IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋ゴム工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-二軸引張試験方法 図1
  • 特開-二軸引張試験方法 図2
  • 特開-二軸引張試験方法 図3
  • 特開-二軸引張試験方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076702
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】二軸引張試験方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/04 20060101AFI20240530BHJP
   G01N 3/08 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
G01N3/04 D
G01N3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188389
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】馬 国涛
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA01
2G061AB09
2G061BA07
2G061CA10
2G061CB01
2G061CC03
2G061EA01
2G061EA02
2G061EA03
2G061EA04
2G061EB07
(57)【要約】
【課題】二軸引張試験の測定精度の低下を抑制できる二軸引張試験方法を提供すること。
【解決手段】試験片2の本体部3の辺3a~3dからそれぞれ被挟持部4a~4dが張り出す張出方向へチャック21を移動させたとき、棒20を介してチャック21の引掛部22から被挟持部4a~4dの段差7に張出方向の引張力が伝達される。これにより、複数の被挟持部4a~4dがそれぞれの張出方向へ引っ張られ、二軸引張試験が行われる。このように、二軸引張試験では、引掛部22が棒20を介して被挟持部4a~4dの段差7に引っ掛かるため、被挟持部4a~4dに対しチャック21を張出方向へ滑らせ難くでき、その滑りに起因した二軸引張試験の測定精度の低下を抑制できる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の弾性体製の試験片を二軸引張試験機で引っ張ることにより前記試験片の二軸引張試験を行う二軸引張試験方法であって、
前記試験片は、矩形状の本体部と、
前記試験片の板厚方向から見て、前記本体部の四辺からそれぞれに垂直な張出方向へ張り出す複数の被挟持部と、を備え、
前記被挟持部には、前記本体部から前記張出方向へ延びる薄板部と、前記薄板部から前記張出方向へ延びて前記薄板部よりも板厚が厚い厚板部との板厚の差によって、前記本体部側を前記板厚方向に凹ませた段差が前記板厚方向の両面にそれぞれ形成され、
前記二軸引張試験機は、複数の前記薄板部を前記板厚方向にそれぞれ挟み、前記張出方向および前記板厚方向に垂直な幅方向へそれぞれ延びた複数の棒と、
前記棒の前記本体部側に配置される引掛部、及び、前記棒に対し前記薄板部とは反対側に配置される規制部をそれぞれ有する複数のチャックと、
複数の前記チャックをそれぞれ移動させるアクチュエータと、を備え、
前記引掛部と前記段差との間、及び、前記規制部と前記薄板部との間にそれぞれ前記棒を配置することにより、複数の前記棒を介して複数の前記チャックを複数の前記被挟持部にそれぞれ取り付ける取付ステップと、
前記取付ステップで取り付けられた複数の前記被挟持部をそれぞれの前記張出方向へ、前記アクチュエータによる前記チャックの前記張出方向の移動によって引っ張り、前記二軸引張試験を行う試験ステップと、を備えることを特徴とする二軸引張試験方法。
【請求項2】
前記引掛部のうち前記棒に接触する面は、前記本体部側へ向かうにつれて前記板厚方向の前記薄板部側へ傾斜することを特徴とする請求項1記載の二軸引張試験方法。
【請求項3】
前記チャックは、前記厚板部を前記板厚方向に挟む押付部を備えることを特徴とする請求項1記載の二軸引張試験方法。
【請求項4】
複数の前記厚板部は、前記本体部の四辺ごとに前記幅方向に間隔を空けて並び、
前記薄板部と前記厚板部との前記段差ごとに1本の前記棒が配置されることを特徴とする請求項1記載の二軸引張試験方法。
【請求項5】
複数の前記被挟持部は、前記本体部の四辺ごとに前記幅方向に間隔を空けて並び、
複数の前記チャックは、複数の前記被挟持部の間にそれぞれ配置されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の二軸引張試験方法。
【請求項6】
前記段差は、前記規制部の前記薄板部側の面よりも前記板厚方向の外側へ延長されていることを特徴とする請求項5記載の二軸引張試験方法。
【請求項7】
前記被挟持部は、前記薄板部から前記板厚方向に突出する突起を備え、
前記取付ステップでは、前記突起と前記段差との間に前記棒を配置してから、前記棒の前記本体部側に前記引掛部を位置させることを特徴とする請求項5記載の二軸引張試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二軸引張試験方法に関し、特に二軸引張試験の測定精度の低下を抑制できる二軸引張試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
板状の弾性体からなる試験片を、互いに直交する二軸の4方向に沿って引っ張ることにより、試験片の歪み-応力データを測定する二軸引張試験が知られている。例えば、従来の二軸引張試験では、試験片に対し4方向にそれぞれ配置した複数のチャックで試験片を挟み、それら複数のチャックをそれぞれアクチュエータで4方向に移動させることにより、試験片を4方向に引っ張る(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-102076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、試験片の平坦部分をチャックの平坦な面で挟む従来の二軸引張試験では、引張変形した試験片がポアソン効果によって薄くなり、チャックによる試験片の挟持力が低下してしまう。これにより、チャックに対し試験片が滑ることがあり、その滑りに起因して二軸引張試験の測定精度が低下するという問題点がある。
【0005】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、二軸引張試験の測定精度の低下を抑制できる二軸引張試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明の二軸引張試験方法は、板状の弾性体製の試験片を二軸引張試験機で引っ張ることにより前記試験片の二軸引張試験を行う方法であって、前記試験片は、矩形状の本体部と、前記試験片の板厚方向から見て、前記本体部の四辺からそれぞれに垂直な張出方向へ張り出す複数の被挟持部と、を備え、前記被挟持部には、前記本体部から前記張出方向へ延びる薄板部と、前記薄板部から前記張出方向へ延びて前記薄板部よりも板厚が厚い厚板部との板厚の差によって、前記本体部側を前記板厚方向に凹ませた段差が前記板厚方向の両面にそれぞれ形成され、前記二軸引張試験機は、複数の前記薄板部を前記板厚方向にそれぞれ挟み、前記張出方向および前記板厚方向に垂直な幅方向へそれぞれ延びた複数の棒と、前記棒の前記本体部側に配置される引掛部、及び、前記棒に対し前記薄板部とは反対側に配置される規制部をそれぞれ有する複数のチャックと、複数の前記チャックをそれぞれ移動させるアクチュエータと、を備え、前記引掛部と前記段差との間、及び、前記規制部と前記薄板部との間にそれぞれ前記棒を配置することにより、複数の前記棒を介して複数の前記チャックを複数の前記被挟持部にそれぞれ取り付ける取付ステップと、前記取付ステップで取り付けられた複数の前記被挟持部をそれぞれの前記張出方向へ、前記アクチュエータによる前記チャックの前記張出方向の移動によって引っ張り、前記二軸引張試験を行う試験ステップと、を備える。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の二軸引張試験方法によれば、まず取付ステップにおいて、二軸引張試験機のチャックの引掛部と、試験片の被挟持部の両面の段差との間にそれぞれ棒を配置することで、複数の棒を介して複数のチャックを複数の被挟持部にそれぞれ取り付ける。その後の試験ステップでは、試験片の本体部の四辺からそれぞれ被挟持部が張り出す張出方向へチャックを移動させたとき、棒を介して引掛部から段差に張出方向の引張力が伝達される。これにより、複数の被挟持部がそれぞれの張出方向へ引っ張られ、二軸引張試験が行われる。このように、二軸引張試験(試験ステップ)では、引掛部が棒を介して被挟持部の段差に引っ掛かるため、被挟持部に対しチャックを張出方向へ滑らせ難くでき、その滑りに起因した二軸引張試験の測定精度の低下を抑制できる。
【0008】
また、チャックの引掛部を段差に直接引っ掛ける場合と比べ、チャックとは別部材の棒を段差と引掛部との間に介することで、ポアソン効果などによって変形する被挟持部に棒を追従させ易くできる。更に、棒に対し薄板部とは板厚方向の反対側に規制部が位置するため、棒が板厚方向に移動して棒が段差から外れることを抑制できる。これらの結果、二軸引張試験時において、棒を段差に当てた状態を維持し易くでき、二軸引張試験の測定精度を向上できる。
【0009】
請求項2記載の二軸引張試験方法によれば、請求項1記載の二軸引張試験方法が奏する効果に加え、次の効果を奏する。引掛部のうち棒に接触する面は、本体部側(張出方向とは反対側)へ向かうにつれて板厚方向の薄板部側へ傾斜する。この引掛部の傾斜によって、二軸引張試験で張出方向にチャックを移動させたとき、薄板部に棒が押し付けられる。これにより、二軸引張試験時においてポアソン効果で被挟持部が薄くなっても、棒を段差に当てた状態を維持し易くでき、二軸引張試験の測定精度をより向上できる。
【0010】
請求項3記載の二軸引張試験方法によれば、請求項1記載の二軸引張試験方法が奏する効果に加え、次の効果を奏する。チャックは、厚板部を板厚方向に挟む押付部を備えるので、チャックに対し被挟持部の板厚方向の位置を安定化できる。これにより、チャックで棒を介して被挟持部の板厚方向の両面をそれぞれ引っ張るとき、その両面に作用する引張力がばらつくことを抑制でき、二軸引張試験の測定精度を向上できる。
【0011】
請求項4記載の二軸引張試験方法によれば、請求項1記載の二軸引張試験方法が奏する効果に加え、次の効果を奏する。複数の厚板部は、本体部の四辺ごとに幅方向に間隔を空けて並び、薄板部と厚板部との段差ごとに1本の棒が配置される。この場合、二軸引張試験時に、幅方向に並んだ複数の厚板部による段差を1本の棒でまとめて引っ張る場合と比べ、棒と段差との摩擦によって複数の厚板部の間隔が広がり難くなることを抑制できる。よって、その広がり難さに起因した二軸引張試験の測定精度の低下を抑制できる。
【0012】
請求項5記載の二軸引張試験方法によれば、請求項1から4のいずれかに記載の二軸引張試験方法が奏する効果に加え、次の効果を奏する。複数の被挟持部は、本体部の四辺ごとに幅方向に間隔を空けて並ぶ。複数のチャックは、それら複数の被挟持部の間にそれぞれ配置される。これにより例えば、幅方向視において、チャックと被挟持部とが重なるように各々の形状や寸法を設定できる。即ち、チャックの形状や寸法の自由度、被挟持部の形状や寸法の自由度をそれぞれ向上できる。
【0013】
請求項6記載の二軸引張試験方法によれば、請求項5記載の二軸引張試験方法が奏する効果に加え、次の効果を奏する。段差は、規制部の薄板部側の面よりも板厚方向の外側へ延長されている。これにより、薄板部と規制部との間で棒が板厚方向に移動しても、段差に棒を当てた状態を維持し易くでき、二軸引張試験の測定精度を向上できる。
【0014】
請求項7記載の二軸引張試験方法によれば、請求項6記載の二軸引張試験方法が奏する効果に加え、次の効果を奏する。被挟持部は、薄板部から板厚方向に突出する突起を備える。取付ステップでは、突起と段差との間に棒を配置して被挟持部に対し棒を張出方向に位置決めしてから、棒の本体部側に引掛部を位置させる。これにより、二軸引張試験の初期段階で、引掛部と棒と段差とが互いに接触して引張力が伝達するようになるまでのタイミングを、本体部の四辺のそれぞれでばらつき難くできる。よって、そのタイミングのばらつきに起因した二軸引張試験の測定精度の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態における二軸引張試験機および試験片の平面図である。
図2図1のII-II線における二軸引張試験機および試験片の部分拡大断面図である。
図3】(a)は第2実施形態における二軸引張試験機および試験片の部分拡大平面図であり、(b)は図3(a)のIIIb-IIIb線における二軸引張試験機および試験片の部分拡大断面図である。
図4】(a)は第3実施形態における二軸引張試験機および試験片の部分拡大断面図であり、(b)は図4(a)に対し試験片を薄くした場合における二軸引張試験機および試験片の部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。図1は、第1実施形態における二軸引張試験機10及び試験片2の平面図である。図2は、図1のII-II線における二軸引張試験機10及び試験片2の部分拡大断面図である。なお、図1では、断面コ字状のスライド部11~14の上面(図1紙面手前側の面)を省略している。また、説明の都合上、図2の紙面上方を上方、図2の紙面下方を下方として説明するが、図2の紙面上下方向が実際の上下方向とは限らない。
【0017】
図1に示すように、二軸引張試験機10は、弾性体(例えばゴム)製の板状の試験片2に対し、二軸引張試験を行うためのものである。二軸引張試験とは、互いに直交する第1軸X及び第2軸Yそれぞれの軸方向へ試験片2を略均一に引っ張ることにより、試験片2の歪み-応力データを測定する試験である。
【0018】
なお、説明を簡略化するために以下の説明では。試験片2の板厚方向を単に板厚方向と言う。また、第1軸Xの軸方向のうち図1紙面左方向を第1方向D1、図1紙面右方向を第2方向D2と言う。第2軸Yの軸方向のうち図1紙面上方向を第3方向D3、図1紙面下方向を第4方向D4と言う。これらの4方向D1~D4は、いずれも板厚方向と垂直である。また、4方向D1~D4へ試験片2を略均一に引っ張って二軸引張試験を行うために、二軸引張試験機10及び試験片2は、試験片2の中央に対する4方向D1~D4の各構成が略同一に構成されている。
【0019】
試験片2は、略一定な板厚(板厚方向の寸法)を有する矩形状の本体部3と、本体部3から張り出す複数の被挟持部4a,4b,4c,4dと、を備える。本体部3は、第2軸Yに平行な第1方向D1側の辺3aと、第2軸Yに平行な第2方向D2側の辺3bと、第1軸Xに平行な第3方向D3側の辺3cと、第1軸Xに平行な第4方向D4側の辺3dと、を備える。これらの辺3a~3d(四辺)は互いに長さが同一であり、本体部3は正方形状に構成される。なお、各辺3a~3dの長さを異ならせて本体部3を長方形状にしても良い。
【0020】
複数の被挟持部4aは、辺3aから、辺3aに垂直な方向であって板厚方向に垂直な第1方向D1(張出方向)へそれぞれ張り出す。複数の被挟持部4aは、第2軸Yの軸方向D3,D4(幅方向)に間隔を空けて並び、互いに形状および寸法が同一に構成されている。
【0021】
以下同様に、複数の被挟持部4bは、辺3bから、辺3bに垂直な方向であって板厚方向に垂直な第2方向D2(張出方向)へそれぞれ張り出す。複数の被挟持部4bは、第2軸Yの軸方向D3,D4(幅方向)に間隔を空けて並び、互いに形状および寸法が同一に構成されている。
【0022】
複数の被挟持部4cは、辺3cから、辺3cに垂直な方向であって板厚方向に垂直な第3方向D3(張出方向)へそれぞれ張り出す。複数の被挟持部4cは、第1軸Xの軸方向D1,D2(幅方向)に間隔を空けて並び、互いに形状および寸法が同一に構成されている。
【0023】
複数の被挟持部4dは、辺3dから、辺3dに垂直な方向であって板厚方向に垂直な第4方向D4(張出方向)へそれぞれ張り出す。複数の被挟持部4dは、第1軸Xの軸方向D1,D2(幅方向)に間隔を空けて並び、互いに形状および寸法が同一に構成されている。
【0024】
被挟持部4a,4b,4c,4dの各々は、幅方向の寸法が張出方向に亘って一定である。被挟持部4a,4b,4c,4dの各々は、本体部3から張出方向へ延びる薄板部5と、薄板部5から張出方向へ延びる厚板部6と、を備える。
【0025】
図2には被挟持部4bを含む断面が示されているが、被挟持部4a,4c,4dの断面も被挟持部4bの断面と略同一に構成される。図1及び図2に示すように、薄板部5は、本体部3の板厚と略同一の板厚を有する矩形状の部位である。これにより、薄板部5の剛性が本体部3の剛性と略同一となるため、本体部3の4方向D1~D4への引張変形が薄板部5で阻害されることを抑制できる。
【0026】
厚板部6は、薄板部5のうち本体部3とは反対側の縁に連なる矩形状の部位であり、本体部3及び薄板部5よりも板厚が大きく形成されている。被挟持部4a,4b,4c,4dの各々には、この薄板部5と厚板部6との板厚の差によって、本体部3側を板厚方向に凹ませた段差7が板厚方向の両面にそれぞれ形成されている。
【0027】
なお、厚板部6は、本体部3及び薄板部5に対し、板厚が大きいため剛性が大きい。しかし、厚板部6は薄板部5を介して本体部3に連結されているため、厚板部6の変形のし難さが本体部3の4方向D1~D4への引張変形に影響することを抑制できる。また、本体部3の各辺3a~3dに設けられる複数の被挟持部4a~4dが幅方向に間隔を空けて並んでいる。そのため、厚板部6によって被挟持部4a~4dが幅方向に若干変形し難くなっても、複数の被挟持部4a~4d(厚板部6)の間隔を変動させることにより、被挟持部4a~4dの各々の幅方向(4方向D1~D4)へ本体部3を引張変形させ易くできる。
【0028】
二軸引張試験機10は、第2軸Yと平行に延びて試験片2の第1方向D1側に配置されるスライド部11と、第2軸Yと平行に延びて試験片2の第2方向D2側に配置されるスライド部12と、第1軸Xと平行に延びて試験片2の第3方向D3側に配置されるスライド部13と、第1軸Xと平行に延びて試験片2の第4方向D4側に配置されるスライド部14と、スライド部11~14をそれぞれ移動させる複数のアクチュエータ15と、スライド部11~14にそれぞれスライド可能に固定される複数のスライダ16と、複数のスライダ16にそれぞれ取り付けられる複数のチャック21と、チャック21と試験片2との間に介される複数の棒20と、を備える。
【0029】
スライド部11,12は、試験片2側に開口するよう、第2軸Yに垂直な断面がコ字状に形成される部材であって、そのコ字状の断面の中央に第2軸Yと平行な棒状の固定部11a,12aがそれぞれ設けられている。スライド部13,14は、試験片2側に開口するよう、第1軸Xに垂直な断面がコ字状に形成される部材であって、そのコ字状の断面の中央に第1軸Xと平行な棒状の固定部13a,14aがそれぞれ設けられている。
【0030】
スライド部11~14は、試験片2に対する二軸引張試験において変形が無視できる程度の剛性、即ち試験片2に対して十分に大きな剛性を有する素材(例えば金属や樹脂、セラミックス)によって形成されている。以下、このような剛性を有する素材を剛体材と言う。
【0031】
アクチュエータ15は、スライド部11~14それぞれに個別に設けられるエアシリンダである。各アクチュエータ15は、図示しないベースに固定されるシリンダ15aと、そのシリンダ15aから突出してスライド部11~14のいずれか1に固定されるロッド15bと、を備える。
【0032】
アクチュエータ15は、シリンダ15aに対しロッド15bを進退させて伸縮することで、スライド部11,12を第1軸Xの軸方向D1,D2へ移動させる。同様に、アクチュエータ15は、伸縮によって、スライド部13,14を第2軸Yの軸方向D3,D4へ移動させる。
【0033】
複数のスライダ16は、スライド部11~14それぞれに6つずつ設けられる剛体材である。スライダ16は、スライド部11~14それぞれから試験片2へ向かって垂直に突出している。スライダ16は、固定部11a~14aそれぞれにスライド可能に固定されている。即ち、スライド部11,12に設けたスライダ16は、第2軸Yの軸方向D3,D4にスライド可能である。スライド部13,14に設けたスライダ16は、第1軸Xの軸方向D1,D2にスライド可能である。
【0034】
棒20は、被挟持部4a~4dの段差7に配置されて薄板部5を板厚方向に挟む2本で一対の部材である。本実施形態における棒20は丸棒であり、軸に垂直な棒20の断面が円形状に形成されている。棒20の軸方向は、棒20が挟む被挟持部4a~4dの幅方向と同一である。段差7ごとに1本の棒20が配置され、幅方向に隣り合う被挟持部4a~4d間に棒20が架け渡されない。
【0035】
複数のチャック21は、棒20を介して1枚の試験片2と複数のスライダ16とをそれぞれ連結する長手形状の剛体材である。本実施形態では、1つのスライダ16の上下両側に1つずつチャック21が設けられている。
【0036】
チャック21は、長手方向の一端部がボルト24でスライダ16に着脱可能に固定される。チャック21の長手方向の他端部には、棒20に接触する引掛部22が設けられる。引掛部22のうち棒20に接触する面は、本体部3側へ向かうにつれて板厚方向の薄板部5側へ傾斜する。これにより、引掛部22は、棒20の本体部3側に配置されると共に、棒20に対し薄板部5とは反対側に配置される。
【0037】
このような上下一対のチャック21の引掛部22によって、被挟持部4a~4dを挟んだ一対の棒20が板厚方向(上下方向)に挟まれる。なお実際は、被挟持部4a~4dの板厚に応じて、棒20を介したチャック21による被挟持部4a~4dの挟持力を調整できるように、スライダ16に対するチャック21の固定構造が設計されているが、その固定構造は既知であるため図示および説明を省略する。その挟持力は、棒20が被挟持部4a~4dに軽く当てる程度で良く、棒20で被挟持部4a~4dを板厚方向に強く圧縮しなくても良い。
【0038】
チャック21は、基本的に、チャック21自身が取り付けられるスライダ16と平行に延び、チャック21自身が棒20を介して挟む被挟持部4a~4dの張出方向と平行に延びるように向きが調整される。そこで、チャック21の長手方向であって本体部3から離れる方向を、被挟持部4a~4dと同様に張出方向とする。また、その張出方向および上下方向(板厚方向)に垂直な方向を幅方向とする。
【0039】
チャック21は、幅方向に間隔を空けて並んだ複数の被挟持部4a~4dの間にそれぞれ配置されている。幅方向に隣接するチャック21の引掛部22が、被挟持部4a~4dから幅方向に張り出した棒20の両端部にそれぞれ接触する。そのため、1つの被挟持部4a~4dが2本の棒20で挟まれ、その2本の棒20が4つのチャック21で挟まれている。
【0040】
チャック21には、被挟持部4a~4dの厚板部6を板厚方向に直接挟む押付部23が形成されている。押付部23は、同一の棒20に接触するように幅方向に隣接したチャック21の一方から他方へ向かって幅方向に張り出す。押付部23のうち厚板部6に接触する面は、幅方向視において厚板部6へ向かって凸に湾曲する。これにより、押付部23の角が厚板部6に食い込んで厚板部6の耐久性が低下することを抑制できる。また、押付部23が厚板部6に軽く当たる程度の挟持力で、押付部23が厚板部6を挟んでいる。
【0041】
チャック21は、押付部23を除いた部位が、板厚方向視において被挟持部4a~4dと重ならない。これにより例えば、幅方向視においてチャック21と被挟持部4a~4dとが重なるように各々の形状や寸法を設定できる(後述の第2,3実施形態で例示)。即ち、チャック21の形状や寸法の自由度、被挟持部4a~4dの形状や寸法の自由度をそれぞれ向上できる。
【0042】
次に、二軸引張試験機10及び試験片2を用いた二軸引張試験方法について説明する。まず、チャック21の引掛部22と段差7との間、及び、引掛部22(規制部)と薄板部5との間にそれぞれ棒20を配置することにより、複数の棒20を介して複数のチャック21を複数の被挟持部4a~4dにそれぞれ取り付ける(取付ステップ)。
【0043】
例えば具体的に取付ステップでは、まず、下側のチャック21のみをスライダ16に取り付けた状態で、隣り合うチャック21の上に棒20を架け渡し、棒20を引掛部22側に寄せる。次いで、この棒20が段差7に配置されるように、棒20の上に被挟持部4a~4dの薄板部5を載せる。最後に、薄板部5の上に棒20を載せて段差7に配置し、上側のチャック21をスライダ16に取り付ける。なお、この例示した方法以外で取付ステップを行っても良い。
【0044】
取付ステップ後は、アクチュエータ15を短縮させて、試験片2から離れる4方向D1~D4それぞれへスライド部11~14を移動させ、チャック21を各々の張出方向へ移動させる(予備引張ステップ)。これにより、棒20を介して引掛部22から段差7に張出方向の引張力が伝達され、複数の被挟持部4a~4dがそれぞれの張出方向へ引っ張られる。この引っ張りによって試験片2に予備引張荷重が付与され、複数の被挟持部4a~4dに引っ張られた本体部3が4方向D1~D4に引張変形する。なお、予備引張荷重の大きさは4方向D1~D4で同一に設定される。また、本体部3の引張変形に応じて、幅方向に並んだ複数の被挟持部4a~4dやスライダ16等の間隔も広がる。
【0045】
予備引張ステップは、試験片2に予備引張荷重を所定時間付与した後、アクチュエータ15を伸長させて、予備引張ステップ以前の状態に戻す。ゴム製の試験片2に分子鎖の絡まりがある場合、この予備引張ステップによって分子鎖の絡まりを取ることができる。これにより、分子鎖の絡まりによる二軸引張試験の測定結果(歪み-応力データ)への影響を抑制できる。
【0046】
予備引張ステップの後は、再びアクチュエータ15を短縮させて、試験片2を4方向D1~D4へそれぞれ引張変形させることにより、試験片2の二軸引張試験を行う(試験ステップ)。この試験ステップにおける試験片2の引張変形は、引張荷重の大きさが異なる点以外は予備引張ステップにおける試験片2の引張変形と同一である。
【0047】
二軸引張試験(歪み-応力データ)の評価方法には、既知の方法を用いる。その既知の方法としては例えば、試験片2の本体部3に予め複数の計測点を書き記し、試験片2の引張変形による計測点の間隔の変化を画像処理で計測する方法が挙げられる。この方法では、計測点の間隔の変化を歪みとし、引張荷重を応力として歪み-応力データを算出する。当然、これ以外の既知の方法で二軸引張試験の歪み-応力データを算出しても良い。また、試験片2に波打ちがある場合には、波打ちが除去されるまで試験片2を引張変形させた状態を無荷重状態として、歪み-応力データを算出する。
【0048】
従来の二軸引張試験では、被挟持部4a~4dの厚板部6をチャックで直接挟んで張出方向へ引っ張るだけであるため、被挟持部4a~4dに対してチャックが張出方向へ滑るおそれがある。この滑りが生じると、滑りが生じない場合に対して歪みが小さくなり、二軸引張試験の測定精度が低下してしまう。
【0049】
これに対し、本実施形態では、被挟持部4a~4dをチャック21で引っ張る二軸引張試験時に、チャック21の引掛部22が棒20を介して被挟持部4a~4dの段差7に引っ掛かるため、被挟持部4a~4dに対しチャック21を張出方向へ滑らせ難くできる。よって、その滑りに起因した二軸引張試験の測定精度の低下を抑制できる。
【0050】
また、チャック21の引掛部22を段差7に直接引っ掛ける場合と比べ、チャック21とは別部材の棒20を段差7と引掛部22との間に介することで、ポアソン効果などによって変形する被挟持部4a~4dに棒20(段差7に引っ掛かる部分)を追従させ易くできる。更に、棒20に対し薄板部5とは板厚方向の反対側に引掛部22が位置するため、棒20が板厚方向に移動して棒20が段差7から外れることを抑制できる。これらの結果、二軸引張試験時において、棒20を段差7に当てた状態を維持し易くでき、二軸引張試験の測定精度を向上できる。
【0051】
また、被挟持部4a~4dの段差7の幅方向の全長に亘って棒20が引っ掛かるので、棒20から段差7へ幅方向に均一な引張力が伝達される。これにより、被挟持部4a~4dの幅方向の一部が他部に対して引っ張られて変形することを抑制でき、その一部の変形に起因した二軸引張試験の測定精度の低下を抑制できる。
【0052】
更に、この棒20の幅方向の両端部にチャック21がそれぞれ引っ掛かるので、棒20の幅方向の一端に対して他端が傾くことを抑制できる。これにより、棒20から段差7へ伝達される引張力をより幅方向に均一化でき、二軸引張試験の測定精度を向上できる。
【0053】
チャック21の引掛部22のうち棒20に接触する面が、本体部3側へ向かうにつれて板厚方向の薄板部5側へ傾斜しているので、二軸引張試験で張出方向にチャック21を移動させたとき、引掛部22の傾斜によって押された棒20が薄板部5に押し付けられる。これにより、二軸引張試験時においてポアソン効果で被挟持部4a~4dが薄くなり、段差7が低くなっても、棒20を段差7に当てた状態を維持し易くでき、二軸引張試験の測定精度をより向上できる。
【0054】
チャック21の押付部23で厚板部6が直接挟まれているので、チャック21に対し被挟持部4a~4dの板厚方向の位置を安定化できる。特に、その板厚方向が上下方向である場合、重力によって被挟持部4a~4dが垂れ下がることを抑制できる。これにより、チャック21で棒20を介して被挟持部4a~4dの板厚方向の両面をそれぞれ引っ張るとき、その両面に作用する引張力がばらつくことを抑制でき、二軸引張試験の測定精度を向上できる。
【0055】
棒20で挟まれた被挟持部4a~4dの各々において、段差7及び棒20はそれぞれ幅方向と平行に形成されている。これにより、棒20に対して段差7が幅方向に滑り易いため、棒20と段差7との幅方向の引っ掛かりが被挟持部4a~4dの幅方向の変形を阻害することを抑制できる。その結果、被挟持部4a~4dの変形の阻害に起因した二軸引張試験の測定精度の低下を抑制できる。
【0056】
次に図3(a)及び図3(b)を参照して第2実施形態について説明する。第1実施形態に対し、第2実施形態では、チャック35,36の引掛部37が被挟持部4a~4dの板厚方向と平行に形成され、上下の引掛部37が連結された場合について説明する。なお、第1実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0057】
図3(a)は第2実施形態における二軸引張試験機30及び試験片2の部分拡大平面図である。図3(b)は図3(a)のIIIb-IIIb線における二軸引張試験機30及び試験片2の部分拡大断面図である。
【0058】
二軸引張試験機30は、第1実施形態における二軸引張試験機10に対し、スライダ16及びチャック21の各々を第2実施形態におけるスライダ31及びチャック35,36に変更したものである。図示しないが、複数のスライダ31及びチャック35,36の数や配置は、第1実施形態における複数のスライダ16及びチャック21の数や配置と同一である。
【0059】
図3(a)及び図3(b)には、本体部3の辺3bから第2方向D2(張出方向)へ張り出した1つの被挟持部4bと、その被挟持部4bを挟む2本の棒20の両端部にそれぞれ引っ掛けられる計4つのチャック35,36と、上下一対のチャック35,36がそれぞれ取り付けられる計2つのスライダ31とが図示されている。他の被挟持部4a~4dにも、棒20を介してチャック35,36及びスライダ31が取り付けられるが、それらの図示は省略されている。なお、図示しないチャック35,36及びスライダ31は、図示したチャック35,36及びスライダ31に対し、向き以外は同一に構成されている。
【0060】
スライダ31は、スライド部11~14(図1参照)それぞれから試験片2へ向かって垂直に突出する剛体材である。スライダ31のうち試験片2側の先端部32は、上下方向視においてスライダ31の突出方向(第1方向D1)に垂直な方向(第3方向D3及び第4方向D4)へ延びた直方体状に形成されている。
【0061】
先端部32の下面(図3(b)下側の面)は、第1軸X及び第2軸Yと平行な平坦面である。先端部32の上面(図3(b)上側の面)には、第2方向D2の縁から全長に亘って上方へ突出するストッパ33と、第1方向D1の縁のうち中央部を除いた部分から上方へ突出する一対のストッパ34と、が設けられている。
【0062】
チャック35,36は、棒20を介して試験片2の被挟持部4a~4dとスライダ31の先端部32とを連結する剛体材であり、押付部23を備える。チャック35の長手方向の一端部がスライダ31の上面にボルト24で固定され、チャック36の長手方向の一端部がスライダ31の下面にボルト24で固定される。
【0063】
チャック35,36の長手方向の他端部には、棒20の本体部3側(図3(b)の左側)に配置される引掛部37と、棒20に対し薄板部5とは反対側に配置される規制部38とがそれぞれ設けられる。
【0064】
第2実施形態でも第1実施形態と同様に、チャック35,36で被挟持部4a~4dを張出方向へ引っ張る二軸引張試験時には、チャック35,36の引掛部37が棒20を介して被挟持部4a~4dの段差7に引っ掛かる。これにより、被挟持部4a~4dに対しチャック35,36を張出方向へ滑らせ難くでき、その滑りに起因した二軸引張試験の測定精度の低下を抑制できる。
【0065】
更に、規制部38と薄板部5との間に棒20が配置され、薄板部5を挟んだ棒20が規制部38で軽く挟まれるため、棒20が板厚方向に移動して棒20が段差7から外れることを抑制できる。また、本実施形態では、引掛部37が被挟持部4a~4dの張出方向と垂直(板厚方向と平行)に形成され、規制部38が張出方向と平行に延びている。これにより、棒20をチャック35,36で張出方向へ引っ張るとき、引掛部37が棒20から受ける反力は板厚方向の成分が少なく、規制部38が棒20からの反力を受け難い。よって、その反力によってチャック35,36(規制部38)が板厚方向に広がることで、棒20から引掛部37が外れたり、段差7から棒20が外れたりすることを抑制できる。
【0066】
特に、上下一対のチャック35,36の引掛部37が連結されているので、棒20に対して引掛部37が張出方向に抜けることを防止できる。更に引掛部37が連結されることで、チャック35,36の規制部38が板厚方向に広がり難くなる。これにより、段差7から棒20をより外れ難くできる。
【0067】
チャック35は、上下方向視において、長手方向の一端部(ボルト24側)から幅方向の両側へ張出部35aがそれぞれ突出してT字状に形成される。この張出部35aがストッパ33,34の間に配置され、一対のストッパ34の間をチャック35が通る。これにより、スライダ31に対しボルト24を中心としたチャック35の回転がストッパ33,34によって規制される。
【0068】
チャック36には、スライダ31の先端部32の下面に取り付けられた状態で、先端部32の試験片2側の面に接触する段差36aが設けられている。これにより、スライダ31に対しボルト24を中心としたチャック36の回転が段差36aによって規制される。
【0069】
これらのチャック35,36の回転の規制により、板厚方向視において被挟持部4a~4dの張出方向とチャック35,36の長手方向とがずれるように、被挟持部4a~4dとチャック35,36との接触部分が回転して滑ることを抑制できる。よって、この滑りに起因して段差7から棒20が外れたり、棒20から引掛部37が外れたりすることを抑制できる。
【0070】
次に図4(a)及び図4(b)を参照して第3実施形態について説明する。第1実施形態に対し、第3実施形態では、棒54が角棒であり、棒54を位置決めするための突起44が薄板部5から突出し、段差7を延長するための延長部42が厚板部6から突出する場合について説明する。なお、第1実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0071】
図4(a)は第3実施形態における二軸引張試験機50及び試験片40の部分拡大断面図である。図4(b)は図4(a)に対し試験片60を薄くした場合における二軸引張試験機50及び試験片60の部分拡大断面図である。
【0072】
図4(a)に示すように、試験片40は、第1実施形態における試験片2に対し、被挟持部4a~4dの各々を第3実施形態における被挟持部41に変更したものである。図示しないが、複数の被挟持部41は、試験片40の本体部3の各辺3a~3d(図1参照)からそれぞれの張出方向へ張り出している。複数の被挟持部41の数や配置は、第1実施形態における被挟持部4a~4dの数や配置と同一である。
【0073】
二軸引張試験機50は、第1実施形態における二軸引張試験機10に対し、スライダ51及び棒20を第3実施形態におけるスライダ51及び棒54に変更したものである。図4(a)及び図4(b)には、図3(a)及び図3(b)と同様に、第2方向D2側の被挟持部41、スライダ51、チャック21及び棒54の一部のみが図示されている。
【0074】
被挟持部41は、本体部3(図4(a)の左側)から張出方向(図4(a)の右側)へ延びる薄板部5と、薄板部5から張出方向へ延びる厚板部6と、を備える。薄板部5よりも厚板部6の板厚が大きいことによって、被挟持部41の板厚方向の両面には、本体部3側を板厚方向に凹ませた段差7が形成されている。
【0075】
厚板部6の板厚方向の両面からは延長部42が板厚方向にそれぞれ突出する。延長部42は、厚板部6のうち、チャック21の押付部23で挟まれる位置よりも薄板部5側であって、その薄板部5側の端縁部から突出している。この延長部42によって段差7が板厚方向に延長されている。
【0076】
薄板部5の板厚方向の両面からは突起44が板厚方向にそれぞれ突出する。突起44は、段差7から所定距離離れた位置に設けられる。幅方向に並んだ被挟持部41の間にチャック21が配置されているため、幅方向視においてチャック21と重なる位置でも延長部42や突起44を設けることできる。
【0077】
スライダ51は、スライド部11~14(図1参照)それぞれから試験片40へ向かって垂直に突出する剛体材である。スライダ51のうち試験片40側の先端部から試験片40側へ調整部52が突出している。調整部52の上面は、スライダ51の先端部の上面と面一に形成される。一方、調整部52の下面は、スライダ51の先端部の下面に対し段差状に凹んでいる。スライダ51の先端部と調整部52とには、それぞれボルト24を取り付け可能なボルト孔51a,52aが上下方向に貫通形成されている。上下一対のチャック21は、ボルト孔51aに取り付けたボルト24によってスライダ51に固定される。
【0078】
棒54は、被挟持部41の段差7に配置されて薄板部5を板厚方向に挟む2本で一対の部材である。棒54は、チャック21の引掛部22と段差7との間、及び、引掛部22と薄板部5との間にそれぞれ配置される。
【0079】
第3実施形態でも第1実施形態と同様に、被挟持部41をチャック21で張出方向へ引っ張る二軸引張試験時には、チャック21の引掛部22が棒54を介して被挟持部41の段差7に引っ掛かる。これにより、被挟持部41に対しチャック21を張出方向へ滑らせ難くでき、その滑りに起因した二軸引張試験の測定精度の低下を抑制できる。
【0080】
棒54は、略四角棒であり、それぞれの角が面取りされている。特に、棒54のうち引掛部22に接触する部分の角は、その引掛部22と面接触するように大きく面取りされている。これにより、二軸引張試験で張出方向にチャック21を移動させたとき、引掛部22の傾斜によって棒54を薄板部5に押し付け易くできる。これにより、二軸引張試験時においてポアソン効果で被挟持部41が薄くなり、段差7が低くなっても、棒54を段差7に当てた状態を維持し易くでき、二軸引張試験の測定精度をより向上できる。
【0081】
また、棒54のうち、段差7と薄板部5の板厚方向の両面との隅に対向する部分の角は、引掛部22側以外の他の角に比べて大きく面取りされている。この段差7と薄板部5との隅は、被挟持部41の引張変形時に本体部3側へ変形し易く、棒54の角に接触し易い。よって、その棒54の角を大きく面取りすることで、その変形した隅に棒54の角が食い込むことを抑制でき、その食い込みに起因した被挟持部41の耐久性の低下を抑制できる。
【0082】
棒54が略四角棒であるため、二軸引張試験時に、棒54と段差7との受圧面積を確保し易い。これにより、段差7に対して棒54を板厚方向に滑らせ難くでき、その滑りに起因した測定精度の低下を抑制できる。更に、延長部42によって段差7が板厚方向に延長されているので、棒54と段差7との受圧面積をより確保し易くできる。その結果、段差7に対して棒54をより滑らせ難くでき、その滑りに起因した測定精度の低下をより抑制できる。
【0083】
また、延長部42によって段差7は、チャック21の引掛部22(規制部)の薄板部5側の面よりも板厚方向の外側へ延長されている。これにより、薄板部5と引掛部22との間で棒54が板厚方向に移動しても、段差7に棒54を当てた状態を維持し易くでき、二軸引張試験の測定精度を向上できる。
【0084】
二軸引張試験機50を被挟持部41に取り付ける取付ステップでは、突起44と段差7との間に棒54を配置して、被挟持部41に対し棒54を張出方向に位置決めしてから、棒54の本体部3側に引掛部22を位置させることができる。棒54の張出方向の寸法と、突起44から段差7までの張出方向の距離とが略同一であるため、チャック21で棒54が引っ張られていなくても段差7に棒54を接触させ易くできる。これにより、二軸引張試験の初期段階で、引掛部22と棒54と段差7とが互いに接触して引張力が伝達するようになるまでのタイミングを、本体部3の各辺3a~3dのそれぞれでばらつき難くできる。よって、そのタイミングのばらつきに起因した二軸引張試験の測定精度の低下を抑制できる。
【0085】
二軸引張試験機50では、図4(a)における下側のチャック21を、図4(b)におけるチャック56に代えることで、試験片40に対して異なる板厚の試験片60を挟むことができる。具体的に試験片60は、試験片40に対し、本体部3、薄板部5及び厚板部6の板厚がいずれも薄く構成されている。また、試験片60には、試験片40の延長部42及び突起44が設けられていない。
【0086】
チャック56は、チャック21に対し長手方向の一端部側(スライダ51側)の一部を省略して短くしたものであり、寸法以外はチャック21と同一に構成されている。チャック56の長手方向の一端部は、スライダ51のうち段差状に凹んだ調整部52の下面に、ボルト孔52aに取り付けたボルト24によって固定される。このとき、上側のチャック21の引掛部22と下側のチャック56の引掛部22とが張出方向の同じ位置に設定されるよう、チャック21,56の長さが調整されている。
【0087】
この上下一対のチャック21,56の引掛部22を、段差7に配置した棒54に引っ掛けることで、試験片60の被挟持部61がチャック21,56に取り付けられる。このように、スライダ51の下面へのチャック21,56の取付位置を変え、その取付位置に合わせた長さのチャック21,56を用いることで、試験片40,60が挟まれる一対のチャック21,56の間隔を容易に調整できる。これにより、二軸引張試験が可能な試験片40,60の厚さの自由度を向上できる。
【0088】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、チャック21,35,36,56をボルト24でスライダ16,31,51に着脱可能に取り付ける場合に限らず、その取付方法を適宜変更しても良い。
【0089】
上記実施形態では、別々のアクチュエータ15で試験片2,40,60を4方向D1~D4へそれぞれ引っ張る場合について説明したが、既知の別の機構を用いて試験片2,40,60を4方向D1~D4へそれぞれ引っ張っても良い。この機構としては例えば以下のものが挙げられる。板厚方向視において、一対のスライド部11,12それぞれから互いに向かってハの字に45°の傾斜で広がる計4本のシャフトを設ける。この各シャフトに、一対のスライド部13,14の両端をそれぞれスライド可能に固定する。これにより、1つのアクチュエータ15で一対のスライド部11,12の間隔を広げるだけで、シャフト上をスライドする一対のスライド部13,14の間隔も広がり、試験片2を4方向D1~D4へ引っ張ることができる。また、アクチュエータ15は、エアシリンダである場合に限らず、油圧式や電気式のものとしても良い。
【0090】
上記実施形態では、スライド部11~14にそれぞれ6つのスライダ16,31,51がスライド可能に固定される場合について説明したが、スライダ16,31,51の数は適宜変更しても良い。更に、この1つのスライダ16,31,51ごとに上下一対のチャック21,35,36,56を設ければ良い。また、試験片2,40,60の4方向D1~D4にそれぞれ2つずつスライダ16,31,51を設けても良い。この場合、スライド部11~14を省略し、スライダ16,31,51をアクチュエータ15に取り付けても良い。
【0091】
上記実施形態では、段差7ごとに1本の棒20,54が配置され、幅方向に隣り合う被挟持部4a~4d,41,61間に棒20,54が架け渡されない場合について説明したが、これに限らない。例えば、幅方向に隣り合う被挟持部4a~4d,41,61間に棒20,54を架け渡し、上下一対の棒20,54で複数の被挟持部4a~4d,41,61を張出方向に引っ張っても良い。但し、この場合には、棒20,54と段差7との摩擦を低下させるため、それらの間にグリスやパウダを設けることが好ましい。これにより、棒20,54と段差7との摩擦に起因し、試験片2,40,60の4方向D1~D4への引張変形に応じて複数の被挟持部4a~4d,41,61(厚板部6)の間隔が広がり難くなることを抑制できる。但し、棒20,54と段差7との摩擦が低下すると、段差7に対し板厚方向にも棒20,54が滑り易くなってしまい、段差7から棒20,54が外れるおそれがある。
【0092】
これに対し、段差7ごとに1本の棒20,54を配置することで、グリスやパウダが無くても、複数の被挟持部4a~4d,41,61(厚板部6)の間隔が広がり難くなることを抑制できる。また、グリスやパウダが無いことによって、段差7に対し板厚方向にも棒20,54が滑り易くなることを抑制できるので、段差7から棒20,54を外れ難くできる。
【0093】
上記実施形態では、本体部3の各辺3a~3dにそれぞれ設けられる複数の被挟持部4a~4d,41,61が幅方向に間隔を空けて並ぶ場合について説明したが、これに限らない。例えば、複数の厚板部6のみを幅方向に間隔を空けて並べて、薄板部5を幅方向に連続させても良い。更にこの場合、複数の厚板部6の間を薄板部5で連結しても良い。試験片2,40,60はゴムに限らず、熱可塑性エラストマや比較的柔らかい樹脂などの他の弾性体で試験片2,40,60を形成しても良い。また、被挟持部4a~4d,41,61が幅方向に間隔を空けて並ぶか否かに関わらず、板厚方向視において、チャック21,35,36,56のうち押圧部23以外の部位を被挟持部4a~4dと重ねても良い。
【0094】
上記第2実施形態では、スライダ31に対してチャック35,36の回転を規制する構成が上下で異なる場合について説明したが、この回転を規制する構成を上下で同一にしても良い。また、この回転を規制する構成を第1実施形態や第3実施形態に適用しても良い。更に、複数のボルト24でチャック21,35,36,56をスライダ16,31,51にそれぞれ取り付けることで、スライダ16,31,51に対するチャック21,35,36,56の回転を規制しても良い。
【0095】
上記実施形態の構成を他の実施形態に適用しても良い。例えば、第3実施形態における延長部42や突起44を第1,2実施形態における被挟持部4a~4dに適用しても良い。また、第2実施形態のように、第1,3実施形態における上下一対のチャック21,56の引掛部22を連結しても良い。また、第2実施形態の上下の引掛部37を切り離しても良い。
【符号の説明】
【0096】
2,40,60 試験片
3 本体部
3a~3d 辺(四辺)
4a~4d,41,61 被挟持部
5 薄板部
6 厚板部
7 段差
10,30,50 二軸引張試験機
15 アクチュエータ
20,54 棒
21,35,36,56 チャック
22 引掛部(規制部)
23 押付部
37 引掛部
38 規制部
44 突起

図1
図2
図3
図4