(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076648
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】電池用材料製造装置、電池用材料製造システムおよび電池用材料製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/04 20060101AFI20240530BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240530BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240530BHJP
【FI】
H01M4/04 Z
H01M4/62 Z
H01M4/139
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188312
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】植田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】平松 靖也
(72)【発明者】
【氏名】中村 諭
(72)【発明者】
【氏名】古木 賢一
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA17
5H050DA10
5H050EA02
5H050EA03
5H050EA08
5H050EA10
5H050FA17
5H050GA03
5H050GA08
5H050GA10
5H050GA27
5H050GA28
5H050GA29
5H050HA01
5H050HA04
5H050HA12
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】空隙の発生を抑制しながら連続して効率よく電池用材料を製造する電池用材料製造装置等を提供する。
【解決手段】電池用材料製造装置100は、延伸装置160、監視装置180および制御装置200を有している。延伸装置160は、基材とフィラーとを混練したシート状の成形品を連続して送出するシート成形装置140から第1搬送速度により受け入れて第1搬送速度より速い第2搬送速度により送出することにより成形品の厚さを薄くする。監視装置180は、成形品に空隙が発生しない延伸条件を判定するために複数の異なる位置における成形品にかかる張力、歪みおよび厚さのいずれかを少なくとも監視して監視データを生成し、延伸条件を制御する制御装置200に監視データを出力する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材とフィラーとを混練したシート状の成形品を連続して送出するシート成形装置から第1搬送速度により受け入れて前記第1搬送速度より速い第2搬送速度により送出することにより前記成形品の厚さを薄くする延伸装置と、
前記成形品に空隙が発生しない延伸条件を判定するために複数の異なる位置における前記成形品にかかる張力、歪みおよび厚さのいずれかを少なくとも監視して監視データを生成し、前記延伸条件を制御する制御装置に前記監視データを出力する監視装置と、
を備える
電池用材料製造装置。
【請求項2】
前記監視装置の出力に応じて前記成形品に空隙が発生しない前記延伸条件を判定し、前記延伸条件に基づいて前記延伸装置を制御する制御装置、をさらに備える
請求項1に記載の電池用材料製造装置。
【請求項3】
前記延伸装置は、前記第1搬送速度により前記成形品を受け入れて前記第2搬送速度により前記成形品を送出する第1延伸部と、第1延伸部が送出した前記成形品を受け入れて前記第2搬送速度より速い第3搬送速度により前記成形品を送出する第2延伸部とを有し、
前記制御装置は、前記監視装置の出力に応じて前記第1搬送速度、前記第2搬送速度および前記第3搬送速度を制御する、
請求項2に記載の電池用材料製造装置。
【請求項4】
前記監視装置は、前記第1延伸部の上流領域に設けられた第1センサと、前記第1延伸部と前記第2延伸部との中間領域に設けられた第2センサと、前記第2延伸部の下流領域に設けられた第3センサと、を有し、
前記制御装置は、前記第1センサ、前記第2センサおよび前記第3センサの出力に応じて前記延伸装置を制御する、
請求項3に記載の電池用材料製造装置。
【請求項5】
前記監視装置は、前記成形品にかかる張力を測定するセンサを有し、
前記制御装置は、予め設定された閾値張力を超えない範囲において前記延伸装置を制御する、
請求項2~4のいずれか一項に記載の電池用材料製造装置。
【請求項6】
前記監視装置は、前記成形品にかかる歪みを監視するセンサを有し、
前記制御装置は前記成形品にかかる歪み速度が予め設定された閾値速度を超えない範囲において前記延伸装置を制御する、
請求項2~4のいずれか一項に記載の電池用材料製造装置。
【請求項7】
前記監視装置は、前記成形品の延伸速度と前記成形品にかかる張力とを監視するセンサを有し、
前記制御装置は、前記成形品において設定された監視部の少なくとも一部が延伸開始後に降伏張力に到達する降伏時刻と、前記監視部が延伸工程を完了する完了時刻とをそれぞれ算出する演算部を有し、前記降伏時刻が前記完了時刻より前の場合には、前記延伸速度を変更するように前記延伸装置を制御し、前記降伏時刻が前記完了時刻より後の場合には、前記延伸速度を維持するように前記延伸装置を制御する、
請求項2~4のいずれか一項に記載の電池用材料製造装置。
【請求項8】
前記監視装置は、前記フィラーの分散状態を判定する光学検査装置を含み、
前記制御装置は、複数の異なる領域における少なくとも前記分散状態に基づいて前記延伸条件を判定する、
請求項2~4のいずれか一項に記載の電池用材料製造装置。
【請求項9】
前記延伸装置は、前記成形品の温度を制御する温度制御部を有し、
前記監視装置は温度センサを有し、
前記制御装置は、前記成形品の温度に応じた前記延伸条件を判定する、
請求項2~4のいずれか一項に記載の電池用材料製造装置。
【請求項10】
基材とフィラーとを混練した流体状の混練物を受け入れる受入口と、前記混練物を送出方向の直交方向に展伸させつつ前記送出方向に案内する展伸部と、前記展伸した前記混練物を前記成形品として連続して送出可能なスリット状の開口部である送出口と、を有し、シート状の前記成形品を連続して前記延伸装置へ送出するシート成形装置と、
請求項1に記載の電池用材料製造装置と、を備える
電池用材料製造システム。
【請求項11】
前記送出口から第4搬送速度により送出されたシート状の前記成形品を受け止めて巻き込みながら繰り出すキャストローラと、前記第4搬送速度より速い第5搬送速度により前記成形品を送出するよう前記キャストローラを回転駆動する回転駆動部と、を有するキャストブロックをさらに備える、
請求項10に記載の電池用材料製造システム。
【請求項12】
前記送出口から送出されたシート状の前記成形品の表裏を挟んで圧延する圧延システムをさらに備える、
請求項10に記載の電池用材料製造システム。
【請求項13】
前記圧延システムは、前記成形品の表裏を挟んで圧延する圧延ローラを有し、
前記制御装置は、前記圧延ローラの回転速度を制御する、
請求項12に記載の電池用材料製造システム。
【請求項14】
前記成形品を裁断してシート状に裁断された前記成形品を製造する裁断装置と、
少なくとも1の裁断された前記成形品を含むシート状の積層対象物を重ねて貼り合わせ、積層体を製造するための積層成形システムをさらに備える、
請求項10に記載の電池用材料製造システム。
【請求項15】
金属箔または樹脂の少なくともいずれかからなる外装材の、少なくとも一部を貼り合わせて前記積層体を封入するために、枠体状のプレス面を有する前記積層成形システムをさらに備える、
請求項14に記載の電池用材料製造システム。
【請求項16】
前記積層成形システムは、減圧環境下で貼り合わせを行うための真空チャンバをさらに備える、
請求項14または15に記載の電池用材料製造システム。
【請求項17】
前記受入口は、前記フィラーとして導電性フィラーを50重量パーセント以上含む前記混練物を受け入れる、
請求項10に記載の電池用材料製造システム。
【請求項18】
延伸装置を有する電池用材料製造装置が、
基材とフィラーとを混練したシート状の成形品を連続して送出するシート成形装置から前記成形品を第1搬送速度により受け入れ、
第2搬送速度により前記成形品を送出することにより前記成形品の厚さが薄くなるよう延伸し、
複数の異なる位置における前記成形品にかかる張力、歪みおよび厚さの少なくともいずれかを監視する監視装置から監視データを取得し、
前記監視データに応じて前記成形品に空隙が発生しない延伸条件を判定し、
前記延伸条件に基づいて前記延伸装置を制御する、
電池用材料製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電池用材料製造装置、電池用材料製造システムおよび電池用材料製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な場面において電池に対する需要が高まる中、次世代電池の開発が進展している。次世代電池の1つとして、例えば、集電体を金属から樹脂に置き換える技術や、電解液を所定のポリマーに含浸させる技術等が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1は、マトリックス樹脂、導電性フィラーおよび導電性フィラー用分散剤を含む導電性樹脂層を有するリチウムイオン電池用樹脂集電体について開示している。
【0004】
特許文献2は、所定の重合体を含むマトリックス樹脂に導電性フィラーが分散した正極用樹脂集電体について開示している。
【0005】
特許文献3は、集電体と上記集電体の表面に配置された負極組成物層とを有するリチウムイオン電池用負極とその製造方法について開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-068587号公報
【特許文献2】特開2021-118046号公報
【特許文献3】特開2021-125337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の特許文献による発明では、リチウムイオン電池ないし電池用材料を大量生産するための手段が確立しているとは言い難い。またフィラーを含むシート状の電池用材料を製造する際に、基材とフィラーとの間に空隙が発生する虞があった。空隙は、電池の品質低下の原因となる。
【0008】
本開示は、このような課題を解決するためになされたものであって、空隙の発生を抑制しながら連続して効率よく電池用材料を製造する電池用材料製造装置等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示にかかる電池用材料製造装置は、延伸装置および監視装置を有している。延伸装置は、基材とフィラーとを混練したシート状の成形品を連続して送出するシート成形装置から第1搬送速度により受け入れて第1搬送速度より速い第2搬送速度により送出することにより成形品の厚さを薄くする。監視装置は、成形品に空隙が発生しない延伸条件を判定するために複数の異なる位置における成形品にかかる張力、歪みおよび厚さのいずれかを少なくとも監視して監視データを生成し、延伸条件を制御する制御装置に監視データを出力する。
【0010】
本開示にかかる電池用材料製造方法は、電池用材料製造装置が、以下の処理を実行する。電池用材料製造装置は、基材とフィラーとを混練したシート状の成形品を連続して送出するシート成形装置から成形品を第1搬送速度により受け入れる。電池用材料製造装置は、第2搬送速度により成形品を送出することにより成形品の厚さが薄くなるよう延伸する。電池用材料製造装置は、複数の異なる位置における成形品にかかる張力、歪みおよび厚さの少なくともいずれかを監視する監視装置から監視データを取得する。電池用材料製造装置は、監視データに応じて成形品に空隙が発生しない延伸条件を判定する。電池用材料製造装置は、延伸条件に基づいて延伸装置を制御する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、空隙の発生を抑制しながら連続して効率よく電池用材料を製造する電池用材料製造装置等を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】実施の形態にかかる電池用材料製造システムの全体構成図である。
【
図3】電池用材料製造システムのブロック図である。
【
図5】成形品の歪みと張力との関係を示す第1のグラフである。
【
図6】成形品の歪みと張力との関係を示す第2のグラフである。
【
図7】成形品の歪みと張力との関係を示す第3のグラフである。
【
図8】電池用材料製造方法のフローチャートである。
【
図9】延伸装置の制御方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、特許請求の範囲にかかる発明を以下の実施形態に限定するものではない。また、実施形態で説明する構成の全てが課題を解決するための手段として必須であるとは限らない。説明の明確化のため、以下の記載および図面は、適宜、省略、および簡略化がなされている。なお、各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。
【0014】
<実施の形態>
以下、図を参照して実施の形態にかかる電池用材料製造システムについて説明する。本実施の形態にかかる電池用材料製造システムは、所定の電池を製造するための材料を製造する。所定の電池とは例えば半固体電池に類するリチウムイオン電池である。
【0015】
図1は、本実施の形態にかかる電池の構成図である。
図1に示す電池P100は上から順に、集電体P10、正極層P20、セパレータP30、負極層P40および集電体P10が層状に重なっている。
【0016】
集電体P10は、上から順に、負極用集電体P11、集電基材P12および正極用集電体P13が層状に重なっている。
【0017】
負極用集電体P11は主な構成として、マトリックス樹脂と、マトリクス樹脂に分散した導電性フィラーと、を有している。マトリクス樹脂は例えばPP(ポリプロピレン)、PMMA(アクリル樹脂)またはPVC(ポリ塩化ビニル)等である。導電性フィラーは例えば、チタン粉末、ニッケル粉、アルミ粉またはカーボンブラックのように導電性を有する粉粒体である。導電性フィラーは、上記に限らず、例えば、カーボンナノチューブ、グラフェンまたは金属ナノワイヤのように導電性を有する繊維体であってもよい。負極用集電体P11は分散剤を含んでもよい。分散剤は、フィルムやシート状に成形可能な樹脂であれば成分や組成は特に限定されない。分散剤は、例えばPPおよびPE(ポリエチレン)の共重合体であってもよい。
【0018】
上述の構成の内、導電性フィラーは、粉粒体にあっては、例えば粒子径が1マイクロメートル以上且つ500マイクロメートル以下であって、質量パーセントが5パーセント以上且つ85パーセント以下であることが好ましく、質量パーセントが20パーセント以上且つ80パーセント以下であることがさらに好ましい。導電性フィラーは、二次粒子を形成していてもよい。二次粒子とは、1ナノメートル以上且つ10マイクロメートル未満の一次粒子が凝集(クラスター化)して形成された凝集粒子である。二次粒子の形状は必ずしも球状の形状や球形に近い塊状の形状である必要は無く、数珠状に連結した形状であってもよいし、樹枝状に枝分かれした部分を有していてもよい。
【0019】
また、導電性フィラーは、繊維体にあっては、例えば繊維径が1ナノメートル以上且つ500ナノメートル以下であって、繊維長が1マイクロメートル以上且つ500マイクロメートル以下であって、質量パーセントが5パーセント以上且つ85パーセント以下であることが好ましく、質量パーセントが20パーセント以上且つ80パーセント以下であることがさらに好ましい。
【0020】
なお、粒子径は、レーザ光の回折と散乱を利用した粒度分布測定装置を用いて、好適に測定可能である。すなわち、粒子径は、粒度分布測定装置による測定において、粒度分布の平均としてもよい。また、繊維径と繊維長についても、上述の粒度分布測定装置を用いて測定可能である。この場合、測定により得られる粒度分布パターンは複数のピークを有するので、小径側のピークを繊維径とし、大径側のピークを繊維長としてもよい。
【0021】
集電基材P12は、負極用集電体P11と正極用集電体P13との間に設けられている。集電基材P12は、例えばPP、PPおよびPEの共重合体、カーボンブラックおよび黒鉛等を含む。
【0022】
正極用集電体P13は、主な構成として、マトリックス樹脂と、マトリクス樹脂に分散した導電性フィラーと、を有している。マトリクス樹脂は例えばPPである。また導電性フィラーは例えば炭素粉および炭素繊維である。炭素粉とは、炭素を主成分とする粉粒体であれば、その形態は限定されない。すなわち、炭素粉は黒鉛でもよいし、カーボンブラックでもよい。また、炭素繊維とは、炭素を主成分とする繊維体であれば、その形態は限定されない。すなわち、炭素繊維はカーボンナノチューブでもよいし、グラフェンでもよい。また、正極用集電体P13は分散剤を含んでもよい。分散剤は、例えばPPおよびPEの共重合体である。
【0023】
上述の構成の内、導電性フィラーは、粉粒体にあっては、例えば粒子径が1マイクロメートル以上且つ500マイクロメートル以下であって、質量パーセントが5パーセント以上且つ85パーセント以下であることが好ましく、質量パーセントが20パーセント以上且つ80パーセント以下であることがさらに好ましい。導電性フィラーは、二次粒子を形成していてもよい。二次粒子とは、1ナノメートル以上且つ10マイクロメートル未満の一次粒子が凝集(クラスター化)して形成された凝集粒子である。二次粒子の形状は必ずしも球状の形状や球形に近い塊状の形状である必要は無く、数珠状に連結した形状であってもよいし、樹枝状に枝分かれした部分を有していてもよい。
【0024】
また、導電性フィラーは、繊維体にあっては、例えば繊維径が1ナノメートル以上且つ500ナノメートル以下であり、繊維長が1マイクロメートル以上且つ500マイクロメートル以下であって、質量パーセントが5パーセント以上且つ85パーセント以下であることが好ましく、質量パーセントが20パーセント以上且つ80パーセント以下であることがさらに好ましい。正極側の集電体P10は、反対の側に負極用集電体P11が配置され、正極用集電体P13が正極層P20に接する。
【0025】
正極層P20は正極用集電体P13とセパレータP30との間に設けられている。正極層P20は、ゲル状の高分子化合物、正極活物質および導電性フィラーを含む。ゲル状の高分子化合物は、導電性を有する樹脂であってもよい。
【0026】
セパレータP30は、正極層P20と負極層P40との間に設けられている。セパレータP30は、例えばポリオレフィン(PO)系の微多孔膜等である。
【0027】
負極層P40は、セパレータP30と負極用集電体P11との間に設けられている。負極層P40は、ゲル状の高分子化合物、負極活物質粒子および導電性フィラーを含む。ゲル状の高分子化合物は、導電性を有する樹脂であってもよい。
【0028】
負極層P40がセパレータP30と接する反対の側には集電体P10が配置されている。負極側の集電体P10は、負極用集電体P11が負極層P40に接し、反対の側に正極用集電体P13が配置される。
【0029】
以上、本実施の形態にかかる電池P100の構成について説明したが、電池P100は、上述の構成に加えて、電池P100の形態を維持するための構造材等を有していても良い。また電池P100は、複数の電池P100が層状に重なるように構成されていてもよい。
【0030】
上述の電池P100において、例えば集電体P10は、以下のように製造できる。すなわち、まず製造者は、集電基材P12をフィルム状に成形する。次に製造者は、成形した集電基材P12の一方の面に負極用集電体P11を塗布して乾燥させる。さらに製造者は、集電基材P12の反対側の面に正極用集電体P13を塗布して乾燥させる。本実施の形態にかかる電池用材料製造システムは、例えばこの集電基材P12を製造する。
【0031】
次に、
図2を参照して、電池用材料製造システムについて説明する。
図2は、実施の形態にかかる電池用材料製造システム10の全体構成図である。
図2に示す電池用材料製造システム10は、各構成を理解容易のために模式的に示したものである。図に示す電池用材料製造システム10は、例えば上述の集電基材P12を連続して製造する。電池用材料製造システム10は主な構成として、電池用材料製造装置100を有している。また電池用材料製造システム10は、電池用材料製造装置100に加えて、原料投入部110、押出装置120、ポンプ部130、シート成形装置140、キャストローラ150、圧延システム190および巻取装置170を有している。
【0032】
(電池用材料製造装置)
電池用材料製造装置100は、基材とフィラーとを混練したシート状の成形品を受け入れ、これを延伸して電池用材料を製造する。電池用材料製造装置100は主な構成として、延伸装置160、監視装置180および制御装置200を有している。
【0033】
延伸装置160は、シート成形装置140が送出するシート状の成形品を受け入れ、受け入れた成形品を延伸し、延伸することにより厚さを薄くした成形品を送出する。延伸装置160が受け入れる成形品は、基材とフィラーとを混練したシート状の成形品をシート成形装置140が連続して送出する。またこのとき、延伸装置160は、成形品を搬送する速度である搬送速度が上流側よりも下流側の方が早くなるように制御される。例えば延伸装置160は、成形品を第1搬送速度により受け入れて第1搬送速度より速い第2搬送速度により送出することにより成形品を延伸し、その厚さを薄くする。延伸装置160は、上述の第1搬送速度および第2搬送速度が制御装置200により制御される。
【0034】
監視装置180は、成形品に空隙が発生しない延伸条件を判定するために複数の異なる位置における成形品にかかる張力、歪みおよび厚さのいずれかを少なくとも監視する。また監視装置180は、成形品にかかる張力、歪みおよび厚さの少なくともいずれかに関する監視データを生成し、生成した監視データを制御装置200に出力する。監視装置180は、例えば成形品にかかる張力を測定する張力センサを有していても良い。また監視装置180は、成形品の歪みを測定するための歪みセンサを有していても良い。なお成形品の歪みは上流側と下流側における厚さの差から算出されるものであってもよい。また成形品の歪みは上流側と下流側における厚さの差と搬送方向に伸びた寸法とから算出されるものであってもよい。この場合、監視装置180は、光学式の寸法測定器により厚さを測定してもよい。また監視装置180は、上流側と下流側の搬送速度の差から成形品が伸びた寸法を算出してもよい。監視装置180は、成形品の外観を撮影することにより寸法変化を監視するイメージセンサを有していても良い。
【0035】
監視装置180は、成形品M2におけるフィラーの分散状態を判定する光学検査装置を含んでいてもよい。フィラーの分散状態を判定する手段は特に限定されないが、例えば単一もしくは複数の波長を有する光を成形品M2に透過させた時の透過光の強さを検出する手段を含んでいてもよい。フィラーの分散状態を判定する手段は、例えば単一もしくは複数の波長を有する光を成形品M2に照射した時に生じる散乱光のうち、特定の波長を検出する手段を含んでいてもよい。フィラーの分散状態を判定する手段は、例えば単一もしくは複数の波長を有する光を成形品M2に照射した時に生じる透過光、反射光、散乱光のうち、少なくともいずれかを検出することでフィラー分散状態を可視的に撮像する手段を含んでいてもよい。この場合、制御装置200は、成形品M2の複数の異なる領域におけるフィラー分散状態に少なくとも基づいて延伸条件を判定する。これにより電池用材料製造システム10は、延伸部において成形品に空隙が発生しているか否かを好適に判定しつつ、延伸条件を判定できる。
【0036】
監視装置180は、成形品M2の温度分布を判定する温度検査装置を含んでいてもよい。成形品M2の温度分布を判定する手段は特に限定されないが、例えば成形品M2から放出される遠赤外光の強さを検出する手段を含んでいてもよい。この場合、制御装置200は、成形品M2の複数の異なる領域における温度分散状態に少なくとも基づいて延伸条件を判定する。
【0037】
制御装置200は、監視装置180の出力に応じて成形品に空隙が発生しない延伸条件を判定し、判定した延伸条件から成形品に空隙が発生しない範囲において延伸装置を制御する。これにより制御装置200は成形品の状態から空隙が発生しないように延伸装置160を制御する。また延伸装置160は空隙の発生を抑制しながら成形品を延伸することができる。
【0038】
なお、電池用材料製造装置100において、延伸装置160は、複数の延伸部を有していても良い。
図2に示す延伸装置160は、第1延伸部161と第2延伸部162とを有している。
【0039】
延伸装置160において、第1延伸部161は、搬送速度V5により成形品M2を受け入れて、搬送速度V6により成形品を送出する。また第2延伸部162は、第1延伸部161が送出した成形品M2を受け入れて搬送速度V7により成形品を送出する。このとき搬送速度V6は、搬送速度V5より速い。また搬送速度V7は、搬送速度V6より速い。この場合、制御装置200は、監視装置180の出力に応じて成形品に空隙が発生しない条件の下で搬送速度V5、搬送速度V6および搬送速度V7を制御する。
【0040】
図2に示した延伸装置160は延伸部を2つ有している。しかし延伸装置160は3つ以上の延伸部を有していても良い。このような構成により、電池用材料製造装置100は、空隙が発生しない範囲の延伸を複数回数行うことができる。これにより、電池用材料製造装置100は、所望の厚さの成形品を空隙が発生しない状態のまま製造できる。
【0041】
また
図2に示した電池用材料製造装置100において、監視装置180は、第1延伸部161の上流領域に設けられた第1センサ181と、第1延伸部161と第2延伸部162との中間領域に設けられた第2センサ182と、第2延伸部162の下流領域に設けられた第3センサ183と、を有している。この場合、制御装置200は、第1センサ181、第2センサ182および第3センサ183の出力に応じて延伸装置160を制御する。これにより電池用材料製造装置100は、複数の延伸部において成形品に空隙が発生しない延伸条件により複数回数の延伸を実行できる。
【0042】
延伸装置160は、成形品の表裏を挟んで延伸する延伸ロールを有している。この場合、制御装置200は、延伸ロールの回転速度を制御する。これにより延伸装置160は成形品を好適に延伸できる。なお延伸装置160は、成形品をガイドするガイドローラ等を有していても良い。
【0043】
電池用材料製造装置100において、監視装置180は、成形品にかかる張力を測定するセンサを有していてもよい。より具体的には、張力センサは延伸装置160における成形品M2の引っ張り方向の力を張力として測定する。その場合、制御装置200は、予め設定された閾値張力を超えない範囲において延伸装置160を制御する。
【0044】
電池用材料製造装置100において、監視装置180は、成形品にかかる歪みを監視するセンサを有していてもよい。その場合、制御装置200は成形品にかかる歪み速度が予め設定された閾値速度を超えない範囲において延伸装置160を制御する。
【0045】
以上、電池用材料製造装置100について説明した。上述のような構成により電池用材料製造装置100は、延伸部において成形品に空隙が発生しない延伸条件を好適に判定したうえで延伸を実行できる。電池用材料製造装置100は、シート成形装置140から受け取った成形品M2の厚さを、例えば500マイクロメートルから5マイクロメートル程度に延伸する。
【0046】
(電池用材料製造システムの構成)
次に電池用材料製造システム10が有する他の構成について説明する。原料投入部110は、原料M1を貯留し、供給口を介して押出装置120に原料M1を供給する。原料投入部110は、ホッパと称される容器であってもよい。原料投入部110はロータリーバルブを含んでいてもよい。原料M1は、基材である樹脂と導電性フィラーとが混練した導電性樹脂のペレットである。原料M1は、フィラーとして例えば導電性フィラーを50重量パーセント以上含む。なお、原料M1の形状や大きさは特に制限されないが、形状が塊状の場合の対角長さは、好ましくは0.1mm~50mmであり、さらに好ましくは1~20mmである。
【0047】
押出装置120は、原料M1を受け入れ、受け入れた原料M1を混練し、混練物をポンプ部130に供給する。ポンプ部130は押出装置120から受け取った混練物をシート成形装置140に供給する。ポンプ部130は例えばギアポンプである。このような構成により、押出装置120は、好適に原料を混練すると共に、所定の圧力によりシート成形装置140に対して原料M1の混練物を供給(圧送)できる。
【0048】
シート成形装置140は、ポンプ部130から原料M1の混練物を受け取り、シート状の成形品M2を連続して送出する。シート成形装置140は具体的にはTダイと称される金型を含む。シート成形装置140は、受入口141、展伸部142および送出口143を有している。受入口141は、基材とフィラーとを混練した流体状の混練物を受け入れる。展伸部142は、混練物を送出方向の直交方向に展伸させつつ送出方向に案内する。送出口143は、展伸した混練物を成形品として連続して送出可能なスリット状の開口部である。シート成形装置140は、キャストローラ150を介してシート状の成形品M2を電池用材料製造装置100に供給する。このときに送出口143が送出する成形品M2の厚さは1000マイクロメートルから1500マイクロメートル程度である。
【0049】
シート成形装置140は上述の構成に加えて、温度制御装置を有していてもよい。またシート成形装置140は脱気部を有していてもよい。脱気部は、シート成形装置140の内部において原料M1に含まれる気泡状のガスを抽出する。
【0050】
脱気部は主な構成として、分岐部、分岐管、貯留部および導出管を有している。分岐部は、シート成形装置140における組成物の流路に設けられた流路である。分岐部の目的は原料M1に含まれる気泡等のガスを抽出することである。そのため、分岐部はシート成形装置140の複数の場所に設けられ得る。
【0051】
分岐管は、分岐部から少なくとも原料M1に含まれる気体を導くための管である。分岐管の流路断面積は特に限定されないが、原料M1がシート成形装置140を通過する際の流速に応じた断面積とすることが望ましい。このため、分岐管は流路の少なくとも1か所に、分岐管の流路断面積を調整するためのバルブを有し得る。なお、バルブは電気信号により開度を調整する機構を有していることが望ましい。
【0052】
貯留部は、分岐管に接続し、分岐部よりも上方に設けられており、分岐管の流路断面積より大きい流路断面積を有する所定の空間である。このような構成により、脱気部は、分岐部から原料M1それ自体が分岐管に流入してきたとしても、貯留部から先へ原料M1が逆流することを抑制できる。
【0053】
導出管は、貯留部に溜まった気体をシート成形装置140の外部に導く。導出管は例えば真空ポンプに接続している。これにより脱気部は原料M1に含まれる気体を吸引する。なお、真空ポンプは複数の導出管に接続していてもよい。貯留部は複数の分岐管に接続していてもよい。このような構成により、電池用材料製造システム10は電池用材料に気泡が発生することを抑制できる。
【0054】
キャストローラ150は、回転しながら、成形品M2をローラ表面に受け、受けた成形品M2を次の工程に送り出す。キャストローラ150は、成形品M2と接触することにより、成形品M2を冷却し、成形品M2を固化する。キャストローラは、成形品M2を所定の温度とするための温度制御部を有していてもよい。キャストローラ150は、受け入れた成形品M2を電池用材料製造装置100に供給する。なお、キャストローラ150は、回転駆動部、変位駆動部および駆動制御部をさらに有することにより、成形品M2の固化の程度および延伸の程度を調整可能であってもよい。この場合例えば、キャストローラ150は、送出口から第4搬送速度により送出されたシート状の成形品を受け止めて巻き込みながら繰り出す。また回転駆動部は、第4搬送速度より速い第5搬送速度により成形品M2を送出するようキャストローラ150を回転駆動する。キャストローラ150、回転駆動部、変位駆動部および駆動制御部を、キャストブロックと称してもよい。上述の構成により、キャストローラ150は、成形品M2を冷却しながら延伸できる。
【0055】
回転駆動部および駆動制御部は、キャストローラ150の表面における速度を所定の速度となるように制御する。例えば、キャストローラが速度V1で受け入れた成形品M2を速度V2で送出する。ここで速度V2は、速度V1より速くなるように設定されている。なお、回転駆動部はキャストローラ150を回転させるためのモータや、キャストローラ150の回転速度を測定するためのセンサ等を有している。
【0056】
変位駆動部は、
図2のZ軸方向(すなわち上下方向)および
図2のX軸方向(すなわち水平方向、あるいはシート状に送出される成形品M2の厚さ方向)に、キャストローラ150を変位させる。より具体的には変位駆動部は例えばZ軸方向とX軸方向のそれぞれに沿って移動可能なリニアレールと、リニアレールに係合し、キャストローラ150を支持する軸受けと、この軸受けをリニアレールに沿って駆動するモータと、を含む。変位駆動部は、駆動制御部から制御信号を受けてキャストローラ150を変位させる。これにより、キャストローラ150は成形品M2の固化および延伸する条件を好適に調整できる。具体的には、変位駆動部は、キャストローラ150の上下方向(Z軸方向)の位置を調整することにより、キャストローラ150に接する成形品M2の温度を調整し、成形品M2の固化の程度を調整する。また変位駆動部は、キャストローラ150の水平方向(X軸方向)の位置の調整することにより、成形品M2が接するキャストローラ150の位置を調整し、成形品M2の延伸の程度を調整する。なお、変位駆動部は、成形品M2の組成に応じてキャストローラ150の位置を変えてもよい。
【0057】
駆動制御部は、回転駆動部と変位駆動部とをそれぞれ駆動する駆動回路と、回転駆動部および変位駆動部から受け取るキャストローラ150の回転速度やキャストローラ150の位置に関するデータに応じて回転駆動部と変位駆動部とをそれぞれ駆動する演算回路と、を含む。
【0058】
上述の構成により、キャストローラ150は、シート成形装置140から送出された高温状態かつ流動性を有する状態の成形品M2を冷却しつつ、延伸する。一般的に、樹脂をフィルム状に成形し延伸する場合は、樹脂が固化した状態で延伸する。しかし、フィラーを含有するシート状の成形品M2が固化した状態で延伸する場合、特にシート成形装置140から送出された直後のシートのように厚さが例えば1mmのように厚いシートの場合には、延伸時にシートが破断したり、シートの厚みムラが発生したりするおそれがある。これを防ぐため、シート成形装置140の後工程は比較的に遅い速度で延伸を行う必要がある。そこで、上述の構成により溶融状態で微量の延伸を行うことにより、電池用材料製造システム10は、フィラーを含有するシート状の成形品M2を、速く、広い幅に、均一に薄くできる。例えば、上述の構成により、キャストローラ150は、厚みが1000マイクロメートルの成形品M2を850マイクロメートルの厚みになるように延伸を行う。
【0059】
圧延システム190は、主な構成として、第1圧延装置191、第2圧延装置192および第3圧延装置193を含む。圧延システム190は、キャストローラ150が送出した成形品M2を速度V2で受け入れ、受け入れた成形品M2を第1圧延装置191により圧延する。第1圧延装置191は、圧延ローラにより成形品M2の表裏を挟み、成形品M2を圧縮しながら速度V3で送出する。
【0060】
第2圧延装置192は、第1圧延装置191が圧延した成形品M2を速度V3で受け入れ、成形品M2をさらに圧縮しながら速度V4で送出する。第3圧延装置193は、第2圧延装置192が圧延した成形品M2を速度V4で受け入れ、成形品M2をさらに圧縮しながら速度V5で送出する。
【0061】
このとき、各圧延装置の送出速度は特に限定されないが、例えばV2<V3<V4<V5のように、後段の圧延装置ほど送出速度が速くなることが好ましい。この様に圧延システム190の各々の圧延装置を個別に速度制御することにより、圧延システム190は成形品M2の厚み方向に対して押し広げる力と集電体P10の送出方向に対して引き延ばす力とを重畳させることができる。このため、圧延システム190を用いれば成形品M2を速く薄く加工できる。よって、電池用材料製造システム10は生産性を向上させることができる。
【0062】
圧延システム190は、上述の構成に加えて、加熱装置をさらに有していても良い。また圧延システム190は、圧延装置を1台以上有していればよい。圧延システム190は、キャストローラ150から受け取った成形品M2の厚さを、例えば850マイクロメートルから500マイクロメートル程度に圧延する。
【0063】
巻取装置170は、電池用材料製造装置100が送出した成形品M2を受け入れ、受け入れた成形品M2をロール状に巻き取る。
【0064】
以上、電池用材料製造システム10の構成について説明した。上述の構成において、電池用材料製造システム10はシート状に成形した電池用材料を段階的に延伸する。これにより電池用材料製造システム10は、空隙の発生を抑制しながら連続して効率よく電池用材料を製造できる。
【0065】
なお、電池用材料製造システム10は、カッタやカッティングローラ等を用いた裁断装置により成形品M2を裁断してシート状に裁断された成形品M2を製造する工程をさらに有していても良い。あるいは電池用材料製造システム10は、複数の成形品M2やシート状の電池用材料を貼り合わせる工程や封入する工程をさらに有していてもよい。すなわち電池用材料製造システム10は、少なくとも1の裁断された成形品M2を含むシート状の積層対象物を重ねて貼り合わせ、積層体を製造する積層成形システムを有していてもよい。
【0066】
また電池用材料製造システム10は、積層対象物である複数の裁断された成形品M2を重ねて貼り合わせる積層成形システムを有していてもよい。複数の成形品M2とは、互いに同じ組成であってもよいし、異なる組成であってもよい。複数の成形品M2とは、例えば正極用集電体P11と集電基材P12であってもよいし、集電体P10と集電基材P12であってもよい。シート状の電池用材料とは、例えば導電性ポリマーや微細な空隙を有するセパレータのような樹脂である。シート状の電池用材料とは、例えばアルミニウム箔や銅箔のような金属である。なお、電池用材料を封入する工程は、成形品M2を含む電池用材料を樹脂や金属の外装材により封入する工程であってもよい。この場合、電池用材料を封入する工程は、第1の金属箔と第2の金属箔との間に枠体状の熱硬化性樹脂を配置することで、外装材の接着性を高めるものであってもよい。
【0067】
電池用材料を貼り合わせる工程もしくは封入する工程は、積層成形システムが担ってもよい。積層成形システムは、上下開閉式の真空チャンバを有し、減圧環境下で、裁断された成形品M2を含む積層対象物を押圧する。具体的には、積層成形システムは例えば一辺が50~600ミリメートル程度になるように裁断された四角形の積層対象物を一端側から受け入れる。次に、積層成形システムは、真空チャンバを閉じることで真空チャンバ内を気密とした後、真空ポンプ等を用いて真空チャンバ内が所定の気圧となるように減圧する。所定の気圧とは、例えば1ヘクトパスカル以下の気圧である。次に、真空チャンバは所定の圧力で積層対象物の所定の領域を押圧する。所定の圧力とは、例えば0.1~10メガパスカルの圧力である。最後に、積層成形システムは積層対象物を他端側から送出すると同時に、次の積層対象物を一端側から受け入れる。なお、積層成形システムは一連の動作や真空チャンバ内の雰囲気調整を制御するための制御部を有する。この制御部は、上述した制御装置200に含まれてもよい。
【0068】
積層成形システムへの積層対象物の受け入れおよび送出する手段は特に限定されないが、例えば真空チャンバに挿通されたポリエチレンテレフタレート(PET)のシートの上に積層対象物を載せ置きし、このシートを真空チャンバ等の動作に連動させて間欠的に移動することで好適に実現できる。また、積層成形システムの押圧手段は特に限定されず、例えば上下のプレス板が油圧または電動により昇降するものであってもよいし、所定の気圧になるようにガスを供給する手段を含むものであってもよい。あるいは押圧手段は、耐熱性ポリマーからなるダイアフラム状の可撓性シートの膨張および収縮を利用するものであってもよい。なお、第1の金属箔と第2の金属箔との間に枠体状の熱硬化性樹脂を配置し、成形品M2を含む積層体である電池用材料を封入する場合、電池用材料製造システム10は、上下のプレス板のうちの一方に枠体状のプレス面を有していることが望ましい。このとき、外装材を貼り合わせる箇所には、電極タブ等による凹凸がある。このため、そのような凹凸に追従するため、例えば下側のプレス面は鏡面加工された金属盤、上側のプレス面は枠体状の耐熱樹脂や耐熱ゴムを含む金属盤により構成されることが好ましい。
【0069】
また、積層成形システムは積層対象物の温度を調整するためのヒータや熱媒等の温度調整機構を有していてもよい。温度調整機構は、積層対象物を加圧する機構に含まれていてもよいし、それ以外の場所に設けてもよい。温度調整機構は、積層対象物の温度を例えば常温から摂氏200度程度の範囲になるように調整する。このようにすることで、積層成形システムは、電池用材料を好適に貼り合わせたり封入したりすることができる。
【0070】
これにより、積層成形システムは積層対象物の間隙における気泡残留等の積層欠陥の発生を防止し、且つ生産性よく、成形品M2を含む電池用材料を貼り合わせたり封入したりすることができる。
【0071】
次に、
図3を参照して、電池用材料製造システム10の機能構成についてさらに説明する。
図3は、電池用材料製造システム10のブロック図である。電池用材料製造システム10は主な構成として、電池用材料製造装置100、押出装置120、シート成形装置140、キャストローラ150および巻取装置170を有している。
図3に示す各構成は適宜通信可能に接続されている。
図3に示すように、押出装置120、シート成形装置140、キャストローラ150および巻取装置170は、電池用材料製造装置100が有する制御装置200に通信可能に接続している。すなわちこれらの各構成は、制御装置200により制御されている。
【0072】
本実施形態にかかる延伸装置160は、成形品の温度を制御する温度制御部163を有していてもよい。温度制御部163は成形品M2が予め設定された温度になるように延伸装置160の雰囲気を制御する。温度制御部163は制御装置200と連携して延伸装置160の温度を制御する。なおこの場合、監視装置180は温度センサを有している。また、制御装置は200、成形品の温度に応じた延伸条件を判定する。これにより電池用材料製造システム10は、より効率が良くロバストな延伸条件を設定できる。
【0073】
制御装置200は、CPU(Central Processing Unit)またはMCU(Micro Controller Unit)などの演算装置を含む。制御装置200は演算部201および記憶部202を含む。制御装置200は成形品の状態を監視する監視装置180から受け取ったデータから延伸条件を判定し、成形品に空隙が発生しないように延伸装置を制御する。
【0074】
演算部201は、監視装置180から受け取ったデータから延伸条件を判定するとともに、判定結果に応じて電池用材料製造システム10の各構成を制御するためのパラメータを選択または算出する。例えば演算部201は、成形品において設定された監視部の少なくとも一部が延伸開始後に降伏張力に到達する降伏時刻と、監視部が延伸工程を完了する完了時刻とをそれぞれ算出する。この場合、制御装置200は、降伏時刻が完了時刻より前の場合には、延伸速度を変更するように延伸装置を制御する。一方、降伏時刻が完了時刻より後の場合には、制御装置200は、延伸速度を維持するように延伸装置を制御する。
【0075】
また制御装置200は電池用材料製造システム10の各構成と通信可能に接続し、各構成を制御する機能を有している。これにより電池用材料製造システム10は、シート成形装置140や電池用材料製造装置100との連携が可能となり、より効率良く電池用材料を製造できる。なお、通信可能に接続する手段は無線であっても有線であってもよい。また、制御装置200は電池用材料製造システム10の各構成の制御の状態を可視的に表示するディスプレイを有していることが望ましい。さらに、制御装置200は電池用材料製造システム10の各構成の状態を、無線通信を介することにより、制御装置200に設けられたディスプレイ以外の媒体に可視的に表示させてもよい。制御装置200に設けられたディスプレイ以外の媒体とは、例えばパソコンやタブレットやスマートフォンである。この場合、電池用材料製造システム10は、それらの媒体もしくはそれらの媒体にインストールされたソフトウェアを介することにより、電池用材料製造システム10の各構成の制御を実行、変更、停止する等の操作を遠隔的に実行できることがさらに望ましい。
【0076】
記憶部202はフラッシュメモリやSSD(Solid State Drive)等の不揮発性メモリを少なくとも有する記憶装置である。記憶部202は、制御装置200が実行するプログラムを少なくとも記憶する。また記憶部202は制御装置200が判定する延伸条件に関するデータを記憶する。すなわち制御装置200は、監視装置180から受け取ったデータと、記憶部202に記憶している延伸条件に関するデータを参照することにより、延伸装置160を制御する。また、記憶部202は過去のデータを電子的にもしくは可視的に外部出力するためのインターフェースを有していてもよい。
【0077】
以上、電池用材料製造システム10の機能構成について説明した。上述の構成により、電池用材料製造装置100は、空隙の発生を抑制しながら成形品を延伸することができる。よって電池用材料製造システム10は、連続的に電池用材料を製造できる。なお、電池用材料製造システム10は、制御装置200を2つ以上有していても良い。その場合、電池用材料製造システム10は、複数の制御装置が互いに通信可能に接続し、連携しながら電池用材料製造システム10の制御を行ってもよい。
【0078】
次に、
図4を参照して、延伸の前後における成形品の状態について説明する。
図4は、成形品の状態を説明するための図である。
図4の左側には延伸前の成形品M2が示されている。ここで、延伸前の成形品M2は、基材F1にフィラーF2が分散して配置されている。
【0079】
図4の右上には延伸条件C1により延伸された延伸後の成形品M2が示されている。延伸条件C1は成形品に空隙が発生する条件である。そのため、延伸後の成形品M2は、フィラーF2の周辺に空隙F3が発生している。
【0080】
図4の右下には延伸条件C2により延伸された延伸後の成形品M2が示されている。延伸条件C2は成形品に空隙が発生しない条件である。そのため、延伸後の成形品M2は、フィラーF2の周辺に空隙F3が発生していない。
【0081】
このように、成形品M2は延伸条件に応じて延伸後に空隙が発生する場合もあるし、空隙が発生しない場合もある。そのため、電池用材料製造装置100は、空隙が発生しない延伸条件を判定したうえで、この延伸条件の下で成形品を延伸する。
【0082】
次に、
図5を参照して、成形品の歪みと張力との関係を参照しながら延伸条件について説明する。
図5は、成形品の歪みと張力との関係を示す第1のグラフである。
図5に示すグラフは、横軸が歪み(S)であって、縦軸が張力(T)を示している。
【0083】
グラフには、サンプルM11のデータが、一点鎖線によりプロットされている。サンプルM11のデータにおいて、丸により示されたポイントR11は、空隙が発生する境界である。すなわちサンプルM11は張力T11より高い張力が付与されると、空隙が発生する。
【0084】
またグラフには、サンプルM11のデータの下側にサンプルM12のデータ実線により示されている。サンプルM12のデータにおいて、丸により示されたポイントR12は、空隙が発生する境界である。すなわちサンプルM12は張力T12より高い張力が付与されると、空隙が発生する。
【0085】
図5に示すように、サンプルに応じてプロットされるデータにばらつきが発生する。そのため、成形品を延伸する場合において、成形品にかかる張力を監視しながら延伸を行う場合、電池用材料製造装置100は、例えば閾値張力Tthを、張力T12より低い値に設定する。これにより電池用材料製造装置100は、空隙が発生しない条件の下で閾値張力Tthより低い張力を付与しながら成形品を延伸できる。
【0086】
次に延伸条件のバリエーションについて説明する。サンプルM12のポイントR12において太字の二点鎖線により示された斜めの直線は、歪みSと張力Tとの変化率dT/dSを示している。サンプルM11とサンプルM12とは、空隙が発生するときにかかっている張力は異なるが、歪みSと張力Tとの変化率dT/dSは略同じ値となっている。そこで、電池用材料製造装置100は、例えば、歪みSと張力Tとの変化率dT/dSに関して閾値を設定することができる。これにより電池用材料製造装置100は歪みSと張力Tとの変化率dT/dSを監視しながら成形品を延伸できる。
【0087】
次に、
図6を参照して成形品を延伸するときの温度および成形品の歪み速度について説明する。
図6は、成形品の歪みと張力との関係を示す第2のグラフである。
図6に示すグラフは、
図5のグラフと同様に、横軸が歪みであって、縦軸が張力を示している。また
図6のグラフは、延伸する際の雰囲気あるいは成形品の温度(延伸温度)が摂氏50度の場合である。
【0088】
図6において、歪み速度1.0s
-1の場合におけるデータが、太字の実線によりプロットされている。この場合の成形品は、ポイントR21における歪みより大きい歪みを受けると空隙が発生する。また歪み速度1.0s
-1の場合のデータの下側には、歪み速度0.5s
-1の場合におけるデータが太字の一点鎖線によりプロットされている。この場合の成形品は、ポイントR22における歪みよりも大きい歪みを受けると空隙が発生する。さらに歪み速度0.5s
-1の場合のデータの下側には、歪み速度0.1s
-1の場合におけるデータが細字の実線によりプロットされている。この場合の成形品は、このグラフが示す歪みの範囲においては、空隙が発生しない。
【0089】
このように、延伸温度が50度の場合において、成形品にかかる歪み速度が異なる場合には、成形品に空隙が発生する条件(延伸条件)がそれぞれ異なる。
【0090】
図7は、成形品の歪みと張力との関係を示す第3のグラフである。
図7に示すグラフは、上述のグラフと同様に、横軸が歪みであって、縦軸が張力を示している。また
図7のグラフは、延伸温度が摂氏125度の場合である。
【0091】
図7において、歪み速度1.0s
-1の場合におけるデータが、太字の実線によりプロットされている。この場合の成形品は、ポイントR31における歪みよりも大きい歪みを受けると空隙が発生する。また歪み速度1.0s
-1の場合のデータの下側には、歪み速度0.5s
-1の場合におけるデータが太字の一点鎖線によりプロットされている。この場合の成形品は、ポイントR32における歪みよりも大きい歪みを受けると空隙が発生する。さらに歪み速度0.5s
-1の場合のデータの下側には、歪み速度0.1s
-1の場合におけるデータが細字の実線によりプロットされている。この場合の成形品は、ポイントR33における歪みよりも大きい歪みを受けると空隙が発生する。
【0092】
上述の通り、成形品を延伸する場合において、空隙が発生する条件は延伸温度に依存する。また成形品を延伸する場合において、空隙が発生する条件は歪み速度に依存する。そのため、電池用材料製造装置100において、制御装置200は、監視装置180からこれらのデータを受け取り、それぞれのデータに応じた延伸条件を判定し、延伸装置160を制御する。これにより、電池用材料製造装置100は、効率よく空隙の発生を抑制しつつ、成形品の延伸加工を実行できる。
【0093】
次に、
図8を参照して、電池用材料製造システム10が実行する処理について説明する。
図8は、電池用材料製造方法のフローチャートである。
【0094】
まず、電池用材料製造システム10は、ユーザの操作に応じて、各構成の温度を調整する(ステップS10)。なおこの場合、電池用材料製造システム10は電池用材料製造装置100の温度調整に加えて、シート成形装置140やキャストローラ150等の温度調整を併せて行う。
【0095】
次に、電池用材料製造システム10は、各構成の駆動と、原料の投入を開始する(ステップS20)。具体的には電池用材料製造システム10は、例えば延伸装置160の延伸ローラの駆動を開始する。あるいは電池用材料製造システム10は、押出装置120が有するスクリュの駆動を開始する。そのうえで電池用材料製造システム10は、原料M1を押出装置120に投入する。
【0096】
次に、電池用材料製造システム10は、シート成形装置140が混練物から成形品M2を送出する(ステップS30)。さらに電池用材料製造システム10は、成形品M2を電池用材料製造装置100に供給して成形品M2を延伸する(ステップS40)。
【0097】
次に、電池用材料製造システム10は電池用材料製造装置100が送出した成形品を巻取装置170に巻き取らせ、回収する(ステップS50)。
【0098】
次に、
図9を参照して、電池用材料製造装置100が実行する処理について説明する。
図9は、延伸装置の制御方法を示すフローチャートである。
図9に示すフローチャートは、
図8のステップS40の詳細を示すものである。
【0099】
まず電池用材料製造装置100は、成形品M2の受入を開始する(ステップS41)。より具体的には、電池用材料製造装置100は、基材とフィラーとを混練したシート状の成形品M2を連続して送出するシート成形装置140から、キャストローラ150を介して成形品M2を受け入れる。ここで、電池用材料製造装置100は、受け入れた成形品M2の厚さが薄くなるよう延伸する。具体的には、電池用材料製造装置100は、例えば成形品M2を第1搬送速度により受け入れ、受け入れた成形品M2を搬送しながら第2搬送速度により成形品M2を送出する。これにより成形品M2の厚さが薄くなるよう延伸する。
【0100】
次に、制御装置200は、監視装置180からデータを受け取る(ステップS42)。ここで監視装置180は上述した種々のデータのうち、予め設定された延伸条件の判定方法に沿ったデータを生成して制御装置200に供給する。またこれに伴い、制御装置200は、予め設定された延伸条件の判定方法に沿ったデータを監視装置180から受け取る。すなわち制御装置200は、複数の異なる位置における成形品にかかる張力、歪みおよび厚さの少なくともいずれかを監視する監視装置180から監視データを取得する。
【0101】
次に、制御装置200は、延伸装置160における成形品M2を送出する際の送出速度VOUTが、成形品M2を受け入れた際の受入速度VINよりも速いか否かを判定する(ステップS43)。送出速度VOUTが受入速度VINよりも速いと判定する場合(ステップS43:YES)、電池用材料製造装置100はステップS44に進む。送出速度VOUTが受入速度VINよりも速いと判定しない場合(ステップS43:NO)、電池用材料製造装置100はステップS46に進む。
【0102】
ステップS44において、制御装置200は、監視装置180から受け取った監視データが、延伸条件の範囲内か否かを判定する。延伸条件の範囲内の場合、成形品M2は空隙が発生していない。一方、延伸条件の範囲内ではない場合、成形品M2は空隙が発生している可能性がある。そこで、監視データが延伸条件の範囲内であると制御装置200が判定した場合(ステップS44:YES)、電池用材料製造装置100はステップS45に進む。一方、監視データが延伸条件の範囲内であると制御装置200が判定しない場合(ステップS44:NO)、電池用材料製造装置100はステップS46に進む。
【0103】
ステップS45において、制御装置200は、延伸装置160が送出する位置における成形品M2の厚さBOUTが、製品の要求仕様の範囲内か否かを判定する。より具体的には、制御装置200は監視装置180から受け取る成形品M2の厚さBOUTが、B1以上、B2未満であるか否かを判定する(ステップS45)。成形品M2の厚さBOUTが、B1以上、B2未満であると制御装置200が判定する場合(ステップS45:YES)、電池用材料製造装置100はステップS43に戻り延伸条件の監視を継続する。一方、成形品M2の厚さBOUTが、B1以上、B2未満であると制御装置200が判定しない場合(ステップS45:NO)、電池用材料製造装置100はステップS46に進む。
【0104】
ステップS46において、制御装置200は、延伸装置160を制御する(ステップS46)。ここで延伸装置160の制御は、監視データの状況等により異なる。制御装置200は例えば延伸装置160の搬送速度および延伸温度の少なくともいずれか一方を変更する。制御装置200が延伸装置160の制御を行った後に、電池用材料製造装置100はステップS43に戻り引き続き成形品M2の監視および延伸装置160の制御を継続する。
【0105】
上述のように、制御装置200は、監視データに応じて成形品M2に空隙が発生しない延伸条件を判定し、延伸条件に基づいて延伸装置160を制御する。これにより、電池用材料製造装置100は、空隙の発生を抑制しながら連続して効率よく電池用材料を製造することができる。
【0106】
なお、上述の電池用材料製造システムの構成において、ローラの形状は円筒状や円柱状に限らず、多面体や歯車状であってもよい。また、ローラは、モータ等の動力により所定の振幅や振動数に制御しながら、揺動や振動が与えられるものであってもよい。これにより、電池用材料製造システム10は、成形品M2を好適に固化、圧延、延伸、および巻取ができる。
【0107】
以上、実施の形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記によって限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0108】
10 電池用材料製造システム
100 電池用材料製造装置
110 原料投入部
120 押出装置
130 ポンプ部
140 シート成形装置
141 受入口
142 展伸部
143 送出口
150 キャストローラ
160 延伸装置
161 第1延伸部
162 第2延伸部
163 温度制御部
170 巻取装置
180 監視装置
181 第1センサ
182 第2センサ
183 第3センサ
190 圧延システム
191 第1圧延装置
192 第2圧延装置
193 第3圧延装置
200 制御装置
201 演算部
202 記憶部
F1 基材
F2 フィラー
F3 空隙
M1 原料
M2 成形品
P10 集電体
P11 正極用集電体
P12 集電基材
P13 負極用集電体
P20 正極層
P30 セパレータ
P40 負極層
P100 電池