(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076673
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】二軸引張試験方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/04 20060101AFI20240530BHJP
G01N 3/08 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
G01N3/04 D
G01N3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188352
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】石田 輝一
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA01
2G061AB09
2G061BA07
2G061CA10
2G061CB01
2G061CC03
2G061EA01
2G061EA02
2G061EA03
2G061EA04
2G061EB07
(57)【要約】
【課題】二軸引張試験の測定精度の低下を抑制できる二軸引張試験方法を提供すること。
【解決手段】複数の被挟持部4a~4dには、本体部3側を板厚方向に凹ませた段差7,9がそれぞれ形成されている。更に、複数のチャック21には、各々のチャック21で挟んだ被挟持部4a~4dの段差7,9の本体部3側に引っ掛かる爪22,24がそれぞれ形成されている。この段差7,9と爪22,24との引っ掛かりにより、二軸引張試験において被挟持部4a~4dに対しチャック21を張出方向(被挟持部4bでは第2方向D2)へ滑らせ難くできる。よって、その滑りに起因した二軸引張試験の測定精度の低下を抑制できる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の弾性体製の試験片を二軸引張試験機で引っ張ることにより前記試験片の二軸引張試験を行う二軸引張試験方法であって、
前記試験片は、矩形状の本体部と、
前記試験片の板厚方向から見て、前記本体部の四辺からそれぞれに垂直な張出方向へ張り出す複数の被挟持部と、を備え、
複数の前記被挟持部には、前記本体部側を前記板厚方向に凹ませた少なくとも1の段差がそれぞれ形成され、
前記二軸引張試験機は、複数の前記被挟持部をそれぞれ前記板厚方向に挟む複数のチャックと、
複数の前記チャックをそれぞれ移動させるアクチュエータと、を備え、
複数の前記チャックには、各々の前記チャックで挟んだ前記被挟持部の前記段差の前記本体部側に引っ掛かる少なくとも1の爪がそれぞれ形成され、
複数の前記チャックで複数の前記被挟持部をそれぞれ挟む取付ステップと、
前記取付ステップで挟まれた複数の前記被挟持部をそれぞれの前記張出方向へ、前記アクチュエータによる前記チャックの前記張出方向の移動によって引っ張り、前記二軸引張試験を行う試験ステップと、を備えることを特徴とする二軸引張試験方法。
【請求項2】
前記段差は、前記被挟持部から前記板厚方向に突出した凸部の前記本体部側の面によって形成され、
前記爪は、前記凸部に嵌まるように前記チャックに設けた凹部の前記本体部側の面によって形成されていることを特徴とする請求項1記載の二軸引張試験方法。
【請求項3】
前記チャックは、前記被挟持部に対して前記張出方向および前記板厚方向に垂直な幅方向の寸法が小さい、
前記凸部は、前記被挟持部の前記幅方向の全長に亘って形成されていることを特徴とする請求項2記載の二軸引張試験方法。
【請求項4】
前記被挟持部は、前記本体部から前記張出方向へ延びる薄板部と、
前記薄板部から前記張出方向へ延びて前記薄板部よりも板厚が厚い厚板部と、を備え、
前記段差は、前記薄板部と前記厚板部との板厚の差によって形成され、
前記チャックは、前記薄板部と非接触で前記厚板部を前記板厚方向に挟むことを特徴とする請求項1記載の二軸引張試験方法。
【請求項5】
前記チャックで挟まれた前記被挟持部の各々において、前記段差および前記爪は、前記張出方向および前記板厚方向に垂直な幅方向と平行に形成されていることを特徴とする請求項1記載の二軸引張試験方法。
【請求項6】
前記チャックは、前記被挟持部に対して前記張出方向および前記板厚方向に垂直な幅方向の寸法が小さい、
前記チャックで前記被挟持部を挟んだ状態において、前記チャックの前記幅方向の両側の前記被挟持部からそれぞれ一対の横凸部が前記板厚方向に突出していることを特徴とする請求項1記載の二軸引張試験方法。
【請求項7】
前記チャックで挟まれた前記被挟持部の各々において、前記段差および前記爪は、前記張出方向に複数並んでいることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の二軸引張試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二軸引張試験方法に関し、特に二軸引張試験の測定精度の低下を抑制できる二軸引張試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
板状の弾性体からなる試験片を、互いに直交する二軸の4方向に沿って引っ張ることにより、試験片の歪み-応力データを測定する二軸引張試験が知られている。例えば、従来の二軸引張試験では、試験片に対し4方向にそれぞれ配置した複数のチャックで試験片を挟み、それら複数のチャックをそれぞれアクチュエータで4方向に移動させることにより、試験片を4方向に引っ張る(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、試験片の平坦部分をチャックの平坦な面で挟む従来の二軸引張試験では、引張変形した試験片がポアソン効果によって薄くなり、チャックによる試験片の挟持力が低下してしまう。これにより、チャックに対し試験片が滑ることがあり、その滑りに起因して二軸引張試験の測定精度が低下するという問題点がある。
【0005】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、二軸引張試験の測定精度の低下を抑制できる二軸引張試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明の二軸引張試験方法は、板状の弾性体製の試験片を二軸引張試験機で引っ張ることにより前記試験片の二軸引張試験を行う方法であって、前記試験片は、矩形状の本体部と、前記試験片の板厚方向から見て、前記本体部の四辺からそれぞれに垂直な張出方向へ張り出す複数の被挟持部と、を備え、複数の前記被挟持部には、前記本体部側を前記板厚方向に凹ませた少なくとも1の段差がそれぞれ形成され、前記二軸引張試験機は、複数の前記被挟持部をそれぞれ前記板厚方向に挟む複数のチャックと、複数の前記チャックをそれぞれ移動させるアクチュエータと、を備え、複数の前記チャックには、各々の前記チャックで挟んだ前記被挟持部の前記段差の前記本体部側に引っ掛かる少なくとも1の爪がそれぞれ形成され、複数の前記チャックで複数の前記被挟持部をそれぞれ挟む取付ステップと、前記取付ステップで挟まれた複数の前記被挟持部をそれぞれの前記張出方向へ、前記アクチュエータによる前記チャックの前記張出方向の移動によって引っ張り、前記二軸引張試験を行う試験ステップと、を備える。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の二軸引張試験方法によれば、まず取付ステップにおいて、二軸引張試験機の複数のチャックで試験片の複数の被挟持部をそれぞれ板厚方向に挟む。次の試験ステップでは、取付ステップで挟まれた複数の被挟持部を、試験片の本体部から被挟持部が張り出した方向である張出方向へそれぞれ引っ張り、二軸引張試験を行う。この被挟持部の引っ張りは、二軸引張試験機のアクチュエータで複数のチャックを張出方向へ移動させることによって行われるため、被挟持部に対してチャックが張出方向へ滑るおそれがある。この対策として、複数の被挟持部には、本体部側を板厚方向に凹ませた少なくとも1の段差がそれぞれ形成されている。更に、複数のチャックには、各々のチャックで挟んだ被挟持部の段差の本体部側に引っ掛かる少なくとも1の爪がそれぞれ形成されている。この段差と爪との引っ掛かりにより、二軸引張試験(試験ステップ)において被挟持部に対しチャックを張出方向へ滑らせ難くできる。よって、その滑りに起因した二軸引張試験の測定精度の低下を抑制できる。
【0008】
請求項2記載の二軸引張試験方法によれば、請求項1記載の二軸引張試験方法が奏する効果に加え、次の効果を奏する。被挟持部から板厚方向に突出した凸部の本体部側の面によって段差が形成されている。また、凸部に嵌まるようにチャックに設けた凹部の本体部側の面によって爪が形成されている。取付ステップにおいて凹部と凸部とを嵌め合うことで、被挟持部に対しチャックを張出方向に位置決めし易くでき、二軸引張試験中でなくても段差に爪を当て易くできる。これにより、二軸引張試験の初期段階で段差に爪が引っ掛かるまでの間、被挟持部に対してチャックが張出方向へ滑ることを抑制できる。よって、その滑りに起因した二軸引張試験の測定精度の低下を抑制できる。
【0009】
請求項3記載の二軸引張試験方法によれば、請求項2記載の二軸引張試験方法が奏する効果に加え、次の効果を奏する。チャックは、被挟持部に対して張出方向および板厚方向に垂直な幅方向の寸法が小さい。これにより、被挟持部の幅方向の変形がチャックで阻害され難くなる。更に、被挟持部の幅方向の全長に亘って凸部が形成されているため、凸部がリブのように被挟持部を補強する。これにより、チャックで挟まれた被挟持部の幅方向の一部が、チャックで挟まれない被挟持部の幅方向の他部に対しせん断方向へ変形することを抑制できる。よって、被挟持部の幅方向の全体を均一にチャックで引っ張り易いので、二軸引張試験の測定精度を向上できる。
【0010】
請求項4記載の二軸引張試験方法によれば、請求項1記載の二軸引張試験方法が奏する効果に加え、次の効果を奏する。被挟持部は、本体部から張出方向へ延びる薄板部と、薄板部から張出方向へ延びて薄板部よりも板厚が厚い厚板部と、を備える。この薄板部と厚板部との板厚の差によって段差が形成され、薄板部と非接触のチャックが厚板部を板厚方向に挟む。これにより、被挟持部のうちチャックで挟まれる部位(厚板部)の最も本体部側に爪が引っ掛って、厚板部の全体をチャックで引っ張り易くできると共に、薄板部がチャックで直接引っ張られないようにできる。これにより、チャックで引っ張られたときに張出方向に変形し易い部位が明確になり、二軸引張試験の測定精度を向上できる。
【0011】
請求項5記載の二軸引張試験方法によれば、請求項1記載の二軸引張試験方法が奏する効果に加え、次の効果を奏する。チャックで挟まれた被挟持部の各々において、段差および爪は、張出方向および板厚方向に垂直な幅方向と平行に形成されている。これにより、爪に対して段差を幅方向へ滑らせ易いため、爪と段差との幅方向の引っ掛かりが被挟持部の幅方向の変形を阻害することを抑制できる。その結果、被挟持部の幅方向の変形の阻害に起因した二軸引張試験の測定精度の低下を抑制できる。
【0012】
請求項6記載の二軸引張試験方法によれば、請求項1記載の二軸引張試験方法が奏する効果に加え、次の効果を奏する。チャックは、被挟持部に対して張出方向および板厚方向に垂直な幅方向の寸法が小さい。これにより、被挟持部の幅方向の変形がチャックで阻害され難くなる。更に、チャックで被挟持部を挟んだ状態において、チャックの幅方向の両側の被挟持部からそれぞれ一対の横凸部が板厚方向に突出している。これにより、被挟持部に対してチャックを幅方向へずれ難くできる。よって、そのずれに起因した二軸引張試験の測定精度の低下を抑制できる。
【0013】
請求項7記載の二軸引張試験方法によれば、請求項1から6のいずれかに記載の二軸引張試験方法が奏する効果に加え、次の効果を奏する。チャックで挟まれた被挟持部の各々において、段差および爪は、張出方向に複数並んでいる。これにより、試験ステップ中に爪から段差へ付与される張出方向の引張力を張出方向の複数か所に分散でき、応力集中による被挟持部の破断などを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態における二軸引張試験機および試験片の平面図である。
【
図2】
図1のII-II線における二軸引張試験機および試験片の部分拡大断面図である。
【
図3】(a)は第2実施形態における二軸引張試験機および試験片の部分拡大平面図であり、(b)は
図3(a)のIIIb-IIIb線における二軸引張試験機および試験片の部分拡大断面図である。
【
図4】(a)は第3実施形態における二軸引張試験機および試験片の部分拡大平面図であり、(b)は
図4(a)のIVb-IVb線における二軸引張試験機および試験片の部分拡大断面図であり、(c)は
図4(b)に対し試験片を薄くした場合における二軸引張試験機および試験片の部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。
図1は、第1実施形態における二軸引張試験機10及び試験片2の平面図である。
図2は、
図1のII-II線における二軸引張試験機10及び試験片2の部分拡大断面図である。なお、
図1では、断面コ字状のスライド部11~14の上面(
図1紙面手前側の面)を省略している。また、説明の都合上、
図2の紙面上方を上方、
図2の紙面下方を下方として説明するが、
図2の紙面上下方向が実際の上下方向とは限らない。
【0016】
図1に示すように、二軸引張試験機10は、弾性体(例えばゴム)製の板状の試験片2に対し、二軸引張試験を行うためのものである。二軸引張試験とは、互いに直交する第1軸X及び第2軸Yそれぞれの軸方向へ試験片2を略均一に引っ張ることにより、試験片2の歪み-応力データを測定する試験である。
【0017】
なお、説明を簡略化するために以下の説明では。試験片2の板厚方向を単に板厚方向と言う。また、第1軸Xの軸方向のうち
図1紙面左方向を第1方向D1、
図1紙面右方向を第2方向D2と言う。第2軸Yの軸方向のうち
図1紙面上方向を第3方向D3、
図1紙面下方向を第4方向D4と言う。これらの4方向D1~D4は、いずれも板厚方向と垂直である。また、4方向D1~D4へ試験片2を略均一に引っ張って二軸引張試験を行うために、二軸引張試験機10及び試験片2は、試験片2の中央に対する4方向D1~D4の各構成が略同一に構成されている。
【0018】
試験片2は、略一定な板厚(板厚方向の寸法)を有する矩形状の本体部3と、本体部3から張り出す複数の被挟持部4a,4b,4c,4dと、を備える。本体部3は、第2軸Yに平行な第1方向D1側の辺3aと、第2軸Yに平行な第2方向D2側の辺3bと、第1軸Xに平行な第3方向D3側の辺3cと、第1軸Xに平行な第4方向D4側の辺3dと、を備える。これらの辺3a~3d(四辺)は互いに長さが同一であり、本体部3は正方形状に構成される。なお、各辺3a~3dの長さを異ならせて本体部3を長方形状にしても良い。
【0019】
複数の被挟持部4aは、辺3aから、辺3aに垂直な方向であって板厚方向に垂直な第1方向D1(張出方向)へそれぞれ張り出す。複数の被挟持部4aは、第2軸Yの軸方向D3,D4(幅方向)に間隔を空けて並び、互いに形状および寸法が同一に構成されている。
【0020】
以下同様に、複数の被挟持部4bは、辺3bから、辺3bに垂直な方向であって板厚方向に垂直な第2方向D2(張出方向)へそれぞれ張り出す。複数の被挟持部4bは、第2軸Yの軸方向D3,D4(幅方向)に間隔を空けて並び、互いに形状および寸法が同一に構成されている。
【0021】
複数の被挟持部4cは、辺3cから、辺3cに垂直な方向であって板厚方向に垂直な第3方向D3(張出方向)へそれぞれ張り出す。複数の被挟持部4cは、第1軸Xの軸方向D1,D2(幅方向)に間隔を空けて並び、互いに形状および寸法が同一に構成されている。
【0022】
複数の被挟持部4dは、辺3dから、辺3dに垂直な方向であって板厚方向に垂直な第4方向D4(張出方向)へそれぞれ張り出す。複数の被挟持部4dは、第1軸Xの軸方向D1,D2(幅方向)に間隔を空けて並び、互いに形状および寸法が同一に構成されている。
【0023】
被挟持部4a,4b,4c,4dの各々は、幅方向の寸法である幅W1が張出方向に亘って一定である。被挟持部4a,4b,4c,4dの各々は、本体部3から張出方向へ延びる薄板部5と、薄板部5から張出方向へ延びる厚板部6と、を備える。
【0024】
図2には被挟持部4bを含む断面が示されているが、被挟持部4a,4c,4dの断面も被挟持部4bの断面と略同一に構成される。
図1及び
図2に示すように、薄板部5は、本体部3の板厚と略同一の板厚を有する矩形状の部位である。これにより、薄板部5の剛性が本体部3の剛性と略同一となるため、本体部3の4方向D1~D4への引張変形が薄板部5で阻害されることを抑制できる。
【0025】
厚板部6は、薄板部5のうち本体部3とは反対側の縁に連なる矩形状の部位であり、本体部3及び薄板部5よりも板厚が大きく形成されている。被挟持部4a,4b,4c,4dの各々には、この薄板部5と厚板部6との板厚の差によって、本体部3側を板厚方向に凹ませた段差7が板厚方向の両面にそれぞれ形成されている。
【0026】
なお、厚板部6は、本体部3及び薄板部5に対し、板厚が大きいため剛性が大きい。しかし、厚板部6は薄板部5を介して本体部3に連結されているため、厚板部6の変形のし難さが本体部3の4方向D1~D4への引張変形に影響することを抑制できる。また、本体部3の各辺3a~3dに設けられる複数の被挟持部4a~4dが幅方向に間隔を空けて並んでいる。そのため、厚板部6によって被挟持部4a~4dが幅方向に若干変形し難くなっても、複数の被挟持部4a~4d(厚板部6)の間隔を変動させることにより、被挟持部4a~4dの各々の幅方向(4方向D1~D4)へ本体部3を引張変形させ易くできる。
【0027】
厚板部6の両面からは、板厚方向に凸部8がそれぞれ突出する。この凸部8は、厚板部6の幅方向の全長に亘って形成されている。更に、凸部8は、厚板部6の片面ごとに2本ずつが張出方向に離れて配置されている。この凸部8の本体部3側の面によっても、本体部3側を板厚方向に凹ませた段差9が形成されている。段差7,9及び凸部8はいずれも、各々が設けられる被挟持部4a,4b,4c,4dの幅方向と平行に形成されている。
【0028】
二軸引張試験機10は、第2軸Yと平行に延びて試験片2の第1方向D1側に配置されるスライド部11と、第2軸Yと平行に延びて試験片2の第2方向D2側に配置されるスライド部12と、第1軸Xと平行に延びて試験片2の第3方向D3側に配置されるスライド部13と、第1軸Xと平行に延びて試験片2の第4方向D4側に配置されるスライド部14と、スライド部11~14をそれぞれ移動させる複数のアクチュエータ15と、スライド部11~14にそれぞれスライド可能に固定される複数のスライダ16と、複数のスライダ16にそれぞれ取り付けられて試験片2を挟む複数のチャック21と、を備える。
【0029】
スライド部11,12は、試験片2側に開口するよう、第2軸Yに垂直な断面がコ字状に形成される部材であって、そのコ字状の断面の中央に第2軸Yと平行な棒状の固定部11a,12aがそれぞれ設けられている。スライド部13,14は、試験片2側に開口するよう、第1軸Xに垂直な断面がコ字状に形成される部材であって、そのコ字状の断面の中央に第1軸Xと平行な棒状の固定部13a,14aがそれぞれ設けられている。
【0030】
スライド部11~14は、試験片2に対する二軸引張試験において変形が無視できる程度の剛性、即ち試験片2に対して十分に大きな剛性を有する素材(例えば金属や樹脂、セラミックス)によって形成されている。以下、このような剛性を有する素材を剛体材と言う。
【0031】
アクチュエータ15は、スライド部11~14それぞれに個別に設けられるエアシリンダである。各アクチュエータ15は、図示しないベースに固定されるシリンダ15aと、そのシリンダ15aから突出してスライド部11~14のいずれか1に固定されるロッド15bと、を備える。
【0032】
アクチュエータ15は、シリンダ15aに対しロッド15bを進退させて伸縮することで、スライド部11,12を第1軸Xの軸方向D1,D2へ移動させる。同様に、アクチュエータ15は、伸縮によって、スライド部13,14を第2軸Yの軸方向D3,D4へ移動させる。
【0033】
複数のスライダ16は、スライド部11~14それぞれに4つずつ設けられる剛体材である。スライダ16は、スライド部11~14それぞれから試験片2へ向かって垂直に突出している。スライダ16は、固定部11a~14aそれぞれにスライド可能に固定されている。即ち、スライド部11,12に設けたスライダ16は、第2軸Yの軸方向D3,D4にスライド可能である。スライド部13,14に設けたスライダ16は、第1軸Xの軸方向D1,D2にスライド可能である。
【0034】
複数のチャック21は、1枚の試験片2と複数のスライダ16とをそれぞれ連結する長手形状の剛体材である。本実施形態では、1つのスライダ16の上下両側に1つずつチャック21が設けられている。上下一対のチャック21で1つの被挟持部4a~4dの厚板部6が板厚方向(上下方向)に挟まれる。
【0035】
チャック21は、長手方向の一端部がボルト25でスライダ16に着脱可能に固定され、長手方向の他端部が被挟持部4a~4dを挟む。なお実際は、被挟持部4a~4dの板厚に応じてチャック21による被挟持部4a~4dの挟持力を調整できるように、スライダ16に対するチャック21の固定構造が設計されているが、その固定構造は既知であるため図示および説明を省略する。その挟持力は、チャック21が被挟持部4a~4dに軽く当てる程度で良く、被挟持部4a~4dを板厚方向に強く圧縮しなくても良い。
【0036】
チャック21は、基本的に、チャック21自身が取り付けられるスライダ16と平行に延び、チャック21自身が挟む被挟持部4a~4dの張出方向と平行に延びるように向きが調整される。そこで、チャック21の長手方向であって本体部3から離れる方向を、被挟持部4a~4dと同様に張出方向とする。また、その張出方向および上下方向(板厚方向)に垂直な方向を幅方向とする。
【0037】
チャック21の幅方向の寸法である幅W2は、少なくとも被挟持部4a~4dを挟む部位の張出方向に亘って一定である。この幅W2は、被挟持部4a~4dの幅W1よりも小さい。この幅W1,W2の関係によって、被挟持部4a~4dの幅方向の変形がチャック21で阻害され難くなり、各々の幅方向(4方向D1~D4)への本体部3の引張変形が阻害され難くなる。特に、幅W2が幅W1の1/2~1/3である場合に、被挟持部4a~4dの幅方向の変形がチャック21でより阻害され難くなり、本体部3の引張変形がより阻害され難くなる。
【0038】
複数のチャック21には、各々のチャック21で挟んだ被挟持部4a~4dの段差7,9の本体部3側に引っ掛かる複数の爪22,24がそれぞれ形成されている。爪22は、段差7に引っ掛かる部位であり、チャック21の本体部3側の端部から薄板部5へ向かって張り出す。この爪22を含むチャック21は、厚板部6を挟む一方で、薄板部5とは非接触となるように寸法が設定される。また、爪22は、段差7に引っ掛かる部位がチャック21の幅方向と平行に形成されている。
【0039】
チャック21には、厚板部6の凸部8に嵌まる凹部23が設けられる。この凹部23は、チャック21の幅方向の全長に亘って形成され、幅方向に開口している。更に、凹部23は、チャック21の各々に2本ずつが張出方向に離れて配置されている。この凹部23の本体部3側の面によって、段差9に引っ掛かる爪24が形成される。凹部23(爪24)は、チャック21の幅方向と平行に形成されている。
【0040】
次に、二軸引張試験機10及び試験片2を用いた二軸引張試験方法について説明する。まず、複数のチャック21で複数の被挟持部4a~4dの厚板部6をそれぞれ板厚方向に挟む(取付ステップ)。この取付ステップでは、チャック21の凹部23に被挟持部4a~4dの凸部8をそれぞれ嵌める。また、被挟持部4a~4dの段差7の本体部3側にチャック21の爪22を位置させる。
【0041】
取付ステップ後は、アクチュエータ15を短縮させて、試験片2から離れる4方向D1~D4それぞれへスライド部11~14を移動させ、チャック21を各々の張出方向へ移動させる(予備引張ステップ)。これにより、チャック21の複数の爪22,24が被挟持部4a~4dの複数の段差7,9にそれぞれ引っ掛かりつつ、複数のチャック21で挟まれた複数の被挟持部4a~4dがそれぞれの張出方向へ引っ張られる。この引っ張りによって試験片2に予備引張荷重が付与され、複数の被挟持部4a~4dに引っ張られた本体部3が4方向D1~D4に引張変形する。なお、予備引張荷重の大きさは4方向D1~D4で同一に設定される。また、本体部3の引張変形に応じて、幅方向に並んだ複数の被挟持部4a~4d、チャック21及びスライダ16の間隔も広がる。
【0042】
予備引張ステップは、試験片2に予備引張荷重を所定時間付与した後、アクチュエータ15を伸長させて、予備引張ステップ以前の状態に戻す。ゴム製の試験片2に分子鎖の絡まりがある場合、この予備引張ステップによって分子鎖の絡まりを取ることができる。これにより、分子鎖の絡まりによる二軸引張試験の測定結果(歪み-応力データ)への影響を抑制できる。
【0043】
予備引張ステップの後は、再びアクチュエータ15を短縮させて、試験片2を4方向D1~D4へそれぞれ引張変形させることにより、試験片2の二軸引張試験を行う(試験ステップ)。この試験ステップにおける試験片2の引張変形は、引張荷重の大きさが異なる点以外は予備引張ステップにおける試験片2の引張変形と同一である。
【0044】
二軸引張試験(歪み-応力データ)の評価方法には、既知の方法を用いる。その既知の方法としては例えば、試験片2の本体部3に予め複数の計測点を書き記し、試験片2の引張変形による計測点の間隔の変化を画像処理で計測する方法が挙げられる。この方法では、計測点の間隔の変化を歪みとし、引張荷重を応力として歪み-応力データを算出する。当然、これ以外の既知の方法で二軸引張試験の歪み-応力データを算出しても良い。また、試験片2に波打ちがある場合には、波打ちが除去されるまで試験片2を引張変形させた状態を無荷重状態として、歪み-応力データを算出する。
【0045】
ここで、爪22,24や段差7,9が無い従来の二軸引張試験では、被挟持部4a~4dをチャック21で挟んで張出方向へ引っ張るときに、被挟持部4a~4dに対してチャック21が張出方向へ滑るおそれがある。この滑りが生じると、滑りが生じない場合に対して歪みが小さくなり、二軸引張試験の測定精度が低下してしまう。
【0046】
これに対し、本実施形態では、被挟持部4a~4dをチャック21で引っ張る二軸引張試験時に、チャック21の爪22,24が被挟持部4a~4dの段差7,9に引っ掛かるため、被挟持部4a~4dに対しチャック21を張出方向へ滑らせ難くできる。よって、その滑りに起因した二軸引張試験の測定精度の低下を抑制できる。
【0047】
薄板部5と非接触のチャック21が厚板部6を挟み、薄板部5と厚板部6との板厚の差によって形成された段差7にチャック21の爪22が引っ掛かる。これにより、被挟持部4a~4dのうちチャック21で挟まれる部位(厚板部6)の最も本体部3側に爪22が引っ掛って、厚板部6の全体をチャック21で引っ張り易くできると共に、薄板部5がチャック21で直接引っ張られないようにできる。これにより、チャック21で張出方向に被挟持部4a~4dが引っ張られたとき、厚板部6が張出方向に変形し難く、薄板部5が変形し易いことが明確になる。この変形し易い部位が被挟持部4a~4dの各々で略同一であるため、被挟持部4a~4dを介した本体部3の4方向D1~D4への引張変形を均一化でき、二軸引張試験の測定精度を向上できる。
【0048】
爪24を形成する凹部23と、段差9を形成する凸部8とが嵌まり合うので、被挟持部4a~4dに対しチャック21を張出方向に位置決めし易くでき、二軸引張試験中でなくても段差9に爪24を当て易くできる。これにより、二軸引張試験の初期段階で段差9に爪24が引っ掛かるまでの間、被挟持部4a~4dに対してチャック21が滑ることを抑制できる。よって、その滑りに起因した二軸引張試験の測定精度の低下を抑制できる。
【0049】
チャック21は被挟持部4a~4dの幅方向の中央を挟み、チャック21から被挟持部4a~4dの一部が幅方向に張り出している。また、被挟持部4a~4dの幅方向の全長に亘って凸部8が形成されているため、凸部8がリブのように被挟持部4a~4dを補強する。これにより、チャック21で挟まれた被挟持部4a~4dの幅方向の中央部分が、チャック21で挟まれない被挟持部4a~4dの幅方向の両端部分に対しせん断方向へ変形することを抑制できる。よって、この被挟持部4a~4dの幅方向の全体を均一にチャック21で引っ張り易いので、二軸引張試験の測定精度を向上できる。
【0050】
幅方向視において、凸部8及び凹部23が矩形状であり、凸部8の段差9及び凹部23の爪24が張出方向と垂直に形成されている。これにより、爪24から段差9へ張出方向の引張力が伝達されたとき、凸部8が厚板部6側へ埋まるような力を生じさせ難くできる。よって、凸部8を含む試験片2が比較的柔らかくても、凸部8が厚板部6側へ埋まって爪24から段差9が外れることを抑制できる。
【0051】
チャック21で挟まれた被挟持部4a~4dの各々において、段差7,9及び爪22,24はそれぞれ幅方向と平行に形成されている。これにより、爪22,24に対して段差7,9を幅方向へ滑らせ易いため、爪22,24と段差7,9との幅方向の引っ掛かりが被挟持部4a~4dの幅方向の変形を阻害することを抑制できる。その結果、被挟持部4a~4dの変形の阻害に起因した二軸引張試験の測定精度の低下を抑制できる。
【0052】
また、チャック21で挟まれた被挟持部4a~4dの各々において、段差7,9及び爪22,24は張出方向に複数並んでいる。これにより、二軸引張試験中に爪22,24から段差7,9へ付与される張出方向の引張力を張出方向の複数か所に分散でき、応力集中による被挟持部4a~4dの破断などを抑制できる。
【0053】
次に
図3(a)及び
図3(b)を参照して第2実施形態について説明する。第1実施形態に対し、第2実施形態では、被挟持部31に対しチャック46を幅方向に位置決めするための横凸部34が被挟持部31に設けられた場合について説明する。なお、第1実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0054】
図3(a)は第2実施形態における二軸引張試験機40及び試験片30の部分拡大平面図である。
図3(b)は
図3(a)のIIIb-IIIb線における二軸引張試験機40及び試験片30の部分拡大断面図である。
【0055】
試験片30は、第1実施形態における試験片2に対し、被挟持部4a~4dの各々を第2実施形態における被挟持部31に変更したものである。図示しないが、複数の被挟持部31は、試験片30の本体部3の各辺3a~3d(
図1参照)からそれぞれの張出方向へ張り出している。複数の被挟持部31の数や配置は、第1実施形態における被挟持部4a~4dの数や配置と同一である。
【0056】
なお、
図3(a)及び
図3(b)には、本体部3の辺3bから第2方向D2(張出方向)へ張り出した1つの被挟持部31が拡大して図示されている。
図3(a)及び
図3(b)には、本体部3や、辺3bから張り出す他の被挟持部31、辺3a,3c,3dから張り出す被挟持部31の図示が省略されている。なお、図示しない被挟持部31は、
図3(a)及び
図3(b)に図示した被挟持部31に対し、向き以外は同一に構成されている。
【0057】
被挟持部31は、張出方向および板厚方向(
図3(b)の上下方向)に垂直な幅方向の寸法である幅W1が張出方向に亘って一定である。被挟持部31は、本体部3(
図3(b)の左側)から張出方向へ延びる薄板部5と、薄板部5から張出方向へ延びる厚板部6と、を備える。薄板部5よりも厚板部6の板厚が大きいことによって、被挟持部31の板厚方向の両面には、本体部3側を板厚方向に凹ませた段差7が形成されている。
【0058】
厚板部6の両面からは、板厚方向に凸部32及び一対の横凸部34がそれぞれ突出する。この凸部32は、厚板部6の幅方向の全長に亘って形成されている。更に、凸部32は、厚板部6の片面ごとに2本ずつが張出方向に離れて配置されている。この凸部32の本体部3側の面によって、本体部3側を板厚方向に凹ませた段差33が形成されている。段差33及び凸部32は幅方向と平行に形成されている。また、幅方向視において、凸部32は厚板部6から半円状に突出している。
【0059】
一対の横凸部34は、厚板部6の幅方向に互いに離隔して配置され、厚板部6の張出方向の全長に亘って形成されている。一対の横凸部34同士の間隔は、後述のチャック46,47の幅W2よりも若干大きく形成されている。
【0060】
二軸引張試験機40は、第1実施形態における二軸引張試験機10に対し、スライダ16及びチャック21の各々を第2実施形態におけるスライダ41及びチャック46,47に変更したものである。
図3(a)及び
図3(b)には、試験片30の図示と同様に、1つの被挟持部31を挟む上下一対のチャック46,47と、そのチャック46,47が取り付けられる1つのスライダ41とが図示され、他のチャック46,47及びスライダ41の図示は省略されている。なお図示しないチャック46,47及びスライダ41は、図示したチャック46,47及びスライダ41に対し、向き以外は同一に構成されている。
【0061】
スライダ41は、スライド部11~14(
図1参照)それぞれから試験片30へ向かって垂直に突出する剛体材である。スライダ41のうち試験片30側の先端部42は、上下方向視においてスライダ41の突出方向(第1方向D1)に垂直な方向(第3方向D3及び第4方向D4)へ延びた直方体状に形成されている。
【0062】
先端部42の下面(
図3(b)下側の面)は、第1軸X及び第2軸Yと平行な平坦面である。先端部42の上面(
図3(b)上側の面)には、第2方向D2の縁から全長に亘って上方へ突出するストッパ43と、第1方向D1の縁のうち中央部を除いた部分から上方へ突出する一対のストッパ44と、が設けられている。
【0063】
チャック46,47は、試験片30の被挟持部31とスライダ41の先端部42とを連結する剛体材である。チャック46の長手方向の一端部がスライダ41の上面にボルト25で固定され、チャック47の長手方向の一端部がスライダ41の下面にボルト25で固定される。この上下一対のチャック46,47の長手方向の他端部で被挟持部31が板厚方向(上下方向)に挟まれる。
【0064】
チャック46,47は、長手方向および上下方向に垂直な幅方向の寸法である幅W2が、被挟持部31を挟む部位の張出方向に亘って一定である。この幅W2は、被挟持部31の幅W1よりも小さく、一対の横凸部34の間隔よりも若干小さい。そのため、チャック46,47で被挟持部31を挟むとき、一対の横凸部34の間にチャック46,47を配置することで、被挟持部31に対するチャック46,47の幅方向の位置決めを容易にできる。
【0065】
更に、チャック46,47で被挟持部31を挟んだ状態において、チャック46,47の幅方向の両側にそれぞれ横凸部34が位置するので、被挟持部31に対してチャック46,47を幅方向へずれ難くできる。よって、そのずれに起因した二軸引張試験の測定精度の低下を抑制できる。
【0066】
チャック46,47には、厚板部6の凸部32に嵌まる凹部48が設けられる。この凹部48は、チャック46,47の幅方向の全長に亘って形成され、幅方向に開口している。更に、凹部48は、チャック46,47の各々に2本ずつが張出方向に離れて配置されている。この凹部48の本体部3側の面によって、段差33に引っ掛かる爪49が形成される。凹部48(爪49)は、チャック46,47の幅方向と平行に形成されている。
【0067】
第2実施形態でも第1実施形態と同様に、チャック46,47で被挟持部31を張出方向へ引っ張る二軸引張試験を行うとき、チャック46,47の爪49が被挟持部31の段差33に引っ掛かる。そのため、被挟持部31に対しチャック46,47を張出方向へ滑らせ難くできる。よって、その滑りに起因した二軸引張試験の測定精度の低下を抑制できる。
【0068】
幅方向視において、凸部32及び凹部48が半円状であるため、凹部48の爪49から凸部32の段差33へ張出方向の引張力が伝達されるとき、凸部32が厚板部6側へ埋まるような成分の力が生じ易くなる。その結果、凸部32と厚板部6との境界部分に応力が集中することを抑制でき、凸部32を破断し難くできる。なお、凸部32を厚板部6に埋まり難くして爪49と段差33との引っ掛かりを維持できるよう、試験片30を構成する弾性体を比較的硬くすることが好ましい。
【0069】
チャック46は、上下方向視において、長手方向の一端部(ボルト25側)から幅方向の両側へ張出部46aがそれぞれ突出してT字状に形成される。この張出部46aがストッパ43,44の間に配置され、一対のストッパ44の間をチャック46が通る。これにより、スライダ41に対しボルト25を中心としたチャック46の回転がストッパ43,44によって規制される。
【0070】
チャック47には、チャック46側へ突出する突起47aが形成されている。この突起47aは、チャック47がスライダ41の先端部42に取り付けられた状態で、先端部42の試験片30側の面に接触する。これにより、スライダ41に対しボルト25を中心としたチャック47の回転が突起47aによって規制される。
【0071】
これらのチャック46,47の回転の規制により、板厚方向視において被挟持部31の張出方向とチャック46,47の長手方向とがずれるように、被挟持部31とチャック46,47との接触部分が回転して滑ることを抑制できる。よって、この滑りに起因して爪49と段差33との引っ掛かりが解除されることを抑制できる。
【0072】
次に
図4(a)から
図4(c)を参照して第3実施形態について説明する。第1実施形態に対し、第3実施形態では、互いに引っ掛かる段差53及び爪65が被挟持部51の幅方向と非平行である場合について説明する。なお、第1実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0073】
図4(a)は第3実施形態における二軸引張試験機60及び試験片50の部分拡大平面図である。
図4(b)は
図4(a)のIVb-IVb線における二軸引張試験機60及び試験片50の部分拡大断面図である。
図4(c)は
図4(b)に対し試験片70を薄くした場合における二軸引張試験機60及び試験片70の部分拡大断面図である。
【0074】
図4(a)及び
図4(b)に示すように、試験片50は、第1実施形態における試験片2に対し、被挟持部4a~4dの各々を第3実施形態における被挟持部51に変更したものである。二軸引張試験機60は、第1実施形態における二軸引張試験機10に対し、スライダ16及びチャック21の各々を第3実施形態におけるスライダ61及びチャック63に変更したものである。これらの各部の関係は、第1実施形態と第2実施形態との各部の関係と同一であるため、説明を省略する。
図4(a)及び
図4(b)には、第2方向D2側の被挟持部51、スライダ61及びチャック63の一部のみが図示されている。
【0075】
被挟持部51は、張出方向(例えば第2方向D2)及び板厚方向(
図4(b)の上下方向)に垂直な幅方向の寸法である幅W1が張出方向に亘って一定である。被挟持部51は、本体部3(
図4(b)の左側)から張出方向へ延びる薄板部5と、薄板部5から張出方向へ延びる厚板部6と、を備える。薄板部5よりも厚板部6の板厚が大きいことによって、被挟持部51の板厚方向の両面には、本体部3側を板厚方向に凹ませた段差7が形成されている。
【0076】
厚板部6の両面からは、板厚方向に凸部52がそれぞれ1本ずつ突出する。この凸部52の本体部3側の面によって、本体部3側を板厚方向に凹ませた段差53が形成されている。幅方向に垂直な断面において、凸部52が矩形状であり、段差53が張出方向と垂直に形成されている。凸部52及び段差53は、板厚方向視において、幅方向の中央側へ向かうにつれて張出方向へ傾斜するV字状に形成されている。
【0077】
スライダ61は、スライド部11~14(
図1参照)それぞれから試験片50へ向かって垂直に突出する剛体材である。スライダ61のうち試験片50側の先端部から試験片50側へ調整部62が突出している。調整部62の上面は、スライダ61の先端部の上面と面一に形成される。一方、調整部62の下面は、スライダ61の先端部の下面に対し段差状に凹んでいる。スライダ61の先端部と調整部62とには、それぞれボルト25を取り付け可能なボルト孔61a,62aが上下方向に貫通形成されている。
【0078】
チャック63は、試験片50の被挟持部51とスライダ61とを連結する剛体材である。チャック63の長手方向の一端部が、ボルト孔61aに取り付けたボルト25によってスライダ61の先端部に固定される。この上下一対のチャック63の長手方向の他端部で被挟持部51が板厚方向(上下方向)に挟まれる。
【0079】
チャック63は、長手方向および上下方向に垂直な幅方向の寸法である幅W2が、被挟持部51を挟む部位の張出方向に亘って一定である。この幅W2は、被挟持部51の幅W1よりも小さい。
【0080】
チャック63には、チャック63自身が挟んだ被挟持部51の段差53の本体部3側に引っ掛かる爪65が形成されている。チャック63の厚板部6側の面を凹ませて凹部64が形成され、この凹部64の本体部3側の面によって爪65が形成されている。凹部64には、厚板部6から突出する凸部52が収容される。凹部64は、チャック63の幅方向の全長に亘って形成され、幅方向に開口している。
【0081】
第3実施形態でも第1実施形態と同様に、チャック63で被挟持部51を張出方向へ引っ張る二軸引張試験を行うとき、チャック63の爪65が被挟持部51の段差53に引っ掛かる。そのため、被挟持部51に対しチャック63を張出方向へ滑らせ難くできる。よって、その滑りに起因した二軸引張試験の測定精度の低下を抑制できる。
【0082】
段差53及び爪65は、板厚方向視において、互いに同一形状であり、幅方向の中央側へ向かうにつれて張出方向へ傾斜するV字状に形成されている。この傾斜によって、チャック63で被挟持部51を引っ張るとき、段差53及び爪65のV字の溝底が互いに一致するように、被挟持部51とチャック63とが幅方向に位置決めされる。よって、被挟持部51とチャック63との幅方向のずれに起因した二軸引張試験の測定精度の低下を抑制できる。
【0083】
また、凹部64は、凸部52のスライダ61側(本体部3とは反対側)の面がチャック63に接触しないよう、張出方向に延びて形成されている。これにより、二軸引張試験時において、V字状の凸部52が幅方向に広がろうとする被挟持部51の幅方向の変形が、チャック63で阻害されることを抑制できる。よって、この被挟持部51の変形の阻害に起因した二軸引張試験の測定精度の低下を抑制できる。
【0084】
二軸引張試験機60では、
図4(b)における下側のチャック63を、
図4(c)におけるチャック66に代えることで、試験片50に対して異なる板厚の試験片70を挟むことができる。具体的に試験片70は、試験片50に対し、本体部3、薄板部5及び厚板部6の板厚がいずれも薄く構成されている。また、試験片70の厚板部6からは凸部52が突出していない。試験片70において、薄板部5と厚板部6との板厚の差によって形成される段差53は、試験片50の段差53と同一に形成されている。
【0085】
チャック66は、チャック63に対し長手方向の一端部側(スライダ61側)の一部を省略して短くしたものであり、寸法以外はチャック63と同一に構成されている。チャック66の長手方向の一端部は、スライダ61のうち段差状に凹んだ調整部62の下面に、ボルト孔62aに取り付けたボルト25によって固定される。このとき、上側のチャック63の爪65と下側のチャック66の爪65とが張出方向の同じ位置に設定されるよう、チャック63,66の長さが調整されている。
【0086】
この上下一対のチャック63,66の凹部64の底面で試験片70の厚板部6を板厚方向に挟み、段差53に爪65を引っ掛けることで、試験片70の被挟持部71がチャック63,66に取り付けられる。また、試験片70に代えて、試験片50の板厚を全体的に薄くした試験片の厚板部6を、上下一対のチャック63,66の爪65よりも本体部3側の面で挟んでも良い。
【0087】
このように、スライダ61の下面へのチャック63,66の取付位置を変え、その取付位置に合わせた長さのチャック63,66を用いることで、試験片50,70が挟まれる一対のチャック63,66の間隔を容易に調整できる。これにより、二軸引張試験が可能な試験片50,70の厚さの自由度を向上できる。
【0088】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、チャック21,46,47,63,66をボルト25でスライダ16,41,61に着脱可能に取り付ける場合に限らず、その取付方法を適宜変更しても良い。幅方向視において凸部8,32,52及び凹部23,48,64を楕円状や台形状などに形成しても良い。
【0089】
上記実施形態では、別々のアクチュエータ15で試験片2,30,50,70を4方向D1~D4へそれぞれ引っ張る場合について説明したが、既知の別の機構を用いて試験片2,30,50,70を4方向D1~D4へそれぞれ引っ張っても良い。この機構としては例えば以下のものが挙げられる。板厚方向視において、一対のスライド部11,12それぞれから互いに向かってハの字に45°の傾斜で広がる計4本のシャフトを設ける。この各シャフトに、一対のスライド部13,14の両端をそれぞれスライド可能に固定する。これにより、1つのアクチュエータ15で一対のスライド部11,12の間隔を広げるだけで、シャフト上をスライドする一対のスライド部13,14の間隔も広がり、試験片2を4方向D1~D4へ引っ張ることができる。また、アクチュエータ15は、エアシリンダである場合に限らず、油圧式や電気式のものとしても良い。
【0090】
上記実施形態では、スライド部11~14にそれぞれ4つのスライダ16,41,61がスライド可能に固定される場合について説明したが、スライダ16,41,61の数は適宜変更しても良い。更に、この1つのスライダ16,41,61ごとに上下一対のチャック21,46,47,63,66を設ければ良い。また、試験片2,30,50,70の4方向D1~D4にそれぞれ1つずつスライダ16,41,61を設ける場合には、スライド部11~14を省略し、スライダ16,41,61をアクチュエータ15に取り付けても良い。
【0091】
上記実施形態では、被挟持部4a~4d,31,51,71の板厚方向の両側にそれぞれ設けた段差7,9,33,53に、チャック21,46,47,63,66の爪22,24,49,65を引っ掛ける場合について説明したが、これに限らない。例えば、被挟持部4a~4d,31,51,71の片面側の段差7,9,33,53のみに爪22,24,49,65を引っ掛けても良い。
【0092】
また、被挟持部4a~4d,31,51,71の片面に設けられる段差7,9,33,53の数や、段差7,9,33,53に引っ掛かる爪22,24,49,65の数を適宜変更しても良い。例えば、被挟持部4a~4d,31に段差9,33(凸部8,32)を張出方向に3つ以上並んで設け、その段差9,33の少なくとも1つに爪24,49を引っ掛けても良い。また、被挟持部4a~4dから段差9(凸部8)を省略し、被挟持部4a~4dの段差7のみに爪22を引っ掛けても良い。厚板部6(段差7)を省略し、薄板部5に凸部8,32,52(段差9,33,53)を設けても良い。
【0093】
上記実施形態では、本体部3の各辺3a~3dにそれぞれ設けられる複数の被挟持部4a~4d,31,51,71が幅方向に間隔を空けて並ぶ場合について説明したが、これに限らない。例えば、複数の厚板部6のみを幅方向に間隔を空けて並べて、薄板部5を幅方向に連続させても良い。更にこの場合、複数の厚板部6の間を薄板部5で連結しても良い。また、試験片2,30,50,70はゴムに限らず、熱可塑性エラストマや比較的柔らかい樹脂などの他の弾性体で試験片2,30,50,70を形成しても良い。
【0094】
上記実施形態では、被挟持部4a~4d,31,51から突出した凸部8,32,52の本体部3側の面によって段差9,33,53が形成される場合について説明したが、これに限らない。例えば、被挟持部4a~4d,31,51に凹部を設け、その凹部のうち本体部3とは反対側の面を段差としても良い。この場合、チャック21,46,63には、凹部に嵌まる凸部を設け、その凸部のうち本体部3とは反対側の面で爪を形成すれば良い。
【0095】
但し、被挟持部4a~4d,31,51に凹部を設けた場合、その凹部の位置で被挟持部4a~4d,31,51が張出方向に伸び易くなり、二軸引張試験の測定精度が低下するおそれがある。これに対し、被挟持部4a~4d,31,51から突出した凸部8,32,52で段差9,33,53を形成する場合、その段差9,33,53の形成のために被挟持部4a~4d,31,51が伸び易くなることを抑制できる。よって、その伸びに起因した二軸引張試験の測定精度の低下を抑制できる。また、弾性体製の被挟持部4a~4d,31,51を成形する金型に溝を追加することで、被挟持部4a~4d,31,51に凸部8,32,52を容易に形成できる。
【0096】
上記第2実施形態では、スライダ41に対してチャック46,47の回転を規制する構成が上下で異なる場合について説明したが、この回転を規制する構成を上下で同一にしても良い。また、この回転を規制する構成を第1実施形態や第3実施形態に適用しても良い。更に、複数のボルト25でチャック21,46,47,63,66をスライダ16,41,61にそれぞれ取り付けることで、スライダ16,41,61に対するチャック21,46,47,63,66の回転を規制しても良い。
【0097】
上記実施形態の構成を他の実施形態に適用しても良い。例えば、段差7に引っ掛かる第1実施形態の爪22を、第2,3実施形態のチャック46,63に設けても良い。第2実施形態の横凸部34を第1,3実施形態の厚板部6から突出させても良い。
【符号の説明】
【0098】
2,30,50,70 試験片
3 本体部
3a~3d 辺(四辺)
4a~4d,31,51,71 被挟持部
5 薄板部
6 厚板部
7,9,33,53 段差
8,32,52 凸部
10,40,60 二軸引張試験機
15 アクチュエータ
21,46,47,63,66 チャック
22,24,49,65 爪
23,48,64 凹部
34 横凸部