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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076605
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】レーザ式ガス分析計
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/39 20060101AFI20240530BHJP
【FI】
G01N21/39
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188233
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100132067
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 喜雅
(74)【代理人】
【識別番号】100121049
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 正義
(72)【発明者】
【氏名】吉峰 郁洋
(72)【発明者】
【氏名】武田 直希
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB01
2G059EE01
2G059EE12
2G059GG02
2G059GG09
2G059KK01
2G059MM01
(57)【要約】
【課題】測定対象ガスに応じて適宜、変調条件を設定して、測定誤差の低減を図ることができるレーザ式ガス分析計を提供する。
【解決手段】本発明は、測定対象空間に存在する測定対象ガスのガス分析を行うレーザ式ガス分析計であって、レーザ素子(12)と、変調光生成部(11)と、受光素子(22)と、受光信号処理部(21)と、を備え、変調光生成部は、デジタルアナログ変換器(112)を用い、任意に設定された波長変調振幅及び波長変調周波数による波長掃引を行うように駆動電流を出力し、受光信号処理部は、前記任意に設定された前記波長変調周波数に対応したフィルタ特性をデジタル制御で変更可能なフィルタ回路(212、213)を備えており、フィルタ回路を用いて、波長変調周波数の整数倍での周波数成分が抽出される、ことを特徴とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象空間に存在する測定対象ガスのガス分析を行うレーザ式ガス分析計であって、
前記測定対象ガスの吸収線スペクトルの光吸収波長を含む波長帯域のレーザ光を出射するレーザ素子と、
前記測定対象ガスの吸収線スペクトルの光吸収波長を含む波長帯域で波長を掃引し、かつ波長が変調されるように駆動電流を前記レーザ素子に供給する変調光生成部と、
を有する発光部と、
前記測定対象空間を通過した前記レーザ光を受光する受光素子と、
前記受光素子から出力された検出信号に対し、波長変調周波数の整数倍での周波数でロックイン検出して得られたロックイン検波波形の振幅に基づいて前記測定対象ガスの分析を行う受光信号処理部と、
を有する受光部と、を備え、
前記変調光生成部は、デジタルアナログ変換器を用い、任意に設定された波長変調振幅及び波長変調周波数による波長掃引を行うように前記駆動電流を出力し、
前記受光信号処理部は、前記任意に設定された前記波長変調周波数に対応したフィルタ特性をデジタル制御で変更可能なフィルタ回路を備えており、前記フィルタ回路を用いて、前記波長変調周波数の整数倍での周波数成分が抽出される、ことを特徴とするレーザ式ガス分析計。
【請求項2】
前記変調光生成部と、前記受光信号処理部との双方に通信可能な検出パラメータ設定部が設けられており、
前記検出パラメータ設定部にて設定された前記波長変調振幅及び前記波長変調周波数が前記デジタルアナログ変換器に送信されるとともに、前記波長変調周波数が前記フィルタ回路に送信される、ことを特徴とする請求項1に記載のレーザ式ガス分析計。
【請求項3】
複数の前記波長変調振幅で掃引した場合の前記ロックイン検波波形の振幅が最大となる前記波長変調振幅と、複数の前記波長変調周波数で掃引した場合のガス濃度の測定値ばらつきが最小となる前記波長変調周波数とが、それぞれ設定される、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のレーザ式ガス分析計。
【請求項4】
前記レーザ光の中心波長が、前記測定対象ガスの吸収スペクトルの中心波長となるように調整され、続いて、前記波長変調振幅及び前記波長変調周波数が設定される、ことを特徴とする請求項3に記載のレーザ式ガス分析計。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間内の各種の測定対象ガスの有無や濃度を分析するレーザ式ガス分析計に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の測定対象ガスのガス分析は、波長変調分光法により検出を行う。すなわち、駆動電流によって波長を掃引し、かつ特定の周波数で変調したレーザ光を波長可変レーザ光源が出射し、そのレーザ光を光検出器が検出し、ロックイン増幅器が信号を変調周波数の逓倍でロックイン検出し、このロックイン検波波形の振幅からガス濃度を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-106742公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ノイズの影響を受けて、理想的なロックイン検波波形を得ることができず、信号ノイズ比が低下して、高精度なガス濃度検出ができなかった。
【0005】
そこで、本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、ノイズによる測定誤差の低減を図ることができるレーザ式ガス分析計を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、測定対象空間に存在する測定対象ガスのガス分析を行うレーザ式ガス分析計であって、前記測定対象ガスの吸収線スペクトルの光吸収波長を含む波長帯域のレーザ光を出射するレーザ素子と、前記測定対象ガスの吸収線スペクトルの光吸収波長を含む波長帯域で波長を掃引し、かつ波長が変調されるように駆動電流を前記レーザ素子に供給する変調光生成部と、を有する発光部と、前記測定対象空間を通過した前記レーザ光を受光する受光素子と、前記受光素子から出力された検出信号に対し、波長変調周波数の整数倍での周波数でロックイン検出して得られたロックイン検波波形の振幅に基づいて前記測定対象ガスの分析を行う受光信号処理部と、を有する受光部と、を備え、前記変調光生成部は、デジタルアナログ変換器を用い、任意に設定された波長変調振幅及び波長変調周波数による波長掃引を行うように前記駆動電流を出力し、前記受光信号処理部は、前記任意に設定された前記波長変調周波数に対応したフィルタ特性をデジタル制御で変更可能なフィルタ回路を備えており、前記フィルタ回路を用いて、前記波長変調周波数の整数倍での周波数成分が抽出される、ことを特徴とする。
【0007】
本発明の一態様は、前記変調光生成部と、前記受光信号処理部との双方に通信可能な検出パラメータ設定部が設けられており、前記検出パラメータ設定部にて設定された前記波長変調振幅及び前記波長変調周波数が前記デジタルアナログ変換器に送信されるとともに、前記波長変調周波数が前記フィルタ回路に送信される、ことを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様は、複数の前記波長変調振幅で掃引した場合の前記ロックイン検波波形の振幅が最大となる前記波長変調振幅と、複数の前記波長変調周波数で掃引した場合のガス濃度の測定値ばらつきが最小となる前記波長変調周波数とが、それぞれ設定される、ことを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様は、前記レーザ光の中心波長が、前記測定対象ガスの吸収スペクトルの中心波長となるように調整され、続いて、前記波長変調振幅及び前記波長変調周波数が設定される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ガス濃度測定時の変調光の波長変調振幅及び波長変調周波数の変調条件を任意に設定でき、フィルタ回路をデジタル制御化して、測定対象ガスに適した変調条件を適宜設定できる。これにより、ノイズによる測定誤差を低減し、ガス濃度の算出精度を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施の形態に係るレーザ式ガス分析計の全体構成図である。
図2】ロックイン検波信号の波形図である。
図3】本実施の形態に係る変調光生成部及び受光信号処理部の構成図である。
図4】本実施形態に係る変調光の変調条件を決定する手順を示すフローチャートである。
図5】波長変調振幅と、ロックイン検波波形の振幅との関係を示すグラフである。
図6】波長変調周波数を48kHz及び6kHzとしてガス濃度を測定した測定結果であり、図6(a)~(f)は、ガス濃度全体の測定結果を示すグラフ(図6(a)(d))、ゼロ点を拡大したグラフ(図6(b)(e))、及び、スパン点を拡大したグラフ(図6(c)(f))である。
図7】波長変調周波数を48kHz及び6kHzとして得たロックイン検波波形の違いを示す実験例であり、図7(a)は、ゼロガスを流して取得した波形図であり、図7(b)は、スパンガスを流して取得した波形図を示す。
図8】波長変調周波数を48kHZ及び6kHzとして得たロックイン検波波形の違いをフーリエ変換結果で示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態に係るレーザ式ガス分析計について、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、下記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施することができる。
【0013】
<レーザ式ガス分析計の全体構成図>
図1は、本発明の実施形態に係るレーザ式ガス分析計の全体構成図である。図1に示すように、レーザ式ガス分析計1は、発光部10及び受光部20を備えている。
【0014】
レーザ式ガス分析計1は、測定対象空間に存在する測定対象ガスを分析する。レーザ式ガス分析計1は、発光部10から出射されたレーザ光(変調光や検出光とも称する)30が、ガス管を構成する壁50a、50bの内部(測定対象空間)を流通する測定対象ガスに照射される。測定対象ガスを透過したレーザ光30が、受光部20に入射し、検出された光量から特定のガス濃度を求めることができる。また、ガス濃度が0や所定値以下であるならば、ガスが無いことを検出でき、したがって、ガスの有無も検出できる。
【0015】
発光部10及び受光部20は、ガス管を構成する壁50a、50bに着脱可能に取り付けられる。壁50a、50bは、特定のガスが存在する配管等の壁であり、それぞれに穴が開けられている。フランジ51a、51bは、溶接等によりそれらの穴に固定されている。発光部10及び受光部20に設けられた光軸調整フランジ52a、52bは、これらフランジ51a、51bに対して機械的に着脱可能に取り付けられる。発光部10と受光部20は、壁50a、50bを挟んで、相対する位置に配置されるが、光軸調整フランジ52a、52bにより位置調整することができる。
【0016】
光軸調整フランジ52aは、レーザ光30の出射角を調整し、また、光軸調整フランジ52bは、レーザ光30の入射角を調整することができる。光軸調整フランジ52a、52bにより、発光部10から出射されるレーザ光30が受光部20において最大の光量で受光される。
【0017】
[発光部10]
発光部10について説明する。図1に示すように、発光部10は、変調光生成部11と、レーザ素子12と、コリメートレンズ13と、発光部窓板14と、発光部容器15と、光軸調整フランジ52aと、を備えて構成されている。図1に示すように、変調光生成部11、レーザ素子12及びコリメートレンズ13は、発光部容器15の内部に配置されている。発光部容器15は、内蔵された各部品を外気から隔絶して風雨、塵埃、及び、汚れ等から保護する。
【0018】
変調光生成部11は、測定対象ガスの吸収線スペクトルの光吸収波長を含む波長帯域で波長が繰り返し掃引され、かつ、変調されるように生成された駆動電流を生成する。そして、変調光生成部11は、変調されたレーザ光を発光するための駆動電流をレーザ素子12に供給する。これにより、ガス濃度分析には、測定対象ガスの吸光特性に応じて、波長変調された変調光を照射することができる。
【0019】
レーザ素子12は、測定対象ガスが吸収する特定の吸収線スペクトルの中心波長λ1、及びその周辺の波長で発光する。レーザ素子12は、駆動電流と温度制御により、発光波長を可変制御する。
【0020】
レーザ素子12は、発光中心波長が測定対象ガスの吸収線スペクトルの中心波長λ1となるように温度制御される。また、レーザ素子12から発光されるレーザ光30は、変調光生成部11から供給された駆動電流により、測定対象ガスの吸収線スペクトルの中心波長の周辺の波長を時間的に掃引するように制御され、さらに、波長変調分光法(WMS:Wavelength Modulation Spectroscopy)により高感度に測定できるように、適切な正弦波を重畳して変調されている。波長変調分光法は、2f検出法とも呼ばれる。
【0021】
使用するレーザ素子12は、特に限定されないが、例えば、DFBレーザダイオード(Distributed Feedback Laser Diode)、或いは、VCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser)、又は、DBRレーザダイオード(Distributed Bragg Reflector Laser Diode)である。
【0022】
コリメートレンズ13は、測定対象ガスの吸収線スペクトルの中心波長λ1、及びその周辺の波長において透過率が高い材料で構成される。コリメートレンズ13により、レーザ光30は略平行光に変換され、拡散による損失を抑えながら受光部20まで伝送することができる。
【0023】
レーザ素子12の発光点は、コリメートレンズ13の焦点付近に配置されている。レーザ素子12からの出射光は、拡散しつつコリメートレンズ13に入射して、略平行光であるレーザ光30に変換される。なお、本実施の形態では、平行光変換部としてコリメートレンズ13を用いるものとして説明するが、コリメートレンズに限定する趣旨ではない。例えば、平行光変換部として、コリメートレンズ13の代わりに放物面鏡を用いることもできる。
【0024】
略平行光であるレーザ光30は、発光部窓板14を透過し、壁50a、50bの内部、すなわち測定対象ガスを含むガスが存在する空間に伝播する。発光部窓板14は、発光部容器15の一部に穴を開けてそれを塞ぐように備えられている。発光部窓板14は、レーザ光30の光路内にあり、レーザ光30を透過させつつ、特定の測定対象ガスを含むガスが発光部10の内部に進入しないようにする。これにより、発光部容器15の内部に配置された各部品が直接ガスに触れないことになり、発光部容器15内の各部品が保護される。
【0025】
[受光部20]
受光部20について説明する。受光部20は、受光信号処理部21と、受光素子22と、集光レンズ23と、受光部窓板24と、受光部容器25と、を備えて構成されている。受光部容器25は、内部に受光素子22、光学部品、および、電気電子回路を内蔵し、それらを外気から隔絶して風雨、塵埃、および、汚れ等から保護する。
【0026】
受光部20は、受光部窓板24を透過したレーザ光30を受光し、測定対象ガスの吸光特性により吸収された光について分析する。受光部窓板24は、受光部容器25の一部に穴を開けてそれを塞ぐように備えられている。受光部窓板24は、レーザ光30の光路内にあり、レーザ光30を透過させつつ、特定の測定対象ガスを含むガスが受光部20の内部に進入しないようにする。これにより、受光部20内に配置された各部品が直接ガスに触れないことになり、内部が保護される。レーザ光30は、集光レンズ23により集光されて、受光素子22に入射する。なお、本実施の形態では、集光レンズ23を用いているが、集光レンズ23に代えて、放物面鏡や、ダブレットレンズ、或いは回折レンズなどを採用することもできる。
【0027】
受光素子22は、測定対象ガスを通過したレーザ光30を受光する。測定対象ガスの吸収線スペクトルの中心波長λ、及びその周辺波長において、感度を有する受光素子を選択することができる。受光素子22からの受光信号は、受光信号処理部21に電気信号として送られる。
【0028】
集光レンズ23は、測定対象ガスの吸収線スペクトルの中心波長λ1、及びその周辺の波長において、透過率が高い材料で構成する。集光レンズ23により、レーザ光30は受光素子22に集光されるため、高い信号強度を得ることができる。
【0029】
受光信号処理部21は、受光素子22で受光した電気信号を処理して、ガス濃度を算出する。波長変調されたレーザ光30の変調周波数の高調波をロックイン検出し、その検出波形の振幅情報を算出し、高感度なガス検出が可能となっている。
【0030】
測定対象空間に存在する複数ガスの組成が定まっている場合には、測定対象ガスの吸光によって得られるロックイン検波波長の振幅は波長変調振幅の関数であり、極大値が存在する。したがって、標準ガスを校正する際には、ロックイン検波波形の振幅が極大となるように波長変調振幅を調節して、信号ノイズ比を最大化することができる。
【0031】
図2は、ロックイン検波信号の波形図である。図2に示すように、ロックイン検波信号は、測定対象ガス成分の吸収線に基づき極値をもつ波形となる。幅Wの範囲がガス吸収による検出信号である。
【0032】
図2に示すロックイン検波信号における信号強度のボトム-ピーク間の差分Dは、ガス濃度と相関がある。したがって、予め各濃度に設定した標準ガスにより校正を行っておくことで、差分Dを検出してガス濃度を測定することが出来る。
ロックイン検波信号の幅Wは、例えば、ガスの種類などに応じて補正演算をするために用いることができる。
【0033】
<本実施の形態の変調光生成部11及び受光信号処理部21を構成するブロックの説明>
図3は、本実施形態に係る変調光生成部11及び受光信号処理部21の構成図である。
図3に示すように、変調光生成部11は、LD駆動部110と、LD温調部120と、を有する。レーザ素子(LD)12は、LD駆動部110から供給される駆動電流に応じて、レーザ光を照射する。また、レーザ素子12は、LD温調部120により一定の温度に温調される。一定の温度に制御することで、レーザ素子12の出力や波長の変動を抑制できる。
【0034】
LD駆動部110は、デジタルアナログ変換器(DAC)112と、LD電流制御回路111とを、有して構成される。また、LD温調部120は、デジタルアナログ変換器(DAC)112と、LD温度制御回路121とを、有して構成される。
【0035】
駆動電流と温度を制御する設定値は、検出パラメータ設定部310で設定される。そして、該設定値が、デジタルアナログ変換器112、122にてデジタル値からアナログ値に変換され、変換された制御値が、LD電流制御回路111及びLD温度制御回路121に入力され、これにより、レーザ素子12は、該設定値に応じた変調光を出射する。
図3に示すように、受光信号処理部21は、受光信号取得部210及び演算処理部220を有して構成される。
【0036】
受光信号取得部210は、前段増幅回路211、ハイパスフィルタ212、バンドパスフィルタ213、後段増幅回路214、及びアナログデジタル変換器(ADC)215を有して構成される。また、演算処理部220は、デジタルロックイン検波部221、デジタルローパスフィルタ222、及び濃度演算部223を有して構成される。
【0037】
前段増幅回路211では、受光素子22からの受光信号を、レーザ光30の強度に応じて増幅し、ハイパスフィルタ212及びバンドパスフィルタ213に送られる。
【0038】
ハイパスフィルタ212及びバンドパスフィルタ213は、フィルタ特性をデジタル制御可能なフィルタ素子を有するフィルタ回路である。検出パラメータ設定部310からフィルタ回路には、波長変調周波数が送信される。フィルタ回路は、該波長変調周波数に対応したフィルタ特性をデジタル制御で変更でき、該フィルタ回路を用いて、受光素子22から出力された検出信号に対して、波長変調周波数の整数倍(例えば、2倍)の周波数信号を抽出する。
【0039】
なお、レーザ光30の変調周波数の整数倍の周波数を抽出するフィルタ回路は、少なくともバンドパスフィルタ213を備えて構成され、ハイパスフィルタ212を用いるか否かは任意である。ただし、ハイパスフィルタ212を用いることで、直流成分を予め除去でき、抽出する高調波成分に対する広いダイナミックレンジを確保し、また後段フィルタの入力範囲内で増幅することができ、これにより、ガスによる吸収信号が相対的に小さくなるのを防ぎ、高い検出感度を維持できる。したがって、前段増幅回路211の直後にハイパスフィルタ212を接続するのが望ましい。
【0040】
バンドパスフィルタ213により抽出した信号を、後段増幅回路214で増幅し、アナログデジタル変換器215でデジタル信号に変換し、演算処理部220に送る。
【0041】
演算処理部220では、前記の2倍周波数信号を、デジタルロックイン検波部221およびデジタルローパスフィルタ222を通して、ロックイン検出信号を取得し、濃度演算部223で、該検出信号を処理してガス濃度を算出する。ガス濃度は、図2に示すロックイン検出信号の振幅から既存の方法により算出できる。
【0042】
<従来の課題と本実施の形態に至る経緯>
2f波長変調分光法においては、ロックイン検波波形の振幅が極大となる波長変調振幅は、測定対象ガスの吸収ピークの半値幅の2.2倍程度であることが知られており、このとき、信号ノイズ比を最大化することができる。
【0043】
また、レーザ素子や受光素子は、1fノイズと呼ばれる1-10kHzのノイズ成分など周波数依存のノイズ成分を含み、高調波で変調することでこれらのノイズ影響を低減して微小信号を測定することができる。
【0044】
したがって、理想的なロックイン検波波形が得られれば、理論上の計算により、信号ノイズ比の最大化を図ることができるが、実際には、ノイズの影響により理想的なロックイン検波波形を得ることができない。ノイズには、回路ノイズ、光学干渉ノイズ、及び環境ノイズなどが含まれる。例えば、レーザ素子の波長と電流、光量と電流の非線形性や、電流に応じた自己発熱による波長変化、電流変化に対する波長変化の時間的な応答性による変調波歪みなどの要因が含まれて、理想的なロックイン検波波形が得られない。
【0045】
特許文献1では、信号ノイズ比を高めることを目的とし、受光信号処理部は、予め補正情報を登録し、複数の波長変調振幅に各々対応するロックイン検出により得た複数の波形の振幅、および、補正情報に基づいてガス濃度の圧力依存性を補正している。
【0046】
しかしながら、従来では、ガス濃度測定時における変調光の変調条件(波長変調振幅及び波長変調周波数)をスイッチングで変更したり、固定値を使用するなどして、測定対象ガスに適した変調条件を適宜設定していなかった。特に、波長変調周波数は固定値を使用しており、受光信号処理部に用いられるフィルタ素子には、固定値に適用したアナログ回路を使用していた。このように、従来では、測定対象ガスに適した変調条件(波長変調振幅及び波長変調周波数)を適宜設定して、信号ノイズ比を高める回路構成とはなっていなかった。
【0047】
そこで、本発明者らは、鋭意研究を行った結果、信号ノイズ比を高め、ノイズ影響による測定誤差を低減すべく、以下の構成(1)(2)を有するレーザ式ガス分析計を発明するに至った。
【0048】
(1)変調光生成部11は、デジタルアナログ変換器112を用い、任意に設定した波長変調振幅及び波長変調周波数にて波長掃引するように駆動電流を出力する機能を有する。
(2)受光信号処理部21は、任意に設定した波長変調周波数に対応したフィルタ特性をデジタル制御で変更可能なフィルタ回路(212、213)を備えており、フィルタ回路を用いて、波長変調周波数の整数倍での周波数成分を抽出する機能を有する。
【0049】
<本実施の形態のレーザ式ガス分析計における特徴的構成の具体的説明>
上記の構成(1)では、検出パラメータ設定部310にて、波長変調振幅及び波長変調周波数を任意に設定できる。本実施の形態では、任意に設定した波長変調振幅及び波長変調周波数をデジタル信号からアナログ信号に変換できるデジタルアナログ変換器112をLD駆動部110に組み込んでいる。
【0050】
上記を実現するために、デジタルアナログ変換器(DAC)112は、低歪であることが望ましい。例えば、特許文献1に記載のレーザ式ガス分析計では、変調されたレーザ光が、測定対象ガスの吸収により歪が生じることを利用し、変調周波数の高調波成分(一般的には、第2高調波)を測定することで濃度検出しているという性質から、特定の周波数で発振する低歪アナログ発振器を用いることが多かった。しかしながら、ガス濃度の測定値ばらつきは、波長変調周波数に起因するため、ある特定の周波数に固定すると、ガス濃度の測定値ばらつきを最小にできないことがあった。また、波長変調振幅については、ロックイン検出検波波形が最大振幅となるように、スイッチングにより調整していたため、きめ細かい調整が難しかった。
【0051】
一方で、近年では、ハイレゾリューションオーディオ等の分野でDAC素子の高精度、低歪化が進んでおり、従来の低歪アナログ発振器の全高調波歪率(-80~-90dB程度)を大きく下回る低歪率を達成しているものが存在する(例えば、旭化成製AK4499EQ、全高調波歪率-125dB)。したがって、例えば、このような低歪率(全高調波歪率が-80~-90dBを下回る低歪率)の高精度DACを、本実施の形態のデジタルアナログ変換器112として用いる。また高精度DACの指標としてサンプリング周波数および分解能を挙げることができ、限定されるものではないが、一般的なハイレゾのサンプリング周波数/分解能(192kHz/24bit)から上記した旭化成製AK4499EQのサンプリング周波数/分解能(768kHz/32bit)の範囲を挙げることができる。以上の高精度DACを用いることで、ガス濃度測定に必要な低歪の変調性能を備えながら、任意に設定した波長変調振幅及び波長変調周波数からなる変調条件でレーザ素子12を駆動することが可能となる。また、これにより、回路の大規模化を招くことがない。
【0052】
このため、本実施の形態では、レーザ光30の変調条件としての波長変調振幅及び波長変調周波数を任意に設定でき、そして、任意に設定した波長変調条件による波長掃引を行うようにレーザ素子12を駆動させることができる。波長変調振幅及び波長変調周波数の最適値については後述する。
【0053】
構成(2)では、受光信号処理部21は、変調光生成部11で設定した波長変調周波数に対応したフィルタ特性をデジタル制御で変更可能なフィルタ回路(212、213)を備えている。
【0054】
従来では、波長変調周波数は固定値であったため、固定値の波長変調周波数に応じたフィルタ特性を備えたフィルタ回路を組み込んでいたが、本実施の形態では、検出パラメータ設定部310で、任意に設定された波長変調周波数が、フィルタ回路(212、213)に送られる構成であるため、デジタル制御にて、フィルタ特性を、適宜、波長変調周波数に応じて変更できるフィルタ回路が組み込まれている。
【0055】
このように、測定対象ガスに応じて任意に設定した波長変調周波数に基づいて、フィルタ回路(212、213)のフィルタ特性を変更でき(プログラミングの変更で可能)、きめ細かい設定が可能になり、信号ノイズ比を高める回路構成にできる。
【0056】
本実施の形態では、受光信号処理部21に用いられるフィルタ素子は、例えば、1~150kHzにおけるフィルタ特性を柔軟にデジタル制御可能であることが望ましい。本実施の形態では、ハイパスフィルタ212及びバンドパスフィルタ213は、検出パラメータ設定部310から、変調光生成部11にて設定した波長変調周波数の情報を得て、該波長変調周波数に対応したフィルタ特性をデジタル制御にて変更し、バンドパスフィルタ213を通じて、波長変調周波数の2倍の周波数成分が抽出される。
【0057】
本実施の形態で適用可能なフィルタ素子としては、例えば、MAXIM製のMAX263/264、あるいは、MAX267/268等である。このようなプログラマブルなフィルタ素子を用いることで、共通の回路構成を用いてソフトウェア制御のみで、変調光の設定周波数に応じた2倍周波数信号を抽出することが可能となる。
【0058】
本実施の形態では、レーザ光30の変調条件としての波長変調振幅及び波長変調周波数を任意に設定できるので、測定対象ガスに応じて信号ノイズ比を高めることができるようにきめ細かく変調条件の調整を行うことができる。
【0059】
<波長変調振幅及び波長変調周波数の設定について>
次に、波長変調振幅及び波長変調周波数の設定について説明する。波長変調振幅については、複数の波長変調振幅で掃引した場合のロックイン検波波形の振幅が最大となる波長変調振幅に設定することが好ましい。また、波長変調周波数については、複数の波長変調周波数で掃引した場合のガス濃度の測定値ばらつきが最小となる波長変調周波数に設定することが好ましい。
【0060】
限定されるものではないが、波長変調振幅の設定方法として、測定対象ガスのスパンガスを用いて、複数の波長変調振幅とロックイン検波振幅との関係から最小二乗法で近似曲線のグラフを求め、そのグラフ上からロックイン検波振幅が最大となる波長変調振幅を設定することができる。あるいは、ロックイン検波波形を求めた複数の波長変調振幅の各々の測定値から、ロックイン検波波形の振幅が最大となる波長変調振幅を選ぶことでもよい。なお、スパンガスとは、測定レンジの最大目盛値付近の目盛値の校正に使用され、限定されるものではないが、測定レンジの80%~100%の濃度の測定対象ガスを含む。なお、この値は、レーザ式ガス分析計が準拠するJIS B 7993 2008でも規定されている。
【0061】
また、限定されるものではないが、波長変調周波数の設定方法では、ガス濃度の測定値ばらつきから求める。ガス濃度の測定は、波長変調周波数を任意に設定してレーザ素子12からレーザ光を発しながら、測定対象ガスの標準ガスを流して、時間経過に伴うガス濃度を測定する。このとき、レーザ光の波長変調振幅を限定するものではないが、例えば、上記にて設定したロックイン検波波形の振幅が最大となる波長変調振幅を用いる。
【0062】
標準ガスとしてゼロガスとスパンガスの双方を用い、例えば、ゼロガスとスパンガスを交互に流し、ガス濃度を測定する。ゼロガスとは、測定レンジの最小目盛値の校正に使用され、測定対象ガスのガス濃度は0%である。ガス濃度の測定は、ロックイン検波波形を求めて、濃度演算して濃度波形を求める。レーザガス分析計では、トレーサビリティの取れている(すなわち、濃度の分かっている)ゼロガスとスパンガスを用いて0%~100%の目盛りを校正し、ロックイン検波波形の振幅比から濃度を測定する。
【0063】
ガス濃度の測定値ばらつきは、ゼロガスを流した場合、及びスパンガスを流した場合のそれぞれから最大ばらつきを求めることができる。そして、例えば、ゼロガスを流した場合の測定値ばらつきと、スパンガスを流した場合の測定値ばらつきの平均値を、その波長変調周波数のガス濃度の測定値ばらつきにできる。なお、ゼロガスとスパンガスをそれぞれ流して測定してもよいし、ゼロガスのみ流して測定してもよい。
【0064】
そして、複数の波長変調周波数とガス濃度の測定値ばらつきとの関係から最小二乗法で近似曲線のグラフを求め、そのグラフ上からガス濃度の測定値ばらつきが最小となる値の波長変調周波数を設定することができる。あるいは、ガス濃度の測定値ばらつきを求めた複数の波長変調周波数の各々の測定値から、ガス濃度の測定値ばらつきが最小となる波長変調周波数を選ぶことでもよい。
なお、後述の図6では、波長変調周波数を2点のみとして実験したが、実際には、波長変調周波数をより多くとって近似曲線上から波長変調周波数を選択したり、例えば、基本となる周波数とその2のn乗倍の周波数を複数とって波長変調周波数を選択したりすることができる。
実ガス測定時には、以上のようにして求めた波長変調条件にて波長掃引を行い、得られたロックイン検波波形の振幅に基づいて、測定対象ガスの分析を行う。
【0065】
本実施の形態では、波長変調条件の決定の前に、レーザ光の中心波長が、前記測定対象ガスの吸収スペクトルの中心波長となるように調整することが好ましい。レーザ素子12は、駆動電流と温度により、発光波長を可変制御可能である。そこで、レーザ素子12は、発光中心波長が測定対象ガスの吸収線スペクトルの中心波長となるように温度制御される。また、測定対象ガスの吸収線スペクトルの中心波長の周辺の波長を時間的に掃引されるように、駆動電流が制御される。このとき、波長変調振幅及び波長変調周波数の変調条件については、例えば、過去において、その測定対象ガスを測定した際に行った調整実績などに基づいて暫定的に決めておく。これにより、暫定的な波長変調振幅および周波数を有する正弦波が駆動電流に重畳される。
【0066】
このように、本実施の形態では、レーザ光の中心波長が、測定対象ガスの吸収スペクトルの中心波長となるように、掃引電流・温度制御を設定し、この設定条件にて、上記した変調条件(波長変調振幅及び波長変調周波数)を求めることが好ましい。
【0067】
<変調条件の決定手順のフローチャート>
次に、本実施の形態におけるレーザ光30の変調条件(波長変調振幅、及び波長変調周波数)の決定手順を、図4のフローチャートを用いて説明する。
【0068】
図4のステップST1では、レーザ中心波長の調整を行う。まず、校正配管等に濃度が既知(例えば、スパン濃度相当)の測定対象ガスを流通する。その状態で、過去の調整実績などに基づいて暫定的な波長変調振幅及び波長変調周波数の変調条件を設定し、ロックイン検波波形を得る。そして、該ロックイン検波波形を用いて、レーザ光の中心波長が、測定対象ガスの吸収線スペクトルの中心波長となるように掃引電流及び温度制御を設定する。
【0069】
図4のステップST2では、図4のステップT1の設定条件に基づき、変調振幅条件を連続的に変化させる。このとき、測定対象ガスには、スパンガスを用いることが好ましい。そして、ロックイン検波波形の振幅が最大となる変調振幅条件を取得する。
【0070】
図5は、波長変調振幅と、ロックイン検波波形の振幅との関係を示す概念図である。図5に示すように、複数の波長変調振幅から、ロックイン検波波形の振幅を求め、例えば、最小二乗法で図5に示すような近似曲線のグラフを得る。そして、図5からロックイン検波波形の振幅が最も大きくなる波長変調振幅aを求める。
【0071】
次に、図4のステップST3では、図4のステップST1で求めたレーザ光の中心波長、及び図4のステップST2で求めた波長変調振幅aの条件において、波長変調周波数を変えてガス濃度測定を行い、ガス濃度の測定値ばらつきが最小となる波長変調周波数を取得する。このステップST3では、標準ガスに、少なくともゼロガスを適用することが好ましい。なお、スパンガスの供給を安定的に行うことができる場合、スパンガスを使用することもできる。また、ゼロガスとスパンガスの双方を用いてもよい。
【0072】
図6は、波長変調周波数とガス濃度測定値との関係を示すグラフであり、図6の各図の横軸は時間、縦軸はガス濃度を示している。図6(a)(b)(c)は、変調周波数を48kHzとした場合の、アンモニア濃度の測定結果を示す全体測定図、ゼロ点付近を拡大した測定図、及びスパン点付近を拡大した測定図である。図6(d)(e)(f)は、変調周波数を6kHzとした場合の、アンモニア濃度の測定結果を示す全体測定図、ゼロ点付近を拡大した部分拡大測定図、及びスパン点付近を拡大した部分拡大測定図である。
【0073】
この実験では、測定対象ガスとして、アンモニア(NH)を用い、レーザ光の波長変調振幅を図5に示す波長変調振幅aに固定し、波長変調周波数を48kHZあるいは6kHzに設定したうえで、ゼロガス(濃度0%)とスパンガス(濃度80%~100%)とを交互に流して、ガス濃度を測定した。ガス濃度の測定は、レーザガス分析計にて、トレーサビリティの取れている(すなわち、濃度の分かっている)ゼロガスとスパンガスを用いて0%~100%の目盛りを校正し、ロックイン検波波形の振幅比から濃度を測定した。
【0074】
図6(b)~(f)に示すように、ゼロ点及びスパン点の双方において、ガス濃度に測定ばらつきが見られる。測定ばらつきは、ゼロ点及びスパン点のそれぞれの範囲において、最大の測定値と最小の測定値の差で求めることができる。このとき、測定開始点、測定終了点、及び、ゼロ点とスパン点との切り替え点では、測定が安定せずノイズ以外の測定誤差の要因が大きくなると考えられるため、図6(b)~(f)に示すように、ゼロ点及びスパン点のそれぞれの範囲の略中心付近で測定値ばらつきを求めることが好ましい。
図6(a)~(f)に示すように、スパン点及びゼロ点において測定ばらつきは、いずれも波長変調周波数を48kHzとしたほうが小さくできた。
【0075】
図7(a)は、波長変調周波数を48kHZ及び6kHzとして得たロックイン検波波形の違いを示す例あり、ゼロガスを流通させたときに取得した波形図であり、図7(b)は、スパンガスを流通させたときに取得した波形図を示す。
【0076】
図7(a)に示すように、波長変調周波数を48kHzとしたほうが、波長変調周波数を6kHzとした場合に比べて、ロックイン検波波形に重畳する光学干渉などに起因するノイズ成分の影響を低減でき、周期的な変動が小さいことがわかった。
【0077】
図8は、波長変調周波数を48kHZ及び6kHzとして得たロックイン検波波形の違いをフーリエ変換結果で示したグラフである。すなわち、図7(b)のロックイン検波波形をフーリエ変換したものであるが、吸収波形に近い周波数(1400Hz付近)の光学干渉ノイズ成分が低減されていることがわかった。
【0078】
したがって、図4のステップST3では、上記測定結果に基づき、波長変調周波数を48kHzに設定する。なお、図5から図8で示す波長変調振幅及び波長変調周波数の設定値は、あくまで一例である。また、図7図8は、実際のロックイン検波波形による検証によりノイズを低減できたことを立証するものであり、図6の波長変調周波数による測定ばらつきまでを求めれば足りる。なお、図7(a)(b)からわかるように、ロックイン検波波形のうねりは、ゼロガスを通して測定することで明確に示されるため、図6の波長変調周波数による測定ばらつきを求める際、少なくともゼロガスを流して求めることが好ましい。スパンガスも流して、ゼロ点とスパン点の双方の測定ばらつきを求め、例えば、これらを平均化して平均した測定ばらつきから、波長変調周波数の設定を行ってもよい。また、図6の測定ばらつきの測定では、波長変調周波数を2点としたが、実際には、測定点をさらに増やすことで、波長変調周波数の最適化をより精度よく図ることができる。また、各波長変調周波数から求めた個々の測定ばらつきのうち最小となる測定ばらつきの波長変調周波数を求めてもよいし、あるいは、図5に準じて、波長変調周波数と測定ばらつきの近似曲線を求めて、測定ばらつきが最小となる波長変調周波数を求めてもよい。
【0079】
次に、図4のステップST4では、実ガスの測定に際して、ステップST1~ST3までに得られた各種条件にて、測定対象ガスの吸収線スペクトルの光吸収波長を含む波長帯域で波長が掃引され、かつ変調されるようにレーザ素子を駆動する。そして、受光素子から出力された受光信号に対して得られたロックイン検波波形の振幅に基づいて、測定対象ガスの濃度分析を行う。このとき、本実施例では、フィルタ回路フィルタ特性をデジタル制御で変更し、設定した波長変調周波数に対応させている。
【0080】
以上により、本実施の形態のレーザ式ガス分析計によれば、レーザ変調光の変調条件(振幅、周波数)を適正化して信号ノイズ比を高めることができ、ノイズ影響による測定誤差を低減し、正確なガス濃度を算出することができる。
【0081】
図4に示すステップST2でロックイン検波波形の振幅が最大となる波長変調振幅(図5の波長変調振幅a)を設定し、ステップST3で、ガス濃度測定のばらつきが最小となる波長変調周波数(図6の実験では、48kHz)を設定することで、実ガスを測定した際の指示ふらつき(ガス濃度測定のばらつき)を、ステップST2、ST3を行わず、ステップST1での暫定的な波長変調振幅及び波長変調周波数を使用した場合と比べて、約1.4倍(ST2、ST3を行わない場合の濃度ばらつき/本実施例の濃度ばらつき)ほど低減した。このように、本実施例では、信号ノイズ比を高めることができ、ノイズ影響による測定誤差を低減できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のレーザ式ガス分析計は、ボイラ、ゴミ焼却等の燃焼排ガス測定用、燃焼制御用として最適である。その他、鉄鋼用ガス分析[高炉、転炉、熱処理炉、焼結(ペレット設備)、コークス炉]、青果貯蔵および熟成、生化学(微生物)[発酵]、大気汚染[焼却炉、排煙脱硫・脱硝]、自動車・船等の内燃機関の排ガス(除テスタ)、防災[爆発性ガス検知、有毒ガス検知、新建築材燃焼ガス分析]、植物育成用、化学用分析[石油精製プラント、石油化学プラント、ガス発生プラント]、環境用[着地濃度、トンネル内濃度、駐車場、ビル管理]、理化学各種実験用などの分析計としても有用である。
【符号の説明】
【0083】
1 :レーザ式ガス分析計
10 :発光部
11 :変調光生成部
12 :レーザ素子
13 :コリメートレンズ
14 :発光部窓板
15 :発光部容器
20 :受光部
21 :受光信号処理部
22 :受光素子
23 :集光レンズ
24 :受光部窓板
25 :受光部容器
30 :レーザ光
110 :LD駆動部
111 :LD電流制御回路
112 :デジタルアナログ変換器
120 :LD温調部
121 :LD温度制御回路
122 :アナログ変換器
210 :受光信号取得部
211 :前段増幅回路
212 :ハイパスフィルタ
213 :バンドパスフィルタ
214 :後段増幅回路
215 :アナログデジタル変換器
220 :演算処理部
221 :デジタルロックイン検波部
222 :デジタルローパスフィルタ
223 :濃度演算部
310 :検出パラメータ設定部




図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8