって、熱の移動が表されている。
【0017】
冷却機構12は、例えば、バッテリ10と電動車両のラジエータ等との間で水その他の冷媒を循環させることによって、バッテリ10を冷却する機構である。冷却機構12は、例えば、バッテリ10が少なくとも耐熱限界温度θbMAX(図示しない)以下の温度範囲で動作するように、バッテリ10を冷却する。冷却機構12を動作させるべきバッテリ10の温度は、実験またはシミュレーション等によって、予め定められる。本実施形態では、冷却機構12は、原則として、バッテリ10の温度(以下、バッテリ温度θbという)が冷却開始閾値θTH1(図示しない)以上となったときに作動し、バッテリ10を冷却する。冷却開始閾値θTH1は、冷却機構12がバッテリ10の冷却を開始するバッテリ温度θbであり、少なくとも耐熱限界温度θbMAX以下に定められる。
【0018】
但し、冷却機構12が冷却を開始するバッテリ温度θbは、バッテリ10の耐熱限界温度θbMAX以下の温度範囲内で、冷却開始閾値θTH1よりも高い温度に変更される場合がある。本実施形態では、バッテリ10に蓄熱させるときに、冷却機構12が冷却を開始するバッテリ温度θbは、冷却開始閾値θTH2(図示しない)に変更される。これにより、バッテリ10に蓄熱させるときには、実質的に冷却機構12によるバッテリ10の冷却が停止され、または、停止状態が維持される。その結果、バッテリ10の蓄熱効率が向上する。
【0019】
充電制御素子13は、外部電力PINの供給を調節する素子または回路等である。充電制御素子13は、電動車両に外部充電器102が接続されたときに、コントローラ15からの指示にしたがって、バッテリ10、ヒータ11、または、これらの両方に、外部電力PINの全部または一部を供給する。本実施形態では、充電制御素子13は、バッテリ10に対し、外部電力PINを優先的に供給する。そして、充電制御素子13は、外部電力PINがバッテリ10の受け入れ可能な電力(以下、受入可能電力PAという)を超えるときに、その余剰分の電力(以下、余剰電力PSという)を、必要に応じてヒータ11に供給する。
【0020】
なお、外部電力PINは前述のように外部充電器102によって異なる。そして、バッテリ10の受入可能電力PAは、例えば、バッテリ温度θb等によって変化する。したがって、外部電力PINに余剰電力PSがあるか否かは、外部充電器102やバッテリ温度θb等に応じて変化する。このため、暖房のためにバッテリ10に蓄熱させる必要があっても、充電制御素子13はヒータ11に外部電力PINを供給しない場合がある。すなわち、暖房のためにバッテリ10に蓄熱させる必要があっても、余剰電力PSがないときには、ヒータ11によってバッテリ10が加熱されない場合がある。一方、暖房のためにバッテリ10に蓄熱させる必要があり、かつ、余剰電力PSがあるときには、充電制御素子13は、余剰電力PSの限度においてヒータ11に外部電力PINを供給する。これにより、ヒータ11によってバッテリ10が加熱され、バッテリ10は蓄熱する。
【0021】
以下では、電動車両に外部充電器102が接続され、その接続が解除されるまでの間に、バッテリ10を暖機する目的以外では外部電力PINをヒータ11に供給せず、外部電力PINをバッテリ10に供給して、バッテリ10の充電を行う充電制御を、通常充電制御という。これに対し、電動車両に外部充電器102が接続され、その接続が解除されるまでの間に、外部電力PINをバッテリ10及びヒータ11に供給し、バッテリ10を充電しつつ、バッテリ10に蓄熱させる制御を、充電蓄熱制御という。なお、バッテリ10を暖機しなければならないときには、通常充電制御及び充電蓄熱制御のいずれにおいても、外部電力PINはヒータ11供給される。この場合、通常充電制御では、バッテリ10の暖機に必要な限度で、外部電力PINはヒータ11に供給される。また、充電蓄熱制御では、バッテリ10を暖機するために外部電力PINがヒータ11に供給される。そして、バッテリ10の暖機が完了した後においても、バッテリ10に蓄熱させるため、継続的または断続的に、必要に応じた外部電力PINがヒータ11に供給される。
【0022】
空調装置14は、車室101の空気を温め、または、冷やすことにより、車室101の温度を調節する。空調装置14は、電動車両の外気との熱交換により、車室101の温度を調節することができる。すなわち、空調装置14は、バッテリ10の熱を利用せずに、単独で、車室101を暖房することができる。以下では、バッテリ10の熱を利用せず、外気との熱交換によって行う車室101の暖房を、通常暖房という。
【0023】
また、空調装置14は、バッテリ10の熱を利用して、車室101を暖房することができる。バッテリ10の熱は、例えば、冷媒流路21、熱交換器22、及び、ポンプ23を含むヒートポンプシステムによって、空調装置14に輸送される。冷媒流路21は、水その他の冷媒(熱交換媒体)をバッテリ10と熱交換器22に循環させる流路である。熱交換器22は、冷媒流路21を循環する冷媒を介して、空調装置14にバッテリ10の熱を輸送(供給)する。ポンプ23は、空調装置14がバッテリ10の熱を利用して車室101を暖房するときに、冷媒流路21の冷媒を循環させる。以下では、バッテリ10の熱を利用して行う暖房、すなわちバッテリ10を熱源とする暖房を、ヒートポンプ暖房という。
【0024】
コントローラ15は、電動車両及び空調システム100の各部を統括的に制御する制御装置であり、予め定める制御周期でこれら各部を制御するようにプログラムされている。したがって、コントローラ15は、電動車両の駆動を制御する駆動制御部である。また、コントローラ15は、空調システム100の動作を制御する空調制御部である。特に、本実施形態においては、コントローラ15は、外部電力PINによってバッテリ10を充電するときに、通常充電制御または充電蓄熱制御でバッテリ10の充電を制御することにより、バッテリ10への蓄熱を制御する蓄熱制御装置として機能する。また、コントローラ15は、空調システム100または空調装置14によって、車室101の温度を調節する空調制御装置として機能する。コントローラ15は、例えば、1または複数のコンピュータによって構成される。
【0025】
コントローラ15は、空調システム100等の制御において、バッテリ温度θb、バッテリ10の出力電圧(以下、バッテリ電圧Vbという)、冷媒流路21にある冷媒の温度(以下、冷媒温度θwという)、及び、外気温θout等を適宜に取得し、使用することができる。バッテリ温度θbは、例えば、バッテリ10に設けられた温度センサ31によって取得される。バッテリ電圧Vbは、例えば、バッテリ10の出力端子に設けられた電圧センサ32によって取得される。冷媒温度θwは、例えば、冷媒流路21に設けられた温度センサ33によって取得される。そして、外気温θoutは、例えば、電動車両に設けられた外気温センサ34によって取得される。
【0026】
また、コントローラ15は、バッテリ10の充電率を表すSOC(State of Charge)等を演算によって、適宜に取得することができる。例えば、コントローラ15は、バッテリ電圧Vbに基づいて、バッテリ10のSOCを演算する。また、バッテリ電圧Vbやバッテリ温度θb等に基づいて、バッテリ10が充電のために受け入れることができる電力(受入可能電力PA)や電動車両がバッテリ10の電力によって走行可能な距離(以下、航続距離LCDという)を、演算によって適宜に取得することができる。
【0027】
さらに、コントローラ15は、インフォテインメントシステム41から情報を取得し、その情報に基づき、空調システム100等の制御を実行することができる。インフォテインメントシステム41は、電動車両に対して、または、電動車両の乗員に対して、各種の情報を提供する情報提供システムである。インフォテインメントシステム41は、例えば、電動車両に備えられたカーナビゲーションシステム42や情報通信によって電動車両と連携するスマートフォン43等によって構成される。以下では、コントローラ15がインフォテインメントシステム41から取得する情報Sinfoには、少なくとも、電動車両の現在地に係る情報(以下、現在地情報という)、及び、例えばバッテリ10の充電後等、将来における電動車両の走行予定に係る情報(以下、走行予定という)が含まれるものとする。そして、コントローラ15は、この情報Sinfoに基づいて、特に情報Sinfoが含む走行予定に基づいて、バッテリ10の蓄熱を制御する。
【0028】
現在地情報は、例えば、電動車両の現在位置(現在地)、現在地の気温,天候、海抜高度、現在地にある外部充電器102の種類や性能(外部電力PINのワット数等)等である。走行予定は、例えば、電動車両が走行を予定する経路、目的地,経由地及び通過地、これら各地の気温,天候,距離,通過(到着)予定時刻及び海抜高度、並びに、これら各地にある外部充電器102の種類や性能等、に係る情報である。
【0029】
図2は、コントローラ15の構成を示すブロック図である。
図2では、コントローラ15の構成のうち、バッテリ10の充電、及び、蓄熱に係る構成を示している。
図2に示すように、コントローラ15は、暖房要否判定部51、航続距離延長判定部52、余剰電力演算部53、受入可能電力演算部54、充電蓄熱制御部55、及び、空調制御部56を備える。
【0030】
暖房要否判定部51は、暖房の必要性、すなわち暖房の要否を判定する。本実施形態では、暖房要否判定部51は、バッテリ10が外部電力PINによって充電されるときに、バッテリ10の充電完了後に車室101の暖房が要求される可能性に応じて、暖房の要否を判定する。暖房要否判定部51の判定結果である暖房の要否は、充電蓄熱制御部55に入力される。
【0031】
現在地が寒冷であるときには、少なくともバッテリ10の充電後に暖房される可能性が高い。このため、暖房要否判定部51は、例えば、現在地の外気温θoutに応じて暖房の要否を判定することができる。この場合、暖房要否判定部51は、外気温θoutを、実験またはシミュレーション等によって予め定める気温閾値θa(図示しない)と比較する。そして、暖房要否判定部51は、現在地の外気温θoutが気温閾値θa以下であるときに、暖房が必要であると判定する。また、暖房要否判定部51は、現在地の外気温θoutが気温閾値θaよりも高いときには、暖房が不要であると判定する。なお、現在地の外気温θoutは外気温センサ34によって取得されるものが用いられるが、現在地の外気温θoutが情報Sinfoに含まれるときには、情報Sinfoが含む現在地の外気温θoutを用いることができる。
【0032】
暖房要否判定部51は、情報Sinfoから、目的地、経由地、または、通過地の現在の外気温、もしくは、電動車両がこれらの地に到達するときの予想外気温を取得し、これらの地における外気温に基づいて、暖房の要否を判定することができる。目的地や経由地等の外気温が例えば上記の気温閾値θa以下であって、寒冷であるときには、バッテリ10の充電完了後に、暖房が要求される可能性がある。このため、例えば、暖房要否判定部51は、目的地等の外気温を気温閾値θaと比較し、目的地等の外気温が気温閾値θa以下であるときには、暖房が必要であると判定する。
【0033】
この他、暖房要否判定部51は、暖房の使用履歴に基づいて、暖房の要否を判定することができる。例えば、バッテリ10の充電を開始する以前に、車室101が暖房されていたときには、バッテリ10の充電完了後においても、車室101が暖房される可能性が高い。このため、暖房要否判定部51は、バッテリ10の充電開始前に、車室101が暖房されていたときには、バッテリ10の充電完了後も暖房が必要であると判定することができる。また、例えば、バッテリ10の充電中に車室101が暖房されているときには、バッテリ10の充電完了後においても継続して車室101が暖房される可能性が高い。このため、バッテリ10の充電開始後に車室101の暖房が開始された場合、暖房要否判定部51は、バッテリ10の充電完了後も暖房が必要であると判定することができる。
【0034】
なお、暖房要否判定部51は、現在地,目的地,経由地,もしくは,通過地の外気温と暖房の使用履歴のうち1または複数を組み合わせて、暖房の要否を判定することができる。本実施形態では、現在地等の外気温と暖房の使用履歴に係る上記条件のうち、いずれか1つが満たされたときに、暖房要否判定部51は、バッテリ10の充電完了後に暖房が必要であると判定する。
【0035】
航続距離延長判定部52は、情報Sinfoに基づいて、特に情報Sinfoが含む走行予定に基づいて、航続距離LCDの延長が必要であるか否か(以下、航続距離延長の要否という)を判定する。
【0036】
航続距離延長判定部52は、例えば、目的地までの距離が距離閾値LTH1以上であるときに、航続距離LCDの延長が必要であると判定することができる。目的地までの距離が距離閾値LTH1以上であって目的地が遠方であるときには、バッテリ10の電力で確実に目的地に到達するためにも、航続距離LCDを延長する必要性が高いからである。距離閾値LTH1は、実験またはシミュレーション等によって予め定められる。
【0037】
航続距離延長判定部52は、例えば、バッテリ10の電力による航続距離LCDが距離閾値LTH2以下であるときに、航続距離LCDの延長が必要であると判定することができる。航続距離LCDが距離閾値LTH2以下であって、航続距離LCDが比較的短いときには、バッテリ10の電力で目的地や次の外部充電器102に確実に到達するためにも、航続距離LCDを延長する必要性が高いからである。距離閾値LTH2は、実験またはシミュレーション等によって予め定められる。
【0038】
航続距離延長判定部52は、例えば、バッテリ10の電力による航続距離LCDと、目的地等までの距離と、の差ΔLが、距離閾値LTH3以下であるときに、航続距離LCDの延長が必要であると判定することができる。バッテリ10の電力による航続距離LCDと、目的地等までの距離と、の差ΔLが、距離閾値LTH3以下であって、目的地等に到達するために必要な電力が逼迫する可能性があるときには、航続距離LCDを延長する必要性が高いからである。距離閾値LTH2は、実験またはシミュレーション等によって予め定められる。本実施形態では、バッテリ10の電力によって目的地等まで到達可能である見込みであり、距離閾値LTH3は正値(LTH3>0)であるものとする。はじめからバッテリ10の電力によって目的地等まで到達し得ないときには、途中でバッテリ10を充電する必要があるので、バッテリ10を充電する経由地が上記目的地等となるからである。
【0039】
なお、航続距離延長判定部52は、上記各条件のうち2以上を組み合わせて、航続距離LCDを延長する必要があるか否かを判定することができる。例えば、航続距離延長判定部52は、上記各条件のうちいずれか1つが満たされた場合に、航続距離LCDを延長する必要があると判定することができる。本実施形態では、バッテリ10の電力による航続距離LCDと、目的地までの距離と、の差ΔLが、距離閾値LTH3以上であるときに、航続距離延長判定部52は、航続距離LCDの延長が必要であると判定する。航続距離延長判定部52の判定結果である航続距離延長の要否は、充電蓄熱制御部55に入力される。
【0040】
余剰電力演算部53は、バッテリ10の受入可能電力PAと、バッテリ10を充電するために電動車両に接続される外部充電器102の種類や性能と、に応じて、バッテリ10を充電するときに生じる余剰電力PSを演算する。余剰電力演算部53は、例えば、情報Sinfoによって、外部充電器102の種類や性能等を取得することができる。また、余剰電力演算部53は、バッテリ10を実際に充電するときに、外部充電器102から直接に、その種類や性能等を取得することができる。例えば、余剰電力演算部53は、電動車両に接続された外部充電器102が供給する外部電力PINを計測等することにより、外部充電器102の性能(外部電力PIN)を得ることができる。本実施形態では、余剰電力演算部53は、情報Sinfoから外部充電器102の種類や性能等に係る情報を得る。また、バッテリ10の受入可能電力PAは、受入可能電力演算部54から取得される。余剰電力演算部53が演算した余剰電力PSは、充電蓄熱制御部55に入力される。
【0041】
受入可能電力演算部54は、バッテリ電圧Vb及びバッテリ温度θbに基づいて、バッテリ10の受入可能電力PAを演算する。受入可能電力PAは、バッテリ10に電析等の不具合が生じないように決定される。受入可能電力演算部54が演算した受入可能電力PAは、余剰電力演算部53に入力される。
【0042】
充電蓄熱制御部55は、(1)バッテリ10に蓄熱させる必要があるか否か、及び、(2)実際に充電蓄熱制御を行ってバッテリ10に蓄熱させるか否か、を判定し、これらの判定結果に基づいて、バッテリ10の充電、または、充電及び蓄熱を制御する。
【0043】
充電蓄熱制御部55は、少なくとも航続距離延長の要否に基づいて、バッテリ10に蓄熱させる必要があるか否かの判定(以下、蓄熱要否判定という)を行う。すなわち、充電蓄熱制御部55は、蓄熱要否判定部として機能する。本実施形態では、充電蓄熱制御部55は、航続距離延長の要否、及び、暖房の要否、に基づいて、蓄熱要否判定を行う。
【0044】
具体的には、充電蓄熱制御部55は、少なくとも航続距離LCDの延長が必要な場合に、バッテリ10に蓄熱させる必要があると判定する。バッテリ10を充電するときにバッテリ10に蓄熱させておく目的は、バッテリ10の熱を暖房に使用することによって暖房のための電力を節約し、航続距離LCDを延長することにある。このため、そもそも航続距離LCDの延長が不要であるときには、バッテリ10に蓄熱させる必要性が低い。したがって、充電蓄熱制御部55は、少なくとも航続距離LCDの延長が必要であるときに、バッテリ10に蓄熱させる必要があると判定する。前述のように、航続距離延長の要否は電動車両の走行予定に基づいて判定されるので、充電蓄熱制御部55は、実質的に、バッテリ10を充電した後の電動車両の走行予定に基づいて、蓄熱要否判定を行う。
【0045】
本実施形態では、充電蓄熱制御部55は、さらに暖房の要否を考慮して、蓄熱要否判定を行う。すなわち、充電蓄熱制御部55は、航続距離LCDの延長が必要であって、かつ、暖房が必要であるときに、バッテリ10に蓄熱させる必要があると判定する。暖房が必要でないときには、暖房によってバッテリ10の電力が消費される見込みがない。このため、バッテリ10に蓄熱させることによって、暖房による電力消費を抑制し、航続距離LCDを延長する必要もない。したがって、充電蓄熱制御部55は、上記のように暖房の要否を考慮することにより、バッテリ10に蓄熱させる必要があると判定するシーンをさらに絞り込む。
【0046】
充電蓄熱制御部55は、外部充電器102が供給する外部電力PINに余剰電力PSがあるか否か応じて、実際に充電蓄熱制御を行ってバッテリ10に蓄熱させるか否かの判定(以下、蓄熱実行判定という)を行う。すなわち、充電蓄熱制御部55は、蓄熱実行判定部として機能する。
【0047】
具体的には、充電蓄熱制御部55は、外部電力PINがバッテリ10の受入可能電力PAより大きく、余剰電力PSがあるときに、充電蓄熱制御を行ってバッテリ10に蓄熱させることを決定する。この場合、充電蓄熱制御部55は、蓄熱要否判定において蓄熱が必要であると判定したときには、充電蓄熱制御を実行する。具体的には、充電蓄熱制御部55は、充電制御素子13を制御することにより、外部電力PINをバッテリ10及びヒータ11に供給し、バッテリ10を充電しつつ、バッテリ10に蓄熱させる。このとき、充電蓄熱制御部55は、冷却機構12を停止させ、または、停止状態を維持させることにより、バッテリ10の蓄熱効率を向上させる。
【0048】
一方、外部電力PINがバッテリ10の受入可能電力PA以下であり、余剰電力PSがないときには、充電蓄熱制御部55は、蓄熱要否判定において蓄熱が必要であると判定した場合であっても、バッテリ10に蓄熱させないことを決定する。この場合、充電蓄熱制御部55は、通常充電制御を実行する。具体的には、充電蓄熱制御部55は、充電制御素子13を制御することにより、外部電力PINをヒータ11には供給せず、外部電力PINの全部をバッテリ10に供給する。なお、蓄熱要否判定において蓄熱が必要であると判定し、かつ、通常充電制御を実行するときには、充電蓄熱制御部55は、冷却機構12を停止させ、または、停止状態を維持させることができる。これにより、バッテリ10自身の発熱による限度において、バッテリ10に蓄熱させることができる。
【0049】
なお、上記の蓄熱実行判定は、外部充電器102から電動車両に外部電力PINが供給されている間、所定の制御周期で繰り返し行われる。このため、例えば、バッテリ10の受入可能電力PAが変化して余剰電力PSが生じたときには、その余剰電力PSは適宜にヒータ11に供給され、バッテリ10への蓄熱が行われる。また、バッテリ10の受入可能電力PAが変化して余剰電力PSがなくなったときには、ヒータ11への電力供給は適宜に停止され、バッテリ10の蓄熱は中止される。
【0050】
空調制御部56は、空調装置14に対する稼働要求、バッテリ温度θb、及び、ヒートポンプシステムの冷媒温度θw等に基づいて、空調装置14を制御することにより、車室101の温度を調節する。空調装置14に対する稼働要求は、運転者等による空調装置14のオン/オフ操作、暖房又は冷房の設定、及び、空調温度の設定等である。空調制御部56は、空調装置14がオンかつ暖房に設定されているとき、または、空調装置14がオンかつ実質的に暖房を要求する空調温度に設定されているときに、空調装置14等によって車室101を暖房する。
【0051】
空調制御部56は、空調装置14等によって車室101を暖房するときに、通常暖房とヒートポンプ暖房を適宜に切り替え、または、ヒートポンプ暖房を通常暖房と適宜に併用させる。具体的には、空調制御部56は、バッテリ温度θbが閾値θbx以上であるときに、ポンプ23を稼働させ、バッテリ10の熱を空調装置14への輸送を開始させる。そして、空調制御部56は、ヒートポンプシステムの冷媒温度θwが閾値θwx以上であるときに、ヒートポンプ暖房によって、または、ヒートポンプ暖房を併用することによって、車室101を暖房する。閾値θbxは、ヒートポンプシステムの熱輸送効率等に応じて、実験またはシミュレーション等により、予め定められる。また、閾値θwxは、実験またはシミュレーション等によって予め定められる。
【0052】
以下、上記のように構成される空調システム100によって車室101を暖房するときの作用を説明する。
【0053】
図3は、充電時の蓄熱制御に係るフローチャートである。
図3に示すように、ステップS11では、暖房要否判定部51が、暖房が必要か否か、すなわち暖房の要否を判定する。また、ステップS12では、航続距離延長判定部52が、走行予定に基づいて、航続距離L
CDの延長が必要か否か、すなわち航続距離延長の要否を判定する。これらの判定結果により、充電蓄熱制御部55は、バッテリ10への蓄熱の要否を判定する。
【0054】
そして、暖房が必要であると判定され、かつ、航続距離LCDの延長が必要であると判定されたときには、ステップS13において、充電蓄熱制御部55が、蓄熱実行判定を行う。すなわち、ステップS13では、充電蓄熱制御部55が、余剰電力PSの有無を確認することにより、実際に充電蓄熱制御を行ってバッテリ10に蓄熱させるか否かを決定する。
【0055】
ステップS13で余剰電力PSがあることが確認されたときには、ステップS14において、充電蓄熱制御部55が、冷却機構12を停止し、または、停止状態を維持させる。そして、ステップS15では、充電蓄熱制御部55が、充電蓄熱制御を実行する。すなわち、充電蓄熱制御部55が充電制御素子13を制御することにより、外部電力PINをバッテリ10及びヒータ11に供給し、バッテリ10を充電しつつ、バッテリ10に蓄熱させる。
【0056】
一方、ステップS11で暖房が不要であると判定されたとき、ステップS12で航続距離LCDの延長が不要であると判定されたとき、または、ステップS13で余剰電力PSがないと判定されたときには、ステップS16に進み、通常充電制御を実行する。すなわち、充電蓄熱制御部55が充電制御素子13を制御することにより、外部電力PINをヒータ11には供給せず、外部電力PINの全部をバッテリ10に供給する。
【0057】
なお、ここでは、暖房の要否を先に判定した後、航続距離延長の要否を判定しているが、航続距離延長の要否を先に判定し、その後、暖房の要否を判定してもよい。いずれにしても、航続距離延長の要否と暖房の要否に基づいて、蓄熱要否判定が行われる。
【0058】
図4は、暖房制御に係るフローチャートである。
図4に示すように、ステップS21では、空調制御部56が、運転者等によって空調装置14による暖房がオンに設定されているか否かが確認される。空調装置14による暖房がオンに設定されていないとき、または、冷房に設定されているときには、ステップS22に進み、空調制御部56は、車室101の暖房を停止する。
【0059】
一方、ステップS21で空調装置14による暖房がオンに設定されているときには、ステップS23に進み、バッテリ温度θbが所定の閾値θbxと比較される。そして、バッテリ温度θbが閾値θbx以上であるときには、ステップS24に進み、ポンプ23が稼働され、バッテリ10の熱の輸送が開始される。その後、ステップS25では、ヒートポンプシステムの冷媒温度θwが所定の閾値θwxと比較される。そして、冷媒温度θwが閾値θwx以上となったときには、ステップS26に進み、バッテリ10の熱を利用したヒートポンプ暖房が開始される。
【0060】
なお、ステップS23においてバッテリ温度θbが閾値θbxよりも小さいとき、または、ステップS25において冷媒温度θwが閾値θwxよりも小さいときには、ステップS27に進み、空調制御部56は、空調装置14によって、バッテリ10の熱を利用しない通常暖房を実行する。
【0061】
図5は、充電時におけるバッテリ温度θ
b及びヒータ11の出力(以下、ヒータ出力P
Hという)を示すグラフである。
図5(A)は、バッテリ温度θ
bの推移を示す。
図5(B)は、ヒータ出力P
Hの推移を示す。
図5(B)におけるP
Hmaxはヒータ11による最大のヒータ出力P
Hである。また、
図5に示す例は、寒冷地においてバッテリ10が冷えた状態から外部電力P
INによって普通充電を行う例である。なお、
図5において、実線は、バッテリ10への蓄熱を行うケースを示し、破線は、バッテリ10への蓄熱を行わず、充電のみを行うケースを示す。
【0062】
図5(A)及び(B)に示すように、寒冷地においてバッテリ10が冷えた状態から充電を行う場合、バッテリ10に蓄熱させるか否かに依らず、充電開始とともに、ヒータ11が通電され、バッテリ10が暖機される。
【0063】
そして、時刻t
1にバッテリ温度θ
bが例えば予め定める温度θ
b1に到達し、暖機が完了すると、
図5(B)に破線で示すように、バッテリ10への蓄熱を行わないときには、ヒータ11への通電は停止される。このため、
図5(A)に破線で示すように、充電によって多少の温度上昇があるものの、バッテリ温度θ
bは概ね温度θ
b1の程度に維持される。
【0064】
一方、バッテリ10への蓄熱を行う場合、すなわち、充電蓄熱制御を実行するときには、
図5(B)に実線で示すように、ヒータ11への通電が、例えば時刻t
2まで継続される。これにより、
図5(A)に実線で示すように、温度θ
b1を越えて、例えば温度θ
b2まで上昇する。そして、このバッテリ温度θ
bは温度θ
b2の程度に維持される。すなわち、ヒータ11への通電を継続したことにより、バッテリ10は、温度θ
b1と温度θ
b2の差分の程度に、蓄熱した状態となる。
【0065】
図6は、バッテリ10のサイクル劣化量D
cを示すグラフである。サイクル劣化量D
cは、1回の充電によるバッテリ容量の減少量を表す。
図6は、
図5に置いて説明した充電を行った場合のサイクル劣化量D
cを示すものであり、実線は、バッテリ温度θ
bを温度θ
b2程度まで上昇させることにより、バッテリ10への蓄熱を行ったケースを示し、破線は、バッテリ温度θ
bを温度θ
b1程度に維持したケースを示す。
【0066】
図6に示すように、外部電力P
INによってバッテリ10を充電するときに、ヒータ11によってバッテリ温度θ
bを上昇させ、バッテリ10を蓄熱させた状態とすると、単にバッテリ10の充電を行った場合(破線)よりも、サイクル劣化量D
cが増える。すなわち、暖房のためにバッテリ10に蓄熱させると、その度に少なからずバッテリ10が劣化し、その最大容量が低下してゆく。
【0067】
このため、空調システム100では、前述のように、蓄熱要否判定によって、バッテリ10への蓄熱の必要性を判定し、本当に必要があるときに限って、バッテリ10に蓄熱させるようにしている。これにより、バッテリ10を暖房の熱源として利用しつつも、バッテリ10の不必要な劣化が抑制される。
【0068】
特に、空調システム100における蓄熱要否判定は、電動車両の走行予定に基づいて行われる。例えば、外気温θoutが低く、暖房が使用される可能性が高いとしても、電動車両の具体的な走行予定によっては、バッテリ10を劣化させてまで、バッテリ10に蓄熱させる利益がないことも多い。このため、上記のように電動車両の走行予定に基づいて、特にバッテリ10の充電完了後における走行予定に基づいて、蓄熱の要否を判定することにより、バッテリ10を暖房の熱源として利用するとしても、不必要にバッテリ10に蓄熱さることがない。その結果、バッテリ10を暖房の熱源として利用しつつも、バッテリ10の不必要な劣化が抑制される。
【0069】
より具体的には、空調システム100では、走行予定に基づいて、航続距離LCDの延長が必要か否かを判定し、この航続距離延長の要否に基づいて、蓄熱の要否が判定される。バッテリ10に蓄熱させることの本質的な目的は、暖房によるバッテリ10の電力消費を低減し、航続距離LCDを延長させることにあるので、航続距離LCDの延長が必要でないときには、バッテリ10を劣化させながら、バッテリ10に蓄熱させるほどの利益がない。したがって、上記のように、航続距離延長の要否を判定し、その結果に応じて蓄熱の要否を判定すれば、バッテリ10に不必要な蓄熱をさせることがない。その結果、バッテリ10を暖房の熱源として利用しつつも、バッテリ10の不必要な劣化が抑制される。
【0070】
さらに、空調システム100では、航続距離延長の要否に加え、暖房の要否をも考慮して、バッテリ10への蓄熱の要否を判定する。そもそも暖房が使用されないときには、バッテリ10に蓄熱させても、バッテリ10の電力消費を低減することはできず、その結果、航続距離LCDも延びない。したがって、蓄熱要否判定において暖房の要否も考慮し、暖房が不要なシーンでは、航続距離LCDの延長が必要であるとしても、バッテリ10に蓄熱させないようにすることで、バッテリ10の不必要な劣化が抑制される。
【0071】
図7は、受入可能電力P
Aと余剰電力P
Sの典型例を示すグラフである。
図7(A)は、外部電力P
INによってバッテリ10を充電するときの典型的な受入可能電力P
Aの推移を示す。
図7(A)では、実線で受入可能電力P
Aを示し、破線で外部電力P
INを示す。
図7(B)は、余剰電力P
Sの推移を示す。
【0072】
図7(A)に示すように、外部電力P
INは通常一定であるが、バッテリ10の受入可能電力P
A、例えば、充電開始から時刻T
1まで時間とともに上昇し、その後、外部電力P
IN以上となる。そして、例えば時刻T
2に満充電またはそれに近い状態となると、充電方式の調整(変更)等により、受入可能電力P
Aは漸減され、外部電力P
INよりも小さくなる。したがって、余剰電力P
Sは、この受入可能電力P
Aの推移に応じて
図7(B)に示すように推移する。すなわち、外部電力P
INに余剰電力P
Sがある期間は、例えば、充電開始後時刻T
1までの期間α
1、及び、時刻T
2以後外部充電器102の接続が解除される時刻T
3までの期間α
3である。一方、この例では、時刻T
1から時刻T
2の期間α
2は、外部電力P
INに余剰電力P
Sがない。したがって、空調システム100は、余剰電力P
Sがある期間α
1及び期間α
3において、各時における余剰電力P
Sの限度でヒータ11に電力を供給し、バッテリ10に蓄熱させる。
【0073】
前述のとおり、バッテリ10に蓄熱させる目的は、暖房によるバッテリ10の電力消費を低減し、航続距離LCDを延長させることにあるので、充電のための電力供給を削減し、航続距離LCDを低減させてまで、バッテリ10に蓄熱させる利益がない。このため、上記のように、外部電力PINに余剰電力PSがあるときに、余剰電力PSによってヒータ11に通電することによってバッテリ10を加熱すると、バッテリ10の充電量、または、バッテリ10の充電に要する時間を低減させずに、バッテリ10に蓄熱させることができる。これは、特に、外部充電器102として時間制の急速充電器(一定時間で外部電力PINの供給が停止する急速充電器)を使用するときに、バッテリ10の充電と蓄熱を両立し得る利益がある。
【0074】
なお、上記実施形態では、空調システム100は、ヒータ11を用いて積極的にバッテリ10を加熱することにより、バッテリ10に蓄熱させているが、これに限らない。空調システム100は、ヒータ11を用いず、充電によってバッテリ10自身が生じさせる熱によって、バッテリ10に蓄熱させることができる。例えば外部充電器102として急速充電器を用いる場合等、バッテリ10自身が充電によって大きな熱を生じさせるときには、冷却機構12を停止させる等して、排熱させにくくすることにより、バッテリ10を加熱し、蓄熱させることができる。
【0075】
以上のように、上記実施形態に係る蓄熱制御方法は、バッテリ10の熱を用いて車室101を暖房する電動車両において、外部電源(外部充電器102)が供給する電力である外部電力PINによってバッテリ10を充電するときに、バッテリ10に蓄熱させる蓄熱制御方法である。この蓄熱制御方法では、バッテリ10の充電後における電動車両の走行予定(Sinfo)を取得し、走行予定に基づいて蓄熱の要否を判定し、走行予定に基づいて蓄熱が必要であると判定したときに、外部電力PINを用いてバッテリ10を加熱することによって、バッテリ10に蓄熱させる。
【0076】
このように、バッテリ10の充電完了後における走行予定に基づいて、蓄熱の要否を判定することにより、バッテリ10を暖房の熱源として利用するとしても、不必要にバッテリ10に蓄熱さることがない。その結果、バッテリ10を暖房の熱源として利用しつつも、バッテリ10の不必要な劣化が抑制される。
【0077】
上記実施形態に係る蓄熱制御方法では、走行予定に基づき、充電されたバッテリ10の電力で走行可能な距離である航続距離LCDの延長が必要であるか否かを判定し、航続距離LCDの延長が必要であるときに、蓄熱が必要であると判定する。
【0078】
このように、航続距離延長の要否を判定し、その結果に応じて蓄熱の要否を判定すれば、バッテリ10に不必要な蓄熱をさせることがない。その結果、バッテリ10を暖房の熱源として利用しつつも、バッテリ10の不必要な劣化が抑制される。
【0079】
上記実施形態に係る蓄熱制御方法では、走行予定は目的地の情報を含み、目的地までの距離が予め定める閾値(距離閾値LTH1)以上であるときに、航続距離LCDの延長が必要であると判定することができる。
【0080】
このように、目的地が遠いと評価できるときに、航続距離LCDの延長が必要であると判定すると、航続距離延長の必要性を的確に判定することができる。その結果、蓄熱の要否判定が正確に行われるので、バッテリ10を暖房の熱源として利用しつつも、バッテリ10の不必要な劣化が抑制される。
【0081】
上記実施形態に係る蓄熱制御方法では、航続距離LCDが予め定める閾値(距離閾値LTH2)以下であるときに、航続距離LCDの延長が必要であると判定することができる。
【0082】
このように、航続距離LCDが短いと評価できるときに、航続距離LCDの延長が必要であると判定すると、航続距離延長の必要性を的確に判定することができる。その結果、蓄熱の要否判定が正確に行われるので、バッテリ10を暖房の熱源として利用しつつも、バッテリ10の不必要な劣化が抑制される。
【0083】
上記実施形態に係る蓄熱制御方法では、走行予定は目的地の情報を含み、目的地までの距離と、航続距離LCDと、の差が予め定める閾値(距離閾値LTH3)以下であるときに、航続距離LCDの延長が必要であると判定することができる。
【0084】
このように、目的地までの距離と航続距離との差が小さく、電動車両の実際的な運転状況によってバッテリ10の電力が逼迫するおそれがあると評価できるときに、航続距離LCDの延長が必要であると判定すると、航続距離延長の必要性を的確に判定することができる。その結果、蓄熱の要否判定が正確に行われるので、バッテリ10を暖房の熱源として利用しつつも、バッテリ10の不必要な劣化が抑制される。
【0085】
上記実施形態に係る蓄熱制御方法では、バッテリ10の充電後に車室101を暖房する必要性(暖房の要否)を判定し、走行予定に基づいて蓄熱が必要と判定され、かつ、車室101を暖房する必要性があると判定されたときに、バッテリ10に蓄熱させる。
【0086】
このように、暖房の要否をも考慮して蓄熱の要否を判定すると、暖房が不要で、バッテリ10に蓄熱しても航続距離LCDが延びないシーンでは、航続距離LCDの延長が必要であるとしても、バッテリ10への蓄熱は行わない。これにより、バッテリ10の不必要な劣化が抑制される。
【0087】
上記実施形態に係る蓄熱制御方法では、現在地、目的地、経由地、または、通過地の外気温に基づいて、車室101を暖房する必要性を判定することができる。
【0088】
このように、現在地や目的地等の外気温に基づいて、暖房の要否を判定すると、暖房の要否が正確に判定されやすい。その結果、蓄熱の要否判定が正確に行われるので、バッテリ10を暖房の熱源として利用しつつも、バッテリ10の不必要な劣化が抑制される。
【0089】
上記実施形態に係る蓄熱制御方法では、バッテリ10の充電開始前に車室101が暖房されていたときに、または、バッテリ10の充電開始後に車室101の暖房が開始されたときに、車室101を暖房する必要があると判定することができる。
【0090】
このように、暖房の使用履歴に基づいて車室101を暖房する必要性を判定すると、暖房の要否が正確に判定されやすい。その結果、蓄熱の要否判定が正確に行われるので、バッテリ10を暖房の熱源として利用しつつも、バッテリ10の不必要な劣化が抑制される。
【0091】
上記実施形態に係る蓄熱制御方法では、バッテリ10の受入可能電力PAを演算し、外部電力PINが受入可能電力PAよりも大きいときに、外部電力PINと受入可能電力PAとの差分である余剰電力PSを用いて、バッテリ10を加熱することにより、バッテリ10に蓄熱させる。
【0092】
このように、外部電力PINに余剰電力PSがあるときに、余剰電力PSによってヒータ11に通電することによってバッテリ10を加熱すると、バッテリ10の充電量、または、バッテリ10の充電に要する時間を低減させずに、バッテリ10に蓄熱させることができる。
【0093】
上記実施形態に係る蓄熱制御方法では、バッテリ10の温度に応じてバッテリ10を冷却する冷却機構12がある場合、冷却機構12を停止させることにより、バッテリ10に蓄熱させる。
【0094】
このように、バッテリ10を冷却する冷却機構12があるときには、これを停止することによって、効率的にバッテリ10に蓄熱させることができる。
【0095】
上記実施形態に係る蓄熱制御装置は、バッテリ10の熱を用いて車室101を暖房する電動車両において、外部電源(外部充電器102)が供給する電力である外部電力PINによってバッテリ10を充電するときに、バッテリ10に蓄熱させる蓄熱制御装置(コントローラ15)である。この蓄熱制御装置は、バッテリ10の充電後における電動車両の走行予定を取得し、走行予定に基づいて蓄熱の要否を判定し、走行予定に基づいて蓄熱が必要であると判定したときに、外部電力PINを用いてバッテリ10を加熱することによって、バッテリ10に蓄熱させる。
【0096】
このように、バッテリ10の充電完了後における走行予定に基づいて、蓄熱の要否を判定することにより、バッテリ10を暖房の熱源として利用するとしても、不必要にバッテリ10に蓄熱さることがない。その結果、バッテリ10を暖房の熱源として利用しつつも、バッテリ10の不必要な劣化が抑制される。
【0097】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態及び各変形例で説明した構成は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0098】
10:バッテリ,11:ヒータ,12:冷却機構,13:充電制御素子,14:空調装置,15:コントローラ,21:冷媒流路,22:熱交換器,23:ポンプ,31:温度センサ,32:電圧センサ,33:温度センサ,34:外気温センサ,41:インフォテインメントシステム,42:カーナビゲーションシステム,43:スマートフォン,51:暖房要否判定部,52:航続距離延長判定部,53:余剰電力演算部,54:受入可能電力演算部,55:充電蓄熱制御部,56:空調制御部,100:空調システム,101:車室,102:外部充電器