(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076511
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】偏光フィルム、光学フィルムおよび画像表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20240530BHJP
【FI】
G02B5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188077
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 達也
(72)【発明者】
【氏名】田中 亜樹子
(72)【発明者】
【氏名】水野 瑞穂
(72)【発明者】
【氏名】笹川 泰介
(72)【発明者】
【氏名】三田 聡司
【テーマコード(参考)】
2H149
【Fターム(参考)】
2H149AA02
2H149AA18
2H149AA19
2H149AB12
2H149AB13
2H149BA02
2H149CA02
2H149EA12
2H149EA22
2H149FA03W
2H149FA05X
2H149FA13X
2H149FA61
2H149FD47
(57)【要約】
【課題】高温高湿環境下における偏光度の低下が抑制された偏光フィルムを提供すること。
【解決手段】偏光子の少なくとも一方の面に分子接合層を介して樹脂保護フィルムが積層された偏光フィルムであって、分子接合層は、少なくとも分子結合剤により形成されたものであって、分子結合剤は、少なくとも反応性基Aおよび反応性基Bを有するトリアジン環含有化合物であり、反応性基Aは、アミノ基、アジド基、ジアゾメチル基、ジアジリン基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基およびエポキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基であり、反応性基Bは、シラノール基および加水分解反応によりシラノール基を生成し得る基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基であり、分子接合層の前記樹脂保護フィルム側には、分子接合層と樹脂保護フィルムとが互いに相溶した相溶層が形成されていることを特徴とする偏光フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光子の少なくとも一方の面に分子接合層を介して樹脂保護フィルムが積層された偏光フィルムであって、
前記分子接合層は、少なくとも分子結合剤により形成されたものであって、
前記分子結合剤は、少なくとも反応性基Aおよび反応性基Bを有するトリアジン環含有化合物であり、
前記反応性基Aは、アミノ基、アジド基、ジアゾメチル基、ジアジリン基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基およびエポキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基であり、
前記反応性基Bは、シラノール基および加水分解反応によりシラノール基を生成し得る基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基であり、
前記分子接合層の前記樹脂保護フィルム側には、前記分子接合層と前記樹脂保護フィルムとが互いに相溶した相溶層が形成されており、
前記相溶層が、前記分子接合層の厚みに対し、50~90%の厚みで形成されたものであることを特徴とする偏光フィルム。
【請求項2】
前記トリアジン環含有化合物は、下記一般式(1);
【化1】
(ただし、R
1およびR
2はアミノ基、アジド基、ジアゾメチル基、ジアジリン基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基およびエポキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基であり、R
1とR
2とは同一の官能基であっても異なる官能基であってもよい。Yは2価の有機基である。Xはシラノール基および加水分解反応によりシラノール基を生成し得る基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基である。)で表されるトリアジン環含有化合物である請求項1に記載の偏光フィルム。
【請求項3】
前記一般式(1)で表されるトリアジン環含有化合物のR1およびR2のいずれか一方または両方がアミノ基である請求項2に記載の偏光フィルム。
【請求項4】
前記一般式(1)で表されるトリアジン環含有化合物のR1およびR2のいずれか一方または両方がアジド基である請求項2に記載の偏光フィルム。
【請求項5】
前記分子接合層の厚みが0.001~0.200μmである請求項1に記載の偏光フィルム。
【請求項6】
請求項1に記載の偏光フィルムが、少なくとも1枚積層されていることを特徴とする光学フィルム。
【請求項7】
請求項1に記載の偏光フィルム、または請求項6に記載の光学フィルムが用いられていることを特徴とする画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光子の少なくとも一方の面に分子接合層を介して樹脂保護フィルムが積層された偏光フィルムに関する。当該偏光フィルムはこれ単独で、またはこれを積層した光学フィルムとして液晶表示装置(LCD)、有機EL表示装置、CRT、PDPなどの画像表示装置を形成し得る。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置等の画像表示装置には、偏光子が用いられている。偏光子は、代表的には、ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂フィルムをヨウ素等の二色性物質で染色することにより製造される。近年、画像表示装置の薄型化の要望が高まっている。そのため偏光子についても、より薄型化することが求められている。しかしながら、染色工程でPVA系樹脂フィルムに取り込まれるヨウ素の量には限度があるため、単純に偏光子を薄型化してしまうと、PVAに対するヨウ素の割合が変わらず、PVA系樹脂フィルムが薄くなった分、ヨウ素の含有量も減少する。その結果、偏光子の透過率が上昇してしまい、偏光特性の低下が起こる。そのため、従来よりも、より高いヨウ素含有量を有する偏光子が求められている。しかし、より高いヨウ素含有量を有する偏光子においては、高温高湿環境下で光学特性が著しく低下するという耐久性の問題がある。
【0003】
ところで、下記特許文献1では、ポリビニルアルコール系偏光フィルムの熱収縮による外観不良を抑制し、耐久性に優れる偏光板の提供を目的として、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムと、偏光フィルムの少なくとも一方の面に、接合層を介して積層された透光性を有する支持基材と、を備える偏光板において、接合層を偏光フィルムと支持基材とを化学結合により結ぶ分子接合剤からなるもので形成する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の技術は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムの熱収縮による外観不良の抑制を課題とするものであって、高温高湿環境下における偏光度の低下に関し、何ら言及していない。
【0006】
本発明は上記実情に鑑みて開発されたものであり、高温高湿環境下における偏光度の低下が抑制された偏光フィルムを提供することを目的とする。
【0007】
さらには、前記偏光フィルムを用いた光学フィルムを提供すること、前記偏光フィルムまたは光学フィルムを用いた画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、偏光子と樹脂保護フィルムとを特定の分子結合剤により形成された分子接合層を介して積層し、かつ該分子接合層内の樹脂保護フィルム側に、分子接合層と樹脂保護フィルムとが互いに相溶した相溶層が形成された偏光フィルムにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を解決するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、偏光子の少なくとも一方の面に分子接合層を介して樹脂保護フィルムが積層された偏光フィルムであって、前記分子接合層は、少なくとも分子結合剤により形成されたものであって、前記分子結合剤は、少なくとも反応性基Aおよび反応性基Bを有するトリアジン環含有化合物であり、前記反応性基Aは、アミノ基、アジド基、ジアゾメチル基、ジアジリン基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基およびエポキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基であり、前記反応性基Bは、シラノール基および加水分解反応によりシラノール基を生成し得る基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基であり、前記分子接合層の前記樹脂保護フィルム側には、前記分子接合層と前記樹脂保護フィルムとが互いに相溶した相溶層が形成されており、前記相溶層が、前記分子接合層の厚みに対し、50~90%の厚みで形成されたものであることを特徴とする偏光フィルム(1)に関する。なお、相溶層の確認方法については後述する。
【0010】
上記偏光フィルム(1)において、前記トリアジン環含有化合物は、下記一般式(1);
【化1】
(ただし、R
1およびR
2はアミノ基、アジド基、ジアゾメチル基、ジアジリン基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基およびエポキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基であり、R
1とR
2とは同一の官能基であっても異なる官能基であってもよい。Yは2価の有機基である。Xはシラノール基および加水分解反応によりシラノール基を生成し得る基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基である。)で表されるトリアジン環含有化合物である偏光フィルム(2)が好ましい。
【0011】
上記偏光フィルム(2)において、前記一般式(1)で表されるトリアジン環含有化合物のR1およびR2のいずれか一方または両方がアミノ基である偏光フィルム(3)が好ましい。
【0012】
上記偏光フィルム(2)において、前記一般式(1)で表されるトリアジン環含有化合物のR1およびR2のいずれか一方または両方がアジド基である偏光フィルム(4)が好ましい。
【0013】
上記偏光フィルム(1)~(4)のいずれかにおいて、前記分子接合層の厚みが0.001~0.200μmである偏光フィルム(5)が好ましい。
【0014】
また本発明は、偏光フィルムが、少なくとも1枚積層されていることを特徴とする光学フィルム(6)に関する。
【0015】
さらに本発明は、偏光フィルム(1)~(5)いずれか、または光学フィルム(6)が用いられていることを特徴とする画像表示装置(7)に関する。
【発明の効果】
【0016】
偏光フィルムの薄型化に伴い、高温高湿環境下において偏光度が低下することで、光学特性の悪化が問題となっていたことは前記のとおりである。本発明に係る偏光フィルムでは、特定の分子結合剤により形成された分子接合層により、かかる偏光子と樹脂保護フィルムとを積層している。その結果、高温高湿環境下における偏光度の低下が抑制された偏光フィルムとなり得る。このような効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように推察可能である。
【0017】
高温高湿下において、優れた偏光特性を維持するためには、偏光子内からヨウ素が抜ける現象(以下、「ヨウ素抜け」ともいう)を抑制する必要がある。本発明者らが鋭意検討した結果、前記特定の偏光子と樹脂保護フィルムとを、特定の分子結合剤、具体的には反応性基Aおよび反応性基Bを有するトリアジン環含有化合物により形成された分子接合層により積層することで、分子接合層と樹脂保護フィルムとの間に共有結合が形成される。その結果、分子結合層内の樹脂保護フィルム側に相溶層を形成し得ることが判明した。かかる相溶層が形成されることにより、偏光子が樹脂保護フィルムにより強固に固定され、高温高湿下での偏光子の膨張が抑制されることで、偏光子からのヨウ素抜けが抑制される。その結果、偏光フィルムの偏光特性の加湿信頼性が著しく向上することが判明した。特に一般式(1)で表されるトリアジン環含有化合物により分子接合層を形成した場合、高温高湿環境下における偏光フィルムの偏光度の低下を著しく抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る偏光フィルムは、偏光子の少なくとも一方の面に分子接合層を介して樹脂保護フィルムが積層されており、前記分子接合層は、少なくとも分子結合剤により形成される。
【0019】
<分子接合層>
分子接合層を形成する分子結合剤は、少なくとも反応性基Aおよび反応性基Bを有するトリアジン環含有化合物である。反応性基Aは、アミノ基、アジド基、ジアゾメチル基、ジアジリン基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基およびエポキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基である。アミノ基に関しては、無置換または置換アミノ基、1級アンモニウム基、2級アンモニウム基、3級アンモニウム基、4級アンモニウム基が挙げられ、好適には例えばアミノエチル基やアミノエチルアミノ基などが挙げられる。
【0020】
反応性基Bは、シラノール基および加水分解反応によりシラノール基を生成し得る基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基である。加水分解反応によりシラノール基を生成し得る基は、「Si-Z」で表される基であり、Zとしてはメトキシ基、エトキシ基、n-またはイソプロポキシ基などの炭素数1~10のアルコキシ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子が挙げられる。
【0021】
本発明においては、トリアジン環含有化合物として、下記一般式(1);
【化2】
(ただし、R
1およびR
2はアミノ基、アジド基、ジアゾメチル基、ジアジリン基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基およびエポキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基であり、R
1とR
2とは同一の官能基であっても異なる官能基であってもよい。Yは2価の有機基である。Xはシラノール基および加水分解反応によりシラノール基を生成し得る基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基である。)で表されるトリアジン環含有化合物であることが好ましい。Yはメチレン基やエチレン基など、炭素数1~10のアルキレン基であり、アミノ基や加水分解反応によりシラノール基を生成し得る基は前記と同様である。
【0022】
本発明においては、特に分子結合剤として上記一般式(1)で表される化合物を使用した場合、分子結合層の樹脂保護フィルム側に、より広範囲に相溶層が形成されることで、分子接合層が偏光子の膨潤をさらに抑制することが可能となり、その結果、偏光フィルムの偏光特性の加湿信頼性が著しく向上する。このような顕著な効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように推察可能である。
【0023】
一般式(1)で表されるトリアジン環含有化合物は、シラノール基および/または加水分解反応によりシラノール基を生成し得る基を、最大3つの有する官能基Xと、トリアジン環の2,4位に結合した2以上の官能基、具体的にはアミノ基、アジド基、ジアゾメチル基、ジアジリン基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基およびエポキシ基からなる群より選択される少なくとも1種のR1基およびR2基を備える。ここで、例えば一般式(1)で表されるトリアジン環含有化合物の官能基Xが、まず樹脂保護フィルム表面の官能基と反応した場合、樹脂保護フィルム側に相溶層を形成しつつ、トリアジン環の立体構造に起因して、R1基およびR2基の少なくとも一方は偏光子側に向かって延びるように位置する。このため、R1基およびR2基の少なくとも一方は偏光子表面の官能基と反応し易い。したがって、一般式(1)で表されるトリアジン環含有化合物は、偏光子および樹脂保護フィルムの両方と共有結合を形成し易い。その結果、偏光フィルムが高温高湿下に曝されても、偏光子の膨潤を高いレベルで抑制することが可能となり、その結果、偏光度の低下を極めて効果的に抑制することができる。なお、仮に一般式(1)で表されるトリアジン環含有化合物の官能基Xが、まず偏光子表面の官能基と反応した場合、あるいはR1基およびR2基の少なくとも一方が、最初に樹脂保護フィルム、次いで偏光子と反応した場合、さらには最初に偏光子、次いで樹脂保護フィルムと反応した場合であっても、樹脂保護フィルム側に相溶層を形成しつつ、トリアジン環の立体構造に起因して、前記と同様の効果が得られる。つまり、一般式(1)で表されるトリアジン環含有化合物は結局、分子接合層の樹脂保護フィルム側に相溶層を形成しつつ、偏光子および樹脂保護フィルムと極めて効率よく共有結合を形成し得るため、偏光フィルムが高温高湿下に曝されても、偏光子の膨潤を抑制することが可能となり、偏光子のヨウ素抜けを高いレベルで抑制することができる。その結果、偏光度の低下を極めて効果的に抑制することができる。
【0024】
高温高湿環境下における偏光度の低下をさらに抑制する見地から、一般式(1)で表されるトリアジン環含有化合物は、R1およびR2のいずれか一方または両方がアミノ基であるトリアジン環含有化合物が好ましい。
【0025】
本発明において使用するトリアジン環含有化合物は、樹脂保護フィルム側に相溶層を形成しつつ、反応性基Aおよび反応性基Bを介して、偏光子および樹脂保護フィルムの両方と強固な共有結合を形成し得る。したがって、本発明に係る分子接合層は薄くても偏光子の膨潤を抑制し得る。このため、薄型化の観点から、分子接合層の厚みは0.001~0.200μmであることが好ましく、0.003~0.070μmであることがより好ましく、0.005~0.060μmであることがさらに好ましい。
【0026】
<偏光子>
本発明においては、偏光フィルムの偏光度をより高めるために、偏光子のヨウ素濃度を5.5質量%以上とすることが好ましく、7.5質量%以上とすることがより好ましい。また薄型化の見地から、偏光子の厚みは10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。上記偏光子は、例えば、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルムなどの親水性高分子フィルムに、ヨウ素を吸着させて一軸延伸したものなどが挙げられる。
【0027】
ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素で染色し一軸延伸した偏光子は、例えば、ポリビニルアルコールをヨウ素の水溶液に浸漬することによって染色し、元長の3~7倍に延伸することで作製することができる。必要に応じてホウ酸や硫酸亜鉛、塩化亜鉛などを含んでいても良いし、ヨウ化カリウムなどの水溶液に浸漬することもできる。さらに必要に応じて染色前にポリビニルアルコール系フィルムを水に浸漬して水洗してもよい。ポリビニルアルコール系フィルムを水洗することでポリビニルアルコール系フィルム表面の汚れやブロッキング防止剤を洗浄することができるほかに、ポリビニルアルコール系フィルムを膨潤させることで染色のムラなどの不均一を防止する効果もある。延伸はヨウ素で染色した後に行っても良いし、染色しながら延伸しても良いし、また延伸してからヨウ素で染色しても良い。ホウ酸やヨウ化カリウムなどの水溶液や水浴中でも延伸することができる。
【0028】
偏光子はホウ酸を含有していることが延伸安定性や加湿信頼性の点から好ましい。また、偏光子に含まれるホウ酸含有量は、貫通クラックの発生抑制の観点から、偏光子全量に対して22質量%以下であるのが好ましく、20質量%以下であるのがさらに好ましい。延伸安定性や加湿信頼性の観点から、偏光子全量に対するホウ酸含有量は10質量%以上であることが好ましく、さらには12質量%以上であることが好ましい。
【0029】
薄型の偏光子としては、代表的には、
特許第4751486号明細書、
特許第4751481号明細書、
特許第4815544号明細書、
特許第5048120号明細書、
国際公開第2014/077599号パンフレット、
国際公開第2014/077636号パンフレット、
などに記載されている薄型偏光子またはこれらに記載の製造方法から得られる薄型偏光子を挙げることができる。
【0030】
前記薄型偏光子としては、積層体の状態で延伸する工程と染色する工程を含む製法の中でも、高倍率に延伸できて偏光性能を向上させることのできる点で、特許第4751486号明細書、特許第4751481号明細書、特許4815544号明細書に記載のあるようなホウ酸水溶液中で延伸する工程を含む製法で得られるものが好ましく、特に特許第4751481号明細書、特許4815544号明細書に記載のあるホウ酸水溶液中で延伸する前に補助的に空中延伸する工程を含む製法により得られるものが好ましい。これら薄型偏光子は、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、PVA系樹脂ともいう)層と延伸用樹脂基材を積層体の状態で延伸する工程と染色する工程を含む製法による得ることができる。この製法であれば、PVA系樹脂層が薄くても、延伸用樹脂基材に支持されていることにより延伸による破断などの不具合なく延伸することが可能となる。
【0031】
<樹脂保護フィルム>
樹脂保護フィルムを構成する材料としては、例えば透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性、等方性などに優れる熱可塑性樹脂が用いられる。このような熱可塑性樹脂の具体例としては、トリアセチルセルロース系樹脂フィルムなどのセルロース樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、環状ポリオレフィン樹脂(ノルボルネン系樹脂)、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、およびこれらの混合物が挙げられる。樹脂保護フィルム中には任意の適切な添加剤が1種類以上含まれていてもよい。添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、離型剤、着色防止剤、難燃剤、核剤、帯電防止剤、顔料、着色剤などが挙げられる。樹脂保護フィルム中の上記熱可塑性樹脂の含有量は、好ましくは50~100質量%、より好ましくは50~99質量%、さらに好ましくは60~98質量%、特に好ましくは70~97質量%である。樹脂保護フィルム中の上記熱可塑性樹脂の含有量が50質量%以下の場合、熱可塑性樹脂が本来有する高透明性などが十分に発現できないおそれがある。
【0032】
また樹脂保護フィルムを形成する材料としては、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性、等方性などに優れるものが好ましく、特に透湿度が150g/m2/24h以下であるものがより好ましく、140g/m2/24h以下のものが特に好ましく、120g/m2/24h以下のものさらに好ましい。
【0033】
樹脂保護フィルムの偏光子を接着させない面には、ハードコート層、反射防止層、スティッキング防止層、拡散層ないしアンチグレア層などの機能層を設けることができる。なお、上記ハードコート層、反射防止層、スティッキング防止層、拡散層やアンチグレア層などの機能層は、樹脂保護フィルムそのものに設けることができるほか、別途、樹脂保護フィルムとは別体のものとして設けることもできる。
【0034】
樹脂保護フィルムの厚みは、適宜に決定しうるが、一般には強度や取扱性などの作業性、薄層性などの点より1~500μm程度であり、1~300μmが好ましく、5~200μmがより好ましい。さらには10~80μmが好ましく、10~40μmが好ましい。
【0035】
本発明に係る偏光フィルムは、さらに位相差フィルムと積層することで光学フィルムとしてもよい。位相差フィルムとしては、高分子素材を一軸または二軸延伸処理してなる複屈折性フィルム、液晶ポリマーの配向フィルム、液晶ポリマーの配向層をフィルムにて支持したものなどがあげられる。位相差フィルムの厚さも特に制限されないが、20~150μm程度が一般的である。
【0036】
位相差フィルムとしては、下記式(1)ないし(3):
0.70<Re[450]/Re[550]<0.97・・・(1)
1.5×10-3<Δn<6×10-3・・・(2)
1.13<NZ<1.50・・・(3)
(式中、Re[450]およびRe[550]は、それぞれ、23℃における波長450nmおよび550nmの光で測定した位相差フィルムの面内の位相差値であり、Δnは位相差フィルムの遅相軸方向、進相軸方向の屈折率を、それぞれnx、nyとしたときのnx-nyである面内複屈折であり、NZはnzを位相差フィルムの厚み方向の屈折率としたときの、厚み方向複屈折であるnx-nzと面内複屈折であるnx-nyとの比である)を満足する逆波長分散型の位相差フィルムを用いてもよい。
【0037】
本発明に係る偏光フィルムにおいては位相差層が設けられてもよい。位相差層は単層であっても複数層であってもよい。
【0038】
位相差層の形成には液晶性化合物が好ましく用いられ 該液晶性化合物を含む溶媒を、例えばワイヤーバー、ギャップコーター、コンマコーター、グラビアコーター、スロットダイなどを使用して塗布することができる。この際、塗布された液晶性溶液は、自然乾燥させてもよいし、加熱乾燥させてもよい。なお、液晶性溶液は、等方相-液晶相転移濃度よりも低い濃度、即ち、等方相状態で塗工することが好ましい。この場合、ラビング処理や光配向などの方法により安定的に配向させることができる。
【0039】
本発明に係る偏光フィルムは、例えば以下の製造方法により製造可能である。
偏光子の少なくとも一方の面に分子接合層を介して樹脂保護フィルムが積層された偏光フィルムの製造方法であって、偏光子の貼合面および樹脂保護フィルムの貼合面のいずれか一方または両方に分子結合剤を塗工する塗工工程と、偏光子および樹脂保護フィルムを貼り合わせる貼合工程と、偏光子面側または樹脂保護フィルム面側から活性エネルギー線を照射する、または貼合わせた偏光子と樹脂保護フィルムとを加熱することにより、分子結合剤を硬化させることにより得られた分子接合層を介して、偏光子および樹脂保護フィルムを接着させる接着工程とを含み、前記分子結合剤は、少なくとも反応性基Aおよび反応性基Bを有するトリアジン環含有化合物であり、前記反応性基Aは、アミノ基、アジド基、ジアゾメチル基、ジアジリン基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基およびエポキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基であり、前記反応性基Bは、シラノール基および加水分解反応によりシラノール基を生成し得る基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基であり、前記分子接合層の前記樹脂保護フィルム側には、前記分子接合層と前記樹脂保護フィルムとが互いに相溶した相溶層が形成されていることを特徴とする偏光フィルムの製造方法。以下、各工程などについて説明する。
【0040】
<塗工工程>
塗工工程では、偏光子の貼合面および樹脂保護フィルムの貼合面のいずれか一方または両方に分子結合剤を塗工する。塗工に際し、分子結合剤は直接塗工してもよく、分子結合剤に溶媒および/または添加剤を加えた分子結合剤含有組成物にして塗工してもよい。溶媒としては、前記トリアジン環含有化合物を安定化して、溶解または分散し得るものが好ましい。かかる溶媒は、有機溶媒、水、またはこれらの混合溶媒を用いることができる。前記溶媒としては、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸2-ヒドロキシエチルなどのエステル類;メチルエチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、メチル-n-プロピルケトン、アセチルアセトンなどのケトン類;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサンなどの環状エーテル類;n-ヘキサン、シクロヘキサンなどの脂肪族または脂環族炭化水素類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、シクロヘキサノールなどの脂肪族または脂環族アルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル類;ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのグリコールエーテルアセテート類;などから選択される。添加剤としては、たとえば、バインダー樹脂、界面活性剤、可塑剤、粘着付与剤、低分子量ポリマー、重合性モノマー、表面潤滑剤、レベリング剤、酸化防止剤、腐食防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、重合禁止剤、シランカップリンング剤、チタンカップリング剤、無機または有機の充填剤、金属粉、粒子状、箔状物などが挙げられる。前記バインダー樹脂としては、透明であればよく、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂などのポリマーが挙げられる。
【0041】
分子結合剤に溶媒および/または添加剤を加えた分子結合剤含有組成物とする場合、分子結合剤含有組成物中の分子結合剤の濃度は特に限定されない。その濃度は、好ましくは0.05~10.00質量%、より好ましくは0.10~1.00質量である。分子結合剤の濃度を0.05質量%以上とすることで、分子結合剤を偏光子および/または樹脂保護フィルム上に効率よく付与することができる。また10.00質量%以下とすることで分子結合剤含有組成物中での意図しない反応を抑制することができ、溶液の安定性に優れる。
【0042】
分子結合剤を直接塗工、あるいは分子結合剤に溶媒および/または添加剤を加えた分子結合剤含有組成物にして塗工する方法としては、分子結合剤や組成物の粘度や目的とする厚みによって適宜選択され、例えば、リバースコーター、グラビアコーター(ダイレクト,リバースやオフセット)、バーリバースコーター、ロールコーター、ダイコーター、バーコーター、ロッドコーターなどが挙げられる。分子結合剤含有組成物の粘度は3~100mPa・sであることが好ましく、より好ましくは5~50mPa・sであり、最も好ましくは10~30mPa・sである。組成物の粘度が高い場合、塗工後の表面平滑性が乏しく外観不良が発生するため好ましくない。
【0043】
分子結合剤に溶媒および/または添加剤を加えた分子結合剤含有組成物を使用した場合は、塗工工程後、溶媒除去のために乾燥工程を設ける。乾燥工程は、風乾、あるいは分子結合剤が反応・変性しない程度に加熱乾燥してもよい。
【0044】
偏光子および/または樹脂保護フィルムは、塗工工程前に表面改質処理を行うことが好ましい。表面改質処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、イトロ処理などの処理が挙げられ、特にコロナ処理であることが好ましい。コロナ処理を行うことで偏光子および樹脂保護フィルム表面にカルボニル基やアミノ基などの反応性官能基が生成し、分子接合層との密着性が向上し、偏光子の膨潤を抑制することができる。また、アッシング効果により表面の異物が除去されたり、表面の凹凸が軽減されたりして、外観特性に優れる偏光フィルムを作成することができる。
【0045】
<貼合工程>
上記のように塗工した分子結合剤を介して、偏光子と樹脂保護フィルムとをロールラミネーターなどを使用して貼り合わせる。
【0046】
<接着工程>
偏光子および樹脂保護フィルムを貼り合わせた後に、活性エネルギー線(電子線、紫外線、可視光線など)を照射する、または貼合わせた偏光子と樹脂保護フィルムとを加熱することにより、分子結合剤を硬化して分子接合層を形成する。加熱する場合、加熱条件としては例えば40℃で24時間加熱することが好ましい。また、活性エネルギー線(電子線、紫外線、可視光線など)を照射する場合、その照射方向は、任意の適切な方向から照射することができる。
【0047】
電子線を照射する場合の照射条件は、上記分子結合剤を硬化し得る条件であれば、任意の適切な条件を採用できる。例えば、電子線照射は、加速電圧が好ましくは5kV~300kVであり、さらに好ましくは10kV~250kVである。加速電圧が5kV未満の場合、電子線が接着剤まで届かず硬化不足となるおそれがあり、加速電圧が300kVを超えると、試料を通る浸透力が強すぎて、偏光子および樹脂保護フィルムにダメージを与えるおそれがある。照射線量としては、5~100kGy、さらに好ましくは10~75kGyである。照射線量が5kGy未満の場合は、分子結合剤が硬化不足となり、100kGyを超えると、偏光子および樹脂保護フィルムにダメージを与え、機械的強度の低下や黄変を生じ、所定の光学特性を得ることができない。
【0048】
電子線照射は、通常、不活性ガス中で照射を行うが、必要であれば大気中や酸素を少し導入した条件で行ってもよい。偏光子および樹脂保護フィルムの材料によるが、酸素を適宜導入することによって、最初に電子線があたる偏光子および樹脂保護フィルムにあえて酸素阻害を生じさせ、偏光子および樹脂保護フィルムへのダメージを防ぐことができ、分子結合剤にのみ効率的に電子線を照射させることができる。
【0049】
本発明に係る偏光フィルムを製造する場合、分子結合剤であるトリアジン環含有化合物が有する反応性基Aがアジド基、ジアゾメチル基またはジアジリン基である場合、樹脂保護フィルム越しに光(紫外線)を照射することが好ましい。光(紫外線)照射によって、分子結合剤であるトリアジン環含有化合物が有するアジド基、ジアゾメチル基またはジアジリン基が分解し、ナイトレンが生成する。このナイトレンが被着体(偏光子および/または樹脂保護フィルム)表面の官能基(例えば、-CH3,-CH2-,-CH<,-CH=CH-)を攻撃する。そして、水素引抜きラジカル付加あるいはラジカル付加反応が起き、分子結合剤と被着体表面との間で化学結合が生じる。なお、未照射箇所では、化学結合が起きない。光(紫外線)照射には、例えばUV照射装置(例えば、高圧水銀UVランプ、低圧水銀UVランプ、蛍光式UVランプ(ショートARCキセノンランプ、ケミカルランプ)、メタルハライドランプ)を使用することができる。照射する紫外線の波長は、200~450nmが好ましい。照射光量が少なすぎると、反応が進み難い。逆に、照射光量が多すぎると、被着体の劣化のおそれがある。本願実施形態において、分子接合剤がアジド基を含む場合、好ましい照射光量(光源波長:254nm)は1mJ/cm2~5J/cm2であり、より好ましくは5mJ/cm2~1J/cm2である。本実施形態において、樹脂保護フィルムの波長254nmにおける透過率は10%以上が好ましく、20%以上がより好ましい。
【0050】
本発明に係る偏光フィルムを連続ラインで製造する場合、ライン速度は、分子結合剤の硬化時間によるが、好ましくは1~500m/min、より好ましくは5~300m/min、さらに好ましくは10~100m/minである。ライン速度が小さすぎる場合は、生産性が乏しい、あるいは光偏光子または樹脂保護フィルムへのダメージが大きすぎ、耐久性試験などに耐え得る偏光フィルムが作製できない。ライン速度が大きすぎる場合は、分子結合剤の硬化が不十分となり、目的とする接着性が得られない場合がある。
【0051】
前述した偏光フィルムや、偏光フィルムを少なくとも1層積層されている光学フィルムには、液晶セルなどの他部材と接着するための粘着層を設けることもできる。粘着層を形成する粘着剤は特に制限されないが、例えばアクリル系重合体、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエーテル、フッ素系やゴム系などのポリマーをベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。特に、アクリル系粘着剤の如く光学的透明性に優れ、適度な濡れ性と凝集性と接着性の粘着特性を示して、耐候性や耐熱性などに優れるものが好ましく用いうる。
【0052】
粘着層は、異なる組成または種類などのものの重畳層として偏光フィルムや光学フィルムの片面または両面に設けることもできる。また両面に設ける場合に、偏光フィルムや光学フィルムの表裏において異なる組成や種類や厚みなどの粘着層とすることもできる。粘着層の厚みは、使用目的や接着力などに応じて適宜に決定でき、一般には1~500μmであり、1~200μmが好ましく、特に1~100μmが好ましい。
【0053】
粘着層の露出面に対しては、実用に供するまでの間、その汚染防止などを目的にセパレータが仮着されてカバーされる。これにより、通例の取扱状態で粘着層に接触することを防止できる。セパレータとしては、上記厚み条件を除き、例えばプラスチックフィルム、ゴムシート、紙、布、不織布、ネット、発泡シートや金属箔、それらのラミネート体などの適宜な薄葉体を、必要に応じシリコーン系や長鎖アルキル系、フッ素系や硫化モリブデンなどの適宜な剥離剤でコート処理したものなどの、従来に準じた適宜なものを用いうる。
【0054】
本発明の偏光フィルムや光学フィルムは液晶表示装置などの各種装置の形成などに好ましく用いることができる。液晶表示装置の形成は、従来に準じて行いうる。すなわち液晶表示装置は一般に、液晶セルと偏光フィルムまたは光学フィルム、および必要に応じての照明システムなどの構成部品を適宜に組立てて駆動回路を組込むことなどにより形成されるが、本発明においては本発明による偏光フィルムまたは光学フィルムを用いる点を除いて特に限定はなく、従来に準じうる。液晶セルについても、例えばTN型やSTN型、π型などの任意なタイプのものを用いうる。
【0055】
液晶セルの片側または両側に光学積層体を配置した液晶表示装置や、照明システムにバックライトあるいは反射板を用いたものなどの適宜な液晶表示装置を形成することができる。その場合、本発明による光学積層体は液晶セルの片側または両側に設置することができる。両側に光学積層体を設ける場合、それらは同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。さらに、液晶表示装置の形成に際しては、例えば拡散板、アンチグレア層、反射防止膜、保護板、プリズムアレイ、レンズアレイシート、光拡散板、バックライトなどの適宜な部品を適宜な位置に1層または2層以上配置することができる。
【実施例0056】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明の実施形態はこれらに限定されない。
【0057】
<偏光子>
まず、非晶性PET基材に9μm厚のPVA層が製膜された積層体を延伸温度130℃の空中補助延伸によって延伸積層体を生成し、次に、延伸積層体を染色によって着色積層体を生成し、さらに着色積層体を延伸温度65度のホウ酸水中延伸によって総延伸倍率が5.94倍になるように非晶性PET基材と一体に延伸された5μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体を生成した。このような2段延伸によって非晶性PET基材に製膜されたPVA層のPVA分子が高次に配向され、染色によって吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向されたヨウ素系の薄型偏光子を構成する、厚さ5μmのPVA層(薄型偏光子)含む光学フィルム積層体を得た(偏光子厚み5μm)。
【0058】
<樹脂保護フィルム>
・シクロオレフィン系ポリマー(COP);商品名「ゼオノアフィルムZF14」、日本ゼオン社製
・ポリカーボネート系ポリマー(PC)
まず、ポリエステルカーボネート系樹脂を製造し、次いでフィルム成形することにより、樹脂保護フィルムを製造した。
(ポリエステルカーボネート系樹脂の重合)
イソソルビド(以下「ISB」と略記することがある)81.98質量部に対して、トリシクロデカンジメタノール(以下「TCDDM」と略記することがある)47.19質量部、ジフェニルカーボネート(以下「DPC」と略記することがある)175.1質量部、及び触媒として、炭酸セシウム0.2質量%水溶液0.979質量部を反応容器に投入し、窒素雰囲気下にて、反応の第1段目の工程として、加熱槽温度を150℃に加熱し、必要に応じて攪拌しながら、原料を溶解させた(約15分)。次いで、圧力を常圧から13.3kPaにし、加熱槽温度を190℃まで1時間で上昇させながら、発生するフェノールを反応容器外へ抜き出した。反応容器全体を190℃で15分保持した後、第2段目の工程として、反応容器内の圧力を6.67kPaとし、加熱槽温度を230℃まで、15分で上昇させ、発生するフェノールを反応容器外へ抜き出した。攪拌機の攪拌トルクが上昇してくるので、8分で250℃まで昇温し、さらに発生するフェノールを取り除くため、反応容器内の圧力を0.200kPa以下に到達させた。所定の攪拌トルクに到達後、反応を終了し、生成した反応物を水中に押し出して、ポリカーボネート樹脂のペレットを得た。
(樹脂保護フィルムの作製)
得られたポリカーボネート樹脂を80℃で5時間真空乾燥をした後、単軸押出機(東芝機械社製、シリンダー設定温度:250℃)、Tダイ(幅300mm、設定温度:250℃)、チルロール(設定温度:120~130℃)および巻取機を備えたフィルム製膜装置を用いて、ポリカーボネート樹脂から構成される光学フィルムを作製した。得られた光学フィルムの波長分散値は1.02であり、面内位相差Re(550)は2nmであり、厚みは13μmであった。
【0059】
<活性エネルギー線>
クォークテクノロジー製UV-LED照射装置を用いてUV照射(265nm,100mJ/cm2)となるように照射した。
【0060】
<分子結合剤>
・6-(3-トリエトキシシリルプロピル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアジド(一般式(1)に記載の化合物(R1およびR2はアジド基));いおう化学研究所社製
・N,N’-ビス(2-アミノエチル)-6-(3-トリヒドロキシシリルプロピル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアミン(一般式(1)に記載の化合物(R1およびR2は2-アミノエチル基));いおう化学研究所社製
【0061】
(偏光フィルムの製造)
実施例1
コロナ処理を施した樹脂保護フィルム(COP)の貼合面および同じくコロナ処理を施した前記光学フィルム積層体の偏光子面側の貼合面の両方に、N,N’-ビス(2-アミノエチル)-6-(3-トリヒドロキシシリルプロピル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアミンの0.5質量%水溶液を塗工し(塗工工程)、溶媒としての水を除去する乾燥工程の後、ロール貼合機を用いて両者を貼り合わせて(貼合工程)、40℃で24時間放置することにより(接着工程)、偏光子の一方の面に分子接合層を介して樹脂保護フィルムが積層された偏光フィルムを製造した。得られた偏光フィルムの分子接合層の厚みは10nmであった。
【0062】
比較例1
コロナ処理を施した樹脂保護フィルム(PC)の貼合面および同じくコロナ処理を施した前記光学フィルム積層体の偏光子面側の貼合面の両方に、6-(3-トリエトキシシリルプロピル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアジドの0.5質量%エタノール水溶液を塗工し(塗工工程)、溶媒としてのエタノールを除去する乾燥工程の後、ロール貼合機を用いて両者を貼り合わせて(貼合工程)、UV照射(265nm,100mJ/cm2)することにより(接着工程)、偏光子の一方の面に分子接合層を介して樹脂保護フィルムが積層された偏光フィルムを製造した。得られた偏光フィルムの分子接合層の厚みは10nmであった。
【0063】
実施例1および比較例1で製造した偏光フィルムに関し、以下の評価を行った。
【0064】
(分子接合層および接着剤層の厚み測定)
Hitachi社製、HT7820を用いて、重金属染色を含む凍結超薄切片法にて断面TEM観測を行うことにより、分子接合層の厚み測定を行った。測定中の加速電圧を100kVとした。
【0065】
(分子接合層内での相溶層形成の確認方法)
TOF-SIMSデプスプロファイル測定により、分子接合層内での相溶層の形成を確認した。以下に具体的方法について説明する。
【0066】
<TOF-SIMS測定装置>
三層(偏光子/分子接合層/樹脂保護フィルム)からなる偏光フィルムを1cm角程度に切り出して専用の試料台に固定した。TOF-SIMS測定はULVAC-PHI社製,TRIFT-Vを用いた。エッチングイオンにArガスクラスターイオン(Arn
+)を用い、エッチングイオン加速電圧 20kV,エッチング面積400μm角で、偏光子側から樹脂保護フィルム側に向かって堀り進めた。照射した一次イオンはBi3
2+(一次イオン加速電圧30kV)を用い、100μm角面積を測定し、各材料成分のフラグメントイオンを観測しデプスプロファイルを作成した。具体的には、分子接合層由来の「C2N3
-、m/z=66」イオン、樹脂保護フィルムCOP由来の「C4H-、m/z=49」イオンおよび樹脂保護フィルムPC由来の「C2H3O2
-、m/z=59」イオンのデプスプロファイルを抽出した。
【0067】
TOF-SIMS測定から得られた各成分デプスプロファイルのピークトップ強度を100%に換算し、解析デプスプロファイルを作成した。解析デプスプロファイルにおいて、各成分をピーク強度20%以上含む領域を存在領域とした。偏光子側から保護フィルム側に向かって「C2N3
-、m/z=66」イオンが増大し始めてピーク強度20%に達したところを「A」、ピークトップを経て「C2N3
-、m/z=66」イオンが減少し始めてピーク強度20%に達したところを「B」とし、「A-B間距離」を分子接合層の厚みとした。TEM像から分子接合層の厚みを10nmと確認したことから、「A-B間距離」を10nmとした。「A-B間距離」において、ピーク強度20%以上で樹脂保護フィルム由来のイオンピークの重なりが最も大きいところを、重なり距離として算出した。「A-B間距離」を10nmに対する、上記重なり距離の比率を相溶層厚みとして算出した。
【0068】
(加熱加湿試験(透過率変化試験))
得られた偏光フィルムの透過率Tsについて、紫外可視分光光度計(日本分光社製V-7100) を用いて測定し、単体透過率Ts、平行透過率Tp、直交透過率Tcをそれぞれ、偏光フィルムのTs、TpおよびTcとした。これらのTs、TpおよびTcは、JISZ8701の2度視野(C 光源)により測定して視感度補正を行なったY値である。60℃95%RHの環境下に240時間曝露し、投入後の偏光フィルムについても同様の方法で透過率Tsを測定し、透過率変化ΔT(%)=|(投入前の透過率Ts(%))-(投入後の透過率Ts(%))|を求めた。透過率変化ΔT(%)が小さいほど、高温高湿環境下において偏光フィルムの偏光度の低下が抑制されていることを意味する。
【0069】
【0070】
表1の結果から、実施例1に係る偏光フィルムでは、分子接合層内の樹脂保護フィルム側に、分子接合層の厚みに対し、50%を超える厚みで相溶層が形成されているため、高温高湿下でも偏光子の膨潤が抑制されることにより、偏光子のヨウ素抜けが抑制された結果、偏光度の低下が十分に抑制されていることがわかる。