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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076521
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】炭化ケイ素焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/575 20060101AFI20240530BHJP
   C04B 35/645 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
C04B35/575
C04B35/645
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188088
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】東松 直哉
(72)【発明者】
【氏名】今井 雅人
(72)【発明者】
【氏名】牛田 健
(72)【発明者】
【氏名】春日 将宣
(57)【要約】      (修正有)
【課題】均一な焼結体を製造することができる炭化ケイ素焼結体の製造方法を提供する。
【解決手段】焼結型の内部に充填した炭化ケイ素原料1を、互いに対向する第1パンチ20及び第2パンチ30によって加圧した状態で、炭化ケイ素原料にパルス電流を印加して炭化ケイ素焼結体を得る、炭化ケイ素焼結体の製造方法であって、パルス電流を印加する際に、第1パンチと炭化ケイ素原料との間に、加圧方向に垂直な方向における電気抵抗率が10-6Ω・m以下の導電性物質5が配置されており、導電性物質が、加圧方向から見た際に、炭化ケイ素原料占有領域の重心を中心として、炭化ケイ素原料占有領域の面積の25%の面積を有し炭化ケイ素原料占有領域の形状と相似する形状となる内部領域とその外部領域とに跨って配置されていることを特徴とする炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結型の内部に充填した炭化ケイ素原料を、互いに対向する第1パンチ及び第2パンチによって加圧した状態で、前記炭化ケイ素原料にパルス電流を印加して炭化ケイ素焼結体を得る、炭化ケイ素焼結体の製造方法であって、
前記パルス電流を印加する際に、前記第1パンチと前記炭化ケイ素原料との間、及び、前記第2パンチと前記炭化ケイ素原料との間の少なくとも一方に、加圧方向に垂直な方向における電気抵抗率が10-6Ω・m以下の導電性物質が配置されており、
前記加圧方向から見た際に、前記炭化ケイ素原料が占める領域である炭化ケイ素原料占有領域の重心を中心として、前記炭化ケイ素原料占有領域の面積の25%の面積を有し前記炭化ケイ素原料占有領域の形状と相似する形状となる内部領域と、前記内部領域よりも外側の領域である外部領域とを有しており、
前記導電性物質が、前記内部領域と前記外部領域とに跨って配置されていることを特徴とする、炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記加圧方向から見た際に、前記導電性物質が占める領域の面積が、前記炭化ケイ素原料占有領域の面積の65%~100%である、請求項1に記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記加圧方向から見た際に、前記導電性物質が占める領域の面積が、前記炭化ケイ素原料占有領域の面積の100%である、請求項2に記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記第1パンチ及び前記第2パンチの加圧面が円形であり、前記加圧面の直径が100mm以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項5】
シート状に成形された前記導電性物質が、前記第1パンチと前記炭化ケイ素原料との間、及び、前記第2パンチと前記炭化ケイ素原料との間の少なくとも一方に配置されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項6】
粉末状の前記導電性物質が、前記第1パンチと前記炭化ケイ素原料との間、及び、前記第2パンチと前記炭化ケイ素原料との間の少なくとも一方に配置されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項7】
前記導電性物質を含むコート膜が、前記第1パンチの表面及び前記第2パンチの表面の少なくとも一方に形成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項8】
前記導電性物質が、高配向性炭素である、請求項1~3のいずれか1項に記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パワー半導体として、シリコン半導体よりも絶縁破壊抵抗及びバンドギャップが大きい炭化ケイ素(SiC)半導体が注目されている。
SiC半導体の原料となる単結晶SiCウェハは、シリコン半導体の原料となるSiウェハと比較して結晶成長速度が遅く、製造コストが高い。
【0003】
そこで、製造コストの高い単結晶SiCウェハを効率的に使用するために、単結晶SiCウェハに下地として多結晶SiCウェハを貼り合わせて使用する方法が考案されている。
【0004】
多結晶SiCウェハを製造する方法として、特許文献1には放電プラズマ焼結法による方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-35327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、原料焼結中において、原料の外周部ではダイ(焼結型)の外周からの放熱によって温度が低下してしまうことがあった。この場合、原料の中心部の温度が高く、原料の外周部の温度が低くなることから、原料焼結中に温度ムラが生じてしまい、均一な焼結体が製造できないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされた発明であり、均一な焼結体を製造することができる炭化ケイ素焼結体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法は、焼結型の内部に充填した炭化ケイ素原料を、互いに対向する第1パンチ及び第2パンチによって加圧した状態で、上記炭化ケイ素原料にパルス電流を印加して炭化ケイ素焼結体を得る、炭化ケイ素焼結体の製造方法であって、上記パルス電流を印加する際に、上記第1パンチと上記炭化ケイ素原料との間、及び、上記第2パンチと上記炭化ケイ素原料との間の少なくとも一方に、加圧方向に垂直な方向における電気抵抗率が10-6Ω・m以下の導電性物質が配置されており、上記加圧方向から見た際に、上記炭化ケイ素原料が占める領域である炭化ケイ素原料占有領域の重心を中心として、上記炭化ケイ素原料占有領域の面積の25%の面積を有し上記炭化ケイ素原料占有領域の形状と相似する形状となる内部領域と、上記内部領域よりも外側の領域である外部領域とを有しており、上記導電性物質が、上記内部領域と上記外部領域とに跨って配置されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法では、第1パンチと炭化ケイ素原料との間、及び、第2パンチと炭化ケイ素原料との間の少なくとも一方に、内部領域と外部領域とに跨がるように導電性物質が配置されている。
導電性物質は、焼結時のパルス電流によって発熱するため、内部領域と外部領域とに跨るように導電性物質が配置されていることによって、内部領域と外部領域での発熱量の差を小さくすることができる。その結果、原料の内部領域と外部領域との温度差が小さくなり、原料焼結中の温度ムラが低減されて均一な焼結体を製造することができる。
【0010】
本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法においては、上記加圧方向から見た際に、上記導電性物質が占める領域の面積が、上記炭化ケイ素原料占有領域の面積の65%~100%であることが好ましい。
【0011】
上記面積の割合が65%~100%であると、十分に外周領域を加熱することができ、原料焼結中の温度ムラをさらに低減できる。
【0012】
本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法においては、上記加圧方向から見た際に、上記導電性物質が占める領域の面積が、上記炭化ケイ素原料占有領域の面積の100%であることが好ましい。
【0013】
上記面積の割合が100%であると、導電性物質によって、外周領域を均一に加熱することができるため、原料焼結中の温度ムラを特に低減できる。
【0014】
本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法においては、上記第1パンチ及び上記第2パンチの加圧面が円形であり、上記加圧面の直径が100mm以上であることが好ましい。
【0015】
第1パンチ及び第2パンチの加圧面が円形であり、その直径が100mm以上と大きいような場合には、炭化ケイ素原料の外周からの放熱によって原料焼結中に温度ムラが生じやすい。
本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法は、原料焼結中の温度ムラを低減することができるため、上記のように加圧面の直径が大きい場合にも好適に用いることができる。
【0016】
本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法においては、シート状に成形された上記導電性物質が、上記第1パンチと上記炭化ケイ素原料との間、及び、上記第2パンチと上記炭化ケイ素原料との間の少なくとも一方に配置されていることが好ましい。
【0017】
本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法においては、粉末状の上記導電性物質が、上記第1パンチと上記炭化ケイ素原料との間、及び、上記第2パンチと上記炭化ケイ素原料との間の少なくとも一方に配置されていることが好ましい。
【0018】
本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法においては、上記導電性物質を含むコート膜が、上記第1パンチの表面及び上記第2パンチの表面の少なくとも一方に形成されていることが好ましい。
【0019】
本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法においては、上記導電性物質が、高配向性炭素であることが好ましい。
【0020】
高配向性炭素としては、例えば、高配向性熱分解グラファイト(HOPG)等が挙げられる。
なお、高配向性炭素は、配向方向に低い電気抵抗率を示すため、高配向性炭素は、その配向方向が加圧方向に直交する方向となるように、第1パンチと炭化ケイ素原料の間、及び、第2パンチと炭化ケイ素原料の間の少なくとも一方に配置されることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、炭化ケイ素焼結体の製造に用いる製造装置の一例を模式的に示す断面図である。
図2図2は、第1パンチと炭化ケイ素原料の間にシート状に成形された導電性物質が配置された状態を模式的に示す斜視図である。
図3図3は、炭化ケイ素原料占有領域の一例を示す図である。
図4図4は、炭化ケイ素原料占有領域と導電性物質とを重ねて示した例である。
図5図5は、炭化ケイ素原料占有領域に配置される導電性物質の形状の一例を模式的に示す図である。
図6図6は、炭化ケイ素原料占有領域に配置される導電性物質の形状の別の一例を模式的に示す図である。
図7図7は、炭化ケイ素原料占有領域に配置される導電性物質の形状のさらに別の一例を模式的に示す図である。
図8図8は、炭化ケイ素原料占有領域に配置される導電性物質の形状のさらに別の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0023】
[炭化ケイ素焼結体の製造方法]
本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法は、焼結型の内部に充填した炭化ケイ素原料を、互いに対向する第1パンチ及び第2パンチによって加圧した状態で、上記炭化ケイ素原料にパルス電流を印加して炭化ケイ素焼結体を得る、炭化ケイ素焼結体の製造方法であって、上記パルス電流を印加する際に、上記第1パンチと上記炭化ケイ素原料との間、及び、上記第2パンチと上記炭化ケイ素原料との間の少なくとも一方に、加圧方向に垂直な方向における電気抵抗率が10-6Ω・m以下の導電性物質が配置されており、上記加圧方向から見た際に、上記炭化ケイ素原料が占める領域である炭化ケイ素原料占有領域の重心を中心として、上記炭化ケイ素原料占有領域の面積の25%の面積を有し上記炭化ケイ素原料占有領域の形状と相似する形状となる内部領域と、上記内部領域よりも外側の領域である外部領域とを有しており、上記導電性物質が、上記内部領域と上記外部領域とに跨って配置されていることを特徴とする。
【0024】
本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法では、放電プラズマ焼結法を用いる。放電プラズマ焼結法は、パルス通電焼結法ともいう。
放電プラズマ焼結法では、焼結型の内部に充填した炭化ケイ素原料を、第1パンチ及び第2パンチによって加圧した状態で、炭化ケイ素原料にパルス電流を印加する。
印加されたパルス電流は炭化ケイ素原料内でプラズマ放電を発生させ、プラズマ放電の熱により炭化ケイ素原料が焼結する。
【0025】
図1は、本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法の一例を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法は、製造装置100を用いて実施される。製造装置100は、焼結型10と、第1パンチ20と、第2パンチ30と、第1パンチ20及び第2パンチ30間に電圧を印加する第1電極40及び第2電極50と、これらを格納する真空チャンバー60を備えている。
【0026】
焼結型10の内部には、炭化ケイ素原料1が充填されており、第1パンチ20及び第2パンチ30によって厚さ方向(図1中、矢印zで示す方向)に挟まれて加圧される。従って、厚さ方向は加圧方向ともいう。なお、加圧方向は鉛直方向に沿っていなくてもよい。
図示していないが、焼結型10の周囲は、断熱材等で覆われていてもよい。
【0027】
焼結型10、第1パンチ20及び第2パンチ30は、真空チャンバー60内部に設けられている。
真空チャンバー60には、真空ポンプ(図示しない)が接続されており、チャンバー内部の雰囲気を真空とすることができる。また、真空チャンバー60に雰囲気ガスを供給することでチャンバー内部の雰囲気を調整することもできる。
【0028】
第1パンチ20及び第2パンチ30によって炭化ケイ素原料を加圧した状態で、第1パンチ20と第2パンチ30との間にパルス電流を印加することで、プラズマ放電が発生し、炭化ケイ素原料の焼結が進行する。
【0029】
第1パンチ20及び第2パンチ30は、炭化ケイ素原料1を加圧するための加圧面を有している。
第1パンチ20は、炭化ケイ素原料1の上面1aを加圧する加圧面20aを有している。
第2パンチ30は、炭化ケイ素原料1の下面1bを加圧する加圧面30aを有している。
【0030】
第1パンチ20の加圧面20aと、第1パンチ20に加圧される炭化ケイ素原料1の表面(上面1a)は互いに対向しており、加圧方向からみた第1パンチ20の加圧面20aと、第1パンチ20に加圧される炭化ケイ素原料1の上面1aの形状は合同となっている。
【0031】
第2パンチ30についても第1パンチ20と同様で、第2パンチ30の加圧面30aと、第2パンチ30に加圧される炭化ケイ素原料1の表面(下面1b)は互いに対向しており、加圧方向からみた第2パンチ30の加圧面30aと、第2パンチ30に加圧される炭化ケイ素原料1の下面1bの形状は合同となっている。
【0032】
第1パンチ20の加圧面20aと第2パンチ30の加圧面30aとは、互いに炭化ケイ素原料1を介して対向している。
【0033】
さらに、第1パンチ20の加圧面20aと、炭化ケイ素原料1の上面1aとの間には、導電性物質5が配置されている。導電性物質5の詳細については後述する。
【0034】
第1パンチ及び第2パンチを構成する材料としては、例えば、黒鉛等が挙げられる。
ただし、第1パンチ及び第2パンチを構成する黒鉛は、一般的に、加圧方向に垂直な方向における電気抵抗率が10-Ω・m程度であり、後述する導電性物質に該当しない。
【0035】
焼結型を構成する材料としては、黒鉛等が挙げられる。
【0036】
炭化ケイ素原料は、未焼結の炭化ケイ素(SiC)粒子である。
炭化ケイ素原料を構成する炭化ケイ素粒子の平均粒子径は、0.3μm以下であることが好ましい。
【0037】
第1パンチ及び第2パンチによって炭化ケイ素原料を加圧する圧力は、特に限定されないが、例えば20MPa~1000MPa程度である。
【0038】
第1パンチ及び第2パンチ間に印加するパルス電流の電圧は、通常3~20V程度である。
また、電流は通常、0.5kA~40kA程度である。
【0039】
上記電流の印加により、炭化ケイ素原料を温度2000℃~2400℃程度まで加熱する。
【0040】
炭化ケイ素原料の加熱にあたっては、真空チャンバー内を非酸化性雰囲気とすることが好ましい。
非酸化性雰囲気には、真空雰囲気、不活性雰囲気及び還元性雰囲気を含む。
【0041】
真空雰囲気は、真空チャンバー内の圧力が100Pa未満の場合を指す。
【0042】
不活性雰囲気は、主成分を不活性ガスとする雰囲気である。
不活性ガスとしては、窒素、アルゴン等が挙げられる。
【0043】
還元性雰囲気は、主成分を還元性ガスとする雰囲気である。
還元性ガスとしては、水素、一酸化炭素、炭化水素、塩素等が挙げられる。
【0044】
電流の印加時間は、通常、合計で100s~20000s程度である。
【0045】
加圧された後の炭化ケイ素原料の厚さは、1mm~20mmであることが好ましい。
【0046】
続いて、導電性物質について、図2を参照しながら説明する。
図2は、図1における第1パンチ、導電性物質及び炭化ケイ素原料の配置を説明する部分分解拡大図である。
図2に示すように、第1パンチ20の加圧面20aと、炭化ケイ素原料1の上面1aとの間には、シート状に成形された導電性物質5が配置されている。
【0047】
加圧方向から見た際の導電性物質5の形状は、第1パンチ20の加圧面20aの形状、及び、炭化ケイ素原料1の上面1aの形状と合同である。
なお、加圧方向から見た際の、炭化ケイ素原料1が占める領域を、炭化ケイ素原料占有領域ともいう。
【0048】
シート状に成形された導電性物質5は、第2パンチ30の加圧面30aと、炭化ケイ素原料1の下面1bとの間に配置されていてもよいし、第1パンチ20の加圧面20aと、炭化ケイ素原料1の上面1aとの間及び第2パンチ30の加圧面30aと、炭化ケイ素原料1の下面1bとの間の両方に配置されていてもよい。
【0049】
図1及び図2において、炭化ケイ素原料占有領域は炭化ケイ素原料1の上面1aである。
従って、図1及び図2において、導電性物質5は、炭化ケイ素原料占有領域の100%を覆うように配置されているといえる。
【0050】
なお、本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法において、導電性物質は、炭化ケイ素原料占有領域の100%を覆うように配置されている必要はなく、後述する内部領域と外部領域とに跨るように、導電性物質が配置されていればよい。
【0051】
第1パンチと炭化ケイ素原料との間、及び/又は、第2パンチと炭化ケイ素原料との間に配置される導電性物質の厚さは、導電性物質の形態に関係なく、10μm~200μmであることが好ましい。
【0052】
導電性物質5は、加圧方向(z方向)に垂直な方向(xy面方向)における電気抵抗率が10-6Ω・m以下の物質である。
【0053】
導電性物質の、加圧方向に垂直な方向における電気抵抗率は、10-6Ω・m以下であればよいが、5.0×10-7Ω・m以下であることが好ましい。
【0054】
導電性物質の上記電気抵抗率は、四探針法により測定することができる。
なお、上記電気抵抗率は、室温で測定したものである。
【0055】
導電性物質としては、例えば、高配向性炭素が挙げられる。
高配向性炭素としては、例えば、高配向性熱分解グラファイト(HOPG)が挙げられる。
なお、高配向性炭素を用いる場合、配向方向を加圧方向に垂直な方向に設定する必要がある。
【0056】
導電性物質の厚さは、配置される位置によって変わっていてもよいが、同じであることが好ましい。
また、第1パンチと炭化ケイ素原料との間に配置される導電性物質の厚さと、第2パンチと炭化ケイ素原料との間に配置される導電性物質の厚さは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0057】
導電性物質が配置される部分である炭化ケイ素原料占有領域は、内部領域と外部領域とに分けられる。このことを、図3を用いて説明する。
【0058】
図3は、炭化ケイ素原料占有領域の一例を示す図である。
図3には、加圧方向から見たときの、炭化ケイ素原料1の上面1aを示している。
加圧方向から見たときの炭化ケイ素原料が占める領域である炭化ケイ素原料占有領域の形状は、点Oを中心とした直径Rの円形である。
【0059】
図3に示すように、炭化ケイ素原料占有領域は、点Oを中心とした直径がR/2の領域(内部領域A)と、これよりも外側の領域(外部領域A)に分けられる。
内部領域Aは、炭化ケイ素原料占有領域の重心を中心とし、炭化ケイ素原料占有領域の面積の25%の面積を有し、かつ、炭化ケイ素原料占有領域の形状と相似する形状の領域である。
【0060】
内部領域Aと外部領域Aとの境界は破線で示す境界線bであり、境界線bの内側が内部領域A、外側が外部領域Aである。
内部領域Aと外部領域Aを足した領域は、炭化ケイ素原料占有領域に等しい。
【0061】
図4は、炭化ケイ素原料占有領域と導電性物質とを重ねて示した例である。
図4では、導電性物質5が、炭化ケイ素原料占有領域のうち、内部領域Aと外部領域Aとを跨るように配置されている。
【0062】
一般的に、外部領域は、焼結型に近い位置に設けられているため、放射伝熱及び焼結型への伝導伝熱によって温度が低下しやすい。一方、内部領域では外部領域のような放熱が起こりにくい。上記の理由から、外部領域の温度は内部領域の温度より低下しやすく、内部領域と外部領域とで温度差が生じやすいといえる。
【0063】
本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法においては、図4に示すように、導電性物質5が内部領域Aと外部領域Aとに跨って配置されているため、内部領域Aと外部領域Aでの発熱量の差を小さくして、放熱が生じやすい外周領域Aを効率的に加熱することができる。その結果、温度ムラを抑制することができる。
【0064】
加圧方向から見た際の炭化ケイ素原料占有領域の形状は特に限定されないが、円形であることが好ましく、直径100mm以上の円形であることがより好ましい。
放電プラズマ焼結法においては、焼結原料の中心部ほど熱が集中して温度が高まりやすい一方で、外周部に近いほど放熱により温度が低下しやすい。この中心部と外周部との温度差(温度ムラ)は、焼結対象である炭化ケイ素原料の直径(すなわち、加圧面の直径)が100mm以上の条件である場合に顕著となる。
本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法は、上述したように、原料焼結中の温度ムラを抑制することができるため、温度ムラが生じやすくなる加圧面の直径が100mm以上となる条件であっても、温度ムラを低減させることができる。
【0065】
なお、炭化ケイ素原料占有領域の形状は、炭化ケイ素原料と対向する第1パンチ又は第2パンチの形状に等しい。すなわち、炭化ケイ素原料占有領域の形状と、第1パンチの加圧面及び第2パンチの加圧面の形状は合同である。
従って、第1パンチの加圧面及び第2パンチの加圧面の形状も、円形であることが好ましく、直径100mm以上の円形であることがより好ましい。
【0066】
加圧方向から見た際に、導電性物質が占める領域の割合が、炭化ケイ素原料占有領域の面積の65%~100%であることが好ましい。
上記面積の割合が65%~100%であると、放熱が生じやすい外周領域Aを効率的に加熱することができるため、原料焼結中の温度ムラをさらに低減できる。
【0067】
原料焼結中の温度ムラをさらに低減する観点から、上記面積割合は、75%~100%であることがより好ましく、85%~100%であることがさらに好ましく、95%~100%であることが特に好ましく、100%であることが最も好ましい。
上記面積の割合が100%であると、導電性物質によって、放熱が生じやすい外周領域Aを効率的に加熱することができるため、原料焼結中の温度ムラを特に低減できる。
【0068】
本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法において、加圧方向から見た際に、内部領域の一部だけに導電性物質が配置されていてもよい。
【0069】
内部領域のうち導電性物質が配置されている領域の割合は、50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、85%以上であることがさらに好ましく、100%であることが特に好ましい。
【0070】
本発明の炭化ケイ素焼結体の製造方法において、加圧方向から見た際に、外部領域の一部だけに導電性物質が配置されていてもよい。
【0071】
外部領域のうち導電性物質が配置されている領域の割合は、30%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましく、100%であることが特に好ましい。
【0072】
加圧方向から見たときの炭化ケイ素原料占有領域の形状が、中心をOとした直径Rの円形である場合に、導電性物質は、中心をOとした直径が0.8Rの円の円周よりも外側まで配置されていることが好ましく、中心をOとした直径が0.9Rの円の円周よりも外側まで配置されていることがより好ましい。
【0073】
導電性物質を配置する方法は特に限定されないが、例えば、第1パンチと炭化ケイ素原料との間、及び、第2パンチと炭化ケイ素原料との間の少なくとも一方に、「粉末状の導電性物質を配置する方法」及び「シート状に成形された導電性物質を配置する方法」、並びに、第1パンチの表面及び第2パンチの表面の少なくとも一方に「導電性物質を含むコート膜を形成する方法」等が挙げられる。
【0074】
シート状に成形された導電性物質は、例えば、市販の高配向性熱伝導シートを用いることができる。
上記シートの厚さは10μm~200μmであることが好ましい。
【0075】
導電性物質を含むコート膜を形成する方法としては、例えば、第1パンチの加圧面及び第2パンチの加圧面の少なくとも一方に、導電性物質を溶媒中に分散させた導電性物質分散液を塗布する方法が挙げられる。
上記コート膜の厚さは10μm~200μmとすることが好ましい。
【0076】
第1パンチと炭化ケイ素原料との間、又は、第2パンチと炭化ケイ素原料との間に配置される導電性物質の他の例を、図5図8に示す。
【0077】
図5は、炭化ケイ素原料占有領域に配置される導電性物質の形状の一例を模式的に示す図である。
図5には、加圧方向から見た際に互いに重なっている、炭化ケイ素原料占有領域と導電性物質5Aの形状を示している。図5に示すように、炭化ケイ素原料占有領域は、内部領域A及び外部領域Aを有する円形である。
導電性物質5Aは、内部領域Aと外部領域Aとを跨ぐ環状となっている。図5に示すように、導電性物質5Aは、炭化ケイ素原料占有領域の重心(円の中心O)に配置されていなくてもよい。
図5に示す形態は、内部領域Aの100%が導電性物質5Aで覆われていない例でもある。
【0078】
図6は、炭化ケイ素原料占有領域に配置される導電性物質の形状の別の一例を模式的に示す図である。
図6には、加圧方向から見た際に互いに重なっている、炭化ケイ素原料占有領域と導電性物質5Bの形状を示している。図6に示すように、炭化ケイ素原料占有領域は、内部領域A及び外部領域Aを有する円形である。
導電性物質5Bは、複数の棒状の導電性物質5b、5b、5b、5b、5b、5b、5b、5bからなる。導電性物質5b、5b、5b、5b、5b、5b、5b、5bは、いずれも、炭化ケイ素原料占有領域の重心(円の中心O)から外側に向かって放射状に伸びており、内部領域A及び外部領域Aを跨ぐように配置されている。
【0079】
図7は、炭化ケイ素原料占有領域に配置される導電性物質の形状のさらに別の一例を模式的に示す図である。
図7には、加圧方向から見た際に互いに重なっている、炭化ケイ素原料占有領域と導電性物質5Cの形状を示している。図7に示すように、炭化ケイ素原料占有領域は、内部領域A及び外部領域Aを有する円形である。
導電性物質5Cは、環状の第1部分5c11と、第1部分5c11の外縁から外側に向かって棒状に伸びる複数の第2部分5c21、5c22、5c23、5c24、5c25、5c26、5c27、5c28と、を有しており、内部領域Aと外部領域Aとを跨ぐように配置されている。
【0080】
図8は、炭化ケイ素原料占有領域に配置される導電性物質の形状のさらに別の一例を模式的に示す図である。
図8には、加圧方向から見た際に互いに重なっている、炭化ケイ素原料占有領域と導電性物質5Dの形状を示している。図8に示すように、炭化ケイ素原料占有領域の形状と導電性物質の形状が合同となっている。従って、導電性物質5Dは、内部領域Aと外部領域Aに跨がり、炭化ケイ素原料占有領域の全域(100%)に配置されているといえる。
【0081】
外部領域における周方向の温度のばらつきを低減する観点から、加圧方向からみたときに、炭化ケイ素原料占有領域に配置される導電性物質の形状は、炭化ケイ素原料占有領域の重心を回転中心としたn回回転対称形状であることが好ましい。nは自然数であり、大きい方が好ましい。n=∞のとき、導電性物質の形状は円形である。
図6及び図7に示した例は、n=8の例である。
図4図5及び図8に示した例は、n=∞の例である。
【0082】
本明細書には以下の事項が開示されている。
【0083】
本開示(1)は、焼結型の内部に充填した炭化ケイ素原料を、互いに対向する第1パンチ及び第2パンチによって加圧した状態で、前記炭化ケイ素原料にパルス電流を印加して炭化ケイ素焼結体を得る、炭化ケイ素焼結体の製造方法であって、
前記パルス電流を印加する際に、前記第1パンチと前記炭化ケイ素原料との間、及び、前記第2パンチと前記炭化ケイ素原料との間の少なくとも一方に、加圧方向に垂直な方向における電気抵抗率が10-6Ω・m以下の導電性物質が配置されており、
前記加圧方向から見た際に、前記炭化ケイ素原料が占める領域である炭化ケイ素原料占有領域の重心を中心として、前記炭化ケイ素原料占有領域の面積の25%の面積を有し前記炭化ケイ素原料占有領域の形状と相似する形状となる内部領域と、前記内部領域よりも外側の領域である外部領域とを有しており、
前記導電性物質が、前記内部領域と前記外部領域とに跨って配置されていることを特徴とする、炭化ケイ素焼結体の製造方法である。
【0084】
本開示(2)は、前記加圧方向から見た際に、前記導電性物質が占める領域の面積が、前記炭化ケイ素原料占有領域の面積の65%~100%である、本開示(1)に記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法である。
【0085】
本開示(3)は、前記加圧方向から見た際に、前記導電性物質が占める領域の面積が、前記炭化ケイ素原料占有領域の面積の100%である、本開示(2)に記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法である。
【0086】
本開示(4)は、前記第1パンチ及び前記第2パンチの加圧面が円形であり、前記加圧面の直径が100mm以上である、本開示(1)~(3)のいずれかに記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法である。
【0087】
本開示(5)は、シート状に成形された前記導電性物質が、前記第1パンチと前記炭化ケイ素原料との間、及び、前記第2パンチと前記炭化ケイ素原料との間の少なくとも一方に配置されている、本開示(1)~(4)のいずれかに記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法である。
【0088】
本開示(6)は、粉末状の前記導電性物質が、前記第1パンチと前記炭化ケイ素原料との間、及び、前記第2パンチと前記炭化ケイ素原料との間の少なくとも一方に配置されている、本開示(1)~(4)のいずれかに記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法である。
【0089】
本開示(7)は、前記導電性物質を含むコート膜が、前記第1パンチの表面及び前記第2パンチの表面の少なくとも一方に形成されている、本開示(1)~(4)のいずれかに記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法である。
【0090】
本開示(8)は、前記導電性物質が、高配向性炭素である、本開示(1)~(7)のいずれかに記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法である。
【0091】
(実施例)
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0092】
(温度分布シミュレーション)
以下の形状に設定した炭化ケイ素及び導電性物質について、所定の条件で電圧を印加した際の、炭化ケイ素の最低温度と最高温度をシミュレーションにより求めた。電圧印加開始から6000s後の結果を表1に示す。
【0093】
[炭化ケイ素の物性値及び形状]
炭化ケイ素の物性値:室温での電気抵抗率2.0×10-3Ω・m、密度3200kg/m3
炭化ケイ素の形状:直径155mm×厚さ5mmの円板形
【0094】
[装置構成]
焼結型:外径270mm、内径155mm、高さ150mmの円筒状、黒鉛製(加圧方向に垂直な方向における室温での電気抵抗率:1.45×10-5Ω・m)
第1パンチ及び第2パンチ:直径155mm、高さ72.5mmの円柱形、黒鉛製(加圧方向に垂直な方向における室温での電気抵抗率:1.45×10-5Ω・m)
【0095】
[電圧条件]
入力電圧:0s~550sは3Vまで昇圧、550s~6000sでは4.8Vまで昇圧
【0096】
[導電性物質の形状及び配置]
実施例1:直径155mmの円形で厚さ0.03mmの高配向性熱分解グラファイト(加圧方向に直交する方向の室温における電気抵抗率は5.6×10-7Ω・m)を、その中心が、加圧方向から見たときの炭化ケイ素原料占有領域の中心に重なるように、第1パンチと炭化ケイ素との間に配置した。加圧方向から見ると、炭化ケイ素原料占有領域の内部領域と外部領域とに跨るように、高配向性熱分解グラファイトが配置されている。
比較例1:第1パンチと炭化ケイ素との間に導電性物質である高配向性熱分解グラファイトを配置しない他は、実施例1と同様とした。
【0097】
【表1】
【0098】
実施例1及び比較例1の上記結果より、炭化ケイ素原料占有領域の内部領域A及び外部領域Aを跨ぐように導電性物質を配置した実施例1に係る炭化ケイ素焼結体の製造方法では、炭化ケイ素の最低温度と最高温度の差がわずか14℃しかなく、焼結による温度ムラが生じにくいことを確認した。一方で、導電性物質を配置しなかった比較例1は、炭化ケイ素の最低温度と最高温度の差が102℃もあり、焼結による温度ムラが生じやすいことを確認した。
【符号の説明】
【0099】
1 炭化ケイ素原料
1a 炭化ケイ素原料の上面
1b 炭化ケイ素原料の下面
5 シート状に成形された導電性物質
5A 環形の導電性物質
5B 放射状の導電性物質
5b、5b、5b、5b、5b、5b、5b、5b 棒状の導電性物質
5C 導電性物質
5c11 導電性物質の第1部分
5c21、5c22、5c23、5c24、5c25、5c26、5c27、5c28 導電性物質の第2部分
5D 円形の導電性物質
10 焼結型
20 第1パンチ
20a 第1パンチの加圧面
30 第2パンチ
30a 第2パンチの加圧面
40 第1電極
50 第2電極
60 真空チャンバー
100 製造装置
内部領域
外部領域
b 内部領域と外部領域の境界線
O 炭化ケイ素原料占有領域の中心(重心)

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8