IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人物質・材料研究機構の特許一覧

特開2024-76621焼結体、その固体電解質、その全固体リチウムイオン電池、および、これらの製造方法
<>
  • 特開-焼結体、その固体電解質、その全固体リチウムイオン電池、および、これらの製造方法 図1
  • 特開-焼結体、その固体電解質、その全固体リチウムイオン電池、および、これらの製造方法 図2
  • 特開-焼結体、その固体電解質、その全固体リチウムイオン電池、および、これらの製造方法 図3
  • 特開-焼結体、その固体電解質、その全固体リチウムイオン電池、および、これらの製造方法 図4
  • 特開-焼結体、その固体電解質、その全固体リチウムイオン電池、および、これらの製造方法 図5
  • 特開-焼結体、その固体電解質、その全固体リチウムイオン電池、および、これらの製造方法 図6
  • 特開-焼結体、その固体電解質、その全固体リチウムイオン電池、および、これらの製造方法 図7
  • 特開-焼結体、その固体電解質、その全固体リチウムイオン電池、および、これらの製造方法 図8
  • 特開-焼結体、その固体電解質、その全固体リチウムイオン電池、および、これらの製造方法 図9
  • 特開-焼結体、その固体電解質、その全固体リチウムイオン電池、および、これらの製造方法 図10
  • 特開-焼結体、その固体電解質、その全固体リチウムイオン電池、および、これらの製造方法 図11
  • 特開-焼結体、その固体電解質、その全固体リチウムイオン電池、および、これらの製造方法 図12
  • 特開-焼結体、その固体電解質、その全固体リチウムイオン電池、および、これらの製造方法 図13
  • 特開-焼結体、その固体電解質、その全固体リチウムイオン電池、および、これらの製造方法 図14
  • 特開-焼結体、その固体電解質、その全固体リチウムイオン電池、および、これらの製造方法 図15
  • 特開-焼結体、その固体電解質、その全固体リチウムイオン電池、および、これらの製造方法 図16
  • 特開-焼結体、その固体電解質、その全固体リチウムイオン電池、および、これらの製造方法 図17
  • 特開-焼結体、その固体電解質、その全固体リチウムイオン電池、および、これらの製造方法 図18
  • 特開-焼結体、その固体電解質、その全固体リチウムイオン電池、および、これらの製造方法 図19
  • 特開-焼結体、その固体電解質、その全固体リチウムイオン電池、および、これらの製造方法 図20
  • 特開-焼結体、その固体電解質、その全固体リチウムイオン電池、および、これらの製造方法 図21
  • 特開-焼結体、その固体電解質、その全固体リチウムイオン電池、および、これらの製造方法 図22
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076621
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】焼結体、その固体電解質、その全固体リチウムイオン電池、および、これらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/488 20060101AFI20240530BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240530BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240530BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240530BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20240530BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20240530BHJP
   C01G 35/00 20060101ALI20240530BHJP
   C04B 35/495 20060101ALI20240530BHJP
   C04B 35/50 20060101ALI20240530BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240530BHJP
【FI】
C04B35/488
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01B1/06 A
H01B1/08
C01G35/00 C
C04B35/495
C04B35/50
H01M4/139
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188278
(22)【出願日】2022-11-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「無機固体電解質を用いた全固体リチウム二次電池の創出」委託研究、および令和4年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業「全固体電池を実現する接合プロセス技術革新」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】吉田 尚生
(72)【発明者】
【氏名】桑田 直明
(72)【発明者】
【氏名】高田 和典
【テーマコード(参考)】
4G048
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB01
4G048AB06
4G048AC06
4G048AD06
4G048AE05
5G301CA02
5G301CA13
5G301CA16
5G301CA18
5G301CA23
5G301CA25
5G301CA28
5G301CA30
5G301CD01
5G301CE02
5H029AJ01
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL04
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AL16
5H029AM12
5H029BJ12
5H029CJ02
5H029CJ03
5H029CJ06
5H029HJ02
5H029HJ14
5H050AA01
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB05
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050CB20
5H050GA02
5H050GA03
5H050GA08
5H050HA02
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】 電極との一体焼結が可能な900℃以下の温度で焼結され、イオン伝導率に優れた立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物を含有する焼結体、それを用いた固体電解質、全固体リチウム電池、および、これらの製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の焼結体は、Li7-aLa12(パラメータaは0≦a≦0.9を満たし、A元素は、Zr、Ta、Hf、Sn、Nb、Ti、V、Bi、Mo、および、Wからなる群から少なくとも1つ選択される元素である)で表される立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物からなる粒子と、粒子の粒界に位置する水酸化リチウムとを含有し、リチウム金属酸化物と水酸化リチウムとの合計に対するリチウム金属酸化物の体積割合は、50体積%以上95体積%以下の範囲である。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li7-aLa12(パラメータaは0≦a≦0.9を満たし、A元素は、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、スズ(Sn)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ビスマス(Bi)、モリブデン(Mo)、および、タングステン(W)からなる群から少なくとも1つ選択される元素である)で表される立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物からなる粒子と、
前記粒子の粒界に位置する水酸化リチウムと
を含有し、
前記リチウム金属酸化物と前記水酸化リチウムとの合計体積に対する前記リチウム金属酸化物の体積の割合は、50体積%以上95体積%以下の範囲である、焼結体。
【請求項2】
前記水酸化リチウムは、非晶質である、請求項1に記載の焼結体。
【請求項3】
前記リチウム金属酸化物と前記水酸化リチウムとの合計体積に対する前記リチウム金属酸化物の体積割合は、60体積%以上80体積%以下の範囲である、請求項1または2に記載の焼結体。
【請求項4】
前記粒子は、1μm以上70μm以下の範囲の粒径を有する、請求項1~3のいずれかに記載の焼結体。
【請求項5】
室温におけるイオン伝導率は、5.0×10-5S/cm以上2.0×10-3S/cm以下の範囲を満たす、請求項1~4のいずれかに記載の焼結体。
【請求項6】
La9-b(パラメータbは-0.5≦b≦0.5を満たし、A元素は、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、スズ(Sn)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ビスマス(Bi)、モリブデン(Mo)、および、タングステン(W)からなる群から少なくとも1つ選択される元素である)で表される前駆体粉末を圧粉することと、
前記圧粉することによって得られた圧粉体の少なくとも一部を水酸化リチウム粉末と接触させ、500℃以上900℃以下の温度範囲で焼成することと
を包含する、請求項1~5のいずれかに記載の焼結体の製造方法。
【請求項7】
前記圧粉体の少なくとも一部を、前記水酸化リチウム粉末中のリチウムが、前記リチウム金属酸化物のリチウムのモル比の1倍以上16倍以下の範囲を満たす量の前記水酸化リチウム粉末と接触させる、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記焼結体を得ることは、2時間以上72時間以下の時間焼成する、請求項6または7に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1~5のいずれかに記載の焼結体を用いた固体電解質。
【請求項10】
少なくとも請求項9に記載の固体電解質を備えた全固体リチウムイオン電池。
【請求項11】
正極層および負極層をさらに備え、
前記固体電解質は、前記正極層と前記負極層との間に位置し、
前記正極層は、正極活物質と、Li7-aLa12(パラメータaは0≦a≦0.9を満たし、A元素は、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、スズ(Sn)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ビスマス(Bi)、モリブデン(Mo)、および、タングステン(W)からなる群から少なくとも1つ選択される元素である)で表される立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物と、水酸化リチウムとの複合体を備える、請求項10に記載の全固体リチウムイオン電池。
【請求項12】
前記正極活物質は、リチウム遷移金属酸化物、および、リチウム硫化物からなる群から選択される、請求項11に記載の全固体リチウムイオン電池。
【請求項13】
前記負極層は、炭素材料、金属材料、導電性ポリマー、および、硫化物、酸化物からなる群から選択される負極活物質を備える、請求項11または12に記載の全固体リチウムイオン電池。
【請求項14】
前記負極層は、前記負極活物質と、立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物と、水酸化リチウムとの複合体である、請求項13に記載の全固体リチウムイオン電池。
【請求項15】
La9-b(パラメータbは-0.5≦b≦0.5を満たし、A元素は、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、スズ(Sn)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ビスマス(Bi)、モリブデン(Mo)、および、タングステン(W)からなる群から少なくとも1つ選択される元素である)を満たす前駆体粉末を圧粉することと、
前記圧粉することによって得られた圧粉体に、正極活物質粉末と前記前駆体粉末とを含有する正極用混合粉末を載置し、圧粉することと、
前記載置し、圧粉することによって得られた積層圧粉体の少なくとも一部を水酸化リチウム粉末と接触させ、500℃以上900℃以下の温度範囲で焼成することと
を包含する、請求項10~14のいずれかに記載の全固体リチウムイオン電池の製造方法。
【請求項16】
前記正極用混合粉末を載置し、圧粉することに続いて、負極活物質粉末と前記前駆体粉末とを含有する負極用混合粉末を、前記正極用混合粉末を載置し、圧粉することによって得られた積層圧粉体の前記正極用混合粉末を載置した側と対向する側に載置し、圧粉することを包含する、請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
前記焼成することに続いて、前記正極用混合粉末を載置、圧粉した側と対向する側に、負極層を形成することをさらに包含する、請求項15に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結体、その固体電解質、その全固体リチウムイオン電池、および、これらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来市販されているリチウムイオン電池には有機電解液が用いられていることから、短絡時の温度上昇により燃焼する危険がある。そこで、有機電解液を固体電解質に置き換えた全固体リチウムイオン電池が注目されている。
【0003】
ガーネット型構造のリチウムイオン伝導性酸化物は、室温で安定な正方晶を、高温で安定な立方晶を取り得るが、立方晶において高いイオン伝導率を示すことが知られている。このため、立方晶ガーネット型構造を有するリチウムイオン伝導性酸化物が、固体電解質の候補材料として有望視されている。
【0004】
この立方晶ガーネット型構造を有するリチウムイオン伝導性酸化物を一般的な酸化物原料を用いて合成する場合、一般に、900℃を超える焼成温度にて合成を行い、さらに高温にて焼結を行い、緻密化させる必要がある。
【0005】
また、このような酸化物焼結体を固体電解質として用い全固体リチウムイオン電池を製造する際に、固体電解質と電極とを高温で一体焼結し、これらの間で強固な界面を形成する技術がある。しかしながら、上述のリチウムイオン伝導性酸化物を用いる場合、900℃を超える高温で電極と一体焼結すると、電極と固体電解質との間で相互拡散が生じ、界面に異相が生成する。そのため、リチウムイオン伝導性酸化物の焼結温度を低温化させ、電極との一体焼結を可能にすることが望まれている。
【0006】
近年、前駆体を用い、ガーネット型構造を有するリチウムイオン伝導性酸化物焼結体を製造する技術が開発されている(例えば、特許文献1および2、非特許文献1および2を参照)。
【0007】
特許文献1によれば、ガーネット結晶構造を示すLi (5≦a≦8、2.5≦b≦3.5、1.5≦c≦2.5、10≦d≦14、MはAl、Y、La、Pr、Nd、Sm、Lu、Mg、Ca、Sr又はBaから選択される1種以上の元素。MはZr、Hf、Nb又はTaから選択される1種以上の元素。)構造体の製造方法であって、M源及びM (0.3<s<2.7、0.3<t<2.7、3.7≦s+t≦4.3、6.7≦u≦7.3)の混合物を熱処理して第一焼結体とする工程、第一焼結体にLi源を接触させた状態で熱処理して第二焼結体とする工程、を含むことを特徴とする構造体の製造方法が開示される。特許文献1は、Li源として、リチウム金属単体、酸化リチウム、水酸化リチウム、ハロゲン化リチウム、リン酸リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウム、シュウ酸リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウムを開示する。
【0008】
しかしながら、このようにして得られる焼結体は、正方晶を有し、イオン伝導率に優れた立方晶ではない。また、特許文献1では、第一焼結体とする工程は、1200~1400℃で行われるため、電極との一体焼結はやはり難しい。
【0009】
非特許文献1は、前駆体としてLa0.6Zr0.3Ta0.11.75で表される焼結体を調製し、この焼結体を硝酸リチウム(LiNO)とともに、700℃~1000℃で10時間、熱処理することにより、緻密な立方晶Li6.5LaZr1.5Ta0.512層構造を得ることを報告する。しかしながら、900℃以下の低温での焼結温度では、高いイオン伝導率の報告はない。
【0010】
特許文献2は、ALa2-z-q12-(7-2x-3y-z-2q)/2(式中において、Aは2価の陽イオンとなる元素である。Eは3価の陽イオンとなる元素である。Gは4価の陽イオンとなる元素である。Jは5価の陽イオンとなる元素である。Lは6価の陽イオンとなる元素である。xは0~0.3であり、yは0~0.3であり、zは0~1.0であり、qは0~0.5である。)で表される化合物からなる非晶質複合金属酸化物とリチウム塩との混合物を焼成し、ガーネット型構造リチウム複合金属酸化物を製造することを開示する。
【0011】
特に、特許文献2の実施例4および実施例8によれば、前駆体である非晶質複合金属酸化物としてLaZr1.5Ta0.58.75と、リチウム塩として酸化リチウムまたは過酸化リチウムとを混合し、400℃で12時間焼成することにより得られたLi6.5LaZr1.5Ta0.512で示される立方晶系ガーネット型構造リチウム複合金属酸化物は、400℃でホットプレス焼結される。このようにして得られた焼結体の室温でのイオン伝導率は、3.6×10-5S/cmであり、高いイオン伝導性を有した。
【0012】
非特許文献2は、前駆体としてLa2+xZr2-2xTa(x=0.4)と、酸化リチウムとを400℃~500℃で12時間焼成することにより得られたLi6.5LaZr1.5Ta0.512を、ペレット化し、1100℃で4時間焼結することを開示する。このようにして得られた焼結体の室温におけるイオン伝導率は、9.4×10-4S/cmであり、高いイオン伝導性を有した。
【0013】
しかしながら、特許文献2および非特許文献2のいずれも、前駆体とリチウム塩とを焼成し、立方晶Li6.5LaZr1.5Ta0.512粉末を得たのち、ホットプレスにより緻密化する必要があり、プロセスが煩雑である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第2016/178321号
【特許文献2】特開2021-138554号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Naoki Hamaoら,Journal of Alloys and Compounds,865,2021,158223
【非特許文献2】Naoki Hamaoら,Solid State Ionics,357,2020,115460
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
以上より、本発明の課題は、電極との一体焼結が可能な900℃以下の温度で焼結され、イオン伝導率に優れた立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物を含有する焼結体、それを用いた固体電解質、全固体リチウム電池、および、これらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明による焼結体は、Li7-aLa12(パラメータaは0≦a≦0.9を満たし、A元素は、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、スズ(Sn)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ビスマス(Bi)、モリブデン(Mo)、および、タングステン(W)からなる群から少なくとも1つ選択される元素である)で表される立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物からなる粒子と、前記粒子の粒界に位置する水酸化リチウムとを含有し、前記リチウム金属酸化物と前記水酸化リチウムとの合計体積に対する前記リチウム金属酸化物の体積の割合は、50体積%以上95体積%以下の範囲であり、これにより上記課題を解決する。
前記水酸化リチウムは、非晶質であってよい。
前記リチウム金属酸化物と前記水酸化リチウムとの合計体積に対する前記リチウム金属酸化物の体積割合は、60体積%以上80体積%以下の範囲であってよい。
前記粒子は、1μm以上70μm以下の範囲の粒径を有してよい。
室温におけるイオン伝導率は、5.0×10-5S/cm以上2.0×10-3S/cm以下の範囲を満たしてよい。
本発明による上記焼結体の製造方法は、La9-b(パラメータbは-0.5≦b≦0.5を満たし、A元素は、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、スズ(Sn)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ビスマス(Bi)、モリブデン(Mo)、および、タングステン(W)からなる群から少なくとも1つ選択される元素である)で表される前駆体粉末を圧粉することと、前記圧粉することによって得られた圧粉体の少なくとも一部を水酸化リチウム粉末と接触させ、500℃以上900℃以下の温度範囲で焼成することとを包含し、これにより上記課題を解決する。
前記圧粉体の少なくとも一部を、前記水酸化リチウム粉末中のリチウムが、前記リチウム金属酸化物のリチウムのモル比の1倍以上16倍以下の範囲を満たす量の前記水酸化リチウム粉末と接触させてもよい。
前記焼結体を得ることは、2時間以上72時間以下の時間焼成してもよい。
本発明による固体電解質は、上記焼結体を用い、これにより上記課題を解決する。
本発明による全固体リチウムイオン電池は、少なくとも上記固体電解質を備え、これにより上記課題を解決する。
上記全固体リチウムイオン電池は、正極層および負極層をさらに備え、前記固体電解質は、前記正極層と前記負極層との間に位置し、前記正極層は、正極活物質と、Li7-aLa12(パラメータaは0≦a≦0.9を満たし、A元素は、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、スズ(Sn)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ビスマス(Bi)、モリブデン(Mo)、および、タングステン(W)からなる群から少なくとも1つ選択される元素である)で表される立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物と、水酸化リチウムとの複合体を備えてもよい。
前記正極活物質は、リチウム遷移金属酸化物、および、リチウム硫化物からなる群から選択されてもよい。
前記負極層は、炭素材料、金属材料、導電性ポリマー、および、硫化物、酸化物からなる群から選択される負極活物質を備えてもよい。
前記負極層は、前記負極活物質と、立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物と、水酸化リチウムとの複合体であってもよい。
本発明による上記全固体リチウムイオン電池の製造方法は、La9-b(パラメータbは-0.5≦b≦0.5を満たし、A元素は、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、スズ(Sn)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ビスマス(Bi)、モリブデン(Mo)、および、タングステン(W)からなる群から少なくとも1つ選択される元素である)を満たす前駆体粉末を圧粉することと、前記圧粉することによって得られた圧粉体に、正極活物質粉末と前記前駆体粉末とを含有する正極用混合粉末を載置し、圧粉することと、前記載置し、圧粉することによって得られた積層圧粉体の少なくとも一部を水酸化リチウム粉末と接触させ、500℃以上900℃以下の温度範囲で焼成することとを包含し、これにより上記課題を解決する。
前記正極用混合粉末を載置し、圧粉することに続いて、負極活物質粉末と前記前駆体粉末とを含有する負極用混合粉末を、前記正極用混合粉末を載置し、圧粉することによって得られた積層圧粉体の前記正極用混合粉末を載置した側と対向する側に載置し、圧粉することを包含してもよい。
前記焼成することに続いて、前記正極用混合粉末を載置、圧粉した側と対向する側に、負極層を形成することをさらに包含してもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の焼結体は、Li7-aLa12(パラメータaは0≦a≦0.9を満たし、A元素は、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、スズ(Sn)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ビスマス(Bi)、モリブデン(Mo)、および、タングステン(W)からなる群から少なくとも1つ選択される元素である)で表される立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物からなる粒子(LLAO粒子)と、粒子の粒界に位置する水酸化リチウムとを含有する。本発明の焼結体は、LLAO粒子を50体積%以上95体積%以下の範囲で有するため、LLAO粒子が互いに連結し、イオン伝導のパスを形成するため高いイオン伝導率を有する。さらに、LLAO粒子間に水酸化リチウムが位置することにより、緻密化するので、さらに優れたイオン伝導率を有する。このような焼結体を固体電解質として機能し、全固体リチウムイオン電池を提供できる。
【0019】
本発明の焼結体の製造方法は、La9-b(-0.5≦b≦0.5、A元素は、Zr、Ta、Hf、Sn、Nb、Ti、V、Bi、Mo、および、Wからなる群から少なくとも1つ選択される元素である)で表される前駆体粉末を圧粉し、それによって得られた圧粉体の少なくとも一部を水酸化リチウム粉末と接触させ、500℃以上900℃以下の温度範囲で焼成し、これにより、上述の焼結体を得ることができる。上述の前駆体粉末からワンステップにて立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物を含有する焼結体を得ることができるため、プロセスが簡便である。また、900℃以下の低温焼成を可能とするため、正極や負極などの電極との一体焼成を可能とするため、実用化に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の焼結体を示す模式図
図2】本発明の焼結体を製造する工程を示すフローチャート
図3】本発明の全固体リチウムイオン電池を示す模式図
図4】本発明の全固体リチウムイオン電池を製造する工程を示すフローチャート
図5】例1、例6および例7の焼結体の実密度の焼結温度依存性
図6】例1の焼結体のXRDパターンを示す図
図7】例2の焼結体のXRDパターンを示す図
図8】例3の焼結体のXRDパターンを示す図
図9】例6の焼結体のXRDパターンを示す図
図10】例7の焼結体のXRDパターンを示す図
図11】例1の焼結体の断面のSEM像を示す図
図12】例1の焼結体の断面のEDSマッピングを示す図
図13】例1の焼結体の断面の高分解能TOF-SIMS像を示す図
図14】例2の焼結体の断面のSEM像を示す図
図15】例3の焼結体の断面のSEM像を示す図
図16】例6および例7の焼結体の断面のSEM像を示す図
図17】例1、例6および例7の焼結体のイオン伝導率の焼成温度依存性を示す図
図18】例1~例5の焼結体のイオン伝導率の焼成温度依存性を示す図
図19】例1および例6の焼結体のイオン伝導率のアレニウスプロットを示す図
図20】全固体リチウムイオン電池を製造するプロシージャを示す図
図21】例8の積層焼結体の断面のSEM像を示す図
図22】例8の全固体リチウムイオン電池の充放電曲線を示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の符号を付し、その説明を省略する。
【0022】
(実施の形態1)
実施の形態1は、本発明の焼結体およびその製造方法を説明する。
【0023】
図1は、本発明の焼結体を示す模式図である。
【0024】
本発明の焼結体100は、Li7-aLa12(パラメータaは0≦a≦0.9を満たし、A元素は、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、スズ(Sn)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ビスマス(Bi)、モリブデン(Mo)、および、タングステン(W)からなる群から少なくとも1つ選択される元素である)で表される立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物からなる粒子(LLAO粒子)110と、その粒子110の粒界に位置する水酸化リチウム120とを含有する。本発明の焼結体100は、イオン伝導性を有するLLAO粒子を含有するため、イオン伝導性に優れる。
【0025】
さらに、本発明の焼結体100は、リチウム金属酸化物(LLAO粒子110)と水酸化リチウム120との合計体積に対するリチウム金属酸化物の体積の割合は、50体積%以上95体積%以下の範囲を満たす。LLAO粒子110を構成するリチウム金属酸化物が上記範囲で含有されることにより、LLAO粒子が互いに連結し、イオン伝導のパスを形成するネットワーク構造をとることができる。その結果、リチウム金属酸化物本来の高いイオン伝導率を焼結体100においても達成できる。また、LLAO粒子110の粒界に水酸化リチウム120が位置することにより、高い焼結密度を可能にする。
【0026】
本発明の焼結体100の構成についてさらに詳細に説明する。
LLAO粒子110は、立方晶ガーネット型構造を有するリチウム金属酸化物からなり、一般式Li7-aLa12を満たす。パラメータaは、0≦a≦0.9の範囲を満たし、この範囲であれば、立方晶ガーネット型構造を維持する。また、A元素は、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、スズ(Sn)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ビスマス(Bi)、モリブデン(Mo)、および、タングステン(W)からなる群から少なくとも1つ選択される元素であり、2以上の元素の組み合わせであってよい。これらの元素からなれば、イオン伝導性に優れた酸化物となる。例えば、A元素としてZrとTaとを選択した場合、ZrとTaとを合わせて2となる任意の組み合わせが許容される。
【0027】
一般式Li7-aLa12で表される立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物の1つとして、a=0.5であり、AがZrとTaであるLi6.5LaZr1.5Ta0.512がある。Li6.5LaZr1.5Ta0.512の結晶構造パラメータを表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
Li6.5LaZr1.5Ta0.512は、立方晶系に属し、ガーネット型構造を有し、Ia3 ̄d空間群(3 ̄は、3のオーバーバー表示、International Tables for Crystallographyの230番の空間群)に属し、表1に示す結晶パラメータおよび原子座標位置を占める。表1において、格子定数a、b、cは単位格子の軸の長さを示し、α、β、γは単位格子の軸間の角度を示す。
【0030】
一般式Li7-aLa12で表される結晶であるかどうかは、X線回折や中性子線回折によって同定できる。一般式Li7-aLa12で表される結晶において、パラメータaの値、A元素の種類および割合によって、格子定数は変化するが、結晶構造と原子が占めるサイトとその座標によって与えられる原子位置は、骨格原子間の化学結合が切れるほどには大きく変化しない。本発明では、X線回折や中性子線回折の結果を、Ia3 ̄dの空間群で解析して求めた格子定数および原子座標から計算された結合長が、表1に示す結晶構造パラメータから算出される結合長と比べて±5%以内の場合には同一の結晶構造を有し、一般式Li7-aLa12で表される結晶であると判定できる。
【0031】
なお、より簡便な判定方法としては、対象の焼結体のX線回折パターンの主要ピーク位置(2θ)が、表1の結晶構造パラメータを用いて計算した回折のピーク位置(2θ)に一致した場合に、一般式Li7-aLa12を満たす結晶であると判定してよい。例えば、主要ピークとして回折強度の強い10本程度で判定するとよい。
【0032】
一般式Li7-aLa12で表される結晶の例として、上述のLi6.5LaZr1.5Ta0.512以外に、Li6.5La(Zr,Ta)12、Li6.5La(Zr,Nb)12等があり、これらはいずれも優れたイオン伝導体であることが知られている。ここで、(Zr,Ta)は、A元素のサイトにZrとTaとが任意の割合で存在することを意味する。
【0033】
一般式Li7-aLa12で表される結晶において、パラメータaは、0≦a≦0.9を満たせばよいが、好ましくは、0.3≦a≦0.7を満たす。これにより、立方晶ガーネット型構造が安定化し、優れたイオン伝導体となる。
【0034】
一般式Li7-aLa12で表される結晶において、イオン伝導率の観点から、A元素は、好ましくは、Zr、Ta、および、Nbからなる群から選択され、より好ましくは、ZrおよびTaの組み合わせである。特に、ZrおよびTaの組み合わせにおいて、Li7-aLaZr2-xTa12(パラメータaは0.3≦a≦0.7を満たし、xは0.3≦x≦0.7を満たす)で表される結晶は、優れたイオン伝導体となるため好ましい。
【0035】
水酸化リチウム120は、LLAO粒子110の粒界に位置し、LLAO粒子110の連結を維持しつつ、焼結密度を向上し得るので、イオン伝導率の向上に寄与する。水酸化リチウム120は、好ましくは、非晶質である。これにより、より緻密な焼結体100となり得る。
【0036】
焼結体100におけるLLAO粒子110の含有量、すなわち、リチウム金属酸化物および水酸化リチウムの合計に対するリチウム金属酸化物の体積割合は、好ましくは、60体積%以上80体積%以下の範囲である。これにより、高い焼結密度を維持しつつ、優れたイオン伝導率を有する。リチウム金属酸化物の体積割合は、より好ましくは、64体積%以上68体積%以下の範囲である。
【0037】
本願明細書では、リチウム金属酸化物の体積割合は、誘導結合プラズマ発光分析(ICP-OES)から求めたリチウム金属酸化物の体積百分率に相対密度を乗算することによって算出された。詳細には以下の手順で算出した。
1)ICP-OES測定によって酸素を除く元素(例えば、Li、La、Zr、Ta)のモル比を検出する。
2)Zr、Taの組成比によってリチウム金属酸化物中のLiの組成比を、電荷の中性が保たれるように算出する(Li、LaおよびA元素は、カチオンであり、O元素はアニオンである。例えば、Zr1.5、Ta0.5の場合にはLi6.5となる)。
3)検出されたLiのモル比からリチウム金属酸化物中のLiのモル数を減じることにより、LiOH・HOのモル比を算出する(例えば、Li=10、La=3、Zr=1.5、Ta=0.5が検出された場合、LiOH・HOは10-6.5=3.5となり、Li6.5LaZr1.5Ta0.512+3.5LiOH・HOの焼結体とになる)。
4)それぞれのモル数(mol)に分子量(g/mol)を乗算することにより質量を算出する。
5)それぞれの質量(g)を密度(g/cm)で除することにより体積を算出する。
6)それぞれの体積比から体積百分率を換算し、後述する手法によって求めた相対密度を乗算する。
【0038】
LLAO粒子110は、好ましくは、1μm以上70μm以下の範囲の粒径を有する。これにより、LLAO粒子110が互いに連結し得る。なお、粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)によって測定された平均粒径である。LLAO粒子110は、より好ましくは、5μm以上30μm以下の範囲の粒径を有する。これにより、優れたイオン伝導率を示す。焼結体中の粒径は、SEM像を用い、単位面積当たりの粒子数から算出した。詳細には、鏡面研磨した焼結体表面のSEM像より結晶粒の見かけの平均粒子径を測定し、これに計量形態学に基づき求められる1.225の係数を乗じた値を粒径として算出した。なお、平均粒子径は、100個以上の結晶粒より求めた平均値とした。
【0039】
本発明の焼結体100は、好ましくは、90%以上の相対密度を有する。これにより優れたイオン伝導率を示す。本発明の焼結体100は、好ましくは、93%以上の相対密度を有する。なお、相対密度は、焼結体の理論密度に対する焼結体のかさ密度の百分率(焼結体のかさ密度/焼結体の理論密度×100)として定義される。焼結体のかさ密度(g/cm)は、JIS R 1634:1998に準拠して測定される。本発明の焼結体100は、好ましくは、4.0g/cm以上4.3g/cm以下の範囲の実密度を有する。なお、理論密度を4.3g/cmとする。
【0040】
本発明の焼結体100は、優れたイオン伝導率を示すが、好ましくは、5.0×10-5S/cm以上2.0×10-3S/cm以下の範囲を満たす。これにより、本発明の焼結体100は、特に、リチウムイオン二次電池の固体電解質として有利である。本発明の焼結体100は、より好ましくは、1.0×10-4S/cm以上2.0×10-3S/cm以下の範囲を満たす。本発明の焼結体100は、好ましくは、0.3eV以上0.5eV以下の範囲の活性化エネルギーを有し、優れたイオン伝導体である。
【0041】
次に、本発明の焼結体100の製造方法について説明する。
図2は、本発明の焼結体を製造する工程を示すフローチャートである。
【0042】
本発明の焼結体を製造する工程は、以下のステップS210~S220を包含する。
ステップS210:La9-b(パラメータbは-0.5≦b≦0.5を満たし、A元素は、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、スズ(Sn)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ビスマス(Bi)、モリブデン(Mo)、および、タングステン(W)からなる群から少なくとも1つ選択される元素である)で表される前駆体粉末を圧粉する。
ステップS220:ステップS210の圧粉することによって得られた圧粉体の少なくとも一部を水酸化リチウム粉末と接触させ、500℃以上900℃以下の温度範囲で焼成する。
【0043】
本願発明者らによれば、上述の一般式La9-bで表される前駆体粉末からなる圧粉体を、数あるリチウムを含有する材料のうちリチウム水酸化物を選択し、これと接触させながら焼成することにより、液相浸透焼結法(LLPS)により上述の本発明の焼結体100が得られることを発見した。驚くべきことに、本発明の方法によれば、従来と比較して、より低温の500℃以上900℃以下の焼成温度によっても、高い焼結密度を維持しつ、優れたイオン伝導率を有する焼結体が、前駆体粉末から直接得られることを見出した。
【0044】
各ステップについてさらに詳細に説明する。
ステップS210において、La9-bで表される前駆体粉末において、焼成時の条件によって酸素の欠損や過剰が生じることを考慮すれば、パラメータbは-0.5≦b≦0.5を満たせばよい。A元素は、上述したように、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、スズ(Sn)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ビスマス(Bi)、モリブデン(Mo)、および、タングステン(W)からなる群から少なくとも1つ選択される元素である。A元素は、図1を参照して説明したとおりであるため、省略する。
【0045】
一般式La9-bで表される前駆体粉末の1つとして、b=0.25であり、AがZrとTaであるLaZr1.5Ta0.58.75がある。LaZr1.5Ta0.58.75の結晶構造パラメータを表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
LaZr1.5Ta0.58.75は、立方晶系に属し、蛍石型構造を有し、Fm3 ̄m空間群(3 ̄は、3のオーバーバー表示、International Tables for Crystallographyの225番の空間群)に属し、表2に示す結晶パラメータおよび原子座標位置を占める。表2において、格子定数a、b、cは単位格子の軸の長さを示し、α、β、γは単位格子の軸間の角度を示す。
【0048】
一般式LaZr1.5Ta0.58.75で表される結晶であるかどうかは、X線回折や中性子線回折によって同定できる。一般式La9-bを満たす結晶において、パラメータbの値、A元素の種類の選択および割合によって、格子定数は変化するが、結晶構造と原子が占めるサイトとその座標によって与えられる原子位置は、骨格原子間の化学結合が切れるほどには大きく変化しない。本発明では、X線回折や中性子線回折の結果を、Fm3 ̄mの空間群で解析して求めた格子定数および原子座標から計算された結合長が、表2に示す結晶構造パラメータから算出される結合長と比べて±5%以内の場合には同一の結晶構造を有し、一般式La9-bで表される結晶であると判定できる。
【0049】
なお、より簡便な判定方法としては、対象の焼結体のX線回折パターンの主要ピーク位置(2θ)が、表2の結晶構造パラメータを用いて計算した回折のピーク位置(2θ)に一致した場合に、一般式La9-bを満たす結晶であると判定してよい。例えば、主要ピークとして回折強度の強い10本程度で判定するとよい。
【0050】
一般式La9-bで表される結晶の例として、上述のLaZr1.5Ta0.58.75以外に、La(Zr,Ta)8.75、La(Zr,Nb)8.75等があり、これらはいずれも優れたイオン伝導体であることが知られている。ここで、(Zr,Ta)は、A元素のサイトにZrとTaとが任意の割合で存在することを意味する。
【0051】
一般式La9-bで表される結晶において、パラメータbは、-0.5≦b≦0.5を満たせばよいが、好ましくは、0≦b≦0.25を満たす。これにより、立方晶蛍石型構造が安定化し、液相浸透焼結法においてLiが浸透し、一般式Li7-aLa12で表される結晶の生成を促進し得る。
【0052】
なお、一般式La9-bで表される前駆体粉末は、市販品を入手してもよいし、固相反応法によって合成してもよい。固相反応法によって合成する場合、例えば、Laを含有する原料(例えば、水酸化ランタン、酸化ランタン等)およびA元素を含有する原料(例えば、A元素の酸化物、Aの水酸化物等)を、La、A元素が化学量論比でLa:A=3:2となるように秤量し、混合、焼成すればよい。
【0053】
前駆体粉末の粒径(一次粒子径)は、好ましくは、0.005μm以上10μm以下の範囲である。これにより、圧粉によって高い相対密度を有する圧粉体が得られる。前駆体粉末の粒径は、より好ましくは、0.05μm以上1μm以下の範囲であり、なお好ましくは、0.1μm以上0.3μm以下の範囲である。これにより、後述する焼成において、焼結が促進し、緻密な焼結体が得られる。一次粒子径はレーザ散乱法により測定される。
【0054】
ステップS210によって得られる圧粉体の相対密度は、好ましくは、50%以上を満たす。これにより続く焼成によって相対密度の高い焼結体が得られる。圧粉体の相対密度は、より好ましくは、60%以上、さらに好ましくは65%以上を満たす。
【0055】
ステップS210において、圧粉には、金型プレス、冷間等方圧(冷間静水圧)加工法等を採用できる。成形圧力は、好ましくは、5MPa以上である。これにより、上述の相対密度を満たす圧粉体が得られる。成形圧力は、より好ましくは、150MPa以上、なお好ましくは、180MPa以上であり、上限は特にないが、300MPa以下であってよい。
【0056】
ステップS220において、ステップS210によって得られた圧粉体に接触させる水酸化リチウム粉末の量は、好ましくは、水酸化リチウム中のLi量(1モル)が上述の一般式Li7-aLa12のLi量((7-a)モル)の1倍以上16倍以下の範囲のLi量を満たすように調整される。この範囲の水酸化リチウム粉末と接触させ、焼成することにより、圧粉体にリチウムが浸透し、一般式Li7-aLa12で表される相が生成し得、水酸化リチウムとの複合体となる。
【0057】
水酸化リチウム粉末の量は、より好ましくは、水酸化リチウム中のLi量(1モル)が上述の一般式Li7-aLa12のLi量((7-a)モル)の5倍以上13倍以下の範囲のLi量を満たすように調整される。これにより、一般式Li7-aLa12で表される相の生成が促進され、水酸化リチウムとの複合体となる。
【0058】
水酸化リチウム粉末の量は、なおさらに好ましくは、水酸化リチウム中のLi量(1モル)が上述の一般式Li7-aLa12のLi量((7-a)モル)の6倍以上10倍以下の範囲のLi量を満たすように調整される。これにより、一般式Li7-aLa12で表される相の生成がさらに促進され、水酸化リチウムとの複合体となる。
【0059】
ステップS220において、焼成温度は、500℃以上900℃以下の温度範囲であれば特に制限はないが、好ましくは、600℃より高く900℃以下の温度範囲であってよい。この範囲であれば、より高いイオン伝導率を有する焼結体が得られる。焼成温度は、より好ましくは、750℃以上850℃以下の温度範囲であってよい。この範囲であれば、さらに高いイオン伝導率を有する焼結体が得られる。
【0060】
ステップS220において、焼成時間は特に制限はないが、例えば、直径3mm~10mm、厚さ0.5mm~1.5mmの圧粉体であれば、上記温度範囲で2時間以上72時間以下の時間焼成すれば、一般式Li7-aLa12で表される相が生成される。焼成時間は、好ましくは、10時間以上60時間以下の範囲であってよい。
【0061】
ステップS220において、上記温度範囲で2段階以上の焼成をしてもよい。例えば、500℃以上700℃以下の温度範囲から選択される第1の温度で焼成した後、600℃より高く900℃以下の温度範囲から選択され、第1の温度よりも高い第2の温度で焼成してもよい。この場合の焼成時間は、合計焼成時間が上記範囲内であればよい。これにより、焼結が効率的に進行し、焼結密度の向上が期待できる。
【0062】
ステップS220において、焼成雰囲気は、酸素を含有する雰囲気であれば特に制限はなく、大気中であってよい。
【0063】
ステップS220において、水酸化リチウム粉末は、溶融させるため特に制限はないが、例えば、0.01μm以上50μm以下の範囲を採用すればよい。これにより、焼成によってリチウムが浸透し、上述の一般式Li7-aLa12で表される相が生成し得る。
【0064】
なお、ステップS220において、水酸化リチウム粉末は、圧粉体の少なくとも一部に接触していればよいが、例えば、圧粉体を水酸化リチウム粉末で被覆するようにしてもよい。これにより、効率よくリチウムが浸透し得る。
【0065】
このようにして実施の形態1で説明した、Li7-aLa12(パラメータaは0≦a≦0.9を満たし、A元素は、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、スズ(Sn)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ビスマス(Bi)、モリブデン(Mo)、および、タングステン(W)からなる群から少なくとも1つ選択される元素である)で表される立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物からなる粒子と、粒子の粒界に位置する水酸化リチウムとを含有し、リチウム金属酸化物と水酸化リチウムとの合計体積に対するリチウム金属酸化物の体積の割合は、50体積%以上95体積%以下の範囲である焼結体が製造される。
【0066】
(実施の形態2)
実施の形態2は、本発明の全固体リチウムイオン電池およびその製造方法を説明する。
図3は、本発明の全固体リチウムイオン電池を示す模式図である。
【0067】
本発明の全固体リチウムイオン電池300は、少なくとも固体電解質310を備える。本発明の全固体リチウムイオン電池300は、詳細には、固体電解質310と、正極層320と、負極層330とを備え、固体電解質310は、正極層320と負極層330との間に位置する。
【0068】
固体電解質310の厚さは、特に制限はないが、例示的には、1μm以上1.5mm以下の範囲である。この範囲であれば、固体電解質310の内部抵抗を低減できる。固体電解質310の厚さは、例えば、後述する正極活物質の粒子径の3倍以上5倍以下となるように設定してもよい。これにより、短絡を防ぐことができる。実用化を考慮すれば、1μm以上10μm以下であってよい。なお、固体電解質310は実施の形態1で説明した焼結体からなるため、これ以外の説明を省略する。
【0069】
正極層320は、少なくとも正極活物質を含有する。正極活物質は、リチウムイオンを脱離可能または挿入可能な物質であり、公知の全固体リチウムイオン電池に採用される正極活物質を採用できる。
【0070】
このような正極活物質には、リチウム遷移金属酸化物、および、リチウム硫化物からなる群から選択される。リチウム遷移金属酸化物は、例えば、LiCoO、LiNiO、Li(Ni,Mn,Co)O、Li(Ni,Co,Al)O、LiMnO-Li(Ni,Mn,Co)O、Li(Ni,Mn)、Li(Co,Mn)、Li(Mn,Al)、LiFePO、LiMnPO、LiCoPO、LiNiPO等であってよい。リチウム硫化物は、例えば、LiS、Li(x=4、6、8)等であってよい。
【0071】
正極層320は、好ましくは、正極活物質と、Li7-aLa12(パラメータaは0≦a≦0.9を満たし、A元素は、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、スズ(Sn)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ビスマス(Bi)、モリブデン(Mo)、および、タングステン(W)からなる群から少なくとも1つ選択される元素である)で表される立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物と、水酸化リチウムとの正極複合体を含有する。Li7-aLa12で表される立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物は、実施の形態1で説明した立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物と同じであるため、説明を省略する。正極層320がこのような正極複合体を含有することにより、正極活物質と固体電解質との間で界面反応相が形成されることなく正極層320と固体電解質310とが接合し、正極層で高速なLiの伝導パスを形成するため、有利である。
【0072】
正極複合体中に含有される正極活物質の含有量(体積%)は、好ましくは、30体積%以上95体積%以下の範囲である。この範囲であれば、正極活物質は十分な量のリチウムイオンを脱離/吸着できる。正極活物質の含有量は、より好ましくは、40体積%以上80体積%以下の範囲である。正極活物質の含有量は、走査型電子顕微鏡(SEM)によって算出される。詳細には、正極複合体の断面SEM像から、Image J(ver. 1.51n;オープンソースでパブリックドメインの画像処理ソフトウェア)によって含有量を測定した。
【0073】
正極複合体中に含有される立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物の含有量(体積%)は、好ましくは、5体積%以上70体積%以下の範囲である。この範囲であれば、充放電特性に優れる。方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物の含有量は、より好ましくは、40体積%以上60体積%以下の範囲である。
【0074】
正極複合体中に含有される水酸化リチウムの含有量(体積%)は、好ましくは、0体積%より多く20体積%以下の範囲である。水酸化リチウムの含有量は、より好ましくは、0体積%より多く10体積%以下の範囲である。この範囲であれば、一体焼成をしつつ、水酸化リチウムの影響なく優れた充放電特性を維持し得る。
【0075】
正極複合体は、さらに、導電材を含有してもよい。これにより、正極層320の内部導電率が高まるため、充放電効率、出力特性を向上させることができる。このような導電材は、黒鉛粉末、アセチレンブラック、カーボンブラック、炭素繊維、などの炭素材料、あるいは、電気伝導性を有する金属、金属合金、金属酸化物であってよい。なお、導電材は、正極活物質100質量%に対して5質量%以上15質量%以下であってよい。
【0076】
正極層320の厚さは、特に制限はないが、例示的には、5μm以上100μm以下の範囲である。実用化を考慮すれば、正極層320の厚さは10μm以上50μm以下であってよい。正極層320はさらに正極集電体(図示せず)を備えてよい。これにより、外部への電力の取り出しが容易となる。正極集電体は、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、ステンレス、金(Au)などの金属材料であってよい。正極集電体は、シート状であってよい。
【0077】
負極層330は、少なくとも負極活物質を含有する。負極活物質は、リチウムイオンを脱離可能または挿入可能な物質であり、公知の全固体リチウムイオン電池に採用される負極活物質を採用できる。
【0078】
このような負極活物質は、炭素材料、金属材料、導電性ポリマー、および、硫化物、酸化物からなる群から選択される。炭素材料は、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、樹脂炭、炭素繊維、活性炭、ハードカーボン、ソフトカーボンなどであってよい。金属材料は、リチウム(Li)、スズ(Sn)、シリコン(Si)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、アルミニウム(Al)、これらの合金であってよい。導電性ポリマーは、例えば、ポリアセン、ポリアセチレン、ポリピロールであってよい。
【0079】
硫化物は、TiSのチタンの硫化物、VSのバナジウムの硫化物、FeSの鉄の硫化物、MoSのモリブデンの硫化物、SnSのスズの硫化物、WSのタングステンの硫化物、SbSのアンチモンの硫化物、SeSのセレンの硫化物であってよい。xはいずれも正の実数である。
【0080】
酸化物は、例えば、SiOのケイ素の酸化物、TiOのチタンの酸化物、VOなどのバナジウムの酸化物、FeOの鉄の酸化物、SnOのスズの酸化物、WOのタングステン酸化物、スピネル構造のLi4+rTi12(-1≦r≦3)、ラムステライド構造のLi2+sTi(-1≦s≦3)のリチウムチタンの酸化物、LiVOなどのリチウムバナジウムの酸化物であってよい。xはいずれも正の実数である。
【0081】
ここでも、負極層330は、好ましくは、負極活物質と、Li7-aLa12(パラメータaは0≦a≦0.9を満たし、A元素は、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、スズ(Sn)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ビスマス(Bi)、モリブデン(Mo)、および、タングステン(W)からなる群から少なくとも1つ選択される元素である)で表される立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物と、水酸化リチウムとの負極複合体を含有してもよい。Li7-aLa12で表される立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物は、実施の形態1で説明した立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物と同じであるため、説明を省略する。負極層330がこのような複合体を含有することにより、負極活物質と固体電解質との間で界面反応相が形成されることなく負極層330と固体電解質310とが接合し、負極層で高速なLiの伝導パスを形成するため、有利である。
【0082】
負極複合体中に含有される負極活物質の含有量(体積%)は、好ましくは、30体積%以上95体積%以下の範囲である。この範囲であれば、負極活物質は十分な量のリチウムイオンを脱離/吸着できる。負極活物質の含有量は、より好ましくは、40体積%以上80体積%以下の範囲である。
【0083】
負極複合体中に含有される立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物の含有量(体積%)は、好ましくは、5体積%以上70体積%以下の範囲である。この範囲であれば、充放電特性に優れる。方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物の含有量は、より好ましくは、40体積%以上60体積%以下の範囲である。
【0084】
負極複合体中に含有される水酸化リチウムの含有量(体積%)は、好ましくは、0体積%より多く20体積%以下の範囲である。水酸化リチウムの含有量は、より好ましくは、0体積%より多く10体積%以下の範囲である。この範囲であれば、一体焼成をしつつ、水酸化リチウムの影響なく優れた充放電特性を維持し得る。
【0085】
負極複合体は、さらに、導電材を含有してもよい。これにより、負極層330の内部導電率が高まるため、充放電効率、出力特性を向上させることができる。このような導電材は、黒鉛粉末、アセチレンブラック、カーボンブラック、炭素繊維、などの炭素材料、あるいは、電気伝導性を有する金属、金属合金、金属酸化物であってよい。なお、導電材は、負極活物質100質量%に対して5質量%以上15質量%以下であってよい。
【0086】
負極層330の厚さは、特に制限はないが、例示的には、5μm以上100μm以下の範囲である。実用化を考慮すれば、負極層330の厚さは10μm以上50μm以下であってよい。負極層330はさらに負極集電体(図示せず)を備えてよい。これにより、外部への電力の取り出しが容易となる。負極集電体は、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、ステンレス、金(Au)などの金属材料であってよい。負極集電体は、シート状であってよい。
【0087】
本発明の全固体リチウムイオン電池300は、ケース(図示せず)に収容されてよい。ケースは、アルミニウム(Al)、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼などからなる。全固体リチウムイオン電池300の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角型などであってよい。図3では、本発明の全固体リチウムイオン電池300は、一対の正極層320と負極層330とに挟まれた固体電解質310を示すが、これを複数集積させてもよい。このような改変は本発明の範囲内であり、当業者であれば理解する。
【0088】
本発明の全固体リチウムイオン電池300を外部電源に接続し、正極層320に負の電位、負極層330に正の電位を印加することにより、充電される。全固体リチウムイオン電池300の正極層320および負極層330に放電回路を接続し、電子機器、電気自動車などの放電回路に通電させることにより放電する。
【0089】
次に、本発明の全固体リチウムイオン電池300の製造方法について説明する。
【0090】
全固体リチウムイオン電池300は、例えば、次のように製造してもよい。固体電解質310と、正極層320と、負極層330とをそれぞれ製造する。ここで、固体電解質310は、実施の形態1の図2を参照して説明した焼結体の製造方法によって製造される。正極層320は、上述した正極活物質を焼結し、それに集電体を貼り合わせてもよい。負極層330は、上述した負極活物質を焼結し、それに集電体を貼り合わせてもよい。これらを正極層320、固体電解質310、負極層330の順に積層すればよい。
【0091】
全固体リチウムイオン電池は、例えば、次のように製造してもよい。固体電解質310を、実施の形態1の図2を参照して説明した焼結体の製造方法によって製造する。次いで、固体電解質310上に物理的気相成長法あるいは化学的気相成長法により正極層320を形成し、それに集電体を貼り合わせてもよい。固体電解質310の正極層320と対向する側に物理的気相成長法あるいは化学的気相成長法により負極層330を形成し、それに集電体を貼り合わせてもよい。負極層330を形成し、次いで、正極層320を形成してもよい。
【0092】
全固体リチウムイオン電池において、正極層および負極層を、上述の焼結法、および、物理的気相成長法または化学的気相成長法を組み合わせて形成してもよい。
【0093】
次に、本発明の全固体リチウムイオン電池において、少なくとも固体電解質310と正極層320とを一体焼結によって製造する方法を説明する。
図4は、本発明の全固体リチウムイオン電池を製造する工程を示すフローチャートである。
【0094】
本発明の全固体リチウムイオン電池を製造する工程は、以下のステップS410~S430を包含する。
ステップS410:La9-b(パラメータbは-0.5≦b≦0.5を満たし、A元素は、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、スズ(Sn)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ビスマス(Bi)、モリブデン(Mo)、および、タングステン(W)からなる群から少なくとも1つ選択される元素である)を満たす前駆体粉末を圧粉する。
ステップS420:ステップS410によって得られた圧粉体に、正極活物質粉末と前駆体粉末とを含有する正極用混合粉末を載置し、圧粉する。
ステップS430:ステップS420で得られた積層圧粉体の少なくとも一部を水酸化リチウム粉末と接触させ、500℃以上900℃以下の温度範囲で焼成する。
【0095】
実施の形態1で説明したように、一般式Li7-aLa12で表される結晶を含有する焼結体は900℃以下の低温焼成によって得られるため、固体電解質と正極層とを900℃以下の低温焼成によって一体焼結した全固体リチウムイオン電池を提供できる。特に、焼成温度が900℃以下であるため、固体電解質と正極層との間で相互拡散が生じることはなく、強固な界面が得られる。各工程について詳細に説明する。
【0096】
ステップS410は、実施の形態1で図2を参照して説明したステップS210と同じであるため省略する。
【0097】
ステップS420において、正極活物質粉末は、上述の正極活物質の粉末であり、前駆体粉末は、実施の形態1で説明した前駆体粉末であるため説明を省略する。正極用混合粉末中の正極活物質粉末の含有量(体積%)は、好ましくは、30体積%以上95体積%以下の範囲である。この範囲であれば、上述の正極活物質の含有量を満たす正極複合体が得られる。正極用混合粉末中の正極活物質粉末の含有量(体積%)は、より好ましくは、40体積%以上60体積%以下の範囲である。
【0098】
ステップS420において、圧粉の条件は、実施の形態1で図2を参照して説明したステップS210と同じであってよい。ステップS420によれば、前駆体粉末と正極用混合粉末とが積層した積層圧粉体が得られるが、実用化を考慮すれば、正極用混合粉末からなる層の厚さが、好ましくは、前駆体粉末からなる層の厚さに対して厚くなるように、正極用混合粉末を載置すればよい。
【0099】
ステップS430は、実施の形態1の図2を参照して説明したステップS220において、圧粉体が積層圧粉体となった以外は同様であり、同様の焼成条件であってよい。ここでも、積層圧粉体に接触させる水酸化リチウム粉末の量は、好ましくは、水酸化リチウム水和物中のLi量(1モル)が上述の一般式Li7-aLa12のLi量((7-a)モル)の1倍以上16倍以下の範囲のLi量を満たすように調整される。
【0100】
このようにして、立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物と水酸化リチウムとを含有する焼結体からなる固体電解質と、正極活物質と立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物と水酸化リチウムとの複合体を含有する正極層とが積層した全固体リチウムイオン電池(ハーフセル)が一体焼結によって得られる。
【0101】
ステップS420に続いて、かつ、ステップS430に先立って、ステップS420によって得られた積層圧粉体の正極用混合粉末からなる層と対向する側に、負極活物質粉末と前駆体粉末とを含有する負極用混合粉末を載置し、圧粉してもよい。これにより、負極用混合粉末、前駆体粉末、正極用混合粉末の順で積層した積層圧粉体が得られる。圧粉の条件は、ステップS420と同じであってよい。
【0102】
負極用混合粉末は、上述の負極活物質の粉末を採用できるが、中でも、500℃以上900℃以下の温度範囲で反応性の低いものが好ましく、代表的には、リチウムチタンの酸化物を採用できる。前駆体粉末は、実施の形態1で説明した前駆体粉末であるため説明を省略する。負極用混合粉末中の負極活物質粉末の含有量(体積%)は、好ましくは、30体積%以上95体積%以下の範囲である。この範囲であれば、上述の負極活物質の含有量を満たす負極複合体が得られる。負極用混合粉末中の負極活物質粉末の含有量(体積%)は、より好ましくは、40体積%以上80体積%以下の範囲である。
【0103】
積層圧粉体において、負極用混合粉末からなる層の厚さが、好ましくは、前駆体粉末からなる層の厚さに対して厚くなるように、負極用混合粉末を載置すればよい。
【0104】
このような負極用混合粉末、前駆体粉末、正極用混合粉末の順で積層した積層圧粉体をステップS430で焼成すれば、負極活物質と立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物と水酸化リチウムとの複合体を含有する負極層と、立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物と水酸化リチウムとを含有する焼結体からなる固体電解質と、正極活物質と立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物と水酸化リチウムとの複合体を含有する正極層とが積層した全固体リチウムイオン電池(フルセル)が一体焼結によって得られる。
【0105】
あるいは、ステップS430に続いて、負極層330を、物理的気相成長法または化学的気相成長法、あるいは、焼結法によって形成し、フルセルを製造してもよい。
【0106】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例0107】
[LaZr1.5Ta0.58.75:前駆体粉末の調製]
前駆体粉末であるLaZr1.5Ta0.58.75は、固相反応法によって合成した。水酸化ランタン水和物(99.9%、富士フイルム和光純薬株式会社製)、酸化ジルコニウム(99.0%、東ソー株式会社製)、および、酸化タンタル(99.9%、富士フイルム和光純薬株式会社製)を、La、Zr、Taが化学量論比でLa:Zr:Ta=3:1.5:0.5となるように秤量し、ヘキサン中で6時間遊星ボールミル混合した。
【0108】
混合粉末を100MPaで機械的圧縮を行い、圧粉体を形成した。圧粉体をMgOプレートに配置し、大気中、1200℃(昇温速度:10℃/分)で12時間焼結させた。得られた焼結体を再度ヘキサン中で6時間ボールミル粉砕し、粉末化した。粉末(一次粒子)の粒径をレーザ散乱法によって測定したところ、平均粒径は0.15μmであった。得られた粉末を用い、粉末X線回折測定(株式会社リガク製、MiniFlex600)を行ったところ、蛍石型構造を有し、非特許文献2のX線回折パターンに良好に一致することを確認した。X線回折測定の結果から単結晶構造解析ソフトウェアを用いて結晶構造を解析したところ、得られた粉末は、空間群Fm3 ̄m(International Tables for Crystallographyの225番の空間群)に属し、格子定数が、a=b=c=0.5448nm、角度α=β=γ=90°であった。また原子位置は表2に示す通りであった。粉末を誘導結合プラズマ発光分析装置(アジレント・テクノロジー株式会社製、5800ICP-OES)により組成分析を行ったところ、La、ZrおよびTaが検出され、それぞれ、3.00、1.50、および、0.50であった。以上より、前駆体粉末は、LaZr1.5Ta0.58.75の組成式を満たすことを確認した。
【0109】
[例1:焼結体]
例1では、図2に示す方法によって、Li6.5LaZr1.5Ta0.512(LLZTO)を含有する焼結体を製造した。
【0110】
前駆体粉末(LaZr1.5Ta0.58.75粉末)を6.25MPaで一軸圧縮し、次に200MPaで5分間静水圧プレスして、圧粉体(大きさ:直径9mm×厚さ1.3mm)を形成した(図2のステップS210)。圧粉体(300mg、0.00383mol=0.3/784.021、相対密度67%)をマグネシアるつぼに入れ、水酸化リチウム水和物(LiOH・HO、99.0%、富士フイルム和光純薬株式会社製、一次粒子径40μm)で外部から覆い、大気中、500℃、600℃、700℃、800℃、900℃で焼成した(図2のステップS220)。圧粉体の相対密度は64%であった。
【0111】
このとき、水酸化リチウム水和物の量は、水酸化リチウム水和物中のLi量(1モル)が立方晶ガーネット型構造リチウム酸化物(Li6.5LaZr1.5Ta0.512)のLi量(6.5モル)のさらに8倍のLi量を満たすように調整された。ここでは、水酸化リチウム水和物は835mg(=6.5mol×8×0.00383×41.96g/mol)であった。焼成時間は、大気中、各温度で12時間または40時間であった。このようにして得られた焼結体を、例1の焼結体、または、例1の焼結体(500)~例1の焼結体(900)と称する。
【0112】
得られた焼結体の質量および外径寸法から実密度(かさ密度)を算出した。結果を表4および図5に示す。焼結体をメノウ乳鉢で粉砕し、粉末X線回折測定を行った。結果を図6に示す。また、粉砕した粉末を誘導結合プラズマ発光分析装置により組成分析を行った。焼結体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM、株式会社キーエンス製、VE-8800)で観察し、SEM付属のエネルギー分散型X線電子分光装置(EDS)により元素分析を行った。なお、断面研磨機(CP、日本電子株式会社製、IB-09020CP)を用いたArイオンミリング、および、機械研磨機(株式会社池上精機製、ISPP-1000)により、断面観察用の試料を準備した。結果を図11図13に示す。
【0113】
焼結体のイオン伝導率をインピーダンス分光法により測定した。測定用の試料は、次のようにして調製した。焼結体の表面をサンドペーパ(#400)で研磨し、焼結体の両面にリチウムイオン遮断用金(Au)電極をスパッタリングした。インピーダンススペクトルを高周波インピーダンス測定装置(E4990Aインピーダンスアナライザ、Keysight Technologies Inc.製)を用いて収集した。測定条件は、150MHz~20Hzの周波数範囲で、10mVの周波数振幅、-50℃~50℃の温度範囲であった。結果を図17図19に示す。
【0114】
[例2:焼結体]
例2では、例1において水酸化リチウム水和物の代わりに、炭酸リチウム(99.0%、富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いLi6.5LaZr1.5Ta0.512を含有する焼結体を製造した。焼成温度を800℃、900℃、1000℃にした以外は、例1と同様の手順であった。
【0115】
このようにして得られた焼結体を、例2の焼結体、または、例2の焼結体(800)~例2の焼結体(1000)と称し、例1と同様に、密度を測定し、粉末X線回折による同定、組成分析、SEM観察、ならびに、イオン伝導率を測定した。結果を表4、図7図14および図18に示す。
【0116】
[例3:焼結体]
例3では、例1において水酸化リチウム水和物の代わりに、硝酸リチウム(99.0%、富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いLi6.5LaZr1.5Ta0.512を含有する焼結体を製造した。製造手順は、例1と同様であった。
【0117】
このようにして得られた焼結体を、例3の焼結体、または、例3の焼結体(500)~例3の焼結体(900)と称し、例1と同様に、密度を測定し、粉末X線回折による同定、組成分析、SEM観察、ならびに、イオン伝導率を測定した。結果を表4、図8図15および図18に示す。
【0118】
[例4:焼結体]
例4では、例1において水酸化リチウム水和物の代わりに、リン酸リチウム(99.0%、富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いLi6.5LaZr1.5Ta0.512を含有する焼結体を製造した。焼成温度を800℃、900℃にした以外は、例1と同様の手順であった。
【0119】
このようにして得られた焼結体を、例4の焼結体、または、例4の焼結体(800)~例4の焼結体(900)と称し、例1と同様に、密度を測定し、粉末X線回折による同定、組成分析、SEM観察、ならびに、イオン伝導率を測定した。結果を表4および図18に示す。
【0120】
[例5:焼結体]
例5では、例1において水酸化リチウム水和物の代わりに、酢酸リチウム(99.0%、富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いLi6.5LaZr1.5Ta0.512を含有する焼結体を製造した。焼成温度を600℃、700℃、800℃、900℃にした以外は、例1と同様の手順であった。
【0121】
このようにして得られた焼結体を、例5の焼結体、または、例5焼結体(600)~例5の焼結体(900)と称し、例1と同様に、密度を測定し、粉末X線回折による同定、組成分析、SEM観察、ならびに、イオン伝導率を測定した。結果を表4および図18に示す。
【0122】
[例6:焼結体]
例6では、既存の固相焼結法によりLi6.5LaZr1.5Ta0.512を含有する焼結体を製造した。前駆体粉末(LaZr1.5Ta0.58.75粉末)と、化学量論組成(Li6.5LaZr1.5Ta0.512)よりも10wt.%過剰の水酸化リチウム水和物とを混合し、900℃、12時間焼成し、固相反応法によりLi6.5LaZr1.5Ta0.512焼成体を合成した。このLi6.5LaZr1.5Ta0.512焼成体を再度粉末化し、6.25MPaで一軸圧縮し、次に200MPaで5分間静水圧プレスして、圧粉体を形成した。圧粉体を、大気中で、700℃、800℃、900℃、1000℃、1100℃、1150℃で40時間焼結し、焼結体を得た。
【0123】
このようにして得られた焼結体を、例6の焼結体、または、例6の焼結体(700)~例6の焼結体(1150)と称し、例1と同様に、密度を測定し、粉末X線回折による同定、組成分析、SEM観察、ならびに、イオン伝導率を測定した。結果を表4、図5図9図16図17および図19に示す。
【0124】
[例7:焼結体]
例7では、既存の液相焼結法によりLi6.5LaZr1.5Ta0.512を含有する焼結体を製造した。前駆体粉末(LaZr1.5Ta0.58.75粉末)と、化学量論組成(Li6.5LaZr1.5Ta0.512)よりも10wt.%過剰の水酸化リチウム水和物とを混合し、混合粉末を得た。混合粉末を6.25MPaで一軸圧縮し、次に200MPaで5分間静水圧プレスして、圧粉体とした。圧粉体を混合粉末(LaZr1.5Ta0.58.75と水酸化リチウム水和物との混合粉末)で覆い、大気中500℃、600℃、700℃、800℃、900℃、1000℃、1100℃、1150℃で、40時間焼結した。
【0125】
このようにして得られた焼結体を、例7の焼結体、または、例7の焼結体(500)~例7の焼結体(1150)と称し、例1と同様に、密度を測定し、粉末X線回折による同定、組成分析、SEM観察、ならびに、イオン伝導率を測定した。結果を表4、図5図10および図16図17に示す。
【0126】
例1~例7の結果を簡単のため表3~表4にまとめ、説明する。
【0127】
【表3】
【0128】
【表4】
【0129】
図5は、例1、例6および例7の焼結体の実密度の焼結温度依存性を示す。
【0130】
図5によれば、本発明の方法(液相浸透焼結法)によって焼結された例1の焼結体は、500℃の低温焼結でも密度4.0g/cmを超え、高密度化されていることが分かった。一方、固相焼結法や液相焼結法による例6、例7の焼結体の高密度化のためには、焼結温度が1100℃程度必要であった。これは、本発明の方法の図2のステップS220において、前駆体の圧粉成形体に水酸化リチウムを接触させつつ焼結させるので、毛細管現象により水酸化リチウムのLiとO(酸素)とが低温でも十分に圧粉成形体に拡散できることに起因すると考える。表4に示すように、焼結時間が12時間である例1の焼結体(800-12)は、焼結時間が40時間である例1の焼結体(800)と遜色ないことが分かった。このことから、焼結時間は10時間以上が好ましいことが示唆される。
【0131】
図6は、例1の焼結体のXRDパターンを示す図である。
図7は、例2の焼結体のXRDパターンを示す図である。
図8は、例3の焼結体のXRDパターンを示す図である。
図9は、例6の焼結体のXRDパターンを示す図である。
図10は、例7の焼結体のXRDパターンを示す図である。
【0132】
図6によれば、液相浸透焼結法において、リチウム源として水酸化リチウムを用いた例1の焼結体のXRDパターンは、いずれも、立方晶ガーネット型構造を有し、JCPDSカート(#183686)に良好に一致することを確認した。このことから、500℃以上の焼成温度で焼成することにより、主成分が立方晶ガーネット型構造を有するリチウム金属酸化物である焼結体が得られることが分かった。なお、500℃および600℃で焼成した例1の焼結体(500)および焼結体(600)のXRDパターンには、立方晶ガーネット構造以外にも、未反応の前駆体粉末の回折ピークが観測された。このことから、焼成温度は、600℃よりも高温がより好ましいことが示された。
【0133】
また、例1の焼結体(800)のX線回折測定の結果から単結晶構造解析ソフトウェアを用いて結晶構造を解析したところ、得られた粉末は、空間群Ia3 ̄d(International Tables for Crystallographyの230番の空間群)に属し、格子定数が、a=b=c=1.29391nm、角度α=β=γ=90°であった。また原子位置は表1に示す通りであった。
【0134】
図7によれば、液相浸透焼結法において、リチウム源として炭酸リチウムを用いた例2では、焼成温度が900℃以上において、立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物を主成分とする焼結体(例2の焼結体(900)および焼結体(1000))が得られた。
【0135】
同様に、図8によれば、液相浸透焼結法において、リチウム源として硝酸リチウムを用いた例3では、焼成温度が800℃以上において、立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物を主成分とする焼結体(例3の焼結体(800)および焼結体(900))が得られた。
【0136】
図示しないが、リチウム源としてリン酸リチウムおよび酢酸リチウムを用いた例4および例5においても、立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物を主成分とする焼結体を得るためには、焼成温度は800℃以上を必要とした。
【0137】
一方、図9によれば、固相焼結法による例6の焼結体のXRDパターンは、いずれも、立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物を主成分とすることを確認した。図10によれば、液相焼結法による例7の焼結体のXRDパターンは、焼成温度が500℃および600℃において、未反応の前駆体粉末の回折ピークが観測されるものの、立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物を主成分とすることを確認した。
【0138】
これらから、液相浸透焼結法において、リチウム源として水酸化リチウムを用い、立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物を主成分とする焼結体を得る場合、焼成温度は500℃以上900℃以下であればよく、焼成温度の低温化が可能であることが示された。
【0139】
図11は、例1の焼結体の断面のSEM像を示す図である。
図12は、例1の焼結体の断面のEDSマッピングを示す図である。
図13は、例1の焼結体の断面の高分解能TOF-SIMS像を示す図である。
図14は、例2の焼結体の断面のSEM像を示す図である。
図15は、例3の焼結体の断面のSEM像を示す図である。
図16は、例6および例7の焼結体の断面のSEM像を示す図である。
【0140】
図11(a)~(c)は、それぞれ、例1の焼結体(700)、例1の焼結体(800)および例1の焼結体(900)のSEM像を示す。図11において、例1の焼結体は、明るく示される領域の粒子と、その粒子の粒界を埋めるように位置する暗く示される領域との複合体であることが分かった。また、例1の焼結体(700)において、顕著な粒成長が確認された。図示しないが、例1の焼結体(500)においても、粒成長が確認された。なお、例1の焼結体(700)、例1の焼結体(800)および例1の焼結体(900)の粒子の平均粒径は、いずれも、5μm以上20μm以下の範囲であり、焼結温度依存性は見られなかった。
【0141】
図12には、例1の焼結体(800)のEDSマッピングがグレースケールで示され、各元素が存在している領域が明るく示される。粒子に相当する部分に着目すると、La、Zr、TaおよびOが分布していることが分かった。図6図11および図12の結果から、粒子は、立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物であり、粒界領域は、水酸化リチウム相であることが示唆される。
【0142】
図13には、例1の焼結体(800)におけるLaOおよびLiOHのフラグメントの高分解能TOF-SIMS像がグレースケールで示される。図13によれば、明るく示される領域がLiOHのフラグメントであり、暗く示される領域がLaOのフラグメントであった。LaOフラグメントの分布は、例えば、図11の明るく示される粒子の分布や図12のZrの分布と同様の分布を示し、LaOフラグメントは、立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物粒子に分布していた。一方、LiOHのフラグメントの分布は、粒界領域で強く検出された。図6および図13の結果から、粒界は、非晶質の水酸化リチウムであることが分かった。
【0143】
図13およびICP-OESの結果から焼結体中の立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物粒子の体積百分率を算出した。体積百分率は、ICP-OESによる立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物粒子の体積百分率に、相対密度を乗算することによって算出された。
【0144】
例1の焼結体(800)によれば、ICP-OESによって測定された体積百分率(71%)に相対密度(93%)を乗算したところ、立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物粒子を66体積%含有し、水酸化リチウムを34体積%含有していることが分かった。例1の焼結体(500)~例1の焼結体(700)および例1の焼結体(900)は、いずれも、立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物粒子を64体積%以上68体積%以下、水酸化リチウムを32体積%以上36体積%以下の範囲で含有していることが分かった。
【0145】
図14において、例2の焼結体(800)も、明るく示される領域の粒子と、その粒子の粒界を埋めるように位置する暗く示される領域との複合体であることが分かった。図示しないが、例1と同様に、TOF-SIMSによれば、粒子は、立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物相であり、粒界は、炭酸リチウムであった。
【0146】
同様に、図15においても、例3の焼結体(800)は、明るく示される領域の粒子と、暗く示される領域とを有したが、暗く示される領域は空隙であった。これは、焼成温度(800℃)が、リチウム源である硝酸リチウムの沸点を超えているため、硝酸リチウムが前駆体に拡散する前に蒸発したためである。
【0147】
図16(a)~(f)は、それぞれ、例6の焼結体(700)~例6の焼結体(1100)および例7の焼結体(700)~例7の焼結体(1100)のSEM像を示す。図16(a)~(c)によれば、固相焼結法の例6の焼結体では、焼成温度900℃で粒成長が促進され、1100℃で粒子が急成長し、極めて緻密な単相となることが分かった。図10の結果を考慮すれば、例6の焼結体(1100)は、立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物単相からなることが分かった。
【0148】
図16(d)~(e)によれば、液相焼結法の例7の焼結体では、焼成温度700℃で粒成長が促進されるが、900℃では、空隙が残り、メッシュ状の構造となっていた。
【0149】
固相焼結法による例6の焼結体(1150)および液相焼結法による例7の焼結体(1150)のEDSによる元素比は、Laを3で規格化したところ、いずれも、(Li,La,Zr,Ta)=(6.40,3.00,1.48,0.49)となり、Li6.5LaZr1.5Ta0.512によく一致した。一方、液相浸透焼結法による例1の焼結体(800)の元素比は、Laを3で規格化したところ、(Li,La,Zr,Ta)=(10.45,3.00,1.51,0.50)となり、Li含有量が顕著に多かった。このことは、粒界に水酸化リチウムが存在することを示し、図13に示す結果に一致した。また、元素比と水酸化リチウムの含有量(34体積%)との結果を考慮すると、粒子は、Li6.5LaZr1.5Ta0.512で表され、立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物粒子であると同定され、粒界が非晶質の水酸化リチウムであることが分かった。
【0150】
立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物および水酸化リチウムの複合体の理論密度を4.3g/cmとして例1の焼結体(800)の相対密度を算出したところ、93%であった。一方、水酸化リチウムを含まない例6の焼結体(1100)の相対密度を、Li6.5LaZr1.5Ta0.512の理論密度(5.4g/cm)を用いて算出したところ、92.5%であった。このことから、本発明の方法を採用すれば、低温焼成によっても極めて緻密な焼結体が得られることが分かった。
【0151】
図17は、例1、例6および例7の焼結体のイオン伝導率の焼成温度依存性を示す図である。
図18は、例1~例5の焼結体のイオン伝導率の焼成温度依存性を示す図である。
【0152】
図17および図18には、各焼結体の室温におけるイオン伝導率を示す。図17図18および表1によれば、液相浸透焼結法において、リチウム源として水酸化リチウムを用いた例1の焼結体のイオン伝導率は、特に500℃~900℃の低温の焼成温度において、リチウム源として水酸化リチウム以外を用いた例2~例5ならびに固相焼結法や液相焼結法による例6および例7の焼結体のイオン伝導率に比べて、2桁以上大きいことが分かった。
【0153】
詳細には、固相焼結法や液相焼結法による例6および例7の焼結体のイオン伝導率は、いずれも焼成温度の上昇に伴い、増大する傾向を示し、焼成温度1100℃で2~4×10-4S/cmに達した。また、リチウム源として炭酸リチウムを用いた例2の焼結体のイオン伝導率も、焼成温度の上昇に伴い増大し、焼成温度1100℃で1×10-4S/cmに達した。リチウム源として硝酸リチウム、リン酸リチウムおよび酢酸リチウムを用いた例3~例5の焼結体は、焼成温度に関わらず、イオン伝導率の上昇を示さなかった。
【0154】
一方、リチウム源として水酸化リチウムを用いた例1の焼結体は、焼成温度が600℃であっても1×10-4S/cm以上のイオン伝導率を有し、特に、焼成温度が800℃では、2×10-4S/cm以上のイオン伝導率を示した。種々存在するリチウム源の中でも水酸化リチウムを用いた場合にのみイオン伝導率が上昇することは、本願発明者らも実施して初めて発見したことであり、予想できないことに留意されたい。
【0155】
図19は、例1および例6の焼結体のイオン伝導率のアレニウスプロットを示す図である。
【0156】
測定温度範囲は、-50℃~50℃であり、焼結体中のバルクおよび粒界の寄与を含む総イオン伝導度が示されている。リチウムイオン伝導率は次式のアレニウス式にしたがう。
σ=σexp(-E/(KT))
ここで、σはリチウムイオン伝導度であり、σは前指数因子であり、Eは活性化エネルギーであり、Kはボルツマン定数であり、Tは絶対温度である。
【0157】
図19によれば、すべての焼結体のイオン伝導率は、T-1関数に対して線形であり、測定された温度範囲内でイオン伝導パスが変化していないことが分かった。さらに驚くべきことに、例1の焼結体(700)および焼結体(800)の活性化エネルギーは0.42eVであり、例6の焼結体(800)のそれ(0.7eV)に比べて顕著に小さいことが分かった。図示しないが、例1の焼結体の活性化エネルギーは、例2~例5および例7の焼結体のそれに比べて小さかった。このことから、例1の焼結体の粒界抵抗は、例2~例7の焼結体のそれに比べて小さいことが分かった。
【0158】
再度表3~表4を参照し、立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物粒子の体積含有率が66%である例1の焼結体(800)と、同様の体積含有率(62%)である例6の焼結体(1000)とのイオン伝導率を比較すると、例1の焼結体(800)のイオン伝導率は、例6の焼結体(1000)のそれの10倍以上大きかった。水酸化リチウムのイオン伝導率が極めて低い(150℃で1×10-9S/cm)ことから、例1の焼結体において水酸化リチウムがイオン伝導率に寄与することは考えにくい。むしろ、例1の焼結体では、立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物粒子が互いに連結し、イオン伝導のパスのためのネットワークを効率的に形成しつつ、その粒界を非晶質の水酸化リチウムが埋めることにより、高い焼結密度を達成できると考える。特に、本発明では、前駆体粉末の圧粉成形体の外部から水酸化リチウムと接触させつつ、焼成するため、立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物粒子同士の連続的なイオン伝導のパスの形成を促進し得る。
【0159】
以上、例1~例7を参照して説明したように、本発明の図2に示す製造方法を実施することにより、Li7-aLa12(パラメータaは0≦a≦0.9を満たし、A元素は、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、スズ(Sn)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ビスマス(Bi)、モリブデン(Mo)、および、タングステン(W)からなる群から少なくとも1つ選択される元素である)で表される立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物からなる粒子と、粒子の粒界に位置する水酸化リチウムとを含有し、リチウム金属酸化物と水酸化リチウムとの合計に対する立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物の体積割合は、50体積%以上95体積%以下の範囲を満たす焼結体が得られることが示された。
【0160】
[例8:全固体リチウムイオン電池]
例8では、図20のプロシージャにしたがって、全固体リチウムイオン電池を製造した。
【0161】
図20は、全固体リチウムイオン電池を製造するプロシージャを示す図である。
【0162】
金型プレスを用い、前駆体粉末(LaZr1.5Ta0.58.75粉末)を6.25MPaで一軸圧縮した(図4のステップS410)。得られた圧粉体の大きさは、直径9mm、厚さ1.3mmであった。次に、正極活物質としてコバルト酸リチウム粉末(99.0%、日本化学工業株式会社製)と前駆体粉末とを、体積比1:1で混合し、正極用混合粉末を調製した。この正極用混合粉末を前駆体粉末の圧粉体上に載置し、6.25MPaで一軸圧縮した(図4のステップS420)。これにより、前駆体粉末からなる層と、正極用混合粉末からなる層とが積層された積層圧粉体を得た。
【0163】
積層圧粉体を200MPaで5分間静水圧プレスして、積層圧粉体をより緻密化した。このとき、積層圧粉体中の混合粉末部分の厚さは50μmであった。緻密化された積層圧粉体をマグネシアるつぼに入れ、水酸化リチウム水和物(水酸化リチウム水和物、99.0%、和光純薬工業株式会社)で覆い、大気中、500℃で40時間、次いで、700℃で10時間、焼成した(図4のステップS430)。ここでも、水酸化リチウム水和物は、水酸化リチウム水和物中のLi量が立方晶ガーネット型構造水酸化リチウムの化学量論組成(Li6.5LaZr1.5Ta0.512)の8倍の量を満たすよう調整された。
【0164】
このようにして、立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物と水酸化リチウムとを含有する焼結体と、正極活物質と立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物と水酸化リチウムとを含有する正極層との積層焼結体を得た。得られた積層焼結体の断面をSEM観察した。結果を図21に示す。
【0165】
図21は、例8の積層焼結体の断面のSEM像を示す図である。
【0166】
図21に示されるように、積層焼結体は、正極層と固体電解質との2層からなった。詳細には、固体電解質は、例1の焼結体を参照して説明したように、立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物からなる粒子(ここでは、Li6.5LaZr1.5Ta0.512で表される相の粒子:LLZTO)と、その粒界に位置する水酸化リチウムとからなった。一方、正極層は、正極活物質であるコバルト酸リチウムからなる粒子と、立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物からなる粒子(LLZTO)と、それらの粒界に位置する水酸化リチウムとからなる複合体であった。ここでも水酸化リチウムは非晶質であった。
【0167】
次に、積層焼結体をハーフセルとして、電池性能を測定した。測定用に、積層体の正極側にマグネトロンスパッタ法により金(Au)電極を形成した。次いで、グローブボックスの内部で真空蒸着法により、積層体の負極側にリチウム金属(Li)電極を形成した。このようにして得られた全固体リチウムイオン電池の電池性能を、充放電装置(Bio-Logic Science Instruments製、SP-200)を用いて評価した。測定は、アルゴンガス封入した容器に全固体リチウムイオン電池を封入し、60℃の恒温炉内で実施し、充放電試験時のCレートは0.025C、電流値0.53mAcm-2、電圧範囲3~4.2Vであった。結果を図22に示す。
【0168】
図22は、例8の全固体リチウムイオン電池の充放電曲線を示す図である。
【0169】
図22によれば、充電容量は101mAhg-1であり、放電容量は85mAhg-1であり、例8の全固体リチウムイオン電池の充放電が確認された。例8の全固体リチウムイオン電池の放電電圧は3.7V程度であり、正極活物質のコバルト酸リチウムの充放電電圧(3.7V程度)に一致した。一方、例8の全固体リチウムイオン電池の充電電圧は4.0V程度であり、わずかに高かったが、これは充電状態ではコバルト酸リチウムの電子伝導性が低いためと考える。
【0170】
以上、例8を参照して説明したように、本発明の焼結体は、全固体リチウムイオン電池の固体電解質として使用され、本発明の図4に示す製造方法を実施することにより、固体電解質と電極層との一体焼結により全固体リチウムイオン電池を提供できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0171】
本発明の焼結体は、所定量の立方晶ガーネット型構造リチウム金属酸化物粒子とその粒界に水酸化リチウムとを含有することにより、優れたイオン伝導率を達成する。このような焼結体は、全固体リチウムイオン電池の固体電解質として有効である。また、本発明の方法によれば、500℃~900℃の低温にて上述の焼結体を製造できるので、電極層との一体焼結も可能であり、全固体リチウムイオン電池の実用化に有利である。
【符号の説明】
【0172】
100 焼結体
110 リチウム金属酸化物(LLAO粒子)
120 水酸化リチウム
300 全固体リチウムイオン電池
310 固体電解質
320 正極層
330 負極層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22