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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076492
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】眼科装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/107 20060101AFI20240530BHJP
   A61B 3/113 20060101ALI20240530BHJP
   A61B 3/14 20060101ALI20240530BHJP
   A61B 3/117 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
A61B3/107
A61B3/113
A61B3/14
A61B3/117
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188046
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(72)【発明者】
【氏名】滝井 通浩
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA01
4C316AA03
4C316AA24
4C316AA25
4C316AB11
4C316AB19
4C316FA06
4C316FB21
4C316FB26
4C316FY02
4C316FY06
(57)【要約】
【課題】 より適切な前眼部組織の形状を得る。
【解決手段】 被検眼前眼部に撮影光を投光し、撮影光によって光切断された被検眼前眼部からの戻り光を受光して被検眼の前眼部断面画像を取得する断面撮影光学系と、被検眼と断面撮影光学系との所定の位置合わせ状態に対し、前眼部断面画像の取得時における被検眼の回転方向を含む被検眼の偏位を検出する偏位検出手段と、断面撮影光学系により取得された前眼部断面画像を画像処理して所定の前眼部組織の形状を取得する処理手段であって、偏位検出手段による被検眼の回転方向を含む偏位の検出結果に基づき、取得される前眼部組織の形状を補正する処理手段と、を備える。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼前眼部に撮影光を投光し、前記撮影光によって光切断された被検眼前眼部からの戻り光を受光して被検眼の前眼部断面画像を取得する断面撮影光学系と、
被検眼と前記断面撮影光学系との所定の位置合わせ状態に対し、前記前眼部断面画像の取得時における被検眼の回転方向を含む被検眼の偏位を検出する偏位検出手段と、
前記断面撮影光学系により取得された前記前眼部断面画像を画像処理して所定の前眼部組織の形状を取得する処理手段であって、前記偏位検出手段による被検眼の前記回転方向を含む偏位の検出結果に基づき、取得される前記前眼部組織の形状を補正する処理手段と、
を備えることを特徴とする眼科装置。
【請求項2】
請求項1の眼科装置において、
前記偏位検出手段は、前記前眼部断面画像の取得時における被検眼の偏位について、回転方向の偏位か、平面方向の偏位か、を判別する偏位方向判別手段を含み、
前記処理手段は、前記偏位方向判別手段による判別結果に基づき、前記前眼部組織の形状の補正方法を変更することを特徴とする眼科装置。
【請求項3】
請求項1又は2の眼科装置において、
被検眼前眼部の正面画像を取得する正面撮影光学系を備え、
前記偏位検出手段は、前記正面撮影光学系によって得られた前眼部の正面画像を処理して被検眼の視線方向を検出し、検出された視線方向に基づいて前記回転方向の被検眼の偏位を検出することを特徴とする眼科装置。
【請求項4】
請求項1~3の何れかの眼科装置において、
前記前眼部断面画像が被検眼前眼部の複数部位で得られるように前記撮影光を走査する走査手段を備え、
前記処理手段は、前記撮影光の走査毎に、前記偏位検出手段による前記偏位の検出結果に基づき、取得される前眼部組織の形状を補正することを特徴とする眼科装置。
【請求項5】
請求項1~4の何れかの眼科装置において、
前記処理手段は、前記前眼部組織の形状として少なくとも角膜の形状を取得し、前記補正として角膜後面形状及び角膜厚の少なくとも一つを処理することを特徴とする眼科装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被検眼の前眼部組織の形状を得る眼科装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被検眼の前眼部形状を得る眼科装置として、例えば、被検眼の前眼部にスリット光を投光し、シャインプルーフカメラによって前眼部断面画像を得て、角膜前面、角膜後面等の前眼部組織の形状を解析する装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、前眼部断面画像を得る装置としては、光断層干渉計(Optical Coherence Tomography:OCT)が使用されることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012―249768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前眼部断面画像の取得時に、被検眼の位置や向きが所定の位置合わせ状態から偏位したときには、適切な前眼部組織の形状を得る上で、前眼部断面画像を画像処理した結果を補正する必要がある。しかし、従来においては、被検眼の上下方向の偏位に対する考慮までであり、被検眼の回転(回旋)の偏位については考慮されていなかった。
【0005】
本開示は、上記従来技術に鑑み、より適切な前眼部組織の形状を得ることができる眼科装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示における典型的な実施形態が提供する眼科装置は、被検眼前眼部に撮影光を投光し、前記撮影光によって光切断された被検眼前眼部からの戻り光を受光して被検眼の前眼部断面画像を取得する断面撮影光学系と、被検眼と前記断面撮影光学系との所定の位置合わせ状態に対し、前記前眼部断面画像の取得時における被検眼の回転方向を含む被検眼の偏位を検出する偏位検出手段と、前記断面撮影光学系により取得された前記前眼部断面画像を画像処理して所定の前眼部組織の形状を取得する処理手段であって、前記偏位検出手段による被検眼の前記回転方向を含む偏位の検出結果に基づき、取得される前記前眼部組織の形状を補正する処理手段と、を備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】眼科装置の外観図である。
図2】眼科装置の光学系を示す概略図である。
図3】前眼部正面の基準画像の例である。
図4】Y方向のある走査位置で取得された前眼部の断面画像の例である。
図5】被検眼に対するY方向の走査位置の例を説明する図である。
図6】角膜後面の高さ分布マップの一例である。
図7】被検眼の偏位が生じていない場合に取得される正面画像の例である。
図8】被検眼がY方向に偏位した場合の検出と、角膜組織形状の補正方法を説明する図である。
図9】被検眼がX方向に偏位した場合の検出と、角膜組織形状の補正方法を説明する図である。
図10】被検眼が回転方向に偏位した場合の検出と、角膜組織形状の補正方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[概要]
以下、典型的な実施形態の1つについて、図面を参照して説明する。なお、以下の<>にて分類された項目は、独立又は関連して利用されうる。
【0009】
例えば、眼科装置(例えば、眼科装置10)は、断面撮影光学系(例えば、断面撮影光学系300)と、偏位検出手段(例えば、制御部50)と、処理手段(例えば、制御部50)と、を備える。
【0010】
例えば、眼科装置は、正面撮影光学系(例えば、正面撮影光学系200)を備えていてもよい。例えば、正面撮影光学系は、被検眼の前眼部の正面画像を取得する。例えば、眼科装置は、指標投影光学系(例えば、アライメント指標投影光学系400)を備えていてもよい。例えば、眼科装置は、固視標呈示光学系(例えば、固視標呈示光学系150)を備えていてもよい。例えば、眼科装置は、走査手段(例えば、アライメント駆動部13)を備えていてもよい。
【0011】
<断面撮影光学系>
例えば、断面撮影光学系は、被検眼の前眼部断面画像を取得するための光学系である。例えば、被検眼前眼部に撮影光を投光し、撮影光によって光切断された被検眼前眼部からの戻り光を受光して被検眼の前眼部断面画像を撮影する。例えば、断面撮影光学系は、被検眼前眼部に撮影光を投光する投光光学系(例えば、投光光学系300a)と、被検眼の前眼部断面画像を撮影する受光光学系(例えば、受光光学系300b)を備えていてもよい。例えば、投光光学系は、撮影光としてスリット光を投光してもよい。この場合、受光光学系は、スリット光による光切断面とシャインプルーフの関係で配置されたレンズ系(例えば、レンズ系322)および光検出器(例えば、撮像素子321)を有してもよい。
【0012】
<走査手段>
例えば、走査手段は、前眼部断面画像が被検眼前眼部の複数部位で得られるように、断面撮影光学系による撮影光を所定方向に走査する。例えば、撮影光がスリット光の場合、走査手段は、スリット光をラスター走査してもよい。例えば、ラスター走査は、スリット光の長手方向に直交する方向にスリット光を走査することでもよい。この場合、走査手段は、スリット光の走査方向に断面撮影光学系を移動することで、スリット光を走査してもよい。あるいは、走査手段は、スリット光を回転して走査してもよい。この場合、走査手段は、スリット光の投光の光軸を中心にして断面撮影光学系を回転することで、スリット光を走査してもよい。
【0013】
<偏位検出手段>
例えば、偏位検出手段は、被検眼と断面撮影光学系との所定の位置合わせ状態に対し、前眼部断面画像の取得時における被検眼の少なくとも回転方向を含む偏位を検出する。例えば、偏位検出手段は、被検眼と断面撮影光学系との所定の位置合わせ状態で取得された前眼部正面の基準画像と、前眼部断面画像の取得時の前眼部正面画像と、に基づいて被検眼の偏位を検出してもよい。例えば、偏位検出手段は、基準画像における前眼部の特徴点と、前眼部断面画像の取得時の前眼部正面画像における前眼部の特徴点と、の位置変化に基づいて被検眼の偏位を検出してもよい。
【0014】
例えば、偏位検出手段は、前眼部断面画像の取得時における被検眼の偏位について、回転方向の偏位か、平面方向の偏位か、を判別する偏位方向判別手段を含んでいてもよい。例えば、平面方向は被検眼の上下左右方向(XY方向)であってもよい。平面方向における被検眼の上下左右方向の偏位は、被検眼の視線方向と撮影光の投光光学系の光軸(例えば、光軸L1)とが平行な状態で、被検者の顔が上下左右方向に移動することで生じる。例えば、断面撮影光学系の撮影光がスリット光の場合、平面方向は、スリット光の長手方向に直交する方向及びスリット光の長手方向に沿う方向であってもよい。例えば、被検眼の平面方向の偏位には、被検眼の視線方向と撮影光の投光光学系の光軸とが平行な状態で、被検者の顔の左右方向が傾くことにより生じる、被検眼の左右方向の傾斜(言い換えれば、眼のAXISが傾くこと)が含まれていてもよい。
【0015】
例えば、偏位検出手段は、正面撮影光学系によって得られた前眼部正面画像を処理して被検眼の視線方向を検出し、検出された視線方向に基づいて被検眼の回転方向の偏位を検出してもよい。例えば、偏位検出手段は、前眼部正面画像における前眼部の特徴点を検出し、検出された特徴点の位置変化に基づいて被検眼の視線方向を検出してもよい。なお、前眼部の特徴点としては、例えば、瞳孔位置又は虹彩模様が使用されてもよい。
【0016】
例えば、偏位検出手段は、視線方向の検出に関し、前眼部正面の基準画像における被検眼の瞳孔位置(例えば、瞳孔中心)と角膜中心との第1位置関係と、前眼部断面画像の取得時の前眼部正面画像における瞳孔位置と角膜中心との第2位置関係と、の比較に基づいて被検眼の視線方向が変化しているか否かを検出してもよい。
【0017】
例えば、偏位検出手段は、被検眼の平面方向の偏位に関し、前眼部正面の基準画像における前眼部の特徴点と、前眼部断面画像の取得時の前眼部正面画像における前眼部の特徴点と、の位置係の変化に基づいて被検眼の平面方向の偏位を検出してもよい。例えば、前眼部の特徴点としては、代表的には瞳孔位置が利用される。例えば、前眼部の特徴点としては、被検眼の虹彩模様が利用されてもよい。
【0018】
なお、前眼部断面画像の取得時の前眼部正面画像は、撮影光が走査される場合、撮影光の各走査位置で取得された前眼部正面画像とすることができ、被検眼の偏位は、各走査位置における偏位が検出されてもよい。また、例えば、瞳孔位置の検出は、瞳孔中心の他、瞳孔縁を利用する等、種々の方法を利用できる。
【0019】
なお、例えば、被検眼の角膜中心は、指標投影光学系によって被検眼角膜に投影された指標(例えば、プルキンエ像の角膜反射輝点)に基づいて検出されてもよい。
【0020】
<処理手段>
例えば、処理手段は、断面撮影光学系により取得された前眼部断面画像を画像処理して所定の前眼部組織(例えば、角膜組織)の形状を取得する。そして、例えば、処理手段は、偏位検出手段による回転方向を含む被検眼の偏位の検出結果に基づき、取得される前眼部組織の形状を補正する。これにより、より適切な前眼部組織の形状を得ることができる。例えば、角膜形状を適切に、精度よく得ることができる。また、処理手段が取得する前眼部組織は、水晶体が含まれていてもよい。
【0021】
例えば、処理手段は、走査手段によって撮影光(例えば、スリット光)が走査される場合には、撮影光の各走査位置で取得される前眼部断面画像を画像処理して前眼部組織(例えば、角膜組織)の分布形状を取得してもよい。例えば、処理手段は、前眼部組織の分布形状として、角膜前面、角膜後面、角膜厚の少なくとも一つの高さ分布のマップを取得してもよい。また、例えば、処理手段は、前眼部組織の形状情報として、角膜曲率半径を取得してもよい。
【0022】
例えば、処理手段は、走査手段によって撮影光(例えば、スリット光)が走査される場合には、撮影光の走査毎に、偏位検出手段による被検眼の偏位の検出結果に基づき、取得される前眼部組織の形状を補正しもよい。これにより、撮影光の各走査位置で取得される前眼部断面画像を誤った位置のまま採用することなく、適切な位置に補正処理することで、より正確な角膜組織形状を得ることができる。特に、撮影光が走査される場合には、撮影光の走査に時間がかかるため、この間に被検眼が動く可能性が高くなる。このため、被検眼の偏位の検出に基づく前眼部形状の補正が有効となる。
【0023】
例えば、処理手段は、偏位検出手段(例えば、偏位方向判別手段)による、被検眼の回転方向の偏位か平面方向の偏位かの判別結果に基づき、取得される前眼部組織の形状の補正方法を変更してもよい。これにより、被検眼の回転方向の偏位と平面方向の偏位とに応じて、より適切に前眼部形状が補正処理され、より正確な角膜組織形状を得ることができる。
【0024】
例えば、被検眼の平面方向の偏位が有ると検出された場合、処理手段は、検出された平面方向の偏位に基づき、偏位方向とは逆方向に前眼部断面画像をシフトすることで前眼部組織の形状を補正してもよい。例えば、被検眼の回転方向の偏位が有ると検出された場合、処理手段は、検出された被検眼の回転角度に基づき、前眼部断面画像を少なくとも傾斜させることで前眼部組織の形状を補正してもよい。さらに、例えば、処理手段は、被検眼の回転角度に基づき、被検眼の回転方向は逆方向に前眼部断面画像をシフトすることで前眼部組織の形状を補正してもよい。
【0025】
なお、処理手段は、前眼部組織の形状として少なくとも角膜の形状を取得し、前眼部断面画像の取得時に被検眼の偏位がある場合には、角膜後面形状及び角膜厚の少なくとも一つを補正処理してもよい。これにより、特に、角膜後面形状及び角膜厚の少なくとも一方の算出時に、より正確な解析情報を提供できる。
【0026】
[実施例]
<全体構成>
図1は、眼科装置10の外観図である。例えば、眼科装置10は、測定ユニット11、基台12、アライメント駆動部13、顔支持ユニット15、モニタ16、及び、制御部50、を少なくとも有している。
【0027】
測定ユニット11は、被検眼の検査に利用される測定系及び撮影系等を備える。本実施例では、図2に示す光学系が配置されている。アライメント駆動部13は、被検眼に対する測定ユニット11の位置関係を変更する。例えば、アライメント駆動部13は、基台12に対して測定ユニット11を3次元的に移動させることで、被検眼に対して測定ユニット11をX方向(左右方向)、Y方向(上下方向)及びZ方向(前後方向)に移動させる。顔支持ユニット15は、測定ユニット11の正面において被検者の顔を固定するために利用される。顔支持ユニット15は、基台12に対して固定されており、被検者の顔を支持することにより、被検眼を固定する。
【0028】
<光学系>
図2は、眼科装置10の光学系を示す概略図である。一例として、眼科装置10は、断面撮影光学系300、固視標呈示光学系150、正面撮影光学系200、アライメント指標投影光学系400を備える。また、眼科装置10は、付加的に測定光学系100、プラチドリング光学系250を備えていてもよい。また、各光学系の光路を分岐及び結合するハーフミラー501,502,503、対物レンズ505、等を有する。
【0029】
<測定光学系>
例えば、測定光学系100は、被検眼Eの眼屈折力を他覚的に測定する光学系が使用される。例えば、被検眼Eの球面度数(S)、柱面度数(C)、乱視軸角度(A)の各値が、眼屈折力の測定結果として取得される。例えば、測定光学系100は、投影光学系100aと受光光学系100bとを有する。例えば、投影光学系100aは、測定光源を備え、被検眼Eにおける瞳孔の中心部を介して被検眼眼底にスポット状の測定光を投影する。受光光学系100bは、撮像素子を備え、眼底から反射された測定光束の反射光束を、瞳孔の周辺部を介してリング状に取り出し、撮像素子に受光させる。撮像素子上に形成されるリング像が解析されることによって、眼屈折力(S、C、Aの各値)が導出される。
【0030】
なお、受光光学系100bは、いわゆるシャックハルトマンの波面センサを備えるものであってもよい。この場合、被検眼の波面収差が測定され、被検眼の瞳孔における異なる位置での眼屈折力分布が得られる。
【0031】
<固視標呈示光学系>
固視標呈示光学系150は、被検眼Eに対して固視標を呈示する。固視標は、対物レンズ505の光軸上に呈示される。固視標呈示光学系150は、被検眼Eを固視させるために利用される。
【0032】
例えば、固視標呈示光学系150は、可視光を発する光源151、及び固視標板155を少なくとも備える。固視標板155は、眼底共役位置に配置されてもよい。光源151からの固視光束は、光軸L2上の固視標板155とレンズ156を通過した後、ハーフミラー503を透過する。また、レンズ504を通過し、ハーフミラー502を透過し、ハーフミラー501に反射されることで、光軸L1と同軸となる。固視光束は、更に対物レンズ505を介すことで、眼底に到達する。
【0033】
なお、固視標板155は、駆動部161によって光軸L2方向に移動可能とされ、固視標呈示光学系150は、測定光学系100による眼屈折力の測定時には、被検眼に雲霧及び調節負荷を与えるために利用される。また、眼屈折力の測定時には、駆動部161によって、投影光学系100aの測定光源、受光光学系100bの撮像素子等も、固視標板155と一体的に光軸方向に移動される。
【0034】
<正面撮影光学系>
正面撮影光学系200は、被検眼Eの前眼部の正面画像を撮像するために利用される。例えば、正面撮影光学系200は、撮像素子205を備える。撮像素子205は、被検眼前眼部の瞳共役位置に配置されてもよい。正面画像としては、前眼部の観察画像が取得されてもよい。また、アライメント指標投影光学系400によって被検眼角膜に投影された指標像は撮像素子205に撮像され、撮像素子205によって撮影された観察画像は、アライメント等に利用される。
【0035】
<プラチドリング光学系>
プラチドリング光学系250は、被検眼にパターン指標(例えば、プラチドリングパターン)を投影するために使用される。プラチドリング光学系250は、例えば、光源251、導光板252、プラチド板253を備える。プラチド板253は、対物レンズ505より被検眼側に配置される。プラチド板53は、透光体の板に複数のプラチドリングパターンが形成されている。例えば、プラチド板53には、黒塗装された遮光部と、塗装されていない透光部53bが、光軸L1を中心として同心円状に交互に多数形成される。プラチド板253の背後に導光板252が配置される。導光板252は、例えば、アクリル樹脂等の透明樹脂の板で形成される。光源251は、導光板252の背後にリング状に配置される。光源251は、例えば、赤外光または可視光を発するLEDである。光源251から出射した光は、導光板252に導光され、プラチド板253を背後から照明し、被検眼角膜にプラチドリングパターンが投影される。
【0036】
被検眼角膜に投影されたプラチドリングパターンは、正面撮影光学系200によって撮影され、撮影されたリングパターン像が画像処理されることにより、角膜前面の形状分布が解析される。
【0037】
なお、プラチドリング光学系250は、内部プラチド光学系を有していてもよい。プラチド板253の中心は、撮影光が通過するための開口が形成されている。この開口により中心部のプリチドリングパターンが欠落する。これを補うため、より詳細な角膜形状を得るために、内部プラチド光学系が利用される。例えば、内部プラチド光学系は、対物レンズ505より後方(被検眼から離れる側)で、光軸L1に同軸になるように配置される。内部プラチド光学系は、プラチドリングパターンを被検眼に投影する。
【0038】
<断面撮影光学系>
断面撮影光学系300は、前眼部の断面画像を撮影するために利用される。断面撮影光学系300は、投光光学系300aと受光光学系300bと、を備える。
【0039】
投光光学系300aは、測定光学系100における測定光の投光光軸(光軸L1)と同軸であり、前眼部に対して撮影光の例であるスリット光を投光する。投光光学系300aは、光源311及びスリット312等を有する。光源311は、SLD光源であってもよいし、LED光源であってもよいし、その他の光源であってもよい。本実施例では、撮影光として650nm~800nmの間にピーク波長をもつ赤色可視光又は近赤外光が利用される。例えば、光源311は、735nmにピーク波長をもつ光を発する。スリット312は、瞳共役位置に配置されてもよい。
【0040】
本実施例では、前眼部におけるスリット光の通過断面を「切断面」と称する。切断面は、断面撮影光学系の物面となる。本実施例では、スリット光は、前眼部の水平方向(X方向)を光切断するように前眼部に投光されるように、スリット312が配置されている。よって、本実施例では、光軸L1を含む水平面(XZ断面)が切断面として設定される。本実施例では、少なくとも、角膜前面から水晶体後面までの間に切断面が形成される。
【0041】
受光光学系300bは、レンズ系322、及び光検出器の例である撮像素子321等を有する。受光光学系300bにおいて、レンズ系322及び撮像素子321は、前眼部に設定される切断面とシャインプルーフの関係に配置される。すなわち、切断面とレンズ系322の主平面と、撮像素子321の撮像面と、の各延長面が、1本の交線(一軸)で交わるような光学配置となっている。撮像素子321は、スリット光によって光切断された前前眼部からの戻り光(反射光、又は散乱光)を受光する。そして、撮像素子321からの信号に基づいて、前眼部の断面画像が取得される。
【0042】
このような断面撮影光学系300において、光源311からの撮影光束は、光軸L3上のスリット312を介してスリット光束となり、レンズ313を通過した後、ハーフミラー503に反射されることで、光軸L2と同軸となる。また、レンズ504を通過し、ハーフミラー502を透過し、ハーフミラー501に反射されることで、光軸L1と同軸となる。撮影光束は、更に対物レンズ505を介することで、前眼部に到達する。前眼部に形成された切断面からの戻り光は、レンズ322を介して撮像素子321に到達する。なお、レンズ系322には、アライメント指標投影光学系400の光源(光源401、点光源421、点光源431)の波長をカットし、光源311の撮影光の波長を透過するコーティング(波長選択フィルタ)が施されている。これにより、前前眼部断面の撮影時に、アライメント光がノイズになることが防止される。
【0043】
<アライメント指標投影光学系>
アライメント指標投影光学系400は、被検眼Eに対して測定ユニット11(断面撮影光学系300を含む光学系)をアライメント(位置合わせ)するために利用される。アライメント指標投影光学系400は、被検眼の角膜にアライメント用の指標を投影する。アライメント指標投影光学系400は、第1指標投影光学系400Aと、第2指標投影光学系400Bと、を備える。
【0044】
第1指標投影光学系400Aは、被検眼に対して測定ユニット11をXY方向にアライメントするための指標を投影する。第1指標投影光学系400Aは、近赤外光(例えば、900~1000nm)を発する光源401、コリメータレンズ403、ハーフミラー405、を備える。光源401を出射した光は、コリメータレンズ403により略平行光束とされ、ハーフミラー405で反射されることで光軸L1と同軸にされ、被検眼Eの正面方向から投光される。そして、被検眼角膜の反射によってプルキンエ像の角膜反射輝点(指標像)が角膜中心に形成される。この角膜反射輝点は正面撮影光学系200の撮像素子205によって撮像され、撮像された角膜反射輝点に基づいて被検眼に対する測定ユニット11のXY方向のアライメント状態が検出される。
【0045】
なお、第1指標投影光学系400Aは、光軸L1を中心にして配置されるリング状の光源であってもよい。この場合、被検眼角膜に対してマイヤーリング指標が投影され、被検眼角膜の反射によって形成されるマイヤーリング像の中心に基づいて角膜中心が検出される。また、マイヤーリング像は、角膜前面形状の測定に用いられてもよい。マイヤーリング像の場合、角膜前面形状として、マイヤーリング指標が投影された領域における角膜曲率、乱視度数、及び乱視軸角度の各値が取得される。
【0046】
第2指標投影光学系400Bは、被検眼に対して測定ユニット11をZ方向にアライメントするための指標を投影する。第2指標投影光学系400Bは、有限遠の指標を投影するための点光源421と、コリメータレンズを介して無限遠の指標を投影する点光源431と、を備える。点光源421及び点光源431は、赤外光(例えば、900~1000nm)を発する。点光源421及び点光源431は、光軸L1を中心にして上下対称及び左右対称にそれぞれ配置される。
【0047】
第2指標投影光学系400Bによる指標像は、正面撮影光学系200の撮像素子205によって撮像される。そして、例えば、左右対称の点光源421による指標像(プルキンエ像)の間隔と、左右対称の点光源431による指標像(プルキンエ像)の間隔と、が所定の比率で撮像されるように、制御部50が測定ユニット11を前後方向に移動させることで、Z方向のアライメント調整が行われる。
【0048】
<制御系>
制御部50は、眼科装置10の全体の制御を司る。制御部50は、撮像素子205、撮像素子321、測定光学系100の撮像素子、光学系の各光源、モニタ16、アライメント駆動部13、等の各種電気要素が接続されている。また、制御部50は、測定ユニット11によって取得された前眼部断面画像及びその他の各種の検査結果を処理する。モニタ16は、操作部を兼ねたタッチパネルとして機能する。また、モニタ16は、被検眼Eの測定結果(前眼部断面画像、角膜形状の測定結果、等)を画面に表示する。また、制御部50は、記憶装置の例であるメモリ52が接続されている。メモリ52は、撮像素子205で取得された正面前眼部画像、撮像素子321で取得された前眼部の断面画像、測定結果、等が記憶される。また、メモリ52に各種の制御プログラムが記憶されている。
【0049】
本実施例では、アライメント駆動部13は、前眼部断面画像が複数部位で得られるように、スリット光の長手方向に直交する方向にスリット光を走査する走査手段として利用される。すなわち、本実施例では、投光光学系300aによるスリット光が被検眼の水平方向(X方向)を光切断するように前眼部に投光されるため、アライメント駆動部13は測定ユニット11をY方向に移動するように制御されることで、スリット光を走査する。なお、スリット光が被検眼の垂直方向(Y方向)を光切断するように前眼部に投光される構成の場合、アライメント駆動部13は測定ユニット11をX方向に移動するように制御される。
【0050】
<制御動作>
以上のような構成を備える眼科装置10の動作を説明する。本実施例では、眼屈折力測定、プラチドリングパターン像の撮影、及び前眼部断面画像の撮影、が順番に実行される連続測定モードが設定されている場合を説明する。測定モードは、モニタ16の設定画面に予め設定される。もちろん、各測定及び撮影は、単独で実行するように設定可能にされている。
【0051】
<アライメント>
まず、被検眼Eに対する測定ユニット11のアライメントが行われる。検者は、被検者に、顔を顔支持ユニット15へ載せるように指示する。制御部50は、固視標の呈示及び前眼部観察画像の取得を開始する。
【0052】
例えば、制御部50は、正面撮影光学系200を介して取得される前眼部の正面画像に少なくとも基づき、アライメント駆動部13の駆動を制御し、被検眼Eと眼科装置10とを、所定の位置関係に調整する。より詳細には、制御部50は、正面撮影光学系200によって取得される前眼部の正面画像を処理し、第1指標投影光学系400Aの光源401により被検眼角膜に投影された指標(角膜反射輝点)に基づき、角膜頂点に対する測定ユニット11(光軸L1)のXY方向のアライメント状態を検出する。そして、制御部50は、アライメント駆動部13の駆動を制御し、XY方向のアライメント状態が所定の許容範囲に入るように、測定ユニット11をXY方向に移動する。また、制御部50は、第2指標投影光学系400Bによる指標像の間隔に基づき、Z方向(前後方向)のアライメント状態を検出する。そして、制御部50は、アライメント駆動部13の駆動を制御し、Z向のアライメント状態が所定の許容範囲に入るように、測定ユニット11をZ方向に移動する。なお、被検眼Eに対する測定ユニット11のアライメント調整は検者が手動で行ってもよい。例えば、検者は、モニタ16に表示される前眼部の正面画像を観察し、モニタ16の画面上に表示されるスイッチを操作することで測定ユニット11を移動させる。アライメントが完了されると、被検眼の視線方向と光軸L1とが、略一致され、平行な位置関係の状態にされる。
【0053】
<眼屈折力測定>
アライメントが完了すると、測定光学系100によって被検眼Eの眼屈折力が測定される。被検眼Eの眼底には投影光学系100aの測定光が投影され、眼底から反射された測定光束が瞳孔の周辺部を介してリング状に取り出されることで、受光光学系100bの撮像素子にリング像が受光される。制御部50は、撮像されたリング像を解析することにより、被検眼Eの球面度数(S)、柱面度数(C)、乱視軸角度(A)の測定結果を得る。
【0054】
なお、眼屈折力の測定に際しては、本測定の前に予備測定が行われ、予備測定の球面度数に基づいて被検眼Eの眼底に対して固視標板155が共役位置に移動された後、被検眼Eに雲霧を付加するように固視標板155が移動される。そして、被検眼Eに雲霧が付加された状態で本測定が行われる。
【0055】
<プラチドリングパターン像の撮影>
次に、被検眼に対する測定ユニット11のアライメント状態の確認がされ、アライメント完了状態でプラチドリングパターン像の撮影が行われる。被検眼には固視標を固視させる。制御部50は、プラチドリング光学系250の光源251を点灯し、被検眼角膜に投影されたプラチドリングパターン像を正面撮影光学系200によって撮影する。撮像素子205によって取得されたプラチドリングパターン像は、メモリ52に記憶される。制御部50は、撮影されたプラチドリングパターン像を画像処理して解析することで、角膜前面の詳細な形状マップを得る。
【0056】
<前眼部断面画像の撮影>
次に、被検眼前眼部の断面画像(シャインプルーフ画像)が撮影される。ここでは、投光光学系300aにより被検眼前眼部に投光されるスリット光がY方向(スリット光の長手方向に垂直な方向)に走査される場合を説明する。本実施例におけるスリット光の走査は、アライメント駆動部13によって測定ユニット11がY方向に移動されることで行われる。スリット光の走査中、被検眼には固視標呈示光学系150によって呈示される固視標を固視させる。
【0057】
初めに、断面画像の撮影に当たり、被検眼に対する測定ユニット11のアライメントが完了された状態(実施例では光軸L1が被検眼の角膜頂点に位置合わせされた状態)で、正面撮影光学系200によって前眼部正面の基準画像ESが撮像され、メモリ52に記憶される。また、このとき、アライメント完了状態でのスリット光による前眼部の断面画像が同時に撮影され、メモリ52に記憶されてもよい。
【0058】
図3は、前眼部正面の基準画像ESの例である。前眼部正面画像には、第1指標投影光学系400Aの光源401による指標像である角膜反射輝点(プルキンエ像)が現れる。この角膜反射輝点が画像処理されることで、角膜中心KCとして検出される。アライメント完了状態では、光軸L1が位置する撮影中心LOに角膜中心KCが一致している。また、ここで検出される角膜中心KCは角膜頂点と一致している。なお、アライメントにマイヤーリングが使用される場合には、マイヤーリング像の中心が角膜中心KCとして検出されてもよい。
【0059】
また、前眼部正面画像が画像処理されることで、被検眼の特徴点が検出される。例えば、前眼部正面画像における被検眼の瞳孔EPが画像処理されることで、瞳孔中心PCが検出される。なお、正面画像における被検眼の瞳孔中心PCの位置と角膜中心KCの位置は必ずしも一致しないが、図3の基準画像ESの例では、説明を容易にするために、瞳孔中心PCの位置と角膜中心KCの位置が一致した状態で示されている。すなわち、図3の例では、撮影中心LO(撮影画像の中心軸Xoと中心軸Yoの交点)に瞳孔中心PC及び角膜中心KCが位置している。なお、前眼部正面画像には、第2指標投影光学系400Bの点光源421及び点光源431の指標像も出現されるが、図3の例では、その図示を省略している。
【0060】
スリット光の走査は、例えば、Y方向における測定ユニット11の光軸L1の位置が被検眼の上方位置から下方位置に一定速度で移動されることによって行われるものとする。そして、例えば、スリット光による前眼部の断面画像は、測定ユニット11の下方への移動中に所定時間の間隔(例えば、33ms(0.033秒))ごとに取得される。取得された前眼部の断面画像は、Y方向の走査位置に対応付けられ、メモリ52に記憶される。また、各断面画像の取得と同じタイミングで、正面撮影光学系200によって得られた前眼部の正面画像もメモリ52に記憶される。
【0061】
図4は、Y方向のある走査位置で取得された前眼部の断面画像の例である。前眼部の断面画像には、少なくとも角膜前面KFと角膜後面KRとが含まれている。また、水晶体も含まれている。
【0062】
図5は、被検眼に対するY方向の走査位置の例を説明する図である。図5(a)は被検眼角膜のYZ方向の切断面の状態を示し、図5(b)は被検眼を正面から見た図を示している。例えば、図5(a)に示すように、Y方向の走査位置H1~H7(H1、H2、H3、H4、H5、H6、H7)に対応する断面画像CI1~CI7(CI1、CI2、CI3、CI4、CI5、CI6、CI7)が得られるとする。なお、図5では、説明の便宜上、走査位置を7個としたが、例えば、1秒間で被検眼を走査するとすれば、30個の走査位置での断面画像が得られる。Y方向の各走査位置は、測定ユニット11をY方向に移動するモータの制御情報に基づいて取得できる。
【0063】
制御部50は、各断面画像CI1~CI7を画像処理して、各走査位置での角膜組織の形状分布の例である角膜前面KF及び角膜後面KRの位置を求める。次に、制御部50は、各走査位置での角膜前面KF及び角膜後面KRの位置を走査位置H1~H7に対応させて配置することで、角膜前面KF、角膜後面KR、及び角膜厚の少なくとも一つの高さ分布のマップを取得(作製)する。また、制御部50は、前眼部組織の形状情報として、角膜曲率半径を取得してもよい。
【0064】
なお、角膜前面KF及び角膜後面KRについて、各走査位置の間に存在する高さ分布マップは、各位置が連続的に滑らかに繋がるように補間して求めればよい。また、角膜前面KFの分布マップと角膜後面KRの分布マップから角膜厚の分布マップを得ることができる。例えば、角膜前面KF、角膜後面KR及び角膜厚の分布マップは、色分けされたカラーマップ、等高線マップ、等で表現され、モニタ16に表示される。図6は、角膜後面KRの高さ分布マップGKの一例である。角膜後面KRの高さ分布は、色分けされたカラーマップで表現されている。これと同様に、角膜厚等の分布マップも作成され、モニタ16に表示される。
【0065】
また、プラチドリングパターン像の撮影によって角膜前面の詳細な形状分布が得られている場合には、その形状分布の角膜前面位置に、断面撮影で得られた角膜前面KFの位置を対応させ、これによって角膜厚の分布マップを作製してもよい。
【0066】
ここで、スリット光の各走査位置の各断面画像(CI1~CI7)を得る場合、例えば、1~2秒の時間が掛るため、この間に被検眼が動く可能性がある。このため、制御部50は、各走査位置に対応した断面画像を基に角膜組織の形状分布マップを作製する場合に、メモリ52に記憶されている正面画像の基準画像ESと、断面画像が取得された各走査位置で取得された正面画像と、に基づき、被検眼の偏位(動き)を検出する。そして、制御部50は、被検眼の偏位が検出された場合には、角膜組織の形状分布マップを作製するに当たり、検出された被検眼の偏位に基づき、角膜組織の形状分布を補正する。なお、被検眼の偏位は、平面方向の偏位の他、視線方向が変わることで回転方向に偏位する可能性がある。なお、平面方向は、被検眼の左右上下方向(実施例ではXY方向)であり、言い換えれば、スリット光の長手方向に直交する方向及びスリット光の長手方向に沿う方向である。
【0067】
<被検眼の偏位の有無検出>
被検眼の回転方向の偏位に関し、制御部50は、各走査位置で得られた正面画像を処理して被検眼の視線方向の変化を検出する。例えば、制御部50は、前眼部正面の基準画像ESにおける瞳孔位置(例えば、瞳孔中心PC)と角膜中心KCとの第1位置関係と、各走査位置(H1~H7)で取得された前眼部正面画像における瞳孔位置と角膜中心KCとの第2位置関係と、の比較に基づき、各走査位置で被検眼の視線方向が変化しているか否かを検出する。なお、本実施例では瞳孔位置として瞳孔中心PCを使用する。瞳孔位置の検出は、瞳孔中心の他、瞳孔縁を利用する等、種々の方法を利用できる。
【0068】
また、被検眼の平面方向の偏位に関し、例えば、制御部50は、前眼部正面の基準画像ESにおける瞳孔位置(前眼部の特徴点)と、各走査位置(H1~H7)で取得された前眼部正面画像における瞳孔位置(前眼部の特徴点)と、の位置関係に基づいて、各走査位置における被検眼の平面方向の偏位を検出する。なお、瞳孔位置は、前眼部の特徴点の一つであり、前眼部の特徴点として虹彩模様が利用されてもよい。
【0069】
図7は、図5における走査位置H3の断面撮影時において、被検眼の視線方向の変化(すなわち被検眼の回転方向の偏位)がなく、平面方向への偏位も生じていない場合に、正面撮影光学系200によって取得される正面画像EY3の例である。なお、図7の正面画像EY3の左側には、参考図として、被検眼角膜のYZ方向の切断面の状態を示している。図7において、スリット光による被検眼前眼部の光切断は、撮影中心LOの位置でX方向に行われる。
【0070】
この正面画像EY3の例では、瞳孔中心PCと角膜中心KCとの位置関係は、基準画像ESにおける瞳孔中心PCと角膜中心KCとの位置関係と同じである。また、正面画像EY3の例では、被検眼の視線方向と光軸L1(投光光学系300aの光軸)とが平行な状態である。このため、走査位置H3の断面撮影時における被検眼の視線方向は、アライメント完了時から変化していないと検出される。
【0071】
一方、正面画像EY3の瞳孔中心PCは、Y方向においては基準画像ESの瞳孔中心PC(すなわち撮影中心LO)に対して距離DY3だけ下方に位置している。この距離DY3が、走査位置H3で予定される距離であれば、走査位置H3の断面撮影時における被検眼はY方向に偏位していないと検出される。なお、距離DY3は、基準画像ESにおける撮影中心LOに対する瞳孔中心PCの位置関係と、走査位置H3の位置情報と、に基づいて得られる。また、正面画像EY3の瞳孔中心PCは、X方向においては基準画像ESと同じ位置にあり、走査位置H3の断面撮影時における被検眼はX方向に偏位していないと検出される。
【0072】
<平面方向の偏位が有る場合>
被検眼の平面方向の偏位に関し、例えば、制御部50は、前眼部正面の基準画像ESに基づいて各走査位置で予定する瞳孔位置を求め、これと、各走査位置で取得された前眼部正面画像における瞳孔位置と、の比較に基づいて各走査位置における被検眼の平面方向(Y方向及びX方向)の偏位を検出する。
【0073】
図8は、前眼部断面画像の取得時に、被検眼がY方向に偏位した場合の検出と、角膜組織の形状の補正方法を説明する図である。図8(a)は、走査位置H3の断面撮影時において、Y方向の上方向へ被検眼が偏位量Δyだけ偏位した場合に取得される正面画像EY3aの例である。なお、正面画像EY3aの左側には、参考図として、被検眼角膜のYZ方向の切断面の状態を示している。
【0074】
正面画像EY3aの場合、瞳孔中心PCと角膜中心KCとの位置関係は基準画像EY3と同じ(実施例では、瞳孔中心PCと角膜中心KCは同一位置)であるが、撮影中心LOに対する瞳孔中心PCの位置は、Y方向においては距離DY3とは異なり、距離DY3aとなっている。したがって、偏位量Δyは、距離DY3から距離DY3aを差し引くことで得られる(Δy=DY3-DY3a)。
【0075】
そして、制御部50は、各走査位置の各断面画像を画像処理して角膜組織の形状分布の作成に当たり、図8(b)に示すように、走査位置H3で得られた断面画像CI3を、走査位置H3に対して偏位量Δy分だけ下方にシフトした位置H3aに配置する。これにより、Y方向への被検眼の偏位が補正された角膜組織の形状分布が作成される。また、走査位置H3で得られた断面画像CI3を不適切な位置に配置することなく、適切な位置に配置することで、適切な角膜組織の形状分布が得られる。
【0076】
図9は、前眼部断面画像の取得時に、被検眼がX方向に偏位した場合の検出と、角膜組織の形状の補正方法を説明する図である。図9(a)は、走査位置H3の断面撮影時において、X方向の右方向へ被検眼が偏位量Δxだけ偏位した場合に取得される正面画像EY3bの例である。この場合、瞳孔中心PCと角膜中心KCとの位置関係は正面画像EY3と同じ(実施例では、瞳孔中心PCと角膜中心KCは同一位置)であるが、撮影中心LOに対する瞳孔中心PCの位置は、X方向の右側に偏位量Δxだけシフトしている。したがって、偏位量Δxは、X方向における撮影中心LOに対する瞳孔中心PCの距離を算出することで得られる。
【0077】
そして、制御部50は、各走査位置の各断面画像を画像処理して角膜組織の形状分布の作成に当たり、図9(b)に示すように、走査位置H3で得られた断面画像CI3を、被検眼の偏位の方向とは逆方向に偏位量Δxだけシフトした位置に配置する。これにより、X方向への被検眼の偏位が補正された角膜組織の形状分布が作成される。
【0078】
なお、被検眼がY方向及びX方向の両方に偏位している場合には、上記の偏位量Δy及びΔxをそれぞれ得ればよい。そして、偏位が検出された走査位置での断面画像を、検出された偏位量Δy及びΔxに基づいてシフトした位置に配置すればよい。
【0079】
<回転方向の偏位が有る場合>
図10は、被検眼が回転方向に偏位した場合の検出と、角膜組織形状の補正方法を説明する図である。図10(a)は、被検眼がY方向の上方向に角度αで回転した場合において、被検眼角膜のYZ方向の切断面を示す。図10(b)は、走査位置H3の断面撮影時において、Y方向の上方向に被検眼が角度αで偏位した場合に取得される正面画像ER3の例である。角度αは、光軸L1の方向に対する視線方向LSの傾斜の角度である。
【0080】
図10(b)の正面画像ER3の例では、瞳孔中心PCと角膜中心KCは同一位置になく、Y方向に距離DAで離れている。すなわち、基準画像ESにおける瞳孔中心PCと角膜中心KCとは一致した位置関係にあったが、走査位置H3で取得された正面画像における瞳孔中心PCと角膜中心KCとの位置関係は、Y方向に距離DAで離れた状態に変化している。これにより、被検眼の視線方向LSが光軸L1と平行な関係からY方向に傾斜し、被検眼の回転方向の偏位が生じていることが検出される。
【0081】
ここで、図10(a)において、角膜曲率半径をR、前房深度の距離をACDとし、瞳孔中心PCの移動量として正面画像から得られる距離DAを使用すると、被検眼の回転方向の偏位である回転角度αは、次の式で得られる。
【0082】
sinα=DA/(R-ACD)
なお、例えば、角膜曲率半径Rは、アライメント完了時に撮影された前眼部の断面画像を画像処理し、角膜前面の形状を算出することで得られる。あるいは、プラチドリングパターンによる角膜前面形状の解析結果によって得てもよい。前房深度の距離ACDは、角膜頂点から水晶体前面までの距離であり、これもアライメント完了時に撮影された前眼部の断面画像に基づいて得られる。また、上記の回転角度αの算出方法は一例であり、この他にも種々の算出方法が有り得る。
【0083】
被検眼の回転方向の偏位が検出された場合、制御部50は、角膜組織の形状分布の作成に当たり、角膜組織形状の補正について、平面方向の偏位の場合とは異なる方法で行う。これは、先の図10(a)に示したように、走査位置H3で得られる断面形状は、本来の断面形状に対して角度αで傾斜した断面形状が得られるためである。制御部50は、各走査位置の各断面画像を画像処理して角膜組織の形状分布の作成に当たり、図10(c)に示すように、走査位置H3で得られた断面画像CI3を角度αだけ傾斜した上で、被検眼の回転方向とは逆方向にシフトした位置H3Rに配置する。なお、断面画像CI3のシフト位置H3Rは、角度αに基づいて得ることができる。例えば、シフト位置H3Rは、角度α、距離DA、走査位置H3、等に基づき、図10(a)の関係性から数学的に求められる。
【0084】
以上のような被検眼の回転方向の偏位の検出に基づく補正処理により、走査位置H3で得られた断面画像CI3を誤った位置のまま採用することなく、より正確な角膜組織形状を得ることができる。
【0085】
なお、スリット光をY方向(又はX方向)へ走査するために測定ユニット11が移動中も、被検眼は固視標を固視する。被検眼の視度が0D(ディオプタ)の場合、測定光学系10による眼屈折力測定で、固視標は無限遠に置かれているため、基本的に、測定ユニット11の移動中も、被検眼の視線方向は変わらない。一方、被検眼の視度が0D以外の場合、例えば、固視標は近方に置かれるため、これを固視する被検眼の視線方向は、測定ユニット11がY方向(又はX方向)に移動されることに伴って変わる可能性がある。この場合であっても、上記のような被検眼の回転方向の偏位の検出により、各走査位置で取得される断面画像の位置が補正されるため、適切な角膜組織形状を得ることができる。
【0086】
なお、図10では、被検眼の視線方向LSがY方向に変化している例を説明したが、視線方向LSがX方向に変化している場合にも、同様な方法によって被検眼の視線方向及び回転の偏位が検出される。そして、X方向の回転の場合、角膜組織形状の補正については、検出された回転角度分だけ走査位置で得られた断面画像を戻せばよい。また、被検眼の視線方向LSがY方向及びX方向に複合して変化している場合、角膜組織形状の補正については、Y方向の補正とX方向の補正とを複合して行えばよい。
【0087】
以上のように、前眼部断面画像を画像処理して前眼部組織(例えば、角膜組織)の形状を取得する場合に、回転方向を含む被検眼の偏位の検出に基づいて前眼部組織の形状が補正されるため、より適切な前眼部組織の形状を得ることができる。特に、角膜後面形状及び角膜厚の少なくとも一方の算出時に、上記のような補正処理が行われることにより、より正確な角膜組織形状の解析情報を提供できる。
【0088】
<変容例>
以上、本開示の典型的な実施例を説明したが、本開示はここに示した実施例に限られず、種々の変容が可能である。
【0089】
例えば、上記の実施例では、撮影光(例えば、スリット光)を走査する場合を説明したが、上記の被検眼の回転方向及び平面方向の偏位の検出に基づく前眼部組織形状の補正は、撮影光が走査されない場合にも適用され得る。
【0090】
また、上記の実施例では、断面撮影光学系300によるスリット光の走査はY方向又はX方向の平面方向に行われるものとしたが、スリット光の投光の光軸(光軸L1)を中心に断面撮影光学系300を回転することで、スリット光が回転方向に走査されてもよい。この場合、受光光学系300bは、投光光学系300aと一体的に光軸L1を中心にして回転される構成とすればよい。スリット光が回転方向に走査される場合も、被検眼の回転方向及び平面方向の偏位の検出に基づき、前述と同様な考え方により前眼部組織形状の算出が補正される。
【0091】
また、断面撮影光学系300は、スリット光を被検眼に投光し、シャインプルーフの関係に配置される撮影系を利用するものとしたが、これに限られない。断面撮影光学系300は、前眼断面画像を得られる構成であればよく、例えば、光断層干渉計のOCT光学系が利用されてもよい。
【0092】
また、上記では、被検眼の偏位の検出に関し、典型的な例として、断面撮影光学系300の投光の光軸L1と同軸の正面撮影光学系200によって前眼部正面画像を撮影し、撮影された正面画像における前眼部の特徴点(例えば、瞳孔位置)を利用するものとのとしたが、これに限られない。例えば、正面撮影光学系200は、被検眼前眼部を2つ以上の異なる方向から撮影し、2つ以上の正面画像を取得する光学系であってもよい。この場合、制御部50は、異なる方向から撮影した各正面画像を処理して前眼部の特徴点(例えば、瞳孔位置)を検出し、検出した前眼部の特徴点の位置変化に基づいて被検眼の視線方向を検出し、これに基づいて被検眼の回転方向の偏位を検出することでもよい。また、被検眼の特徴点の検出として、瞳孔の他、虹彩模様を利用してもよい。
【0093】
また、上記では被検眼の平面方向の偏位の検出は、XY方向における平行移動を例としたが、被検眼の眼の傾き(顔の左右方向が上下に傾き、眼のAXISが傾くこと)が含まれていてもよい。例えば、制御部50は、正面前眼部画像の基準画像ESと断面画像取得時の正面前眼部画像とにおける前眼部(例えば、虹彩模様)の共通の特徴点を検出し、検出した特徴点の変化に基づき、眼の傾き角度β(図示を略す)を検出する。あるいは、傾き角度βの検出には、顔カメラが利用されてもよい。例えば、顔カメラは、被検者の左右眼を含む被検者の顔を撮影するように眼科装置10に配置される。制御部50は、所定の位置合わせ状態における顔カメラの撮影画像と、断面画像取得時における顔カメラの撮影画像と、を比較することで眼の傾き角度βを検出する。そして、制御部50は、傾き角度βに基づき、取得される前眼部組織形状を補正する。例えば、断面画像を検出された傾き方向とは逆方向に傾き角度βだけ傾けるように補正すればよい。
【0094】
また、上記では処理手段(制御部50)によって取得される前眼部組織の形状として、角膜組織形状を例にしたが、断面撮影光学系300で撮影される前眼部断面画像には水晶体も含まれるため、水晶体の形状が取得されてもよい。この場合も、被検眼の回転方向を含む偏位の検出結果に基づき、角膜形状の補正と同様な考え方により、取得される水晶体の形状が補正処理される。
【符号の説明】
【0095】
10 眼科装置
13 アライメント駆動部
50 制御部
52 メモリ
150 固視標呈示光学系
200 正面撮影光学系
300 断面撮影光学系
300a 投光光学系
300b 受光光学系
321 撮像素子
400 アライメント指標投影光学系
図1
図2
図3
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図7
図8
図9
図10