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特開2024-76692車両制御装置、車両制御方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076692
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】車両制御装置、車両制御方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20240530BHJP
   B60W 30/12 20200101ALI20240530BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20240530BHJP
【FI】
B62D6/00
B60W30/12
B62D119:00
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188375
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】今西 優輝
【テーマコード(参考)】
3D232
3D241
【Fターム(参考)】
3D232CC20
3D232DA04
3D232DA15
3D232DA23
3D232DA25
3D232DA27
3D232DA29
3D232DA33
3D232DA76
3D232DA84
3D232DC33
3D232DC34
3D232DD03
3D232DE09
3D232EB04
3D232EB12
3D232EB30
3D232EC40
3D241BA12
3D241CC08
3D241CC17
3D241CD07
3D241CE05
3D241DA52Z
3D241DA58Z
3D241DB02Z
3D241DB05Z
3D241DB12Z
3D241DC35Z
(57)【要約】
【課題】車両に対する車線維持制御の継続性を向上させること。
【解決手段】車両の周辺状況を認識する認識部と、認識された前記周辺状況に基づいて前記車両の目標経路を生成し、前記目標経路に沿って前記車両の操舵制御を行う制御部と、を備え、前記制御部は、前記車両の走行位置と前記目標経路との偏差が閾値以上であり、且つ、前記車両の走行車線から前記車両が逸脱するまでの時間が所定時間以下であると判定された場合に、前記操舵制御を停止する、車両制御装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の周辺状況を認識する認識部と、
認識された前記周辺状況に基づいて前記車両の目標経路を生成し、前記目標経路に沿って前記車両の操舵制御を行う制御部と、を備え、
前記制御部は、前記車両の走行位置と前記目標経路との偏差が閾値以上であり、且つ、前記車両の走行車線から前記車両が逸脱するまでの時間が所定時間以下であると判定された場合に、前記操舵制御を停止する、
車両制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記車両の走行車線から前記車両が逸脱するまでの時間が警報発信時間以下であると判定された場合に、警報装置を作動させ、
前記所定時間は、前記警報発信時間よりも長い時間である、
請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記所定時間は、前記操舵制御中の前記警報発信時間よりも長い時間である、
請求項2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記所定時間は、前記操舵制御の停止中の前記警報発信時間よりも短い時間である、
請求項2または3に記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記操舵制御の停止中の前記警報発信時間は、第1時間と、前記第1時間よりも長い第2時間とのいずれかに設定され、
前記所定時間は、前記第1時間と前記第2時間の間の時間として設定される、
請求項4に記載の車両制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記時間が前記所定時間以下となり、かつ前記車両の乗員による操舵が検出されたと判定された場合、前記車両の走行位置が、前記時間が前記所定時間より大きい位置に変化した場合であっても、前記乗員による前記操舵が検出されている間、前記時間は前記所定時間以下であるとする判定を継続する、
請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項7】
前記操舵制御は、前記車両を前記走行車線に沿って走行させるように前記車両の乗員によって与えられた操舵トルクに反力を加える制御である、
請求項1記載の車両制御装置。
【請求項8】
コンピュータが、
車両の周辺状況を認識し、
認識された前記周辺状況に基づいて前記車両の目標経路を生成し、前記目標経路に沿って前記車両の操舵制御を行い、
前記車両の走行位置と前記目標経路との偏差が閾値以上であり、且つ、前記車両の走行車線から前記車両が逸脱するまでの時間が所定時間以下であると判定された場合に、前記操舵制御を停止する、
車両制御方法。
【請求項9】
コンピュータに、
車両の周辺状況を認識させ、
認識された前記周辺状況に基づいて前記車両の目標経路を生成させ、前記目標経路に沿って前記車両の操舵制御を行わせ、
前記車両の走行位置と前記目標経路との偏差が閾値以上であり、且つ、前記車両の走行車線から前記車両が逸脱するまでの時間が所定時間以下であると判定された場合に、前記操舵制御を停止させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置、車両制御方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両が走行車線内を走行するように制御を行う車線維持制御が知られている。例えば、特許文献1には、ステアリングホイールに対する運転者によるキャンセル判定閾値以上の操舵量が検出された場合に、車線維持制御を停止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-214680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、従来技術は、車両の走行環境を考慮せず、運転者による操舵トルクのみに基づいて車線維持制御を停止するものである。その結果、例えば、車両が、車線幅が広い車線を走行する際には、運転者が車線から逸脱することを意図していないにも関わらず、車線維持制御が停止され、その継続性が損なわれる場合があった。
【0005】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、車両に対する車線維持制御の継続性を向上させることができる、車両制御装置、車両制御方法、およびプログラムを提供することを目的の一つとする。延いては持続可能な輸送システムの発展に寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る車両制御装置、車両制御方法、およびプログラムは、以下の構成を採用した。
(1):この発明の一態様に係る車両制御装置は、車両の周辺状況を認識する認識部と、認識された前記周辺状況に基づいて前記車両の目標経路を生成し、前記目標経路に沿って前記車両の操舵制御を行う制御部と、を備え、前記制御部は、前記車両の走行位置と前記目標経路との偏差が閾値以上であり、且つ、前記車両の走行車線から前記車両が逸脱するまでの時間が所定時間以下であると判定された場合に、前記操舵制御を停止するものである。
【0007】
(2):上記(1)の態様において、前記制御部は、前記車両の走行車線から前記車両が逸脱するまでの時間が警報発信時間以下であると判定された場合に、警報装置を作動させ、前記所定時間は、前記警報発信時間よりも長い時間であるものである。
【0008】
(3):上記(2)の態様において、前記所定時間は、前記操舵制御中の前記警報発信時間よりも長い時間であるものである。
【0009】
(4):上記(2)又は(3)の態様において、前記所定時間は、前記操舵制御の停止中の前記警報発信時間よりも短い時間であるものである。
【0010】
(5):上記(4)の態様において、前記操舵制御の停止中の前記警報発信時間は、第1時間と、前記第1時間よりも長い第2時間とのいずれかに設定され、前記所定時間は、前記第1時間と前記第2時間の間の時間として設定されるものである。
【0011】
(6):上記(1)の態様において、前記制御部は、前記時間が前記所定時間以下となり、かつ前記車両の乗員による操舵が検出されたと判定された場合、前記車両の走行位置が、前記時間が前記所定時間より大きい位置に変化した場合であっても、前記乗員による前記操舵が検出されている間、前記時間は前記所定時間以下であるとする判定を継続するものである。
【0012】
(7):上記(1)の態様において、前記操舵制御は、前記車両を前記走行車線に沿って走行させるように前記車両の乗員によって与えられた操舵トルクに反力を加える制御であるものである。
【0013】
(8):この発明の別の態様に係る車両制御方法は、コンピュータが、車両の周辺状況を認識し、認識された前記周辺状況に基づいて前記車両の目標経路を生成し、前記目標経路に沿って前記車両の操舵制御を行い、前記車両の走行位置と前記目標経路との偏差が閾値以上であり、且つ、前記車両の走行車線から前記車両が逸脱するまでの時間が所定時間以下であると判定された場合に、前記操舵制御を停止するものである。
【0014】
(9):この発明の別の態様に係るプログラムは、コンピュータに、車両の周辺状況を認識させ、認識された前記周辺状況に基づいて前記車両の目標経路を生成させ、前記目標経路に沿って前記車両の操舵制御を行わせ、前記車両の走行位置と前記目標経路との偏差が閾値以上であり、且つ、前記車両の走行車線から前記車両が逸脱するまでの時間が所定時間以下であると判定された場合に、前記操舵制御を停止させるものである。
【発明の効果】
【0015】
(1)~(9)の態様によれば、車両に対する車線維持制御の継続性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態の車両制御装置100を中心とした構成図である。
図2】操舵装置220の構成図である。
図3】制御部120によって生成された車両Mの目標経路TRおよびLKASの動作を説明するための図である。
図4】LKASの停止タイミングと車線逸脱警報の報知タイミングとの間の時間関係を示す図である。
図5】車両Mの周辺状況に応じた制御部120による制御の一例を説明するための図である。
図6】車両Mの周辺状況に応じた制御部120による制御の別の例を説明するための図である。
図7】車両Mの周辺状況に応じた制御部120による制御の別の例を説明するための図である。
図8】制御部120によって実行される処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照し、本発明の車両制御装置、車両制御方法、およびプログラムの実施形態について説明する。本実施形態に係る車両制御装置は、車両が走行する走行車線と目標経路との偏差が大きい場合であっても、自車両Mが車線を逸脱するまでの時間に余裕がある際には、車線維持支援制御を継続するものである。これにより、車両が、車線幅が広い車線を走行する場合においても、車線維持支援制御の継続性を向上させることができる。以下、本実施形態に係る車両制御装置の詳細について説明する。
【0018】
[全体構成]
図1は、実施形態の車両制御装置100を中心とした構成図である。車両制御装置100は、車両に搭載される。この車両(以下、車両Mと称する)には、車両制御装置100の他に、例えば、物体検知装置10、車両センサ20、HMI30、ブレーキ装置200、操舵装置220等の構成が搭載される。なお、図1に示す構成はあくまで一例であり、構成の一部が省略されてもよいし、更に別の構成が追加されてもよい。車両Mはエンジンや走行用モータなどの駆動力出力装置を備えるが、これについて図示および説明を省略する。
【0019】
物体検知装置10は、例えば、カメラ、レーダ装置、LIDAR(Light Detection and Ranging)、センサフュージョン装置などのうち一部または全部を含む。物体検知装置10は、少なくとも車両Mの進行方向側を検知範囲とし、物体を検知するための装置である。カメラは、例えば、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の固体撮像素子を利用したデジタルカメラである。カメラは、車両Mの任意の箇所に取り付けられる。前方を撮像する場合、カメラは、フロントウインドシールド上部やルームミラー裏面等に取り付けられる。カメラは、例えば、周期的に繰り返し車両Mの周辺を撮像する。カメラは、ステレオカメラや測距センサであってもよい。レーダ装置は、車両Mの周辺にミリ波などの電波を放射すると共に、物体によって反射された電波(反射波)を検出して少なくとも物体の位置(距離および方位)を検出する。レーダ装置は、FM-CW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式によって物体の位置および速度を検出してもよい。LIDARは、車両Mの周辺に光(或いは光に近い波長の電磁波)を照射し、散乱光を測定する。LIDARは、発光から受光までの時間に基づいて、対象までの距離を検出する。照射される光は、例えば、パルス状のレーザー光である。センサフュージョン装置は、カメラ、レーダ装置、およびLIDARのうち一部または全部による検出結果に対してセンサフュージョン処理を行って、物体の位置、種類、速度などを認識する。物体検知装置10は、センサフュージョン装置に代えて、専らカメラの画像解析を行う画像解析装置を備えてもよい。この画像解析装置は、車両制御装置100の一機能であってもよい。物体検知装置10は、認識結果を車両制御装置100に出力する。
【0020】
車両センサ20は、車両Mの速度を検出する車速センサ、加速度を検出する加速度センサ、鉛直軸回りの角速度を検出するヨーレートセンサ、車両Mの向きを検出する方位センサ等を含む。
【0021】
HMI30は、自車両M1の乗員に対して各種情報を提示する報知装置である。また、HMI30は、乗員による入力操作を受け付ける。HMI30は、各種表示装置、スピーカ、ブザー、タッチパネル、スイッチ、キーなどを含む。HMI30は、後述する制御部120による制御に応じて、警報を発するように動作する。HMI30は、「警報装置」の一例である。
【0022】
車両制御装置100の説明に先立ち、ブレーキ装置200、および操舵装置220について説明する。
【0023】
ブレーキ装置200は、例えば、ブレーキキャリパーと、ブレーキキャリパーに油圧を伝達するシリンダと、シリンダに油圧を発生させる電動モータと、ブレーキECUとを備える。ブレーキECUは、車両制御装置100から入力される情報、或いは運転操作子(不図示)から入力される情報に従って電動モータを制御し、制動操作に応じたブレーキトルクが各車輪に出力されるようにする。ブレーキ装置200は、ブレーキペダルの操作によって発生させた油圧を、マスターシリンダを介してシリンダに伝達する機構をバックアップとして備えてよい。なお、ブレーキ装置200は、上記説明した構成に限らず、マスターシリンダの油圧をシリンダに伝達する電子制御式油圧ブレーキ装置であってもよい。
【0024】
図2は、操舵装置220の構成図である。操舵装置220は、例えば、操舵操作子222と、トルクセンサ224と、アクチュエータ226と、操舵角センサ228と、操舵輪230とを備える。これらの構成要素は、ステアリングシャフト、ギヤ機構などを含む連結部232によって機械的に連結されている。なお、連結部232は一時的に連結を解除する機能等を備えてもよい。また、操舵装置220は、操舵ECU(Electronic Control Unit)240を備える。なお、操舵装置220は、操舵操作子222と操舵輪230との機械的連結が無い、いわゆるステアバイワイヤの操舵装置であってもよい。
【0025】
操舵操作子222は、例えばステアリングホイールである。これに代えて操舵操作子222は、異形ステア、ジョイスティック、レバー、十字キー、その他の操舵操作子であってもよい。以下の説明では操舵操作子222はステアリングホイールであるものとする。操舵操作子222は、回転操作されることで連結部232に回転力(以下、トルクと称する。操舵操作が回転操作でない場合、本発明における「力」はトルクに限定されない。)を伝える。連結部232の少なくとも一部は、回転軸として動作する。トルクセンサ224は、操舵操作子222に加えられたトルクを検出して操舵ECU240に出力する。アクチュエータ226は、例えばモータであり、そのステータは車体に連結され、ロータが連結部232と共に回転するようになっている。アクチュエータ226は、操舵ECU240からの指示に応じて連結部に力を出力し、いわゆるパワーステアリング機能を実現する。アクチュエータ226が連結部232にトルクを出力すると、そのトルクは操舵操作子222にも伝達される。アクチュエータ226から微小なトルクが出力されることで、車両Mの運転者の手に振動が伝わり、何らかの気付きを与えることができる。また、アクチュエータ226は操舵操作子222に加えられたトルクに対して反力を与え、操舵操作を抑制するように動作する。これによって、LKAS(Lane Keeping Assist System)などの運転支援が実現される。パワーステアリング機能を実現するためのアクチュエータと反力を出力するアクチュエータは別々に設けられてもよいが、ここでは一つのものとして表現している。操舵角センサ228は、操舵輪230の回転角(操舵角)を検出して操舵ECU240に出力する。操舵ECU240は、トルクセンサ224および操舵角センサ228から入力された情報に基づいて、或いは車両制御装置100からの指示に応じて、アクチュエータ226を動作させる。
【0026】
図1に戻り、車両制御装置100は、例えば、認識部110と、制御部120とを備える。これらの構成要素は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。また、これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予め車両制御装置100のHDDやフラッシュメモリなどの記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体に格納されており、記憶媒体(非一過性の記憶媒体)がドライブ装置に装着されることで車両制御装置100のHDDやフラッシュメモリにインストールされてもよい。
【0027】
認識部110は、物体検知装置10から入力された情報に基づいて、車両Mの周辺状況を認識する。認識部110は、例えば、車両Mの周辺にある物体の種別、位置、速度、加速度等を認識する。物体の位置は、例えば、車両Mの代表点(重心や駆動軸中心など)を原点とした絶対座標上の位置として認識され、制御に使用される。物体の位置は、その物体の重心やコーナー等の代表点で表されてもよいし、表現された領域で表されてもよい。物体の「状態」とは、物体の加速度やジャーク、あるいは「行動状態」(例えば車線変更をしている、またはしようとしているか否か)を含んでもよい。このように、認識部110は、車両Mの少なくとも進行方向側に存在する、車両Mが接触を回避すべき物体を認識する。
【0028】
また、認識部110は、例えば、車両Mが走行している車線(走行車線)を認識する。例えば、認識部110は、走行車線に対する車両Mの位置や姿勢を認識する。認識部110は、例えば、車両Mの基準点の車線中央からの乖離、および車両Mの進行方向の車線中央を連ねた線に対してなす角度を、走行車線に対する車両Mの相対位置および姿勢として認識してもよい。これに代えて、認識部110は、走行車線のいずれかの側端部(道路区画線または道路境界)に対する車両Mの基準点の位置などを、走行車線に対する車両Mの相対位置として認識してもよい。
【0029】
制御部120は、認識部110によって認識された周辺状況に基づいて車両Mの目標経路TRを生成し、生成した目標経路TRに沿って車両Mの操舵制御を行う。本実施形態において、操舵制御とは、車両Mが目標経路TRから逸脱する方向に走行した際に、操舵操作子222に加えられた目標経路TRから逸脱する方向のトルクに対して反力を与え、当該逸脱方向への操舵操作を抑制させるLKASを意味する。
【0030】
図3は、制御部120によって生成された車両Mの目標経路TRおよびLKASの動作を説明するための図である。図3は、車両Mが車線L1に沿って走行している状況を表している。制御部120は、例えば、認識部110によって認識された車両Mの前方に存在する左側道路区画線LLおよび右側道路区画線RLの中間線として目標経路TRを生成する。認識部110によって認識された道路区画線が片側のみであった場合、制御部120は、認識された片側の道路区画線を基準として所定幅分、シフトさせた線を目標経路TRとして生成する。代替的に、制御部120は、直近に認識されて車両Mの相対位置として記憶された左右の道路区画線情報(或いはそれらの一方)に基づいて目標経路TRを生成してもよい。
【0031】
さらに、制御部120は、生成された目標経路TRと車両Mとの間の偏差(距離)dを算出する。例えば、制御部120は、生成された目標経路TRと車両Mの重心との間の距離を偏差dとして算出する。さらに、制御部120は、トルクセンサ224によって検出された操舵トルクが目標経路TRから逸脱する方向であるか否かを検出する。さらに、制御部120は、車両センサ20によって検知された車両Mの現在速度および加速度に基づいて、車両Mが左側道路区画線LLおよび右側道路区画線RLのいずれか一方を横断するまでの時間TTLC(time to line crossing)を算出する。より具体的には、例えば、制御部120は、図中、y軸方向について、車両Mの前端部中央と道路区画線との間の距離ΔYがゼロになるまでの時間をTTLCとして算出する。TTLCは、車両Mが走行車線を逸脱するまでの時間と表現することもできる。図3の右部のグラフに示す通り、LKASは、距離ΔYが正の方向(すなわち、右方向)に大きくなればなるほど、当該方向への操舵操作に加える反力を大きくする制御であり、逆に、距離ΔYが負の方向(すなわち、左方向)に大きくなればなるほど、当該方向への操舵操作に加える反力を大きくする制御である。
【0032】
制御部120は、算出された偏差dが閾値Th以上であり、かつ検出された操舵トルクが目標経路TRから逸脱する方向であり、かつTTLCが所定時間以下であるか否かを判定し、算出された偏差dが閾値Th以上であり、検出された操舵トルクが目標経路TRから逸脱する方向であり、かつTTLCが所定時間以下であると判定された場合、LKASを停止する。ここで、「偏差dが閾値Th以上」とは、より厳密には、「偏差dが閾値Th以上である期間が規定値(例えば、0.5秒)以上継続する」ことを意味する。すなわち、本実施形態に係る制御部120は、偏差dが閾値Th以上である場合にLKASを停止する従来技術に比して、より車両Mの周辺状況を考慮して、LKASの継続有無を制御する。これにより、特に、車両Mが、車線幅が広い車線を走行する際に、LKASの継続性を向上させることができる。
【0033】
ところで、一般的に、車両Mが走行中には、LKAS実行時における車線逸脱警報と、LKAS停止時における車線逸脱警報のいずれかが車両Mの乗員に対して報知される。ここで、車線逸脱警報とは、TTLCが所定値以下となったタイミングで、HMI30が、乗員に対して車線の逸脱を警告するために発する警報を意味する。以下、図3を参照して、LKASの停止タイミングと、これら車線逸脱警報の報知タイミングとの間の時間関係について説明する。
【0034】
図4は、LKASの停止タイミングと車線逸脱警報の報知タイミングとの間の時間関係を示す図である。本実施形態に係る車線逸脱警報は、LKAS実行時において報知される車線逸脱警報(以下、「LKAS実行時逸脱警報」)と、LKAS停止時において報知される車線逸脱警報(以下、「LKAS停止時逸脱警報」)とを含む。図4に示す通り、LKAS実行時逸脱警報は、TTLCが第1時間となったタイミングで報知される一方、LKAS停止時逸脱警報は、TTLCが第1時間又は第2時間(ここで、第1時間<第2時間とする)となったタイミングで報知されるように設定される。すなわち、LKAS停止時逸脱警報の報知タイミングが第2時間に設定された場合、LKAS停止時には、LKAS実行時に比して、車両Mが道路区画線よりも車線中央側に位置するタイミング(すなわち、より早いタイミング)で車線逸脱警報が報知されることとなる。
【0035】
上記の車線逸脱警報の報知タイミングを前提として、本実施形態において、LKASは、TTLCが第3時間(第1時間以上、第2時間以下)となったタイミングで停止される。すなわち、LKASは、LKAS実行時逸脱警報に比して、車両Mが道路区画線よりも車線中央側に位置するタイミング(すなわち、より早いタイミング)で停止されることとなる。この場合、LKAS実行時逸脱警報が報知されるよりも前にLKASが停止され、車両Mの乗員に運転操作が引き継がれるため、乗員にとっての操作性を向上させることができる。第3時間は、「所定時間」の一例である。
【0036】
さらに、上記の構成によると、LKASは、LKAS停止時逸脱警報に比して、車両Mが車線中央よりも道路区画線側に位置するタイミング(すなわち、より遅いタイミング)で停止されることとなる。一般的に、LKAS停止時逸脱警報の報知タイミングは、車線逸脱までの余裕が大きく設定されている。そのため、LKASの停止を当該タイミングよりも遅く設定することにより、乗員にとっての操作性を向上させることができる。
【0037】
次に、図5から図7を参照して、車両Mの周辺状況に応じた制御部120による制御について説明する。図5は、車両Mの周辺状況に応じた制御部120による制御の一例を説明するための図である。図5の左部は、車両Mが車線幅の広い車線を走行している状況を表し、図5の右部は、当該状況に応じた制御部120による制御を表している。
【0038】
まず、時点t1において、制御部120は、トルクセンサ224によって検出された操舵トルクが目標経路TRから逸脱する方向であることを検出し、時点t1から時点t4までの期間、継続的に操舵トルクが目標経路TRから逸脱する方向であることを検出する。次に、時点t2において、制御部120は、偏差dが閾値Th以上であることを検出し、その後、偏差dが閾値Th以上である期間が規定値(図5では、0.5秒)以上継続したことを検出する。
【0039】
次に、時点t3において、制御部120は、TTLCが所定時間以下となったことを検出する。すなわち、時点3において、制御部120は、検出された操舵トルクは目標経路TRから逸脱する方向であり、算出された偏差dは閾値Th以上であり、かつTTLCは所定時間以下であると判定するため、LKASを停止する。その後、時点t4において、制御部120は、検出された操舵トルクが目標経路TRから逸脱する方向ではないことを検出し、LKASを復帰させる。
【0040】
なお、図5の右部に示すタイミングチャートにおいて、制御部120は、時点t3’においてTTLCが所定時間以下ではないことを検出した後も、車両Mの乗員による逸脱方向への操舵トルクが検出されている間、TTLCは所定時間以下であるとする判定を継続する。これは、車両Mが車線幅の狭い車線を走行している際、偏差dが閾値Th以上となる前に車線を逸脱した場合、TTLCに関する条件が常に不成立となって、LKASが停止されない事態を防止するためである。
【0041】
図6は、車両Mの周辺状況に応じた制御部120による制御の別の例を説明するための図である。図6の左部は、車両Mが車線幅の狭い車線を走行している状況を表し、図6の右部は、当該状況に応じた制御部120による制御を表している。
【0042】
まず、時点t1において、制御部120は、トルクセンサ224によって検出された操舵トルクが目標経路TRから逸脱する方向であることを検出し、時点t1から時点t4までの期間、継続的に操舵トルクが目標経路TRから逸脱する方向であることを検出する。次に、時点t2において、制御部120は、TTLCが所定時間以下となったことを検出する。これは、図5に示す状況とは異なり、車両Mが車線幅の狭い車線を走行していることに起因するものである。
【0043】
次に、時点t3において、制御部120は、偏差dが閾値Th以上であることを検出し、その後、偏差dが閾値Th以上である期間が規定値(図6では、0.5秒)以上継続したことを検出する。この時点において、例えば、車両Mによる車線逸脱に起因して、TTLCに関する条件が不成立となっているが、上述した通り、制御部120は、TTLCは所定時間以下であるとする判定を、操舵トルクが検出されている間、継続している。これにより、時点t3から規定値の時間が経過したタイミングにおいて、制御部120は、検出された操舵トルクは目標経路TRから逸脱する方向であり、算出された偏差dは閾値Th以上であり、かつTTLCは所定時間以下であると判定するため、LKASを停止する。その後、時点t4において、制御部120は、検出された操舵トルクが目標経路TRから逸脱する方向ではないことを検出し、LKASを復帰させる。
【0044】
このように、本実施形態によれば、車両Mが車線幅の狭い車線を走行したことにより、偏差dが閾値Th以上となる前にTTLCに関する条件が不成立となってしまった場合においても、TTLCは所定時間以下であるとする判定を一定期間、継続することにより、LKASの停止判定を適切に実行することができる。
【0045】
図7は、車両Mの周辺状況に応じた制御部120による制御の別の例を説明するための図である。図7の左部は、車両Mが、右側道路区画線RLが存在しない(もしくは、その認識に失敗した)車線を走行している状況を表し、図7の右部は、当該状況に応じた制御部120による制御を表している。
【0046】
図7の右部に示す通り、制御部120は、車両Mが目標経路TRから逸脱する方向に道路区画線を認識しなかった場合、TTLCに関する条件が常に成立(ON)しているものと見なす。換言すると、制御部120は、操舵トルクと偏差dのみに基づいてLKASの停止判定を実行する。
【0047】
まず、時点t1において、制御部120は、トルクセンサ224によって検出された操舵トルクが目標経路TRから逸脱する方向であることを検出し、時点t1から時点t3までの期間、継続的に操舵トルクが目標経路TRから逸脱する方向であることを検出する。次に、時点t2から規定値の時間が経過したタイミングにおいて、制御部120は、検出された操舵トルクは目標経路TRから逸脱する方向であり、かつ算出された偏差dは閾値Th以上であると判定するため、LKASを停止する。その後、時点t3において、制御部120は、検出された操舵トルクが目標経路TRから逸脱する方向ではないことを検出し、LKASを復帰させる。このように、本実施形態によれば、目標経路TRから逸脱する方向に道路区画線を認識しなかった場合であっても、操舵トルクと偏差dに基づいて、LKASの停止判定を適切に実行することができる。
【0048】
次に、図8を参照して、制御部120によって実行される処理の流れについて説明する。図8は、制御部120によって実行される処理の流れの一例を示すフローチャートである。図8のフローチャートに係る処理は、車両Mが走行中、繰り返し実行されるものである。
【0049】
まず、制御部120は、LKASが実行中であるか否かを判定する(ステップS100)。LKASが実行中であると判定されなかった場合、制御部120は、処理を再びステップS100に戻す。LKASが実行中であると判定された場合、制御部120は、次に、トルクセンサ224によって検出された操舵トルクが目標経路TRから逸脱する方向であるか否かを判定する(ステップS102)。トルクセンサ224によって検出された操舵トルクが目標経路TRから逸脱する方向ではないと判定された場合、制御部120は、LKASを維持する(ステップS104)。
【0050】
一方、トルクセンサ224によって検出された操舵トルクが目標経路TRから逸脱する方向であると判定された場合、制御部120は、次に、偏差dが閾値Th以上である期間が規定値以上であるか否かを判定する(ステップS106)。偏差dが閾値Th以上である期間が規定値以上ではないと判定された場合、制御部120は、LKASを維持する(ステップS104)。一方、偏差dが閾値Th以上である期間が規定値以上であると判定された場合、制御部120は、車両Mが目標経路TRから逸脱する方向に道路区画線を認識したか否かを判定する(ステップS108)。
【0051】
車両Mが目標経路TRから逸脱する方向に道路区画線を認識したと判定された場合、制御部120は、認識した道路区画線へのTTLCが所定時間以内であるか否かを判定する(ステップS110)。認識した道路区画線へのTTLCが所定時間以内ではないと判定された場合、制御部120は、LKASを維持する(ステップS104)。一方、認識した道路区画線へのTTLCが所定時間以内であると判定した場合、制御部120は、LKASを停止させる(ステップS112)。これにより、本フローチャートの処理が終了する。
【0052】
なお、上記のフローチャートにおいて、操舵トルクに関するステップS102の処理と、偏差dに関するステップS106の処理と、TTLCに関するステップS108およびステップS110の処理の順序は互いに入れ替えても良い。
【0053】
以上の通り説明した本実施形態によれば、車両の走行位置と目標経路との偏差が閾値以上であり、かつ車両の走行車線から車両が逸脱するまでの時間が所定時間以下であると判定された場合に、LKASを停止する。すなわち、本実施形態によれば、車両が走行する車線の車線幅を考慮してLKASを停止するものであり、これにより、車両に対する車線維持制御の継続性を向上させることができる。
【0054】
上記説明した実施形態は、以下のように表現することができる。
コンピュータによって読み込み可能な命令(computer-readable instructions)を格納する記憶媒体(storage medium)と、
前記記憶媒体に接続されたプロセッサと、を備え、
前記プロセッサは、前記コンピュータによって読み込み可能な命令を実行することにより(the processor executing the computer-readable instructions to:)
車両の周辺状況を認識し、
認識された前記周辺状況に基づいて前記車両の目標経路を生成し、前記目標経路に沿って前記車両の操舵制御を行い、
前記車両の走行位置と前記目標経路との偏差が閾値以上であり、且つ、前記車両の走行車線から前記車両が逸脱するまでの時間が所定時間以下であると判定された場合に、前記操舵制御を停止する、
ように構成されている、車両制御装置。
【0055】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0056】
10 物体検知装置
20 車両センサ
30 HMI
100 車両制御装置
110 認識部
120 制御部
200 ブレーキ装置
220 操舵装置
222 操舵操作子
224 トルクセンサ
226 アクチュエータ
228 操舵角センサ
230 操舵輪
240 操舵ECU
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8