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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076453
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 19/00 20060101AFI20240530BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20240530BHJP
   B60C 13/00 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
B60C19/00 B
B60C11/03 Z
B60C13/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022187967
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敬大
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131AA34
3D131AA35
3D131AA39
3D131BB01
3D131DA34
3D131DA43
3D131DA54
3D131EB07Z
3D131EB10Z
3D131EB15V
3D131EB15X
3D131EB18V
3D131EB18X
3D131EB22X
3D131EB23V
3D131EB23X
3D131EB24V
3D131EB24X
3D131EB31V
3D131EB31X
3D131EB46V
3D131EB46W
3D131EB46X
3D131EC01X
3D131EC02V
3D131EC07V
3D131EC07W
3D131EC15X
3D131EC24V
3D131EC24X
3D131GA01
3D131LA03
3D131LA05
3D131LA06
(57)【要約】
【課題】 機能部品のセンシング感度を高めてタイヤ情報の測定性能を改善することを可能にしたタイヤを提供する。
【解決手段】 タイヤ情報を検知するセンサ機能を有する機能部品20をトレッド部1の裏面に備えたタイヤにおいて、機能部品20はトレッド部1の裏面側に接触する接触面21を有し、該接触面21をトレッド部1の踏面に投影することで形成される第1投影領域S0を規定したとき、タイヤ新品状態における第1投影領域S0内での溝面積比率GR0が0.0%≦GR0<50.0%の範囲にある。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ情報を検知するセンサ機能を有する機能部品をトレッド部の裏面に備えたタイヤにおいて、
前記機能部品は前記トレッド部の裏面側に接触する接触面を有し、該接触面を前記トレッド部の踏面に投影することで形成される第1投影領域S0を規定したとき、タイヤ新品状態における前記第1投影領域S0内での溝面積比率GR0が0.0%≦GR0<50.0%の範囲にあることを特徴とするタイヤ。
【請求項2】
前記機能部品はタイヤ情報を検知するセンサ素子を有し、該センサ素子は前記接触面内に配置され、該センサ素子を前記トレッド部の踏面に投影することで形成される第2投影領域Sを規定したとき、タイヤ新品状態における前記第2投影領域S内での溝面積比率GRが0.0%≦GR<20.0%の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記第1投影領域S0をタイヤ新品状態の踏面位置から前記トレッド部のゴム厚さ分だけ前記接触面に向かって移動させた際の軌跡によって形成される第1立体領域V0を規定したとき、該第1立体領域V0内における溝体積比率GRV0が0.0%≦GRV0<30.0%の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記第2投影領域Sをタイヤ新品状態の踏面位置から前記トレッド部のゴム厚さ分だけ前記接触面に向かって移動させた際の軌跡によって形成される第2立体領域Vを規定したとき、該第2立体領域V内における溝体積比率GRVが0.0%≦GRV<20.0%の範囲にあることを特徴とする請求項2に記載のタイヤ。
【請求項5】
タイヤ新品状態における前記第1投影領域S0内での溝面積比率GR0に対する前記トレッド部の80%摩耗状態における前記第1投影領域S0内での溝面積比率GR0の変化率RGR0が±10%以内であることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ。
【請求項6】
タイヤ新品状態における前記第2投影領域S内での溝面積比率GRに対する前記トレッド部の80%摩耗状態における前記第2投影領域S内での溝面積比率GRの変化率RGRが±5%以内であることを特徴とする請求項2に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記トレッド部に形成された溝がタイヤ周方向に沿って反復的な繰り返し構造を有し、その繰り返し構造のピッチがタイヤ周方向に沿って変動するピッチバリエーションを採用したタイヤにおいて、複数種類のピッチのうち中間となるピッチよりも大きいピッチが適用される部位に前記第2投影領域Sが配置されることを特徴とする請求項2に記載のタイヤ。
【請求項8】
前記トレッド部にベルト層が埋設されたタイヤにおいて、前記第2投影領域Sが前記ベルト層の延在域内に配置されることを特徴とする請求項2に記載のタイヤ。
【請求項9】
前記センサ素子の位置を識別可能にする刻印をタイヤサイド領域に有し、前記第2投影領域Sの中心位置からタイヤ回転軸を中心としてタイヤ周方向に±10°以内の範囲内に前記刻印が配置されることを特徴とする請求項2に記載のタイヤ。
【請求項10】
前記機能部品を収容するための収容体が前記トレッド部の裏面に固定され、該収容体に前記機能部品が収容されていることを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項11】
前記収容体が接着剤により前記トレッド部の裏面に固定されていることを特徴とする請求項10に記載のタイヤ。
【請求項12】
前記収容体が加硫ゴムからなることを特徴とする請求項10に記載のタイヤ。
【請求項13】
前記機能部品はセンサ素子として圧電素子を用いたセンサ機能を有することを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ情報を検知するセンサ機能を有する機能部品を備えたタイヤに関し、更に詳しくは、機能部品のセンシング感度を高めてタイヤ情報の測定性能を改善することを可能にしたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤ情報を取得するためにタイヤ内表面に機能部品(例えば、センサを含むセンサユニット)を設置することが行われている(例えば、特許文献1~3参照)。このような機能部品では、タイヤ情報として、温度や内圧のみならず、タイヤ走行時に路面から受ける衝撃力や加速度等を検出することも行われている。
【0003】
しかしながら、タイヤ走行時に路面から受ける衝撃力や加速度のようなタイヤ情報は、機能部品が設置される部分の構造的な特性により大きく影響される。そのため、機能部品の装着位置によっては、機能部品のセンシング感度を十分に確保することができないことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-146875号公報
【特許文献2】特開2021-60401号公報
【特許文献3】特表2018-512333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、機能部品のセンシング感度を高めてタイヤ情報の測定性能を改善することを可能にしたタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明のタイヤは、タイヤ情報を検知するセンサ機能を有する機能部品をトレッド部の裏面に備えたタイヤにおいて、
前記機能部品は前記トレッド部の裏面側に接触する接触面を有し、該接触面を前記トレッド部の踏面に投影することで形成される第1投影領域S0を規定したとき、タイヤ新品状態における前記第1投影領域S0内での溝面積比率GR0が0.0%≦GR0<50.0%の範囲にあることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明者は、トレッド部の裏面に設置される機能部品について、実タイヤでの評価及びシミュレーションによる評価に基づいて鋭意研究を行った結果、トレッド部に形成される溝と機能部品との位置関係が測定結果に大きく影響することを知見し、本発明に至ったのである。
【0008】
即ち、本発明では、トレッド部の裏面に機能部品を設置するにあたって、機能部品を溝との重複量が可及的に小さくなる位置に設置することにより、タイヤが接地する際に路面から受ける衝撃が機能部品に効率良く伝わるので、機能部品のセンシング感度を高めてタイヤ情報の測定性能を改善することができる。センシング感度とは、路面からの衝撃に起因する物理量の変化を感度良く検出する能力を意味し、センシング感度の改善により出力波形のピークトゥピーク値が大きくなり、路面からの衝撃に起因して物理量が変化するタイミングを的確に把握することが可能となる。
【0009】
本発明において、機能部品はタイヤ情報を検知するセンサ素子を有し、該センサ素子は接触面内に配置され、該センサ素子をトレッド部の踏面に投影することで形成される第2投影領域Sを規定したとき、タイヤ新品状態における第2投影領域S内での溝面積比率GRが0.0%≦GR<20.0%の範囲にあることが好ましい。このようにセンサ素子を溝との重複量が可及的に小さくなる位置に設置することにより、タイヤが接地する際に路面から受ける衝撃がセンサ素子に効率良く伝わるので、機能部品のセンシング感度を高めることができる。
【0010】
第1投影領域S0をタイヤ新品状態の踏面位置からトレッド部のゴム厚さ分だけ接触面に向かって移動させた際の軌跡によって形成される第1立体領域V0を規定したとき、該第1立体領域V0内における溝体積比率GRV0は0.0%≦GRV0<30.0%の範囲にあることが好ましい。このように機能部品の直上域に存在する溝の体積を可及的に小さくすることにより、タイヤが接地する際に路面から受ける衝撃が機能部品に効率良く伝わるので、機能部品のセンシング感度を高めることができる。
【0011】
第2投影領域Sをタイヤ新品状態の踏面位置からトレッド部のゴム厚さ分だけ接触面に向かって移動させた際の軌跡によって形成される第2立体領域Vを規定したとき、該第2立体領域V内における溝体積比率GRVは0.0%≦GRV<20.0%の範囲にあることが好ましい。このようにセンサ素子の直上域に存在する溝の体積を可及的に小さくすることにより、タイヤが接地する際に路面から受ける衝撃がセンサ素子に効率良く伝わるので、機能部品のセンシング感度を高めることができる。
【0012】
タイヤ新品状態における第1投影領域S0内での溝面積比率GR0に対するトレッド部の80%摩耗状態における第1投影領域S0内での溝面積比率GR0の変化率RGR0は±10%以内であることが好ましい。第1投影領域S0内での溝面積比率GR0はトレッド部の摩耗が進むに連れて変化し、一般的なタイヤでは減少する。上述のように変化率RGR0を規定することにより、第1投影領域S0内での溝面積比率GR0の摩耗による変化が小さくなるため、センシング感度を高める効果が新品時から摩耗時まで継続し、タイヤ摩耗寿命内において高いセンシング感度を継続的に得ることができる。
【0013】
タイヤ新品状態における第2投影領域S内での溝面積比率GRに対するトレッド部の80%摩耗状態における第2投影領域S内での溝面積比率GRの変化率RGRが±5%以内であることが好ましい。第2投影領域S内での溝面積比率GRはトレッド部の摩耗が進むに連れて変化し、一般的なタイヤでは減少する。上述のように変化率RGRを規定することにより、第2投影領域S内での溝面積比率GRの摩耗による変化が小さくなるため、センシング感度を高める効果が新品時から摩耗時まで継続し、タイヤ摩耗寿命内において高いセンシング感度を継続的に得ることができる。
【0014】
トレッド部に形成された溝がタイヤ周方向に沿って反復的な繰り返し構造を有し、その繰り返し構造のピッチがタイヤ周方向に沿って変動するピッチバリエーションを採用したタイヤにおいては、複数種類のピッチのうち中間となるピッチよりも大きいピッチが適用される部位に第2投影領域Sが配置されることが好ましい。即ち、ピッチバリエーションが適用されたトレッド部において、剛性が比較的高い部位にセンサ素子が配置されることにより、タイヤが接地する際に路面から受ける衝撃がセンサ素子に効率良く伝わるので、機能部品のセンシング感度を高めることができる。
【0015】
トレッド部にベルト層が埋設されたタイヤにおいては、第2投影領域Sがベルト層の延在域内に配置されることが好ましい。センサ素子をベルト層の延在域内に配置することにより、接地によるトレッド部の変形を効率良く検出することができる。
【0016】
本発明のタイヤは、センサ素子の位置を識別可能にする刻印をタイヤサイド領域に有し、第2投影領域Sの中心位置からタイヤ回転軸を中心としてタイヤ周方向に±10°以内の範囲内に刻印が配置されることが好ましい。これにより、センサ素子の位置をタイヤの外部から認識することができるので、機能部品の設置やメンテナンスにおける作業性を高めることができる。
【0017】
本発明において、機能部品を収容するための収容体がトレッド部の裏面に固定され、該収容体に機能部品が収容されていることが好ましい。収容体は接着剤によりトレッド部の裏面に固定されていることが好ましい。収容体は加硫ゴムからなることが好ましい。このような収容体を用いた場合にも、上述した優れた効果を得ることができる。
【0018】
また、機能部品はセンサ素子として圧電素子を用いたセンサ機能を有することが好ましい。このような圧電素子を用いたセンサ機能を有する機能部品を用いる場合には、顕著な効果を得ることができる。
【0019】
本発明のタイヤは、空気入りタイヤであることが好ましいが、非空気式タイヤであっても良い。空気入りタイヤの場合、その内部には空気、窒素等の不活性ガス又はその他の気体を充填することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
図2図1の空気入りタイヤのトレッド部を示す平面図である。
図3図1の空気入りタイヤにおける機能部品の設置部分を示す平面図である。
図4図3のIV-IV矢視断面図である。
図5】機能部品とその収容体を示す斜視図である。
図6図1の空気入りタイヤのトレッド部を示す斜視断面図である。
図7図1の空気入りタイヤのサイドウォール部を示す側面図である。
図8】圧電素子からの出力波形の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図1図7は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示すものである。
【0022】
図1に示すように、本実施形態の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、該トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2,2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3,3とを備えている。
【0023】
一対のビード部3,3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側へ折り返されている。ビードコア5の外周上には断面三角形状のゴム組成物からなるビードフィラー6が配置されている。
【0024】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層7が埋設されている。これらベルト層7はタイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。ベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。ベルト層7の補強コードとしては、スチールコードが好ましく使用される。ベルト層7の外周側には、高速耐久性の向上を目的として、補強コードをタイヤ周方向に対して例えば5°以下の角度で配列してなる少なくとも1層のベルトカバー層8が配置されている。ベルトカバー層8の補強コードとしては、ナイロンやアラミド等の有機繊維コードが好ましく使用される。
【0025】
なお、上述したタイヤ内部構造は空気入りタイヤにおける代表的な例を示すものであるが、これに限定されるものではない。
【0026】
図2に示すように、トレッド部1の踏面には、タイヤ周方向に延びる4本の周方向溝11が形成されている。周方向溝11は、例えば、3本の周方向主溝11Aと1本の周方向細溝11Bを含んでいる。周方向主溝11Aは、溝幅が6.5mm~20.0mmの範囲にあり、溝深さが5.0mm~8.5mmの範囲にあり、ウェアインジケータを備えた溝である。周方向主溝11A及び周方向細溝11Bはそれぞれ面取り部12A,12Bを備えているが、このような面取り部12A,12Bはそれぞれ周方向主溝11A及び周方向細溝11Bの一部を構成するものである。そのため、面取り部12A,12Bは溝面積及び溝体積に含まれる。
【0027】
上述した周方向溝11により、トレッド部1には5列の陸部13が区画されている。そして、陸部13の各々には、タイヤ幅方向に延びる複数本のラグ溝14がタイヤ周方向に間隔をおいて形成されている。トレッド部1には、必要に応じて、サイプ等の溝成分が付加されていても良い。
【0028】
上記空気入りタイヤにおいて、トレッド部1の踏面には周方向溝11やラグ溝14のような溝が形成される一方で、図1に示すように、トレッド部1の裏面には、タイヤ情報を検知するセンサ機能を有する円柱状の機能部品20が設置されている。
【0029】
図3図5に示すように、機能部品20は収容体30の内部に収容されている。収容体30は、トレッド部1の裏面に固定される平板状の底部31と、この底部31から突出した筒状の側壁部32と、これら底部31と側壁部32により形成される収容部33と、この収容部33に連通する開口部34とを有している。収容体30は加硫ゴムからなる成形体であると良い。このように構成される収容体30は例えば接着剤によりトレッド部1の裏面に固定され、その収容体30に機能部品20が収容される。機能部品20は、収容体30を介してトレッド部1の踏面に設置されることが好ましいが、収容体30を介さずにトレッド部1の裏面に直接貼り付けられていても良い。いずれの場合においても、機能部品20はトレッド部1の裏面側に接触する接触面21を有している。即ち、接触面21はトレッド部1の裏面又は収容体30の底部31の表面に接触する面である。
【0030】
機能部品20は、筐体の内部に各種の電子部品収容した構造を有している。電子部品としては、タイヤ情報を取得するための各種のセンサ、送信機、受信機、制御回路及びバッテリー等を含むように構成することができる。センサにより取得されるタイヤ情報として、空気入りタイヤの内部温度や内圧、トレッド部の摩耗量等を挙げることができる。例えば、内部温度や内圧の測定には温度センサや圧力センサが使用される。トレッド部の摩耗量を検出する場合、例えば、機能部品20の接触面21に圧電素子からなるセンサ素子22が配設され、そのセンサ素子22が走行時のタイヤ変形に応じた出力電圧を検出し、その出力電圧に基づいてトレッド部1の摩耗量を検出する。それ以外に、加速度センサや磁気センサを使用することも可能である。
【0031】
図2に示すように、機能部品20の接触面21をトレッド部1の踏面に投影することで形成される第1投影領域S0を規定したとき、タイヤ新品状態における第1投影領域S0内での溝面積比率GR0が0.0%≦GR0<50.0%の範囲に設定されている。タイヤ新品状態における第1投影領域S0内での溝面積比率GR0とは、タイヤ新品状態の踏面に投影される第1投影領域S0の総面積に対する溝面積の比率である。
【0032】
このようにトレッド部1の裏面に機能部品20を設置するにあたって、機能部品20を溝との重複量が可及的に小さくなる位置に設置することにより、タイヤが接地する際に路面から受ける衝撃が機能部品20に効率良く伝わるので、機能部品20のセンシング感度を高めてタイヤ情報の測定性能を改善することができる。
【0033】
ここで、タイヤ新品状態における第1投影領域S0内での溝面積比率GR0が50%以上であると、路面と機能部品20の接触面21との間に存在する溝成分が多くなるため、機能部品20のセンシング感度を高める効果が低下する。特に、タイヤ新品状態における第1投影領域S0内での溝面積比率GR0は、0.0%≦GR0≦20.0%の範囲にあることが好ましく、0.0%≦GR0≦5.0%の範囲にあることが更に好ましい。
【0034】
また、図2に示すように、センサ素子22をトレッド部1の踏面に投影することで形成される第2投影領域Sを規定したとき、タイヤ新品状態における第2投影領域S内での溝面積比率GRが0.0%≦GR<20.0%の範囲にあると良い。タイヤ新品状態における第2投影領域S内での溝面積比率GRとは、タイヤ新品状態の踏面に投影される第2投影領域Sの総面積に対する溝面積の比率である。このようにセンサ素子22を溝との重複量が可及的に小さくなる位置に設置することにより、タイヤが接地する際に路面から受ける衝撃がセンサ素子22に効率良く伝わるので、機能部品20のセンシング感度を高めることができる。
【0035】
ここで、タイヤ新品状態における第2投影領域S内での溝面積比率GRが20%以上であると、路面と機能部品20のセンサ素子22との間に存在する溝成分が多くなるため、機能部品20のセンシング感度を高める効果が低下する。特に、タイヤ新品状態における第2投影領域S内での溝面積比率GRは、0.0%≦GR0≦10.0%の範囲にあることが好ましい。
【0036】
図6に示すように、第1投影領域S0をタイヤ新品状態の踏面位置からトレッド部1のゴム厚さ分だけ接触面21に向かって移動させた際の軌跡によって形成される第1立体領域V0を規定したとき、該第1立体領域V0内における溝体積比率GRV0は0.0%≦GRV0<30.0%の範囲にあると良い。トレッド部1のゴム厚さとは、トレッド部1に埋設されたベルト層7やベルトカバー層8のような補強層の外側に積層されるトレッドゴム層の厚さであり、トレッド部1の踏面から補強層までの厚さである。第1立体領域V0内における溝体積比率GRV0とは、第1立体領域V0の総体積に対する溝体積の比率である。このように機能部品20の直上域に存在する溝の体積を可及的に小さくすることにより、タイヤが接地する際に路面から受ける衝撃が機能部品20に効率良く伝わるので、機能部品20のセンシング感度を高めることができる。
【0037】
ここで、第1立体領域V0内における溝体積比率GRV0が30%以上であると、路面と機能部品20の接触面21との間に存在する溝成分が多くなるため、機能部品20のセンシング感度を高める効果が低下する。特に、第1立体領域V0内における溝体積比率GRV0は、0.0%≦GR0≦10.0%の範囲にあることが好ましい。
【0038】
また、図6に示すように、第2投影領域Sをタイヤ新品状態の踏面位置からトレッド部1のゴム厚さ分だけ接触面21に向かって移動させた際の軌跡によって形成される第2立体領域Vを規定したとき、該第2立体領域V内における溝体積比率GRVは0.0%≦GRV<20.0%の範囲にあると良い。第2立体領域V内における溝体積比率GRVとは、第2立体領域Vの総体積に対する溝体積の比率である。このようにセンサ素子22の直上域に存在する溝の体積を可及的に小さくすることにより、タイヤが接地する際に路面から受ける衝撃がセンサ素子22に効率良く伝わるので、機能部品20のセンシング感度を高めることができる。
【0039】
ここで、第2立体領域V内における溝体積比率GRVが20%以上であると、路面と機能部品20のセンサ素子22との間に存在する溝成分が多くなるため、機能部品20のセンシング感度を高める効果が低下する。特に、第2立体領域V内における溝体積比率GRVは、0.0%≦GR0≦10.0%の範囲にあることが好ましい。
【0040】
更に、タイヤ新品状態における第1投影領域S0内での溝面積比率GR0に対するトレッド部1の80%摩耗状態(即ち、残溝20%の状態)における第1投影領域S0内での溝面積比率GR0の変化率RGR0は±10%以内であると良い。例えば、タイヤ新品状態における第1投影領域S0内での溝面積比率GR0が25%である場合、トレッド部1の80%摩耗状態における第1投影領域S0内での溝面積比率GR0は22.5%~27.5%の範囲内にあると良い。第1投影領域S0内での溝面積比率GR0はトレッド部1の摩耗が進むに連れて変化し、一般的なタイヤでは減少する。上述のように変化率RGR0を規定することにより、第1投影領域S0内での溝面積比率GR0の摩耗による変化が小さくなるため、センシング感度を高める効果が新品時から摩耗時まで継続し、タイヤ摩耗寿命内において高いセンシング感度を継続的に得ることができる。
【0041】
ここで、タイヤ新品状態における第1投影領域S0内での溝面積比率GR0に対するトレッド部1の80%摩耗状態における第1投影領域S0内での溝面積比率GR0の変化率RGR0が±10%の範囲から外れると、タイヤ摩耗寿命内におけるセンシング感度の変動が大きくなる。
【0042】
同様に、タイヤ新品状態における第2投影領域S内での溝面積比率GRに対するトレッド部1の80%摩耗状態における第2投影領域S内での溝面積比率GRの変化率RGRは±5%以内であると良い。例えば、タイヤ新品状態における第2投影領域S内での溝面積比率GRが15%である場合、トレッド部1の80%摩耗状態における第2投影領域S内での溝面積比率GRは14.25%~15.75%の範囲内にあると良い。第2投影領域S内での溝面積比率GRはトレッド部1の摩耗が進むに連れて変化し、一般的なタイヤでは減少する。上述のように変化率RGRを規定することにより、第2投影領域S内での溝面積比率GRの摩耗による変化が小さくなるため、センシング感度を高める効果が新品時から摩耗時まで継続し、タイヤ摩耗寿命内において高いセンシング感度を継続的に得ることができる。
【0043】
ここで、タイヤ新品状態における第2投影領域S内での溝面積比率GRに対するトレッド部1の80%摩耗状態における第2投影領域S内での溝面積比率GRの変化率RGRが±5%の範囲から外れると、タイヤ摩耗寿命内におけるセンシング感度の変動が大きくなる。
【0044】
図2において、トレッド部1に形成された溝はタイヤ周方向に沿って反復的な繰り返し構造を有し、その繰り返し構造のピッチがタイヤ周方向に沿って変動するピッチバリエーションが採用されている。例えば、ラグ溝13はタイヤ周方向に間隔をおいて反復的に配置されているが、そのタイヤ周方向のピッチPの大きさがタイヤ周方向に沿って変化している。このようにピッチバリエーションを採用したタイヤにおいては、複数種類のピッチのうち中間となるピッチよりも大きいピッチが適用される部位に第2投影領域S(即ち、センサ素子22)が配置されることが好ましい。例えば、ピッチPの大きさを5種類とし、P1<P2<P3<P4<P5とした場合、ピッチP4又はP5が適用される部位に第2投影領域Sが配置される。また、ピッチPの大きさを4種類とし、P1<P2<P3<P4とした場合、ピッチP3又はP4が適用される部位に第2投影領域Sが配置される。
【0045】
このようにピッチバリエーションが適用されたトレッド部1において、剛性が比較的高い部位にセンサ素子22が配置されることにより、タイヤが接地する際に路面から受ける衝撃がセンサ素子22に効率良く伝わるので、機能部品20のセンシング感度を高めることができる。同様の理由から、トレッド部1を構成するトレッドゴム層のJIS-A硬度は62以上であると良い。ここで言うJIS-A硬度は、JIS-K6253に準拠して、Aタイプのデュロメータを用いて温度20℃の条件にて測定されるデュロメータ硬さである。
【0046】
トレッド部1にベルト層7が埋設されたタイヤにおいては、第2投影領域Sがベルト層7の延在域内に配置されていると良い。即ち、図1に示すタイヤ子午線断面において、機能部品20のセンサ素子22がベルト層7の延在域内に配置されていると良い。このような配置を採用することにより、接地によるトレッド部1の変形を効率良く検出することができる。特に、図2に示すように、タイヤセンターラインCLと第2投影領域Sの中心位置Oとのタイヤ幅方向の距離はベルト層7の最大幅の20%以下であることが望ましい。
【0047】
上述した空気入りタイヤは、図7に示すように、センサ素子22の位置を識別可能にする刻印23をタイヤサイド領域(サイドウォール部2の外表面においてブランドが表示される領域)に有していると良い。このような刻印23は、第2投影領域Sの中心位置Oからタイヤ回転軸Aを中心としてタイヤ周方向に±10°以内の範囲内に配置されていると良い。これにより、センサ素子22の位置をタイヤの外部から認識することができるので、機能部品20の設置やメンテナンスにおける作業性を高めることができる。なお、刻印23は、センサ素子22の位置を識別するための専用の表示物であることが好ましいが、場合によっては、ウェアインジケータ用のマークのような既存の表示物を刻印23として兼用することも可能である。
【実施例0048】
タイヤサイズ225/45ZR18で、タイヤ情報を検知するセンサ機能を有する機能部品をトレッド部の裏面に備え、該機能部品がセンサ素子として圧電素子を用いたセンサ機能を有するタイヤにおいて、機能部品の接触面をトレッド部の踏面に投影することで形成される第1投影領域S0、機能部品のセンサ素子をトレッド部の踏面に投影することで形成される第2投影領域S、第1投影領域S0をタイヤ新品状態の踏面位置からトレッド部のゴム厚さ分だけ接触面に向かって移動させた際の軌跡によって形成される第1立体領域V0、第2投影領域Sをタイヤ新品状態の踏面位置からトレッド部のゴム厚さ分だけ接触面に向かって移動させた際の軌跡によって形成される第2立体領域Vを規定したとき、タイヤ新品状態における第1投影領域S0内での溝面積比率GR0、タイヤ新品状態における第2投影領域S内での溝面積比率GR、第1立体領域V0内における溝体積比率GRV0、第2立体領域V内における溝体積比率GRV、タイヤ新品状態における第1投影領域S0内での溝面積比率GR0に対するトレッド部の80%摩耗状態における第1投影領域S0内での溝面積比率GR0の変化率RGR0、タイヤ新品状態における第2投影領域S内での溝面積比率GRに対するトレッド部の80%摩耗状態における第2投影領域S内での溝面積比率GRの変化率RGRを表1のように設定した比較例及び実施例1~8のタイヤを製作した。なお、機能部品は収容体を介してトレッド部の裏面に装着した。
【0049】
これら試験タイヤについて、下記試験方法により、新品時及び摩耗時におけるセンシング感度を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0050】
センシング感度:
各試験タイヤをリムサイズ18×7.5JJのホイールに組み付けてドラム試験機に装着し、空気圧を230kPaとし、荷重を最大負荷能力の60%とし、速度を30km/hとする走行試験を実施し、センサ素子(圧電素子)により検出される出力を記録した。図8は圧電素子からの出力波形の一例を示すものである。この出力波形では、トレッド部において機能部品が設置された部位が接地する際に、時間Tの経過に伴って圧電素子の出力にマイナス側のピークとプラス側のピークが順次形成され、ピークトゥピーク値Vが得られる。そして、各10回の計測において得られる出力波形のピークトゥピーク値Vの平均値を求めた。評価結果は、出力波形のピークトゥピーク値Vの平均値を用い、比較例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどセンシング感度が優れていることを意味する。このようなセンシング感度をタイヤの新品時及びトレッド部の50%摩耗時において評価した。なお、新品時のセンシング精度は新品時の比較例を基準とする指数値であり、摩耗時のセンシング精度は摩耗時の比較例を基準とする指数値であ。
【0051】
【表1】
【0052】
この表1から判るように、実施例1~8のタイヤは、比較例との対比において、機能部品のセンシング感度が良好であった。
【0053】
本開示は、以下の発明[1]~[13]を包含する。
発明[1]は、タイヤ情報を検知するセンサ機能を有する機能部品をトレッド部の裏面に備えたタイヤにおいて、前記機能部品は前記トレッド部の裏面側に接触する接触面を有し、該接触面を前記トレッド部の踏面に投影することで形成される第1投影領域S0を規定したとき、タイヤ新品状態における前記第1投影領域S0内での溝面積比率GR0が0.0%≦GR0<50.0%の範囲にあることを特徴とするタイヤである。
発明[2]は、前記機能部品はタイヤ情報を検知するセンサ素子を有し、該センサ素子は前記接触面内に配置され、該センサ素子を前記トレッド部の踏面に投影することで形成される第2投影領域Sを規定したとき、タイヤ新品状態における前記第2投影領域S内での溝面積比率GRが0.0%≦GR<20.0%の範囲にあることを特徴とする発明[1]に記載のタイヤである。
発明[3]は、前記第1投影領域S0をタイヤ新品状態の踏面位置から前記トレッド部のゴム厚さ分だけ前記接触面に向かって移動させた際の軌跡によって形成される第1立体領域V0を規定したとき、該第1立体領域V0内における溝体積比率GRV0が0.0%≦GRV0<30.0%の範囲にあることを特徴とする発明[1]又は[2]に記載のタイヤである。
発明[4]は、前記第2投影領域Sをタイヤ新品状態の踏面位置から前記トレッド部のゴム厚さ分だけ前記接触面に向かって移動させた際の軌跡によって形成される第2立体領域Vを規定したとき、該第2立体領域V内における溝体積比率GRVが0.0%≦GRV<20.0%の範囲にあることを特徴とする発明[2]に記載のタイヤである。
発明[5]は、タイヤ新品状態における前記第1投影領域S0内での溝面積比率GR0に対する前記トレッド部の80%摩耗状態における前記第1投影領域S0内での溝面積比率GR0の変化率RGR0が±10%以内であることを特徴とする発明[1]~[4]のいずれかに記載のタイヤである。
発明[6]は、タイヤ新品状態における前記第2投影領域S内での溝面積比率GRに対する前記トレッド部の80%摩耗状態における前記第2投影領域S内での溝面積比率GRの変化率RGRが±5%以内であることを特徴とする発明[2]又は[4]に記載のタイヤである。
発明[7]は、前記トレッド部に形成された溝がタイヤ周方向に沿って反復的な繰り返し構造を有し、その繰り返し構造のピッチがタイヤ周方向に沿って変動するピッチバリエーションを採用したタイヤにおいて、複数種類のピッチのうち中間となるピッチよりも大きいピッチが適用される部位に前記第2投影領域Sが配置されることを特徴とする発明[2],[4]又は[6]に記載のタイヤである。
発明[8]は、前記トレッド部にベルト層が埋設されたタイヤにおいて、前記第2投影領域Sが前記ベルト層の延在域内に配置されることを特徴とする発明[2],[4],[6]又は[7]に記載のタイヤである。
発明[9]は、前記センサ素子の位置を識別可能にする刻印をタイヤサイド領域に有し、前記第2投影領域Sの中心位置からタイヤ回転軸を中心としてタイヤ周方向に±10°以内の範囲内に前記刻印が配置されることを特徴とする発明[2],[4],[6],[7]又は[8]に記載のタイヤである。
発明[10]は、前記機能部品を収容するための収容体が前記トレッド部の裏面に固定され、該収容体に前記機能部品が収容されていることを特徴とする発明[1]~[9]のいずれかに記載のタイヤである。
発明[11]は、前記収容体が接着剤により前記トレッド部の裏面に固定されていることを特徴とする発明[10]に記載のタイヤである。
発明[12]は、前記収容体が加硫ゴムからなることを特徴とする発明[10]又は[11]に記載のタイヤである。
発明[13]は、前記機能部品はセンサ素子として圧電素子を用いたセンサ機能を有することを特徴とする発明[1]~[12]のいずれかに記載のタイヤである。
【符号の説明】
【0054】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 ベルトカバー層
11 周方向溝
11A 周方向主溝
11B 周方向細溝
12A,12B 面取り部
13 陸部
14 ラグ溝
20 機能部品
21 接触面
22 センサ素子
23 刻印
30 収容体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8