(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076546
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】GNSS受信機及び電離層遅延量推定方法
(51)【国際特許分類】
G01S 19/23 20100101AFI20240530BHJP
G01S 19/32 20100101ALI20240530BHJP
【FI】
G01S19/23
G01S19/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188131
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 克志
(74)【代理人】
【識別番号】100103171
【弁理士】
【氏名又は名称】雨貝 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【弁理士】
【氏名又は名称】橘 和之
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【弁理士】
【氏名又は名称】片寄 恭三
(72)【発明者】
【氏名】栃村 雄哉
(72)【発明者】
【氏名】吉田 一夫
【テーマコード(参考)】
5J062
【Fターム(参考)】
5J062CC07
5J062DD03
5J062EE02
(57)【要約】
【課題】1波のみを送信する衛星の電離層遅延量を少ない処理量で算出する「GNSS受信機及び電離層遅延量推定方法」を提供する。
【解決手段】
L1波とL2波を送信している衛星である2波衛星のL1波の電離層遅延量Iを算出する(ステップ1)。各2波衛星のL1波の電離層遅延量Iと各2波衛星の仰角θとの関係を、単回帰分析等により分析し両者の関係を表す電離層遅延量推定関数I=F(θ)を算定し設定する(ステップ2)。L1波のみを送信している衛星である1波衛星の仰角θを電離層遅延量推定関数I=F(θ)に適用し、1波衛星の電離層遅延量Iを推定する(ステップ3)。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛星測位を行うGNSS受信機であって、
衛星が送信する搬送波の周波数が第1の周波数の電波信号である第1波と、衛星が送信する搬送波の周波数が前記第1の周波数と異なる第2の周波数の電波信号である第2波との双方を送信する衛星を2波衛星とし、前記第1波のみを送信する衛星を1波衛星として、複数の2波衛星の各々について、当該2波衛星から受信した第1波と第2波を用いて当該2波衛星が送信した第1波の電離層遅延量を推定する2波衛星遅延量推定手段と、
前記2波衛星遅延量推定手段が推定した各2波衛星の第1波の電離層遅延量と、当該第1波の電離層遅延量を前記2波衛星遅延量推定手段が推定した2波衛星の仰角との関係に基づいて、仰角を電離層遅延量に対応づける関数を算定する対応算定手段と、
前記関数によって前記1波衛星の仰角に対応づけられる電離層遅延量を、当該1波衛星の第1波の電離層遅延量として推定する1波衛星遅延量推定手段とを有することを特徴とするGNSS受信機。
【請求項2】
請求項1記載のGNSS受信機であって、
前記対応算定手段は、前記2波衛星遅延量推定手段が推定した2波衛星の第1波の電離層遅延量と、当該第1波の電離層遅延量を前記2波衛星遅延量推定手段が推定した2波衛星の仰角とを要素とするデータのデータ群に対する単回帰分析により求めた仰角と電離層遅延量の関係を表す一次式を前記関数として算定することを特徴とするGNSS受信機。
【請求項3】
請求項1記載のGNSS受信機であって、
前記対応算定手段が算定する前記関数は、仰角の範囲毎に当該範囲内の仰角に対応する電離層遅延量を規定するものであることを特徴とするGNSS受信機。
【請求項4】
請求項1、2または3記載のGNSS受信機であって、
前記2波衛星遅延量推定手段が推定した2波衛星の第1波の電離層遅延量が、当該第1波の電離層遅延量を前記2波衛星遅延量推定手段が推定した2波衛星の仰角に、前記関数によって対応づけられる電離層遅延量である参照電離層遅延量と所定レベル以上異なっている場合に、当該2波衛星遅延量推定手段が推定した2波衛星の第1波の電離層遅延量を、より前記参照電離層遅延量との差が小さくなるように補正する補正手段を有することを特徴とするGNSS受信機。
【請求項5】
衛星測位を行うGNSS受信機であって、
衛星が送信する搬送波の周波数が第1の周波数の電波信号である第1波と、衛星が送信する搬送波の周波数が前記第1の周波数と異なる第2の周波数の電波信号である第2波との双方を送信する衛星を2波衛星とし、前記第1波のみを送信する衛星を1波衛星として、複数の2波衛星の各々について、当該2波衛星から受信した第1波と第2波を用いて当該2波衛星が送信した第1波の電離層遅延量を推定する2波衛星遅延量推定手段と、
前記2波衛星遅延量推定手段が推定した各2波衛星の第1波の電離層遅延量と、当該第1波の電離層遅延量を前記2波衛星遅延量推定手段が推定した2波衛星の仰角と方位角の組み合わせとの関係に基づいて、仰角を電離層遅延量に対応づける関数を算定する対応算定手段と、
前記関数によって前記1波衛星の仰角と方位角の組み合わせに対応づけられる電離層遅延量を、当該1波衛星の第1波の電離層遅延量として推定する1波衛星遅延量推定手段とを有することを特徴とするGNSS受信機。
【請求項6】
衛星測位を行うGNSS受信機において電離層遅延量を推定する電離層遅延量推定方法であって、
衛星が送信する搬送波の周波数が第1の周波数の電波信号である第1波と、衛星が送信する搬送波の周波数が前記第1の周波数と異なる第2の周波数の電波信号である第2波との双方を送信する衛星を2波衛星とし、前記第1波のみを送信する衛星を1波衛星として、複数の2波衛星の各々について、当該2波衛星から受信した第1波と第2波を用いて当該2波衛星が送信した第1波の電離層遅延量を推定する2波衛星遅延量推定ステップと、
前記2波衛星遅延量推定ステップで推定した各2波衛星の第1波の電離層遅延量と、当該第1波の電離層遅延量を前記2波衛星遅延量推定ステップで推定した2波衛星の仰角との関係に基づいて、仰角を電離層遅延量に対応づける関数を算定する対応算定ステップと、
前記関数によって前記1波衛星の仰角に対応づけられる電離層遅延量を、当該1波衛星の第1波の電離層遅延量として推定する1波衛星遅延量推定ステップとを有することを特徴とする電離層遅延量推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GNSS受信機において電離層遅延量を推定する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
GNSS受信機における測位では、衛星が送信した電波に電離層において生じる伝搬速度の低下による遅延量である電離層遅延量の誤差を補正することが高精度な測位を行うために重要となる。
ここで、以下では、電離層遅延量としては、電波に電離層において生じる遅延時間に光速を乗じた距離を用いる。
さて、GNSSの衛星には、L1波の1波のみを送信する衛星(以下、「1波衛星」と呼称する」と、L1波と周波数が異なるL2波とL1波との2波を送信する衛星(以下、「2波衛星」と呼称する」がある。
また、GNSS受信機において、衛星が送信する測位コード(PRNコード、C/Aコード)の伝搬時間から求めた衛星とGNSS受信機間の距離であるコード疑似距離が測位に用いられる。
そして、このコード疑似距離の電離層遅延量の誤差を補正する技術としては以下の技術が知られている。
すなわち、1波衛星についてコード疑似距離の電離層遅延量の誤差を補正する技術としては、
図5に示した、半コサイン波でローカルタイム(GNSS受信機位置の時刻)と電離層遅延量の関係を表すKlobucharモデルに基づく電離層遅延量の算出式の各種パラメータを設定して電離層遅延量を算出し、算出した電離層遅延量分、測位コードの伝搬時間から求めたコード疑似距離を補正する技術が知られている(たとえば、非特許文献1)。
【0003】
ここで、Klobucharモデルに基づく電離層遅延量の算出式に設定するパラメータとしては、衛星から航法メッセージで受信する補正係数や、磁気緯度や、衛星の仰角や、ローカルタイム等がある。
また、2波衛星についてコード疑似距離の電離層遅延量の誤差を補正する技術としては、L1波の周波数をfL1、L2波の周波数をfL2、PL1をL1波について測位コードの伝搬時間から求めたコード疑似距離、PL2をL2波について測位コードの伝搬時間から求めたコード疑似距離として、電離層フリー線形結合と呼ばれる式1により電離層遅延量の誤差を補正したコード疑似距離Pを求める技術も知られている(たとえば、特許文献1)。
【0004】
γ(=(fL1/fL2)2)
P=(PL2-γ・PL1)/(1-γ)...(式1)
また、1波衛星についてコード疑似距離の電離層遅延量の誤差を補正する技術としては、2波衛星の各々について、L1波とL2波を用いてL1波の電離層遅延量を式2により求めると共に、
IL1=(PL1-PL2)/(1-γ)...(式2)
式2により求めた電離層遅延量IL1と算出結果が一致するように、Klobucharモデルに基づく電離層遅延量の算出式を補正する補正係数を求め、1波衛星については、各2波衛星について求めた補正係数を平均化した補正係数で補正した電離層遅延量の算出式で電離層遅延量を算出し、算出した電離層遅延量分、測位コードの伝搬時間から求めたコード疑似距離を補正する技術も知られている(たとえば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-137448号公報
【特許文献2】特開2020-122683号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】劉 秀、"一周波の擬似距離単独測位を用いた電離層モテJルに関する研究"、[online]、[令和4年11月10日検索]、インターネット<URL https://www.google.com/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=&ved=2ahUKEwjsoICX3qL7AhUeBbkGHXvKDqIQFnoECBQQAQ&url=https%3A%2F%2Foacis.repo.nii.ac.jp%2F%3Faction%3Drepository_action_common_download%26item_id%3D1028%26item_no%3D1%26attribute_id%3D20%26file_no%3D1&usg=AOvVaw0iEDCYazgk1kt5wehSWoon>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のKlobucharモデルに基づく電離層遅延量の算出式で算出された電離層遅延量は精度が低く、これを用いた測位には大きな誤差が生じる。
一方、上述の2波衛星のL1波とL2波を用いてL1波の電離層遅延量を算定しKlobucharモデルに基づく電離層遅延量の算出式を補正する技術によれば、1波衛星について比較的に精度良く電離層遅延量を推定することができる。
しかし、この技術によれば、2波衛星と1波衛星のそれぞれについて、Klobucharモデルに基づく電離層遅延量の算出式のパラメータの取得や設定や、当該算出式に基づく計算を行う必要があるために処理に負荷が大きい。そして、このことは、測位をリアルタイムに行うことの妨げとなる。
【0008】
そこで、本発明は、GNSS受信機において、比較的に負荷の小さい処理によって、1波のみを送信する衛星についての電離層遅延量を精度良く推定することを課題とする
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題達成のために、本発明は、衛星測位を行うGNSS受信機に、衛星が送信する搬送波の周波数が第1の周波数の電波信号である第1波と、衛星が送信する搬送波の周波数が前記第1の周波数と異なる第2の周波数の電波信号である第2波との双方を送信する衛星を2波衛星とし、前記第1波のみを送信する衛星を1波衛星として、複数の2波衛星の各々について、当該2波衛星から受信した第1波と第2波を用いて当該2波衛星が送信した第1波の電離層遅延量を推定する2波衛星遅延量推定手段と、前記2波衛星遅延量推定手段が推定した各2波衛星の第1波の電離層遅延量と、当該第1波の電離層遅延量を前記2波衛星遅延量推定手段が推定した2波衛星の仰角との関係に基づいて、仰角を電離層遅延量に対応づける関数を算定する対応算定手段と、前記関数によって前記1波衛星の仰角に対応づけられる電離層遅延量を、当該1波衛星の第1波の電離層遅延量として推定する1波衛星遅延量推定手段とを備えたものである。
【0010】
ここで、このようなGNSS受信機は、前記対応算定手段において、前記2波衛星遅延量推定手段が推定した2波衛星の第1波の電離層遅延量と、当該第1波の電離層遅延量を前記2波衛星遅延量推定手段が推定した2波衛星の仰角とを要素とするデータのデータ群に対する単回帰分析により求めた仰角と電離層遅延量の関係を表す一次式を前記関数として算定するように構成してもよい。
【0011】
または、このようなGNSS受信機において、前記対応算定手段が算定する前記関数は、仰角の範囲毎に当該範囲内の仰角に対応する電離層遅延量を規定するものであってもよい。
また、以上のGNSS受信機に、前記2波衛星遅延量推定手段が推定した2波衛星の第1波の電離層遅延量が、当該第1波の電離層遅延量を前記2波衛星遅延量推定手段が推定した2波衛星の仰角に、前記関数によって対応づけられる電離層遅延量である参照電離層遅延量と所定レベル以上異なっている場合に、当該2波衛星遅延量推定手段が推定した2波衛星の第1波の電離層遅延量を、より前記参照電離層遅延量との差が小さくなるように補正する補正手段を備えてもよい。
【0012】
これらのGNSS受信機によれば、2波衛星の第1波の電離層遅延量を推定して仰角と電離層遅延量との対応を求め、1波衛星について仰角に対応する電離層遅延量を算定するだけの、比較的負荷の小さい処理によって、1波衛星の第1波の電離層遅延量の推定精度を向上することができる。
【0013】
また、併せて、本発明は、衛星が送信する搬送波の周波数が第1の周波数の電波信号である第1波と、衛星が送信する搬送波の周波数が前記第1の周波数と異なる第2の周波数の電波信号である第2波との双方を送信する衛星を2波衛星とし、前記第1波のみを送信する衛星を1波衛星として、複数の2波衛星の各々について、当該2波衛星から受信した第1波と第2波を用いて当該2波衛星が送信した第1波の電離層遅延量を推定する2波衛星遅延量推定手段と、前記2波衛星遅延量推定手段が推定した各2波衛星の第1波の電離層遅延量と、当該第1波の電離層遅延量を前記2波衛星遅延量推定手段が推定した2波衛星の仰角と方位角の組み合わせとの関係に基づいて、仰角を電離層遅延量に対応づける関数を算定する対応算定手段と、前記関数によって前記1波衛星の仰角と方位角の組み合わせに対応づけられる電離層遅延量を、当該1波衛星の第1波の電離層遅延量として推定する1波衛星遅延量推定手段とを備えたGNSS受信機も提供する。
【0014】
このようなGNSS受信機によれば、2波衛星の第1波の電離層遅延量を推定して仰角と方位角の組み合わせと電離層遅延量との対応を求め、1波衛星について仰角と方位角の組み合わせに対応する電離層遅延量を求めるだけの、比較的負荷の小さい処理によって、1波衛星の第1波の電離層遅延量の推定精度を向上することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、GNSS受信機において、比較的に負荷の小さい処理によって、1波のみを送信する衛星についての電離層遅延量を精度良く推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係るGNSS受信機の構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態において用いる仰角と方位角を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態において行う単回帰分析の例を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態において行う電離層遅延量の補正処理のフローを示す図である。
【
図5】公知のKlobucharモデルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1に、本実施形態に係るGNSS受信機の構成を示す。
図示するように、GNSS受信機は、アンテナ1、無線部2、受信信号処理部3、疑似距離算出部4、電離層遅延補正部5、GNSS受信機の現在位置を演算する測位演算部6、推定関数設定部7、衛星パラメータ管理部8を備えている。
無線部2は、アンテナ1を介して各衛星が送信する電波(L1波やL2波)を受信し、受信信号を受信信号処理部3に送る。
受信信号処理部3は、無線部2を制御して、受信できる電波の捕捉と追尾や、追尾している電波の搬送波の位相の検出や、追尾している電波で搬送される測位コード(PRNコード、C/Aコード)の衛星とGNSS受信機との間の伝搬時間の測定を行う。
また、受信信号処理部3は、追尾している電波で搬送された航法メッセージを復号し、衛星パラメータ管理部8に送る処理も行う。
衛星パラメータ管理部8は、受信信号処理部3から受け取った航法メッセージが示す衛星の軌道情報や衛星の位置情報やGNSS受信機の内部時計や測位演算部6が演算したGNSS受信機の現在位置等に基づいて、各衛星の位置、仰角、方位角などの衛星の各種パラメータを算定し管理する。
【0018】
上述のように、L1波の1波のみを送信する衛星を1波衛星とし、L1波と周波数が異なるL2波とL1波との2波を送信する衛星を2波衛星として、疑似距離算出部4は、電波を追尾している1波衛星については、L1波で搬送された測位コードの伝搬時間から衛星とGNSS受信機間の距離であるコード疑似距離を算出する。また、2波衛星については、L1波で搬送された測位コードの伝搬時間から衛星とGNSS受信機間の距離であるコード疑似距離を算出すると共に、L2波で搬送された測位コードの伝搬時間から衛星とGNSS受信機間の距離であるコード疑似距離を算出する。
【0019】
電離層遅延補正部5は、電波を追尾している2波衛星については、式3により電離層遅延量の誤差を補正したコード疑似距離Pを算出し測位演算部6に送る。
γ(=(fL1/fL2)2)
P=(PL2-γ・PL1)/(1-γ)...(式3)
但し、fL1はL1波の周波数を、fL2はL2波の周波数を、PL1はL1波について測位コードの伝搬時間から求めたコード疑似距離を、PL2はL2波について測位コードの伝搬時間から求めたコード疑似距離を表す。
【0020】
但し、電離層遅延補正部5は、式3で求めたコード疑似距離Pを、Hatchフィルタ等を適用して、受信処理部が検出した搬送波位相より求まる疑似距離の変化量を用いて平滑化した上で測位演算部6に送るようにしてもよい。
また、電離層遅延補正部5は、電波を追尾している1波衛星についても、L1波について測位コードの伝搬時間から求めたコード疑似距離の電離層遅延量の誤差の補正を行い、補正後のコード疑似距離を測位演算部6に送る。この1波衛星についての、コード疑似距離の電離層遅延量の誤差の補正の詳細については後述する。
【0021】
そして、測位演算部6は、電離層遅延補正部5が電離層遅延量の誤差を補正した各衛星のコード疑似距離と、衛星パラメータ管理部8が管理している各衛星の位置、仰角、方位などの衛星の各種パラメータを用いてGNSS受信機の現在の位置を演算する。
以下、上述した1波衛星についての、コード疑似距離の電離層遅延量の誤差の補正の詳細について説明する。
推定関数設定部7は、各時点において、電波を追尾している2波衛星の各々についてL1波の電離層遅延量IL1を式4により算出する、
γ(=(fL1/fL2)2)
IL1=(PL1-PL2)/(1-γ)...(式4)
ここで、式4において、fL1はL1波の周波数を、fL2はL2波の周波数を、PL1はL1波について測位コードの伝搬時間から求めたコード疑似距離、PL2はL2波について測位コードの伝搬時間から求めたコード疑似距離を表す。
【0022】
または、推定関数設定部7は、各時点において、電波を追尾している2波衛星の各々についてL1波の電離層遅延量IL1を以下のように算出する。
すなわち、疑似距離算出部4が算出したコード疑似距離から2波衛星のL1波の仮の電離層遅延量を式5により算定する。
γ(=(fL1/fL2)2)
IpL1、k=(PL1、k-PL2、k)/(1-γ)...(式5)
ここで、式5において、PL1、tは時点tにおいてL1波について測位コードの伝搬時間から求めたコード疑似距離を、PL2、tは時点tにおいてL2波について測位コードの伝搬時間から求めたコード疑似距離を、IPL1、tは、コード疑似距離を用いて時点tにおいて求めたL1波の仮の電離層遅延量を表す。
【0023】
また、受信信号処理部3で検出したL1波の搬送波位相とL2波の搬送波位相から、L1波の仮の電離層遅延量の変化量を式(6)により算定する。
dIφL1、k=IφL1、k-IφL1、k-1...(式6)
ここで、式6において、IφL1、tは、時点tにおける搬送波位相が示すL1波の仮の電離層遅延量を、dIφL1、tは時点tにおけるL1波の仮の電離層遅延量の変化量を表す。
【0024】
ここで、搬送波位相のノイズは小さいので、これを無視すると、λL1、がL1波の波長を、λL2、がL2波の波長を、φL1、tがL1波の時刻tの位相を、φL2、tがL2波の時刻tの位相を、NL2がL1波の不知の整数アンビギュイティを、NL2がL2波の不知の整数アンビギュイティを表すものとして、
IφL1、t={λL1(φL1、t-NL1)-λL2(φL2、t-NL2)}/(1-γ)
と表すことができ、サイクルスリップが発生しない間、NL1、NL2は一定となるので
dIφL1、k=IφL1、k-IφL1、k-1={λL1(φL1、k-φL1、k-1)-λL2(φL2、k-φL2、k-1)}/(1-γ)
となり、NL1、NL2が不知でもdIφL1、kを求めることができる。
【0025】
そして、各時点において、Hatchフィルタを表す式7により、L1波の電離層遅延量Iを決定する。
IL1.k={(M-1)/M)}(IL1.k-1+dIφL1.k)+(IpL1.k/M)...(式7)
ここで、式7において、IL1.tは時点tにおいて決定されるL1波の電離層遅延量を表し、Mは平均化定数である。
【0026】
このようにして決定されたL1波の電離層遅延量IL1.tは、コード疑似距離を用いて求めた仮のL1波の電離層遅延量IpL1.tを、搬送波位相を用いて求めた仮のL1波の電離層遅延量の変化量dIφL1.tを用いて平滑化したものとなり、決定されたL1波の電離層遅延量IL1.tは、コード疑似距離を用いて求めた仮のL1波の電離層遅延量IpL1.tに表れるL1波とL2波の比較的大きなノイズの影響を除去したものとなる。
【0027】
なお、平均化定数Mは、この平滑化の程度を定める定数である。
次に、推定関数設定部7は、以上のようにして各2波衛星について決定したL1波の電離層遅延量I
L1と、衛星パラメータ管理部8が管理している各2波衛星の仰角との関係から電離層遅延量推定関数を設定する。
ここで、
図2a、bに示すように、仰角θとは、GNSS受信機の位置CPから見た、衛星STの水平面に対する上下方向の角度である。
電離層遅延量推定関数は、たとえば、次のように設定する。
いま、2波衛星iの仰角をθi、2波衛星iについて求めた電離層遅延量I
L1をIiとし、θiはi番目のデータのθの値を、Iiはi番目のデータのIの値を表すものとして、(θ、I)のデータ群を設定する。
そして、データ群の式8に示す単回帰分析により、変数Iと変数θの一次式による関係式を算定し、電離層遅延量推定関数I=F(θ)に設定する。
【0028】
【数1】
但し、S
2
aは変数aの分散を表し、S
abは変数aと変数bの共分散を表し、バー(上線)付きのaは変数aの平均値を表すものとする。
【0029】
ここで、
図3に示すように、このように電離層遅延量推定関数に設定される関係式I=F(θ)は、IiとF(θi)との誤差の二乗和が最小となる一次式となる。
図1に戻り、電離層遅延補正部5は、電波を追尾している各1波衛星についてのコード疑似距離の電離層遅延量の誤差の補正を次のように行う。
すなわち、まず、電離層遅延補正部5は、1波衛星の衛星パラメータ管理部8が管理している仰角を取得する。
そして、取得した1波衛星の仰角をθの値として、設定されている電離層遅延量推定関数により、1波衛星の電離層遅延量Iを計算する。したがって、
図3に示すI=F(θ)が設定されているときに、θxの仰角が取得された場合には、Xの位置の電離層遅延量Ixが電離層遅延量Iとして求まる。
【0030】
そして、計算した電離層遅延量Iを1波衛星のL1波の電離層遅延量IL1と推定し、電離層遅延量IL1分、L1波で搬送された測位コードの伝搬時間から求めたコード疑似距離PL1を補正してコード疑似距離Pとし、測位演算部6に送る。
【0031】
但し、電離層遅延補正部5は、補正したコード疑似距離Pを、Hatchフィルタ等を適用して、受信処理部が検出した搬送波位相より求まる疑似距離の変化量を用いて平滑化した上で測位演算部6に送るようにしてもよい。
ここで、以上のような本実施形態のGNSS受信機の処理の特徴的であるところは、1波衛星の電離層遅延量Iを推定する処理部分であるので、この処理部分のフローをまとめると
図4に示す通りである。
図示するように、このフローでは、まず、電波を追尾している各2波衛星のL1波の電離層遅延量I
L1を算出する(ステップ1)。
次に、各2波衛星のL1波の電離層遅延量I
L1と各2波衛星の仰角θとの関係を分析して、両者の関係を表す電離層遅延量推定関数I=F(θ)を算定し設定する(ステップ2)。
そして、1波衛星の仰角θを電離層遅延量推定関数I=F(θ)に適用し、1波衛星の電離層遅延量I
L1を推定する(ステップ3)。
以上、本発明の実施形態について説明した。
ここで、本発明者らが行った、石垣島電子基準点における24時間分のGNSSの測定値を用いた解析によれば、Klobucharモデルに基づき推定した1波衛星の電離層遅延量を用いた測位では真値に対するオフセット誤差の最大値5.7m程度であったのに対して、以上の実施形態で示した構成によって推定した1波衛星の電離層遅延量を用いた測位では真値に対するオフセット誤差の最大値は1.1m程度となり、本実施形態の適用により電離層遅延量の推定精度が大きく改善することが確認された。
【0032】
したがって、本実施形態によれば、2波衛星のL1の電離層遅延量を推定して仰角と電離層遅延量との対応を表す電離層遅延量推定関数I=F(θ)と求め、1波衛星について仰角から電離層遅延量推定関数I=F(θ)に従って電離層遅延量を算定するだけの、比較的負荷の小さい処理によって、1波衛星の第1波の電離層遅延量の推定精度を向上することができる。
【0033】
ここで、以上の実施形態では、単回帰分析により求めた一次式を電離層遅延量推定関数I=F(θ)に設定したが、電離層遅延量推定関数I=F(θ)として設定する関数は、2波衛星の仰角θと2波衛星について求めた電離層遅延量Iとから求めた、仰角θと電離層遅延量IL1の対応を表すものであれば、任意の関数としてよい。
【0034】
たとえば、電離層遅延量推定関数I=F(θ)としては、所定の角度(たとえば、5度)毎に区切った仰角範囲の各々について、その仰角範囲内の仰角に対応する電離層遅延量IL1を表す関数などを用いてもよい。この場合、仰角範囲内の仰角に対応する電離層遅延量Iとしては、上述のように単回帰分析により求めた一次式において、仰角範囲の中央の仰角に対応する電離層遅延量Iや、仰角範囲内の仰角の各2波衛星について求めた各電離層遅延量IL1に対する二乗誤差が最小となる値や、仰角範囲内の仰角の各2波衛星について求めた各電離層遅延量Iの中央値などを用いることができる。
【0035】
また、以上では、電離層遅延量推定関数として仰角θに対して電離層遅延量I
L1を定める関数I=F(θ)を設定したが、これはたとえば、仰角θと方位角φと組み合わせに対して電離層遅延量I
L1を定める関数I=F(θ、φ)を設定してもよい。
ここで、方位角φは、
図2a、cに示すようにGNSS受信機の位置CPから見た衛星STの、北から東に測った角度である。
この場合、電離層遅延量推定関数I=F(θ、φ)は、各2波衛星について決定したL1波の電離層遅延量Iと、衛星パラメータ管理部8が管理している各2波衛星の仰角と方位角から、たとえば、次のようにして設定する。
いま、2波衛星iの仰角をθi、2波衛星iの方位角をφi、2波衛星iについて求めた電離層遅延量I
L1をIiとし、θiはi番目のデータのθの値を、φiはi番目のデータのφの値を、Iiはi番目のデータのIの値を表すものとして、(θ、φ、I)のデータ群を設定する。
【0036】
そして、データ群の式9に示す重回帰分析により、変数Iと、変数θと変数φの組み合わせとの一次式による関係式を算定し、電離層遅延量推定関数I=F(θ、φ)に設定する。
【0037】
【数2】
なお、この場合、電離層遅延補正部5は、1波衛星の衛星パラメータ管理部8が管理している仰角をθの値、方位角をφの値として、設定されている電離層遅延量推定関数I=F(θ、φ)により、1波衛星の電離層遅延量I
L1を計算する。
【0038】
このように仰角に加え方位角を考慮することにより、1波衛星の電離層遅延量Iの推定精度のさらなる向上が期待できる。
また、以上の実施形態では、I=F(θ)やI=F(θ、φ)の電離層遅延量推定関数Fを、1波衛星のL1波の電離層遅延量IL1の推定や、電離層遅延量の誤差を補正した1波衛星のコード疑似距離Pの算出にのみ用いたが、電離層遅延量推定関数を、2波衛星のL1波の電離層遅延量IL1の推定や、電離層遅延量の誤差を補正した2波衛星のコード疑似距離Pの算出にも用いるようにしてもよい。
【0039】
たとえば、2波衛星のL1波について式4で算出した電離層遅延量Iが、電離層遅延量推定関数Fから求まる2波衛星の電離層遅延量IL1と所定のレベル以上異なっている場合に、式4で算出した電離層遅延量IL1を電離層遅延量推定関数Fから求まる電離層遅延量IL1に補正したり、式4で算出した電離層遅延量IL1を電離層遅延量推定関数Fから求まる電離層遅延量IL1に近づく方向に補正したりしてもよい。
【0040】
そして、このような補正を行った場合に、式3を用いずに、補正した電離層遅延量IL1を用いて電離層遅延量の誤差を補正した2波衛星のコード疑似距離Pを算出するようにする。
また、L1波について以上に示したのと同様にして、L2波についても、L2波の電離層遅延量IL2を推定するためのI=G(θ)やI=G(θ、φ)の電離層遅延量推定関数Gを設定し、2波衛星のL2波の電離層遅延量IL2の推定や、電離層遅延量の誤差を補正した2波衛星のコード疑似距離Pの算出にも用いるようにしてもよい。
【0041】
たとえば、2波衛星のL2波について、式4のPL1とPL2を入れ替えた式であるL2波遅延算出式で求まる電離層遅延量IL2が、電離層遅延量推定関数Gから求まる2波衛星の電離層遅延量IL2と所定のレベル以上異なっている場合に、上記L2波遅延算出式で求まる電離層遅延量IL2を電離層遅延量推定関数Gから求まる電離層遅延量IL2に補正したり、上記L2波遅延算出式で求まる電離層遅延量IL2を電離層遅延量推定関数Gから求まる電離層遅延量IL2に近づく方向に補正したりしてよい。
【0042】
そして、このような補正を行った場合に、式3を用いずに、補正した電離層遅延量IL2を用いて電離層遅延量の誤差を補正した2波衛星のコード疑似距離Pを算出するようにする。
【符号の説明】
【0043】
1…アンテナ、2…無線部、3…受信信号処理部、4…疑似距離算出部、5…電離層遅延補正部、6…測位演算部、7…推定関数設定部、8…衛星パラメータ管理部。