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<図1>
  • 特開-リフティングマグネット装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076595
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】リフティングマグネット装置
(51)【国際特許分類】
   B66C 1/06 20060101AFI20240530BHJP
   B25J 15/06 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
B66C1/06 L
B25J15/06 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188214
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】衞藤 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】村野 賢一
【テーマコード(参考)】
3C707
3F004
【Fターム(参考)】
3C707DS01
3C707EV08
3C707FS07
3C707FS08
3C707FT10
3C707FU02
3C707HS27
3F004EA05
3F004EA06
3F004HA00
3F004JA01
3F004JA06
(57)【要約】
【課題】曲面適応性の高いリフティングマグネット装置を提供する。
【解決手段】リフティングマグネット装置(1)は、対象物に吸着する吸着体(10)を備え、吸着体は、壁面を走行可能な走行ロボットである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に吸着する吸着体を備え、
前記吸着体は、壁面を走行可能な走行ロボットである、
リフティングマグネット装置。
【請求項2】
前記走行ロボットは、金属を切断する加工器を含む、
請求項1記載のリフティングマグネット装置。
【請求項3】
前記走行ロボットは回転可能な球状の走行部を有する、
請求項1記載のリフティングマグネット装置。
【請求項4】
前記走行ロボットは、少なくとも、回転可能な第1走行部、並びに、回転可能な第2走行部と、前記第1走行部と前記第2走行部との相対的な配置関係を変更可能なねじり機構と、を有する、
請求項1記載のリフティングマグネット装置。
【請求項5】
前記走行ロボットは、
前記対象物に接触する走行部と、
磁石と、
前記磁石を前記走行部に対して変位させる磁石駆動部と、
を備える、
請求項1記載のリフティングマグネット装置。
【請求項6】
回転駆動可能であり磁力によって対象物に吸着可能な回転体を3つ以上有する吸着体を備えるリフティングマグネット装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リフティングマグネット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワイヤーロープに吊られた電磁石を鋼材などの吊物に吸着させ、吊物を昇降する装置がある(例えば特許文献1を参照)。ワイヤーロープに吊られて吊物に吸着する装置をリフティングマグネット装置と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-314877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リフティングマグネット装置においては、吸着体が様々な形状の曲面に吸着できると好ましい。本発明は、曲面適応性の高いリフティングマグネット装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るリフティングマグネット装置は、
対象物に吸着する吸着体を備え、
前記吸着体は、壁面を走行可能な走行ロボットである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、曲面適応性の高いリフティングマグネット装置を提供できるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】リフティングマグネット装置を示す平面図(A)、斜視図(B)及び側面図(C)である。
図2】走行部の構成を示す図であり、(A)は一部破断の正面図、(B)は一部破断の側面図である。
図3】吸着体が吊荷に吸着している状態の第1例(A)と第2例(B)を示す図である。
図4】リフティングマグネット装置を用いた荷役の一例を示す図であり、(A)~(C)は当該荷役の第1ステップ~第3ステップをそれぞれ示す。
図5】リフティングマグネット装置を用いた荷役の一例を示す図であり、(A)及び(B)は当該荷役の第1ステップと第2ステップとをそれぞれ示す。
図6】リフティングマグネット装置を用いた解体工法の一例を示す図であり、(A)~(D)は当該工法の第1ステップ~第4ステップをそれぞれ示す。
図7】リフティングマグネット装置を用いた鋼板の搬送工法の一例を示す図であり、(A)~(C)は当該工法の第1ステップ~第3ステップをそれぞれ示す。
図8】吸着体の変形例を示す平面図(A)及び斜視図(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0009】
図1は、リフティングマグネット装置を示す平面図(A)、斜視図(B)及び側面図(C)である。図2は、走行部の構成を示す図であり、(A)は一部破断の正面図、(B)は一部破断の側面図である。
【0010】
本実施形態のリフティングマグネット装置1は、対象物としての吊荷に吸着する吸着体10と、吸着体10とワイヤーロープ6とを連結するための連結部8とを備える。
【0011】
吸着体10は、壁面を走行可能な走行ロボットである。上記の壁面とは直立した壁面を意味する。上記の走行ロボットとは、指令によって所定の走行が可能な装置と定義される。本明細書において、走行ロボットは、自律した走行が可能な知能要素を有していてもよいし、有さなくてもよい。
【0012】
吸着体10は、走行時に車輪として機能する複数の走行部16と、吸着作用を発生させる磁石19(図2(A)及び(B))と、複数の走行部16を回転可能に支持するフレーム20と、複数の走行部16の配置関係を変更可能なサスペンション機構14(ねじり機構に相当)と、走行部16を回転駆動可能な駆動部21(図2(A)及び(B))と、駆動力により磁石19を変位可能な磁石駆動部191と、を備える。
【0013】
吸着体10は、4つの走行部16を備える。走行部16の個数は3つ又は5つ以上であってもよい。複数の走行部16は、それぞれ回転軸Axを中心に回転可能に支持されている。各走行部16は、球状であり、様々な向きの接面に駆動力を伝達可能に構成されている。なお、走行部16は、球状に限られず、様々な向きの接面に対して駆動力を伝達可能に接することができる形状であれば、どのような形状であってもよい。
【0014】
フレーム20は、第1フレーム20aと、第2フレーム20bとを含んでいる。2つの走行部16は、第1フレーム20aに回転可能に支持されている。もう2つの走行部16は、第2フレーム20bに回転可能に支持されている。
【0015】
第1フレーム20aは、2つの走行部16を2つの回転軸Axを介して支持している。当該2つの回転軸Axは、略平行であり、2つの走行部16が並ぶ方向に対して直交する方向に延びている。第2フレーム20bは、2つの走行部16を2つの回転軸Axを介して支持している。当該2つの回転軸Axは、略平行であり、2つの走行部16が並ぶ方向に対して直交する方向に延びている。
【0016】
サスペンション機構14は、第1フレーム20aと第2フレーム20bとの配置関係を、ねじり方向At(図1(B))に変更可能な機構である。ねじり方向Atとは、第1フレーム20aと第2フレーム20bとが並ぶ方向に延びる軸A14(図1(A)及び(B))を中心とする回動方向を意味する。当該機構は、ロッカーサスペンション機構とも呼ばれる。当該サスペンション機構14により、第1フレーム20aに支持された走行部(第1走行部に相当)16と、第2フレーム20bに支持された走行部(第2走行部に相当)16との配置関係をねじり方向Atに変更でき、様々な形状の曲面に対して4つの走行部16を接触させることができる。
【0017】
なお、サスペンション機構14は、上記の例に限られない。例えば、サスペンション機構14は、1つの走行部16を回転可能に支持するフレームと、残り複数の走行部16を回転可能に支持するフレームとを相対的に変位可能にする機構であってもよい。あるいは、サスペンション機構14は、各走行部16を支持するフレームが他の走行部16を支持するフレームに対して変位可能にする構成であってもよい。フレームを変位可能にする構成も、一つの軸A14を中心とするねじり方向に可変な構成に限られず、フレームが並ぶ方向にフレームを並進可能とする構成、フレームが並ぶ方向に対して垂直あるいは斜めにフレームを並進可能とする構成、様々なリンク機構を介して2つのフレームの角度及び距離を可変とした構成、これらの構成のうち2つ以上を組み合わせた構成が適用されてもよい。
【0018】
図2(A)及び図2(B)に示すように、各走行部16の内部には、磁石19と、磁石19を回転自在に支持するリンク機構192とが設けられている。リンク機構192は、回転軸Axを中心とする回動方向と、回転軸Axに交差(例えば直交)する軸Ayを中心とする回動方向とに回転可能に磁石19を支持する。磁石19は、永久磁石であってもよいし、電磁石であってもよい。当該構成により、1つの走行部16が鉄などの接面に接地している場合に、磁石が接面を引き付けることで走行部16は接面に吸着する。よって、吸着体10は、壁面又は天面などにおいても、重力に逆らって吸着し、当該面上を走行することが可能となる。さらに、上記のリンク機構192によれば、走行部16が様々な向きの接面に接触した場合でも、磁石19が接面に対向し、接面に対する強い吸着力が得られるようになっている。
【0019】
駆動部21は、回転動力を発生させるモータであり、当該回転動力が伝達されることで走行部16が回転駆動する。吸着体10は、複数の走行部16にそれぞれ対応する複数の駆動部21を備える。
【0020】
磁石駆動部191は、回転動力を発生させるモータであり、当該回転動力が伝達されることで磁石19の位置を変化させることができる。すなわち、磁石駆動部191がトルクの発生を停止しているとき、リンク機構192によって磁石19は接面の向きに応じて接面に対向した配置となる。一方、磁石駆動部191が動作することで、磁石19を接面に対向する位置から外れた位置へ変更することができる。当該変更により、走行部16の接面に対する吸着力を弱めることができる。
【0021】
駆動部21及び磁石駆動部191が、電力で動作する構成である場合、ワイヤーロープ6に沿わせて電力線を吸着体10に渡し、当該電力線を介して外部から電力を供給する構成が適用されてもよい。あるいは、吸着体10がバッテリを有し、当該バッテリから電力が供給される構成が適用されてもよい。あるいは、吸着体10が燃料タンクを有し、駆動部21及び磁石駆動部191は上記燃料タンクの燃料を用いて動力を発生させる構成であってもよい。
【0022】
吸着体10は、さらに、通信部3を備え、外部から通信部3へ指令を送ることで、駆動部21の駆動量、並びに、磁石駆動部191の駆動量を制御することができる。制御信号は、有線信号又は無線信号であってもよい。駆動部21を駆動する指令は、ティーチングペンダント等の操作端末を介してオペレータがマニュアル入力できる構成が採用されてもよい。
【0023】
上記のように構成された吸着体10によれば、複数の球状の走行部16とサスペンション機構14とによって、様々な曲面形状の面(壁面及び天面を含む)に対して3つ以上(具体的には全て)の走行部16を吸着させることができる。そして、この状態で走行部16が回転駆動されることで、吸着体10が当該面上を走行する。すなわち、吸着体10は、高い曲面適応性を持って接面に吸着し、かつ、走行によって吸着対象の面において吸着する位置を変更することができる。
【0024】
<使用例1>
図3は、吸着体が吊荷に吸着している状態の第1例(A)と第2例(B)を示す図である。吸着体10は、高い曲面適応性を有するため、図3(A)及び図3(B)に示すように、異なる曲率の曲面を吸着することができる。図3(A)は径の小さなパイプT11に吸着している例であり、図3(B)は径の大きなパイプT12に吸着している例である。
【0025】
<使用例2>
図4は、リフティングマグネット装置を用いた荷役の一例を示す図であり、(A)~(C)は当該荷役の第1ステップ~第3ステップをそれぞれ示す。図4(A)~図4(C)は、図示略のクレーンが、ワイヤーロープ6とリフティングマグネット装置1とを介して吊荷T13を吊上げる工程を示している。また、当該工程では、クレーンの可動制限によって、吸着体10を吊荷T13の重心上に降ろせない状況を想定している。
【0026】
吸着体10は、吊荷T13に吸着した状態で、走行部16を回転駆動することで、吸着位置をずらすことができる。したがって、図4(A)のように、クレーンは吊荷T13の重心位置から偏った位置に吸着体10を降ろし、吸着体10に吊荷T13に吸着させる。そして、図4(B)のように、吊荷T13の片側を僅かに浮かした状態で、吸着体10の走行部16を駆動することで、吊荷T13を移動させて、吸着体10の吸着位置を吊荷T13の重心位置上に移動させる。そして、図4(C)のように、この状態でクレーンが吸着体10を上昇させることで吊荷T13を吊上げることができる。
【0027】
吸着体10が図4の荷役を行う場合、吸着体10は、吊荷T13から各走行部16に加わる引っ張り力を計測する計測器31と、各走行部16の駆動停止の制御を行う制御部32とを備えてもよい(図1(A)~(C)に二点鎖線で示す)。そして、図4(A)から図4(B)のように、吸着体10を吊荷T13の重心上に移動させる際に、制御部32が複数の走行部16の引っ張り力に基づいて、重心上に移動したことを判別し、走行部16を自動停止させる制御を行ってもよい。
【0028】
あるいは、吸着体10は、IMU(Inertial Measurement Unit)などの姿勢計測器33を備え(図1(A)に二点鎖線で示す)、制御部32は、姿勢計測器33の計測結果に基づいて、吸着体10が吊荷T13の重心上に移動したか否かを判別してもよい。あるいは、吸着体10の制御部32と通信可能な外部の制御装置が、外方から撮影装置を介して吸着体10及び吊荷T13の映像を取り込み、映像から吸着体10が吊荷T13の重心上に移動したか否かを判別してもよい。そして、外部の制御装置が制御部32に判別結果を送ることで、制御部32が走行部16を自動停止させてもよい。
【0029】
<使用例3>
図5は、リフティングマグネット装置を用いた荷役の一例を示す図であり、(A)及び(B)は当該荷役の第1ステップと第2ステップとをそれぞれ示す。図5(A)及び図5(B)は、天井クレーン51がワイヤーロープ6とリフティングマグネット装置1とを介して吊荷T14を吊上げ及び搬送した後、搬送車52の荷台に荷下ろしする工程を示している。
【0030】
吸着体10は、吊荷T14に吸着した状態で、走行部16を回転駆動することで、吸着位置をずらすことができる。したがって、次のような荷役が可能となる。すなわち、図4(A)のように、まず、天井クレーン51は、吊荷T14の重心上に吸着体10が吸着した状態で、吊荷T14を搬送車52の荷台に一部が差し掛かる位置に降ろす。そして、このとき、吊荷T14の片側を荷台上の台車53に載せる。次に、図4(B)のように、吸着体10の走行部16を駆動することで、吊荷T14を荷台の前方へ移動させる。このとき、吊荷T14の片側が台車53に載っていることで、吊荷T14が荷台上を移動できる。このような荷役により、容易に吊荷T14を搬送車52の荷台に詰めて荷下ろしすることができる。
【0031】
吊荷T14をどれだけ前方に移動させるかは、オペレータが手動操作で走行部16を駆動及び停止させることで、調整されてもよい。あるいは、予め設定された制御データに基づいて制御部32が自動的に吊荷T14を設定された移動量だけ吊荷T14を前方へ移動させてもよい。
【0032】
<使用例4>
図6は、リフティングマグネット装置を用いた解体工法の一例を示す図であり、(A)~(D)は当該工法の第1ステップ~第4ステップをそれぞれ示す。当該工法は、鉄塔55の上部56を切断し、クレーン57で搬出する工程である。
【0033】
当該工程において、吸着体10は、加工器41を有する。加工器41は、例えば金属を切断するレーザカッターなどの切断器である。加工器41は、フレーム20に支持され、フレーム20が固定されているときに固定された一箇所の切断処理(レーザ照射)ができればよい。あるいは、加工器41は首振り機構を有し、フレーム20が固定されているときに所定のラインに沿った切断処理(レーザ照射)が可能な構成であってもよい。
【0034】
解体工程においては、図6(A)、(B)に示すように、クレーン57で吊ったリフティングマグネット装置1を、鉄塔55の壁面に吸着させる。次に、図6(C)に示すように、加工器41を動作させながら吸着体10が壁面上を移動することで、鉄塔55の上部56を切断していく。そして、吸着体10が上部56に吸着している状態で切断を完了させる。すると、図6(D)に示すように、切断された鉄塔55の上部56に吸着体10が吸着した状態で、上部56が切り離され、かつ、上部56がクレーン57に吊られる。したがって、その後に、クレーン57の転回により、鉄塔55の上部56を搬出することができる。
【0035】
なお、図6の例では、加工器41として切断器を有する例を示したが、加工器41は溶接器(レーザ溶接器など)であってもよい。この場合、吸着体10が吸着した金属の部品(例えば鋼板)を、クレーンにより部品の装着先(例えばコンテナ船体側壁)まで搬送したのち、吸着体10の加工器41が部品を装着先に溶接することが可能となる。
【0036】
<使用例5>
図7は、リフティングマグネット装置を用いた鋼板の搬送工法の一例を示す図であり、(A)~(C)は当該工法の第1ステップ~第3ステップをそれぞれ示す。当該工法は、複数枚が重なった鋼板T15のうち、所定枚数の鋼板T15を吊上げて搬送する工程である。
【0037】
本実施形態の吸着体10は、磁石駆動部191(図2(A))からのトルクの発生を停止し、磁石19を自在に動くようにした場合、走行部16が鋼板T15に接触したときに、磁石19が鋼板T15に対向し、最大の吸着力が生じる。一方、磁石駆動部191の駆動により、磁石19の位置を変えて、磁石19を鋼板T15から離すと、吸着力が減少する。
【0038】
鋼板T15の搬送工程においては、図7(A)に示すように、吸着体10を鋼板T15に吸着させて僅かに上昇させた段階で、鋼板T15が所定枚数よりも多く吸着している場合に、図7(B)に示すように、オペレータは、磁石駆動部191を駆動させて吸着体10の吸着力を弱める。このような吸着力の調整により、吸着体10に所定枚数の鋼板T15を吸着させることができる。そして、所定枚数の鋼板T15が吸着したら、図7(C)に示すように、クレーンが鋼板T15を吊上げて搬送する。鋼板T15を搬送先へ吊降ろした後には、磁石駆動部191を駆動させて吸着体10の吸着力をさらに弱めることで、吸着体10を鋼板T15から外すことができる。
【0039】
以上のように、本実施形態のリフティングマグネット装置1によれば、吸着体10が曲面形状をした鉄鋼材に吸着して走行することができる走行ロボットを提供することができる。なお、走行ロボットは様々な形態があるが、本実施形態では、複数の車輪による走行部と走行部の配置関係を変更可能なサスペンション機構を備えた走行ロボットを採用している。このため、曲面への適応性に優れた走行ロボットとすることができ、外面が様々な局面形状である吊荷に対しても確実に吸着が可能となる。さらに、吸着体10が壁面を走行可能な走行ロボットであるので、吸着体10が走行ロボットの走行動作を行うことで、吸着体10が吊荷に吸着した状態で吸着体10の吸着位置を変更することができる。したがって、使用例2、3に示したような、吊荷に対する多様な吊上げ及び吊り下げの処理を実現できる。
【0040】
さらに、本実施形態のリフティングマグネット装置1によれば、金属を切断する加工器41を備える。したがって、使用例4に示したように、搬送対象部分と一体化している構造物に対して、吸着体10が吸着した状態で、搬送対象部分を切断し、搬送対象部分を吊上げて搬送することができる。
【0041】
さらに、本実施形態のリフティングマグネット装置1によれば、吸着体10は球状の走行部16を有する。当該構成によれば、走行部16を回転可能に支持する構成として単純な構成を採用しつつ、様々な向きの接面に対して走行部16の的確な接触を実現することができる。したがって、走行部16が回転駆動された場合に、走行部16から接面に大きな駆動力を伝達することができる。
【0042】
さらに、本実施形態のリフティングマグネット装置1によれば、第1フレーム20aに支持された走行部16、16と、第2フレーム20bに支持された走行部16、16との配置関係をねじり方向Atに変更可能なサスペンション機構14を備える。当該構成により、少なくとも4つの走行部16を様々な曲面形状の外面に接触させることができ、よって大きな吸着力を得ることができる。
【0043】
さらに、本実施形態のリフティングマグネット装置1によれば、磁石19を走行部16に対して変位させる磁石駆動部191を備える。したかって、使用例5に示したように、吸着体10と吊荷との吸着力の調整が可能となる。
【0044】
また、本実施形態のリフティングマグネット装置1によれば、吸着体10は、回転駆動可能でありかつ磁力によって吊荷に吸着することが可能な走行部(回転体)16を3つ以上備える。したがって、走行部16による吸着により吊荷を安定的に吊上げることが可能となり、走行部16の回転駆動により吸着体10は吊荷に吸着した状態で吸着位置の変更が可能となる。
【0045】
ここで、サスペンション機構14の代替となる要素を備えた変形例について説明する。図8は、吸着体の変形例を示す平面図(A)及び斜視図(B)である。変形例のリフティングマグネット装置1Aは、2つに分離した吸着体10Aa、10Abと、2つの吸着体10Aa、10Abを離した状態で吊り下げるブラケット28とを備える。
【0046】
2つの吸着体10Aa、10Abは、それぞれ2つの走行部16を支持するフレーム20Aa、20Abと、フレーム20Aa、20Abとワイヤーロープ61、62とを連結するための連結部8Aa、8Abが設けられている。ブラケット28は、クレーン等から延びるワイヤーロープ6と連結するための連結部8Acと、2つの吸着体10Aa、10Abを吊るワイヤーロープ61、62とを備える。
【0047】
2つの吸着体10Aa、10Abは、サスペンション機構14を有さない点が主に図1及び図2の吸着体10と異なり、その他の構成要素、すなわち、駆動部21、磁石19、磁石駆動部191及びリンク機構192などは、同様に含まれる。
【0048】
変形例の吸着体10Aa、10Abは、ブラケット28とワイヤーロープ61、62を介して、互いに離れた状態で吊られる。したがって、ワイヤーロープ61、62の可撓性により吸着体10Aaに支持された2つの走行部16と、吸着体10Abに支持された2つの走行部16との配置関係が変更可能である。
【0049】
したがって、図7(B)に示すように、曲面を有する吊荷T16に対して4点で接触して安定的に吊荷T16を吊上げることができる。さらに、様々な曲面形状の外面を有する吊荷に対しても、当該外面に4点で接触して安定的に吊荷を吊上げることが可能である。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は上記の実施形態に限られない。例えば、上記実施形態では、磁石19が走行部16内に設けられた構成を示した。しかし、磁石は走行部の外に配置されていてもよい。また、上記実施形態では、走行部16が球状である構成を示したが、走行部はローラ状であってもよいし、クローラであってもよいなど、様々な態様を適用可能である。また、複数の走行部がそれぞれ独立的に駆動可能な構成、吸着体が操舵を行うための構成は、上記実施形態の例に限られない。例えば、1つ又は複数の車輪の回転軸の向きを転回させる操舵機構を備え、操舵機構によって吸着体が吸着位置を変更する方向を切り替えるように構成されてもよい。また、複数の走行部は、駆動力を発生する走行部と、従動する走行部とを含んでいてもよい。また、本発明に係るリフティングマグネット装置は、様々な種類のクレーンと組み合わせてリフティングマグネット付きのクレーン装置を構成することができる。さらに、本発明に係るリフティングマグネット装置は、パワーショベルのアーム、又は、産業用ロボットのアームと連結されて、対象物に吸着し、アームの駆動により対象物を搬送する構成に適用されてもよい。この構成において、リフティングマグネット装置は、マグネットクリッパ装置と呼んでもよい。本発明のリフティングマグネット装置は、造船及び重工業分野、建設及び建設分野、インフラ点検保守分野、その他、重量物を扱う分野において、重量物を搬送する装置に適用することができる。その他、実施の形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0051】
1、1A リフティングマグネット装置
3 通信部
6、61、62 ワイヤーロープ
8、8Aa、8Ab 連結部
10、10Aa、10Ab 吸着体
14 サスペンション機構(ねじり機構)
16 走行部
19 磁石
191 磁石駆動部
192 リンク機構
20、20Aa、20Ab フレーム
20a 第1フレーム
20b 第2フレーム
21 駆動部
31 計測器
32 制御部
33 姿勢計測器
41 加工器
T11、T12 パイプ(対象物)
T13~T16 吊荷(対象物)
56 鉄塔の上部(対象物)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8