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特開2024-76429黒色塗料組成物、塗装品及び低グロス塗膜の形成方法
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  • 特開-黒色塗料組成物、塗装品及び低グロス塗膜の形成方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076429
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】黒色塗料組成物、塗装品及び低グロス塗膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20240530BHJP
   C09D 7/41 20180101ALI20240530BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20240530BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/41
C09D7/20
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187919
(22)【出願日】2022-11-25
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000103976
【氏名又は名称】株式会社オリジン
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】池田 泰生
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DG001
4J038KA08
4J038MA07
4J038MA10
4J038NA01
4J038PA06
4J038PA19
4J038PB08
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】本開示は、エアスプレー塗工性を有し、低グロス性及び高い黒色度を備える低グロス塗膜が得られる黒色塗料組成物、塗装品及び低グロス塗膜の形成方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本実施形態に係る黒色塗料組成物は、黒色顔料と、分散媒と、樹脂と、を含有する黒色塗料組成物において、黒色顔料が、黒色有機顔料を含み、分散媒が、黒色有機顔料と湿潤しやすい良分散媒と、良分散媒よりも黒色有機顔料に対し湿潤しにくい貧分散媒と、を含み、良分散媒の沸点が、貧分散媒の沸点よりも低く、黒色有機顔料100質量部に対する良分散媒の含有量は50質量部以上であり、樹脂100質量部に対する黒色有機顔料の含有量は60質量部以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒色顔料と、
分散媒と、
樹脂と、を含有する黒色塗料組成物において、
前記黒色顔料が、黒色有機顔料を含み、
前記分散媒が、前記黒色有機顔料と湿潤しやすい良分散媒と、該良分散媒よりも前記黒色有機顔料に対し湿潤しにくい貧分散媒と、を含み、
前記良分散媒の沸点が、前記貧分散媒の沸点よりも低く、
前記黒色有機顔料100質量部に対する前記良分散媒の含有量は50質量部以上であり、
前記樹脂100質量部に対する前記黒色有機顔料の含有量は60質量部以上であることを特徴とする黒色塗料組成物。
【請求項2】
前記黒色顔料が、前記黒色有機顔料に加えて、黒色無機顔料を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の黒色塗料組成物。
【請求項3】
前記黒色塗料組成物は、艶消し剤を含有しないか又は前記樹脂100質量部に対する艶消し剤の含有量が0質量部を超え50質量部以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の黒色塗料組成物。
【請求項4】
基材と、該基材の表面上に設けられた低グロス塗膜と、を有する塗装品において、
前記低グロス塗膜は、請求項1又は2に記載の黒色塗料組成物の乾燥物であり、かつ、前記黒色有機顔料の凝集物を含む凸部を有することを特徴とする塗装品。
【請求項5】
前記凸部の平均直径は、1~40μmであることを特徴とする請求項4に記載の塗装品。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の黒色塗料組成物をエアスプレーによって基材の表面上に向けて噴射する塗装工程と、乾燥工程と、を有する低グロス塗膜の形成方法であって、
前記塗装工程は、前記黒色塗料組成物が前記エアスプレーから噴射された後前記基材の表面に到達する前に前記分散媒のうち前記良分散媒の全部又は一部が揮発して、前記黒色有機顔料が凝集した凝集物と、前記樹脂と、未揮発溶媒として少なくとも前記貧分散媒と、を含む混合物が形成される混合物形成工程と、前記混合物が前記基材の表面に到達して付着する付着工程と、を含み、
前記乾燥工程は、前記混合物に含まれる前記未揮発分散媒を揮発させる工程を含むことを特徴とする低グロス塗膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エアスプレー塗工性を有する黒色塗料組成物、塗装品及び低グロス塗膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カメラなどの光学装置では、ゴースト又はフレアなどの発生を防止するために、外部から侵入する日光などの光の反射防止性が要求されており、カメラなどの光学装置の内壁面などを黒色部材で被覆することがなされている。光の反射防止性を実現するために、黒色部材には、例えば、低グロス性(低光沢度、低反射性)及び高黒色度が求められる。黒色部材としては、例えば、布、フィルム、メッキ膜又は塗膜が採用されている。
【0003】
黒色部材として塗膜を形成するための塗料として、高屈折率を有するエポキシ樹脂と黒色粒子とが配合された光学素子用塗料が開示されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-252949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
黒色部材として布、フィルム又はメッキ膜を採用する場合、対象製品の形状が複雑であったり小型であったりすると、貼り付け又はメッキ処理が行えない問題があった。
【0006】
特許文献1の塗料では、低グロス性を高めるために艶消し剤が配合されている。艶消し剤は、例えば、シリカ若しくはタルクなどの体質顔料又は樹脂ビーズであり、塗膜の表面に凹凸を形成することによって反射率を低減して、低グロス性を高めている。しかし、艶消し剤を配合した塗料では、体質顔料又は樹脂ビーズ由来の白味が塗膜の外観に現れることによって、黒色度の向上及び反射率の低減が困難となり、光学機器で要求される反射防止性が得られない場合がある。また、作業効率に優れる点からエアスプレー塗工性が要求されることがある。しかし、特許文献1の塗料では、艶消し剤としてシリカを使用している為、エアスプレー塗工時に艶ムラが出る可能性がある。
【0007】
本開示は、エアスプレー塗工性を有し、低グロス性及び高い黒色度を備える低グロス塗膜が得られる黒色塗料組成物、塗装品及び低グロス塗膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る黒色塗料組成物は、黒色顔料と、分散媒と、樹脂と、を含有する黒色塗料組成物において、前記黒色顔料が、黒色有機顔料を含み、前記分散媒が、前記黒色有機顔料と湿潤しやすい良分散媒と、該良分散媒よりも前記黒色有機顔料に対し湿潤しにくい貧分散媒と、を含み、前記良分散媒の沸点が、前記貧分散媒の沸点よりも低く、前記黒色有機顔料100質量部に対する前記良分散媒の含有量は50質量部以上であり、前記樹脂100質量部に対する前記黒色有機顔料の含有量は60質量部以上であることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る黒色塗料組成物では、前記黒色顔料が、前記黒色有機顔料に加えて、黒色無機顔料を更に含むことが好ましい。赤外域での反射防止性をより高めることができる。
【0010】
本発明に係る黒色塗料組成物は、艶消し剤を含有しないか又は前記樹脂100質量部に対する艶消し剤の含有量が0質量部を超え50質量部以下である形態を包含する。
【0011】
本発明に係る塗装品は、基材と、該基材の表面上に設けられた低グロス塗膜と、を有する塗装品において、前記低グロス塗膜は、本発明に係る黒色塗料組成物の乾燥物であり、かつ、前記黒色有機顔料の凝集物を含む凸部を有することを特徴とする。
【0012】
本発明に係る塗装品では、前記凸部の平均直径は、1~40μmであることが好ましい。塗膜をより低グロス性とすることができる。
【0013】
本発明に係る低グロス塗膜の形成方法は、本発明に係る黒色塗料組成物をエアスプレーによって基材の表面上に向けて噴射する塗装工程と、乾燥工程と、を有する低グロス塗膜の形成方法であって、前記塗装工程は、前記黒色塗料組成物が前記エアスプレーから噴射された後前記基材の表面に到達する前に前記分散媒のうち前記良分散媒の全部又は一部が揮発して、前記黒色有機顔料が凝集した凝集物と、前記樹脂と、未揮発分散媒として少なくとも前記貧分散媒と、を含む混合物が形成される混合物形成工程と、前記混合物が前記基材の表面に到達して付着する付着工程と、を含み、前記乾燥工程は、前記混合物に含まれる前記未揮発分散媒を揮発させる工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、エアスプレー塗工性を有し、低グロス性及び高い黒色度を備える低グロス塗膜が得られる黒色塗料組成物、塗装品及び低グロス塗膜の形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1の塗料組成物を用いた塗装品の塗膜の表面状態を示すSEM画像(倍率150倍)である。
図2】比較例2の塗料組成物を用いた塗装品の塗膜の表面状態を示すSEM画像(倍率150倍)である。
図3】2週間静置後の試料1の画像である。
図4】2週間静置後の試料2の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付の図面を参照して本発明の一態様を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。本発明の効果を奏する限り、種々の形態変更をしてもよい。
【0017】
本実施形態に係る黒色塗料組成物は、黒色顔料と、分散媒と、樹脂と、を含有する黒色塗料組成物において、黒色顔料が、黒色有機顔料を含み、分散媒が、黒色有機顔料と湿潤しやすい良分散媒と、良分散媒よりも黒色有機顔料に対し湿潤しにくい貧分散媒と、を含み、良分散媒の沸点が、貧分散媒の沸点よりも低く、黒色有機顔料100質量部に対する良分散媒の含有量は50質量部以上であり、樹脂100質量部に対する黒色有機顔料の含有量は60質量部以上である。本実施形態に係る黒色塗料組成物は、黒色有機顔料に対し湿潤のしやすさが異なる2種以上の分散媒(良分散媒及び貧分散媒)を配合することで、塗工前の液状態では黒色有機顔料が良分散媒と湿潤し、良分散媒及び貧分散媒を含む分散媒中に一次粒子又は二次粒子の状態で分散して安定化している。塗工前の黒色塗料組成物中において、黒色有機顔料は一次粒子の状態で分散しているか、二次粒子の状態の状態で分散しているか、又は一次粒子と二次粒子との混在状態で分散していてもよい。黒色有機顔料が二次粒子の状態であっても、塗工前の黒色塗料組成物では、良分散媒との湿潤によって黒色有機顔料はスプレーガンの口径よりも十分に小さな凝集体となっているので、目詰まりすることなくエアスプレー塗装で塗装することができる。
【0018】
本明細書において、「良分散媒」、「貧分散媒」、「湿潤」は、塗料及び顔料の技術分野において使用されている専門用語である。顔料の分散工程は、(i)湿潤工程、(ii)解砕工程、(iii)分散安定化工程の3工程を有する。(i)湿潤工程は、顔料粒子の表面と分散媒との湿潤によって、顔料粒子の凝集力を低下させる工程である。ここで、塗料及び顔料の技術分野において、「湿潤」とは、顔料と分散媒とを混合したとき、顔料と空気との界面が顔料と分散媒との界面に置き換わることをいう。湿潤は、分散媒が顔料粒子の表面に付着して顔料粒子間の空隙に入り込み、顔料粒子は分散媒によって覆われた状態となる現象ともいえ、顔料粒子が分散媒によって覆われることで、顔料粒子の凝集力が低下して粗大粒子から細かい粒子の状態となる。分散媒が顔料粒子の表面に付着して顔料粒子間の空隙に入り込む現象は、顔料が分散媒に馴染むと表現されることもある。(ii)解砕工程は、湿潤工程で凝集力が低下した顔料粒子の凝集体に分散機などのせん断力又は衝撃力などの機械力を加えて、より小さな凝集体に解凝集する工程である。(iii)分散安定化工程は、解砕工程で開催された粒子の再凝集を防止する工程である。塗料及び顔料の技術分野において、ある顔料の粒子表面に対して湿潤しやすく、湿潤工程においてその顔料粒子の凝集力を低下させることができ、解砕工程において顔料粒子を細かい状態にして再凝集しにくい状態とすることができる分散媒を、その顔料に対する「良分散媒」という。逆に、ある顔料の粒子表面に対して湿潤しにくく、湿潤工程においてその顔料粒子の凝集力を低下させることができず、解砕工程において顔料粒子を細かい状態にすることができない、あるいは解砕工程において顔料粒子を細かい状態にしたとしても再凝集を起こしやすい分散媒を、その顔料に対する「貧分散媒」という。
【0019】
樹脂は、塗膜の強度を担う成分であり、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、エステル樹脂、フッ素樹脂、メラミン樹脂である。このうち、樹脂が、ウレタン樹脂であることが好ましい。黒色塗料組成物の総固形分量に占める樹脂の占める割合は、10~50質量%であることが好ましく、10~35質量%であることがより好ましい。樹脂の配合率が10質量%未満では、塗膜の強度が不足する場合がある。樹脂の配合率が50質量%を超えると、乾燥後の塗膜の光沢が上がる場合がある。
【0020】
黒色顔料は、少なくとも黒色有機顔料を含む。黒色有機顔料は、例えば、アニリンブラック、ペリレンブラック、シアニンブラック又はラクタムブラックである。黒色有機顔料は一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。このうち、黒色有機顔料は、アニリンブラック又はペリレンブラックであることが好ましく、アニリンブラックであることがより好ましい。樹脂100質量部に対する黒色有機顔料の含有量は60質量部以上であり、80質量部以上であることがより好ましい。樹脂100質量部に対する黒色有機顔料の含有量が60質量部未満では、得られる塗膜の凹凸が小さくなったり凹凸が発現されなかったりして、光沢度及び反射率が所望の範囲より高くなる。また、所望の黒色度を有する塗膜が得ることができない。樹脂100質量部に対する黒色有機顔料の含有量の上限値は、特に限定されないが、300質量部以下であることが好ましく、200質量部以下であることがより好ましい。樹脂100質量部に対する黒色有機顔料の含有量が300質量部を超えると、塗膜の強度が不足する場合がある。
【0021】
本実施形態に係る黒色塗料組成物では、黒色顔料が、黒色有機顔料に加えて、黒色無機顔料を更に含むことが好ましい。黒色有機顔料及び黒色無機顔料を併用することで、赤外領域、具体的には780nmを超える波長領域での反射防止性をより高めることができる。黒色無機顔料は、例えば、カーボンブラック、チタンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、ニッケル、炭化シリコン、窒化シリコン、酸化鉄である。黒色無機顔料は一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。このうち、黒色無機顔料は、凝集しにくいことから、カーボンブラックまたはチタンブラックであることが好ましく、カーボンブラックであることがより好ましい。樹脂100質量部に対する黒色無機顔料の含有量は、0~50質量部であることが好ましく、0~20質量部であることがより好ましい。樹脂100質量部に対する黒色無機顔料の含有量が50質量部を超えると、塗料の安定性が悪くなる場合がある。
【0022】
良分散媒は、黒色有機顔料と湿潤しやすい分散媒であり、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール、メタノール、ノルマルプロパノールである。良分散媒は一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。このうち、良分散媒は、安全性の観点から、エタノール又はエタノールを主成分とする混合分散媒であることがより好ましい。ここで、主成分とは、混合分散媒に対するエタノールの含有量が50質量%以上であることをいう。混合分散媒に対するエタノールの含有量が80質量%以上であることがより好ましい。エタノールを主成分とする混合分散媒としては、エタノールにメタノール及び/又はイソプロピルアルコールなどを添加した工業用エタノールを用いてもよい。良分散媒の沸点は、安全性の観点から、50~100℃であることが好ましく、60~90℃であることがより好ましい。黒色有機顔料100質量部に対する良分散媒の含有量は、50質量部以上であり、60質量部以上であることがより好ましい。黒色有機顔料100質量部に対する良分散媒の含有量が50質量部未満では、塗料の安定性が悪い場合がある。また、塗膜の凹凸が小さくなるので、光沢度及び反射率が所望の範囲より高くなる場合がある。さらには、所望の黒色度を有する塗膜が得ることができない場合がある。黒色有機顔料100質量部に対する良分散媒の含有量の上限値は、特に限定されないが、150質量部以下であることが好ましく、100質量部以下であることがより好ましい。黒色有機顔料100質量部に対する良分散媒の含有量が150質量部を超えると、乾燥が早すぎて作業が困難となる場合がある。
【0023】
貧分散媒は、良分散媒よりも黒色有機顔料に対し湿潤しにくく、かつ、良分散媒よりも沸点が高い分散媒である。貧分散媒は、例えば、水、ノルマルオクタノール、イソオクタノール、ブチロセロソルブ、テキサノール、プロピレングリコールモノブチルエーテルである。貧分散媒は一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。このうち、貧分散媒は、安全性の観点から、少なくとも水を含有することがより好ましい。樹脂が水などの貧分散媒となりうる分散媒に分散した分散液の形態である場合、貧分散媒の含有量には当該樹脂の分散液に含まれる分散媒の含有量も含まれる。貧分散媒の沸点は、作業効率性の観点から、95~300℃であることが好ましく、100~200℃であることがより好ましく、100~120℃であることが更に好ましい。本実施形態では、良分散媒がエタノールを主成分として含み、かつ、貧分散媒が水を含有することが好ましい。黒色有機顔料100質量部に対する貧分散媒の含有量は、200~1200質量部であることが好ましく、300~1000質量部であることがより好ましい。黒色有機顔料100質量部に対する貧分散媒の含有量が200質量部未満では、光沢度及び反射率が所望の範囲より高くなる場合がある。黒色有機顔料100質量部に対する貧分散媒の含有量が1200質量部を超えると、作業効率が劣る場合がある。また、黒色有機顔料100質量部に対する貧分散媒の含有量は、600~800質量部の範囲であることが特に好ましい。このような範囲とすることで可視光領域での反射率をより低減させることができる。
【0024】
本実施形態に係る黒色塗料組成物は、貧分散媒が補助剤を兼ねていてもよい。補助剤となる貧分散媒は、例えば、造膜助剤として機能するブチルセロソルブ若しくはプロピレングリコールモノブチルエーテル、又は塗膜強度向上剤として機能するテキサノールである。これらは必要に応じて併用してもよい。
【0025】
良分散媒及び貧分散媒を選定するにあたり、「湿潤しやすい」、「湿潤しにくい」といった湿潤しやすさの程度は、例えば、顔料と分散媒とを混合したとき、顔料の粒子同士の再凝集しやすさで判断することができ、その確認方法は特に限定されないが、例えば、次のような方法で確認することができる。分散媒としうる任意の液体に顔料を加え、粉砕媒体を用いて顔料を分散処理する。分散処理後、分散液をガラス瓶などの密閉容器に詰めて静置し、顔料の沈降の有無を確認する。所定時間静置後、顔料の沈降が見られず分離しない液体は、当該顔料に対して湿潤しやすい分散媒であり、良分散媒として選定することができ、顔料の沈降が見られ分離する液体は、当該顔料に対して湿潤しにくい分散媒であり、貧分散媒として選定することができる。この確認方法において、粉砕媒体は、特に限定されないが、例えば、ジルコニアビーズ、ガラスビーズである。粉砕媒体の直径は、特に限定されないが、例えば、1~10mmである。分散の処理時間は、特に限定されないが、例えば、60~120分である。また、静置時間は、特に限定されないが、例えば、30~60日である。
【0026】
本実施形態に係る黒色塗料組成物は、艶消し剤を含有しないか又は樹脂100質量部に対する艶消し剤の含有量が0質量部を超え50質量部以下である形態を包含する。艶消し剤は、例えば、体質顔料又はビーズである。体質顔料は、フィラーとも呼ばれる白色又は無色の顔料であり、例えば、シリカ、タルク、ドロマイトであり、粒径は特に限定されないが、例えば5~200μmである。ビーズは、例えば、シリコーン樹脂、ポリエチレン樹脂、ナイロン樹脂などの樹脂の粒子であり、粒径は特に限定されないが、例えば5~100μmである。樹脂100質量部に対する艶消し剤の含有量が50質量部を超えると、エアスプレーの目詰まりが生じて塗装作業性が著しく低下する場合がある。また、塗膜の割れなどの外観不具合が生じる場合がある。艶消し剤を配合する場合、樹脂100質量部に対する艶消し剤の含有量は、1~10質量部であることがより好ましい。従来の黒色塗料組成物では艶消し剤を配合することで塗膜の表面に凹凸を形成して低グロス塗膜を得ていたが、本実施形態に係る黒色塗料組成物は黒色有機顔料に対し湿潤のしやすさが異なる2種類以上の分散媒を配合し、2種以上の分散媒の蒸発速度の違いを利用して塗膜の表面に凹凸を発現させて低グロス塗膜を得ることができる。したがって、本実施形態に係る黒色塗料組成物は艶消し剤を配合しなくても、艶の少ない低グロス塗膜を得ることができる。
【0027】
本実施形態に係る黒色塗料組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において必要に応じて各種助剤が配合されていてもよい。助剤は、例えば、分散剤、増粘剤、消泡剤、表面調整剤である。本実施形態に係る黒色塗料組成物は、黒色有機顔料の分散安定性をより安定的に確保できる点で、助剤として少なくとも分散剤を含むことが好ましい。
【0028】
本実施形態に係る塗装品は、基材と、該基材の表面上に設けられた低グロス塗膜と、を有する塗装品において、低グロス塗膜は、本実施形態に係る黒色塗料組成物の乾燥物であり、かつ、黒色有機顔料の凝集物を含む凸部を有する。
【0029】
基材の材質は、特に限定されないが、例えば、ABS樹脂(アクリロニトリル、ブタジエン、スチレン共重合合成樹脂)、AS(アクリロニトリル・スチレン)樹脂、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)樹脂などのアクリル樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂などのポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、PP(ポリプロピレン)樹脂、及びこれらの混合樹脂。である。基材の形状は、例えば、フィルム状、板状又は立体状である。基材が立体状であるとき、低グロス塗膜が形成される基材の表面は、例えば、カメラレンズの鏡筒の内壁面、レンズの端面、HUD(ヘッドアップディスプレイ)のハウジングの内壁面である。
【0030】
低グロス塗膜は、低グロス性を備える塗膜であり、本実施形態に係る黒色塗料組成物の乾燥物である。本明細書において、低グロス性とは、光沢度が低く、かつ、可視光領域、具体的には波長が300~780nmの領域での反射率が低い性質をいう。例えば低グロス塗膜をカメラなどの光学装置の内壁面の塗膜として用いる場合を例にとって、低グロス塗膜の好ましい性質を説明する。20°光沢度、60°光沢度及び85°光沢度が、いずれも2.0以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましく、0.3以下であることが特に好ましい。可視光領域での反射率は、300~780nmの範囲において0.5nmの間隔で各波長の反射率を測定し平均した値であり、0.7~3.0%であることが好ましく、0.9~1.5%であることがより好ましい。ここで、20°光沢度、60°光沢度及び85°光沢度の測定方法は、例えば、micro‐gloss(BYK社製)での測定が挙げられる。可視光領域での反射率の測定方法は、例えば、分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ製 U‐4100)での測定があげられる。
【0031】
本実施形態に係る低グロス塗膜は、低グロス性に加えて、高い黒色度を備えることが好ましい。黒色度(My値)は170~225であることが好ましく、175~210であることがより好ましい。黒色度(My値)の測定方法は、例えば、分光測色計(CM‐700D、コニカミノルタ社製)にて測定が可能である。黒色度(My値)は、分光測色計(CM‐700D、コニカミノルタ社製)にてY値を測定し、次の数1にて算出した。
(数1) My=100×log(100/Y)
【0032】
低グロス塗膜は、黒色有機顔料の凝集物を含む凸部を有する。低グロス塗膜は、複数個の凸部と隣り合う凸部同士の間に凹部とを有する凹凸構造を有することが好ましい。凸部は、黒色有機顔料の凝集物を含む塗膜成分が膜厚方向に相対的に多く堆積した部分である。凸部に堆積する塗膜成分は、黒色有機顔料の凝集物に加えて、その他の塗膜成分を含んでいてもよい。その他の塗膜成分は、例えば、樹脂、又は必要に応じて配合される黒色無機顔料、艶消し剤若しくは各種助剤である。凹部は、隣接する凸部よりも塗膜成分が膜厚方向に相対的に少なく堆積した部分である。凹部に堆積する塗膜成分は、樹脂、又は必要に応じて配合される黒色無機顔料、艶消し剤若しくは各種助剤を含み、黒色有機顔料の凝集物を含んでいてもよいし、黒色有機顔料の凝集物を含んでいなくてもよい。凸部によって塗膜の表面に凹凸が発現し、前記のような光沢度、可視光領域での反射率及び黒色度を実現することができる。低グロス塗膜の算術平均粗さは、4~80μmであることが好ましく、4~40μmであることがより好ましい。算術平均粗さは、JIS B 0601:2001に準拠した方法でレーザー顕微鏡などを用いて測定される値である。
【0033】
凸部の平均直径は、1~40μmであることが好ましく、5~30μmであることがより好ましい。凸部の平均直径が1μm未満では、凸部の強度が不足して凸部が崩れ、所望する光沢度、可視光領域での反射率及び黒色度を実現できない場合がある。凸部の平均直径が100μmを超えると、光沢が上がる場合がある。凸部の平均直径は、塗膜の表面を例えば、透過電子顕微鏡(TEM、Transmission Electron Microscope)又は走査電子顕微鏡(SEM、Scanning Electron Microscope)などの電子顕微鏡で観察した画像を用い、該画像において1000μm×1000μmの範囲に存在する全ての凸部の直径を計測し、平均を求めた値である。
【0034】
凸部の平均高さは、10~200μmであることが好ましく、15~150μmであることがより好ましく、15~100μmであることが更に好ましい。凸部の平均高さは、凸部の頂点と当該凸部に隣接する凹部の最も低い部分との高低差である。凸部の平均高さは、塗膜を例えば、原子間力顕微鏡(AFM、Atomic Force Microscopy)を用い、付属の解析ソフトによって1000μm×1000μmの範囲における凸部の平均高さを求めた値である。
【0035】
本実施形態に係る低グロス塗膜の形成方法は、本実施形態に係る黒色塗料組成物をエアスプレーによって基材の表面上に向けて噴射する塗装工程と、乾燥工程と、を有する低グロス塗膜の形成方法であって、塗装工程は、黒色塗料組成物がエアスプレーから噴射された後基材の表面に到達する前に分散媒のうち良分散媒の全部又は一部が揮発して、黒色有機顔料が凝集した凝集物と、樹脂と、未揮発分散媒として少なくとも貧分散媒と、を含む混合物が形成される混合物形成工程と、混合物が基材の表面に到達して付着する付着工程と、を含み、乾燥工程は、混合物に含まれる未揮発分散媒を揮発させる工程を含む。
【0036】
塗装工程において、黒色塗料組成物の固形分濃度は、特に限定されないが、エアスプレー塗工効率を考慮して、20~40質量%に調製することが好ましく、25~35質量%に調製することがより好ましい。
【0037】
塗装工程は、エアスプレー塗工を採用することが好ましい。エアスプレー塗工は、塗装対象の基材の形状が複雑又は小型の形状であっても加工が容易である。従来の塗料組成物では、低グロス塗膜を得るために艶消し剤を配合していたため、エアスプレー装置の目詰まりを起こす問題や艶消し材剤の白色が影響し漆黒性の高い塗膜が得られにくかったところ、本実施形態に係る塗料組成物では艶消し剤を配合しないか又は艶消し剤の配合量がごく少量であっても低グロス塗膜を得ることができるため、エアスプレー塗工に適しているだけでなく艶消し剤を使用しない分、漆黒性の高い塗膜も得ることができる。
【0038】
塗装工程は、混合物形成工程を含む。次に混合物形成工程のメカニズムを説明する。本実施形態に係る低グロス塗膜の形成方法は、良分散媒と貧分散媒との蒸発速度の違いを利用するために、エアスプレー塗工を採用した。良分散媒の沸点は貧分散媒の沸点よりも低いので、蒸発速度は貧分散媒よりも良分散媒の方が速い。エアスプレー塗工では、エアスプレーから噴射された塗料組成物が空気中を移動して基材の表面上に到達する。本発明者らは、この塗料組成物が空気中を移動する時間に分散媒の蒸発速度の違いを利用して黒色有機顔料の凝集物を形成することで、塗膜の表面に凹凸を発現させて低グロス塗膜を得ることができることを見出した。より具体的には、混合物形成工程では、塗料組成物がエアスプレーから噴射されて基材の表面に到達する前に良分散媒の全部又は一部が揮発して組成物内を貧分散媒が過多な状態とし、良分散媒に湿潤して細かい粒子の状態で分散していた黒色有機顔料を強制的に再凝集させる。その結果、黒色有機顔料が再凝集した凝集物と、樹脂と、未揮発分散媒として少なくとも貧分散媒と、を含む混合物が形成される。本実施形態では、未揮発分散媒が貧分散媒だけを含み良分散媒を含まない形態、及び未揮発分散媒が貧分散媒に加えて良分散媒を更に含む形態を包含する。また、未揮発分散媒は、良分散媒及び貧分散媒以外の補助剤となるその他の分散媒を含みうる。
【0039】
塗装工程は、混合物形成工程の後に、付着工程を含む。付着工程では、混合物が基材の表面に到達して付着する。付着工程では、混合物が基材の表面上に堆積した未乾燥膜が形成される。未乾燥膜の表面は、黒色有機顔料が凝集した凝集物に由来する凸部によって凹凸構造となっている。
【0040】
乾燥工程は、混合物に含まれる未揮発分散媒を揮発させる工程を含む。乾燥工程では、未乾燥膜の凹凸構造を維持したまま未揮発分散媒が除去されて、凹凸構造を有する乾燥塗膜が形成される。この乾燥塗膜は、低グロス塗膜である。乾燥方式は、強制乾燥であるか、又は自然乾燥であってもよい。このうち、塗膜強度がより高くなる点で、強制乾燥であることがより好ましい。強制乾燥の乾燥条件は、特に限定されないが、例えば60~90℃で20~60分である。乾燥後の低グロス塗膜の膜厚は、特に限定されないが、15~45μmであることが好ましく、20~40μmであることがより好ましい。
【実施例0041】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例に何ら限定されるものではない。また、例中の「部」、「%」は、特に断らない限りそれぞれ「質量部」、「質量%」を示す。なお、添加部数は、固形分換算の値である。
【0042】
(実施例1)
樹脂としてウレタンディスパージョン樹脂(タケラックW‐6110、三井化学社製、固形分濃度30質量%)を固形分で10.95質量部と、良分散媒として工業用エタノール(ミックスエタノールNP、純度85.5%、山一化学工業社製)を6.60質量部と、貧分散媒として純水を53.40質量部と、貧分散媒、かつ、補助剤としてブチルセルソルブを6.60質量部及びテキサノールを0.30質量部と、分散剤(DISPERBYK‐184、BYK社製)を6.00質量部と、黒色有機顔料としてアニリンブラック(NCC1031、野間化学工業社製)を固形分で11.70質量部と、増粘剤(チクゾールK‐502、共栄化学社製)を6.00質量部と、消泡剤(SNデフォーマー1315、サンノプコ社製)を0.10質量部と、を配合し、ディスパー(中央理化社製)で攪拌混合して黒色塗料組成物を得た。黒色有機顔料100質量部に対する良分散媒の含有量は56.4質量部であった。また、樹脂100質量部に対する黒色有機顔料の含有量は107質量部であった。なお、艶消し剤は配合していない。
【0043】
(実施例2)
実施例1において、ウレタンディスパージョン樹脂(タケラックW‐6110、三井化学社製、固形分濃度30質量%)の配合量を固形分で9.00質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして黒色塗料組成物を得た。黒色有機顔料100質量部に対する良分散媒の含有量は56.4質量部であった。また、樹脂100質量部に対する黒色有機顔料の含有量は130質量部であった。
【0044】
(実施例3)
実施例1において、ウレタンディスパージョン樹脂(タケラックW‐6110、三井化学社製、固形分濃度30質量%)の配合量を固形分で6.00質量部に変更し、貧分散媒である純水の配合量を59.40質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして黒色塗料組成物を得た。黒色有機顔料100質量部に対する良分散媒の含有量は56.4質量部であった。また、樹脂100質量部に対する黒色有機顔料の含有量は195質量部であった。
【0045】
(実施例4)
実施例1において、ウレタンディスパージョン樹脂(タケラックW‐6110、三井化学社製、固形分濃度30質量%)の配合量を固形分で13.95質量部に変更し、貧分散媒である純水の配合量を48.40質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして黒色塗料組成物を得た。黒色有機顔料100質量部に対する良分散媒の含有量は56.4質量部であった。また、樹脂100質量部に対する黒色有機顔料の含有量は83.9質量部であった。
【0046】
(実施例5)
実施例1において、ウレタンディスパージョン樹脂(タケラックW‐6110、三井化学社製、固形分濃度30質量%)の配合量を固形分で18.45質量部に変更し、貧分散媒である純水の配合量を44.20質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして黒色塗料組成物を得た。黒色有機顔料100質量部に対する良分散媒の含有量は56.4質量部であった。また、樹脂100質量部に対する黒色有機顔料の含有量は63.4質量部であった。
【0047】
(実施例6)
実施例1において、アニリンブラック(NCC1031、野間化学工業社製)の配合量を11.70質量部から9.70質量部に変更し、黒色無機顔料であるカーボンブラック(SPECIAL BLACK5、オリオンエンジニアドカーボンズ社製)2.00質量部を更に配合した以外は、実施例1と同様にして黒色塗料組成物を得た。黒色有機顔料100質量部に対する良分散媒の含有量は68質量部であった。また、樹脂100質量部に対する黒色有機顔料の含有量は88.6質量部であった。
【0048】
(実施例7)
実施例1において、アニリンブラック(NCC1031、野間化学工業社製)の配合量を11.70質量部から9.70質量部に変更し、黒色無機顔料であるチタンブラック(TilackD TS‐M、赤穗化成社製)2質量部を更に配合した以外は、実施例1と同様にして黒色塗料組成物を得た。黒色有機顔料100質量部に対する良分散媒の含有量は68質量部であった。また、樹脂100質量部に対する黒色有機顔料の含有量は88.6質量部であった。
【0049】
(実施例8)
実施例1において、アニリンブラック(NCC1031、野間化学工業社製)の配合量を11.70質量部から9.70質量部に変更し、黒色有機顔料であるペリレンブラック(Spectrasense Black K0088、BASF社製)2.00質量部を更に配合した以外は、実施例1と同様にして黒色塗料組成物を得た。黒色有機顔料100質量部に対する良分散媒の含有量は56.4質量部であった。また、樹脂100質量部に対する黒色有機顔料の含有量は107質量部であった。
【0050】
(実施例9)
実施例1において、良分散媒である工業用エタノール(ミックスエタノールNP、純度85.5%、山一化学工業社製)の配合量を6.60質量部から6質量部に変更し、黒色有機顔料であるアニリンブラック(NCC1031、野間化学工業社製)を11.70質量部から12質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして黒色塗料組成物を得た。黒色有機顔料100質量部に対する良分散媒の含有量は50質量部であった。また、樹脂100質量部に対する黒色有機顔料の含有量は109.6質量部であった。
【0051】
(比較例1)
実施例1において、黒色有機顔料としてアニリンブラック(NCC1031、野間化学工業社製)を配合せず、代わりに黒色無機顔料であるカーボンブラック(SPECIAL BLACK5、オリオンエンジニアドカーボンズ社製)を11.7質量部配合した以外は、実施例1と同様にして黒色塗料組成物を得た。
【0052】
(比較例2)
実施例1において、樹脂であるウレタンディスパージョン樹脂(タケラックW‐6110、三井化学社製、固形分濃度30質量%)の配合量を固形分で10.95質量部から18質量部に変更し、黒色有機顔料であるアニリンブラック(NCC1031、野間化学工業社製)を11.70質量部から9質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして黒色塗料組成物を得た。黒色有機顔料100質量部に対する良分散媒の含有量は68質量部であった。また、樹脂100質量部に対する黒色有機顔料の含有量は53.9質量部であった。
【0053】
(比較例3)
実施例1において、良分散媒であるエタノール(ミックスエタノールNP、純度85.5%、山一化学工業社製)の配合量を6.60質量部から5質量部に変更し、黒色有機顔料であるアニリンブラック(NCC1031、野間化学工業社製)を11.70質量部から12質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして黒色塗料組成物を得た。黒色有機顔料100質量部に対する良分散媒の含有量は41.7質量部であった。また、樹脂100質量部に対する黒色有機顔料の含有量は109.6質量部であった。
【0054】
(比較例4)
実施例1において、貧分散媒である純水を配合せず、良分散媒である工業用エタノール(ミックスエタノールNP、純度85.5%、山一化学工業社製)の配合量を6.60質量部から2質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして黒色塗料組成物を得た。
【0055】
実施例1~9の黒色塗料組成物及び比較例1~4の黒色塗料組成物の主成分(樹脂、黒色顔料、良分散媒及び貧分散媒)の組成を表1に示した。
【0056】
【表1】
【0057】
実施例1~9の黒色塗料組成物を、基材(ABS板、厚さ2mm)の表面上にエアスプレー装置(WIDER1シリーズ、アネスト岩田社製)で塗工し、70℃で30分間強制乾燥することによって、塗膜を形成した。また、比較例1~4黒色塗料組成物についても、実施例の黒色塗料組成物と同様の方法で塗膜を形成した。ただし、比較例1の黒色塗料組成物は、カーボンブラックによる目詰まりが生じて塗工することができなかった。得られた実施例1~9の黒色塗料組成物の硬化物である塗膜(以降、実施例1~9の塗膜ということもある。)及び比較例2~4の黒色塗料組成物の硬化物である塗膜(以降、比較例2~4の塗膜ということもある。)について、次の評価を行った。評価結果を表2に示した。
【0058】
(光沢度)
20°、60°、85°光沢度は次のように測定した。micro‐gloss(BYK社製)にて20°、60°、85°の角度にて3回測定し、平均値を算出した。評価基準は、20°、60°、85°光沢度がいずれも2.0以下である場合を実用レベル、20°、60°、85°光沢度のいずれかが2.0を超える場合を実用不適レベルとした。
【0059】
(可視光領域での反射率)
可視光領域での反射率は次のように測定した。分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ製U‐4100)にて可視光領域を測定した。400~780nmの範囲について0.5nm毎に反射率を測定し、平均値を算出した。評価基準は、反射率が平均で3.0%以下である場合を実用レベルとし、反射率が平均で3.0%を超える場合を実用不適レベルとした。
【0060】
(黒色度)
黒色度は次のように測定した。黒色度(My値)は、分光測色計(CM‐700D、コニカミノルタ社製)にてY値を測定し、次の数1にて算出した。判定基準は、My値が170以上を実用レベルとし、My値が170未満を実用不適レベルとした。
(数1) My=100×log(100/Y)
【0061】
【表2】
【0062】
表2に示すように、実施例1~9の塗膜は、いずれも20°、60°、85°光沢度が2.0以下であり、かつ、可視光領域での反射率が平均で0.7~3.0%であり、かつ、黒色度が176以上であり、低グロス性及び高い黒色度を備えていた。樹脂100質量部に対する黒色有機顔料の含有量が多いほど、可視光領域での反射率及び85°光沢度が低くなる傾向がみられた。一方、比較例2の塗膜は、樹脂100質量部に対する黒色有機顔料の含有量が60質量部未満であったので、塗膜の凹凸が小さくなって、光沢度及び反射率が実施例の塗膜よりも高くなっていた。また、黒色度が実施例の塗膜よりも低くなっていた。比較例3の塗膜は、黒色有機顔料100質量部に対する良分散媒の含有量が50質量部未満であったので、光沢度及び反射率が実施例の塗膜よりも高くなっていた。また、黒色度が実施例の塗膜よりも低くなっていた。比較例4の塗膜は、黒色有機顔料100質量部に対する良分散媒の含有量が50質量部未満であったので、光沢度及び反射率が実施例の塗膜よりも高くなっていた。また、黒色度が実施例の塗膜よりも低くなっていた。
【0063】
(塗膜の表面状態)
実施例及び比較例の塗膜の表面状態を、SEMで観察した。図1は、実施例1の低グロス塗膜の表面状態を示すSEM画像であり、図2は、比較例2の塗膜の表面状態を示すSEM画像である。図1及び図2において、倍率は150倍、右下のスケールは20μmである。図1及び図2において、黒く見える部分が凹部であり、凹部よりも明度が高い部分(相対的に白やグレーに見える部分)が凸部である。図1に示す塗膜は、複数個の凸部と隣り合う凸部同士の間に凹部とを有する凹凸構造を有していた。また、凸部の平均直径が18μmであり、1~40μmの範囲内であることを確認した。他の実施例についても凸部の平均直径が1~40μmの範囲内にあることを確認した。図2に示す塗膜は、凹凸がほとんど見られなかった。
【0064】
(凸部の高さ)
実施例1の低グロス塗膜について、凸部の高さを次のように測定した。測定は、株式会社キーエンスのデジタルマイクロスコープVHX‐6000にて測定した。その結果、凸部の高さは80~134μmであった。
【0065】
(算術平均粗さ)
実施例1の低グロス塗膜、比較例2の塗膜について、塗膜の表面の算術平均粗さを測定した。測定は、デジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス社製、型式VHX‐6000)を用いて測定した。その結果、実施例の低グロス塗膜の表面の算術平均粗さは、22.50~39.80μmであるのに対して、比較例の塗膜の表面の算術平均粗さは、1.40~1.60μmであり、実施例の低グロス塗膜の表面は、比較例の塗膜の表面よりも算術平均粗さの値が大きいことが確認できた。
【0066】
(分散媒の選定)
参考までに、良分散媒及び貧分散媒の選定方法の一例について説明する。純水80質量部にアニリンブラック20質量部を加え、ビーズミル(東レ株式会社製、型式トレセラムビーズφ5mm)を用い、5mmのジルコニアビーズで1時間分散した分散液を試料1とした。工業用エタノール(ミックスエタノールNP、純度85.5%、山一化学工業社製)80質量部にアニリンブラック20質量部を加え、ビーズミル(東レ株式会社製、型式トレセラムビーズφ5mm)を用い、5mmのジルコニアビーズで1時間分散した分散液を試料2とした。試料1、試料2を、それぞれ容積100mlのガラス瓶に詰めて密栓をして2週間静置した。2週間静置後、アニリンブラックの沈降の有無を確認した。図3は2週間静置後の試料1の画像、図4は2週間静置後の試料2の画像である。図3に示すように、試料1はアニリンブラックが沈降することによって、下層にアニリンブラックの濃度が相対的に濃い部分と上層にアニリンブラックの濃度が相対的に薄い部分とが形成されて2層に分かれていた。このため、純水は貧分散媒として選定した。また、図4に示すように、試料2はアニリンブラックが沈降せず、2層に分かれていない均一な分散状態を保持していた。このため、工業用エタノールは良分散媒として選定した。
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2023-06-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒色顔料と、
分散媒と、
樹脂と、を含有する黒色塗料組成物において、
前記黒色顔料が、黒色有機顔料を含み、
前記分散媒が、前記黒色有機顔料と湿潤しやすい良分散媒と、該良分散媒よりも前記黒色有機顔料に対し湿潤しにくい貧分散媒と、を含み、
前記良分散媒の沸点が、前記貧分散媒の沸点よりも低く、
前記黒色有機顔料100質量部に対する前記良分散媒の含有量は50質量部以上であり、
前記樹脂100質量部に対する前記黒色有機顔料の含有量は60質量部以上であり、
前記黒色有機顔料が、アニリンブラック又はペリレンブラックを含み、
前記良分散媒は、エタノール、イソプロピルアルコール、メタノール又はノルマルプロパノールを含み、
前記貧分散媒は、少なくとも水を含有し、
前記樹脂は、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、エステル樹脂、フッ素樹脂又はメラミン樹脂を含むことを特徴とする黒色塗料組成物。
【請求項2】
前記黒色顔料が、前記黒色有機顔料に加えて、黒色無機顔料を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の黒色塗料組成物。
【請求項3】
前記黒色塗料組成物は、艶消し剤を含有しないか又は前記樹脂100質量部に対する艶消し剤の含有量が0質量部を超え50質量部以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の黒色塗料組成物。
【請求項4】
前記貧分散媒は、水に加えて、ノルマルオクタノール、イソオクタノール、ブチロセロソルブ、テキサノール又はプロピレングリコールモノブチルエーテルを更に含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の黒色塗料組成物。
【請求項5】
基材と、該基材の表面上に設けられた低グロス塗膜と、を有する塗装品において、
前記低グロス塗膜は、請求項1又は2に記載の黒色塗料組成物の乾燥物であり、かつ、前記黒色有機顔料の凝集物を含む凸部を有することを特徴とする塗装品。
【請求項6】
前記凸部の平均直径は、1~40μmであることを特徴とする請求項に記載の塗装品。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の黒色塗料組成物をエアスプレーによって基材の表面上に向けて噴射する塗装工程と、乾燥工程と、を有する低グロス塗膜の形成方法であって、
前記塗装工程は、前記黒色塗料組成物が前記エアスプレーから噴射された後前記基材の表面に到達する前に前記分散媒のうち前記良分散媒の全部又は一部が揮発して、前記黒色有機顔料が凝集した凝集物と、前記樹脂と、未揮発溶媒として少なくとも前記貧分散媒と、を含む混合物が形成される混合物形成工程と、前記混合物が前記基材の表面に到達して付着する付着工程と、を含み、
前記乾燥工程は、前記混合物に含まれる前記未揮発分散媒を揮発させる工程を含むことを特徴とする低グロス塗膜の形成方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
本発明に係る黒色塗料組成物は、黒色顔料と、分散媒と、樹脂と、を含有する黒色塗料組成物において、前記黒色顔料が、黒色有機顔料を含み、前記分散媒が、前記黒色有機顔料と湿潤しやすい良分散媒と、該良分散媒よりも前記黒色有機顔料に対し湿潤しにくい貧分散媒と、を含み、前記良分散媒の沸点が、前記貧分散媒の沸点よりも低く、前記黒色有機顔料100質量部に対する前記良分散媒の含有量は50質量部以上であり、前記樹脂100質量部に対する前記黒色有機顔料の含有量は60質量部以上であり、前記黒色有機顔料が、アニリンブラック又はペリレンブラックを含み、前記良分散媒は、エタノール、イソプロピルアルコール、メタノール又はノルマルプロパノールを含み、前記貧分散媒は、少なくとも水を含有し、前記樹脂は、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、エステル樹脂、フッ素樹脂又はメラミン樹脂を含むことを特徴とする。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
本発明に係る黒色塗料組成物は、艶消し剤を含有しないか又は前記樹脂100質量部に対する艶消し剤の含有量が0質量部を超え50質量部以下である形態を包含する。本発明に係る黒色塗料組成物では、前記貧分散媒は、水に加えて、ノルマルオクタノール、イソオクタノール、ブチロセロソルブ、テキサノール又はプロピレングリコールモノブチルエーテルを更に含むことが好ましい。