(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076542
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体とその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 25/22 20060101AFI20240530BHJP
C07C 43/20 20060101ALI20240530BHJP
C07C 39/12 20060101ALI20240530BHJP
C07C 49/483 20060101ALI20240530BHJP
C07C 49/473 20060101ALI20240530BHJP
C07C 17/35 20060101ALI20240530BHJP
C07C 41/18 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
C07C25/22 CSP
C07C43/20 D
C07C39/12
C07C49/483
C07C49/473
C07C17/35
C07C41/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188122
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】597065329
【氏名又は名称】学校法人 龍谷大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 匠完
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA02
4H006AC26
4H006AC28
4H006BB11
4H006BB14
4H006BE23
4H006BE62
4H006EA23
4H006GP03
(57)【要約】
【課題】3位と14位、および、6位と11位に異なる置換基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体、3位または14位、および、6位または11位にのみ、同一の2つの置換基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体、および、それらの製造方法を提供する。
【解決手段】3位と、6位または11位に2つの第1置換基と、14位と、11位または6位に2つの第2置換基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体に関する。また、3位または14位、および、6位または11位にのみ、同一の2つの置換基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体に関する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3位と、6位または11位に2つの第1置換基と、14位と、11位または6位に2つの第2置換基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体。
【請求項2】
第1置換基および第2置換基が、アルキル基、アリル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲノ基、水酸基、アルキルエーテル基、ポリオキシアルキレン基、アミド基、および、アミノ基からなる群から選択される置換基である請求項1に記載のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体。
【請求項3】
下記式
【化1】
【化2】
【化3】
、または、
【化4】
で表される請求項2に記載のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体。
【請求項4】
3位または14位、および、6位または11位にのみ、同一の2つの置換基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体。
【請求項5】
前記置換基が、水酸基、アルキルエーテル基、ポリオキシアルキレン基、アミド基、および、アミノ基からなる群から選択される置換基である請求項4に記載のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体。
【請求項6】
下記式
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
で表される請求項5に記載のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体。
【請求項7】
下記式
【化9】
【化10】
、または、
【化11】
で表される化合物。
【請求項8】
(a)2位に第1置換基、7位に第2置換基を有するフルオレノン誘導体を二量化し、スピロケトン誘導体を作製する工程、
(b)得られたスピロケトン誘導体のカルボニル基を還元し、水酸基を有するスピロアルコール誘導体を作製する工程、および、
(c)得られたスピロアルコール誘導体を脱水し、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体を得る工程
を含む請求項1または2に記載のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体の製造方法。
【請求項9】
(a)2位にアルキル基、アリル基、アリール基、アルケニル基、および、アルキニル基から選択される第1置換基、7位にハロゲノ基、水酸基、アルキルエーテル基、ポリオキシアルキレン基、アミド基、および、アミノ基からなる群から選択される第2置換基を有するフルオレノン誘導体を二量化し、スピロケトン誘導体を作製する工程、
(b)得られたスピロケトン誘導体のカルボニル基を還元し、水酸基を有するスピロアルコール誘導体を作製する工程、
(c)得られたスピロアルコール誘導体を脱水し、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体を得る工程、および、
(d)得られたジベンゾ[g,p]クリセン誘導体の第1置換基を脱離する工程
を含む請求項4または5に記載のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多環芳香族炭化水素(PAHs)は、置換基の位置によってその物理化学的・光化学的な性質や、物性が大きく変化することが知られている。そのため、PAHsを位置選択的に化学修飾することは、光機能化学を礎とした材料開発においては非常に重要な合成上の要素となる。しかしながら、PAHsは有機溶媒に溶けにくく、また、その構造の高い対称性のため、選択的な化学修飾を行うことは大変難しいという問題点を有することも一般によく知られている。そのため、純度の高い(品質の高い)PAHsを製造・合成することは難しく、結果として満足のいく性能の材料を供給できていない。特に、臭素原子のような化学変換しやすいハロゲン元素や、有機溶媒に溶かす能力を有する嵩高いアルキル基を特定の位置に取り付けたPAHsは、多種類の置換基を網羅的に導入する足場分子(プラットホーム)になり得る価値を持つが、高い純度で簡便につくることが大変難しい。
【0003】
こうしたPAHsのうち、最も注目を集めるものの一つに、ジベンゾ[g,p]クリセン(以下、DBCと略記)という比較的小さい分子が存在する。非平面性を強く帯びたDBCのパイ共役系は、固体物性にそのユニークな特性を反映することが知られ、例えば特定の結晶状態においてキャリア輸送能を大きく向上させることが知られている。また、DBCに官能基を導入すると、光機能性や電子的特性(良好な電子移動度・高い量子収率・長い励起寿命)が変化するので、合成的に微調整を行って機能の向上を図ることもできる。
【0004】
また、DBCはバッキーボウルの一種であるジインデノクリセンと同じ炭素数26個を有し、骨格構造もよく似ている。そのため、DBCはジインデノクリセンの前駆体としての価値がある。しかしながら、従来のDBC合成は、溶けにくいDBCに対して官能基を取り付けてその性能を引き出そうという技術にとどまっていたため、誘導されたDBC化合物は純品とは言い難く、真に実用化に適した材料とはなっていなかった。また、アルキル基を取り付けたDBC誘導体があったとしても、その合成経路は煩雑で時間や手間がたいそうかかるものであり、実用的とは言えない状況であった。さらに、DBCのフィヨルド領域に反応性置換基を取り付けることが難しいため、DBCからジインデノクリセン型バッキーボウルへと誘導した例は2例しかない(非特許文献1および2)。こうした状況を踏まえて、有機溶媒に溶けやすく、なおかつ定まった位置に正確に置換基を有するDBC誘導体・プラットホーム分子(足場分子)を開発することが喫緊の課題である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Vladimir Akhmetov, Mikhail Feofanov, Sergey Troyanov, Konstantin Amsharov, Chemistry - A European Journal 2019, 25, 7607-7612. “Tailoring Diindenochrysene through Intramolecular Multi-Assemblies by C-F Bond Activation of Aluminum Oxide” Doi: 10.1002/chem.201901450
【非特許文献2】Naoki Yoshida, Ryuhei Akasaka, Yusuke Awakura, Toru Amaya, Tetsuo Iwasawa, European Journal of Organic Chemistry, 2021, 5343-5347. “Solution-Processable Multi-Substituted Buckybowls: Synthesis of Diindeno[1,2,3,4-defg:1’,2’,3’,4’-mnop]chrysene Derivatives.”Doi: 10.1002/ejoc.202100869
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、3位と、6位または11位に2つの第1置換基と、14位と、11位または6位に2つの第2置換基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体、3位または14位、および、6位または11位にのみ、同一の2つの置換基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体、および、それらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、有機溶媒に問題なく溶け、多彩な置換基の導入も容易なDBC誘導体について検討を進め、2位に臭素基、7位にtert-ブチル基を持つフルオレノン(2-bromo-7-tert-butyl-9-fluorenone)の二量化を行い、位置を定めて臭素基とtert-ブチル基とを取り付けたDBC体を作製する手法を開発した(下記スキーム参照)。たとえばtert-ブチル基は典型的な嵩高いアルキル基であるため分子を有機溶媒に溶かす働きを担い、たとえば臭素原子は多様な官能基に変化する役割を果たす。その結果、生成するDBC誘導体は液相合成可能な足場分子(プラットホーム型分子)として、DBCの分子多様性を獲得することができ、たとえば臭素原子を水酸基に変換したり、tert-ブチル基を除去したりできることもわかった。
【0008】
【0009】
すなわち、本発明(1)は、3位と、6位または11位に2つの第1置換基と、14位と、11位または6位に2つの第2置換基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体である。
【0010】
本発明(2)は、第1置換基および第2置換基が、アルキル基、アリル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲノ基、水酸基、アルキルエーテル基、ポリオキシアルキレン基、アミド基、および、アミノ基からなる群から選択される置換基である本発明(1)に記載のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体である。
【0011】
本発明(3)は、下記式
【化2】
【化3】
【化4】
、または、
【化5】
で表される本発明(2)に記載のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体である。
【0012】
本発明(4)は、3位または14位、および、6位または11位にのみ、同一の2つの置換基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体である。
【0013】
本発明(5)は、前記置換基が、水酸基、アルキルエーテル基、ポリオキシアルキレン基、アミド基、および、アミノ基からなる群から選択される置換基である本発明(4)に記載のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体である。
【0014】
本発明(6)は、下記式
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
で表される本発明(5)に記載のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体である。
【0015】
本発明(7)は、下記式
【化10】
【化11】
、または、
【化12】
で表される化合物である。
【0016】
本発明(8)は、
(a)2位に第1置換基、7位に第2置換基を有するフルオレノン誘導体を二量化し、スピロケトン誘導体を作製する工程、
(b)得られたスピロケトン誘導体のカルボニル基を還元し、水酸基を有するスピロアルコール誘導体を作製する工程、および、
(c)得られたスピロアルコール誘導体を脱水し、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体を得る工程
を含む本発明(1)または(2)に記載のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体の製造方法である。
【0017】
本発明(9)は、
(a)2位にアルキル基、アリル基、アリール基、アルケニル基、および、アルキニル基から選択される第1置換基、7位にハロゲノ基、水酸基、アルキルエーテル基、ポリオキシアルキレン基、アミド基、および、アミノ基からなる群から選択される第2置換基を有するフルオレノン誘導体を二量化し、スピロケトン誘導体を作製する工程、
(b)得られたスピロケトン誘導体のカルボニル基を還元し、水酸基を有するスピロアルコール誘導体を作製する工程、
(c)得られたスピロアルコール誘導体を脱水し、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体を得る工程、および、
(d)得られたジベンゾ[g,p]クリセン誘導体の第1置換基を脱離する工程
を含む本発明(4)または(5)に記載のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の第1のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体は、3位と、6位または11位に2つの第1置換基と、14位と、11位または6位に2つの第2置換基を有し、本発明の第2のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体は、3位または14位、および、6位または11位にのみ、同一の2つの置換基を有するため、液相合成可能な足場分子(プラットホーム型分子)として、DBCの分子多様性を獲得することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体>
本発明の第1のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体は、3位と、6位または11位に2つの第1置換基と、14位と、11位または6位に2つの第2置換基を有することを特徴とする。2位と7位に異なる置換基を有するフルオレノン化合物を二量化してスピロケトン誘導体を誘導し、このスピロケトン誘導体を前駆体としてジベンゾ[g,p]クリセン誘導体を合成すると、得られるジベンゾ[g,p]クリセン誘導体は、3位と、6位または11位に2つの第1置換基と、14位と、11位または6位に2つの第2置換基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体を合成することができる。3位と14位に異なる置換基を有し、6位と11位にも異なる置換基を有する化学構造は、極めて稀である。
【0020】
ジベンゾ[g,p]クリセンは、下記化学式
【化13】
で表される化合物である。各炭素の置換位置を図中に示す。
【0021】
第1置換基および第2置換基は、アルキル基、アリル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲノ基、水酸基、アルキルエーテル基、ポリオキシアルキレン基、アミド基、および、アミノ基からなる群から選択される置換基であることが好ましい。なかでも、アルキル基、アリル基、アリール基、ハロゲノ基、水酸基、および、アルキルエーテル基からなる群から選択される置換基がより好ましい。また、第1置換基としてはアルキル基、アリル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基が好ましく、第2置換基としてはハロゲノ基、水酸基、アルキルエーテル基、ポリオキシアルキレン基、アミド基、および、アミノ基が好ましい。これらの置換基を有することで、有機溶媒に対する溶解性が向上する。有機溶媒としては、-78℃から150℃の温度範囲における溶解度の点で、トルエン、塩化メチレン、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの溶媒を利用することが好ましい。
【0022】
アルキル基、アリル基、アリール基、アルケニル基、および、アルキニル基の中では、幅広い種類の有機溶媒に対する溶解性の点で、アルキル基が好ましい。
【0023】
アルキル基、アルケニル基、アルキニル基の炭素数は3~12が好ましく、3~8がより好ましい。例えば、iso-プロピル、iso-ブチル、tert-ブチル、2,2-ジメチルプロピル、iso-ヘキシル、iso-ヘプチル、iso-オクチル、iso-ノニル、iso-デシル、iso-ウンデシル、iso-ドデシル等、分岐構造を有するものが好ましい。なかでも、iso-プロピル、iso-ブチル、tert-ブチルが好ましい。アルケニル基は、前記アルキル基の内部または末端に二重結合を有する基であり、アルキニル基は、前記アルキル基の内部または末端に三重結合を有する基である。アリール基の炭素数は6~14が好ましい。例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル(anthryl)基などが挙げられる。
【0024】
ハロゲノ基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基が挙げられ、ブロモ基が好ましい。
【0025】
アルキルエーテル基としては、置換基を有していてもよい直鎖状又は分枝状のアルキルエーテル基が挙げられる。アルキルエーテル基の炭素数は1~12が好ましく、1~8がより好ましい。例えば、メチルエーテル基、エチルエーテル基、ノルマルプロピルエーテル基、イソプロピルエーテル基、n-ブチルエーテル基、2―メチルプロピルエーテル基、n-ペンチルエーテル基、2,2-ジメチルプロピルエーテル基、n-ヘキシルエーテル基、n-ヘプチルエーテル基、n-オクチルエーテル基、n-ノニルエーテル基、n-デシルエーテル基、n-ウンデシルエーテル基、n-ドデシルエーテル基等が挙げられ、メチルエーテル基、エチルエーテル基、ノルマルプロピルエーテル基、n-ブチルエーテル基、2―メチルプロピルエーテル基、n-ペンチルエーテル基、2,2-ジメチルプロピルエーテル基、n-ヘキシルエーテル基が好ましい。アルケニルエーテル基は、前記アルキルエーテル基の内部または末端に二重結合を有する基であり、アルキニルエーテル基は、前記アルキルエーテル基の内部または末端に三重結合を有する基である。
【0026】
ポリオキシアルキレン基としては、アルキレンジオールの単独重合体または共重合体の末端の水素を取った置換基である。このような置換基を導入することで、水または水溶性有機溶媒に溶解しやすくなる。ポリオキシアルキレンとしては、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン等が挙げられる。重合度は、ポリエチレングリコールの場合には4~450が好ましく、ポリエチレンオキシドの場合には450~10000が好ましい。
【0027】
アミド基は、-NHCORで表される官能基である。Rとしては、アルキル基、アリール基、アルコキシ基などが挙げられる。アミノ基としては、第1級アミン(-NH2)だけでなく、第2級アミン(-NHR1)や第3級アミン(-NR1R2)が挙げられる。第2級アミンのR1基や第3級アミンのR1基およびR2基としては、アルキル基、アリール基などが挙げられる。アミド基および第2級アミン、第3級アミンにおけるアルキル基の炭素数は1~12が好ましく、アリール基の炭素数は6~14が好ましい。より具体的には、アルキル基としては、iso-プロピル、iso-ブチル、tert-ブチル、2,2-ジメチルプロピル、iso-ヘキシル、iso-ヘプチル、iso-オクチル、iso-ノニル、iso-デシル、iso-ウンデシル、iso-ドデシルなどが挙げられ、アリール基としてはフェニル基、ナフチル基、アントリル(anthryl)基などが挙げられる。
【0028】
3位と、6位または11位に2つの第1置換基と、14位と、11位または6位に2つの第2置換基を有していれば、他の置換位置に置換基を有していても良い。他の置換基としては、第1置換基および第2置換基同様、アルキル基、アリル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲノ基、水酸基、アルキルエーテル基、ポリオキシアルキレン基、アミド基、および、アミノ基などが挙げられる。
【0029】
前記ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体の中でも、下記式
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
で表される化合物が好ましい。
【0030】
<第2のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体>
本発明の第2のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体は、3位または14位、および、6位または11位にのみ、同一の2つの置換基を有することを特徴とする。第1置換基または第2置換基がアルキル基等の本発明の第1のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体において、脱アルキル化反応等を行うことによって合成することができる。3位または14位、および、6位または11位にのみ、同一の2つの置換基を有する化学構造は、極めて稀である。
【0031】
置換基は、水酸基、アルキルエーテル基、ポリオキシアルキレン基、アミド基、および、アミノ基からなる群から選択される置換基であることが好ましい。これらの置換基の具体例は、本発明の第1のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体で説明したものと同じである。
【0032】
前記ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体の中でも、下記式
【化18】
【化19】
【化20】
【化21】
で表される化合物が好ましい。
【0033】
<第1のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体の製造方法>
本発明の第1のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体の製造方法は、
(a)2位に第1置換基、7位に第2置換基を有するフルオレノン誘導体を二量化し、スピロケトン誘導体を作製する工程、
(b)得られたスピロケトン誘導体のカルボニル基を還元し、水酸基を有するスピロアルコール誘導体を作製する工程、および、
(c)得られたスピロアルコール誘導体を脱水し、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体を得る工程
を含むことを特徴とする。
【0034】
第1置換基および第2置換基が、アルキル基、アリル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲノ基、水酸基、アルキルエーテル基、ポリオキシアルキレン基、アミド基、および、アミノ基からなる群から選択される置換基であることが好ましい。これらの置換基の詳細は、前述したとおりである。
【0035】
2位に第1置換基、7位に第2置換基を有するフルオレノン誘導体は、たとえば2位に第1置換基を有するフルオレンに第2置換基を導入することによって合成することができる。たとえば2-ハロゲノフルオレンにtert-ブチルクロリドを三塩化アルミニウム試薬や二塩化エチルアルミニウムなどのルイス酸存在下において反応させると、選択的に7位にtert-ブチル基を導入することができる。そして、得られたフルオレンをtert-ブチルヒドロペルオキシド、過酢酸や過安息香酸などの有機過酸化物と、三塩化鉄やゼロ価鉄などの鉄試薬などを組み合わせてピリジンなどの含窒素試薬を溶媒とした条件下で酸化することにより、2位と7位に異なる置換基を有するフルオレノンを合成することができる。
【0036】
工程(a)のフルオレノン誘導体の二量化方法は特に限定されず、亜リン酸トリアルキルなどの酸素親和性の高いルイス塩基試薬の存在下で行う方法が好ましいものとして挙げられる。亜リン酸トリアルキルなどの活性化試薬は2当量以上が好ましい。反応温度は特に限定されず、90~200℃が好ましい。
【0037】
工程(b)のスピロケトン誘導体の還元法は特に限定されず、水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウムなどの還元剤や、水素(ガス)を用いた接触還元法などが挙げられる。
【0038】
工程(c)の水酸基を有するスピロケトン誘導体の脱水法は特に限定されず、二塩化エチルアルミニウム、三塩化アルミニウム、三塩化鉄、(ゼロ価の)鉄、濃塩酸、塩酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、希硫酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸などが挙げられる。
【0039】
得られたジベンゾ[g,p]クリセン誘導体に、ハロゲノ基を有する場合には、ナトリウムアルコキシドとヨウ化銅や臭素化銅や塩化銅などによって、ハロゲノ基をアルコキシ基に変換することができる。
【0040】
本発明のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体の製造方法によって、式a~dで表される化合物を合成することができる。式c~dで表される化合物は、式a~bで表される化合物のハロゲノ基をアルコキシ基に変換することで合成することもできる。
【0041】
<第2のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体の製造方法>
本発明の第2のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体の製造方法は、
(a)2位にアルキル基、アリル基、アリール基、アルケニル基、および、アルキニル基から選択される第1置換基、7位にハロゲノ基、水酸基、アルキルエーテル基、ポリオキシアルキレン基、アミド基、および、アミノ基からなる群から選択される第2置換基を有するフルオレノン誘導体を二量化し、スピロケトン誘導体を作製する工程、
(b)得られたスピロケトン誘導体のカルボニル基を還元し、水酸基を有するスピロアルコール誘導体を作製する工程、
(c)得られたスピロアルコール誘導体を脱水し、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体を得る工程、および、
(d)得られたジベンゾ[g,p]クリセン誘導体の第1置換基を脱離する工程
を有することを特徴とする。
【0042】
工程(a)~(c)は、本発明の第1のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体の製造方法で説明した通りである。
【0043】
工程(d)のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体の第1置換基の脱離方法は特に限定されず、第1置換基がアルキル基の場合、三塩化アルミニウム、二塩化エチルアルミニウム、三塩化鉄、ゼロ価鉄などのルイス酸と反応させる方法が挙げられる。
【0044】
式e~fで表される化合物は、式a~dで表される化合物から第1置換基を脱離させることにより合成することができる。
【0045】
式g~hで表される化合物は、式e~fで表される化合物を三臭化ホウ素、三塩化ホウ素、三塩化アルミニウム、二塩化アルキルアルミニウムなどのルイス酸と反応させ、脱アルコキシ化することにより合成することができる。
【0046】
本発明のフルオレノン誘導体は、2位に第1置換基を有し、7位に第2置換基を有することを特徴とする。
【0047】
第1置換基および第2置換基が、アルキル基、アリル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲノ基、水酸基、アルキルエーテル基、ポリオキシアルキレン基、アミド基、および、アミノ基からなる群から選択される置換基であることが好ましい。これらの置換基の詳細は、前述したとおりである。
【0048】
2位に第1置換基を有し、7位に第1置換基とは異なる同一の第2置換基を有していれば、他の置換位置に置換基を有していても良い。
【0049】
前記フルオレノン誘導体の中でも、下記式
【化22】
で表される化合物が好ましい。
【0050】
本発明のスピロケトン誘導体は、2位と2’位に同一の第1置換基を有し、7位と7’位に第1置換基とは異なる同一の第2置換基を有することを特徴とする。
【0051】
第1置換基および第2置換基が、アルキル基、アリル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲノ基、水酸基、アルキルエーテル基、ポリオキシアルキレン基、アミド基、および、アミノ基からなる群から選択される置換基であることが好ましい。これらの置換基の詳細は、前述したとおりである。
【0052】
2位と2’位に同一の第1置換基を有し、7位と7’位に第1置換基とは異なる同一の第2置換基を有していれば、他の置換位置に置換基を有していても良い。
【0053】
前記スピロケトン誘導体の中でも、下記式
【化23】
または、
【化24】
で表される化合物が好ましい。
【0054】
本発明の前記スピロケトン誘導体は、2位に第1置換基を有し、7位に第1置換基とは異なる第2置換基を有するフルオレノン誘導体を二量化することによって、合成することができる。二量化する工程は、工程(a)で前述した通りである。
【0055】
本発明のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体、および、スピロケトン誘導体は、高分子材料、高耐熱性樹脂、光機能性材料、有機エレクトロニクス材料、化学センサー材料の分野に適用される。具体的には、低伝送損失基板材料、低誘電・光接着ポリイミド樹脂用原料、リソグラフィー用材料、レジスト材料、有機EL用材料、接着剤等の樹脂用材料、スーパーエンジニアリングプラスチック用材料、有機半導体用材料、有機太陽電池用材料、フレキシブルプリント基板等が挙げられる。特に、薄膜トランジスターの正孔輸送物質や有機発光ダイオードの発光素子や、その前駆体の化合物として応用可能である。
【実施例0056】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0057】
実施例において、禁水反応はアルゴンまたは窒素雰囲気下で行なっており、特に断りのない限り実験は禁水条件で実施した。購入した無水溶媒・試薬は、改めて精製して純度を向上させることなく使用した。薄層クロマトグラフィーとしてMerck silica 60F254を使用し、カラムクロマトグラフィーとしてシリカゲル60N(関東化学(株)製)を用いた。高分解能質量測定(HRMS)として飛行時間型質量分析法(MALDI-TOFまたはLCMS-IT-TOF)または直接質量分析法(DART-MS)のいずれかを用いた。
【0058】
1H-NMR、13C-NMRスペクトルについては、5mmのQNPプローブを用い、それぞれ400MHz、100MHzで測定した。化学シフト値はδ(ppm)で示しており、それぞれの溶媒中での基準値は1H-NMR:CHCl3(7.26),CH2Cl2(5.32)、DMSO(2.50);13C-NMR:CDCl3(77.0)、DMSO(39.5)としている。分裂のパターンは、s:単一線、d:二重線、t:三重線、q:四重線、m:多重線、br:幅広線で示す。
【0059】
【0060】
実施例1
2-ブロモ-7-tert-ブチルフルオレノン(化合物1)の合成
300mLの一径フラスコに2-ブロモフルオレン(16g,65mmol)と塩化メチレン(80mL)を加え、0℃下ターシャリーブチルクロリド(7.9mL,72mmol)と塩化鉄(1.1g,6.5mmol)を加えた。反応溶液を10分撹拌した後、セライト濾過、除媒濃縮を行った。残渣をピリジン(96mL)に溶かし、三塩化鉄・六水和物(3.5g,13mmol)を加え、70%ターシャリーブチルヒドロペルオキシド水溶液(27mL,200mmol)を滴下後、80℃に昇温した。反応溶液を1時間撹拌後、70%ターシャリーブチルヒドロペルオキシド水溶液(9.0mL,65mmol)をさらに加えて1時間撹拌後、室温に自然降温してセライト濾過、除媒濃縮を行った。残渣を塩化メチレンに溶かし、飽和食塩水で洗浄、芒硝乾燥、除媒濃縮を行い、黄褐色固体の粗生成物を得た。シリカゲルによる濾過カラム精製操作を行い、化合物1を16.7g(81%)の黄色固体として得た。酢酸エチルを用いた再結晶操作を行い、化合物1を12g(57%)の黄色固体として得た。
【0061】
化合物1の分析データ
Rf value 0.50(hexane/CH2Cl2=4:1);
M.p.194-195℃;
1HNMR(400MHz,CDCl3)7.74(d,J=1.8Hz,1H),7.71(d,J=1.7Hz,1H),7.58(dd,J=7.9,1.8Hz,1H),7.53 (dd,J=7.8,1.7Hz,1H),7.53(dd,J=7.8,1.7Hz,1H),7.42(d,J=7.8Hz,1H),7.36(d,J=7.9Hz,1H),1.34(s,9H)ppm;
13CNMR(100MHz,CDCl3)193.2(C=O),153.6,143.4,141.3,137.3,136.5,134.1,132.2,127.8,122.7,122.2,121.8,120.5,35.4,31.5ppm;
MS(DART-TOF)m/z:314[M]+;
IR(neat)2955,1712(C=O),1599,1407,1362,1246,1183,1154,823,778,694cm-1;
HRMS(DART-TOF)calcd.for C17H15BrO:314.0306[M]+,found;314.0287 [M]+;
Anal.Calcd.for C17H15BrO;C,64.78;H,4.80.Found:C,64.96;H,4.82.
【0062】
実施例2
3,6-ジブロモ-11,14-ジ-tert-ブチルスピロフルオレンフェナンスレノール(化合物2)および6,14-ジブロモ-3,11-ジ-tert-ブチルスピロフルオレンフェナンスレノール(化合物iso-2)の合成
大気圧下、50mLの一径フラスコに化合物1(5.7g,18mmol)と亜リン酸トリイソプロピル(12mL,54mmol)を加え、150℃のオイルバスに浸し22時間撹拌後、60℃に降温した。水道水を10分かけて添加後、再び80℃に昇温した。反応溶液を2時間撹拌後、減圧濾取、冷メタノール洗浄を行い、白黄色固体の粗生成物を得た。シリカゲルを用いたカラム精製操作を行い、化合物2を3.3g(60%)、化合物iso-2を800 mg(13%)の白色固体として得た。
【0063】
化合物2の分析データ
Rf value 0.50(hexane/toluene、1:1);
M.p.277-280℃;
1HNMR(400MHz,CDCl3)8.04(d,J=2.2Hz,1H),8.03(d,J=8.7Hz,1H),7.96(d,J=8.5Hz,1H),7.87(dd,J=8.7,2.0Hz,1H),7.70(d,J=8.0Hz,1H),7.60(d,J=8.2Hz,1H),7.48(dd,J=8.0,1.6Hz,1H),7.46(dd,J=8.2,1.8Hz,1H),7.42(dd,J=8.5,2.2Hz,1H),7.10(d,J=1.6Hz,1H),7.05(d,J=1.8Hz,1H),6.59(d,J=2.0Hz,1H),1.23(s,9H),1.08(s,9H)ppm;
13CNMR(100MHz,CDCl3)196.2(C=O),153.2,152.4,148.6,146.8,140.6,138.6,138.5,138.1,137.4,131.8,131.5,131.3,127.7,127.5,126.1,125.9,125.6,125.3,124.4,122.7,122.4,122.2,120.9,120.4,69.4,35.4,35.0,31.7,31.2ppm;
MS(DART-TOF)m/z:615[MH]+;
IR(neat)2960,1686(C=O),1455,1248,814,746,456cm-1;
HRMS(DART-TOF)calcd.for C34H31Br2O:615.0721 [MH]+,found;15.0700;
Anal.Calcd.for C34H30Br2O;C,66.46;H,4.92.Found:C,66.40;H,4.98.
【0064】
化合物iso-2の分析データ
Rf value 0.45(hexane/toluene、1:1);
M.p.247-248℃;
1HNMR(400MHz,CDCl3)8.07(d,J=8.2Hz,1H),7.98(d,J=1.8Hz,1H),7.94(d,J=8.1Hz,1H),7.84(dd,J =8.2,2.2Hz,1H),7.67(d,J=8.3Hz,1H),7.63(d,J=8.4Hz,1H),7.52(dd,J=8.3,1.7Hz,1H),7.50(dd,J=8.4,1.6Hz,1H),7.43(dd,J=8.1,1.7Hz,1H),7.15(d,J=1.7Hz,1H),6.93(d,J=1.6Hz,1H),6.71(d,J=2.2Hz,1H),1.36(s,9H),1.15(s,9H)ppm;
13CNMR(100MHz,CDCl3)196.8(C=O),152.9,152.7,149.1,147.1,141.5,141.2,138.4,135.2,133.3,132.4,132.1,131.4,130.4,130.0,128.6,126.6,126.2,125.9,123.8,123.5,122.4,122.1,121.7,120.9,69.0,35.6(two peaks are overlapped),31.9,31.6ppm;
MS(DARTTOF)m/z:615 MH]+;
IR(neat)2956,1683(C=O),1455,1228,814,742cm-1;
HRMS(DART-TOF)calcd.for C34H31Br2O:615.0721[MH]+,found;615.0703;
Anal.Calcd.for C34H30Br2O;C,66.46;H,4.92.Found:C,66.31;H,4.87.
【0065】
実施例3
3,11-ジブロモ-6,14-ジ-tert-ブチルジベンゾ[g,p]クリセン(化合物3)および3,6-ジブロモ-11,14-ジ-tert-ブチルジベンゾ[g,p]クリセン(化合物iso-3)の合成
(化合物2を原料に据えた場合)
大気圧下、20mLのシュレンク管に化合物2(2.2g,3.5mmol)、トルエン(7.0mL)、メタノール(1.4mL)を加え、45℃に昇温した。反応溶液を15分撹拌後、水素化ホウ素ナトリウム(53mg,1.4mmol)を15分かけて添加し、30分撹拌した。アセトンを加えて30分撹拌し、過剰量の還元剤を不活性化し、室温に自然降温した。有機層を水洗、飽和食塩水で洗浄、芒硝乾燥、除媒濃縮を行い、2.3gのアルコール体を得た。この純度のまま次の反応に供した。
アルゴン雰囲気下、50mLの一径フラスコにアルコール体(2.3g)、トルエン(7.0mL)、ヘキサフルオロイソプロピルアルコール(7.0mL)を加えた。メタンスルホン酸(0.03mL,0.7mmol)を添加後、室温で6時間撹拌した。反応溶液を分液漏斗に移し、飽和食塩水で洗浄、芒硝乾燥、除媒濃縮を行い、2.0gの粗生成物を得た。カラム精製の結果、化合物3を1.3g(62%)、化合物iso-3を310mg(15%)の白色固体として得た。
【0066】
(化合物iso-2を原料に据えた場合)
大気圧下、20mLのシュレンク管に化合物iso-2(620mg,1.0mmol)、トルエン(2.0mL)、メタノール(0.4mL)を加え、45℃に昇温した。15分撹拌後、水素化ホウ素ナトリウム(15mg,0.4mmol)を添加し、30分撹拌した。アセトン(1.0mL)を加え30分撹拌し、過剰量の還元剤を不活性化し、室温に自然降温した。有機層を水洗、当該の有機層をフラスコに移して120℃に昇温し、水を共沸除媒した。その後、メタンスルホン酸(0.01mL,0.2mmol)を加え、30分撹拌した。反応溶液を室温に自然降温した後、分液漏斗に移し、飽和食塩水で洗浄、芒硝乾燥、除媒濃縮を行い、粗生成物を得た。カラム精製の結果、化合物3を120 mg(19%)、化合物iso-3を410mg(69%)の白色固体として得た。
【0067】
化合物3の分析データ:
Rf value 0.50(hexane/CHCl3、9:1);
M.p.282-283℃;
1HNMR(400MHz,CDCl3)8.87(d,J=1.8Hz,2H),8.63(d,J=1.8Hz,2H),8.58(d,J=8.6Hz,2H),8.54(d,J=8.6Hz,2H),7.76(dd,J=8.6,1.8Hz,4H),1.54(s,18H)ppm;
13CNMR(100MHz,CDCl3)150.3,131.7,130.6,130.0,129.9,128.9,128.3,127.8,125.44,125.43,125.2,123.5,120.6,35.4,31.7ppm;
MS(DART-TOF)m/z:598[M]+;
IR(neat)2952,1591,1460,1397,882,803,734,472 cm-1;
HRMS(DARTTOF)calcd.for C34H30Br2:598.0694[MH]+,found;598.0676;
Anal.Calcd.for C34H30Br2;C,68.24;H,5.05.Found:C,68.03;H,5.07.
【0068】
化合物iso-3の分析データ:
Rf value 0.43(hexane/CHCl3、9:1);
M.p.236-238℃;
1HNMR(400MHz,CDCl3)8.72(d,J=1.8Hz,2H),8.66(d,J=1.7Hz,2H),8.59(d,J=8.8Hz,2H),8.53(d,J=8.7Hz,2H),7.79(dd,J=8.7,1.7Hz,2H),7.76(dd,J=8.8,1.8Hz,2H),1.45(s,18H)ppm;
13CNMR(100MHz,CDCl3)150.3,130.8,130.5,130.3,130.0,129.7,129.3,128.6,125.7,125.62,125.56,125.4,123.7,120.9,35.5,31.9ppm;
MS(DART-TOF)m/z:598[M]+;
IR(neat)2954,1593,1464,806,786,733,477cm-1;
HRMS(DART-TOF)calcd.for C34H30Br2:598.0694[M]+,found;598.0668;
Anal.Calcd.for C34H30Br2;C,68.24;H,5.05.Found:C,68.05;H,5.02.
【0069】
実施例4
3,11-ジメトキシ-6,14-ジ-tert-ブチルジベンゾ[g,p]クリセン(化合物4)の合成
アルゴン雰囲気下、50mLの一径フラスコに、化合物3(725mg,1.2mmol)と無水ジメチルホルムアミド(13mL)を加えた。ヨウ化銅(1.4g,7.3mmol)を加え、ナトリウムメトキシド(28%メタノール溶液,12mL,61mmol)を滴下した。120℃下2時間攪拌後、自然降温した。反応溶液をシリカゲルとセライトを詰めたグラスフィルターで濾過した。有機層を分離し、水層に対してトルエンで抽出操作を行った。飽和食塩水洗浄、芒硝乾燥、除媒濃縮、真空乾燥を行い、白黄色固体の粗生成物を得た。シリカゲルを用いた濾過カラム精製を行い、化合物4を526mg(87%)の黄白色固体として得た。
【0070】
3,6-ジメトキシ-11,14-ジ-tert-ブチルジベンゾ[g,p]クリセン(化合物iso-4)の合成
アルゴン雰囲気下、50mLの一径フラスコに、化合物iso-3(450mg,0.8mmol)と無水ジメチルホルムアミド(8mL)を加えた。ヨウ化銅(914mg,4.8mmol)を加え、ナトリウムメトキシド(28%メタノール溶液,8mL,40mmol)を滴下した。120℃下2時間攪拌後、自然降温。反応溶液をシリカゲルとセライトを詰めたグラスフィルターで濾過後、有機層を分離し、水層に対してトルエンで抽出操作を行った。飽和食塩水洗浄、芒硝乾燥、除媒濃縮、真空乾燥を行い、白黄色固体の粗生成物を得た。シリカゲルを用いた濾過カラム精製を行い、化合物iso-4を300mg(80%)の白色固体として得た。
【0071】
化合物4の分析データ:
Rf value 0.57(hexane/CH2Cl2、1:1);
M.p.236-238℃;
1HNMR(400MHz,CDCl3)8.74(d,J=2.0Hz,2H),8.59(d,J=8.8Hz,2H),8.55(d,J=8.8Hz,2H),8.16(d,J=2.5Hz,2H),7.72(dd,J=8.8,2.0Hz,2H),7.28(dd,J=8.8,2.5Hz,2H),3.94(s,6H),1.45(s,18H)ppm;
13CNMR(100MHz,CDCl3)158.4,148.6,130.9,129.0,128.8,128.7,125.33,125.29,124.9,124.8,123.3,116.9,110.4,55.7,35.3,31.9ppm;
MS(DART-TOF)m/z:501[MH]+;
IR(neat)2952,1608,1482,1248,1223,1172,1043,860,807cm-1;
HRMS(DART-TOF)calcd.for C36H37O2:501.2794[MH]+,found;501.2798.
【0072】
化合物iso-4の分析データ:
Data:Rf value 0.43(hexane/CH2Cl2、1:1);
M.p.260-262℃;
1HNMR(400MHz,CDCl3)8.67(d,J=1.8Hz,2H),8.59(d,J=9.0Hz,2H),8.55(d,J=8.6Hz,2H),8.23(d,J=2.6Hz,2H),7.74(dd,J=8.6,1.8Hz,2H),7.28(dd,J=9.0,2.6Hz,2H),3.94(s,6H),1.45(s,18H)ppm;
13CNMR(100MHz,CDCl3)158.3,148.7,130.8,130.2,129.1,128.8,128.3,127.6,125.4(two peaks are overlapped),125.14,125.08,123.3,116.2,110.2,55.8,35.4,31.9ppm;
MS(DARTTOF)m/z: 501[MH]+;
IR(neat)2953,1613,1484,1228,1044,815cm-1;
HRMS(DART-TOF)calcd.for C36H37O2:501.2794[MH]+,found;501.2784.
【0073】
実施例5
3,11-ジメトキシジベンゾ[g,p]クリセン(化合物5)の合成
アルゴン雰囲気下、化合物4(1.0g,2.0mmol)のベンゼン(13mL)懸濁液に、室温下、三塩化アルミニウム(1.1g,8.0mmol)を加えた。反応溶液を室温で30分攪拌後、0℃下で蒸留水を加え、反応停止操作を行った。有機層を分離し、水層に対してトルエンで抽出操作を行った。飽和食塩水洗浄、芒硝乾燥、除媒濃縮、真空乾燥を行い、白黄色固体の粗生成物を得た。シリカゲルを用いた濾過カラム精製を行い、化合物5を654mg(85%)の白色固体として得た。
【0074】
3,6-ジメトキシジベンゾ[g,p]クリセン化合物(iso-5)の合成
アルゴン雰囲気下、化合物iso-4(300mg,0.6mmol)のベンゼン(5mL)懸濁液に、室温下、三塩化アルミニウム(320mg,2.4mmol)を加えた。反応溶液を室温で30分攪拌後、0℃下で蒸留水を加え、反応停止操作を行った。有機層を分離し、水層に対してトルエンで抽出操作を行った。飽和食塩水洗浄、芒硝乾燥、除媒濃縮、真空乾燥を行い、白黄色固体の粗生成物を得た。シリカゲルを用いた濾過カラム精製を行い、化合物iso-5を200mg(85%)の白色固体として得た。
【0075】
化合物5の分析データ
Rf value 0.26(hexane/CH2Cl2、2:1);
M.p.201-203℃;
1HNMR(400MHz,CDCl3)8.76(dd,J=8.9,1.3Hz,2H),8.62(m,4H),8.19(d,J=2.5Hz,2H),7.65(ddd,J=8.2,7.2,1.3Hz,2H),7.57(ddd,J=8.2、7.2,1.3Hz,2H),7.31(dd,J=8.9,2.5Hz,2H),3.95(s,6H)ppm;
13CNMR(100MHz,CDCl3)158.5,131.2,130.9,128.8,128.5,128.3,126.9,125.9,125.4,125.3,123.5,115.9,111.5,55.8ppm;
MS(DART-TOF)m/z:389[MH]+;
IR(neat)2936,2834,1610,1487,1223,1039,775、754,724cm-1;
HRMS(DART-TOF)calcd.for C28H21O2:389.1542[MH]+,found;389.1527.
【0076】
化合物iso-5の分析データ
Rf value 0.50(hexane/CHCl3,1:2);
M.p.177-180℃;
1HNMR(400MHz,CDCl3)8.66(d,J=8.1,1.3Hz,2H),8.62(d,J=9.0Hz,2H),8.61(d,J=8.0Hz,2H),8.26(d,J=2.6Hz,2H),7.66(dd,J=8.2,8.1Hz,2H),7.57(dd,J=8.2,8.0Hz,2H),7.31(dd,J=9.0,2.6Hz,2H),3.95(s,6H)ppm;
13CNMR(100MHz,CDCl3)158.9,131.6,131.2,129.7(two peaks are overlapped),129.1,127.6,127.3,126.2,125.9,125.5,125.7,116.5,110.7,56.1ppm;
MS(DART-TOF)m/z:389[MH]+;
IR(neat)2994,2929,2831,1610,1479,1454,1432,1226,1040,761,730,684cm-1;
HRMS(DART-TOF)calcd. for C28H21O2:389.1542[MH]+,found;389.1529.
【0077】
実施例6
3,11-ジヒドロキシジベンゾ[g,p]クリセン(化合物6)の合成
アルゴン雰囲気下、化合物5(4.8g,12mmol)の無水塩化メチレン(60mL)溶液に、三臭化ホウ素(37mL,37mmol,1.0M塩化メチレン溶液)を0℃下でゆっくり滴下した。反応溶液を15分間撹拌後、室温に自然昇温させ、さらに30分間攪拌した。0℃下、蒸留水で反応停止操作を行った後、有機層を分離し、水層に対して酢酸エチルで抽出操作を行った。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄、芒硝乾燥、除媒濃縮、真空乾燥を行い、白緑色固体の粗生成物を得た。シリカゲルを用いた濾過カラム精製を行い、化合物6を4.1g(92%)の白色固体として得た。
【0078】
3,6-ジヒドロキシジベンゾ[g,p]クリセン(化合物iso-6)の合成
アルゴン雰囲気下、化合物iso-5(3.2g,8.2mmol)の無水塩化メチレン(32 mL)溶液に、三臭化ホウ素(25mL,25mmol,1.0 M塩化メチレン溶液)を0℃下ゆっくり滴下した。反応溶液を15分間撹拌後、室温に自然昇温させ、さらに1時間攪拌した。0℃下、蒸留水で反応停止操作を行った後、有機層を分離し、水層に対して酢酸エチルで抽出操作を行った。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄、芒硝乾燥、除媒濃縮、真空乾燥を行い、緑白色固体の粗生成物を得た。シリカゲルを用いた濾過カラム精製を行い、化合物iso-6を2.7g(92%)の黄白色固体として得た。
【0079】
化合物6の分析データ
Rf value 0.50(Hexane/EtOAc、1:1);
M.p.323-325℃;
1HNMR(400MHz,CD3CN)8.70(dd,J=8.2,1.3Hz,2H),8.65-8.62(m,2H),8.11(d,J=2.5Hz,2H),7.67(ddd,J=8.2Hz,7.0Hz,1.3Hz,2H),7.59(ddd,J=7.6,7.0,1.3Hz,2H),7.43(brs,2H),7.24(dd,J=8.9,2.5Hz,2H)ppm;
13CNMR(100MHz,DMSO-d6)156.5,130.6,130.0,127.9,127.4,127.0(two peaks are overlapped),125.6,125.5,123.2,123.1,116.8,112.4ppm;
MS(DART-TOF)m/z:361[MH]+;
IR(neat)3328(br,OH),3214,1611,1452,1208,888,781,758,726,579,517,455cm-1;
HRMS(DART-TOF) calcd. for C26H17O2:361.1229[MH]+,found;361.1231.
【0080】
化合物iso-6の分析データ
Rf value 0.43(Hexane/EtOAc,1:1);
M.p.>300℃(dec.);
1HNMR(400MHz,DMSO-d6)9.97(brs,2H,OH),8.70(dd,J=7.4,1.5Hz,2H),8.68(dd,J=7.4,1.5Hz,2H),8.55(d,J=8.2Hz,2H),8.10(d,J=2.3Hz,2H),7.68(ddd,J=7.6,7.4,1.5Hz,2H),7.60(ddd,J=7.6,7.4,1.5Hz,2H),7.23(dd,J=8.2,2.3Hz,2H)ppm;
13CNMR(100MHz,DMSO-d6)156.4,130.7,130.1,128.5,127.8,127.3,127.0,126.1,125.6(two peak are overlapped),123.1,123.0,116.8,111.9ppm;
MS(DART-TOF)m/z:361[M]+;
IR(neat)3235(br,OH),3059,1613,1578,1483,1426,1222,842,804,747,722,678cm-1;
HRMS(DART-TOF)calcd.for C26H17O2:361.1229[M]+,found;361.1237.
本発明のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体は、薄膜トランジスターの正孔輸送物質や有機発光ダイオードの発光素子として有用なジベンゾ[g,p]クリセン誘導体の製造方法として適用可能である。また、本発明のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体は、薄膜トランジスターの正孔輸送物質や有機発光ダイオードの発光素子に適用可能である。また、カイロオプティカル(Chiroptical)特性を有する材料開発に対して、本発明のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体は適用可能である。
本発明の最も重要な要素は、tert-Bu基と酸素官能基とをそれぞれ二つずつ有するDBCにおいて、tert-Bu基を円滑に除去する方法を見出したこと、およびその生成物(酸素官能基を二つ有するDBC)を高い収率で単離したことである。その主たる効果は、以下の通りである。
(1)新規な化合物1(2-bromo-7-tert-butyl-9-fluorenoneを合成したこと。
(2)新規スピロケトン体2およびiso-2を単離し、また、新規DBC体3およびiso-3も単離し、反応経路の解明と生成物の選択性比率の制御を行ったこと。
(3)フィヨルド領域の立体障害を除去できるため、Sholl反応による環化反応を実施しやすくなると考えられ、バッキーボウル合成への貢献が期待される。また、嵩高いtert-Bu基を除去できたことから、π-π相互作用を強めた材料合成を期待できる。融点や耐熱性を高める効果を期待できる。