(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076674
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】感温磁性材料、粉末、成形体および複合体
(51)【国際特許分類】
H01F 1/147 20060101AFI20240530BHJP
B22F 1/052 20220101ALI20240530BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240530BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240530BHJP
H01F 1/20 20060101ALI20240530BHJP
H01F 1/26 20060101ALI20240530BHJP
B22F 3/00 20210101ALN20240530BHJP
B22F 9/10 20060101ALN20240530BHJP
【FI】
H01F1/147 166
B22F1/052
C22C38/00 303Z
B22F1/00 W
H01F1/20
H01F1/26
B22F3/00 B
B22F9/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188353
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 徹
(72)【発明者】
【氏名】三谷 敦己
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA06
4K017BB07
4K017BB16
4K017DA02
4K017ED02
4K018BA16
4K018BB04
4K018BD01
4K018CA02
4K018CA08
4K018CA11
4K018GA04
4K018KA42
5E041AA02
5E041AA19
5E041BB03
5E041BD12
5E041CA09
5E041NN01
5E041NN06
5E041NN15
(57)【要約】
【課題】温度増加に対する磁石吸引力の減少率の大きい感温磁性材料、粉末、成形体および複合体を提供する。
【解決手段】鉄および珪素を含み、かつ、空間群P2
13に帰属する結晶構造を有する第1相を備える感温磁性材料であって、前記感温磁性材料の断面において、前記第1相の面積基準の百分率は、85%以上であり、前記百分率は、エネルギー分散型X線分析装置付帯の走査型電子顕微鏡を用いて測定される、感温磁性材料である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄および珪素を含み、かつ、空間群P213に帰属する結晶構造を有する第1相を備える感温磁性材料であって、
前記感温磁性材料の断面において、前記第1相の面積基準の百分率は、85%以上であり、
前記百分率は、エネルギー分散型X線分析装置付帯の走査型電子顕微鏡を用いて測定される、感温磁性材料。
【請求項2】
前記第1相はマンガンを含む、請求項1に記載の感温磁性材料。
【請求項3】
前記第1相は、鉄、珪素およびマンガンを合計で85質量%以上含む、請求項1に記載の感温磁性材料。
【請求項4】
前記第1相のマンガンの含有率は、10質量%以下である、請求項2または請求項3に記載の感温磁性材料。
【請求項5】
前記第1相は、23質量%以上27質量%以下の珪素と、10質量%以下のマンガンと、残部の鉄と、からなる、請求項1または請求項2に記載の感温磁性材料。
【請求項6】
前記第1相は、23質量%以上27質量%以下の珪素と、残部の鉄と、からなる、請求項1に記載の感温磁性材料。
【請求項7】
前記感温磁性材料は、第2相を備え、
前記第2相は、第1合金、第2合金または第3合金からなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、
前記第1合金は、鉄および珪素を含み、かつ、空間群P-3m1に帰属する結晶構造を有し、
前記第2合金は、鉄および珪素を含み、かつ、空間群Fm-3mに帰属する結晶構造を有し、
前記第3合金は、鉄および珪素を含み、かつ、空間群P63/mcmに帰属する結晶構造を有し、
前記感温磁性材料の断面において、前記第2相の面積基準の百分率は、15%以下である、請求項1または請求項2に記載の感温磁性材料。
【請求項8】
150℃での飽和磁化Js150に対する、50℃での飽和磁化Js50の割合Js50/Js150は、10以上である、請求項1または請求項2に記載の感温磁性材料。
【請求項9】
前記Js50/Js150は、15以上である、請求項8に記載の感温磁性材料。
【請求項10】
前記Js50は、0.3Wb/m2以上である、請求項8に記載の感温磁性材料。
【請求項11】
鉄および珪素を含み、かつ、空間群P213に帰属する結晶構造を有する第1相を備える感温磁性材料からなる粉末であって、
前記感温磁性材料の断面において、前記第1相の面積基準の百分率は、85%以上であり、
前記百分率は、エネルギー分散型X線分析装置付帯の走査型電子顕微鏡を用いて測定され、
平均粒径が1.0μm以上100μm以下である、粉末。
【請求項12】
請求項1または請求項2に記載の感温磁性材料からなる粒子からなる成形体であって、
前記成形体の内部には空隙が形成される、成形体。
【請求項13】
前記成形体の空隙率は30体積%以下である、請求項12に記載の成形体。
【請求項14】
前記粒子の平均粒径は1.0μm以上100μm以下である、請求項12に記載の成形体。
【請求項15】
請求項1または請求項2に記載の感温磁性材料からなる複数の粒子と、前記粒子間を充填する充填材と、からなる複合体。
【請求項16】
前記粒子の含有率は70体積%以上である、請求項15に記載の複合体。
【請求項17】
前記充填材は樹脂である、請求項15に記載の複合体。
【請求項18】
前記粒子の平均粒径は1.0μm以上100μm以下である、請求項15に記載の複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、感温磁性材料、粉末、成形体および複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
感温磁性材料は、家電製品や自動車のモータの温度制御、光・磁気記憶装置、などに利用されている。例えば、特許文献1には、感温磁性体と永久磁石とを組みあわせた感温スイッチが開示されている。感温スイッチとは、外部温度の変化に応じて、スイッチのオンオフの切り替えを行うものである。
【0003】
従来、様々な感温磁性材料の組成が提案されている。その一つとして、Fe-Si系合金が挙げられる(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】大澤ら、(1940)、Fe-Si系合金の研究、日本金属学会誌、4巻、8号、228-242
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
感温スイッチの性能を向上させるためには、感温磁性体として、温度増加に対する磁石吸引力の減少率の大きい感温磁性材料を用いることが好適である。このような感温磁性材料を用いると、例えば、感温スイッチの接点部分のOFF時の接点間の距離を大きくでき、耐絶縁性を向上できる。よって、該感温磁性材料は、可逆動作の可能なヒューズ用途などに活用できる。
【0007】
非特許文献1に記載されているFe-Si系合金は、温度増加に対する磁石吸引力の減少率が不十分であり、更なる向上が求められている。
【0008】
そこで、本開示は、温度増加に対する磁石吸引力の減少率の大きい感温磁性材料、粉末、成形体および複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の感温磁性材料は、
鉄および珪素を含み、かつ、空間群P213に帰属する結晶構造を有する第1相を備える感温磁性材料であって、
前記感温磁性材料の断面において、前記第1相の面積基準の百分率は、85%以上であり、
前記百分率は、エネルギー分散型X線分析装置付帯の走査型電子顕微鏡を用いて測定される、感温磁性材料である。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、温度増加に対する磁石吸引力の減少率の大きい感温磁性材料、粉末、成形体および複合体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、試料11および試料1-3の成形体の温度変化に対する磁石吸着力の変化を示すグラフである。
【
図2】
図2は、試料11の成形体の断面の走査電子顕微鏡(SEM)画像(倍率200倍)である。
【
図3】
図3は、試料1-3の成形体の断面の走査電子顕微鏡(SEM)画像(倍率200倍)である。
【
図4】
図4は、本実施形態の成形体の温度変化に対する磁石吸着力の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の感温磁性材料は、
鉄および珪素を含み、かつ、空間群P213に帰属する結晶構造を有する第1相を備える感温磁性材料であって、
前記感温磁性材料の断面において、前記第1相の面積基準の百分率は、85%以上であり、
前記百分率は、エネルギー分散型X線分析装置付帯の走査型電子顕微鏡を用いて測定される、感温磁性材料である。
【0013】
本開示によれば、温度増加に対する磁石吸引力の減少率の大きい感温磁性材料を提供することが可能となる。
【0014】
本開示において、温度増加に対する磁石吸引力の減少率(単位:Kg/℃)とは、以下の手順で算出される値と定義される。感温磁性材料の温度と磁石吸引力との関係を、X軸が温度(℃)およびY軸が磁石吸引力(Kg)である座標系に示す。感温磁性材料の50℃における磁石吸引力M1を特定する。50℃における磁石吸引力M1の80%の大きさの磁石吸引力M2、および、磁石吸引力M2での温度T2を示す点A2を特定する。感温磁性材料の50℃における磁石吸引力M1の20%の大きさの磁石吸引力M3、および、磁石吸引力M3での温度T3を示す点A3を特定する。点A2および点A3を結ぶ直線を引く。該直線に基づき、温度1℃あたりの磁石吸引力の減少率を算出する。
【0015】
本明細書において、温度増加に対する磁石吸引力の減少率が大きくなることを、磁気特性が向上するとも記す。
【0016】
(2)上記(1)において、前記第1相はマンガンを含んでもよい。これによると、感温磁性材料の第1相の含有率が大きくなる。
【0017】
(3)上記(1)または(2)において、前記第1相は、鉄、珪素およびマンガンを合計で85質量%以上含んでもよい。該感温磁性材料は、第1相の鉄、珪素およびマンガンの合計の含有率が85質量%未満の感温磁性材料に比べて、同一条件で磁石吸引力を測定した場合、25℃での磁石吸引力が向上する。
【0018】
(4)上記(2)または(3)において、前記第1相のマンガンの含有率は、10質量%以下であってもよい。該感温磁性材料は、第1相のマンガンの含有率が10質量%超である感温磁性材料に比べて、同一条件で磁石吸引力を測定した場合、25℃での磁石吸引力が低下しにくい。
【0019】
(5)上記(1)から(4)のいずれかにおいて、前記第1相は、23質量%以上27質量%以下の珪素と、10質量%以下のマンガンと、残部の鉄と、からなってもよい。これによると、感温磁性材料の第1相の含有率が大きくなる。
【0020】
(6)上記(1)において、前記第1相は、23質量%以上27質量%以下の珪素と、残部の鉄と、からなってもよい。これによると、温度増加に対する磁石吸引力の減少率を大きくすることができる。
【0021】
(7)上記(1)から(6)のいずれかにおいて、前記感温磁性材料は、第2相を備え、
前記第2相は、第1合金、第2合金または第3合金からなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、
前記第1合金は、鉄および珪素を含み、かつ、空間群P-3m1に帰属する結晶構造を有し、
前記第2合金は、鉄および珪素を含み、かつ、空間群Fm-3mに帰属する結晶構造を有し、
前記第3合金は、鉄および珪素を含み、かつ、空間群P63/mcmに帰属する結晶構造を有し、
前記感温磁性材料の断面において、前記第2相の面積基準の百分率は、15%以下であってもよい。
【0022】
これによると、第1相の格子歪が発生しにくくなり、温度増加に対する磁石吸引力の減少率の低下を防ぐことができる。
【0023】
(8)上記(1)から(7)のいずれかにおいて、150℃での飽和磁化Js150に対する、50℃での飽和磁化Js50の割合Js50/Js150は、10以上であってもよい。これによると、感温磁性材料の磁気特性がさらに向上する。
【0024】
(9)上記(8)において、前記Js50/Js150は、15以上であってもよい。これによると、感温磁性材料の磁気特性がさらに向上する。
【0025】
(10)上記(8)または(9)において、Js50は、0.3Wb/m2以上であってもよい。これによると、感温磁性材料の磁気特性がさらに向上する。
【0026】
(11)本開示の粉末は、鉄および珪素を含み、かつ、空間群P213に帰属する結晶構造を有する第1相を備える感温磁性材料からなる粉末であって、
前記感温磁性材料の断面において、前記第1相の面積基準の百分率は、85%以上であり、
前記百分率は、エネルギー分散型X線分析装置付帯の走査型電子顕微鏡を用いて測定され、
平均粒径が1.0μm以上100μm以下である、粉末である。
【0027】
本開示によれば、温度増加に対する磁石吸引力の減少率の大きい粉末を提供することが可能となる。更に、感温磁性材料からなる粉末の比表面積が小さく、粉末の50℃での飽和磁化Js50が高く、かつ、第1相の比率が大きい。
【0028】
(12)本開示の成形体は、上記(1)から(10)のいずれかの感温磁性材料からなる粒子からなる成形体であって、
前記成形体の内部には空隙が形成される、成形体である。
【0029】
本開示によれば、温度増加に対する磁石吸引力の減少率の大きい成形体を提供することが可能となる。
【0030】
(13)上記(12)において、前記成形体の空隙率は30体積%以下であってもよい。これによると、成形体の磁気特性が向上する。
【0031】
(14)上記(12)または(13)において、前記粒子の平均粒径は1.0μm以上100μm以下であってもよい。これによると、感温磁性材料からなる粒子の比表面積が小さく、成形体は大きな50℃での飽和磁化Js50を有し、また、第1相の比率が高く、低い空隙率を共存できる。
【0032】
(15)本開示の複合体は、上記(1)から(10)のいずれかの感温磁性材料からなる複数の粒子と、前記粒子間を充填する充填材と、からなる複合体である。
【0033】
本開示によれば、温度増加に対する磁石吸引力の減少率の大きい複合体を提供することが可能となる。
【0034】
(16)上記(15)において、前記粒子の含有率は70体積%以上であってもよい。これによると、複合体中の感温磁性材料からなる粒子の相対密度が高く、複合体は大きな50℃での飽和磁化Js50を有し、複合体において内部反磁界のばらつきが小さくなり、複合体の温度増加に対する磁石吸引力の減少率が大きい。
【0035】
(17)上記(15)または(16)において、前記充填材は樹脂であってもよい。これによると、スイッチ時の衝撃や、感温磁性材の熱膨張による内部応力によっても、材料が破壊されにくい。
【0036】
(18)上記(15)から(17)のいずれかにおいて、前記粒子の平均粒径は1.0μm以上100μm以下であってもよい。これによると、感温磁性材料からなる粒子の比表面積が小さく、複合体は大きな50℃での飽和磁化Js50を有し、また、第1相の比率が高い。
【0037】
[本開示の実施形態の詳細]
本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0038】
本明細書において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されず、従来公知のあらゆる原子比が含まれる。
【0039】
本明細書において、特に限定しないときは、高温とは150℃を意味し、低温とは50℃を意味する。
【0040】
本開示において、数値範囲下限及び上限として、それぞれ1つ以上の数値が記載されている場合は、下限に記載されている任意の1つの数値と、上限に記載されている任意の1つの数値との組み合わせも開示されているものとする。例えば、下限として、a1以上、b1以上、c1以上が記載され、上限としてa2以下、b2以下、c2以下が記載されている場合は、a1以上a2以下、a1以上b2以下、a1以上c2以下、b1以上a2以下、b1以上b2以下、b1以上c2以下、c1以上a2以下、c1以上b2以下、c1以上c2以下が開示されているものとする。
【0041】
本発明者等は、まず、従来のFe-Si系合金において、温度増加に対する磁石吸引力の減少率が不十分である原因を検討するために、非特許文献1に記載の焼鈍条件でFe-Si系合金を作製し、その組織観察を行った。具体的には、原料(Fe粉末およびSi粉末の混合粉末)を950℃で88時間、真空中で焼鈍後に徐冷して、Fe-Si系合金を作製し(第231頁左欄、V.磁気分析 1~4行)、その断面をエネルギー分散型X線分析装置付帯の走査型電子顕微鏡(SEM-EDX)で観察した。
【0042】
その結果、上記Fe-Si系合金では、FeSiとFe3Siとが、大きく2相に分離して存在していることを新たに知見した。ここで、FeSiとは、空間群P213に帰属する結晶構造を有する合金であり、Fe3Siとは、空間群Fm-3mに帰属する結晶構造を有する合金である。本発明者らは、合金組織が大きく2相に分離して存在するFeSiとFe3Siとを含むことに起因して、該Fe-Si系合金の磁気特性が低下するものと想定した。この新たな知見および想定に基づき、本発明者等は鋭意検討の結果、本開示の感温磁性材料、粉末、成形体および複合体を完成させた。以下、本開示の感温磁性材料、粉末、成形体および複合体の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。
【0043】
[実施形態1:感温磁性材料]
本開示の一実施形態(以下、「実施形態1」とも記す。)に係る感温磁性材料は、
鉄および珪素を含み、かつ、空間群P213に帰属する結晶構造を有する第1相を備える感温磁性材料であって、
該感温磁性材料の断面において、該第1相の面積基準の百分率は、85%以上であり、
該百分率は、エネルギー分散型X線分析装置付帯の走査型電子顕微鏡を用いて測定される、感温磁性材料である。
【0044】
実施形態1の感温磁性材料は、温度増加に対する磁石吸引力の減少率が大きい。この理由は明らかではないが、以下の通りと推察される。
【0045】
実施形態1の感温磁性材料の第1相は、鉄(Fe)および珪素(Si)を含み、かつ、空間群P213に帰属する結晶構造を有する。該第1相は、温度増加に対する磁石吸引力の減少率が大きい。さらに、実施形態1の感温磁性材料は、その断面において、第1相を面積基準で85%以上含み、磁気特性の観点で第1相がほぼ単相としてふるまう状態となる。よって、実施形態1の感温磁性材料は、温度増加に対する磁石吸引力の減少率が大きくなる。
【0046】
<第1相>
実施形態1の第1相は、鉄(Fe)および珪素(Si)を含み、かつ、空間群P213に帰属する結晶構造を有する。第1相の構成成分としては、FeSiおよびFeSiの鉄の一部が、クロム(Cr)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)のように、鉄と原子半径の近い元素Xで置換型固溶された合金の一方または両方が挙げられる。以下、クロム(Cr)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)およびニッケル(Ni)をまとめて元素Xとも記す。本開示において、FeSiとは、FeおよびSiをFe:Si=43:57~57:43の原子比で含み、空間群P213に帰属する結晶構造を有する合金を意味する。なお、FeSiは、fersiliciteとも呼ばれ、FeSi型結晶構造を有する。本開示において、FeSiの鉄の一部がクロム、コバルト、マンガン、ニッケルのように、鉄と原子半径の近い元素Xで置換型固溶された合金とは、(Fe+X):Si=43:57~57:43の原子比で含み、空間群P213に帰属する結晶構造を有する合金を意味する。第1相が空間群P213に帰属する結晶構造を有することは、X線回折装置(Rigaku社製SmartLab)を用いて回折パターンを取得、当該装置に付属のデータベース解析ソフトウェア(SmartLab Studio II)を用いて同定することで確認することができる。国際回折データセンターICDD(International Centre for Diffraction Data)が公開するJCPDSのデータベースを用いて同定しても良い。X線回折の条件は、Cu-Kα線(45kV/200mA、スリット0.8mm,マスク0.5mm)、測定条件は2θ‐θスキャン(5~90°、ステップ幅0.03°、スキャン速度2°/min)とする。後述の結晶構造は、同一の方法で確認することができる。
【0047】
実施形態1の感温磁性材料の断面において、第1相の面積基準の百分率は、85%以上である。これによると、感温磁性材料において、第1相がほぼ単相で存在し、上記差(ML-MH)が大きく、かつ、温度増加に対する磁石吸引力の減少率が大きくなる。第1相の面積基準の百分率の下限は、85%以上であり、90%以上がより好ましく、95%以上がさらに好ましい。該第1相の面積基準の百分率の上限は特に制限されず、例えば100%以下が好ましい。上記第1相の面積基準の百分率は、85%以上100%以下がより好ましく、90%以上100%以下がさらに好ましく、95%以上100%以下がさらに好ましい。
【0048】
感温磁性材料の断面における第1相の面積基準の百分率は、エネルギー分散型X線分析装置付帯の走査型電子顕微鏡を用いて測定される。具体的には、以下の工程で測定される。
【0049】
工程A1.感温磁性材料が成型体または複合体である場合は、ダイヤモンド砥粒のカッターや放電加工機など、被切断体の加工面の脱粒が生じ難い方法で切断することにより、断面を露出させる。感温磁性材料が粉末の場合は、光学顕微鏡により100倍または200倍で観察しながら、収束イオンビーム加工(FIB加工、装置:Thermo Fisher Scientific社製 Quanta 3D 200i(商標))を行い断面を露出させる。この際、粉末を構成する粒子の略中心を含む断面が露出するようにFIB加工を行う。
【0050】
工程B1.上記断面に対して、FESEM(Field Emission Scanning Electron Microscope、電界放出形走査型電子顕微鏡、JEOL社JSM-7800F)-EDX(AMETEK社EDAX、解析ソフト:GENESIS Spectrum)を用いて面分析を行う。面分析時の加速電圧は10kV、照射電流は5nmとする。観察倍率は5000倍とする。測定視野は10μm×10μmの矩形とする。測定視野中で、Fe原子の原子存在比AFe(atomic%)、Si原子の原子存在比ASi(atomic%)、並びに、元素X(Cr、Co、MnおよびNi)の合計の原子存在比Ax(atomic%)の合計AFe+ASi+Axが80atomic%以上の領域Aを特定する。領域Aは、感温磁性の特性を有する領域に該当する。この際、測定視野中の領域Aの面積百分率が50%以上となるように、測定視野の位置を調整する。領域Aは、感温磁性材料の存在領域に該当する。粉末の場合は、測定視野中の領域Aの面積百分率が50%以上となるように粉末を配置させる。粉末が細かくなり困難な場合は、測定視野を1μm×1μmに変更してもよい。
【0051】
感温磁性材料が成形体や複合体の場合は、上記領域Aの特定は、感温磁性材料と、空隙または充填剤とを区別し、感温磁性材料中の感温磁性の特性を有する領域を抽出する工程に該当する。
【0052】
工程C1.領域A内で、FeとSiと元素X(Cr、Co、MnおよびNi)との原子数の比率が、(Fe+X):Si=43:57~57:43である領域Bを特定する。領域Bは、第1相の存在領域に該当する。
【0053】
工程D1.画像解析ソフトウエア(「ImageJ」(商標)、https://imagej.nih.gov/ij/index.html)を用いて、領域Aに対する領域Bの面積百分率C((領域B/領域A)×100)(%)を算出する。
【0054】
工程E1.上記面積百分率Cの測定を10箇所の異なる測定視野で行う。粉末の場合は、粉末を構成する異なる10個の粒子のそれぞれに、1箇所ずつ測定視野を設定する。10箇所の面積百分率C(%)の平均D(%)を算出する。該平均D(%)が、実施形態1の感温磁性材料の断面における第1相の面積基準の百分率に該当する。
【0055】
同一の感温磁性材料で測定する限り、測定視野を任意に設定しても、測定結果にばらつきがないことが確認されている。同一の感温磁性材料で測定する限り、測定断面を変えても、測定結果にばらつきがないことが確認されている。
【0056】
第1相はマンガンを含むことが好ましい。これによると、感温磁性材料の第1相の含有率が大きくなる。第1相のマンガンの含有率が大きいほど、磁石吸引力がより低温側で0kg近傍まで低下する傾向がある。磁石吸引力をより低温側で0kg近傍まで低下させるという観点からは、第1相のマンガンの含有率の下限は0質量%超が好ましく、2質量%以上が好ましく、4質量%以上が好ましく、6質量%以上がより好ましく、8質量%以上が更に好ましい。第1相のマンガンの含有率の上限は、飽和磁化の低減を避ける観点から、10質量%以下が好ましい。第1相のマンガンの含有率は、0質量%超10質量%以下が好ましく、2質量%以上10質量%以下がより好ましく、4質量%以上10質量%以下がよりこのましく、8質量%以上10質量%以下がさらに好ましい。第1相において、マンガンは、FeSiに置換型固溶して存在すると推察される。
【0057】
第1相は、鉄、珪素およびマンガンを合計で85質量%以上含むことが好ましい。これによると、感温磁性材料の温度増加に対する磁石吸引力の減少率が向上する。第1相の鉄、珪素およびマンガンの合計含有率の下限は、85質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。第1相の鉄、珪素およびマンガンの合計含有率の上限は、特に制限されず、100質量%以下とすることができる。第1相の鉄、珪素およびマンガンの合計含有率は、85質量%以上100質量%以下が好ましく、90質量%以上100質量%以下がより好ましく、95質量%以上100質量%以下がさらに好ましい。
【0058】
第1相は、鉄および珪素を合計で90質量%以上含むことが好ましい。これによると、感温磁性材料の温度増加に対する磁石吸引力の減少率が向上する。第1相の鉄および珪素の合計含有率の下限は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。第1相の鉄および珪素の合計含有率の上限は、特に制限されず、100質量%以下とすることができる。第1相の鉄および珪素の合計含有率は、90質量%以上100質量%以下が好ましく、95質量%以上100質量%以下がより好ましい。
【0059】
第1相の鉄、珪素およびマンガンのそれぞれの含有率は、以下の工程で測定される。
【0060】
工程A2.上記工程A1~C1と同一の手順で領域Bを特定する。
【0061】
工程B2:領域B内でEDXを用いて点分析を行い、Fe:Mn:Siの質量比を導出する。一つの測定視野あたり、5点の点分析を行い、Fe:Mn:Siの質量比の平均を導出する。該平均を、該測定視野におけるFe:Mn:Siの質量比とする。分析時の加速電圧は10keVとする。
【0062】
工程C2:上記点分析を10箇所の異なる測定視野で行う。粉末の場合は、粉末を構成する異なる10個の粒子のそれぞれに、1箇所ずつ測定視野を設定する。10箇所のFe:Mn:Siの質量比の平均を算出する。該平均に基づき、第1相の鉄の含有率、第1相の珪素の含有率および第1相のマンガンの含有率を算出する。
【0063】
同一の感温磁性材料で測定する限り、測定視野を任意に設定しても、測定結果にばらつきがないことが確認されている。同一の感温磁性材料で測定する限り、測定断面を変えても、測定結果にばらつきがないことが確認されている。
【0064】
第1相は、23質量%以上27質量%以下の珪素と、10質量%以下のマンガンと、残部の鉄とからなることが好ましい。ここで、第1相の珪素の含有率は、23質量%以上25質量%以下がさらに好ましい。ここで、第1相のマンガンの含有率は、0質量%超10質量%以下が好ましく、2質量%以上10質量%以下がより好ましく、4質量%以上10質量%以下がよりこのましく、8質量%以上10質量%以下がさらに好ましい。
【0065】
第1相は、23質量%以上27質量%以下の珪素と、残部の鉄とからなることが好ましい。ここで、第1相の珪素の含有率は、23質量%以上25質量%以下が好ましい。
【0066】
本開示の効果が損なわれない限り、該第1相は不純物を含むことができる。該不純物としては、酸素や窒素、炭素、マグネシウム、アルミニウム、リン、硫黄が挙げられる。該不純物の含有率は、15質量%以下とすることができる。第1相は、23質量%以上27質量%以下の珪素と、10質量%以下のマンガンと、残部の鉄および不純物とからなることが好ましい。第1相は、23質量%以上27質量%以下の珪素と、残部の鉄および不純物とからなることが好ましい。
【0067】
<第2相>
実施形態1の感温磁性材料は第2相を備えてもよい。本開示において、第2相とは、感温磁性材料の断面を、上記の感温磁性材料の断面における第1相の面積基準の百分率の測定方法の工程A1および工程B1にしたがって面分析を行った場合に、Fe原子の原子存在比AFe(atomic%)、Si原子の原子存在比ASi(atomic%)、並びに、元素X(Cr、Co、MnおよびNi)の合計の原子存在比Ax(atomic%)の合計AFe+ASi+Axが80atomic%以上であり、かつ、第1相の結晶構造(空間群P213に帰属する結晶構造)とは異なる結晶構造の相とする。
【0068】
実施形態1の感温磁性材料の断面において、第2相の面積基準の百分率は、15%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましい。実施形態1の感温磁性材料が第2相を備える場合は、該第2相の面積基準の百分率は、0%超15%以下が好ましく、0%超10%以下がより好ましく、0%超5%以下がさらに好ましい。
【0069】
感温磁性材料の断面における第2相の面積基準の百分率は、以下の工程で測定される。上記の感温磁性材料の断面における第1相の面積基準の百分率の測定方法の工程A1~工程C1にしたがって、領域Aおよび領域Bを特定する。領域A内で、領域B以外の部分である領域Gを特定する。領域Gは第2相の存在領域に該当する。画像解析ソフトウエア(「ImageJ」(商標)、https://imagej.nih.gov/ij/index.html)を用いて、領域Aに対する領域Gの面積百分率H((領域G/領域A)×100)(%)を算出する。
【0070】
上記面積百分率Hの測定を10箇所の異なる測定視野で行う。粉末の場合は、粉末を構成する異なる10個の粒子のそれぞれに、1箇所ずつ測定視野を設定する。10箇所の面積百分率H(%)の平均I(%)を算出する。該平均I(%)が、実施形態1の感温磁性材料の断面における第2相の面積基準の百分率に該当する。
【0071】
同一の感温磁性材料で測定する限り、測定視野を任意に設定しても、測定結果にばらつきがないことが確認されている。同一の感温磁性材料で測定する限り、測定断面を変えても、測定結果にばらつきがないことが確認されている。
【0072】
第2相は、第1合金、第2合金または第3合金からなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、該第1合金は、鉄および珪素を含み、かつ、空間群P-3m1に帰属する結晶構造を有し、該第2合金は、鉄および珪素を含み、かつ、空間群Fm-3mに帰属する結晶構造を有し、該第3合金は、鉄および珪素を含み、かつ、空間群P63/mcmに帰属する結晶構造を有し、該感温磁性材料の断面において、該第2相の面積基準の百分率は、15%以下であることが好ましい。第2相は、本実施形態の感温磁性材料の製造工程において生成される副生成物である。感温磁性材料が第2相を含むと、第1相の格子歪が発生しにくくなり、温度増加に対する磁石吸引力の減少率の低下を防ぐことができる。
【0073】
第1合金としては、Fe2Si、および、Fe2Siの鉄の一部がCr、Co、MnおよびNiの少なくとも1種に置換型固溶された合金が挙げられる。第2合金としては、Fe3Si、および、Fe3Siの鉄の一部がCr、Co、MnおよびNiの少なくとも1種に置換型固溶された合金が挙げられる。第3合金としては、Fe5Si3、および、Fe5Si3の鉄の一部がCr、Co、MnおよびNiの少なくとも1種に置換型固溶された合金が挙げられる。
【0074】
第2相は、第1合金、第2合金および第3合金のほかに、Fe0.67Si0.33、Fe0.8Si0.2、Fe0.92Si0.08、Fe0.92Si2、Fe1.5Si0.5およびFeSi2(FeSi2構造およびCaF2構造を含む)ならびにこれらの鉄の一部がCr、Co、MnおよびNiの少なくとも1種に置換型固溶された合金、FeSi2、Si、MnSi、MnSi2が挙げられる。第2相に含まれる合金の組成は、X線回折法により確認することができる。
【0075】
本開示の感温磁性材料の断面において、第2相中の第1合金、第2合金および第3合金の合計の面積基準の百分率は、0.5%以上15%以下が好ましく、0.5%以上10%以下がより好ましい。
【0076】
実施形態1の感温磁性材料は、第1相および第2相からなることができる。実施形態の1の感温磁性材料は、本開示の効果を損なわない限り、第1相および第2相に加えて、第3相を含むことができる。本開示において、第3相とは、感温磁性材料の断面を、上記の感温磁性材料の断面における第1相の面積基準の百分率の測定方法の工程A1および工程B1にしたがって面分析を行った場合に、Fe原子の原子存在比AFe(atomic%)が50atomic%以上であり、かつ、Fe原子の原子存在比AFe(atomic%)、Si原子の原子存在比ASi(atomic%)、並びに、元素X(Cr、Co、MnおよびNi)の合計の原子存在比Ax(atomic%)の合計AFe+ASi+Axが80atomic%未満の相とする。第3相は、感温磁性材料の感温磁性の特性を有しない領域に該当する。
【0077】
<飽和磁化>
実施形態1の感温磁性材料の150℃での飽和磁化Js150に対する、50℃での飽和磁化Js50の割合Js50/Js150は、10以上であることが好ましい。これによると、感温磁性材料の磁気特性がさらに向上する。割合Js50/Js150の下限は、12以上が好ましく、14以上が好ましく、15以上が好ましく、25以上がさらに好ましい。該割合Js50/Js150の上限は特に制限されないが、例えば、105以下とすることができる。割合Js50/Js150は、10以上105以下が好ましく、12以上105以下が好ましく、14以上105以下が好ましく、15以上105以下がより好ましく、25以上105以下がさらに好ましい。
【0078】
実施形態1の感温磁性材料の50℃での飽和磁化Js50は、0.20Wb/m2以上が好ましい。これによると、感温磁性材料の磁気特性がさらに向上する。Js50の下限は0.25Wb/m2以上がより好ましく、0.3Wb/m2以上がさらに好ましい。該Js50の上限は特に制限されないが、例えば、2Wb/m以下とすることができる。該Js50は、0.20Wb/m2以上2Wb/m2以下が好ましく、0.25Wb/m2以上2Wb/m2以下がより好ましく、0.3Wb/m2以上2Wb/m2以下がさらに好ましい。
【0079】
本開示において、感温磁性材料の飽和磁化は、成形体や複合体の場合はBHループトレーサ(JIS C2501)を用いて測定される。粉体の場合は振動試料型磁束計(VSM)(JIS C2500)を用いて測定される。飽和磁化は成形体や複合体の場合は印加磁界0.8MA/m、粉体の場合は印加磁界1.6MA/mの時の磁化を採用する。
【0080】
<製造方法>
実施形態1の感温磁性材料の製造方法の一例について、以下に説明する。該製造方法は、素材溶解工程および粉末化工程を含むことができる。
【0081】
≪素材溶解工程≫
鉄(Fe)原料および珪素(Si)原料を準備して所定の質量比になるように秤量する。Fe原料およびSi原料の混合比(質量比)は、Fe原料:Si原料=40:60~60:40とする。さらにマンガン(Mn)原料、クロム(Cr)原料、コバルト(Co)原料、ニッケル(Ni)原料などを添加することができる。Mn原料、Cr原料、Co原料およびNi原料の少なくとも1つを含む場合、これらの含有率の合計は、原料全体の10質量%以下とする。上記各主原料は、板状、粒状、チップ状、粉末状のいずれであってもよい。
【0082】
秤量した各原料をφ80mmの酸化マグネシウム(MgO)製坩堝に投入し、高周波加熱で1600度まで加熱してFe-Si溶湯、Fe-Si-Mn溶湯、Fe-Si-Cr溶湯、Fe-Si-Co溶湯、Fe-Si-Ni溶湯などを得る。該溶湯をステンレス製の鋳型に鋳造して冷却後、酸化物等の巻き込みが残る鋳物上部の表面から10mmを除去したうえで、鋳物を粉砕して10mm程度の破片を得る。溶解はアーク溶解やプラズマ溶解など他の加熱法を用いてもよい。
【0083】
≪粉末化工程≫
得られた破片をφ25mmの石英製のノズル付き坩堝に投入し、高周波加熱で1550℃まで加熱して溶解し、溶解物をノズルから、回転する銅製ロール上に噴射して、急冷しながら粉末化させることにより、実施形態1の感温磁性材料を得ることができる。すなわち、得られた粉末は、実施形態1の感温磁性材料からなる粉末である。
【0084】
上記粉末化工程により、感温磁性材料の断面において、第1相の面積割合が85%以上である感温磁性材料を得ることができる。該粉末化工程は、本発明者らが新たに見出した工程である。
【0085】
<用途>
実施形態1の感温磁性材料は感温スイッチに用いることができる。特に、水冷システムなどでの温度上昇検知などの用途では、50~150℃の温度領域での感温スイッチの磁気特性の向上が求められている。よって、実施形態1の感温磁性材料を用いた感温スイッチは、これらの用途において、優れた磁気特性を発揮することができる。
【0086】
実施形態1の感温磁性材料は、永久磁石式モータでの減磁対策にも用いることができる。
【0087】
[実施形態2:粉末]
本開示の一実施形態(以下、「実施形態2」とも記す。)に係る粉末は、鉄および珪素を含み、かつ、空間群P213に帰属する結晶構造を有する第1相を備える感温磁性材料からなる粉末であって、該感温磁性材料の断面において、前記第1相の面積基準の百分率は、85%以上であり、該百分率は、エネルギー分散型X線分析装置付帯の走査型電子顕微鏡を用いて測定され、平均粒径が1.0μm以上100μm以下である、粉末である。該粉末は、実施形態1の感温磁性材料の製造方法の粉末化工程により得られる粉末に該当する。該粉末は、従来のFe-Si系合金に比べて、温度増加に対する磁石吸引力の減少率が大きい。
【0088】
<平均粒径>
実施形態2の粉末の平均粒径は、1.0μm以上100μm以下である。感温磁性材料からなる粉末の比表面積は小さく、粉末の50℃での飽和磁化Js50が高く、かつ、第1相の比率が大きい。粉末の平均粒径の下限は、10μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましい。粉末の平均粒径の上限は、50μm以下が好ましい。粉末の平均粒径は、10μm以上100μm以下が好ましく、30μm以上100μm以下がより好ましく、30μm以上50μm以下がさらに好ましい。
【0089】
本開示において、粉末の平均粒径とは、粉末を構成する粒子の面積相当径の個数基準のD50を意味する。該面積相当径はJIS Z 8827-1:2018に準拠して測定される。100個以上の粒子の面積相当径を測定する。この結果に基づき、個数基準の頻度の累積が50%となる面積相当径D50を求める。
【0090】
[実施形態3:成形体]
本開示の一実施形態(以下、「実施形態3」とも記す。)に係る成形体は、実施形態1に記載の感温磁性材料からなる粒子からなる成形体であって、該成形体の内部には空隙が形成される、成形体である。該成形体は、従来のFe-Si系合金に比べて、温度増加に対する磁石吸引力の減少率が大きい。
【0091】
<空隙率>
実施形態3の成形体の空隙率は30体積%以下であることが好ましい。これによると、成形体の磁気特性が向上する。成形体の空隙率の上限は、磁気特性向上の観点から、30体積%以下が好ましく、20体積%以下がより好ましく、10体積%以下がさらに好ましい。成形体の空隙率は0体積%、すなわち、成形体に空隙が存在しなくてもよい。成形体は、実施形態1に記載の感温磁性材料からなり、空隙を含まないことができる。成形体の空隙率は0体積%以上30体積%以下が好ましく、0体積%以上20体積%以下がより好ましく、0体積%以上10体積%以下がさらに好ましい。
【0092】
成形体の空隙率は、以下の工程で測定される。
【0093】
工程A4.上記工程A1と同一の方法で、成形体を切断し、断面を露出させる。この時、互いに直交する3つの断面(X断面、Y断面、Z断面)を得ることができるように、成形体を切断し、直方体の試料を得る。
【0094】
工程B4.上記試料の表面に対して、上記工程B1と同一の条件で、SEM-EDXを用いて面分析を行う。測定視野中で、Fe、Mn、Siの合計原子存在比が80atomic%を超える部分(領域Aに相当)の原子検出量に対し、原子の検出量が1/20以下の部分を空隙領域とする。
【0095】
工程C4.画像解析ソフトウエア(「ImageJ」)を用いて、X断面における空隙比率Sv_x(%)、Y断面における空隙比率Sv_y(%)、およびZ断面における空隙比率Sv_z(%)を算出し、以下の式に基づき空隙率Sv(体積%)を算出する。
Sv=(Lx*(Sv_x)1.5+Ly*(Sv_y)1.5+Lz*(Sv_z)1.5)/(Lx+Ly+Lz)
上記式において、Lxは試料のX断面の解析領域の面積(単位:m2)を示し、Lyは試料のY断面の解析領域の面積(単位:m2)を示し、Lzは試料のZ断面の解析領域の面積(単位:m2)を示す。
【0096】
同一の成形体で測定する限り、測定視野を任意に設定しても、測定結果にばらつきがないことが確認されている。同一の成形体で測定する限り、測定断面を変えても、測定結果にばらつきがないことが確認されている。
【0097】
<粒子の平均粒径>
実施形態3の成形体において、粒子の平均粒径は1.0μm以上100μm以下が好ましい。これによると、感温磁性材料からなる粒子の比表面積が小さく、成形体は大きな50℃での飽和磁化Js50を有し、また、第1相の比率が高く、低い空隙率を共存できる。粒子の平均粒径の下限は、10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、30μm以上がさらに好ましい。粒子の平均粒径の上限は、50μm以下が好ましい。粒子の平均粒径は、10μm以上100μm以下が好ましく、30μm以上100μm以下がより好ましく、30μm以上50μm以下がさらに好ましい。
【0098】
本開示において、粒子の平均粒径とは、粒子の面積相当径の個数基準のD50を意味する。成形体における粒子の面積相当径は、粒子同士の境界および空隙によって囲まれた領域を1個の粒子とし、成形体を粉末と見做して、JIS Z 8827-1:2018に準拠して測定される。100個以上の粒子の面積相当径を測定する。この結果に基づき、個数基準の頻度の累積が50%となる面積相当径D50を求める。後述の複合体の粒子の平均粒径も同様の方法で測定される。
【0099】
実施形態の3の成形体の破壊強度は、10MPa以上が好ましく、50MPa以上がより好ましく、100MPa以上がさらに好ましい。成形体の破壊強度の上限は特に制限されないが、例えば、1500MPa以下とすることができる。成形体の破壊強度は、10MPa以上1500MPa以下が好ましく、50MPa以上1500MPa以下がより好ましく、100MPa以上1500MPa以下がさらに好ましい。
【0100】
成形体の破壊強度の測定方法は以下の通りである。成形体を3mm×4mm×30mmの角棒状に切り出して測定試料を準備する。測定試料について、3点曲げ試験機を用いて、20mmスパン、ストローク速度1mm/分で試験を行い、破壊強度を測定する。
【0101】
なお、参考文献1に記載の焼鈍条件で作製された合金の破壊強度は、10MPa未満であることが確認されている。これは、該合金では、FeSiとFe3Siとが、大きく2相に分離して存在しているため脆性の大きなFeSiの破壊が起こりやすいためと推察される。
【0102】
<製造方法>
実施形態3の成形体の製造方法の一例について、以下に説明する。該製造方法は、素材溶解工程、粉末化工程および成形工程を含むことができる。素材溶解工程および粉末化工程は、実施形態1と同一の工程とすることができる。
【0103】
≪成形工程≫
粉末化工程で得られた粉末を成形型に充填し、800~1000℃、10~500MPaで1~120分加熱加圧する。これにより、実施形態3の成形体を得ることができる。
【0104】
[実施形態4:複合体]
本開示の一実施形態(以下、「実施形態4」とも記す。)に係る複合体は、実施形態1に記載の感温磁性材料からなる複数の粒子と、該粒子間を充填する充填材と、からなる複合体である。該複合体は、従来のFe-Si系合金に比べて、低温での磁石吸引力と高温での磁石吸引力との差が大きく、かつ、温度増加に対する磁石吸引力の減少率が大きい。
【0105】
実施形態4の複合体の粒子の含有率は60体積%以上が好ましく、70体積%以上がより好ましい。これによると、複合体の磁気特性が向上する。複合体の粒子の含有率の上限は、複合材強度の確保の観点から、85体積%以下が好ましく、75体積%以下がより好ましい。複合体の粒子の含有率は、60体積%以上85体積%以下が好ましく、70体積%以上85体積%以下がより好ましく、70体積%以上75体積%以下がさらに好ましい。
【0106】
複合体の粒子の含有率は、以下の工程で測定される。
【0107】
工程A5.上記工程A4と同一の方法で複合体を切断し、直方体の試料を得る。
【0108】
工程B5.上記試料の表面を、上記工程B1と同一の条件で、SEM-EDXを用いて面分析を行う。測定視野中で、Fe、Mn、Siの合計原子比率が80%を超える部分を粒子の存在領域とする。
【0109】
工程C5.画像解析ソフトウエア(「ImageJ」)を用いて、X断面における粒子の面積百分率Sg_x(面積%)、Y断面における粒子の面積百分率Sg_y(面積%)、およびZ断面における粒子の面積百分率Sg_z(面積%)を算出し、以下の式に基づき粒子の含有率Sg(体積%)を算出する。
Sg=(Lx*(Sg_x)1.5+Ly*(Sg_y)1.5+Lz*(Sg_z)1.5)/(Lx+Ly+Lz)
上記式において、Lxは試料のX断面の解析領域の面積(単位:m2)を示し、Lyは試料のY断面の解析領域の面積(単位:m2)を示し、Lzは試料のZ断面の解析領域の面積(単位:m2)を示す。
【0110】
同一の複合体で測定する限り、測定視野を任意に設定しても、測定結果にばらつきがないことが確認されている。
【0111】
<充填剤>
実施形態4の充填剤は感温磁性粉末と密着性の高い樹脂であることが好ましい。これによると、複合材の強度が向上する。
【0112】
実施形態4に用いられる樹脂としては、例えば、熱硬化性エポキシ樹脂、熱硬化性アクリル樹脂が挙げられる。
【0113】
<粒子の平均粒径>
実施形態4の複合体において、粒子の平均粒径は1.0μm以上100μm以下が好ましい。これによると、感温磁性材料からなる粒子の比表面積が小さく、複合体は大きな50℃での飽和磁化Js50を有し、また、第1相の比率が高く、低い空隙率を共存できる。粒子の平均粒径の下限は、10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、30μm以上がさらに好ましい。粒子の平均粒径の上限は、50μm以下が好ましい。粒子の平均粒径は、10μm以上100μm以下が好ましく、30μm以上100μm以下がより好ましく、30μm以上50μm以下がさらに好ましい。
【0114】
実施形態の4の複合体の破壊強度は、10MPa以上が好ましく、20MPa以上がより好ましく、100MPa以上がさらに好ましい。複合体の破壊強度の上限は特に制限されないが、例えば、500MPa以下とすることができる。複合体の破壊強度は、10MPa以上500MPa以下が好ましく、20MPa以上500MPa以下がより好ましく、100MPa以上500MPa以下がさらに好ましい。複合体の破壊強度の測定方法は、実施形態3の成形体の破壊強度の測定方法と同一である。
【0115】
<製造方法>
実施形態4の複合体の製造方法の一例について、以下に説明する。該製造方法は、素材溶解工程、粉末化工程および複合化工程を含むことができる。素材溶解工程および粉末化工程は、実施形態1と同一の工程とすることができる。
【0116】
≪複合化工程≫
粉末化工程で得られた粉末と充填材の原料粉末とを混合して混合粉末を得る。該混合粉末を成形型に充填し、100~180℃、0.5~20MPaで1~120分加熱加圧する。これにより、実施形態4の複合体を得ることができる。
【0117】
[付記1]
鉄および珪素を含み、かつ、空間群P213に帰属する結晶構造を有する第1相を備える感温磁性材料であって、
前記感温磁性材料の断面において、前記第1相の面積基準の百分率は、85%以上であり、
前記百分率は、エネルギー分散型X線分析装置付帯の走査型電子顕微鏡を用いて測定される、感温磁性材料。
[付記2]
前記第1相はマンガンを含む、付記1に記載の感温磁性材料。
[付記3]
前記第1相は、鉄、珪素およびマンガンを合計で85質量%以上含む、付記1または付記2に記載の感温磁性材料。
[付記4]
前記第1相のマンガンの含有率は、10質量%以下である、付記2または付記3に記載の感温磁性材料。
[付記5]
前記第1相は、23質量%以上27質量%以下の珪素と、10質量%以下のマンガンと、残部の鉄と、からなる、付記1から付記4のいずれかに記載の感温磁性材料。
[付記6]
前記第1相は、23質量%以上27質量%以下の珪素と、残部の鉄と、からなる、付記1に記載の感温磁性材料。
[付記7]
前記感温磁性材料は、第2相を備え、
前記第2相は、第1合金、第2合金または第3合金からなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、
前記第1合金は、鉄および珪素を含み、かつ、空間群P-3m1に帰属する結晶構造を有し、
前記第2合金は、鉄および珪素を含み、かつ、空間群Fm-3mに帰属する結晶構造を有し、
前記第3合金は、鉄および珪素を含み、かつ、空間群P63/mcmに帰属する結晶構造を有し、
前記感温磁性材料の断面において、前記第2相の面積基準の百分率は、15%以下である、付記1から付記6のいずれかに記載の感温磁性材料。
[付記8]
150℃での飽和磁化Js150に対する、50℃での飽和磁化Js50の割合Js50/Js150は、10以上である、付記1から付記7のいずれかに記載の感温磁性材料。
[付記9]
前記Js50/Js150は、15以上である、付記8に記載の感温磁性材料。
[付記10]
前記Js50は、0.3Wb/m2以上である、付記8または付記9に記載の感温磁性材料。
[付記11]
鉄および珪素を含み、かつ、空間群P213に帰属する結晶構造を有する第1相を備える感温磁性材料からなる粉末であって、
前記感温磁性材料の断面において、前記第1相の面積基準の百分率は、85%以上であり、
前記百分率は、エネルギー分散型X線分析装置付帯の走査型電子顕微鏡を用いて測定され、
平均粒径が1.0μm以上100μm以下である、粉末。
[付記12]
付記1から付記10のいずれか1項に記載の感温磁性材料からなる粒子からなる成形体であって、
前記成形体の内部には空隙が形成される、成形体。
[付記13]
前記成形体の空隙率は30体積%以下である、付記12に記載の成形体。
[付記14]
前記粒子の平均粒径は1.0μm以上100μm以下である、付記12または付記13に記載の成形体。
[付記15]
付記1から付記10のいずれか1項に記載の感温磁性材料からなる複数の粒子と、前記粒子間を充填する充填材と、からなる複合体。
[付記16]
前記粒子の含有率は70体積%以上である、付記15に記載の複合体。
[付記17]
前記充填材は樹脂である、付記15または付記16に記載の複合体。
[付記18]
前記粒子の平均粒径は1.0μm以上100μm以下である、付記15から付記17のいずれかに記載の複合体。
【実施例0118】
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
【0119】
[実施例1:粉末および成形体]
<試料1~試料18、試料1-4、試料1-5>
試料1~試料18、試料1-4、試料1-5の粉末を、以下の工程で作製した。
【0120】
≪素材溶解工程≫
Fe原料、Si原料および元素X(XはMn、Cr、CoまたNi)原料を秤量した。各原料の合計(原料全体)を100質量%とした場合の各原料の百分率(質量%)は、表1の製造方法欄に示されるとおりである。
【0121】
秤量した各原料をφ80mmの酸化マグネシウム(MgO)製坩堝に投入し、高周波加熱で1600度まで加熱してFe-Si溶湯またはFe-Si-X溶湯を得た。該溶湯を鋳型に投入して冷却後、鋳物上部の表面から10mmを除去したうえで、鋳物を粉砕して10mm程度の破片を得た。
【0122】
≪粉末化工程≫
得られた破片をφ25mmの石英製のノズル付き坩堝に投入し、高周波加熱で1550℃まで加熱して溶解し、溶解物をノズルから、1000~3000rpmで回転する銅製ロール上に噴射して、急冷しながら粉末化させることにより、各試料の感温磁性材料からなる粉末を得た。各試料における銅製ロールの回転数は表1の「粉末化工程」の「回転数」欄に示されるとおりである。該工程を、表1において「急冷粉末化」と示す。
【0123】
急冷粉末化により得られた各試料の粉末の平均粒径を、表1の「粉末」の「平均粒径」欄に記載の平均粒径となるように、以下の手順で調整した。急冷粉末化により得られた粉末を、目開き180μm、125μm、63μm、または、32μmの試験用ふるい(直径200mm)を用いてふるい分けをした。該ふるい分けにより、D50が150μm、100μm、50μmまたは20μmの粉末を得ることができる。ふるい分けはJIS Z 8815-1994に準じて実施した。試験用ふるいの直径は200mmである。D50=20μmの粉末をフリッチュ社遊星ボールミルP-5 classic line(φ8mmSUS製ボール)を用いて粉砕した。回転数150rpmおよび粉砕時間20分により、D50=1.5μmの粉末を得た。回転数150rpmおよび粉砕時間300分により、D50=0.8μmの粉末を得た。
【0124】
<試料1-1~試料1-3>
試料1-1~試料1-3の粉末を、以下の工程で作製した。
【0125】
Fe原料、Si原料およびMn原料を秤量した。各原料の合計(原料全体)を100質量%とした場合の各原料の百分率(質量%)は、表1の製造方法欄に示されるとおりである。
【0126】
秤量した各原料をφ80mmの酸化マグネシウム(MgO)製坩堝に投入し、高周波加熱で1600度まで加熱してFe-Si溶湯またはFe-Si-Mn溶湯を得た。該溶湯を鋳型に投入して冷却後、鋳物上部の表面から10mmを除去したうえで、鋳物を粉砕して10mm程度の破片を得た。この破片に対し、950℃で88時間、真空中熱処理を施し、加熱終了後は徐冷し感温磁性材料の破片を得た。
【0127】
【0128】
<粉末の測定>
得られた粉末について、断面における第1相および第2相の面積基準の百分率、第1相の原子含有率(Fe含有率、Si含有率、元素X含有率)、第2相の組成、粉末の平均粒径を測定した。具体的な測定方法は実施形態1および実施形態2に記載の通りである。結果を表2に示す。
【0129】
【0130】
<成形体の作製>
上記で得られた各試料の粉末を成形型に充填し、1000℃、30MPaで60分間加熱加圧し、各試料の成形体を得た。成形体の大きさは、φ40mm×5mmであった。
【0131】
<成形体の測定>
得られた成形体について、空隙率、粒子の平均粒径、150℃での飽和磁化Js150に対する50℃での飽和磁化Js50の割合Js50/Js150、Js50および破壊強度を測定した。具体的な測定方法は実施形態1および実施形態3に記載の通りである。結果を表2の「成形体」の「空隙率」および「平均粒径」欄、「評価」の「飽和磁化」の「Js50/Js150」、「Js50」および「破壊強度」欄に示す。
【0132】
<磁気特性の評価>
得られた成形体について、温度増加に対する磁石吸引力の減少率(磁石吸引力が50℃の時の80%から20%まで減少する際の、温度1℃あたりの磁石吸引力の減少量)を測定した。磁気吸引力の具体的な測定方法は以下の通りである。測定対象の成形体をφ15mm×2mmに加工し、ホットプレートにカプトンテープで固定し、φ15mm×5mmのSmCo磁石を先端に付けた重量計の磁石を測定試料に磁気吸引力で接着させる。重量計を垂直に持ち上げて、測定試料から磁石が離れる時の重量計の支持値を磁気吸引力とする。測定温度は、50℃から、磁石吸引力が50℃の時の20%に減少するまでの温度を含むように設定する。結果を表2の「評価」の「磁石吸引力の減少率」欄に示す。
【0133】
<考察>
試料1~試料18の成形体は実施例に該当し、試料1-1~試料1-5の成形体は比較例に該当する。試料1~試料18の成形体は、試料1-1~試料1-5の成形体に比べて、温度増加に対する磁石吸引力の減少率が大きくなることが確認された。
【0134】
試料11(実施例)および試料1-3(比較例)の成形体の温度変化に対する磁石吸着力の変化について、
図1を用いて説明する。
図1は、試料11および試料1-3の成形体の温度変化に対する磁石吸着力の変化を示すグラフである。
図1において、横軸は温度を示し、縦軸は磁石吸着力を示す。
【0135】
図1に示されるように、試料11は、試料1-3に比べて、温度増加に対する磁石吸引力の減少率が大きい。試料11は、約118℃以上において、磁石吸引力が0kgとなった。一方、試料1-3では、約115℃においても、磁石吸引力は0kgとならなかった。
【0136】
図1に示される試料11および試料1-3の断面の走査電子顕微鏡(SEM)画像(倍率200倍)を、それぞれ
図2および
図3に示す。
図2および
図3において、符号1は第1相を示し、符号2は第2相を示し、符号3は空隙を示す。
図2に示されるように、試料11の組織には第2相がほぼ確認されず、空隙以外の領域には第1相がほぼ単相で存在することが確認された。一方、
図3に示されるように、試料1-3の組織は、第1相と第2相とが大きく2相に分離して存在することが確認された。
【0137】
試料8、試料9、試料10および試料11の成形体の温度変化に対する磁石吸着力の変化について、
図4を用いて考察する。
図4は、成形体の温度変化に対する磁石吸着力の変化を示すグラフである。
図4において、横軸は温度を示し、縦軸は磁石吸着力を示す。
【0138】
図4に示されるように、全ての試料は、温度130℃以上で、磁石吸着力が0kgとなることが確認された。さらに、マンガン含有率が多いほど、磁石吸着力の低下が低温側で生じやすく、磁石吸着力が0kgとなる温度が低下することが確認された。
【0139】
[実施例2:成形体]
実施例2では、実施例1の試料8、試料11、試料1-1、試料1-3の粉末を用いて成形体を作製した。上記の粉末を成形型に充填し、表3に示される温度、圧力、時間で加熱加圧し、各試料の成形体を得た。成形体の大きさは、φ40mm×5mmであった。
【0140】
<成形体の測定>
得られた成形体について、空隙率、粒子の平均粒径、150℃での飽和磁化Js150に対する50℃での飽和磁化Js50の割合Js50/Js150、Js50および破壊強度を測定した。具体的な測定方法は実施形態1および実施形態3に記載の通りである。結果を表3に示す。
【0141】
<磁気特性の評価>
得られた成形体について、温度増加に対する磁石吸引力の減少率を測定した。具体的な測定方法は実施例1に記載の通りである。結果を表3に示す。
【0142】
【0143】
<考察>
試料21~試料24は実施例に該当し、試料2-1~試料2-4は比較例に該当する。試料21~試料24は、試料2-1~試料2-4に比べて、温度増加に対する磁石吸引力の減少率が大きくなることが確認された。
【0144】
[実施例3:複合体]
実施例3では、実施例1の試料8、試料11、試料1-1または試料1-3の粉末を用いて複合体を作製した。具体的には、上記の粉末と、充填材原料粉末(UBE社製UIP-R、ポリイミドパウダー)とを、表4に記載の質量比で混合して混合粉末を得た。該混合粉末を成形型に充填し、190℃、0.2MPaで5分加熱加圧して複合体を得た。
【0145】
<複合体の測定>
得られた複合体について、粒子の含有率、粒子の平均粒径、150℃での飽和磁化Js150に対する50℃での飽和磁化Js50の割合Js50/Js150、Js50および破壊強度を測定した。具体的な測定方法は実施形態1および実施形態4に記載の通りである。結果を表4に示す。
【0146】
<磁気特性の評価>
得られた複合体について、温度増加に対する磁石吸引力の減少率を測定した。具体的な測定方法は実施例1に記載の通りである。結果を表4に示す。
【0147】
【0148】
<考察>
試料31~試料34は実施例に該当し、試料3-1~試料3-4は比較例に該当する。試料31~試料34は、試料3-1~試料3-4に比べて、温度増加に対する磁石吸引力の減少率が大きくなることが確認された。なお、試料3-2の複合体の磁石吸引力の減少率は、試料1、3、5、13の成形体の磁石吸引力の減少率と同等以上にである。これは、成形体は、粉末や複合体の状態と比較して内部反磁場が小さく、高温時(内部反磁場の影響を受けやすい)の磁石吸引力が相対的に高くなり、磁石吸引力の減少率が下がるためと推察される。
【0149】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形することも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。