(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076690
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】分離システム及び分離方法
(51)【国際特許分類】
B01D 59/12 20060101AFI20240530BHJP
B01D 59/40 20060101ALI20240530BHJP
C25B 1/01 20210101ALI20240530BHJP
C25B 1/02 20060101ALI20240530BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20240530BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240530BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20240530BHJP
【FI】
B01D59/12
B01D59/40
C25B1/01 Z
C25B1/02
C25B9/23
C25B9/00 Z
H01M8/04 Z
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188371
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】古澤 宏一朗
(72)【発明者】
【氏名】高橋 和幸
(72)【発明者】
【氏名】村田 尚貴
(72)【発明者】
【氏名】松島 永佳
(72)【発明者】
【氏名】名合 虎之介
【テーマコード(参考)】
4K021
5H127
【Fターム(参考)】
4K021AA09
4K021BA02
4K021DB16
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB53
5H127AC05
5H127BA02
5H127BA14
5H127BB02
5H127BB32
5H127BB42
(57)【要約】
【課題】装置の劣化を抑制しつつ、軽水素及び重水素を含む流体から高い分離効率で重水素を分離できる分離システム及び分離方法の提供。
【解決手段】複数の分離装置を直列に連結して備え、複数の分離装置はアノード触媒層とカソード触媒層が設けられた電解質膜を備え、アノード流路には軽水素及び重水素を含む第一流体を流入する第一の流入流路112aと、第一流体よりも重水素含有率が低い第二流体を流出する第一の流出流路112b,212bが接続され、カソード流路には第三流体を流入する第二の流入流路113a,213aと、軽水及び重水を含む第四流体を流出する第二の流出流路113b,213bが接続され、複数の分離装置のうち少なくとも最上流の分離装置が、第三流体として水蒸気を含む気体を流入し、第四流体として第三流体とアノード触媒層からカソード触媒層へ移動した重水素とを流出する第一の分離装置10である、分離システム1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも軽水素及び重水素を含む流体から前記重水素を分離する複数の分離装置を直列に連結して備える分離システムであって、
前記複数の分離装置は、それぞれ電解質を有する電解質膜を備え、
前記電解質膜の両面のうち、第一の面にアノード触媒層及びアノード流路がこの順に設けられ、第二の面にカソード触媒層及びカソード流路がこの順に設けられ、
前記アノード流路には、少なくとも軽水素及び重水素を含む気体である第一流体を前記アノード流路に流入する第一の流入流路と、前記第一流体よりも重水素含有率が低い気体である第二流体を前記アノード流路から流出する第一の流出流路とが接続され、
前記カソード流路には、第三流体を前記カソード流路に流入する第二の流入流路と、少なくとも軽水及び重水を含む第四流体を前記カソード流路から流出する第二の流出流路とが接続され、
前記複数の分離装置のうち少なくとも最上流の分離装置が、前記第三流体として少なくとも水蒸気を含む気体を前記カソード流路に流入し、前記第四流体として前記カソード流路を通過した前記第三流体と前記アノード触媒層から前記カソード触媒層へ移動した前記重水素とを前記カソード流路から流出する第一の分離装置である、分離システム。
【請求項2】
前記第一の分離装置は、前記水蒸気を発生させる加湿器を備える、請求項1に記載の分離システム。
【請求項3】
前記第一の分離装置において前記カソード流路に流入される前記第三流体は窒素をさらに含む、請求項1又は2に記載の分離システム。
【請求項4】
前記複数の分離装置は、1つ以上の前記第一の分離装置と、前記第一の分離装置の下流に設けられた、前記第一の分離装置以外の1つ以上の第二の分離装置とからなり、
前記第一の分離装置では発電は行わず、
前記第二の分離装置では発電を行う、請求項1又は2に記載の分離システム。
【請求項5】
前記複数の分離装置のうち少なくとも1つは、循環手段をさらに備え、
前記循環手段は、前記アノード流路から流出した前記第二流体の一部を、前記アノード流路に返送する第一の返送流路を有する、請求項1又は2に記載の分離システム。
【請求項6】
前記複数の分離装置は、1つ以上の前記第一の分離装置と、前記第一の分離装置の下流に設けられた、前記第一の分離装置以外の1つ以上の第二の分離装置とからなり、
前記第一の分離装置の発電量が、前記第二の分離装置の発電量よりも小さい、請求項1又は2に記載の分離システム。
【請求項7】
直列に連結した複数の分離装置を用いた、少なくとも軽水素及び重水素を含む流体から重水素を分離する分離方法であって、
前記複数の分離装置は、それぞれ電解質を有する電解質膜を備え、
前記電解質膜の両面のうち、第一の面にアノード触媒層及びアノード流路がこの順に設けられ、第二の面にカソード触媒層及びカソード流路がこの順に設けられ、
少なくとも軽水素及び重水素を含む気体である第一流体を前記アノード流路に流入し、前記第一流体よりも重水素含有率が低い気体である第二流体を前記アノード流路から流出し、
第三流体を前記カソード流路に流入し、少なくとも軽水及び重水を含む第四流体を前記カソード流路から流出し、
前記複数の分離装置のうち少なくとも最上流の分離装置において、前記第三流体として少なくとも水蒸気を含む気体を前記カソード流路に流入し、前記第四流体として前記カソード流路を通過した前記第三流体と前記アノード触媒層から前記カソード触媒層へ移動した前記重水素とを前記カソード流路から流出する、分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽水素及び重水素を含む流体から重水素を分離する分離システム及び分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素同位体である重水素の濃縮技術として、直列に連結した複数の燃料電池を用い、各燃料電池において独立に発電を行いつつ、水素同位体を含むガスから水素同位体を分離して、水素同位体を含有する液水として取り出す方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、複数の燃料電池の発電を利用しているため、燃料電池が劣化しやすい。また、重水素を含むガスから重水素を効率的に分離できず、重水素の濃度が高い液水として取り出すことができない。
【0005】
本発明は、装置の劣化を抑制しつつ、軽水素及び重水素を含む流体から高い分離効率で重水素を分離できる分離システム及び分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] 本発明に係る分離システムは、少なくとも軽水素及び重水素を含む流体から前記重水素を分離する複数の分離装置を直列に連結して備える分離システムであって、前記複数の分離装置は、それぞれ電解質を有する電解質膜を備え、前記電解質膜の両面のうち、第一の面にアノード触媒層及びアノード流路がこの順に設けられ、第二の面にカソード触媒層及びカソード流路がこの順に設けられ、前記アノード流路には、少なくとも軽水素及び重水素を含む気体である第一流体を前記アノード流路に流入する第一の流入流路と、前記第一流体よりも重水素含有率が低い気体である第二流体を前記アノード流路から流出する第一の流出流路とが接続され、前記カソード流路には、第三流体を前記カソード流路に流入する第二の流入流路と、少なくとも軽水及び重水を含む第四流体を前記カソード流路から流出する第二の流出流路とが接続され、前記複数の分離装置のうち少なくとも最上流の分離装置が、前記第三流体として少なくとも水蒸気を含む気体を前記カソード流路に流入し、前記第四流体として前記カソード流路を通過した前記第三流体と前記アノード触媒層から前記カソード触媒層へ移動した前記重水素とを前記カソード流路から流出する第一の分離装置である。
この構成によれば、第一の分離装置において、カソード流路に酸素の代わりに水蒸気を含む気体である第三流体を流入することで、同位体交換反応によりHD+H2O⇔H2+HDOとなり、重水素を分離する分離係数が向上する。加えて、第一の分離装置では発電を利用しなくても重水素を分離できるのでH2の消費を抑えることができ、分離システムの劣化も抑制することができる。
【0007】
[2] 前記第一の分離装置は、前記水蒸気を発生させる加湿器を備えていてもよい。
この構成によれば、第一の分離装置において、カソード触媒層に第三流体として水蒸気を流入しやすい。
【0008】
[3] 前記第一の分離装置において前記カソード流路に流入される前記第三流体は窒素をさらに含でいてもよい。
この構成によれば、同位体交換反応が起こりやすくなり、反応効率も上がる。
【0009】
[4] 前記複数の分離装置は、1つ以上の前記第一の分離装置と、前記第一の分離装置の下流に設けられた、前記第一の分離装置以外の1つ以上の第二の分離装置とからなり、前記第一の分離装置では発電は行わず、前記第二の分離装置では発電を行ってもよい。
この構成によれば、第一の分離装置のアノード触媒層から流出した第二流体を第二の分離装置にて発電に利用でき、消費することができる。
【0010】
[5] 前記複数の分離装置のうち少なくとも1つは、循環手段をさらに備え、前記循環手段は、前記アノード流路から流出した前記第二流体の一部を、前記アノード流路に返送する第一の返送流路を有していてもよい。
この構成によれば、アノード流路から流出した第二流体を再利用でき、重水素を含む第二流体を余すことなく使用できる。
【0011】
[6] 前記複数の分離装置は、1つ以上の前記第一の分離装置と、前記第一の分離装置の下流に設けられた、前記第一の分離装置以外の1つ以上の第二の分離装置とからなり、前記第一の分離装置の発電量が、前記第二の分離装置の発電量よりも小さくてもよい。
この構成によれば、第一の分離装置のアノード流路から流出した第二流体を第二の分離装置にて発電に利用でき、消費することができる。加えて、第一の分離装置においてもわずかに発電するため、重水素の分離効率がより向上する。
【0012】
[7] 本発明に係る分離方法は、直列に連結した複数の分離装置を用いた、少なくとも軽水素及び重水素を含む流体から重水素を分離する分離方法であって、前記複数の分離装置は、それぞれ電解質を有する電解質膜を備え、前記電解質膜の両面のうち、第一の面にアノード触媒層及びアノード流路がこの順に設けられ、第二の面にカソード触媒層及びカソード流路がこの順に設けられ、少なくとも軽水素及び重水素を含む気体である第一流体を前記アノード流路に流入し、前記第一流体よりも重水素含有率が低い気体である第二流体を前記アノード流路から流出し、第三流体を前記カソード流路に流入し、少なくとも軽水及び重水を含む第四流体を前記カソード流路から流出し、前記複数の分離装置のうち少なくとも最上流の分離装置において、前記第三流体として少なくとも水蒸気を含む気体を前記カソード流路に流入し、前記第四流体として前記カソード流路を通過した前記第三流体と前記アノード触媒層から前記カソード触媒層へ移動した前記重水素とを前記カソード流路から流出する。
この構成によれば、最上流の分離装置において、カソード流路に酸素の代わりに水蒸気を含む気体である第三流体を流入することで、同位体交換反応によりHD+H2O⇔H2+HDOとなり、重水素を分離する分離係数が向上する。加えて、最上流の分離装置では発電を利用しなくても重水素を分離できるのでH2の消費を抑えることができ、分離システムの劣化も抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、装置の劣化を抑制しつつ、軽水素及び重水素を含む流体から高い分離効率で重水素を分離できる分離システム及び分離方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の分離システムの一例を模式的に示す構成図である。
【
図2】第一の分離装置に備わる第一の燃料電池の一例を模式的に示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る分離システム及び分離方法について、
図1、2を適宜参照しながら詳述する。
なお、本発明において、「重水素」とは水素の三種の同位体のうち、質量数2のデューテリウム(2H又はD)と質量数3のトリチウム(3H又はT)をいう。
また、以下の説明で用いる各図面は、その特徴をわかりやすくするために、便宜上、特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等は実際とは異なる場合がある。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
また、
図2おいて、
図1と同じ構成要素には同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0016】
図1は、本発明の分離システムの一例を模式的に示す構成図である。
図1に示す分離システム1は、2つの分離装置を直列に連結して備える。本実施形態において、上流側の分離装置が第一の分離装置10であり、下流側の分離装置が第二の分離装置20である。すなわち、
図1に示す分離システム1は、最上流に第一の分離装置10を備える。
【0017】
「分離装置」
分離システム1に備わる各分離装置は、電解質を有する電解質膜を備える。
詳しくは後述するが、電解質膜の両面のうち、第一の面にアノード触媒層及びアノード流路がこの順に設けられ、第二の面にカソード触媒層及びカソード流路がこの順に設けられている。
アノード流路には、少なくとも軽水素及び重水素を含む気体である第一流体をアノード流路に流入する第一の流入流路と、第一流体よりも重水素含有率が低い気体である第二流体をアノード流路から流出する第一の流出流路とが接続されている。
一方、カソード流路には、第三流体をカソード流路に流入する第二の流入流路と、少なくとも軽水及び重水を含む第四流体をカソード流路から流出する第二の流出流路とが接続されている。
なお、本発明において、第三流体として少なくとも水蒸気を含む気体をカソード流路に流入し、第四流体としてカソード流路を通過した第三流体とアノード触媒層からカソード触媒層へ移動した重水素とをカソード流路から流出する分離装置を「第一の分離装置」という。また、第一の分離装置以外の分離装置を「第二の分離装置」という。
【0018】
<第一の分離装置>
図1に示す第一の分離装置10は、第一の燃料電池11と、循環手段12と、気液分離手段13と、気化手段14と、水電気分解手段15と、加湿器18とを備える。
この例の第一の燃料電池11は、循環手段12、気液分離手段13、気化手段14、水電気分解手段15、及び加湿器18と接続されている。気液分離手段13は、第一のタンク16を介して気化手段14と接続されている。気化手段14は、第二のタンク17を介して水電気分解手段15と接続されている。
【0019】
(第一の燃料電池)
第一の燃料電池11は、軽水素及び重水素を含む流体から重水素を分離するためのものである。第一の燃料電池11において電子の流れを遮断すれば、発電は行われない。
第一の燃料電池11は、例えば
図2に示すように、電解質を有する電解質膜111と、電解質膜111の両面のうち、第一の面に設けられたアノード触媒層111aと、第二の面に設けられたカソード触媒層111bと、アノード触媒層111aの電解質膜111とは反対側の面に設けられたアノード流路112と、カソード触媒層111bの電解質膜111とは反対側の面に設けられたカソード流路113と、電解質膜111、アノード触媒層111a及びアノード流路112、並びにカソード触媒層111b及びカソード流路113を挟み込む1対のセパレータ114とを有する。
【0020】
電解質膜111は電解質を有しており、軽水素及び重水素が電解質膜111を介してアノード触媒層111aからカソード触媒層111bへ拡散する。
電解質膜111としては、電解質を有するものであれば特に制限されないが、軽水素及び重水素が拡散しやすく、電解質膜111とカソード触媒層111bとの界面において同位体交換反応が起こりやすくなり、反応効率も上がる点から、固体高分子膜が好ましい。
固体高分子膜としては、例えばプロトン導電性固体高分子膜、アニオン導電性固体高分子膜などが挙げられる。
【0021】
アノード触媒層111aは、電解質膜111の第一の面に設けられている。
アノード触媒層111aに含まれる触媒としては、例えば白金、ルテニウム等の貴金属、ニッケル、コバルト等の遷移金属、及びそれらの合金や酸化物などが挙げられる。これらの中でも、同位体置換反応(H2+D2⇔2DH)が起こりやすくなり、反応効率も上がる点から、白金が好ましい。
【0022】
アノード流路112は、アノード触媒層111aの電解質膜111とは反対側の面に設けられている。アノード流路112は、アノード触媒層111aとセパレータ114との間の領域である。
アノード流路112には、第一の流入流路112aと第一の流出流路112bとが接続されている。なお、第一の流入流路112aが接続された部分をアノード触媒層111aの入口ともいい、第一の流出流路112bが接続された部分をアノード触媒層111aの出口ともいう。
第一の流入流路112aは、少なくとも軽水素及び重水素を含む気体である第一流体をアノード流路112へ流入するための配管である。第一流体は、具体的にはH
2及びD
2等を含むガスである。
この例の第一の流入流路112aは、一端がアノード流路112に接続され、他端が後述する水電気分解手段15の水電解槽15aに接続されている。
なお、本発明においては、第一の分離装置10においてアノード流路112に流入される第一流体を「第一流体(1-1)」ともいう。アノード流路112を通過する第一流体(1-1)の一部がアノード流路112からアノード触媒層111aに供給され、電解質膜111を介してアノード触媒層111aからカソード触媒層111bへ拡散する。
また、
図2において、トリチウムは省略している。
【0023】
第一の流出流路112bは、第一流体よりも重水素含有率が低い気体である第二流体をアノード流路112から流出するための配管である。第二流体は、具体的にはH2及びD2を含み、第一流体よりもD2の含有率(濃度)が低いガスである。また、第二流体は、通常、第一流体よりもH2の含有率(濃度)も低い。
この例の第一の流出流路112bは、一端がアノード流路112に接続され、他端が後述する第二の分離装置20の第二の燃料電池21に接続されている。
なお、本発明においては、第一の分離装置10においてアノード流路112から流出される第二流体を「第二流体(2-1)」ともいう。
【0024】
カソード触媒層111bは、電解質膜111の第二の面に設けられている。
カソード触媒層111bに含まれる触媒としては、例えば白金、ルテニウム等の貴金属、ニッケル、コバルト等の遷移金属、及びそれらの合金や酸化物などが挙げられる。これらの中でも、カソード触媒層111b中、及び電解質膜111とカソード触媒層111bとの界面において同位体交換反応(HD+H2O⇔H2+HDO)が起こりやすくなり、反応効率も上がる点から、白金が好ましい。
特に、同位体交換反応がより起こりやすくなり、反応効率もより上がる点から、電解質膜111が固体高分子膜であり、アノード触媒層111a及びカソード触媒層111bが白金を含むことが好ましい。
【0025】
カソード流路113は、カソード触媒層111bの電解質膜111とは反対側の面に設けられている。カソード流路113は、カソード触媒層111bとセパレータ114との間の領域である。
カソード流路113には、第二の流入流路113aと第二の流出流路113bとが接続されている。なお、第二の流入流路113aが接続された部分をカソード触媒層111bの入口ともいい、第二の流出流路113bが接続された部分をカソード触媒層111bの出口ともいう。
第二の流入流路113aは、第三流体をカソード流路113へ流入するための配管である。
第一の分離装置10においては、第三流体として少なくとも水蒸気を含む気体をカソード流路113へ流入する。すなわち、第一の分離装置10において用いられる第三流体は、具体的には気体状のH2Oを含むガスである。
第三流体は、湿度を高め、同位体交換反応を起こりやすくする点で、必要に応じてキャリアガスをさらに含んでいてもよい。キャリアガスとしては、窒素(N2)などが挙げられる。
この例の第二の流入流路113aは、一端がカソード流路113に接続され、他端が後述する加湿器18に接続されている。
なお、本発明においては、第一の分離装置10においてカソード流路113に流入される第三流体を「第三流体(3-1)」ともいう。
【0026】
第二の流出流路113bは、少なくとも軽水及び重水を含む第四流体をカソード流路113から流出するための配管である。
第一の分離装置10においては、第四流体としてカソード流路113を通過した第三流体(3-1)と、アノード流路112からアノード触媒層111aへ移動し、さらにアノード触媒層111aからカソード触媒層111b及びカソード流路113へと順次移動した重水素とをカソード流路113から流出する。詳しくは後述するが、第一の分離装置10においてカソード流路113から流出される第四流体(以下、「第四流体(4-1)」ともいう。)は、具体的には、気体状のH2O及びH2、液体状のH2O(軽水)、D2O及びHDO(重水)等を含む気液混合流体である。第三流体(3-1)がN2を含む場合、第四流体(4-1)にはN2も含まれる。
この例の第二の流出流路113bは、一端がカソード流路113に接続され、他端が後述する気液分離手段13の気液分離器13aに接続されている。
なお、第二の流出流路113bを気液分離器13aに接続せずに、カソード流路113から流出した第四流体(4-1)をD2Oを含む水として回収してもよい。
【0027】
セパレータ114は、アノード流路112及びカソード流路113の外側にそれぞれ設けられている。
セパレータ114は、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。
【0028】
電解質膜111、アノード触媒層111a、アノード流路112、カソード触媒層111b、カソード流路113及びセパレータ114を1つのセル(燃料電池セル)としたときに、第一の燃料電池11は1つの燃料電池セルで構成されたものであってもよいし、複数の燃料電池セルの集合体(燃料電池スタック)であってもよい。
【0029】
(循環手段)
循環手段12は、アノード流路から流出した第二流体の一部を、このアノード流路に返送する手段である。
この例の循環手段12は、第一の返送流路12aと、流量調整機構12bと、第一のバルブ12cとを有する。
【0030】
第一の返送流路12aは、第二流体の一部をアノード流路に返送する配管である。
第一の分離装置10に備わる循環手段12において、第一の返送流路12aの一端は、第一のバルブ12cを介して第一の流出流路112bの途中で合流し、他端は第一の流入流路112aの途中で合流している。これにより、第一の分離装置10において第二流体が循環できるようになっている。
第二流体は、第一流体よりも重水素含有率が低い気体である。また、第二流体は、通常、第一流体よりも軽水素含有率も低い。不足した分の軽水素及び重水素を第二流体に足して、第一流体として第一の燃料電池11のアノード流路に再流入することが好ましい。不足した分の軽水素及び重水素としては、例えば後述の水電気分解手段15にて水を電気分解することで得られる軽水素及び重水素を利用すればよい。
【0031】
流量調整機構12bは、アノード流路に返送される前の第二流体の流量を所定の値となるように調整する機構である。
この例の流量調整機構12bは、ポンプ121bと、第二のバルブ122bと、流量制御部123bとを有する。
ポンプ121bは第一の返送流路12aの途中に設けられ、流量制御部123bに接続されている。流量制御部123bからの信号に基づいて、第一の返送流路12aを通過する第二流体の流量を所定の値となるようにポンプ121bにて制御することができる。
ポンプ121bに軽水素や重水素を供給できる機能が備わっていれば、第二流体において不足した分の軽水素及び重水素を、第二流体がポンプ121bを通過する際に足すことができる。
【0032】
第一の分離装置10に備わる循環手段12において、第二のバルブ122bは第一の流入流路112aの途中に設けられている。第二のバルブ122bの開閉によっても、第二流体の流量を所定の値となるように調整することができる。
ここで、第二流体の流量を所定の値となるように調整するとは、好ましくはアノード流路に返送される第二流体の流量を、最高分離効率点となる流量に調整することである。重水素の分離効率は、アノード流路に返送される第二流体の流量が多くなるにつれて上昇する傾向にあるが、第二流体の流量がある量を超えると、逆に分離効率が低下する傾向にある。「最高分離効率点となる流量」とは、分離効率が最高点を迎えるときの第二流体の流量である。
なお、第一の分離装置10は、循環手段12を備えていなくてもよい。
【0033】
(気液分離手段)
気液分離手段13は、カソード流路から流出した第四流体(4-1)を気液分離する手段である。
この例の気液分離手段13は、気液分離器13aと、第三の流出流路13bと、第四の流出流路13cとを有する。
【0034】
気液分離器13aでは、第四流体(4-1)から第四流体(4-1)に含まれる気体(4-1-1)を分離する。
第四流体(4-1)に含まれる気体(4-1-1)は、具体的には気体状のH2O、H2及びN2である。気体(4-1-1)が分離した後の第四流体(4-1-2)には、液体状のH2O、D2O及びHDOが含まれる。
【0035】
第三の流出流路13bは、第四流体(4-1)から分離した気体(4-1-1)(H2O、H2及びN2)を気液分離器13aから流出するための配管である。
第四の流出流路13cは、気体(4-1-1)が分離した後の第四流体(4-1-2)(液体状のH2O、D2O及びHDO)を気液分離器13aから流出するための配管である。
この例の第四の流出流路13cは、一端が気液分離器13aに接続され、他端が後述する第一のタンク16に接続されている。
【0036】
気体(4-1-1)が分離した後の第四流体(4-1-2)は、第一のタンク16にて一旦、貯留されてもよい。
なお、第一のタンク16には、第五の流出流路16aが接続されている。
第五の流出流路16aは、気体(4-1-1)が分離した後の第四流体(4-1-2)を第一のタンク16から流出するための配管である。
この例の第五の流出流路16aは、一端が第一のタンク16に接続され、他端が後述する第二のタンク17に接続されている。また、第五の流出流路16aは、途中に設けられた第三のバルブ16bにて分岐している。
なお、第五の流出流路16aを第二のタンク17に接続せずに、気体(4-1-1)が分離した後の第四流体(4-1-2)をD2Oを含む水として回収してもよい。
また、第一の分離装置10は、気液分離手段13を備えていなくてもよい。
【0037】
(気化手段)
気化手段14は、カソード流路から流出した第四流体(4-1)を気化する手段である。
この例の気化手段14は、気化部14aと、第二の返送流路14bと、第六の流出流路14cとを有する。
【0038】
この例の気化部14aには、第三のバルブ16bにて分岐した第五の流出流路16aが接続されている。
気化部14aでは、気体(4-1-1)が分離した後の第四流体(4-1-2)を気化する。気化部14aは、バブリング機構を備えていることが好ましい。バブリングにより第四流体(4-1-2)に含まれる液体のうち主にH2Oが気化される。バブリングに用いるガスとしては、N2を用いることが好ましい。
【0039】
第二の返送流路14bは、気化した第四流体(4-1-3)を気化部14aから流出し、カソード流路に返送するための配管である。
この例の第二の返送流路14bは、第二の流入流路113aの途中で合流している。
上述したように、気化した第四流体(4-1-3)は主にH2O、すなわち水蒸気であることから、気化した第四流体(4-1-3)を第三流体(3-1)として第二の流入流路113aからカソード流路に再流入できる。なお、バブリングにより第四流体(4-1-2)を気化する際にN2を用いれば、水蒸気とN2を含む第四流体(4-1-3)を第三流体(3-1)としてカソード流路に再流入できる。
【0040】
第六の流出流路14cは、気化しなかった第四流体(4-1-4)を気化部14aから流出するための配管である。
この例の第六の流出流路14cは、第三のバルブ16bよりも下流側の第五の流出流路16aに合流しているが、後述する第二のタンク17に直接、接続されていてもよい。また、第六の流出流路14cを第五の流出流路16aに合流させたり、第二のタンク17に接続させたりせずに、気化しなかった第四流体(4-1-4)をD2Oを含む水として回収してもよい。
なお、第一の分離装置10は、気化手段14を備えていなくてもよい。
【0041】
(水電気分解手段)
水電気分解手段15は、水を電気分解するための手段である。
水電気分解手段15は、水電解槽15aを有する。
水電解槽15aとしては、公知の水電気分解装置を用いることができ、例えば固体高分子型水電気分解装置、アルカリ型水電気分解装置などが挙げられる。これらの中でも、多量の水素ガスを発生できる点から、アルカリ型水電気分解装置が好ましい。
【0042】
水電解槽15aで分解される水としては特に制限されない。また、水電解槽15aで分解される水として、カソード流路から流出した第四流体(4-1)をそのまま用いてもよいし、第四流体(4-1)を気液分離して得られる第四流体(4-1-2)を用いてもよいし、第四流体(4-1-2)を気化したときに液体として残った、すなわち気化しなかった第四流体(4-1-4)(D2O及びHDO)を用いてもよい。
これら水電解槽15aで分解される水は、一旦、第二のタンク17に貯留されてもよい。第二のタンク17には、第五の流出流路16aと、第七の流出流路17aが接続されている。第七の流出流路17aは、第二のタンク17から水を流出するための配管であり、水電解槽15aにも接続している。
【0043】
(加湿器)
加湿器18は、水蒸気を発生させるものである。加湿器18にて発生した水蒸気は、第二の流入流路113aを介して、第三流体(3-1)としてカソード流路へ流入される。本実施形態では、第二の流入流路113aにて、加湿器18で発生した水蒸気が気化手段14にて発生した水蒸気と混合された後に、カソード流路へ流入される。
加湿器18としては、水蒸気を発生させることができるものであれば特に制限されない。
なお、第一の分離装置10は、加湿器18を備えていなくてもよい。また、図示例の第一の分離装置10は、気化手段14と加湿器18とを別々に備えたものであるが、気化手段14を加湿器として用いてもよい。
【0044】
<第二の分離装置>
第二の分離装置20は、第一の分離装置10の下流に設けられた、第一の分離装置以外の分離装置である。
第二の分離装置20は、水素と酸素を利用して発電する装置である。すなわち、
図1に示す分離システム1は、分離・発電システムでもある。
この例の第二の分離装置20は、第二の燃料電池21と、循環手段12とを備えている。
【0045】
(第二の燃料電池)
第二の燃料電池21は、軽水素及び重水素を含む流体を利用して発電しつつ、水を生成するためのものである。発電の際に、軽水素及び重水素を含む流体から重水素が分離される。
第二の燃料電池21は、電解質を有する電解質膜と、電解質膜の両面のうち、第一の面に設けられたアノード触媒層と、第二の面に設けられたカソード触媒層と、アノード触媒層の電解質膜とは反対側の面に設けられたアノード流路と、カソード触媒層の電解質膜とは反対側の面に設けられたカソード流路と、電解質膜、アノード触媒層及びアノード流路、並びにカソード触媒層及びカソード流路を挟み込む1対のセパレータとを有する。
第二の燃料電池21を構成する、これら電解質膜、アノード触媒層、アノード流路、カソード触媒層、カソード流路及びセパレータは、第一の分離装置10に備わる第一の燃料電池11を構成する電解質膜、アノード触媒層、アノード流路、カソード触媒層、カソード流路及びセパレータとそれぞれ同様のものが挙げられる。
第二の燃料電池21は1つの燃料電池セルで構成されたものであってもよいし、複数の燃料電池セルの集合体(燃料電池スタック)であってもよい。
【0046】
第二の燃料電池21のアノード流路には、第一の流出流路112bが接続され、第一の分離装置10に備わる第一の燃料電池11を構成するアノード流路から流出した第二流体(2-1)が第二の燃料電池21のアノード流路へ流入できるようになっており、第二流体(2-1)は発電に利用され、消費される。
なお、本実施形態において、第二流体(2-1)は、第二の燃料電池21のアノード流路に流入される第一流体でもある。また、第一の燃料電池11のアノード流路から第二流体(2-1)を流出する第一の流出流路112bは、第二の燃料電池21のアノード流路に第一流体を流入する第一の流入流路でもある。
また、本発明においては、第二の分離装置20においてアノード流路に流入される第一流体を「第一流体(1-2)」ともいう。すなわち、上述したように、第二流体(2-1)は第一流体(1-2)でもある。
【0047】
また、第二の燃料電池21のアノード流路には、第一の流出流路212bが接続されている。
第一の流出流路212bは、発電に使用されなかった、第一流体(1-2)よりも重水素含有率が低い気体である第二流体を、第二の燃料電池21のアノード流路から流出するための配管である。
なお、本発明においては、第二の分離装置20においてアノード流路から流出される第二流体を「第二流体(2-2)」ともいう。
【0048】
第二の燃料電池21のカソード流路には、第二の流入流路213aと第二の流出流路213bとが接続されている。
第二の流入流路213aは、第三流体を第二の燃料電池21のカソード流路に流入するための配管である。
第二の分離装置20においては、第三流体として酸素をカソード流路に流入する。すなわち、第二の分離装置20において用いられる第三流体は、具体的には酸素である。
この例の第二の流入流路213aは一端が第二の燃料電池21のカソード流路に接続され、他端が水電気分解手段15の水電解槽15aに接続されており、水電気分解手段15により生成した酸素を第二の燃料電池21のカソード流路に流入できるようになっている。
なお、本発明においては、第二の分離装置20においてカソード流路に流入される第三流体を「第三流体(3-2)」ともいう。
【0049】
第二の流出流路213bは、少なくとも軽水及び重水を含む第四流体をカソード流路から流出するための配管である。
第二の分離装置20においては、第四流体として第二の燃料電池21にて生成した水(H2O及びD2O)を第二の燃料電池21のカソード流路から流出する。
この例の第二の流出流路213bは、一端が第二の燃料電池21のカソード流路に接続され、他端が水電気分解手段15の水電解槽15aに接続されており、第二の燃料電池21にて生成した水(H2O及びD2O)である第四流体を電気分解して再利用できるようになっているが、第二の燃料電池21にて生成した水(H2O及びD2O)は再利用せずに廃棄してもよい。
なお、本発明においては、第二の分離装置20においてカソード流路から流出される第四流体を「第四流体(4-2)」ともいう。
【0050】
(循環手段)
第二の分離装置20に備わる循環手段12は、第一の分離装置10に備わる循環手段12と、以下の(i)~(iii)以外は構成が同じであるため、同じ構成の部分は同じ符号を付して、その説明を省略する。
(i)第一の分離装置10に備わる循環手段12では、第一のバルブ12cが第一の流出流路112bの途中に設置されているのに対し、第二の分離装置20に備わる循環手段12では、第一のバルブ12cが第一の流出流路212bの途中に設置されている点。
(ii)第一の分離装置10に備わる循環手段12では、第二のバルブ122bが第一の流入流路112aの途中に設置されているのに対し、第二の分離装置20に備わる循環手段12では、第二のバルブ122bが第一の流出流路112bの途中に設置されている点。
(iii)第一の分離装置10に備わる循環手段12では、第一の返送流路12aの一端が第一のバルブ12cを介して第一の流出流路112bの途中で合流し、他端が第一の流入流路112aの途中で合流しているのに対し、第二の分離装置20に備わる循環手段12では、第一の返送流路12aの一端が第一のバルブ12cを介して第一の流出流路212bの途中で合流し、他端が第一の流出流路112bの途中で合流している点。
なお、第二の分離装置20は、循環手段12を備えていなくてもよい。
【0051】
<分離方法>
以下、本発明の実施形態に係る分離方法について説明する。なお、以下に説明する分離方法は、
図1に示す分離システム1を用いた分離方法の一例である。
【0052】
(第一の分離装置での分離)
まず、水電気分解手段15にて、例えば重水素を含む水等の水を電気分解する。この電気分解により得られた気体のうち、軽水素及び重水素を含む気体である第一流体(1-1)を第一の流入流路112aを介して第一の燃料電池11のアノード流路に流入する。
別途、加湿器18にて発生した水蒸気と必要に応じてN2を含む第三流体(3-1)を第二の流入流路113aを介して第一の燃料電池11のカソード流路に流入する。
【0053】
図2に示すように、アノード流路112に流入した第一流体(1-1)に含まれる軽水素(H
2)及び重水素(D
2)の一部は、アノード流路112からアノード触媒層111aへ移動し、さらにアノード触媒層111aから電解質膜111を通過してカソード触媒層111bへと移動する。
カソード触媒層111bへ移動した軽水素(H
2)及び重水素(D
2)は、カソード触媒層111b中、及び電解質膜111とカソード触媒層111bとの界面において、カソード流路113からカソード触媒層111bへと移動した第三流体(3-1)に含まれる水蒸気(H
2O)と同位体交換反応し、D
2O及びHDOが生成する。なお、これらD
2O及びHDOの重水素は、アノード触媒層111aからカソード触媒層111bへ移動した重水素である。
【0054】
カソード触媒層111bへ移動しなかった第一流体(1-1)に含まれる軽水素(H2)及び重水素(D2)は、第一流体(1-1)よりも重水素含有率が低い気体である第二流体(2-1)として第一の流出流路112bを介してアノード流路112から流出される。
【0055】
第一の燃料電池11のアノード流路から流出した第二流体(2-1)の一部を、第一の分離装置10に備わる循環手段12により第一の燃料電池11のアノード流路に返送してもよい。具体的には、第一のバルブ12cを第一の返送流路12a側に開くようにして、第二流体(2-1)の一部を第一の返送流路12aへ供給する。このとき、残りの第二流体(2-1)が第二の分離装置20に供給されるように、第一のバルブ12cの開閉を調整する。また、流量調整機構12bのポンプ121bの圧力や、第二のバルブ122bの開閉などを調節して、第一の燃料電池11のアノード流路に返送される前の第二流体(2-1)の流量が所定の値、好ましく最高分離効率点となる流量となるように調整することが好ましい。
第一の返送流路12aを通過した第二流体(2-1)は、第一の流入流路112aに供給される。第二流体(2-1)は、第一流体(1-1)よりも重水素含有率及び軽水素含有率が低いことから、不足した分の軽水素及び重水素を第二流体(2-1)に足して、第一流体(1-1)として第一の流入流路112aから第一の燃料電池11のアノード流路に再流入することが好ましい。不足した分の軽水素及び重水素としては、例えば水電気分解手段15にて水を電気分解することで得られる軽水素及び重水素を利用することができる。また、ポンプ121bに軽水素や重水素を供給できる機能が備わっていれば、第二流体(2-1)がポンプ121bを通過する際に不足した分の軽水素及び重水素を第二流体(2-1)に足すことができる。
第一の燃料電池11のアノード流路から流出した第二流体(2-1)の一部を第一の燃料電池11のアノード流路に返送することで、アノード流路から流出したガスを再利用でき、重水素を含むガスを余すことなく使用できる。特に、第一の燃料電池11のアノード流路に返送される前の第二流体(2-1)の流量を所定の値となるように調整すれば、重水素を分離する分離係数がより向上する。
【0056】
第一の燃料電池11のアノード流路から流出した第二流体(2-1)は、その一部が第一の燃料電池11のアノード流路に返送されてもよいし、全てが第二の分離装置20に供給されて発電に利用されてもよい。第二流体を発電に利用すれば、第二流体(2-1)に含まれる軽水素(H2)及び重水素(D2)を消費できる。
【0057】
上記の同位体交換反応に利用されずに第一の燃料電池11のカソード流路を通過する第三流体(3-1)と、同位体交換反応により生成し、カソード流路へ移動したD2O、HDO及びH2とは、第四流体(4-1)として第二の流出流路113bを介して第一の燃料電池11のカソード流路から流出される。すなわち、第四流体(4-1)は、具体的には、気体状のH2O及びH2、液体状のH2O、D2O及びHDOを含む気液混合流体である。第三流体(3-1)がN2を含む場合、第四流体(4-1)にはN2も含まれる。
【0058】
第一の燃料電池11のカソード流路から流出した第四流体(4-1)を、気液分離手段13の気液分離器13aにて気液分離してもよいし、D2Oを含む水として回収してもよい。
第四流体(4-1)を気液分離する場合、第四流体(4-1)から分離した気体(4-1-1)(H2O、H2及びN2)は、第三の流出流路13bを介して気液分離器13aから流出され、廃棄される。
気体(4-1-1)が分離した後の第四流体(4-1-2)(液体状のH2O、D2O及びHDO)は、第四の流出流路13cを介して気液分離器13aから流出される。
【0059】
気液分離手段13にて気体(4-1-1)が分離した後の第四流体(4-1-2)は、必要に応じて第一のタンク16にて貯留された後に気化手段14に供給されてもよいし、必要に応じて第一のタンク16及び第二のタンク17にて貯留された後に水電気分解手段15に供給されてもよい。また、気液分離手段13にて気体(4-1-1)が分離した後の第四流体(4-1-2)をD2Oを含む水として回収してもよい。
気液分離手段13にて気体(4-1-1)が分離した後の第四流体(4-1-2)の供給先は、第三のバルブ16bにて制御できる。
【0060】
気液分離手段13にて気体(4-1-1)が分離した後の第四流体(4-1-2)を気化手段14に供給する場合、気化部14aにて第四流体(4-1-2)を気化する。このとき、N2を用いたバブリングにより第四流体(4-1-2)を気化することが好ましい。
第四流体(4-1-2)の気化により、第四流体(4-1-2)に含まれる液体状のH2Oが主に気化され、水蒸気となる。
気化手段14にて気化した第四流体(4-1-3)を第二の返送流路14bを介して気化部14aから流出し、第一の燃料電池11のカソード流路に返送してもよい。第二の返送流路14bを通過した第四流体(4-1-3)は、第二の流入流路113aに供給され、加湿器18で発生した水蒸気と混合された後に、第三流体(3-1)として第二の流入流路113aから第一の燃料電池11のカソード流路に再流入される。これにより、新しい第四流体(4-1)が第一の燃料電池11のカソード流路から流出する。最初の第四流体(4-1)に新しい第四流体(4-1)を追加することにより、最初の第四流体(4-1)からH2Oが減り、新しいH2OとD2Oが含有されるので、最初の第四流体(4-1)よりも濃度の高い重水素を含有する第四流体(4-1)が得られる。
【0061】
気化手段14にて気化しなかった第四流体(4-1-4)は、第六の流出流路14cを介して気化部14aから流出され、第五の流出流路16aを経て、必要に応じて第二のタンク17にて貯留された後に水電気分解手段15に供給されてもよい。また、気化手段14にて気化しなかった第四流体(4-1-4)をD2Oを含む水として回収してもよい。
【0062】
気液分離手段13にて気体(4-1-1)が分離した後の第四流体(4-1-2)、又は気化手段14にて気化しなかった第四流体(4-1-4)を水電気分解手段15に供給する場合、汚染水等と混ぜて電気分解してもよいし、第四流体(4-1-2)又は第四流体(4-1-4)のみを電気分解してもよい。第四流体(4-1-2)又は第四流体(4-1-4)を電気分解することで、第一の分離装置10で用いる第一流体(1-1)及び第二の分離装置20で用いる第三流体(3-2)である酸素として再利用できる。
なお、水電気分解手段15には、第一の燃料電池11のカソード流路から流出した第四流体(4-1)を気液分離することなく直接供給し、電気分解を行ってもよい。
【0063】
第一の燃料電池11のカソード流路から流出した第四流体(4-1)には、濃縮された重水素が含まれているので、上述したように、第四流体(4-1)をD2Oを含む水として回収してもよいし、気液分離手段13にて気液分離した後の第四流体(4-1-2)、又は気化手段14にて気化しなかった第四流体(4-1-4)をD2Oを含む水として回収してもよい。
特に、気液分離手段13にて気体(4-1-1)が分離した後の第四流体(4-1-2)をD2Oを含む水として回収することが好ましい。
また、第一の燃料電池11のアノード流路から流出した第二流体(2-1)の一部を、循環手段12により第一の燃料電池11のアノード流路に1回以上返送したり、気化手段14にて気化した第四流体(4-1-3)を第一の燃料電池11のカソード流路に1回以上返送したりすれば、重水素をより濃縮できる。
【0064】
(第二の分離装置での分離)
第二の分離装置20では、まず、第一の燃料電池11のアノード流路から流出した第二流体(2-1)の少なくとも一部を第一の流出流路112bを介して、第一流体(1-2)として第二の分離装置20の第二の燃料電池21のアノード流路へ流入する。
別途、水電気分解手段15により生成した酸素を第二の流入流路213a介して第三流体(3-2)として第二の分離装置20の第二の燃料電池21のカソード流路へ流入する。
【0065】
第二の燃料電池21のアノード流路に流入した第一流体(1-2)に含まれる軽水素(H2)及び重水素(D2)の一部は、イオンの状態でアノード流路からアノード触媒層へ移動し、さらにアノード触媒層から電解質膜を通過してカソード触媒層へと移動する。
第二の燃料電池21のカソード触媒層へ移動した軽水素イオン及び重水素イオンは、カソード触媒層中、及び電解質膜とカソード触媒層との界面において、カソード流路からカソード触媒層へと移動した第三流体(3-2)である酸素と反応して水(H2O及びD2O)を生成する。このときの反応により第二の燃料電池21は発電する。
このように、第一の分離装置10の第一の燃料電池11を構成するアノード流路から流出した第二流体(2-1)は発電に利用され、消費される。
【0066】
発電に使用されなかった、第一流体(1-2)よりも重水素含有率が低い気体である第二流体(2-2)は、第一の流出流路212bを介して第二の燃料電池21のアノード流路から流出される。流出した第二流体(2-2)は、廃棄してもよいし、第二流体(2-2)の少なくとも一部を第二の分離装置20に備わる循環手段12により第二の燃料電池21のアノード流路に返送してもよい。返送の方法は、第一の分離装置10と同様である。
一方、第二の燃料電池21のカソード触媒層等にて生成し、カソード流路へ移動した水(H2O及びD2O)を第四流体(4-2)として第二の流出流路213bを介して第二の燃料電池21のカソード流路から流出する。第二の燃料電池21のカソード流路から流出した第四流体(4-2)である水(H2O及びD2O)は、水電気分解手段15に供給してもよいし、廃棄してもよいし、D2Oを含む水として回収してもよい。
【0067】
<作用効果>
以上説明した、本実施形態の分離システム及び分離方法によれば、第一の分離装置において、第一の燃料電池のカソード流路に酸素の代わりに水蒸気を含む気体である第三流体(3-1)を流入することで、同位体交換反応によりHD+H2O⇔H2+HDOとなり、重水素を分離する分離係数が向上する。すなわち、軽水素及び重水素を含む流体(第一流体(1-1))から、重水素を含む水として重水素を分離できる。加えて、本実施形態の分離システム及び分離方法では、第一の燃料電池において電子交換は行われないので、すなわち電子の流れが遮断されるので発電せず、H2の消費を抑えることができ、分離システムの劣化も抑制することができる。
なお、第一の分離装置において、軽水素及び重水素を含む流体(第一流体(1-1))から重水素を高い分離効率で分離できるが、第二の分離装置においても軽水素及び重水素を含む流体(第一流体(1-2))から発電を利用して、重水素を含む水として重水素を分離することができる。
よって、本実施形態の分離システム及び分離方法は、装置の劣化を抑制しつつ、軽水素及び重水素を含む流体から高い分離効率で重水素を分離できる。
【0068】
<他の実施形態>
本発明の分離システム及び分離方法は上述したものに限定されない。
例えば、
図1に示す分離システム1では、第一の分離装置10では発電を行わず、第二の分離装置20のみで発電を行うものであるが、第一の分離装置10においても発電してもよい。ただし、第一の分離装置10において発電する場合、第一の分離装置10の発電量が、第二の分離装置20の発電量よりも小さくすることが好ましい。第一の分離装置10においても僅かに発電することで、重水素の分離効率がさらに高まる。また、第一の分離装置10での発電量は第二の分離装置20の発電量に比べて小さくすることで、第一の分離装置10の劣化を抑制できる。
第一の分離装置10において発電するには、第三流体(3-1)として水蒸気に加えて酸素を第一の燃料電池11のアノード流路に流入すればよい。水蒸気と酸素は混合されて第一の燃料電池11のアノード流路に流入されてもよいし、別々に第一の燃料電池11のアノード流路に流入されてもよい。
【0069】
また、
図1に示す分離システム1では、2つの分離装置として、第一の分離装置10と第二の分離装置20とを直列に連結して備えるものであるが、2つの第一の分離装置10を直列に連結して備えるものであってもよい。
また、分離システムは、3つ以上の分離装置を直列に連結して備えていてもよい。この場合、3つ以上の分離装置のうち、少なくとも最上流の分離装置が第一の分離装置であれば、残りの分離装置の全てが第一の分離装置であってもよいし、残りの分離装置のうち1つ以上が第二の分離装置であってもよい。特に、少なくとも最下流に第二の分離装置が備わることが好ましく、最下流のみに第二の分離装置が備わることがより好ましい。
分離システムが複数の分離装置を連結して備える場合、前段の分離装置に備わる燃料電池のアノード流路から流出した第二流体を、この分離装置の直後の分離装置に備わる燃料電池のアノード流路に第一流体として流入する。
【0070】
分離システムの好ましい態様としては、2つの分離装置を直列に連結して備える場合は、上流側から第一の分離装置、第二の分離装置の順で備える分離システムが好ましい。3つ以上の分離装置を直列に連結して備える場合は、2つ以上の第一の分離装置と、1つの第二の分離装置とを、第二の分離装置が最下流となるように備える分離システムが好ましい。
【実施例0071】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0072】
[実施例1]
図1に示す分離システム1を用い、以下のようにして軽水素及び重水素を含む流体から重水素を分離した。
軽水素(H
2)10molと、重水素を(D
2)1molとを含む第一流体(1-1)を第一の流入流路112aを介して第一の燃料電池11のアノード流路に流入した。
別途、加湿器18にて発生した水蒸気とN
2とを第三流体(3-1)として第二の流入流路113aを介して第一の燃料電池11のカソード流路に流入した。
【0073】
図2に示すように、アノード流路112に流入した第一流体(1-1)に含まれる軽水素(H
2)及び重水素(D
2)の一部は、アノード流路112からアノード触媒層111aへ移動し、さらにアノード触媒層111aから電解質膜111を通過してカソード触媒層111bへと移動した。
カソード触媒層111bへ移動した軽水素(H
2)及び重水素(D
2)は、カソード触媒層111b中、及び電解質膜111とカソード触媒層111bとの界面において、カソード流路113からカソード触媒層111bへと移動した第三流体(3-1)に含まれる水蒸気(H
2O)と同位体交換反応し、D
2O及びHDOを生成した。
【0074】
次いで、カソード触媒層111bへ移動しなかった第一流体(1-1)に含まれる軽水素(H2)及び重水素(D2)を、第二流体(2-1)として第一の流出流路112bを介してアノード流路112から流出した。第二流体は、軽水素(H2)9molと、重水素を(D2)0.1molとを含んでいた。
別途、同位体交換反応に利用されずにカソード流路113を通過する第三流体(3-1)と、同位体交換反応により生成し、カソード流路へ移動したD2O、HDO及びH2とを、第四流体(4-1)として第二の流出流路113bを介してカソード流路113から流出した。第四流体(4-1)は、気体状のH2O、H2及びN2と、液体状のH2Oを1mol及びD2Oを0.9mol含んでいた。
【0075】
次いで、第一の燃料電池11のカソード流路から流出した第四流体(4-1)を、気液分離手段13の気液分離器13aにて気液分離した。
第四流体(4-1)から分離した気体(4-1-1)(H2O、H2及びN2)は、第三の流出流路13bを介して気液分離器13aから流出し、廃棄した。
気液分離手段13にて気体(4-1-1)が分離した後の第四流体(4-1-2)(液体状のH2Oを1mol及びD2Oを0.9mol)は、第四の流出流路13cを介して気液分離器13aから流出した。
【0076】
気液分離手段13にて気体(4-1-1)が分離した後の第四流体(4-1-2)を一旦、第一のタンク16及び第二のタンク17にて貯留した後に、水電気分解手段15へ供給し電気分解した。電気分解により生成した軽水素(H2)及び重水素を(D2)は第一流体として再利用した。
【0077】
別途、第一の燃料電池11のアノード流路から流出した第二流体(2-1)を第一の流出流路112bを介して、第一流体(1-2)として第二の燃料電池21のアノード流路へ流入した。
別途、水電気分解手段15により生成した酸素を第三流体(3-2)として第二の流入流路213a介して第二の燃料電池21のカソード流路へ流入した。
【0078】
第二の燃料電池21のアノード流路に流入した第一流体(1-2)に含まれる軽水素(H2)及び重水素(D2)の一部は、イオンの状態でアノード流路からアノード触媒層へ移動し、さらにアノード触媒層から電解質膜を通過してカソード触媒層へと移動した。
第二の燃料電池21のカソード触媒層へ移動した軽水素イオン及び重水素イオンは、カソード触媒層中、及び電解質膜とカソード触媒層との界面において、第二の燃料電池21のカソード流路からカソード触媒層へと移動した酸素と反応し、カソード触媒層にて水(H2O及びD2O)を生成した。このときの反応により第二の燃料電池21は発電した。
【0079】
次いで、発電に使用されなかった、第一流体(1-2)に含まれる軽水素(H2)及び重水素(D2)を、第二流体(2-2)として第一の流出流路212bを介して第二の燃料電池21のアノード流路から流出した。第二流体(2-2)は、軽水素(H2)1molと、重水素を(D2)0.01molとを含んでいた。
別途、第二の燃料電池21のカソード触媒層にて生成した水(H2O及びD2O)はカソード流路に移動し、第四流体(4-2)として第二の流出流路213bを介して、第二の燃料電池21のカソード流路から流出し、廃棄した。この水は、液体状のH2Oを8mol及びD2Oを0.09mol含んでいた。
【0080】
実施例1より、軽水素(H2)10molと、重水素を(D2)1molとを含む第一流体(1-1)から、液体状のH2Oを1mol及びD2Oを0.9mol含む第四流体(4-1)と、液体状のH2Oを8mol及びD2Oを0.09molを含む第四流体(4-2)を得ることができ、高い分離効率で重水素を分離できることが示された。