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特開2024-76664ひび割れの自己治癒性能を有する吹付けコンクリート及びトンネル構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076664
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】ひび割れの自己治癒性能を有する吹付けコンクリート及びトンネル構造
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/10 20060101AFI20240530BHJP
   E21D 11/38 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
E21D11/10 D
E21D11/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188342
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】守屋 健一
(72)【発明者】
【氏名】大橋 英紀
(72)【発明者】
【氏名】原田 匠
(72)【発明者】
【氏名】サンジェイ パリーク
【テーマコード(参考)】
2D155
【Fターム(参考)】
2D155BB02
2D155CA02
2D155DB00
2D155HA00
2D155KA07
2D155KA08
2D155LA02
2D155LA06
(57)【要約】
【課題】トンネル工事における湧水処理作業を軽減するとともに、施工後におけるトンネル坑内の湧水を減少し、トンネルの耐久性を向上する。
【解決手段】山岳トンネル工事における地山2の掘削面に吹き付けられる吹付けコンクリート3である。前記吹付けコンクリート3に、バクテリアの代謝活動を利用したひび割れ補修材6が含まれている。吹付けコンクリート3にひび割れが生じても、覆工コンクリート5の打設までにひび割れが自己治癒することにより、湧水処理作業が軽減できる。また、トンネル施工後、吹付けコンクリート3にひび割れが生じても、自己治癒するため、トンネル坑内の湧水が減少でき、トンネルの耐久性が向上できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
山岳トンネル工事における地山の掘削面に吹き付けられる吹付けコンクリートであって、
前記吹付けコンクリートに、バクテリアの代謝活動を利用したひび割れ補修材が含まれていることを特徴とするひび割れの自己治癒性能を有する吹付けコンクリート。
【請求項2】
前記補修材の配合量が、2.5~7.5kg/m2である請求項1記載のひび割れの自己治癒性能を有する吹付けコンクリート。
【請求項3】
地山の掘削面に、上記請求項1、2いずれかに記載の吹付けコンクリートが設けられていることを特徴とするトンネル構造。
【請求項4】
前記吹付けコンクリートを一次吹付けコンクリートとして、その内面に二次吹付けコンクリートが設けられ、
前記二次吹付けコンクリートには前記補修材が添加されていない請求項3記載のトンネル構造。
【請求項5】
前記吹付けコンクリートの内面に防水シートが貼り付けられ、その内面に覆工コンクリートが設けられている請求項3記載のトンネル構造。
【請求項6】
トンネル内面が吹付けコンクリートで仕上げられたトンネル構造において、
地山の掘削面に吹き付けられる吹付けコンクリートが、前記ひび割れの自己治癒性能を有する吹付けコンクリートである請求項3記載のトンネル構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バクテリアの代謝活動によるひび割れの自己治癒能力を備えた吹付けコンクリート及びトンネル構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、山岳トンネルの施工では、概ね穿孔・装薬・発破の手順による発破掘削→ズリ搬出→支保工建込み→吹付けコンクリート施工→ロックボルト打設→防水シート貼り付け→覆工コンクリート施工の工程を順に段階的に踏むことにより行われている。
【0003】
このように、吹付けコンクリートと覆工コンクリートとの間に防水シートを介装させることにより、地山の掘削面に生じた湧水が覆工コンクリートより内部に浸出するのを防止する防水工が施されている。
【0004】
また、吹付けコンクリートを施工する際、吹付け面に湧水がある場所では、吹付けコンクリートが付着しにくく、剥離を起こすことがあるので、事前に湧水処理工が施される。『コンクリート委員会吹付けコンクリート研究小委員会編、吹付けコンクリート指針(案)-トンネル編、土木学会』によると、湧水箇所における吹付けコンクリートの施工方法の例として、湧水の程度に応じて次のような方法が挙げられている。
【0005】
(1)湧水が少ない場合(常に湿潤か滴水程度):急結剤を増量することや、液体急結剤を用いている場合は粉体に変更するなどの対策を施す。
【0006】
(2)部分的な湧水がある場合:局部的で一時的なものは湧水箇所を残して吹付けを行う。ある程度以上の湧水がある場合は、ビニールホース等で導水し吹き付ける。
【0007】
(3)広範囲に湧水がある場合:吹付けコンクリートの付着性を向上させるために金網を併用し、フィルター材又はシートを地山に固定して背面排水し、ホース等で水を抜きながら吹き付ける。
【0008】
また、トンネルの漏水対策としての防水工・排水工については、従来より種々の技術が開発されている。例えば、特許文献1には、吹き付け一次覆工コンクリートの内面に透水層を吹付けにより形成し、さらに防水材料による吹き付け遮水層を積層形成することが開示され、特許文献2には、導水材が直接貼り付けられたトンネルの掘削内壁面に吹付けコンクリート層を形成することが開示され、特許文献3には、防水シートの下部に排水材がトンネル方向に沿って取り付けられ、漏水個所の覆工コンクリート側の歩道に排水材に向かって斜め下向きに削孔し、この削孔の上部から車道の側溝に導水管を接続するとともに、削孔の上部を密閉して、吹付けコンクリートと防水シートとの間に流れ込んだ湧水を前記削孔と導水管を通して、車道の側溝に排水することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9-4393号公報
【特許文献2】特開2003-262097号公報
【特許文献3】特開2016-173003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、吹付けコンクリートの吹付け面に対し上述のような湧水処理工を施しても、吹付けコンクリートにひび割れが生じた場合には、覆工コンクリートの打設に際し、防水シートの隙間等から湧水が生じ、コンクリート打設中に打設コンクリートに湧水が入り込み、コンクリートの品質が低下するおそれがある。また、コンクリート打設前に防水シートの隙間等から湧水が確認された場合、この処理を行う手間がある。
【0011】
また、特許文献1の吹き付け遮水層や、特許文献2の導水材を設けたり、特許文献3の排水工を施しても、吹付けコンクリートにひび割れが生じ、このひび割れを通って防水シートの隙間等から湧水が生じる場合があり、この場合にはトンネルの耐久性が低下するおそれがあった。
【0012】
そこで本発明の主たる課題は、吹付けコンクリートがひび割れの自己治癒性能を有することにより、トンネル工事における湧水処理作業を軽減するとともに、施工後におけるトンネル坑内の湧水を減少し、トンネルの耐久性を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、山岳トンネル工事における地山の掘削面に吹き付けられる吹付けコンクリートであって、
前記吹付けコンクリートに、バクテリアの代謝活動を利用したひび割れ補修材が含まれていることを特徴とするひび割れの自己治癒性能を有する吹付けコンクリートが提供される。
【0014】
上記請求項1記載の発明では、山岳トンネル工事における地山の掘削面に、バクテリアの代謝活動を利用したひび割れ補修材を含む吹付けコンクリートが吹き付けられている。このため、吹付けコンクリートにひび割れが生じたとき、このひび割れ部分に地山からの湧水が浸入することによって、吹付けコンクリートに含まれるひび割れ補修材中のバクテリアの代謝活動が活性化され、ひび割れが自然と閉塞(自己治癒)するようになる。
【0015】
吹付けコンクリートの施工後にひび割れが生じた場合、覆工コンクリートの打設までに上述の通りこのひび割れが自己治癒することにより、トンネル工事における湧水処理作業が軽減できる。
【0016】
また、トンネルの施工後に吹付けコンクリートにひび割れが生じた場合においても、このひび割れが自己治癒することにより、防水シートの隙間や覆工コンクリートの打ち継ぎ目などを伝ってトンネル坑内に漏水が発生するのが低減でき、トンネルの耐久性が向上できる。
【0017】
請求項2に係る本発明として、前記補修材の配合量が、2.5~7.5kg/m2である請求項1記載のひび割れの自己治癒性能を有する吹付けコンクリートが提供される。
【0018】
上記請求項2記載の発明では、吹付けコンクリートにひび割れが生じた場合、ひび割れの自己治癒能力が確実に発揮できるひび割れ補修材の配合量について規定している。
【0019】
請求項3に係る本発明として、地山の掘削面に、上記請求項1、2いずれかに記載の吹付けコンクリートが設けられていることを特徴とするトンネル構造が提供される。
【0020】
上記請求項3記載の発明は、地山の掘削面に、バクテリアの代謝活動を利用したひび割れ補修材を含む吹付けコンクリートが設けられたトンネル構造である。このように、ひび割れ補修材を含む吹付けコンクリートが地山の掘削面に隣接して設けられることにより、吹付けコンクリートにひび割れが生じたとき、このひび割れ部分に地山からの湧水が供給されることにより、バクテリアの代謝活動が活性化され、ひび割れが自己治癒する。
【0021】
請求項4に係る本発明として、前記吹付けコンクリートを一次吹付けコンクリートとして、その内面に二次吹付けコンクリートが設けられ、
前記二次吹付けコンクリートには前記補修材が添加されていない請求項3記載のトンネル構造が提供される。
【0022】
上記請求項4記載の発明では、バクテリアの代謝活動を利用したひび割れ補修材を含む吹付けコンクリートを一次吹付けコンクリートとして、その内面に補修材が添加されない二次吹付けコンクリートが積層されている。地山の掘削面に隣接する一次吹付けコンクリートにひび割れ補修材が含まれているため、上述の通り一次吹付けコンクリートに生じたひび割れが自己治癒して漏水が防止できる。一方で、その内面に積層された二次吹付けコンクリートには補修材を添加しないことにより、材料コストが削減できる。
【0023】
請求項5に係る本発明として、前記吹付けコンクリートの内面に防水シートが貼り付けられ、その内面に覆工コンクリートが設けられている請求項3記載のトンネル構造が提供される。
【0024】
上記請求項5記載の発明では、吹付けコンクリートの内面に防水シートを貼り付け、その内面に覆工コンクリートを打設する一般的な防水工が施されたトンネル構造において、前記吹付けコンクリートに上述のひび割れ補修材が含まれている。このため、吹付けコンクリートにおけるひび割れの自己治癒によって湧水の漏水が軽減できるとともに、防水シートによって覆工コンクリート内面への漏水がより確実に防止できるようになる。
【0025】
請求項6に係る本発明として、トンネル内面が吹付けコンクリートで仕上げられたトンネル構造において、
地山の掘削面に吹き付けられる吹付けコンクリートが、前記ひび割れの自己治癒性能を有する吹付けコンクリートである請求項3記載のトンネル構造が提供される。
【0026】
上記請求項6記載の発明では、トンネル内面を吹付けコンクリートで仕上げる場合のトンネル構造には、防水シートが設けられないため、吹付けコンクリートのひび割れを防止して漏水を低減することが特に重要となる。
【発明の効果】
【0027】
以上詳説のとおり本発明によれば、吹付けコンクリートがひび割れの自己治癒性能を有することにより、トンネル工事における湧水処理作業が軽減できるとともに、施工後におけるトンネル坑内の湧水が減少でき、トンネルの耐久性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】第1形態例に係るトンネル構造1の断面図である。
図2】トンネル工事中における吹付けコンクリート3に生じたひび割れの閉塞過程を示す断面図である。
図3】施工後における吹付けコンクリート3に生じたひび割れの閉塞過程を示す断面図である。
図4】バクテリアの代謝活動を示す模式図である。
図5】吹付け設備の概略図である。
図6】第2形態例に係るトンネル構造1Aの断面図である。
図7】第3形態例に係るトンネル構造1Bの断面図(その1)である。
図8】第3形態例に係るトンネル構造1Bの断面図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0030】
〔第1形態例〕
本発明の第1形態例に係るトンネル構造1は、図1に示されるように、NATM工法などで施工された山岳トンネルであって、地山2の掘削面に吹き付けられた吹付けコンクリート3と、前記吹付けコンクリート3の内面に貼り付けられた防水シート4と、前記防水シート4の内面に設けられた覆工コンクリート5とからなるものである。
【0031】
前記吹付けコンクリート3には、バクテリアの代謝活動を利用したひび割れ補修材6が含まれている。この補修材6は、トンネル構造1を構成する部材のうち、地山2の掘削面に隣接する吹付けコンクリート3のみに含有され、覆工コンクリート5などのその他の部材には含まれていない。これにより、高価な補修材6の使用量が少なくて済み、施工コストの削減を図ることができる。
【0032】
このように、地山2の掘削面に隣接して設けられる吹付けコンクリート3に、バクテリアの代謝活動を利用したコンクリートのひび割れ補修材6が含まれることにより、吹付けコンクリート3にひび割れが生じたとき、このひび割れに地山からの湧水が浸入することによって吹付けコンクリート3に含まれるひび割れ補修材6中のバクテリアの代謝活動が活性化して、ひび割れが自然と治癒(自己治癒)するようになる。
【0033】
トンネル工事中において、図2に示されるように、吹付けコンクリート3の施工後にひび割れ7が生じた場合、上述の通りこのひび割れ7が自己治癒することにより、覆工コンクリート5の打設までにひび割れ7が塞がり、トンネル工事中における覆工コンクリート打設前にひび割れ7を通じた湧水処理作業が不要となり、覆工コンクリート5の品質低下を招かないとともに、施工の時間及びコストを低減することができる。
【0034】
また、トンネルの施工後に、図3に示されるように、吹付けコンクリート3にひび割れ7が生じた場合、上述の通りこのひび割れ7が自己治癒することにより、防水シート4の隙間や覆工コンクリート5の打ち継ぎ目などを伝ってトンネル坑内に漏水が発生するのが低減でき、トンネルの耐久性が向上できる。
【0035】
前記補修材6によるひび割れの補修メカニズムについて更に詳しく説明すると、図2及び図3に示されるように、吹付けコンクリート3にひび割れ7が発生すると、この吹付けコンクリート3に含まれる補修材6の被覆層が破壊され、前記補修材6に含まれるバクテリアが、地山2からの湧水によって活性化されるとともに、図4に示されるように、前記補修材6に含まれるバクテリアが栄養素を消費して、コンクリート組織と同系統の炭酸カルシウム(CaCO3)を生成する。このバクテリアによって生成された炭酸カルシウムがひび割れ7内に沈積してひび割れを閉塞する。
【0036】
ひび割れの閉塞後は、ひび割れを伝って浸透する水及び二酸化炭素が遮断されるため、バクテリアは仮死状態に戻る。そして再びひび割れが発生してバクテリアに水分が供給されると、仮死状態のバクテリアが再度活性化してひび割れを補修する。
【0037】
このように補修材6に含まれるバクテリアの代謝活動には水分が必要となるため、常に地山2からの湧水が供給される環境にある、地山の掘削面に直接吹き付けられる吹付けコンクリート3に、ひび割れ補修材6を含有するのが特に効果的である。
【0038】
《補修材の基本的構成》
前記補修材は、吹付けコンクリート3の吹付け時に添加される。前記補修材としては、特表2013-523590号公報に記載されたものを用いるのが好適である。この補修材について、同公報の明細書の記載を一部抜粋しながら以下に説明する。
【0039】
同公報に開示された発明は、その第一の態様において、セメント出発材料及び粒子状補修材を混合してセメント系材料を用意するステップを含む、セメント系材料を作製するための方法であって、補修材が被覆粒子を含み、前記被覆粒子が、細菌材料(バクテリア)及び添加剤を含み、前記細菌材料が、細菌、凍結乾燥細菌及び細菌胞子からなる群から選択される方法を提供する。
【0040】
被覆は、セメント系ベースの材料を作製するための方法において粒子を保護することができるが、セメント系ベースの建築物においてひび割れが生じると(硬化において)、粒子も破損/ひび割れる。このようにして、補修材が放出され、ひび割れを少なくとも部分的に修復することができる。
【0041】
コンクリート又は他のセメントベースの材料に取り込まれた補修材は、水によって活性化されると、材料に形成されたひび割れの自発的修理を行うことができる。この薬剤は、細菌材料及び好ましくは添加剤を含む。細菌は、特に、乾燥(粉末)形態で提供され、特に、凍結乾燥した増殖性細胞であっても、乾燥した細菌胞子であってもよい。従って、細菌材料は、細菌、凍結乾燥細菌及び細菌胞子からなる群から選択される。
【0042】
用語「細菌材料」は、細菌、凍結乾燥細菌及び細菌胞子のうち2種以上の組み合わせ等、細菌材料の組み合わせも意味し得る。或いは又はさらに、用語「細菌材料」は、プラノコッカス(Planococcus)、バチルス(Bacillus)及びスポロサルシナ(Sporosarcina)のうち2種以上等、異なる種類の細菌の組み合わせ、或いは、嫌気性細菌及び好気性細菌の組み合わせ等も意味し得る。
【0043】
さらに、補修材は添加剤を含む。添加剤は、アルカリ性環境において活性細菌により、炭酸カルシウム又はリン酸カルシウム等、生体鉱物へと代謝性転換され得る1又は2以上の有機及び/又はカルシウム含有化合物を含むことができる。有機及び/又はカルシウム含有化合物は、アルカリ性環境における細菌による代謝性転換後に、炭酸カルシウムベースの鉱物(方解石、アラゴナイト、バテライト等)及び/又はリン酸カルシウムベースの鉱物(例えば、アパタイト)等、実質的に水に不溶の沈殿物を形成するリン酸及び/又は炭酸イオン並びにカルシウムイオンを生成する。有機及び/又はカルシウム含有化合物の例として、ギ酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム等の有機カルシウム塩、炭水化物、脂肪酸、アミノ酸、乳酸塩、マレイン酸塩、ギ酸塩、糖、ピルビン酸塩及びフィチン酸塩等の有機リン酸含有化合物が挙げられる。カルシウムベースの前駆体は、本明細書において、「生体鉱物前駆体」又は「カルシウム生体鉱物前駆体」としても表示されている。
【0044】
さらにまた別の一実施形態において、添加剤は、酵母エキス、ペプトン、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩及び微量元素からなる群から選択される等、細菌増殖因子を含む。好ましくは、細菌増殖因子は、微量元素並びに酵母エキス、ペプトン、アスパラギン酸塩及びグルタミン酸塩からなる群から選択される1又は2以上を含む。微量元素は、Zn、Co、Cu、Fe、Mn、Ni、B、P及びMoを含む群から選択される1又は2以上の元素を特に含む。
【0045】
特に、添加剤は、有機化合物からなる群から選択され、好ましくは、酵母エキス、ペプトン、炭水化物、脂肪酸、アミノ酸、乳酸塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩、マレイン酸塩、ギ酸塩、糖及びピルビン酸塩からなる群から選択される1又は2以上の化合物を含むことができる。
【0046】
従って、好ましい一実施形態において、添加剤は、(1)ギ酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、炭水化物、脂肪酸、アミノ酸、乳酸塩、マレイン酸塩、ギ酸塩、糖、ピルビン酸塩及びフィチン酸塩からなる群から選択される1又は2以上の化合物と、(2)好ましくは、酵母エキス、ペプトン、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩及び微量元素からなる群から選択される細菌増殖因子とを含む。好ましくは、添加剤は、カルシウム化合物及び有機化合物(炭水化物、脂肪酸、アミノ酸、乳酸塩、マレイン酸塩、ギ酸塩、糖及びピルビン酸塩等)と共に、微量元素並びに酵母エキス、ペプトン、アスパラギン酸塩及びグルタミン酸塩のうち1又は2以上を含む。有機化合物の代わりに、或いはそれに加えて、添加剤は、フィチン酸塩も含む。特に好ましい一実施形態において、添加剤は、(a)カルシウム化合物と、(b)有機化合物及びリン化合物(フィチン酸塩等)のうち1又は2以上と、(c)微量元素と、(d)酵母エキス、ペプトン、アスパラギン酸塩及びグルタミン酸塩のうち1又は2以上とを含む。
【0047】
従って、一実施形態において、細菌は、アルカリ性培地においてリン酸塩又は炭酸塩沈殿物(アパタイトのような炭酸カルシウム又はリン酸カルシウムベースの鉱物等)を生成できる細菌からなる群から選択される。さらに、一実施形態において、添加剤は、カルシウム化合物、特に、ギ酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム及びグルコン酸カルシウムを含む群から選択される1又は2以上を含む。
【0048】
一実施形態において、細菌は、好気性細菌からなる群から選択される。好気性細菌を用いることの利点は、好気性細菌の細菌材料を含む補修材を、硬化(hardened)セメント系材料が好気性条件に曝露される用途に用いてよいことであると思われる。
【0049】
別の一実施形態において、細菌は、嫌気性細菌からなる群から選択される。嫌気性細菌を用いることの利点は、嫌気性細菌の細菌材料を含む補修材を、硬化セメント系材料が地下適用等、嫌気性条件に曝露される用途に用いてよいことであると思われる。
【0050】
好ましい細菌は、プラノコッカス、バチルス及びスポロサルシナ、特にバチルス(等の属の通性好気性細菌)の群から選択される。特に、嫌気性発酵及び/又は嫌気性硝酸還元によって増殖できる細菌が選択される。
【0051】
粒子状補修材における細菌材料:添加剤の重量比は、特に、1:10,000~1:1,000,000の範囲、即ち、10グラム~1kgの添加剤に対し1mgの細菌材料となることができる。
【0052】
補修材の添加剤画分の2種の亜画分、即ち、生体鉱物前駆体化合物(それを元に細菌による代謝性転換後に炭酸カルシウム又はリン酸カルシウムベースの鉱物が生成される)及び細菌増殖因子(例えば、酵母エキス、ペプトン、アミノ酸、微量元素)の重量比は、特に、10:1~1000:1の範囲、即ち、10グラム~1kgの生体鉱物前駆体化合物に対し1グラムの細菌増殖因子となることができる。
【0053】
補修材の成分は、好ましくは、乾燥又は乾燥状態(粉末形態)にて適切な比率で提供され、(次に)錠剤にプレスされ、セメント及びコンクリート適合層等で被覆される。被覆は、好ましくは、コンクリート又はセメントベース材料調製手順のプロセス(例えば、コンクリート混合物の調製及び成型プロセス)における破損及び溶解に抵抗するように十分に物理的(機械的)に強く、化学的に弾性がある。さらに、被覆は、セメントベース材料の全体的な強度増進に寄与するため、好ましくは、セメントベース混合物の固化(硬化)においてセメントベース材料との安定的な物理的接着を形成する。そして、固化したセメントベース材料においてひび割れが形成されると、被覆が破裂して補修材が放出できるように、好ましくは、補修材を取り巻く被覆は、固化したセメントベースの材料に取り込まれると、好ましくは、周囲のセメント石マトリックスよりも弱くなるべきである。
【0054】
この目的のため、同公報に記載された発明は、そのさらに別の一態様において、細菌材料、添加剤及び任意選択で第二の添加剤の混合物を錠剤へと加工するステップと、前記錠剤を被覆するステップとを含む、粒子状補修材を作製するための方法であって、細菌が、好ましくは、プラノコッカス、バチルス及びスポロサルシナからなる属の群から選択され、添加剤が、ギ酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、炭水化物、脂肪酸、アミノ酸、乳酸塩、マレイン酸塩、ギ酸塩、糖、ピルビン酸塩及びフィチン酸塩からなる群から選択される1又は2以上の化合物を含み、添加剤が好ましくは、酵母エキス、ペプトン、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩及び微量元素からなる群から選択される細菌増殖因子を好ましくは含む方法を提供する。
【0055】
特定の一実施形態において、粒子状補修材を作製するための方法は、本技術分野において公知の技法である、噴霧乾燥、粒子化(prilling)、流動床(fluid bed)コーティング、v型混合機によるブレンディング(v-blending)、ホットブレンディング、球状化処理(spheroidiziation)及び錠剤コーティングからなる群から選択される1又は2以上の被覆方法により錠剤を被覆するステップを含む。任意選択の第二の添加剤は、担体(ゼオライト、粘土等)等のペレット化剤(pelleting agent)、崩壊剤、流動促進剤、潤滑剤、造粒剤、増粘剤、結合剤(澱粉、ラクトース、セルロース等)等となることができる。
【0056】
従って、同公報に記載された発明は、そのさらに別の一態様において、細菌材料、添加剤及び任意選択で第二の添加剤の混合物の錠剤への加工並びに前記錠剤の被覆によって得られる被覆粒子(即ち、粒子状補修材)も提供する。
【0057】
特に、同公報に記載された発明は、補修材が、被覆粒子を含み、前記粒子が、細菌材料及び添加剤を含み、前記細菌材料が、細菌、凍結乾燥細菌及び細菌胞子からなる群から選択され、前記細菌が、好ましくは、プラノコッカス、バチルス及びスポロサルシナ、特にバチルスからなる属の群から選択され、前記添加剤が、ギ酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、炭水化物、脂肪酸、アミノ酸、乳酸塩、マレイン酸塩、ギ酸塩、糖、ピルビン酸塩及びフィチン酸塩からなる群から選択される1又は2以上の化合物を含み、前記添加剤が、好ましくは、酵母エキス、ペプトン、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩及び微量元素からなる群から選択される細菌増殖因子を好ましくは含む、セメント系材料のための粒子状補修材をさらに提供する。
【0058】
上述の通り、特定の一実施形態において、被覆粒子の被覆は、噴霧乾燥、粒子化、流動床コーティング、v型混合機によるブレンディング、ホットブレンディング、球状化処理及び錠剤コーティングからなる群から選択される1又は2以上の被覆方法によって得ることができる。
【0059】
被覆粒子は、特に、被覆粒子の総重量に対して少なくとも50wt.%、より好ましくは少なくとも75wt.%の細菌材料及び添加剤を含むことができる。さらに、被覆粒子は、特に、0.2~4.0mmの範囲の平均寸法を有することができる。本明細書において、用語「寸法」は、長さ、幅、高さ及び直径(複数可)を指す。一実施形態において、被覆粒子は、5μm~2mmの範囲の被覆厚を有することができる。
【0060】
特定の一実施形態において、被覆は、グリコリド、ラクチド、ε-カプロラクトン、δ-バレロラクトン、N-ビニルカプロラクタム、3,6-ジメチル-1,4-ジオキサン-2,5-ジオン、メタクリル酸グリコシルオキシエチル、1,6-ビス(p-アセトキシカルボニル-フェノキシ)ヘキサン及び(3S)-cis-3,6-ジメチル-1,4-ジオキサン-2,5-ジオンを含む群から選択される1又は2以上のモノマー型に基づく(コ)ポリマーベースの被覆を含む。当業者であれば明らかとなる通り、被覆は、多層被覆となることができる。さらに、被覆は、本明細書に構成群として表示されているモノマーのうち1又は2以上を含むことができる。このような被覆は、硬化セメント系材料の内部で、圧力下(ひび割れ形成等により)破損することにより、補修材を放出することができる。別の一実施形態において、被覆は、エポキシベースの(コ)ポリマーを含むことができる。このようなエポキシベースの被覆は、相対的に硬くなることができ、これにより、コンクリート(圧縮)強度に貢献することができる。
【0061】
被覆粒子は、モース硬度計による3~9の範囲、特に、4~5等、4~7の範囲の平均粒子硬度を有することができる。このような強度は、粒子に実質的なダメージを与えることなく、或いは許容されるダメージでセメント系材料及び(その後の)セメント系建築物への加工を可能にするが、一方、セメント系建築物の硬化においてひび割れが生じると、粒子もひび割れることのできるような硬度範囲に収まる。例えば、アパタイトは、モース硬度5を有し、CaCOは、モース硬度3を有するであろう。
【0062】
《補修材6の製造方法》
次に、前記補修材の製造方法について説明する。前記バクテリアは、乾燥した状態で乳酸カルシウム等の栄養素及び酵素とともに混合され、少量ずつ生分解性プラチックで被覆されて粒状の補修材6に成形される。
《補修材6の添加方法》
補修材6が添加される吹付けコンクリート3の施工方法としては、図5に示されるように、湿式方式を用いるのが好ましい。湿式方式では、急結剤及び補修材6を除く全ての材料を練り混ぜてコンクリート原料を生成し、これをアジテータ車などでコンクリートポンプ10に供給する。このコンクリートポンプ10には、ホース11を介してノズル12が接続され、供給されたコンクリートをノズル12に圧送する。
【0063】
ノズル12付近のホース11には、コンプレッサ13の圧縮空気によって急結剤添加装置14から供給された乾燥した粉体状の急結剤が圧送されるホース15を接続するためのY字管からなる合流部16が設けられ、ホース11内を流れるコンクリートに急結剤が添加される。
【0064】
また、この合流部16の上流には、コンプレッサ13の圧縮空気によって補修材添加装置17から供給された乾燥した粉体状の補修材6が圧送されるホース18を接続するためのY字管からなる合流部19が設けられ、ホース11内を流れるコンクリートに補修材6が添加される。
【0065】
上述のようにして急結剤及び補修材6が添加されたコンクリートが、ノズル12から吹き出して地山2の掘削面に吹き付けられる。
【0066】
コンクリート原料に対する前記補修材の配合量は、2.5~7.5kg/m3であるのが好ましい。この範囲で前記補修材を配合することにより、吹付けコンクリート3におけるひび割れの自己治癒能力が確実に発揮されるようになる。
【0067】
前記吹付けコンクリート3には、ひび割れの自己治癒効率を高めるため、短繊維を混入してもよい。前記短繊維は、最初に急結剤及び補修材6以外の材料を練り混ぜる際にコンクリート原料に混入される。前記短繊維を混入後、コンクリート原料の練混ぜによって、前記短繊維はコンクリート原料にほぼ均一に分散するようになる。前記短繊維としては、鋼繊維、ビニロン繊維、ポリエチレン繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維、バサルト繊維などを用いることが可能である。前記短繊維を混入することにより、ひび割れ発生の分散とコンクリートに靭性能を付与することができる。
【0068】
〔第2形態例〕
第2形態例に係るトンネル構造1Aは、図6に示されるように、上述のひび割れ補修材6が含有された吹付けコンクリート3を一次吹付けコンクリートとして、その内面に二次吹付けコンクリート8が積層されており、前記二次吹付けコンクリート8は、前記補修材6が添加されない普通コンクリートで構成されている。地山2の掘削面に隣接した一次吹付けコンクリート3に補修材6が含まれているため、一次吹付けコンクリート3に生じたひび割れが自己治癒して漏水が防止できる。このため、その内面に積層された二次吹付けコンクリート8として、補修材を添加しない普通コンクリートを使用することにより、材料コストの削減を図ることができる。また、材料コスト削減の観点から、一次吹付けコンクリート3は、二次吹付けコンクリート8より厚みを薄くするのが好ましい。
【0069】
〔第3形態例〕
第3形態例に係るトンネル構造1Bは、図7及び図8に示されるように、トンネル内面が吹付けコンクリートによって仕上げられ、防水シート及び覆工コンクリートが設けられない場合において、地山2の掘削面に吹き付けられる吹付けコンクリートとして、前記補修材6が含有されたひび割れの自己治癒性能を有する吹付けコンクリート3を用いている。図7の形態例では、仕上げ吹付けコンクリートが、上述の補修材6が含有された吹付けコンクリート3の1層のみで形成され、図8の形態例では、地山2の掘削面に設けられた上述の補修材6が含有されたひび割れの自己治癒性能を有する一次吹付けコンクリート3と、その内面に積層して設けられた前記補修材6が含有されない二次吹付けコンクリート8とからなる2層構造を有している。本トンネル構造1Bでは、前記吹付けコンクリート3が防水性能を有しているため、吹付けコンクリート3の内面に吹付けなどによって防水膜を形成する防水工を施す必要がなく、工期の短縮及びコスト削減を図ることができる。
【0070】
本トンネル構造1Bは、断面及び延長が小さい小規模トンネルや、トンネル斜坑、避難通路用トンネルなどに適用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1…トンネル構造、2…地山、3…吹付けコンクリート、4…防水シート、5…覆工コンクリート、6…ひび割れ補修材(補修材)、7…ひび割れ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8