(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076540
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】ヒンジキャップ付きケース
(51)【国際特許分類】
B29C 45/00 20060101AFI20240530BHJP
B29C 33/42 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
B29C45/00
B29C33/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188120
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100167597
【弁理士】
【氏名又は名称】福山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 拓実
(72)【発明者】
【氏名】前川 政貴
(72)【発明者】
【氏名】原田 拓治
(72)【発明者】
【氏名】三宅 翔平
【テーマコード(参考)】
4F202
4F206
【Fターム(参考)】
4F202AA04
4F202AA11
4F202AG30
4F202AH56
4F202AH57
4F202CA11
4F202CB01
4F206AA04
4F206AA11
4F206AB02
4F206AG30
4F206AH56
4F206AH57
4F206JA07
4F206JL02
4F206JM05
4F206JQ81
(57)【要約】
【課題】薄肉化と形状安定性を両立したヒンジキャップ付きケースを提供すること。
【解決手段】本発明は、共に略矩形でトレイ状である底部材2及び蓋部材3が互いに嵌合してなる樹脂製のヒンジキャップ付きケースである。このケースは、矩形の長辺方向の長さが120mm以下、かつ、短辺方向の長さが70mm以下である。底部材2及び蓋部材3はいずれも、底板部23,33と、その周縁から立ち上がる側板部24,34とを備え、底部材2は、側板部24の一部にヒンジキャップを有しており、底部材2及び蓋部材3の少なくとも一方の底板部23,33の厚さが0.70mm以下であり、底部材2及び蓋部材3の少なくとも一方は、微細気泡を含んだ領域を有している。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共に略矩形でトレイ状である底部材及び蓋部材が互いに嵌合してなる樹脂製のヒンジキャップ付きケースであって、
前記矩形は長辺方向の長さが120mm以下、かつ、短辺方向の長さが70mm以下であり、
前記底部材及び前記蓋部材はいずれも、底板部と、前記底板部の周縁から立ち上がる側板部とを備え、
前記底部材は、前記側板部の一部にヒンジキャップを有しており、
前記底部材又は前記蓋部材のいずれか一方の底板部の内面にはボスが形成されており、かつ、他方の底板部の内面には前記ボスが有するボス穴に嵌合するピンが形成されており、
前記底部材及び前記蓋部材の少なくとも一方の前記底板部の厚さが0.70mm以下であり、
前記底部材及び前記蓋部材の少なくとも一方は、微細気泡を含んだ領域を有している、ヒンジキャップ付きケース。
【請求項2】
前記微細気泡は、前記領域において内径が10μm~70μm、かつ、集合密度が30個/mm2~1000個/mm2である、請求項1記載のヒンジキャップ付きケース。
【請求項3】
前記微細気泡は、超臨界状態の窒素に由来するものである、請求項1記載のヒンジキャップ付きケース。
【請求項4】
前記底部材及び前記蓋部材の少なくとも一方は、前記底板部の内面に薄肉凹部を有しており、
前記薄肉凹部内における前記底板部の厚さが、前記薄肉凹部以外の部分における前記底板部の厚さの70%~80%である、請求項1記載のヒンジキャップ付きケース。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項記載のヒンジキャップ付きケースを構成する前記底部材又は前記蓋部材を製造する製造方法であって、
(A)樹脂材料と、超臨界状態の窒素とを含む溶融樹脂組成物を調製する工程と、
(B)前記溶融樹脂組成物を金型のキャビティ内に射出する工程と、
(C)前記(B)工程後、15~80MPaの圧力条件で前記キャビティを保圧するとともに冷却する工程と、
(D)成形物を前記金型から回収する工程と、
を含む、製造方法。
【請求項6】
前記溶融樹脂組成物における前記樹脂材料の質量を100質量部としたとき、前記超臨界状態の窒素の量が0.5~1.5質量部である、請求項5記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒンジキャップ付きケースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、清涼用粒状物等を入れて小出し使用するためのヒンジキャップ付きケースが知られている(例えば特許文献1,2)。これらはトレイ状の底部材と蓋部材とが互いに嵌合してなるカード型のケースであり、底部材と一体成形されたヒンジキャップを開閉できる構造となっている。これらは部品点数が少なく低コストであり、携帯性に優れ、かつ、耐圧強度が高いという特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3657351号公報
【特許文献2】特許第3953581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のヒンジキャップ付きケースは樹脂からなるものである。近年、環境への配慮から樹脂の使用を低減することが望ましいという社会的な要請がある。しかしながら、この要請に応えるべくヒンジキャップ付きケースを薄肉化すると、剛性が小さくなることから硬化収縮による寸法誤差や反りが発生しやすくなり、嵌合に悪影響が生じる。そこで本発明は、薄肉化と形状安定性を両立したヒンジキャップ付きケースを提供することを目的とする。また、そのようなヒンジキャップ付きケースの製造を可能とする製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、共に略矩形でトレイ状である底部材及び蓋部材が互いに嵌合してなる樹脂製のヒンジキャップ付きケースであって、当該矩形は長辺方向の長さが120mm以下、かつ、短辺方向の長さが70mm以下であり、底部材及び蓋部材はいずれも、底板部と、底板部の周縁から立ち上がる側板部とを備え、底部材は、側板部の一部にヒンジキャップを有しており、底部材又は蓋部材のいずれか一方の底板部の内面にはボスが形成されており、かつ、他方の底板部の内面にはボスが有するボス穴に嵌合するピンが形成されており、底部材及び蓋部材の少なくとも一方の底板部の厚さが0.70mm以下であり、底部材及び前記蓋部材の少なくとも一方は、微細気泡を含んだ領域を有している、ヒンジキャップ付きケースを提供する。
【0006】
このヒンジキャップ付きケースは、トレイ状である底部材又は蓋部材のなかでも広い面積を占める底板部の厚さが0.70mm以下となっている。この厚さは従来のヒンジキャップ付きケースと比べて薄いものであるので、製造するのに従来のものよりも材料が少なく済む。薄肉化された成形品は一般に、硬化収縮による影響が大きく寸法誤差や反りが発生しやすいが、本発明のヒンジキャップ付きケースは微細気泡を含有しているため、成形後の硬化収縮を抑制できるとともに、反りの原因となる残留応力を小さくすることができる。したがって、本発明のヒンジキャップ付きケースは薄肉化と形状安定性が両立している。
【0007】
このヒンジキャップ付きケースにおいて、微細気泡は、当該領域において内径が10μm~70μm、かつ、集合密度が30個/mm2~1000個/mm2であってもよい。また、微細気泡は、超臨界状態の窒素に由来するものであってもよい。
【0008】
このヒンジキャップ付きケースにおいて、底部材及び蓋部材の少なくとも一方は、底板部の内面に薄肉凹部を有していてもよく、この場合、薄肉凹部内における底板部の厚さが、薄肉凹部以外の部分における底板部の厚さの70%~80%であってもよい。薄肉凹部となっている部分は厚さが薄いので、製造するのに材料が一層少なく済む。
【0009】
また、本発明は、上記のヒンジキャップ付きケースを構成する底部材又は蓋部材を製造する製造方法を提供する。この製造方法は、(A)樹脂材料と、超臨界状態の窒素とを含む溶融樹脂組成物を調製する工程と、(B)溶融樹脂組成物を金型のキャビティ内に射出する工程と、(C)上記の(B)工程後、15~80MPaの圧力条件でキャビティを保圧するとともに冷却する工程と、(D)成形物を金型から回収する工程と、を含む。
【0010】
従来の製造方法では、樹脂材料を射出成形により薄板状に成形しようとすると、キャビティの流動末端にまで樹脂材料が至らない現象(以下、「ショートショット」という。)が生じることがあった。本発明の製造方法では、ショートショットが生じやすい形状であっても高い歩留まりで製造することができる。また、窒素が樹脂内に残存したまま樹脂が硬化するので、底部材又は蓋部材が微細気泡を含有したものとなる。すなわち、本発明の製造方法は、上記底部材又は蓋部材の製造を実現する手段として有力である。
【0011】
この製造方法において、溶融樹脂組成物における樹脂材料の質量を100質量部としたとき、超臨界状態の窒素の量が0.5~1.5質量部であってもよい。この量は、所望の微細気泡を発生させるのに好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、薄肉化と形状安定性を両立したヒンジキャップ付きケースを提供することができる。また、そのようなヒンジキャップ付きケースの製造を可能とする製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係るヒンジキャップ付きケースの斜視図である。
【
図4】(A)は、
図2のIV(A)-IV(A)線で切った端面図である。(B)は、
図3のIV(B)-IV(B)線で切った端面図である。
【
図5】(A)は、実施例2の成形品の側板部の断面写真である。(B)は、同成形品のピンの断面写真である。
【
図6】(A)は、比較例3の成形品の側板部の断面写真である。(B)は、同成形品のピンの断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において同一部分又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。本実施形態のヒンジキャップ付きケースは、清涼用粒状物等を入れて小出し使用するためのカード型のケースである。
【0015】
<ヒンジキャップ付きケース>
図1~
図3に示されているとおり、本実施形態のヒンジキャップ付きケース(以下、単に「ケース」と呼ぶことがある)1は、トレイ状の底部材2及び蓋部材3が互いに嵌合してなるものである。ケース1は平面視で略矩形(ここでは角丸長方形)をなしており、その片側の長辺部分に開口部5を有している。底部材2には、薄肉で折り曲げ可能なヒンジ21を介してヒンジキャップ22が一体成形されており、これにより開口部5を閉じることができる。なお、本明細書において、底部材2と蓋部材3とが互いに嵌合している方向を「厚さ方向」と呼び、これに垂直な任意の方向を「幅方向」と呼ぶ。
【0016】
ケース1の大きさとしては、矩形の長辺方向の長さが120mm以下、かつ、短辺方向の長さが70mm以下である。長辺方向の長さは110mm以下であってもよく、100mm以下であってもよい。短辺方向の長さは60mm以下であってもよく、50mm以下であってもよい。下限としては、長辺方向の長さは60mm以上であってもよく、70mm以上であってもよく、80mm以上であってもよい。短辺方向の長さは30mm以上であってもよく、40mm以上であってもよく、50mm以上であってもよい。
【0017】
底部材2及び蓋部材3もそれぞれ略矩形(角丸長方形)をなしているが、開口部5を形成する部分は、当該矩形の内側へ凹んだ凹部となっている。底部材2及び蓋部材3は共に、幅方向に広がる底板部23,33と、底板部23,33の周縁から厚さ方向に立ち上がって延びる側板部24,34とを有している。側板部24,34は、ケース1の開口部5となる部分を除いて、底板部23,33の周縁に沿って連続している。
【0018】
底部材2の底板部23はその内面において、四つの角丸部それぞれに近い四か所と、二つの長辺に沿った部分であって長辺の中央よりも開口部5を形成する凹部側に寄った二か所と、平面視中央の一箇所の合計七か所にボス25(25a,25b,25c,25d,25e,25f,25g)が形成されている。例えばボス25gは、
図4(A)に示されているとおり、厚さ方向に突設された中空の円筒であり、隔壁(円筒を形成している壁)で仕切られることでその中空部分がボス穴となっている。ボス穴の深さはボス25gの高さに一致している。この構造はいずれのボス25にも共通している。隔壁の厚さT
3については後述する。
【0019】
他方、蓋部材3の底板部33はその内面において、底部材2の底板部23に形成されているボス25(25a,25b,25c,25d,25e,25f,25g)のそれぞれに対応する位置にピン35(35a,35b,35c,35d,35e,35f,35g)が形成されている。例えばピン35gは、
図4(B)に示されているとおり、底板部33から盛り上がった土台部35gaと、土台部35gaの上面から更に突出して伸びる先端部35gbとからなっている。ピン35gはその内部に、先端部35gbと土台部35gaとを貫くようにして円筒状の空間が形成されており、その深さはピン35gの高さに一致している。本実施形態では、ピン35のうち、土台部35gaを有するのはピン35gのみであり、他のピン35は土台部を有しておらず、先端部35gbに相当する太さの円筒が突設されてなるものである。他の実施形態としては、全てのピン35が土台部を有していてもよい。土台部を有していると、ピンの厚さが薄い場合でも強度を確保しやすい。
【0020】
底部材2は、肉厚が薄くされた薄肉凹部26,26を有している。薄肉凹部26,26は、平面視中央に位置するボス25gと、側板部24の長辺との間の位置に、長辺方向に延びる平面視長方形の形状で二本形成されている。蓋部材3も、同様にして形成されている薄肉凹部36,36を有している。これらの薄肉凹部26,36は、後述する射出成形においてヒケや反りの発生を抑制するための肉盗み部にあたるものである。薄肉凹部26,36の部分における厚さについては後述する。
【0021】
底板部23が有する薄肉凹部26,26の合計面積、及び、底板部33が有する薄肉凹部36,36の合計面積は、底部材2及び蓋部材3のそれぞれの内面のうち幅方向に広がっている底板部23,33の内面の面積(薄肉凹部の部分と薄肉凹部ではない部分との合計面積)を100%として、10%~80%であってもよく、15%~70%であってもよく、20%~60%であってもよい。
【0022】
図4(A),(B)に示されているとおり、底部材2の側板部24はその端部において、内周面に沿って段上げ部24aが設けられている。他方、蓋部材3の側板部34はその端部において、内周面に沿って段下げ部34aが設けられている。段上げ部24aと段下げ部34aは、底部材2と蓋部材3とが互いに嵌合する際に、互いに当接して底部材2と蓋部材3とを密閉する役割を果たす。なお、ここで密閉性を高めるべく、側板部24,34の端部において、段上げ部24aと段下げ部34aの段上げ高さ及び段下げ高さに相当する部分に係合用の突条をそれぞれ設けてもよい。
【0023】
各部の厚さについて説明する。底板部23,33のうち、薄肉凹部26,36ではない部分の厚さT1は0.70mm以下である。この厚さT1は0.65mm以下であってもよく、0.60mm以下であってもよく、0.55mm以下であってもよく、0.50mm以下であってもよく、0.45mm以下であってもよく、0.40mm以下であってもよく、0.35mm以下であってもよい。薄肉凹部26,36における厚さT2は、0.40mm以下であってもよく、0.35mm以下であってもよく、0.30mm以下であってもよく、0.25mm以下であってもよい。また、厚さの割合としては、薄肉凹部26,36における厚さT2は、薄肉凹部26,36ではない部分の厚さT1の70%~80%であってもよく、71%~79%であってもよく、72%~78%であってもよい。この値が70%~80%であることにより、ショートショットの発生が抑制されやすい。
【0024】
側板部24,34の厚さは、段上げ部24a又は段下げ部34aが形成されている部分を除き、底板部23,33の薄肉凹部26,36ではない部分の厚さT1と同一であってよい。あるいは、側板部24,34の厚さは、段上げ部24a又は段下げ部34aが形成されることを考慮して、底板部23,33の厚さT1の110%~180%であってもよく、130%~150%であってもよい。
【0025】
ボス25gにおいて、ボス穴の内外を仕切っている隔壁の厚さT3は、0.60mm~1.00mmであってもよく、0.60mm~0.90mmであってもよく、0.80mm~0.90mmであってもよく、0.60mm~0.80mmであってもよい。また、当該隔壁の厚さT3は、底板部23のうち薄肉凹部26ではない部分の厚さT1の90%~150%であってもよく、100%~140%であってもよく、110%~130%であってもよい。なお、この値はボス25g以外のボス25においても同様である。
【0026】
底部材2及び蓋部材3を構成する樹脂としては、熱可塑性樹脂が好ましく、特に、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂が好ましい。ケース1を射出成形により形成する場合、熱可塑性樹脂のメルトフローレートは、好ましくは15g/10分以上であり、より好ましくは20~40g/10分であり、更に好ましくは25~36g/10分である。この値が15g/10分以上であることで、射出成形においてショートショットの発生を抑制しやすい傾向にあり、他方、40g/10分以下であることで、落下耐性に優れる成形物を製造できる傾向にある。なお、ここでいうメルトフローレート(MFR)は、JIS K7210-1:2014に記載の方法に準拠し、温度230℃及び荷重2.16kgの条件で測定された値を意味する。
【0027】
底部材2及び蓋部材3の少なくとも一方は、後述する製造方法に由来する微細気泡を含んだ領域を有している。好ましくは、底部材2及び蓋部材3の両方が微細気泡を含んだ領域を有している。ここで「微細気泡」とは、成形品中に存在し、気体が閉じ込められた空間を意味する。微細気泡の一つ一つは互いに独立した空間として存在していることが好ましく、その一つ一つの大きさは、肉眼では観察することができない程度に小さい。「微細気泡を含んだ領域」とは、所定の面積(例えば100μm四方)あたりの微細気泡の集合密度が他の領域と比べて大きい領域である。本実施形態の底部材2及び蓋部材3では、領域によって所定の面積あたりの微細気泡の集合密度に大小のばらつきがあり、他の領域と比べて集合密度が大きい領域がある。微細気泡が含まれている領域としては、特に、側板部24,34、ボス25、ピン35が好ましい。
【0028】
微細気泡は、集合密度が30個/mm2~1000個/mm2であってもよく、300個/mm2~600個/mm2であってもよく、350個/mm2~500個/mm2であってもよい。「微細気泡の集合密度」とは、単位面積当たりの微細気泡の個数を意味する。微細気泡の個数の計数では、0.2mm四方を光学顕微鏡(KH7000,HiROX社製)による観察対象とし、成形品の断面上に微細気泡の断面が位置している微細気泡の個数を計数してもよいし、樹脂が透明である場合であれば断面観察によって観察できる深さまでの微細気泡の個数を計数してもよい。
【0029】
微細気泡は、内径が10μm~70μmであることが好ましく、より好ましくは15μm~50μmである。ここで「内径」とは、微細気泡を光学的に観察したときの外接円の直径を意味し、光学顕微鏡によって測定することができる。なお、上記「10μm~70μm」等の数値範囲の表記は、上記の集合密度を求めた観察視野にある微細気泡の個数の85%以上、好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上の微細気泡がその数値範囲内にあることを意味している。
【0030】
微細気泡を構成している気体は、後述する製造方法で用いられた窒素であることが好ましい。底部材2及び蓋部材3が微細気泡を含んでいると、製造後の樹脂の硬化収縮が抑えられ、かつ、反りの発生も抑えられる。
【0031】
蓋部材3と底部材2とが互いに嵌合することで、ケース1が構成される。嵌合する際は、
図4で説明すれば、ピン35gの先端部35gbの外周面とボス25gの内周面とが接触して摩擦を生じるとともに、ピン35gの先端部の上面とボス穴の底、そしてピン35gの土台部35gaの上面とボス25gの上面(厚さ部分)がそれぞれ当接又は接近する。これと併せて、側板部24の段上げ部24aと側板部34の段下げ部34aとが互いに当接して底部材2と蓋部材3とが閉じられる。
【0032】
蓋部材3と底部材2はいずれも、反り量が2.00mm以下であることが好ましく、1.50mm以下であることが好ましく、1.30mm以下であることが好ましい。ここで「反り量」とは、蓋部材3又は底部材2を収容部側を下向きにして伏せたときの上側表面の最高点高さと最低点高さの差をいう。この測定は、例えば3D形状測定機(キーエンス社製、製品名「VR-6200」)で行うことができる。
【0033】
ケース1は、底部材2及び蓋部材3のなかでも広い面積を占める底板部23,33の厚さが0.70mm以下となっており、従来のヒンジキャップ付きケースと比べて薄いので、製造するのに従来のものよりも材料が少なく済む。また、底部材2及び蓋部材3は薄肉凹部26,36を有しているので、材料が一層少なく済む。また、ボス25を形成している隔壁の厚さが0.60mm~1.00mmであり、底板部23,33の厚さよりも比較的厚いので、ケース1の厚さ方向にかかる圧力に耐えることができ、かつ、適切な嵌合力を有することができる。
【0034】
<製造方法>
底部材2及び蓋部材3の製造方法を説明する。本実施形態の製造方法は以下の工程を含む。
(A)樹脂材料と、超臨界状態の窒素とを含む溶融樹脂組成物を調製する工程。
(B)溶融樹脂組成物を金型のキャビティ内に射出する工程。
(C)上記(B)工程後、キャビティを保圧するとともに冷却する工程。
(D)成形物を金型から回収する工程。
(A)工程から(D)工程の一連の工程は、例えば、MuCell射出成形機(「MuCell」はTrexel.Co.Ltdの登録商標)を使用して実施できる(例えば特許6085729号公報、特許6430684号公報を参照する)。
【0035】
[(A)工程]
はじめに、樹脂材料と、超臨界流体とを含む溶融樹脂組成物を調製する。樹脂材料としては、上で挙げた熱可塑性樹脂を用いることができる。樹脂材料100質量部に対して0.5~1.5質量部の超臨界状態の窒素を添加する。窒素の量が0.5質量部以上であることで、成形ショット毎の充填圧のばらつきを小さくできるとともに、窒素の添加による溶融樹脂組成物の粘度低下により、ショートショットの発生を抑制することができる。これに加え、超臨界状態の窒素に起因する発泡を促すことで成形物の内部に空隙を形成することができる。他方、窒素の量が1.5質量部以下であることで、(C)工程における保圧圧力を比較的低く設定することができ、後膨れを抑制できる傾向にある。
【0036】
溶融樹脂組成物の温度(スクリューシリンダ温度)は、樹脂材料の融点又はMFRに応じて設定すればよい。ポリプロピレン樹脂を使用する場合、この温度は210~230℃程度であることが好ましい。ポリエチレン樹脂を使用する場合、この温度は220~240℃程度であることが好ましい。この温度が下限値以上であることで、キャビティ内において樹脂が流動しやすく、他方、上限値以下であることで、樹脂の焦げ付きを抑制できる傾向にある。
【0037】
溶融樹脂組成物は、樹脂材料及び超臨界流体以外の成分を含んでもよい。すなわち、溶融樹脂組成物は、必要に応じて、例えば、フィラー、着色剤、スリップ剤、帯電防止剤などを更に含んでもよい。
【0038】
[(B)工程]
製造するケース1の底部材2及び蓋部材3の形状に対応する金型を用意する。そして、(A)工程で調製した溶融樹脂組成物を金型のゲートを通じてキャビティ内に射出する。射出速度は、好ましくは60mm/秒以上であり、より好ましくは200mm/秒以上であり、更に好ましくは250mm/秒以上である。射出速度が60mm/秒以上であることで、流動末端まで樹脂を到達させやすく、ショートショットの発生を抑制できる傾向にある。射出速度の上限値は、例えば、350mm/秒である。
【0039】
キャビティのゲートから、最も遠い流動末端までの距離(以下、「最大流動長」という。)が60mm以上であっても、流動末端にまで溶融樹脂組成物が至ることが好ましい。最大流動長は、例えば、70mm以上又は80mm以上であってもよい。最大流動長の上限値は、例えば、120mmである。ショートショットの発生を抑制する観点から、最大流動長Lと、成形する薄肉凹部の厚さT2との関係は以下の関係にあることが好ましい。
100≦L/T2≦300
【0040】
[(C)工程]
上記(B)工程後、キャビティを15~80MPaの圧力条件で保圧するとともに、冷却する。この圧力が15MPa以上であることで、ショートショットの発生を抑制することができ、他方、80MPa以下であることで、後膨れの発生を抑制することができる傾向にある。この値は、好ましくは15~50MPaであり、より好ましくは15~30MPaである。保圧時間は、例えば0.1~1.0秒とすればよい。
【0041】
薄肉の部分を作製する観点から、キャビティ内の圧力を低下させるための「コアバック」と称される工程を実施しないことが好ましい。コアバックは、キャビティに充填された溶融樹脂組成物が固化し終わる前に、金型の可動部を移動させてキャビティの容積を拡大させる工程である(特許6085729号公報参照)。
【0042】
[(D)工程]
金型内の成形物(底部材又は蓋部材)の温度が30~60℃程度に下がった時点で、成形物を金型から回収する。本実施形態においては、(C)工程で保圧を実施するとともに、上述のように「コアバック」を実施しないため、本実施形態の成形物には目視で確認できるような大きな空隙があまり形成されない。ただし、肉眼では目視できない程度の小さな空隙が存在しないわけではない。本実施形態の成形物は、空隙による軽量化よりも、薄肉化による軽量化を主に目指したものであると言うことができる。
【0043】
寸法安定性の評価として、収縮率が挙げられる。ここで「収縮率」とは、金型の寸法をP、成形品の寸法をQとしたときに「(P-Q)/Q」で表される値である。本実施形態の製造方法によれば、底部材2及び蓋部材3のいずれも、長辺方向の収縮率及び短辺方向の収縮率を0.030以下、0.025以下、又は、0.020以下にすることができる。
【0044】
以上の製造方法によって製造した底部材と蓋部材とを嵌合させることで、ヒンジキャップ付きケースを得られる。本実施形態のヒンジキャップ付きケースを構成する底部材及び蓋部材は従来よりも肉厚が薄いので、射出成形時にショートショットが発生する懸念がある。この点、本実施形態の製造方法によれば、溶融樹脂組成物の流動性がよくショートショットの発生を抑制することができるので、従来よりも樹脂の使用量が低減された成形物を問題なく製造することができる。
【0045】
また、上記製造方法によって製造した底部材と蓋部材は、上記所定の個数及び密度で微細気泡を含有したものとなっている。製造時に超臨界状態の窒素を用いたことで微細気泡が小さく数が多いものとなる。この微細気泡は硬化収縮時に収縮力を緩和するように働くので、硬化収縮を抑制する効果がある。薄肉化された成形品は一般に、硬化収縮による影響が大きく寸法誤差や反りが発生しやすいが、上記製造方法によって製造した底部材及び蓋部材は、当該微細気泡により成形後の硬化収縮を抑制できるので、反りの原因となる残留応力を小さくできる。したがって、これらの成形品は薄肉化と形状安定性が両立しているといえる。
【0046】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、上記実施形態では底部材2にボス25を、蓋部材3にピン35をそれぞれ設ける態様を示したが、底部材にピンを、蓋部材にボスをそれぞれ設ける態様としてもよい。
【0047】
また、上記実施形態では、ボス25とピン35の摩擦力で嵌合する態様を示したが、嵌合力をより高めるために、ボス25の内周面に周方向に延びる筋状の縮径部を、ピン35の先端部35gbの外周面に周方向に延びる筋状の拡径部をそれぞれ形成し、嵌合時に当該縮径部と当該拡径部とがボス穴内で互いにすれ違うことで嵌合する態様にしてもよい。
【0048】
また、上記実施形態では、薄肉凹部26,36として底部材2及び蓋部材3のいずれにも長方形の凹部を二本設ける態様を示したが、薄肉凹部26,36の形状は長方形以外の形状としてもよく、数は二本でなくてもよい。また、底板部23,33にヒケや反りが発生しにくい場合には、薄肉凹部26,36を設けない態様としてもよい。
【0049】
また、上記実施形態において、蓋部材3の側板部34の内面側に、厚さ方向かつ側板部24の端部側に突出するリブを複数設けてもよい。例えば長辺に沿って三つ、短辺に沿って二つ設ける。このリブは、側板部34の構造を補強するとともに、嵌合において底部材2の段上げ部24aを側面から受け止める働きをする。
【実施例0050】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0051】
(樹脂材料)
樹脂:ポリプロピレン(サンアロマー株式会社製、ランダムコポリマー「PM931V」、MFR:25g/10分、白色着色剤を主剤:着色剤=100:5でブレンド)
【0052】
(成形体の構造)
図2に示されたヒンジキャップ付きの底部材2と、
図3に示された蓋部材3とを成形した。ゲート位置を、底部材の長辺方向においてヒンジキャップ側へ寄った位置、かつ、底部材の短辺方向においてヒンジキャップ側へ寄った位置とした。設計上の最大流動長(L)、すなわち、ゲートを始点とした成形体の最も遠い位置までの直線距離は設計上83mmであった。蓋部材3についても同様の位置とした。
【0053】
(反り量の測定)
成形した底部材又は蓋部材を、収容部側を下向きにして伏せて、3D形状測定機(キーエンス社製、製品名「VR-6200」)のステージに載置した。その上側表面を対象として表面形状を測定した。上側表面での最高点高さと最低点高さの差を「反り量」とした。三個作製した成形品の平均値を求めた。底部材の反り量と蓋部材の反り量の合計を「総反り量」とした。
【0054】
(嵌合状態での側面部の隙間確認)
成形した底部材と蓋部材とを嵌合させた状態(セット状態)で、側面部に生じている隙間のうち最も広い部分を、JIS1級規格取得の金尺を用いて測定した。五個作製した成形品の平均値を求めた。
【0055】
(防湿性評価)
成形した底部材と蓋部材とを、12gのシリカゲルを内部に収容して嵌合させた。これを30℃~80℃の環境下で24時間静置した。その後、シリカゲルの重量を測定し、重量の増加率を求めた。
【0056】
また、成形した底部材と蓋部材とを、12gのシリカゲルを内部に収容して嵌合させ、側面部の隙間が生じうる部分に接着剤を塗布してケース全体を封止した。この状態で上記と同様にシリカゲルの重量の増加率を求めた。
【0057】
(発泡状態の観測)
成形した蓋部材の側板部とピンとをそれぞれ顕微鏡(HiROX社製、製品名「KH7000」)で倍率140倍にて観察し、微細気泡の個数と大きさを調べた。
【0058】
<実施例1>
100質量部の樹脂に対して0.80質量部の超臨界状態の窒素を添加して溶融樹脂組成物を調製した。この溶融樹脂組成物を使用して、表1に示した成形条件1、及び、表2に示した設計値にて、底部材の射出成形を行った。同様に、表1に示した成形条件2、及び、表2に示した設計値にて、蓋部材の射出成形を行った。
【0059】
成形した底部材及び蓋部材それぞれの重量、及び、各種の寸法を測定した(六個作製した成形品の平均値を求めた)。また、反り量、総反り量、嵌合状態での側面部の隙間を測定した。また、防湿性評価を行った。結果を表2及び表3に示す。なお、表2における「収縮率」とは、金型の寸法をP、成形品の寸法をQとしたときに(P-Q)/Qで表される値である。
【0060】
<比較例1>
100質量部の樹脂に対して1.50質量部の超臨界状態の二酸化炭素を添加して溶融樹脂組成物を調製した。この溶融樹脂組成物を使用して、表1に示した成形条件3、及び、表2に示した設計値にて、底部材の射出成形を行った。また、100質量部の樹脂に対して1.00質量部の超臨界状態の二酸化炭素を添加して溶融樹脂組成物を調製した。この溶融樹脂組成物を使用して、表1に示した成形条件4、及び、表2に示した設計値にて、蓋部材の射出成形を行った。
【0061】
成形した底部材及び蓋部材それぞれの重量、及び、各種の寸法を測定した。また、反り量、総反り量、嵌合状態での側面部の隙間を測定した。また、防湿性評価を行った。結果を表2及び表3に示す。
【0062】
<比較例2>
超臨界状態の気体を添加しないで、単に溶融させた樹脂を使用して表1に示した成形条件5、及び、表2に示した設計値にて、底部材の射出成形を行った。また、同樹脂を使用して、表1に示した成形条件6、及び、表2に示した設計値にて、蓋部材の射出成形を行った。
【0063】
成形した底部材及び蓋部材それぞれの重量、及び、各種の寸法を測定した。また、反り量、総反り量、嵌合状態での側面部の隙間を測定した。また、防湿性評価を行った。結果を表2及び表3に示す。
【0064】
<参考例1>
超臨界状態の気体を添加しないで、単に溶融させた樹脂を使用して射出成形により作製された成形品を準備した。また、同樹脂を使用して、表1に示した成形条件8で蓋部材の射出成形を行った。なお、これらの設計値は実施例1、比較例1及び比較例2とは異なり、全体の厚さを厚いものとした。
【0065】
成形した底部材及び蓋部材それぞれの重量、及び、各種の寸法を測定した。また、反り量、総反り量、嵌合状態での側面部の隙間を測定した。また、防湿性評価を行った。結果を表2及び表3に示す。
【0066】
表1~表3に示した結果から、実施例1の成形品は、寸法精度が高い薄型成形が達成されていることが分かる。また、防湿性評価の結果から、防湿のためには側面部の隙間が小さいこと、すなわち嵌合性が良好であることが重要であることが分かる。そして、実施例1の成形品では、薄型成形(実施例1、比較例1、比較例2)の中では反りが小さく抑えられており、嵌合時の側面部の隙間が十分に小さなものとなっていることが分かる。
【0067】
なお、各成形品を目視観察したところ、いずれの成形品にもショートショットの発生がみられなかった。
【0068】
<実施例2>
着色剤を含有していないポリプロピレン樹脂を用いて、表4に示した成形条件にて蓋部材の射出成形を行った。成形した蓋部材は、底板部には微細気泡がみられず、側板部やピンに微細気泡がみられた。側板部とピンを対象として発泡状態を観測し、微細気泡の個数と気泡の内径を測定した。蓋部材の厚さを表4に、発泡状態の結果を表5にそれぞれ示す。顕微鏡写真を
図5に示す。
【0069】
<比較例3>
着色剤を含有していないポリプロピレン樹脂を用いて、表4に示した成形条件にて蓋部材の射出成形を行った。成形した蓋部材は、底板部には微細気泡がみられず、側板部やピンに微細気泡がみられた。側板部とピンを対象として発泡状態を観測し、微細気泡の個数と気泡の内径を測定した。蓋部材の厚さを表4に、発泡状態の結果を表5にそれぞれ示す。顕微鏡写真を
図6に示す。
【0070】
表4及び表5に示した結果から、成形に超臨界状態の窒素を用いた場合には、二酸化炭素を用いた場合に比べて気泡が小さく個数が多いことが分かる。
【0071】
なお、各成形品を目視観察したところ、いずれの成形品にもショートショットの発生がみられなかった。
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
1…ケース、2…底部材、3…蓋部材、5…開口部、21…ヒンジ、22…ヒンジキャップ、23,33…底板部、24,34…側板部、24a…段上げ部、25(25a,25b,25c,25d,25e,25f,25g)…ボス、26,36…薄肉凹部、34a…段下げ部、35(35a,35b,35c,35d,35e,35f,35g)…ピン、35ga…土台部、35gb…先端部、T1…底板部の薄肉凹部ではない部分の厚さ、T2…底板部の薄肉凹部における厚さ、T3…ボスの隔壁の厚さ。