(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076574
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】抗腫瘍剤
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240530BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240530BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61K39/395 D
A61P35/00
A61P43/00 105
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188180
(22)【出願日】2022-11-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「次世代がん医療創成研究事業」「CD69分子を標的とした新規のがん免疫療法開発へ向けた基盤研究」委託研究開発、産業技術力強化法17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 元子
(72)【発明者】
【氏名】中山 俊憲
(72)【発明者】
【氏名】那須 亮
【テーマコード(参考)】
4C085
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA16
4C085BB11
4C085BB33
4C085BB36
4C085BB37
4C085BB41
4C085BB42
4C085BB43
4C085EE03
(57)【要約】
【課題】新たな抗腫瘍剤の提供。
【解決手段】有効量の下記成分(A)及び有効量の下記成分(B)の組み合わせからなる、抗腫瘍剤。
成分(A):抗CD69抗体及びその断片から選択される少なくとも1つ
成分(B):PD-1/PD-L1結合阻害剤
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量の下記成分(A)及び有効量の下記成分(B)の組み合わせからなる、抗腫瘍剤。
成分(A):抗CD69抗体及びその断片から選択される少なくとも1つ
成分(B):PD-1/PD-L1結合阻害剤
【請求項2】
PD-1/PD-L1結合阻害剤が、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、及びそれらの断片からなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載の抗腫瘍剤。
【請求項3】
投与形態が下記(i)又は(ii)である、請求項1に記載の抗腫瘍剤。
(i)有効量の前記成分(A)を含む医薬組成物(i-A)及び有効量の成分(B)を含む医薬組成物(i-B)の併用剤
(ii)有効量の前記成分(A)及び有効量の前記成分(B)を含む医薬組成物(ii)である配合剤
【請求項4】
頭頸部癌、食道癌、胃癌、大腸癌、肝細胞癌、膵臓癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、子宮体癌、膣癌、外陰部癌、腎細胞癌、尿路上皮癌、前立腺癌、造血器腫瘍、悪性黒色腫、膠芽腫及び胸膜中皮腫からなる群より選択される少なくとも1種の悪性腫瘍を治療及び/又は予防するための、請求項1に記載の抗腫瘍剤。
【請求項5】
PD-1/PD-L1結合阻害剤と組み合わせて抗腫瘍剤として使用するための、抗CD69抗体又はその断片。
【請求項6】
有効量の抗CD69抗体又はその断片を含む、幹細胞様CD8陽性T細胞から終末分化型CD8陽性T細胞への分化促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗腫瘍剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年がん免疫療法の開発が急速に進んでいる。がん免疫療法には大きく分けて、免疫調節、養子免疫療法、腫瘍溶解性ウイルス療法、がんワクチン療法等があり、その中でも免疫調節に分類される免疫チェックポイント阻害剤の臨床効果が高く、PD-1分子とそのリガンドであるPD-L1分子との結合阻害剤が広く知られている。
PD-1/PD-L1結合阻害剤の作用機序としては、腫瘍組織に浸潤している腫瘍特異的CD8陽性T細胞のなかで、PD-1と転写因子TCF1とを共発現しているstem-like CD8陽性T細胞に対して働きかけ、その増殖を促すことが報告されている。Stem-like CD8陽性T細胞は、腫瘍細胞に対する傷害活性を有するPD-1陽性TCF1陰性のterminally differentiated CD8陽性T細胞に分化することにより、抗腫瘍効果を発揮すると考えられている(非特許文献1及び2)。
II型の膜貫通タンパク質であるCD69は、様々な免疫応答を制御していることが知られている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Miller,BC et al.Nature immunology vol.20,3(2019):326-336.
【非特許文献2】Siddiqui,I et al.Immunity vol.50,1(2019):195-211.
【非特許文献3】Koyama-Nasu,R et al. International immunology vol.34,11(2022):555-561.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
PD-1/PD-L1結合阻害剤の奏効率はがん種によって異なるものの、おおよそ10~30%と低く、奏効率の改善が必要である。
また、日本国で承認されている併用療法は、抗PD-1抗体ニボルマブと抗CTLA-4抗体イピリムマブの組み合わせのみである。この併用療法の奏効率はがん種によって異なるものの、おおよそ60%以下と決して高くはなく、新たな併用療法の開発が必要である。
本発明は、上記課題を解決する新たな抗腫瘍剤に関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは下記の態様により上記課題を解決できることを見出した。
[1] 有効量の下記成分(A)及び有効量の下記成分(B)の組み合わせからなる、抗腫瘍剤。
成分(A):抗CD69抗体及びその断片から選択される少なくとも1つ
成分(B):PD-1/PD-L1結合阻害剤
[2] PD-1/PD-L1結合阻害剤が、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、及びそれらの断片からなる群より選択される1種以上である、[1]に記載の抗腫瘍剤。
[3] 投与形態が下記(i)又は(ii)である、[1]又は[2]に記載の抗腫瘍剤。
(i)有効量の前記成分(A)を含む医薬組成物(i-A)及び有効量の成分(B)を含む医薬組成物(i-B)の併用剤
(ii)有効量の前記成分(A)及び有効量の前記成分(B)を含む医薬組成物(ii)である配合剤
[4] 頭頸部癌、食道癌、胃癌、大腸癌、肝細胞癌、膵臓癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、子宮体癌、膣癌、外陰部癌、腎細胞癌、尿路上皮癌、前立腺癌、造血器腫瘍、悪性黒色腫、膠芽腫及び胸膜中皮腫からなる群より選択される少なくとも1種の悪性腫瘍を治療及び/又は予防するための、[1]~[3]のいずれか1つに記載の抗腫瘍剤。
[5] PD-1/PD-L1結合阻害剤と組み合わせて抗腫瘍剤として使用するための、抗CD69抗体又はその断片。
[6] 有効量の抗CD69抗体又はその断片を含む、幹細胞様CD8陽性T細胞から終末分化型CD8陽性T細胞への分化促進剤。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、奏効率が優れる新たな抗腫瘍剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、CT26腫瘍の増殖曲線を示す。図中、*はP<0.05を、**はP<0.01をそれぞれ示す。
【
図2】
図2は、腫瘍組織から得た腫瘍特異的CD8陽性T細胞の、1細胞RNA-seq解析に基づくクラスター分布を示す。
【
図3】
図3は、B16-OVA腫瘍の増殖曲線を示す。図中、nsは有意差なし(not significant)を、**はP<0.01をそれぞれ示す。
【
図4】
図4は、腫瘍組織から得た腫瘍特異的CD8陽性T細胞の、1細胞RNA-seq解析に基づくクラスター分布を示す。
【
図5】
図5は、所属リンパ節から得た腫瘍特異的CD8陽性T細胞の、1細胞RNA-seq解析に基づくクラスター分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.抗腫瘍剤
本発明の抗腫瘍剤は、有効量の下記成分(A)及び有効量の下記成分(B)の組み合わせからなる。
成分(A):抗CD69抗体及びその断片から選択される少なくとも1つ
成分(B):PD-1/PD-L1結合阻害剤
【0009】
(1-1)抗CD69抗体
本発明の抗腫瘍剤の有効成分の一つである成分(A)は、抗CD69抗体及びその断片から選択される少なくとも1つである。
【0010】
CD69タンパク質は、C型レクチン様ドメインを持つ2型膜貫通タンパク質であり、様々な免疫応答を制御していることが知られている。
CD69タンパク質のアミノ酸配列は公知である。例えば、ヒトCD69タンパク質及びマウスCD69タンパク質のアミノ酸配列は、米国生物工学情報センター(NCBI;National Center for Biotechnology Information)が提供するGenBankに、下記のアクセッション番号で登録されている(複数のリビジョン(revision)が登録されている場合、最新のリビジョンを指すと理解される。):
ヒトCD69タンパク質:NP_001772(NP_001772.1)
マウスCD69タンパク質:NP_001028294(NP_001028294.1)
【0011】
抗CD69抗体は、CD69タンパク質に特異的に結合する抗体であれば特に限定されない。抗CD69抗体のエピトープは、好ましくはCD69タンパク質の細胞外領域の少なくとも一部分である。
細胞外領域は、例えばヒトCD69タンパク質のアミノ酸配列において、69~199番目のアミノ酸である。
【0012】
抗CD69抗体は、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体のいずれであってもよいが、好ましくはモノクローナル抗体が挙げられる。また、IgG、IgM、IgA等のいずれのアイソタイプであってもよい。
抗CD69抗体は、特にヒトに投与するための治療薬又は予防薬である場合、ヒト体内での抗原性を低減する観点から、マウス-ヒトキメラ抗体、ニワトリ-ヒトキメラ抗体等のキメラ抗体、ヒト化抗体、又は完全ヒト抗体であり、より好ましくはヒト化抗体又は完全ヒト抗体である。
抗CD69抗体は、全長に限定されず、相補性決定領域(CDR)を少なくとも有するFab、Fab’、F(ab’)2、scFv、scFv-Fc等の断片であってもよい。
抗CD69抗体又はその断片は、当業者に公知の手法で作製することができる。
【0013】
抗CD69抗体又はその断片は、有効量を投与すればよい。抗CD69抗体又はその断片の有効量は、当業者が適宜設定することができる。抗CD69抗体又はその断片の投与量は、好ましくは1回あたり10~500mg、より好ましくは50~200mgである。
【0014】
(1-2)成分(B):PD-1/PD-L1結合阻害剤
本発明の抗腫瘍剤の有効成分の一つである成分(B)は、PD-1/PD-L1結合阻害剤である。
CD8陽性T細胞等の細胞傷害性T細胞の細胞膜上に存在する受容体タンパク質PD-1と、そのリガンドであるPD-L1タンパク質との結合により、T細胞の機能が負に制御される。
PD-1/PD-L1結合阻害剤は、PD-1タンパク質とPD-L1タンパク質との結合を阻害することで、T細胞に対する負の制御を解除することで、幹細胞様CD8陽性T細胞の増殖維持の促進等を介して、腫瘍細胞に対する細胞傷害活性を増強する。
【0015】
PD-1/PD-L1結合阻害剤としては、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、セミプリマブ、チスレリズマブ、シンチリマブ、トリパリマブ等の抗PD-1抗体;アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブ等の抗PD-L1抗体が挙げられる。
【0016】
本発明の抗腫瘍剤は、有効量のPD-1/PD-L1結合阻害剤を含む。PD-1/PD-L1結合阻害剤の有効量は、本発明の効果を損なわない範囲で、当業者が適宜設定することができる。PD-1/PD-L1結合阻害剤の投与量は、好ましくは1回あたり10~500mg、より好ましくは50~200mgである。
【0017】
(1-3)抗腫瘍剤
本発明の抗腫瘍剤は、有効量の上記成分(A)及び有効量の上記成分(B)の組み合わせからなる。
【0018】
本発明の抗腫瘍剤が高い奏効率を発揮する詳細な理由は不明であるが、一部は以下のように考えられる。
後述の実施例により示すように、成分(A)である抗CD69抗体は、幹細胞様CD8陽性T細胞から終末分化型CD8陽性T細胞への分化を促進すると考えられる。このような作用は、TOX等の転写因子の発現制御が下流に存在すると推定される。
上記成分(A)と、PD-1/PD-L1結合阻害剤である成分(B)とを組み合わせることで、高い相乗効果を発揮すると考えられる。具体的には、成分(B)の作用により幹細胞様CD8陽性T細胞の増殖維持が促進され、その数が増加し、成分(A)の作用により幹細胞様CD8陽性T細胞から終末分化型CD8陽性T細胞への分化が促進されることで、より多くの終末分化型CD8陽性T細胞が細胞傷害活性を発揮し、高い抗腫瘍効果が達成されると考えられる。
【0019】
なお、細胞傷害性T細胞の一種であるCD8陽性T細胞は、幹細胞様CD8陽性T細胞、終末分化型CD8陽性T細胞等に分類される。
幹細胞様CD8陽性T細胞は、PD-1陽性、TCF1陽性、TIM-3陰性により特徴づけられる。幹細胞様CD8陽性T細胞(stem-like CD8+ T cells)は、memory-like CD8+ T cells、progenitor-like CD8+ T cells、stem-like exhausted CD8+ T cells、progenitor exhausted CD8+ T cells等の呼称もあり、いずれも同じ細胞を指す。
終末分化型CD8陽性T細胞は、PD-1陽性、TCF1陰性、TIM-3陽性により特徴づけられる。終末分化型CD8陽性T細胞(terminally differentiated CD8+ T cells)は、terminally exhausted CD8+ T cells、exhausted effector CD8+ T cells等の呼称もあり、いずれも同じ細胞を指す。
【0020】
本発明の抗腫瘍剤は、例えば、投与形態が下記(i)又は(ii)である。
(i)有効量の前記成分(A)を含む医薬組成物(i-A)及び有効量の成分(B)を含む医薬組成物(i-B)の併用剤
(ii)有効量の前記成分(A)及び有効量の前記成分(B)を含む医薬組成物(ii)である配合剤
【0021】
上記(i)の併用剤は、上記成分(A)及び上記成分(B)が別個の剤型に単剤として製剤化されており、上記成分(A)及び上記成分(B)を同時に又は間隔を空けて別々に使用できる。併用剤は、製剤ごとにそれぞれ個別に製造、包装、及び流通されるものであっても、製剤が併用投与に適したキット製剤として単一のパッケージとして製造、包装、及び流通されるものでもよい。
上記(ii)の併用剤は、上記成分(A)及び上記成分(B)が一の剤型に製剤化されており、上記成分(A)及び上記成分(B)をより簡便に同時に使用できる。
【0022】
本発明の抗腫瘍剤における上記成分(A)と上記成分(B)の配合比は、本発明の効果を損なわない範囲で、当業者が適宜設定することができる。例えば、上記成分(A)の1日量1モルに対して、上記成分(B)が0.1~30モル、好ましくは0.3~10モルである。
【0023】
本発明の抗腫瘍剤は、悪性腫瘍を治療及び/又は予防することができる。治療及び/又は予防の対象となる腫瘍としては、頭頸部癌、食道癌、胃癌、大腸癌、肝細胞癌、膵臓癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、子宮体癌、膣癌、外陰部癌、腎細胞癌、尿路上皮癌、前立腺癌、造血器腫瘍、悪性黒色腫、膠芽腫及び胸膜中皮腫からなる群より選択される少なくとも1種の腫瘍、特に、悪性腫瘍、が挙げられる。
本発明の抗腫瘍剤は、上記の腫瘍に罹患していると診断された対象、悪性腫瘍に罹患するおそれがあると判断された対象、罹患した悪性腫瘍が治療されたが再度罹患する、すなわち再発する、おそれがあると判断された対象等の必要とする対象に投与する。
本発明の抗腫瘍剤は効果が高いため、標準療法では困難と判断された、進行、再発、転移、不応、切除不能等の悪性腫瘍に対しても適応することができる。
【0024】
腫瘍の治療とは、腫瘍組織を縮小させ、好ましくは消失又は認識できなくさせることを意味する。悪性腫瘍の予防とは、悪性腫瘍に罹患していない対象が悪性腫瘍に罹患することの予防、及び、再度の罹患を予防する再発予防を包含する。
【0025】
本発明の抗腫瘍剤は、上記配合剤の単剤のそれぞれ又は上記配合剤が、薬学的に許容される担体を更に含む医薬組成物として提供され得る。
薬学的に許容される担体としては、水性緩衝液、酸、及び塩基等のpH調節剤、アスコルビン酸やp-アミノ安息香酸等の安定化剤、D-マンニトール等の賦形剤、等張化剤、並びに保存剤等を例示できる。
剤形としては、特に制限されないが、例えば、各種注射剤、経口剤、点滴剤、吸入剤等を挙げることができる。
また、医薬組成物は、水溶液の形態、凍結溶液の形態、及び凍結乾燥品のいずれでも提供が可能である。
医薬組成物中の有効成分の含有量は特に限定されない。有効成分の種類、用途、剤形、担体の種類に応じて適宜設定することができる。医薬組成物中の有効成分の含有量は、例えば、0.0001質量%以上、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上であり、そして、100質量%以下、好ましくは90質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。
【0026】
本発明の抗腫瘍剤の投与スケジュールは、本発明の効果を損なわない範囲で、当業者が適宜設定することができる。本発明の抗腫瘍剤が上記(ii)の併用剤である場合、上記成分(A)及び上記成分(B)は同時に又は間隔を空けて投与することができる。投与順序及び投与間隔は、当業者が適宜設定することができる。
【0027】
本発明は、以下の態様を更に包含する。
<101>
PD-1/PD-L1結合阻害剤と組み合わせて抗腫瘍剤として使用するための、抗CD69抗体又はその断片。
<201>
有効量の抗CD69抗体又はその断片を含む、幹細胞様CD8陽性T細胞から終末分化型CD8陽性T細胞への分化促進剤。
<301>
有効量の下記成分(A)及び有効量の下記成分(B)を、必要とする対象に投与する工程を含む、腫瘍の治療及び/又は予防方法。
成分(A):抗CD69抗体及びその断片から選択される少なくとも1つ
成分(B):PD-1/PD-L1結合阻害剤
<401>
有効量の下記成分(A)及び有効量の下記成分(B)の組み合わせの、抗腫瘍剤としての使用。
成分(A):抗CD69抗体及びその断片から選択される少なくとも1つ
成分(B):PD-1/PD-L1結合阻害剤
<501>
有効量の下記成分(A)及び有効量の下記成分(B)の組み合わせの、抗腫瘍剤を製造するための使用。
成分(A):抗CD69抗体及びその断片から選択される少なくとも1つ
成分(B):PD-1/PD-L1結合阻害剤
【0028】
以下、実施例により本発明の説明をする。なお、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0029】
実施例1
(方法)
マウス大腸がん細胞CT26を、10%ウシ胎児血清(FBS)を添加したRPMI1640培地中で培養した。CT26は、ATCC(American Type Culture Collection)より購入した。
1×106cellsのCT26を、6~16週齢のBALB/cマウスの左下腹部に皮下接種し、担がんモデルマウスを作製した。
【0030】
作製した担がんモデルマウスに、
図1に示す抗体を、週に2回、合計4回腹腔内投与した。
使用した抗体を下記に示す。投与量は、各回200μgであった。
コントロール抗体:対照IgG抗体(Bio X Cell社製)
抗CD69抗体:anti-mouse CD69(モノクローナル抗体、クローンH1.2F3)
なお、クローンH1.2F3については、文献:Yokoyama, WM et al.Journal of Immunology vol.141,2(1988):369-376に記載されている。
抗PD-1抗体:anti-mouse PD-1(RMP1-14)(Bio X Cell社製)
【0031】
(結果)
経時的に腫瘍体積(tumor volume[mm
3])を測定し、平均体積±SEMを求めた。
図1にCT26腫瘍の増殖曲線を示す(各群n=5以上)。
抗CD69抗体又は抗PD-1の単独投与は、腫瘍の成長を有意に遅らせることができる。抗CD69抗体と抗PD-1抗体の併用投与は、単独投与と比べてより効率的に腫瘍の成長を遅らせることが分かった。
【0032】
実施例2
(方法)
実施例1で各抗体を投与したモデルマウスから腫瘍組織に浸潤している腫瘍特異的CD8陽性T細胞を単離し、1細胞RNA-seq解析を行い、1細胞ごとに転写産物の種類と量を網羅的に解析した。その結果に基づき、各細胞を遺伝子発現パターンごとに下記のクラスターに分類し、各クラスターに存在する細胞数の、全腫瘍特異的CD8陽性T細胞数に対する割合(%)を算出した。
・クラスター
Stem-like :幹細胞様CD8陽性T細胞
Term-diff :終末分化型CD8陽性T細胞
S-phase :DNA合成期(S期)にあるCD8陽性T細胞
G2/M-phase:細胞分裂期(G2期、M期)にあるCD8陽性T細胞
【0033】
(結果)
解析により得られた分布を
図2に示す。
抗PD-1抗体の投与は幹細胞様CD8陽性T細胞(図中、Stem-like)を増加させるのに対し、抗CD69抗体の投与は終末分化型CD8陽性T細胞(図中、Term diff)を主に増加させることを見出した。
抗CD69抗体と抗PD-1抗体の併用投与は、幹細胞様CD8陽性T細胞と終末分化型CD8陽性T細胞の両方を増加させた。
【0034】
実施例3
(方法)
ニワトリ由来OVAを発現するマウスメラノーマ細胞B16(B16-OVA)を、10%ウシ胎児血清(FBS)を添加したDMEM培地中で培養した。
5×10
5cellsのB16-OVA細胞を、6~16週齢のBALB/cマウスの左脇腹に皮下接種し、担がんモデルマウスを作製した。
実施例1と同様に、作製した担がんモデルマウスに、
図3に示す抗体を投与した。
【0035】
(結果)
経時的に腫瘍体積(tumor volume[mm
3])を測定し、平均体積±SEMを求めた。
図3に腫瘍の増殖曲線を示す(各群n=5以上)。
抗CD69抗体又は抗PD-1の単独投与は、対照と有意差がなかった(図中、ns)。
抗CD69抗体と抗PD-1抗体の併用投与は、単独投与と比べてより効率的に腫瘍の成長を遅らせることが分かった。
【0036】
参考例1
(方法)
本発明の作用機序の一端を明らかにするために、対照マウス(BALB/c)及びCD69ノックアウトマウスのそれぞれから、腫瘍組織に浸潤している腫瘍特異的CD8陽性T細胞及び所属リンパ節の腫瘍特異的CD8陽性T細胞を単離し、1細胞RNA-seq解析を行い、1細胞ごとに転写産物の種類と量を網羅的に解析した。その結果に基づき、各細胞を遺伝子発現パターンごとに下記クラスターに分類し、各クラスターに存在する細胞数の、全細胞数に対するの割合(%)を算出した。
・クラスター
Stem-like :幹細胞様CD8陽性T細胞
Stem-like1:Eomes陽性幹細胞様CD8陽性T細胞
Stem-like2:CD94陽性幹細胞様CD8陽性T細胞
Term-diff :終末分化型CD8陽性T細胞
S-phase :DNA合成期(S期)にあるCD8陽性T細胞
G2/M-phase:細胞分裂期(G2期、M期)にあるCD8陽性T細胞
S,G2/M-phase:DNA合成期(S期)又は細胞分裂期(G2期、M期)にあるCD8陽性T細胞
Early-activated:初期活性化段階にあるCD8陽性T細胞
【0037】
CD69ノックアウトマウスは常法により作成した。
【0038】
(結果)
解析により得られた分布を
図4及び
図5に示す。
図4は腫瘍組織から得た腫瘍特異的CD8陽性T細胞、
図5は、所属リンパ節から得た腫瘍特異的CD8陽性T細胞についての結果を示す。
CD69機能阻害は、幹細胞様CD8陽性T細胞から終末分化型CD8陽性T細胞への分化を促進することが明らかとなった。
CD69機能阻害による腫瘍特異的CD8陽性T細胞の分化促進は、転写因子TOXの発現低下が関与していると考えられる。