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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076485
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】絶縁耐圧試験方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/12 20200101AFI20240530BHJP
   G01R 31/50 20200101ALI20240530BHJP
   H05K 3/00 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
G01R31/12 Z
G01R31/50
H05K3/00 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188039
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 毅
(72)【発明者】
【氏名】竹本 直史
(72)【発明者】
【氏名】小野 孝晃
(72)【発明者】
【氏名】永浦 淳
(72)【発明者】
【氏名】賀川 美香
【テーマコード(参考)】
2G014
2G015
【Fターム(参考)】
2G014AA15
2G014AB59
2G015AA22
2G015CA06
(57)【要約】
【課題】絶縁耐圧試験方法において、個片化される回路基板の全数を容易に試験することができると共に不良品の発生を抑え、かつ後処理が容易に行える技術を提供する。
【解決手段】絶縁基材2上に複数の回路パターン5が設けられており回路パターン5毎に個片化される回路基板(大判回路基板1)の絶縁耐圧試験方法であって、気中下において、個片化される前の状態の回路基板(大判回路基板1)に電圧を印加して絶縁耐圧試験を行う、絶縁耐圧試験方法が提供される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基材上に複数の回路パターンが設けられており前記回路パターン毎に個片化される回路基板の絶縁耐圧試験方法であって、
気中下において、個片化される前の状態の前記回路基板に電圧を印加して絶縁耐圧試験を行う、絶縁耐圧試験方法。
【請求項2】
前記回路基板を上面視したときに前記回路パターンの最外位置と前記絶縁基材の外周との沿面距離をL、前記絶縁耐圧試験において前記回路基板に印加する電圧をVとしたときに、V/Lが0.1kV/mm以上1.0kV/mm以下である、請求項1に記載の絶縁耐圧試験方法。
【請求項3】
前記沿面距離が4.75mm以上である、請求項2に記載の絶縁耐圧試験方法。
【請求項4】
前記回路基板に印加する電圧は2.5kV以上4.8kV以下である、請求項2または3に記載の絶縁耐圧試験方法。
【請求項5】
前記回路基板を、絶縁性および消弧性を有するガスの雰囲気下に配置して前記絶縁耐圧試験を行う、請求項1または2に記載の絶縁耐圧試験方法。
【請求項6】
前記ガスは窒素であり、
前記窒素を一定圧力で充填した空間に前記回路基板を配置する、請求項5に記載の絶縁耐圧試験方法。
【請求項7】
前記回路パターンを覆うように導電性シートを配置して前記絶縁耐圧試験を行う、請求項1または2に記載の絶縁耐圧試験方法。
【請求項8】
前記導電性シートは、弾性のあるシート状の支持体と、前記支持体の一方の面に設けられた導電性の薄膜とを有し、
前記支持体の他方の面が前記回路パターンを覆う、請求項7に記載の絶縁耐圧試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板の絶縁耐圧試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、パワーモジュールに用いられる回路基板では、絶縁基板として所望の耐電圧性が要求されることから、絶縁耐圧試験方法が行われる。絶縁耐圧試験方法としては、例えば、検査対象の回路基板を絶縁油等に浸漬した状態で電圧をかけて試験を行う方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-183923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、絶縁油中での試験では、後工程として洗浄が必要であり、全数検査すると検査工数が多くなってしまうという課題があった。また、全数検査から一部抜き取り検査に切り替えることも考えられるが、製品の歩留まり率の低下を招きコストを上昇させかねないという課題があった。また、絶縁油を用いることでランニングコストがかかるという課題もあった。すなわち、絶縁油を製品に残してはいけないため、揮発性高く製品に残りにくいフッ素系オイルが用いられることが多いが、環境規制もあり対応可能な絶縁油の品種も少なく、絶縁油を使用しない技術が求められていた。
【0005】
本発明は以上の課題に鑑みなされたもので、絶縁耐圧試験方法において、個片化される回路基板の全数を容易に試験することができると共に不良品の発生を抑え、かつ後処理が容易に行える技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下の技術が提供される。
[1]
絶縁基材上に複数の回路パターンが設けられており前記回路パターン毎に個片化される回路基板の絶縁耐圧試験方法であって、
気中下において、個片化される前の状態の前記回路基板に電圧を印加して絶縁耐圧試験を行う、絶縁耐圧試験方法。
[2]
前記回路基板を上面視したときに前記回路パターンの最外位置と前記絶縁基材の外周との沿面距離をL、前記絶縁耐圧試験において前記回路基板に印加する電圧をVとしたときに、V/Lが0.1kV/mm以上1.0kV/mm以下である、[1]に記載の絶縁耐圧試験方法。
[3]
前記沿面距離が4.75mm以上である、[2]に記載の絶縁耐圧試験方法。
[4]
前記回路基板に印加する電圧は2.5kV以上4.8kV以下である、[2]または[3]に記載の絶縁耐圧試験方法。
[5]
前記回路基板を、絶縁性および消弧性を有するガスの雰囲気下に配置して前記絶縁耐圧試験を行う、[1]から[4]までのいずれか1に記載の絶縁耐圧試験方法。
[6]
前記ガスは窒素であり、
前記窒素を一定圧力で充填した空間に前記回路基板を配置する[5]に記載の絶縁耐圧試験方法。
[7]
前記回路パターンを覆うように導電性シートを配置して前記絶縁耐圧試験を行う、[1]から[6]までのいずれか1に記載の絶縁耐圧試験方法。
[8]
前記導電性シートは、弾性のあるシート状の支持体と、前記支持体の一方の面に設けられた導電性の薄膜とを有し、
前記支持体の他方の面が前記回路パターンを覆う、[7]に記載の絶縁耐圧試験方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、絶縁耐圧試験方法において、回路基板の全数を容易に試験することができると共に不良品の発生を抑え、かつ後処理が容易に行える技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1の実施形態に係る、大判回路基板の平面図である。
図2】第1の実施形態に係る、図1の領域Xを拡大した図である。
図3】第1の実施形態に係る、大判回路基板の一部断面図である。
図4】第1の実施形態に係る、回路基板の平面図である。
図5】第1の実施形態に係る、回路基板の断面図である。
図6】第1の実施形態に係る、絶縁耐圧試験装置による大判回路基板の絶縁耐圧試験を説明する図である。
図7】第2の実施形態に係る、表面に導電性シートで配置した大判回路基板の平面図である。
図8】実施形態の実施例に係る、大気下での沿面距離の調査の結果を示すグラフである。
図9】実施形態の実施例に係る、窒素下での沿面距離の調査に用いた評価用回路基板の平面図である。
図10】実施形態の実施例に係る、窒素下での沿面距離の調査の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第1の実施形態>
本実施形態では、絶縁基材上に複数の回路パターンが設けられており、回路パターン毎に個片化される回路基板の絶縁耐圧試験方法について説明する。
当該絶縁耐圧試験方法では、気中下において、個片化される前の状態の回路基板(以下、便宜的に「大判回路基板」という)に電圧を印加して絶縁耐圧試験を行う。以下、図面を参照して具体的に説明する。
【0010】
<概要>
図1は大判回路基板1の平面図である。図2図1の領域Xを拡大した図であって、大判回路基板1の一部を拡大して示している。図3は大判回路基板1の一部断面図であって、図2のX1-X1断面図である。図4は回路基板10の平面図である。つまり、大判回路基板1を個片化して得られたものである。図5は回路基板10の断面図であって、図4のX2-X2断面図である。
【0011】
以下では、まず、絶縁耐圧試験である大判回路基板1およびそれを個片化した回路基板10について説明する。つづいて、絶縁耐圧試験装置50による大判回路基板1の絶縁耐圧試験について、主に気中下において試験を行うための条件を説明する。
【0012】
<大判回路基板1>
大判回路基板1は、絶縁基材2と、絶縁基材2の一方の面(以下、「上面2d」)に設けられた複数の回路パターン5と、絶縁基材2の他方の面(以下、「下面2e」)に設けられた放熱金属板3とを有する。大判回路基板1の全体の寸法は、例えば寸法550mm角とすることができる。
【0013】
絶縁基材2は、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si)、アルミナ(Al)等からなるセラミックス材料により矩形板状に形成されている。絶縁基材2は、樹脂材料により形成されてもよい。樹脂材料としては、特定の種類に限定されないが、例えば、熱硬化性樹脂である、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル(不飽和ポリエステル)樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。なお、樹脂材料には、これらの樹脂のうちの1種または2種以上を混合して用いることができる。
絶縁基材2の厚さは、例えば0.01mm~5.0mmとすることができる。なお、絶縁基材2が樹脂材料の場合、好ましくは0.1mm~0.5mmとすることができる。
【0014】
回路パターン5は、例えば絶縁基材2の上面2dに積層された回路金属層20を切削やエッチングにより所定のパターンに加工することにより形成される。回路金属層20の金属材料には、例えば、銅を好適に用いることができる。絶縁基材2と回路金属層20(すなわち回路パターン5)は、例えば、ろう材を用いて接合されている。
回路パターン5の厚さは、例えば0.01mm~3mmとすることができる。
【0015】
大判回路基板1において、上面視したときに、回路パターン5の最外位置(以下、便宜的に「回路パターン外周21」という)と絶縁基材2の外周(以下、便宜的に「基材外周2b」という)との距離を沿面距離Lとしたときに、沿面距離Lは、絶縁耐圧試験において大判回路基板1に印加する電圧Vに応じて設定される。すなわち、絶縁耐圧試験を気中で行った場合に大判回路基板1の絶縁破壊に繋がる沿面放電の発生を抑制することができるように、沿面距離Lが設定される。
【0016】
具体的には、沿面距離Lと電圧Vの比V/Lが0.1kV/mm以上1.0kV/mm以下となるように、沿面距離Lが設定される。回路基板10がパワーモジュールとして使用される場合に要求される絶縁耐圧、すなわち絶縁耐圧試験において印加される電圧V(例えば3.8kV以上)を考慮すると、沿面距離Lは4.75mm以上とすることができる。
沿面距離Lと電圧Vの比V/Lの上限値は、好ましくは0.8kV/mm以下であり、より好ましくは0.6kV/mm以下である。沿面距離Lと電圧Vの比V/Lの下限値は、好ましくは0.2kV/mm以上であり、より好ましくは0.3kV/mm以上である。
【0017】
<放熱金属板3>
放熱金属板3は、絶縁基材2の下面2eに設けられた金属材料で構成された層である。放熱金属板3の下面3bに放熱フィンやラジエータなどの放熱手段(図示せず)が適宜取り付けられる。
【0018】
放熱金属板3を構成する金属材料としては、特定の種類に限定されないが、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金などを用いることができる。絶縁基材2と放熱金属板3は、例えば、ろう材を用いて接合されている。
放熱金属板3の厚さは、特に限定されないが、0.1mm~10mmとすることができる。
【0019】
<回路基板10>
大判回路基板1は、上面視で、切断線9に区画される2次元行列状に並んだ複数の領域6(すなわち複数の回路基板10に相当する領域)を含んでいる。図1では、便宜的に右下の1つの回路基板10に相当する領域をハッチングで示している。図1に示す例では、大判回路基板1は、5行4列の行列状に並んだ領域6と、領域6の外側の領域(周縁部7)とを有している。本実施形態では、各領域には、同一の回路パターン5が形成されているが、異なる回路パターン5が形成されてもよい。切断線9に沿って切断して、周縁部7を取り除くともに各領域6をそれぞれ含む複数の部分(すなわち回路基板10)に個片化することで、1つの大判回路基板1から、同一の回路パターン5を有する複数(ここでは20個)の回路基板10を得ることができる。
【0020】
個片化後の回路基板10は、絶縁基材2aと、絶縁基材2aの上面2dに設けられた回路パターン5と、絶縁基材2aの下面2eに設けられた放熱金属板3aとを有する。回路基板10は、例えば平面視で縦寸法50mmおよび横寸法40mmの矩形状に形成されている。
【0021】
<絶縁耐圧試験>
図6は絶縁耐圧試験装置50による大判回路基板1の絶縁耐圧試験を説明する図である。
絶縁耐圧試験装置50は、大判回路基板1の放熱金属板3の下面3bに接触される第1電極61と、回路パターン5(回路金属層20)に接触される第2電極62と、第1電極61と第2電極62との間に電圧Vを印加する電源55と、各種計測器や安全装置等を有する制御装置56とを有する。また、絶縁耐圧試験装置50は、大判回路基板1を気中(ここでは空気中)において所定の検査位置に配置し第1電極61や第2電極62を適切に回路金属層20や放熱金属板3に接触させるための治具(図視せず)を有する。
【0022】
当該絶縁耐圧試験において、気中において大判回路基板1に印加する電圧Vは、回路基板10がパワーモジュールに用いられる場合を考慮した場合、2.5kV以上4.8kV以下とすることができる。なお、電圧Vは、例えばパワーモジュールを想定した場合、2.5kV以上とされるが、加速試験を行う場合には、例えば、3.8kV以上に設定される。電圧Vは、上記範囲のような高電圧にすると、従来であれば、気中では埃や酸素等の影響で放電現象が発生してしまい、適切な試験を行うことができなかった。
【0023】
しかし、大判回路基板1の沿面距離Lを、沿面距離Lと電圧Vの比V/Lが0.1kV/mm以上1.0kV/mm以下となるように設定することで、気中であっても、絶縁破壊につながるような沿面放電を発生させることなく、適切に絶縁耐圧試験を行うことができる。
【0024】
また、個片化する前の大判回路基板1に対して気中で絶縁耐圧試験を行うことができるため、検査工数・コストを大幅に削減することができる。すなわち、検査環境を油中から気中に切り替えることで、大判回路基板1(回路基板10)への油分残渣(不純物や異物付着)なく、洗浄等の後工程を省くことができ、検査運用における工数削減を実現できる。また、一般に高額消耗品である絶縁油を使用することを避けられるため、検査コストの抑制を実現できる。
【0025】
また、沿面距離Lを短くすることにより、大判回路基板1において、回路パターン5を設けることができる領域を拡大することができ、面取り数(すなわち個片化できる回路基板10の数)を増やすことができる。
【0026】
なお、絶縁耐圧試験は、気中環境として大気中に限らず所定のガス中において行われてもよい。所定のガスとして、例えば、絶縁性および消弧性を有するガスを用いることができる。より具体的には、そのようなガスとして、例えば、六フッ化硫黄ガス、Nガス、Oガス、COガス等がある。特に、取り扱いの容易さからNガスを好んで用いることができる。
【0027】
このようなガスの環境下で絶縁耐圧試験を行う場合、大判回路基板1を密閉空間の試験室に配置するとともに、試験室にそのようなガスを一定圧力で充填する。例えばNガスの場合、0.3MPaの圧力で充填することで、非常に良好な絶縁耐圧試験の環境を実現できる。たとえば、大気中において印加する電圧Vを4.8kVとした場合に沿面放電が発生しない距離(すなわち沿面距離L)が12mmであったものが、0.3MPaのNガス環境下においては、同じ電圧V(4.8kV)の場合に、沿面放電が発生しない距離(すなわち沿面距離L)が5mmと、大幅に低減することができる。また、気中での沿面放電0.4kV/mm、沿面距離Lを12mm以上確保することで4.8kVの高電圧検査が可能であることが確認されている。
【0028】
また、大気中では、絶縁耐圧試験としては所定の基準を満たす場合であっても、絶縁破壊には繋がらない程度の放電現象が回路表面に見られる場合があった。しかし、絶縁性および消弧性を有するガスの環境下で絶縁耐圧試験を行った場合には、そのような放電現象をほぼ観察されない程度まで大幅に抑制することができる。
【0029】
<第2の実施形態>
図7は、本実施形態に係る、表面に導電性シート70を設けた大判回路基板1の平面図である。本実施形態は、第1の実施形態の変形例であって、縁耐圧試験において、大判回路基板1の全ての回路パターン5を覆うように導電性シート70(図7中では墨塗りで示している)を配置する。このとき、回路パターン5の外側の領域、すなわち沿面距離Lに設定されるエリアには導電性シート70がかからないようにされる。つまり、導電性シート70の大きさは、複数の回路パターン5が設けられる領域と同じである。
【0030】
導電性シート70としては、導電性フィルム、金属製フィルム、金属箔、金属メッシュ、等の構造を有するシート部材を用いることができる。導電性シート70としては、特に、導電性ゴムシートが好ましく用いることができる。導電性シート70の厚みは、材料や採用する構造により適宜設定することができるが、単一のシート部材から構成される場合には例えば0.5mm以上10mm以下とすることができる。導電性ゴムシートである場合、導電性シート70は、弾性のあるシート状の支持体と、支持体の上面に設けられた導電性の薄膜(フィルム)とを有する構成を採用できる。その場合、導電性シート70の全体の厚みは上記と同様の範囲として、薄膜(フィルム)の厚みを例えば0.05mm以上1mm以下とすることができる。
【0031】
支持体に弾性を持たせる理由は、回路パターン5への傷不良を避けるためであり、また回路パターン5の凹凸を埋めて気中(大気中)での放電現象を抑制する環境、すなわち空気のない環境を作るためである。放電現象の抑制は、例えば、空気中の酸素の分解により発生するオゾン量を比較すること、または、放電現象に伴う音を比較することで、把握することができる。
【実施例0032】
以下、本実施形態を、実施例を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。以下の実施例では、(A)大気下での沿面距離の調査および(B)窒素下での沿面距離の調査について行った。
【0033】
(A)大気下での沿面距離の調査について
大気下での沿面距離の調査では、評価用サンプルとして、第1の実施形態で説明した大判回路基板1と同様の構成の回路基板を用いた。
【0034】
(1)評価用サンプルの作製
評価用サンプルとして、以下の構造を有する評価用回路基板を作製した。この評価用回路基板は、個片化した場合に回路基板を複数個取り(例えば20個取り)する大判回路基板であって、通常の製品形態のものを用いた。
表1に評価用サンプル(実施例1~9)の具体的な仕様を示す。
・絶縁基材・・・樹脂材料を用いた。実施例1~9に用いた樹脂基材の主要材料は次の通りである。表中では、チェックマークで示している。なお、沿面放電の評価方法においては、過去の知見より、材料の組成の違いよりも、沿面距離の影響が大きいと判断した。
実施例1~3:窒化ホウ素、エポキシ樹脂、フェノール樹脂
実施例4:窒化ホウ素、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂
実施例5~9:窒化ホウ素、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂、フェノキシ樹脂
・絶縁層厚み:実施例1~5、7~9…0.175mm
実施例6…0.125mm
・回路パターン(金属層)
材料:銅
厚み:実施例1~6、9…0.5mm
実施例7…0.3mm
実施例8…2.0mm
・放熱基板
材料:実施例1~8…銅
実施例9…アルミニウム
厚み:実施例1~7、9…2.0mm
実施例8…0.5mm
・大きさ(外形):実施例1、6~9…300mm×500mm
実施例2…270mm×530mm
実施例3~5…330mm×550mm
・沿面距離
6.0mm、10.0mm、12.0mm、14.0mm、16.0mm、18.0mm
【0035】
【表1】
【0036】
(2)沿面放電の評価方法
先に作製した評価用回路基板に対して、JIS規格(C2110)に準拠した絶縁破壊電圧試験の電圧を印加、沿面放電を評価した。高電圧が印加される両電極にはスプリングが内蔵された半球形状φ1.8mmの金メッキ処理プローブピン(オルガン針株式会社製 仕様PTP-2R3)を用いた。両電極に間に評価用回路基板を挟み、大気中で菊水電子製の絶縁耐力試験装置を用いて、昇圧速度0.1kV/秒、遮断電流100mAの条件で、各沿面距離において沿面放電が発生した電圧を観測した。
図8は、大気下での沿面距離の調査結果を示すグラフである。横軸が沿面距離(mm)、縦軸が沿面放電が生じた時の電圧(kV)である。
気中0.4kV/mm、沿面距離を12mm以上確保することで4.8kV高電圧検査が可能となることが確認できた。
【0037】
(B)窒素下での沿面距離の調査について
窒素下での沿面距離の調査では、評価用サンプルとして、簡易TEGの回路基板を用いた。図9に簡易TEGの回路基板の平面図を示す。
【0038】
(1)評価用サンプルの作製
評価用サンプルとして、上述「(A)大気下での沿面距離の調査」と同様の評価用回路基板を作製した(実施例1~9)。
【0039】
(2)絶縁破壊電圧の評価方法
窒素下で行う点と評価用サンプルとして簡易TEGの回路基板を用いた点以外は、上述の(A)大気下での沿面距離の調査と同様の条件で評価した。窒素化の試験環境は、密閉空間の試験室に評価用サンプルを配置するとともに、試験室に窒素ガスを一定圧力で充填した。窒素ガスの圧力は、0Mpa(充填無し)、0.1MPa、0.3MPa、0.5MPaの4条件を評価した。
表2に、沿面距離5mm、7mm、9mm、11mmおよび13mmにおける沿面放電が生じた時の電圧Vを示す。表3に、表2を纏め沿面放電が生じた時の電圧Vを沿面距離で除した値を示す。図10に窒素下での沿面距離5mmにおける調査結果の一例を示すグラフである。横軸が窒素圧力(MPa)、縦軸が沿面放電が生じた時の電圧V(kV)と沿面距離Lの比V/L(kV/mm)である。
ガスの場合、0.3MPaの圧力で充填することで、非常に良好な絶縁耐圧試験の環境を実現できる。たとえば、大気中において印加する電圧Vを4.8kVとした場合に沿面放電が発生しない距離(すなわち沿面距離L)が14mmであったものが、0.3MPaのNガス環境下においては、同じ電圧V(4.8kV)の場合に、沿面放電が発生しない距離(すなわち沿面距離L)が5mm程度まで大幅に低減できることが確認できた。
【0040】
【表2】
【表3】
【符号の説明】
【0041】
1 大判回路基板
2、2a 絶縁基材
2b 基材外周
2d 上面
2e 下面
3 放熱金属板
5 回路パターン
9 切断線
10 回路基板
20 回路金属層
21 回路パターン外周
50 絶縁耐圧試験装置
51 制御装置
55 電源
61 第1電極
62 第2電極
70 導電性シート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10