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特開2024-76614環状分子と軸状分子とが一体となった化合物、挿し違い型ロタキサン及び挿し違い型ロタキサンを含むポリマー、並びにその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076614
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】環状分子と軸状分子とが一体となった化合物、挿し違い型ロタキサン及び挿し違い型ロタキサンを含むポリマー、並びにその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 323/00 20060101AFI20240530BHJP
   C08G 75/045 20160101ALI20240530BHJP
【FI】
C07D323/00
C08G75/045
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188248
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】山吹 一大
(72)【発明者】
【氏名】加本 りさ子
【テーマコード(参考)】
4J030
【Fターム(参考)】
4J030BA03
4J030BA42
4J030BB07
4J030BC43
4J030BF10
4J030BG06
4J030BG27
4J030BG32
(57)【要約】
【課題】耐圧縮性に優れた挿し違い型ロタキサンを含むポリマー、そのための新規環状分子と軸状分子とが一体となった化合物、及び挿し違い型ロタキサンを提供する。
【解決手段】軸状分子の末端に二重結合を導入した環状分子と軸状分子とが一体となった化合物を含む挿し違い型ロタキサンと、末端にチオール基を有する架橋剤とのチオール-エン反応により、挿し違い型ロタキサンを含むポリマーを合成し、耐圧縮性を備える網目状ポリマーのゲル状固体を形成する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)で表される環状分子と軸状分子とが一体となった化合物。
【化1】
【請求項2】
請求項1記載の化合物を含む、下記化学式(2)で表される挿し違い型ロタキサン。
【請求項3】
請求項2記載の挿し違い型ロタキサンを含むポリマー。
【請求項4】
ポリマーが線状ポリマーである、請求項3記載のポリマー。
【請求項5】
ポリマーが網目状ポリマーである、請求項3記載のポリマー。
【請求項6】
請求項1記載の環状分子と軸状分子とが一体となった化合物を含む挿し違い型ロタキサンと、末端にチオール基を有する架橋剤とを反応させることを特徴とする挿し違い型ロタキサンを含むポリマーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状分子と軸状分子とが一体となった化合物、挿し違い型ロタキサン及び挿し違い型ロタキサンを含むポリマー、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロタキサンは、環状分子に軸状分子が貫通し、その両末端を環状分子の内径よりも大きな分子(ストッパー分子)で封止した分子複合体である。その環状分子と軸状分子とが、疎水性相互作用や酸/塩基などの分子間相互作用によって形成されており、その特殊な構造からロタキサンは「インターロック化合物」とも呼ばれている。分子間相互作用は可逆的であるため、刺激を加えることで相互作用が一時的に切断され、環状分子が軸状分子上をスライド運動することが可能となっている。
【0003】
また、特異的なロタキサンとして、挿し違い型ロタキサン([c2]daisy-chain rotaxane)があり、挿し違い型ロタキサンは、環状分子と軸状分子とが一体となった化合物同士が分子間相互作用によって、互いに挿し違いあうことで形成される。挿し違い型ロタキサンに熱や光などの刺激を加えると可逆的に解離することから、研究が進んでいる。特許文献1には、挿し違い型ロタキサンモノマーを金属触媒として銅触媒を用いて重合(ヒュスゲン環化付加, Huisgen Cycloaddition)することが開示されている。
【0004】
ロタキサンを連続的に結合することで得られるロタキサンポリマーには、インターロック型(インターロック化合物)と挿し違い型とがあり、挿し違い型ロタキサンポリマーを用いた、収縮運動を可能とする高分子材料の開発が行われている。高分子化した挿し違い型ロタキサンに刺激を与えると、分子全体が筋繊維のように収縮運動することが可能であり、人工筋肉などへの応用が期待されている。特許文献2には、環状分子がヒドロシリル基を有するポリロタキサンと二重結合を有するポリマーとを白金触媒を用いて架橋させてなる架橋高分子組成物が開示されている。
【0005】
また、非特許文献1及び2には、環状分子に24員環のクラウンエーテルを使用し、銅触媒を用いた挿し違い型ロタキサンポリマーの合成が開示されているが、得られるロタキサンポリマーの耐圧縮性などの特性については記載がない。さらに、非特許文献3には、環状分子に24員環のクラウンエーテルを使用し、ルテニウム触媒を用いて合成した挿し違い型ロタキサンモノマーを銅触媒を用いてポリマーに合成することが開示されているが、得られるロタキサンポリマーはフィルムではなく、耐圧縮性などの特性についての記載もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-121933号公報
【特許文献2】特開2021-127362号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Bistable [c2]Daisy Chain Rotaxanes as Reversible Muscle-like Actuators in Mechanically Active Gels, J. AM. Chem. Soc., 139, 14825-14828 (2017)
【非特許文献2】Muscle-like Supramolecular Polymer: Integrated motion from Thousands of Molecular Machines, Angew. Chem. Int. Ed., 51, 12504-12508 (2012)
【非特許文献3】Switching and Extension of a [c2]daisy-chain Dimer Polymer, J. AM. Chem. Soc., 131, 13631-13633 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のとおり、挿し違い型ロタキサンポリマーについては、耐圧縮性など所望の特性が得られておらず、多様な用途に適用することが困難となっていた。そこで、本発明の目的は、耐圧縮性材料等の多様な用途に適用することができる挿し違い型ロタキサンを含むポリマー、そのための環状分子と軸状分子とが一体となった化合物、及び挿し違い型ロタキサンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、軸状分子の末端に二重結合を導入した環状分子と軸状分子とが一体となった化合物を含む挿し違い型ロタキサンと、末端にチオール基を有する架橋剤とのチオール-エン反応により、挿し違い型ロタキサンを含む線状及び網目状ポリマーを合成し、かかる網目状ポリマーがゲル状固体を形成し、耐圧縮性を備えることを見出し、本発明に至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の事項により特定されるとおりのものである。
[1] 下記化学式(1)で表される環状分子と軸状分子とが一体となった化合物。
【化1】
[2] [1]記載の化合物を含む、下記化学式(2)で表される挿し違い型ロタキサン。
[3] [2]記載の挿し違い型ロタキサンを含むポリマー。
[4] ポリマーが線状ポリマーである、[3]記載のポリマー。
[5] ポリマーが網目状ポリマーである、[3]記載のポリマー。
[6] [1]記載の環状分子と軸状分子とが一体となった化合物を含む挿し違い型ロタキサンと、末端にチオール基を有する架橋剤とを反応させることを特徴とする挿し違い型ロタキサンを含むポリマーの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐圧縮性材料等の多様な用途への適用を可能とする挿し違い型ロタキサンを含む、線状ポリマー及び網目状ポリマーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、挿し違い型ロタキサンと末端にチオール基を有する直鎖状架橋剤とのチオール-エン反応を示す。
図2図2は、挿し違い型ロタキサンと末端にチオール基を有する4分岐架橋剤とのチオール-エン反応を示す。
図3図3は、挿し違い型ロタキサンのHNMRのチャート図を示す。
図4図4は、挿し違い型ロタキサンの合成手順の概略を示す。
図5図5は、作製した円柱型固体網目状ポリマーを示し、上部は側面からの写真を、下部は上面からの写真を示す。
図6図6は、挿し違い型ロタキサンを含む網目状ポリマーの繰り返し圧縮試験時の厚み変化と回数との関係を示す。
図7図7は、挿し違い型ロタキサンを含まない網目状ポリマーの合成手順の概略及び得られたフィルムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、新規な環状分子と軸状分子とが一体となった化合物を含む挿し違い型ロタキサンを含む線状及び/又は網目状ポリマーをチオール-エン反応を利用して製造するものである。チオール-エン反応は、チオール基と炭素二重結合とのラジカル付加反応のことであり、以下のとおり、光を照射することでラジカルが発生し、それが二重結合に付加することで反応が進行するものである。副生成物を生じにくく、高反応率・高化学選択性が特徴である。
[式1]
【0014】
[環状分子と軸状分子とが一体となった化合物]
本発明における環状分子と軸状分子とが一体となった化合物は、下記化学式(1)で示される化合物であって、環状分子(ホスト)成分として24員環のクラウンエーテルを用い、軸状分子(ゲスト)成分としてN-メチル-10-ウンデセン-1-アンモニウムヘキサフルオロホスフェート(N-Methyl-10-undecen-1-ammonium hexafluorophospate)を用いるものである。環状分子(ホスト)成分としては、環員数が24のクラウンエーテルに限られることなく、21~31のクラウンエーテルを用いることができ、21、24又は30員環のものがより好ましく、24員環のものがさらに好ましい。軸状分子(ゲスト)成分としてのアルケニルアミンの炭素鎖の長さに制限はなく炭素数を10の外に5~30の間の数にすることもでき、また、炭素鎖中にエーテル、エステル、アミド、チオエーテルなどの炭素以外の元素が入ることもある。
【化2】
【0015】
[挿し違い型ロタキサン]
本発明における挿し違い型ロタキサンは、式(1)で示される環状分子と軸状分子とが一体となった化合物を非極性溶媒であるジクロロメタンに溶解させることで、得られる。本発明における挿し違い型ロタキサンを下記式(2)に示す。挿し違い型ロタキサンを構成する環状分子と軸状分子とが一体となった化合物において、環状分子のクラウンエーテルの環員数に相違があってもよいが、製造上の効率等の便宜から互いに環員数が同一のほうがより好ましく、軸状分子の鎖長についても同様の理由から互いに同一鎖長とすることが好ましい。
【化3】
【0016】
[線状ポリマー]
本発明における線状ポリマーは、挿し違い型ロタキサンと末端にチオール基を有する直鎖状架橋剤との溶液に、開始剤を加え、攪拌した後、UV照射により、チオール-エン反応させることにより、製造することができる。チオール基を有する直鎖状架橋剤としては3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオールが例示されるが、2つのチオール基を末端に備えた直鎖の炭素鎖構造であれば、特に限定されるものではなく、炭素鎖の長さに制限はなく、また、炭素鎖中にエーテル、エステル、アミド、チオエーテルなどの炭素以外の元素が入ることもある。また、開始剤としてはベンゾフェノンが例示されるが、特に限定されるものではない。挿し違い型ロタキサンと末端にチオール基を有する直鎖状架橋剤とのチオール-エン反応を図1に示す。なお、図1においては、線状ポリマー形成後にアンモニウム塩として示されているが、別のアニオンでもよく、また、アミンやアミドなど非イオン化状態に変換していてもかまわない。
[網目状ポリマー]
本発明における網目状ポリマーは、挿し違い型ロタキサンと末端にチオール基を有する分岐架橋剤との溶液に、開始剤を加え、攪拌した後、UV照射により、チオールーエン反応させることにより、製造することができる。チオール基を有する分岐架橋剤としては、3分岐架橋剤又は4分岐架橋剤が好ましく、3分岐架橋剤としてはトリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオナート)、1,3,5-トリス(2-(3-スルファニルブタノイルオキシ)エチル)-1,3,5-トリアジナン-2,4,6-トリオン、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトブチレート)などが例示され、4分岐架橋剤としてはペンタエリスリトールテトラ(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)が例示される。分岐架橋剤は、末端にチオール基を備えている分岐状構造であれば特に限定されるものではなく、構造中のアルキル鎖の長さに制限はなく、また、アルキル鎖中にエーテル、エステル、アミド、チオエーテルなどの炭素以外の元素が入ることもある。また、開始剤としてはベンゾフェノンが例示されるが、特に限定されるものではない。挿し違い型ロタキサンと末端にチオール基を有する4分岐架橋剤とのチオール-エン反応を図2に示す。なお、図2においては、網目状ポリマー形成後にアンモニウム塩として示されているが、別のアニオンでもよく、また、アミンやアミドなど非イオン化状態に変換していてもかまわない。
挿し違い型ロタキサンを含むポリマーは、重金属やレアメタルを含む錯体などの金属触媒を使用した反応によっても得られる。しかし、本発明に係る挿し違い型ロタキサンを含むポリマーの製造方法は、製造過程において重金属やレアメタルを含む金属触媒を使用する必要がなく、ポリマーに重金属が混入するリスクを低減し、製造上のコストメリットもある。よって、これらのポリマーを得るためには、金属触媒を用いなくても製造できるチオール-エン反応を適用することがより好ましい。
【実施例0017】
以下、本発明を具体化した実施例について、比較例と共に説明するが、本発明は、本実施例により何ら限定されるものではない。
【0018】
[挿し違い型ロタキサンの合成]
環状分子に24員のクラウンエーテル(FDB24C8)を、軸状分子に10-ウンデセン-1-アミンを使用し、静電的相互作用を利用して、挿し違い型ロタキサンを合成した。具体的な合成手順は次のとおりである。
FDB24C8、10-ウンデセン-1-アミン、及びトリエチルアミンのテトラヒドロフラン溶液を調製し、室温で24時間撹拌した。氷浴中で冷却させながらNaBH4を加え、室温で18時間反応した後、蒸留水を加え、さらに1時間撹拌した。蒸留水と酢酸エチルとで3回洗浄し、有機層を無水MgSO4で乾燥させ、濃縮した。メタノール(Methanol)溶液を調製し、塩酸を加えてpHを2以下にした後、1時間撹拌した。氷浴させながらヘキサフルオロリン酸アンモニウム塩水溶液(Sat.NH4PF6 aq.)を加え1時間撹拌した。水で洗浄した後、溶媒を除去し、酢酸エチルで再結晶を行った。末端に二重結合を有する環状分子と軸状分子とが一体となった化合物として白色固体を得た。非極性溶媒であるジクロロメタンに溶解させることで挿し違い型ロタキサン([c2]daisy chain rotaxane)が得られ、挿し違い型の構造が合成されていることについては、1HNMR測定により確認した。1HNMR測定の結果については、図3に示した。また、合成手順の概略を図4に示す。
【0019】
[線状ポリマーの合成]
挿し違い型ロタキサン(0.300g、1.93×10-4モル)のアセトニトリル溶液(2.00ml)を調製し、3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール(0.0364g、1.99×10-4モル)とベンゾフェノン(少量)とを加え、撹拌した。ガラス板の上に薄く塗布し、UV照射10分を2回行い、線状ポリマーとして黄色の固体が得られた。収量は0.62g、収率は93%であった。
【0020】
[網目状ポリマーの合成]
挿し違い型ロタキサンとペンタエリスリトールテトラ(3-メルカプトプロピオネート)とのアセトニトリル溶液を調製し、ベンゾフェノンを開始剤として加え、撹拌した。ガラス板の上に薄く塗布し、UV照射器で20分反応させた。得られたフィルムをアセトニトリル溶液に浸し洗浄した後、網目状ポリマーとして透明フィルムが得られた。
【0021】
「円柱型網目状ポリマーの作製」
挿し違い型ロタキサンとペンタエリスリトールテトラ(3-メルカプトプロピオネート)とのアセトニトリル溶液を調製し、ベンゾフェノンを開始剤として加え、撹拌した。円柱の穴空きシリコン型 (半径8mm、高さ3mm)に流し込み、UV照射器で20分×2回 (裏表)反応させた。得られた円柱型固体をアセトニトリル溶液に浸し、洗浄した後、網目状ポリマーとして円柱状の黄色ゲル状固体が得られた。作製した円柱型網目状ポリマーを図5に示す。
【0022】
[耐圧縮試験]
上記作製した円柱型網目状ポリマーの記憶形状特性を卓上型圧縮試験機 (MCT-1150)により評価した。試験条件としては、最大試験力容量 : 500N, 圧縮速度 : 10 mm/min, 受圧板(JM-X004-500N) : 先端直径15mm・高さ16mmで行った。円柱型網目状ポリマーの厚さは2.5 mmであり、耐圧試験最大容量500Nに達した時に厚さが0.8mmとなり、変化率は68%となったが、力を除くと元の形状に戻った。また、熱を加えることで、復元が促進された。外力を500Nの20倍の10000Nとしたが、円柱型網目状ポリマーは破壊されることはなかった。
【0023】
同じ円柱型網目状ポリマーを使用し、500Nを加えて力を除く操作を4回行った。その結果、4回目までの円柱型網目状ポリマーの復元率は100%であった。挿し違い型ロタキサンを含む網目状ポリマーの繰り返し圧縮試験時の厚み変化(復元率)と回数(サイクル)との関係を図6に示す。
【0024】
[挿し違い型ロタキサンを含まない網目状ポリマーの合成]
本発明の挿し違い型ロタキサンを含む網目状ポリマーと挿し違い型ロタキサンを含まない網目状ポリマーとの比較を行うため、比較例として、ジベンゾ-24-クラウン-8-エーテル(BUOMB24C)由来のBUOMB24C8とペンタエリスリトールテトラ(3-メルカプトプロピオネート)とのチオール-エン反応からポリマー(BUOMB24C8ポリマー)を合成した。
BUOMB24C8とペンタエリスリトールテトラ(3-メルカプトプロピオネート)とのクロロフォルム/アセトニトリル(1:1)溶液を調製し、開始剤としてベンゾフェノンを加え、撹拌した。ガラス板の上に薄く塗布し、UV照射器で30分反応させた。得られたフィルムをアセトニトリル溶液に浸し、洗浄した後、BUOB24C8ポリマーとして透明フィルムが得られた。合成手順の概略及び得られた透明ゲル状フィルムを図7に示す。
【0025】
[円柱型BUOMB24C8ポリマーの作製]
BUOMB24C8とペンタエリスリトールテトラ(3-メルカプトプロピオネート)とのクロロフォルム/アセトニトリル(1:1)溶液を調製し、開始剤としてベンゾフェノンを加え、撹拌した。円柱の穴空きシリコン型 (半径8mm, 高さ3mm)に流し込み、UV照射器で20分×2回 (裏表)反応させた。得られた円柱型固体をアセトニトリル溶液に浸し洗浄した後、BUOMB24C8ポリマーとして、円柱状の黄色ゲル状固体が得られた。
【0026】
上記製作したクラウンエーテルを有し、挿し違い型ロタキサンを含まない円柱型BUOMB24C8ポリマーは、300Nの1回の耐圧試験で容易に破壊され、復元することはなかった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
挿し違い型ロタキサンを含む線状ポリマー、及び耐圧縮性に優れた特性を備えた挿し違い型ロタキサンを含む網目状ポリマーが得られたことにより、挿し違い型ロタキサンを含むポリマーについて、固体電解質への適用を含むエネルギー分野、人工関節の緩衝剤への適用を含む医療分野、タイヤやボディなどへの適用を含む自動車分野など、多様な分野への応用が期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7