(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076500
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】撹拌装置
(51)【国際特許分類】
B01F 35/53 20220101AFI20240530BHJP
B01F 27/80 20220101ALI20240530BHJP
【FI】
B01F35/53
B01F27/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188065
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 嘉奈子
(72)【発明者】
【氏名】西岡 琢治
(72)【発明者】
【氏名】宮下 雅臣
【テーマコード(参考)】
4G037
4G078
【Fターム(参考)】
4G037DA30
4G037EA04
4G078BA05
4G078CA08
4G078DA01
4G078DA21
4G078EA20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】被撹拌液量によらず、板状部材を液面近傍に配置させ、気泡の噛みこみを抑制可能な撹拌装置を提供する。
【解決手段】被撹拌液体7の充填された撹拌槽6、撹拌翼8、および撹拌翼8が取り付けられた回転軸9から構成され、被撹拌液体7の液面を浮遊する板状部材10を設ける、もしくは板状部材10が回転軸9に沿って移動可能な機構を設けることで、被撹拌液量によらず板状部材10を液面近傍に配置させ、気泡の噛みこみを抑制する構成とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
撹拌槽と、
前記撹拌槽の内部に設けられた、撹拌翼を備えた回転軸と、
被撹拌液体の液面に浮遊する板状部材であって、当該板状部材の内側を前記回転軸が
貫通し、前記撹拌槽の内壁面および前記回転軸に固定されていない板状部材と、
を有する、撹拌装置。
【請求項2】
撹拌槽と、
前記撹拌槽の内部に設けられた、撹拌翼を備えた回転軸と、
被撹拌液体の液面の近傍に位置する板状部材であって、当該板状部材の内側を前記回転
軸が貫通し、前記撹拌槽の内壁面に固定されておらず、前記回転軸に沿って移動可能に
前記回転軸に固定された板状部材と、
を有する、撹拌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気泡の噛みこみを抑制する撹拌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
撹拌装置は化学工業における様々な反応機、混合機などとして幅広い用途で利用されている。
図5は一般的な撹拌装置の概略図である。
図5に示すように、撹拌装置30は被撹拌液体2の充填された撹拌槽1、流体を撹拌するための撹拌翼3、撹拌翼3が取り付けられた回転軸4、および邪魔板5から構成されており、図示しないモーターで回転軸4を回転させることで、充填された被撹拌液体2を撹拌する。
【0003】
撹拌装置30において、撹拌翼3で被撹拌液体2を撹拌すると、通常回転軸4の周りに下降渦巻流が形成されるため、被撹拌液体2の中に気泡を噛み込むという現象が起こる。噛み込んだ気泡は、被撹拌液体2の見かけ体積の増加、伝熱不良等の原因となっており、噛み込んだ気泡を破壊する方法あるいは気泡を噛み込まなくする方法が望まれていた。
【0004】
そこで、撹拌装置内での気泡の噛みこみを抑制できる部材を設けた撹拌装置が提案されていた(特許文献1参照)。この撹拌装置では、撹拌槽内壁に中央部が開口した板状部材を溶接する、もしくは撹拌槽内壁の任意の箇所に突起を設け、板状部材を突起に載せることで回転軸周りの下降渦巻流の発生を抑え、気泡の噛み込みを抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されている撹拌装置は、気泡の噛みこみを抑制するための板状部材が撹拌槽の高さ方向に固定されている。そのため、生産する品種によって被撹拌液量を変更する場合や、被撹拌液体を抜き出しながら撹拌する場合などは、板状部材が液面から完全に露出して、気泡の噛みこみを抑制できなくなる。
【0007】
本発明は、被撹拌液量によらず板状部材を液面近傍に配置し、気泡の噛みこみを抑制可能な撹拌装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の撹拌装置は、撹拌槽と、上記撹拌槽の内部に設けられた、撹拌翼を備えた回転軸と、被撹拌液体の液面に浮遊する板状部材であって、当該板状部材の内側を上記回転軸が貫通し、上記撹拌槽の内壁面および上記回転軸に固定されていない板状部材と、を有する。
【0009】
上記課題を解決する本発明の別態様の撹拌装置は、撹拌槽と、上記撹拌槽の内部に設けられた、撹拌翼を備えた回転軸と、被撹拌液体の液面の近傍に位置する板状部材であって、当該板状部材の内側を上記回転軸が貫通し、上記撹拌槽の内壁面に固定されておらず、上記回転軸に沿って移動可能に上記回転軸に固定された板状部材とを有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の撹拌装置を用いれば、液面を浮遊する板状部材を設けることで、被撹拌液体の量によらず気泡の噛みこみを抑制できる。
【0011】
また、本発明の別態様の撹拌装置を用いれば、板状部材が回転軸に沿って高さ方向に移動できるため、被撹拌液体の量に応じて、被撹拌液体の液面の近傍にくるように板状部材の位置を移動させることで、被撹拌液体の量によらず気泡の噛みこみを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の撹拌装置の一実施形態の概略構成を示す図である。
【
図2】本発明の撹拌装置の別の実施形態の概略構成を示す図である。
【
図3】本発明の撹拌装置と従来の撹拌装置の実験時の様子を示す図である。
【
図4】
図3の実験時の様子を図示した模式図である。
【
図5】一般的に使用される撹拌装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の最良の実施形態の例を、図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の撹拌装置の一実施形態の概略構成を示す図であり、
図1(a)は撹拌装置の概略縦断面図、
図1(b)は板状部材の斜視図である。
【0014】
図1に示すとおり、本実施形態の撹拌装置31は、被撹拌液体7の充填された撹拌槽6、撹拌翼8、および撹拌翼8が取り付けられた回転軸9から構成される。本撹拌装置31は、主にバッチ式での運転での適用を想定しているが、液体が絶えず流出入する連続式運転でも適用できる。 撹拌翼8の形状は特に制限されず、例えばパドル型、タービン型、アンカー型等適宜選択され、翼枚数も限定されない。
【0015】
撹拌槽6の形状、大きさ等は特に制限されず、必要に応じて被撹拌液体7の加熱、冷却等の手段、例えば加熱、冷却用の媒体が導入可能なジャケットを設けてもよい。また、撹拌効率を向上させるために、1枚または2枚以上の邪魔板を設けてもよい。
【0016】
板状部材10には、
図1(b)のように孔11が開けられており、板状部材10と回転軸9とを固定しないようにして、孔11に回転軸9を貫通させる。孔11の形状は特に制限されず、任意の形状が選択される。例えば
図1(b)に示したような円形でもよいし、楕円形や四角等の多角形が挙げられる。また、板状部材10は撹拌槽6の内壁面とも固定されていない。
【0017】
板状部材10の厚みは特に制限されず、板状部材10の強度等を考慮して任意に選択される。板状部材10の外周形状は撹拌槽6に応じて適宜決めればよく、特に制限されない。例えば
図1(b)に示したような円形もしくは楕円形、四角形等の多角形等が挙げられる。
【0018】
板状部材10は被撹拌液体7の密度よりも小さい材料で構成されている。板状部材10の材料としては、例えばEVA樹脂(エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂)や発泡ポリスチレン等が使用される。板状部材10は撹拌槽6の内壁面や回転軸9に固定されておらず、被撹拌液体7の密度よりも小さい材料で構成されているので、板状部材10は回転軸9を中心として被撹拌液体7の液面を浮遊する。これにより、被撹拌液量によらず、撹拌による回転軸周りの下降渦巻流の発生が抑えられ、気泡の噛みこみを抑制することができる。
【0019】
なお、孔11の開口面積があまりに大きいと、回転軸9と孔11の隙間で下降渦巻流が発生して気泡を噛みこみやすくなるため、孔11の直径は回転軸9の直径の1.5倍以下が好ましい。
【0020】
被撹拌液体の種類に制限はないが、例えば水や樹脂、スラリー(液体と粒子の混合物)が挙げられる。泡を噛み込み易い液体であるほど、本発明の撹拌装置の効果が顕著に発現する。
【0021】
本発明の別の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図2は本発明の撹拌装置の別の実施形態の概略構成を示す図であり、
図2(a)は撹拌装置の概略縦断面図、
図2(b)は板状部材の斜視図である。
【0022】
図2に示すとおり、本実施形態の撹拌装置32は、被撹拌液体13の充填された撹拌槽12、撹拌翼14、撹拌翼14が取り付けられた回転軸15から構成される。本撹拌装置32も、撹拌装置31と同様に主にバッチ式運転を想定しているが、液体が絶えず流出入する連続式運転でも適用できる。
【0023】
撹拌翼14の形状は特に制限されず、例えばパドル型、タービン型、アンカー型等適宜選択され、翼枚数も限定されない。
【0024】
撹拌槽12の形状、大きさ等は特に制限されず、必要に応じて被撹拌液体13の加熱、冷却等の手段、例えば加熱、冷却用の媒体が導入可能なジャケットを設けてもよい。また、撹拌効率を向上させるために、1枚または2枚以上の邪魔板を設けてもよい。
【0025】
図2(b)のように、板状部材16には回転軸15が貫通しており、板状部材16は、移動固定機構17によって、回転軸15に沿って高さ方向に移動可能に回転軸15に固定されている。一方、板状部材15は撹拌槽12の内壁面とは固定されていない。
【0026】
移動固定機構17としては、例えば、回転軸15の外周を雄ネジとし、板状部材16の回転軸15が貫通している穴の内周を雌ネジとする構成がある。板状部材16を回転軸15の周りで回転させることで、板状部材16を回転軸15に沿って高さ方向に移動させ、任意の位置で固定できる。これ以外でも、板状部材16を回転軸15の沿って高さ方向に移動させ、任意の位置で固定できるのであれば、移動固定機構17はどんな構造であってもよい。また、被撹拌液体13の液面位置に応じて、板状部材16を自動的に移動できるように、液面センサ、モーター、制御機器を備えていてもよい。
【0027】
板状部材16の厚みは特に制限されず、板状部材16の強度等を考慮して任意に選択される。板状部材16の外周形状は撹拌槽12に応じて適宜決めればよく、特に制限されない。例えば
図2(b)に示したような円形もしくは楕円形、四角形等の多角形等が挙げられる。
【0028】
上記したように、板状部材16を回転軸15に沿って高さ方向に移動でき、任意の位置で固定できるので、被撹拌液体13の量に応じて、板状部材16を被撹拌液体13の液面の近傍に位置するように移動させることができる。これにより、被撹拌液体13の量によらず、撹拌による回転軸15周りの下降渦巻流の発生が抑えられ、気泡の噛みこみを抑制することができる。ここで、「被撹拌液体の液面の近傍に位置する」とは、液体中の液面に近い位置であってもよく、あたかも液面に浮いている状態であってもよい。
【0029】
また、上記したように、被撹拌液体13の液面位置に応じて板状部材16を自動的に移動できるようにすれば、被撹拌液体13が絶えず流出入する連続式運転においても、板状部材16が被撹拌液体13の液面位置の変動に追従できる。
【0030】
なお、板状部材16の面積があまりに小さいと、気泡噛みこみ抑制効果が小さくなるため、板状部材16の中心から外周までの距離は撹拌槽12の半径の1/4倍以上が好ましい。
【実施例0031】
以下、従来の撹拌装置と比較した本発明の撹拌装置の効果を実施例で説明する。
【0032】
図3に、実施例1および比較例1の撹拌装置での実験時の様子を示す。
図4に、
図3の実験時での液面の様子を分かり易くするために図示した模式図を示す。
図3(a)、
図3(b-1)、
図4(a)、
図4(b-1)は撹拌装置の側面図を、
図3(b-2)、
図4(b-2)は撹拌装置の上面図を示す。
【0033】
(実施例1)
図3(b-1)、
図4(b-1)のとおり、実施例1の撹拌装置は、被撹拌液体の充填された撹拌槽23、撹拌翼24、撹拌翼24が取り付けられた回転軸25、および板状部材26で構成した。
【0034】
撹拌槽23の内径は100[mm]、高さは130[mm]であった。回転軸25の外径は8[mm]であり、撹拌翼24は翼径50[mm]の4枚ピッチパドル翼、板状部材26はEVA製の厚さ1[mm]のマットで外径は80[mm]、板状部材26に開けられた孔27の直径は9[mm]であった。
【0035】
撹拌槽23に水を820[cc]入れた。板状部材26の孔27に、撹拌翼24が取り付けられた回転軸25を貫通させ、撹拌翼24が撹拌槽23の底から60[mm]の位置になるように、回転軸25を図示しないモーターに取り付けた。板状部材26は水の液面に浮いた状態になっていた。モーターにより回転軸25を240[rpm]で時計方向に回転させ、撹拌中の被撹拌液体の液面を観察した。
【0036】
(比較例1)
板状部材を取り外した以外は、実施例1と同じ条件で実験を行った。
【0037】
以上の撹拌装置を用いて被撹拌液体を撹拌した結果を説明する。
【0038】
比較例1の従来の撹拌装置は、回転軸21近傍で下降渦巻流が発生し、被撹拌液体の液面は凹状にへこみ、
図3(a)、
図4(a)に示す液面18(点線)となり、下降渦巻流の中心から気泡を噛みこんだ。
【0039】
一方、実施例1の本発明の撹拌装置は、回転軸25近傍で下降渦巻流が発生せず、被撹拌液体の液面は平らで
図3(b-2)、
図4(b-2)に示す液面22(点線)となり、気泡を噛みこむことはなかった。よって、本発明の撹拌装置により気泡の噛みこみを抑制できることを確認した。