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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024076714
(43)【公開日】2024-06-06
(54)【発明の名称】圧縮機及びその組立方法
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/12 20060101AFI20240530BHJP
   F04B 39/00 20060101ALI20240530BHJP
   F04C 18/02 20060101ALI20240530BHJP
   F04C 29/00 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
F04B39/12 101E
F04B39/12 101H
F04B39/00 103R
F04C18/02 311B
F04C29/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188402
(22)【出願日】2022-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】石飛 政和
(72)【発明者】
【氏名】宮本 善彰
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一樹
(72)【発明者】
【氏名】後藤 秀作
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 隆史
【テーマコード(参考)】
3H003
3H039
3H129
【Fターム(参考)】
3H003AA05
3H003AB03
3H003AB04
3H003AC03
3H003CA02
3H003CD02
3H003CD06
3H003CE02
3H003CE05
3H039AA03
3H039AA12
3H039BB08
3H039CC09
3H039CC12
3H039CC28
3H039CC33
3H129AA02
3H129AA04
3H129AA13
3H129AA14
3H129AA18
3H129AB03
3H129BB32
3H129BB33
3H129CC02
3H129CC09
3H129CC14
3H129CC17
3H129CC24
(57)【要約】
【課題】ハウジングに対して溶接固定されるボス部を用いた場合であっても、圧縮部の軸心を変位させるおそれがない圧縮機を提供する。
【解決手段】ハウジング11と、ハウジング11内に収容された下部軸受32と、下部軸受32に取り付けられたロータリ圧縮機構を駆動する回転軸と、ハウジング11の外部の配管と下部軸受32との間で流体を流通可能に接続する吸入ボス36と、吸入ボス36をハウジング11に対して溶接して固定する溶接固定部37と、を備え、吸入ボス36は、下部軸受32の接続部32cに対して挿入されて圧入状態で接続された先端部36aを有し、吸入ボス36の先端部36aと下部軸受32の接続部32cとは、挿入方向に相対移動可能とされている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジング内に収容された圧縮部と、
前記圧縮部を駆動する回転軸部と、
前記ハウジングの外部の配管と前記圧縮部との間で流体を流通可能に接続するボス部と、
前記ボス部を前記ハウジングに対して溶接して固定する溶接固定部と、
を備え、
前記ボス部は、前記圧縮部の接続部に対して挿入されて圧入状態で接続された先端部を有し、
前記ボス部の先端部と前記圧縮部の接続部とは、挿入方向に相対移動可能とされている圧縮機。
【請求項2】
前記圧縮部の接続部には、挿入方向に対して交差する第1面が設けられ、
前記ボス部には、前記第1面に対して挿入方向において対向するとともに、該ボス部と前記圧縮部との挿入方向における相対移動を規制する第2面が設けられ、
前記第1面と前記第2面との間には、所定の隙間が形成されている請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記圧縮部の接続部は、前記回転軸部を支持する軸受に設けられている請求項1に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記ハウジングは、前記溶接固定部の周囲の外周面に、平面部を備えている請求項1に記載の圧縮機。
【請求項5】
ハウジングと、
前記ハウジング内に収容された圧縮部と、
前記圧縮部を駆動する回転軸部と、
前記ハウジングの外部の配管と前記圧縮部との間で流体を流通可能に接続するボス部と、
前記ボス部を前記ハウジングに対して溶接して固定する溶接固定部と、
を備えた圧縮機の組立方法であって、
前記ボス部は、前記圧縮部の接続部に対して挿入されて圧入状態で接続された先端部を有し、
前記ボス部の先端部を、前記圧縮部の接続部に対して、挿入方向に相対移動可能に接続する圧縮機の組立方法。
【請求項6】
前記圧縮部の接続部には、挿入方向に対して交差する第1面が設けられ、
前記ボス部には、前記第1面に対して挿入方向において対向するとともに、該ボス部と前記圧縮部との挿入方向における相対移動を妨げる第2面が設けられ、
前記第1面と前記第2面との間には、所定の隙間が形成されるように、前記ボス部を前記ハウジングに対して溶接して固定する請求項5に記載の圧縮機の組立方法。
【請求項7】
前記第1面と前記第2面との間にシムを挿入して隙間を設定し、
前記シムを取り外した後に、所定の隙間が形成されるように、前記ボス部を前記ハウジングに対して溶接して固定する請求項6に記載の圧縮機の組立方法。
【請求項8】
前記ハウジングは、前記溶接固定部の周囲の外周面に、平面部を備え、
前記平面部と前記ボス部の基準位置との距離を計測する計測工程を有している請求項5に記載の圧縮機の組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧縮機及びその組立方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハウジングの内部に、ロータリ圧縮機構のような冷媒を圧縮する圧縮部が設けられた圧縮機が知られている(特許文献1参照)。このような圧縮機は、ハウジングの外部の冷媒配管と接続され、ハウジング内の圧縮機構へ冷媒を導くための吸入ボスを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-261336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
吸入ボスは、ハウジングに対して溶接によって固定させる。このとき、溶接時に生じる熱変形によって吸入ボスが圧縮部を押し出して変位させてしまうおそれがある。圧縮部は回転軸部によって駆動されるので、圧縮部の軸心位置がずれると回転軸部の軸心と一致せず、圧縮機の性能を損なうことになる。
【0005】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、ハウジングに対して溶接固定されるボス部を用いた場合であっても、圧縮部の軸心を変位させるおそれがない圧縮機及びその組立方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る圧縮機は、ハウジングと、前記ハウジング内に収容された圧縮部と、前記圧縮部を駆動する回転軸部と、前記ハウジングの外部の配管と前記圧縮部との間で流体を流通可能に接続するボス部と、前記ボス部を前記ハウジングに対して溶接して固定する溶接固定部と、を備え、前記ボス部は、前記圧縮部の接続部に対して挿入されて圧入状態で接続された先端部を有し、前記ボス部の先端部と前記圧縮部の接続部とは、挿入方向に相対移動可能とされている。
【0007】
本開示の一態様に係る圧縮機の組立方法は、ハウジングと、前記ハウジング内に収容された圧縮部と、前記圧縮部を駆動する回転軸部と、前記ハウジングの外部の配管と前記圧縮部との間で流体を流通可能に接続するボス部と、前記ボス部を前記ハウジングに対して溶接して固定する溶接固定部と、を備えた圧縮機の組立方法であって、前記ボス部は、前記圧縮部の接続部に対して挿入されて圧入状態で接続された先端部を有し、前記ボス部の先端部を、前記圧縮部の接続部に対して、挿入方向に相対移動可能に接続する。
【発明の効果】
【0008】
ハウジングに対して溶接固定されるボス部を用いた場合であっても、ボス部と圧縮部とが相対変位するので、圧縮部の軸心を変位させるおそれがない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の一実施形態に係る圧縮機を示した縦断面図である。
図2図1の切断線A-Aにおいて下部軸受を見た横断面図である。
図3図2の部分拡大横断面図である。
図4図3に対応し、比較例を示した部分拡大横断面図である。
図5図2に対応し、本開示の一実施形態の変形例を示した横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本開示に係る実施形態について、図面を参照して説明する。
図1に示すように、圧縮機1は、空調機に用いられ、例えば二酸化炭素等のガスである冷媒Rを二段圧縮する。圧縮機1は、脚部3を介して設置面FLに対して固定されている。圧縮機1はハウジング11と、ハウジング11の内部に設けられたロータリ圧縮機構(圧縮部)12と、スクロール圧縮機構13と、電動モータ14と、回転軸(回転軸部)15とを備えている。
【0011】
ハウジング11は、円筒状をなす本体部21と、本体部21の上下の開口を閉塞する上部蓋部22及び下部蓋部23とを備えている。そしてハウジング11の内部は密閉空間を形成している。
【0012】
回転軸15は、ハウジング11の内部で軸線Xに沿って上下に延在して設けられている。回転軸15の上端(一端)側は、上部軸受31によって回転可能に支持されている。回転軸15の下端(他端)側は、下部軸受32によって回転可能に支持されている。下部軸受32は、ロータリ圧縮機構12と一体的に組み立てられており、ロータリ圧縮機構12とともにロータリ圧縮部(圧縮部)を構成している。
【0013】
電動モータ14は、回転軸15の長手方向における中央でかつ回転軸15の外周側に配置され、回転軸15を軸線X回りに回転させる。電動モータ14は、回転軸15の外周面に固定されたロータ38と、ロータ38の外周面と隙間を空けてロータ38と径方向に対向し、ハウジング11の本体部21の内壁に焼嵌め等によって固定されたステータ39とを有している。
【0014】
ロータ38には、周方向に所定間隔で設けられたロータ通路38aが設けられている。各ロータ通路38aは、上下方向(軸線X方向)にロータ38を貫通している。これらロータ通路38aを介して、ロータリ圧縮機構12から吐出された冷媒が上方へ流れる。ロータ38の上部には、油分離プレート(邪魔板)38bが固定されている。油分離プレート38bは、円板形状とされており水平方向に延在するように配置されている。油分離プレート38bは、ロータ38とともに軸線X回りに回転する。
【0015】
ステータ39の外周には、周方向に所定角度間隔で複数のステータ通路39aが形成されている。
図1に示すように、ステータ39の上部には巻線が折り返された上側コイルエンド39bが位置し、ステータ39の下部には巻線が折り返された下側コイルエンド39cが位置している。電動モータ14は、不図示のインバータを介して電源に接続されており、回転軸15を周波数可変として回転させる。
【0016】
ロータリ圧縮機構12は、ハウジング11の内部で、回転軸15の下端(他端)側に設けられている。ロータリ圧縮機構12は、本実施形態では2気筒とされており、回転軸15に設けられた偏心軸部41と、偏心軸部41に固定され、回転軸15の回転に伴って軸線Xに対して偏心して圧縮室C1内で回転するロータ42と、圧縮室C1が形成されたシリンダ44とを備えている。
【0017】
シリンダ44に形成された圧縮室C1には、吸入管33から吸入ボス(ボス部)36を介して冷媒Rが供給されるようになっている。圧縮室C1にて圧縮された冷媒は、下部軸受32を介してロータリ吐出管43からハウジング11内の電動モータ14の下方の領域に吐出される。吸入ボス36周りの構成については、後に説明する。
【0018】
シリンダ44は、下部軸受32に対してボルト48によって下方から固定されている。シリンダ44の下方には、シリンダ44とともにボルト48によって固定された油ポンプ49が設けられている。油ポンプ49によって、ハウジング11の下部の油溜まりO1から油が吸い込まれ、回転軸15の軸線Xに沿って貫通された油供給穴15aを通過して上部軸受31側へと導かれる。
【0019】
スクロール圧縮機構13は、ハウジング11の内部で電動モータ14の上方に配置されている。スクロール圧縮機構13は、上部軸受31に固定された固定スクロール51と、固定スクロール51の下方で固定スクロール51に対向して配置された旋回スクロール57とを備えている。
【0020】
固定スクロール51は、上部軸受31の上面に固定された端板52と、端板52から下方に突出する固定ラップ53とを有している。端板52の中央部(軸線X近傍)には、上下に貫通する吐出孔52aが形成されている。
【0021】
旋回スクロール57は、上部軸受31と固定スクロール51との間に挟まれるようにして配置されている。旋回スクロール57は、回転軸15の上端側に接続された端板58と、端板58から上方に突出する旋回ラップ59とを有している。
【0022】
端板58は、回転軸15の上端に設けられた偏心軸部56に対してドライブブッシュ55を介して連結されており、回転軸15の回転に伴って軸線Xに対して偏心して旋回運動する。
【0023】
旋回ラップ59は、固定ラップ53と噛み合うことで固定ラップ53との間に冷媒Rを圧縮する圧縮室C2を形成している。
【0024】
上部軸受31の中央側の凹所と旋回スクロール57の下方との間には、バランスウェイト室63が形成されている。バランスウェイト室63内では、回転軸15とともにバランスウェイト54が回転する。
【0025】
ロータリ圧縮機構12で圧縮されてハウジング11内に吐出された冷媒Rは、スクロール圧縮機構13の外周側から圧縮室C2内に吸い込まれて、中心側に向かって圧縮される。圧縮された冷媒Rは、固定スクロール51の吐出孔5232aを介して、吐出管34からハウジング11の外部へ吐出される。
【0026】
上部軸受31の下方には、上部軸受31を覆うようにカバー45が設けられている。カバー45は、板金加工されて成形されており、下方から上方に向かって拡径された略円錐形状とされている。カバー45の外周側における上端は、ボルト等によって上部軸受31に対して固定されている。
【0027】
カバー45の下端には吸入開口45aが設けられている。すなわち、吸入開口45aは、下方を向いており、カバー45と回転軸15との間に形成された円環状の領域である。カバー45によってハウジング11の下方の空間と上部軸受31側の空間とが仕切られており、吸入開口45aから吸い込まれた冷媒がスクロール圧縮機構13に導かれるようになっている。
【0028】
ハウジング11の外部でかつ下方には、オイルレベルタンク60が設けられている。オイルレベルタンク60は、中空の容器とされ下部配管61と上部の均圧管62を介してハウジング11内と連通している。オイルレベルタンク60は、ハウジング11内の油溜まりO1から下部配管61を介して油を導くことによって、油溜まりO1の油面高さを計測するものである。
【0029】
ハウジング11の下方側部には、オイルセパレータ返油管65の下流端が接続されている。オイルセパレータ返油管65の上流端は、図示しないオイルセパレータに接続されている。オイルセパレータにて圧縮機1から吐出された冷媒から分離した油が、オイルセパレータ返油管65を介してハウジング11内の油溜まりO1へと戻される。オイルセパレータ返油管65の下流端がハウジング11に接続される高さ位置は、下部軸受32の下方とされている。
【0030】
ハウジング11内には、ハウジング11の内壁に接触しつつ上下方向に延在する油戻し管67が設けられている。油戻し管67は、上端(一端)が上部軸受31に固定され、下端(他端)がハウジング11の下部の油溜まりO1に位置するように設けられている。
【0031】
<吸入ボス36周りの構成>
以下に、吸入ボス36周りの構成について説明する。
図2には、下部軸受32を見た横断面が示されている。下部軸受32は、中央の円筒部32aと、円筒部32aから半径方向に延びた3つの腕部32bとを備えている。各腕部32bは、周方向に等角度間隔で120°の角度を有して配置されている。各腕部32bの先端は、栓溶接(プラグ溶接)が行われた栓溶接部35によってハウジング11の内面に対して固定されている。
【0032】
下部軸受32は、円筒部32aから半径方向に突出する1つの接続部32cを備えている。接続部32cは、例えば円筒形とされた筒形状とされており、冷媒Rの流路を形成する。接続部32cに対して吸入ボス(ボス部)36が接続されている。なお、符号32eは、冷媒Rをシリンダ44(図1参照)へ導く冷媒導入穴である。
【0033】
図3に示すように、吸入ボス36は、同図において左から順に、先端部36aと、先端部36aよりも大径とされた中間部36bと、中間部36bよりも大径とされた本体部36cとを備えている。吸入ボス36は、例えば円筒形とされており、切削加工によって一体的に形成されている。吸入ボス36の本体部36cの後端には、ハウジング11の外部の配管である吸入管33が接続されている(図1参照)。
【0034】
吸入ボス36の先端部36aは、下部軸受32の接続部32cに対して圧入されている。すなわち、先端部36aの外周面と接続部32cの内周面とが嵌め合わされており、気密状態とされている。ただし、先端部36aの外周面と接続部32cの内周面とは摺動しながら相対移動可能となっている。
【0035】
接続部32cの吸入ボス36側の先端には、挿入方向に対して交差する第1面32dが設けられている。ここで、挿入方向とは、接続部32cに対して吸入ボス36を挿入する方向を意味し、図3において軸線X1方向を意味する。
【0036】
吸入ボス36には、第1面32dに対して挿入方向において対向する第2面36dが設けられている。第2面36dは、先端部36aと中間部36bとの間の段差に形成されている。第2面36dは、第1面32dに対して挿入方向における相対移動を規制する位置に設けられている。しかし、本実施形態では、第1面32dと第2面36dとの間に隙間t1が形成されている。この隙間t1によって、吸入ボス36と接続部32c(すなわち下部軸受32)との挿入方向における相対移動が許容されている。隙間t1の寸法としては、例えば、0.1mm以上2.0mm以下である。
【0037】
吸入ボス36の本体部36cは、ハウジング11に対して溶接によって固定されており、これにより、ハウジング11との間には溶接固定部37が形成されている。溶接固定部37は、本体部36cの全周にわたって連続的に形成されている。
【0038】
上述した構成の圧縮機1は、以下のように動作する。
図示しない蒸発器で蒸発した冷媒が吸入管33から吸入ボス36を介して圧縮機1内に吸い込まれ、ロータリ圧縮機構12で圧縮される。ロータリ圧縮機構12で圧縮された冷媒は、ロータリ吐出管43からハウジング11の内部に吐出される。
ハウジング11内に吐出された冷媒は、カバー45の吸入開口45aから吸い込まれ、カバー45内の流路を通りスクロール圧縮機構13へと導かれて圧縮される。スクロール圧縮機構13で圧縮された冷媒は、固定スクロール51の吐出孔52aを通り吐出管34から外部のガスクーラ又は凝縮器へと吐出される。
【0039】
<吸入ボス36の組立工程>
吸入ボス36は、以下のように組み立てられる。
ボルト48によって組み立てられたシリンダ44及び下部軸受32を含むロータリ圧縮部とされた組立体を、ハウジング11内に挿入し、下部軸受32の各腕部32bの先端に栓溶接を行うことによって(図3の栓溶接部35参照)、シリンダ44及び下部軸受32の組立体をハウジング11に対して固定する。
そして、ハウジング11の外側から吸入ボス36を挿入し、吸入ボス36の先端部36aを下部軸受32の接続部32cに圧入する。このとき、接続部32cの第1面32dと吸入ボス36の第2面36dとの間には隙間が形成されている。
次に、ハウジング11の外部から吸入ボス36の本体部36cの周囲に沿って溶接を行い、吸入ボス36をハウジング11に対して固定する。これにより、本体部36cの外周とハウジング11との間に溶接固定部37が形成させる。
【0040】
以上説明した本実施形態の作用効果は以下の通りである。
ハウジング11に対して吸入ボス36を固定するために溶接が用いられる。溶接によって熱変形が生じ、吸入ボス36が下部軸受32及びシリンダ44を押し出して下部軸受32及びシリンダ44の軸心位置を所望位置から変位させてしまうおそれがある。
具体的には、図4に示すように、溶接時の熱変形によって矢印A1方向に変形が生じ、仮に隙間t1がゼロの場合には、下部軸受32及びシリンダ44を矢印A2の方向に押し出してしまう。一般に、溶接前に吸入ボス36を下部軸受32の接続部32cに圧入する際には、挿入方向(X1方向)の位置決めが容易になるので、第1面32dと第2面36dとを当接させて隙間t1をゼロとした上で溶接を行う。そうすると、上述のように下部軸受32及びシリンダ44を矢印A2の方向に押し出してしまい、回転軸15の軸心からずれてしまい好ましくない。
そこで、吸入ボス36の先端部36aと下部軸受32の接続部32cとの間で挿入方向に相対移動可能とすることとした。これにより、吸入ボス36をハウジング11に対して溶接固定した際に熱変形が生じたとしても、吸入ボス36と下部軸受32及びシリンダ44との間の相対移動によって熱変形が吸収されることになり、吸入ボス36によって下部軸受32及びシリンダ44の位置が変位されることを可及的に回避することができる。
なお、吸入ボス36は下部軸受32の接続部32cに対して圧入状態で挿入されているので、冷媒Rが漏洩することを可及的に回避した状態で挿入方向に相対移動可能となっている。
【0041】
下部軸受32の接続部32cに設けた第1面32dと吸入ボス36に設けた第2面36dとの間に隙間t1を設けることによって、吸入ボス36と下部軸受32との挿入方向における相対移動が規制されることがない。
吸入ボス36をハウジング11に対して溶接固定した後に隙間t1を管理することによって、溶接時の熱変形によって下部軸受32及びシリンダ44が吸入ボス36によって変位されていないことが確認でき、簡便に品質管理を行うことができる。
【0042】
<変形例>
本実施形態は、以下のように変形することができる。
図5に示すように、ハウジング11の外周面に対して、溶接固定部37の周囲の領域に、平面部11aを設けても良い。このように円筒形とされたハウジング11の外周面の一部に平面部11aを設けることによって、曲面部に比べて再現性良く寸法計測時の基準とすることができる。例えば、平面部11aと吸入ボス36の本体部36cの後端(基準位置)との間の距離D1を計測し(計測工程)、溶接時の管理位置とすることができる。これにより、吸入ボス36の挿入方向における取付位置を容易に管理することができ、所望の隙間t1を得ることができる。
【0043】
また、溶接前に、第1面32dと第2面36dとの間に所定厚さのシムを挿入し、吸入ボス36の位置決めをした後にシムを取り外し、溶接を行うこととしても良い。
【0044】
なお、上述した実施形態では、ロータリ圧縮機構12に設けた吸入ボス36の取付構造について説明したが、本開示は圧縮形式がロータリ式に限定されるものではなく、一般に流体をハウジング内の圧縮部との間で流通させるボス部であれば適用できるものである。
【0045】
以上説明した各実施形態に記載の圧縮機及びその組立方法は、例えば以下のように把握される。
【0046】
本開示の第1態様に係る圧縮機(1)は、ハウジング(11)と、前記ハウジング内に収容された圧縮部(32,12)と、前記圧縮部を駆動する回転軸部(15)と、前記ハウジングの外部の配管(33)と前記圧縮部との間で流体を流通可能に接続するボス部(36)と、前記ボス部を前記ハウジングに対して溶接して固定する溶接固定部(37)と、を備え、前記ボス部は、前記圧縮部の接続部に対して挿入されて圧入状態で接続された先端部(36a)を有し、前記ボス部の先端部と前記圧縮部の接続部(32c)とは、挿入方向に相対移動可能とされている。
【0047】
ハウジングに対してボス部を固定するために溶接が用いられる。溶接によって熱変形が生じ、ボス部が圧縮部を押し出して圧縮部の軸心位置を所望位置から変位させてしまうおそれがある。圧縮部は回転軸部によって駆動されるので、圧縮部の軸心位置がずれると回転軸部の軸心と一致せず好ましくない。そこで、ボス部の先端部と圧縮部の接続部との間で挿入方向に相対移動可能とすることとした。これにより、ボス部をハウジングに対して溶接固定した際に熱変形が生じたとしても、ボス部と圧縮部との間の相対移動によって熱変形が吸収されることになり、ボス部によって圧縮部の位置が変位されることを可及的に回避することができる。
なお、ボス部は圧縮部に対して圧入状態で挿入されているので、流体が漏洩することを可及的に回避した状態で挿入方向に相対移動可能となっている。
ボス部が圧縮部に対して圧入状態で相対移動可能となっているので、圧縮機の振動を減衰することもできる。
【0048】
本開示の第2態様に係る圧縮機は、前記第1態様において、前記圧縮部の接続部には、挿入方向に対して交差する第1面(32d)が設けられ、前記ボス部には、前記第1面に対して挿入方向において対向するとともに、該ボス部と前記圧縮部との挿入方向における相対移動を規制する第2面(36d)が設けられ、前記第1面と前記第2面との間には、所定の隙間(t1)が形成されている。
【0049】
圧縮部に設けた第1面とボス部に設けた第2面との間に隙間を設けることによって、圧縮部とボス部との挿入方向における相対移動が規制されることがない。
ボス部をハウジングに対して溶接固定した後に隙間を管理することによって、溶接時の熱変形によって圧縮部がボス部によって変位されていないことが確認でき、簡便に品質管理を行うことができる。
隙間の寸法としては、例えば、0.1mm以上2.0mm以下である。
【0050】
本開示の第3態様に係る圧縮機は、前記第1態様又は前記第2態様において、前記圧縮部の接続部は、前記回転軸部を支持する軸受(32)に設けられている。
【0051】
回転軸部を支持する軸受に接続部が設けられている場合であっても、溶接固定時にボス部が変位したとしても、軸受の軸心がずれることを回避することができる。
【0052】
本開示の第4態様に係る圧縮機は、前記第1態様から前記第3態様のいずれかにおいて、前記ハウジングは、前記溶接固定部の周囲の外周面に、平面部(11a)を備えている。
【0053】
ハウジングの外周面でかつ溶接固定部の周囲に平面部を設けることとした。平面部とすることによって、曲面部に比べて再現性良く寸法計測時の基準とすることができる。これにより、ボス部の挿入方向における取付位置を容易に管理することができる。
【0054】
本開示の第5態様に係る圧縮機の組立方法は、ハウジングと、前記ハウジング内に収容された圧縮部と、前記圧縮部を駆動する回転軸部と、前記ハウジングの外部の配管と前記圧縮部との間で流体を流通可能に接続するボス部と、前記ボス部を前記ハウジングに対して溶接して固定する溶接固定部と、を備えた圧縮機の組立方法であって、前記ボス部は、前記圧縮部の接続部に対して挿入されて圧入状態で接続された先端部を有し、前記ボス部の先端部を、前記圧縮部の接続部に対して、挿入方向に相対移動可能に接続する。
【0055】
本開示の第6態様に係る圧縮機の組立方法は、前記第5態様において、前記圧縮部の接続部には、挿入方向に対して交差する第1面が設けられ、前記ボス部には、前記第1面に対して挿入方向において対向するとともに、該ボス部と前記圧縮部との挿入方向における相対移動を妨げる第2面が設けられ、前記第1面と前記第2面との間には、所定の隙間が形成されるように、前記ボス部を前記ハウジングに対して溶接して固定する。
【0056】
本開示の第7態様に係る圧縮機の組立方法は、前記第6態様において、前記第1面と前記第2面との間にシムを挿入して隙間を設定し、前記シムを取り外した後に、所定の隙間が形成されるように、前記ボス部を前記ハウジングに対して溶接して固定する。
【0057】
本開示の第8態様に係る圧縮機の組立方法は、前記第5態様から前記第7態様のいずれかにおいて、前記ハウジングは、前記溶接固定部の周囲の外周面に、平面部を備え、前記平面部と前記ボス部の基準位置との距離を計測する計測工程を有している。
【符号の説明】
【0058】
1 圧縮機
3 脚部
11 ハウジング
11a 平面部
12 ロータリ圧縮機構(圧縮部)
13 スクロール圧縮機構
14 電動モータ
15 回転軸(回転軸部)
15a 油供給穴
21 本体部
22 上部蓋部
23 下部蓋部
31 上部軸受(軸受部)
32 下部軸受(圧縮部)
32a 円筒部
32b 腕部
32c 接続部
32d 第1面
32e 冷媒導入穴
33 吸入管
34 吐出管
35 栓溶接部
36 吸入ボス(ボス部)
36a 先端部
36b 中間部
36c 本体部
36d 第2面
37 溶接固定部
38 ロータ
38a ロータ通路
38b 油分離プレート
39 ステータ
39a ステータ通路
39b 上側コイルエンド
39c 下側コイルエンド
41 偏心軸部
42 ロータ
43 ロータリ吐出管
44 シリンダ
45 カバー
45a 吸入開口
48 ボルト
49 油ポンプ
51 固定スクロール
52 端板
52a 吐出孔
53 固定ラップ
54 バランスウェイト
55 ドライブブッシュ
56 偏心軸部
57 旋回スクロール
58 端板
59 旋回ラップ
60 オイルレベルタンク
61 下部配管
62 均圧管
63 バランスウェイト室
65 オイルセパレータ返油管
67 油戻し管
C1 圧縮室
C2 圧縮室
FL 設置面
O1 油溜まり
t1 隙間
X 軸線
図1
図2
図3
図4
図5