(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076519
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】炭化ケイ素焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/575 20060101AFI20240530BHJP
C04B 35/645 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
C04B35/575
C04B35/645
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188086
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】今井 雅人
(72)【発明者】
【氏名】東松 直哉
(72)【発明者】
【氏名】牛田 健
(72)【発明者】
【氏名】春日 将宣
(57)【要約】 (修正有)
【課題】均一な焼結体を製造することができる炭化ケイ素焼結体の製造方法を提供する。
【解決手段】焼結型の内部に充填した炭化ケイ素原料1を、互いに対向する第1パンチ20及び第2パンチ30によって加圧した状態で、炭化ケイ素原料にパルス電流を印加して炭化ケイ素焼結体を得る、炭化ケイ素焼結体の製造方法であって、パルス電流を印加する際に、第1パンチと炭化ケイ素原料との間の少なくとも一方に、電気抵抗率が5×10
11Ω・m以上の絶縁性物質5が配置されており、加圧方向から見た際に、絶縁性物質配置領域の面積は、炭化ケイ素原料占有領域の面積の1~42%であり、絶縁性物質配置領域は、炭化ケイ素原料占有領域の重心を中心として、その面積の10%の面積を有する相似する形状となる内部領域と定めた際、そのうち少なくとも10%の面積を占める領域に配置されていることを特徴とする炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結型の内部に充填した炭化ケイ素原料を、互いに対向する第1パンチ及び第2パンチによって加圧した状態で、前記炭化ケイ素原料にパルス電流を印加して炭化ケイ素焼結体を得る、炭化ケイ素焼結体の製造方法であって、
前記パルス電流を印加する際に、前記第1パンチと前記炭化ケイ素原料との間、及び、前記第2パンチと前記炭化ケイ素原料との間の少なくとも一方に、電気抵抗率が5×1011Ω・m以上の絶縁性物質が配置されており、
前記加圧方向から見た際に、前記炭化ケイ素原料が占める領域を炭化ケイ素原料占有領域とし、前記絶縁性物質が配置される領域を絶縁性物質配置領域としたとき、
前記絶縁性物質配置領域の面積は、前記炭化ケイ素原料占有領域の面積の1~42%であり、
前記炭化ケイ素原料占有領域の重心を中心として、前記炭化ケイ素原料占有領域の面積の10%の面積を有し、前記炭化ケイ素原料占有領域の形状と相似する形状となる内部領域を定めた際に、
前記絶縁性物質配置領域は、前記内部領域のうち少なくとも10%の面積を占める領域に配置されていることを特徴とする、炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記炭化ケイ素原料占有領域の形状と前記絶縁性物質配置領域の形状は相似形であり、前記炭化ケイ素原料占有領域の重心と前記絶縁性物質配置領域の重心が一致するように配置されている請求項1に記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記第1パンチ及び前記第2パンチの加圧面が円形であり、前記加圧面の直径が100mm以上である、請求項1又は2に記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記絶縁性物質が窒化ホウ素である、請求項1又は2に記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項5】
シート状に成形された前記絶縁性物質が、前記第1パンチと前記炭化ケイ素原料との間、及び、前記第2パンチと前記炭化ケイ素原料との間の少なくとも一方に配置されている、請求項1又は2に記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項6】
粉末状の前記絶縁性物質が、前記第1パンチと前記炭化ケイ素原料との間、及び、前記第2パンチと前記炭化ケイ素原料との間の少なくとも一方に配置されている、請求項1又は2に記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項7】
前記絶縁性物質を含むコート膜が、前記第1パンチの表面及び前記第2パンチの表面の少なくとも一方に形成されている、請求項1又は2に記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パワー半導体として、シリコン半導体よりも絶縁破壊抵抗及びバンドギャップが大きい炭化ケイ素(SiC)半導体が注目されている。
SiC半導体の原料となる単結晶SiCウェハは、シリコン半導体の原料となるSiウェハと比較して結晶成長速度が遅く、製造コストが高い。
【0003】
そこで、製造コストの高い単結晶SiCウェハを効率的に使用するために、単結晶SiCウェハに下地として多結晶SiCウェハを貼り合わせて使用する方法が考案されている。
【0004】
多結晶SiCウェハを製造する方法として、特許文献1には放電プラズマ焼結法による方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、原料焼結中において、原料の外周部ではダイ(焼結型)の外周からの放熱によって温度が低下してしまうことがあった。この場合、原料の中心部の温度が高く、原料の外周部の温度が低くなることから、原料焼結中に温度ムラが生じてしまい、均一な焼結体が製造できないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされた発明であり、均一な焼結体を製造することができる炭化ケイ素焼結体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法は、焼結型の内部に充填した炭化ケイ素原料を、互いに対向する第1パンチ及び第2パンチによって加圧した状態で、上記炭化ケイ素原料にパルス電流を印加して炭化ケイ素焼結体を得る、炭化ケイ素焼結体の製造方法であって、上記パルス電流を印加する際に、上記第1パンチと上記炭化ケイ素原料との間、及び、上記第2パンチと上記炭化ケイ素原料との間の少なくとも一方に、電気抵抗率が5×1011Ω・m以上の絶縁性物質が配置されており、上記加圧方向から見た際に、上記炭化ケイ素原料が占める領域を炭化ケイ素原料占有領域とし、前記絶縁性物質が配置される領域を絶縁性物質配置領域としたとき、前記絶縁性物質配置領域の面積は、前記炭化ケイ素原料占有領域の面積の1~42%であり、前記炭化ケイ素原料占有領域の重心を中心として、上記炭化ケイ素原料占有領域の面積の10%の面積を有し、上記炭化ケイ素原料占有領域の形状と相似する形状となる内部領域を定めた際に、上記絶縁性物質配置領域は、上記内部領域のうち少なくとも10%の面積を占める領域に配置されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法では、絶縁性物質がパンチと炭化ケイ素原料の間に配置されている。絶縁性物質は、炭化ケイ素原料占有領域のうちの内部領域において所定の割合で配置されている。
この位置に絶縁性物質が配置されていると、絶縁性物質が配置された領域において電流の流れが阻害されるために内部領域での温度が低下する。その結果、原料の外周部(外部領域)との温度差が小さくなり、原料焼結中の温度ムラが低減されて均一な焼結体を製造することができる。
【0010】
本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法においては、上記炭化ケイ素原料占有領域の形状と上記絶縁性物質配置領域の形状は相似形であり、上記炭化ケイ素原料占有領域の重心と上記絶縁性物質配置領域の重心が一致するように配置されていることが好ましい。
【0011】
温度が高くなりやすい箇所である炭化ケイ素原料占有領域の重心に絶縁性物質を配置して電流の流れを阻害することによって炭化ケイ素原料占有領域の重心付近の温度上昇が抑制される。そのため、原料焼結中の温度ムラがより低減されてより均一な焼結体を製造することができる。
【0012】
本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法においては、上記第1パンチ及び上記第2パンチの加圧面が円形であり、上記加圧面の直径が100mm以上であることが好ましい。
【0013】
第1パンチ及び第2パンチの加圧面が円形であり、その直径が100mm以上と大きいような場合には、炭化ケイ素原料の外周からの放熱によって原料焼結中に温度ムラが生じやすい。
本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法は、原料焼結中の温度ムラを低減することができるため、上記のように加圧面の直径が大きい場合にも好適に用いることができる。
【0014】
本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法においては、上記絶縁性物質が窒化ホウ素であることが好ましい。
窒化ホウ素は電気抵抗率が高く、耐熱性も高いので絶縁性物質として好適に用いることができる。
【0015】
本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法においては、シート状に成形された上記絶縁性物質が、上記第1パンチと上記炭化ケイ素原料との間、及び、上記第2パンチと上記炭化ケイ素原料との間の少なくとも一方に配置されていることが好ましい。
【0016】
本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法においては、粉末状の上記絶縁性物質が、上記第1パンチと上記炭化ケイ素原料との間、及び、上記第2パンチと上記炭化ケイ素原料との間の少なくとも一方に配置されていることが好ましい。
【0017】
本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法においては、上記絶縁性物質を含むコート膜が、上記第1パンチの表面及び上記第2パンチの表面の少なくとも一方に形成されていることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法の一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1における第1パンチ、絶縁性物質及び炭化ケイ素原料の配置を説明する部分分解拡大図である。
【
図3】
図3は、炭化ケイ素原料占有領域の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、炭化ケイ素原料占有領域と絶縁性物質配置領域とを重ねて示した例を示す図である。
【
図5】
図5は、炭化ケイ素原料占有領域と絶縁性物質配置領域とを重ねて示した例を示す図である。
【
図6】
図6は、炭化ケイ素原料占有領域と絶縁性物質配置領域とを重ねて示した例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0020】
[炭化ケイ素焼結体の製造方法]
本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法は、焼結型の内部に充填した炭化ケイ素原料を、互いに対向する第1パンチ及び第2パンチによって加圧した状態で、上記炭化ケイ素原料にパルス電流を印加して炭化ケイ素焼結体を得る、炭化ケイ素焼結体の製造方法であって、上記パルス電流を印加する際に、上記第1パンチと上記炭化ケイ素原料との間、及び、上記第2パンチと上記炭化ケイ素原料との間の少なくとも一方に、電気抵抗率が5×1011Ω・m以上の絶縁性物質が配置されており、上記加圧方向から見た際に、上記炭化ケイ素原料が占める領域を炭化ケイ素原料占有領域とし、前記絶縁性物質が配置される領域を絶縁性物質配置領域としたとき、前記絶縁性物質配置領域の面積は、前記炭化ケイ素原料占有領域の面積の1~42%であり、前記炭化ケイ素原料占有領域の重心を中心として、上記炭化ケイ素原料占有領域の面積の10%の面積を有し、上記炭化ケイ素原料占有領域の形状と相似する形状となる内部領域を定めた際に、上記絶縁性物質配置領域は、上記内部領域のうち少なくとも10%の面積を占める領域に配置されていることを特徴とする。
【0021】
本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法では、放電プラズマ焼結法を用いる。放電プラズマ焼結法は、パルス通電焼結法ともいう。
放電プラズマ焼結法では、焼結型の内部に充填した炭化ケイ素原料を、第1パンチ及び第2パンチによって加圧した状態で、炭化ケイ素原料にパルス電流を印加する。
印加されたパルス電流は炭化ケイ素原料内でプラズマ放電を発生させ、プラズマ放電の熱により炭化ケイ素原料が焼結する。
【0022】
図1は、本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法の一例を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法は、製造装置100を用いて実施される。製造装置100は、焼結型10と、第1パンチ20と、第2パンチ30と、第1パンチ20及び第2パンチ30間に電圧を印加する第1電極40及び第2電極50と、これらを格納する真空チャンバー60を備えている。
【0023】
焼結型10の内部には、炭化ケイ素原料1が充填されており、第1パンチ20及び第2パンチ30によって厚さ方向(
図1中、矢印zで示す方向)に挟まれて加圧される。従って、厚さ方向は加圧方向ともいう。なお、加圧方向は鉛直方向に沿っていなくてもよい。
図示していないが、焼結型10の周囲は、断熱材等で覆われていてもよい。
【0024】
焼結型10、第1パンチ20及び第2パンチ30は、真空チャンバー60内部に設けられている。
真空チャンバー60には、真空ポンプ(図示しない)が接続されており、チャンバー内部の雰囲気を真空とすることができる。また、真空チャンバー60に雰囲気ガスを供給することでチャンバー内部の雰囲気を調整することもできる。
【0025】
第1パンチ20及び第2パンチ30によって炭化ケイ素原料を加圧した状態で、第1パンチ20と第2パンチ30との間にパルス電流を印加することで、プラズマ放電が発生し、炭化ケイ素原料の焼結が進行する。
【0026】
第1パンチ20及び第2パンチ30は、炭化ケイ素原料1を加圧するための加圧面を有している。
第1パンチ20は、炭化ケイ素原料1の上面1aを加圧する加圧面20aを有している。
第2パンチ30は、炭化ケイ素原料1の下面1bを加圧する加圧面30aを有している。
【0027】
第1パンチ20の加圧面20aと、第1パンチ20に加圧される炭化ケイ素原料1の表面(上面1a)は互いに対向しており、加圧方向からみた第1パンチ20の加圧面20aと、第1パンチ20に加圧される炭化ケイ素原料1の上面1aの形状は合同となっている。
【0028】
第2パンチ30についても第1パンチ20と同様で、第2パンチ30の加圧面30aと、第2パンチ30に加圧される炭化ケイ素原料1の表面(下面1b)は互いに対向しており、加圧方向からみた第2パンチ30の加圧面30aと、第2パンチ30に加圧される炭化ケイ素原料1の下面1bの形状は合同となっている。
【0029】
第1パンチ20の加圧面20aと第2パンチ30の加圧面30aとは、互いに炭化ケイ素原料1を介して対向している。
【0030】
さらに、第1パンチ20の加圧面20aと、炭化ケイ素原料1の上面1aとの間には、絶縁性物質5が配置されている。絶縁性物質5の詳細については後述する。
【0031】
第1パンチ及び第2パンチを構成する材料としては、例えば、黒鉛等が挙げられる。
ただし、第1パンチ及び第2パンチを構成する黒鉛は、一般的に、電気抵抗率が低いので、後述する絶縁性物質に該当しない。
【0032】
焼結型を構成する材料としては、黒鉛等が挙げられる。
【0033】
炭化ケイ素原料は、未焼結の炭化ケイ素(SiC)粒子である。
炭化ケイ素原料を構成する炭化ケイ素粒子の平均粒子径は、0.3μm以下であることが好ましい。
【0034】
第1パンチ及び第2パンチによって炭化ケイ素原料を加圧する圧力は、特に限定されないが、例えば20MPa~1000MPa程度である。
【0035】
第1パンチ及び第2パンチ間に印加するパルス電流の電圧は、通常3~20V程度である。
また、電流は通常、0.5kA~40kA程度である。
【0036】
上記電流の印加により、炭化ケイ素原料を温度2000℃~2400℃程度まで加熱する。
【0037】
炭化ケイ素原料の加熱にあたっては、真空チャンバー内を非酸化性雰囲気とすることが好ましい。
非酸化性雰囲気には、真空雰囲気、不活性雰囲気及び還元性雰囲気を含む。
【0038】
真空雰囲気は、真空チャンバー内の圧力が100Pa未満の場合を指す。
【0039】
不活性雰囲気は、主成分を不活性ガスとする雰囲気である。
不活性ガスとしては、窒素、アルゴン等が挙げられる。
【0040】
還元性雰囲気は、主成分を還元性ガスとする雰囲気である。
還元性ガスとしては、水素、一酸化炭素、炭化水素、塩素等が挙げられる。
【0041】
電流の印加時間は、通常、合計で100s~20000s程度である。
【0042】
加圧された後の炭化ケイ素原料の厚さは、1mm~20mmであることが好ましい。
【0043】
続いて、絶縁性物質について、
図2を参照しながら説明する。
図2は、
図1における第1パンチ、絶縁性物質及び炭化ケイ素原料の配置を説明する部分分解拡大図である。
図2に示すように、第1パンチ20の加圧面20aと、炭化ケイ素原料1の上面1aとの間には、シート状に成形された絶縁性物質5が配置されている。
【0044】
加圧方向から見た際の絶縁性物質5の形状は、円形である。
なお、加圧方向から見た際の、炭化ケイ素原料1が占める領域を、炭化ケイ素原料占有領域ともいう。
【0045】
シート状に成形された絶縁性物質5は、第2パンチ30の加圧面30aと、炭化ケイ素原料1の下面1bとの間に配置されていてもよいし、第1パンチ20の加圧面20aと、炭化ケイ素原料1の上面1aとの間及び第2パンチ30の加圧面30aと、炭化ケイ素原料1の下面1bとの間の両方に配置されていてもよい。
【0046】
図1及び
図2において、炭化ケイ素原料占有領域は炭化ケイ素原料1の上面1aである。
従って、
図1及び
図2において、絶縁性物質5は、炭化ケイ素原料占有領域の一部を覆うように配置されているといえる。
【0047】
第1パンチと炭化ケイ素原料との間、及び/又は、第2パンチと炭化ケイ素原料との間に配置される絶縁性物質の厚さは、絶縁性物質の形態に関係なく、10μm~200μmであることが好ましい。
【0048】
絶縁性物質は、電気抵抗率が5×1011Ω・m以上の物質である。
絶縁性物質は窒化ホウ素であることが好ましい。
窒化ホウ素は電気抵抗率が高く、耐熱性も高いので絶縁性物質として好適に用いることができる。
【0049】
絶縁性物質の電気抵抗率は5×1011Ω・m以上であればよいが、1×1012Ω・m以上であることがより好ましい。
【0050】
絶縁性物質の電気抵抗率は、四探針法により測定することができる。
なお、上記電気抵抗率は、室温で測定したものである。
【0051】
絶縁性物質の平均粒子径は、100μm以下であることが好ましい。
【0052】
絶縁性物質の厚さは、配置される位置によって変わっていてもよいが、同じであることが好ましい。
また、第1パンチと炭化ケイ素原料との間に配置される絶縁性物質の厚さと、第2パンチと炭化ケイ素原料との間に配置される絶縁性物質の厚さは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0053】
加圧方向から見た際に、炭化ケイ素原料が占める領域である炭化ケイ素原料占有領域と、絶縁性物質が配置される領域である絶縁性物質配置領域について説明する。
本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法では、絶縁性物質配置領域の面積は、炭化ケイ素原料占有領域の面積の1~42%であり、炭化ケイ素原料占有領域の重心を中心として、炭化ケイ素原料占有領域の面積の10%の面積を有し、炭化ケイ素原料占有領域の形状と相似する形状となる内部領域を定めた際に、絶縁性物質配置領域は、内部領域のうち少なくとも10%の面積を占める領域に配置されている。
【0054】
絶縁性物質が配置される部分である炭化ケイ素原料占有領域は、内部領域と外部領域とに分けられる。このことを、
図3を用いて説明する。
【0055】
図3は、炭化ケイ素原料占有領域の一例を示す図である。
図3には、加圧方向から見たときの、炭化ケイ素原料1の上面1aを示している。
加圧方向から見たときの炭化ケイ素原料が占める領域である炭化ケイ素原料占有領域の形状は、炭化ケイ素原料占有領域の中心かつ重心である点Oを中心とした直径R
1の円形である。
【0056】
炭化ケイ素原料占有領域の面積は、点Oを中心とした直径R1の円の面積Sである。この面積Sの10%の面積を有し、点Oを中心とした直径R2(R2≒0.31R1)の円形の領域を内部領域A1とする。内部領域A1よりも外側の領域を外部領域A2とする。
内部領域A1は、炭化ケイ素原料占有領域の重心を中心とし、炭化ケイ素原料占有領域の面積の10%の面積を有し、かつ、炭化ケイ素原料占有領域の形状と相似する形状の領域である。
【0057】
内部領域A1と外部領域A2との境界は破線で示す境界線bであり、境界線bの内側が内部領域A1、外側が外部領域A2である。
内部領域A1と外部領域A2を足した領域は、炭化ケイ素原料占有領域に等しい。
【0058】
絶縁性物質配置領域の面積は、炭化ケイ素原料占有領域の面積の1~42%であり、かつ、絶縁性物質配置領域は、内部領域のうち少なくとも10%の面積を占める領域に配置されている。
絶縁性物質配置領域の面積は、炭化ケイ素原料占有領域の面積の1~30%であることが好ましく、1~15%であることがより好ましい。
また、絶縁性物質配置領域の面積が、炭化ケイ素原料占有領域の面積の8%未満のとき、全ての絶縁性物質配置領域は、内部領域内にあることが好ましい。絶縁性物質配置領域の面積が、炭化ケイ素原料占有領域の面積の8~42%のとき、絶縁性物質配置領域は、内部領域のうち80%以上の面積を占める領域に配置されていることが好ましく、100%の面積を占める領域に配置されていることがより好ましい。
【0059】
図4、
図5及び
図6は、炭化ケイ素原料占有領域と絶縁性物質配置領域とを重ねて示した例を示す図である。いずれの例も、本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法の実施形態の例に該当する。
【0060】
図4では、絶縁性物質5が、内部領域A
1のうち10%の面積を占める領域に配置されており、絶縁性物質配置領域の面積は、炭化ケイ素原料占有領域の面積の1%である。
絶縁性物質配置領域は点Oを中心とした直径R
3(R
3=0.1R
1)の円形の領域である。
絶縁性物質配置領域は内部領域A
1のみに配置されており、外部領域A
2には配置されていない。
【0061】
図5では、絶縁性物質5が、内部領域A
1のうち100%の面積を占める領域に配置されており、絶縁性物質配置領域の面積は、炭化ケイ素原料占有領域の面積の10%である。
絶縁性物質配置領域は点Oを中心とした直径R
4(R
4≒0.31R
1)の円形の領域である。
絶縁性物質配置領域は内部領域A
1と一致しており、外部領域A
2には配置されていない。
【0062】
図6では、絶縁性物質5が、内部領域A
1と外部領域A
2とに跨って配置されている。
絶縁性物質配置領域の面積は、炭化ケイ素原料占有領域の面積の42%である。
絶縁性物質配置領域は点Oを中心とした直径R
5(R
5≒0.65R
1)の円形の領域である。
【0063】
絶縁性物質配置領域は、内部領域の一部を占めていてもよいし、全てを占めていてもよい。絶縁性物質配置領域は、内部領域の全てを占めていることが好ましい。
図5及び
図6に示す形態は、絶縁性物質配置領域が内部領域の全てを占めている例である。
【0064】
一般的に、外部領域は、焼結型に近い位置に設けられているため、放射伝熱及び焼結型への伝導伝熱によって温度が低下しやすい。一方、内部領域では外部領域のような放熱が起こりにくい。上記の理由から、外部領域の温度は内部領域の温度より低下しやすく、内部領域と外部領域とで温度差が生じやすいといえる。
上記の例のように、本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法では、絶縁性物質がパンチと炭化ケイ素原料の間に配置されている。絶縁性物質は、炭化ケイ素原料占有領域のうちの内部領域において所定の割合で配置されている。
この位置に絶縁性物質が配置されていると、絶縁性物質が配置された領域において電流の流れが阻害されるために内部領域での温度が低下する。その結果、原料の外周部(外部領域)との温度差が小さくなり、原料焼結中の温度ムラが低減されて均一な焼結体を製造することができる。
【0065】
また、本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法においては、炭化ケイ素原料占有領域の形状と絶縁性物質配置領域の形状は相似形であり、炭化ケイ素原料占有領域の重心と絶縁性物質配置領域の重心が一致するように配置されていることが好ましい。
図4、
図5及び
図6に示すいずれの形態も、炭化ケイ素原料占有領域の形状と絶縁性物質配置領域の形状は円であるので相似形であり、炭化ケイ素原料占有領域の重心と絶縁性物質配置領域の重心は円の中心Oで一致している。
【0066】
温度が高くなりやすい箇所である炭化ケイ素原料配置領域の重心に絶縁性物質を配置して電流の流れを阻害することによって炭化ケイ素原料配置領域の重心付近の温度上昇が抑制される。そのため、原料焼結中の温度ムラがより低減されてより均一な焼結体を製造することができる。
【0067】
また、加圧方向から見た際の炭化ケイ素原料占有領域の形状は特に限定されないが、円形であることが好ましく、直径100mm以上の円形であることがより好ましい。
放電プラズマ焼結法においては、焼結原料の中心部ほど熱が集中して温度が高まりやすい一方で、外周部に近いほど放熱により温度が低下しやすい。この中心部と外周部との温度差(温度ムラ)は、焼結対象である炭化ケイ素原料の直径(すなわち、加圧面の直径)が100mm以上の条件である場合に顕著となる。
本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法は、上述したように、原料焼結中の温度ムラを抑制することができるため、温度ムラが生じやすくなる加圧面の直径が100mm以上となる条件であっても、温度ムラを低減させることができる。
【0068】
なお、炭化ケイ素原料占有領域の形状は、炭化ケイ素原料と対向する第1パンチ又は第2パンチの形状に等しい。すなわち、炭化ケイ素原料占有領域の形状と、第1パンチの加圧面及び第2パンチの加圧面の形状は合同である。
従って、第1パンチの加圧面及び第2パンチの加圧面の形状も、円形であることが好ましく、直径100mm以上の円形であることがより好ましい。
【0069】
絶縁性物質を配置する方法は特に限定されないが、例えば、第1パンチと炭化ケイ素原料との間、及び、第2パンチと炭化ケイ素原料との間の少なくとも一方に、「粉末状の絶縁性物質を配置する方法」及び「シート状に成形された絶縁性物質を配置する方法」、並びに、第1パンチの表面及び第2パンチの表面の少なくとも一方に「絶縁性物質を含むコート膜を形成する方法」等が挙げられる。
【0070】
粉末状の絶縁性物質を配置する方法において、絶縁性物質の平均粒子径は、100μm以下であることが好ましい。
【0071】
シート状に成形された絶縁性物質は、例えば、絶縁性物質を溶媒及び有機バインダと混合したスラリーをシート状に成形し、溶媒及び有機バインダを除去する方法等により得ることができる。
上記シートの厚さは10μm~200μmであることが好ましい。
【0072】
絶縁性物質を含むコート膜を形成する方法としては、例えば、第1パンチの加圧面及び第2パンチの加圧面の少なくとも一方に、絶縁性物質を溶媒中に分散させた絶縁性物質分散液を塗布する方法が挙げられる。
上記コート膜の厚さは10μm~200μmとすることが好ましい。
【0073】
本明細書には以下の事項が開示されている。
【0074】
本開示(1)は、焼結型の内部に充填した炭化ケイ素原料を、互いに対向する第1パンチ及び第2パンチによって加圧した状態で、前記炭化ケイ素原料にパルス電流を印加して炭化ケイ素焼結体を得る、炭化ケイ素焼結体の製造方法であって、
前記パルス電流を印加する際に、前記第1パンチと前記炭化ケイ素原料との間、及び、前記第2パンチと前記炭化ケイ素原料との間の少なくとも一方に、電気抵抗率が5×1011Ω・m以上の絶縁性物質が配置されており、
前記加圧方向から見た際に、前記炭化ケイ素原料が占める領域を炭化ケイ素原料占有領域とし、前記絶縁性物質が配置される領域を絶縁性物質配置領域としたとき、
前記絶縁性物質配置領域の面積は、前記炭化ケイ素原料占有領域の面積の1~42%であり、
前記炭化ケイ素原料占有領域の重心を中心として、前記炭化ケイ素原料占有領域の面積の10%の面積を有し、前記炭化ケイ素原料占有領域の形状と相似する形状となる内部領域を定めた際に、
前記絶縁性物質配置領域は、前記内部領域のうち少なくとも10%の面積を占める領域に配置されていることを特徴とする、炭化ケイ素焼結体の製造方法である。
【0075】
本開示(2)は、前記炭化ケイ素原料占有領域の形状と前記絶縁性物質配置領域の形状は相似形であり、前記炭化ケイ素原料占有領域の重心と前記絶縁性物質配置領域の重心が一致するように配置されている本開示(1)に記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法である。
【0076】
本開示(3)は、前記第1パンチ及び前記第2パンチの加圧面が円形であり、前記加圧面の直径が100mm以上である、本開示(1)又は(2)に記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法である。
【0077】
本開示(4)は、前記絶縁性物質が窒化ホウ素である、本開示(1)~(3)のいずれかに記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法である。
【0078】
本開示(5)は、シート状に成形された前記絶縁性物質が、前記第1パンチと前記炭化ケイ素原料との間、及び、前記第2パンチと前記炭化ケイ素原料との間の少なくとも一方に配置されている、本開示(1)~(4)のいずれかに記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法である。
【0079】
本開示(6)は、粉末状の前記絶縁性物質が、前記第1パンチと前記炭化ケイ素原料との間、及び、前記第2パンチと前記炭化ケイ素原料との間の少なくとも一方に配置されている、本開示(1)~(4)のいずれかに記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法である。
【0080】
本開示(7)は、前記絶縁性物質を含むコート膜が、前記第1パンチの表面及び前記第2パンチの表面の少なくとも一方に形成されている、本開示(1)~(4)のいずれかに記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法である。
【0081】
(実施例)
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0082】
(温度分布シミュレーション)
以下の形状に設定した炭化ケイ素及び絶縁性物質について、所定の条件で電圧を印加した際の、炭化ケイ素の最低温度と最高温度をシミュレーションにより求めた。電圧印加開始から6000s後の結果を表1に示す。
【0083】
[炭化ケイ素の種類及び形状]
炭化ケイ素の物性値:室温での電気抵抗率:2.0×10-3Ω・m、密度:3200kg/m3
炭化ケイ素の形状:直径155mm×厚さ5mmの円板形
【0084】
[装置構成]
焼結型:外径270mm、内径155mm、高さ150mmの円筒状、黒鉛製(加圧方向に垂直な方向における室温での電気抵抗率:1.45×10-5Ω・m)
第1パンチ及び第2パンチ:外径155mm、高さ72.5mmの円柱形、黒鉛製(加圧方向に垂直な方向における室温での電気抵抗率:1.45×10-5Ω・m)
【0085】
[焼結条件]
入力電圧:0s~550sは3Vまで昇圧、550s~6000sでは4.8Vまで昇圧
【0086】
[絶縁性物質の形状及び配置]
実施例1:直径50mmの円形で厚さ0.03mmの窒化ホウ素(室温における電気抵抗率は1×1012Ω・m)を、その中心が、加圧方向から見たときの炭化ケイ素原料占有領域の中心に重なるように、第1パンチと炭化ケイ素との間に配置した。炭化ケイ素原料占有領域の内部領域と一致するように、窒化ホウ素が配置されている。
実施例2:窒化ホウ素の形状を、直径50mmの円形から直径100mmの円形に変更したほかは、実施例1と同様とした。
比較例1:第1パンチと炭化ケイ素との間に絶縁性物質である窒化ホウ素を配置しない他は、実施例1と同様とした。
【0087】
【0088】
実施例1、実施例2及び比較例1の上記結果より、炭化ケイ素原料占有領域の1~42%の領域、かつ、内部領域の少なくとも10%を占める面積に絶縁性物質を配置した実施例1及び実施例2に係る炭化ケイ素焼結体の製造方法では、炭化ケイ素の最低温度と最高温度の差が、比較例1に比べて小さくなっており、焼結による温度ムラが生じにくいことを確認した。一方で、絶縁性物質を配置しなかった比較例1では、炭化ケイ素の最低温度と最高温度の差が102℃もあり、焼結による温度ムラが生じやすいことを確認した。
【0089】
さらに、実施例1、2の結果から、絶縁性物質が内部領域内に配置されている場合は、とくに温度差が小さく、焼結による温度ムラが生じにくいことを確認した。
【符号の説明】
【0090】
1 炭化ケイ素原料
1a 炭化ケイ素原料の上面
1b 炭化ケイ素原料の下面
5 シート状に成形された絶縁性物質
10 焼結型
20 第1パンチ
20a 第1パンチの加圧面
30 第2パンチ
30a 第2パンチの加圧面
40 第1電極
50 第2電極
60 真空チャンバー
100 製造装置
A1 内部領域
A2 外部領域
b 内部領域と外部領域の境界線
O 炭化ケイ素原料占有領域の中心(重心)
R1 炭化ケイ素原料占有領域の直径
R2、R3、R4、R5 絶縁性物質配置領域の直径