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特開2024-76666ひび割れの自己治癒性能を有するモルタルで被覆された鉄筋及びそれを備えたコンクリート構造物
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  • 特開-ひび割れの自己治癒性能を有するモルタルで被覆された鉄筋及びそれを備えたコンクリート構造物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076666
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】ひび割れの自己治癒性能を有するモルタルで被覆された鉄筋及びそれを備えたコンクリート構造物
(51)【国際特許分類】
   E04C 5/02 20060101AFI20240530BHJP
   E04B 1/62 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
E04C5/02
E04B1/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188344
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】守屋 健一
(72)【発明者】
【氏名】大橋 英紀
(72)【発明者】
【氏名】原田 匠
(72)【発明者】
【氏名】岡田 裕平
(72)【発明者】
【氏名】サンジェイ パリーク
【テーマコード(参考)】
2E001
2E164
【Fターム(参考)】
2E001DH35
2E001EA01
2E001KA05
2E164AA02
2E164AA11
(57)【要約】
【課題】鉄筋の腐食を確実に防止し、施工後のメンテナンスにかかる労力及び費用を軽減する。
【解決手段】バクテリアの代謝活動を利用したひび割れ補修材が含有された自己治癒モルタル2で、鉄筋1の周囲が被覆されている。コンクリートに生じたひび割れが自己治癒モルタル2に進展することにより、自己治癒モルタル2に含まれる補修材中のバクテリアに水と二酸化炭素が供給され、これによってバクテリアの代謝活動が活性化し、このバクテリアがコンクリート組織と同系統の炭酸カルシウムを生成し、ひび割れを閉塞する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バクテリアの代謝活動を利用したひび割れ補修材が含有された自己治癒モルタルで周囲が被覆されていることを特徴とするひび割れの自己治癒性能を有するモルタルで被覆された鉄筋。
【請求項2】
前記鉄筋の表面に防錆処理材が塗布され、前記防錆処理材の表面が前記自己治癒モルタルで被覆されている請求項1記載のひび割れの自己治癒性能を有するモルタルで被覆された鉄筋。
【請求項3】
前記自己治癒モルタルの厚さが5~30mmである請求項1記載のひび割れの自己治癒性能を有するモルタルで被覆された鉄筋。
【請求項4】
上記請求項1~3いずれかに記載のひび割れの自己治癒性能を有するモルタルで被覆された鉄筋が内部に備えられたコンクリート構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バクテリアの代謝活動によるひび割れの自己治癒性能を有するモルタルで周囲が被覆された鉄筋及びそれを備えたコンクリート構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物にひび割れが生じると、美観を損なうだけでなく、このひび割れを通じて雨水がコンクリート内部に浸入し、鉄筋の腐食の原因となる。
【0003】
一方、コンクリート構造物では、断面急変部の応力集中によるひび割れや、セメントの水和熱や外気温等による温度変化、乾燥収縮等、外力以外の要因による変形に伴うひび割れが発生することがある。このようなひび割れは、コンクリート配合や打設方法あるいは打設後の養生に十分な配慮をしたとしても、ひび割れ発生の抑制には限度があり、完全に防止することは難しい。
【0004】
ひび割れの補修方法として、従来より、次の方法が知られていた。第1の補修方法は、定期的な目視調査を実施し、ひび割れの発生を確認した部分に樹脂注入などの補修を行う。第2の補修方法は、施工するコンクリートに、ひび割れの自己治癒性能を有するバクテリアを含有させ、このバクテリアの代謝活動によってひび割れを自己治癒させる(下記特許文献1~3)。第3の補修方法は、構造物に発生するひび割れの位置を制御するため、断面欠損部(ひび割れ誘発目地)をあらかじめ設けておき、この部分にひび割れを誘発させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2013-523590号公報
【特許文献2】特開2016-34898号公報
【特許文献3】特表2017-522256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述の第1の補修方法では、定期的な目視調査が必要であり、コンクリート構造物のライフサイクルコストが高くなる場合がある。また、ひび割れの発生から発見や補修実施までにタイムラグがあり、内部の鉄筋の腐食が開始する場合がある。
【0007】
前記第2の補修方法では、ひび割れは部分的であるのに対し、コンクリートに自己治癒性能を付加するには施工する全てのコンクリートにバクテリアを含有させなければならないため、費用が嵩む。
【0008】
前記第3の補修方法では、発生したひび割れの定期的な調査が必要となるとともに、ひび割れの発生から発見・補修実施までにタイムラグがあり、内部の鉄筋の腐食が開始する場合がある。
【0009】
そこで本発明の主たる課題は、鉄筋の腐食を確実に防止し、施工後のメンテナンスにかかる労力及び費用を軽減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、バクテリアの代謝活動を利用したひび割れ補修材が含有された自己治癒モルタルで周囲が被覆されていることを特徴とするひび割れの自己治癒性能を有するモルタルで被覆された鉄筋が提供される。
【0011】
上記請求項1記載の発明では、バクテリアの代謝活動を利用したひび割れ補修材が含有された自己治癒モルタルで鉄筋の周囲が被覆されているため、コンクリートに生じたひび割れが鉄筋の周囲に被覆された自己治癒モルタルに進展することにより、自己治癒モルタルに含まれる補修材中のバクテリアに水と二酸化炭素が供給され、バクテリアの代謝活動が活性化し、このバクテリアがコンクリート組織と同系統の炭酸カルシウムを生成し、ひび割れを閉塞する。したがって、鉄筋までひび割れが進展することなく、鉄筋の腐食が確実に防止できるとともに、施工後のメンテナンスにかかる労力及び費用が軽減できる。
【0012】
請求項2に係る本発明として、前記鉄筋の表面に防錆処理材が塗布され、前記防錆処理材の表面が前記自己治癒モルタルで被覆されている請求項1記載のひび割れの自己治癒性能を有するモルタルで被覆された鉄筋が提供される。
【0013】
上記請求項2記載の発明では、鉄筋の表面に防錆処理材が塗布され、その表面が前記自己治癒モルタルで被覆されているため、前記防錆処理材によって鉄筋の腐食がより確実に抑制される。
【0014】
請求項3に係る本発明として、前記自己治癒モルタルの厚さが5~30mmである請求項1記載のひび割れの自己治癒性能を有するモルタルで被覆された鉄筋が提供される。
【0015】
上記請求項3記載の発明では、前記自己治癒モルタルによるひび割れの修復効果を十分に発揮するため、前記自己治癒モルタルの厚さを5~30mmとしている。
【0016】
請求項4に係る本発明として、上記請求項1~3いずれかに記載のひび割れの自己治癒性能を有するモルタルで被覆された鉄筋が内部に備えられたコンクリート構造物が提供される。
【発明の効果】
【0017】
以上詳説のとおり本発明によれば、鉄筋の腐食が確実に防止できるとともに、施工後のメンテナンスにかかる労力及び費用が軽減できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】自己治癒モルタル2で被覆された鉄筋1を示す斜視図である。
図2】前記鉄筋1が内部に備えられたコンクリート構造物3を示す斜視図である。
図3】バクテリアの代謝活動を示す模式図である。
図4】コンクリート構造物3の構築手順を示す斜視図である。
図5】コンクリート構造物3の構築手順を示す斜視図である。
図6】変形例を示す鉄筋1の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0020】
本発明に係るひび割れの自己治癒性能を有するモルタルで被覆された鉄筋1は、図1に示されるように、バクテリアの代謝活動を利用したひび割れ補修材が含有された自己治癒モルタル2で周囲が被覆されている。図1では、鉄筋1の両端を切断して一部を示したものであるが、実際には両端も含めて鉄筋1の全ての表面が自己治癒モルタル2で覆われており、自己治癒モルタル2以外のコンクリートに接する部分が無い。
【0021】
前記自己治癒モルタル2で被覆された鉄筋1は、図2に示されるように、周囲にコンクリートが流し込まれてコンクリート構造物3を形成する。自己治癒モルタル2の周囲に流し込まれたコンクリートにはバクテリアの代謝活動を利用したひび割れ補修材が含有されていない。流し込まれたコンクリートと鉄筋1との間には、常に自己治癒モルタル2が存在している。
【0022】
〔自己治癒モルタル2〕
前記自己治癒モルタル2としては、一般的なポルトランド系セメントに前記ひび割れ補修材を含有したものを用いてもよいし、特開平9-86997号公報に開示されるポルトランド系セメントと塩化物イオン吸着剤を主成分とする防錆モルタルに前記ひび割れ補修材を含有したものを用いてもよい。この防錆モルタルとしては、三菱マテリアル株式会社製の「アーマ#710P」等が使用できる。
【0023】
前記防錆モルタルは、塩化物イオン吸着剤とアルカリ金属イオン吸着剤をセメントに添加し、さらに、乾燥収縮によるひび割れの発生を防ぐためにセメント系膨張材を成分として含有したものである。海塩粒子や海砂などから付加される塩化物は主として塩化ナトリウムとして供給されるため塩害が促進されるばかりかナトリウムイオンの供給によってアルカリ骨材反応を生じやすくなる。従って、これらには塩化物イオン吸着剤に加えてアルカリ骨材反応を抑制する目的でアルカリ金属イオン吸着剤を添加することが好ましい。
【0024】
前記塩化物イオン吸着剤としては、セメントと反応して消費されることのないカルシウム・アルミニウム複合水酸化物が適当で、日本化学工業株式会社製の「ソルカット」等が使用できる。また、アルカリ金属イオン吸着剤としては日本化学工業株式会社製の合成ゼオライト「アルカット」が使用できる。
【0025】
前記防錆モルタルでは、塩化物イオン吸着剤の添加量は吸着能や安定性、施工性を考慮するとセメント100重量部に対して、15~80重量部が好ましく、25~50重量部がより好ましく、25~35重量部がさらに好ましい。またこの場合に、アルカリ金属イオン吸着剤はセメント100重量部に対して、10重量部までが望ましく、10重量部を超えると異常膨張を生ずる可能性がある。
【0026】
前記セメント系膨張材としては、アウイン鉱物系や酸化カルシウム系のものが寸法安定性の面から好ましく、電気化学工業株式会社製「デンカCSA」や小野田セメント株式会社製「オノダエクスパン」などとして市販されているものが使用できる。
【0027】
前記防錆モルタルは、コテを用いた塗り付けや吹付けにより施工するのが適しており、予防処置として予め鉄筋周辺に塗り付けや吹付けにより施工しておく。なお、防錆モルタルの施工性は、シリカヒュームの添加や、アルカリ金属イオン吸着剤の添加によってさらに良くなる。
【0028】
〔自己治癒モルタル2に含有されるひび割れ補修材の基本的構成〕
次に、前記自己治癒モルタル2に含有されるひび割れ補修材(以下、単に「補修材」ともいう。)について説明する。前記補修材は、自己治癒モルタル2の製造時に添加される。前記補修材としては、特表2013-523590号公報に記載されたものを用いるのが好適である。この補修材について、同公報の明細書の記載を一部抜粋しながら以下に説明する。
【0029】
同公報に開示された発明は、その第一の態様において、セメント出発材料及び粒子状補修材を混合してセメント系材料を用意するステップを含む、セメント系材料を作製するための方法であって、補修材が被覆粒子を含み、前記被覆粒子が、細菌材料(バクテリア)及び添加剤を含み、前記細菌材料が、細菌、凍結乾燥細菌及び細菌胞子からなる群から選択される方法を提供する。
【0030】
被覆は、セメント系ベースの材料を作製するための方法において粒子を保護することができるが、セメント系ベースの建築物においてひび割れが生じると(硬化において)、粒子も破損/ひび割れる。このようにして、補修材が放出され、ひび割れを少なくとも部分的に修復することができる。
【0031】
コンクリート又は他のセメントベースの材料に取り込まれた補修材は、水によって活性化されると、材料に形成されたひび割れの自発的修理を行うことができる。この薬剤は、細菌材料及び好ましくは添加剤を含む。細菌は、特に、乾燥(粉末)形態で提供され、特に、凍結乾燥した増殖性細胞であっても、乾燥した細菌胞子であってもよい。従って、細菌材料は、細菌、凍結乾燥細菌及び細菌胞子からなる群から選択される。
【0032】
用語「細菌材料」は、細菌、凍結乾燥細菌及び細菌胞子のうち2種以上の組み合わせ等、細菌材料の組み合わせも意味し得る。或いは又はさらに、用語「細菌材料」は、プラノコッカス(Planococcus)、バチルス(Bacillus)及びスポロサルシナ(Sporosarcina)のうち2種以上等、異なる種類の細菌の組み合わせ、或いは、嫌気性細菌及び好気性細菌の組み合わせ等も意味し得る。
【0033】
さらに、補修材は添加剤を含む。添加剤は、アルカリ性環境において活性細菌により、炭酸カルシウム又はリン酸カルシウム等、生体鉱物へと代謝性転換され得る1又は2以上の有機及び/又はカルシウム含有化合物を含むことができる。有機及び/又はカルシウム含有化合物は、アルカリ性環境における細菌による代謝性転換後に、炭酸カルシウムベースの鉱物(方解石、アラゴナイト、バテライト等)及び/又はリン酸カルシウムベースの鉱物(例えば、アパタイト)等、実質的に水に不溶の沈殿物を形成するリン酸及び/又は炭酸イオン並びにカルシウムイオンを生成する。有機及び/又はカルシウム含有化合物の例として、ギ酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム等の有機カルシウム塩、炭水化物、脂肪酸、アミノ酸、乳酸塩、マレイン酸塩、ギ酸塩、糖、ピルビン酸塩及びフィチン酸塩等の有機リン酸含有化合物が挙げられる。カルシウムベースの前駆体は、本明細書において、「生体鉱物前駆体」又は「カルシウム生体鉱物前駆体」としても表示されている。
【0034】
さらにまた別の一実施形態において、添加剤は、酵母エキス、ペプトン、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩及び微量元素からなる群から選択される等、細菌増殖因子を含む。好ましくは、細菌増殖因子は、微量元素並びに酵母エキス、ペプトン、アスパラギン酸塩及びグルタミン酸塩からなる群から選択される1又は2以上を含む。微量元素は、Zn、Co、Cu、Fe、Mn、Ni、B、P及びMoを含む群から選択される1又は2以上の元素を特に含む。
【0035】
特に、添加剤は、有機化合物からなる群から選択され、好ましくは、酵母エキス、ペプトン、炭水化物、脂肪酸、アミノ酸、乳酸塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩、マレイン酸塩、ギ酸塩、糖及びピルビン酸塩からなる群から選択される1又は2以上の化合物を含むことができる。
【0036】
従って、好ましい一実施形態において、添加剤は、(1)ギ酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、炭水化物、脂肪酸、アミノ酸、乳酸塩、マレイン酸塩、ギ酸塩、糖、ピルビン酸塩及びフィチン酸塩からなる群から選択される1又は2以上の化合物と、(2)好ましくは、酵母エキス、ペプトン、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩及び微量元素からなる群から選択される細菌増殖因子とを含む。好ましくは、添加剤は、カルシウム化合物及び有機化合物(炭水化物、脂肪酸、アミノ酸、乳酸塩、マレイン酸塩、ギ酸塩、糖及びピルビン酸塩等)と共に、微量元素並びに酵母エキス、ペプトン、アスパラギン酸塩及びグルタミン酸塩のうち1又は2以上を含む。有機化合物の代わりに、或いはそれに加えて、添加剤は、フィチン酸塩も含む。特に好ましい一実施形態において、添加剤は、(a)カルシウム化合物と、(b)有機化合物及びリン化合物(フィチン酸塩等)のうち1又は2以上と、(c)微量元素と、(d)酵母エキス、ペプトン、アスパラギン酸塩及びグルタミン酸塩のうち1又は2以上とを含む。
【0037】
従って、一実施形態において、細菌は、アルカリ性培地においてリン酸塩又は炭酸塩沈殿物(アパタイトのような炭酸カルシウム又はリン酸カルシウムベースの鉱物等)を生成できる細菌からなる群から選択される。さらに、一実施形態において、添加剤は、カルシウム化合物、特に、ギ酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム及びグルコン酸カルシウムを含む群から選択される1又は2以上を含む。
【0038】
一実施形態において、細菌は、好気性細菌からなる群から選択される。好気性細菌を用いることの利点は、好気性細菌の細菌材料を含む補修材を、硬化(hardened)セメント系材料が好気性条件に曝露される用途に用いてよいことであると思われる。
【0039】
別の一実施形態において、細菌は、嫌気性細菌からなる群から選択される。嫌気性細菌を用いることの利点は、嫌気性細菌の細菌材料を含む補修材を、硬化セメント系材料が地下適用等、嫌気性条件に曝露される用途に用いてよいことであると思われる。
【0040】
好ましい細菌は、プラノコッカス、バチルス及びスポロサルシナ、特にバチルス(等の属の通性好気性細菌)の群から選択される。特に、嫌気性発酵及び/又は嫌気性硝酸還元によって増殖できる細菌が選択される。
【0041】
粒子状補修材における細菌材料:添加剤の重量比は、特に、1:10,000~1:1,000,000の範囲、即ち、10グラム~1kgの添加剤に対し1mgの細菌材料となることができる。
【0042】
補修材の添加剤画分の2種の亜画分、即ち、生体鉱物前駆体化合物(それを元に細菌による代謝性転換後に炭酸カルシウム又はリン酸カルシウムベースの鉱物が生成される)及び細菌増殖因子(例えば、酵母エキス、ペプトン、アミノ酸、微量元素)の重量比は、特に、10:1~1000:1の範囲、即ち、10グラム~1kgの生体鉱物前駆体化合物に対し1グラムの細菌増殖因子となることができる。
【0043】
補修材の成分は、好ましくは、乾燥又は乾燥状態(粉末形態)にて適切な比率で提供され、(次に)錠剤にプレスされ、セメント及びコンクリート適合層等で被覆される。被覆は、好ましくは、コンクリート又はセメントベース材料調製手順のプロセス(例えば、コンクリート混合物の調製及び成型プロセス)における破損及び溶解に抵抗するように十分に物理的(機械的)に強く、化学的に弾性がある。さらに、被覆は、セメントベース材料の全体的な強度増進に寄与するため、好ましくは、セメントベース混合物の固化(硬化)においてセメントベース材料との安定的な物理的接着を形成する。そして、固化したセメントベース材料においてひび割れが形成されると、被覆が破裂して補修材が放出できるように、好ましくは、補修材を取り巻く被覆は、固化したセメントベースの材料に取り込まれると、好ましくは、周囲のセメント石マトリックスよりも弱くなるべきである。
【0044】
この目的のため、同公報に記載された発明は、そのさらに別の一態様において、細菌材料、添加剤及び任意選択で第二の添加剤の混合物を錠剤へと加工するステップと、前記錠剤を被覆するステップとを含む、粒子状補修材を作製するための方法であって、細菌が、好ましくは、プラノコッカス、バチルス及びスポロサルシナからなる属の群から選択され、添加剤が、ギ酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、炭水化物、脂肪酸、アミノ酸、乳酸塩、マレイン酸塩、ギ酸塩、糖、ピルビン酸塩及びフィチン酸塩からなる群から選択される1又は2以上の化合物を含み、添加剤が好ましくは、酵母エキス、ペプトン、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩及び微量元素からなる群から選択される細菌増殖因子を好ましくは含む方法を提供する。
【0045】
特定の一実施形態において、粒子状補修材を作製するための方法は、本技術分野において公知の技法である、噴霧乾燥、粒子化(prilling)、流動床(fluid bed)コーティング、v型混合機によるブレンディング(v-blending)、ホットブレンディング、球状化処理(spheroidiziation)及び錠剤コーティングからなる群から選択される1又は2以上の被覆方法により錠剤を被覆するステップを含む。任意選択の第二の添加剤は、担体(ゼオライト、粘土等)等のペレット化剤(pelleting agent)、崩壊剤、流動促進剤、潤滑剤、造粒剤、増粘剤、結合剤(澱粉、ラクトース、セルロース等)等となることができる。
【0046】
従って、同公報に記載された発明は、そのさらに別の一態様において、細菌材料、添加剤及び任意選択で第二の添加剤の混合物の錠剤への加工並びに前記錠剤の被覆によって得られる被覆粒子(即ち、粒子状補修材)も提供する。
【0047】
特に、同公報に記載された発明は、補修材が、被覆粒子を含み、前記粒子が、細菌材料及び添加剤を含み、前記細菌材料が、細菌、凍結乾燥細菌及び細菌胞子からなる群から選択され、前記細菌が、好ましくは、プラノコッカス、バチルス及びスポロサルシナ、特にバチルスからなる属の群から選択され、前記添加剤が、ギ酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、炭水化物、脂肪酸、アミノ酸、乳酸塩、マレイン酸塩、ギ酸塩、糖、ピルビン酸塩及びフィチン酸塩からなる群から選択される1又は2以上の化合物を含み、前記添加剤が、好ましくは、酵母エキス、ペプトン、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩及び微量元素からなる群から選択される細菌増殖因子を好ましくは含む、セメント系材料のための粒子状補修材をさらに提供する。
【0048】
上述の通り、特定の一実施形態において、被覆粒子の被覆は、噴霧乾燥、粒子化、流動床コーティング、v型混合機によるブレンディング、ホットブレンディング、球状化処理及び錠剤コーティングからなる群から選択される1又は2以上の被覆方法によって得ることができる。
【0049】
被覆粒子は、特に、被覆粒子の総重量に対して少なくとも50wt.%、より好ましくは少なくとも75wt.%の細菌材料及び添加剤を含むことができる。さらに、被覆粒子は、特に、0.2~4.0mmの範囲の平均寸法を有することができる。本明細書において、用語「寸法」は、長さ、幅、高さ及び直径(複数可)を指す。一実施形態において、被覆粒子は、5μm~2mmの範囲の被覆厚を有することができる。
【0050】
特定の一実施形態において、被覆は、グリコリド、ラクチド、ε-カプロラクトン、δ-バレロラクトン、N-ビニルカプロラクタム、3,6-ジメチル-1,4-ジオキサン-2,5-ジオン、メタクリル酸グリコシルオキシエチル、1,6-ビス(p-アセトキシカルボニル-フェノキシ)ヘキサン及び(3S)-cis-3,6-ジメチル-1,4-ジオキサン-2,5-ジオンを含む群から選択される1又は2以上のモノマー型に基づく(コ)ポリマーベースの被覆を含む。当業者であれば明らかとなる通り、被覆は、多層被覆となることができる。さらに、被覆は、本明細書に構成群として表示されているモノマーのうち1又は2以上を含むことができる。このような被覆は、硬化セメント系材料の内部で、圧力下(ひび割れ形成等により)破損することにより、補修材を放出することができる。別の一実施形態において、被覆は、エポキシベースの(コ)ポリマーを含むことができる。このようなエポキシベースの被覆は、相対的に硬くなることができ、これにより、コンクリート(圧縮)強度に貢献することができる。
【0051】
被覆粒子は、モース硬度計による3~9の範囲、特に、4~5等、4~7の範囲の平均粒子硬度を有することができる。このような強度は、粒子に実質的なダメージを与えることなく、或いは許容されるダメージでセメント系材料及び(その後の)セメント系建築物への加工を可能にするが、一方、セメント系建築物の硬化においてひび割れが生じると、粒子もひび割れることのできるような硬度範囲に収まる。例えば、アパタイトは、モース硬度5を有し、CaCOは、モース硬度3を有するであろう。
【0052】
〔補修材の製造方法〕
次に、前記補修材の製造方法について説明する。前記バクテリアは、乾燥した状態で乳酸カルシウム等の栄養素及び酵素とともに混合され、少量ずつ生分解性プラスチックで被覆されて粒状の補修材に成形される。
【0053】
〔自己治癒モルタル2の製造方法〕
コンクリート原料(セメント出発材料)及び粒子状補修材は、一体に混合される。この操作は、セメント系材料を作製する(従来の)方法において、従来の仕方で行うことができる。
【0054】
コンクリート原料に対する前記補修材の配合量は、2.5~7.5kg/m3であるのが好ましい。この範囲で前記補修材を配合することにより、自己治癒モルタル2におけるひび割れの自己治癒能力が確実に発揮されるようになる。
【0055】
前記自己治癒モルタル2には、ひび割れの自己治癒効率を高めるため、短繊維を混入してもよい。前記短繊維は、前記補修材を配合するのと同時に、或いはその前工程又は後工程において、コンクリート原料に混入される。前記短繊維を混入後、コンクリート原料の練混ぜによって、前記短繊維は自己治癒モルタル2にほぼ均一に分散するようになる。前記短繊維としては、鋼繊維、ビニロン繊維、ポリエチレン繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維、バサルト繊維などを用いることが可能である。前記短繊維を混入することにより、ひび割れ発生の分散とコンクリートに靭性能を付与することができる。
【0056】
前記自己治癒モルタル2で周囲が被覆された鉄筋1が内部に備えられたコンクリート構造物3としては、新設の構造物はもちろんのこと、既設の構造物の耐震補強工事やリニューアル工事などに用いることも可能である。
【0057】
〔補修材によるひび割れの補修メカニズム〕
コンクリート構造物3に発生したひび割れが、埋設された自己治癒モルタル2に進展し、自己治癒モルタル2の表面にひび割れが発生すると、自己治癒モルタル2に含まれる補修材の被覆層が破壊され、前記補修材に含まれるバクテリアがひび割れを伝って浸透した水分によって活性化されるとともに、図3に示されるように、前記補修材に含まれるバクテリアが栄養素を消費して、コンクリート組織と同系統の炭酸カルシウム(CaCO3)を生成する。このバクテリアによって生成された炭酸カルシウムがひび割れ内に沈積してひび割れを閉塞する。自己治癒モルタル2で生成された炭酸カルシウムは、コンクリート構造物3のひび割れ部分にも沈積して、コンクリート構造物3のひび割れも閉塞する。
【0058】
ひび割れの閉塞後は、ひび割れを伝って浸透する水及び二酸化炭素が遮断されるため、バクテリアは仮死状態に戻る。再びひび割れが発生してバクテリアに水分が供給されると、仮死状態のバクテリアが活性化してひび割れを補修する。
【0059】
〔コンクリート構造物の構築手順〕
前記自己治癒モルタル2が被覆された鉄筋1を用いてコンクリート構造物3を構築する手順としては、図1に示されるように、予め鉄筋1に自己治癒モルタル2を吹付け又は塗り付けによって被覆しておき、自己治癒モルタル2の硬化後、鉄筋1を所定の形態に組立て、その周囲に型枠を設置して型枠内にコンクリートを流し込むことによりコンクリート構造物3を構築する。
【0060】
また他の構築手順としては、図4に示されるように、現場とは別の場所で、予め鉄筋1を所定の形態に組立てておき、組み立てた鉄筋1に自己治癒モルタル2を吹付け又は塗り付けによって被覆し、自己治癒モルタル2の硬化後、自己治癒モルタル2で被覆された鉄筋1を現場の所定の位置にセットし、施工済のコンクリート構造物から延びる鉄筋との継手部分にも自己治癒モルタル2の被覆処理を行った上で、その周囲に設置された型枠内にコンクリートを流し込むことによりコンクリート構造物3を構築する。
【0061】
さらに他の構築手順としては、図5に示されるように、現場の所定の位置に鉄筋1を所定の形態に組立て、組み立てた鉄筋1に自己治癒モルタル2を吹付け又は塗り付けによって被覆し、自己治癒モルタル2の硬化後、その周囲に設置された型枠内にコンクリートを流し込むことによりコンクリート構造物3を構築する。
【0062】
前記自己治癒モルタル2の厚さは5~30mm、好ましくは5~20mmとするのがよい。これにより、自己治癒モルタル2におけるひび割れの修復効果が十分に発揮できる。
【0063】
〔変形例〕
上記形態例では、鉄筋1の表面を直接自己治癒モルタル2で被覆していたが、図6に示されるように、鉄筋1の表面に防錆処理材4を塗布し、この防錆処理材4の表面を自己治癒モルタル2で被覆するようにしてもよい。鉄筋1の表面を防錆処理材4で覆うことにより防食効果が大きくなる。この場合、鉄筋1の全ての表面が防錆処理材4で覆われており、この防錆処理材4の全ての表面が自己治癒モルタル2で覆われるようになる。すなわち、コンクリート構造物3を構築する際に流し込まれたコンクリートと、鉄筋1との間には、常に防錆処理材4の層と自己治癒モルタル2の層の2層が存在することとなる。
【0064】
前記防錆処理材4としては、鉄筋の腐食を防止し得るコンクリート構造物補修用のものであれば市販のものを制限なく使用でき、特に特開平9-86997号公報に開示された防錆ペーストを用いるのが望ましい。
【0065】
前記防錆ペーストは、ポルトランド系セメントと塩化物イオン吸着剤を主成分とするものである。前記防錆ペーストは、塩化物イオンを吸着する塩化物イオン吸着剤とナトリウムイオンを吸着するアルカリ金属イオン吸着剤をセメントに添加したもので、施工性と鉄筋との付着力を改善するためにエマルジョンまたはラテックスを加えることができる。
【0066】
前記塩化物イオン吸着剤としては、セメントと反応して消費されることのないカルシウム・アルミニウム複合水酸化物が適当で、日本化学工業株式会社製の「ソルカット」等が使用できる。また、アルカリ金属イオン吸着剤としては日本化学工業株式会社製の合成ゼオライト「アルカット」が使用できる。
【0067】
防錆ペーストでは、塩化物イオン吸着剤の添加量は防錆効果、施工性などを考慮するとセメント100重量部に対して、10~70重量部の範囲内で使用することが好ましく、15~60重量部がより好ましく、15~25重量部がさらに好ましい。添加量が過剰となると施工性は悪くなり、ペーストに異常ひび割れを生ずる傾向がある。またこの場合に、アルカリ金属イオン吸着剤はセメント100重量部に対して30重量部まで添加できる。
【0068】
施工性を改善するためのエマルジョン、ラテックスはセメント100重量部に対して、固形分が5~30重量部となるよう添加でき、エマルジョンまたはラテックスの種類としてはアクリル樹脂エマルジョン、スチレン・ブタジエンゴムラテックスなどがある。
【0069】
前記防錆ペーストは、予防処置として予め鉄筋に刷毛などで塗布するか吹付けておく。前記防錆ペーストの塗布厚は1~3mmとするのがよい。
【符号の説明】
【0070】
1…鉄筋、2…自己治癒モルタル、3…コンクリート構造物、4…防錆処理材
図1
図2
図3
図4
図5
図6