(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076632
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】電気ニッケルめっき浴及び電気ニッケルめっき皮膜の成膜方法
(51)【国際特許分類】
C25D 3/12 20060101AFI20240530BHJP
C25D 5/00 20060101ALI20240530BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
C25D3/12
C25D3/12 102
C25D5/00
C25D7/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188291
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】593174641
【氏名又は名称】メルテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】三瓶 英之
(72)【発明者】
【氏名】宮本 和洋
(72)【発明者】
【氏名】神庭 昂平
【テーマコード(参考)】
4K023
4K024
【Fターム(参考)】
4K023AA12
4K023BA06
4K023BA15
4K023CA02
4K023CA09
4K023CB17
4K023DA02
4K023DA07
4K023DA08
4K024AA03
4K024BB01
4K024BB09
4K024CA02
4K024CA03
4K024CA06
(57)【要約】
【課題】本件発明は、世界的にハロゲン物質の使用を規制する動きがあり、その動向に準じて、ハロゲンである塩化物イオンを含まない電気ニッケルめっき浴および当該めっき浴を用いた成膜方法の提供を目的とする。
【解決手段】この目的を解決するため、塩化物イオンを含有しないめっき浴およびそのめっき浴を用いた成膜方法であって、金属塩と、復極剤と、pH緩衝剤とを含有し、前記復極剤としてチオ硫酸ナトリウムを用いることを特徴とする電気ニッケルめっき浴であり、当該めっき浴を用いることを特徴する成膜方法を採用する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自溶性陽極としてニッケル電極を用いた電気ニッケルめっき浴であって,
当該電気ニッケルめっき浴は、金属塩と、復極剤と、pH緩衝剤とを含有し、前記復極剤としてチオ硫酸ナトリウムを用いることを特徴とする電気ニッケルめっき浴。
【請求項2】
前記金属塩は硫酸ニッケル六水和物又はスルファミン酸ニッケル四水和物を用いる請求項1に記載の電気ニッケルめっき浴。
【請求項3】
前記金属塩として前記硫酸ニッケル六水和物を用いる場合において、前記硫酸ニッケル六水和物が120g/L以上480g/L以下、前記復極剤が1mg/L以上1000mg/L以下、前記pH緩衝剤が2.5g/L以上40g/L以下である請求項2に記載の電気ニッケルめっき浴。
【請求項4】
前記金属塩として前記スルファミン酸ニッケル四水和物を用いる場合において、前記スルファミン酸ニッケル四水和物が200g/L以上600g/L以下、前記復極剤が1mg/L以上1000mg/L以下、前記pH緩衝剤が1.0g/L以上40g/L以下である請求項2に記載の電気ニッケルめっき浴。
【請求項5】
前記pH緩衝剤は、ホウ酸、アミノアルカンスルホン酸やその誘導体郡から選択される1種類以上を用いる請求項3又は請求項4に記載の電気ニッケルめっき浴。
【請求項6】
pHが3.5以上6.5以下である請求項3に記載の電気ニッケルめっき浴。
【請求項7】
pHが3.0以上6.5以下である請求項4に記載の電気ニッケルめっき浴。
【請求項8】
自溶性陽極としてニッケル電極を用いた電気ニッケルめっきによる電気ニッケルめっき皮膜の成膜方法であって、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電気ニッケルめっき浴を用いることを特徴とする電気ニッケルめっき皮膜方法。
【請求項9】
前記金属塩として前記硫酸ニッケル六水和物を用いる場合において、0.05A/dm2以上5.0A/dm2以下の電流密度で行う請求項8に記載の電気ニッケルめっき皮膜の成膜方法。
【請求項10】
前記金属塩として前記スルファミン酸ニッケル四水和物を用いる場合において、0.05A/dm2以上10.0A/dm2以下の電流密度で行う請求項8に記載の電気ニッケルめっき皮膜の成膜方法。
【請求項11】
40℃以上60℃以下の浴温度で行う請求項8に記載の電気ニッケルめっき皮膜の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、電気ニッケルめっきで用いる電気ニッケルめっき浴及び電気ニッケルめっき皮膜の成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルは錆びにくく耐食性が良いことから、各種めっきの下地めっきや、接点やコネクタなどの金属拡散防止目的などのめっき用金属として、機械、電子部品などの工業的用途として広く利用されている。
【0003】
このニッケルを成膜する方法として、従来から電気ニッケルめっきが用いられている。電気ニッケルめっきでは、自溶性陽極としてニッケル電極を用いている。ここで、被めっき加工物を陰極として、陽極と陰極との間に適切な電圧を印加すると、ニッケル電極からニッケルが陽イオンとして溶出する。電気ニッケルめっきは、このニッケルイオンが陰極の表面で電子を得て析出することによって成膜するものである。このとき、陽極と陰極との間の電圧が特定の電圧以上になると、ニッケル電極の表面に酸化膜(以降、不働態膜と称する)が生成される。この不働態膜は電流を通さない性質を有することから、ニッケル電極の表面に不働態膜が生成すると、電気ニッケルめっきを継続することが困難となる。
【0004】
そこで、電気ニッケルめっきを継続して行うことができるようニッケル電極の表面に生成した不働態膜を破壊する化合物として塩化物が採用され、塩化物を含有した電気ニッケルめっき浴が用いられている。
【0005】
このような電気ニッケルめっきで用いるニッケルめっき浴としては、特許文献1に、硫酸ニッケル:200~360g/L、塩化ニッケル:30~90g/L、クエン酸ニッケル:24~42g/Lを含み、pH:3~5のワット浴が開示されている。
【0006】
また、特許文献2の実施例4には、スルファミン酸ニッケル四水和物:450g/L、塩化ニッケル六水和物:3g/L、タウリン:60g/Lを含み、pH:4.50のスルファミン酸ニッケル浴が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001―172790号公報
【特許文献2】特開2012―126951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に開示の電気ニッケルめっき浴は塩化物を含有している。塩化物はハロゲン化物であるが、ハロゲンを含む化合物は焼却される際にダイオキシンを発生するため、世界的にハロゲン物質の使用を規制する動きがある。そのため、ハロゲンである塩化物イオンを含まない電気ニッケルめっき浴が求められるようになった。
【0009】
本件発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、塩化物を含有しなくても電気ニッケルめっきを継続して行うことができる電気ニッケルめっき浴、及び当該電気ニッケルめっき浴を用いた電気ニッケルめっき皮膜の成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題を解決するために、鋭意研究の結果、以下の発明に想到した。
【0011】
本件発明に係る電気ニッケルめっき浴は、自溶性陽極としてニッケル電極を用いた電気ニッケルめっき浴であって、当該電気ニッケルめっき浴は金属塩、復極剤、pH緩衝剤を含み、前記復極剤としてチオ硫酸ナトリウムを用いることを特徴としている。
【0012】
そして、前記金属塩は、硫酸ニッケル六水和物又はスルファミン酸ニッケル四水和物を用いることが好ましい。
【0013】
前記金属塩として前記硫酸ニッケル六水和物を用いる場合において、前記硫酸ニッケル六水和物が120g/L以上480g/L以下、前記復極剤が1mg/L以上1000mg/L以下、前記pH緩衝剤が2.5g/L以上40g/L以下であることが好ましい。
【0014】
また、前記金属塩として前記スルファミン酸ニッケル四水和物を用いる場合において、前記スルファミン酸ニッケル四水和物が200g/L以上600g/L以下、前記復極剤が1mg/L以上1000mg/L以下、前記pH緩衝剤が1.0g/L以上40g/L以下であることが好ましい。
【0015】
前記pH緩衝剤は、ホウ酸、アミノアルカンスルホン酸または、その誘導体郡から選択される1種類以上を用いることが好ましい。
【0016】
前記金属塩として前記硫酸ニッケル六水和物を用いる電気ニッケルめっき浴のpHは3.5以上6.5以下であることが好ましい。
【0017】
前記金属塩として前記スルファミン酸ニッケル四水和物を用いる電気ニッケルめっき浴のpHは3.0以上6.5以下であることが好ましい。
【0018】
本件発明に係る電気ニッケルめっき皮膜の成膜方法は、自溶性陽極としてニッケル電極を用いた電気ニッケルめっきによる電気ニッケルめっき皮膜の成膜方法であって、上述した本件発明に係るいずれかの電気ニッケルめっき浴を用いることを特徴としている。
【0019】
前記金属塩として前記硫酸ニッケル六水和物を用いる場合において、0.05A/dm2以上5.0A/dm2以下の電流密度で行うことが好ましい。
【0020】
前記金属塩として前記スルファミン酸ニッケル四水和物を用いる場合において、0.05A/dm2以上10.0A/dm2以下の電流密度で行うことが好ましい。
【0021】
前記電気ニッケルめっき皮膜の成膜方法は、40℃以上60℃以下の浴温度で行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本件発明に係る電気ニッケルめっき浴は、復極剤としてチオ硫酸ナトリウムを用いる。チオ硫酸ナトリウムが自溶性陽極であるニッケル表面の不働態膜を破壊し、電気ニッケルめっきを継続して行うことができる。そして当該電気ニッケルめっき浴は復極剤としてチオ硫酸ナトリウムを用いることから塩化物を必要とせず、当該電気ニッケルめっき浴は塩化物を含有しない。これは、ハロゲンを含む難燃剤は焼却される際にダイオキシンを発生するため、世界的にハロゲン物質の使用を規制する動きがあり、電気ニッケルめっき浴中に含まれる塩化物はハロゲンであるため、その動向に準じたものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】ワット浴にチオ硫酸ナトリウムを用いた場合の電流値と電位の関係図である。
【
図2】スルファミン酸浴にチオ硫酸ナトリウムを用いた場合の電流値と電位の関係図である。
【
図3】ワット浴に塩化物イオンまたはチオ硫酸ナトリウムを用いた場合の電流値と電位の関係図である。
【
図4】スルファミン酸浴に塩化物イオンまたはチオ硫酸ナトリウムを用いた場合の電流値と電位の関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本件発明に係る電気ニッケルめっき浴、及び電気ニッケルめっき皮膜の成膜方法について説明する。
【0025】
本件発明に係る電気ニッケルめっき浴は、自溶性陽極としてニッケル電極を用いた電気ニッケルめっきに用いる電気ニッケルめっき浴であって、当該電気ニッケルめっき浴は、金属塩と、復極剤と、pH緩衝剤とを含有し、前記復極剤としてチオ硫酸ナトリウムを用いている。復極剤としてチオ硫酸ナトリウムを用いていることから、チオ硫酸ナトリウムが自溶性陽極であるニッケル表面の不働態膜を破壊し、電気ニッケルめっきを継続して行うことができる。そして当該電気ニッケルめっき浴は、復極剤としてチオ硫酸ナトリウムを用いることで復極剤としての塩化物を必要とせず、当該電気ニッケルめっき浴は塩化物を含有しない。これは、ハロゲンを含む難燃剤は焼却される際にダイオキシンを発生するため、世界的にハロゲン物質の使用を規制する動きがあり、電気ニッケルめっき浴中に含まれる塩化物はハロゲンであるため、その動向に準じたものである。
【0026】
そして金属塩としては、硫酸ニッケル六水和物又はスルファミン酸ニッケル四水和物を用いるものである。以降、金属塩として、硫酸ニッケル六水和物を用いる場合と、スルファミン酸ニッケル四水和物を用いる場合の実施形態について説明する。
【0027】
1.電気ニッケルめっき浴の第1の実施形態
本件発明に係る第1の実施形態の電気ニッケルめっき浴は、金属塩として硫酸ニッケル六水和物と、復極剤と、pH緩衝剤とを含有したものであり、自溶性陽極としてニッケル電極を用いた電気ニッケルめっきで用いる。
【0028】
硫酸ニッケル六水和物は、電気ニッケルめっき浴にニッケルイオンを供給すると共に、ニッケル電極を溶解する。この硫酸ニッケル六水和物は、電気ニッケルめっき浴における含有量が120g/L以上480g/L以下であることが好ましい。硫酸ニッケル六水和物の含有量が120g/L未満であると、電気ニッケルめっき浴中のニッケルイオンの供給が不十分で電流効率の低下が著しくなり、安定した電気ニッケルめっき皮膜の成膜が困難になることから好ましくない。この理由から、硫酸ニッケル六水和物の含有量の下限値は120g/L以上であることがより好ましい。一方、硫酸ニッケル六水和物の含有量が、480g/Lを超えると、溶液pHが6.5付近で、水酸化ニッケルが析出しやすくなるため、浴安定に欠けるようになり好ましくない。この理由から、硫酸ニッケル六水和物の含有量の上限は480g/L以下であることがより好ましい。
【0029】
ニッケル電極の表面の不働態膜を破壊する復極剤として用いるチオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)は、酸性水溶液でチオ硫酸イオン(S2O3
2-)に分離する。チオ硫酸イオンは金属への強い配位性を示すことから、難溶性であるニッケル表面の不働態膜を溶解することができる。このチオ硫酸ナトリウムの電気ニッケルめっき浴における含有量は、1mg/L以上1000mg/L以下であることが好ましい。チオ硫酸ナトリウムの含有量が、1mg/L未満であると、不働態膜を十分に溶解することができず、電気ニッケルめっきを継続して行うことが困難になることから好ましくない。この理由から、チオ硫酸ナトリウムの含有量の下限値は、1mg/L以上が好ましく3mg/L以上であることがより好ましい。一方、チオ硫酸ナトリウムの含有量が1000mg/Lを超えると、不働態膜を溶解するに必要十分な含有量を超えるばかりでなく、被めっき加工品に成膜する電気ニッケルめっき皮膜に共析する硫黄成分が多くなり、皮膜の外観や特性に影響を与えることから好ましくない。この理由からチオ硫酸ナトリウムの含有量の上限値は1000mg/L以下が好ましく500mg/L以下であることがより好ましい。
【0030】
従来の電気ニッケルめっき浴では、ニッケル電極の表面の不働態膜を破壊する復極剤として塩化ニッケルなどの塩化物が用いられてきた。一方、本件発明の電気ニッケルめっき浴は、上述のように、復極剤としてチオ硫酸ナトリウムを含有するものである。したがって、本件発明の電気ニッケルめっき浴は、塩化物を含有する必要がなく、塩化物を含有しない。
【0031】
また、当該電気ニッケルめっき浴のpHは3.5以上6.5以下であることが好ましい。pHが3.5未満の強酸性領域になると、セラミックが侵食される場合があるため、チップ部品めっきに使用できず好ましくない。一方、pH6.5を超えアルカリ性になると、水酸化ニッケルが生じる場合があり、浴安定性に優れたニッケルめっき液を得ることが困難になるため好ましくない。
【0032】
そして、pH緩衝剤は、本件発明に係る電気ニッケルめっき浴においてpHを緩衝する作用を有し、pHの変動を防いでpHの値を上述した範囲に制御するものである。pH緩衝剤としては、ホウ酸、アミノアルカンスルホン酸やその誘導体群から選択される1種類以上を用いることが好ましい。そして、pH緩衝剤の電気ニッケルめっき浴における含有量は2.5g/L以上40g/L以下にあることが好ましい。pH緩衝剤の含有量が2.5g/L未満で、pHの値を6.0付近に設定するとpH緩衝効果を十分に発揮できない場合があるため好ましくない。一方、pH緩衝材の含有量が40g/Lを超えても、溶液pHの緩衝効果はすでに飽和しており、それ以上の効果が見込めないため好ましくない。
【0033】
応力調整剤は、o-スルホ安息香酸イミドを0.1g/L以上5.0g/L以下の範囲で使用することが好ましい。応力調整剤の含有量が0.1g/L未満であると、当該電気ニッケル皮膜が引張り応力過剰となり好ましくない。一方、応力調整剤の含有量が5.0g/Lを超えると、圧縮応力が徐々に大きくなるが、当該電気ニッケルめっき皮膜と被めっき物との密着性はすでに飽和に達しており、それ以上の密着性改善効果が見込めないため好ましくない。
【0034】
2.電気ニッケルめっき浴の第2の実施形態
本件発明に係る第2の実施形態の電気ニッケルめっき浴は、金属塩としてスルファミン酸ニッケル四水和物と、復極剤と、pH緩衝剤とを含有したものであり、自溶性陽極としてニッケル電極を用いた電気ニッケルめっきで用いる。
【0035】
スルファミン酸ニッケル四水和物は、電気ニッケルめっき浴にニッケルイオンを供給すると共に、ニッケル電極を溶解する。このスルファミン酸ニッケル四水和物は、電気ニッケルめっき浴における含有量が200g/L以上600g/L以下であることが好ましい。スルファミン酸ニッケル四水和物の含有量が200g/L未満であると、電気ニッケルめっき浴中のニッケルイオンの供給が不十分で電流効率の低下が著しくなり、安定した電気ニッケルめっき皮膜の成膜が困難になることから好ましくない。この理由から、スルファミン酸ニッケル四水和物の含有量の下限値は200g/L以上であることがより好ましい。一方、スルファミン酸ニッケル四水和物の含有量が600g/Lを超えても、さらなる電流効率の向上は得られず、めっき皮膜を安定して成膜できるなどの効果が得られない。むしろ、電気ニッケルめっき浴の溶液粘度が上昇して均一なニッケルめっき皮膜の成膜が困難になるばかりでなく、被めっき加工品に付着して浴外に持ち出される電気ニッケルめっき浴の量が増大することにより、電気ニッケルめっき浴中のニッケル量の管理が煩雑になるため好ましくない。この理由から、スルファミン酸ニッケル四水和物の含有量の上限は600g/L以下であることがより好ましい。
【0036】
ニッケル電極の表面の不働態膜を破壊する復極剤として用いるチオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)は、酸性水溶液中でチオ硫酸イオン(S2O3
2-)に分解する。チオ硫酸イオンは金属への強い配位性を示すことから、難溶性であるニッケル表面の不働態膜を溶解することができる。このチオ硫酸ナトリウムの電気ニッケルめっき浴における含有量は、1mg/L以上1000mg/L以下であることが好ましい。チオ硫酸ナトリウムの含有量が、1mg/L未満であると、不働態膜を十分に溶解することができず、電気ニッケルめっきを継続して行うことが困難になることから好ましくない。この理由から、チオ硫酸ナトリウムの含有量の下限値は、1mg/L以上が好ましく3mg/L以上であることがより好ましい。一方、チオ硫酸ナトリウムの含有量が1000mg/Lを超えると、不働態膜を溶解するに必要十分な含有量を超えるばかりでなく、被めっき加工品に成膜する電気ニッケルめっき皮膜に共析する硫黄成分が多くなり被膜外観や皮膜物性に影響を与えることから好ましくない。この理由からチオ硫酸ナトリウムの含有量の上限値は1000mg/L以下が好ましく500mg/L以下であることがより好ましい。
【0037】
従来の電気ニッケルめっき浴では、ニッケル電極の表面の不働態膜を破壊する復極剤として塩化ニッケルなどの塩化物が用いられてきた。一方、本件発明の電気ニッケルめっき浴は、上述のように、復極剤としてチオ硫酸ナトリウムを含有するものである。したがって、本件発明の電気ニッケルめっき浴は、塩化物を含有する必要がなく、塩化物を含有しない。
【0038】
また、当該電気ニッケルめっき浴のpHは3.0以上6.5以下であることが好ましい。pHが3.0未満であると、当該電気ニッケルめっき浴は強酸性領域になり、セラミックが侵食される場合があるため、チップ部品めっきに使用できず好ましくない。一方、pH6.5を超えると、当該電気ニッケルめっき浴はアルカリ性になり、水酸化ニッケルが生じる場合があり、浴安定性に優れたニッケルめっき液を得ることが困難になるため好ましくない。
【0039】
そして、pH緩衝剤は、本件発明に係る電気ニッケルめっき浴においてpHを緩衝する作用を有し、pHの変動を防いでpHの値を上述した範囲に制御するものである。pH緩衝剤としては、ホウ酸、アミノアルカンスルホン酸やその誘導体群から選択される1種類以上を用いることが好ましい。そして、pH緩衝剤の電気ニッケルめっき浴における含有量は1.0g/L以上40g/L以下にあることが好ましい。pH緩衝剤の含有量が1.0g/L未満で、pHの値を6.0付近に設定するとpH緩衝効果を十分に発揮できない場合があるため好ましくない。一方、pH緩衝剤の含有量が40g/Lを超えても、溶液のpH緩衝効果はすでに飽和に達しており、それ以上の効果が見込めないため好ましくない。
【0040】
応力調整剤は、o-スルホ安息香酸イミドを0.1g/L以上5.0g/L以下の範囲で使用することが好ましい。応力調整剤の含有量が0.1g/L未満であると、当該電気ニッケル皮膜が引張り応力過剰となり好ましくない。一方、応力調整剤の含有量が5.0g/Lを超えると、圧縮応力が徐々に大きくなるが、当該電気ニッケルめっき皮膜と被めっき物との密着性はすでに飽和に達しており、それ以上の密着性改善効果が見込めないため好ましくない。
【0041】
3.電気ニッケルめっき皮膜の成膜方法
本件発明に係る電気ニッケルめっき皮膜の成膜方法は、自溶性陽極としてニッケル電極を用いた電気ニッケルめっきによる電気ニッケルめっき皮膜の成膜方法であって、上述した本件発明に係る電気ニッケルめっき浴を用いる電気ニッケルめっき皮膜の成膜方法である。
【0042】
そして、ニッケル電極を陽極とし被めっき加工物を陰極として上述した電気ニッケルめっき浴中に浸漬し、陽極と陰極との間に適切な電圧を印加すると、ニッケル電極からニッケルが陽イオンとして溶出する。そして、このニッケルイオンが陰極の表面で電子を得て析出することによって成膜することができる。
【0043】
本件発明に係る電気ニッケルめっき皮膜の成膜方法は、復極剤としてチオ硫酸ナトリウムを用いる本件発明に係る電気ニッケルめっき浴を用いることから、チオ硫酸ナトリウムが自溶性陽極であるニッケル表面の不働態膜を破壊し、当該電気ニッケルめっき皮膜の成膜を継続して行うことができる。そして当該電気ニッケルめっき皮膜の成膜方法で用いる電気ニッケルめっき浴は、復極剤としてチオ硫酸ナトリウムを用いることから復極剤として塩化物を必要とせず、当該電気ニッケルめっき浴は塩化物を含有しない。これは、ハロゲンを含む難燃剤は焼却される際にダイオキシンを発生するため、世界的にハロゲン物質の使用を規制する動きがあり、電気ニッケルめっき浴中に含まれる塩化物はハロゲンであるため、その動向に準じたものである。
【0044】
当該電気ニッケルめっき皮膜の成膜方法において、陽極と陰極との間に電圧を印加することで流れる電流の電流密度は、第1の実施形態と第2の実施形態で異なる。第1の実施形態では、最適な電流密度範囲は、0.05A/dm2以上5A/dm2以下が好ましい。電流密度が0.05A/dm2未満であると、陰極の表面におけるニッケルの析出時間が多く必要となり、工業的な生産性維持ができなくなるため、好ましくない。一方、電流密度が5A/dm2を超えると、ニッケルの析出効率が低下する傾向が大きくなり、代わりに水素ガスが陰極部から発生する。この水素ガスは、めっき浴のpH変動の原因となるため好ましくない。
【0045】
また、第2の実施形態では、最適な電流密度範囲は、0.05A/dm2以上10A/dm2以下が好ましい。電流密度が0.05A/dm2未満であると、陰極の表面におけるニッケルの析出時間が多く必要となり、工業的な生産性維持ができなくなるため、好ましくない。一方、電流密度が10A/dm2を超えると、ニッケルの析出効率が低下する傾向が大きくなり、代わりに水素ガスが陰極部から発生する。この水素ガスは、めっき浴のpH変動の原因となるため好ましくない。
【0046】
そして、当該電気ニッケルめっき皮膜の成膜方法における電気ニッケルめっき浴の浴温度は40℃以上60℃以下が好ましい。浴温度が40℃未満であると、ニッケルの析出速度が低下するため好ましくない。一方、浴温度が60℃を超えると、蒸発水分量が増加して、電気ニッケルめっき浴の成分濃度変動が大きくなるため、好ましくない。
【実施例0047】
電気ニッケルめっき浴としてワット浴であって、硫酸ニッケル六水和物の含有量が240g/Lであり、チオ硫酸ナトリウムの含有量が50mg/Lの組成のものを用いて分極曲線を測定した(
図1参照)。なお、浴温度45℃、陽極(ニッケル)面積1.5cm
2と、陰極(白金)面積1.0cm
2の条件で通電を行った。この条件は、以下の実施例及び比較例も全て同じである。